鷲尾飛鳥

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第1話『受け継がれる魂』

2012年 04月14日 21:17 (土)


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第1話 エンジェル戦士の誕生! 受け継がれる魂

序 章

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 美少女戦隊『エンジェルス』とは、世界征服を企む悪の秘密結社『ネオ‐ブラックリリー』と戦うために結成された正義の戦士達である。
 今を遡ること約18年前、遠い宇宙から世界征服を企むクイーンリリーが地球にやってきて、それを追って双子の姉妹戦士、スカーレットエンジェルとヴァイオレットエンジェルもまた地球に降り立った。二人は地球で知り合った私立探偵の紅林源太郎の協力の元で、源太郎の養女となり、それぞれ『紅林美紀子』・『紅林麻紀子』と名乗った。
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 地球上において、秘密結社『ブラックリリー』を組織したクイーンリリーと、2人のエンジェル戦士との間で壮絶な戦いが始まった。2人のエンジェル戦士はクイーンリリーが送り込んでくる怪人と戦って次々と倒し、ついにクイーンリリーを追いつめた。最後の戦いで敗れたクイーンリリーは地底の奥底へと逃れたが、2人のエンジェル戦士もまた、クイーンリリーとの戦いで大きなダメージを負い、戦士への変身能力を失ってしまった。特に姉のヴァイオレットエンジェルの方は変身能力だけでなく、戦士としてのエネルギーであるエンジェルパワーをも喪失していた。そして2人はもう戦う事が出来なくなったばかりでなく、自分の星に帰ることも出来なくなってしまったのである。そこで2人のエンジェルは地球人として生きることを決意し、それぞれ地球人としての生活を始めた。しかしクィーンリリーは死んだ訳ではなく、このままでは再び地上に出てきて地球を悪で満たしてしまい、このままでは世界は征服されてしまうであろう。
 エンジェルパワーを残し、宇宙人としての能力を残していた美紀子は、日本を離れた源太郎が残していった探偵事務所を引き継ぎ、自分が進学した城北大学の研究員を掛け持ちしながら、地球上で戦士を捜すための行動をはじめた。一方、普通の地球人と同じになってしまった姉の麻紀子は、赤嶺誠一という男性と結婚して女の子を出産し、佐緒里と命名した。
 美紀子の方は姉の麻紀子の幸せを祈りつつ、戦士を捜し続けていた。姪の佐緒里が8歳になったとき、美紀子は佐緒里がエンジェルパワーを持ち、なおかつ自分の血を引くスカーレットエンジェルの後継者であることが分かったが、佐緒里はまだ小学生で体が幼く、とうていネオ‐ブラックリリーと戦うことは出来ないし、地球で幸せな家庭を築いた姉を不幸にしたくなかったので、佐緒里の事は麻紀子には秘密にし、美紀子は佐緒里の戦士としての『エンジェルパワー』を佐緒里の心の奥深くに封印した。だが、不幸なことに、佐緒里の両親の麻紀子と誠一は、佐緒里が10歳のときに交通事故で亡くなってしまい、一人残った佐緒里は美紀子が引き取ることになった。が、美紀子は大学の研究員と、私立探偵事務所とを掛け持ちしていたので、佐緒里を育てる余裕が無かった。そこで佐緒里の祖母の和枝に頼んで、佐緒里を預かってもらう事にした。
 美紀子はエンジェルパワーを空へ飛ばし、適性者に自動的に宿るようにしていた。しかし、コンピューターで分析した結果、クイーンリリーが目覚めるのは、約18年後という解答が出ていて、また戦士の適性者は美紀子自身と同じ位の年齢の少女であるという解答も出ていた。つまり、18年後に17~18歳になっている少女の中に、戦士の適性者がいるという事になる。したがってクイーンリリーが目覚めるまでの間は、戦士の適性者はあらわれないという事になる。そこで美紀子は探偵事務所で探偵の仕事をする傍らで、自分が進学した城北大学の大学院まで進み、研究室に入って薬学と人間工学、そして生体科学の博士号まで取得した。それらの資格は将来必ず役立つと確信していたからである。
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 そして、18年が経過した。美紀子がコンピューターで分析した通り、クイーンリリーの魔手が徐々に迫ってきていた。既に周囲では、原因不明の事件や事故が相次いでいた。地中でダメージを回復していたクイーンリリーは、宇宙から自分の仲間で手下だったゼネラルダイアとドクターマンドラを地球に呼び寄せ、秘密結社結成の準備活動をさせていたのだ。このままではブラックリリーが再び動き出す… 美紀子は焦ったが、戦士の適性者を見つける事は、容易ではなかった。

     *       *       *       *

 200×年4月某日 赤城絵里香

「絵里香、起きなさい」
 母親の声と目覚ましの音で絵里香は目を覚まし、ベッドの上で一回伸びをすると、ベッドから下りて制服に着替えた。今日は4月5日。絵里香が通っている明峰学園高校の始業式で、絵里香は今日から2年生になる。着替えを終えて一階に下りてくると、母親の絵美子が朝食の用意をしていた。
「お母さんおはよう」
「おはよう絵里香」
 絵里香の母親は絵美子といい、市内で花屋を経営している。絵里香が12歳の時に夫と離婚し、絵里香を連れて故郷の鷲尾平に戻ってきて、絵美子の父が経営している花屋を手伝う傍らで絵里香を育ててきた。また絵里香には8歳上の兄がいて、離婚したときに父の方へついていき、現在は結婚して東京に住んでいる。
「お母さん、私も何か手伝おうか」
「手伝わなくてもいいわよ。もう用意できてるから。早く食べて学校へ行きなさい」
絵里香は朝食を終えると、一度自分の部屋へ戻り、仕度を整えて玄関へ向かった。
「お母さん行ってきまーす」
「行ってらっしゃい」
絵里香は玄関の戸を閉めると、学校へ向かって歩き始めた。
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 赤城絵里香は明るくて活発な性格である。高校で知り合った友だちの清水聖奈子・城野美由紀と一緒にバトン部に入部し、有意義な学園生活を送っていた。しかし最近になって、絵里香はとても気になることがあった。それは自分の体が、自分のものではないような感覚になっていたことだった。例えば体育の時間である。高跳びをやれば、いきなり高く飛んでみんなをビックリさせたり、苦手の砲丸投げで15mも飛ばしてみたり… それから、教室で友達とふざけ合っていて、二階の窓から落ちたにもかかわらず、打撲やかすり傷一つ無かったり… 一体自分はどうなってしまったんだろう… 考えれば考えるほど、絵里香は頭の中が混乱した。それだけではなかった。台所で食事の支度をしている時に、卵を割ろうとして握り潰してしまったり、部屋で宿題や勉強をしている時に、ポールペンやシャープペンを折ってしまったり、まるで力のコントロールが出来ないのだ。これは美紀子が空へ飛ばしたエンジェルパワーのせいだった。美紀子の飛ばしたエンジェルパワーは絵里香が生まれる前に絵美子の体内に宿り、絵里香が生まれると同時に絵里香自身に宿ったのだ。そして絵里香が16歳になった時、そのパワーが覚醒したのであるが、絵里香自身はエンジェルパワーの事について知っているわけでもなく、これから自分自身に振りかかってくる事についても、まだ何も気付いていなかった。

      *       *       *       *

200×年4月某日 清水聖奈子

「二人とも。出かけるから後は頼んだわよ。聖奈子は今日始業式でしょ? 帰りが早いんだから、買い物頼んだわよ」
「はーい」
 午前7時… 鷲尾平市内にある、とある一軒の家の玄関が開き、一人の女性が出てきて、玄関の扉を閉めると駅の方向へと向かって歩いていった。家の中では二人の姉妹が朝食の真っ最中だった。姉の方は赤城絵里香の友人で清水聖奈子といい、絵里香のクラスメートでもある。妹の方は佳奈子といって、市立第一中学校の二年生。そして出かけていった女性は、二人の母親の祥子である。
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 聖奈子は積極的かつ直情的な性格で、勝ち気で負けず嫌いなところがある反面、涙もろいところがある。そして学校の成績はクラスでも学年でも一番で、全国レベルでも上位のランクに入っているほどの秀才である。母親の祥子は聖陵学園中等部の英語教師。父親は清水大輔といい、城北大学の教授で、生体科学の博士号を持ち、現在研修のためアメリカに行っている。
 朝食を終えた二人は、後片付けを済ませると、学校へ行くために玄関を開けて外に出た。
「それじゃ佳奈子。気をつけてね」
「お姉ちゃんも」
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 佳奈子と別れた聖奈子は、自分の通う明峰学園高校に向かって歩き出した。聖奈子の家から学校までは1km足らずで、15分もあれば通学できる。学校の前まで来て横断歩道を渡っていたところへ、一台の車が突っ込んできた。聖奈子が車に気付いた時には、車は既に聖奈子のすぐそばまで迫っていた。聖奈子は接触寸前にジャンプし、車の屋根の上に着地すると同時に再びジャンプして、そのまま学校の塀を飛び越え、塀の内側にあった植え込みの中に飛びこんだ。運転していたドライバーは慌ててハンドルをきって歩道に乗り上げ、すぐ傍にあった街路樹にぶつかって止まった。
「痛ったー… 一体何なのよぉ! 朝っぱらから全く… 」
 聖奈子は植込みの中で起き上がると、服に付着した土や塵を払い落とした。その周りには数人の生徒たちがやってきて、心配そうな表情で聖奈子を取り巻いて様子を覗っていた。聖奈子は何とも無いというそぶりを見せて歩き出そうとしたが、そこへ担任の藍原先生が駆け付けてきて、聖奈子の腕をつかんで言った。
「清水さん! すぐ病院に行くのよ」
「え?」
「何してるの!? 早く!」
「あの… あたし」
 聖奈子は大丈夫だと言おうとしたが、無理矢理車に乗せられて病院へ向かった。

      *      *      *      *

200×年4月某日 城野美由紀

「篤志。戸締まりはオーケー?」
「オッケイだぜ。それじゃ姉貴、行ってくるぜ」
「篤志。気をつけてね」
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 篤志は美由紀に背を向けると、颯爽と走り出した。そして美由紀は、城間駅に向かって小走りに駆け出した。
彼女の名は城野美由紀。明峰学園高校の二年生で、絵里香、聖奈子の友人である。クラスは絵里香と聖奈子がB組で、美由紀はC組である。バトン部に所属していて、来年度のキャプテン候補でもある。暢気な性格で、周りの状況の変化にも比較的鈍感だが、運動神経だけは長けていて、小学校から習い続けているバトンとダンスは、今では抜群の演技力を持っている。
 父親は半年前から転勤で北海道へ行き。母親も一緒についていったため、家にいるのは美由紀と篤志だけなので、家事は二人で分担している。弟の篤志は市立北中学校の一年生で、まだ声変わりしていない。顔と背格好が姉の美由紀によく似ているので、昔からよく間違えられ、しかも女顔のせいか、美由紀の友達に女装させられた事もある。
 美由紀はいつものように城間駅に着くと、プラットホームに上がり、ホームに入ってきた電車に乗った。降りる駅は三つ先の終点の鷲尾平駅。東京方面とは逆コースなのでそれほど混雑はしていない。それでも美由紀が乗る時間帯は、通勤客や学生で満員に近い状態になる。美由紀はドアの近くに立って外の景色を眺めていた。もうすぐ終点の鷲尾平駅に到着するという時、急に太股と内股のあたりに強烈な違和感を感じ、全身に寒気が走った。誰かが自分の脚に触ってなで回している… 痴漢… ゆっくりと振りかえると、真後ろに男がぴったりと張り付くように立っている。美由紀の脚に触れていた手は、少しずつ股間に近付いていった。美由紀は片足を少し上げると、靴の踵で後ろに立っていた男の足を思いっきり踏みつけた。
「ぐあっ!!」
 男はあまりの痛さに大声を発した。美由紀は振り向くと同時に、脚に触っていた男の手をつかんでそのまま思いっきり捻りながら怒鳴った。
「この痴漢!! 私の脚に気安く触らないでよ!!」
「ギャアァーッ!! 痛ててててててーッ!!」
 男はあまりの痛さに大声を上げ、さらに手首がゴキッという音を立てた。男はその場に蹲り、手首をつかんで悶絶した。驚いたのは美由紀である。自分にそんなに力があるわけではないのに、相手は手首の骨が折れたのだ。美由紀が呆然としていると、男は周囲にいた乗客たちに取り押さえられ、駅に着くと同時に鉄道公安員に引き渡された。美由紀は事情聴取もそこそこに、走って駅から出た。痴漢に遭ったのだから美由紀は被害者である。しかし、相手の手首を捻ったくらいで、その相手の手の骨が折れるなんて、とても考えられない。そう思うと自分が怖くなったのだ。やがて学校の前まで来ると、今度は校門の前でザワザワしている。すぐ傍の街路樹に車が突っ込んで大破していて、救急車がドライバーを運んで走り去る所だった。辺りには通学中の生徒たちが集まり、走り去る救急車を目で追っていた。
「美由紀おはよう!」
 突然の声に驚いて振り向くと、そこに絵里香が立っていた。
「何だ絵里香か・・ 」
「何だじゃないよ。どうしたのよ美由紀。そんなに驚いた顔して。それに顔色が悪いよ」
「別に何でも無いけど、一体何の騒ぎなの?」
「聖奈子が車に跳ねられたのよ」
「ええーっ!? それじゃ… あの車が?」
 美由紀は大破した車を指差して言った。
「そ、それで聖奈子は? 聖奈子は大丈夫なの?」
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「うん。何だか分からないけど、車とぶつかりそうになった時、ジャンプして塀を飛び越えて、裏の植え込みに飛び込んだんだって、先生がそう言ってたわ」
「ジャンプしてあの塀を? どういう事それ… 」
「こっちが聞きたいくらいよ。ジャンプしてあの塀を飛び越えるなんて考えられないもの」
 美由紀は絵里香の話を聞き、体中に寒気が走って血の気が引いた。自分が電車の中で痴漢に遭った時と同じような場面だったからだ。状況は違えど、今の自分が自分じゃないような思いが、頭の中を過った。絵里香も自分が言った事で、これまでの自分の事が頭を過った。が、気をとり直して美由紀に向かって言った。
「とにかく行こう」
 呆然と立っている美由紀に、絵里香は促すように美由紀の背中を軽く叩いた。美由紀は頷くと、絵里香と一緒に学校の校門を通り抜け、校内に入った。

      *       *       *       *

 聖奈子を病院へ連れていった担任の藍原先生は、聖奈子の検査が終わるまで付きっきりでいたが、体の何処にも異常が無い事が分かり、始業式が終わる頃には聖奈子を連れて学校へ戻ってきた。始業式が終わり、生徒達はそれぞれの教室に入った。それと同時に藍原先生も聖奈子を連れて教室に入ってきた。
「聖奈子。大丈夫だったの?」
 絵里香は聖奈子の傍へ駆け寄った。
「うん。何とも無いって」
「赤城さん。清水さん。二人とも席について。話は後でしなさい」
 先生に促され、絵里香は話を止めて聖奈子と一緒にそれぞれ自分の席についた。ホームルームでは、新学期に入ってからの注意事項のほか、今日の朝に聖奈子が交通事故に遭ったけれど、病院の検査の結果、外傷もなく、体には何の異常も無かったという事が、みんなに伝えられた。
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 担任の藍原先生は、名前を藍原詩織といい、美紀子の高校時代の親友である(当時は松島詩織)。美紀子がスカーレットエンジェルとして、クイーンリリーと戦っていた時、スカーレットエンジェルとともに戦っていた。高校を卒業したあとは、美紀子とともに城北大学に進学して教職課程をとり、卒業後は明峰学園の教師になって、現在に至っている。絵里香と聖奈子のクラス担任であり、またバトン部の顧問でもある。
 やがてホームルームが終わり、生徒達は帰宅するため、教室から出ていった。絵里香と聖奈子が教室から出ると、ちょうど隣のクラスから美由紀が出てきたところだった。美由紀は絵里香と聖奈子を見るなり、小走りに駆け寄ってきた。
「聖奈子。事故に遭ったって… 大丈夫なの?」
「平気よ。別にぶつけられたわけじゃないし」
「でも、跳ね飛ばされて、学校の塀を飛び越えたってみんなが言ってたよ」
「違うって。ジャンプして車の屋根に乗っかって、もう一度ジャンプしただけよ」
「そっか… 私てっきり聖奈子が跳ね飛ばされたと思ってた」
 暢気な美由紀はホッとしたような顔をして、それ以上は何も言わなかった。聖奈子も何も言わずに黙っていたが、言い知れない不安感で頭がいっぱいだった。自分の体の事がとても気になっていたのだ。最近になって、自分の体が自分じゃないみたいだという強烈な違和感を感じていたのだ。今日の朝の事だってそうだ。ジャンプしたという認識は全く無く、気が付いたら塀を飛び越えていたのだ。いくら中学時代に陸上部にいたとはいえ、自分にそんな運動能力があるはずがない。だから何も言えなかったのである。
「それじゃ、あたしはここで」
「うん。じゃあね」
 聖奈子は、絵里香と美由紀に背を向け、自分の家に向かって小走りに去っていった。そのあと絵里香と美由紀は駅のそばまで来た。
「じゃ絵里香、また明日。明日から部活だからね」
「分かってる。じゃあね」
 美由紀は駅の方へ向かっていき、絵里香は駅へ向かう美由紀の後ろ姿を眺めながら、鉄道を横断している陸橋の方へ向かって歩き出した。絵里香の家は鷲尾平駅の北側にある住宅地の一角にある。近くには緑ヶ丘公園もあり、環境のいい場所である。
 絵里香が駅前の交叉点まで来て、紅林探偵事務所のそばを通った時、突然事務所の中から出てきた女性に呼び止められた。美紀子だった。美紀子は事務所の中で仕事をしていたのだが、突然自分が持っていた携帯電話のアラームが鳴ったのだ。美紀子の携帯には特殊な仕掛けがあって、自分が捜しているエンジェル戦士を感知すると、アラームが鳴るようになっていた。
「ちょっとあなた、こっちに来てくれる?」
そう言いながら美紀子は絵里香の腕をつかんで事務所の中へ連れていった。
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「一体何事ですか?」
「何も聞かずにここに座って」
 美紀子は絵里香を事務所の椅子に座らせ、テーブルの上に携帯電話を置いて絵里香に見せた。その携帯は盛んにアラーム音を出しながら点滅している。
「あなた名前は?」
「あ、赤城… 赤城絵里香です。一体私に何の用なんですか? それにこの携帯… 」
「これはエンジェルサーチといって、エンジェル戦士を見つけるとこうして反応するの」
「エンジェル… サーチ… エンジェル戦士って… 」
「あなたは私が探していたエンジェル戦士なの」
「エンジェル戦士? どういうことですか?」
 急な話に何が何だか分からない絵里香は、とまどいながら美紀子に尋ね、美紀子は穏やかに絵里香に応えた。
「私の名前は、紅林美紀子といって、本当は地球人じゃないのよ」
「え… ?」
 絵里香は突拍子の無い話に一瞬言葉を詰まらせたが、美紀子はかまわず話を続けた。
「もう18年くらい前になるんだけど、私はかつてスカーレットエンジェルという戦士で、悪の組織ブラックリリーと戦っていたのよ。ブラックリリーというのは、世界征服を企む悪の秘密結社で、その首領はクイーンリリーといい、私はクイーンリリーとの最後の戦いで、クイーンリリーと相打ちになって傷つき、戦士として戦うことが出来無くなってしまったの。そしてクイーンリリーは地底の奥深くに逃げてしまった。その時の私の力では、もう逃げたクイーンリリーを追いかけて倒すことが出来なかったの。でも、クイーンリリーは必ずまた地上に出てきて、世界征服作戦を始めるわ。もっとも、こんなこと信じろっていう事自体無理だろうし、あなただって信じられないだろうし、信じたくもないでしょう」
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「それで… 私が、その… クイーンリリーとかと戦う戦士だっていうんですか?」
「そう。あなたは私が捜していたエンジェル戦士の一人なの」
「ひとり… ってことは、私以外にも、その… 戦士がいるって事なんですか?」
「そう。エンジェル戦士はあなたを含めて三人いるの。あなたはあと二人の仲間の戦士と力を合わせて、クイーンリリーが作った組織と戦う運命にあるのよ」
「運命… 運命なんて、そんなの勝手過ぎます。いきなりこんな事言われて… 私が悪の組織と戦う戦士だなんて、そんなテレビドラマのヒーローかヒロインみたいな事、信じられるわけ無いじゃないですか」
 そこで美紀子は、絵里香に向かって衝撃的な話をした。その内容は最近頻繁に起こっている謎の失踪事件のことだった。
「最近起こっている日本全国での、謎の人間失踪事件は知っているわね?」
「はい。新聞で読んで… それに学校でも時々その話を聞いているけど、でも、それが… 」
「私はやつらの仕業だと思っている。今はまだあなたと関係無いところで起きているけど、いずれはあなたの身近でも起こると思うわ。そしてあなた自身だって巻き込まれるかもしれない」
 絵里香は美紀子の言葉に生唾を飲み込んだ。この事件のことは、最近は学校内でも自分の周辺でも話題になっていて、ニュースでも盛んに報道していたし、警察も動いてはいたが、何の手がかりもつかめず、人々を恐怖に陥れていたのである。今はまだ自分の周りでは事件は起きていなかったが、美紀子は絵里香自身にも関わってくるかもしれないと言った。言われてみれば確かにその通りだった。もしかしたら、いずれは自分にだって振りかかってくるかもしれない。絵里香は一瞬顔が青ざめた。しかし、その事件が、美紀子の言う『悪の組織』と関係があるとは、到底信じられなかった。
「あの… 私帰ります。あなたの話はとても信じられないんです。ごめんなさい」
「待って! 赤城さん」
 絵里香は美紀子の制止を振り切り、事務所を出ると、そのまま駅の方へ向かって走り去っていった。美紀子はその後ろ姿を目で追いながら、絵里香の姿が見えなくなると、事務所に戻った。
 その頃街では、ネオ‐ブラックリリーの魔手が迫りつつあった。地底深く眠り続け、ダメージを回復したクイーンリリーがついに地上に出てきて、ブラックリリーの組織力をさらに強化した、『秘密結社ネオ‐ブラックリリー』を結成したのだ。日本全国の至る所にアジトが設けられ、改造魔人や戦闘員が日本全国に出没し、人体改造用、奴隷用、そして実験用目的で、さらには組織強化のために有能な科学者たちを次々と誘拐するという、大規模な人間狩り作戦を展開していた。絵里香達が住む鷲尾平の周辺でも、ここ一週間の間に20人近い人が行方不明になっていた。その事をいち早く察知していた美紀子は、自分が放ったエンジェルパワーを受け止め、宿している三人の女の子たちを早く見つけ、ネオ‐ブラックリリーに対抗させたかった。そしてついにその中の一人、赤城絵里香を見つける事が出来た。
「あの子は凄いオーラを発している。私が捜し求めていた戦士として申し分ないわ… きっとあの子なら… クイーンリリーの野望を打ち砕いてくれる」
 ところで何故三人なのか… それは、美紀子の持つエンジェルパワーは、一人が宿すには負担が大きすぎるという、コンピューターの解答が出ていたからだ。美紀子は宇宙人であり、変身能力を失っているとはいえ、地球人には無いような超能力も持っていた。が、エンジェルパワーを受け止める女の子は、何の能力も持たない生身の地球人である。そこで美紀子はエンジェルパワーの力を3つに分け、三人の女の子が宿すよう設定したのである。
 美紀子は絵里香の姿を思い出し、何かが閃いた。
「そういえばあの子… 明峰学園の制服を着ていた。名前は… 赤城絵里香って言ってたっけ」
 美紀子は傍らにおいてあった携帯電話を手にとり、電話をかけた。
「もしもし… 詩織? 久しぶりね」
 電話の相手は詩織だった。美紀子は親友の詩織が明峰学園の教師をしていたので、絵里香のことを知っていると思って電話したのだ。
「え? 詩織のクラスなの? うん… それであなたが受け持っているバトン部の部員… 分かったわ。え? どうしてそんな事聞くのかって? 実は… 」
 美紀子は詩織にこれまでの経緯を話した。詩織は美紀子の親友であり、供にブラックリリーと戦った戦友でもあった。だから詩織は、地中に潜ったクイーンリリーが復活して、再び地球に脅威を与えるだろうという事を知っていたし、美紀子が自分に代ってクイーンリリーと戦う戦士を探している事も知っていた。
「そう… 分かった。それじゃ」
 美紀子は電話を切ると、窓を開けて外の景色を眺めた。眺めながら呟いた。
「赤城さんは詩織のクラスの子だったのか… こうなったら、もう一度本人に会って説得するしかないわね… もう時間がないんだから」

      *       *       *       *

 絵里香が美紀子と会ってから3日が経った。その日絵里香は部活の後で、生徒会の会合があったために帰宅が遅くなり、学校を出たときには既に日が沈んでいて、あたりは暗くなっていた。
「やだ… 七時過ぎてる。もう真っ暗じゃないの」
 絵里香は近道をしようと、普段は通らない公園の中の遊歩道を通っていった。この公園は照明が殆ど無く、物騒だったので、絵里香は足早に駆けていった。その時、周囲から数人の人影が現れ、絵里香を囲んだ。ネオ‐ブラックリリーの戦闘員達だ。
「だ、誰なの?」
 暗がりでよく分からなかったが、全員が軍服のようなものを身に着けている。絵里香はとっさに身構えた。例の人間失踪事件のことが頭にあり、なおかつ絵里香は剣道と合気道の有段者だったので、体が本能的に反応したのだ。
「何なのあんた達」
 戦闘員達は返事もせずに一斉に絵里香に襲いかかってきた。絵里香は持ち前の合気道の技で、一人を投げ飛ばしたが、戦闘員は次々と襲いかかってきて、さらに繁みの中から蜘蛛魔人が姿を現した。
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「ば… 化け物!!」
「お前はなかなか良い運動能力を持っている。我がネオ‐ブラックリリーの改造魔人として手頃な人材だ」
「ね… ネオ‐ブラックリリー!?」
 絵里香は美紀子が言っていた事を思い出した。美紀子が言っていた事は本当の事だったのだ。今現実に自分の前に得体の知れない集団が現れたのだ。絵里香は一瞬の隙を突かれて、戦闘員に羽交い絞めにされた。
「嫌! はなして… はなしてよ!」
「おとなしくしろ!」
「連れてゆけ! それっ」
 絵里香はこの得体の知れない連中が人間失踪事件の元凶だと直感し、羽交い締めにされた身体を揺すり、逃げようともがいたが、逆にねじ伏せられた。その時、一人の女性が公園の中に入ってきて近づいてきた。美紀子である。美紀子は絵里香と出会ったときから絵里香を密かに見張り、危険なときはいつでも助けるつもりだったのだ。
「このままじゃ絵里香が危ない。助けなければ」
 絵里香は体中から血の気が引いた。このままでは自分まで失踪者にされてしまう。絶体絶命だと思ったその時、一筋の閃光が絵里香にあたって絵里香の身体全体が光の粒子に包まれた。
「キャッ… な、何?」
「な、何だ一体… ま、眩しい」
 蜘蛛魔人と周囲にいた戦闘員達はあまりの眩しさに目が眩み、絵里香から離れた。美紀子はその隙に、絵里香の周辺にいた戦闘員達を一瞬のうちに倒し、絵里香を園内の照明灯のあるところまで連れて行った。呆気にとられていた絵里香が我に返ると、照明灯に照らされた自分の姿が違っているのに気付き、驚いた。
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「何これ… 私一体… 」
 制服を着ていたはずなのに、今の自分は、かつて幼い頃に見たテレビアニメのヒロインみたいな格好になっていたからだ。胸に大きなリボンとブローチが付いた赤い色のコスチュームに、中が見えそうなくらいの超ミニスカートを履き、脚には赤いロングブーツを履いていた。美紀子は戸惑っている絵里香に声をかけた。
「もう大丈夫よ。あなたが心配でずっと見張っていたの」
 絵里香は何が何だか分からなくなり、美紀子に聞いた
「紅林さん… って言いましたね。一体こいつらは何者なんですか? それに、どうして私こんな姿に…」
「それがあなたの戦士としての姿よ。あなたは正義の戦士エンジェルスの一人、エンジェルレッド。そして、そこにいる奇妙な集団こそ、世界征服を企むネオ‐ブラックリリーなのよ」
「… ってこの格好、まるでテレビアニメのヒロインじゃないの。それに、あなたは私に、あの得体の知れない連中と戦えって言うんですか?」
 戸惑っている絵里香に向かって、一時離れていたネオ‐ブラックリリーの戦闘員が再び襲ってきて、その後ろから蜘蛛魔人も近付いてきた。美紀子は持っていた杖で、戦闘員を次々と打ち倒しながら絵里香に向かって叫んだ。
「戦うのよ! あなたはネオ‐ブラックリリーと戦うエンジェル戦士なのよ」
 美紀子の言葉にとまどっていると、戦闘員が向かってきて、絵里香に組み付いてきた。絵里香は頭が混乱していて、どうしたら良いか分からなかったが、自分が危険な状態であるということだけは分かっていた。戦うしかないと悟った絵里香は、組み付いてきた戦闘員に合気道の技をかけた。するとその戦闘員は空気のように宙に舞ったかと思うと、立ち木に激突してそのまま地上に倒れ込んだ。戦士の姿になった絵里香の力は常人の数倍になっていたのである。絵里香は持ち前の合気道の技で、次々と襲ってくる戦闘員を倒していった。そして自分の力にとまどって、絵里香は思わず胸のリボンの中央にあるブローチに手をあてた。すると強い光とともに絵里香の手に剣が握られていた。
「な、何なの??」
「その剣を空に向かってかざすのよ!」

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 美紀子の言葉に絵里香は言われるままに剣をかざした。すると剣の刃が金色に光り、強烈な電光が発射されて、周囲にいた戦闘員達を一瞬のうちに全て倒した。それを見た蜘蛛魔人はたじろぎ、後退りした。
「お… おのれ、貴様ら何者だ」
「私は紅林美紀子。またの名をスカーレットエンジェル。ネオ‐ブラックリリー! もうこれ以上お前達の勝手にはさせないわよ。私の意志はこの子が継ぎ、必ずお前達を倒してくれるわ」
「な、何だと?」
 美紀子はブレードを手に戸惑っている絵里香に向かって叫んだ。
「その剣を魔人に向けて振り下ろすのよ!」
 絵里香は言われるままに剣を蜘蛛魔人に向けて振り下ろした。すると強烈な閃光とともに真っ赤な火の玉が魔人に向けて放たれ、蜘蛛魔人に向かっていった。蜘蛛魔人は口から糸を吐いて、近くにあった木の枝に絡めると、そのまま木の上に登って火の玉を避けた。魔人を外れた火の玉は、魔人の後ろにあった木にあたって爆発し、閃光を放って消えた。蜘蛛魔人は糸を吐いて木から木へと飛び移り、そのまま闇の中に消えた。
「逃げられたか… 」
 美紀子は蜘蛛魔人が逃げ去った方向を見ながら、動揺している絵里香に静かに近づいた。
「あなたが戦士になることを拒否するなら無理強いはしないわ。でも、よく聞いて。あなたが拒んでも、ネオ‐ブラックリリーはこのように、世界征服のための行動を起こしているのよ。ネオ‐ブラックリリーの野望を打ち砕き、世界の平和を守ることが出来るのは、あなたと、あと二人いるエンジェル戦士しかいないのよ。あなたはその2人と力を合わせ、3人で戦うの。分かってちょうだい。エンジェルパワーを体に宿している者でなければ、エンジェル戦士にはなれないのよ。さあ、両手を胸のブローチにあてて、チャージアウトと唱えるのよ」
 絵里香は美紀子の言うとおりに、チャージアウトと唱えた。すると体が光に包まれて変身が解け、元の制服姿の絵里香に戻った。
「もうこれ以上、私はあなたの事をつけまわしたりしないって約束する。それじゃ」
 美紀子はそう言いながら絵里香に背を向けると、そのまま歩き去ろうとした。
「待ってください!」
 絵里香の声に美紀子は振りかえった。
「私… 戦います! 正義のためにネオ‐ブラックリリーと戦います!」
 美紀子は絵里香の言葉を聞いて、ホッとしたような表情を見せ、絵里香に自分が持っていたエンジェルサーチ付きの携帯を渡した。
「このサーチのスイッチを常にオンにしていて。そうすれば、あなたの仲間の戦士がいたとき、必ずセンサーが反応するから。それから、これは私の感なんだけど、あとの2人はあなたの近くにいる人だと思うのよ。きっと見つかるわ。悲観的に考えないで、前向きになって! 信じるのよ」
 そう言って美紀子は絵里香の肩をポンと軽くたたくと、付け加えるように言った。
「エンジェルになる時は、両手を胸にあてて『エンジェルチャージ』と言えば変身出来るから」
 美紀子は絵里香を家の前まで送っていき、絵里香と分かれたあと事務所に戻った。何はともあれ戦士が見つかったのだ。美紀子は絵里香に対して、他の戦士は近くにいる人だと言ったが、当てずっぽうに言ったわけではなかった。実際、絵里香の高校の周辺ではセンサーが時折敏感に反応していたのである。これは絵里香以外の戦士が絵里香と同じ高校にいるということを証明する根拠でもあった。同じ高校の生徒だったら、あとは絵里香に任せておけばいいのである。

      *       *       *       *

 家に帰った絵里香は、自分の部屋で美紀子から渡された携帯電話を眺めながら考え事をしていた。あの時は行き当たりばったりで承諾してしまったが、実際自分は秘密結社を相手に戦うことが出来るんだろうか… そう思いながら、絵里香は何かいい知れないような重荷を背負わされたような感じがしていた。
 
 翌日… 今日は土曜日である。学校が休みで部活も今日は無かったので、絵里香は久々にのんびりした朝を迎えていた。起きて着替えて下へ降りると、既に母親の絵美子は店に出かけていて、テーブルの上に朝食の用意だけがされていた。絵里香はコーヒーを飲みながらテレビをつけた。そしてフレンチトーストを食べていると、突然絵里香の携帯電話が鳴った。
「ハイ絵里香です。あ… 美紀子さん? まだ見つからないです。はい… あ、ありがとうございます。え? はい分かりました」
 電話の相手は美紀子だった。美紀子は絵里香が他の戦士を見つけたかどうか、心配で電話をしてきたのである。その事で話がしたいから、午後1時に城跡公園まで来てほしいということだった。絵里香は壁にかかった時計を見た。
「10時前… か。約束の時間には早いけど、散歩がてら出かけるとするか… 」
 絵里香はそう呟きながら立ち上がると、食器を片づけ、部屋に戻って身支度を整えると、家から出て城跡公園に向かった。城跡公園は新間川を挟んで西側にある、城跡に作られた公園で、東側にある緑ヶ丘公園と並び、鷲尾平市のシンボルでもある。城跡は山の頂上にあって、本丸のあった所には看板と記念碑があり、頂上一帯は広い平場になっていて、春には桜が満開になり、また秋には紅葉といったように、市民の憩いの場でもある。
 絵里香は公園の出入り口を過ぎると、そのまま頂上へ向かっていった。10分ほどして頂上の平場に着いた絵里香は、近くにあったベンチに腰掛けた。昼近い時間だというのに、人影が全く無く、気味が悪いくらい静か過ぎる。その時絵里香は何かを感じたのか、ベンチから立ち上がり、周囲を見回した。何かがいる… 
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「キャーッ! 助けてぇーッ!」
 突然森の中から悲鳴が聞こえてきて、絵里香は悲鳴が聞こえてきた方向に顔を向けると、そのまま駆け出し、森の中に入った。すると目の前に、巨大な蜘蛛の巣に引っ掛った二人のОLの姿があった。
「何これ… まさか… 」
 その時背後に異様な殺気を感じた絵里香は、体を捻って身を低くし、そのまま地面を一回転してすぐ立ち上がった。今まで絵里香がいた場所に、蜘蛛の巣の形をした物体が被さってきた。さらに針状の物体が飛んできて、絵里香の傍にあった木に次々と突き刺さり、絵里香は咄嗟に木の後ろに隠れた。さらに針が飛んできて、蜘蛛の巣に引っ掛っていたОLに突き刺さった。二人のОLはそのまま絶命し、体から白煙を吐き出しながら蒸発して消えてしまった。
「ひどい… 何て事を!」
 絵里香は怒りが込み上げてきた。何の罪もない人が目の前で殺されたのだ。絵里香は物体が飛んできた方向を見据えた。すると、大きな杉の木の枝の間からキラリと光るものが見えた。
「あそこだ!」
 絵里香は木に突き刺さったダーツ状の物体を抜き取ると、光った方向めがけて投げつけた。そこにいたのはまさしく蜘蛛魔人だった。蜘蛛魔人は飛んできた毒針を払い落とすと、飛び降りてきて着地し。絵里香に向かって威嚇のポーズをとった。
「ギギギギギギ! 小娘。また会ったな」
「化け物! 罪も無い人たちを殺すなんて、絶対に許さない!」
「小癪な! 者ども出でよ!」
 かけ声とともに戦闘員が姿を現し、絵里香の周りを取り囲んだ。
「かかれっ!!」
 戦闘員が次々と絵里香に襲いかかってきた。絵里香は持ち前の合気道の技で戦闘員の攻撃をかわし、返す技で戦闘員を次々と倒した。そこへ蜘蛛魔人が毒針を発射した。絵里香は間一髪で毒針をかわし、毒針は後ろにいた戦闘員に突き刺さって、戦闘員は悲鳴とともに絶命し、白煙を上げて蒸発した。
絵里香は両手を胸にあてて叫んだ。
「エンジェルチャージ!!」
 絵里香の体が眩しい閃光に包まれ、光が渦を巻くように絵里香の周りを回る。そして光が消えると同時に、絵里香は真っ赤なコスチュームに身をつつんだ戦士の姿になった。
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「私は正義の戦士! エンジェルレッド! これ以上お前達の勝手にはさせないわ!」
「おのれ小娘! この前の借りを返してやる」
 蜘蛛魔人は絵里香に向かって糸を吐く態勢をとった。絵里香は右手を胸にあてた。ブローチが光り、右手にはブレードが握られた。蜘蛛魔人の糸が絵里香めがけて飛んできて、次々とブレードに絡みついてきた。と同時に、ブレードが発する熱で糸が次々と溶けていった。
「あわわ・・ 糸が溶けてしまう… 」
「お前の糸は、もう私には通用しないわよ!」
「おのれ! これならどうだ!?」
 蜘蛛魔人の口から毒針が発射された。一発目はブレードで弾き返し、二発目は体をかわして避けた。同時にジャンプして、空中で一回転しながらブレードを収納し、そのまま蜘蛛魔人めがけて急降下した。
「エンジェルキック!」
 絵里香のキックが蜘蛛魔人を直撃し、蜘蛛魔人は反動で空中を飛び、地面に叩きつけられて一回転した。蜘蛛魔人はヨロヨロと立ち上がると、絵里香に背を向けて、杉の木めがけて糸を吐いた。糸が杉の木の枝に絡みつき、蜘蛛魔人は糸を伝って木の上へと登っていった。
「逃がすものか! ファイヤースマッシュ!」
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絵里香は胸のブローチに手をあててエネルギーを溜め、バレーボール大のエネルギー球を蜘蛛魔人めがけて放った。エネルギー球は蜘蛛魔人の糸に命中し、糸が切れて蜘蛛魔人はそのまま落下し、地面に叩きつけられた。
「今だ!」
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 絵里香はブローチに手を当ててブレードを出すと、立ち上がろうとしている蜘蛛魔人めがけて投げつけた。ブレードは狙いすましたように蜘蛛魔人に突き刺さった。
「ギギギギギーッ!!」
 蜘蛛魔人は絶叫しながら前のめりに倒れると、ドロドロに溶けて蒸発し、絵里香が投げつけたブレードだけが地面に突き刺さっていた。絵里香は自分の持つ武器の凄さと威力に呆然とした。一つ間違えれば破壊兵器になり得るくらい強力なエネルギーである。絵里香は自分が与えられた力を改めて認識し、絶対に不用意に使わないと心に誓った。
 あたり一面に静寂が戻った。絵里香はブレードを引きぬくと、何もいない事を確認して変身を解き、元の赤城絵里香の姿に戻った。絵里香はベンチの所まで戻ったが、安堵感からか疲れと眠気がドッと襲いかかってきて、そのままベンチに横になって眠ってしまった。

      *       *       *       *

 絵里香はエンジェルレッドの姿で真っ暗な闇の中を一人で立っていた。自分以外は誰もおらず、静か過ぎる。しかし、絵里香自身は何かが周りにいるという本能的な感が働いていて、周りの様子を覗っていた。そこへ突然、何者かに自分の体を押さえ付けられ、絵里香はそれを振り解こうと体を捩ったが、思うように体が動かない。さらに自分を呼ぶ声が耳元で聞こえてきた。
「絵里香… 絵里香… 」
「赤城さん! 起きて」
 絵里香の周りを包んでいた闇の世界が、突然明るくなって眩しい光が降り注いできた。同時に絵里香は目を覚まして起き上がった。
「え… ここは・・」
 絵里香が目を覚ますと、そこには美紀子と詩織が立っていた。

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「よく眠っていたわね。何だかうなされていたみたいだったけど… 」
「随分早く来てたのね。今日はあったかいし、昼寝するにはちょうど良いわね」
「美紀子さん。それに… 藍原先生」
 絵里香は美紀子と詩織が一緒にいることに戸惑いの顔を見せた。
「どうして藍原先生が一緒に… 二人はどういう関係なんですか?」
「藍原先生は私の高校時代の親友なの。前にあなたに言ったように、私はブラックリリーと戦っていた宇宙戦士で、その時ここにいる藍原先生が、私と一緒に戦ったのよ」
 絵里香は唖然とした表情で詩織の顔を見た。詩織は周辺の様子を見ながら、さっき絵里香が戦っていた場所を指差して絵里香に言った。
「やつらに襲われたようね。そこの森の中であなたがやつらと戦った形跡があったわ」
「は… はい」
「それで… やつらは? あの蜘蛛の化け物はどうしたの?」
「魔人は倒しました。でも、私一人じゃこれから戦える自身が無いです」
「赤城さん。心配しないで。あたしも協力するから、あと二人を捜そうよ。ね」
「ありがとう先生」
 絵里香はホッとしたのか、体の力が抜けて、腹からグーッという音が出て来た。それを聞き、詩織は思わず噴き出した。絵里香はムッとしたが、それを宥めるように詩織が絵里香の両肩に手を置いて話しかけた。
「あたしと美紀子がおごってあげるから、何か食べに行こうよ。さ、立って」
「でも… 」
「何遠慮してるのよ。あんたにはこれから大事な使命が待ってるのよ」
 絵里香は軽く頷くと、ベンチから立ちあがった。
「さあ行きましょう」
 絵里香は美紀子と詩織の後をついていくように歩き出し、駐車場に止めてあった美紀子の車へと向かった。

      *       *       *       *

「何だと!? スカーレットエンジェルが自分の代わりの戦士を見つけただと!?」
 ネオ‐ブラックリリーのアジトの司令室では、戦闘員達がクイーンリリーのメッセージを聞いていたが、クイーンリリーはスピーカー越しに、狼狽したような声で叫んでいた。クイーンリリーはスカーレットエンジェル、つまり紅林美紀子が代わりの戦士を見つけて、自分達に立ち向かおうとしていると聞き、激しい憎悪を抱いた。
「おのれ… スカーレットエンジェルめ! またしても我々の邪魔をしようとしているのか。今度こそ完全に抹殺してやる」

      *       *       *       *


 ネオ‐ブラックリリーとの戦いが始まり、美紀子は自分の後継者となるエンジェル戦士の一人を見つけた。後継者として選ばれた絵里香は、ネオ‐ブラックリリーと戦うだけではなく、あと二人の戦士を捜し出して、自分とともに戦うよう説得する役目が与えられた。しかし、他の戦士は何処にいるのか、今の絵里香には知る由もなかったのだ。

                                              (つづく)

      ----------------------------------

 次回予告
 ◎第2話『二人目の戦士』

 エンジェル戦士となった絵里香だったが、他の二人を早く見つけようと焦っていた。そんな時、親友の聖奈子が戦士の一人だと分かり、絵里香は聖奈子を説得するが、聖奈子は『非現実的』だと言って取り合おうとしない。
一方ネオ-ブラックリリーの新怪人イソギンチャク魔人が現れ、絵里香の周辺にその魔手が迫ってくる。聖奈子と妹の佳奈子が捕えられてアジトに連れて行かれ、絵里香は二人を助けるべくアジトに突入する。

 次回 美少女戦隊エンジェルス第2話『二人目の戦士』にご期待ください。

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ジャンル : 小説・文学

第2話『二人目の戦士』

2012年 04月15日 15:49 (日)


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 絵里香がエンジェルレッドになって、ネオ‐ブラックリリーと戦い始めてから1週間経った。あれからネオ‐ブラックリリーの動きは無かったが、絵里香もまた、自分と同じくエンジェルパワーを持った戦士を見つける事が出来なかった。早く探し出さなければ、ネオ‐ブラックリリーが再び動き出すかもしれない。その時に一人では戦える自信が無かった。美紀子や担任の詩織が協力してくれると言ったものの、絵里香は不安な毎日を送っていた。放課後になって、絵里香は屋上に上がり、防護フェンスにもたれて、美紀子から渡された携帯のスイッチをОNにしてながめていた。

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「あ~ぁ… 全然ダメかぁ。授業中や部活中じゃスイッチが入れられないし、一体ほかの戦士はどこにいるんだろう。いつやつらが動き出すか分からないのに、私一人じゃこれ以上戦う自信が無いわ。藍原先生も協力してくれるって言ってたけど」
 絵里香はネオ‐ブラックリリーの蜘蛛魔人を倒した。しかし、これ以上一人で戦うには限度があった。早く他の二人を見つけて、三人で戦わなければならない。そう思うと、不安感が頭の中を過った。
「絵里香、こんな所にいたの? 何一人でブツブツ言ってんのよ。部活始まるよ」
 そう言いながら聖奈子が屋上に上がってきた。
「あ、聖奈子… ごめんごめん。今行くから」
 絵里香がセンサーのスイッチを切ろうとしたとき、急にセンサーが音を出して反応し、ランプが点滅した。音に気付いて聖奈子が絵里香のそばに寄ってきた。
「絵里香、何その音… あれ? 絵里香携帯変えたの?」
 聖奈子が近付いてきて、センサーの反応がより一層強くなった。絵里香は聖奈子の顔を見ながら言った。
「聖奈子が… 聖奈子がそうだったのか… 」
「何? そうだったのかって… 絵里香、あたしがどうしたって」
「聖奈子、私と一緒に来て!」
 絵里香は聖奈子の腕をつかむと、引っ張るように駆け出そうとしたが、聖奈子は逆に絵里香の腕を引っ張った。
「ちょっとぉ 絵里香放してよ。一体全体何だっていうのよ。独り言言ってたかと思えば、いきなり私の腕つかんで」
「ごめん… 聖奈子。とにかく私と一緒に来てくれる? 大事な話があるのよ」
「大事な話って… 部活どうするの?」
「今日はパス。お願い、聖奈子一緒に来て」
 絵里香が真顔で言うので、聖奈子は絵里香の言う通りにすることにした。
「分かった。絵里香、分かったから。一緒に行くからそんなに引っ張らないでよ」
 絵里香と聖奈子は屋上から下りると、教室へ行って鞄を持ち、そのまま学校の外へ出た。その様子を校舎の窓から美由紀が見ていた。
「あれ? 絵里香と聖奈子が帰っちゃう。どうしたのかな、今日部活の日なのに… 」

      *       *       *      *

 絵里香と聖奈子は駅の近くにあるハンバーガーショップに入り、注文して商品を受け取ると、一番奥の席に向かい合って座った。絵里香はさっき聖奈子に見せた携帯を聖奈子の前に置いた。センサーは相変わらず点滅しているが、音は周りの迷惑になるので、消音にしてあった。
「これって、さっき絵里香が持っていた携帯じゃないの。これ… 絵里香のじゃないよね。ねえ、絵里香、これ一体何なの? それにこの光は何?」
「聖奈子、あまり大きな声出さないでね」
 絵里香はそう前置きしてから、さらに聖奈子に言った。
「信じられないかもしれないけど、まじめに聞いてちょうだい。これはエンジェルサーチっていうの」
「えっ? エンジェルサーチ?」
「これはエンジェル戦士を捜すための器械なの。エンジェル戦士っていうのは、『ネオ‐ブラックリリー』という、世界征服を企む悪の秘密結社と戦う正義の戦士で、私はその戦士の一人なのよ」
「何それ絵里香… 絵里香が悪の秘密結社と戦う正義の戦士? テレビアニメのヒロインじゃあるまいし、そんな 非現実的な話、信じろっていうこと自体間違ってるよ」
「信じられないと思うけど、本当なのよ。私は既にそのネオ‐ブラックリリーと戦っているのよ」

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「ふーん… なるほど。それで… あたしと何の関係があるの?」
「エンジェル戦士は全部で三人いて、その中の一人が私なの。そして聖奈子もエンジェル戦士の一人なのよ。この音と光は、エンジェル戦士が近くにいると出るようになっているのよ。つまり聖奈子が私と同じエンジェル戦士だって証拠なのよ」」
「絵里香… 大丈夫? 正気だよね… 冗談はやめてよ。あんたテレビの見過ぎなんじゃない? バカバカしい! そんな現実離れした話、信じられるわけ無いじゃん。そういう話はテレビのアニメやドラマの中だけのものよ。あたし… そんな話は信じないよ」
「それじゃ最近新聞で騒がれている、人間失踪事件はどう説明するのよ」
「ネオ‐ブラックリリーとかいう組織のせいだって言うの? 絵里香しっかりしてよ。そんなの漫画的発想だよ。あたし帰るよ」
 聖奈子はそう言って立ち上がると、入り口の方へ歩き出した。
「ちょっと、聖奈子待ってよ。ちゃんと話を聞いて」
 絵里香はスタスタと歩いていく聖奈子を追ったが、出入り口の所で聖奈子は絵里香のほうを振り向いて言った。
「絵里香、何度も言うけどあたしは信じないよ。ハンバーガーとジュースご馳走様」
 そう言って聖奈子は外へ出ると、小走りに去っていった。絵里香は後を追わなかった。今の聖奈子には何を言っても信じようとしないだろうし、聖奈子の性格だと、拗れてよけいに悪い方へいったら厄介な事になると思ったからだ。
「(あ~ぁ… やっぱり信じてもらえないか。聖奈子の性格じゃ、在り来りのことを言ってもダメだし、とにかく… 何が何でも信じさせるしかないわ… でも、どうやってあの堅物を納得させようかしら… )」
 絵里香は聖奈子が去っていった方向を見据えながら、聖奈子をどうやって説得し、納得させるか考えていた。
「赤城さん」
 突然の声に、絵里香はビックリして振り向いた。そこには詩織が立っていた。

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「先生… !」
「あなた今日は部活の日じゃなかったの?」
「すみません。実は聖奈子が… 」
「いいのよ。ちゃんと分かってるから。清水さんが戦士の一人だったんでしょ? でも、赤城さん、あんたあの堅物を説得する自身あるの?」
「聖奈子の性格じゃ、実際のものを見ない限り絶対信じないと思う。でも、私やります。戦士が揃わないと、これ 以上はネオ‐ブラックリリーと戦うことが出来ないから。だから何が何でも聖奈子を納得させる」
「分かった! あたしも美紀子も協力するから、絶対に独りよがりになっちゃダメよ。頼るべきところは頼っても良いんだから、何か困った事があったら、あたしや美紀子に言って」
「ありがとう先生」
「じゃあね。それから、キャプテンには明日きちんと謝っておきなさいよ」
「はい。それじゃ先生また明日」
 絵里香は気をとり直すと、美紀子の事務所へ足を向けた。美紀子に相談しようと思ったからである。しかし、事務所の前まで来ると、美紀子は外出中で不在だったので、仕方なく家に帰ることにした。
帰宅した絵里香は自分の部屋に入ると、着替えずにベッドに横になり、仰向けになって美紀子から預かった携帯を眺めていた。

*      *      *      *

 ここは鷲尾平市の北隣にある新間町である。新間町南部の鷲尾平と接している地域は田園地帯で、農業用水として利用されている人工の水路が多数あり、用水用に利用されている大小の溜池等もあちこちにあった。その中でも最大の溜池である瓢箪(ひょうたん)沼は、付近一帯が公園として整備されていた。そして今、ここで恐ろしい事が起きようとしていた。ハンバーガーショップで絵里香と聖奈子が話をしていた時と同時刻、瓢箪沼のほとりで二人の男が釣りをしていた。が今日に限って全く釣れないため、二人は苛立っていた。
「何だよ… さっぱり釣れねえや! おい! そっちはどうだ?」
「ダメだね… 天気もいいのに、今日に限って全然あたりが無いよ」
「そろそろ帰るか… 」
 そう言って道具を片付けて帰ろうとした時、沼の水面が異様に盛り上がったかと思うと、大きな水飛沫が上がった。
「な、何だ何だ??」
 二人の男は水面の変化に見とれていたが、奇声とともに怪物が水面上にあらわれたのを見て、驚いてその場に尻餅をついた。
「あわわわわわ… な… 何だあれは!?」
「ば… 化け物」

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 化け物の正体は、ネオ‐ブラックリリーのイソギンチャク魔人だった。イソギンチャク魔人は水面上に姿を見せると、巨大な目で二人の男達を見据えた。
「ビビビビビーッ! 俺の姿を見たなぁ? ちょうどいい獲物だ。俺様の腹の足しにしてやる」
「あわわわ… た、助けてくれぇーっ!」
 男達は叫びながら逃げようとしたが、腰が抜けて立ち上がれない。そこへイソギンチャク魔人の口元にある触手が伸びてきて、男たちの体に次々と絡みついた。
「うワァーッ! 助けてくれぇー」
 男たちはもがいたが、二人とも沼の中に引きずり込まれ、引き寄せられた。
「ビビビビビーッ!」
 引き寄せられた男達は、二人とも魔人の巨大な口の中に吸いこまれ、イソギンチャク魔人は満足そうに水の中に潜った。しばらくして水面上に大量の血が浮かんだ。夕方になって、あたりが暗くなり始めた頃、イソギンチャク魔人は水中から出てきて岸に上がった。それを待っていたかのように、戦闘員が何処からともなくあらわれ、近付いてきた。
「大首領様がお呼びです。至急アジトへ行って下さい」
「分かった」
 魔人と戦闘員の姿は、そのまま夕闇の中に消えていった。

      *       *       *       *

 ここは瓢箪沼の近くにあるネオ‐ブラックリリーのアジトである。アジトの司令室では、イソギンチャク魔人を中心にして、戦闘員達が集まっていた。司令室にあるスピーカーからクイーンリリーの声が聞こえてくると、全員一斉に直立不動の姿勢で敬礼した。

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「イソギンチャク魔人! 作戦の進行はどうなっているのだ?」
「人間誘拐作戦は順調に進行しております。既に20人近くを誘拐し、実験用、改造用などの用途に振り分け、処置をしております」
「よろしい。それではお前に特別任務を与える」
「特別な任務とは?」
「我々ネオ‐ブラックリリーの作戦を邪魔する者がいる。その邪魔者を抹殺するのだ」
「何と!? 我々に楯突く者がいるのですか!?」
「そうだ! その名はエンジェル戦士。私の因縁の敵であるスカーレットエンジェルが、自分の後継者として選んだ小娘だ。その力の程は不明だが、エンジェル戦士がその力を発揮する前に、スカーレットエンジェル共々抹殺せよ!」
「ははーッ! かしこまりました。大首領様」
 イソギンチャク魔人は敬礼すると、後ろにいた戦闘員達の方を向いた。すると戦闘員の一人が一歩前に出た。
「スカーレットエンジェルと、エンジェル戦士の小娘の居場所は既に調査済みです」
「何? それは何処だ」
 もう一人の戦闘員が地図を持ってきて、地図の一角を指さした。
「よし! 直ちにこのアジトを引き払い、鷲尾平へ向かう。全員に伝えろ!」
「かしこまりました!」
 居合わせた戦闘員達が散り、司令室を出ていった。

      *       *       *       *

 翌日… 
 絵里香は教室で聖奈子と視線が合ったが、聖奈子はすぐに顔を横に向けてしまった。そして一日を通して、また部活中も聖奈子は絵里香と一言も口を聞こうとしなかった。それを見た美由紀が首をかしげながら絵里香の元に寄ってきた。
「ねえ絵里香。聖奈子一体どうしたの?」
「うん… 」
 絵里香はそれ以上何も言わなかった。いや、言えなかった。自分の境遇といい、聖奈子の事といい、誰も信じるはずがないし、下手なことを言えば自分自身がおかしいと思われるのが目に見えていたからだ。美由紀は絵里香のもとを離れると、さらに首を傾げた。
「(絵里香もなんだか変だな… )」
 部活が終わり、聖奈子は誰とも口を聞かずに、一人でさっさと帰ってしまった。絵里香は制服に着替えて体育館を出ると、一度教室に戻って鞄を持ってから、玄関で靴を履き替えて外へ出た。
「絵里香―っ」
 後ろから美由紀が絵里香の後を追って駆けてきて、絵里香と並んだ。
「一緒に帰ろう」
 絵里香のポケットには例の携帯が入っていたが、スイッチを切ったままなので何の反応も無かった。実は美由紀も戦士の一人だったのである。美紀子が飛ばしたエンジェルパワーは、絵里香のほか、聖奈子と美由紀に宿していたのだ。

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 美由紀は絵里香に何か言おうとしたが、絵里香も聖奈子と同じように憮然としていたので、あえて話しかけなかった。
「(聖奈子だけじゃなくて、絵里香もおかしい・・ 一体どうしたのかな)」
 絵里香は駅前で美由紀と別れると、引き返して紅林探偵事務所に向かった。しかし、今日も美紀子は不在で、絵里香はガッカリした表情で事務所に背を向けると、陸橋を渡って駅の北側へ抜け、自分の家への道を歩いていた。ネオ‐ブラックリリーの魔手がジワジワと絵里香に近付いていたが、絵里香はまだ気付いていなかった。家に帰った絵里香は着替えると、再び外出した。戦士を捜すためである。学校の中や通学路だけでなく、街の中を歩き回れば、見つけられる確率が高いと思ったからだ。
「(戦士は聖奈子だけじゃなくて、もう一人いる。聖奈子の事は別にして、とにかくあと一人を捜さなきゃ)」
 家を出た絵里香は緑ヶ丘公園へと向かった。公園の入り口まで来た時、絵里香は植え込みの間を駆け抜けていく怪しい影を見た。
「あれは… たしかネオ‐ブラックリリーの戦闘員」
 絵里香は園内に入ると、駆け抜けていった影を追った。しばらくして川の方から、近くの中学校の生徒らしい制服姿の男女が走ってきて、絵里香にすがりついてきた。二人ともよほど怖い物を見たらしく、顔が青ざめている。特に女の子の方は歩く事もままならないくらいガクガク震えていた。
「助けて下さい! 助けて」
「どうしたの?」
「か、怪物が出て… 」
「え? 怪物?(ネオ‐ブラックリリーだわ・・ ) 何処!?」
「学校帰りに川の土手を歩いていたら、いきなり川の中から怪物が出て襲ってきたんです。あの… 本当なんです。信じてください」
「分かった。君たちは早く逃げて」
 絵里香は川の方へ向かって走り出した。土手に上がると、今まさにイソギンチャク魔人が、通行人に襲いかかろうとしている場面に出くわした。
「ネオ‐ブラックリリー! また出たわね。お前達の勝手にはさせないわ!」
 イソギンチャク魔人は絵里香が視線に入ると、襲おうとしていた人から視線をそらし、絵里香の方へ向かってきた。
「お前がエンジェルの小娘か。丁度いい。手当たり次第に人を襲って殺しまくれば出てくるだろうと思っていたが、手間が省けたわい! それっ! 者ども出でよ」
 戦闘員があちこちから現れて、絵里香の周りを取り巻いた。
「かかれっ!」
 戦闘員が武器を手に一斉に襲いかかってきた。絵里香はジャンプして攻撃を避け、空中で一回転すると囲みの外に着地した。
「エンジェルチャージ!!」
 絵里香の身体が光に包まれ、光が消えると同時に絵里香はエンジェルレッドの姿になった。
「片付けろ!」
 戦闘員が剣を振り回しながら、次々と襲いかかってきた。絵里香は攻撃をかわしながら、胸のブローチに手をあててブレードを出すと、襲ってくる戦闘員を切り伏せた。そこへイソギンチャク魔人の腕が伸びて飛んできて、気付いた絵里香は反射的に体をひねって避けた。
「小娘! 息の根をとめてやる!」
 イソギンチャク魔人が口から溶解液を吐き出した。
「危ない!」
 絵里香は小さくジャンプして避けた。今まで絵里香がいた場所に溶解液がかかり、アスファルト舗装が溶けて白い煙を上げた。それを見た絵里香はギョッとした。さらに溶解液が吐き出され、絵里香は近くにいた戦闘員を引き寄せて楯代わりにした。
「ギャアァーッ!」
 液体が戦闘員にまともにかかり、戦闘員は絶叫とともに白煙を上げて溶け、そのまま蒸発した。絵里香は怖くなり、その場から逃げ出したい気分になった。が、自分が逃げてしまったら、世界中がネオ‐ブラックリリーの思うがままになってしまう。イソギンチャク魔人はさらに溶解液を吐く態勢をとった。そこへ戦闘員の一人がイソギンチャク魔人の傍に寄っていって何やら話しかけた。それを聞いたイソギンチャク魔人は、周りにいた戦闘員達に向かって怒鳴りつけた。
「者ども引き揚げだ! 急げ」
 戦闘員達は絵里香と戦うのをやめると、いっせいに絵里香の周りから退いた。
「小娘! 今度会った時は必ず息の根をとめてやる」
 そう言い捨てると、イソギンチャク魔人と戦闘員はその場から姿を消した。絵里香は魔人と戦闘員が消えた場所に駆け寄り、あたりを見回した。

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「(何で逃げたんだろう… でも、このまま戦っていたら、私はやられていたかもしれない)」
 絵里香は何とも言えないような奇妙な気持ちになったが、気をとり直すと変身を解いた。そして公園内の林の中を通り抜けながら、早く戦士を見つけ出して戦わなければ、今のままでは到底勝ち目が無いと悟った。ネオ‐ブラックリリーと戦うようになってから、絵里香は自分自身に大きな変化が訪れたと感じていた。まず服装である。制服は別として、普段着ではスカートを履くことが稀になり、ジーンズかオーバーオールスタイルでいることが多くなった。格闘するために肌の露出を出来るだけ避ける事が目的だったのだが、周りの人たち… 母親の絵美子にしても、友人達にしても、単なる心境の変化だとしか思っておらず、特に絵里香に対して何の関心も示さなかったことが、絵里香にとって幸い(?)していた。

      *       *       *       *

 絵里香と戦うのをやめて引き揚げたイソギンチャク魔人は、絵里香の息の根をとめられなかったことに不満を抱いていた。が、引き揚げの理由がクイーンリリーの命令とあっては、従うしかなかった。鷲尾平市内の某所に新設されたアジトに戻ったイソギンチャク魔人は、司令室でクイーンリリーのメッセージを聞いていた。
「改造用と実験用の人間集めが遅れている。もっと沢山の人間を誘拐して集めるのだ」
「かしこまりました。大首領様」
「エンジェルの小娘を抹殺したい気持ちは分かるが、それだけがお前の任務ではないという事を忘れるな」
「ははーッ!」

      *       *       *       *

 それから二日後… 
 今日は日曜日である。
 絵里香は朝起きると、絵美子が用意してくれていた朝食に手をつけた。そして食べ終わって後片付けを終えると、自分の部屋へ戻って着替えた。そして着替えを終えると足早に階段を下り、玄関で靴を履くと玄関を開けて外へ出た。
「(聖奈子の家へ行こう… とにかく、まず戦士だって分かっている聖奈子を説得しなきゃ)」
 絵里香は玄関の戸を閉めて鍵をかけると、聖奈子の家に向かった。
「(家にいてくれると良いけどな… )」
 絵里香ははやる気持ちを抑えながら、聖奈子の家に向かって小走りに駆けた。
聖奈子の家のそばまで来た時、玄関の戸が開いたので、絵里香はその場で立ち止まり、傍にあった電柱に身を寄せた。絵里香は思わずそういう行動に出たのだが、ネオ‐ブラックリリーとの戦いが、彼女を本能的に用心深くしてしまっていた。玄関から聖奈子と妹の佳奈子が出てきて、二人は家の中に向かって声をかけると、戸を閉めて表通りに出てきた。絵里香は出ていって声をかけようとしたが、後ろから肩をポンと叩かれ、ドキッとしてそのまま動けなくなった。そしてゆっくりと振り向くと、そこには詩織が立っていた。
「先生… どうして」
「あたしの家、すぐそこのマンションなのよ。あなたの姿が見えたんで、急いで出てきたってわけ。清水さんを説得するんでしょ? あの堅物相手だったら、あなた一人だけじゃなくて、あたしもいた方がいいと思ってね」
 詩織は自分が住んでいるマンションを指差し、続いて絵里香を促した。
「さ、後をつけよう。気付かれないようにね」
 絵里香と詩織は、聖奈子と佳奈子に気付かれないよう、ゆっくりと後をつけた。しかし、絵里香と詩織は勿論、聖奈子と佳奈子もこれから起こる事に、まだ気付いていなかった。ネオ‐ブラックリリーの魔手が迫っていたのである。

      *       *       *       *

 さて、聖奈子は妹の佳奈子と一緒に、ショッピングセンターへ行くところだった。佳奈子は大のテレビアニメファンで、アニメのヒロインに憧れていた。聖奈子はそういう事には無関心だったのだが、佳奈子があまりにもせがむので、仕方なく付き合うことにして、一緒に出かけたのである。今日は目的地のショッピングセンターで、佳奈子が一番好きなキャラクターのイベントがあるので、佳奈子はワクワクしていたが、聖奈子の方は対照的に憮然としていた。アニメのヒロインと聞き、先日絵里香が言っていた事を思い出したからだ。

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「(全く… 佳奈子ときたら、こんなくだらないものが大好きなんて… ま、佳奈子に付き合うあたしもあたしなんだけど、それにしても絵里香が言ってた事も気になるな… あたしが悪の秘密結社と戦う戦士か… やっぱり信じられない!)」
 二人は新間川までやってくると、堤防の下の道路を歩いた。ショッピングセンターまでは、この道路をあと500mほど歩いた線路の向こう側にある。何故か今日に限ってあたりに人通りが無く、日曜にしては静かだった。佳奈子があたりの様子がおかしいのに気付いた。
「お姉ちゃん、何だか変」
「どうしたの?佳奈子」
「誰かにつけられているみたい」
 聖奈子は後ろを振り返ったが、何の気配も感じられなかった。確かに二人は後をつけられていた。しかし、それはネオ‐ブラックリリーではなく、絵里香と詩織だった。
「気のせいよ佳奈子。誰もいないじゃないの」
 聖奈子はそう言って佳奈子を安心させたが、内心気になることがあったのだ。それは先日、絵里香に言われたことだった。絵里香に携帯電話を見せられた聖奈子は、その物体が盛んに点滅しているのを見た。絵里香はその物体が何かを聖奈子に説明し、自分がネオ‐ブラックリリーという悪の秘密結社と戦うエンジェルの戦士で、聖奈子もその戦士の一人なのだと言われたのだ。聖奈子も絵里香同様、最近の物騒なニュースを知っていたが、絵里香の言っていることを、現実離れした冗談だと思って相手にしなかったのである。だが、付近の様子がおかしいのに薄々感づいていて、もしかして絵里香の言っていることが本当なのかと思ったが、やっぱり現実離れしていると思って、自分の頭の中にあったものを払拭しようとした。
「ワァーッ!! 助けてくれぇーっ!」
 その時突然悲鳴が聞こえてきて、聖奈子は悲鳴がした方向を向いた。
「堤防からだわ」
 聖奈子は何も考えずに、一目散に堤防の斜面を登った。
「お姉ちゃん待ってよ!」
 佳奈子は、聖奈子が急に駆け出したのを見て、反射的に聖奈子の後を追った。堤防の上まで登りきった聖奈子は、周りを見まわした。すると堤防の下の川縁で、得体の知れない怪物(イソギンチャク魔人)が、人を襲おうとしていたのが目に入り、思わず両手で口を塞いだ。そして絵里香が言っていた事が頭の中を過った。そこへ後ろから佳奈子が追いついてきた。
「何なのお姉ちゃん!?」
 佳奈子は魔人の姿を見て叫びそうになり、気付いた聖奈子が佳奈子の口を塞いだ。
「佳奈子ダメ! 声を出さないで」
 イソギンチャク魔人は、目の前でガタガタ震えている人に向け、溶解液を吐き出した。
「ギャアァーッ!!」
 溶解液を浴びたその人は、悲鳴とともに白煙を噴き出しながら骨だけになり、そのまま蒸発して消えた。
「キャアーッ!!」
 佳奈子は叫びながら聖奈子に抱きついた。その声で二人は見つかってしまった。
「見たなぁ!?」
「佳奈子逃げるよ!」
 聖奈子は言うが早いか、佳奈子の手を引いて逃げ出そうとしたが、イソギンチャク魔人の触手が伸びてきて、二人に次々と絡みついた。
「嫌ぁーっ! お姉ちゃん助けてぇーっ」
 絡みついてきた触手は二人の体をギリギリと絞め付け、もう逃げる事も出来なくなった。
「ちょうどいい獲物だ。お前達をアジトに連れて行って、実験用モルモットにしてやる」
「く… 」
 聖奈子は現実を目の当たりにして、絵里香の言っていた事を信じればよかったと後悔した。が、もう遅かった。佳奈子は締め付けに絶えられなくなって気絶し、イソギンチャク魔人は佳奈子の締め付けを緩めて、道路に放り出した。
「連れていけ!」
 声とともに数人の戦闘員が姿を現し、佳奈子を抱えた。
「う… くくっ」
 聖奈子も苦しそうに呻きながらそのまま気を失ってしまった。二人は戦闘員に抱えられ、道路に止めてあった車に押し込められた。
「やばい… 聖奈子が捕まった。助けなきゃ」
 後をつけてきた絵里香と詩織は、二人がネオ‐ブラックリリーに拉致されたのを見て、魔人と戦闘員がいる場所に向かって駆け出した。が、タッチの差で車が発進した。詩織はバッグの中から何かを出すと、それを走り出した車に向かって投げた。その物体は狙いすましたように車の後部に吸着した。
「先生、何をしたんですか?」
「発信機よ。あたしは昔やつらと戦っていたのよ。だから今でもこれくらいのものは持っているのよ。さてと… あとはこの受信機でやつらの行き先を追えば、何処へ行ったか分かるわ。ひとまず美紀子の事務所へ行こう」
 詩織は絵里香を促し、表通りに出てタクシーを拾うと、駅前に行くよう指示してタクシーを走らせた。駅前でタクシーを下りた絵里香と詩織は、紅林探偵事務所に向かった。美紀子は不在だった。
「先生、美紀子さんいないですよ」
「いないはずよ。あの人はここで事務所をやりながら、大学の研究員もやってるのよ。今は大学で重要な研究があるらしくて、しばらくこっちには帰ってこないわ」
 詩織はバッグの中から鍵を出すと事務所の扉を開けた。絵里香は何故詩織が鍵を持っているのか不思議がったが、詩織はそれを見透かすように絵里香に言った。
「あたしは、もしもの時のために美紀子から合鍵を預かっているのよ。さ、入って」
 絵里香は詩織に促されて事務所に入った。絵里香は早く聖奈子たちを助けたいと思っていたが、詩織は『焦るな』という素振りを見せながら、机の引出しを開けた。
「あったあった… 」
 詩織は車のキーを取り出すと、引出しを閉めた。
「赤城さん行くよ」
「あの… 」
「車を借りていくのよ。やつらが何処へ行ったか分からないからね」
 詩織は絵里香を促すと、事務所から出て鍵をかけ、車庫から車を出した。
「乗って!」
 絵里香は言われるままに車に乗った。詩織はエンジンをかけると、真ん中にある機械のスイッチを入れた。その機械はカーナビに似ていたが、実は高性能の受信機で、美紀子が市販のカーナビを改造したものだった。スイッチを入れると、付近の地図が現れ、続いて赤い点が地図上に点滅して、アラーム音を発した。
「ここから北西の位置にいるわね… あたしの持っている小型受信機より、こっちの方が感度がいいから、すぐに見つけられるわ。行くわよ」
 詩織はアクセルを踏みこみ、車を発進させた。しばらくして新間川の堤防に達し、詩織は川沿いの堤防の上の道路に入ると、そのまま車を走らせた。
「赤城さん、ナビを見てて」
「は、はい」
 赤い点は川沿いの道路上で点滅しながら北へ向かっていた。やがてその点は川沿いを外れて、東に進路を変え、しばらくして動かなくなった。
「先生、点が止まりました」
「きっとそのあたりにアジトがあるのね。あと15分くらいでそこまで行けるから、準備してて」
 詩織の車は鷲尾平から新間町に入り、しばらく走ったところで停止した。
「あれを見て」
 詩織は絵里香に、堤防の下にある畑の一角を指差して言った。絵里香がそこを見ると、例の車が止まっていて、すぐ傍に小屋がある。
「おそらくあの小屋の地下にアジトがあるわ。早く助けに行きなさい」
「ありがとう先生」
 絵里香は詩織に礼を言うと、車を降りて堤防の斜面を下っていった。

      *       *       *       *

 ネオ‐ブラックリリーに襲われ、拉致された聖奈子と佳奈子の姉妹は、アジトの中で目を覚ました。二人とも壁の鎖に両手を繋がれて立たされ、両足にも足枷を嵌められていた。目を覚ました聖奈子は、自分が拘束されている事がわかり、逃げようとしたが、鎖で繋がれているので、逃げる事が出来なかった。自分達がいる部屋は、病院の手術室のようなつくりになっていて、白衣姿の戦闘員が、何やら準備をしていた。

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「ここは何処!? あんた達一体何者なの!?」
 戦闘員の一人が聖奈子を方を向いて答えた。
「ここはネオ‐ブラックリリーの地下アジトだ」
「ネオ‐ブラックリリー?(絵里香が言っていた秘密結社の事だわ… まさか本当にこんな連中がいたなんて)」
「いやあーっ! 放してぇ 助けてぇーっ!」
 隣で拘束されていた佳奈子が目を覚まし、涙声で叫んだ。
「あたし達をどうするつもりなの!? 放しなさいよ!」
「お願い助けて! 嫌あーっ!!」
 そこへイソギンチャク魔人が入ってきて、作業をしている戦闘員の一人を呼びつけた。
「準備はどうだ?」
「完了しています。いつでも良いです」
 イソギンチャク魔人は聖奈子と佳奈子の方を向き、醜怪な目で睨みながら言った。
「これからお前達に予備注射を打ってやる。お前達二人は我々の実験用モルモットになるのだ」
「嫌―ッ! 嫌いや嫌! 助けてーっ」
 佳奈子が悲痛な叫び声を上げた。
「やれっ!」
 戦闘員の一人が注射器を持って佳奈子に近付いてきた。その針先が佳奈子の腕に徐々に近付いてくる。
「や、やめて… やめてぇーッ!!」

 ビーッ ビーッ ビーッ
 その時アジト内の警報機がけたたましく鳴り響き、戦闘員達が一斉に出入り口の方を向いた。
「何事だ!?」
「侵入者です!」
「何だと!?」
 イソギンチャク魔人は、突然の警報に狼狽し、聖奈子と佳奈子をそっちのけにして、近くにいた戦闘員達に指示を出し、戦闘員達が司令室から出ていった。アジトの回廊ではエンジェルレッドに変身した絵里香が数人の戦闘員と戦っていて、絵里香は襲ってくる戦闘員をかたっぱしから倒し、アジトの司令室に入ってきた。
「ネオ‐ブラックリリー! お前達の勝手にはさせないわ」
「おのれ小娘! 邪魔されてたまるか」
 絵里香は襲ってくるイソギンチャク魔人めがけてエネルギー波を放った。

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「ファイヤースマッシュ!」
 不意をつかれたイソギンチャク魔人は避ける事が出来ず、エネルギー波をまともに受けて、その反動で司令室の壁に叩きつけられた。絵里香は繋がれている聖奈子と佳奈子を見るや、二人のそばに行き、両手両足を繋いでいる鎖を外した。
「聖奈子! 変身して! 一緒に戦うのよ」
「わかった。絵里香、この前はひどい事言ってごめんね」
「そんなこといいから早く! 両手を胸にあててエンジェルチャージって言うのよ」
 聖奈子は絵里香にせかされ、慌ただしくポーズをとった。
「エンジェルチャージ!」
 聖奈子の体は眩しい光に包まれ、ブルーのコスチューム姿に包まれた戦士の姿になった。

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「わぁ! お姉ちゃんかっこいい!」
 佳奈子がエンジェルに変身した姉の姿を見て歓喜の声を上げる。
「佳奈子ちゃん、私達の後ろに隠れて!」
 絵里香と聖奈子は佳奈子を自分達の後ろに下げると、イソギンチャク魔人に向かって身構えた。
「さあ、聖奈子! いくわよ」
「オッケー!」
 エンジェルレッド・エンジェルブルーの二人の戦士は、迫ってくる戦闘員と戦い、全て倒した。残っているのはイソギンチャク魔人だけだ。
「化け物! 残っているのはお前だけだ! 観念しろ!」
「何を小癪な! ひねりつぶしてやる!」
 イソギンチャク魔人は吐き捨てるように言うと触手を伸ばし、二人に向けて一斉に飛ばしてきた。
「危ない!」
 二人は伸びてくる触手をかわして体勢を立て直そうとしたが、絵里香と違って格闘戦に慣れていない聖奈子の方は、触手をかわすことが出来ず、絡みつかれてしまった。イソギンチャク魔人はここぞとばかりに聖奈子に絡まった触手を思いっきり締め上げた。
「う゛… くくっ… 」
 聖奈子が苦しそうに呻く。
「絞め殺してやる」
 聖奈子は絡みついた触手を振り解こうとしたが、もがけばもがくほど締め付けられ、聖奈子は意識が朦朧としてきた。
「聖奈子、頑張って! 今助けてあげるから」
 絵里香は胸のブローチに手をあててブレードを出すと、聖奈子に絡みついた触手を切り落とした。聖奈子は身体に巻き付いていた触手を払い落とすと、首を押さえてよろめきながら身構えた。
「よくもやったわね! この化け物野郎!」
 聖奈子は魔人に向かっていこうとしたが、絵里香が制止した。
「聖奈子、私に任せて! 聖奈子は佳奈子ちゃんを守って!」
 絵理香は聖奈子にそう言うとブレードを魔人に向けて身構えた。
「さあ来い! ネオ‐ブラックリリー!」
「小癪な小娘! これでも喰らえ」
 再び触手が伸びて一斉に向かって来た。絵里香はブレードを振りかざし、伸びてくる触手を次々と薙ぎ払った。そして『ファイヤーストーム!』と叫んでイソギンチャク魔人目がけて突進し、ブレードを突き刺した。

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「ギャアアアアーッ」
 強烈なエネルギーがイソギンチャク魔人の体内に送り込まれ、イソギンチャク魔人の身体から火花が迸った。絵里香はブレードを抜くと、イソギンチャク魔人に蹴りを入れ、魔人は反動でアジトの床に転がって、絶叫とともに炎を上げて消滅した。戦いが終わってあたりが静かになり、安堵感からか、佳奈子は泣きじゃくりながらエンジェルブルーになった聖奈子に抱きついた。
「佳奈子ちゃん、もう大丈夫よ」
 絵里香は泣きじゃくる佳奈子をなだめた。だがアジトの司令室にある機械類が燃えだし、危険な状態になっていた。
「まずい! 早くここから脱出するのよ。アジトが爆発するわ!」
 絵里香と聖奈子は佳奈子を連れて足早にアジトを脱出し、出口から少し離れたところで身を伏せた。大音響とともにアジトが爆発し、爆風で飛んできた土埃が三人の上に降ってきた。やがて爆発が止み、静けさが戻ってきて三人は立ち上がった。
「聖奈子、信じてくれてありがとう。でも、戦いはこれからよ。一緒に頑張ろう」
「うん。ごめんね絵里香」
「もういいのよ、聖奈子。そんなことよりも私達はもう一人の戦士を捜さなくちゃ… 二人だけではまだまともには戦えないわ」
「うん… でも、もう一人は一体どこの誰で、どこにいるんだろう」
「もう私達には時間がないのよ。とにかく何でもいいから捜さなきゃ。聖奈子も協力して」
「オッケー」
「お姉ちゃん… 正義のヒロインになったのね。頑張って。絵里香さんも頑張ってください。私、応援しますから」

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 二人の会話を横で聞いていた佳奈子は、ひどい目に遭っていながらも、エンジェルスに協力して、一緒に戦おうと決心していた。佳奈子はヒロインに憧れていたので、一番身近にいる姉の聖奈子が戦士だとわかって、協力を誓ったのだった。
「佳奈子、このことは私達だけの秘密だよ。私達のことが公然と知られちゃったら、大変なことになるから」
「分かった。お姉ちゃん、約束する」
 そこへ詩織が駆けつけてきた。
「みんな大丈夫!?」
「先生… 先生がどうしてここに」
 聖奈子は何故担任の藍原先生がやってきたのか不思議がった。聖奈子は詩織の事を知らなかったからだ。
「話せば長くなるけど、藍原先生は昔、やつら相手に戦っていたそうよ。だから私達がエンジェル戦士だってこともちゃんと知っているのよ」
「へぇーっ!? 藍原先生が… 」
 聖奈子はまだ納得していない雰囲気だったが、自分の姿がまだエンジェルブルーのままだったのに気づき、絵里香を促して変身を解き、絵里香も変身を解いた。
「みんな、車に乗って。長居は無用よ。早いとこ帰ろう」
 詩織は堤防の上に停めてある車を指差して言った。絵里香と聖奈子は佳奈子を連れ、詩織の後をついていって、堤防の上に停めてある車に向かって歩いていった。

      *       *       *       *


 絵里香の言うとおり、戦いはまだ始まったばかりだった。これからはもっと強力な魔人が出てくるに違いない。そして、戦いも厳しいものになるはずである。そのためには、早く三人目の戦士を捜し出し、エンジェルスの3つの力でネオ‐ブラックリリーと戦わなければならないのだ。

                                              (つづく)


      ----------------------------------

 次回予告
 ◎第3話『戦う女子高生たち』

 三人目の戦士が美由紀だと分かった絵里香と聖奈子は、美由紀を一番近くにある聖奈子の家に連れて行って事情を説明するが、のんきな美由紀は二人の話に上の空。そんな時、ネオ‐ブラックリリーのバンブー魔人が人間狩り作戦を展開し、その魔手が佳奈子と佳奈子の友人達に及ぶ。佳奈子からの知らせを聞いた絵里香は、聖奈子と美由紀を伴い、佳奈子たちを助けに向かう。

 次回 美少女戦隊エンジェルス第3話『戦う女子高生たち』にご期待ください。

テーマ : ライトノベル
ジャンル : 小説・文学

第3話『戦う女子高生たち』

2012年 04月18日 21:50 (水)

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 入学式や始業式などの行事で忙しかった学校も、四月を半分ほど過ぎて少しずつ落ち着いてきていた。放課後の校庭や体育館では部活の生徒達の声が響き、クラブ活動も活気付いていた。絵里香達がいるバトン部でも、四月の最終土曜日から行う予定の新入生歓迎合宿と、五月の中旬に行われる市の行事『若葉祭』をひかえ、それらの準備や練習に励んでいた。
 バトン部の部員構成は、三年生が2人、二年生は絵里香たちを含めて5人、そして新入部員の一年生が8人の、計15人である。部の主な行事は前述の春合宿と若葉祭のほか、夏合宿と、秋の文化祭でのパレードと演技がある。今年のキャプテンは藤巻芳江といい、美由紀と同じ城間北中学校の出身である。美由紀は中学時代もバトン部にいたので、芳江とは中学からの先輩後輩の関係であり、さらに二人は幼稚園からずっと一緒で、美由紀が通っていたダンス教室にも一緒に通っていたので、二人の間には先輩後輩を超えた親密な関係があった。また、三年生が二人しかいないため、芳江は副キャプテンとしてもう一人の三年生である苅部雅子のほか、一番信頼している美由紀を据えていた。

      *       *       *       *

 絵里香の友人聖奈子がエンジェル戦士になり、エンジェルスは二人になった。既にネオ‐ブラックリリーの世界征服作戦は開始され、絵里香と聖奈子は作戦を阻止するために戦っていた。しかし、あと一人… 三人目の戦士を見つけ出し、戦隊を結成しない限り、ネオ‐ブラックリリーと戦うには力不足だった。今日も学校の授業が終わり、部活も終わって、絵里香と聖奈子は制服に着替えると、さっさと荷物をまとめて学校を出た。三人目の戦士を早く見つけるためだ。あれからネオ‐ブラックリリーの動きは無く、人間蒸発事件も起きていなかったが、いつまたネオ‐ブラックリリーが作戦を開始し、攻撃してくるかと思うと、二人は気が重かった。学校を出てしばらくすると、絵里香と聖奈子の後ろから、大きな声を出しながら美由紀が走って追いかけてきた。
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「二人とも待ってよぉーっ!!」
 美由紀は息を切らしながら走ってきて、絵里香と聖奈子に追いつくと、二人に並んだ。
「ねえ、どうしたのよ二人とも。最近聖奈子が変だと思ったら、絵里香まで真剣な顔しちゃって。なんだか二人とも暗いよ。部活だって二人揃って時々エスケープしてるし、なにか心配事があるなら相談してよ。私達親友同士じゃないの」
 絵里香と聖奈子は黙って頷いた。いくら美由紀が親友だといっても、エンジェルの事を簡単に打ち明けるわけにはいかない。ネオ‐ブラックリリーのことを言っても、信じてもらえないだろうし、エンジェル戦士の事も公には出来ない。自分たちの事を知っているのは、自分達を戦士として選んだ美紀子と、聖奈子の妹の佳奈子と、絵里香と聖奈子の担任の詩織だけである。美由紀は二人が憮然としているので、二人の前に出て向かい合った。
「ねえったら! 悩み事があるなら言ってよ」
 その時絵里香はエンジェルサーチのスイッチがオフになっているのに気付き、スイッチを入れた。その途端、アラームがけたたましく鳴り、ライトが点滅した。驚いた絵里香が美由紀の方向に向けると、光がさらに明るく点滅した。
「あーっ!!」
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 絵里香と聖奈子は同時に叫びながらお互いの顔を見た。暢気な性格の美由紀は、二人が何をしているのか分からず、キョトンとした顔で絵里香と聖奈子の顔を覗っていた。が、絵里香にいきなり腕をつかまれた。
「ちょ… ちょっと何するの? 絵里香どうしたのよ」
「美由紀。ちょっと付き合って。私達と一緒に来て」
「分かった。分かったから。痛いから手を離してよ」
「あ… ごめんごめん」
 絵里香は聖奈子と一緒に美由紀を連れ、一番近くにある聖奈子の家に向かった。

 絵里香は聖奈子の家に着くと聖奈子を急かして玄関の扉を開けさせ、中に入ってドアに鍵をかけてから聖奈子の部屋に行き、美由紀をその場に座らせて、自分も聖奈子と一緒に座った。
「いったい何なのぉ? 二人とも」
「美由紀、私達の話を聞いて!」
 いつもは暢気な美由紀も絵里香と聖奈子の真剣な表情を見て、何事かと2人の方を向いた。絵里香は例のエンジェルサーチを美由紀の前に置いた。聖奈子のときと同じように、盛んにアラームが鳴り、ライトが点滅している。
「美由紀、こんなこと信じられないかもしれないけど、これから話す事を真面目に聞いて」
 美由紀は絵里香の表情を見て、黙って頷いた。

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「私と聖奈子はエンジェル戦士っていって、ネオ‐ブラックリリーという世界征服を企んでいる悪の秘密結社と戦う戦士なのよ。最初は私も聖奈子も信じられなかったけど、私たちは実際に戦っているの。美由紀も人間蒸発事件のことは知ってるでしょ? その事件の張本人こそ、やつらなのよ」
「ちょっと… 絵里香、エンジェル戦士だの、ネオ‐ブラックリリーだの、そんな事真面目に聞いてくれって言われたって信じられないよ」
 絵里香はアラームを鳴らし続けているエンジェルサーチを持って、美由紀の前に差し出した。
「この器械はエンジェルパワーを体に宿している者に対して、反応するようになっているの。私たちにもエンジェルパワーというエネルギーが、体の中に宿っていて、エンジェル戦士に変身することが出来るのよ。今、美由紀に対しても盛んに反応しているわ。それは、美由紀が私達と同じエンジェル戦士だっていう証なのよ」
 美由紀は驚きのあまり、目を丸くして絵里香と聖奈子を見た。あまりに突飛な話だったからだ。
「美由紀。信じられないって顔してるから、証拠を見せてあげる。聖奈子!」
「オッケー!」
 絵里香と聖奈子は立ち上がってポーズをとり、『エンジェルチャージ!』と叫んだ。すると二人の身体が光に包まれ、幾つもの光の輪が交差して二人はコスチュームに包まれた戦士の姿になった。
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「絵里香、聖奈子、いきなり服が変わったけど、一体どんなマジック使ってるの? 二人のその格好って… まるでアニメのヒロインじゃないの」
 絵里香は驚く美由紀の手を取り、そして立たせて美由紀に言った。
「さあ、美由紀も同じようにポーズをとってキーワードを唱えるのよ」
 美由紀は絵里香の言うままに恐る恐るポーズをとり、『エンジェルチャージ!』と叫んだ。すると美由紀の身体が眩しい光に包まれ、黄色いコスチュームに包まれた戦士の姿に変った。
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「私が… 私が、そんな… これどういうこと? 」
「私達は戦士として選ばれたの。この姿がエンジェル戦士としての姿なの。私達3人は『美少女戦隊エンジェルス』として、悪の秘密結社ネオ‐ブラックリリーと戦うのよ」
「び、美少女戦隊エンジェルス… なんか、昔見たアニメのヒロインそのものじゃない。それで、私たち三人がそのエンジェルスで、ネオ‐ブラックリリーとかいう連中と戦うってことなの?」
「そう。私たちは戦士に変身すると、普通の人の5倍くらいの力と、私たちだけが使える武器を持つことが出来るの。それに、普段でも普通の人よりも力があるから、気をつけるようにって言われているわ」
「言われているって、誰に… 」
「美由紀も駅前通りの『紅林探偵事務所』って知ってるよね」
「うん。知ってるよ」
「あそこのオーナーは紅林美紀子っていう人で、その美紀子さんから言われたのよ。私も始めて聞いたときには驚いたんだけど、その美紀子さんは、自分が宇宙から来た正義の戦士で、今から18年ほど前に、私たちのように戦っていたそうなの。でも、敵の首領クイーンリリーとの最後の戦いで相打ちになって、戦士への変身能力を失ったんだって。でもクイーンリリーは生きていて、ダメージを回復するために地下深く潜り、いずれはまた地上に出てきて世界征服のための行動を起こすから、その時のために自分の代わりにクイーンリリーと戦う戦士を捜していたそうなの。それで、その戦士が私達三人なんだって」
「何それ… まるで漫画の世界じゃないの。私が見ているアニメの世界そのものだよ」
まだ信じられないと言ったような表情を見せる美由紀に、絵里香は聖奈子と二人で最近の事件のことなどを話した。それでも美由紀は納得していない様子だった。美由紀は突飛な事を言われて頭の中が混乱し、自分でどうしたら良いのか収拾がつかなくなっていた。その様子を絵里香がいち早く察知し、絵里香は美由紀を宥めるように言った。
「美由紀。あまり深く考えないで。あんまり急にいろんなこと考えると、何が何だかわからなくなるだろうけど、その格好を見れば納得できるでしょ?」
 絵里香は美由紀の格好を指差して言った。それでも美由紀は戸惑っていたが、その時玄関が開いて佳奈子の声が聞こえてきた。
「ただいまー」
「佳奈子が帰ってきた。みんな変身を解いて!」
 絵里香と聖奈子はチャージアウトと言って変身を解き、それぞれもとの姿に戻った。
「美由紀も早くチャージアウトって言って。そうすれば元に戻れるから」
 美由紀は絵里香の言う通りにチャージアウトと言った。すると光に包まれて、光が消えると元の姿に戻った。ほぼ同時に佳奈子がリビングの扉を開けた。
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「あら… みんな来ていたんですか?」
「佳奈子ちゃんこんにちは」
「こんにちは。絵里香さん美由紀さん。今何か持ってきますね」
「あ、いいよ。私達もう帰るところだったから」
 そう言うと絵里香と美由紀はそれぞれの荷物を持ち、玄関へ向かった。聖奈子も二人の後をついていった。玄関を開け、外へ出た三人はそれぞれお互いの顔を見ながら玄関の前に立った。
「それじゃ絵里香、美由紀、また明日ね」
「うん。じゃ」
 そう言って絵里香と美由紀は聖奈子の家をあとにした。
「美由紀、さっきも言ったけど、あんまり深刻に考えないでね」
「分かってる… 」
 美由紀はまだ何かが引っ掛かっていたが、元々暢気な性格なので、絵里香が心配しているほど混乱はしておらず、さっきの事などもう何も考えていないといった素振りで絵里香に言った。
「それじゃ絵里香。私はここで。また明日ね」
 駅前に来て、美由紀は絵里香に向けて手を振ると、駅へ向かって走っていった。絵里香は『大丈夫かな… 』という思いで、遠ざかっていく美由紀の背中を追った。

      *       *       *       *

 鷲尾平南東部にある飛鳥山は城間市と小山田町の境にある山で、標高約150m。頂上には展望台があって、360度方向の景色を見渡す事が出来、その麓は広大な公園施設になっている。東の小山田町側は森林公園で、遊歩道が網の目のように整備され、公園内の一部では山菜取りやキノコ狩りが出来るようになっている。西の城間市側はアスレチックなどの運動施設があり、野球場やテニスコートも整備されていて、キャンプやアウトドアなどの施設もある。
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 ネオ‐ブラックリリーは飛鳥山東側の森林公園の地勢条件に目をつけ、新たに作り出したバンブー魔人を使って、人間誘拐作戦を展開していた。バンブー魔人はその名の通り竹の怪人で、公園内の竹林で竹に化けて罠を仕掛け、タケノコ取りや山菜取りに訪れる人を片っ端から捕らえて、戦力として使えそうもない者はその場で殺して処分し、使えそうな者は実験用や改造用の人材としてアジトに送りこんでいた。そして2~3日の間に10数人が森林公園内でバンブー魔人や戦闘員に捕まって連れ去られた。
 仕事を終えたバンブー魔人は、戦闘員を引き連れ、アジトに戻って司令室でクイーンリリーのメッセージを聞いていた。

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「バンブー魔人。大儀である」
「ハハーッ! 有り難き御言葉」
「ここでのお前の人間誘拐作戦は一応成功し、順調に進んでいる。あとは戦闘員だけでも作戦の続行が可能だ。そこでだ。バンブー魔人、お前には新たな任務を与える」
「かしこまりました。何なりとどうぞ」
「お前は場所を移し、別の地域で新たに作戦を開始せよ。改造用や実験用の人間をどんどん集めるのだ。そしてもう一つ。我がネオ‐ブラックリリーが世界征服作戦を行うにあたり、それを妨げる重大な障害がある。その障害を何としてでも取り除くのだ」
「作戦を妨げる重大な障害ですと? それは一体何ですか?」
「我が因縁の敵、スカーレットエンジェルが自分の代わりに戦士に仕立て上げた、エンジェルの小娘どもだ。だが、まだその戦闘力は充分ではない。お前はその小娘どもを見つけ出して消せ! どんな手段を使ってもいい。人間を何人殺してもいい。エンジェルの小娘どもを抹殺するのだ」
「ハハーッ! かしこまりました」
 バンブー魔人はそう言いながら、声が響いてくるスピーカーに向かって敬礼した。メッセージが終わり、バンブー魔人は後ろにいる戦闘員の方を振り返った。
「飛鳥山での人間誘拐作戦は今後、お前達だけで続行しろ。俺は大首領様の命により、別の地域で作戦を続行し、小娘どもを見つけ出して始末する」
「かしこまりました。バンブー魔人様」
 戦闘員達が一斉に敬礼した。バンブー魔人は数人の戦闘員を引き連れ、アジトを出ていった。

      *       *       *       *

 絵里香たちが所属するバトン部では、春の新入生歓迎合宿まであと10日と迫り、準備と練習に余念が無かった。絵里香達バトン部員は、今日も授業が終わると、ユニホームに着替えて体育館に集合し、練習に励んでいた。一年生の部員達はまだユニホームが揃っていないため、体操服での練習だったが、それぞれの表情は明るかった。ちなみに体育館は他の部活との関係があり、バトン部は一週間の中で火曜日と木曜日しか使えず、今日がその木曜日だった。体育館が使えない時は屋上や校庭、あるいは空いている教室を使うなどして工夫し、部活そのものに支障が無いようにしていた。
 休憩時間になり、部員達はそれぞれ散らばって体育館のあちこちで休んでいた。副キャプテンの美由紀は、三年の芳江、雅子と一緒に、このあとの練習の打ち合わせをしていて、絵里香と聖奈子は体育館の隅で、美由紀を見ながら話をしていた。
「美由紀のやつ… 自分がエンジェルだっていう認識があるのかなぁ」
「いいじゃない聖奈子。美由紀の性格じゃ、聖奈子と違って信じる信じない以前の問題だよ」
「でも、いつまたやつらが動き出すか分かんないんだよ」
「シッ!! 聖奈子。声が大きい」
「ゴメン… 」
「確かに聖奈子の言う通りだわ。やつらがいつ動き出すか分からないから、備えなければならないんだけど… 聖奈子、今朝の新聞見た?」
「いや… 見てないけど」
「飛鳥山って知ってるでしょ?」
「うん。小学校の時遠足で行ったことがある」
「その飛鳥山でここ3日の間に10数人の人が行方不明になってるって」
「何それ!? もしかして… 」
「可能性は大だわ」
「って事は… また人間誘拐作戦」
「今のところは私達と関係ないところで起きている事件だけど、いずれは私達にも振りかかってくる。やつらの狙いは私達なんだから」
 聖奈子は絵里香の話を聞き、グッと生唾を飲みこんだ。絵里香がふと美由紀の方を見ると、美由紀は既に打ち合わせを終え、一人で体育館のほぼ中央の床に座っていた。
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「暢気なやつだな… こっちは大変だっていうのに」
 聖奈子が呟くように言った。
「さあ! みんな休憩終わりよ。練習始めるわよ」
 芳江がそう言いながら体育館の中央に向かって歩いてきて、美由紀が立ちあがり、絵里香と聖奈子も芳江がいる方へと歩き出した。他の部員達も続々と集まってきて、3列横隊で並ぶと、再び振り付けなどの練習が始まった。
5時近くなって下校時刻が迫り、バトン部は練習を終了して後片付けを始めた。後片付けが終わると、全員更衣室に入って、それぞれ制服に着替え、教室に荷物を置いている子は教室へ戻り、体育館に荷物を持ち込んでいた子はそのまま下校していった。絵里香と聖奈子は今日の日直だったので、一旦教室に戻って戸締まりを確認し、異常が無いのを確かめてから、学級日誌を持って職員室へ行った。
「ご苦労様」
 職員室で担任の詩織がそう言って日誌を受け取ると、絵里香と聖奈子は詩織に軽く会釈して職員室を出て、玄関へ向かった。玄関で靴を履き替えて外へ出ると、校門のところで美由紀が待っていた。
「一緒に帰ろうよ」
 美由紀の言葉に、聖奈子は溜息をついた。
「(あ~ぁ… ほんとに暢気なやつだな。今世界がネオ‐ブラックリリーのために危ない目にあってるっていうのに… )」
 絵里香がさりげなく美由紀に聞いてみた。
「美由紀。この前の事だけど… 」
「あ… もしかしてエンジェルの事? 私も一緒にやらなきゃダメなのかなァ」
「馬鹿! 何暢気な事言ってんのよ。世界平和のためよ! あたし達が戦わないと、ネオ‐ブラックリリーに世界が征服されちゃうんだよ」
「聖奈子。あんまり興奮しないで。声が高いよ」
「だって… 」
「いいよ! 一緒にやろうよ。私やるわ。私… ヒロインに憧れていたんだ。そのヒロインに自分がなれるなんて、素敵じゃない」
 美由紀は大のアニメファンだったので、自分自身が正義のヒロインになれるという事で、大はしゃぎだった。何かを勘違いしていると悟った聖奈子はまた溜息をついた。
「(こいつ… そんな感覚でエンジェル戦士になろうっていうのか)」
 聖奈子の傍で絵里香が聖奈子の背中を軽く叩き、聖奈子の顔を見て一つ瞬きした。聖奈子も絵里香の言いたい事が分かったらしく、自分の気持ちを抑えて落ち着きを取り戻した。
「それじゃあたしはここで。また明日ね」
「うん。バイバイ」
 聖奈子は自分の家に向かって小走りに駆けていき、美由紀も駅前で絵里香と別れて、絵里香は近くのコンビニに入ってジュースを買った。そこで仕事を終えて買い物をしていた絵美子と会った。
「お母さん… 」
「あら絵里香。今帰り?」
「うん」
「じゃ一緒に帰ろうか」
 絵美子は買った品物をレジで精算すると、絵里香と一緒に外へ出て帰宅した。

      *       *       *       *

 翌日… 
 今日は土曜日で学校は休みなのだが、絵里香達は部活があるので、学校へ行った。来週の土曜日には合宿が控えているので、練習よりもそれらの準備がメインだった。宿舎は既に学校の付属施設で、水神村にある甲ノ峰セミナーハウスを予約してあり、往復に利用するスクールバスの手配も済ませてあったので、あとは合宿に必要な資材の手配だけだった。資材の殆どは部室にあったので、部員達は使える物とそうでない物とを分ける組と、足りない資材の買出し組とに分かれ、それぞれ動き回っていた。昼近くになって一通りの物が揃い、部室の中もあらかた掃除されて綺麗になったので、今日はこれで解散という事なった。
「今日はご苦労様。練習時間はとれなかったけど、今日はみんなこれで解散にします」
 芳江がみんなに向かっていうと、部員達の間で歓声があがった。今日は練習が無かったので、みんな制服のままか体操服だった。それで体操服の部員だけが着替え、制服のままだった部員達は自分達の荷物を持って帰宅した。
絵里香と聖奈子は、美由紀が芳江たちと今後の打ち合わせをしていたので、校門で美由紀が来るのを待っていた。30分ほどしてようやく美由紀がやってきた。
「お待ちどう様。一緒に帰ろう」
 絵里香たちは学校を出ると、駅前に向かった。
「お腹すいたね。どこかで食べていこうか」
「そうだね… じゃいつものハンバーガーショップへ行こうか」
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 美由紀が開口一番に言うと、聖奈子もその言葉に乗った。聖奈子はもう美由紀へのわだかまりは消えていた。それぞれが出会って既に1年が経っている。3人は親友どうしの間柄になっていて、もうお互いの性格を知り尽くしていたので、つまらない事でお互いの関係を崩すことは、お互いのためによくない事だと思っていた。
「絵里香はどうするの?」
 絵里香が黙っていたので、美由紀が絵里香に聞いた。
「私も行く」
「よーし決まり!」
 絵里香たちは小走りに駆け出すと、ハンバーガーショップへ向かった。店に入って注文した3人は、空いている席に座って食べ始めた。そこへ絵里香が聖奈子と美由紀に向かって話しかけた。
「二人とも、食べながらでいいから聞いて」
「何の事?」
「食べ終わったら、3人で何処かでミーティングがしたいの」
「合宿の事だったら、月曜日にキャプテンから話があるわよ」
「違うわ。やつらの事よ」
 そう聞いて、聖奈子は顔色を変えた。
「分かったわ。それじゃあたしの家でやろう。佳奈子は今日コンサートに行っていて夕方まで帰ってこないし、ママも教育の研修会で明日まで帰ってこないから」

      *       *       *       *

 ちょうどその頃、緑ヶ丘公園の西にある新間川のそばで、恐ろしい事が起きようとしていた。緑ヶ丘公園と新間川が接している地域には竹林があって、バンブー魔人はそれに目をつけ、罠をはっていたのである。川の堤防を歩いていた近くの人が竹林の中にあるタケノコを見つけ、取ろうとして近付いてきた。そしてタケノコの傍まで来て取ろうとした瞬間、バンブー魔人が正体を現して襲いかかった。
「ゲタゲタゲタゲターッ!」
「ワワッ!! ば、化け物」
「死ねぇーっ!!」
「た、助けてくれぇーっ!」
 バンブー魔人は手裏剣を投げつけ、それが逃げる人の背中に命中して、そのままその人は絶命した。バンブー魔人はこの場所で手裏剣で一人、土の中に引きずり込んで二人、計三人を殺していた。
「さあいつでも来い。小娘ども。このバンブー魔人様が引導を渡してやる」
 バンブー魔人は近くに潜んでいる戦闘員を呼んだ。
「死体を片付けろ!」
 戦闘員が数人出てくると、バンブー魔人が潜んでいた穴の中に死体を放り投げ、上から土をかけて埋めた。
「もっと人が集まるところで待ち伏せするか」
 バンブー魔人は公園の中へ入ると、人が集まりそうな場所を選んで、傍にあった植え込みの中に身を潜めた。

      *       *       *       *

 バンブー魔人が緑ヶ丘公園で暴れていた頃、絵里香たちは聖奈子の家にいた。3人はみなそれぞれ、自分達はエンジェル戦士として戦うことが出来るのか… という共通の悩みがあった。絵里香は中学時代に剣道部にいて二段の腕があり、自分の武器であるブレード捌きにはある程度自信があったし、護身のためという事で、母親とともに通っていた合気道の道場で初段を取っていたから、格闘技にも自信があった。しかし、聖奈子は中学時代は陸上部(夏だけ水泳部)で、美由紀はバトン部出身であり、ともに格闘の経験は皆無だった。
 絵里香たちはリビングでお互いの顔を見ながら、一言も喋らずに黙ったままだった。聖奈子は見かねて自分の部屋へ行き、着替えてリビングに戻ってきた。が、それでも絵里香と美由紀は黙ったままだった。じれったくなった聖奈子は、絵里香と美由紀に向かって突っ掛かるように言った。
「二人とも! 話し合いがしたいって言ってここに集まったんじゃないの!? 雰囲気暗すぎ!」
 しばらくして美由紀がボソボソと口を開いた。
「私達の… リーダーを決めよう… 」
「リーダー?」
 聖奈子が何だといった顔で美由紀の傍に座り、美由紀を見た。
「どうしてリーダーなの?」
 絵里香が美由紀に聞いた。
「それは… 私達は3人でエンジェルスなんでしょ? だったら、リーダーがいたほうがいいと思うの… この三人の中からリーダーを選んだ方がいいんじゃない?」
「だったら絵里香だよ!」
「ちょ、ちょっと聖奈子… 勝手に決めないでよ」
「絵里香がリーダーだったら、私も賛成よ。絵里香だったら安心してついていける」
「あたしも同感だな」
 絵里香は溜息をついた。でも、この3人の中で最も頼り甲斐があるといったら、やっぱり絵里香しかいなかった。絵里香は少し考えてから、口を開いた。
「分かったわ。それじゃ私がリーダーになる。だから、聖奈子、美由紀、よろしく頼んだわよ」
「オッケー!」
「勿論!」
 絵里香たち3人はそれぞれ右手を前に出して、その手を重ねた。その時聖奈子の携帯がけたたましく鳴り、リビング全体に響き渡った。
「はいもしもし… あ、佳奈子? コンサートどうだった? えっ? ちょっと佳奈子… ちゃんと話してよ。ええっ!? うん… 分かった! すぐ行くから」
 聖奈子は電話を切ると、絵里香に向かって言った。
「絵里香! 佳奈子からよ。ネオ‐ブラックリリーに襲われたって… 」
「ええっ? それで場所は?」
「緑ヶ丘公園だって。コンサートが終わって、帰る途中で公園で休んでいたら、いきなり襲ってきたって。絵里香、佳奈子たちを助けに行くよ!」
 と言うないなや、聖奈子は真っ先に玄関に向かって駆け出した。絵里香と美由紀も聖奈子の後を追った。玄関まで来ると、聖奈子が扉を開け、鍵を持って待っていた。
「二人とも早く!」
 玄関から出ると、聖奈子はドアに鍵をかけ、そのまま我先に走り出した。
「聖奈子、待って!」
 絵里香と美由紀は走っていく聖奈子の後を追った。
 
 時間は少し溯る… 
 佳奈子は友達二人と一緒に、某アーチストのコンサートに行っていて、その帰りに緑ヶ丘公園に入って休んでいた。中央広場の隅にある植え込みの中に潜んでいたバンブー魔人は、獲物が来るのを待ち構えていたが、佳奈子たちを見つけ、襲いかかる態勢をとりながら様子を覗っていた。
「あのガキどもは、殺すよりも実験材料にした方がいい… 子供の血は改造人間の手術用に最も適しているのだ」
 バンブー魔人は戦闘員たちに合図し、佳奈子たちを包囲するよう指示した。完全に周りを取り囲んだのを見計らい、バンブー魔人は奇声とともに姿を現し、戦闘員も周りを囲んだ。
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「キャーッ!」
 佳奈子たち3人は、突然出てきた得体の知れない化け物を見て仰天し、悲鳴を上げた。佳奈子だけはそれが何であるかを知っていたので、すぐに落ち着きを取り戻してバンブー魔人を見据えた。隙を見て逃げようとしていたのだ。戦闘員達がゆっくりと歩き出し、包囲の輪を縮めてきた。
「嫌―っ! 助けてぇーっ」
「静かにしろガキども! 実験材料としてお前らを連れていく。それっ!」
 戦闘員が一斉にダッシュしてきた。同時に佳奈子は向かってくる戦闘員の一人に体当たりした。戦闘員は不意をつかれたため、そのまま後ろにひっくり返って尻餅をついた。
「みんな逃げて!」
 佳奈子は大きな声で言うと、そのままダッシュした。友達の事は構っていられなかった。全力で公園の森の中を駆け、近くにあった遊具の陰に隠れた。戦闘員がそのわきを走り抜けていく。周りが安全なのを確かめた佳奈子は、携帯を取り出して聖奈子に電話をしたのだった。

      *       *       *       *

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 緑ヶ丘公園に着いた絵里香たちは、そのまま公園内に入った。すると中学生くらいの女の子が不意に横のブッシュから出てきたので、気付いた聖奈子が受け止めた。
「どうしたの!?」
「嫌―っ! 嫌―っ!」
「落ちついて!」
 取り乱して暴れている女の子を聖奈子が押さえつけ、絵里香と美由紀が宥めて、ようやく女の子は大人しくなった。
「もう大丈夫だよ。何があったの?」
「化け物が… 化け物が友達を」
「君… もしかして佳奈子の友達?」
「え!? そ、そうですけど、どうして… 」
「あたしは佳奈子の姉よ」
 それを聞いて女の子は安堵感からか、体の力が抜けてそのまま聖奈子に抱き付いた。
「佳奈子は何処なの?」
「分かりません。佳奈子が逃げるようにって言って、それからみんなバラバラに逃げたんです」
「君名前は?」
「桃井… 桃井裕香です」
「分かった。裕香ちゃん。とにかく案内して! 他の子達も助けに行くから」
 絵里香たちは裕香の案内で中央広場へ向かった。聖奈子は走りながら、自分たちが来た事を佳奈子に携帯でメールした。広場の入り口にさしかかったとき、広場のほぼ中央で戦闘員に捕まっている二人の女の子が目に入った。
「あー… 佳奈子と麻里が捕まっちゃった… 」
「みんなを助けなきゃ。裕香ちゃんは隠れていて。絶対に出てきちゃダメよ」
 絵里香は裕香を後ろに下げると、聖奈子と美由紀を促して広場の中に入った。戦闘員達はバンブー魔人の命令で、捕らえた佳奈子と麻里を連れていくところだった。
「待ちなさい! お前達の思い通りにはさせないわ!」
 戦闘員が一斉に絵里香たちを見た。三人は戦闘員に向かって走り出し、戦闘員もそれを見て向かってきて格闘戦が始まった。しかし、まだ自分自身が信じられない美由紀の動きはぎこちなく、戦うというよりも逃げ回っているだけだった。バンブー魔人が絵里香たちに向かって叫んだ。
「抵抗を止めろ! このガキどもがどうなってもいいのか」
 バンブー魔人は戦闘員に捕まった佳奈子と麻里を指差して言った。佳奈子は聖奈子に電話をしたあと、戦闘員に見つかって捕まってしまったのだった。
「くっ… 卑怯な!」
「お姉ちゃん! 私の事なんかかまわないで、こいつらをやっつけてぇ」
 佳奈子が叫んだが、人質を取られてはどうすることも出来ない。三人は戦いを止めた。
「三人を捕らえろ!」
 バンブー魔人の命令で、戦闘員が3人を捕らえようと近付いてきた。その時、佳奈子は自分を捕まえている戦闘員の腕に噛みついた。
「ぐ… い、痛い!! イーッ」
 不意をつかれた戦闘員は、佳奈子をつかんでいた手を離した。同時に佳奈子は戦闘員を突き飛ばしてから、麻里の手を引いて絵里香たちに向かって走り、絵里香達の後ろについた。
「お姉ちゃん、もう大丈夫よ!」
「佳奈子ちゃんは友達を連れて早く逃げて! 聖奈子! 美由紀! 行くわよ!」
「オッケー!」
 三人は一斉にポーズをとった。
『エンジェルチャージ!』
 三人の身体が眩しい光に包まれ、光が消えると同時に赤・青・黄色のコスチュームに包まれた戦士の姿となった。三人は決めポーズをとり、ブラックリリーの魔人の方に向かって身構えた。
「私達は正義の戦士! 美少女戦隊エンジェルス!! ネオ‐ブラックリリーの化け物! 私達が引導を渡してあげるから、覚悟なさい!」
「ふん! 小癪な小娘共め! かかれっ 皆殺しにしろ」
 バンブー魔人の命令で戦闘員が一斉に向かってきて、絵里香たちも戦闘員と魔人に向かって駆け出した。その間に佳奈子は友だちを連れて公園の外へ逃げた。絵里香と聖奈子は襲ってくる戦闘員を格闘の末次々と倒していったが、格闘戦は勿論のこと、喧嘩や争い事を好まない美由紀は、襲ってくる戦闘員から逃げ回っているだけだった。が、バトンやダンスが得意な美由紀は、その身軽さを利用して、戦闘員が襲ってくるタイミングを見計らい、戦闘員の攻撃を上手にかわしていた。
 やがて戦闘員は全て倒され、魔人だけになった。しかしバンブー魔人は動きが俊敏で、絵里香と聖奈子の攻撃が全てかわされ、繰り出すパンチやキックがその弾力性のある身体によって全て跳ね返された。逆にバンブー魔人はその弾力性のある身体を利用して、強力なパンチとキックをお見舞いし、絵里香と聖奈子は何度もぶっ飛ばされた。美由紀は… というと、魔人を怖がって近付こうとせず、絵里香と聖奈子の後ろでオロオロしているだけだった。バンブー魔人はその美由紀を見て、美由紀めがけて手裏剣を投げつけた。
「美由紀危ない!」
 絵里香は咄嗟に美由紀の方へ駆けより、美由紀を突き飛ばしたが、美由紀を庇った絵里香の左腕を手裏剣がかすった。光の粒子で防護されているとはいえ、攻撃を受けた絵里香の腕から血が流れた。苦痛に腕をおさえる絵里香…
「絵里香!」
 聖奈子と美由紀が負傷した絵里香のそばに寄ってきた。
「二人とも私にかまわないで、魔人を倒すのよ! 聖奈子、武器を使って! 武器の出し方は私が教えた通りよ」
「オッケー!」 
 聖奈子は絵里香に教えられた方法で武器をブローチから出し、右手に剣、左手に楯を持った。バンブー魔人が立て続けに手裏剣を投げてきた。
「エンジェルシールド!」
 聖奈子が楯をかざすと、手裏剣は楯に当たってみんな跳ね返った。
「おのれ小娘!」
「お返しよ! アクアスマッシュ!」
 聖奈子がソードを振り下ろすと、ボール状のエネルギー波がバンブー魔人に向かっていき、バンブー魔人に命中した。
「グアーッ!」
 バンブー魔人はショックと反動でそのまま後ろに飛ばされ、地面に叩きつけられた。
「聖奈子! 今よ! アクアトルネードよ!!」
「オッケー絵里香」
 聖奈子は剣を胸のブローチにあてた。すると、剣の刃がブローチの光と同化して光の帯のようになった。聖奈子は剣を空に向けてかざし、魔人目がけて剣を振り下ろした。
『アクアトルネード!』

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 水色の光の塊が渦を巻きながら魔人目がけて伸びていく。俊敏なバンブー魔人だったが、アクアトルネードの渦からは逃れることは出来なかった。水の帯が何本も伸びていって魔人を捕らえて包み込み、魔人は絶叫しながら凍り付き、そのままバラバラに崩れて水煙を上げながら消滅した。
「やったわね、聖奈子!」
「うん」
 絵里香は負傷した左腕を右手で押さえながら聖奈子を労った。
「ごめんなさい絵里香。許して。私のためにそんな怪我して… 」
 泣きながら絵里香に謝る美由紀に、絵里香は美由紀の頭を撫でながら言った。
「美由紀、もういいよ。もう泣かないでよ。私達親友同士じゃないの。だからこれからも一緒に頑張ろうよ。私達 三人の力でネオ‐ブラックリリーを倒すために、一緒に戦おう」
「うん… 分かったわ絵里香。私も戦う」
 美由紀は泣きながら絵里香の胸の中で頷いていた。聖奈子は変身を解くと、携帯電話を出して時計を見た。既に午後7時を回っている。
「あ~あ… もうこんな時間。ねえ早く帰ろうよ」
 絵里香と美由紀は頷きながら、『チャージアウト』と言って変身を解き、絵里香は持っていたハンカチを負傷した部分に巻いた。美由紀はまだ泣いている。
「ほ~ら、美由紀ぃ… そんなに泣いてると目が溶けちゃうよ! さ、帰ろ!」
 美由紀は二人に促されながら涙を拭いて歩き出した。もう空は真っ暗で、月明かりが三人を照らしている。三人はいったん聖奈子の家に行って自分達の私物を持ち、それぞれの家へと帰っていった。

      * *     *     *

 美由紀が加わり、ようやく戦士が3人揃った。だが、ネオ‐ブラックリリーとの戦いはまだ始まったばかりなのだ。これからも果てしなく続いていく戦いに、絵里香達は新たな闘志を燃やすのであった。

                                              (つづく)

      -----------------------------------

 次回予告
 ◎第4話『幽霊騒動』

 クラブ合宿へ行った絵里香たち明峰学園高校バトン部員は、合宿先の甲ノ峰セミナーハウス周辺での幽霊騒ぎを耳にする。さらに部員達が実際に幽霊と遭遇し、絵里香たち3人はその実態を調べたが、幽霊の正体は、付近一帯の制圧を企んでいたネオ‐ブラックリリーのハス魔人が撒き散らした幻覚ガスだった。

 次回 美少女戦隊エンジェルス第4話『幽霊騒動』にご期待ください。


   
   

テーマ : ライトノベル
ジャンル : 小説・文学

第4話『幽霊騒動』

2012年 04月25日 12:37 (水)

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 4月の最後の土曜日
 絵里香達バトン部員は、今日から水神村にある甲ノ峰セミナーハウスで春合宿を行う。合宿の日程は一泊二日で、今回は新入生の歓迎回と親睦会がメインであり、練習はスケジュールに入っていなかった。
 甲ノ峰セミナーハウスは、明峰学園高校の付属施設で、最大で80人が宿泊できる宿泊設備と、テニスコートなどの運動施設があり、クラブ合宿や宿泊学習、サマースクールなどに利用されている。往復には電車とバスを利用する他、学校が所持しているスクールバスが2台ある。一般の宿泊施設を利用するよりも経費がかからないので、夏季は申し込みが殺到し、なかなか利用出来ない場合もある。今回はバトン部の他、文科系の天文部が宿泊の申し込みをしていて、バトン部員16名(顧問の詩織を含む)と、天文部員14名の、計30名が宿泊する事になっていた。五月の連休には複数の運動部の強化合宿があり、宿泊施設が満杯になってしまうので、早い時期に申しこんでいたバトン部としては幸いだった。

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 さて、顧問である詩織を含めた部員達は朝9時に学校に集合し、キャプテンの芳江が全員の点呼を取って、用意されていたスクールバスに乗りこんで学校を出発した。学校からセミナーハウスまでは、電車とバスを乗り継ぐと約3時間かかるが、スクールバスならば、道路状況さえ良ければ2時間で着ける。幸い道路工事や渋滞も無く、午前11時を回ったところで目的地に着いた。
 バスを降りた部員達は、宿舎に入ると一階の食堂に一度集まり、雅子と美由紀が部屋割り表を壁に貼ってから、芳江がみんなに向かって言った。
「みんな。部屋割りはここに貼っておくので、みんな見てから部屋へ行ってね。それから12時にこの食堂で昼食にします。それまでは自由時間にするけど、この宿舎の敷地の外へは絶対出ないように。いいわね」
「はーい!」
 部員達は食堂を出ると、それぞれ割り当てられた部屋へ向かった。宿泊用の部屋は二段ベッドが二組あり、計四人が泊まれるようになっていて、それぞれの部屋に一年生部員が必ず入るよう組まれていた。絵里香が割り当てられた部屋は絵里香と聖奈子のほか、一年生二人の計四名。美由紀の部屋には美由紀以外は全員一年生という割り振りだった。
 絵里香と聖奈子は二人の一年生の柏木元子、椎崎あゆみとともに部屋に入ると、それぞれ床の上に荷物を置いて、私服に着替え始めた。元子は童顔のポッチャリ型で、身長150cm前後の小柄な子。あゆみは逆にスリムな体形で胸が大きく、身長は絵里香より僅かに高い。
「絵里香、ベッドどうする?」
 聖奈子が言い出したので、絵里香が何かを言おうとすると、一年の元子が先に口を開いた。
「先輩達が先に決めていいですよ。私達は空いたベッドを使いますから」
「そういわれても… よし! いつものやつで」
 聖奈子はノートを取り出すと、開いているページに線を引き始め、阿弥陀くじを書いた。
「はい! 一人ずつ名前書いて」
 抽選の結果、絵里香と元子が下の段に決まって、聖奈子とあゆみが上の段という事になった。着替えを終えて外へ行こうとする聖奈子に、あゆみが話しかけた。
「あの… 清水先輩」
「何? 椎崎さん」
「この辺りで幽霊が出るって本当ですか?」
「え???」
 突飛な質問に、聖奈子は戸惑った。元子がさらに付け加えるように言った。
「さっきこのへんに住んでいる人から聞いたんです。この辺りで毎晩幽霊がいっぱい出るって」
 絵里香と聖奈子はお互いに顔を見合った。去年の春合宿でもここを利用したのだが、その時はそんな話は聞いていなかったのだ。
「(何か変だな… )」
 聖奈子は何かを直感した。聖奈子は成績が学年トップであるだけでなく、頭の切れも良かった。それに加えてエンジェル戦士になって、ネオ‐ブラックリリーと戦っているうちに、直感力まで研ぎ澄まされてきていた。聖奈子は絵里香に向かって目で合図した。絵里香も何かを感じたらしく、聖奈子に向かって頷くと、元子とあゆみに向かって言った。
「分かった… その話は後でね。それからこの事は誰にも言わないでね」
 絵里香と聖奈子は部屋を出ると、美由紀がいる部屋へ行った。
 コンコン… 
「どうぞ」
 返事が聞こえたので、聖奈子が部屋のドアを開けた。部屋にはトランプをやっている三人の一年生部員がいただけで、美由紀の姿は見えなかった。
「美由紀は?」
「先輩なら、トイレだと思いますけど」
「どうかしたの?」
 美由紀が洗面所の方から歩いてきた。
「美由紀ちょっといい?」
「いいけど、どうしたの?」
「ちょっと一緒に来て。大事な話があるの」

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「分かった。ちょっと待ってて」
 美由紀は一旦部屋に入ると、財布を持って出てきた。絵里香たちは宿舎の玄関前に置いてある自販機でジュースを買い、テニスコートの近くにある東屋のベンチに腰掛けた。呼び出された美由紀は、絵里香と聖奈子が言っていた『大事な話』が気になっていた。
「ねえ、大事な話って何なの?」
「この辺りに出る幽霊の事なんだけど」
 美由紀は幽霊と聞き、飲もうとしたジュースを噴き出しそうなのを堪え、グッと飲みこんでから言った。
「ちょっと聖奈子やめてよ! 私そういうの苦手なんだから。まさか今晩、胆試しやるつもりじゃないでしょうね。私絶対やだよ!」
「そうじゃないのよ。さっき一年の子から聞いたんだけど、不自然だと思わない?」
「何が?」
「だって去年ここで合宿やった時、そんな話全然聞かなかったじゃないの。今年に限ってそんな話や噂があるなんておかしいよ」
「私もそう思うのよ。地元の人から聞いたっていうんだけど、聖奈子が言うように何かが引っかかるのよ」
 美由紀は首を傾げた。そしてしばらく考えて口を開いた。
「調べて… みる?」
 幽霊が大の苦手な美由紀は、オドオドしながら絵里香と聖奈子の顔色を覗った。
「美由紀。そんな嫌そうな顔しないでよ。何でも無かったらそれでいいじゃん。ただ、直感っていうか… 何かが引っかかるのよ。もしかすると」
 そこまで聖奈子が言いかけたところで、絵里香が口を挟んだ。
「ネオ‐ブラックリリーに関係があるとか… 」
「そこまでは言いきれないけど… 」
「とにかく調べてみようよ。まさか真っ昼間から幽霊なんて出るわけ無いから、夜になったらね」
 絵里香がそう言いながら時計を見た。美由紀は幽霊と聞き、相変わらず嫌そうな顔をしている。
「そろそろお昼になるよ」
「分かった。それじゃあとでもう一度話そう」
 聖奈子と美由紀は立ちあがり、絵里香も立ち上がって、セミナーハウスの建物に向かって歩き、中へ入っていった。
 
 昼になって、部員達が全員食堂に集まり、昼食タイムになって、食堂は賑やかになった。みんなの食事があらかた終わったところで、芳江と雅子が立ち上がって中央のテーブルの前に行った。二人の後ろには大きな黒板があって、芳江は雅子と二人で、用意していた白い大きな紙を2枚貼った。紙には合宿中の注意と、合宿のスケジュールが書かれていた。貼り終わったところで、芳江が説明を始めた。

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「みんな。これに注目。食事が終わったら、ここに書いてある通り、2時まで自由時間にします。そのあとから隣の集会室を使って親睦会とゲームをします。あとは各自ここに書かれていることを厳守して、絶対に勝手な行動を取らないように! それからさっきも言ったように、この敷地からは絶対に出ないこと。合宿前のミーティングで言ったように、店はここから3km行かないと無いし、コンビニはこの近くには一軒も無いから、その事を頭に入れておくように。いいですね!?」
「はーい!」
 敷地の外へ出てはいけないと言う事で、今回合宿が初めての一年生たちは不満そうな顔をした。確かにセミナーハウスの周辺は、店らしい店は無い。芳江が言うように、この辺にはコンビニは無く、一番近い売店までは3km歩かなければならなかった。ただし、ジュースなどの飲み物だけは、備え付けの自販機があった。売店が近くにない事については、絵里香たち二年生は去年もここに来ていたので分かっていたし、合宿前のミーティングでも説明されていたので、部員達はみなそれぞれお菓子類を買って用意していた。
 食事時間が終わり、2時まで自由時間という事になって、部員達はそれぞれのグループに分かれて散らばった。敷地内のテニスコートでテニスをやったり、敷地内を散策したり(セミナーハウスの敷地は広くて、公園のようになっている)、部屋で昼寝をしたり、また持ってきたゲームやトランプをしたりしていた。絵里香たち3人は、さっきの話の続きをするため、敷地内の静かな場所を捜して歩いた。敷地の北側のはずれの方には小さな丘があり、その頂上にはドーム状のあずまやがあったので、絵里香たちはそこへ行って、備え付けのベンチに腰掛けた。
「ふーっ… 毎度毎度の事だけど、近くに何もないって言うのは不便だな。それに外には出られないし」
「聖奈子。愚痴ったってどうにもならないわよ。それより、さっきの話の続きをしようよ」
「そうだね… スケジュールだと、夕食の後は寝るまで何もないから、その時に調べてみようか」
「でも、何処が幽霊の出る場所なのか、私たち何も分かっていないじゃない。それでどう調べようっていうのよ」
「たしかに… あたしたちは元子たちから聞いただけだから… そうだ! 本人から直接聞き出してみよう」
 聖奈子はそう言うと、携帯電話を取りだし、電話をかけた。
「元子? 今どうしてたの? うん… あゆみは? うん… そうか。ちょっと話があるから、あゆみと一緒に出てきてほしいのよ。あたしたち今ドームの所にいるから。悪いね。じゃお願いね」
 5分ほどして元子とあゆみがやってきた。
「先輩、話って何ですか?」
「二人ともそこに座って」
 元子とあゆみは、聖奈子に言われるままに、ベンチに腰掛けた。
「さっきあたし達に言った幽霊の事… 詳しく聞かせてくれない?」
 元子とあゆみはお互いの顔を見た。二人とも、そんな事で自分達は呼ばれたのかという感じだったのだ。元子たちがすぐに返事をしなかったので、聖奈子はさらに言った。
「その話何処で聞いたの?」
「あの… 今日ここに着く前に売店に立ち寄ったじゃないですか。そこで買い物して店を出て来たところですれ違った人から聞いたんです。その人はセミナーハウスの近くに住んでいる人で、私達が合宿でセミナーハウスに泊まるって言ったら、あのあたりで最近幽霊が沢山出て、自分達の集落でパニック状態になっているって言われたの。それに、セミナーハウスの近くでは昔罪人の処刑場があったとか、姥捨て山があったとか、色んな事を言われたんです。それで幽霊の正体が処刑された罪人や、捨てられた老人が野垂れ死にした怨霊だって… 」
 聖奈子はその話を聞き、やっぱりおかしいと思った。もし元子の言う事が本当なら、去年もその話が耳に入っていたはずである。
「話は分かった。それじゃもう戻っていいから。ゴメンね。呼び出したりして」
 元子とあゆみは立ち上がって部屋へ戻ろうとしたが、あゆみが何かを思い出したように言った。
「そういえば… その人… 他の部員達にも同じ事言ってました。さっきここへ来る途中に他の部屋でそんな話が聞こえてきて、おびえて泣いている子がいましたよ」
 そう言ってあゆみは元子と一緒に去っていった。
「やっぱりおかしいよ」
 聖奈子は自分が思っていたことを、そのまま絵里香と美由紀に言った。
「聖奈子の言う通りだわ。私たち去年ここに来た時、そんな話は一切聞いていないもの」
「そうね… 幽霊なんて全然聞いていないわ」
「この辺りに処刑場があったなんて、それらしい史跡も無いし、姥捨て山ならなおさらだわ」
「その幽霊の噂って臭うわね… もしかすると、その話をした人って、ネオ‐ブラックリリーに関係があったりして」
「考え過ぎだよ聖奈子。それに、もしネオ‐ブラックリリーが関係してるとしたら、一体何のためにそんな噂を広めるのよ。ネオ‐ブラックリリーって、そんな子供だましみたいな事して満足しているやつらなの?」
「美由紀。もっと広く考えて。やつらがそんな事だけで満足するわけ無いじゃないの。目的のためには何人だって人を殺すやつらなのよ。問題はその後の事なのよ。きっとパニックを起こさせて人を遠ざけ、その隙に一つの地域を占領するつもりなのよ」
「とにかく調べてみた方がいいわね。今夜完全に調べられなくても、帰ってからもう一度ここへ来る事だって出来るわ。まだネオ‐ブラックリリーが関係してるって決まったわけじゃないし、単なる噂だったらそれでいいじゃない」
「聖奈子の言う通りだわ。今ここであれこれ言ったってはじまらないし、とにかく夜を待とうよ。ところで絵里香、今何時?」
「1時半を回ったところよ」
「じゃ、そろそろ行こうか」
 絵里香たちはベンチから立ちあがると、ドームを後にして宿舎の方へ戻っていった。が、近くにネオ‐ブラックリリーの魔人が潜んでいた事に気付いていなかった。ドームのすぐそばには敷地の境があり、そこには2mほどの高さの柵があった。その向こう、つまり敷地のすぐ外にはため池があって、魔人はその中にいたのである。絵里香たちが去っていったのを見て、魔人は池の中から姿を現した。池から出て来たのはハス魔人である。ハス魔人は池の中でハスに化け、辺りの様子を覗っていたのだ。そこへ絵里香たちが来たため、ハスに化けたまま池の中に潜んでいたのである。

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 ハス魔人が岸へ上がると、何処からともなく数人の戦闘員が姿を現した。ハス魔人は戦闘員を伴い、アジトがある場所へ向かって歩き始めた。

      *       *       *       *
 
 この界隈での幽霊騒ぎは今年の3月ごろから始まったものだった。毎晩のように人魂や亡霊が多数出現し、近くに住む人たちを脅かしていたのである。最も出現する頻度の高かったのが、セミナーハウスの北側にある集落で、この辺りの集落の周辺では竹が鬱蒼と茂り、元々幽霊が出そうな場所だったので、幽霊が出たというだけで、人々が味わう恐怖は大きかった。集落には40人ほどがいたのだが、幽霊騒ぎに伴い、さらに人が神隠しにあったように消える事件まで発生したため、ここ二ヶ月の間で五世帯が集落から離れていってしまい、現在の人口は半分くらいに減っていた。
 事件の元凶は、絵里香や聖奈子が推測した通り、ネオ‐ブラックリリーだった。ネオ‐ブラックリリーはこの辺りの地勢を利用して幽霊騒ぎを起こし、集落から人を追い出して、その隙に乗じて地域一帯の広域占領を企んでいたのである。ネオ‐ブラックリリーは特殊な効果を持つ幻覚ガスを使い、幽霊がいるように見せかけていたのだ。その作戦任務を担当していたのが、ため池の中に潜んでいたハス魔人だったのである。ハス魔人はアジトに戻ると、司令室でクイーンリリーの言葉を聞いていた。
「作戦区域の状況はどうなっているのだ?」
「ハハーッ! 幽霊作戦が効果を上げ、住人達は次々と集落を離れています」
「子供騙しの作戦だが、以外と効果があるようだな。誰もいなくなったところで、我がネオ‐ブラックリリーがそのままその地域を頂くわけだ。ハス魔人! そのまま作戦を続行せよ。ただし、作戦行動を絶対に誰にも感づかれるな。目撃者は全て殺すのだ」
「かしこまりました。ところで大首領様、お耳に入れたい事があるのですが」
「言ってみろ」
「どこかの学校の生徒が、作戦エリア内に入ってきています。いかがいたしましょうか?」
「放っておけ。我々の姿を見られない限り手を出す必要は無い。幽霊の幻覚を見せて脅せば逃げ出すだろう。お前は自分の任務のみ全うすればそれで良い」
「分かりました」

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 この段階でクイーンリリーは、ハス魔人が見た学校の生徒達の中に、絵里香たちがいることを知らなかった。その事は絵里香達にとって幸いしていた。ハス魔人は会話を終えると、戦闘員たちの方へ向き直った。
「準備をしろ!」
 指令を聞いた戦闘員達は、その一部が幽霊作戦の準備のため、アジトの司令室から出ていった。

      *       *       *       *

 その頃、バトン部員達は親睦会を始め、一人ずつ自己紹介しながら自分の隠し芸をやったり、みんなでゲームをやったりして楽しんでいた。楽しい事はすぐに過ぎるものである。夕方になって、部員達は部屋の掃除と後片付けを始め、それらが終わったところで、芳江がみんなに向かって言った。

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「五時からお風呂に入れるので、入る人は食事時間までに済ませて下さい。食事は六時半から食堂でします。夕食の後は、各自自由時間にしますが、くれぐれも決まりは守るように」
 話が終わって、部員達は集会室を出た。絵里香たちも出て行こうとしたが、後ろから顧問の詩織に呼ばれた。
「3人ともちょっと一緒に来てくれる?」
「はい… 」
 絵里香たち3人は詩織の後をついていて、詩織が泊まっている部屋に入った。詩織は部屋の鍵をかけると、絵里香達に座るように促し、自分も座ってから、絵里香たちに向かって言った。
「あなたたちも、幽霊の話を聞いているわね?」
「はい」
「一年生たちの間で噂が広まっていたみたいだったから、それとなく探りを入れてみたんだけど、どうやら地元の人から聞いたという共通点があるわ。あなた達はどう思ってるの?」
「私たちはその話… おかしいと思ったんで、調べてみようと思ってます」
「調べるって?」
「まだ断定出来ないけど、何かが引っかかるんです」
「ネオ‐ブラックリリーに関係があるかもしれない… あなたたち、そう思ってるでしょう?」
 絵里香たちは詩織の言葉に驚きの表情を見せたが、詩織は構わず話を続けた。
「あたしも同感よ。今年に限ってそんな話が広まるのは不自然だわ。本当にネオ‐ブラックリリーかどうかは分かんないけど、あたしも協力するから3人で調べてみなさい」
「分かりました。それじゃ私たちはこれで失礼します」
 絵里香たちは詩織の部屋を出ると、風呂に入る用意をするため、それぞれの部屋へ向かった。

      *       *       *       *

 絵里香たちが風呂に入り、上がって部屋に戻ってきた時、時計は六時を回ったところだった。絵里香達より先に風呂に入った部員達は、部屋で休んでいたり、外へ出て涼んだりしていた。甲ノ峰のあたりは標高が高く、昼は気温が高くても夕方になると気温が下がるので、平地よりも涼しいのである。
 絵里香と聖奈子は部屋のベッドに横になって休んでいた。六時半近くになって、そろそろ下の食堂へ行こうとしていた時、突然部屋のドアを叩く音がしたので、絵里香はベッドから飛び起き、ドアを開けた。外には美由紀が立っていた。
「どうしたの美由紀。そんなに血相変えて」
「大変! 部員達が外へ出たっきり帰ってこないのよ」
「外へ!? どういう事? 敷地の外へ出ちゃダメだって言ってたのに」
 聖奈子もベッドから起きてドアのところまで来た。
「とにかくすぐ下りてきて! キャプテンも雅子先輩も真っ青になっているわ!」
 絵里香と聖奈子は、美由紀に促されて慌ただしく階段を下り、食堂に入った。すると、芳江と雅子が、まわりの他の部員達にあれこれと指図していて、部員達の何人かが携帯電話で何処かに電話をしている光景が目に入った。
「ちょっと聞いてくる」
 美由紀が芳江の方へ歩み寄ろうとした時、雅子と視線が合い、雅子の方からこっちへやってきた。
「あなた達! 葦辺たちを見なかった?」
「いえ… 見ませんけど」
 雅子に続いて芳江も絵里香たちのところへやってきた。帰ってこない部員は一年の葦辺悠美、森村千佳、柘植美和子の3人だった。3人は同じ中学の出身で、かつ三年間同じクラスだったので仲が良く、もう一人の同級生である小梨麗華と四人で、いつも一緒に行動する事が多かった。
「あいつら出たっきり帰ってこないのよ! あ~ぁ… 何処へ行ったのよ全く! あれほど敷地の外へ出るなって言ったのに… 帰ってきたらとっちめてやる!!」
 そこへ元子がやってきた。
「あの… 先輩。わたし… テニスコートのそばにある東屋で涼んでいた時、三人が出てきて敷地の北の方へ歩いていくのを見たんです」
「すると… 外へは出ていないって事?」
「はい。ずっと見てたんですけど、外へは出ていません」
 そこへ麗華が、泣きそうな顔をしながら携帯電話片手に駆け寄ってきた。
「ダメだよ! 携帯全然繋がらないよ」
「小梨。あなた… あの三人といつも一緒にいるのに、どうして今回に限って一緒じゃないの?」
「悠美たち… このセミナーハウスの周辺で幽霊が出るって噂を聞いて、私が怖がっていたもんだから、本当かどうか確かめてやるって言って、幽霊が出た場所へ行ったんです」
「そういう事か… 先輩。私たちが捜してきます」
 絵里香は聖奈子と美由紀を促して本館の外へ出ると、敷地内を悠美たちが歩いていった方へ向かって小走りに駆けていった。既に6時半で、空も暗くなり始めていた。絵里香たちを追うように、数人の部員達も外へ出て来た。
「きっと昼間私たちがいた場所の近くだよ。あのへんは森が深いし、幽霊の噂が一番立ちやすいよ」
 絵里香たちは昼行ったドームがある丘へ向かって行った。すると登り口の近くで誰かが四つん這いになっているのが見え、聖奈子が指差しながら言った。
「あそこに誰かいる!」
 絵里香たちは足早に駆け寄った。そこにいたのは三人のうちの一人、美和子だった。美和子は絵里香たちの姿を見ると、立ち上がろうとしたが、足が震えて思うようにいかず、よろけて転びそうになったところを絵里香に抱きかかえられた。
「もう大丈夫よ。一体何があったの!?」
「お… お… お化け… 幽霊… 」
 美和子はしどろもどろに答えた。
「あとの二人は? 悠美と千佳はどうしたの?」
 美和子は口を聞く事も出来ないくらい震えていて、絵里香の言葉に対し、ドームの方向を指さした。気が付くと、後ろの方から他の部員達も駆けてきた。
「ここにいて! 今みんな来るから」
 そう言って絵里香は聖奈子と美由紀を連れ、ドームがある丘を一気に駆け上った。しかし、ドームの周辺を見まわしたが、誰もいる気配が無い。

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「誰もいないじゃん」
「悠美ぃーっ! 千佳ぁーっ!」
 絵里香たちは悠美と千佳の名を呼んだ。すると、絵里香たちが登ってきたところと反対側の方でガサガサという音が聞こえてきた。
「こっちだ!」
 聖奈子が音の方向を指差し、真っ先に向かった。すると、腰を抜かして動けない悠美と千佳の姿があった。聖奈子は悠美と千佳の傍に駆け寄ると、二人の顔を見た。すると二人とも真っ青な顔をして、体がガクガクと震えている。よほど怖いものを見たとしか考えられなかった。二人は聖奈子の姿を見ると、泣きながら聖奈子に抱き付いてきた。
「もう大丈夫だから! 一体何があったのか話して」
「聖奈子。今の状態じゃ何聞いても無理だよ。とにかく連れていこう」
 絵里香が駆け寄ってきて聖奈子に言った。そうこうしているうちに、芳江を先頭に数人の部員達もやってきた。
「悠美と千佳は見つかったの?」
 芳江は聖奈子に抱きついて泣きじゃくっている二人を見て、近付こうとしたが、美由紀が芳江に言った。
「キャプテン。今の二人に何を言ってもダメよ。完全に腰を抜かしているから。とにかく早くここから連れていこう」
「分かった。みんな手を貸して」
 芳江の声に、一緒に来た部員達は、腰を抜かしている二人を抱えるようにして丘を下りた。その光景を見ながら、絵里香たち3人も歩き始めた。が、聖奈子が何かを感じたのか、絵里香と美由紀に言った。
「ねえ… 何か変な臭いがしない?」
「臭い?」
「そう! 何だか甘ったるいような感じの・・・ そうそう。花の香のような匂いよ」
 今まで気付かなかったが、絵里香と美由紀も聖奈子に言われて何かに気付いた。
「そう言えば確かに何か臭うわ」
「キャアーッ!」
 いきなり美由紀が叫んだ。
「どうしたの美由紀!?」
 美由紀は真っ青な顔をしながら、ため池がある方向を指さした。絵里香と聖奈子がその方向を見ると、ため池の水面上に白いものがゆらゆらと揺れている。よく見ると人の形に見えた。
「ゆ… 幽霊!?」
 絵里香はそう言いながら目を擦ってその物体を見据えた。美由紀は怖がって絵里香の後ろに下がり、絵里香の両腕を両手で握り締めている。さらに霧がかかったようになって、近くの森の中から、数体の白っぽい物体と人魂が姿をあらわした。さすがの絵里香と聖奈子も、腰を抜かしそうになった。が、すぐにその場から一目散に駆け出し、先に行った部員達を追って丘を駆け下りた。
「ふーっ… 何よあれ」
「怖いというより、ビックリしたわ」
「絵里香ぁ… 聖奈子ぉ… 早く行こうよ… 」
 美由紀は絵里香の腕をつかんで引っ張りながら言った。
「分かった分かった! ちょっと痛いから手放して」
 絵里香は美由紀の手を振り解くと、先頭に立ってセミナーハウスの本館に向かった。本館に着いて中に入ると、夕食の準備が始まっていた。夕食はセルフサービスで、それぞれ自分の分をカウンターから持ってきて食べるという仕組みになっていた。食堂を見渡すと、さっきの三人の姿が見えない。そこへ芳江がやってきた。
「あの3人… 何があったか分からないけど、相当怖がってるみたい。だから部屋に連れていって休ませたから」
 芳江はあの三人に何があったんだろうといった顔をしながら、さらに絵里香たちに言った。
「少し経てば落ち着くと思うから、そうしたら食堂に呼んで食べさせる事にしたわ。さ、あなた達も席に着いて」
 絵里香達は芳江に促され、食事を持ってきてテーブルに置き、席に着いた。これから食事が始まるという時に、部屋で休んでいたはずの三人が食堂に入ってきた。
「あなたたち… 大丈夫なの?」
 芳江が心配して三人の元へ歩み寄った。三人とも、まだ怖がって震えているようだった。が、悠美が芳江に向かって言った。
「部屋で休んでいるより、みんなと一緒にいたほうが良いです… 」
「そう… 分かった。じゃ席に着いて」
 芳江がみんなに向かって『いただきます』の挨拶をし、みんながそれに応えて、食事が始まった。

      *        *       *       *

 食事が終わり、後片付けを終えて、部員達は食堂を出て自分の部屋へ戻ったり、食堂でテレビを見たりしていた。しかし、さっきの事件のせいか、さすがに誰も外へ出ようとする者達はいなかった。例の三人組は、食堂でテレビを見ていたが、大分落ち着きを取り戻していた。芳江も雅子も三人が決まりを破ったわけではなかったので、あえて三人を責めなかったが、何であんな事になったのか、ずっと不思議がっていた。三人は幽霊を見たと言ったのだが、芳江も雅子も三人が暗がりの中で、何かの動物が走っていくのを幽霊と間違え、怖くて腰を抜かした程度の事だと思っていた。
 絵里香たち三人は一旦自分達の部屋へ戻ってから、再び出てきて玄関の前に集合した。美由紀はさっき見た幽霊が怖くて、嫌そうな顔をしている。しばらくして詩織もやってきた。
「行こうか」
「はい」
 詩織の言葉に、絵里香たちは頷くと、靴を履いて外へ出た。目的地はさっき幽霊を見た場所である。既に8時近くなっていて、外は真っ暗だ。敷地の中は所々に照明灯が灯っていたが、絵里香たちは懐中電灯を持ってドームがある丘へ向かった。
 絵里香たちは丘を登り、ドームにあるベンチに腰掛けて、辺りの様子を覗った。するとしばらくして、さっき感じた甘ったるい臭いがあたり一面に立ち込めてきて、霧がかかってきた。
「この臭い… もしかして… 」
 詩織が何かを思い出したかのように絵里香たちに言った。
「みんな! これは人工的に作られたガスだと思うよ」
 そう言った瞬間、ため池の水面上に白い服を着た人間の亡霊があらわれた。美由紀が叫びそうになったのを見て、絵里香は両手で美由紀の口を塞いだ。
「美由紀我慢して! あれは幽霊なんかじゃないよ。幻覚だから怖がらなくてもいいよ」
「幻覚?」
「そう。先生が言ってるように、ガスで幽霊の幻覚を見せて、パニックを起こさせようとしているんだわ。きっとガスの中に、人間の脳を操って幻覚を見せる成分が含まれているのよ」
「すると… 何処かでそのガスを発生させているって訳ね」
 そこまで話が進み、もはや三人とも疑わなかった。明らかにネオ‐ブラックリリーが何かをしているのだと確信したのだ。
「聖奈子、美由紀。変身だよ」
 そう言うと同時に絵里香はポーズをとった。
「エンジェルチャージ!」
 少し遅れて聖奈子と美由紀も変身した。エンジェルに変身した絵里香たちは、幽霊に向かって攻撃ポーズをとった。

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「トリプルエンジェルスマッシュ!!」
 三人分のエネルギー波が、幽霊に向かって放たれた。エネルギー波は幽霊を包み込むように、ため池の水面に達してそこで炸裂した。同時に水が飛び散り、絵里香たちがいる場所まで水飛沫が飛んできた。しばらくして静寂が戻ってきた時には、甘ったるい臭いは消え、霧も晴れて幽霊の姿も見えなくなっていた。エネルギー波の爆発がガスを吹き飛ばしたのだ。
「幽霊も人魂も消えたわ。やっぱり幻覚だったのね! これではっきりしたわ」
 絵里香がそう言った時、ため池の中から奇声とともにネオ‐ブラックリリーのハス魔人が飛び出し、空中で一回転してドームの近くに着地した。
「キエェーッ! 幽霊の幻覚を見せて脅かせば、腰を抜かして逃げると思っていたのに、まさかエンジェルの小娘どもだったとは!」
「出たわね!? ネオ‐ブラックリリーの怪人!! お前達の目的は何なの!?」
「知れた事よ! お前達小娘どもを殺す事だ。これでも食らえ」
 ハス魔人は、頭の上の突起からガスを放出し、両目から催眠光線を発射した。絵里香達の周辺でガスが充満し、あたり一面が霧に包まれて視界がきかなくなってきた。絵里香達は高濃度のガスと催眠光線のために、強い幻覚症状に陥り、三人の目にはハス魔人が多数いるように見えた。
「やばい! 幻覚ガスだわ」
「みんな気をつけて!」

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「キエェーッ!!」
 ハス魔人が突進して来て、絵里香達に当て身を食らわし、さらに次々とパンチやキックを繰り出してきた。ガスと催眠光線で意識が朦朧としていた絵里香達はハス魔人の攻撃をかわしきれず、一方的にパンチやキックを食らった。しかし、その中から絵里香がハス魔人の攻撃をかわし、ブレードを出して身構えると、ハス魔人に向けて振り下ろした。
「ファイヤートルネード!」

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 帯状の炎が渦を巻きながら周辺のガスを吹き飛ばし、焼き尽くしながらハス魔人に向かってのびていった。ハス魔人はジャンプすると、ため池の中に飛びこんだ。ハス魔人を追ったエネルギー波はため池に達すると激しく爆発し、水柱を高く上げた。水面の波動がなくなって静かになった時、そこにはもはや何者も存在している気配は無かった。魔人がいなくなって、絵里香はホッとしたのか、その場に膝をついた。そこへ聖奈子と美由紀がフラフラしながら絵里香の元に寄ってきた。そこへ森の中から魔人の声が響いてきた。
「小娘ども! 今日の所は痛み分けだ。この次は必ずお前達を殺してやる! キエェーッ!」
「逃げられたか… 」
 絵里香たちの後ろから声がして、絵里香たちは振り向いた。すると詩織がドームの柱に寄りかかりながら立っていた。詩織もガスと催眠光線にやられ、立っているのがやっとだった。
「先生!」
 絵里香たちは変身を解くと詩織の元に駆けより、三人がかりで詩織を支えた。
「先生。しっかりして下さい」
「あなたたちこそ大丈夫なの? 随分フラフラしてるじゃないの」
 その時別の声が響いてきた。
「ワハハハハハハハ!」
「あの声は!?」
 詩織がその声に過敏に反応し、あたり一面を見まわした。
「どうしたんですか先生」
「あの声はクイーンリリーの声よ!」
「クイーンリリー!? ネオ‐ブラックリリーの大首領の!?」
「我々はここでの作戦を全て放棄し、新たな作戦を行うために別の場所へ移動する。いつの日か必ずお前たちを血祭りに上げ、この世から抹殺してやる。その日を待っているがよい。ワーッハッハッハッハ!」
「うるさい! お前たちこそあたし達がやっつけてやる!!」
 聖奈子は石を拾うと、ため池めがけて投げつけた。しかしクイーンリリーの声は既に消え、あたり一面には静寂だけが漂っていて、聖奈子が投げた石がため池の中に落ちる音だけが響き渡った。
 その時誰かが丘を登ってきて、絵里香達の前に立った。月明かりが絵里香達の正面であったため、絵里香達からは影にしか映らなかったが、影は二つあった。その影が近付いてきて、ようやくキャプテンの芳江と、絵里香たちと同級生の孝子だと分かった。
「キャプテンじゃないですか。それに孝子… 」
「キャプテンじゃないですかじゃないよ。あんた達こんな所で何してんのよ」

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 絵里香はすぐに返事が出来なかったが、芳江は絵里香達に支えられている詩織の姿を見た。
「先生! 先生じゃないの。一体どうしたんですか?」
「ゴメン心配かけて。散歩してたら転んで足挫いちゃって… その時たまたまやってきた赤城さん達に助けられたのよ」
「そうだったの… そんな事より、さっきこのへんで何かが爆発したような大きな音がしたんだけど、あんた達何だか分かる?」
 大きな音は、絵里香達がネオ‐ブラックリリーの怪人と戦っていた時、絵里香のファイヤートルネードがため池で炸裂した時のものだ。芳江と孝子はテニスコート近くの東屋で休んでいた時に、その音を聞き、やってきたのだ、絵里香達が返事に困っていると、詩織が芳江に言った。
「このへんと言うより、あっちの森の向こうからだと思うよ。でも、何の音かは分からないわ。あたし… その音でビックリして転んだのよ」
「そう・・・  とにかく早く戻って手当てしなきゃ。赤城さん、あなた達で先生を支えて連れてきて。私… 先に戻って救急箱を用意してるから」
「分かりました」
 芳江は孝子を連れて、先に丘を下りていった。絵里香達は詩織を支えて丘を下りた。
「先生。さっきはありがとうございました」
「いいのよ。あたしはあんた達がエンジェル戦士だって、ちゃんと知ってるんだから。でも、このままじゃやつらとは戦えないわね。まだあんた達の力は完全じゃないわ」
「 ・・・ 」
 絵里香達は無言のまま、詩織を支えて本館への道を歩いていった。

      *        *       *       *

 アジトでは、負傷して戻ってきたハス魔人に、大首領クイーンリリーが指示を送っていた。
「お前にはもう一度チャンスをやる。再改造をするのだ」
「ありがとうございます。この次こそは必ず小娘どもを抹殺いたします」
「よし! ハス魔人。お前は直ちにこのアジトを放棄し、次の指令を待つのだ。今やつらと事を構えるのは非常にまずい。我々の意図を知られては本作戦に支障をきたす。我がネオ‐ブラックリリーの前進基地を作り、世界征服作戦を容易に進めるためにも、小娘どもが作戦区域にいては困るのだ」
「ハハーッ! かしこまりました。大首領様」
 大首領の声が消え、付近にいた戦闘員達が慌しく動き始めた。そして白衣姿の科学戦闘員も現れて、ハス魔人を連れて司令室を出て行った。

      *        *       *       *

 セミナーハウスに戻った絵里香達は、詩織の取り成しで芳江に怒られずにすんだ。絵里香達は誰もいない食堂で、詩織と一緒に対策を考えていた。この地域でネオ‐ブラックリリーが作戦行動をしているという事は、他の部員たちが巻き込まれる恐れがあったからだ。
「やつら… また襲ってくるかな?」
「分からない… でも警戒はしていた方がいいかもしれないわ」
「みんな… とにかく今は様子を見よう。やつらの作戦意図は、作戦内容からすると、おそらくこの地域の占領を計画していたと思う。きっとこの地域に前進基地でも作ろうとしていたのよ。でも、私たちに幽霊事件の真相を知られたという事で、大首領クイーンリリーが言ってたように、やつらはこの地での作戦を放棄して、別の作戦を既に準備しているわ」
 詩織の予感は当たっていた。何故ならば、ネオ‐ブラックリリーは既にこの地域での作戦を中止し、アジトを放棄して移動していたからだ。クイーンリリーとしても、スカーレットエンジェルとの戦いでブラックリリーを壊滅させられた経験から、まだネオ‐ブラックリリーの組織力が充実していない今、本格的な作戦は控えていたので、ハス魔人に作戦の中止と引き揚げの命令を出していたのだ。詩織はさらに話を続けた。
「あなた達は今までのことよりも、これからの事を考えた方がいいわ。今のあなた達の力では、ネオ‐ブラックリリーの世界征服作戦を阻止する事なんて、到底無理よ」
「それじゃ、どうすればいいの?」
 詩織の言葉に、聖奈子が反発するように言った。
「聖奈子落着いて」
「でも先生の言い方って… トゲがあるよ」
「清水さん。気に障ったなら謝るわ。でも、今あたしが言った事は紛れも無い事実よ。やつらが作り出している怪人だって、これからもっともっと強力になってくるし、やつらの作戦が本格的になったら、逆にあなたたちが危ないわ。こんな時美紀子がいてくれると助かるんだけど、今美紀子は大学の研究室で、大事な研究があるから… とにかく、あなたたち三人だけでは、これからの戦いには無理が出ると思う」
 詩織の言葉に、絵里香たちは何も言い返せなかった。
「みんな、今日の所は部屋へ帰って休みなさい。もうすぐ消灯時間よ」
「分かりました」
 絵里香たちは詩織に一礼すると、自分達の部屋へ帰った。詩織も絵里香たちが食堂から出ていったのを見届けると、自分の部屋へ帰ってベッドに横になった。
「(ダメだ… あたしじゃ役不足だわ… あたしの力では、あの子達のサポートは出来ない。早く美紀子に帰ってきてもらわないと、このままじゃあの子たちが危ない)」

      *        *       *       *

 翌日…
 朝から絶好の行楽日和だった。部員達は朝食を終えると、部屋から荷物を持ってきて、順番にバスに乗った。今日の予定は庚申岳のハイキングである。それが終われば学校へ戻るだけである。全員が乗ると、バスは庚申岳の登山口へ向かって発車した。
 絵里香たちは不安だった。ネオ‐ブラックリリーがこの付近で動いている以上、いつ襲われるか分からないのだ。それに今は自分達だけでなく、バトン部の部員達も一緒なのだ。もし今襲われれば、何の関係も無い部員達まで巻き込んでしまう。
 やがてバスは登山口に到着し、部員達は次々とバスを降りて、広場に集合した。
「それではこれから庚申岳に登ります。体力に自身の無い人から順番に行きますが、絶対に列を離れて勝手に行動しないように」
「はーい!」
 部員達の声が返ってきて、芳江を先頭に登山口から次々と登山道を歩き始めた。美由紀は列のほぼ真ん中を歩き、絵里香と聖奈子は一番後ろからみんなの後をついていった。詩織は昨日足を挫いた事になっていたため、芳江の計らいでケーブルカーに乗り、先に頂上へ向かっていた。
 庚申岳は標高950mで、ケーブルカーの設備もあり、登山経験の無い素人でも楽に登る事が出来るくらいの山で、山頂には売店もある。絵里香と聖奈子は部員達の一番後ろから、前を歩く部員達を眺めながら登山道を歩いていた。今の所はこれといって変わった様子はない。ネオ‐ブラックリリーが襲ってくるような気配も無く、登山道は静かで、時々鳥の囀りがこだましてくる。
 そうこうしているうちに、みんなが頂上にたどり着き、それぞれのグループに分かれて昼食タイムになった。絵里香たちの心配を余所に、昼食タイムも終わり、休憩時間も終わって、みんな一斉に山を下り始めた。登りと違い、下りは楽だったので、一時半頃には全員が麓まで下りてきて、待っていたバスに乗りこんだ。全員が乗ったのを確認した運転士は、バスを発進させた。後は学校へ戻るだけである。順調に行けば四時頃には学校に着いて解散の予定である。
 途中何の障害も無く、バスは無事に学校に到着して、春合宿は終わり、全員解散という事になった。
「それではこれで解散にします。明日から学校なので、今日は家に帰って十分疲れをとるように」
「はーい!」
 部員達は返事をすると、それぞれ自分の家に帰っていった。
「あなた達も今日は帰ってゆっくり休みなさい」
 詩織は絵里香たちにそう言って労い、絵里香たちも家に帰っていった。

      *       *       *       *

 ネオ‐ブラックリリーは新たな作戦のため、早々に作戦を放棄して引き揚げた。次はどのような作戦が待っているのか… 頑張れ! エンジェルス。

                                            (つづく)


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 次回予告
 ◎第5話『龍神沼の秘密』

 5月の連休を利用して、絵里香たちは佳奈子と篤志を伴って大沼ヶ原にキャンプへ行く。だが、そこではネオ‐ブラックリリーが次なる作戦を展開していて、エンジェルスをおびき出すべく、手薬煉引いて待ち受けていた。その中にまんまと入り込んでしまった絵里香たちは、ネオ‐ブラックリリーの陽動作戦と罠にはまってしまう。

 次回 美少女戦隊エンジェルス第5話『龍神沼の秘密』にご期待ください。

※おまけ

明報学園高校バトン部のメンバーたち

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テーマ : ライトノベル
ジャンル : 小説・文学

第5話『龍神沼』の秘密

2012年 04月29日 11:10 (日)

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 新間町北部にある烏帽子山は標高755mで、その北麓には大沼ヶ原湿原地帯が広がり、広大な湿原の中に大小30の沼が点在している。最も大きい弁天沼周辺はキャンプ場やバンガローがあり、シーズン中はキャンプやハイキング・散策などで賑わう。また、この地域一帯はバードサンクチュアリに指定されていて、湿原地帯全域と、湿原地帯から10km以内の地域は全て禁猟区となっている。
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 その湿原地帯の中にある龍神沼の近くで今、恐ろしいことが起きようとしていた。龍神沼は、大沼ヶ原湿原地帯の中にある沼の一つで、弁天沼の東約2kmの場所にあり、沼の周囲は約900m、最大水深は約10mで、水が濁っていて、透明度は殆どない。
 4月の下旬、龍神沼のほとりを銃を持った2人の男が歩いていた。この二人は密猟者だった。男たちは禁猟区の外で獲物を探していたのだが、今日に限ってこれといった獲物が見つからず、禁猟区の方へ入ってきたのだった。そして龍神沼の近くに来た時、沼の畔にある背丈の高い草むらの中からガサガサという音が聞こえてきて、男達は銃を構えて音のする方向へ向けた。しかしそのあとは何も聞こえてこない。焦れた男達は草を掻き分けて音がした方向に向かって歩いたが、何も見つからず、沼のほとりに達した。
「何でぇ! 何もいねえじゃねえか! チキショー!」
「お、おい! あれは何だ!?」
 もう一人の男が沼の中を指差して叫んだ。
「何だよ一体… 」
 男達は二人で沼の中を見た。すると、緑色に濁った水の中に、かすかに金属のようなものが見えた。さらによく見ると、それは建物のようにも見えた。すると突然後ろから奇声が聞こえ、振り向いた男達の前にピラニア魔人が立っていた。

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「ワーッ! か、か、怪物!」
「ギョギョギョーッ! お前ら! ネオ‐ブラックリリーのアジトを見たな!? 生かしては帰さんぞ」
「ネ・・ ネオ… 俺達そんなもん知らねえよ」
 2人の男は魔人の姿に腰をぬかしそうになりながらも、持っていた銃を構えて魔人目がけて滅茶苦茶に撃った。だが弾が当たっているのに魔人は平然と歩き、自分たちの方へと近づいてくる。そしてついに弾がなくなった。
「ギョギョーッ! 馬鹿めぇ。そんなものが俺に通用するかァ!」
 ピラニア魔人は男の一人に飛びかかり、大きな口で男の頭に噛みついた。
「ギャアァーッ!!」
 ピラニア魔人はそのまま男を噛み砕いて丸呑みにした。
「うわーっ! た… 助けてくれぇーっ! 化け物だぁーっ」
 もう一人は持っていた銃と荷物を放り出して逃げ出したが、その前にハス魔人が立ち塞がった。
「馬鹿め! 逃げられるとでも思ってか! キエェーッ! ネオ‐ブラックリリーの秘密を知ったものは必ず死ぬのだ」」

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「あわわわ… 」
 前後を魔人に挟まれた男は、恐怖のあまりその場に立ちすくんだ。その男めがけて、ハス魔人は持っていたサーベルで男の体を突き刺した。
「ギャアァーッ!!」
 男はそのまま倒れて絶命した。
「ざまあ見ろ! アジトに近付く者は皆殺しだァ! ギョギョーッ!」
「キエェーッ!」
 ハス魔人は奇声とともに口から白い液体を吐き出し、それが男の死体にかかると、死体がドロドロに溶けて消滅した。
 ネオ‐ブラックリリーのアジトは龍神沼の湖底に作られ、そう簡単には発見できないようになっていたが、二人の男は偶然それを見てしまったために殺されたのだった。しかし、この事件は報道されなかった。二人の男が密猟者であった事と、銃声を聞いた者がいなかった事。さらに、二人とも魔人に食われたり、毒液で溶けてしまったため、何の手掛かりも残されておらず、遺留品も全て処分されていた。そして龍神沼の近辺には、弁天沼からの遊歩道があるだけで、地元の人でも滅多に足を踏み入れない場所だったため、肝心要の目撃者がいなかった。
 ネオ‐ブラックリリーは龍神沼の底に作ったアジトを足場にして、この広大な湿原地帯の地形と地勢を利用し、新たな作戦を開始しようとしていた。そのためアジトに近づく者をことごとく抹殺していたのである。

      *       *       *       *

 事件から約一週間が経過した。今日は日曜日。現在はゴールデンウィークの真っ最中で、今日を含めて連休があと3日続く。今日から絵里香達は一泊二日の予定で大沼ヶ原へキャンプに行く事になっていた。現在時間は午前7時半… 絵里香と聖奈子は、美由紀と待ち合わせのため、聖奈子の妹の佳奈子とともに、鷲尾平駅構内にいた。最初は絵里香達3人だけの予定だったのだが、佳奈子が一緒に行きたいと言い出し、佳奈子をメンバーに加える事になった。そこまではまだよかった。さらに美由紀の弟の篤志も一緒に行く事になったのだ。
 話は一日前に溯る。美由紀が旅行で二日も家を空けると聞き、弟の篤志が一緒に連れていってくれとせがんだのだ。両親は北海道へ行っていて家にいないし、今年の連休はこっちに帰ってこない。だから姉が家を空ければ、家にいるのは自分一人だけだ。篤志としては、部活ならしょうがないけれど、遊びに行くために家を二日も開けられ、自分一人が留守番するのは我慢出来なかったのである。美由紀自身も篤志の言い分には一理あり、篤志に対して後ろめたさも感じていたので、渋々篤志のいう事を聞いて、一緒に連れていくことにしたのである。そこで美由紀は絵里香と聖奈子に電話して事情を説明し、なんとか了承してもらった。

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 改札から出てきた美由紀は絵里香達を見ると、すまなそうな顔をしながら絵里香達の方へやってきた。
「ごめーん絵里香。聖奈子」
 篤志は絵里香達と視線が合うと、絵里香達に向かって軽く会釈した。絵里香と聖奈子は美由紀の腕をつかむと、少し離れた所に連れていった。
「昨日の電話で事情は分かったけどさ、どうすんのよ美由紀。予約しているバンガローは一つだけなのに、篤志君は男の子なんだよ。私達と一緒ってわけにいかないじゃん」
 聖奈子の声が大きかったので、離れていた佳奈子と篤志にまで声が聞こえてしまい、佳奈子と篤志が絵里香達の所へ寄ってきて、篤志が絵里香達に向かって言った。
「ごめんなさい。俺… 姉貴が二日も旅行で家を空けちゃうのが我慢できなくて、一緒に行きたいって言ったばっかりに、こんな事になっちゃって」
「私はいいよ。篤志君だったら、一緒にいたって違和感ないから」
 佳奈子がボソッと呟いたのを聞き、聖奈子が佳奈子の顔を見た。
「そういう問題じゃないよ」
 絵里香はそう言ってから言葉を止めて、少し考えこんでから、もう一度口を開いた。
「キャンプ場に着いたら、二部屋のバンガローを頼んでみようよ。もし、空きがあったらそっちにしたらいいじゃない」
「空きがなかったらどうすんの?」
「その時はその時! 何とかなるわよ」
 絵里香がそう言いきったので、聖奈子も美由紀も二の句が告げられなくなった。実を言うと、みんな篤志が同室になる事には反対ではなかった。ただ、当初の予定より人数が増えてしまったため、バンガロー一つで大丈夫かどうか不安だったのだ。
「みんな揃った事だし、そろそろ行こうか」
 絵里香の一声で、みんなは切符を買うと駅の改札を通過し、ホームに上がった。目的地までは鷲尾平から電車とバスを乗り継いで約2時間である。やがて電車がホームに入ってきて、絵里香達は電車に乗りこんだ。絵里香たちはまだ知らなかったが、今日までに大沼ヶ原で、例の密猟者以外に三人が行方不明になっていた。三人とも地元の人で、山菜取りへ行って失踪したのだが、この近辺では毎年必ずそういう事件や事故が起きるので、地元の警察や青年会では注意を呼びかけていた。

      *       *       *       *

 ここは龍神沼の水底にある、ネオ‐ブラックリリーのアジトである。ネオ‐ブラックリリーは大沼ヶ原湿原地帯一帯の地勢を利用し、大規模な作戦を展開しようとしていた。その作戦のために龍神沼の水底にアジトを設け、前進基地にして、再改造してパワーアップしたハス魔人と、新たに改造したピラニア魔人を、作戦責任者として送り込んでいた。が、この作戦自体は陽動作戦、つまりこの地域にエンジェルスを誘い込む事によって時間を稼ぎ、あわよくばエンジェルスを抹殺しようというもので、本当の作戦目的は別にあった。しかし、これだけ大っぴらに事件を起こし、数人を殺したにもかかわらず、新聞ではたいした事件として扱われておらず、絵里香たちも大沼ヶ原でネオ‐ブラックリリーが行動している事に、まだ気付いていなかった。
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ハス魔人。ピラニア魔人。これだけ大規模な陽動作戦を行っているというのに、エンジェルスの小娘どもの動きがないのはどういうわけなのだ!?」
「ははっ! アジトがある龍神沼の周辺は滅多に人が出入りしないため、アジトに近付く者を殺しても、何の効果もありません」
「言い訳はよい! 水神ダムの発電施設に強力な電気を流し、発電所とダムを破壊して下流の町に洪水を起こさせ、さらに強力な電気で町中を破壊する作戦を進めるにあたり、その作戦を小娘どもに邪魔されては困るのだ。それで小娘どもを湿原地帯に引きつけるための陽動作戦として、龍神沼にアジトを設け、お前達を送りこんでいるのだ」
「大首領様。お言葉ですが、人が殆ど入らない龍神沼の周辺で行動しても、これ以上の進展は望めません。小娘どもを誘い出すならば、もっと作戦区域を広げる必要があります。たとえば、キャンプ場がある弁天沼周辺ならば… 」
「よろしい。とにかく作戦進行はお前達に任せる。どんな手段を使ってでも、小娘どもを大沼ヶ原湿原地帯の中に誘いこむのだ」
「かしこまりました。大首領様」
 クイーンリリーとの会話を終えたピラニア魔人とハス魔人は、後ろに立っていた戦闘員たちの方を向いた。
「作戦区域を弁天沼周辺まで広げる。すぐに行動開始!」
「かしこまりました!」
 戦闘員達は一斉に動き出し、一部の戦闘員達がアジトを出て、作戦区域に向かっていった。それに続いてピラニア魔人とハス魔人もアジトから出て行った。

      *       *       *       *

 その頃、絵里香たちは電車からバスに乗り継ぎ、大沼ヶ原に向かって走るバスの中にいた。
『ご乗車有難うございました。間もなく終点大沼ヶ原入り口でございます。御降りの際はお忘れ物のない様ご注意下さい』
 アナウンスがあって、絵里香たちはそれぞれ荷物を持って降りる準備をした。やがてバスは終点の停留所がある広場に入って止まった。ゴールデンウィークのせいか、乗客も結構多く、一番後ろに乗っていた絵里香たちは他の乗客がみんな降りるのを待ってから、バスを降りた。
「うわーっ! いい眺め」
「空気も美味しいね」
 絵里香達は自然公園入り口の看板がある場所で荷物を置き、記念撮影をすると、荷物を持って弁天沼へ向かって歩き出した。バス停がある広場から弁天沼のキャンプ場までは約10分である。キャンプ場に着いた絵里香達は、早速キャンプ場の管理事務所へ向かった。当初予約したバンガローを変えてもらうためである。しかし、他のバンガローは予約が既に一杯になっていたので、変える事が出来ず、仕方なく予約したバンガローを使う事になった。が、事情を知った事務所の計らいで、余っていたテントを無料で一つ提供してもらい、バンガローの傍にそのテントを設置する事も許可してもらった。絵里香は事務所が出した書類に必要事項を書き、サインをして人数分の寝袋や炊事道具、食器を借りた。一通りの手続きが済むと、職員は壁に貼られた地図と、その隣に張ってある注意書きを指差して言った。
「テント用の資材と、寝袋及び炊事の道具類はあとで私達が持っていきます。それから、ここに書いてあるよう に、行方不明の事故が発生してるので、気をつけてください」
 絵里香が注意書きを見ると、そこには遭難事件の事が書かれていた。
「(山菜取りに行ったまま、三人が行方不明… か)」
 行方不明になった人は、みなネオ‐ブラックリリーに殺されていたのだが、誰もそんな事は知らなかった。実際には5人が犠牲になっていたのだが、例の密猟者達は人数に入っていなかった。管理の職員はさらに続けて言った。
「今日まで三人が行方不明になってるんですよ。遺留品すら見つからない始末で、まるで神隠しに遭ったみたいに忽然と消えてしまってるんです。我々も原因が分からないし、警察の捜査も行き詰まってしまって… とにかく今のところは、こういう形で警告するしかないんです」
「分かりました」
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 絵里香は管理事務所を出ると、外で待っていたみんなを連れてバンガローに向かい、管理事務所から借りた鍵でバンガローの扉を開けた。絵里香は荷物を部屋に入れると、聖奈子と美由紀に目で合図した。二人とも『何かあったな』と直感し、部屋に荷物を置くと絵里香の後をついていった。絵里香は弁天沼のほとりに来ると、聖奈子と美由紀の方を向いた。
「二人とも、もっと近くに来て」
 絵里香の顔を見て、聖奈子と美由紀は絵里香の左右に並んで立った。
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「絵里香。真剣な顔してるけど、何かあったんだね?」
「うん… さっき聞いたんだけど、この周辺で山菜取りに出かけた地元の人が三人行方不明になってるんだって。不思議な事に、遺留品すら見つかっていないそうよ。だから、散策する時は規定の遊歩道以外は絶対に行かないようにだって」
「遺留品も見つかっていないって… ?」
「ネオ‐ブラックリリーかもしれない」
 聖奈子が呟くように言った。
「聖奈子考えすぎだよ。こんな所で… 」
 美由紀が言いかけたのを遮るように、聖奈子は話を続けた。
「絵里香が事務所にいる間、あたし売店へ行ったんだけど、そこで地元の人から変な話を聞いたのよ。龍神沼の近くで変な格好をした集団と、沼から出てくる魚のお化けを見たって」
 聖奈子の話を聞いて、絵里香の表情が変わった。
「聖奈子。その人、他に何か言ってなかった?」
「その人が言うには、一昨日山菜取りに行って、龍神沼のあたりで休んでいたら、変な格好をした集団がやってきたんで、藪の中に隠れて様子を見てたんだって。そしたら沼の中から魚のお化けが出てきて、ビックリして、怖くて声も出せなかったんだって。そしてお化けがまた沼の中に潜っていって、変な連中もいなくなったんで、それから一目散に逃げて帰ってきたそうよ」
「龍神沼か… その近辺にきっとやつらのアジトがあるんだわ」
「しかし… 一体何でこんな所で」
 絵里香達が会話していた時、佳奈子と篤志がやってきた。
「お姉ちゃん。私、篤志君とボートに乗ってくるから」
 そう言って佳奈子と篤志はボート乗り場を指さした。
「いいよ。行っておいで」
 佳奈子と篤志はボート乗り場へ向かって小走りに駆けていった。その様子を見届けながら、聖奈子は再び話を始めた。
「龍神沼へ行ってみよう。何かが分かるかもしれないよ」
「うん・・ でも、私達だけならともかく、佳奈子ちゃんと篤志がいるからな」
「そうか… あの二人がいるんだよね… どうする絵里香」
「取り敢えず調べてみようよ。まず私と聖奈子で行ってくるから、美由紀はここに残って二人を見てて。何かあったらすぐ連絡するから、美由紀の方も何かあったらすぐ連絡して」
「分かった。じゃ絵里香。聖奈子。気をつけて」
 絵里香と聖奈子は美由紀と分かれると、竜神沼へ続く遊歩道のほうへ向かっていき、美由紀は佳奈子と篤志が乗っているボートが見える場所へ移動した。絵里香達は気付かなかったが、三人の様子をずっと見ている目があった。それは沼の中でハスに化けていたハス魔人だった。絵里香達の姿が遠ざかったのを見届けると、ハス魔人は正体を現して沼から岸へ上がった。いつのまにか、ハス魔人の傍に数人の戦闘員がやってきた。
「やつらがいたぞ。都合のいい事に、龍神沼へ向かっている。ピラニア魔人に知らせるのだ」
「かしこまりました」
 戦闘員達は返事をすると、その場から散っていった。
「偶然かどうかは分からぬが、小娘どもがやってきたという事は。こちらにとって好都合だ」

      *       *       *       *

 絵里香と聖奈子は、弁天沼の岸に沿って続く遊歩道を小走りに駆けていた。やがて龍神沼へのコースが書かれている看板が目に入った。
「絵里香。こっちだよ」
 聖奈子は案内板の矢印が指している道を指差して言った。絵里香と聖奈子は案内板の前で立ち止まった。
「ここから1.5kmだって。行こう!」
 絵里香と聖奈子は再び駆け出すと、絵里香の携帯に着信が入った。
「聖奈子ちょっと待って」
「どうしたの?」
「美由紀から電話」
 絵里香は携帯のスイッチを入れると、通話を始めた。
「ハイ絵里香です。美由紀どうしたの? えっ!? 分かった。すぐ戻る」
「美由紀何だって?」
「弁天沼でやつらが現れたって。聖奈子、すぐ戻るよ」
「オッケー!」
 絵里香と聖奈子は今来た道を駆け戻った。しばらくして反対側からエンジェルイエローに変身した美由紀が走ってきて、絵里香と聖奈子の前で止まった。
「美由紀、やつらは!?」
「それが… キャンプ場の近くの森の中で、この前合宿の時に見た怪人が、戦闘員を引き連れてあらわれたのよ。でも、私の姿を見ると、ろくに戦いもしないで逃げだして、それで後を追ったら消えちゃって… 」

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 絵里香と聖奈子はお互いの顔を見合ってから、美由紀の顔を見た。
「逃げた!? どういう事?」
「美由紀、とにかく場所を案内して」
「こっちよ」
 美由紀は変身を解くと、怪人を見た場所へ絵里香と聖奈子を連れていった。その場所は絵里香たちが使っているバンガローから200mほど離れた森の中だった。聖奈子は何かを感じたのか、絵里香と美由紀の顔を見て言った。
「この臭い… あの化け物のガスよ! 間違い無くここにいたんだわ」
 絵里香と美由紀はあたり一体を見回した。確かに僅かであるが例のガスの臭いがした。
「確かに臭うわ… でもここで一体何をしようとしていたんだろう」
 そう思うと、三人とも何も答えられなくなった。ハス魔人が行動しているとしても、まだ幽霊の幻覚を見せるには程遠い時間帯である。絵里香たちは自分達をこの場所に釘づけにしようとしている、ネオ‐ブラックリリーの意図をつかみきれなかった。その時聖奈子の携帯に着信が入った。
「佳奈子からだ… もしもーし。うん… うん… 分かった。すぐそっちへ行くから」
 聖奈子は電話を切ると、絵里香と美由紀に言った。
「管理事務所の人がテントと用具を持ってきたって」
 絵里香はそれを聞いて、聖奈子と美由紀を促した。
「調査は明日にしよう。今ここで悩んでいてもどうにもならないわ。私達だけならともかく、佳奈子ちゃんと篤志君がいるから… あの子たちを巻き込むわけにはいかないわ」
「そうだね… 帰る時にあの子達だけ先に帰せば、私たちだけで動く事も出来るわ」
 絵里香たちはキャンプ場の方へ向かって歩き出した。

      *       *       *       *

「間違い無くエンジェルスの小娘だ。先ほど偵察して調べたのだが、都合のよい事に、小娘どもには連れがいる。やつらを捕らえて人質にすれば、効率よく片付ける事が出来るぞ」
 アジトではピラニア魔人とハス魔人が、数人の戦闘員とともに作戦室のテーブルを挟み、地図を広げて作戦を練っていた。
「連れの二人のガキを人質をとって、このアジトに誘いこみ、中に入った所を沼の底を抜いてアジトに水を入れ、一網打尽にしてやる」
「良い作戦だ! 我々は水の中でも大丈夫だが、小娘どもはそうはいくまい」
「よし! 早速明日作戦を決行する。準備にかかれ」
 二人の魔人は、周りにいる戦闘員に指示を送り、戦闘員達は敬礼すると作戦室を出ていった。

      *       *       *       *

 バンガローの前では、絵里香たちと佳奈子、篤志の5人がテーブルを囲んで、自分達が作った夕食を食べていた。作ったと言っても、レトルト食品やインスタント食品を温めただけのものだったが、みんなそれぞれ腹一杯食べて満腹感を味わった。借りたテントは管理事務所の職員が組み立ててくれた。バンガローには絵里香たちと佳奈子が、テントには篤志が入ることになっていた。
「篤志君ゴメンね。一人だけテントだけど」
「いいよいいよ。だって俺以外はみんな女の子なんだし」
 聖奈子が篤志に向かって小声で囁いた。
「後でお邪魔するから、二人でいい事しようか」
 篤志がそれを聞いて顔を真っ赤にすれば、傍で聞いていた美由紀が聖奈子に言った。
「ちょっと聖奈子! 弟に変な事教えないでよ! もう中学生なんだから、本気になったらどうすんのよ」
「美由紀冗談だってば」
 和気藹々のお喋りが続いていたが、絵里香たち三人はネオ‐ブラックリリーの動きが気になっていた。自分達がいる場所の近くに、いや、同じエリアの中で何かを企んでいるのだ。そう考えると、楽しんでばかりもいられなかった。
 夜も遅くなったので、絵里香がみんなに言った。
「もう遅いし、これ以上騒いでいると周りに迷惑がかかるから、そろそろお開きにしようよ」
 絵里香たちはそれぞれ食器や道具を片付けると、バンガローとテントに入り、それぞれ寝袋に入って眠った。

      *       *       *       *

 翌朝…
 昨日と同じようにいい天気で、朝起きた時にはもう太陽が高く昇っていた。絵里香たちは洗い場で顔を洗い、歯を磨くと朝食の用意を始めた。今の所はネオ‐ブラックリリーが襲ってくるという事は無かったが、いつ襲われるかもしれないという不安があった。
 朝食を済ませ、後片付けを終えると、使っていた食器や道具を洗って箱に入れ、テントを解体して、バンガローの部屋の中に入れた。こうしておけば職員が後で回収に来る事になっていた。そしてそれぞれの荷物をまとめ、管理事務所に持っていって預かってもらい、バンガローの鍵を返してから、絵里香たちは弁天沼の岸辺に向かった。その途中で聖奈子は佳奈子を呼んで自分の傍に来させた。
「佳奈子。あたし達は三人で大事な話があるから、篤志君と二人であたし達から離れていて。でも、必ずあたしたちが見える場所にいて。いい?」
 聖奈子がそう言うと、佳奈子は、姉達が戦っている悪の組織の事だと思い、聖奈子に向かって頷くと、篤志を連れて絵里香たちから離れた。絵里香たち三人は沼の岸辺に着くと、顔を近付け合って話を始め、聖奈子が口をきった。
「あの二人を先に帰そう。あたし達と一緒じゃ、巻き添えにしてしまうわ」
「そうだね… 聖奈子の言う通りだわ。私たちだけならいいけど、佳奈子ちゃんと篤志君を巻き込むわけにはいかないよ」
「これでキャンプを終わらせるのは勿体無いけど、やつらがこの場所にいる以上、仕方ないわ」
「よし! それじゃ佳奈子ちゃんと篤志君を呼ぼう」
 佳奈子と篤志は、三人から50mほど離れた湖畔公園のベンチに座って話をしていた。それで絵里香たちは二人を呼ぶより、二人のところへ向かって小走りに駆けていった。絵里香たちが佳奈子と篤志のそばへ行ったのと同時に、ネオ‐ブラックリリーの戦闘員が現れ、佳奈子と篤志を人質として捕らえるために襲いかかってきた。一番始めにそれを見た聖奈子はダッシュして、佳奈子と篤志の前で止まり、戦闘員に向かって身構えた。
「出たわね! ネオ‐ブラックリリー」
 絵里香と美由紀も追いつき、佳奈子と篤志を庇うように立った。始めてネオ‐ブラックリリーを見た篤志は、何かのイベントと勘違いして、前にいる美由紀に聞いた。
「姉貴。これ一体何だい?」
「篤志、危ないから下がってて!」
 戦闘員が襲いかかってきて、絵里香たちは攻撃をかわしながら戦闘員と格闘した。既に絵里香達の事を知っている佳奈子は落着いていたが、篤志は自分の姉が得体の知れない連中と戦っているのを見て戸惑った。
「佳奈子さん、一体こいつら何者なんだよ。何で姉貴たちがこいつらと戦ってるわけ!?」
「話せば長くなるけど、とにかく… あなたのお姉さんは、絵里香さん達と一緒にあの連中と戦う正義の戦士ってとこかな… 」
「な、何だよそれ!?」
 篤志がそう言いかけた時、戦闘員が襲ってきた。そこへ聖奈子が割って入って、戦闘員を殴り倒した。
「佳奈子! 篤志君を連れて逃げて」
 佳奈子は篤志の手をつかむと、管理事務所の方向へと駆け出した。後ろから戦闘員達が追いかけていき、それを見た聖奈子はその後を追った。さらに逃げる二人の前にハス魔人が現れ、二人の行く手を遮った。
「キエェーッ! 逃がさんぞ」
 聖奈子はジャンプすると空中でポーズをとって変身し、そのままソードと楯を出して、佳奈子たち二人とハス魔人との間に着地した。絵里香と美由紀も変身すると、走る戦闘員達を追い越して、聖奈子のそばに来ると、振りかえって戦闘員に向かって身構えた。絵里香たち三人は佳奈子と篤志を背にして囲むような格好になった。
「か、佳奈子さん… これって」
「この姿がお姉ちゃん達の戦士の姿よ」
 戦闘員が一斉に襲いかかってきた。
「ライトニングスマッシュ!」

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 美由紀がエネルギー波を放ち、向かってくる戦闘員の約半分が爆風で吹っ飛ばされた。それを目の当たりに見た篤志の表情は、既に驚きを通り越していた。
「す、すげえ… これがあの姉貴なのかよ」
 絵里香と聖奈子も戦闘員を全て倒し、あとはハス魔人だけになった。
「ええい! くそぉ」
 ハス魔人は吐き捨てるように叫ぶと、絵里香達に背を向けて逃げ出し、弁天沼の中に飛び込んだ。後を追った絵里香達が沼の岸に来た時には、既に魔人の姿は無かった。佳奈子と篤志も絵里香達の元に駆け寄ってきて、篤志はエンジェルイエローの姿の美由紀に詰寄った。
「姉貴! 本当に姉貴なのか? 俺もう… 何が何だかわからないよ」
 絵里香達は周囲を見まわし、危険が無いと察すると変身を解いた。
「篤志君。私達はネオ‐ブラックリリーという、世界征服を企む悪の秘密結社を相手に戦っているのよ。あなたの お姉さんも、その戦士の一人なのよ」
「ネオ‐ブラックリリー… 秘密結社… ? 姉貴が… 」
 篤志は目の前に立つ美由紀の身体全体の至るところを眺めながら呟いた。
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「篤志くん。私達の事はあとでゆっくりと話してあげる。とにかく今ここにいると危ないから、佳奈子ちゃんと一緒に先に帰って」
「絵里香さん達は?」
「私達はやつらの企みを叩き潰す。必ずやつらをやっつけるから、だから安心してお姉さんの帰りを待っていなさい」
 そう言うと、絵里香は佳奈子と篤志の荷物を事務所から持ってくると、二人に持たせてバス停まで一緒に行った。
「それじゃ。二人とも先に帰ってね」
「分かった。お姉ちゃん」
 篤志は、美由紀の元にやってきた。
「姉貴。俺まだ信じられないけど、絶対帰ってこいよ」
「分かってるって」
 絵里香たちはバス停に立つ佳奈子と篤志に手を振ると、二人に背を向けて弁天沼のキャンプ場にへ引き返した。

      *       *       *       *

「人質作戦は失敗か!!」
「申し訳無い。小娘どもに邪魔されたのだ」
「まあいいだろう… ここにアジトがあるという事を、小娘どもは既に嗅ぎつけているはずだ。ならば必ずここに来る。その時こそ小娘どもの最後になるのだ」
 アジトに戻ったハス魔人は、ピラニア魔人と作戦の打ち合わせをしていた。そこへ見張りの戦闘員から連絡が入ってきて、司令室で連絡を受けた戦闘員が報告に来た。
「ハス魔人様、ピラニア魔人様。小娘どもがこっちへ向かっているそうです」
「やはり来たか。よし! 適当にあしらってアジトの中に誘い込むのだ」
 絵里香たちは龍神沼へ向かう遊歩道を歩いていた。その行動は見張りの戦闘員に発見され、また各所に仕掛けられたテレビカメラで既に捕らえられていた。

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「よし! 者ども出動だ」
 ピラニア魔人とハス魔人は、戦闘員を引き連れ、意気揚揚とアジトを出た。アジトは龍神沼の水底に作られていたが、出入り口は沼の岸から50mほど離れた場所の、大きな岩(作り物)の下にあった。その大きな岩がゆっくりと横に動き、下にあった穴の中からピラニア魔人とハス魔人が出てきて、そのあとを戦闘員達が続けて出てきた。
その頃絵里香達は、龍神沼の岸辺に着いたところだった。
「ここが龍神沼か」
「一体何処にアジトがあるんだろう」
「絵里香、聖奈子! 見て!」

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 美由紀が沼の水面を指差して言った。絵里香と聖奈子が水面を見ると、濁った水の底にうっすらと建物のようなものが見えた。
「何あれ… 水の底にアジトがあるわけ!?」
「マジィ!?」
 聖奈子と美由紀が言い合っているそばで、絵里香は言い知れない気配を感じていた。
「聖奈子、美由紀。静かにして」
「どうしたの絵里香」
「何かがいる… それもすぐ近くに」
 絵里香に言われて、聖奈子と美由紀はあたりを見回した。すると近くの繁みの中から戦闘員が飛び出してきた。
「出たわね! ネオ‐ブラックリリー」
「待っていたぞ小娘」
 声と同時にハス魔人とピラニア魔人が姿を現した。

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「聖奈子、美由紀。変身だよ」
 絵里香の声に、三人は一斉に変身ポーズをとった。
「エンジェルチャージ!」
 三人の体が光に包まれ、光が消えると同時に三人は戦士の姿になった。
「かかれっ! 小娘どもを始末しろ」
 戦闘員が一斉に襲いかかり、格闘戦になったが、戦闘員は絵里香達に一人ずつ倒されていった。
「ええい不甲斐ないやつらめ」
 ハス魔人とピラニア魔人が絵里香達に襲いかかり、ピラニア魔人が口から火炎を発射した。絵里香達が避けると、火炎はそのまま絵里香達の間を通りすぎ、後ろにあったブッシュに達して爆発した。ハス魔人が右手にサーベルを、左手に楯を持って、一番近くにいた聖奈子に斬りかかってきた。聖奈子は間一髪で攻撃をかわし、胸のブローチからソードとシールドを出して身構えた。ハス魔人は奇声をあげながら聖奈子に向かってきて、聖奈子とハス魔人との間で格闘になった。絵里香と美由紀はピラニア魔人相手に戦っていたが、ピラニア魔人はアジトへ逃げるように動いたため、いつのまにか絵里香と美由紀、聖奈子は引き離される格好になっていた。
「今だ! 小娘どもをアジトに誘い込むのだ」
 ピラニア魔人は、残った戦闘員を引き連れ、アジトに向かって逃げ出した。
「絵里香。やつらが逃げる」
 絵里香と美由紀はその後を追いかけた。ピラニア魔人と戦闘員達はアジトの出入り口に達すると、岩の扉を閉めないでそのまま中へ逃げこんだ。追ってきた絵里香と美由紀は、出入り口の前で止まった。
「ここがアジトの出入り口か」
「絵里香、聖奈子がいないけどどうする?」
「聖奈子はもう一人の魔人と戦っているわ。私達だけで行こう」
 絵里香と美由紀は頷き合うと、出入り口から中へ突入した。岩盤を刳り貫いた回廊を抜け、アジトの入り口に達すると、絵里香と美由紀はそのまま中に入り、やがて司令室に達した。だが、司令室の中ではアジトに逃げこんだピラニア魔人は勿論、戦闘員の姿さえ見当たらず、扉は全て開けっぱなしで、静寂だけが漂っていた。その時突然ガシャンという音とともに、アジトの回廊の扉が閉じた。と同時に室内のモニターに奇声とともにピラニア魔人の姿が映り、絵里香と美由紀はモニターに見入った。
「よくここまで来たな小娘。このアジトは既に放棄したのだ。そしてのアジトがお前達の墓場になるのだ」
 そう言いながらピラニア魔人は手に持っていたリモコンのような機械のスイッチを入れた。するとモニターの横にあるランプが点滅し、室内に不気味なアラーム音が響き渡った。
「ギョギョギョーッ! 今から沼の底が抜けて水が一斉に流れこみ、アジト全体が水の底になるのだ。ゆっくりと死の恐怖を味わいながら死んでゆけ。それではさらばだ。ギョギョギョーッ」
 ピラニア魔人の姿が消えて、モニターの電源が切れ、さらに司令室の電源が落ちて真っ暗になった。
「しまった! 私達をここへ誘い込むための罠だったんだわ」
 絵里香と美由紀は司令室を飛び出して回廊を走ったが、その途中でロックされている扉のところに達した。開けようとしたが頑丈な扉はびくともしない。
「ダメだ! 開かないわ。完全にロックされてる」
「絵里香。私達このまま溺れ死んじゃうの?」
「美由紀! 最後まで希望を持って。絶対諦めちゃダメよ」
 無気味な音を出しながら時を刻むアラーム音が、二人の希望を摘み取る音に聞こえてくる。やがてドドドという音と共に、回廊内に水が入ってきて、あっという間に膝上まで水が上がってきた。

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「絵里香! スマッシュでドアをふっ飛ばそう」
「よし!」
 絵里香と美由紀は身構えて胸のブローチに手をあて、エネルギーをためると、そのまま両手を前に突き出した。
「ファイヤースマッシュ!」
「ライトニングスマッシュ!」
 エネルギー波が扉に命中した。と同時に、そのまま反射して絵里香と美由紀の方に跳ね返って来た。ドアの材質が特殊仕様になっていて、エネルギーを跳ね返すようになっていたのだ。
「危ない!」
 絵里香と美由紀は言うが早いか体をひねった。同時にエネルギー波が二人の横をすり抜け、回廊の反対側へ飛んでいって、壁に当たって爆発した。その間にも水かさが増してきて、ついに腰の高さまで上がってきた。

      *       *       *       *

 一方、聖奈子は一人でハス魔人と戦っていた。ハス魔人はこの作戦のためにパワーアップしていて、これまでの幻覚ガスだけでなく、サーベル、楯を武器として持っていて、さらに口から溶解液を吐くパワーも持っていた。ハス魔人はサーベルで盛んに聖奈子に切りつけ、聖奈子は楯で防ぎながらソードで応戦した。

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「小娘。今頃お前の仲間はアジトの中に閉じ込められているぞ」
「何ですって!? どう言う事よ」
「冥土の土産に教えてやるわ。この作戦自体がお前たちを誘き寄せるための罠だったのよ。お前たちをこの場所に誘い出し、その隙に本命の作戦が行われるのだ」
「その作戦は何なのよ!?」
「そこまで教える必要など無いわ。どうせお前もお前の仲間もここで死ぬのだ」
「そう簡単にやられたりしないわ!!」
「食らえ小娘!」
 ハス魔人は口から溶解液を噴射した。聖奈子は楯をかざして防いだが、溶解液がかかると楯がジューッと水蒸気を上げて熱を持ち、聖奈子は熱さに絶えられずに楯を捨てた。さらにハス魔人は幻覚ガスを噴射し、催眠光線を発射した。た。その瞬間、聖奈子の目にはハス魔人が何体もいるように見え、さらに聖奈子はガスのために体がフラフラになった。

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「小娘。ここで死んでもらうぞ」
 ハス魔人が何人にも見え、実体がどれだか分からないでいる聖奈子に、ハス魔人は聖奈子に襲いかかってきた。サーベルが振り下ろされ、聖奈子は辛うじてそれをかわしたが、ソードを弾き飛ばされ、バランスを崩して転倒した。
「とどめだ! 死ね!」
 ハス魔人がサーベルを袈裟懸けに振り下ろしてきた。何本ものサーベルが、聖奈子に向かって振り下ろされてきた。聖奈子は地面に横になったまま、体を捻った。今まで聖奈子がいた場所にサーベルが突き刺さった。その隙に聖奈子は立ち上がったが、ハス魔人がダッシュしてきて、サーベルで斬りつけてきた。聖奈子はハス魔人の手首をつかんで防いだが、ハス魔人は聖奈子を足で蹴りつけ、聖奈子の体は反動で後ろにあった大木に叩きつけられた。
「ぐ… 」
「しぶといやつめ! 今度こそ殺してやる!」
 ハス魔人はサーベルの切っ先を聖奈子に向けると、そのままダッシュして聖奈子めがけて突いてきた。聖奈子が間一髪で身をかわすと、突き入れてきたサーベルが、聖奈子の後ろにあった大木に突き刺さり、抜けなくなった。
「し、しまった」
「今だ!」
 聖奈子は態勢を立て直すと、ハス魔人めがけて思いっきり蹴りを入れた。
「グアッ!」
 一発目の蹴りでハス魔人はつかんでいたサーベルを離し、聖奈子は間髪を入れずにもう一度蹴りを入れた。ハス魔人はバランスを崩してそのまま後ろにひっくり返った。聖奈子はジャンプすると、空中で一回転し、急降下した。
「エンジェルキック!」
 ハス魔人は避ける事が出来ず、聖奈子のキックをまともに食らって、反動で空中を舞い、一回転して地面に叩きつけられた。
「お… おのれ小娘」
 聖奈子は着地すると、ソードと楯を拾い、ハス魔人に向けて身構えた。そしてソードを胸のブローチにあててエネルギーをためると、ソードを空に向けてかざした。
「アクアトルネード!」
 エネルギー波が聖奈子の周りでグルグルと渦を巻き、聖奈子がソードの切っ先をハス魔人に向けると、エネルギー波が渦を巻きながらハス魔人に向かっていった。
「ぐ、グアァーッ!!」
 エネルギー波がハス魔人を包みこみ、ハス魔人は絶叫とともに氷の塊になって、そのままバラバラに崩れて大爆発して消滅した。
「や… やった… 魔人を倒したわ」
 魔人を倒した聖奈子だったが、ハス魔人の催眠光線と幻覚ガスにやられ、大きなダメージを負っていた。聖奈子はフラフラしながらも、先にアジトに突入した絵里香と美由紀の後を追い、アジトに突入しようとしたが、もう体力が限界だった。ダメージを負ってフラフラになった聖奈子はその場に膝をつき、変身が解けて、そのまま倒れて気を失ってしまった。

     *       *       *       *

 アジトを放棄して逃げたピラニア魔人は、残った戦闘員とともに新しいアジトに向かって移動中だった。その新しいアジトでは、新たに改造を施されて作り出されたナマズ魔人が、今回の本作戦の準備をし、司令室でクイーンリリーと会話をしていた。

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「ナマズ魔人! 作戦の準備は進んでいるか?」
「ははーっ! 大首領様。水神ダム破壊作戦に携わる事が出来、光栄であります。現在ダム周辺に工作員を派遣し、大容量の電気を流すための準備をしております」
 そこへピラニア魔人がやってきた。
「ピラニア魔人。ただいま到着致しました」
「ご苦労であった。小娘どもは片付けたか?」
「ハハッ! 放棄したアジトに閉じ込め、脱出不可能な状態にして、沼の底を抜いて水を流し込みました。いずれは小娘どもは溺れてあの世行きであります」
「ハス魔人はどうしたのだ?」
「やつは小娘の一人と戦って倒されました。しかし、小娘も相打ちになってくたばった様です」
「くたばっただと? お前はそれを確かめたのか?」
「い… いえ」
「馬鹿者!!」
 大首領クイーンリリーの大きな声に、ピラニア魔人はたじろいだ。
「し、しかし… ハス魔人の幻覚ガスと催眠光線ならば、間違い無く… 」
「考えが甘いぞ。小娘どもはスカーレットエンジェルが選んだ戦士なのだ。地球人とはいえ、スカーレットエンジェルが選んだ以上、やつと同等か、それに近い能力と戦闘力を持っているかもしれない。それを最後まで確かめもせずに、のこのこと帰ってくるとはどういう事なのだ!?」
「ハハッ! 申し訳ありません大首領様。もう一度行って確かめてきます」
「もういい! 陽動作戦自体は成功し、小娘どもを足止めさせる事は出来たのだ。お前はナマズ魔人が行う作戦のサポートに回れ」
「ハハーッ!」

      *       *       *       *

 ちょうど同じ頃、龍神沼を目指して駆けていく佳奈子と篤志の姿があった。二人とも絵里香たちが心配で引き返してきたのだった。やがて二人は龍神沼の岸辺に到達し、佳奈子がアジトへの入り口を見つけた。
「篤志君来て!」
「どうしたんだい!?」
「これ… 何かの入り口じゃないの?」
「行ってみようか」
 篤志がそう言った時、篤志は少し離れた場所に誰かが倒れているのを見つけた。
「佳奈子さん、ちょっと待って! あそこに誰か倒れてる」
「え?」
 篤志は倒れている人の所へ行った。それが聖奈子だと分かって、慌てて佳奈子を呼んだ。
「佳奈子さん! お姉さんが! 聖奈子さんが… 」
 佳奈子も駆け寄ってきた。篤志は聖奈子の左胸に耳をあて、心臓が動いているのを確かめた。
「佳奈子さん。生きてるよ」
「お姉ちゃん! お姉ちゃん」
 佳奈子は篤志を退けると聖奈子の体を揺すった。が、聖奈子は一向に目を覚ます気配が無い。
「お姉ちゃん起きて! お姉ちゃん」

      *       *       *       *

 アジトに閉じ込められ、水責めに遭っている絵里香と美由紀の運命は刻一刻と迫ってきていた。そしてハス魔人との戦いで、ハス魔人を倒した聖奈子だったが、聖奈子もまたダメージを受けて気を失ったままである。
 頑張れ! 負けるなエンジェルス。ネオ‐ブラックリリーを倒し、世界の平和を守れるのは君たちだけなのだ。

                                             (つづく)

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 次回予告
 ◎第6話『三つの力』

 ネオ‐ブラックリリーの罠にはまり、アジトに閉じ込められた絵里香と美由紀は、沼の底を抜かれて水責めに遭い、その運命が刻一刻と迫ってきていた。また、ハス魔人を苦戦の末に倒した聖奈子も相打ちで倒れてしまう。そんな中でネオ‐ブラックリリーは大幹部のドクターマンドラが赴任し、新たに作り出したナマズ魔人を使って、次の作戦を開始しようとしていた。

 次回 美少女戦隊エンジェルス第6話『三つの力』にご期待ください。





テーマ : ライトノベル
ジャンル : 小説・文学