鷲尾飛鳥

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第21話『日本列島大噴火作戦(前篇)』

2012年 02月26日 17:43 (日)

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 2月の中旬頃から、N県では頻繁に地震が発生していた。規模自体はたいしたものではなかったが、震度2~3の地震が1日平均5~6回起こり、その度に地面が振動してグラグラと揺れ、人々を不安に陥れていた。だが、この地震の発生が人為的なもの… つまりブラックリリーが新たな作戦のために起こしているとは、誰も気付いていなかった。ブラックリリーは地下のマグマを地上に噴出させて、日本中の火山を一斉に噴火させ、溶岩と火山灰とで日本全滅を企んでいたのだ。さらに中部地方を横断している大地溝帯(フォッサマグナ)の地形を利用し、噴火に伴う地震によって日本列島を切断しようとしていたのである。地震はマグマを掘り出すために、組織内で開発して作り出したネオTNT爆弾(第17話参照)を地下にしかけ、爆発させているために起こっていたのだ。

      *      *      *      *

 それから一月が過ぎた・・・
「何だと!? まだ成功しないのか。爆薬の量を増やすとか、工夫はしているのだろうな!?」
 日本列島の某所にあるブラックリリーの本拠地では、大首領のクイーンリリーがイライラしていた。ブラックリリーが開発した特殊爆弾であるネオTNT爆弾を使い、地下のマグマを噴出させようとしたのが、地震が発生するだけで上手くいっていなかったからだ。作戦を担当していた科学班の戦闘員は、作戦の不具合をクイーンリリーに説明した。
「お言葉ですがクイーンリリー様。いくらネオTNT爆弾といえども、地下の奥深くにあるマグマを噴出させる事など到底不可能です。噴出させるには、ボーリングによって、マグマのある場所まで掘り下げ、そこでTNT爆弾を仕掛けて爆発させなければ、火山を噴火させる事は出来ません」
 クイーンリリーは戦闘員の報告を聞き、ジッと考えこんでいた。
「ボーリングか… よし! 技術者を大量に誘拐して連れてくるのだ。そいつらを使って地下のマグマを掘り出せばよい」
「かしこまりました。クイーンリリー様。それでは早速アジトに連絡いたします」
「今度の作戦は実行ギリギリまで、絶対に秘密を漏らすわけにはいかない。特にエンジェルの小娘どもに知られると厄介な事になる。アジトを作戦実行地の近くに移転し、そこから指揮をとることにする。私も出かけるから直ちに手配せよ」
「ヒャイィーッ! かしこまりました」
 戦闘員達が慌ただしく動き始め、移動用の車両が手配された。クイーンリリーは女性の姿に化けて車に乗りこんだ。車は本拠地を出ると、N県の某所にある作戦実行地へと向かった。

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「スカーレットエンジェルにヴァイオレットエンジェル… いつでも来い。罠を仕掛けて待っているぞ。火山の噴火で大量に出る溶岩で焼き殺してやる。ハーッハッハッハッハ!」

      *      *      *      *

「いやだ… また地震? 今日だけでもう5回目よ」
 天間村のペンション赤嶺では、地震のためにグラグラ揺れ、和枝が慌てて厨房から飛び出してきた。誠司も事務所から出て来た。やがて揺れがおさまり、和枝と誠司は食堂に入った。

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「あなた、一体どういう事なの?」
「私に聞いても分らんよ。それにしても、何回も地震があるなんて、ちょっと尋常ではないな」
「大神山の噴火の前触れかしら」
「確かに地震の震源のほとんどは大神山の周辺が多いな。確かに大神山は火山で、昔噴火した事もあるけど、地震観測所や火山研究所でも、大神山が今噴火するという要素は、今の所は無いと言ってるんだ」
「でも安心出来ないわよ。もし大神山が噴火したら、このあたりだって火山灰が降ってくるんだし、それに火砕流や溶岩で全滅する事だって…」
「そう悲観的になるなよ」
 そこへ学校から誠一が帰ってきた。
「ただいま」
「お帰り誠一」

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「一体どうなってんだよ全く… 学校でも地震がある度に女どもがキャーキャー騒いで、もう大変だぜ。そうだ… 母さん、麻紀子がいないようだけど」
「麻紀子ちゃんだったら、出かけてくるって言って出ていったきり、まだ帰ってこないわ」
「そういえばここんとこ、いつもどこかへ行ってるな…」
 ペンションの中で三人が会話していた頃、麻紀子、つまりヴァイオレットエンジェルは、大神山の麓にいた。3月になって麓の雪は融けていたが、般若峠を経て頂上へ向かう登山道はまだ雪に閉ざされて閉鎖されているので、行く事が出来るギリギリの所まで行って、大神山の様子を観察していたのだ。麻紀子は雪に覆われた大神山を見上げながら呟いていた。

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「確かにここ数日だけで地震がやたらと多いけど、一体何が原因なんだろう。もしこれが人為的なものだったら… ブラックリリーの新しい作戦だとしたら、大変な事になる」
 麻紀子は美紀子に状況を知らせようとしたが、はっきりした事が分からない今、美紀子に心配をかけたくなかったので、自分だけで調べていたのである。
「ワーッ! 誰か助けてくれぇーッ!」
 突然悲鳴が聞こえ、麻紀子は悲鳴のした方を向いた。すると、道路上に乗用車が二台止まっていて、片方の車から一人の男性が数人の男に引きずり出され、もう一台の車に乗せられようとしているのが見えた。
「何だろう… 只事じゃないわね」
 麻紀子は小走りに二台の車に近付いて、怪しい男達に向かって叫んだ。
「何やってるの!? その人をさらってどうするつもり!?」
「何だ小娘。お前には関係ない事だ。怪我したくなかったらとっとと消え失せろ!」
「助けてくれ! こいつらはブラックリリーといって、う… 」
「え!? ブラックリリー!?」
「静かにしろ! 死にたくなかったら余計な事を言うな!」
 怪しい男の一人が男性を殴って突き飛ばした。麻紀子はブラックリリーと聞き、ポーズをとって変身すると、そのまま男の一人に飛びかかって、男性を引き離して自分の後ろに下げた。
「ブラックリリーと聞いたら黙っているわけにはいかないわ。お前達の勝手にはさせない!」
「お前はエンジェル戦士!! くそっ! 邪魔する気か。ええい面倒だ! やっちまえ!」
「ヒャイィーッ!」
 怪しい男達が戦闘員の姿になり、ヴァイオレットエンジェルに襲いかかってきた。一人がヴァイオレットエンジェルに組みついてきて、ヴァイオレットエンジェルは一本背負いで戦闘員を投げ飛ばした。さらに飛びかかってきた戦闘員をハイキックで蹴り飛ばし、一人を羽交い締めにして首を締め上げた。
「さあ言いなさい! 今度は何を企んでいるの!?」
「し… 知らん!!」
「言いなさい!」
「く… 苦しい… ぐ、ぐぁぁ」
 締め上げていた戦闘員が嗚咽とともに倒れ伏し、絶命した。背中には鋭利な刃物が刺さっている。ヴァイオレットエンジェルは刃物が飛んできた方を振り向いた。するとそこに醜怪な姿をした、ブラックリリーのエージェントが立っていた。
「お前は… ブラックリリーの怪人!」

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「その通り。ブラックリリーのエージェント、スッポンリーだ」
「今度は何を企んでいるの!?」
「そう簡単に秘密を教えられるものか。残念ながら今はお前の相手をしている暇はない。いずれ勝負をつけてやる。者ども引き揚げろ」
 そう言ってスッポンリーは、残った戦闘員とともにその場から消えた。
「逃げたか… そうだ! あの人は…」
 ヴァイオレットエンジェルは変身を解くと車の方へ戻った。そこにはさっき助けた男性がいた。
「もう大丈夫ですよ」
「ありがとう。いきなりさっきの連中… ブラック何とかって言っていたやつらに車を止められて、さらわれそうになったんですよ」
「そうでしたか。とにかく助かって何よりです。私は紅林麻紀子といって、この近くに住んでいる者です。あなたは?」
「私は東都大学の地質学者で、若柳謙三といいます。最近この辺りで起きている群発地震の事で調査に来たんですが、今の所何の手掛かりもなくて… それで一番震源に近いこの辺りを調べに来て、さっきのやつらに捕まりそうになったんです」
「何か狙われる心当たりはありますか?」
「そう言えば… 三日ほど前にこの辺りを調査に来た知り合いの地震学者とボーリングの技術者が行方不明になったという話を耳にしたんですが、まさかあいつらが」
「(ボーリングの技術者に地震学者… やつらの狙いはなんだろう… ) とにかくここにいては危険です。私の住んでいる場所が近くですから、とりあえずそこへ行きましょう。私が案内します」
「分かりました。それでは乗ってください。助けてくれたお礼にあなたをお送りしましょう」
 麻紀子は若柳に勧められて若柳の車に乗り、若柳の運転でペンション赤嶺への道を急いだ

      *       *       *       *

 天間村で事件が起きていた頃、聖陵学園高校では試験休みが終わって終業式を迎えていたが、美紀子も詩織もまだ事件の事を何も知らずに、いつも通りの生活をしていた。美紀子は試験休みの前日に、クラス担任でテニス部顧問の祥子から言われていた ― 新学期になったらテニス部に入部する ― 事については承諾することにした。明美はそれを聞いて大喜びで美紀子に抱きついた。
 終業式が終わり、2年最後のホームルームが終わって、美紀子と詩織は廊下を歩きながら話をしていた。

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「美紀子。明日から春休みだけど、何してるの?」
「そんな余裕ないよ。いつブラックリリーが動き出すか分らないのよ」
「そうか… ゴメンね美紀子」
「いいのよ詩織。詩織は詩織なりに、私の事気遣ってくれてるんだし」
 美紀子と詩織は玄関で靴を履きかえると校舎の外へ出た。その時美紀子は頭の中で何かが過って、両手で頭を押さえて蹲った。
「どうしたの美紀子?」
「心配しないで詩織。姉さんからのテレパスだから」
「姉さんって… 麻紀子さんから?」
「うん… 」
 美紀子は暫くして立ちあがると、真剣な顔をして詩織を見た。
「今度は何? 随分怖い顔して」
「ブラックリリーが出たわ。やつらは天間村の付近で何か大きな事をしようとしている」
「ええっ!?」
「とにかく急いで帰ろう」
「分かった」

      *      *      *      *

「何だと? ヴァイオレットエンジェルが嗅ぎ回っているだと?」
「そうです。クイーンリリー様。いかがいたしましょう?」
 アジトではクイーンリリーがスッポンリーの報告を聞き、腕組みをして考えこんでいた。今、作戦の秘密を知られると厄介な事になり、再び挫折を余儀なくされるという不安も頭を過っていた。何といっても、これまでの作戦の全てをスカーレットエンジェルとヴァイオレットエンジェルによって妨害され、世界征服作戦そのものが危うくなっていた。それに今回の作戦はクイーンリリー自身が立案し、自らが作戦の陣頭に立っていたのだ。既に学者やボーリングの技術者を多数誘拐し、マグマの掘り出し作業も始まっていた。
「このままでは作戦の事を知られてしまうのは時間の問題だ。地底のマグマを掘り出すまでは、絶対に邪魔されたくない。アントリーを呼べ!」
 戦闘員が敬礼して司令室を出ていった。アントリーは誘拐した技術者や学者の作業を監督するため、作業現場にいたのである。暫くして、アントリーが戦闘員を伴って司令室にやってきた。

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「クイーンリリー様。お呼びでございますか?」
「マグマの掘り出し作業はどうなっている?」
「順調に進んでおります。このままだったら、あと3~4日でマグマの層に達すると思います」
「そうか。今スッポンリーからの報告で、エンジェルの小娘が嗅ぎ回っている事が分かった。お前はスッポンリーと共同戦線をはり、小娘を何とかしろ。作業を一時中断してもよい」
「ははーッ! かしこまりました。それでは失礼いたします」
 そう言って、アントリーは戦闘員を伴って司令室を退室し、スッポンリーもその後に続いた。

      *      *      *      *

 美紀子と詩織は、小走りに美紀子の家である紅林探偵事務所に帰ってきた。
「美紀子。あたし… 一旦家に帰って着替えてくるね」
 詩織はそう言うと、自分の家に向かって駆けていった。それを見届けながら美紀子が玄関を開けると、源太郎の声が聞こえてきた。
「美紀子。帰ってきたのか? すぐ来い。大変な事が起こっているぞ」
 美紀子が事務所に入ると、源太郎はファックスを美紀子に見せた。送り主は麻紀子だった。麻紀子は美紀子にテレパスを送っただけでなく、源太郎の事務所にも詳細な内容のファックスを送っていたのである。
「その内容を読めば分かると思うが、やつらは天間村とその周辺で、大掛かりな事を企んでいるらしい」
「私もさっき姉さんからのテレパスを受けたのよ」
 美紀子はファックスの文章を読みながら源太郎に話した。
「何をしようとしているのは分からないが、最近行方不明になっている地質学者やボーリングの技術者達と関係があるみたいだな。それと、天間村付近で発生している群発地震も何らかの関係があると思うぞ」
「確かに… この文章の中には地震の事が書いてある。その地震がブラックリリーと関係があるって事か。それと、ブラックリリーにさらわれそうになった地質学者を姉さんが助けた… か」
 美紀子の表情が段々と険しくなった。
「天間村に行くなら俺が乗せていってやる。すぐに支度しろ」
「待って源太郎さん。詩織がもうすぐ来るから」
「そうか」
「私… 着替えてくる」
 美紀子はそう言うと事務所を出て自分の部屋に上がっていった。暫くして、家で着替えてきた詩織がやってきて、美紀子の部屋に入ってきた。
「美紀子。お待たせ」

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 詩織は美紀子の表情を見て、只事ではないと察知したのか、それ以上は何も言わずに床に座った。美紀子は詩織と向かい合うように座り、送られてきたファックスを詩織に見せた。詩織の表情もすぐに変わった。詩織はファックスを美紀子に返すと、美紀子に聞いた。

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「美紀子はどう思ってるの?」
「恐らく・・ やつらの作戦は地震や学者達の誘拐と何か関係があると思ってる」
「それだけじゃないと思うよ。あたし的には、作戦地域を天間村に選んだという事は、単なる破壊活動じゃなくて、何か大規模な… 例えば地震の力を利用して日本全国の壊滅を狙うとか… 」
 美紀子は詩織の話を聞き、地図を持ってきて、天間村が載っているページを開いて詩織の前に置いた。詩織は地図を見て何かが閃いた。
「美紀子分かったよ!」
「何が?」
「火山だよ! 火山」
 詩織は天間村周辺にある山々を指差して言った。
「もしかして、火山を噴火させようとしているんじゃないの? それも一つや二つじゃなくて、この辺り一帯の火山全部… 天間村の辺りには火山帯があるから、地下のマグマを利用すれば、火山帯上にある火山を全部噴火させる事だって出来るわ」
「そうか。それでマグマを掘り出させるために、地質学者やボーリングの技術者達を大量に誘拐しているのね!?」
「そうだよ。地質学者や地震学者の誘拐も、同じ理由に違いないわ。美紀子! 行こう。早く何とかしないと、大変な事になるよ」
「うん!」
 美紀子が立ちあがって部屋のドアへ向かおうとすると、ドアをノックする音と一緒に、ドアが開いて、廊下に旅支度をした源太郎が立っていた。
「なかなか降りてこないから、お前達を迎えに来たんだ」
「ゴメン源太郎さん。支度するから待ってて」
 源太郎と詩織が下へ降りていくと、美紀子は大きめのバッグに着替え等を詰め込み、スカートからジーンズに履き替えて、バッグを持って下へ降りた。居間では源太郎と詩織が美紀子を待っていた。詩織のそばにはやはり大きなバッグが… 詩織も旅支度をしてここへ来たのだ。
「よし! それじゃ行くぞ」
 源太郎の一声で、美紀子と詩織はバッグをもって玄関へ向かった。美紀子は厚手のジャケットを羽織り、防寒ブーツを履くと外へ出た。源太郎は車庫から車を出し、美紀子と詩織を乗せると、アクセルをふかして車を発進させた。

      *      *      *      *

 天間村を含めたN県では、群発地震の影響で例年よりも観光客が少なく、また冬季のスキー客も例年より少なかった。そのため宿泊施設が真っ先に打撃を受け、スキー場や土産物点などが続けて影響を受けた。しかし、ペンション赤嶺では近くにスキー場が無く、また、これといった観光名所があるわけではなかったので、観光地ほどの影響は受けていなかった。が、それでも予約のキャンセルがあったので、売り上げは例年よりも少なかった。
 さて、麻紀子に助けられた若柳教授は、天間村の群発地震を引き続き調査する事に決め、その根拠地をペンション赤嶺に決めた。麻紀子に助けられた縁もあったが、この場所は震源地の大神山周辺に近く、行動が容易だったのだ。
 若柳氏を助けてペンションに戻ってきた麻紀子は、すぐに天間村での出来事を美紀子にテレパスで送り、さらに紅林探偵事務所にファックスを送った。そのあと源太郎から、今日から泊まるという内容の電話が入り、誠司と和枝は買い出しに行き、帰ってきた和枝は麻紀子と一緒に食事の準備をした。
「麻紀子ちゃん。今日美紀子ちゃんたちが来るからね」
「分かりました」
「それから、これを若柳さんに持っていって」
「はい」
 麻紀子は和枝からお茶とコーヒーのセットを受け取ると、若柳が泊まっている部屋に持っていった。
「失礼いたします」
 若柳は座卓の上に計算機とワープロを置き、数枚の印字された紙を並べていて、何かをやっていたところだった。
「ちょうど良かった。それをテーブルの端において、そこに座ってくれたまえ」
「は、はい」

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 麻紀子は若柳に勧められ、セットを置くと、若柳の向かい側に座った。
「君はさっきの連中。ブラック… 何とかとか言っていたな。君はこれまでの地震が、あの連中と何か関係があると思っているかね?」
 麻紀子は返事に一瞬迷ったが、若柳の表情が真剣そのものだったので、自分の知っている事を全て話す事にした。
「今起きている地震は、やつらが人工的に起こしているものに違いないです。学者や技術者が行方不明になっているという点からも、充分裏づけが取れます。現に先生が襲われて、さらわれそうになったじゃないですか」
「つまり、君は例の連中が技術者達を誘拐して、何かを企んでいると考えているのかね」
「そうです」
「うーん・・ にわかには信じられん話だが、現実を見てしまった以上は信じざるをえんな。となると… 何をしようとしているかだが… そうか! ボーリングという事は、地下にある何かを掘り出そうとしているのか。しかし、あの辺はいくら掘ったって石油は勿論、鉱物資源など何も無いぞ。あるのは火山帯に沿って流れているマグマだけだが」
「それだわ!」
 麻紀子は何かを思いついたように叫んだ。
「マグマが… そうか。マグマを噴出させて何かをしようとしているというのか」
 そこへ帰りの遅いのを心配していた和枝がやってきた。
「失礼します… あら麻紀子ちゃんここにいたの? なかなか戻ってこないから心配したのよ」
「いやいや… 私が引き留めていたんだ。すまんね」
「麻紀子ちゃん。美紀子ちゃんたちが着いたから、お部屋の用意をして」
「はい。それじゃ先生。失礼します」
 麻紀子は立ちあがると、若柳に一礼して部屋を出た。若柳は部屋を出ようとした麻紀子を呼び止めて話しかけた。
「後でまた部屋に来なさい」
「はい」
 麻紀子が玄関に行くと、ちょうど美紀子が源太郎、詩織と一緒に到着したところだった。
「おかえりなさい」
 先に玄関へ行った和枝が、源太郎達に挨拶した。
「それじゃお部屋を案内します」
 そう言って麻紀子は源太郎達を部屋に案内した。美紀子と詩織は部屋に荷物を置くと、着替えずにそのまま下へ下りてきた。厨房ではでは和枝が調理中で、誠司は事務室で仕事をしていた。美紀子たちを部屋に案内した麻紀子は、美紀子と詩織を食堂の隅へ連れていった。暫くして源太郎と誠一もやってきて、麻紀子はこれまでの事をみんなに話した。
「え? マグマを掘り出して火山を噴火させる?」
「そう。やつらの狙いはそれよ! 学者やボーリングの技術者たちが誘拐されている点から見ても、明らかに地下のマグマを掘り出そうとしているのよ」
「それじゃ地震はそのせいだって事か? うーん… 」
 源太郎は、ブラックリリーの企みに思わず唸った。
「姉さん。他に何か分かっている事はある?」
「私も震源地の近くを調べていたんだけど、やつらはなかなか尻尾を出さないのよ。勿論アジトの場所も分からないわ。ただ、エージェントが暗躍しているのは確かよ。私が東都大学の教授を助けた時、エージェントが現れたのよ」
「それでその人は?」
「このペンションに泊まっている。私が連れてきたの」
「そういう事か… この近くには大神山を含めて活動中の火山も結構あるし、それらが一斉に噴火しただけでも大きな被害が出る事は間違い無いな。ましてや全国の火山となったら、それこそ日本壊滅という大惨事になるかもしれんな」
「早くやつらのアジトを見つけて、何としてでも阻止しなきゃ!」
 そこへ和枝が入ってきた。
「誠一。麻紀子ちゃん。食事の用意が出来たから手伝って」
「はーい」
 麻紀子は立ち上がると、誠一も一緒に立ちあがった。
「それじゃ話の続きは後で」
 そう言って麻紀子と誠一は厨房へ向かった。源太郎は美紀子と詩織に向かって言った。
「明日から本格的な調査を始めよう。とにかく、やつらの動きを封じる事が絶対最優先だぞ」

 食事が終わって、一通りの後片付けが終わったところで、麻紀子は美紀子と詩織、源太郎を呼んで、若柳教授の部屋を訪ねた。若柳は自分が調べたデータと、地震研究所から取り寄せたデータをみんなに見せ、麻紀子の方を向きながら言った。
「さっきこちらのお嬢さんに話したんだが、私を狙ってきた得体の知れない連中と、これまでの地震に関係があるのは、どうやら本当の事みたいだな。私の知り合いの学者や、ボーリングの技術者たちが次々と行方不明になっているという事からも、どうやらその連中が関わっているようだ。ところで話は変わるが、君達はもしかして、城北大学の名取教授と知り合いかね?」
「先生は名取先生を知ってるんですか?」
「ああ… 私と名取君は大学時代の同期なんだ。名取君からブラック何とかという組織の事と、その組織と戦っている君達の事を聞いていて、もしやと思ったんだよ」
 美紀子と詩織はお互いの顔を見合った。そして美紀子は若柳教授に言った。
「やつらはまた先生を狙ってくると思います。だから、出来るだけ外へ出ないようにしてください。ただの地震ではないと分かった以上、先生に身の危険が及びます。お願いします」
「ん… 」
 美紀子の言葉に、若柳は黙って頷いた。
 
      *      *      *      *

 翌朝・・ ペンションの玄関前に美紀子と麻紀子、そして詩織が立っていた。その傍らにはアイドリング中の源太郎の車があり、源太郎は事務室の前で誠司、和枝と話をしていた。
「帰りは夕方になります。それじゃ麻紀子を借りていきます」
「分かりました。いってらっしゃい」
 源太郎は話を終えると、誠一を連れて玄関まで出てきた。そして源太郎はポケットベル(美紀子が改造した特別仕様)を誠一に渡して言った。
「誠一君。何かあったらこのスイッチを押すんだ。こいつは無線機の機能もあるから俺達と交信が出来る。もしもの事を考えて、こっちに詩織を残すから頼むぞ」

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「分かった。それじゃみんな気をつけて」
 源太郎は車のそばに来ると、美紀子と麻紀子を促し、美紀子と麻紀子は頷きながら車に乗った。詩織はもしもの事を考えて、誠一と留守番する事になった。
「よし! 行くぞ」
 源太郎はアクセルを踏みこみ、詩織と誠一の見送りを背に車を発進させた。目指すは大神山の麓であったが積雪のため、源太郎は車で行けるギリギリの所まで行く事にした。
「昨日までの経緯から考えて、とりあえず昨日麻紀子が行った場所から探ってみよう」
 源太郎はそう言いながら車を走らせ、美紀子と麻紀子は源太郎の言葉に黙って頷いた。道路に積雪があるため、約1時間かけて、ようやく目的地に到着した。昨日麻紀子が調べていた場所である。この場所は般若峠へと向かう林道で、左右には天間岳と大神山の二つの火山がそれぞれ見渡せる。現在は天間岳だけが活動していて僅かに噴煙を上げているが、かつては大神山も活火山だった。天間岳の北に広がる霧伏高原と、東に広がる天間高原は、天間岳から噴出した溶岩で出来た地形だ。また、大神山の北西に広がる広大な天童高原は、大神山の噴火で噴出した火山灰と溶岩で形成されている。

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 源太郎は車から降りると、両手を上げて一つ深呼吸した。美紀子たちも車から降りて、辺りを見まわした。ブラックリリーの気配など何も無く、不気味なくらい静かだった。
「姉さん。本当にこの場所なの?」
「嘘じゃないよ。確かに昨日ここで、若柳先生がブラックリリーに襲われて、そのあと化け物が現れたのよ」
そうは言ったものの、辺り一面は何の痕跡も無く、源太郎も付近を見まわしながら美紀子と麻紀子のそばに来た。
「やつらの事だ。もしかすると、この辺りは単なる作戦区域で、アジトは別の場所にあるかもしれんな」
 源太郎の推測した通りだった。ブラックリリーのアジトは作戦がやりやすい天道高原にあって、マグマの掘り出し場所もその近くにあったのだが、今回の作戦はクイーンリリーが陣頭指揮をとっていて、気配を悟られぬように巧みに隠蔽していたので、美紀子も麻紀子も全く気付いていなかった。
 美紀子達がなだらかに広がる雪原を眺めていた時、急にポケベルがアラーム音を発し、美紀子はポケットからポケベルを取り出した。
「緊急信号だわ。詩織からよ」
「一体何があったんだ!?」
 源太郎はポケベルを取り出すと、無線機モードに切り替え、スイッチを入れて詩織に向けて発信した。
「詩織! 何があった!?」
『伯父さん大変よ。若柳教授の姿が見えないの』
「何? いつからだ!?」
『伯父さんたちが出かけた時には、食堂で新聞を読んでいたのを見てるのよ。そのあとあたしが部屋に戻って横になってたら、誠一君が下で騒いでいたんで下りていったら、もういなくなっていたの』
「よし分かった。誠一君に代われ」
 暫くして誠一が出た。
『誠一です。気付いたらもういなかったんだよ。親父やお袋にも何も言わずにどこかへ出ていったみたいなんだ。お袋が部屋の掃除をしに行った時、荷物だけあって姿が見えないし、駐車場に車が無かったから、源太郎さんに知らせたんだ』
「分かった」
 源太郎はスイッチを切ると、美紀子と麻紀子の方を向いた。
「俺達が出かけたすぐ後に出ていったみたいだな。何処へいったのかは大体見当がつくんだが、ブラックリリーに襲われたらまずいな」
「どうしよう… 」
「探し出して保護するしかないわ。あの人はブラックリリーに狙われているんだから」
「それじゃ美紀子たちは調査を続けて。私が戻って捜すから」
「姉さん… 」
「大丈夫よ。この辺りの事は美紀子より私の方が詳しいんだから」
「そうか… それじゃ麻紀子、頼んだぞ」
「オーケー」
 麻紀子はヴァイオレットエンジェルに変身すると、その場でテレポートした。
「美紀子、乗れ。ここだけじゃなくて、広範囲に調査しよう」
 源太郎は運転席で地図を広げ、美紀子に見せて言った。
「この辺りを重点的に調べてみる必要がある。この道路は除雪されているから行く事が出来る」
 そう言って源太郎は、大神山の西にある大神峠を指さし、さらに付け加えて言った
「恐らく教授もここへ行くと思うんだ。地震の震源はこの辺りが最も多いんだ」
 源太郎は美紀子を促すと、エンジンをかけて発進した。

      *       *       *       *

「何? 小娘どもが現れただと?」
「ヒャイィーッ! 般若峠近くの林道をうろついていました」
 クイーンリリーは戦闘員の報告を聞き、地図を眺めた。
「大至急アントリーとスッポンリーを呼び出せ!」
 クイーンリリーに呼び出されたアントリーとスッポンリーが司令室に入ってきた。
「やつらが動き出して、盛んに周囲を嗅ぎ回っている。スッポンリー。何としてでもアジトに近付けるな」
「分かりました」
「アントリーはマグマの掘り出し作業を再開させろ。出来るだけ早くマグマの位置までボーリングを到達させ、爆薬を仕掛けて火山を噴火させるのだ」
「ははーッ!」
 命令を受けたアントリーとスッポンリーは、司令室から出てそれぞれの任務のため、戦闘員を引き連れてアジトを出た。

      *       *       *       *

 ヴァイオレットエンジェルがテレポートした場所は、大神山の北西に広がる天童高原を見下ろす大神峠だった。ヴァイオレットエンジェルはもしもの事を考え、若柳教授の車に発信機を取り付けていたのだ。そして大神峠にいるヴァイオレットエンジェルの様子を覗うスッポンリーと戦闘員の姿もあった。スッポンリーは双眼鏡で、峠の頂上に立っているヴァイオレットエンジェルの様子を覗っていた。
「現れたな小娘。絶対にアジトには近付かせんぞ」
 スッポンリーは戦闘員に手で合図し、合図とともに戦闘員たちが方々に散った。一方のヴァイオレットエンジェルは、発信機の受信機を見ながら、天道高原の方を見つめていた。
「ここから3km位の所にいる。発信源は停止している… 」
 ヴァイオレットエンジェルは天道高原に向かって小走りに駆け出し、同時に美紀子にテレパスを送った。源太郎の車の助手席に座っていた美紀子は、ヴァイオレットエンジェルからのテレパスを受け、運転している源太郎に告げた。
「源太郎さん。先生は天道高原だわ」
「そうか。よし分かった」
 源太郎はアクセルを踏みこみ、車を加速させた。

      *       *       *       *

 ヴァイオレットエンジェルは雪で覆われた天道高原を見ながら、高原の中の道を歩いていた。発信機の受信装置は相変わらず反応していた。
「あれだけ外へ出るなって言っておいたのに」
 そう呟くヴァイオレットエンジェルの前で、急に道路脇の雪が盛り上がり、ブラックリリーの戦闘員が奇声とともに飛び出してきた。
「出たわねブラックリリー!!」

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 戦闘員は姿を現すと同時に、一斉にヴァイオレットエンジェルに襲いかかってきて、格闘戦になった。ヴァイオレットエンジェルは戦いながら、スマッシュを発射して戦闘員を倒していった。戦闘員たちはヴァイオレットエンジェルと戦いながら、アジトがある場所からヴァイオレットエンジェルを遠ざけ、逆に罠の方向へと近付くように移動した。戦闘員はヴァイオレットエンジェルに襲いかかっては逃げを繰り返し、逃げる戦闘員を追うヴァイオレットエンジェルは、スッポンリーの思惑通りに罠へと近付いてきた。気が付くとヴァイオレットエンジェルは、道路からかなり離れた雪原の中にいた。
「今だ! やれっ!」
 隠れて成り行きを見ていたスッポンリーは戦闘員に合図をした。戦闘員が爆破スイッチを入れると、仕掛けられた爆弾が次々と爆発して、爆発の衝撃と爆風で雪が飛び散り、ヴァイオレットエンジェルの周りにいた戦闘員が、爆風で吹き飛ばされた。ヴァイオレットエンジェルは爆発を避けようとしたが、膝上丈まで積もった雪に足を取られ、思うように動けなくなっていた。
「しまった! 罠か」
 気付いた時にはもう遅かった。雪に足を取られて体の自由が利かず、ついにヴァイオレットエンジェルの至近で爆発が起き、ヴァイオレットエンジェルは身を竦めた。そこへすかさずスッポンリーが手足を引っ込め、雪の上をボブスレーのように滑走して、ヴァイオレットエンジェルに体当たりしてきた。
ドスン!!
「キャーッ!!」
 スッポンリーの体当たり攻撃で、ヴァイオレットエンジェルの身体が吹っ飛ばされ、雪原の中に突っ込んだ。態勢を立て直そうとしているヴァイオレットエンジェルに向かって、スッポンリーは再び体当たりしてきた。ヴァイオレットエンジェルはスマッシュを放ったが、スッポンリーの硬い甲羅に弾き返され、スッポンリーはそのままヴァイオレットエンジェルに体当たりして、ヴァイオレットエンジェルは悲鳴とともに宙を舞い、再び雪原に落ちた。
「小娘! 覚悟しろ」
 スッポンリーは手足を出すと、攻撃態勢をとり、口から火炎を吐き出した。炎が線状にヴァイオレットエンジェル目掛けて伸びていき、ヴァイオレットエンジェルは体を伏せて火炎を避けた。雪のため思うように動けないヴァイオレットエンジェルに向かって、スッポンリーは胴体から首を切り離し、その首がヴァイオレットエンジェルに向かっていって、ヴァイオレットエンジェルの肩に噛みついた。
「ぐ… 」
 ヴァイオレットエンジェルは噛みついているスッポンリーを引き離そうとしたが、肩にガッチリと食い込んだスッポンリーの首は離れない。

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「馬鹿め! 逃げられるものか! 俺は噛み付いたら絶対に離れないのだ」
 スッポンリーは衝撃波を放ち、バリバリっとヴァイオレットエンジェルの体中を電撃が走った。
「う・・ ウワアァーッ!」
 ヴァイオレットエンジェルは体が痺れてきて、次第に意識が遠くなり、ついにそのままその場に倒れて気絶してしまった。
「とどめだ! 殺してやる」
「待て! スッポンリー。殺さないで生け捕りにするのだ」
 クイーンリリーが現れ、スッポンリーのそばにやってきた。
「こいつを利用して、スカーレットエンジェルを片づけてやる。アジトで洗脳して我々の手先にするのだ。連れていけ!」
「なるほど・・  分かりました。クイーンリリー様」
 スッポンリーは戦闘員に合図した。スノーモービルに乗った戦闘員たちが現れて、気絶したヴァイオレットエンジェルの傍に停止し、ヴァイオレットエンジェルの両手を後ろに回し、手枷をはめてから鎖で全身を頑丈に縛り、スノーモービルに乗せた。
「アジトへ連れていけ」
「ヒャイィーッ!!」

      *       *       *       *

 一方、大神峠への道を急いでいた源太郎と美紀子は、その途中、大神峠まで約3キロの所で、道路脇の雪溜りに突っ込んで止まっている車を見つけた。
「源太郎さん、あの車… 」
「先生の車だ」
 源太郎は停止している車のすぐ後ろに車を停め、クラクションを鳴らした。すると運転席のドアが開き、若柳教授が出てきた。それを見て源太郎と美紀子は車から降りた。
「先生。あれほど外へ出ないように言ったのに」
「面目無い。車もこの通りになってしまって… 皆さんに心配かけてすまない」
「そんな事より、早くここから離れた方がいいですよ。源太郎さん、ペンションまで送っていってあげて」
「美紀子はどうするんだ」
「私はここから一人で行く。心配しないで」
 美紀子の目を見た源太郎は、若柳の方に向き直った。
「それじゃ先生、私の車に乗ってください」
 源太郎は若柳を促し、若柳は頭を下げながら源太郎の車に乗った。
「美紀子。それじゃ頼んだぞ。後で迎えに行くからな」
「うん!」
 源太郎は車を走らせた。美紀子は遠ざかっていく車を見届けながら、大神峠の方へ向かって歩き出した。
「何だか胸騒ぎがするわ」
 美紀子は急ぎ足で大神峠へ向かった。

      *       *       *       *

 その頃、ブラックリリーのアジトでは、捕らえたヴァイオレットエンジェルへの拷問と洗脳が始まろうとしていた。クイーンリリーはヴァイオレットエンジェルを殺さずに生け捕りにして、アジトで洗脳し、スカーレットエンジェルと戦わせて共倒れにさせようと企んでいたのだ。気絶していたヴァイオレットエンジェルは、変身した状態のまま壁に拘束されていた。そのそばにはヴァイオレットエンジェルを生け捕りにしたスッポンリーと、数人の戦闘員が見張っていて、クイーンリリーがやってくるのを待っていた。クイーンリリーは、火山噴火作戦のためのマグマ掘り出し作業の進行状況を確認するため、作業現場へ視察に行っていた。待ちわびているスッポンリーのもとに、戦闘員の一人がやってきた。
「スッポンリー様。クイーンリリー様が御到着です」
 続けてクイーンリリーが戦闘員とともに入ってきた。
「待たせたな。小娘はどうしてる?」
「はっ! ついさっき目を覚ましました」
「よし。早速始めろ」
「はっ! かしこまりました。クイーンリリー様」
 ヴァイオレットエンジェルはその成り行きを、無言のまま毅然と見つめていた。

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「よし! 電源を入れよ!」
 スイッチが入れられ、ヴァイオレットエンジェルの身体に電流が流れた。
「ん… ん」
 ヴァイオレットエンジェルは体に電気を流され、呻き声を上げた。そして電圧が上がり、その衝撃に耐えられず絶叫した。
「く・・ あぁ… アァーッ!」

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 ヴァイオレットエンジェルは苦痛に身体を捩らせ、激しく悶絶した。さらに電圧が上がり、ヴァイオレットエンジェルは身体を仰け反らせ、体中をブルブルと震わせながら、苦痛から逃れようと必死でもがいた。が、やがて体力を消耗し、目に霞がかかったようになってきて、気が遠くなり始めた。
「今だ。洗脳を始めろ。悪のエネルギーを送り込むのだ」
「ハッ!」
 上げられていた電圧が下がり、電流とともに特殊な電波が流された。これは悪のエネルギーと呼ばれる電波で、先日の作戦で得たリリー球根のクローンに必要なエネルギーを使っているのだ。
「ああ・・ あ・・ ウワアァーッ!」
 ヴァイオレットエンジェルの身体に洗脳電波が流れ、電波の刺激に体を震わせた。
「小娘。悪のエネルギーで、お前を我々の僕にしてやる」
「だ・・ 誰が・・ ああぁぁあぁ・・ 誰がお前達なんかに・・ あぁぁぁぁ」
 拷問室内に絶叫が響き渡り、10数分後にはヴァイオレットエンジェルは拷問に耐えられず、ついに甲高い声と共に意識を飛ばした。
「ふふふ… やっと催眠状態になったようね。洗脳を続けろ。今に見ていろスカーレットエンジェル。お前はお前の姉と戦う事になるのだ」
 だが、ヴァイオレットエンジェルは失神したわけではなかったのだ。エンジェル戦士は自分自身が最悪の危機に陥ったとき、自己催眠で自分自身の意識を飛ばす能力があった。宇宙ではありとあらゆる現象が予想され、時には生死に関わる危機に陥ることもある。そういう時のために、自分自身を自己催眠にかけるという訓練も施されていたのだ。今、ヴァイオレットエンジェルはその自己催眠で意識を飛ばした。このままではクイーンリリーの思惑通り洗脳状態になる。が、それは自己催眠にかかっている間だけの事であり、何かのショックで自己催眠が解ければ、洗脳状態からも脱却出来るのだ。クイーンリリーはエンジェルの戦士がそういう能力を持っていることに気付いていなかった。

      *       *       *       *

 若柳教授を乗せてペンションに戻った源太郎は、そこで思わぬ訪問者に出会った。源太郎は教授と一緒に食堂へ入った。そこには詩織と誠一がいて源太郎を迎えたが、もう一人… 
「源太郎さんお久しぶりね」

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「お前は… 早紀。早紀じゃないか。どうしてここへ… 」
「本部からの指令よ。本部でもここでブラックリリーが大規模な作戦を企んでいるという情報をつかんで、私に源太郎さんのサポートをするように命令が出たの。ところで、あなたの養子になった例のお嬢さんは?」
「美紀子なら今やつらのアジトを捜して天道高原にいる」
「それじゃすぐに行きましょうよ。のんびりしている暇は無いわ。一刻も早くやつらの作戦を阻止しなきゃ」
「わ、分かった。詩織、また留守番と連絡係を頼むぞ」
「オーケー!」
「先生は今度こそ絶対に外へ出ないで下さい」
「分かりました」
「よし! 早紀、行くぞ」
 早紀は防寒着を着て玄関へ行き、源太郎の後を追って外へ出た。そして源太郎の車に乗りこみ、源太郎は車を発進させた。目指すは天道高原である。

      *       *       *       *

 その頃美紀子は天道高原を見渡す道路を、一路大神峠目指して進んでいた。その途中で道路から少し離れた雪原の真ん中にある建物を見つけた。その建物は元々はドライブインで、二年ほど前に営業を止め、そのまま放置されていた。
「怪しい建物だわ」
 美紀子はそう呟きながら建物に近付こうとしたが、周囲の人影を見てその場に身を伏せた。あらためて建物の周辺を見ると、ブラックリリーの戦闘員が立っている。
「やつらだ… するとあの建物がアジトなのか」
 近付こうにも建物までは一面の雪原で何も遮蔽物が無い。確実に見つかってしまうだろう。麻紀子からのテレパスも全く無く、もし麻紀子が捕らえられていたならば迂闊に手を出すわけに行かない。その時美紀子は頭の中に強いテレパスを感じた。
「姉さんからだ。SOS信号だわ。やっぱり捕らえられているんだわ」
 麻紀子は洗脳を受けていながらも、自分が危険な状態であることをテレパスで美紀子に知らせたのだ。美紀子は立ちあがると、建物目指して走り出した。美紀子に気付いた戦闘員たちが一斉に走りだし、美紀子に向かってきて美紀子を取り囲んだ。
「スカーレットスパーク‐エンジェルチャージ!」
 美紀子は変身すると、向かってくる戦闘員と格闘し、一人ずつ倒していった。だが戦闘員は数にものを言わせて次々と襲ってくる。
 アジトでは非常警報が鳴り、戦闘員が司令室にいたクイーンリリーとスッポンリーに報告に来た。
「スカーレットエンジェルが現れました。アジトのすぐそばにいます」
「何だと!? ヴァイオレットエンジェルの洗脳はどうなっているのだ」
「既に終了しています。いつでもスカーレットエンジェルと戦わせる事が出来ます」
「よーし! スッポンリー。ヴァイオレットエンジェルを連れて外へ出ろ。スカーレットエンジェルに目にもの見せてくれる」
「ははーッ! かしこまりました。クイーンリリー様」
 スカーレットエンジェルは戦闘員と戦い、次々と倒していたが、戦闘員の数が多く、次から次へと襲ってくるので、なかなかアジトがある建物に近付く事が出来なかった。やっと戦闘員の壁を破り、アジトの入り口に向かって走ろうとしたスカーレットエンジェルの眼前に、スッポンリーが立ち塞がった。
「待っていたぞ小娘!」
「化け物! これ以上お前達の勝手にはさせないわ」
「それはどうかな? 出でよ。我がしもべよ」
 スッポンリーの後ろから出てきて、スカーレットエンジェルの前に現れたヴァイオレットエンジェルを見て、スカーレットエンジェルは一瞬体が固まった。ヴァイオレットエンジェルは完全に洗脳され、顔つきも変わっていて、目が据わっている。

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「姉さん… 私よ。スカーレットエンジェルよ」
「無駄だ無駄だ。こいつは我がブラックリリーの手先となっているのだ」
 さらにクイーンリリーが出てきた。
「クイーンリリー!」
 スカーレットエンジェルはクイーンリリーに向かっていこうとしたが、ヴァイオレットエンジェルがその前に立ちはだかり、持っていたスティックをスカーレットエンジェルに向けた。同時に衝撃波がスカーレットエンジェルを襲い、スカーレットエンジェルは悲鳴とともに宙を舞って、雪原の上に叩きつけられ、雪の中に埋まった。
「さあ行け! 我がブラックリリーの僕よ。スカーレットエンジェルの小娘を殺すのだ」
 ヴァイオレットエンジェルはスティックをブレードに変えると、猛然とスカーレットエンジェルに向かって走り出した。雪の中から立ちあがったスカーレットエンジェルに向かって、ヴァイオレットエンジェルのブレードが振り下ろされ、スカーレットエンジェルはヴァイオレットエンジェルの腕をつかんでブレードを避けた。
「姉さんやめて! 私よ。私が分からないの!?」
 ヴァイオレットエンジェルは返事もせず、立て続けにブレードを突きたててくる。さらにヴァイオレットエンジェルの蹴りがスカーレットエンジェルの腹を直撃し、スカーレットエンジェルは反動で吹っ飛ばされた。立ちあがろうとするスカーレットエンジェルに向かって、ヴァイオレットエンジェルが突進し、ブレードを振り上げてきた。スカーレットエンジェルは辛うじて避け、ヴァイオレットエンジェルのブレードが雪を貫いてそのまま地面に突き刺さった。スカーレットエンジェルはその瞬間を見逃さず、ヴァイオレットエンジェルを突き飛ばし、今度はヴァイオレットエンジェルが雪の中に身体を突っ込んだ。その様子をスッポンリーが悠々と見ながら煽りたてた。
「やれやれーッ! たがいに傷つけ合って、共倒れになれ」
 起きあがったヴァイオレットエンジェルとスカーレットエンジェルとで、今度は取っ組み合いの格闘になった。

「姉さんやめて! 目を覚まして」
「うるさい! 死ねぇーッ!」
 ヴァイオレットエンジェルは完全に洗脳されていて、スカーレットエンジェルの言葉も伝わらなかった。スカーレットエンジェルは相手が姉のヴァイオレットエンジェルということもあり、手を出す事が出来なくて、ヴァイオレットエンジェルの攻撃をかわすのがやっとだった。それでもスカーレットエンジェルはヴァイオレットエンジェルのパンチやキックを数発受けていた。このまま戦い続ければ、間違い無くどちらかが倒れてしまうだろう。そうなればクイーンリリーの思惑通りである。
「(ダメだ… このままじゃどっちかがやられてしまう。どうすれば… )」
 クイーンリリーとスッポンリーは、相変わらず二人の戦いを眺めていた。戦闘員たちも二人の周囲を取り巻きながら、成り行きを傍観していた。だが、誰もがスカーレットエンジェルとヴァイオレットエンジェルの戦いに目を奪われ、源太郎と早紀が近付いているのに気付いていなかった。源太郎と早紀も、廃屋になっているドライブインが怪しいと直感し、また雪原の上の足跡を見て、美紀子がここから向かって行ったと確信して、早紀とともにドライブインに向かっていたのである。そこで二人が見たのは、建物の前に立つクイーンリリーとスッポンリーに、たむろしている戦闘員。そしてスカーレットエンジェルとヴァイオレットエンジェルが戦っている光景だった。
「二人が戦っている… どういう事なんだ」
「例のお嬢さんが二人… 一体どういう事なの? 源太郎さん」
「早紀、説明は後だ。とにかく二人の戦いを止めるんだ」
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 雪に穴を掘り、そこに隠れて様子を見ていた源太郎と早紀は、持ってきたザックを開け、武器を取り出した。源太郎が取り出した銃を見て、早紀が目を丸くして言った。
「ま、マジぃ?? 何で源太郎さんそんなの持ってんのよ」
「こいつはガス銃だ。催涙弾と煙幕で、辺りを撹乱するんだ。早紀。お前はこいつを頼む」
 そう言って源太郎は煙幕弾と手榴弾を早紀に渡した。早紀は生唾を飲みこみながら、源太郎から煙幕弾と手榴弾を受け取り、建物の方を見た。相変わらずスカーレットエンジェルとヴァイオレットエンジェルは、戦いを続けていて、それをブラックリリーの面々が傍観していた。
「俺があの建物の周りにいるやつらに向けてガス弾をぶっ放す。お前はあの二人の周りに煙幕弾を投げるんだ」
「わ… 分かった」
「よし! 早紀、行くぞ! 絶対に失敗するなよ。もししくじったらあの二人は勿論、俺達の命も無いぞ」
 源太郎と早紀は、気付かれないようにアジトに近付いた。一方のスカーレットエンジェルは、洗脳されたヴァイオレットエンジェル相手に戦っていたが、手を出す事が出来ないスカーレットエンジェルは押されっぱなしだった。ヴァイオレットエンジェルは地面に突き刺さったブレードを引き抜くと、猛然とスカーレットエンジェルに斬りかかってきた。何度かブレードが振り下ろされ、ついにスカーレットエンジェルはバランスを崩して仰向けに倒れた。
 ヴァイオレットエンジェルのブレードの刃先が、仰向けに倒れたスカーレットエンジェルに向けられた。
「姉さんやめてーッ!」
「死ねぇーッ!!」

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      *      *      *      *

 ブラックリリーの兵士と化したヴァイオレットエンジェルの凶刃が、今まさにスカーレットエンジェルの身体を貫こうとしていた。スカーレットエンジェルはやられてしまうのか… 

                                               (つづく)


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 次回予告
 ☆第22話 日本列島大噴火作戦(後編)

 ブラックリリーはN県を中心に南北に伸びる大地溝帯(フォッサマグナ)の地形構造を利用し、地底のマグマを噴出させて日本中の火山を全て噴火させ、さらに大規模な地震を起こして日本列島を真っ二つに分断しようと計画。地質学者や技術者を誘拐して作戦を進める。
 ブラックリリーに洗脳されたヴァイオレットエンジェルに襲われたスカーレットエンジェルは、源太郎と早紀のおかげで窮地を脱し、何とかブラックリリーの追撃を振りきって逃げる。しかし洗脳されたヴァイオレットエンジェルを置き去りにしたままであり、なおかつブラックリリーの火山噴火作戦は進行中で、前兆ともいうべき地震が再び天間村周辺を襲う。

 次回 スカーレットエンジェル第22話『日本列島大噴火作戦(後編)』にご期待ください

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テーマ : ライトノベル
ジャンル : 小説・文学