鷲尾飛鳥

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第13話『悪魔の軍団ブラックリリー結成』(前編)

2011年 10月17日 21:38 (月)

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 季節は12月になっていた。クイーンリリーが秘密結社結成を宣言して既に半月ほど経っていたが、あれから何の動きも無かった。街にはつかの間の平和が訪れていたが、何も無いことが逆に美紀子を不安にさせていた。
 12月も半ばになって、街でクリスマスセールや年末商戦が活発になった頃、美紀子の学校では二学期の期末試験があり、その最後の試験が終わって、終業式まで一週間の試験休みになった。学校を出た美紀子と詩織は、隣のクラスの明美と一緒に、駅へ向かって歩いていた。美紀子は不安だった。クイーンリリーが組織を秘密結社化し、組織力を強化して世界征服作戦を本格的にやろうとしていたからだ。いつ、どこで、どんな形で攻撃してくるのか… また、怪人ホーネットリーの奇妙な行動も気になっていた。

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      *      *      *       *

 時間は少し遡ってここはN県天間村の某所・・・  大首領クイーンリリーはそこに新たな秘密基地を建設させていた。言うまでも無く、秘密結社ブラックリリー結成のためだ。基地をカモフラージュするために、周囲には結界が張られていて、外部からは見えないようになっていた。基地はまだ未完成だったが、内部は殆ど出来上がっていて、司令室内の機械類は既に稼動していた。
 装いも新たになった秘密基地の広間では、怪人ホーネットリー、再生されたスネークリーとナメクジリー、そして多数の戦闘員達が集まり、クイーンリリーの登場を待っていた。やがてクイーンリリーが姿を現し、みな一斉に敬礼した。
「諸君! 出迎え大義である。いよいよ我々が世界征服を行うために、堂々と表に出る時が来たのだ。その第一歩として、秘密結社『ブラックリリー』の結成式を一週間後に行う。ホーネットリー! 一歩前へ出よ」
「ははーッ」
「お前は結成式の招待状をスカーレットエンジェルに渡せ。そして、式の引き出物に使う生贄として手頃な者どもを捕えてここに連れてくるのだ。そうだ・・・ スカーレットエンジェルの仲間がいい。そうすればスカーレットエンジェルは否が応でも仲間を助けに必ずやってくるだろう」
「まさにおっしゃる通りです。クイーンリリー様。そこを狙って片付けてしまおうというわけですね」
「その通りだ。ホーネットリー、お前はそこにいる二世エージェントと戦闘員を指揮し、直ちに行動に移れ」
「かしこまりました。クイーンリリー様」
 ホーネットリーはクイーンリリーの命令が下るとともに、クイーンリリーに一礼すると、スネークリーとナメクジリーを引き連れて基地から出ていった。

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 クイーンリリーはホーネットリーたちが去ってから、科学者グループの方へ向き直り、ホーネットリーが集計してきた、スカーレットエンジェルのデータが入った電磁記録を渡した。
「お前達はホーネットリーが持ち帰ったデータを元に、スカーレットエンジェルを倒すエージェントを早急に作るのだ」
「ははーッ」

      *      *      *       *


 時間は再び元に戻る。
 駅前で明美と別れた美紀子と詩織は、駅前の通りを横断して、美紀子の家である紅林探偵事務所に入った。源太郎は事務所で仕事をしていた。
「源太郎さんただいま」
「おう。お帰り」
 美紀子と詩織は源太郎に挨拶すると、美紀子の部屋に入った。
「明日から試験休みか。それが終われば終業式で、そのまま冬休みと・・・ 」
「詩織、うかれるのはいいけど試験どうだったの? 私と一緒に勉強してたから、赤点の心配は無いと思うけど」
「まあまあってとこかな・・・ 美紀子のおかげでうまくいったよ。ありがと」
「いえいえ」
 その時呼び鈴が鳴り、源太郎が慌しく歩く音と玄関を開ける音が聞こえてきた。下で『書留速達です』という郵便屋の声が聞こえ、しばらくすると源太郎が二階に上がってきて、美紀子の部屋をノックした。
「どうぞ。いいですよ」
 部屋の扉が開き、源太郎が書留を持って入ってきて美紀子に渡した。
「美紀子、お前宛だぞ」
「私に書留?・・・ 一体誰からだろう・・・」
 裏を見てみたが差出人の名が書かれていない。美紀子は訝しげな顔で封を開け、中から手紙を取り出した。その途端美紀子の顔色が変った。そばにいた詩織は美紀子の顔色が急に変ったので、美紀子に聞いた。
「どうしたの美紀子」
 詩織が覗き込むと、手紙の端に『クイーンリリー』という名が書かれているのが見えた。
「クイーンリリー・・・ って・・・ 」
「そうよ。あのクイーンリリーよ」
 美紀子はそう言いながら手紙の文面に目を通した。
『親愛なる我らが敵スカーレットエンジェル。私はクイーンリリーである。私は秘密結社ブラックリリーを結成し、本格的な世界征服作戦に着手する。そのブラックリリーの結成式を、12月15日の正午に天間村の御子神高原で行うので、御貴殿を特別客として招待する。秘密結社ブラックリリー大首領クイーンリリー』
「何よこれ! 馬鹿にしてるわ!」
 美紀子は手紙を床に叩き付けた。詩織がそれを拾って読んだ。
「やつら… ついに組織で対抗してくるつもりね。美紀子。どうする?」
「どうするって… 戦うしかないよ。それが私の使命なんだから」
「おいどうした!? 何を騒いでるんだ」
 部屋を出た源太郎が、騒いでいる美紀子と詩織の声を聞き、再び部屋に入ってきた。
「伯父さん、原因はこれよ」
 詩織が源太郎に手紙を渡した。
「これは… そうか。やつらは今までの作戦をことごとく失敗して、ついに組織で対抗しようとしているのか。それで美紀子、お前当然…」
 源太郎は美紀子の顔を見て、そこで言葉を止めた。が、すぐに美紀子に聞いた。
「当然行くんだろ?」
「はい!」
「分かった。明日天間村へ連れて行ってやる。ペンション赤峰には宿泊を予約しておくから、今日のところは早く休め」
「ありがとう。源太郎さん」
「礼はいらんよ。やつらはお前にとっても俺たちにとっても、共通の敵なんだ。俺も一緒に戦っているんだから遠慮は無しだぞ」
「うん」

      *      *      *       *

 翌日…
 美紀子と詩織が紅林探偵事務所で、天間村へ行くための支度をしていた頃、町では恐ろしい事が起きようとしていた。ブラックリリーのエージェント、ホーネットリーの魔手が、美紀子の近隣にいる人達に及ぼうとしていたのである。
 ホーネットリーは人間の女性に姿を変え、スカーレットエンジェルの仲間を探していた。スカーレットエンジェルの戦意を喪失させるには、近隣にいる者達を捕らえて人質にするのが、最も手っ取り早い方法だったからだ。さらに、捕えた者をブラックリリーの結成式の引き出物と生贄にするというクイーンリリーの希望もあり、ホーネットリーは対象となる手頃な者達を探して、町を歩いていたのだ。そして戦闘員達も人間に姿を変えて街を徘徊していた。スカーレットエンジェル、つまり美紀子の友人や、近隣の人達のリストは、戦闘員達が調べて既にクイーンリリーの元に届けられていた。それでクイーンリリーは、最も手頃な者をピックアップし、ホーネットリーと戦闘員達に持たせていた。そしてついに戦闘員の一人が、街を歩いている結花と久美子を見つけ、ホーネットリーに連絡を入れた。

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「ホーネットリー様。スカーレットエンジェルの仲間を発見しました」
「位置は何処だ!?」
「鷲尾平駅の東、300mの地点を駅の方向へ向かっています」
「よし! 気付かれぬよう尾行し、他の者と連絡を取れ。私もその場所へ行く」
「了解!」
 結花と久美子は、鷲尾平駅近くのケーキ屋に入り、結花のおごりで二人でケーキを注文して食べながら、お互いに会話していた。
「久美子ちゃん。誠人とは上手くいってるの?」
「誠人? まあ… そこそこだけど、そういう結花姉さんはボーイフレンドいないの?」
「いるけど… 私部活で忙しいし、デートする時間なんて無いわ」
「デート… そうだ。今日誠人とデートの約束してたんだ。この前すっぽかされたから、今度すっぽかしたら絶交だって言って脅したの」
「あら、うらやましい。それで今日はよそ行きの格好なのね。何処で待ち合わせなの?」
「県立図書館。そうだ… そろそろ時間だ。私行かなくちゃ。お姉さんご馳走様」
「頑張ってね」
 結花と久美子は席を立ち、結花はカウンターで清算した。二人は店を出ると店の前で別れて、久美子は図書館へ向かって走っていった。それを少し離れた距離から戦闘員達が見ていた。
「あの小娘だ。後をつけるぞ」
 結花は自分の家に帰るため、帰路についた。その後ろから数人の黒装束の男達が後をつけた。市街地を離れて住宅地に差し掛かり、人通りが少なくなったところで、結花は尾行されていることに気付き、辺りを見まわした。
「(誰かにつけられている… )」
 結花は急に体中に寒気が走った。そして恐怖のあまり小走りに、自分の家に向かって駆け出した。
「気付かれたぞ。追え!」
 黒装束の男達も一斉に駆け出した。結花は人通りの多い場所を探しながら走った。が、真っ昼間にもかかわらず、何処へ行っても人通りが無い。呼吸が乱れて息遣いが荒くなったところで、向こうから歩いてくる女性の姿が目に入った。

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「助けて! 助けて」
「どうしたの?」
「変な男達がつけてくるんです」
「それは私の部下達よ。そして私は、お前を私のボスのところへ連れて行く。大人しくしろ」
「え?」
 結花はいつの間にか自分の周りにその黒装束の男達がいて、自分の周りを取り囲んでいるのに気付いた。そして、その男達の姿が戦闘員の姿になり、女性の姿がホーネットリーになった。
「キャーッ! 誰か助け… う… 」
 ホーネットリーは口からガスを吐き出し、そのガスが結花の顔にかかると、結花は瞬時に気を失い、倒れそうになったところを戦闘員達が支えた。
「連れていけ!」
 戦闘員たちは気絶した結花を抱えてその場から移動し、近くに止めてあった車の中に押し込んでから、自分たちも乗り込んだ。ホーネットリーは女性の姿になると、運転席にいる戦闘員に向かって言った。
「出せ。私は後から行く」
「かしこまりました」
 戦闘員は返事をすると、アクセルを踏み込んでその場から車を発進させた。結花がホーネットリーと戦闘員達に連れ去られた頃、久美子は誠人との待ち合わせ場所である県立図書館への道を急いでいた。久美子も結花同様尾行されていたが、久美子は気付いていなかった。さらに走っていく久美子を追うように、一台の車がゆっくりとしたスピードで道路上を移動していた。運転しているのは戦闘員で、後部座席にはスネークリーが座っていた。図書館近くまで来た久美子は、入り口の前に立っている誠人の姿を見つけた。
「誠人―ッ!」
 声に気付いた誠人は久美子を見つけて、久美子の方へ向かって歩き出した。その時だった。久美子をつけていた車が突然スピードを上げ、久美子のそばに止まったかと思うと、ドアが開いて久美子はそのまま車の中に引きずりこまれ、車はその場からすぐに発進した。あっという間の出来事で、近くを歩いていた通行人も、誘拐に気付かなかった。
「あ! 委員長! 畜生待て! 委員長を何処へ連れて行くんだ」
 誠人は走り去っていく車を追ったが、すぐに振り切られた。その時誠人は車の後部座席に座っていた怪人スネークリーの姿をはっきりと見た
「あいつらだ! 大変だ。委員長が誘拐された」
 誠人は急いで図書館の中へ入り、公衆電話のところへ行くと、慌てて受話器を取り、ダイヤルを回したが、何の反応も無いのに気付いた。
「いけね! お金入れてなかった」
 誠人は財布を取り出すと、中から10円硬貨を取りだして電話の中に入れた。その時財布の中から硬貨が次々とこぼれ落ちて、床の上を転がったが、狼狽していた誠人は全く気付かなかった。

      *      *      *      *

 紅林探偵事務所の電話が、けたたましく鳴り、源太郎が電話を取った。ちょうど源太郎は美紀子と詩織を連れて、天間村へ出かけようとしていたところだった。
「はい! 紅林探偵事務所。おう誠人か。何? もっとゆっくり喋れよ。早口で全然分からんぞ。え? 誘拐? 誘拐だったら警察に電話すればいいじゃないか。何? 何だって? 例のやつらがお前のガールフレンドを? ん? 美紀子か? 分かった。ちょっと待ってろ」
 源太郎はそばで話しを聞いていた美紀子に受話器を渡し、美紀子は受話器を取ると、誠人と会話を始めた。
「誠人君どうしたの? え? 何ですって? 久美子ちゃんがやつらにさらわれた!? それで場所は? うん… うん分かった。とにかく事情を知りたいからすぐに来て」
 10分ほど経過して、誠人が息を切らしながら事務所にやってきた。
「誠人君! 詳しい事を話して」
「その前にみず。水」
 詩織がコップに水を汲んで差し出すと、誠人は一気に飲み干した。ようやく落ちついたのか、誠人はソファーに腰掛けると話を始めた。そばには美紀子と詩織、そして源太郎もいた。
「とにかく、あっという間だったんだ。俺の目の前で委員長がさらわれたんだ」
 誠人の話を聞き、詩織は美紀子の方を見て話しかけた。
「やつら今度は何をしようとしてるんだろう? もしかすると、ブラックリリーとか言う秘密結社の結成式と何か関係があるんじゃ… 」
「私もそれを考えてたのよ。でも、そのためにわざわざ久美子ちゃんを誘拐する必要があるかしら?」
「お前が行かなければならないようにするため、人質として捕えたんじゃないのか? しかも秘密結社の結成式をやるから来いって、こうしてご丁寧に招待状まで送り付けて来たんだ」
 源太郎が口を挟んだところで、事務所の電話が鳴った。
「もしもし… 紅林探偵事務所。あぁ姉さんか… え? 誠人と結花? 誠人ならここに来てるけど、結花は来てないよ。そうか… 分かった」
 源太郎は会話を終えると受話器を置いて、誠人に聞いた。
「誠人。お前の母さんが結花がまだ帰ってこないんだけど、お前知らないかって聞いてたぞ」
「知らないな… 」
 そこへ再び電話が鳴った。
「はい紅林探偵事務所… ん? 何だって!? ああ・・ 分かった。今取り次ぐ」
 源太郎は受話器を美紀子に渡した。
「美紀子。クイーンリリーと名乗っているぞ。お前を出せって息巻いている」
 クイーンリリーと聞き、美紀子は引っ手繰るように受話器を取った。
「今度は何なの!? え… 仲間を二人捕えて預かった? 何のためにさらったのよ!? 返しなさいよ! 目的は私でしょ!?」
 そこで電話が切れ、美紀子は受話器を置くと、みんなに向かって話した。
「久美子ちゃんと結花ちゃんが、やつらに捕まって連れていかれたわ」
「何だって!? 委員長だけでなく、姉ちゃんまで」
「伯父さん… 」
「美紀子。これは明らかにお前に対する挑戦だぞ。こうして堂々と仕掛けてくるって事は、恐らく相当自身があるって事だぞ」
「うん! 分かってる。でも、二人を助けなきゃ。それが私の使命なんだから。源太郎さん。私行くわ。やつらの結成式をぶち壊して、必ず二人を助ける」
「その意気だ! 美紀子。俺も加勢する」
「あたしも!」
「俺も… 俺、まだ子供だから何も出来ないけど、美紀子姉さんのためなら、命をかけてもいい」
「誠人君の気持ち嬉しいよ。だから君はここで待ってて。必ず私が助けて連れて来るから」
「分かってる。美紀子姉さんを信じるから」
 それからしばらくして、源太郎は車庫から車を出し、玄関の前に停めた。美紀子と詩織は荷物を持って事務所から出て来た。
「それじゃ誠人。お前はここで留守番を頼む。姉さんには連絡を入れておいたから大丈夫だ」
「分かった。みんな気をつけて!」
 源太郎は美紀子と詩織を乗せると、誠人の見送りを背に車を発進させた。行き先は天間村である。事務所には誠人が留守番として泊まりこみ。また源太郎の頼みで源太郎の姉と妹。つまり誠人と結花の母親と、詩織の母親が、交代で電話番をすることになっていた。

      *      *      *      *

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 捕まった結花と久美子は、天間村に新設したアジトに連れてこられた。その目的は秘密結社ブラックリリーの結成式における引き出物であり、式の過程において生贄にする事だった。ホーネットリーは秘密基地にいるクイーンリリーの元へ行って、スカーレットエンジェルの仲間である二人の少女を拉致してきたことを報告しに行き、用を済ませてアジトに戻ってきたところだった。結花と久美子は後ろ手に手錠を嵌められ、戦闘員に押さえつけられた状態でアジトの司令室にいた。その周りにはスネークリーとナメクジリー、さらに多数の戦闘員がいて、結花は恐怖のあまり体全体が震えていた。司令室に入ってきたホーネットリーはその様子を見ながら、周りにいる者たちに向かって言った。
「ご苦労であった。その二人は明後日行う結成式の引き出物に使う。それまでは大事なお客さんだ。丁重に扱うように」
「ははーッ。かしこまりました。クイーンリリー様」
「嫌―ッ! 助けて。助けてぇー 引き出物なんて嫌よ。お願いだから私達をここから帰してよ」
 結花は恐怖のあまり、パニック状態になっていたが、久美子は何故か無言のままで、落ち着いて周りを眺めていた。
「この二人を連れていけ!」
「ヒャイィーッ」
 戦闘員達は結花と久美子を司令室から連れ出し、地下のアジトから出て階段を上がり、地上にある建造物の中の一室に入れた。ここは現在は廃屋だが、一年ほど前までドライブインと宿泊施設があった建物だったので、アジトを擬装するのには手頃だった。さらに荒れた部屋をリフォームして、いかにも営業しているように見せかけていたため、誰にも怪しまれることもなかったのである。戦闘員が二人を部屋の中に入れると、ホーネットリーがやってきた。ホーネットリーは戦闘員に命じて二人の手錠を外させ、部屋の中を指差しながら結花と久美子に向かって言った。
「ここにはお前達の生活に必要な物が全て揃っている。それからそこに着替えもあるから好きに使っていい。一人ずつだと、何かと不安で寂しいだろうから、二人にしておいてやる。だが… もし、ここから逃げようなどという真似をすれば、アジトの地下牢に繋いでやるから、そのつもりでいろ。お前たちは常に監視されている事を忘れるな」
 言い終わるとホーネットリーは、部屋の扉を閉め、戦闘員たちとともに歩き去っていった。結花は扉のところへ行ってノブを回した。すると扉が開いた。それを見て久美子があわてて結花の傍へ駆け寄り、結花の手首を握って言った。
「ダメよ結花姉さん。今は逃げることは考えない方がいいよ。監視してるって言ってたし、下手なことをすれば、どんな酷い目にあわされるか分からないわ」
 結花は久美子が毅然として落ち着き払っているのを不思議に思っていた。
「どうしてそんな風に落ちついて言えるのよ。私… 家へ帰りたいよ」
「私だって本当は怖いよ。今すぐにでもここから逃げ出したいよ。でも・・・ ここが何処なのかも分からないでどうやって逃げるのよ。結花姉さんあせっちゃダメよ」
 久美子も本当は怖かったのだが、いつも向こう見ずな誠人と付き合っているので、ある程度のことは慣れっこになっていたのだ。しかし結花は恐怖のあまり、今にもそこから逃げ出したい心境だった。
「結花姉さん。とにかく今は成り行きに任せる他無いわ。少なくとも明後日の正午までは、私達は命を保障されているんだから… それまでに源太郎さんたちが助けに来てくれるかもしれないじゃないの。だからそんなに取り乱さないで」
 結花は、久美子から源太郎と言う名前を聞き、叔父が助けに来てくれるという一縷の望みを抱いて、久美子の言う通り落ちつくことにした。

      *      *      *      *

 その頃、源太郎達は天間村への道を急いでいた。普段ならば三時間くらいで着ける場所なのだが、冬とあって道路は所々で積雪があり、普段の倍近い時間がかかった。天間村のペンション赤峰に到着した時には、既に午後7時を回っていた。玄関の前に来ると、和枝と誠一が出てきて三人を迎えてくれた。
「源太郎さんお久しぶり。美紀子ちゃんも詩織ちゃんも寒かったでしょ? さ、上がりなさい。すぐ食事ができるようになってるわ」

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「お世話になります」
 美紀子たちは、玄関から上がると、それぞれ割り当てられた部屋へ行って荷物を置き、着替えると再び下へ降りてきて、食堂へ入った。すると誠一が食事を運んできた。
「美紀子。元気か?」
「うん。元気だよ。誠一くんも元気そうだね」
 誠一は美紀子に会釈すると食堂を出ていき、入れ替わりに和枝が入ってきた。
「源太郎さん。この辺りでまた何か調査ですか?」
「ああ… 今回はかなり大掛りでね、美紀子と詩織の二人を助手として同行させたんだ」
「主人がみんなに会いたがってたんだけど、研修会で昨日の昼から東京へ行ってて、30日まで戻って来れないのよ」
「我々と行き違いだったのか… 」
「それじゃみなさんごゆっくり」
 そう言って和枝は食堂を出て厨房へ戻っていった。食堂の中は源太郎達だけになり、食事をしながら会話を始めた。
「少なくとも明後日までは、結花と久美子の二人は生きている。やつらは恐らく、結成式の時に二人を生贄として処刑するつもりなんだ。だから、それまでに二人を助ければいいんだ。とにかく、二人とも今日のところはゆっくり休むんだ。やつらの捜索は明日からやる。美紀子。それでいいか?」
「はい。今日はもう遅いし、夜は危険だから… 」
 源太郎達は食事を終えると、順番に風呂に入り、それぞれの部屋へ入って休んだ。
 一方こちらはアジトの上にある建物の中… 
 既に夜になり、空は暗くなっていた。囚われた結花と久美子は軟禁状態になっていながらも一室を与えられ、一応は賓客の待遇を受けていた。ついさっき女性の姿になったホーネットリーが夕食を運んできて、二人は食事を終えたばかりだった。結花は部屋の窓を開けて外を眺めていたが、窓を閉めるとベッドに腰掛け、久美子の方を向いて半分泣いているような顔で久美子に言った。
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「ねえ久美子ちゃん。私もう嫌だよ」
「結花姉さん。そんな事じゃ誠人に笑われるよ。とにかく今はここにいれば安全だよ。こうして丁寧に着替えまで上下全部用意してくれて、お風呂まで入れてくれるし、食事までくれるんだから」
 そう言って久美子は結花を何度も宥めたが、結花は恐怖感が頭から離れず、パニック状態になっていた。もし久美子がいなかったら、間違い無く半狂乱になりながら逃げ出そうとして捕まり、ホーネットリーが言うようにアジトの地下牢に繋がれていたかもしれない。久美子は結花のために用意された着替えを持って、結花に差し出した。
「結花姉さんも着替えて。お風呂も丁度いい湯加減だよ」
 久美子に勧められ、結花はしぶしぶと着ていた服を脱ぎ、久美子が持っている服を取って着た。久美子が着ているのと同じジーンズとトレーナーだった。結花は服を着終わるとベッドに横になった。不安と恐怖が錯綜していたが、自分より年下の久美子に落ちつけと言われ、自分がしっかりしなくてはと思って、何とかして平常心を装うことにした。

      *      *      *      *

 翌朝… 源太郎達は起床すると出かける支度をして、部屋から出て食堂に下りてきた。そして朝食を済ませると、食器を片づけてすぐに玄関へ出た。
「それじゃ行ってきます」
「はーい。みんな気をつけて行ってらっしゃい」
 玄関から外へ出た源太郎達はお互いに顔を近づけて会話を始めた。
「やつらのアジトはこの天間村の何処かにあるはずだ。あと一日しかない。とにかく心当たりのある場所… 手紙に書かれていた御子神高原の辺りを手当たり次第に捜すしかないぞ」
「うん! 結花ちゃんと久美子ちゃんの二人の命がかかっているんだから… 絶対に失敗は許されないわ」
「よし! それじゃ行こうか!」
 源太郎は車のエンジンをかけると、美紀子と詩織を乗せて発進した。その様子をブラックリリーの戦闘員がずっと見張っていることには、誰も気付いていなかった。三人の行動は、昨日鷲尾平を発ってからずっと見張られていたのだ。源太郎の車が走り去っていくのを見ながら、戦闘員が無線機を取り出した。
「こちら見張第二号。只今やつらがペンションを出ました」
 アジトの司令室では、ホーネットリーが連絡を受けていた。
「よし! 直ちにその場から引き揚げ、アジトに戻れ」
 そこへクイーンリリーがやってきた。
「やつらが動き出したのか?」
「はい!」
「よし! ホーネットリー。やつらを丁重に出迎えるのだ」
「かしこまりました」
「カラスリー! 出でよ!」
 クイーンリリーの一声とともに、醜怪なカラスリーが司令室に入ってきた。
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「クアァーッ! クイーンリリー様。いつでも御命令を」
「お前はホーネットリーと組んで、スカーレットエンジェルを倒すのだ」
「クワァーッ! かしこまりました。クイーンリリー様」
 カラスリーは、ホーネットリーが持ち帰ったデータを元に、スカーレットエンジェルを倒すための怪人として、科学班によって作り出された怪人だった。非常に戦闘力が高く、スカーレットエンジェル打倒の他、ホーネットリーとともに結成式の警備と支援という任務も担っていた。
「ホーネットリー、カラスリー。二世怪人とともに、直ちに出動せよ」
「ははーッ!」
 ホーネットリーとカラスリーはアジトを出ると空へ飛び上がり、スネークリーとナメクジリーは車に乗り込んだ。怪人たちが去っていくのを見ながら、クイーンリリーは無気味な笑いを浮かべた。
「見ていろ… スカーレットエンジェルの小娘。今度こそお前を地獄の底へ送りこんでやる。そして我々は世界征服を達成させる… 」

      *      *      *      *

 ペンションを出発した源太郎達は、一路御子神高原へと向かっていた。12月にもかかわらず、まだ道路には積雪が無くて、車は軽快に道路を走っていた。しかし、ブラックリリーが待ち伏せしていることにはまだ誰も気付いていなかった。
 ホーネットリーとカラスリーは、スネークリー、ナメクジリーとともにアジトの周辺を戦闘員とともに固め、罠を仕掛けて待っていた。源太郎の運転する車は、北に御子神高原、南に天間高原を見渡す場所まで来て車を止め、三人はそこで車から降りた。詩織は北側に広がる御子神高原を見渡しながら呟いた。
「御子神高原っていっても、こう広くっちゃ捜すのに一苦労だわ」
 美紀子は目の前に広がる高原を見渡してから、源太郎の方を向いて言った。
「源太郎さん。ここから先は私だけで行きます」
「ちょ… ちょっと何言ってんのよ! 美紀子。あたしたちも一緒だよ。あたし達一緒に戦うって決めたじゃないの」
「ダメ。詩織は源太郎さんと一緒にここに残って。三人一緒に乗り込んでいって、もしもの事があった時、誰も私達を助けてくれる人がいないのよ。だから… 」
「つまりお前は、俺達に後方支援を頼みたいっていう事か?」
「そうです。源太郎さん。分かってくれますか?」
「そういう事だったら任せておけ。詩織。俺達はここに残るぞ」
「でも… 」
「詩織。美紀子に任せるんだ。俺達はここで美紀子の帰りを待つ」
「ありがとう。源太郎さん。それじゃ行ってきます」
 美紀子は源太郎と詩織に背を向けると、ポーズをとって変身し、所々に積雪がある高原の上を颯爽と駆けていった。その後ろ姿を眺めていた源太郎は、スカーレットエンジェルの姿が見えなくなると、詩織の方を向いて大きな声で言った。
「よし! 詩織。俺達は俺達で、備えに回るぞ」
 そう言って源太郎はトランクルームを開けると、中から少し長めの黒い色をしたケースを出した。
「伯父さん、何これ?」
 源太郎は何も答えずに、ケースを開けて中身を取り出した。それを見て詩織は、ギョッとした顔でその物体を見た。源太郎が取り出した物は、なんと本物の機関銃だったのだ。しかも小型のロケットランチャーまで付いている。
「き… 機関銃… な・ な… 何でそんなもの持ってんのよ。伯父さん」
「詩織。落ちついて聞いてくれ。今まで隠していたが、実は俺はインターポールの特別捜査官なんだ」
「え?? インターポール??」
「そう。私立探偵というのはあくまでも表向きのもので、俺はこの世界における怪奇現象や、超常現象を調査し、それらを解決するプロジェクトチームの一員なんだ」
「 … 」
「以前お前と美紀子が出会った亘理早紀も、そのチームの人間だ。俺達は本部の指令で日本に出向して来ている。だから美紀子が宇宙人で、得体の知れない連中と戦っていると聞いたとき、その事を本部に知らせて、美紀子の事をサポートするよう指令を受けていたんだ」
「そうだったの… それで美紀子のことを疑わないで、美紀子を自分の養子にするって言ったんだね。でも… 伯父さんがインターポールにいたなんて知らなかったな… 」
 源太郎は銃の弾丸ケースとロケット弾が入ったケースを取り出すと、それをベルトに挿し込み、腰に巻いて固定した。しかし、こんな物を持っていて、よく今まで警察に銃刀法違反で検挙されなかったものだと、詩織は不思議に思った。源太郎はインターポールの人間であるため、インターポールの本部が日本の警察に対し、裏から手を回していたということで、納得してもらうしかないだろう。
「よし! 準備はOKだ。詩織はこのザックに入っている物を持て。いざという時には、お前にもそれらを使ってもらうぞ。使い方は、前に教えているから分かっているな!?」
 そう言って源太郎は詩織にザックを渡した。中には手榴弾や煙幕弾、それに拳銃まで入っている。詩織は拳銃を手にして、事の重大さを改めて認識し、ゴクンと生唾を飲み込んだ。

     *      *      *      *

 その頃スカーレットエンジェルは、長い髪を靡かせながら高原の中を駆けていた。美紀子の髪飾りに付いている二枚の羽根は、センサーの役目を持っていて、それでブラックリリーのアジトの方角を割り出し、ほぼ正確にアジトに向かっていたのだ。その様子をブラックリリーの戦闘員が見つけて、無線で連絡した。
「ホーネットリー様。スカーレットエンジェルが来ました」
 連絡を受けたホーネットリーは、回りにいる戦闘員達に号令をかけた。
「配置につけ! 地雷の用意をしろ!」
 カラスリーは颯爽と空へ向けて飛び上がり、スネークリーとナメクジリーは戦闘員たちを引き連れてそれぞれ配置についた。しばらくして戦闘員が、双眼鏡を覗きながらホーネットリーに話しかけた。
「ホーネットリー様、間もなくスカーレットエンジェルが地雷原に入ります」
 所々に積雪がある草原の中を、スカーレットエンジェルは地雷原の手前までやってきた。そこで髪飾りのセンサーが激しく反応して、スカーレットエンジェルはその場に立ち止まった。周辺には数件の廃屋があり、そこからさらに300メートルほど行くと、アジトがある擬装ドライブインの建物があった。
「センサーの反応が強い… この辺りにアジトがあるんだわ… 」
 スカーレットエンジェルは用心しながら、再び歩き出した。
「今だ! 攻撃開始」
 ホーネットリーの声とともに、戦闘員が爆破スイッチを押した。同時にスカーレットエンジェルの周辺で次々と地雷が爆発し、スカーレットエンジェルは反射的に身を竦めた。さらに上空から小型のロケット弾が大量に降ってきて、スカーレットエンジェルの周囲に次々と落ちてきて爆発した。爆発は次々と起こって、スカーレットエンジェルの周囲は爆煙と炎で視界がきかなくなった。そこカラスリーが上空から急降下してきて、スカーレットエンジェルに蹴りをお見舞いした。態勢をとれなかったスカーレットエンジェルは、蹴りをまともに受けて、その反動で空中を舞い、受け身をとれずにそのまま地面に叩きつけられた。
「どうだ。俺様の蹴りの威力を見たか! 俺様はブラックリリーのエージェント。カラスリーだ。今日こそお前に引導を渡してやる」
「そ、そう簡単にやられてたまるもんですか! ブラックリリーだか何だか知らないけど、お前達に勝手な真似はさせない! 必ず私が倒すわ!」
 スカーレットエンジェルは立ち上がり、カラスリーに向かっていったが、カラスリーはすぐに飛び上がって上空から大きな声で怒鳴った
「今だ! やれっ」
 その瞬間、ナメクジリーと戦闘員たちが放った大量の催涙弾が飛んできて、スカーレットエンジェルの周囲に次々と落下し、ガスが噴き出してスカーレットエンジェルの周辺に充満した。
「く… 催涙ガスだ… ゴホゴホッ」
 スカーレットエンジェルは苦しさのあまり口を押さえたが、次第に両目から涙が出てきて、視界が効かなくなってきた。そこへカラスリーとホーネットリーが代わる代わる空から襲ってきた。
「お前の能力と弱点は、この私が既に分析済みなのだ」
ホーネットリーはそう言いながらレーザーを放ち、さらにカラスリーも上空から立て続けにロケット弾を発射してきて、スカーレットエンジェルの周辺で次々と地面が炸裂し、ついに爆風で吹っ飛ばされて、地面に叩きつけられた。
「(このままではやられてしまう… 何とか態勢を立て直さなきゃ)」
 スカーレットエンジェルは何とかして脱出し、態勢を立て直そうとしたが、周囲は怪人と戦闘員達によって囲まれて逃げることが出来ず、また周囲に立ち込めている催涙ガスもスカーレットエンジェルを苦しめていた。涙目で視界が殆ど効かなくなり、今度はスネークリーが襲いかかってきた。スネークリーの両腕がヘビのように伸びてきてスカーレットエンジェルに巻きついた。

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「スカーレットエンジェル! ここがお前の墓場だ。我々はお前を倒し、クイーンリリー様の元でこの世界を征服して支配する」
「そ・・ そんな事はさせない!」
「ほざくな小娘!」
 スネークリーはそう言いながらスカーレットエンジェルをさらに締め上げた。
「ぐ・・ く、苦しい・・・」
 スネークリーは今度はスカーレットエンジェルを振り回して投げ飛ばした。スカーレットエンジェルの体が宙を舞い、一回転して地面に叩きつけられた。
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 そこへ今度はホーネットリーとカラスリーが地上に降りてきて、スカーレットエンジェルに襲いかかった。スカーレットエンジェルは催涙ガスとダメージのために、ホーネットリーとカラスリーにいいように弄ばれた。二人の怪人のパンチとキックが次々と決まり、スカーレットエンジェルは再び地面に叩きつけられた。
「とどめをさしてやる」
 ホーネットリーとカラスリーは、スカーレットエンジェルに向けてレーザー光線を放った。スカーレットエンジェルは攻撃を防ぐ事が出来ず、レーザーをまともに浴びてしまい、身体全体が閃光に包まれた。
「キャーッ!! あ… ぁ… 」
 スカーレットエンジェルは閃光の中で、絶叫しながら光に包まれ、変身が解けて美紀子の姿に戻り、その場に倒れこんで気を失った。
「やったぞ! スカーレットエンジェルの最後だ! 今日こそこれまでの恨みを晴らしてやる」
「待て! 殺すなと言ったはずだぞ」
 突然の声に、怪人たちは驚いて立ち止まり、そのそばで白煙とともにクイーンリリーが姿を現した。
「クイーンリリー様!」
 大首領クイーンリリーの出現に、怪人たちは一斉に敬礼した。
「このまま殺してしまっては面白くない。拷問にかけて嬲り者にするのだ。連れて行け」
 クイーンリリーはそう言いながら、気絶して動けない美紀子のそばへ行った。
「ふん! スカーレットエンジェルめ! よくもこれまで私を煩わせてくれたな。しかし、これで最後だ。今度こそお前の息の根を止め、捕えた二人の小娘と一緒に明日の結成式の生贄にしてやる」
 そう言ってクイーンリリーは、気絶している美紀子を足で蹴ってから踏みつけた。そして駆けつけてきた戦闘員が、美紀子を持ち上げ、アジトへと運んでいった。

      *      *      *      *

「伯父さん。そろそろ日が暮れるよ。美紀子まだ帰ってこないけど、もしかしてやられちゃったんじゃ… こんなことになるんだったら、あたし達も一緒に行けばよかったんだ」
「詩織。取り乱すな。まだやられたとはっきりしたわけじゃないんだ」
「でも… 」
 美紀子の帰りを待っていた源太郎と詩織は、二つの高原の真中を走る道路の上で、武器を手に立ちすくんでいた。既に四時半近くになって、空は暗くなり始めていた。
「伯父さん。美紀子を助けに行こう!」

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 源太郎は考えこんでいたが、詩織の真剣な目を見て、銃を取ると高原の方へ歩き出そうとした。が、その時、いきなり上空が明るくなって、源太郎と詩織は空を見上げた。すると上空に赤い火の玉のような物体が現れ、次第に自分たちの方へと向かってくるのが認められた。
「危ない! 詩織伏せろ」
 源太郎は詩織に抱きつくと、そのままうつ伏せに地面に押し倒した。火の玉は源太郎達の上空を高速で通過し、遠ざかっていった。
「何だあれは??… 」
 そう言いながら立ち上がった源太郎は、まだうつ伏せのままでいる詩織の頭を軽く叩いた。
「詩織起きろ。行くぞ」
 詩織も立ちあがり、服についた雪を払い落とすと、源太郎の後に続いた。その時源太郎の服のポケットに入っていた無線機のアラームが鳴った。源太郎はポケットから無線機を取り出し、スイッチを入れた。
『源太郎さん。聞こえますか? 俺… 誠一です。たった今ペンションの近くに火の玉のような物体が落ちたんです。すぐに戻ってきてくれますか?』
「(火の玉… さっき上を通過していったやつだな) そうか… 誠一君、状況を教えてくれ」
『とにかく俺、ビックリしたっすよ。いきなり空が明るくなって、ドーン! っていう音と一緒にぐらぐら揺れて、お袋と一緒に外へ飛び出したんだ。すると、ペンションから100mぐらい離れた雑木林の中に何かが落ちていて、煙を吐き出していたんだよ』
「煙? 火は出ているのか!? 山火事の心配は?」
『今の所は山火事の心配は無いみたいだ。俺今その物体の近くまで来てるんだけど、何だか宇宙船みたいなんだよ。調べようにも俺だけじゃどうする事も出来ないし、源太郎さん。すぐに帰ってきてくれますか?』
「(宇宙船… ) よし分かった。すぐ戻るから、そこから絶対に動くな」
 源太郎は会話を終えると、詩織の方を向いた。
「詩織。救出は中止だ。すぐに戻るぞ」
「でも美紀子が… 美紀子はどうするの?」
「大丈夫だ! 詩織。お前は美紀子を信じられないのか? あいつは俺達と違って宇宙人なんだ。俺達地球人には無い能力だってある。お前は美紀子の親友じゃなかったのか?」
「 … 」
「美紀子を信じろ。あいつはそう簡単にやられるようなやつじゃない。それにあいつには無線機を持たせてある。俺達がここにいなくても、きっと連絡を入れてくるだろう」
「そうだね… 分かったよ伯父さん」
 詩織は納得したように頷くと、車に戻って乗りこんだ。源太郎は銃をトランクに入れると、運転席に乗りこんでエンジンをかけ、車を発進させてペンションへの帰途についた。源太郎は大丈夫だと言っていたが、内心は美紀子が心配だった。だが、誠一からの連絡で、ペンションの近くに落ちた物体も気になっていた。

      *      *      *      *

 源太郎と詩織が危惧した通り、美紀子はホーネットリーとカラスリーの攻撃の前に一敗地に塗れ、捕らえられてアジトの地下牢に入れられていた。まだ気絶したままだったが、両手を鎖に繋がれて天井から吊るされていた。司令室ではホーネットリーとカラスリーが、クイーンリリーを交えて明後日の結成式の打ち合わせをしていた。
「結成式は予定通り明後日の正午に行う」
「かしこまりました」
「ホーネットリー。お前はスカーレットエンジェルが目を覚ましたら拷問にかけろ。どんな方法を使っても良いが、絶対に殺すんじゃないぞ」「クイーンリリー様のご希望に添えるよう、出来るだけ嬲ってさし上げましょう」
「それからもう一つ。お前は明日の朝、軟禁している二人のガキを引き出物として式場に連れてくるのだ」
「分かりました」
「それでは私は基地に戻る。後は任せたぞ」
「ははーッ!」
 クイーンリリーはアジトを出ると、秘密基地に向かった。司令室に残ったホーネットリーは、人間の姿に化けると戦闘員を呼び出した。
「スカーレットエンジェルの様子はどうだ!?」
「まだ気絶したままです。いかがいたしますか?」
「分かった。引き続き見張を続けろ。目を覚ましたらすぐに私に報告しろ」
「かしこまりました」
 戦闘員は一礼すると、司令室から出ていった。

      *      *      *      *

 源太郎は車を飛ばしてペンションへの道を急いでいた。既に真っ暗になっていて、時々ちらつく雪がフロントガラスをかすめていく。ペンションの前に着くと、源太郎は車を駐車場に入れ、車から降りると、誠一が言っていた場所へと駆け出し、詩織もその後に続いた。
 誠一が言っていた場所は、ペンションの隣にあるテニスコートを挟んだ向こう側にある、雑木林の中だった。源太郎の姿を見た誠一は、源太郎に向かって走り寄ってくると、物体が落ちた場所を指さした。
「源太郎さん。あそこだよ!」
 近づいてみると、確かに宇宙船のような物体が、雑木林の中にあって、その周辺の木々が見るも無残な形で倒れている。
「和枝さんはどうしたんだ?」
「母さんなら、俺に全部任せて、夕食の支度をしている。自分じゃ何も分からないから、源太郎さんが帰ってきたら調べるように言ってくれって」
「伯父さん。一体誰が乗ってるんだろう」
「分からん… 倒れた木々の状態からすると、落ちてくる時相当な衝撃があったはずだ。中にいる者が誰かは分からんが、恐らく無事ではいられないだろうな」
 その時物体が突然光り、源太郎は詩織と誠一を自分の後ろに下げた。光はすぐに消えたが、ウィーンという音とともに扉が開いた。
「伯父さん。誰か出てくるわ」
「宇宙人か… どんなやつなんだろう?」
 扉が開いて、中から人が出てきた。暗がりのため、誰なのかははっきり分からなかったが、三人の目にはそれは人間に見えた。
「人間のようだな… 俺達と同じ地球人型の宇宙人か」
 出てきた者は、ジャンプすると地上に降り立った。誠一は持っていた懐中電灯を点灯させると、降りてきた人物を照らした。照らされた人物は、眩しさに手で顔を覆ったが、誠一は勿論、源太郎も詩織もその姿を見てビックリした顔でその人物を見た。
「す… スカーレットエンジェル!!?」
「馬鹿な… スカーレットエンジェルが二人… 」
 その人物の姿格好はスカーレットエンジェルとそっくり… いや、全く同じ格好をしていたのだ。それだけでない。顔もスカーレットエンジェルと全くそっくりだった。違うのはコスチュームの色だけで、それ以外は全くスカーレットエンジェル、いや美紀子と同じだったのである。
 彼女の名はヴァイオレットエンジェル。スカーレットエンジェルの双子の姉である。スカーレットエンジェルが、逃げるクイーンリリーを追って宇宙空間へ飛び出したあと、ヴァイオレットエンジェルは宇宙船でそのあとを追った。だが途中で宇宙船が故障して爆発を起こし、ヴァイオレットエンジェルは脱出艇に乗って何とか地球までたどり着いたのだが、燃料が無くなって墜落し、この場所に不時着したのだった。

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 懐中電灯を照らされ、眩しさに顔を覆ったヴァイオレットエンジェルは、自分の前に三人の人影があるのを見て、ブレードを出して身構えた。源太郎はヴァイオレットエンジェルが身構えたのを見ると、ヴァイオレットエンジェルに向かって叫んだ。
「待ってくれ。俺達は怪しい者じゃない。スカーレットエンジェルの仲間なんだ。つまり君の味方だ! 君はスカーレットエンジェルと同じ姿格好をしているが、スカーレットエンジェルの仲間なんだろう? 俺達はこの地球でのスカーレットエンジェルの同志なんだ」
 そう言って、源太郎はヴァイオレットエンジェルに向かって、自分達が敵ではないことを必死に説いた。



      *      *      *      *


 地球に降りてきたヴァイオレットエンジェルは、源太郎達を味方だと思ってくれるのか… また、スズメバチリーとカラスリーの前に、一敗地にまみれて捕らえられた美紀子は… そして拉致された結花と久美子の運命は… 
クイーンリリーは秘密結社『ブラックリリー』を結成し、その結成式は目前に迫っていた。

 (つづく)


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 次回予告

 ☆悪魔の軍団 ブラックリリー結成(後編)

 どうだ! 愚かな人間ども。憎っくきスカーレットエンジェルは、ついに我がブラックリリーが捕らえたぞ。スカーレットエンジェルの命も、もはや風前の灯。これから拷問で嬲り者にし、最後にはブラックリリー結成式の引き出物として、生贄にして処刑してやる。そうすれば、我がブラックリリーに楯突く者は、もはやいないのだ。我がブラックリリーは必ずこの世界を征服して支配する。楽しみに待っていろ。ワーッハッハッハッハ!!

 愚かな人間どもよ! 次回。悪魔の軍団 ブラックリリー結成(後編)に期待するのだ。
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テーマ : ライトノベル
ジャンル : 小説・文学