鷲尾飛鳥

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第12話『伝説の鏡』

2012年 05月27日 22:54 (日)

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 この話は、東京にある某資産家の邸宅で起きた事件から始まる。

 6月のある日… この日、東京にある某資産家の邸宅では、その資産家が海外から持って帰ってきた外国の貴重な古美術や装飾品が公開されていた。その中の一つに『ナルキッソスの鏡』というのがあった。一見何の変哲もない普通の鏡なのだが、この鏡には恐ろしい伝説があった。その伝説とは、鏡を見た者が鏡に映っている虚像によって鏡の中に引きずり込まれ、鏡の中に閉じこめられて、代わって鏡に映った虚像が出てきて、その者に取って代わるというもので、古代ギリシァの神話に登場する、ナルキッソスという少年にまつわるエピソードから名付けられた物であった。しかし、この鏡自体にはそのような力はなく、あくまでも伝説のものであって、この鏡はごく普通の鏡なのである。
 某資産家は名前を蔵本龍之介といい、日本でも有数の大資産家で貿易商を営み、東京の某所に大邸宅を構えて暮らしていた。ナルキッソスの鏡は他の古美術や装飾品と共に、海外のオークションで手に入れ、日本に持ち帰ってきたものだったが、蔵本氏はそれらの品々をサロンに飾り、自分の知人達を呼んでパーティーを開き、公開していたのである。

 パーティーが終わった深夜の蔵本邸の周囲で、不気味な人影が多数動き回っていた。月が出てきて映し出されたその人影は、ネオ‐ブラックリリーの戦闘員だった。ネオ‐ブラックリリーはナルキッソスの鏡の伝説に目を付け、自分たちの作戦に利用しようと考えていたのだ。それでこの鏡を強奪するという行動に出たのである。戦闘員達は蔵本邸の高い塀を易々と飛び越え、真っ暗な庭園内を音もなく横切って、誰にも気付かれることなく、邸宅の中に侵入した。そしてセキュリティーシステムを切り、サロンのテーブルに飾られていたナルキッソスの鏡を見つけると、それを手にとって奪おうとした。が、その時戦闘員の一人が置いてあった壺に過って触れて壺を倒し、壺は床に落ちて粉々に砕け散った。
「バカ!! 何やってるんだ」
「すまん」
 その時誰かが廊下を歩いて部屋に近付いてきた。
「まずい! 今の音を聞かれた。隠れるんだ」
 部屋に入ってきたのは蔵本氏だった。蔵本氏は物音で目を覚まし、寝室からサロンにやってきたのだった。
「いったい何の音だ… 」
 そう呟きながら部屋の明かりをつけた蔵本氏は、床の上で砕け散っている壺を見つけた。
「壷が落ちた音だったのか。それにしてもなぜ… 」
 蔵本氏は砕けた壷の破片を拾いながら、考え込んだ。そしてテーブルの上を見渡すと、ナルキッソスの鏡が見当たらない。
「あれ… ? ナルキッソスの鏡が無い… 何処へ行ったのだ」
 そう呟いた時、部屋の中に潜んでいた数人の戦闘員たちが一斉に姿を現した。
「だ、誰だ貴様ら!」
 突然出現した得体の知れない集団に驚いた蔵本氏は、そばにあった日本刀を抜かないまま手に持って威嚇した。戦闘員達は返事もせずに蔵本氏に襲いかかり、日本刀を奪って蔵本氏を押さえつけ、羽交い締めにした。
「何をする… 放せっ」
 戦闘員の一人がナルキッソスの鏡を持ちながら言った。
「この鏡を頂いていく。我々の事を黙っているならば、命だけは助けてやってもいいぞ」
「な… 何だと!? 貴様らワシの財産をどうする気だ。やめろ!」
「抵抗するならしょうがない。やれ!」
 倉本氏が暴れて抵抗したため、戦闘員の一人がデジタルカメラのような機械を持ってきて、倉本氏にレンズを向けた。
「丁度いい。ドクターマンドラ様が発明したマンドラカメラをこの男で実験してやろう」
 戦闘員が覗くファインダーの向こう側には、必死の形相をした蔵本氏が映し出されていた。
「な、何をする気だ!? やめろ! やめろーっ! やめてくれぇーっ」
 カメラのシャッターが押され、レンズから光線が発射されて、蔵本氏を包みこんだ。同時に倉本氏の姿がそのままレンズからカメラの中に吸い込まれた。ちなみに吸いこまれた人間の本体は、カメラの中にある電子フィルムの中に二次元の状態で収まっている。そして設定を変えてシャッターを押すと、今度は吸い込んだ者の虚像を出す事が出来るし、本体を者を元に戻す事も出来る。
「実験は大成功だ」
 カメラを持った戦闘員はサロンを出ると、蔵本氏の寝室へ行き、ベッドに向かってさっきのカメラのシャッターを押した。すると青白い光線とともに、蔵本氏が再び姿を現した。この蔵本氏は言うまでもなく虚像である。虚像の蔵本氏はその場で自分のベッドに潜り込んだ。
「よし! 引き揚げろ」
 戦闘員達は次々と屋敷から引き揚げた。しばらくして騒ぎに気付いた屋敷の使用人が、サロンにやってきた。
「ご主人、どうなされたんですか?」
 しかし、声をかけても何も音沙汰が無い。電気をつけてみても、部屋には誰もいない。
「おかしいなぁ… 誰もいないや。気のせいか… 」
 使用人は何なんだといった表情をして、首をかしげながら自分の部屋へ戻っていった。

 ネオ‐ブラックリリーのアジトでは、今度の作戦に使うドラゴン魔人の改造手術の真っ最中だった。ドクターマンドラは司令室で報告を待っていたが、そこへ数人の戦闘員が入ってきた。
「ドクターマンドラ様。行動部隊がナルキッソスの鏡を強奪して持ってきました」
「何? そうか。よし! こっちへ持って来るように言え」
 しばらくして二人の戦闘員が、覆いを被せた鏡を持って入ってくると、室内にあるテーブルの上に置いた。
「覆いを取れ」
 覆いが取られ、鏡が姿を現した。
「これがナルキッソスの鏡か… 」
「そうです」
「私が発明したマンドラカメラの性能は素晴らしい。だがこのカメラだけでは、シャッターを押さねば威力を発揮出来ない。しかし、このナルキッソスの鏡と、マンドラカメラとを合体させれば、人間どもはこの鏡を見ただけでも吸いこまれてしまうのだ。 ふふふ… そして吸いこんだ人間どもの虚像を大量に作りだし、エンジェルスの小娘どもを襲わせる。もし虚像を倒せば、鏡の中に閉じ込められた本体も死ぬ。それを知れば小娘どもには手を出す事が出来まい。そこが我々の狙いだ。見ていろ小娘ども… そしてスカーレットエンジェル! 今度こそ完全に始末してやる」
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 ドクターマンドラは、鏡を持ってきた戦闘員に向かって言った。
「科学班にすぐこの鏡とマンドラカメラとを合成させ、新兵器を作り出すように言え。そうだな… 新兵器の名は… そうだ。私の名をとってマンドラミラーが良いだろう。完成したら現在改造中のドラゴン魔人の体に取り付けるのだ」
「かしこまりました」
 命令を聞いた戦闘員達は、すぐに司令室を出ていった。
「この作戦は単に人間どもを鏡に吸いこむだけではない。新兵器のマンドラミラーから出る高エネルギーの破壊衝撃波を利用し、日本全国の破壊作戦を行うのだ」

      *       *       *       *

 それから2週間ほど経過した。6月もそろそろ終わり、本格的な夏を迎えようとしていたが、まだ梅雨が明けておらず、空はどんよりとしていて、雨の日が多かった。そして今日も日がささず、今にも雨が降りそうな天気だった。
「お姉ちゃーん!」
 学校帰りの絵里香たちに向かって、佳奈子が走ってきた。
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「あら佳奈子。今帰り?」
「うん」
「じゃ一緒に帰ろうか。絵里香、美由紀、それじゃまた明日」
「バイバイ聖奈子。また明日ね」
 聖奈子は佳奈子を連れて、絵里香、美由紀の見送りを背に、自分の家へと向かった。
「それじゃ絵里香。また明日ね」
 駅の前で美由紀は絵里香と別れ、駅へ向かって小走りに駆けていった。絵里香は美由紀を見送りながら、自分の家へ向かった。
 今の所ネオ‐ブラックリリーの動きは無く、絵里香たちにとってはつかの間の休息だった。美紀子も事務所を留守にして、大学の研究室に詰めていた。
 絵里香は帰宅すると、自分の部屋へ行って私服に着替え、机に向かって教科書を開くと、今日の復習を始めた。期末試験がもうすぐ始まるからだ。絵里香は二年生になってからというもの、エンジェル戦士になって、ネオ‐ブラックリリーとの戦いが続き、ろくに勉強する時間が無くて、中間試験の成績があまり芳しくなかったのだ。時々、自分と同じ境遇にありながら、いつも学年トップの成績を維持している聖奈子が羨ましく感じられる時もあった。

      *       *       *       *

 さて、その頃大学の研究室にいた美紀子の元に携帯の着信が入った。美紀子はその相手との会話を終えると、急いで支度をして大学を出た。話の相手は榎木昌弘という人物で、蔵本龍之介の邸宅で執事をしている人だった。美紀子との関係は、というと、榎木はかつて美紀子の養父だった紅林源太郎の学生時代の後輩で、源太郎が日本にいた頃、源太郎の紹介で会っていた事があったのだ。その榎木が、主人である蔵本氏の様子がおかしいという事で、美紀子に相談の電話をしてきたので、美紀子は事情を確かめるために蔵本氏の邸宅へ向かったのである。
 蔵本氏の邸宅の前まで来ると、美紀子が来るのを待っていたかのように門が開いたので、美紀子はそのまま車で敷地内を走り、邸宅の正面にある駐車場に車を乗り入れて停めた。車から降りると程無くして玄関の扉が開き、榎木が出てきて、美紀子のそばまでやってきた。
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「紅林さん。お待ちしてました」
「こんにちは榎木さん。早速なんですけど、蔵本さんの様子がおかしいって、どういう事なんですか? 電話では分からなかったんで、詳しく話してください」
 榎木は小さな声でも会話が出来るよう、さらに美紀子に近付いてきた。美紀子と榎木は、美紀子の車のそばで、周囲を見ながら小さい声で会話した。
「二週間ほど前にこの邸宅のサロンでパーティーをした時、あなたもここへいらしてましたよね」
「ええ。蔵本さんも、とってもお元気だったようですけど」
「その次の日の朝から様子がおかしくなったんです」
「というと… 」
「何だか上の空というか、無表情というか… 何を言っても生返事しか返ってこなくなって、まるで別人みたいになってるんですよ。あ… 出てきました」
 榎木が顔を向けた方向には、庭園があって、蔵本氏が建物の中からその庭園に出てきていたのが見えた。美紀子と堂本がいる場所からは大体30メートル位の場所である。
「今までこんな事は無かったのに、毎日のようにああやってボーッとしてるんです」
 美紀子は蔵本氏を眺めた。この蔵本氏は言うまでもなく、ネオ‐ブラックリリーによって作り出された虚像(コピー)である。よく見ると、顔色は生気を失っているかのように蒼白で、確かに榎木が言うように別人のように思えた。
「(確かに変だわ… あれは催眠術にかけられているか、洗脳されているような表情だわ)」
 その時美紀子はネオ‐ブラックリリーの事が頭に浮かんだ。
「(ネオ‐ブラックリリー!? もしやつらだったら… でもやつらだとしても、やつらと蔵本さんとの接点が分からないし、やつらが蔵本さんを狙う理由が分からないわ) そうだ。榎木さん」
「何ですか?」
「蔵本さん本人だけでなく、蔵本さんの周囲で何か変わったことはありましたか?」
「周囲で?」
「何でも良いんです。たとえば… とにかく何か気づいた事があったらお願いします」
 榎木は少し考えてから、何かを思い出したかのように美紀子に話した。
「そういえば、蔵本氏が外国からオークションで落札して持ち帰ってきた物が、一つだけサロンから消えて無くなっていたんです。私も捜したんですが見つからなくて、蔵本氏本人は知らないと言ってるし、それにこのサロンから誰かが外へ移動させるという事はまず有得ないんです」
「何が無くなっていたんですか?」
「ナルキッソスの鏡です」
「ナルキッソスの鏡?」
「はい。最近の海外オークションで落札して、日本に持ち帰ってきた物で、なにやら、伝説があるという、いわく付きの物らしいんです。紅林さんもパーティーでご覧になっていましたよね」
「ええ・・ 確かに。その鏡が無くなっていたんですか?」
「そうなんです。巷では蔵本氏は鏡のたたりに遭ったといううわさまで流れてるんですよ」
「(たたり… か) 分かりました。とにかく、蔵本さんの事はしばらく様子を見てみて、何かあったらまた連絡を下さい。私はまず、その鏡の伝説について調べてみますから」
「お願いします。私としては、紅林さんが源太郎さんに勝るとも劣らない名探偵だと見込んで、頼るしかないんです」
「分かりました。それじゃ私はこれで」
「どうもご苦労様でした」
 美紀子は車に乗ると、榎木の見送りを背に車を発進させて邸宅を出た。

      *       *       *       *

 その頃ネオ‐ブラックリリーのアジトではマンドラミラーが完成し、ドラゴン魔人の最終的な改造手術が終了して、ドラゴン魔人が戦闘員達を伴って司令室に入ってきた。
「ギリギリギリギリーッ!」
「ドラゴン魔人! お前の胸には魔力を備えた鏡『マンドラミラー』が移植されている。早速その威力を人間どもで試し、我がネオ‐ブラックリリー力を見せつけてやるのだ」
 その時、大首領クイーンリリーの声が室内のスピーカーから響いた。
「行け! ドラゴン魔人よ。お前の力を愚かな人間どもに見せつけ、我がネオ‐ブラックリリーに跪かせるのだ」
「ははーっ! かしこまりました。それでは行ってまいります。ギリギリギリギリーッ!」
 ドラゴン魔人は敬礼すると、戦闘員を伴って足早にアジトから出ていった。
「ふふふ… 今に見ていろ小娘ども。そしてスカーレットエンジェル! 今度こそ息の根をとめてやる。ハーッハッハッハッハ!」

      *       *       *       *


 翌日の午後… 
 今日は晴れで、朝から気温が高かった。ここは鷲尾平市東部の小山田町との境付近にある、鷲尾平南高校の体育館である。中では放課後の部活で練習をしているバスケット部員達がいたが、その部員達が突然銀色の光に包まれたかと思うと、その場から消えてしまったのだ。それだけではなかった。今度は隣の小山田町で、仕事帰りの人が同じ経緯で蒸発し、さらに河原に散歩に来ていた近所の人達も皆消えてしまったのである。
「実験は大成功だ。この鏡の魔力はすばらしい」
 そう言いながらドラゴン魔人はその場から消えた。それからしばらくして、ドラゴン魔人は今度はついに鷲尾平の町にその醜い姿を現した。
学校帰りの佳奈子は友人の裕香・麻里と一緒に、自分たちの家に帰る途中だった。麻里の家の前で麻里と別れてしばらく歩いていると、佳奈子と裕香はいきなり悲鳴を聞いた
「キャーッ! 助けてぇーっ」
 二人は何事かと思いながら悲鳴のした方へと小走りに向かっていった。路地を曲がったところで2人が見たものは、高校生のカップルがネオ‐ブラックリリーのドラゴン魔人に襲われている場面だった。カップルは、蛇に睨まれた蛙のようにじっと立ちつくしたまま震えていた。魔人は突然奇声を上げながら両手を広げた、すると胸の部分から銀色の光線が放たれ、2人を光が包み込んだかと思うと、そのまま魔人の身体の中に吸い込まれてしまった。

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「キャーッ!! 嫌ーっ!」
 裕香が思わず大声で叫んだ。その声を聞いて、ドラゴン魔人は佳奈子と裕香の方を向いた。
「見たな! お前達も吸い込んでやる」
 ドラゴン魔人は佳奈子と裕香の方へ向かってきた。
「裕香、逃げるよ! 早く」
 佳奈子は立ちすくんでいる裕香の制服の袖を引っ張ったが、麻里は脚が竦んで動けないでいた。佳奈子は何を思ったのか、とっさに魔人の方へ走って体当たりして抱きつき、おろおろしている裕香に向かって怒鳴った。
「裕香、何してるの!? 早く逃げて! 早くお姉ちゃんに知らせて!」
 裕香は戸惑っていたが佳奈子に急かされ、そのまま一目散に走り出した。
「ええい、邪魔だ! どけぇ」
 魔人は抱きついていた佳奈子を突き飛ばし、道路上に転げた佳奈子に向けて奇声を発した。銀色の光線が放たれて佳奈子を包み込み、そのまま佳奈子を鏡の中に吸い込んでしまった。
「一人逃がしたが、まあいい… 姿を見られたからといって、今度の作戦には影響はないわい。ギリギリギリギリーッ!」
 ドラゴン魔人はそう言ってその場から引き揚げた。一方、一目散に逃げて走り続けた裕香は、道路の交差点の角にあるコンビニが目に入り、中へ飛び込もうとしたが、ちょうどコンビニの中から出てきた美紀子と鉢合わせした。美紀子は今まで大学の研究室にいたのだが、自分の研究が一息ついたので、後を助手に任せて帰ってきたところだったのだ。裕香はわき目も振らず、美紀子に縋りつくように叫んだ。
「おばさん! 助けて。助けて!!」
 美紀子は『おばさん』と言われてムッとしたが、裕香の顔を見て只事ではないと悟った。
「どうしたの?」
「化け物が… 化け物が出て友達を!」
「え? 化け物?(まさか… またネオ‐ブラックリリーが)」
 気の弱い裕香は半狂乱の状態で、今何を聞いてもダメだと思った美紀子は、駐車場に停めてあった車の助手席のドアを開けた。
「早く乗って! 私の事務所まで連れていってあげるから、もう安心して良いわよ」
 美紀子は裕香を助手席に乗せると、運転席に座ってドアを閉め、駐車場から車を発進させた。裕香は相変わらず震えたままだった。
 学校帰りの絵里香たちの元に美紀子から電話がきたのは、それから間も無くだった。ちょうど部活が終わって着替えが終わり、学校を出ようとした所で絵里香の携帯が鳴った。
「ハイ絵里香です。美紀子さん? え… ちょ… ちょっと聖奈子と代わるから」
「どうしたの絵里香」
 絵里香は聖奈子に携帯を渡した。
「電話代わりました。え? 佳奈子が… 」
 聖奈子はそれを聞いただけで携帯を絵里香に向けて放ると、血相を変えてそのまま一目散に駆け出した。
「聖奈子待ってよ!」
 絵里香は聖奈子が放った携帯をキャッチしてつかんだまま聖奈子を追い、美由紀も聖奈子を追って駆け出した。

 美紀子の事務所に着いた聖奈子は、扉を開けて中へ飛びこんだ。事務所ではテーブルを挟んで美紀子と裕香が座っていた。
「美紀子さん! 佳奈子は? 佳奈子に何があったの!?」
「聖奈子落ちついて。とにかくまず座りなさい」
 聖奈子は美紀子に促され、ムッとした顔をしながら座った。そこへ絵里香と美由紀も追いついてきて、事務所に入ってきた。
「二人とも座って」
 美紀子に促され、絵里香と美由紀も椅子に座った。
「みんな落ちついて話を聞いてちょうだい。この子は桃井裕香ちゃんというの。聖奈子は分かってるでしょ」
「たしか佳奈子の友達だったよね」
 裕香は黙って頷いた。
「裕香ちゃんと佳奈子ちゃんは、帰宅途中でネオ‐ブラックリリーの魔人に襲われて、佳奈子ちゃんは裕香ちゃんを逃がすために、囮になったのよ」
「そ、それで佳奈子は?」
「おそらく、やつらに捕まっていると思う」
「佳奈子はどうなるの!? どうすれば助けられるの」
「待って聖奈子。やつらの狙いが分からないと、助ける術が無いのよ。まだ話しの続きがあるから、全部聞いて」

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 美紀子はさらに付け加えて言った。
「東京にいる私の知り合いの様子がおかしいのよ。蔵本っていう人なんだけど、屋敷の執事の話では、パーティーのあった日の翌日から人が変わったみたいになって、それから部屋に閉じこもったままなんだそうよ。このことは今度の事件とは何の関係も無いように思えるんだけど、実はこれらの事件の全てが一つに繋がっているみたいなの」
「どういうことですか?」
「蔵本氏のサロンに飾ってあった美術品の一つが無くなっていたのよ。執事の人から目録を見せてもらって分かったんだけど、蔵本氏は最近海外のオークションで『ナルキッソスの鏡』という品を手に入れているのよ。この鏡には伝説があって、鏡を見た者が鏡に映し出された虚像によって中に吸い込まれて、その虚像が鏡から出てきて本人と入れ替わってしまうらしいの。でもその鏡にはそんな力は無いわ。ただの伝説なんだけど、その鏡が無くなっていたっていうのよ」
 絵里香はそこまで言われてようやく美紀子の話が分かってきた。
「つまり、その鏡の伝説を利用するために、ネオ‐ブラックリリーがその鏡を盗み出して魔人の身体に移植し、その魔人が鏡を使って人を吸い込んでいるってことなの?」
「そういうことだと思う」
「すると、その蔵本っていう人は実は鏡に吸い込まれていて、今屋敷にいるのは本人と入れ替わった虚像だって事なのね。じゃあ、佳奈子ちゃんはどうなるの?」
「やつらの狙いが何なのか知る必要があるわ。明日事件のあった場所へ行ってみましょう。裕香ちゃんは私が送っていくから、あなた達も帰りなさい。聖奈子。佳奈子ちゃんの事で不安なのは分かるけど、絶対先走っちゃダメよ」
「分かってます」
 美紀子は裕香を連れて出ていき、絵里香たちも事務所を出て帰宅の途についた。

      *       *       *       *

 ネオ‐ブラックリリーのアジトでは、帰還してきたドラゴン魔人とドクターマンドラが、今後の作戦の打ち合わせをしていた。
「ドラゴン魔人よ。実験は成功したか?」
「はい。ドクターマンドラ様。大成功です」

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「よし! それではいよいよ第2作戦にはいる。ドラゴン魔人、お前を全国家庭電化製品破壊計画の責任者に任命する。お前の角からは強力な衝撃波が出る。その衝撃波とマンドラミラーの光エネルギーとを合体させれば、強力な破壊電磁波を発することが出来るのだ。お前はそれを各地に設置されている電線を使って流すのだ。破壊電磁波は電気と共に電線を伝わり、ビルや住宅の中にある電化製品を次々と爆発させる。そうなれば日本中はたちまち大混乱になるのだ。それに乗じて我々は手っ取り早く日本を征服し、世界征服のための橋頭堡をこの日本に築くのだ」
「それは素晴らしい」
「現在電磁波の受信装置を、戦闘員が各地の変電所や鉄塔に取り付けている最中だ。今夜もその作業を行うが、お前も行ってこい。それから現在製作中の発信装置にお前が電磁波を流せば、各地に取り付けられた受信装置に流れる仕組みになっている」
「ところでドクターマンドラ様。この鏡の中に吸い込んだ人間どもはどうしますか?」
「いずれエンジェルスの小娘どもが邪魔しに来るだろう。その時こそ、その中に吸い込んだ人間どもの虚像を使い、鏡人間として我々の盾にするのだ。鏡人間を殺せば鏡の中に吸い込まれた実体も死ぬ。そしてドラゴン魔人。お前が死んでも同じ事。従ってエンジェルスの小娘どもは手も足も出せないのだ。ハーッハッハッハ」

 その日の深夜、鷲尾平周辺の変電所や鉄塔周辺で怪しい人影が動き回っていた。ネオ‐ブラックリリーの戦闘員達が、今度の作戦に使用する衝撃波の受信装置を取り付けていたである。その中の一つ、小山田町と城間市にまたがる飛鳥山公園のそばにある飛鳥山変電所では、ドラゴン魔人が直々にやってきて敷地内に侵入し、衝撃波の受信装置を取り付けていた。その時たまたま巡回していた2人の警察官が変電所内に怪しい気配を感じ、パトカーを停めて変電所の敷地内を外から遠回しにうかがっていた。
「別に何も怪しいところはないな」
「思い過ごしかな。うむ… 引き揚げよう」
 そう言ったとき、建物の影から人間らしきものが出てきたのを、警察官の一人が見つけ、持っていた懐中電灯をその方向へ向けた。懐中電灯の光は的確にドラゴン魔人の姿をとらえ、その姿がはっきりと映し出された。
「な、な、何だ貴様! そこで何をしている」
「変な格好をして怪しいやつだ! た、た、逮捕する」
「うるさいやつらめ。お前らも吸い込んでやる」
 そう言ってドラゴン魔人は鏡の面を2人の警察官に向けた。同時に鏡から銀色の光が発射され、2人の警察官はその光に包まれて鏡の中へと吸い込まれていった。

      *       *       *       *

 翌日の放課後、絵里香たちは美紀子の車で事件のあった場所にやって来た。絵里香たちは車から降りると辺りを伺った。しばらくして美由紀が電柱の根元に落ちていた携帯電話を見つけ、拾って持ってきた。
「絵里香、聖奈子、来て」
「美由紀、どうしたの?」
「これ… 佳奈子ちゃんのじゃない? 名前が書いてあるわ」
「確かに佳奈子のだわ」
 開けてみると、待ち受け画面にドラゴン魔人の姿が克明に映し出されていた。
「こいつが今度の魔人… 」
「今度は一体何をしようとしているんだろう… 鏡で人を吸い込むことだけが目的だとは思えないわ。やつらのことだから、もっと他の目的があるはずよ」
「他の目的… 」
「みんな、飛鳥山公園へ行くわよ」
「飛鳥山公園? 何かあったんですか?」
「今朝のニュースで、飛鳥山変電所のそばで無人のパトカーが発見されて、乗っていた警官が行方不明だって言ってたのよ。今度の事件と関係があるのかどうか分からないけど、嫌な予感がするの」
 美紀子は絵里香たちを車に乗せ、飛鳥山へ向かって走り出した。20分ほど走って車は変電所に到達したが、変電所の周りは捜索活動中の警官と、テレビ局や新聞社の職員、野次馬でごった返していて、とても絵里香たちが乗り込んで調べることが出来るような状態ではなかった。これではとても近づけないと思っていたところで、美紀子が車から降りてスティツクを出し、空に向けて掲げた。すると、これまで忙しく動き回っていた周囲の人々が全てその場でピタッと止まってしまった。
「ど、どうなってるのこれ… 」
「時間を止めたのよ。でも効力は30分だけで、それ以上止めていることは出来ないわ。さ、急いで今のうちに変電所の中を調べるのよ」
「はいっ!」
 美紀子と絵里香達3人は変電所の敷地内に侵入し、施設のいたるところを調べ始めた。しばらくして動力施設がある建物の近くで、美紀子のスティツクが微妙に反応した。

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「何かしら… 」
 美紀子は呟きながらその建物に向けてスティックを伸ばした。すると、スティックのヘッドが光った。
「あの建物の中よ」
 絵里香たちは入り口を開けようとしたが、鍵がかかっていたので、美紀子はスティックをドアのノブにあてがった。すると鍵が開き、3人は扉を開けて中に入った。そして反応のする方向へと向かっていったが、配電盤の前で反応が強くなった。
「この中からだわ」
 絵里香が配電盤の扉を開けると、箱状の物体が目に付いた。
「何これ… 施設のものとは関係ないようだけど」
「絵里香、取り外して床に置いて」
 美紀子に言われて絵里香はその物体を取り外して床に起き、美紀子がその物体にスティックを向けると異常に反応した。
「確かにこれは変電所のものではないわ。よく分からないけど、電波の受信機か何かだわ。持って帰って調べてみましょう。さ、急いでここから出るのよ」
 タイムリミットが近いので、絵里香達は急いで敷地の外へ出て車に戻り、美紀子はタイムロックを解いた。すると再び周囲がざわつき始め、人々は何事もなかったかのように動き始めた。
「さあ、帰りましょう」

      *       *       *       *

 その頃、ネオ‐ブラックリリーのアジトでは、ドラゴン魔人が使う衝撃波発信装置が急ピッチで作られていた。その作業用人材として、ドラゴン魔人が吸い込んできた技術者たちが鏡から出されて使われ、完成するまであと少しだった。そんなとき、作戦室のコンピューターを見ていたドクターマンドラは、モニターを見て異変に気付いた。映し出されていた衝撃波受信装置の点が一つ消えたのだ。
「誰かが受信装置を取り外したな。きっとあの小娘どもの仕業に違いない。我々の作戦がばれてしまうぞ。大至急ドラゴン魔人を呼べ」
「かしこまりました」

      *       *       *       *

 美紀子が運転する車は、県道を一路鷲尾平の事務所目指して走っていた。その時急に激しい振動が襲ってきて、美紀子はその弾みでハンドルをきり損ねたが、運良く道路脇の畑に突っ込む手前で止まった。
「な… 何なの一体」
「何か、すごい衝撃だったけど」
「え、絵里香、出たわ! ネオ‐ブラックリリーよ」
 美由紀が指さした方向に多数の戦闘員がいて、奇声を上げながら絵里香達の方へと向かってきて、その後ろからはドラゴン魔人が迫ってきた。
「美紀子さん、私たちがここでくい止めるから、早くそれを持って帰って分析して下さい」
「分かった! それじゃみんな頼んだわよ。でも、くれぐれも無理はしないでね」
 美紀子は絵里香たちを降ろすと、車を急発進させて走り去った。
「し、しまった逃げられた… えぇい! こうなったらその小娘どもを片づけろ!」
ドラゴン魔人と戦闘員達が絵里香たちの周りを取り囲み、ジリジリと迫ってきた。
「エンジェルチャージ!」
 三人の身体が眩しい光につつまれ、エンジェル戦士の姿になった。
「やい! 化け物! お前達の今度の目的は何なの!?」
「知りたいか! 簡単な事だ。それはお前達を殺す事だ! 者どもかかれっ! 皆殺しだ!」
 戦闘員が一斉に襲いかかってきた。三人のエンジェルと、襲ってくる戦闘員との間で乱戦になり、戦闘員は三人に次々と倒されていった。
「くらえ! 小娘」
 ドラゴン魔人が出てきて、一番近くにいた絵里香めがけて火炎を放射してきた。絵里香は火炎を避けながら、ドラゴン魔人目がけて攻撃態勢をとり、絵里香のすぐ後ろにいた美由紀も同じく構えた。
「ファイヤースマッシュ!」
「ライトニングスマッシュ!」
 二つのエネルギー波がドラゴン魔人に向かっていったが、ドラゴン魔人は胸を開いてマンドラミラーを露にし、スマッシュのエネルギー波が跳ね返って絵里香と美由紀に向かってきて、二人の傍に着弾して爆発した。
「キャアーッ!」
 絵里香と美由紀は爆風で吹っ飛ばされ、一回転して地面に叩きつけられた。
「絵里香、美由紀!」
 聖奈子が駆け寄ってきて、ソードと楯を出すと、二人を庇うように身構えた。そこへドラゴン魔人が衝撃波を放った。バチバチっという鋭い衝撃が襲ってきて、聖奈子は楯で衝撃波を跳ね返すと、ドラゴン魔人に向かって怒鳴った。
「やい化け物! 佳奈子を何処へ連れていったんだ。佳奈子を返せ!」
「カナコだと… そんなやつ知るか! 死ねぇ!」
ドラゴン魔人の角が光り、同時に絵里香たちの周囲で次々と地面が爆発した。
「キャアーッ!!」
 絵里香たちは爆風で吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。いち早く起き上がった聖奈子が、ソード振り下ろした。
「くたばれ化け物! アクアスマッシュ!」
 聖奈子のアクアスマッシュがドラゴン魔人に命中すると同時に、スマッシュのエネルギーがミラーで反射され、聖奈子の方へ戻ってきて、聖奈子を直撃した。
「キャーッ!」
 聖奈子は衝撃でそのまま後ろに飛ばされ、受け身がとれないまま地面に叩きつけられた。
「聖奈子、大丈夫? しっかりして!」
 絵里香と美由紀が駆け寄り、聖奈子を庇うように聖奈子の前に立ち、それぞれブレードとバトンを出して身構えた。ドラゴン魔人がゆっくりとした足取りで近付いてきた。美由紀がバトンをクロスさせて、エネルギー波を放った。
「ライトニングトルネード!」
 光のエネルギー波が渦を巻いてドラゴン魔人に向かっていった。だが、魔人に命中すると、聖奈子のエネルギー波同様、反射されてそのまま美由紀に向かってきた。
「美由紀危ない!」
 絵里香はとっさに美由紀を庇うように抱きついて、そのまま地面に押し倒した。そのすぐ上を反射されたエネルギー波が通過していき、その延長上にあった林の木を直撃して吹っ飛ばした。
「私達の攻撃が効かないわ!」
「あの鏡よ! あの鏡が私たちの攻撃をみな跳ね返してしまうんだわ」
 絵里香がそう言ったとき、ドクターマンドラが魔人のそばにあらわれた。
「その通りだ小娘ども。貴様等にドラゴン魔人は倒せないのだ」
「お前はドクターマンドラ。今度は何を企んでいるの!?」
「そんな事教える必要は無い。小娘ども! お前達の必殺技はドラゴン魔人のマンドラミラーで全て反射してしまうのよ。それにもし魔人を倒せば、魔人の鏡に吸い込まれた人間はみな死んでしまうのだ。どうだ? それでも戦えるのか」
「な、何ですって?」
「さあ、小娘… いよいよお前達の最後だ。お前達が守ろうとしている者達の手で引導を渡されるがいい。ドラゴン魔人! やれっ」
「鏡人間ども、い出よ!」
 ドラゴン魔人はポーズをとり、鏡から銀色の光を地面に向けて放った。すると数十本の光の束が地面に降り注ぎ、魔人の体に吸い込まれていた人達が出てきて立ち上がった。勿論、これらの人々は虚像で、その中には佳奈子の姿もあった。
「小娘ども、冥土のみやげに教えてやる。この鏡人間を倒せば、本体も死ぬのだ。どうだ。手も足も出せまい。さあ鏡人間ども、小娘どもを始末しろ」
 鏡から出てきた虚像の集団が、ゆっくりと歩きながら絵里香たちに迫ってきた。その後ろからは戦闘員とドラゴン魔人がついてくる。
「ネオ‐ブラックリリーめ、卑劣な手を… 」
 文句を言っても、状況は絵里香たちに一方的に不利だった。そしてついに周囲を鏡人間達に囲まれ、逃げることも出来なくなってしまった。囲みの外でドラゴン魔人が奇声を発した。衝撃波が山なりに飛んできて鏡人間たちを越え、絵里香たちに向かってきてそのまま直撃した。
「キャーッ!!」
 衝撃波をまともに受けた三人は、そのまま反動で空中に吹っ飛ばされ、一回転して地面に落ちた。絵里香たちは立ち上がろうとしたが体全体に痛みが走り、その場から動けないでいた。鏡人間が再び絵里香たちに近づいてくる。その間から割り込む様にドラゴン魔人が出てきて、動けない三人に向かって身構えた。
「トドメだ! 小娘ども。最大出力の衝撃波でお前達を木っ端微塵に吹っ飛ばしてやる」
「え、絵里香… もうダメだよ」
 美由紀が涙声で絵里香に言ったが、絵里香は聖奈子と美由紀に向かって言った。
「聖奈子、美由紀、落ち着いて聞いて! 私が合図したら、テレポートするのよ。いい?」
「う、うん」
 聖奈子と美由紀は頷きながら生唾を飲み込んだ。ドラゴン魔人が鏡の面を絵里香たちに向けた。
「死ねっ! 小娘ども!」
「聖奈子、美由紀、今よ!」
 ドラゴン魔人の最大出力の衝撃波が絵里香たちに向けて放たれ、絵里香達に命中して大爆発を起こした。しばらくして爆煙が鎮まった時、そこには絵里香達の姿は無く、跡形も無く消え失せていた。
「ギリギリギリギリーッ! ざまァ見ろ! 小娘どもは消え失せたぞ」
「ドラゴン魔人、でかしたぞ。早々に鏡人間を回収して、アジトへ撤収しろ。お前の本来の任務が待っている。」
「ははっ! かしこまりました」

      *       *       *       *

「さあ、エンジェルスの小娘! 私を倒せるものなら倒してみろ。私を倒せば、私の鏡の中に閉じこめた人間は皆死んでしまうぞ」
「く… 卑怯者!」
「何とでもほざけ。お前達には私を倒せないのだ。行くぞ!」
 ドラゴン魔人の頭の角が光り、絵里香たちにジリジリと向かってくる。絵里香たち三人のエンジェルは恐怖にひきつったような表情で後ずさりした。それを見ながらドラゴン魔人は、薄笑いを浮かべて奇声を発した。胸のミラーが光り、角から出る衝撃波と合体して、強力な高エネルギーの破壊光線が絵里香たち目がけて放たれた。
「キャーッ!! ・・・・・・・・・・・・・・・     」

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 絵里香は悲痛な叫び声と共に飛び起きた。しかし周りは真っ暗で、魔人の姿も何もない。自分がいる場所は美紀子の事務所の応接室にあるソファーの上で、制服姿のままだった。が、ベストは脱がされ、ネクタイも外されていて、ブラウスの一番上のボタンが外されていた。そして椅子の上では聖奈子と美由紀がそれぞれ自分と同じ状態で、制服のまま気持ちよさそうに眠っていた。
「夢… 」
 そう呟きながら、絵里香は窓の方を見た。空は暗い・・・ 。絵里香たちはドラゴン魔人との戦いで窮地に追いつめられたが、絵里香の機転で何とか逃げることが出来、美紀子の事務所まで辿り着くことが出来たのだが、そこで力つき、三人とも気を失ってしまったのだ。そのあと、美紀子と詩織の二人で絵里香たちは応接室に運ばれ、それぞれソファーと床に寝かせられていたのである。絵里香は悩んだ。どうすればドラゴン魔人に吸い込まれた人々を助けることが出来るのか、そしてドラゴン魔人の衝撃波をどうやって防ぐのか、そして自分たちの攻撃を跳ね返してしまう鏡をどうするか… 考えても考えても答えが見出せず、再び眠りについた・・・  。
「さあみんな朝よ。起きて!」
 突然の声に絵理香は跳ねるように飛び起き、聖奈子と美由紀も目を覚ました。
「あ… 美紀子さんおはようございます」
「朝御飯の用意が出来てるから、顔洗って食堂にきなさい。それから、みんな家の方へは連絡しておいたから心配しなくていいわよ」
 美紀子はそう言うと部屋を出ていった。絵里香たちは美紀子が貸してくれた毛布をたたんだ。
「私達… 一応助かったんだね?」
 美由紀が力無く呟いた。
「でもこのままじゃやばいよ。あの化け物をどうやってやっつけるのよ。それに佳奈子だって… 絵里香、美由紀、何か方法は無いの!?」
 聖奈子が珍しく泣き顔で言い、取り乱した。聖奈子の言葉に絵里香も美由紀も返す言葉がなかった。その時美紀子が再び部屋に入ってきた。
「聖奈子、そんなに大きな声出さないで。食堂の方まで聞こえてきたわよ。今は言い争っている時じゃないの。食事の用意が出来てるから早く来なさい。腹がへっては戦が出来ないって言うでしょ? ネオ‐ブラックリリーのことと、魔人を倒す方法については、食事が済んでから対策を考えましょう。さ、3人とも早く」
 絵里香達は美紀子に促され、食堂へ足を運んだ。

      *       *       *       *

 ネオ‐ブラックリリーのアジトでは、全国家電製品爆破計画の準備が着々と進められていた。ドラゴン魔人が使用する衝撃波の発信装置の完成が間近で、受信装置も各所に取り付けられ、特に重要なポイントでは戦闘員が派遣されて、厳重な警戒態勢が敷かれていた。
「ドラゴン魔人、発信装置の完成までもうすぐだ」
「ははっ!」
「お前は装置が出来あがり次第、直ちに作戦行動に移れるようにしておくのだ。もはや我々が恐れるエンジェルの小娘どもはもういない。ワーッハッハッハッハ」
 その時、司令室のスピーカーから大首領の声が響いた。
「馬鹿者!! エンジェルスの小娘どもは死んではいない!」
 あまりの声の大きさに、指令室内が一瞬静かになった。
「な、何ですと? 大首領様。どういう事ですかそれは」
「やつらの能力を忘れたのか! 小娘どもにはスカーレットエンジェルがついているのだ。絶対に甘く見るなと言った筈だぞ」
「も、申し訳ありません。大首領様」
「このアジトの場所は既にスカーレットエンジェルに嗅ぎつけられている。すぐにこのアジトを放棄し、作戦地域へ移動するのだ」
「か、かしこまりました。大首領様」

      *       *       *       *

 絵里香たちは美紀子とともに朝食を終え、それぞれ後かたづけを追えた後、事務所のテーブルを囲んで話し合いを始めた。
「あの化け物はとんでもない力を持っているわ。胸に鏡を持っていて、私達の必殺技がみな跳ね返されてしまう。それに鏡には人を吸い込む魔力があって、魔人を倒せば鏡に吸い込まれた人も死んでしまう。それに強力な衝撃波を持っている」
「そうか… 魔人を倒せば鏡に吸い込まれた人も死ぬ… か。でも、絵里香たちが戦ったからこそ、魔人の特徴や戦闘力が分かったんだから、その点は不幸中の幸いかもしれないね。そうすると、どうやって鏡に吸い込まれた人を死なせずに魔人を倒すかってことね。魔人の弱点が分かるといいんだけど… それから、やつらが何を企んでいるか分かれば… 」
 美紀子はそこまで言いかけてから、例の受信機を持ってきてテーブルの上に置いた。
「みんな、これは昨日変電所から持ってきたものなんだけど、間違いなくやつらによって仕掛けられた物よ。分析したら電波の受信装置だって分かったんだけど、絵里香たちが戦った魔人の戦闘能力からすると、魔人の衝撃波を使って何かをしようとしているのは確かだわ」

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「 … 」
「そろそろ時間だわ」
「え? 時間?」
「学校よ。あなたたちは高校生でしょ。何かと不安があるのは分かるけど、とにかく行きなさい。私はその間にやつらの作戦を探っておくから」
「はい」
 絵里香達は支度をすると、学校へ行くため、美紀子の事務所を出た。

      *       *       *       *

 一方、これまでのアジトを放棄し、某所に新たにアジトを設けていたネオ‐ブラックリリーは、衝撃波の発信装置が完成し、その威力を試すための実験が開始されようとしていた。廃屋になっている建物に電線をつなぎ、屋内には実験用の電気製品を置いて、建物から離れた安全なところには発信装置が置かれ、そのそばにはドラゴン魔人が戦闘員を従えて待機していた。そこへドクターマンドラが姿を現した。
「ドラゴン魔人。実験を開始しろ」
「かしこまりました」
 ドラゴン魔人は発信装置に向かって奇声を発した。すると衝撃波が放たれ、発信装置から電線を伝わって建物内にある電気製品に到達すると、電気製品は衝撃波の衝撃で次々と爆発し、建物はたちまち炎に包まれて全焼した。
「実験は成功です。ドクターマンドラ様」
「よろしい。では早速作戦行動に移るのだ。まず、あの小娘どもが住んでいる鷲尾平の街中の電気製品を衝撃波を使って爆破し、目障りな小娘どもを街もろとも吹っ飛ばしてしまうのだ」

      *       *       *       *

 学校が終わり、事務所にやってきた絵里香たちは、美紀子に呼ばれて事務所の奥にある美紀子の研究室に入り、美紀子は変電所から持ってきた受信装置を机の上に差し出した。
「あなた達が学校にいる最中に、この受信機が異常な電波を出したのよ。電波の周波数からして、魔人の衝撃波に間違い無いわ。今でも微弱な電波を出し続けているけど、きっとやつらがどこかで何かをしたに違いないわ。それに、その電波のおかげで発信源が分かったのよ」
「どこなんですか?」
 美紀子は鷲尾平市が載っているS県周辺の地図を広げた。美紀子は定規とペンを持ち、地図の一点に印をつけた。

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「ここが発信源」
「そうか! やつらはその衝撃波を電線に流すつもりなんだわ」
 聖奈子が何か閃いたように言った。
「どういう事? 聖奈子」
「変電所に装置が仕掛けられていたってことは、電気に関係があるんじゃないの? つまり、衝撃波を変電所を通じて電線に流して… 」
「そうか! やつら… 家庭やオフィスにある電気製品に衝撃波を流そうとしているのよ」
 今度は絵里香が思いついたように話した。
「なるほど… 家庭電化製品なら、殆どのものはコンセントでつながっているし、送電線に衝撃波を流せばたちどころにそのショックで次々と爆発して、パニックになるわ。一度に大規模な混乱を起こさせるのがやつらの作戦なのよ。すると、受信装置が仕掛けられた場所は特定できるわ」
「でも、これだけ広い範囲じゃ全部探し出して取り外すのは無理よ。」
「安心して。私が既に電波の周波数を調べて、妨害電波を流せるようにしたから。あとはやつらの作戦を阻止することに専念すればいいわけ。絵里香、聖奈子、美由紀、頼んだわよ」
「はい! 美紀子さん」
「これを持っていって、電波を頼りにやつらの基地を探り出すのよ。目的地への正確な進路は私が大体つかんでいるわ。今のところ分かっているのは、発信源がここから北西の方向だという事よ。さあみんな行くわよ」
そう言って美紀子は事務所から出ると、車庫から車を出してきた。
「みんな乗って!」
「はい!」
 絵里香たちは美紀子の車に乗り、目的地目指して発進した。

      *       *       *       *

 ネオ‐ブラックリリーの基地では、ドラゴン魔人の持つ高エネルギー衝撃波で破壊作戦を行う準備が整い、まず発信装置から各所に取り付けられた受信装置に向かって電波が流され、受信装置が正常に作動している事が確認された。ドラゴン魔人の高エネルギー衝撃波が放たれれば、たちどころに受信装置に転送され、そこから送電線を伝わって、建物の中で稼働している全ての電化製品が衝撃により、爆発を起こすようになっているのだ。作戦開始のため待機していたドラゴン魔人の元に、ドクターマンドラがやってきた。
「ドラゴン魔人、合図と同時にお前の衝撃波をこの発信装置目がけて放つのだ」
「かしこまりました。ドクターマンドラ様」
 しかし、電波が流されたことにより、基地の場所が美紀子に知られるところとなった。美紀子は受信した電波から方位と距離、そして自分達との位置関係を割り出し、その方向へと車を走らせた。そして車に取り付けてあった妨害電波発信装置のスイッチを入れた。
「みんな。場所がはっきり分かったわよ。準備して」
「ハイ」
 走行していた道路は段々狭くなり、舗装道路から砂利道になって、ついに山道になった。
「もう車じゃダメだわ」
「あと3km… か。みんな変身して。テレポートよ!」
 絵里香達は車から降りるとそれぞれ変身し、ネオ‐ブラックリリーのアジトの近くにテレポートした。
「絵里香あそこ!」

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 聖奈子が指さした方向には使われていない廃屋があって、そこ入り口付近には戦闘員がたむろしていた。
「いくわよみんな!」
 アジトの中では作戦開始の秒読みが始まり、ドラゴン魔人は発信装置に向かって高エネルギー衝撃波を発射する態勢にあった。その時急に警報装置が鳴り響き、室内が騒がしくなった。
「何事だ」
「ドクターマンドラ様。エンジェルスの小娘どもがやってきました」
「ええい! どうやって嗅ぎつけてきたのだ。ドラゴン魔人やれっ! 衝撃波を放つのだ」
 ドラゴン魔人は奇声と共に衝撃波を発信装置に向けて放った。と同時に発信装置が爆発を起こし、司令室の中が煙と炎に包まれた。
「こ、これは一体どういうことだ」
 ドクターマンドラとドラゴン魔人は何が起こったのか分からず、爆発した発信装置を見ながらうろたえた。そこへ美紀子と絵里香たちが警備の戦闘員を全て倒して司令室に飛び込んできた。
「残念だったわね。お前たちの作戦もこれで終わりよ。妨害電波で衝撃波が受信装置に流れないようにしたのよ。さあ! 観念しなさい。これ以上お前達の勝手にはさせないわ!」
「うるさい! ドラゴン魔人、小娘どもを片付けろ」
 ドクターマンドラは吐き捨てるように叫ぶと、白煙と共に消えた。
「者どもかかれっ! 小娘どもを殺せ!」
 ドラゴン魔人の命令で、戦闘員が一斉に絵里香達に襲いかかった。絵里香と聖奈子は戦闘員と格闘して次々と倒していき、その間に美由紀は美紀子と一緒に、地下牢に閉じこめられていた人達を助け出して、基地の外へ連れ出した。そうこうしているうちに、基地の中の所々で爆発と火災が発生し、爆発する度に基地の中が激しく揺れた。
「ドラゴン魔人様、このままでは基地が爆発します」
「ええいっ! 脱出だ」
 ドラゴン魔人と戦闘員達は慌ただしく基地の外へと逃げ、絵里香と聖奈子もそのあとを追った。基地の外へ出ると、先に脱出していた美由紀と美紀子が待っていた。
「みんな伏せて! 爆発するわよ」
 そう言いながら絵里香と聖奈子はその場にすぐに伏せ、美由紀と美紀子も急いで伏せた。地面が激しく振動し、大音響と共に地下アジトが爆発して吹っ飛んだ。爆発の余韻がさめて辺り一面に静寂が戻ったとき、絵里香たちは立ち上がって自分たちの周りを見回した。
「魔人はどこへ行ったんだろう… 」
「みんな気をつけて! 近くにいるはずよ!」
 その時急に絵里香達の周辺で立て続けに爆発が起こった。
「キャッ!」
 さらに至近距離での爆発で絵里香たちは吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。立ち上がって辺りを見回すと、ドラゴン魔人を先頭に、多数の戦闘員が迫ってきた。
「小娘ども! よくも作戦を台無しにしたな。皆殺しにしてやる」
 ドラゴン魔人は言うと同時に、奇声を発して衝撃波を放った。
「危ない!」
 絵里香達は瞬時にそばにあった大きな岩の後ろに隠れ、衝撃波が岩の前で破裂した。
「そんなところに隠れても無駄だ! ギリギリギリギリーッ」
 魔人の胸にある鏡の面から銀色の光が、絵里香たちの隠れている岩めがけて放たれた。岩に命中すると、岩が鏡に吸い込まれ、絵里香たちの姿が丸見えになった。それを見た絵里香たちは動揺した。
「絵里香、あの光は人間だけじゃなくて物まで吸い込むんだわ」
「うろたえないで! きっと突破口があるはずよ」
「俺様のマンドラミラーは、全ての物質を吸い込む力があるのだ。ギリギリギリギリーッ。どうだ小娘ども! 俺様の力が分かったか。3人揃ってくたばってしまえ」
 ドラゴン魔人は角を光らせ、鏡から光を出して奇声を上げた。あたり一面が急に暗くなって金色の閃光が魔人を包み、絵里香達は眩しさに目を覆った。

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「喰らえ! 小娘」
 これまでとは桁違いの物凄いエネルギー波が放たれた。絵里香たちは間一髪でそれを避けたが、至近距離を通過しただけで凄い衝撃が絵里香たちを襲い、3人ともその衝撃で吹き飛ばされて、そのまま地面に叩きつけられた。エネルギー波は絵里香たちの後ろにあった林に達し、すごい勢いで爆発したかと思うと、爆心地から約30m四方が完全に消し飛んで不毛の瓦礫の山と化し、周囲の木々が燃え始めた。その光景を目の当たりにして、さすがの絵里香たちも恐怖心に煽られ、地面に叩きつけられたまま、起き上がる事が出来なくなってしまった。美紀子が絵里香達に向かって叫んだ。
「みんな頑張って! エンジェル戦士に絶望の2文字は無いのよ!」
「とどめだ! 覚悟しろ!」
 ドラゴン魔人は再び奇声を上げ、攻撃態勢をとった。このままでは3人ともやられてしまう… 
「そう簡単にやられてたまるもんですか! こうなったら一か八かよ! あのエネルギーを跳ね返してやる!」

 聖奈子は起き上がって胸のブローチに手をあてて楯を出すと、踏ん張った姿勢で両手で楯を持って身構えた。超強力エネルギー波が再び放たれ、絵里香たちに向かってきた。エネルギー波は聖奈子の楯に吸い寄せられるように、聖奈子の楯に向かってきた。聖奈子はエネルギー波の威力で少しずつ後ろへと押され、飛ばされそうになった。
「絵里香、美由紀! 助けて!」
 聖奈子の怒鳴り声で我に返った絵里香と美由紀は、起き上がると聖奈子のそばに駆け寄り、後ろから支えた。
「聖奈子! 頑張って!」

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 3人とも今にも吹き飛ばされそうだったが、持てる全ての力を振り絞って、ドラゴン魔人のエネルギー波を受け止め、そしてついに跳ね返した。跳ね返されたエネルギー波は、そのままドラゴン魔人に向かっていき、魔人の体全体を包み込んだ。
「やったぁ! 跳ね返したわ!」
「ギャアーッ!」
 ドラゴン魔人は絶叫と共にその場に蹲り、体のあちこちから煙を吐いて、胸に取り付けられた鏡にヒビが入った。そして鏡の中から多数の銀色の光が飛び出し、絵里香達の近くに次々と落下してきて、人の姿になった。鏡に吸い込まれていた人達が元に戻ったのだ。さらに、先ほど吸い込まれた岩も出てきた。佳奈子も聖奈子のそばに出て来て、佳奈子は聖奈子に飛びついて抱き付いた。そのあと鏡はバラバラに割れて、破片が地上に落下した。
「絵里香、見て! 吸い込まれた人達が元に戻ったわ」
 元に戻った人達は、自分達がなぜここにいるのか分からず、右往左往していたが、美紀子に誘導され、安全な場所に逃げた。
「お… おのれ、小娘ども。こうなったらお前達を道連れにしてやる」
 鏡を割られたドラゴン魔人は凄い形相で絵里香達に向き直り、口から火炎を吐き出した。
「危ない! みんな散開して」
 絵里香の声に、聖奈子と美由紀はそれぞれ離れ、三人の間を火炎が通過していった。
「聖奈子、美由紀、行くわよ!」
「分かった絵里香!」
「オッケー!」
 絵里香たちはそれぞれ胸に両手をあててエネルギーをため、エネルギー波を形成すると、ドラゴン魔人目がけて一斉に放った。
「トリプルエンジェルスマッシュ!」
 三つのエネルギー球体がドラゴン魔人に命中して、ドラゴン魔人が吹っ飛んだ。
「とどめよ! 覚悟しなさい化け物!」

 絵里香たちはそれぞれの武器を手に再びポーズを取った。

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「トリプルエンジェルトルネードアタック!!」
 三つのトルネードが帯のように伸び、火の玉となってドラゴン魔人を包みこんだ。ドラゴン魔人は絶叫とともに火の玉の中で大爆発し、そのまま消滅した。
「やったぁ!」
「私たち勝ったんだわ!」

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 絵里香たちが勝利の余韻に浸っていたとき、後ろの方で人の気配を感じた美由紀がその方向に振り向いた。
「絵里香、聖奈子、誰かいるわ」
 美由紀の声に、絵里香と聖奈子も振り向いた。すると、ドラゴン魔人の体からはずれて粉々に砕け散ったナルキッソスの鏡のそばに、初老の男が立っていた。
「ねえ… 絵里香、あの人もしかして… 」
「美紀子さんが言っていた、たしか… 蔵本っていう」
「資産家の蔵本龍之介。私の知り合いよ」
 絵里香達は一斉に声のした方を振り向くと美紀子が立っていた。美紀子は割れた鏡の前に立ちすくんでいる蔵本氏のそばへ行った。
「あ、あなたは確か紅林さん… それにあの子達は一体」
「何も見なかったことにしてほしいんです。それより、あなたの大切な財産の一つをこんなにしてしまって、何とお詫びしたらいいのか」
「いえ… いいんです。こんな恐ろしいものは、無くなってしまった方がいい。そんなことより、私はこんな所で一体何を… 確か家で変なやつに絡まれて… 」
「悪い夢を見ていたのよ。そう思って下さい。私が連絡をいれて、執事の榎木さんに来てもらっていますから、そこまで送っていきましょう」
 蔵本氏は小さく頷くと美紀子の後をついて歩き出し、絵里香達のそばに来て会釈すると、そのまま美紀子と一緒に歩き去っていった。
「私達も帰ろう」
「うん」
 絵里香達は誰もいないのを確認すると、佳奈子を伴って美紀子の車が停められている場所にテレポートし、そこで変身を解いた。少し遅れて、蔵本氏を送り届けた美紀子も戻ってきた。
「みんなご苦労様。さあ帰りましょう」
 絵里香達は車に乗りこみ、美紀子は車を発進させて、一路鷲尾平に向かった。



      *       *       *       *

 恐ろしいナルキッソスの鏡を備え、衝撃波で全国の家庭電化製品を破壊しようとしたドラゴン魔人は、エンジェルスによって倒され、ネオ‐ブラックリリーの野望はまたも未然に防がれた。だが、ネオ‐ブラックリリーある限り、新たな作戦によって再び人々が恐怖に陥れられるのである。
 頑張れエンジェルス! ネオ‐ブラックリリーの野望を防ぐことが出来るのは君たちだけなのだ!

 (つづく)

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 次回予告
 ◎第13話『やってきた刺客』

 ネオ‐ブラックリリーは作戦の失敗続きで失脚したドクターマンドラに代わって、新たな幹部ゼネラルダイアが作戦司令官として赴任する。ゼネラルダイアは世界征服作戦遂行よりも、作戦の邪魔になるエンジェルスの抹殺を最優先と判断し、エンジェルス抹殺専門のドクガ魔人を絵里香たちに差し向ける。聖奈子と美由紀は罠にかかって捕えられて処刑台に晒され、二人を助けようとした絵理香にも魔人の毒牙が迫る。

 次回 美少女戦隊エンジェルス第13話『やってきた刺客』にご期待ください。

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テーマ : ライトノベル
ジャンル : 小説・文学