鷲尾飛鳥

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2018年 04月18日 12:08 (水)

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テーマ : 挿絵・イラスト
ジャンル : 小説・文学

特別編『ネオ‐ブラックリリー福利厚生施設の恐怖(?)』

2018年 04月18日 12:07 (水)

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 まえがき 
 Pixivでも掲載しています。今回は『やる夫』をアレンジしたキャラクターを使って、ストーリーを作成しています。


この物語は、美少女戦隊エンジェルス本編の第6話と第7話の中間あたりにおける、絵理香、聖奈子、美由紀のエピソードである。季節は5月のゴールデンウイークが過ぎた頃。ネオ‐ブラックリリーはまだ大幹部の赴任前で、世界征服作戦も本格的に行われておらず、派遣された魔人が幹部を兼任して各部隊に指示を送り、魔人同士の共同戦線や、作戦の引継ぎなどが盛んに行われていたときである。美紀子は大学の研究室での研究と臨時講師をやっていて不在であり、実際に絵里香たちをサポートしていたのは、絵里香と聖奈子の担任で、バトン部顧問の藍原詩織であった(第2話~第6話参照)。そんな中での絵里香たちの活躍や如何に・・・・

    *      * *      *

 ネオ‐ブラックリリーのアジトでは、次の作戦が練られていて、司令室では大首領の声が流れていた。

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「間もなく諸君の元に大幹部が派遣される。これまでの人間狩り作戦はまずまずの成功を収め、改造用・奴隷用は勿論、科学者たちの誘拐も順調である。いよいよ我がネオ‐ブラックリリーの本格的な世界征服作戦が始まるのだ」
 そこで言葉が終わり、居合わせた戦闘員たちが一斉にスピーカーに向かって敬礼した。


 ネオ‐ブラックリリーの作戦行動の経緯は現在次の通りであった。蜘蛛魔人(本編第1話)からハス魔人(第4話)に至るまでの人間誘拐作戦は、エンジェルスによって魔人が倒されたものの、作戦自体は一応の成功を収めており、改造用の人材や、奴隷用の人間たちが次々とネオ‐ブラックリリーのそれぞれの基地に送られていた。また、作戦に必要な資金の調達も進んでいて、科学者や研究員の誘拐も成功していた。
 また、赴任予定の大幹部に関しては、ナマズ魔人(第6話)のダム破壊作戦の時に、大幹部ドクターマンドラが一度出てきて指揮を執ったものの、別任務で再び前線から引いてしまっていた。ネオ‐ブラックリリーは秘密結社とはいえ、まだ足場が完全に固まっておらず、様々な作戦計画が試行錯誤されながら練られていたのである。そんな中で、秘密結社としては信じられないような、突飛な作戦がこれから実行されようとしていた。

    * * * *

「やめろ! 何するんだ放せ! 警察かと思ったら・・・ お前たち一体何者なんだ」
 アジトに一人の男が連行されてきた。男の名は『丸尾 卓(まるおすぐる)』といい、現在二浪中の予備校生である。身長は175cmとまずまずだが、体重が100kgと太り気味。趣味は隠しカメラ等を駆使して若い女の子のパンチラや、スカートの中を逆さ撮りするという、いわば盗撮魔で、名前から付けられたあだ名が『〇ヲタク』。そして撮った写真をネットの通販で売りさばいたり、ばら撒くといった、悪趣味極まりないやつだった。が、その写真をネタに相手に金品を要求するといった、いわゆる脅迫や恐喝のような事はしなかったので、現行犯にでもならない限り、捕まるリスクが低かった。そして今日も駅の構内で靴とバッグに隠したカメラを使い、性懲りも無く女性のスカートの中を盗撮していて、警戒中の駅の公安に怪しまれて捕まりかけたところを、私服警官に化けた戦闘員によって拉致され、アジトに連れてこられたのである。悪態をついている卓に、戦闘員が言った。
「我々はお前を助けたのだ。少しは感謝でもしてもらいたいものだな。あのままだったらお前は駅の公安に捕まっていたんだぞ」
「助けた・・ 感謝・・・ って、お前らそんな変な恰好して、一体何なんだよ。いきなり俺をこんな所に連れてきやがって」
 そこで大首領の声が流れてきた。
「丸尾卓! お前こそ今度の作戦にふさわしい男だ」
「作戦? 何だそりゃ?」
「邪険にしなくてもいいだろう。そこにいる戦闘員たちが言うように、我々がお前をここに連れてこなかったら、お前は警戒中の公安に捕まっていたのだぞ。我がネオ‐ブラックリリーに協力するならば、お前の身の安全を保障し、それなりの報酬も与えようではないか」
「ネオ‐ブラック・・・ 協力って・・・ 金くれるんなら、やばいことじゃなけりゃ何でもするぜ。一体何すればいいんだよ」
「お前を今度新設した、ネオ‐ブラックリリー福利厚生施設の責任者に任命し、今度の作戦を任せる。お前の趣味である盗撮を、好き放題にやらせてやろう。ただし、その盗撮の目標についてはこちらから指示する。我がネオ‐ブラックリリーの配下にて実行するならば、お前が国家権力に捕まるリスクは殆ど無いだろう」
「盗撮? 面白そうじゃないか。いいぜ。協力しよう。で、俺はどうすればいいんだ?」
 卓の後ろにいた戦闘員が両脇に並び、さらにもう一人の戦闘員が卓に来るよう促した。
「丸尾卓。その者たちと一緒に行け」
 卓は自分の周りに立っている戦闘員を見た。
「その男を案内してやれ」
「イーッ!」
 戦闘員たちは敬礼すると卓を促し、卓を連れて司令室を出た。

    * * * *

 それから三日後・・・・
「はい! ワンツーワンツー。はいそこでターン! 次は右足でハイキック」
 明峰学園の校舎の屋上では、バトン部が練習していた。もうすぐ鷲尾平市主催の若葉祭が始まり、バトン部は街頭パレードに参加するため、練習に余念が無かった。体育館を使えるのが週三日なので、体育館を使えない時は屋上を使っていたのだ。バトン部の部員である絵理香、聖奈子、美由紀は、3人ともユニホーム姿でみんなと練習していた。その様子を近くのビルの屋上から密かに見られている事には、まだ誰も気付いていなかった。

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 ビルの屋上には数人のネオ‐ブラックリリー戦闘員がたむろしていて、その中にひときわ大柄で太った戦闘員がいた。その戦闘員こそ、卓が改造された姿だった。
 卓はビルの屋上から見える、バトン部の練習風景を見て、逸る気持ちを抑えていた。そこへ戦闘員の一人がやってきて、絵里香たち3人の写真を卓に見せた。
「お前の盗撮目標はこの3人だ」
「この3人?」
「そうだ。この3人だけを集中的に盗撮するのだ」
「ふーん・・・ 何だか訳が分かんねえけど、いったいこいつらはお前たちの何なんだ?」
「今に分かる」
「まあ・・ 3人ともスタイルはまずまずだし、獲物としては悪くねえな・・・ 」
 卓は呟きながら、用意したカメラと望遠レンズを絵里香たちに向け、盗撮を開始した。絵里香たちがターンしたり、ハイキックするところだけを狙い撮りしていたのだ。スコートが捲れて、アンダースコートとはいえ、パンチラやパンモロのシーンが確実に撮れるからだ。

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「ウッヒッヒッヒ・・ すげえ・・ なかなか良いパンチラだ。おっ! こっちは素晴らしいハイキック。スコートが捲れてアンスコの股間の部分がよく見えるぜ。よ-し。究極のパンモロをゲットォ。ヘッヘッヘッヘ・・・ 」
 のめり込みながら写真を撮っていた卓は、薄笑いを浮かべながら興奮のあまり涎をたらし始め、傍で見ていた戦闘員たちが半分呆れたような仕草を見せた。

    * * * *

「はい今日はこれまで。後片付けをして」
 暫くして片づけを終えた部員達が全員集合した。
「若葉祭までもう少しだから、みんなしっかりね。それじゃ今日は終わり」
「ありがとうございました」
 練習が終わって、部員たちが挨拶とともに解散し、絵里香たち三人は屋上の一角にいた。
「絵里香、聖奈子。もうすぐ若葉祭の街頭パレードだね」
「うん。今年も頑張るぞ」

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 美由紀は絵里香の様子が少し違うのに気付いた。
「絵里香。どうかしたの?」
 美由紀に言われて聖奈子も気付いた。
「そういえば・・・ 絵里香いつもと何となく違うような・・・ 」
 絵里香は自分が思っていた事を二人に話した。
「練習中に誰かにずっと覗かれているような気がしたのよ」
「えーっ? まさかぁ」
「ここ屋上だよ。何処から見られるっていうのよ」
 絵里香は200メートルほど離れた場所にあるビルを指差した。ビルの高さは学校の屋上より少し高い程度だ。
「あそこからここを覗くって? 望遠鏡でもなければ覗くなんて無理無理」
 美由紀が望遠鏡と言ったので、聖奈子も気になってビルの方を見据えた。
「望遠鏡・・・ か。でも一体何のために・・・・ 」
「絵里香も聖奈子も考え過ぎだってば。大体何のために望遠鏡でこんな所を覗くのよ・・ って・・ もしかして?」
 暢気な性格の美由紀も、ハッとした。ネオ‐ブラックリリーの事が一瞬頭を過ぎったのだ。が、そんな事は無いと、自分の思いを払拭した。その時屋上の入り口で芳江が絵里香たちを呼んだ。
「ちょっと君たち。引き揚げないと鍵閉められないんだけど」
「あ・・ キャプテン。ごめんなさい」
 絵里香たちはあたふたと駆け出すと、出入り口まで来た。芳江は鍵を閉めて美由紀に渡すと階段を降りていった。
「とにかく着替えて帰ろうよ」
「それじゃ私は職員室へ鍵返しに行くから」
 美由紀は小走りに階段を降りていき、絵理香と聖奈子も教室へ向かった。
「美由紀の着替えは長いからな・・ 少し待たされそうだね」

 それから約30分が経過した・・・  学校から帰宅途中の絵里香たちは、コンビニから出てきたところだった。
「絵里香。取り越し苦労なんじゃないの?」
「うん・・ でも、何だか引っかかるんだよね」
「絵里香まだ言ってる」
「でも絵理香の感は鋭いからね。もしかしてネオ‐ブラックリリーが何か企んでるとか、そんな事でも考えてたんじゃないの?」
「聖奈子。やつらだったら、覗くよりも先に私たちに襲いかかってくるよ。おおかたその辺の覗きマニアじゃないの?」

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 そうこうしているうちに、絵里香たちは美紀子の事務所の前まで来ていた。が、事務所は閉まっていた。
「美紀子さん留守みたいね」
「今、大学で研究と臨時講師やってるって言ってたわ」
 絵里香たちはお互いの顔を見合った。
「それじゃあたしは・・・ 」
 聖奈子が言いかけた所で、絵里香たちの後ろから誰かが話しかけてきた。
「みんなここにいたの?」
 絵里香たちが振り向くと、そこには絵理香と聖奈子の担任で、バトン部の顧問の詩織と、養護教諭の園子が立っていた。

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「藍原先生と柏木先生・・・ 」
「美紀子は今、大学で臨時講師やってるのよ。だからここには来ないわ」
「藍原先生。私はこれで。それじゃみんな、また明日ね」
 園子は詩織と絵里香たちに挨拶すると、駅のほうへ向かって歩いていった。詩織はそれを見届けると、絵里香たちの方を向いた。詩織は絵里香たちが何かを気にしているのを察知した。
「みんな。あたしと一緒に来て」

 絵里香たちは詩織と一緒に、駅前にあるハンバーガーショップの中にいた。
「なるほど・・・ 君たち・・ いや、バトン部の練習が覗かれていたかもしれないって事ね」
「絵里香がすごく気にしてるのよ。別にたいした事じゃないって、あたし達が言ってるのに」
「絵里香は神経質すぎるのよ。エンジェルスになってネオ‐ブラックリリーの動きが気になる気持ちは分かるんだけどさ、ネオ‐ブラックリリーなら覗きなんてせこい事はしないわよ」
「確かにそうね・・ 覗いている暇があったら、襲ってくるだろうし・・・ 」
「おおかたそのへんのマニアが覗いていたんじゃないの? もし写真やビデオを撮っていたんなら、ネットの動画サイトか、画像サイトあたりに投稿でもするんじゃないの?」
 聖奈子がそんな事を言ったので、美由紀が素っ頓狂な声を出した。
「えーっ ?!!! そ、そんなのヤダ! ヤダヤダヤダ。お嫁に行けなくなるぅ」
「城野さん。大きな声出さないで」
「美由紀落ち着いて。落ち着けったら」
「そうよ。取り乱さないで」
「美由紀。変な事言ってゴメン。ごめんね」
 絵理香と聖奈子の2人がかりで美由紀を宥めた。

      * * * *

 こちらはネオ‐ブラックリリーのアジト。その中の一角に『ネオ‐ブラックリリー福利厚生施設』というプレートが付けられた部屋があった。これはネオ‐ブラックリリーが新たな設備を整える目的で作った施設である。その責任者に任命されたのが卓なのだ。そしてその部屋の中では・・・ 
 卓が部屋の中でパソコンと向かい合い、目をおおきく見開いて涎をたらしながらさっき撮ってきた写真のデータに見入っていた。

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「お・・ これはいい。ハイキックした瞬間にしっかりとアンスコの股間の部分が映し出されている。それと、こっちの際どい見え方も捨て難いぜ・・ それからこれは、ターンした時にスコートが舞い上がって、おお・・ これは素晴らしいパンモロだ。ヒッヒッヒッヒ・・ 」
 卓は薄気味悪い笑い声を出しながら、データの加工を始めた。ネオ‐ブラックリリー大首領の指令で、絵里香たちの写真のデータを、本人たちの顔入りで加工するよう命令されていたからだ。
「ウッヒッヒッヒ。我ながら上々の出来だ。この写真のデータを使って、ツイッターや画像チャンネルを通じてばら撒けという指令だが、こんな素晴らしい出来の写真を、そう簡単に他人の目に触れさせるのは惜しいぜ・・ こっちのやつは俺様がコレクションとして頂いておこう。それでこっちの方の顔がしっかり写っているやつと、このパンチラとパンモロ写真を指令通りに・・ 」
 卓はパソコンを操作して、ツイッターと画像チャンネルを開き、加工したデータを次々と流し始めた。そして残ったデータはCDの中に収めて、傍らに置いてある自分のバッグの中に入れた。
「ウッシッシッシ・・  これでよし。しかし、大首領とかいうやつは、一体何の目的で俺にこんな事させるんだ。スピーカーから声を出しているだけのくせに。全く失礼なやつだぜ。まあ・・ それなりの金を貰ってるから、文句を言う筋合いは無いが・・・ 」

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「あの例の〇ヲタク野郎はどうしているんだ」
「部屋の中で黙々と作業をしている。絶対に他の者を部屋に入れるなと言っていた。俺たちも一応は大首領様の指令で福利厚生班に入れられたんだが・・・」
「ありゃ完全にココにきてやがるぜ」
「ああ・・ 触らぬ神に祟り無しってやつだな」
 戦闘員同士で会話をしていたところへ、別の戦闘員がやってきた。
「ここにいたのか。科学班が魔人改造用の人間を運び込んだ。早速改造手術をするそうだ」
「するといよいよ次の作戦の開始か」
「どうやらそうらしい」
「お前たちも手伝え。手が足りないのだ」
「イーッ」
 戦闘員たちが慌しく動き始めた。

 翌日・・・ 学校にて・・・
 バトン部は近づく若葉祭に備えて、部員たちが朝早く登校し、既に数人が集まって体育館で朝練の準備をしていた。そこへ一年の香苗が息を切らしながら飛び込んできて、みんなの所に駆けて来た。
「大変! 大変よ」
「どうしたの柿崎」

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「これ・・・ これを見て」
 香苗は持ってきた紙切れを見せた。それはバトン部員たちの練習風景が写し出された画像をプリントアウトしたものだった。それもハイキックやターンの部分が殆どで、いわゆるマニアックなものだった。
「わ・・ やだぁ・・ これ私たちのじゃないの」
「一体何処のどいつよ。こんなもの撮ったのは」
「でも殆どが赤城先輩たちの写真だわ」
「これも・・ 」
「これもだわ」
そこへキャプテンの芳江と副キャプテンの雅子がやってきた。
「一体何の騒ぎなの?」
「あ。キャプテン。これです」
 香苗が差し出すと、芳江は数枚を香苗から引っ手繰るように取って眺めた。
「柿崎さん。どうしたのこれは」
「昨日パソコンでネットを見たとき、偶然入った画像のページで見つけてびっくりしたんです。それでプリントアウトして持ってきたです」
 画像の9割くらいは絵里香・聖奈子・美由紀を写したものだった。
「確かに私たちバトン部の練習風景ね。でも、殆どが赤城さんと清水さん。それに城野さんを写したものだわ」
 雅子も傍によってきた。
「一体何処から撮ったんだろう・・ それにしても結構鮮明に写っているね」
「あ・・ 赤城先輩たちが来たわ」
 絵理香と聖奈子、美由紀が体育館に入ってきた。
「みんなもう来てるよ」
「早く行こう」
 そのとき絵里香は部員たちの異様な雰囲気をすぐに察した。
「何だか様子が変だわ。何かあったのかな?」
「絵里香。とにかくみんなの所へ行ってみようよ」
 絵里香たちはみんなが集まっている所へ駆けていった。
「キャプテン。何かあったんですか?」
「原因はこれよ」
 そう言いながら芳江は持っていた画像のプリントを絵里香たちに見せた。
「何これ・・・・ 」
 絵里香たちは自分たちが映されている画像を見て固まった。美由紀が大声を出した。
「ヤダ!! こんな写真が出回ったらお嫁に行けなくなる」
 美由紀の声で、体育館で朝錬をやっていた他の部の部員たちがバトン部の方を見た。
「美由紀静かに。落ち着いて」
 そこへ顧問の詩織もやってきた。部員たちが朝錬をやるということで、自分自身も早く学校へ来たのだ。
「みんなおはよう・・・ って・・ あれ? 朝錬やるって言ってたのに、一箇所に集まっててどうしたのよ。時間無くなっちゃうわよ」
「先生・・ 実はこんなものが」
 詩織は芳江から渡された画像を見た。
「ふーん・・・ 」
 詩織は一つため息をついてから、絵里香たち3人を自分の元へ呼び寄せた。
「あなたたち三人は直ぐに着替えて職員室に来て。それから、その画像のプリントは没収よ。全部あたしに頂戴」
 詩織は部員たちが持っていた画像を全て回収した。
「他のみんなは練習して。せっかく体育館を借りられたのに、時間がもったいないわよ」
 詩織に言われて、芳江は部員達を促し、詩織は絵里香たち3人を連れて体育館を出た。

     * * * *

 詩織は職員室に入ると、ノートパソコンを出してスイッチを入れ、ネットを開いた。そこへ制服に着替えた絵里香たちがやってきた。
「来たわね君たち。これを見て」
 詩織はパソコンの画面を絵里香たちの方へ向けた。そこには先ほどプリントアウトされた画像と同じものが出ていた。詩織は絵里香たちが何かを言おうとしたのを遮るように話した。
「この画像が投稿されたのは昨日の夜。実はあたしも昨日見ているのよ。それでID番号を調べてみたんだけど、出所が不明なのよ。まあ・・ 目の部分は隠してあるけど、わざわざあなたたちだけを顔写真入りにしているあたり、何か匂うわね」
「何かって? つまり私たちが狙われてるって事? まさかネオ‐ブラックリリーが?」
「考えすぎだよ絵里香。ネオ‐ブラックリリーのはずがないじゃん」
「美由紀。有り得るわ」
「どういう事よ聖奈子」
「つまりあたしたちの写真をばらまいて、心理的な効果を狙ってるって事よ。こんな写真が出回ったら、あたしたちが動揺して戦意を喪失するかもしれない・・・ もしネオ‐ブラックリリーの仕業だとしたら、そこが狙いなんじゃないかな? 」
「聖奈子の言い分は鋭いところを突いているわ。でも、もう少し踏み込んで考える必要があるわね。たとえばネオ‐ブラックリリーが何かの作戦を実行してくる。そこへあなたたちがエンジェルスになって阻止行動に出る。そこを狙って、写真をネタにあなたたちを脅迫し、戦意を喪失させる・・・ そうなると、あなたたちがエンジェルスになったときも、同じように被写体にされる可能性が大だわ」
「言われてみればそうかもね。確かに昨日といい、さっきといい、美由紀の取り乱しようはすごかったし、心理的効果を狙っているというのは納得がいくわ」
 そのとき周りがざわつき始めた。他の教師達が出勤してきて、職員室に入ってきたのだ。
「みんな。話の続きは後にしよう。ホームルームが始まるから、教室へ行って」
「はい。それじゃ失礼します」
 絵里香たちは詩織に促され、職員室を出てそれぞれの教室へ向かった。

      * * * *

 ネオ‐ブラックリリーのアジトの手術室では、拉致してきた人間を使って、怪人への改造手術が行われていた。ベッドは二つあり、両方のベッドに拉致した人間が寝かされていて、科学班の戦闘員が白衣姿で改造手術に携わっていた。
「一通り完了です」
「よし! 最後の仕上げだ。電流を流せ」
 スイッチが入れられ、高圧電流が放電されて、ベッドに寝ている人間の身体を電流が貫く。数分後には醜怪な魔人の姿になり、改造手術が終わって魔人が起き上がった。出来上がった改造魔人は、一度エンジェルスに倒された蜘蛛魔人とバンブー魔人だった。

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 数分後、アジトの司令室では蜘蛛魔人とバンブー魔人が戦闘員を伴い、大首領の指令を待っていた。暫くして大首領の声が流れてきた。
「蜘蛛魔人、バンブー魔人。お前たち2人は我がネオ‐ブラックリリーの優秀なる科学陣によって、再生を施されたのだ。エンジェルスの小娘どもは、未だその実力が充分ではない。ネオ‐ブラックリリーの邪魔になる小娘どもを今のうちに消すのだ」
「ゲシシーッ。かしこまりました」
「ケタケタケタ-ッ。お任せください」
 蜘蛛魔人とバンブー魔人は戦闘員を伴って司令室から出て行った。大首領は再び声を出した。
「福利厚生施設の責任者になった、例の〇ヲタクを此処へ呼べ」
「イーッ」
 暫くして卓が戦闘員に連れられて司令室に入ってきた。
「俺を呼んだのはスピーカー野郎か。一体何の用なんだ」
「丸尾卓。お前を呼んだのは他でもない。お前が盗撮した小娘どもが、間もなく我がネオ‐ブラックリリーの邪魔をしに現れる。そこを狙って小娘どもの動きを、それも出来るだけ派手な動きを狙ってデータを編集するのだ。写真及びビデオの撮影は戦闘員が行う。お前はこのアジトで送られてくるデータを編集すればそれで良い」
「なんだよ一体・・  スピーカーから声出してるだけのくせに。随分えらそうな事ばっかり言ってるじゃねえか。金貰ってるからこれ以上の贅沢や文句は言わねえけどよ。声だけじゃなくて、姿を見せたらどうなんだよ」
「おい! 大首領様に向かってその言い方は何だ!!」
 傍にいた戦闘員が卓に食って掛かったが、大首領は平然と話を続けた。
「まあいいではないか。丸尾卓。お前が作戦を成功させたら、姿を見せると約束しよう。それならばいいだろう」
「ああ・・  いいぜ」

       * * * *

 放課後になって学校を出た絵里香たちは、学校から一番近い聖奈子の家に集まっていた。本来ならば部活なのだが、今朝の事でとても練習にならないだろうと、詩織の計らいで今日の放課後のバトンの練習は休みにしてもらい、キャプテンの芳江もそれを承諾した。

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「ねえ絵里香。ネオ‐ブラックリリーの仕業だとしたら、写真を使った心理作戦だけじゃ終わらないと思うよ。絶対に何か企んでると思うわ」
「私いやだよ。こんな写真が出回ったら、もうお嫁に行けないよ」
 美由紀は涙声だった。
「美由紀大丈夫だってば。藍原先生が今、美紀子さんと連絡を取っていて、画像を削除するための作戦を考えているから」
「とにかくやつらのアジトを捜し出して、元になっているメインコンピューターをぶっ壊すしかないわ」
 絵理香の携帯が鳴り、絵里香は携帯を取り出した。
「先生からだ・・・ はい赤城です」
「・・・ ・・・ 」
「ええっ!? ネオ‐ブラックリリーの化け物が、学校の屋上で練習していたバトン部の部員たちを襲って、部員たちをさらった? それで・・・ はい・・ はい・・ 」
 聖奈子と美由紀は同時に絵里香を見た。
「分かりました。すぐ向かいます」
 絵里香は携帯をポケットに入れると立ち上がり、聖奈子と美由紀も立った。
「やっぱり狙われていたんだわ。これで今までの事が奴等の仕業だってはっきりしたわ」
「私たちだけでなく、何の関係も無いバトン部の部員たちまで・・・ 絶対許せない!」
 絵里香たちは聖奈子の家から飛び出すと、学校へ向かった。

      * * * *

 絵里香たちは学校の前まで駆け足でやってきた。校門の傍では詩織が車を停めて待っていた。
「みんな早く車に乗って」
 詩織は踵を返して車に乗り込み、絵里香たちも詩織の車に乗り込んだ。
「先生。部員たちは?」
「みんな大丈夫なんですか!?」
「まずこれを見て」
 詩織は助手席にいた絵里香に紙切れを渡した。聖奈子と美由紀も絵理香の傍に寄ってきた。
『親愛なるエンジェルスの諸君へ。お前たちの仲間を預かった。返してほしければ緑ヶ丘公園の河川広場まで来い』
「なにこれ・・・ 」
「奴等の化け物が現れたかと思ったら、あっという間に部員が2人捕まってさらわれたのよ。前に見かけた蜘蛛の化け物だったわ。残りの部員たちは、あたしが誘導して校舎内に避難させたから無事よ。とにかく捕まった子たちを助ける事が先決よ」
「はい」
 詩織は車を発進させた。

      * * * *

「嫌あーっ!! 誰かぁ・・ 誰か助けてぇーッ!」
「お願いはなしてぇーッ。おろしてよーっ。やだあーっ」
「やだあーっ! やめて! 写真なんか撮らないで! 恥ずかしいよぉ。やめてぇーっ!」

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 緑ヶ丘公園の広場では、捕まった香苗と元子が、蜘蛛魔人の糸で体を縛られて晒されていた。それもただ縛られているだけではない。香苗は片足をいっぱいに上げた状態、いわゆるハイキックのポーズで縛られ、元子は四肢を引き伸ばされて開脚させられ、狸吊りのような状態で縛られていた。恥ずかしい恰好で縛られている香苗と元子は、逃れようとして必死にもがいたが、蜘蛛糸の拘束は頑丈で身体を揺するのがやっとだった。その様子を付近にいた戦闘員がローアングルからビデオカメラやデジカメで撮影し、アジトにあるメインコンピューターを通して、福利厚生施設にいる卓の所に次々とデーターがリンクされていた。パソコンの画面に見入っていた卓は、いつものように薄笑いを浮かべながら涎をたらし、画面に映る映像を眺めていた。
「おお・・ このポーズはそそられるぜ・・ こっちの方も股間の部分がバッチリ見えていて捨てがたい。おっと・・ こっちの動画も最高だ。羞恥に悶え苦しんでいる仕草に興奮するぜ。ヘッヘッヘ・・・ 早くお目当ての三人が現れないかなぁ・・・ イッヒッヒッヒ」
 しかし・・・  膨大な容量のデータが送信されているため、詩織が美紀子から借りていた逆探知システムにより、アジトの場所が探られている事には、さすがの卓も気付いていなかった。車を運転していた詩織は、助手席にいる絵里香にそのシステムの端末を見させていた。
「先生。段々感度が強くなっています」
「そうか・・ するとアジトの場所も目的地の近くね」
 詩織の車は緑ヶ丘公園の駐車場に入り、車が止まると同時に絵里香たちは車から降りた。
「アジトの場所はあたしが探るから、あなたたちは捕まっている子たちを助けるのよ」
「分かりました」
 絵里香たちはポーズをとって変身すると、河川広場へと駆けていった。

 広場では蜘蛛魔人とバンブー魔人が、絵里香たちの来るのを今か今かと待っていた。蜘蛛魔人は縛られている香苗と元子の前まで来て、二人の様子を舐るようにジロジロと見据えた。
「嫌あーっ! 見ないで。見ちゃ嫌だぁ。恥ずかしいよぉ」
「お願い助けて。はなしてよぉ」
「嫌あーっ!」
「ふん! うるさいガキどもだ。暫く眠っていろ!」
 2人があまりに騒ぐので、蜘蛛魔人は口から麻酔針を発射し、それが2人に突き刺さって、2人とも気絶した。そこへ公園内を見張っていた戦闘員が駆け寄ってきた。
「イーッ。小娘どもを発見しました。公園内にいます」
「ゲシシーッ。やっと来おったか。者ども持ち場につけ」
「ケタケターッ。待ちかねたぞ」
 蜘蛛魔人とバンブー魔人は戦闘員たちを煽り立てると、近くの繁みに隠れた。しかし絵里香たちも馬鹿ではなかったので、真正面から突入する事は考えていなかった。
「奴等の事だ。罠が仕掛けてあるかもしれないわ」
「そうだね。広場だからまともに行けば私たちの姿が丸見えよ」
 絵里香たちは河川広場の手前の林にある散策コースの前まで来て、そこで止まって話し合っていた。3人の目の前には散策コースの地図が描いてある看板があった。
「ここが現在地。そしてここが河川広場・・・ 」
「こっちから回り込んでいけば、奴等の目をくらます事が可能かも・・ 」
「よし。私が正面から突入して、囮になって奴等を引き付けるから、聖奈子と美由紀とで2人を助けて」
「うん。分かった。絵里香気をつけてね」
 聖奈子と美由紀は迂回するので、先に散策路に入った。
「さてと・・ 私も行くか・・ 」
 絵里香は河川広場へ行く最短のルートに入った。

      * * * *

 聖奈子と美由紀がとったコースは、林の中を大きく迂回するルートだったため、ネオ‐ブラックリリーとしては全く無警戒だったので、誰からも気付かれずに河川広場の末端部にある出口にたどり着いていた。

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「助かった。誰もいない。全く無警戒のようだわ」
「聖奈子、何か見える?」
「見えるけどちょっと遠いわ」
 聖奈子の目には、広場の中にある木に括り付けられるように縛られている、香苗と元子の姿が見えた。その周囲には見張りらしい戦闘員の姿も見えた。美由紀も聖奈子に促されて、広場の様子を眺めた。
「ひどい・・  あんな恰好にして縛るなんて」
「美由紀行くよ。ここから先は何があるか分からないから、ゆっくり近づくよ」
「うん・・ 」
 聖奈子と美由紀は広場と林の境目に沿って、ゆっくりと歩を進めていった。その時急に広場の様子が慌しくなって、聖奈子と美由紀もそれに気付いた。
「美由紀、奴等が急に動き出したわ」
「見つかったのかな・・ ?」
「違うみたいよ。あたし達じゃなくて、絵里香だと思う」

      * * * *

 聖奈子の思っていた通り、自分たちが見つかったのではなく、正面からやってきた絵里香を見た戦闘員たちが、一斉に絵里香に向かっていったのであった。
 絵里香はたちどころに戦闘員に周りを囲まれ、戦闘員がジリジリと絵里香に迫ってきた。一部の戦闘員はカメラやビデオカメラを構えて、レンズを絵里香に向けている。絵理香の動きを撮影しようとしているのだ。蜘蛛魔人とバンブー魔人も姿を現して、絵里香を威嚇してきた。
「お前一人か! ほかの二人はどうした」
「さあね・・・ 」
 絵里香はそう答えながら、冷静に周囲の様子を窺った。
「(広場に出たら、私一人では不利だし、人質を巻き添えにしてしまうかもしれない。奴等を引き付けるなら、林の中で戦った方がいいかも・・・ )」
 絵里香は今来た林の方へ踵を返すと、ジャンプして戦闘員の囲みの外へ着地し、林の中に駆け込んだ。
「逃がすな!」
 2人の魔人が戦闘員たちを煽り立て、戦闘員は絵里香を追って林の中へ入った。林の中で追いつかれた絵里香は、再び周りを囲まれた。しかし、周囲は木があるため、襲ってくる戦闘員の数が限られる。絵里香は周りの木々を利用し、向かってくる戦闘員と格闘して、一人ずつ倒していった。蜘蛛魔人は木に登ると、絵理香の真上から大量の蜘蛛糸を吐き出した。気付いた絵里香は自分に組み付いてきた戦闘員を突き飛ばし、糸はその戦闘員に降りかかって、戦闘員はグルグル巻きにされて窒息死した。続いてバンブー魔人の手裏剣が飛んできたが、絵理香を外れてそばにあった木に突き刺さった。

      * * * *

 一方、聖奈子と美由紀は、がら空きになった広場の中央にたどり着き、気絶していた香苗と元子を拘束していた蜘蛛糸を切って、二人を助け出すと、草むらの中に横たえて隠した。
「こうしておけば大丈夫だわ」
 林の中から戦闘員や魔人の奇声が聞こえてきた。
「絵里香は林の中よ」
「早く助けに行こう」
 聖奈子と美由紀は林の中へ飛び込んでいった。暫く走ると戦闘員相手に戦っている絵里香の姿が見えた。
「あそこよ!」
「美由紀。あれを見て!」
 聖奈子の目には、戦闘員のうちの何人かがカメラやビデオカメラを持ち、絵理香の動きを撮影している姿が見えた。
「絵里香が戦っている姿を映している」
 実は、絵里香たちを撮影していたのは、単なるマニアックな目的で行われていた事ではなかった。表向きでは、ハイキックした時や派手な動きによるパンチラを撮っているように見えるものの、絵里香たちの弱点を探る事が本当の目的だった。そのために通信が卓のパソコンに直通ではなく、ネオ‐ブラックリリーのメインコンピューター経由で送られていたのだ。

「美由紀、絵里香を助けに行くよ」
「待って聖奈子」
 美由紀はある1点を指差した。そこには絵里香の背後から手裏剣を投げようとしているバンブー魔人の姿があった。聖奈子は絵里香に向かって叫んだ。
「絵里香! 危ない。後ろ!」
 同時にバンブー魔人が手裏剣を3本一度に投げつけ、聖奈子の声で絵里香は身をかわした。一撃目は絵里香を外れ、残りの二本の手裏剣はブレードで弾き返した。

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「聖奈子ありがとう」
「絵里香。人質は助け出したわ。まだ気絶したままだけど、安全な場所に移したわよ」
 聖奈子と美由紀は絵理香の元に駆け寄り、絵里香たちは三人固まって身構えた。
「来い! ネオ‐ブラックリリー。お前たちの勝手にはさせないわ!」
「何を小癪な! 者どもかかれ。3人とも片付けろ!」
 戦闘員が奇声とともに向かってきて、絵里香たちは広場の方へと走り、林の中から広場へ出た。そこには詩織が立っていて、詩織は林から出てきた絵里香たちに向かって叫んだ。
「みんな。2人は目を覚ましたから、もう大丈夫よ。あたしが学校へ逃げるように言ったから。それからアジトの場所も探り当てたわ」
 話が聞こえた絵里香は、詩織に向かってサムズアップして応えた。

      * * * *

 その頃、アジトの一室の福利厚生施設では、卓がパソコンの画面を眺めていた。そこには戦闘員の撮影した絵里香たちの動画が映っていたのだが、突然動画が乱れて完全に消え、従来の画面になってしまった。詩織がアジトの場所と電波の波長を探り当て、送信データの通信電波と同波長の妨害電波を流したからだ。
「ど、どうしたのだ。画面が・・  画面が消えた。これではデータが受信出来ない」
 卓はパニック状態になったが、どうする事も出来なかった。


 広場に出てきた絵里香たちに、戦闘員が襲いかかった。絵里香たちの声と、戦闘員の奇声が広場に響き渡る。戦闘員は詩織にも襲いかかってきたが、仮にも詩織はかつて美紀子と一緒に戦った盟友である。戦闘員の攻撃を軽くかわし、次々と倒していった。
「みんな! 雑魚はあたしが引き受けるから、化け物を倒すのよ」
「おのれ小娘ども。ゲシシーッ」
「ケタケタケターッ」
 蜘蛛魔人とバンブー魔人が絵里香たちに襲いかかってきた。
「絵里香。化け物が来る」
「奴等、一度やられたやつを再生したのね」
 蜘蛛魔人が糸を吐き、絵里香たちに向かって飛んできた。
「ファイヤースマッシュ!」
 絵理香のエネルギー波がボール状になって飛んでいき、蜘蛛魔人を糸を焼き払った。
「今度こそ成仏させてやる。覚悟しろ!」
 聖奈子がソードとシールドを出して、攻撃態勢をとった。
「アクアトルネード!」
 エネルギー波が渦を巻いて蜘蛛魔人に吸い込まれ、蜘蛛魔人を包み込んだ。
「グギャアーッ!! ゲシシシシーッ!」
 蜘蛛魔人は氷漬けになって、そのまま氷が砕けるとともに爆発して吹っ飛んだ。続いてバンブー魔人も・・・
「ライトニングトルネード!」
 光の渦がバンブー魔人に命中し、バンブー魔人は光の中でのた打ち回りながら消滅した。戦闘員も全て倒され、周囲は静寂が戻って、絵里香たちは一箇所に集まり、そこへ詩織も駆け寄ってきた。
「先生。アジトの場所が分かったんですか?」
「ええ。しっかりとね。それからデータの通信が送れないように、妨害電波を出してやったわ。ついでに強力なウイルスも送り込んでやった」

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 それから約30分が経過し、絵里香たちは緑ヶ丘公園の近くにある、一軒の建物の近くに立っていた。詩織の持っている逆探知機の端末が、メーターが振り切れるくらい反応している。
「あの建物が奴等のアジト・・・ 」
「よし! 突入だ!」
 聖奈子が真っ先に駆け出した。絵里香たちの接近に気付いたのか、建物から戦闘員が出てきて襲いかかってきた。
「退け! この野郎。邪魔だ!!」
 聖奈子がいつもの男言葉で戦闘員に飛びつき、あっという間に二人倒して、そのまま建物の中に飛び込んだ。絵理香と美由紀は唖然とした顔をしながら、聖奈子を追って建物に入った。すると地下へ続いている階段が見えた。
「あれが出入り口ね」
 絵里香たちは散発的に襲ってくる戦闘員を跳ね除けながら地下に降りると、回廊を駆けた。絵里香は詩織から受け取った端末をたよりに、電波の発信源を探り、ついに『福利厚生施設』のプレートがつけられた部屋の前にたどり着いた。
「ここが反応が一番強い」
「福利厚生施設・・・  なにこれ・・・ 」
 絵里香がドアのノブに手をかけた。が、鍵がかかっていて開けられない。
「開かない」
「絵里香どいて」
 絵里香が声のした方を向くと、美由紀が攻撃態勢のポーズをとっていて、絵里香はあわててドアの前からよけた。
「ライトニングスマッシュ!」
 一撃でドアが吹っ飛んだ。
「美由紀無茶しないでよ」
 そう言いながら絵里香たちは室内に飛び込んだ。そこには机の上のパソコンの前にいる卓の姿があり、卓は絵里香たちの方を向いた。
「な・・ 君たち失礼じゃないか。部屋に入る時はノックぐらいするもんだ」
「うるせえ! お前だな。あたしたちのエッチな写真を流したのは」
「お、俺はそんな事知らないよ。人違い。人違いだよ」
「とぼけないでよ。それじゃ画面に出ているそれは何!? そ・れ・は!!」
 美由紀がパソコンの画面を指差した。そこには絵里香たちがハイキックしている場面の写真が壁紙として映し出されていた。
「わ、分かった。もうとぼけないから・・・ ね・・ 冷静になろうよ。この通り、この画面は削除するからさ。ね」
 そう言って卓は画面を操作して壁紙を削除した。と同時に卓は持っていたコードレスマウスを絵里香たちに向けて投げつけた。絵里香たちがひるんだ一瞬の隙を突き、卓は机の横にあったバッグをつかむと、その場から駆け出して絵里香を突き飛ばし、部屋から飛び出した。
「待てこの野郎!」
 聖奈子が逃げる卓を追って部屋から飛び出し、絵理香と美由紀も後を追った。卓はバッグを抱えながら回廊を駆け抜け、階段を上ってアジトの外へ出た。
「そう簡単に捕まってたまるか。せっかくのコレクションなんだ」
「そうはいかないわよ。もう逃げられないぞ。観念しろ!」
 アジトの外では詩織が腕組みした恰好で立っていて、卓の行く手を阻んだ。そこへ絵里香たちも追いついてきて、卓の周りを取り巻いた。
「バッグの中にあるものを全部出せ!」
「ダメだ! これは俺のコレクションなんだ。絶対渡すもんか」
「ふざけるなコノヤロー。あたし達のエッチな写真を撒き散らしやがって。あたしたちの戦意を喪失させようったって、そうはいくか!」
「お嫁に行けなくなったらどうすんのよ!」
 そこへ再び戦闘員が出てきた。それを見た卓は戦闘員を呼んだ。
「おい。お前たち。俺を助けてくれ」
「バカメ。この作戦は失敗だ。お前はもう用済みだ。小娘どもにやられてくたばってしまえ」
 そう言って戦闘員は駆け出すとそのまま消えた。卓の目の前には怒りに燃える絵里香たちの姿があった。
 絵里香たちはほぼ同時に卓に組み付き、美由紀がバッグを奪って口を開け、バッグを逆さまにして中身を全て地面にぶちまけた。出てきたのは数枚のCDと沢山のUSB、それに大量にプリントアウトされた絵里香たちのスケベ写真(ハイキックやターンした時のパンチラやパンモロの写真)、それに筆記用具やノートなどだった。それを見た美由紀は怒りで顔を真っ赤にし、ぶちまけられたものに向けて両手を伸ばした。
「ライトニングスマッシュ!」
 エネルギー波が全てを焼き尽くした。
「あーっ・・・ 俺の・・・ 俺のコレクションがぁ」
「何がコレクションだ! お前のようなやつはこうしてやる!」
 絵里香は卓の腕をつかむと、合気道の技をかけた。
「えいっ!!」
「ワアァァァァーッ」
 卓の巨体が宙を舞い、そのまま一回転して地面に叩きつけられた。美由紀がジャンプして空中で一回転し、卓目掛けて急降下した。
「エンジェルキック!」
 キックが炸裂し、再び宙を舞った卓の体が地面に叩きつけられて斜面を転がり落ち、一番下で止まって、卓は蛙の死体のような恰好で大きな口を開けたまま気絶した。暫くすると卓の体が水蒸気のような煙を上げ、戦闘員の姿から元の丸尾卓の姿に戻った。
「誰この人・・・ 」
 絵里香が呟いていると、美由紀が素っ頓狂な声で言った。
「あーっ! この男・・」
「美由紀知ってんの?」
「知ってるも何も・・・ こいつ、私の家の近くのアパートに住んでる浪人生よ。丸尾卓っていって、引きこもりのヲタクで有名なやつよ。〇ヲタクってあだ名があるくらいよ」
「で・・ こいつどうする?」
「このまま放っておけば? もう私たちに悪さする事も出来ないだろうし・・・ 」
 絵里香たちは気絶している卓を眺めながら、口々に言い合っていた。
「とりあえず救急車だけは呼んでおきましょ」
 詩織がそう言って携帯を取り出すと119番して、絵里香たちは変身を解いた。暫くすると救急車がやってきて、気絶している卓を運んでいった。

      * * * *

 翌日の放課後・・・
 絵里香たちの姿は学校の体育館にあった。今日は体育館が借りられる日で、バトン部は体育館で練習していた。練習が終わり、制服に着替えた絵里香たちは、学校を出て街を歩いていた。

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「あれから全然何の音沙汰も無いね」
「何が?」
「例のヲタクよ。新聞にも載ってないし、ニュースにも出てこないわ」
「べつにいいじゃん。警察の御用になろうが、何になろうが、もうあたしたちの知ったこっちゃ無いよ」
「でもよかったじゃん。藍原先生が美紀子さんから方法を聞いて、画像を全て削除できて、シャットアウトも出来たし、もう変な写真に悩まされる事も無いね」
 街を歩く絵里香たちの後ろ姿を夕日が照らし出した。

      * * * *

 さて、ネオ‐ブラックリリーはどうなったのか・・・  というと、福利厚生施設が廃止されたのは言うまでも無い。卓の編集したデータは大半がウイルスと妨害電波によって壊滅状態になったものの、一部のデータはメインコンピューターに残り、今後のネオ‐ブラックリリーの作戦計画の資料として使われる事となった。が、エンジェルスがいつまでも同じ力であるわけが無く、パワーアップしたエンジェルスには、今回のデータは全て通用しなかったのである。

 THE END
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 あとがき

 今回はまいがー様の戦闘員のデフォルメ(やる夫)イラストを元にストーリーを作ってみました。自分で言うのもなんですが、結構コミカルな内容になったと確信しています。

いただきもののイラストです

2018年 03月22日 14:35 (木)

古波時音様から頂いたイラスト
サイト http://ryoudo.hannnari.com/
ピクシブhttp://www.pixiv.net/member.php?id=1284213


美少女戦隊エンジェルスの三人26985603.png


スカーレットエンジェル
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黄人様から頂いたイラスト

ピクシブhttp://www.pixiv.net/member.php?id=3667590

美少女戦隊『エンジェルス』第24話での、聖奈子のピンチのシーンです

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美少女戦隊『エンジェルス』絵里香のピンチのシーンです
※このシ-ンは本編の方にはありません

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エンジェルイエローのピンチのシーンです。
このシーンは第44話に挿絵として登場します。

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ブルーとイエローの大ピンチ!!

二人揃って怪人に捕まり、締め上げられるシーンです。相手が大きいので、二人一緒に締め上げられてしまいます。

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ことぶき様から頂いたイラスト

ピクシブhttp://www.pixiv.net/member.php?id=687555

美少女戦隊『エンジェルス』のエンジェルレッド・赤城絵里香です
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バレット様より頂いたイラスト

ピクシブhttp://www.pixiv.net/member.php?id=720849

エンジェルスの3人
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エンジェルレッド
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エンジェルブルー
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エンジェルイエロー
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エンジェルレッド
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エンジェルブルー
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エンジェルイエロー
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スカーレットエンジェルJR
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Pinky様より頂いたイラスト

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美少女戦隊エンジェルスの三人です。
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きんふじ様より頂いたイラスト

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美少女戦隊エンジェルスのエンジェルレッドです。
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ショコラ☆様より頂いたイラスト

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コエふとる様より頂いたイラスト

ピクシブhttp://www.pixiv.net/member.php?id=9369423

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SD版エンジェルです
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まいがー様より頂いたイラスト

ピクシブhttp://www.pixiv.net/member.php?id=146759

エンジェルイエローのピンチシーンです。秘密戦隊ゴレンジャーのワンシーンからのアレンジとのことです。

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人食い花に食われるうーっ!!!
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大幹部ゼネラルダイアのアレンジ版てす
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美由紀ちゃんピンチ!!  暖炉魔人に食われる…・
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戦闘員のデフォルメ(?)
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きさらぎゆり様から頂いたイラスト

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美少女戦隊エンジェルスの3人です

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アキラ@水連花のエボルブ様から頂いたイラスト

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エンジェルスのキャラクターの赤嶺佐緒里ちゃんです。冒険少女佐緒里の主人公です。

緊縛絵
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クリスマスプレゼントにされた佐緒里ちゃん
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友達の佳奈子ちゃんとのツーショット
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NANATSU様から頂いたイラスト

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スカーレットエンジェル

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みゆきひろしさんの作品
スカーレットエンジェルのわき役。松島詩織ちゃん
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エンジェルスのチアスタイル
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テーマ : 自作小説
ジャンル : 小説・文学

特別編『冒険少女 佐緒里4 』

2015年 12月08日 12:34 (火)

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美少女戦隊エンジェルス特別編

冒険少女 佐緒里4

まえがき

この小説は最初はDIDをテーマとしていましたが、ストーリーが進むにつれて、ファンタジーやミステリー及び荒唐無稽のスタイルに変わってきています。第一部から順番に読んでいくと、そんな感じに変わっているのが見えてくるかもしれません。
タイムスリップと、逆タイムスリップ(つまりもとの世界へ戻る)は、バック・トゥ・ザ・フューチャーのスタイルをアレンジして使用しています。
また、自分のシチュエーションは、本作品を含めて、これまでの作品の内容にあるように、昭和の時代の少年少女漫画と、特撮にあった全ての要素をベースとしていますので、今後もそのスタイルを通していくつもりです。


*******************************************

目次

ACT.18 神父と枢機卿
ACT.19 遭難
ACT.20 回復
ACT.21 枢機卿の審問
ACT.22 魔女裁判
ACT.23 生還
ACT.24 エピローグ




それでは第4部スタートです。
魔女裁判の場面で、久しぶりで佐緒里ちゃんのセーラー服姿と拘束シーンが登場します。
今回は、魔女裁判をへて、佐緒里ちゃんが広場の処刑台(?)で、ポールに縛り付けられてしまいます。佐緒里ちゃんの運命や如何に・・・・
佐緒里ちゃんは果たして21世紀の世界へ帰れるのか・・・・
冒険少女佐緒里も、いよいよクライマックスです。











 ACT.18 神父と枢機卿

「それじゃ出かけてくるから、後を頼む」
「わかりやした。いってらっしゃい」
「気をつけて」
 神父は枢機卿に会うため、ドルフ村から約50km離れた場所にある、ヴィーゼンシュタットという街へ出かけていった。神父の先輩であるリヒテル枢機卿がこの街の教会の神父を兼任していたからだ。神父を見送る面々は、みな深刻な表情だった。佐緒里が魔女裁判にかけられるという事が、その表情に拍車をかけていた。

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 神父が出掛けて行ったあとで、佐緒里はハンス、カールと一緒に牢獄の屋上に上がっていた。既に冬の訪れを知らせる冷たい風が吹き抜け、空も青空が見えているものの、どんよりとした雲があちこちに広がっていた。
「うー・・・ 寒い・・・ この空・・・ もうすぐドカッと雪が降ってくるな・・・・ 」
「ハンスさん。この辺は雪が多いんですか?」
「ああ。毎年今頃になればチラチラと降ってくるんだが、今年はまだ降らねえな。でもあの雲を見れば、そろそろ雪のお出ましだぜ」
「それにしてもいい眺めですね。村がよく見えるし、結構遠くまで見えるんですね」
「サオリ。逃げたかったら逃げたって良いんだぞ。お前は本物の魔女なんだし、例の魔法で逃げる事だって簡単だろうが」
「僕だってサオリが魔女裁判で火炙りにされる姿なんか見たくない」
 ハンスとカールは佐緒里を気遣い、ここから早く逃げるように薦めていたが、佐緒里は首を横に振ってから言った。
「神父様が何とかするって言っていたから、私はそれに従います。それに・・・」
 佐緒里は一呼吸置いてから話を続けた。
「もし本当に火炙りにされそうだったら、それこそハンスさんが言うように魔法で逃げます。でも、勝手に逃げたら、私の事を21世紀の世界に帰してくれようとしている神父様に申し訳ないです。それにハンスさんやカールの恩をないがしろにするような事は、私には出来ません」
 ハンスは佐緒里の言葉を聞き、納得したようなそぶりをしてから、佐緒里に言った。
「サオリ。そろそろ降りるぞ。そうだ! お前が言っていたオンセンとやらに行きたいんだが」
「温泉ですか? はい。行きましょう」
「カールもつきあうか?」
「良いですよ。ハンスさん。オンセンに行きましょう」
 三人は冷たい風が吹き抜ける屋上をあとにして、牢獄の階段を降りていった。

***************

 夕方近くになって、アルベルト神父はヴィーゼンシュタットに到着し、リヒテル枢機卿に会って挨拶してから、街に宿をとってそこに入った。アルベルトとリヒテルは、法王庁の先輩後輩の関係で、アルベルトの神父としての赴任先は、殆どがこのリヒテル枢機卿の指令に基づくものだった。部屋で寛いで一通り落ち着いたところでアルベルト神父は、リヒテル枢機卿の招待で彼が神父を兼任している街の教会へ行った。そこでアルベルトは、リヒテルから愚痴とも言えるようなとんでもない話を聞かされた。
「明日の朝、街で捕えた女の魔女裁判を行うんだが、その内容がひどい話でね」
「ひどいって、何の話ですか? 枢機卿殿」
「調書を見たんだが、魔女告発の経緯が、男と女の三角関係のもつれから来ているんだよ。つまり、魔女として告発されたAという女がいて、AはBという男と相思相愛の恋愛関係にあった。そしてCという男もAが好きだったんだが、Cは性格がすごく悪くて街での評判も最悪。それを知っているAがCを頑なに拒んだものだから、Cは逆恨みしてAを魔女として告発したという事なんだ」
「何ですかそれは!? そんな事で魔女をでっち上げてるんですか? 今はもうそんな事で魔女を告発するような時代ではないというのに」
「AとBの関係と、Cの事は、街のみんなが知っていて、街の人たちもAの潔白を証言している。Bがたまたま自分の故郷へ行っていて、その留守を狙ったCの汚いやり口だよ」
「確かにひどい話ですね。それで枢機卿殿はどうなされるおつもりなんですか?」
「私が裁判長を任されているんだが、とても裁く気にはなれないね。むしろ告発した男の方をとっ捕まえて、首を切ってやりたいくらいだよ」
「それで、その女は自分が魔女だと白状したんですか?」
「いや、まだだ。審問も予備拷問も明日の裁判から始まるんだ」
「告発した男の方は?」
「街にいると思うが、原告人だから当然裁判には出席して、告発内容を裁判で証言する。だから明日の裁判に出てきたら、即刻とっ捕まえてやる」
 アルベルトはリヒテル枢機卿の話を聞いて、何かを思いついたように言った。
「枢機卿殿。それではこうしたらどうでしょうか? 魔女裁判は行うが、男が現れたら即刻逮捕して牢へぶち込む。そして女の方は口頭の審問だけにして、恋人が戻ってくるまで教会で匿うんですよ。そして恋人が戻ってきたら、無罪放免にしてこの街から出るように薦めたらどうでしょうか?」
「いい考えだな・・・・ アルベルト君。君の意見を参考にさせてもらうよ」

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 翌朝。教会で女性Aの魔女裁判が開始された。告発した男は教会にのこのこと現れたところを、待っていた兵士に捕えられた。
「な、何で俺が捕まらなきゃならないんだ!?」
 枢機卿は男の前に立つと、罪状の書かれた羊皮紙を両手に持ち、高々と宣告した。
「お前は自分勝手で自己中心的な嫉妬心で、事実と無関係の女性を魔女として告発し、清廉潔白な男女の仲を引き裂こうとした不届き物である。自分の嫉妬と逆恨みで魔女をでっち上げるとは言語道断!! よって、本教会は貴様を不届き者の犯罪人として処罰する。者ども。直ちに引っ立てよ!!」
「ははっ!!」
 兵士たちは男の両腕をガッチリつかみ、引き摺るように引っ立てていった。男は大声でグダグダと騒いでいたが、兵士たちは構わず連れ去っていった。一方、告発された女性の方は、簡単な予備審問のみ行われ、枢機卿の計らいで教会の一室に『軟禁』という状態で匿われる事になった。が、恋人の男性が知らせを聞きつけてすぐに戻ってきたため、その日のうちに開放されて、男と一緒に男の故郷へと向かって旅立っていった。

 予断ではあるが、リヒテル枢機卿もアルベルト神父同様、現代風で言えば転勤族で、それなりの世界観があり、考え方にも柔軟性があった。魔女の話についても、魔女そのものの存在を疑うような人物だったため、枢機卿が担当する魔女裁判では、被告人が異端者でない限り、処刑される者はいなかった。既に時勢は大航海時代に入っており、人々の世界観も広くなっていて、魔女の存在自体がナンセンスだと考える者も出てきていたのである。

「アルベルト君。くだらん事につき合わせて悪かったな。私は他の者と違って、魔女については疑いの目で見る事にしているんだよ。今まで告発された理由や内容を改めて見返してみると、あまりにもお粗末過ぎて、そんな事ではダメだと思っているんだ。おっと・・・ 話はここまでにしておこうか。私の考えに反発している者もおるし・・・ お偉方たちの間では、頭の固い連中も多いからな」
「いえいえ・・ 枢機卿殿も、世界観があるからこそ、そういう考え方を持てるんですよ」
「ところでアルベルト君。君の村で捕えた魔女の事だが・・・」
「その事なんですが、どうも腑に落ちないことがあって」
「何だね? 言ってみたまえ」
「捕えた者は審問した結果、自分が東洋人で、ジパングという国の者だと言っているんです」
「ジパング・・・ か。遠い国だな・・・ 」
「それに、その娘がこの世界の人間ではないように見えるんです。何処か遠い時代からやってきた、計り知れないもののように感じるんです」
「君の言っている事は、私には難しくて分かりかねるが、今日の裁判の内容にあった話に近いもののようだな」
「はい・・ 」
「気の無い返事だな。君らしくも無いぞ。まあいい。雪が降って積もっているから今日はもう無理だ。明日の朝ここを出発してドルフ村へ向かうから、村に着いたらその娘に会って話を聞いてみようじゃないか」
「わかりました」

***************

 ACT.19 遭難

 村に枢機卿が来るということは、村人たちにも伝わっていたが、村ではクリスマスの前に行われる冬季祭の準備があって、そちらの方に話題が集中し、さほどの騒ぎにはなっていなかった。
 牢獄の屋上で村の様子を遠目に見ていた佐緒里は、村の様子があわただしいのを見て、傍にいたハンスに聞いた。
「いつもと様子が違うけど、村で何かあるんですか?」
「ああ。クリスマスが近いからな。それにクリスマスの前に冬季祭という祭りがあるんだ。村ではその準備があるんだよ」
「冬季祭ですか・・・ そうか・・ もうクリスマスが近いんですね」
 冬季祭とは、冬至の日に行われるお祭りの事で、昼がもっとも短い日が過ぎ、昼が夜に勝つという経緯から始まったもので、この村では伝統的な行事になっていた。佐緒里が空を見つめていると、チラチラと雪が降ってきた。
「雪だわ・・・ 」
 雪は少しずつ密度が濃くなってきて、屋上の床が白くなり始めた。
「サオリ。行くぞ。こんな所にいたら、寒くてしょうがないぜ」
「はい」
 佐緒里は自分の部屋に戻ると、ハンスが持ってきてくれた中型の火鉢に薪を入れて燃やした。少しずつ部屋が暖かくなっていく。窓の外では雪が降り続いていて、地面や木々が積雪で真っ白になっていくのが見えた。

***************

 佐緒里がその日の夕食を終え、カールが来て食器を片付けている時、ハンスが血相を変えて佐緒里の部屋に飛び込んできた。
「た、た、大変だ!」
「どうしたんですか?」
「神父様が帰ってこないんだ。早馬の知らせでは、今日の朝にはヴィーゼンシュタットを出ているから、普通ならもうとっくにこっちへ着いている筈なんだ」
 佐緒里とカールは、ほぼ同時にハンスの顔を見て、佐緒里は席を立つと、窓際へ行って窓の衝立をはずした。
「うわ・・・ 外は吹雪だわ。あたり一面真っ白よ」
 カールとハンスも窓の傍に来た。
「これはヤバイ・・・・ もしかすると、途中で・・・ 」
「何だよサオリ。ヤバイってどんな意味なんだよ?」
「危ないとか、まずいって意味なんだけど・・・   カール。ハンスさん。この辺の地図はありますか!?」
「地図? 村の周辺の絵図面なら、神父様の部屋にあるけど、一体どうしたんだよ」
「この天気だと、途中で吹雪に巻き込まれて立ち往生しているか、最悪の場合遭難しているかもしれないわ!」
「ええっ!?」
「な、なんだと!?」
 佐緒里は窓から離れると、部屋から飛び出して神父の部屋へと向かった。
「おい。待てよサオリ」
 カールとハンスも佐緒里の後を追った。
 神父の部屋に入った佐緒里は、部屋の蝋燭に火をつけると、あたり一体を捜した。
「サオリ。絵図面ならここだよ」
 追いついてきたカールが書棚の脇に置いてある、丸まった羊皮紙を持って机の上に広げた。佐緒里は蝋燭を近くに持っていくと、その絵図面を眺めた。
「牢獄の位置がここ・・・  村の集落がここ・・・ 」
 佐緒里は目を瞑って精神を統一すると、パッと目を開いて絵図面の上に右の手のひらを翳した。ハンスが心配そうに言った。
「何してるんだ?」
「シーッ・・・ きっと神父様たちが今、何処にいるのか捜しているんですよ。佐緒里は魔女なんだ。きっと魔法で居場所を捜しているんです」
カールとハンスは、生唾を飲みながら、佐緒里のしている事を眺めていた。やがて佐緒里は絵図面上の一角で手を止めた。
「ここです!」
 佐緒里の言葉に、カールとハンスは佐緒里の手がある場所を見た。そこは村から約2kmほど北へ行った場所で、畑と森の境がある、山の麓のあたりだった。
「付近に二つの大きな物体が見えます。長くて高い・・・・ 木ではないでしょうか? ハンスさんはこのあたりの事をご存知ですか?」
「ああ・・ そこか。その辺には、二本の大きなモミの木があるんだ。村では双子のモミの木と呼んでいる・・・ その辺に神父様たちがいるっていうのか!? でも何故こんな場所に・・・ 街道からはかなり離れているぞ」
「きっと吹雪で方向を見失って道を間違えたんですよ。すぐに助けに行きましょう。遭難していたとしたら・・・ 雪に埋もれてしまっていたら、大変なことになります」
「すぐに橇の用意だ! カール。行くぞ!」
「は、はい」
 佐緒里は蝋燭の火を消し、ハンスはカールを連れて部屋から飛び出した。佐緒里もそのあとから走っていった。ハンスとカールは一階の倉庫に入り、カールは置いてあった橇を出して、ハンスは馬を用意した。器具を取り付けて準備しているところに、佐緒里が入ってきた。
「今のところ吹雪が止んでいます。チャンスは今ですよ」
「そうか!」
「私が先導しますから、その後からついてきてください」
「先導・・ って・・・ そうか。サオリは魔法のほうきがあるんだね」
 ハンスとカールは、建物の外に橇を出して乗り込んだ。佐緒里は右手を上げてスティックを出し、巨大化させてその上に乗って、2メートルくらいの高さまで上昇させてから、ハンスとカールに向かって叫んだ。
「後ろから青い色の光が出ていますから、その光をたよりについてきてください」
「分かった!」

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 佐緒里はゆっくりとスティックを飛ばし、ハンスは馬に鞭を入れて橇を走らせた。積雪はさほどではなかったので、馬が動けなくなるという事は無く、ハンスは佐緒里が出している青い光を目印に橇を進めた。

 一行は村の集落を通り越して、目的地である双子のモミの木を目指した。佐緒里はスティックの先端からサーチライトの光を出し、前方の状態を探った。そこに二本の大きな木が立っているのが遠目に映り、佐緒里はスティックを止めて降下した。そこへハンスたちも追いついてきた。既に雪が止んで空には月が出てきていて、月明かりがモミの木を映し出している。
「あれだ。もう少しだ。サオリ。頼むぞ」
「はい」
 佐緒里は再び上昇して、モミの木目指して飛んだ。そしてモミの木の傍まで達すると、モミの木の周りを一周した。その時佐緒里は木の向こう側で、キラッと光るものを見つけ、その方向へ飛ばした。
「確かこの辺だった・・・ 」
 そこへハンスたちが追いついてきて橇を止めると、上を飛んでいる佐緒里に向かって叫んだ。
「おい! サオリ。そこには降りるなよ! その辺は沢になっていて、雪の吹き溜まりになっているからあぶねえぞ!」
 佐緒里は下を見た。雪の中に何か黒っぽいものが見えたので、スティックを降下させた。そこには神父と枢機卿が乗っていたと思われる橇が、雪の吹き溜まりの中に突っ込んでいた。橇を引いていた馬は見当たらないので、きっと何処かへ走り去ったのであろう。佐緒里は周辺を捜した。すると沢の底の方に半分雪に埋まっている二人を見つけた。おそらく吹き溜まりに突っ込んだ時に、投げ出されて沢の下へ転落したに違いない。佐緒里はスティックを降下させて雪原の上に降りると、二人を自分の方へ呼んだ。
「ハンスさん! カール! こっちです!」
 佐緒里が叫ぶと、ハンスとカールは橇から降りて、佐緒里のところへ歩いてきた。佐緒里は沢の下の方へ向けてスティックのライトを照らした。
「うわっ・・・・ し、下に落ちてるのか」
「すぐに引き上げないと!」
 ハンスとカールは橇に戻ると、ロープと鎖、そして鉄球の足枷を持って戻ってきた。
「私が下へ降りますから、合図をしたらロープを下へ落としてください」
 佐緒里はそういうと、ポーズをとった。
「二人とも少し離れて!」
 佐緒里は変身の言葉を叫んだ。
「スカーレットスパーク・エンジェルチャージ!」

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 佐緒里の身体が眩しい光に包まれ、光が消えるとともにスカーレットエンジェルJrの姿になった。そしてスティックを持って沢の下へ飛び降りた。
 ズボッ!!
「キャッ・・・ !!」
 飛び降りた場所は吹き溜まりで、佐緒里の体が胸の辺りまで雪に埋まった。
「おーい! 大丈夫かぁ!」
「はーい!!」
 佐緒里は大声で答えながら右手を上げて大きく振った。
「ハンスさん! ロープを投げて!」
 ハンスは鉄球の足枷の鎖をロープの先端に縛ると、佐緒里から少し離れた場所を狙って投げた。
 ズボッ! 
 鉄球を付けていたので、ロープはほぼ真っ直ぐに吹き溜まりの中に突っ込んだ。佐緒里はロープを拾うとスティックを振って前に突き出した。すると真っ赤な光が灯って、佐緒里の周辺の雪がたちどころに溶けた。佐緒里は二人が倒れている場所にたどり着くと、神父と枢機卿の体を揺すって反応を見てから、二人の手首をつかんだ。
「大丈夫だ・・・ 二人ともまだ生きている」
 佐緒里は神父の腰にロープを巻きつけて縛ると、ハンスに向かって叫んだ。
「ハンスさん、カール。上げて! 二人とも生きているわ」
「よーし!」
 ハンスとカールとで、ロープを引っ張り、まず神父を上に引っ張り上げた。続いて枢機卿も上に引っ張り上げたのを見届けた佐緒里は、スティックを巨大化させて、それに乗って上に上がってきた。吹き溜まりに突っ込んだ橇も引っ張り出した。
「サオリ。やばいぞ。二人とも怪我しているうえに体が冷え切ってる。村まで運んで行ったんでは間に合わないかもしれねえぜ」
「じゃ僕が村へ行って助けを呼んできます」
「待ってカール。それでも同じ事よ。今ここで火を焚いて二人を暖めた方がいいわ」
「ダメだよサオリ。この辺の木はみんな雪で濡れて使い物にならないよ」
「分かった。それじゃ私がやる!」
「サオリが?」
「二人とも私から離れて!」
 ハンスとカールは佐緒里から離れて距離をとった。
「(私がこの技を使ったら、私自身がヤバくなるかも・・・ でも、この二人を死なせるわけにはいかない・・・ )」
 佐緒里は一呼吸置いてから神父と枢機卿に向けて両手を伸ばした。
「エンジェルミラクルチャージアップ!!」
 佐緒里の体が眩しく光り、続いて真っ赤な炎になった。あまりの眩しさに、ハンスとカールは顔を背けた。佐緒里の周辺と、倒れている神父と枢機卿の周辺の雪が溶け、佐緒里の体から発する熱で、真夏の暑さのようになった。ハンスとカールは佐緒里のやっている事に唖然、もしくは呆然としていたが、熱さのあまり、少しずつ後ろに下がった。
 一方、気を失っていたリヒテル枢機卿とアルベルト神父は、体が温まってきたのと周りの熱さのために目を覚ました。そこで自分の目の前にいる物体(佐緒里)が目に入った。枢機卿の目には、真っ赤な炎の中に人の形をしたものがあるように見えた。
「う・・ 眩しい・・ 体が温まる・・・ な、何だあれは・・・  私は夢を見ているのか・・・・ 確か雪の中に突っ込んで谷底へ落ちて・・・ あれは天使・・・ それとも 」

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 しかし佐緒里のパワーもここまでだった。
「(も・・ もうダメ・・・ もう・・ 力が・・・ 入ら・・・ な・・ い)」
 真っ赤な炎が消え、佐緒里はそのまま地面に倒れ込んで動かなくなった。
「サオリ!!」
 カールが慌てて佐緒里の傍へ駆け寄った。カールは佐緒里の体に触れようとしたが、突然佐緒里の体が眩しく光ったため、後退りした。佐緒里の身体の光が消えた時、そこには変身が解けて生身の姿になった佐緒里が倒れていた。
「サオリ。どうしたの!? しっかりして! サオリ!」
 カールは佐緒里の傍に来ると、佐緒里の体を揺すった。が、佐緒里は全く反応を示さなかった。ハンスも傍に駆け寄ってきた。
「サオリ! しっかりしろ。神父様も枢機卿様も助かったんだぞ! サオリ!」
「サオリ。死んじゃだめだ。自分の世界へ帰るんだろ!?」
 そこへ神父も近寄ってきた。
「サオリじゃないか。サオリが私たちを助けてくれたのか」
 成り行きを見ていたリヒテル枢機卿が呟いた。
「私は・・・ 私は夢を見ているのか・・・ しかし・・・」
 その時向こうの方から、大きな声とともに数人の村人たちがザワザワと喋りながら、徒歩と橇でやってきた。
「おーい!」
「何があったんだ。でっかい火が見えたから、山火事でも起きたのかと思ったぞ」
「おい! お前たちそんなところで何やってんだ」
 村人たちはみんながいる傍までやってきた。
「し、神父様でねえか。何してるだこんな所で」
「枢機卿様も一緒だぞ。おい。二人とも怪我してるぞ」
 ハンスは立ち上がると、村人たちに向かって言った。
「その馬と橇を貸してくれ! 神父様と枢機卿様を運ぶんだ」
「おう! 分かった。早く乗せるんだ」
 村人たちが持ってきた橇に怪我をした枢機卿と神父を乗せ、そしてハンスとカールが乗ってきた橇に、気を失っている佐緒里が乗せられた。
「よし! すぐ村へ戻るんだ」
 橇が村へ向けて滑り出し、ハンスとカールも橇に乗って出発した。
「サオリ。サオリ。しっかりして。絶対に死なないで!」
 戻る途中で、カールは泣きそうな顔で、ずっと佐緒里の事を呼び続けていた。

***************

 ACT.21 回復

「もう5日間も眠ったままだぜ。大丈夫かよ・・・ 」
「このまま起きないんじゃ・・・・ 」
 ハンスが不安そうに、気を失ったままの佐緒里を眺め、カールは泣きそうな顔をしていた。あれから神父と枢機卿は、村の医者のところに運ばれて、怪我の手当てを受け、佐緒里はハンスとカールの乗った橇で牢獄まで戻ってきて、佐緒里の部屋に運ばれてベッドに寝かされた。その時に神父の計らいで、教会の手伝いをしていたエレンという少女を、佐緒里の世話人として遣わしていたので、服を脱がして着替えさせる役目は、そのエレンがやってくれた。そして一通りの仕事を済ませたエレンは、看守のハンスとカールに後を託して、教会の方へと戻っていった。
 佐緒里はスカーレットエンジェルとはいっても、まだ体が幼く、自分が使える技には限度があった。それなのにチャージアップという、自分の能力の限界を超えた大技を使ったため、エネルギーをあっという間に消耗して、気を失ってしまったのだ。しかし、いくら限界を超えたとはいっても、ある程度時間が経てば自然にエネルギーが蓄積されて回復するはずである。が、佐緒里はまだ眠ったままだった。ハンスとカールが不安そうにしているところに、神父が枢機卿と一緒に部屋に入ってきた。
「サオリはまだ目覚めないのか?」
「はい。もう5日も経つんだけど、まだ・・・ 」
「神父様。まさかこのまま死んじゃうんじゃ・・・・ 」
 カールが泣きそうな声で言った。
「バカ言っちゃいかん! 必ず助かる。今までサオリは何度も窮地を脱してきたじゃないか。こんなことで絶対に死ぬものか!」

***************

 佐緒里は暗闇の中を彷徨っていた。周囲は全て真っ暗闇で、足元すら見えない。
「ここ・・ 何処なの?」
 その時佐緒里は自分を呼ぶ声が聞こえた。
「佐緒里」
「え?」
 佐緒里は声がした方を向いた。そこにはかつて事故で亡くなった筈の佐緒里の両親と、妹の香織が立っていた。
「パパ・・ ママ・・ 香織」
 佐緒里はみんながいる方へと歩き出した。しかしいくら進んでも、みんなの元へたどり着けない。
「どうして・・ どうして近づけないの?」
「ダメ! お姉さん。こっちへ来てはダメよ」
「佐緒里。こっちへ来てはいけない。戻るのよ!」
「佐緒里。引き返せ! 戻るんだ。お前はまだ死んではダメなんだ」
 そしてみんなの姿が消えた。
「パパ! ママ! 香織! 何処へいったの? 行かないで! 嫌だ・・ 嫌アーッ」

「嫌あーっ!」
 佐緒里が叫び声とともに、ベッドから飛び起きようとした。
「サオリ!」
 傍で様子を見ていたカールが、半狂乱になって暴れる佐緒里を抱きしめた。
「サオリ! 落ち着いて。怖い夢でも見たのか」
 我に返った佐緒里は、自分を抱きしめているカールに気付いた。
「カール・・・・ 」
「サオリ・・・ 良かった。目が覚めたんだね。もう、このまま死んじゃうのかと思ったんだぞ」
 カールは佐緒里をさらに強く抱きしめた。佐緒里はカールの体が震えているのを感じた。カールは声を押し殺して泣いていた。
「カール。私は大丈夫だから泣かないで」
「そんなわけ無いだろ。お前5日間も眠ったままだったんだぞ」
 カールの目からは涙が溢れていた。
「よかった・・・ 生きててよかった・・・ 」
 カールは再び佐緒里を強く抱きしめた。佐緒里は起き上がろうとしたが、カールがとめた。
「まだ寝てなきゃダメだ」
 そう言ってカールは、佐緒里を無理矢理ベッドに押し倒した。ハンスも傍によってきた。
「サオリ。今日はゆっくり休むんだ。まだ無理しちゃダメだ」
「・・・・・・」

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 カールは神父の方を向いた。
「神父様。今日はサオリをゆっくり休ませますから、何もしないであげてください」
 神父は枢機卿の方を向いた。枢機卿は無言で頷いた。
「いいだろう。サオリ。今日はゆっくり休むがいい。明日は枢機卿殿がお前を審問したいと言っているが、いいな?」
「はい」
「それじゃみんな、部屋を出るぞ。サオリをゆっくり休ませてやれ」
 神父と枢機卿に促されるように、みんなゾロゾロと部屋を出て行った。最後にカールが机の上の蝋燭の火を消した。
「それじゃサオリ。お休み」
「お休みなさい」
 真っ暗になった部屋のベッドの上で、佐緒里は再び深い眠りについた。


 神父の部屋では、神父と枢機卿がカールとハンスを交えて話をしていた。
「アルベルト君。魔女裁判は予定通り行う。ただし、あのサオリという娘が完全に回復してからにする。それまで私はこの村にとどまる事にする」
「でも枢機卿殿。サオリは我々の命の恩人なんですよ。その恩人を魔女裁判で・・・ まさか火炙りにするつもりなんですか?」
 枢機卿は首を横に振った。
「確かに裁判はするが、判決後の事は君に任せる」
「え?」
「あの娘は我々の命の恩人だ。いくら魔女とはいえ、私は命の恩人を蔑ろにするほど卑怯者ではない。そんな恩を仇で返すような事をしたら、それこそ神の裁きを受けてしまうよ」
「それでは何故」
「君はあのサオリを、サオリの世界へ帰そうとしているんだろ? そしてその方法も既に見出しているというではないか。ならば裁判の結果をどうしようと、私が君にサオリの処遇を委任すればいいことだ。要するに、サオリを君の力で帰してしまえば、サオリはこの世界からいなくなるわけだ。つまり極論で言ってしまえば、処刑したと思えば同じ事ではないか。私には君の言っている事がどうにも理解出来ないんだが、とにかく私の役目は裁判で判決を言い渡して、裁判の報告書を書く事だけだ。そのあとのサオリの事については全て君に任せるよ」
「わかりました。お心遣いありがとうございます」
「礼には及ばんよ。私と君とは長い付き合いではないか。ただ、この事は絶対に他所に口外してはならんぞ。こんな事が頭の固い連中に知られれば、厄介な事になりかねん。君たちもだ。ここで話した事は、口が避けてでも絶対喋るな。勿論法王庁へはそれなりの調書を書いて報告するが、何かあった時は私の権限で何とかする」
「分かりました」

 ACT.21 枢機卿の審問

 翌朝、食事を終えて後片付けを済ませ、部屋を出たカールと入れ替わりに、リヒテル枢機卿が部屋に入ってきた。
「サオリといったな。審問を始めるが、いいかね?」
「はい」
「では屋上へ上がろうか。一緒に来たまえ」
 リヒテルは部屋の外へ出て、佐緒里もそのあとをついていった。

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 空は晴れていて、この季節にしては暖かかった。屋上に上がったリヒテル枢機卿と佐緒里は、お互いの目を見て向かい合っていた。リヒテルが黙っていたままなので、痺れを切らした佐緒里が話しかけた。
「あの・・ 枢機卿様。さっきから黙ったままですけど、私に何も聞かないんですか?」
「まあ・・・ まず空でも眺めてみたまえ。もう冬だというのに、今日はこんなにいい天気だ」
 そう言ってリヒテルはそのまま床に仰向けになった。佐緒里が唖然としていると・・・・
「君も仰向けになりたまえ」
「は、はい・・・ 」
 佐緒里は呆気に取られたが、枢機卿の言う通りに仰向けになった。
「どうだ。いい眺めだろう」
「はい・・ 」
「お前の事はアルベルト君から大体のことは聞いたし、調書も読ませてもらった。君はジパングという国から来たそうだな」
「そうです。ご存知なんですか?」
「うむ・・ 私は『東方見聞録』という書物を読んだ事があってね」
「マルコ・ポーロですか?」
「そうだ。そこでお前に聞きたいんだが、あの書物の内容は正しいのかね」
「全部が全部というわけではないです。マルコ・ポーロ自身はジパングへは来ていないんです。だから内容的には想像の部分が殆どなんです」
「そうか・・  想像か・・・  それでジパングは黄金の国だと書かれていたが、それは真実なのかね?」
「いいえ・・・ 確かに金は産出しますけど、皆が思っているほどの量ではありません。むしろ少ないくらいです」
「うむ・・・ ジパングへ行った事がないのなら、実情を知らずに想像で書くのも無理も無い事だ。お前の話には嘘は無いな・・・ 実はジパングへ行った私の友人から来た手紙にも、同じような事が書かれていたのだ」
 枢機卿はさらに話した。
「実はその友人は、キリスト教を伝道するためにジパングへ行ったんだ。ジパングはキリスト教を受け入れるのかね」
「受け入れます。私の国は宗教の受け入れには寛大です。だから今まで外国から入ってきた宗教は、しっかりと根付いています」
「キリスト教以外にも伝道されているのかね」
「仏教が伝えられています。枢機卿様はお釈迦様・・・ ブッダをご存知ですか?」
「知っとるよ。お前は仏陀の信者かね?」
「信者というわけではないですが、仏教に関係した行事には参加する事があります。それと枢機卿様のおっしゃっている、キリスト教の行事もです。例えばクリスマスは、信仰に関係なく殆どの人が関わっていると思います」
「なるほど・・・ それではお前は何の神を信じるのか?」
「特別な信仰はありません。でも、しいて言うならば、私の国の神様です」
 佐緒里は枢機卿の質問に戸惑いながらも、自分の知識にある全てのもので応えていた。
「お前の国の神とは、どんな神なんだね?」
「枢機卿様は、ギリシャやローマの神話はご存知でしょうか?」
「知っておるが、それと何の関係があるんだね?」
「私の国にも古代の神話があって、宗教として人々の心の中に根付いています。私の国の神とは、その古代の神話に関係があるんです。そして神は一人ではなく、大勢いて・・・ つまり多神教なんです。分かり易く言ってしまえば、お釈迦様もキリスト様も、みんな神様なんです」
「なるほどね・・ アルベルト君の調書の通りだな。彼の調書に、お前の宗教観の事が書かれていてね、私はそれに興味を持って、お前に色々と聞いてみたんだよ。まあ・・ 国が違えば文化も違うし、宗教観が違うのも当然なのだろうな・・・ 」
 枢機卿は起き上がった。
「さあ、サオリ。立ちなさい」
「はい」
 枢機卿は立ち上がり、サオリも起き上がって立って、枢機卿と向かい合った。
「お前の魔女裁判は明後日で良いか?」
「はい。良いです」
「よし。分かった。それでは私の審問はこれで終わる。部屋に戻りなさい」
 枢機卿が動こうとしなかったので、佐緒里は歩み出すのを躊躇っていた。
「一人で行きなさい。私はもう少しここで空を眺めている。あ・・ それから、私とアルベルト君を助けてくれたのはお前なんだってな。遅くなったが礼を言う。助けてくれてありがとう」
「御礼には及びません。当然のことですから。良い魔女は人を助けるんです」
「なるほどね・・・ さあ。行きなさい」
「はい。それでは失礼します」
 佐緒里は枢機卿に背を向けると、屋上から階段を降りていった。枢機卿は佐緒里の後ろ姿を眺めながら、右手で胸の前で十字をきった。

 その日の夜、佐緒里の部屋に神父が入ってきた。
「今しがた枢機卿殿を教会へ送ってきた。サオリ、明後日がお前の魔女裁判だが、覚悟は出来ているか?」
「はい」
「ならば明後日の朝、朝食後にここから教会へ移動する。お前の所持品は全てここから持っていくように。それから、お前がここで借りた物や貰った物は、すべてここに置いていくように。いいね?」
「はい・・・ 」
「では私も教会の方へ行くから。お前の裁判までもうこっちへは戻ってこない。明日以降の事は看守のカールかハンスに相談しなさい。お休み」
「お休みなさい」

***************

 ACT.22 魔女裁判

 ついにその日の朝が来た。
 佐緒里はベッドから起き上がると、着ていた体操着を脱ぎ、椅子にかけてあったセーラー服を手に取った。
「(この服・・・ 久々だな・・・ )」
 佐緒里がここに来た時に、暫くの間着ていたセーラー服だった。佐緒里はリュックの中からスリップを取り出して着ると、スカートを履き、続いてセーラー服の上着を着てから、ネクタイを着けて靴下を履き、最後に自分のズック靴を履いた。今から何が自分を待ち受けているのか不安だったが、それを払拭するように窓際へ行って衝立を上げた。明るい朝の日差しとともに、冬の冷たい風が吹き込んできた。佐緒里はリュックの中からノートと筆記用具を取り出し、テーブルの上に置くと、椅子に座ってノートを開き、何かを書き始めた。

『親愛なるカールへ・・・  カールがこの手紙を読んでいるとき、私はもうこの世界にはいません。私はカールが私に対して好意を抱いていた事を薄々と感じていました。だからお別れするのはとっても辛いです。でも、仕方が無いんです。私は私の世界へ帰らなければなりません。カールはもう私に会うことは出来ませんが、カールの子孫の方ならば会う事が出来るでしょう。だから私からのお願いです。この手紙をずっと持っていてください。そしてカールの子孫の方々に代々受け継いでもらい、21世紀に受け継いだ方が201X年の○月○日に私に会いに来て下さい。拙い文章でごめんなさい。 サオリ』

「よし。これでいいな・・・ 」
 佐緒里は手紙を書いたページを切り取ると、もう一枚切り取って折り曲げて封筒の代わりにし、折った手紙をその中に入れた。
 ガチャガチャ
 その時鍵が開けられる音がして、佐緒里は手紙をリュックの中に入れた。扉が開いてカールが食事を持って入ってきた。カールは佐緒里がそわそわして顔が赤くなってるのを見た。

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「ど、どうしたんだサオリ」
「あ・・ カール。な、何でもない・・・ 何でもないからね」
「(何か変だな・・・ 緊張しているようでもないけど・・ ) それじゃ食事置いていくから」
「分かった」
 カールは首をかしげながら部屋を出て、鍵をかけていった。

***************

 食事が終わり、後片付けも終わった。佐緒里は部屋の中で椅子に座り、来るべき時を待ちながら瞑想していた。そこへ鍵が開く音がして扉が開き、カールが入ってきたので、佐緒里は立ち上がって傍にあったリュックを背負った。カールは持っていた木製の手枷を佐緒里に差し出し、佐緒里は無言で両手を差し出した。
「サオリ。あと少しだから我慢して」
「うん・・・ ところでハンスさんは?」
「外で橇を用意して待ってる」
 カールは佐緒里の手に手枷を嵌めて施錠すると、手枷から伸びている鎖を持って、佐緒里を促した。
「(いよいよここともお別れなんだわ・・・ )」
 佐緒里はカールに鎖を引かれて部屋を出た。牢獄の建物を出ると、ハンスが橇と馬を用意して待機していて、佐緒里とカールを見ると乗るように促し、二人は橇に乗った。
「よし。それじゃ行くぞ」
 ハンスは橇を走らせた。村にある教会までは15分くらい。だが、佐緒里には倍近い時間に感じられた。
教会の前でハンスは橇を停止させ、カールは佐緒里と一緒に橇から降りた。ハンスは馬の手綱を傍にあった木に巻きつけて固定してから、二人の傍に来た。その時教会堂の中からアルベルト神父が修道女の恰好をした少女とともに出てきた。

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「神父様。おはようございます」
「おはよう。サオリ、よく眠れたか?」
「はい」
「うむ・・ とりあえず紹介しておこう。この子はエレン・ヴェルナーといって、カールと同じく私の養子なんだ。年はサオリと同じくらいで、この教会で手伝いをしている。裁判の間はこの子がお前のそばについている」

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 エレンは胸の前で十字をきると、佐緒里の傍に歩み寄ってきた。
「サオリさんですね。私はエレンといいます。神父様からあなたのお話は聞いています。よろしく」
「サオリです。こちらこそよろしく」
「カール。手枷の鎖をエレンに渡せ。お前はハンスと一緒に、広場へ行ってサオリを21世紀に帰すための準備をするんだ」
「はい。神父様」
 カールは持っていた鎖をエレンに渡すと、ハンスと一緒に教会の隣にある広場へ向かった。神父は佐緒里の肩をポンと軽く叩いて言った。
「さあ。サオリ、行こうか」
「はい」
 佐緒里はエレンの先導で神父とともに教会堂の中へ入った。

***************

 裁判は礼拝堂を急造の法廷として使用する事になっていて、椅子は全て端に並べられ、祭壇の前に大きな長い机が一つ、椅子が三つ置かれた。佐緒里はその法廷のほぼ中央にある二つの椅子の片方に座らされ、隣の椅子にエレンが座って、神父は枢機卿を呼びに法廷の外へ出て行った。それと入れ替えに、陪審員か傍聴人と思われる村人たちが数人入ってきて、端にある椅子に座った。佐緒里はこれから始まる自分の魔女裁判の時を静かに待った。
 やがてハンドベルの音とともに、リヒテル枢機卿を先頭に、アルベルト神父と村の村長がやってきて、祭壇の前にある椅子に座った。中央に枢機卿。右隣にはアルベルト神父。左隣には村長が座っていた。佐緒里はガラにもなく緊張で体がガタガタと震えた。それを感じたのか、隣にいるエレンが佐緒里の肩を軽く叩き、佐緒里はエレンの方を向いた。
「落ち着いて。もう始まるわよ」
 佐緒里は無言で頷いた。周りでは傍聴人たちがざわざわと雑談していたが、枢機卿たちが立ち上がると、ざわめきがピタリと止んだ。

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「それでは被告人サオリの魔女裁判を始める!! 本日の裁判長はこの私。ヨーゼフ・リヒテルが受け持ち、裁判官はドルフ村の神父アルベルト・ヴェルナー、及びドルフ村村長のヨハン・ハウゼンがそれぞれ受け持つ。被告人サオリ。立ちなさい」
 枢機卿が高々と通る声で喋り、佐緒里はエレンとともに立ち上がって、枢機卿の目を見据えてから、枢機卿に向かって一礼した。
「ン!!」
 枢機卿はそれに応えて佐緒里に向かって軽く頭を下げ、神父・村長とともに再び着席した。枢機卿は傍らに置かれた羊皮紙を取ると、それを読み上げた。
「本日の魔女裁判は、魔女の告発人が存在しないため、証人喚問は省略する。そこで被告人のサオリに問う。被告サオリは○の月の○日に、ドルフ村の東の外れにある村の倉庫において隠れていたところを、村の者に発見され、魔女の嫌疑で投獄された。そして村の神父アルベルト・ヴェルナーの第一回目の審問において、魔女である事を自白し、軟禁状態で本日に至る。サオリ、間違いは無いか?」
「ありません」
「それでは審判を続ける。被告人は村に出没する悪魔に対し、勇敢にも一人で悪魔に立ち向かって悪魔を倒し、そしてその正体を暴いた。さらにドルフ川の上流にいるとされていた怪物の正体をも暴き出し、それらの類は悪魔とか魔女とは無関係のもので、すべて神が作り出したものであると説いたとあるが、それに間違いは無いか?」
「ありません」
「調書によると、お前は東洋人で、ジパングという国から来た者だとある。そして異教徒だとあるが、間違いは無いか?」
「はい。裁判長様の仰るとおりです」
 傍聴人たちの間でざわめきが起こった。が、傍聴人たちはみなドルフ村の村人で、かつ佐緒里が村でした事を全て知っていて、佐緒里に恩義を感じていたので、罵声や暴言は出なかった。
「静粛に!」
 枢機卿の一声で周りが静かになった。
「サオリは違う国から来た者であり、異教徒である。国が違うのであれば、文化も宗教も宗教観も我々と異なるのは当然である。従って、当法廷はサオリを異端とはみなさない。魔女の有無については、被告人が自白済みなので取調べは省略し、すぐに判決に入る」

 枢機卿は立ち上がると、両手で羊皮紙を持って佐緒里を見据えた。
「判決!! 当魔女裁判の法廷は、被告人サオリを魔女と認定して有罪とする。なお、判決の根拠は被告人の自白によるものとし、被告人が行ったとされる魔術使用等の魔女行為については、全てを不問とする。加えて、判決後の被告人の処遇については、ドルフ村神父のアルベルト・ヴェルナーに全てを委任する。以上! 本裁判はこれにて閉廷とする!」
 枢機卿は神父と村長を伴って法廷を出た。続いて周囲にいた傍聴人たちも次々と出て行き、法廷には佐緒里とエレンだけが残った。
「サオリさん。行くよ。神父様が言っている、21世紀の世界とかに帰るんでしょ?」
「うん・・ 」
 佐緒里はエレンに鎖を引かれて、法廷の外へ出ると、さらに教会堂の外へ出た。外ではカールが佐緒里のリュックを持って待っていた。カールは佐緒里の傍に駆け寄ってきて、佐緒里の手首をつかんで少し上に上げさせた。
「今、手枷を外すから」
 カールは鍵で手枷の錠を外し、佐緒里の両手を自由にしてから、手枷を傍にあった橇の中に放り込んだ。そして佐緒里にリュックを背負わせると、佐緒里の手首を持って、広場の方へと小走りに駆け出した。エレンもその後をついて行った。

 
 ACT.23 生還

 広場に到着すると、ハンスが準備をして待っていた。ステージ状の台の上に高さ2m位、太さが20cmくらいの木柱が立っている。通常ならば魔女の火炙りに使用するか、もしくは罪人を拘束して晒すためのものだが、今回は佐緒里を未来へ帰すために用意されていた。村人たちは準備の手伝いで近くに数人いたが、一通りの手伝いを済ませると、その場から皆去って行った。枢機卿の計らいで、佐緒里の事には絶対に関わらないよう、またこの事を外へ洩らさないよう、厳重な命令が出されていたのも理由のひとつだった。
「サオリ。こっちへ来い」
 ハンスが手招きして、佐緒里は木柱の傍まで来た。
「その柱に背中をつけろ」
 佐緒里がリュックを下ろして木柱の前に立つと、ハンスは持ってきた長い鎖で、佐緒里の腰から胸の辺りまでグルグル巻きに縛って、南京錠をかけて固定した。が、両手だけは動かせるように自由にしていた。そして佐緒里のリュックも佐緒里の傍に置かれて、鎖で巻かれた。
「サオリ。きつかったら言えよ。こいつは神父様の指示で、お前が衝撃で吹っ飛ばされねえように、ガッチリ縛れとのことなんだ」
「大丈夫です」
 そこへ神父が十字架の入った箱を持ってやってくると、銀色の十字架を取り出して、佐緒里に持たせた。
「サオリ。方法はこの前の実験でやった通りに行う。この銀の十字架を両手で持って、私が合図をしたら両手で頭の上にかざし、例の呪文を唱えるんだ。私がお前の正面で、こっちの金の十字架をかかげているから、お前の呪文で出る光をこの十字架で受け止めて、お前の持つ銀の十字架に反射した光をあてる。そうすればお前の体全体を光が包み込んで、お前はお前の世界へ帰れる。信じるんだ! お前は必ず帰れる。奇跡は必ず起きる!」
「分かりました。ところで枢機卿様は?」
「枢機卿殿は、教会堂の中で、お前の裁判の報告書を書いておられる。裁判で決まったように、お前の事は全て私が責任を持って任されている。いいか? そろそろ始めるぞ」
「待ってください。カール! 傍に来て」
 カールは佐緒里に呼ばれて、傍に駆け寄ってきた。
「何だいサオリ」
「私のリュックの右ポケットに手紙が入っているの。それを出して」
 カールはリュックの右ポケットを開けて、中から佐緒里が造った封筒を出すと、封筒を佐緒里に見せた。
「これだね?」
「うん。それでカールにお願いがあるの。その手紙をずっと持ってて。私がいなくなってから封を開けて中の手紙を読んでほしいの。約束して」
「分かった。約束するよ」
カールは佐緒里の真正面に来て佐緒里に顔を近づけ、佐緒里を見つめた。見つめられた佐緒里は顔を赤らめ、目から涙が浮かんできた。カールも涙ぐんでいる。

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「サオリ。さよなら!」
 カールはそのまま佐緒里と唇を重ねると、踵を返して佐緒里から離れた。
「みんな、サオリから離れるんだ」
 神父の一声で、カールとハンス。そしてエレンは佐緒里を遠巻きにするように距離を置いた。
「サオリ! 呪文を唱えろ!」
「はい!」
 佐緒里は両手で十字架を上に掲げた。
「スカーレットスパーク・エンジェルチャージ!!」
 その瞬間、佐緒里の身体が眩しい光に包まれ、真正面に立っていた神父は目をつぶった。光が神父の持っている金の十字架にあたって、反射光が佐緒里の持っている銀の十字架にあたり、佐緒里の身体が銀色の光に包まれた。昼過ぎにもかかわらず、あたり一面は太陽の光より強い光が覆い、みんなの姿をも光で見えなくした。
 そして光が消えたとき、そこには佐緒里の姿は無く、煙が燻った木柱と、佐緒里を縛っていた鎖だけが残されていた。
「消えた・・・ 成功だ・・・ サオリは自分の世界へ帰ったんだな・・・ 」
 神父は上に上げていた両手を下ろし、力が抜けたようにその場に座り込んだ。
「サオリーっ!!!!!」
 佐緒里を呼ぶカールの声が、むなしく木霊した・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

***************



「 ・・・ちゃん・・・ 佐緒里ちゃん・・・ 」
「ん・・・・ んん・・ 」
 佐緒里は誰かに呼ばれる声で、目を覚ました。
「佐緒里ちゃん! しっかりして。佐緒里ちゃん」
 佐緒里が目を開けると、すぐ目の前にエモトの顔があった。佐緒里の手には、例の銀の十字架がしっかりと握られていた。
「佐緒里ちゃん大丈夫? 急に倒れたから、何があったのかと思ったわよ」
「熱っ・・・・ 」
 佐緒里は十字架から手を離した。タイムスリップで熱を持っていたのだ。
「私・・ 眩しさでこの十字架をつかんだところまでは覚えてるんだけど・・・ エモトさん。エモトさんだよね」
「ちょ、ちょっと・・・ 倒れた時、頭でも打ったの? 佐緒里ちゃん。医者呼ぼうか?」

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 佐緒里はスカートの裾をパンパンとはたきながら、ゆっくりと立ち上がった。エモトが心配そうに、佐緒里のあちこちを見た。騒ぎに気付いたスタッフの何人かが、傍にやってきて回りを取り巻くように様子を見ている。
「エモトさん。大丈夫です。心配してくれてありがとう」
 佐緒里は傍に会ったリュックを背負うと、エモトの方を向いた。
「それじゃエモトさん。今日はありがとうございました。展示会の日にまた来ますから」
 佐緒里は踵を返すと、会場をあとにした。廊下を歩いている佐緒里は胸の辺りに強烈な違和感を感じて歩みを止めた。
「(何か変だ・・・ 胸の辺りがすごく熱い・・・)」
 佐緒里は熱さの元になっている部分を探った。それは左胸のポケットの中で、何かが入っているようだった。
「(胸ポケットには何も入れてなかったはずだけど・・・)」
 佐緒里は胸ポケットに手を入れた。すると中から赤いリボンが出てきた。カールが佐緒里にキスした時、素早く佐緒里の胸ポケットの中に忍ばせていたのだ。
「これは・・・ 」
 突然佐緒里の脳裏に、今までの事が全て甦ってきた。
「そうか・・  私・・・・ 中世のヨーロッパにタイムスリップして・・・ これはカールが私にくれたリボン・・ 」
 佐緒里の目から大粒の涙が溢れてきた。泣きたいわけではなかったが、それでも涙が止まらない。佐緒里はリボンをつかむと、そのまま建物の外へと一目散に駆け出した。


***************

 ACT.24 エピローグ

 そして展示会の初日・・・・・
 初日とあって、会場にはテレビカメラが入り、ニュースとして報道された。さらに『世界の果てまでGO GO GO』の特番として放送するため、そのスタッフも会場でカメラを回していた。会場の中に佐緒里の姿は無かった。佐緒里がいなかったのは、混乱を避けるために、エモトが前もって初日の事を佐緒里に話していたからである。
 ちなみに佐緒里のタイムスリップの原因となった金と銀の十字架は、佐緒里が握りしめていた銀の十字架だけが展示されていて、金の十字架はそこには無かった。佐緒里が中世にタイムスリップし、アルベルト神父の審問で話をしたことがきっかけとなって、その後の歴史が僅かに変わっていたのだ。十字架は銀の十字架、つまりズイルバー・シャッテンのみが略奪品の対象になり、金の十字架ゴルト・リヒトは略奪を免れたことになっていた。

 そして二日目の昼下がり・・・・
 佐緒里は友達の佳奈子たちを連れて会場にやってきた。会場は大盛況で、客の入りも凄かった。
「わあ・・ すごおい・・・ 」
「これが時価ン十億円の財宝かぁ・・・・ 」
「しかし、佐緒里ちゃんも凄い物見つけ出したね」

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 佳奈子たちが展示されている財宝を見ながら口々に言い合っている。ステージではエモトがテレビカメラの前で講演をしていて、その周りでは客やエモトのファンの人たちがエモトの講演に見入っているのが見えた。講演を終えたエモトは佐緒里に気付くと、周りにいたファンや客を押しのけて佐緒里の傍まで来た。
「おはよう佐緒里ちゃん。友達も来てくれたのね」
「おはようございます」
 佳奈子が色紙をおずおずと出し、エモトの前に差し出した。
「エモトさん。サインしてください」
「あ・・ 君は前に逢った事があるね」
「はい。佐緒里ちゃんの友達で、清水佳奈子といいます。私エモトさんの大ファンなんです」
 エモトはマジックを持つと、佳奈子が差し出した色紙に自分のサインをして、佳奈子に渡した。
「ありがとうございます。大事にします」
 傍で友人達が『よかったね』って口々に佳奈子に言った。そこへ聖奈子と絵里香、そして孝一がやってきた。
「あ、いたいた。佳奈子たちもう来てるわ。佳奈子!」
「お姉ちゃん」
「絵理香さん、孝一さんに聖奈子さん。おはようございます」

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「佐緒里ちゃんが古文書の暗号を解読して見つけ出した財宝だからね。見ずにはいられないわね」
「それにしてもすげえな。こんなのが日本に隠されていたなんて、まだ信じらんねえぜ」
「佐緒里ちゃん。美紀子さんも、もうすぐ来るわよ」

「やっほー! 佐緒里ちゃん。来たわよ」
「これが例の財宝かぁ・・・ ニュースで見たけど、実物を見ると改めて凄いって分かるわ」
美由紀と友里がやってきて、佐緒里に挨拶した。二人とも今までドラマの撮影があって、終了と同時にテレビ局からすっ飛んできたのだ。

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「美由紀さんに友里さん。この前の『二人は迷探偵』見ましたよ。二人ともゲストの出演だったけど、すごく良かったです」
「ありがとう佐緒里ちゃん。私たち次はいよいよ本格的なドラマに挑戦よ。来年の新春ドラマ劇場のスタッフからオファーがあって、もう撮影が始動しているのよ」
「ついさっきまでテレビ局で撮影してたの」
「わぁ凄い! 二人ともがんばってください」

 その時佐緒里の体に誰かがぶつかった。
「キャッ・・・」
「ア・・ ごめんなさい」
佐緒里が振り向くと、そこに学校の制服姿の麻美と紫央がいた。

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「麻美さんに紫央さん」
「久しぶり。佐緒里ちゃん元気?」
「はい。麻美さんも紫央さんも元気そうですね」
「勿論元気よ。今でも相変わらず妖怪相手に戦い続けているわよ」
「そうなんですか・・・ もし私が必要なら、いつでも呼んでください。必ず助けに行きますから」
「ありがとう」

 佐緒里は自分の知り合いたちに周りを囲まれ、その真ん中にいた。美紀子もやって来たが、佐緒里の周りに人が集まっていたので、少し距離を置きながら展示された財宝を見て回っていた。
 佐緒里がみんなと団欒しているところにエモトがやってきた。
「佐緒里ちゃん。あなたにお客さんが来てるわよ」
「私に? 誰だろう・・・ 」
「背の高い、ハーフっぽい男の子だったわ。年は君と同じくらいか、少し上かな・・・  廊下で待っていて、佐緒里ちゃんを呼んでくれって。実はその子昨日も来ていたんだけど、明日来るからまた来なさいって言って帰したのよ」
 佐緒里は一瞬考え込んだが・・・
「ちょっと私、行ってきますね」
 佐緒里はみんなに一礼すると、混雑をすり抜けて会場から廊下に出た。佐緒里は辺りを見回した。廊下は会場を出入りしている客でごった返している。すると、エレベーターの近くのフロアに立っていて、自分の方を見ている背の高い青年が目に入り、その人が手招きしていたので、佐緒里は小走りに駆けて行った。近くまで来て佐緒里はその青年を見上げた。佐緒里の身長は156㎝で、その青年は180㎝近くあり、どこか日本人離れしたハーフのような容姿をしていて、僅かながらカールの面影を持っていたので、佐緒里は思わず胸の高鳴りを感じた。
「赤嶺佐緒里さんですか?」
「そうですけど、あの・・ すみません。私に何かご用ですか?」
「はい。はじめまして。僕は白浜隆志(しろはまたかし)といいます」
 隆志は自分の名を告げると、持っていた紙袋の中から装飾された箱を取り出して開けた。中にあったものを見た佐緒里は、目を丸くした。例の金色の十字架『ゴルト・リヒト』だったのだ。
「あの・・ あなたが何故それを・・・・・ ???」
「やはりこの十字架の事を知っていたんですね。僕の曾々祖父(4代前)がキリスト教の牧師で、明治の時代にキリスト教の伝道のために日本に来て、その時にこの十字架を一緒に持ってきたのだと、僕の父が言っていました。その曾々祖父の名はアロイス・ヴェルナーといって、そのまま日本に帰化して、自分が最初に伝道した「白浜」という土地の名をとり、白浜の姓を名乗るようになったんです。そして、この十字架は『ゴルト・リヒト』といい、もう一つの『ズィルバー・シャッテン』という十字架とペアになっていて、父があなたに会えば、もう一つの十字架のところにたどり着けるとも言っていました。僕には何のことだかよく分からないんですけど・・・・  こういうものも預かっているんです」
 隆志は持っていたバッグから茶褐色に変色した封筒を出して、佐緒里に差し出した。佐緒里はそれがカールに宛てた手紙だとすぐに分かった。
「(私がカールに渡した手紙だ・・・・・ )」
 佐緒里は目頭が熱くなった。隆志は話を続けた。
「この手紙も代々家に伝わっていたものらしくて、先祖から代々引き継がれてきたらしいんですけど、詳しい事はよく分からないんです。僕の父が赤嶺佐緒里という人に会ったら見せてほしいって、昨年僕に渡してくれたんです。手紙に書かれていた日が昨日の日付で、昨日ここに来たんですけど、主催者のエモトさんが明日来るって言っていたから、今日改めて来たんです」

 この青年、白浜隆志はカールの子孫なのだ。年は佐緒里より一つ下の14歳で、現在中学校の2年生である。
 カールはあれからアルベルトの遺志を継いで神父になった。神父は規則で結婚が出来ないので、カールもアルベルト同様、養子を持った。そして年月が流れて、その末裔は17世紀頃にカトリックからプロテスタントに改宗し、代々牧師の職業を継いできた。そして日本の明治の時代にアロイスが日本へ伝道のため渡航してきて、そのまま日本に帰化して日本人の女性と結婚し、今日に至るわけである。
 隆志は封筒から手紙を出して佐緒里に見せた。手紙は茶褐色に変色していたが、佐緒里の書いた文字はくっきりと残っていた。佐緒里は手紙を隆志に返した。そして無意識のうちに目から涙がポロポロと落ちてきて、涙が止まらなくなった。

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「ど、どうしたんですか? 赤嶺さん」
「ごめんなさい・・・ 何でもないんです。何でも・・・ ないから・・・ 何でもない・・・」
 そう言いながら、佐緒里は自分の真正面にいた隆志に抱きついた。その瞬間、隆志は体全体に電気のようなものが走ったのを感じた。一種の『運命の赤い糸』のような現象だった。隆志の心の奥底に眠っていたカールの魂が復活した瞬間だった。
「あの・・ 赤嶺さん」
 佐緒里は隆志に抱きついていたが、吹っ切ったように隆志から離れた。
「ごめんなさい。初めての人にこんなことしてしまって・・・・ でも、何だかあなたが初めて会った人じゃないような気がしたんです。なんて言ったらいいのか・・・・ 変な話だけど、私の前世で出会った恋人のような気がしたんです」
「実は僕もなんです。赤嶺さんに抱きつかれた瞬間に、そんな感じがして、赤嶺さん、いや佐緒里さんが僕の生涯の人のように思えて・・・ こんな事言ったら失礼ですよね」
「いいんです。全然そんな事無いです。あの・・ あなたさえ良かったら、私とお付き合いしてもらえますか?」
「勿論ですよ! 是非僕とお付き合いしてください」
 突然のお互いの告白の会話に、二人ともそのあとはお互い黙ってしまった。暫しの沈黙を破り、隆志が話しかけた。
「僕はS県の城間という所に住んでいて、現在城間中学校の2年生です」
 佐緒里はビックリした顔で隆志を見た。
「(年下だったのか・・・ 高校生だと思った)  城間市だったら、私の隣の市ですよ」
「え? そうなんだ」
「私は鷲尾平です。今、鷲尾平一中の3年生です」
 佐緒里は右手を差し出した。隆志もつられて右手を出し、二人は握手した。そこへ美紀子がやってきた。
「あらあら・・・ こんな所で・・・ みんなあなたが戻ってこないから心配していたわよ」
「叔母様」
「佐緒里がなかなか戻ってこないから、様子を見に来たのよ。さっきから遠目で見ていたけど、二人ともなかなかお似合いのカップルに見えたわよ」
 佐緒里は顔を真っ赤にし、隆志も照れ臭そうな仕草を見せた。
「あ・・ 隆志さん、いや隆志君。この人は私の叔母で、紅林美紀子といいます。私は小学校の時に両親を亡くしているので、今は叔母の元で暮らしているんです」
「そうだったんですか・・・・」
「叔母様。この人は白浜隆志君」
 隆志は美紀子に会釈してから、美紀子に聞いた。
「ところで紅林って・・ もしかして城北大学の教授ですか?」
「あら、私を知っているの?」
「はい。父が城北大の卒業生で、よく話を聞くんです」
「あーっ・・ 君はもしかして私の先輩だった、白浜隆徳さんの・・・ 」
「はい。僕はその息子の隆志といいます。佐緒里さんとお付き合いしたいので、よろしくお願いします」
「佐緒里が選んだ人なら間違い無い。良いわよ」
「ありがとうございます」
「隆志君。色々と話したい事もあると思うけど、まず展示会へ行きましょう。私が案内するわ」
「はい」
 佐緒里は隆志の腕に自分の腕を絡めて腕を組んだ。隆志は少し顔を赤くした。そして佐緒里は隆志と一緒に、展示会の会場へと向かって歩き出した。

 (おわり)



*****************




あとがき

『冒険少女佐緒里』無事完結しました。当初は自作の小説『10年目の回帰』の原作者である、カルシファー様の『囚われた少女』をモデルにした、魔女狩りとDIDをテーマにした作品でしたが、ストーリーの進行とともに、ファンタジー、ミステリー、またまた荒唐無稽といったスタイルに変わって、最後は男女の甘い恋の芽生えチックな形という終わり方をしました。
 タイムスリップのスタイルは、バック・トゥ・ザ・フユーチャーのアレンジを使用し、また魔女狩りがテーマの一つだったので、宗教的表現も入れ、キャラクターに宗教関係者を使うという選択をしました。気象現象や、温泉といったものをストーリーに使ったのは、中世の人々の感覚だと、それらが悪魔のようなものに見えるのではないか、という自分の見解からです。それは違うんじゃないか・・ という人もいるかもしれませんが、今の自分の知識ではこれが精一杯なので、指摘されても本編を書き直すということはしません。また、歴史上の都市名(コンスタンチノープル)や、歴史上の人物(マゼランやマルコ・ポーロ)。さらにジパングという名も使用しています。

 なお、佐緒里ちゃんと隆志君のこれからの事は、小説にはしませんので、皆様のご想像にお任せするという事で、結論に代えたいと思います。

 また、多分いないとは思いますが、イラストや小説で二次創作御希望の方がおりましたら、申し出てくだされば(無断はダメよ)ジャンルやシチュエーションに関係なく(ただしR-18Gはダメ)許可しますので、よろしくお願いします。

 最後まで読んでくださった方、また途中でも読んでくださった方々には、多大な感謝をいたします。読んでくださってどうもありがとうございました。

 鷲尾飛鳥



テーマ : ライトノベル
ジャンル : 小説・文学

特別編『冒険少女 佐緒里3 』

2015年 11月06日 22:35 (金)

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 まえがき

 この小説は最初はDIDをテーマとしていましたが、ストーリーが進むにつれて、ファンタジーやミステリー及び荒唐無稽のスタイルに変わってきています。第一部から順番に読んでいくと、そんな感じに変わっているのが見えてくるかもしれません。
また、自分のシチュエーションは、本作品を含めて、これまでの作品の内容にあるように、昭和の時代の少年少女漫画と、特撮にあった全ての要素をベースとしていますので、今後もそのスタイルを通していくつもりです。

  
  *******************************************
  
  目次
  
  ACT.13 十字架の秘密
  ACT.14 佐緒里の一日
  ACT.15 実験??
  ACT.16 怪物の正体?
  ACT.17 新たな試練
  
  
  
  
 それでは第3部スタートです。今回は第2部の最後から繋がっています。
 第1部と第2部に比べて、佐緒里ちゃんの拘束のシーンが激減(無くなった)したので、拘束好きの方々や、拘束萌えの方々には物足りないかもしれません。その代わりに、過去の事件でのシーンでの拘束と拷問のイラストを挿絵として入れています。一応全年齢対称なので、流血やグロ表現は避けています。
  今回は、いよいよ佐緒里ちゃんのタイムスリップの原因(?)と、過去に牢獄で起きた或る事件の内容が解明されます。
  佐緒里ちゃんは果たして21世紀の世界へ帰れるのか・・・・
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
 ACT.13 十字架の秘密

 審問の席で、佐緒里の目の前に置かれた二つの十字架・・・・  それはまさに、佐緒里があの時見たものと同一のものだった。タイムスリップした時に佐緒里の手に握られていた銀の十字架が何故・・ ここにあるのか・・・ そしてその二つの十字架が、佐緒里のこれからの運命を位置づけるということを、今の佐緒里にはまだ知る由も無かった。

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 佐緒里が呆然としていると、神父が話しかけた。
「サオリ。この十字架は我がヴェルナー家に代々伝わるものだ。金の十字架は『ゴルト・リヒト』、銀の十字架は『ズィルバー・シャッテン』と名付けられている。そしてお前の前にあるその本に、この十字架の事について書かれている。大まかに言うと、金色の十字架は『光』の象徴、銀色の十字架は『影』の象徴となっている。他にも色々な説があるようだが、お前ならばその本を読破できるだろう」

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「ありがとうございます。神父様」
「そこでお前に改めて聞きたいことがある。それはお前がこの世界に来た経緯・・ というより、お前の話からすると、送り込まれたといったほうがいいか・・・ 。確か強い光に包まれたと言っていたな?」
「ハイ。西日が金の十字架にあたって、その光が跳ね返って銀の十字架にあたって、銀の十字架が強い光を発したんです。その時あまりの眩しさにそこにある銀の十字架をつかんでしまい、自分の体が光に包まれたところまでは覚えているんですけど、気がついたときには、前にお話したとおり、村の倉庫にいたんです」
 神父は佐緒里の話を聞き、羊皮紙にメモをしながら言った。
「サオリ。不自然な点が一つある。お前が今言っていた十字架は、二つともここにある。それなのに何故、お前の世界にあったというのか? しかもお前はこの世界に飛ばされた時、この銀の十字架をつかんでいたと言ったな。それなのに何故ここにあるのだ」
 神父は銀の十字架を持って佐緒里に突きつけた。
「それは分かりません。私が持っていた銀の十字架は、私がこの世界に来た時、消えてしまったんです」
「消えた?」
「本当なんです。信じてください」
「ならば質問を変えよう。ここにある十字架が、何故お前の世界にあった・・・ いや、あるのだ?」
「私の知っているところでは、海賊によって略奪された財宝の一部が、私の国の誰かに贈呈され、その贈呈された財宝の中にそこにある二つの十字架があったんです。でも、誰に贈呈されたのかは分からないです。そして、見つかった財宝の展示会が開かれて、そこの十字架も一緒に展示されたんです」
 神父は佐緒里の話を、目を瞑って黙って聞いていた。そして佐緒里の話が終わると、目を見開いて佐緒里を見た。
「海賊によって略奪・・・ そしてお前の国ジパングに贈られた・・・ 。しかし、わざわざ海賊どもがこんな山奥の田舎まで来るというのか。来世の事を知るということは、神への冒涜だといったが・・・ この話は聞き捨てならんな」
 神父は一呼吸置いてから佐緒里に話しかけた。
「サオリ。お前の力で、この十字架のたどる運命を知る事が出来るか?」
「私の力では無理です。ただ・・ 」
「ただ・・ 何だ? 言ってみろ」
「これは私の想定ですが、神父様の子孫の代になると、恐らく海が近い場所へ移ってそこで生活し、その時に海賊によって盗まれたということではないでしょうか。つまり今のこの世界から見て、未来の時代ということです。でもその時期が何時なのかは、私では分かりません」
「んー・・・ お前の言っている事は、考えられない事ではないな・・・ 私はコンスタンチノープルという所で生まれ育った。サオリ。コンスタンチノープルという街を知っているか?」
「はい。私たちの世界では、イスタンブールと呼ばれている所です」
「お前の時代、いや世界ではそう呼ぶのか。ならば話し易い。私は神父になってからは、ローマ教皇庁の指令であちこちの土地を転々としてきた。そしてこのドルフ村に赴任したのが、いまから1年位前。いずれはまた教皇庁の指令で、別の場所へ行かねばならないだろう」
 神父はそこまで言うと立ち上がった。
「サオリ。十字架を奪った海賊の事は分かるか?」
「はい。私の時代の文献では、キャプテン・プランドラーと書かれていました。その海賊は、18世紀に世界中の海を荒らしまわったと聞いています」
「18世紀?」
「はい。私が分かるのはそこまでです。私の時代が21世紀なんですが、今のこの世界が何世紀なのかを知る手立てがありません」
 佐緒里は周りの雰囲気から、今のこの世界、つまり自分のいる場所が中世のヨーロッパの某所で、時代は凡そ1400年代か1500年代ではないかと思っていた。だが、佐緒里の知識では具体的な時期までは換算することは出来なかった。
「そうだ。神父様。どんな事でもいいですから、最近起こった出来事をご存知ですか?」
「出来事?」
「はい。どんな事でもいいです。何かが分かれば、私の時代と今の時代の年代の差を割り出す事が出来ます」
 神父は考え込んでいたが、何かを思い出したかのように言った。
「お前・・・ マゼランを知っているか?」
「船で世界一周を達成した、あのマゼランですか? 知っています。でも、マゼラン本人は世界一周の途中で立ち寄った場所の原住民によって殺されたんです。確か・・ その場所はフィリピンだったはず」
「ほう・・ そこまで知っていたか。そのマゼランが世界一周に旅立って、船が戻ってきたのが、今から30年位前のことだ。お前がいったように、マゼランは途中で死んでしまい、最後まで生き残って帰ってきたのは、船一隻と水夫がたったの18人だったという。まあ・・・ 大変な船旅だったというわけだ。実は私の友人が、そのマゼランが船団を率いて航海に出発した時、その船団の中の一隻の船の乗組員として参加していたんだ」
「そうだったんですか」
「だが、その友人が乗った船は、何かの事情で途中で引き返してしまい、世界一周はしていないし、友人も無事に帰ってきた。どうだ? 今の話で何か分かったか?」
「大体ですけど、今のこの時代は16世紀の中ごろだと思います。プランドラーが現れるのは、今言ったように18世紀。つまり今から200年位後ということです」
「すると、1世紀というのは100年を表すんだな?」
「そうです」
「16世紀・・・ 21世紀・・・・ 」
 そこまで言いかけて、神父は大きな声で言った。
「そうか!! 分かったぞ」
 神父は銀の十字架を手に取ると、佐緒里の傍へ来て、佐緒里に十字架を持たせ、その上から両手で佐緒里の手を握りしめた。佐緒里は少し顔を赤くしながら、神父の顔をマジマジと見た。
「サオリ。お前の手から十字架が消えたわけが分かった。これは私の仮設だが、お前がこの世界に飛ばされた時、十字架はふたつともここにあった。だから、お前が手にしていた十字架が消えたんだ。どう表現したらいいのかは分からんが、同じ物は同じ時代には存在しないという事だ。この十字架が持つ秘密は、他にも色々あるようだが、お前はこの十字架がもたらした作用で、この世界に飛ばされてきた。だからお前がここへ来た時と同じようにすれば、お前はお前の世界に帰る事が出来るかもしれない。まあ、とにかくこの本を読んでみることだ。よし。今日の審問はこれで終わりだ。部屋へ戻りなさい」
 神父は部屋の隅にいたカールを促し、カールは佐緒里をつれて部屋から出た。佐緒里の手には、神父から借りた本が抱えられていた。

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   ***************

 ACT.14 佐緒里の一日

 朝が来て日差しが差し込み、佐緒里は目を覚ますと、起き上がって伸びをしてから深呼吸した。佐緒里は窓際へいって、衝立を上げた。晴れているとはいえ、冬が近づいているせいか、冷たい風が部屋の中に入ってきて、チアガールの恰好をしていた佐緒里は、思わず体を竦めた。この世界に来てからというもの、佐緒里は体操服やチアガールのユニホームを、寝巻き代わりに使っていたのだ。
「ふーっ・・・ 寒い・・・ もうノースリーブはだめだなぁ・・・ 」
 佐緒里は窓から離れると、ベッドの上に腰を下ろした。既に足枷は嵌められていなかったので、部屋の中を自由に歩き回る事が出来ていた。

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「(この世界へ来て一ヶ月が過ぎてしまった・・・ いつになったら未来に帰れるんだろう・・・ 叔母様やみんなに会いたい・・・  )」
 佐緒里は泣き顔になった。普段は気丈に振舞っていたものの、一人でいるときは、寂しさのあまり泣いている事があったのだ。その時鍵が開けられる音がして、佐緒里は吹っ切ったように立ち上がった。扉が開いて、ハンスが食事を持って入ってきた。
「よう。おはよう」
「お、おはようございます。あら、今日はハンスさんが当番なんですか?」
「ああ。カールのやつ寝込んじまってよ。今日は俺が当番だよ」
「寝込んだ・・・ って、どうしたんですか?」
「風邪でもひいたんだろ? 昨日の晩、結構冷え込んだからな。おめえも気ぃつけろよ。お、俺も何だか変だ・・ふぁ・・ ファーックショーン!」
 ハンスは大きなくしゃみをした。それを聞いて佐緒里も体をブルブルっとさせた。
「おい。サオリ。その恰好じゃお前まで風邪引いちまうぞ。食事置いていくから、食う前に着替えた方がいいぞ」
 ハンスはそう言うと、カートを置いたまま部屋から出て行って扉を閉めた。扉越しにまたハンスの大きなくしゃみが聞こえてきた。佐緒里はチアガールのユニホームを脱ぐと、壁にかけてあった服を手に取った。そこへ急に扉が開き、ハンスが再び入ってきた。
「いけねえいけねえ・・ カート忘れたよ・・ って・・ 」
 ハンスは着替え中の佐緒里と鉢合わせして、佐緒里の下着姿をまともに見てしまった。
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しばしの沈黙の後・・・・・・
「キァアーッ!!」
 佐緒里は思わず大声を上げてその場にしゃがみ込み、ハンスは慌てて佐緒里に背を向けた。
「ハンスさん。部屋に入るときはノックぐらいするものよ。鍵がかかってなかったらなおさらよ」
「ご、ゴメン。悪かった。カート忘れたもんだから・・・ ハックション!!」
 佐緒里は背を向けているハンスに近寄った。
「ハンスさん。もうこっち向いて良いですよ」
 ハンスは恐る恐る佐緒里の方を向いた。佐緒里はまだ下着姿で服を持ったままだったので、ハンスは両手で顔を隠した。
「もういいです。見られたものは仕方がありません。それより、カートはあとで私が持っていきますから、早く自分の部屋へ戻って暖かくした方が良いですよ」
「そ、そうか・・・ 分かった。裸見て悪かった。それじゃ鍵は開けておくからな。 は・・ は・・ ハーックション!!」
 ハンスはあたふたと部屋を出て行った。気がつくと佐緒里の腕や脚には鳥肌が立っていて、佐緒里は体をブルブルと震わせた。
「このままじゃ私まで変になりそうだわ・・・ 」
 そう呟きながら。佐緒里は急いで服を着ると、椅子に座って食事を始めた。カールから貰った服は結構暖かかったので、佐緒里はカールに頼んで二着貰って、交互に着ていた。

      **************

 食事が終わり、佐緒里はリュックの横のポケットを開けて、小型のケースを出し、蓋を開けて中から薬の小瓶を出してから、自分の額に手をあてた。
「熱は無いみたいだけど・・・ とにかく薬を飲んでおいた方が良さそうね」
 佐緒里は薬を一錠口の中に入れると、テーブルの上にあるポットの水を飲んだ。
 それから佐緒里は薬の小瓶を見た。
「まだある・・・ これだったらハンスさんとカールにも分けてあげられるわ。今の時代の人たちは抗生物質を知らないから、風邪ならこの薬が効くかもしれない」
 佐緒里が持っていたのはごく普通の風邪薬だった。以前風邪を引いたとき、学校で飲むために、瓶ごと自分のリュックの中に入れっぱなしにしていたのだが、それが思わぬところで役立った。
「それと・・・ 叔母様から貰った解毒剤とビタミン剤があった・・・ 」
 佐緒里は自分が使った食器とともに、薬の入ったケースをカートの上に乗せ、部屋の扉を開けて廊下に出た。そこへハンスがやってきた。さっきと比べて顔色が悪いのが、佐緒里にははっきりとわかった。
「悪いな。後は俺が運ぶから」
「ダメ! ハンスさん。顔が真っ青だよ。まずハンスさんの部屋に案内してください」
 佐緒里の迫力と威圧感に、ハンスは思わず後退りした。
「わ、分かった」
 そういうとハンスは佐緒里に背を向けて歩き出し、佐緒里はその後をついていった。部屋について扉を開けると、佐緒里も続いて入った。
「すぐに横になってください。早くして!!」
 ハンスは言われるままにベッドに横になった。佐緒里はハンスの額に手をあてた。
「熱がある・・・ ハンスさん。他に何か感じる事はありますか? たとえば体が痛いとか、寒気がするとか」
「体は痛くねえけど、寒気がする・・・ うう・・・ 」
 佐緒里はケースから風邪薬とビタミン剤を出した。
「これを飲んでください。私の世界にある薬です。もし風邪ならば必ず効きます」
「お、おう」
 ハンスは佐緒里から貰った薬を水と一緒に飲み込んだ。
「とにかく今日一日は絶対安静ですよ。今日の夜の食事は私が作りますから、この牢獄の台所と洗い場を教えてください」
 佐緒里はハンスから台所と洗い場を聞き出すと、続いてカールの部屋を聞いた。
「カールは隣の部屋だ。それと、神父様は昨日の夕方から隣の町へ出かけていて留守なんだ。帰りは明日の昼頃だって言ってた。だから今日のお前の審問は無しだ」
「わかりました。それじゃハンスさん。私の言う通りにして、ゆっくり休んでください。いいですね?」
「わ、分かった。すまねえな。サオリ」
 佐緒里はハンスの部屋を出ると、隣のカールの部屋をノックしてから扉を開けて中に入った。カールはベッドに横になってうんうんうなっていた。
「カール。だいじょうぶ? 具合はどう?」
「さ、寒い・・・  頭が痛い」
「カール。私の方を向いて」
 佐緒里の方を向いたカールは、顔を真っ赤にしていた。佐緒里はハンスにしたように、カールの額に手をあてた。
「ヤバイ。すごい熱・・・ カール。口開けて」
「(叔母様の解毒剤も飲ませた方がいいわ・・) カール。これを飲んで」
 佐緒里は風邪薬とビタミン剤。そして叔母の美紀子から貰った解毒剤をカールの目の前に差し出した。
「それは何?」
「薬よ。風邪ならば必ず効くから、飲んで」
 佐緒里はカールの口の中に薬を入れると、ポットの水を飲ませた。
「カートを片付けて食器を洗ったらまた来るから」
 佐緒里はカールの部屋を出ると、カートを押して台所へと向かった。

     **************

「洗い場はこっちだったわね・・・ 」
 佐緒里は牢獄の裏手にある道を歩いて、川の傍まで来ると、みんなの分の食器を洗い始めた。
「しかし、この川の水は結構温かい。体を洗った時に感じたけど、真夏のプールに入ったときみたいな感じだった。何故こんなに温度が高いんだろう・・・ 」
 洗い終わって立ち上がったとき、風が吹き抜けてきて、佐緒里は鼻にツンとするような臭いを感じた。
「何だろう、この臭い」
 佐緒里は辺りを見回した。
「川の上流の方からだ。何だか硫黄みたいな臭いだわ」
 佐緒里は上流へ歩き出そうとしたが、みんなの食器が目に入り、行くのをやめて、食器を持って牢獄の建物へと戻っていった。時刻は既に昼近くになっていた。
「ハンスさんが回復したら聞いてみよう。あの人なら何か知ってるかもしれない」

 佐緒里は食器とカートを所定の場所に片付け、再びカールの部屋へ向かった。扉を開けて中に入ると、カールは気持ち良さそうに寝ていた。佐緒里はカールの額に手を触れてみた。
「もう熱が下がっている・・・ 叔母様の解毒剤の効き目はすごいわ」
 佐緒里は部屋から出ると、今度はハンスの部屋へ行き、扉を開けた。ハンスは何事も無かったかのように起きていて、ベッドに腰掛けていた。
「ハンスさん。寝てなきゃダメだって言ったのに」
「悪い悪い。でもよぉ・・ お前の薬飲んだら、何だか知らねえけど、すっかり良くなっちまったんだよ。お前がくれた薬ってすげえ効き目だな。これって魔法の薬なのかい?」
「いいえ違います。私の世界では当たり前のようにあるものです」
「そうか・・・ ところでカールはどうした?」
「まだ寝ています。でも熱は下がっているわ」
「お前はだいじょうぶなのか?」
「私も薬飲んだから。それよりハンスさんに聞きたいことがあるの」
「何だ?」
 佐緒里は部屋にある椅子に座った。
「川の上流の方から変な臭いがしたのよ。何だか硫黄のような・・ 」
「イオー? 何だいそりゃ? たしかに時々変な臭いはするけど、それがお前の言うイオーってやつなのか。サオリ。川の上流へは行っちゃダメだぞ。この前お前がやっつけた悪魔よりも、もっと恐ろしい怪物がいるんだ」
「怪物・・・ どんなやつがいるんですか?」
「姿を見た者は誰もいねえんだけど、白い湯気の中から黄色い臭い煙を勢いよく吐き出して、人を威嚇するんだ。それに周辺には黄色い色をした燃える岩や、煮えたぎった熱湯の湧き出す泉がたくさんあって、昔そこへ落ちた者があっという間に全身に火傷して死んじまったことがあるんだよ。そして熱湯の一部は、この牢獄の裏にあるドルフ川に流れ込んでいるから、ドルフ川の水は年中暖かくて、冬でも凍らねえんだ」

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「そうか。それで川の水の温度が高かったのね。すると黄色い石は硫黄で、熱湯の泉は、もしかして温泉・・・・」
「何だサオリ。イオーだのオンセンだのって、一体何なんだ」
「ハンスさん。今度案内してくれますか? 私がその怪物の正体を突き止めてあげるわ」
「おいおい・・ あんな恐ろしい場所、勘弁してくれよ」
「大丈夫! 私がついています。私は魔女なんだから、怪物くらい平気ですよ」
「そ、そうだったな。お前魔女だったんだな。分かった。今度案内してやるよ」
「ありがとう。それから、もう一つ聞いて良いですか?」

「今度は何が聞きたいんだ?」
「以前神父様やカールが言っていた、この牢獄での事件の事です。神父様に聞いたんだけど、神父様とカールはその時この村にいなかったから、事件の事を詳しくは知らないんです。知りたかったらハンスさんに聞けと言われました」
 ハンスは表情を曇らせた。ハンスはその事件の当事者であるばかりでなく、事件の時のただ一人の生き証人だったのだ。ハンスは出来る事ならば話したくなかったが、佐緒里の真剣な目を見て、話す事にした。
「分かった・・・・・ お前も知っておいた方が良いかもしれんな」
 ハンスはゆっくりと話し始めた。
 ハンスが言うには、この牢獄は元々は城として使われていたもので、城が出来たのは今からおよそ300年前の12世紀頃。当時は周辺で頻繁に戦争があったので、城はドルフ村を含めた周辺の町や村の防衛の役割を担っていた。しかし戦争が無くなって長く平和な時代を経て、城はその役割を終え、駐留していた兵たちも全て引き揚げていって、城は廃墟同然になった。だが、15世紀になって、今度はヨーロッパの各地で魔女狩りの嵐が吹き荒れ、このドルフ村周辺にもその影響が波及してきた。そこで廃墟になった城が修築されて、今度は周辺で捕えられた魔女を収監するための牢獄として使われることになったが、周りでの魔女騒ぎをよそに、この界隈では魔女狩りは行われず、牢獄には一般の囚人を収監していた(しかし収監される囚人は殆どいなかった)。
ところが、今から2年ほど前に、アルベルト神父の前任者の神父がドルフ村に着任してから様相が変わった。先代の神父は魔女に対する憎悪の塊のような人物で、一緒に連れてきた自分の手下二人を看守として使い、ドルフ村の住人たちの中からも看守を半ば強制的に集めて、牢獄に勤めさせた。その中の一人がハンスだったわけである。
 神父は大掛かりな魔女狩りを行い、ドルフ村のみならず、周辺の町や村に住む若い女性や少女たち、また年端も行かないような幼い子供までも、魔女の嫌疑をかけて次々と捕え、地下牢に鉄の鎖でつないで監禁し、執拗かつ凄まじい拷問にかけた。牢獄からは昼夜を問わず、女性たちの泣き叫ぶ悲鳴や嗚咽が聞こえ、捕えられた女性の7割近くが、処刑される前に拷問で命を落とし、自白した者は村の広場で次々と火炙りになった。

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 そして、ついに一年前に事件が起きた。その時収監されていた女性は、少女を含めて6人。拷問で苦しむ女性の絶叫と悲鳴に酔い、感覚が麻痺してしまっていた神父は、看守の一人と一緒に少女を鞭打っていたとき、煮えたぎった油の入った釜を、興奮のあまり蹴り倒してしまったのだ。油は拷問部屋の床に流れ出して、蝋燭の火が油に燃え移り、たちどころに部屋全体が紅蓮の炎に包まれた。鎖でつながれて吊るされていた少女は即死し、居合わせた看守たちもその側杖を食って全員焼死。神父も油塗れの衣服に火がついて、全身火だるまになって絶命した。さらに火のついた油が廊下に流れ出し、拷問部屋のあった階層全体が炎に包まれて、上の階層にあった地下牢にも煙が充満し、鎖でつながれて監禁されていた女性たちや、他の看守達も全員煙にまかれて窒息死した。助かったのはその時外に出ていたハンスだけだった。ハンスが異変に気付いて、村の人たちを呼んで連れて来た時には、既に牢獄の到る所から煙が出ていて、手がつけられない状態だった。幸いな事に被害は地下の部分だけで、地上の居住区は無事だった。
 この事件をきっかけに、ローマ法王庁の査察が村に入り、村人たちの証言から神父の行いが全て明るみになった。焼死した神父は悪行に対する天罰が下ったものと断定され、その資格と権限を全て剥奪されて、単なる犯罪者として処分された。唯一の生き残りであったハンスは、神父によって無理矢理看守にされたという経緯があり、村人たちの助命嘆願もあって死刑は免れた。拷問部屋のあった牢獄の最下層は完全に埋められて使用不能になり、地下牢も半分ほどが埋められた。そして、事件の全容を重く見た枢機卿は、ドルフ村を含めた周辺の地域における魔女狩りを全面的に禁止するという処断を下した。そしてその後に村に赴任したのがアルベルト神父だったわけである。以上がハンスの話だった。

「そんな事があったんですか・・・ それで村には女性の姿があまり無かったのね」
「ああ・・ もう思い出したくもないよ」
「ごめんなさいハンスさん。こんな事聞いてはいけなかったんですね」
 佐緒里の声は涙声になっていた。
「おいおい・・ 何でお前が泣くんだよ」
 佐緒里は泣いていた。そしてそのままハンスに縋るように抱きついた。
「ど、どうしたんだよサオリ (いいのかなぁ・・・)」
「帰りたい・・・ 」
「え? 何だって? サオリ」
「帰りたい! 帰りたいよぉ・・」
 佐緒里はそう言いながら、ハンスに抱きついたまま泣いていた。佐緒里の心中を察したハンスは、自分も佐緒里を抱きしめた。佐緒里の身体の柔らかい感触がハンスに伝わってくる。
「サオリ。もう泣くな。帰れるよ。絶対に帰れるから」
「うっ・・ うっ・ 」
「信じろ! 帰れるって信じるんだ。神父様も言っていけど、奇跡は必ず起きる。今の俺にはそれしか言えねえけどよ、今は信じるしかねえんだよ。だからもう泣くな」
「ありがとう・・・・ ぐすっ・・・ う・・」
 佐緒里はハンスから離れると、涙を拭って窓の方を見た。既に日が落ちかかっている。
「いけない・・・ もう夕方だわ。みんなの食事を作らないと」
 佐緒里はふっ切れたように立ち上がると、部屋から出て行こうとした。
「おい。サオリ。俺も手伝うよ」
 佐緒里はハンスの方を振り返った。
「も、もう大丈夫だよ」
「分かった。じゃお願い」

 その日の夕食は、佐緒里が作った野菜のシチューだった。まだ回復していないカールには、食べやすいように野菜を細切れにした。佐緒里とハンスはカールの部屋で一緒に食事をしていた。
「美味い・・・・ サオリは料理の才能もあるんだな」
「美味しい・・ こんなの食べたの久しぶりだよ」
「そう言ってもらえるだけでも嬉しいです」

「ごちそうさん」
「ご馳走様。美味しかったよ」
「おそまつさま」
 佐緒里は食器をカートに乗せると、部屋を出て台所へ向かった。ハンスが蝋燭を持って一緒に歩いた。
「サオリ。食器は明日の朝のものと一緒に洗うから、台所に置いたら、部屋に戻っていいぞ」
「はい」

 部屋に戻った佐緒里は、蝋燭の明かりをたよりに、神父から借りた本を読んでいた。
「確かに・・ 私がエモトさんから預かった冊子と同じ事が書かれている。あの十字架は、金色の方が媒体となって、銀色の方に作用するんだわ。つまり金色の十字架に太陽の光があたると、反射して銀色の十字架に光が吸収され、十字架が光を帯びて・・・  この本には時空を超越すると書かれている。時空を超越、つまりタイムスリップという事か。また、その光は太陽の光と同じ強さならば、太陽でなくとも良いとも書かれている・・・・ 太陽の光か。確かタイムスリップした時は西日があたったんだわ」
 佐緒里はそこで一つため息を突き、あくびをした。
「さてと・・・ もう寝るか・・・ 」
 佐緒里は体操着に着替えた。寒そうなので上はジャージを羽織り、蝋燭の火を消してベッドに横になって毛布を被った。こうして佐緒里の一日が終わろうとしていた。

  **************

 ACT.15 実験??

「ほう・・ ドルフ川の上流に怪物がいる?」
 神父はハンスの話を半信半疑で聞いていた。
「俺がサオリに話したら、サオリが正体を突き止めるって言ってました」
 神父は佐緒里の方を見た。
「神父様。私が思うには、きっとこの前の悪魔の正体と、大して変わらないものだと思うんです」
「ハンス、ドルフ川の上流は、村の掟では『禁断の場所』ではなかったのか?」
「確かにそうです神父様。村ではそのように昔から言い伝えられています。それは今まであそこへ往った者で、生きて村に帰ってきた奴がいないからなんです。といっても恐ろしさのあまり、ここ数年は誰も足を踏み入れていませんけど・・・・ それに禁断の場所はいうものの、危険だから近づくなという事で、絶対に入ってはいけないってわけではないんです」
「分かった・・・・ この件は少し考えさせてくれ」
 神父はそう言うと、今度は佐緒里に話しかけた。佐緒里の前には例の本が置かれている。
「佐緒里。本は読んだか?」
「はい。全部読みました」
「私も何度か読んでいるんだが、太陽の光の作用によって、十字架の機能が働くみたいだ。お前がこの世界に飛ばされたのも、それが原因だとはっきり分かった。だから一度実験してみようではないか」

 それから一時間後・・・
 佐緒里は神父、ハンスとともに牢獄の屋上に立っていた。神父は金の十字架を持ち、銀の十字架は屋上の床に置いた中型の木箱の前に置かれていた。
「よし。実験だ。十字架を太陽に向けるぞ」
 神父が十字架を翳すと、太陽の光が十字架にあたり、神父は反射した光が銀の十字架にあたるように角度を変えた。反射光は銀の十字架にあたって、後ろにあった木箱が光に包まれて消えた。と思ったら、数秒後には再びその場所に現れた。神父は銀の十字架を拾うと、佐緒里の方へ歩み寄り、佐緒里に十字架を持たせて言った。
「サオリの言っていた事が本当ならば、あの木箱は消えて別の時代か世界へと飛ばされているはずだ。実験してみたら確かに木箱は消えた。だが、すぐに現れてここに戻ってきた。サオリ。どう思う? お前の考えを聞かせてくれ」
「私が思うには、光の強さの違いだと思います。確かに木箱は消えましたから、多分消えている間は別の世界にあったのでしょう。しかし、光の強さが弱かったために、再びこの世界へ戻ってきたんだと思うんです」
 佐緒里はハンスの方を向いた。
「ハンスさん。ずっと成り行きを眺めていたけど、光が眩しくなかったんですか?」
「ああ・・ 眩しくはなかったぜ」
「なるほど・・・ 私にも眩しさは感じられなかった。サオリが言うように、光の強さなのかもしれんな」
「光が弱いということは、つまり太陽の関係だと思うんです。私がタイムスリップしたときの光と、今の光では、太陽の光の強さが全然違うんです」
「そうか・・・  それでは太陽の光では、お前を帰すことが出来ないという事か・・・ 」
 佐緒里はガッカリしたように項垂れて、その場に座り込んだ。目からは涙があふれ出てきた。それを見た神父が佐緒里を叱咤した。

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「サオリ! 諦めるのはまだ早いぞ。お前がそんな事でどうするんだ」
 神父はさらに続けた。
「きっと奇跡は起こる。そうだ! 太陽がダメなら、何か他の方法を考えようじゃないか。まだ方法や可能性が無くなったわけじゃないんだ。絶対に諦めるな」
「はい・・・ 」
 佐緒里はゆっくりと立ち上がり、ハンスが佐緒里の背中を軽くポンと叩いた。

  **************

  ACT.16 怪物の正体?

 それから二日が経過した。風邪で寝込んでいたカールは、佐緒里が持っていた薬のおかげですっかり完治し、元気な姿を佐緒里の前に現していた。
「サオリありがとう。おかげですっかり良くなったよ」
 サオリとカールは牢獄の建物の前にある広場にいた。ドルフ川上流にいると言われている怪物の件で考えていたアルベルト神父は、佐緒里を使って正体を確かめさせる事に決めた。自分が村に赴任している間に、出来る限り村の厄介事や、村に存在する変な言い伝えを全て払拭しておきたかったからである。ちなみに一年前に起こった牢獄の事件の時も、アルベルトは自分の先輩でもある、法王庁の枢機卿の指令でこの村に赴任し、事件の後始末をしたのであった。
 佐緒里とカールが話していると、神父がハンスと一緒に馬に乗ってやってきた。ハンスは佐緒里の傍まで来ると、馬から降りて佐緒里に話しかけた。
「サオリ。本当に行くのか? 後悔していないか?」
「はい。行かせてください!」
 そこで神父が口を開いた。
「よし。それじゃ行くか」
 神父は馬を歩かせ、ハンスも再び馬に乗って、佐緒里とカールに言った。
「お前たち二人はサオリの『魔法のほうき』に乗って来い」
 佐緒里とカールはお互いの顔を見合った。
「魔法のほうき・・・・ か・・・・ 」
 佐緒里は少し笑いながら右手を上げると、スティックを出して巨大化させ、地上から高さ60センチくらいのところに浮かせると、その上に座った。
「カール。乗って」
「お、おう・・ 」
 カールは言われるままに、佐緒里の後ろに座って跨ると、両手で佐緒里を抱擁するように、佐緒里の腰につかまった。
「行くよ。低く飛ぶから、怖がらなくていいからね」
「分かった。飛ばしていいよ。サオリ」
 佐緒里は2メートルくらいの高さまでスティックを浮かせると、そのままゆっくりと前に滑るように進め、自転車並みの時速20kmくらいの速度で飛ばした。
 場所を知っているハンスを先頭に、その後ろを佐緒里とカールが続き、殿を神父がつとめて、一行はドルフ川の上流へと向かっていた。硫黄の臭いが次第に強くなり、ついに一行は水蒸気のような煙が吹き出ているのが見える所までやってきて、ハンスが振り返って叫んだ。
「サオリ。あれだ」
 佐緒里はスティックを止めて高度を下げた。
「カール。降りて」
 佐緒里はカールを降ろすと、自分も降りてスティックを剣に変えて、みんなの前に出ると、煙が出ている方向へとゆっくり歩いていった。

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「サオリのやつ・・ 堂々と歩いていくけど、怖くねえのかよ」
「ハンス。恐らくサオリには、怪物がどんな物なのかを、薄々感づいているんだ。我々の知識では計り知れなくて解明出来ない事を、サオリには出来るんだよ」
 ハンスはゴクンと生唾を飲みながら、剣を抜いて佐緒里の後ろを歩いていった。カールと神父も続いた。その時シューッという音とともに、水蒸気が吹き上がり、ハンスは思わず身を竦めた。
「お・・ おい・・・ サオリ。に、逃げたかったら、逃げてもいいんだぞ。こ、こんな恐ろしいやつ相手に逃げたって、何も恥なんかじゃねえからな」
 佐緒里は煙が噴出しているところの前で足を止めた。近くにはハンスが言っていた熱湯の泉や、黄色い燃える石がゴロゴロしている。
「やっぱり硫黄だわ。泉は間違いなく温泉。噴き出す煙は間歇泉とは違うけど、地中から噴出している水蒸気・・・ 臭いからして、硫化水素が発生している気配は無い・・・・ それにここならば風の通り道だから、ガスが充満する心配もない・・・・ 硫黄に触れたり、泉に落ちない限り、大丈夫・・・ 」
 佐緒里は何事も無かったような顔をして、自分の後ろにいたハンスのところまで戻ってきた。神父とカールも傍に来た。
「怪物の正体は、私の国ではあちこちにあるものです。黄色い石は硫黄の塊で、熱湯の泉は温泉といいます。そして噴出している煙は、ガスの一種です」
「つまり、サオリがこの前に言ってたように、これも『神』が作り出したものだということか?」
「はい」
「ハンスからも話を聞いているんだが、イオーとかオンセンって一体何なんだ?」
「硫黄は元素・・・ つまり鉱物の一種です。金や銀はご存知だと思うんですけど、硫黄も金や銀に近いものなんです。ただ、金や銀のような使い方は出来ません。私の知っている範囲では、火打石や火薬の材料として使われています」
「ふむ・・ 火薬はあの黄色い石から作り出すのか。それではオンセンとは何だ?」
「完全に知っているわけじゃないですけど、地中から湧き出る熱湯・・・ と思ってください。私たちの国では、温泉のお湯を利用して、風呂として利用したり、物を暖めたりしています」
「フロ・・・ もしかして人間が入っても大丈夫なくらいの温度の湯に浸かるものか?」
「ご存知だったんですか?」
「ああ。東洋では人々がその『フロ』に入る習慣があると聞いた事がある。つまり、そこにある熱湯の泉は、温度が低ければ人が入っても大丈夫だということか」
「そうです。でもここの泉は温度が高いので、ハンスさんが言ったように、入れば火傷して死んでしまうでしょう」
 ハンスとカールは半信半疑で聞いていた。佐緒里の言葉には、自分たちの知識では計り知れないものがあったからだ。佐緒里は川に一番近い泉からあふれた熱湯が、湯気を上げながら水路を伝って川に流れ込んでいるのを見た。川のすぐ傍には澱みがあって、そこに一旦水がたまり、水面からは湯気が上がっていた。佐緒里はそこへ行くと、水の中に手を入れてみた。熱湯は川の水と混ざっていたため、その感覚は、沸いた風呂の温度の感触だった。
「ちょうどいいくらいだ・・・ このくらいなら入っても大丈夫。たまりの大きさといい、深さといい、露天風呂にはもってこいだわ」
「サオリ。何してるの?」
「あ・・ カール。お風呂に使えないかな・・・ って思っていたのよ」
「今言っていたフロのことか?」
「うん」
「サオリの国には、僕達の知らないものがいっぱいあるんだね」
 カールは興味深げに、佐緒里のしている事を眺めていた。

  **************

 翌日・・・・
 ドルフ川の上流にある急造の露天風呂(?) に佐緒里が入っていた。佐緒里は神父に頼みこんで、神父の計らいでここに来る事を許された。しかしある程度自由の身になっているとはいえ、囚人としての立場は変わっていなかったので、随伴人付きである事が条件なのだが、3日に一度くらいは暖かい風呂に入ることが出来るようになった。付き人は殆どカールだったが、興味津々だったカールも佐緒里と交代で露天風呂に入っていた。カールは湯に浸かりながら佐緒里と話をしていた。
「何かすごいいい気分になる・・ 佐緒里の国の人たちが羨ましいよ」
「でも気をつけてね。長く入りすぎると、湯あたりっていって、逆に体を壊してしまうから」

 これは余談であるが、その後神父の方針として、川から離れた奥の方の温泉や、蒸気が吹き出ている場所、そして燃える硫黄がゴロゴロしている場所は、危険なので立入り禁止という措置が取られ、村の広場には川の上流の危険箇所を説明した『お触れ書き』と、川の上流の危険箇所の手前には、『ここから先は危険! 立ち入り禁止!』という看板が立てられ、柵が作られた。このアイデアは佐緒里のものだったが、曖昧だった『禁断の場所』は、これで正式に禁断の場所になったのである。

 ACT.17 新たなる試練

 佐緒里がタイムスリップして二ヶ月が過ぎようとしていた。未だに21世紀に帰る手立ては無かったものの、ある程度は進展しつつあった。それは佐緒里が持つ変身能力だった。スカーレットエンジェルに変身する時の、強い光を利用すれば、十字架の光の強さも充分になるのではないかという、カールの言葉にヒントを得た神父は、早速実験する事にしたのだ。
 佐緒里はカールとハンス。そして神父とともに、牢獄の前の広場にいた。
「いいかサオリ。お前のスカーレット・・ 何とかっていう呪文で発光する光を、この十字架にあてるんだ」
「危険です神父様! そんな至近距離で光をまともに見たら、眩しさのあまり失明してしまうかもしれません」
「大丈夫だ! お前の呪文と同時に目を瞑るから。さあ、早くやりなさい」
「は、はい!」
 佐緒里はポーズをとると、変身の時の言葉を叫んだ。
「スカーレットスパーク・エンジェルチャージ!」
 佐緒里の体が眩しい光に包まれ、神父は目を瞑った。光は神父がかかげていた金の十字架にあたって跳ね返り、銀の十字架にあたって、その後ろにあった木箱を光が包み込んだ。佐緒里はスカーレットエンジェルJrに変身し、光に包まれた木箱はその場から完全に消えた。
「チャージアウト!」
 佐緒里は変身を解き、神父の元へ駆け寄って、カールとハンスも傍に来た。消えた木箱は再び姿を現すことは無かった。
「成功だ・・・ これならばいけるかもしれん」
 佐緒里の顔が明るくなった。傍らではカールが曇った顔になったのを神父が気付いた。
「カール。ダメだぞ。お前がサオリに傍にいてほしいという気持ちは分かるが、サオリはここにいてはいけない人間なんだ。21世紀の世界とやらに帰してやらねばいかんのだ。いいか? サオリがここに居続けることで、我々の世界が歪んでしまう恐れだってあるんだ。それはサオリがここで死んでしまっても同じ事だ。つまり我々が言う来世の世界が、変わってしまって、全く違う世界になってしまうことすら有り得るのだ」
「はい。分かっています神父様」
「俺にはよく分かんねえけど、要するにサオリを帰さなければなんねえってことなんだよな」

 そこへ村の者が小走りにやってきた。
「神父様。教会に手紙が届いていました」
 そう言って村の者は神父に、閉じ紐で縛って丸められた羊皮紙の手紙を差し出した。
「うむ。ありがとう。ご苦労さん」
 村の者は去っていき、神父は手紙を受け取ると、閉じ紐を解いて、丸まった手紙を開いて読んだ。読み終えた神父はため息をついた。
「まずい事になった・・・ 」
「どうかしたんですかい? 神父様」
「枢機卿が村に来る。何処で噂を聞きつけたのか、サオリの事が知られてしまっている」
「す、するとサオリは・・・・ 」
「魔女裁判だ」
「ええっ!?」
「おいおい・・ そんな事になったら、サオリは火炙りじゃねえか。何も悪い事してねえのに、むしろこの村のために尽くしてくれている、良い魔女じゃねえか」
「まあ待て。ハンス。カール。この件は私が何とかする。とにかく、魔女裁判になる以上、それまではサオリを帰すことが出来ん」
佐緒里が心配そうに神父の顔を見た
「サオリ。心配は要らないぞ。もしもの時は私が命をはってでもお前を守る。お前は絶対に死なせない」
「神父様・・・・・・ 」


     ***************

 佐緒里の事が法王庁の枢機卿の耳に入った。枢機卿が村にやってきて、魔女裁判が始まる。佐緒里は果たしてどのように裁かれるのか・・・・  佐緒里は21世紀に帰ることが出来るのか・・


 以下ACT.18に続く