鷲尾飛鳥

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第14話『狙われた電波』

2012年 06月26日 18:50 (火)

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 現在7月某日午後1時30分… 絵里香たちは教室の中で試験の答案と向き合っていた。明峰学園では一昨日から期末試験が始まっていて、今日がその最終日だった。期末試験が終われば五日間の試験休みがあり、後は終業式を経て夏休みになる。絵里香と美由紀は良くもなく悪くもないという平凡な成績だったが、聖奈子は学年トップの秀才で、全国レベルでも上位に入るくらいの猛者だった。ちなみに一ヶ月ほど前に行われた全国統一模擬試験で、聖奈子は全国で92位に食い込んだ。聖奈子自身も国立大志望で、将来は学校の教師になりたいという夢を抱いていた。しかも聖奈子は負けん気の強い性格だったので、『今度も絶対に一番をとってやる』という意気込みで試験を受けていた。
 さて、全ての科目の試験が終了してホームルームの挨拶を終え、校内では帰宅する人や部活に向かう生徒たちでざわめき始めた。それに明日から試験休みなので、生徒たちの間では安堵感が漂っていた。その中でバトン部のキャプテンの芳江は、夏合宿についてのミーティングを行うため、集会室を借りて部員たちに招集をかけた。全員が集まり、顧問の詩織も来てミーティングが始まったのだが、宿舎の手配の段階で行き詰まってしまっていた。通常ならば学校の施設である甲ノ峰セミナーハウスを利用するのだが、毎年夏場は利用が集中するため、利用者を抽選によって決定せざるを得なかった。夏休み中の8月12日~18日はハウスが閉鎖されるので、利用は当然その前後となる。しかも夏場は運動部の強化合宿で利用が集中するので、他の部は空いた日を上手く利用するか、試験休みに日程を組んで利用する傾向があった。バトン部の場合、三年生の芳江と雅子が夏休み後半に補習授業と講習があるので、合宿の日程を夏休み前半に組むことになったのだが、残念な事に抽選で外れてしまい、他の手頃な宿舎を探していたところだった。そこで顧問の詩織が美紀子に頼んで、美紀子の知り合いが経営する(実際のオーナーは美紀子になっている)N県天間村のペンションを宿舎として利用出来るように交渉した結果、予約が少ない7月の間だけならば利用出来るという事で、承諾してもらっていた。その事を聞いた芳江は一安心し、部員たちの間にも安堵感が漂い、みんな明るい表情になっていた。勿論、絵里香たちもホッとしていた。
 ミーティングが終わって学校を出た絵里香たち三人は、同じバトン部員の孝子と一緒に帰宅の途についていた。
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「セミナーハウスが抽選で外れた時には焦ったけど、美紀子さんの知り合いがペンションを貸してくれるって聞いた時は、ホッとしたわ」
「美紀子さんにお礼を言わなきゃ。ペンションをタダ同然で貸してくれるわけだし、おかげで今回は往復の交通費以外は、ほとんどお金がかからないんだから」
「でも、美紀子さんって本当に何者なんだろう… そのペンションだって、美紀子さんが実質上のオーナーだっていうじゃないの」
「天間村… か。ガイドブックでしか見たことないけど、どんな所なんだろう」
 そんな会話をしながら美紀子の事務所の近くまで来た。
「それじゃ私はここで。バイバイ」
「バイバイ」
 孝子は絵里香たちと別れると、駅の方へ向かって歩いていった。
「試験が終わった事だし、美紀子さんの事務所へ寄って行こうか」
「そうね。宿舎のお礼も言わなきゃ」
 絵里香たちが事務所に着いて、ドアを開けると同時に美紀子が顔を出した。
「みんないらっしゃい。あなたたちにお客さんよ」
「え? お客さん?」
 誰だろうと思って事務所に入ると、応接室の椅子に朋美が座っていた。朋美は絵里香たちと目が合うと、椅子から立ち上がった。
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「朋美じゃないの。どうしたの?」
「あなたたちに話があるの」
「みんな、そんな所に立ってないで、座りなさい」
 美紀子はそう言いながら4人分のアイスコーヒーを持ってきてテーブルの上に置くと、室内の奥にある自分の部屋に入っていった。絵里香は聖奈子と美由紀を促して、テーブルを囲むようにそれぞれ座り、立っていた朋美も再び座った。一時の間の沈黙を経て、美由紀がまず口を開いた。
「私たちがここに来ている事、よくわかったね」
「藍原先生が教えてくれたの」
「それで… 私たちに話って、何?」
「私がアマチュアバンドやってる事、知ってるよね?」
「うん。確かフレンドシップって言ってたっけ」
「それで… お願いがあるんだけど」
 美由紀は『お願い』と聞き、大体の事は察しがついたので、朋美が内容を話すまで黙っていた。
「今度のサマーコンサートの事なんだけど、ボーカルの子が都合が悪くて出られないのよ。それで、あなたたち三人に臨時でボーカルをやってもらいたくて、こうしてお願いに来たの」
「エーッ!?」
 絵里香と聖奈子が同時に言った。フレンドシップについては、朋美がメンバーだったので、三人ともある程度の知識があった。それに高校に入って間もない頃、朋美の誘いで一度コンサートに行った事があり、その時にメンバーが着ていたコスプレ衣装を見て、マニアックなバンドだというイメージが焼きついていた。“やっぱりそうか”といった感じで、美由紀が口を開いた。
「どうして私たちに? それも三人全員なんて」
 反射的に朋美が答えた。
「あなたたち歌上手いじゃん。カラオケでも歌唱力ダントツだし、絶対に才能あるよ。ね… お願い。全員がダメなら、三人のうち誰か一人でもいいから。今度だけでいいからお願い」
 おだてられて調子に乗りやすいのが美由紀の性格だった。美由紀は『才能』と言われてすっかり乗り気になっていて、ワクワクしながら朋美に聞いた。
「ねえそのコンサートって、いつなの? 場所は?」
「8月の3日。場所は緑ヶ丘公園の野外音楽堂」
「やる。私やる!」
 乗り気の美由紀はすぐに承諾した。聖奈子も才能と言われて嫌な気がしなかったので、美由紀が承諾すると自分も美由紀の勢いに乗って承諾した。絵里香は美由紀と聖奈子を見て一つ溜息をついてから口を開いた。
「分かった。それじゃ三人でやろうか」
 絵里香も承諾したので、朋美は喜んだ。
「ありがとう。それじゃ明日から音合わせや練習があるから。え… と… 場所は… 」
 そう言いながら朋美は地図と楽譜をバッグから出して、絵里香達の前に置き、練習場所や時間の説明を始めた。大体1時間くらい話し合った後、朋美は椅子から立ちあがり、絵里香達に向かって一礼した。
「本当にありがとう。それじゃまた、明日からよろしくね」
「うん。バイバイ」
 朋美は出入り口のところでもう一度一礼すると、事務所から出ていった。それを見計らったように、美紀子が奥の部屋から出てきて、絵里香たちのそばに座った。
「バンドでボーカルやるの?」
「は… はい。何だか成り行きで決まっちゃったんだけど」
 そう言いながら絵里香は一つ溜息をついた。
「ふーん… 確かにあなたたち歌は上手だけどね… あ、そうそう。話は変わるけどバトン部の夏合宿には私も行くからよろしく」
「美紀子さんも?」
「私は一応ペンションのオーナーなのよ。それに天間村は私にとっては故郷と同じなのよ。それに夏は忙しくなるからいつも手伝いに行っているのよ」

      *       *       *       *

 ここで時系列は期末試験が始まる少し前に溯る。ネオ‐ブラックリリーのアジトでは、ゼネラルダイアの指揮の元で新たな作戦が開始されようとしていた。今度はマスメディアと電波を使った大掛かりなものだったが、まだ具体的な内容は決定していなかった。魔人の改造がまだ終わっていなかったからである。なかなか作戦が開始されないので、苛立ったクイーンリリーが矢のような催促を行っていた。
「ゼネラルダイア! いつになったら次の作戦が始まるのだ」
「今しばらくお待ち下さい。現在作戦用の魔人の改造中です。今回の作戦はメディアを利用したものなので、それ相当の準備が必要なのです」
「そうか! 分かった。出来るだけ急ぐのだ」
「かしこまりました。大首領様」
 ゼネラルダイアは大首領クイーンリリーの言葉に承知したように見せかけたが、実はプライドを傷つけられたと感じて半分不満だった。自分の作戦方針が、世界征服よりもエンジェルスの抹殺が優先だという事を、事前にクイーンリリーに告げて既に承諾を得ていたにもかかわらず、クイーンリリーに煽られて苛立っていたのだ。ネオ‐ブラックリリーのアジトでは、作戦用の魔人が新たに改造中であったが、それに先だって、メディアの電波やテレビを利用して人間を洗脳し、操り人形にして手っ取り早く戦闘予備軍にするという作戦が既に開始されていて、そっちの方は一応の成果を得ていた。洗脳されている人たちは、普段はごく普通の状態なのだが、特殊な催眠電波を流す事により、ネオ‐ブラックリリーの意のままに動かす事が出来るようになっていたのである。巧妙な方法であるために絵里香達は勿論、美紀子もまだ気付いていなかった。
 ゼネラルダイアの手元には若手のタレントやアイドル関係の雑誌が多数置かれていた。自分自身が街へ出て買ったものや、戦闘員に命じて買わせたものなど様々だった。今度の作戦はアイドルを利用したテレビメディアが関係していたからだ。
 ゼネラルダイアが司令室で雑誌を読んでいると、白衣姿の戦闘員が報告にやってきた。
「ゼネラルダイア様。カトレア魔人の改造が終了しました」
 それを聞いてゼネラルダイアは雑誌をテーブルの上に置き、戦闘員に命令した。
「分かった。すぐにここへ連れてくるのだ」
「かしこまりました」
 戦闘員は一礼すると司令室を出ていった。しばらくしてカトレア魔人が戦闘員とともに司令室に入ってきた。
「ゼネラルダイア様。カトレア魔人にございます」
「カトレア魔人。お前には特殊な能力が使えるように改造を施されている。まずその中の一つは変身能力。お前は アイドル歌手の姿に変身する事が出来るのだ。早速変身せよ」
「かしこまりました。ゼネラルダイア様」

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 カトレア魔人の姿が白煙に包まれ、白煙が消えると同時に、アイドル歌手の姿になった。
「お前はアイドル歌手“嘉藤レナ”として芸能界にデビューし、大衆の前に出るのだ。そして愚かな人間どもを催眠電波で洗脳し、我がネオ‐ブラックリリーの操り人形として使って、エンジェルスの小娘どもの抹殺作戦を遂行せよ。既にある程度の数は洗脳を施して揃えてある。その者たちも上手く使い、おまえは任務を果たすのだ」
「かしこまりました。ゼネラルダイア様」
 カトレア魔人には変身能力の他、超能力という特殊な武器がある。それは催眠電波と念波で、前者は相手を催眠状態にして洗脳するというもの。そして後者は念力の一種であり、威力の加減が可能で、最強レベルでは殺傷能力があり、マイクやスピーカーなどの増幅装置を使えば一度に大量の人を殺す事が出来、また衝撃で町や村を消し去る事も出来る。
 その時司令室のスピーカーから、大首領クイーンリリーの声が響いた。
「ゼネラルダイア、待ちかねたぞ」
「大首領様。いよいよ作戦を開始致します。まず手始めにカトレア魔人を、アイドル歌手“嘉藤レナ”としてメディアに進出させ、愚かな人間どもを洗脳して、エンジェルスの小娘どもや、スカーレットエンジェルを抹殺致します」
「面白い… ならばいっその事、小娘どもやスカーレットエンジェルをカトレア魔人の力で洗脳してしまえば良いではないか。そして我がネオ‐ブラックリリーの手先として、世界征服の尖兵として使えば良いのだ」
「なるほど… さすがは大首領様。確かに抹殺するよりはその方が効果的です」
 ゼネラルダイアは向き直ると、レナの姿をしているカトレア魔人に向かって言った。
「行け! カトレア魔人」
「かしこまりました」
 レナはドクターマンドラに一礼すると、近くにいた戦闘員を数人呼びつけた。戦闘員はレナのそばに来ると、それぞれ男女の姿に変身した。レナの付き人、もしくはマネージャーとして同行するためである。

 嘉藤レナは芸能界に進出し、催眠電波と念波とを用いてたちまちデビューして、テレビやイベントなどを通して大衆の前に姿をあらわした。誰もネオ‐ブラックリリーの策略だと気付く者はおらず、レナの姿を見た者はたちまち催眠電波と念波で洗脳されてしまった。しかし、洗脳された人たちはネオ‐ブラックリリーの命令がない限り、普段通りの行動や生活をしているので、美紀子も絵里香たちも、全く気付いていなかった。そしてどういう偶然か、レナが出演している番組を、美紀子も絵里香たちも全然見ていなかったので、なおさら気付いていなかったのだ。

      *       *       *       *

 期末試験最終日の翌日… 
 今日から明峰学園は五日間の試験休みに入った。午前9時半、絵里香と聖奈子は鷲尾平駅のプラットホームに立っていた。昨日、朋美にお願いされてバンドのボーカルを引き受ける事になり、今日から早速練習があるので、その場所へ行くためだった。場所は城間市にある城間市文化センターの中にある小ホールで、新城間駅で美由紀と合流してから向かう段取りになっていた。朋美の家は美由紀と同じ城間市で、バンドのメンバーは全員朋美の中学時代の友達である。朋美以外はみんな地元の城間市の高校に進学していたので、バンドの練習は必然的に城間市で行われていた。
 電車に乗った絵里香と聖奈子は、新城間駅で美由紀と合流し、次の駅の城間で降りた。改札を出ると、朋美が待っていた。

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「みんな来てくれてありがとう。それじゃ行こうか」
 朋美の案内で、絵里香たちは城間市の文化センターへと向かった。文化センターに着くと、朋美のバンド仲間たちが迎えてくれた。
「おはよう」
「いらっしゃい」
「朋美、この人たちが助っ人?」
 朋美はバンド仲間に絵里香達を紹介した。
「私の高校の友達なの。みんなよろしくね」
「赤城絵里香です」
「清水聖奈子です」
「城野美由紀です」
 絵里香たちは自己紹介して軽く挨拶した。フレンドシップのメンバーは朋美を入れて五人で、朋美はベースを担当している。そのほか、ギター担当の葉山早苗とドラム担当の花島亜矢子、キーボード担当の茎崎美香。そして今回参加出来ないボーカルの根岸淳子がいる。
 ホールにはメンバーが持ち込んだ楽器や道具が既に揃えられていて、絵里香達をまじえて早速音合わせに入った。絵里香たち三人はちょっとした発声練習の後、バンドのオリジナル曲の楽譜を渡され、演奏に合わせて歌ったが、絵里香たちの飲み込みの早さと歌の上手さに、ギター担当の早苗が唖然とした顔で絵里香達を見て、さらに淳子が朋美に言った。
「凄い! 凄いよ朋美。あんた凄い人たち連れてきたじゃないの。ねえ、この人たち本当にバンドの経験無いの? これだったら今度のコンサートは大成功間違い無しだよ」

 一時間ほど練習を続けて休憩時間になり、朋美がコンサート用の衣装を持って絵里香たちのそばに来た。
「これがコンサート用の衣装なんだけど、三人ともサイズ合うかな?」
 朋美が持ってきた衣装は、セーラー服をアレンジした一種のコスプレ衣装で、襟の色が赤色と青色の上着と、襟の色と同じ色のミニスカート、そして白色の薄手のニーソックスだった。
「何、朋美… 私達これを着るの?」
 絵里香と聖奈子が嫌そうな顔をしているそばで、美由紀は朋美から衣装を受け取ると、早速自分の体の前に持ってきて、近くにあった鏡の前に立った。
「なかなか良いじゃん。絵里香、聖奈子、ねえ似合うかな」
 そう言って美由紀は絵里香と聖奈子の方を向いた。
「美由紀、着てみたら?」
 聖奈子が冗談半分に言うと、美由紀は衣装を持ってホールの控え室に入っていき、しばらくすると、衣装に着替えて出て来た。
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「この衣装… なかなかいけるよ」
「… … …」
 絵里香と聖奈子は、衣装を着た美由紀の姿を見て一つ溜息をつくと、朋美が持ってきた衣装をそれぞれ受け取った。絵里香は美由紀と同じ濃いピンク色、聖奈子は青の衣装だった。美由紀は衣装が気に入ったらしく、休憩が終わって再び練習に入っても、衣装を着たままで、元の服に着替えたのは練習が終わってからだった。
「衣装は貸すから、コンサートの時にそれを着てね」
「分かった… 」
「それじゃ今日の練習は終わりね。次は四日後にまたここでやるから、よろしくね」
 絵里香たち三人はそれぞれ衣装を持って、センターを後にした。フレンドシップのメンバーたちもそれぞれ道具を片付けると帰り支度を始めたが、その時朋美を含めたメンバー全員が急に頭を押さえて苦しみ出した。みんなレナ(カトレア魔人)の催眠電波で洗脳されていたのだ。ただ、前述したように通常時は普段通りの行動や言動なので、絵里香たちに気付かれなかったのである。脳に指令が送られてきて洗脳モードになったため、一時的に頭痛の症状が出たのだ。頭痛がおさまると、今度は全員目が据わって、無表情な顔つきに変わった。
『竹内朋美! 外へ出て私の指令を聞け』
 朋美の脳波の中に指令が送られ、朋美は無言で外へ出た。
「エンジェルスの小娘どもを、明日開かれる私のイベントに誘うのだ」
「分かりました」

      *       *       *       *

 その頃絵里香たちは城間の駅で電車を待っていた。そこへ美由紀の携帯に着信が入った。
「朋美からだ… 」
 美由紀は通話モードにして、朋美と会話を始めた。
「はいもしもし… あ… いえいえ。頑張るからよろしく。うん… うん… 明日? 日曜日だね… 別に何も無いけど、ちょっと聞いてみるね」
 美由紀はマイクの部分を手で押さえると、そばにいた絵里香と聖奈子に話しかけた。
「絵里香、聖奈子、明日空いてる?」
「どういう事?」
「緑ヶ丘公園で嘉藤レナのイベントコンサートがあるんだけど、朋美が一緒に行かないか? って言ってるの」
 絵里香と聖奈子はお互いの顔を見合ってから、美由紀に向かって首を縦に振った。
「朋美、OKだって。うん・・ それじゃ」
 美由紀が携帯の電源を切ると、ちょうど電車がホームに入ってきたので、絵里香たちは電車に乗った。
「ねえ… 嘉藤レナって誰? 聖奈子と美由紀は知ってる?」
 絵里香は芸能人に疎かったので、聖奈子と美由紀に聞いた。
「私の知っている範囲では… 最近デビューした歌手なんだけど、デビューから僅か一週間で上位にランキングされたらしいよ。ただ、残念だけどまだ一回も見たことないんだよね」
 美由紀がそう答えると、今度は聖奈子が言った。
「あたしは興味無いけど、佳奈子と佳奈子の友達がはまってるみたい。一昨日だったかな… 佳奈子がポスター持って帰ってきて部屋に飾ってあったな」
「ふーん… なるほど」
 絵里香はその場は納得したように振舞ったが、戦士としての感なのか… 何かとんでもない事が近いうちに起こるのではないか… という不安感が頭を過っていたのだ。ネオ‐ブラックリリーの動きが全く無いというのも、不安感を倍増させていた。そうこうしているうちに、電車が次の駅の新城間に到着し、美由紀が降りた。
「それじゃ私はここで。また明日ね」
「バイバイ」
 ドアが閉まって電車が動き出した。
「どうかしたの? 絵里香」
 聖奈子は絵里香の表情がいつもと違うのを見抜いていた。それも嘉藤レナの話が出てから急に顔色が変わった事も分かっていたので、さり気なく絵里香に聞いたのだった。
「え? 何でも無いよ」
「そう… (ちがうな… きっとまた何か嫌な予感を感じているな)」
 車内にアナウンスが流れ、電車が終点の鷲尾平に着いた。駅から出て来た絵里香と聖奈子は、駅の前で別れた。
「じゃ絵里香。また明日ね」
「うん。バイバイ」
   
      *        *        *        *

「何? 洗脳した人間の中に、小娘どもの仲間がいるだと?」
 その頃アジトでは、ゼネラルダイアがカトレア魔人の報告を聞いていた。カトレア魔人はさらに続けた。
「はい。コンピューターが、洗脳した人間の中に小娘どもの仲間がいるという答えを出したのです。その者たちを調べた結果、一人は小娘どもと同じ学校に通っている事が分かりました。そしてそいつを使って、小娘どもをイベントに誘い出す事に成功しました」
「面白い事になってきたな… これで小娘どもが明日のイベントに来れば、三人まとめてお前の催眠電波で洗脳する事が出来るわけだな」
 カトレア魔人が洗脳した人間の中に絵里香たちの友人がいた事を知り、ゼネラルダイアは『しめた』と思ってほくそえんだ。
「ふふふ… 明日のイベントが楽しみだ。明日は日曜だし、人も大勢集まるはずだ」

      *       *       *       *

 翌日の昼過ぎ、絵里香たちは朋美に誘われて緑ヶ丘公園に行った。今日は日曜日なので、会場は超満員だった。会場に来ている客の殆どが若い男女で、佳奈子や佳奈子の友達も来ていた。絵里香たちは朋美と駅で待ち合わせしてから会場まで来たのだが、既に満席状態で音楽堂の外まで人が溢れかえっており、後ろの方で立って見ているしかなかった。時間になって司会者が出てきて、続いてレナがステージに上がってきた。そして司会者の紹介で、レナがステージの中央に立った
「皆さんこんにちは。嘉藤レナです。それではまず私の歌を聞いてください」
 レナが歌い始めると、周りの人達が一斉に立ち上がって手拍子を始めた。

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「しかし、凄い人だね。満員だわ」
「まだ15歳だって… 中学生じゃないの。それにあたし達より年下なんじゃない」
「デビューしてまだ僅かなんでしょ? それなのにもうこれだけのファンを集めるなんて、たいしたもんだね」
 歌が終わった後、レナは今度はトークを始めた。
「みんな、今日はどうもありがとう。それではこれから私のサイン会を始めるんですが、その前に私のお願いを聞いて下さい。この会場には我々の敵がいます。その敵をみんなで一緒に倒しましょう!」
 絵里香は最初は何の事だか分からなかったが、周囲の視線が急に自分達に向けられたのに気付いた。美由紀も周囲の様子の急な変化に気付き、絵里香に向かって言った。
「絵里香、何だか変よ」
「確かに変だわ。一体どういう事なのよ」
 周囲にいた観客が一斉に絵里香たちを囲むように集まり、その囲みの輪を縮めて、ジリジリと迫ってきた。その中には朋美の姿もあり、佳奈子とその友人たちもいた。みんなの目が据わっているのを見た絵里香は、只事ではないと直感し、美由紀と聖奈子に向かって叫んだ。
「聖奈子、美由紀、逃げるよ!」
「分かった」
 美由紀はすぐに逃げる態勢をとったが、聖奈子は無表情で、しかも周りのみんなと同じ目つきをしていた。
「聖奈子! どうしたのよ」
「お前は我々の敵。ここで始末してやる!」
 聖奈子はそう言いながら絵里香に組みついてきた。
「聖奈子、冗談はよして! 放してよ」
「絵里香だめ! 聖奈子は何かに操られている。周りの人たちと同じ目をしているよ」
「ええっ?」
 絵里香は聖奈子の目を見た。聖奈子の目は据わっていて、周りの人たちのように無表情な顔つきをしている。絵里香は組み付いている聖奈子を払い除け、美由紀とともにステージにふと目をやると、レナがポーズをとって観客を操っていた。
「絵里香、あいつよ! あの嘉藤レナが!」
 美由紀がレナを指さすと、レナは衣装をまくり上げて正体を現してカトレア魔人の姿になり、同時にマネージャーや付き人達、スタッフや司会者も戦闘員の姿になった。
「ね、ネオ‐ブラックリリー!!」
「ふふふ… やっと気付いたようね。でももう遅いのよ。私はネオ‐ブラックリリーのカトレア魔人。さあ、エンジェルスの小娘達、お前達が守るべき者達から襲われるがいい。そして私の催眠電波で洗脳してやる」
「やばいよ絵里香、早く逃げよう」
「でも聖奈子が」
「そんなこと言ってられないよ! 逃げなきゃ私達やられちゃうよ!」
 絵里香と美由紀は観客をかわしながら逃げ出した。
「逃がすな! 追え! 追うのだ」

 絵里香と美由紀は群衆の中から出て、公園の広場を走って逃げた。後ろからはカトレア魔人に操られた観客達が追いかけてくる。その中から聖奈子が高くジャンプして絵里香と美由紀を飛び越え、二人の前に着地して行く手を遮った。聖奈子はエンジェルブルーの姿に変身し、武器を手にして身構えながら迫ってきた。

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「逃げても無駄よ。ふふふ… さあ、覚悟しなさい!」
「聖奈子、やめて! 私達が分からないの?」
「ダメだよ絵里香、目が完全にすわってる!」
 カトレア魔人に洗脳され、操られている聖奈子はアクアスマッシュを2人めがけて放った。エネルギー波が絵里香と美由紀のそばに着弾して爆発した。
「キャーッ!!」
 絵里香と美由紀は悲鳴とともに、爆風で吹き飛ばされて地面を転がった。さらに悪いことに、群衆が追いついてきて2人を取り囲んだ。聖奈子は絵里香と美由紀に向かってソードとシールドを持って再び身構えた。
「今度は外さないわよ! 覚悟!」
「聖奈子、やめて!」
 前には洗脳された聖奈子が、後ろからはカトレア魔人が戦闘員を伴って迫ってきていた。しかも周囲は観客たちによって完全に囲まれてしまい、絵里香と美由紀はもう逃げられなくなっていた。
 聖奈子がスマッシュを放とうとしたその瞬間、稲妻のような光が聖奈子を包み、聖奈子は絶叫とともにその場に倒れて気絶して変身が解け、回りを囲んでいた群衆も全てその場に倒れた。その間をぬうように美紀子が走ってきて、絵里香と美由紀のそばにやってきた。
「絵里香、美由紀、早く聖奈子を運んで!」
「美紀子さん、どうしてここへ」
「あのアイドル歌手は怪しいと思って、数日前からずっと見張っていたのよ。さあ早く!」
 絵里香と美由紀は気絶した聖奈子を抱え、美紀子のテレポートでその場から逃げた。後ろから追ってきたカトレア魔人と戦闘員達は、今まで絵里香達がいた場所で立ち止まった。
「逃げられたか。しかもあの二人とスカーレットエンジェルを洗脳する事が出来なかった」
 カトレア魔人は地団太踏んで悔しがった。その時ゼネラルダイアが姿をあらわした。
「カトレア魔人、次の作戦準備に入る。直ちに引き揚げろ」
「しかし、小娘どもを全員洗脳する事が出来ませんでした」
「まあいい。一人洗脳しただけでも、あの三人の結束を崩す事が出来る。それよりも、もっと大掛りな作戦を開始する。直ちにアジトへ戻るのだ」
「かしこまりました」
 魔人と戦闘員達はゼネラルダイアとともにその場で煙幕を発し、煙と共にそのまま消えた。

      *      *      *      *

「こっちへ連れてきて」
 絵里香と美由紀は、気絶したままの聖奈子を抱え、美紀子が言うように応接室の中央にある太い柱のそばに聖奈子を置いた。美紀子はテーブルやソファを部屋の隅に移動してから、ロープを持ってきて絵里香と美由紀に渡した。
「そのロープで聖奈子をそこの柱に縛って!」
「ええっ? 聖奈子を縛っちゃうの?」
「そうよ! 今は気絶しているから良いけど、洗脳されている以上、目を覚ませばまたあなた達に襲いかかってくるわよ。早くして」
 絵里香は聖奈子を座らせた格好で柱に固定し、ロープで聖奈子を縛り始めた。
「ちょっと絵里香! そんな事したらかわいそうだよ」
「美由紀も手伝って。早く!」
「わ… 分かった」
 美由紀も手伝い、気絶した聖奈子を柱に厳重に縛り付けた。
「美紀子さん、何とかならないの?」
「こればかりはどうしようもないわ。薬と違って解毒剤は使えないし… とにかく操られている以上、魔人を倒さない限り絶対元には戻らないわ。さ、こっちへ来て」
 美紀子は2人を促して部屋を出た。

 何故聖奈子だけが洗脳されたのか… それは聖奈子が佳奈子と一緒に、レナが出ている場面をテレビで見てしまったからである。絵里香と美由紀はレナの姿を見たのは今日が始めてで、しかもイベントの間は催眠電波が出ていなかったため、洗脳されなかったのだ。
「どうやら聖奈子がああなったのは、催眠電波が原因のようだわ」
「催眠電波?」
「そう。やつらはテレビのメディアを利用して、催眠電波で人を洗脳したのよ。あなたたち二人が何とも無かったのは、嘉藤レナが出ている番組を見なかったからだと思う」
「そうか… それで佳奈子ちゃんや朋美までおかしくなったのね」
「このままじゃ日本中の人たちが、催眠電波で洗脳されてしまうわ」
「絵里香の言う通りだわ。でも、やつらが人を洗脳して操るだけで満足しているはずは無いわ。やつらの本当の作戦は別にある。でも、その作戦が何なのかは、まだ分からない… 」
 絵里香と美由紀は美紀子の話を聞き、生唾を飲みこんだ。

      *       *       *       *

 ネオ‐ブラックリリーのアジトでは、ゼネラルダイアがカトレア魔人とともに大首領のメッセージを聞いていた。
「ゼネラルダイア。スカーレットエンジェルと小娘どもの洗脳に失敗したそうではないか」
「申し訳ありません」
「まあよい。ゼネラルダイア、今度はカトレア魔人の持つ超能力を使って、日本中の全ての都市の機能を破壊し、愚かな人間どもを皆殺しにする作戦を開始せよ。テレビメディアを利用すれば、たちどころに全国に被害が及び、人間どもは何があったのか分からないうちに、次々と死んでゆくのだ」
「かしこまりました。早速準備に入ります」
 ゼネラルダイアは通信を終えると、カトレア魔人の方を向いた。
「お前のもう一つの力… 超能力を使うときが来た。それを使って日本中の全ての機能を破壊するのだ。私について来い」
 ゼネラルダイアはカトレア魔人を伴い、司令室を出て別の部屋に入った。その部屋はテレビ曲のスタジオのようになっていて、カメラなどの機材が一通り揃っていた。
「この部屋はテレビ曲のスタジオと全く同じ作りになっていて、また同等の機能を備えてある。ここから特殊な電波を使って日本全国の全てのテレビチャンネルにアクセスし、お前の念波を最大レベルで流すのだ」
「それは素晴らしい。愚かな人間どもを一網打尽に出来ます。では早速」
「待て。慌てるな! まず実験だ! 私が指示する場所に行き、お前の念波の威力を確かめてくるのだ」
 ゼネラルダイアは地図を出し、ペンで作戦地域を囲んでカトレア魔人に命令を下した。

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「かしこまりました。では行って参ります」
 カトレア魔人は戦闘員を引き連れて基地から出ていき、指示された地区へ向かった。その地区は絵里香たちの住む鷲尾平から約120km離れたところにある、人口およそ50人の谷地ヶ原という小さな集落だった。その集落を見下ろす烏帽子山の頂上にカトレア魔人と数人の戦闘員が立っていた。戦闘員たちは電波を流すための装置とアンテナを用意して、谷地ヶ原の方向へそのアンテナを向けた。
「カトレア魔人様。準備が出来ました」
「よし! 実験開始だ」
 カトレア魔人は装置の端末である二本のケーブルの端を、自分の頭の上にある二本のアンテナに接続した。
「実験開始!」
 カトレア魔人は頭部のアンテナから念波を発射した。その念波はケーブルを伝わって装置から送信用アンテナへと流れ、電波となって谷地ヶ原へと向かっていった。
 念波は集落に達し、外にいた人々はたちまちその場に倒れ伏して悶絶死し、粉々に消し飛んだ。家屋の中にいた者も苦しさのあまり外に飛び出してきて、七転八倒の末に悶絶死して、消し飛んでしまった。その間約20秒。さらに全ての建物が振動でバラバラに破壊され、庭木や立ち木が倒れたり潰れたりして、集落は見るも無惨な廃墟と化した。
「はっはっはっはっは! 実験は大成功だ。ん? 」
 カトレア魔人が気配を感じて振り返ると、2人の大学生くらいの若い男が震えながら立ちすくんでいた。
「見たな! 我々の秘密を知った者は死ねえっ!」
 カトレア魔人はアンテナのケーブルを外すと、男たちに向かって念波を発射した。
「うわあーっ! た、 助けてくれえーっ!」
 2人は恐怖のあまり何もかも投げ出して逃げ出したが、一人はカトレア魔人の念波を浴びて木っ端微塵に吹っ飛び、もう一人は爆風に飛ばされて山の斜面を転がり落ちていった。カトレア魔人はその成り行きを見ながらゼネラルダイアに実験成功の連絡を入れ、基地へ引き揚げた。

      *       *       *      *

 美紀子の事務所では気絶していた聖奈子が目を覚ました。聖奈子は洗脳が解けていて、自分が何故縛られているのか分からなかった。だが、洗脳が完全に解けていたわけではなく、カトレア魔人の電波が止まっているので、通常の状態になっているだけであった。電波が発信されれば聖奈子は再び操られるのだ。
「ここ何処?… 何だか美紀子さんの事務所の中のような気がするけど、何であたし、こんな所で縛られてるのよ」
 聖奈子は縄をほどこうとしてもがいたが、絵里香と美由紀によってガッチリと縛り付けられていたので、動くこともままならなかった。
「ちょっと何よ! 誰かいるの!? これほどいてよーっ!! 助けてぇーっ」
 聖奈子が大きな声を出したので、事務所にいた美紀子と絵里香たちにその声が聞こえてきた。
「聖奈子が目を覚ましたわ」
 美紀子は絵里香と美由紀を連れて応接室に入った。聖奈子は絵里香達に向かって怒鳴った。
「何であたし縛られてるのよ! 早くほどいてよ!」
「聖奈子落ちついて」
 美紀子が聖奈子のそばに行って聖奈子と向かい合った。
「聖奈子よく聞いて! 聖奈子はネオ‐ブラックリリーの魔人に催眠電波で操られているの。今は電波が止まってるから何とも無いけど、電波が発信されれば操られて私たちに襲いかかってくるわ。だからこうして縛っているの」
「でもこれじゃあたし動けないよ。何とかしてよ」
「分かった。ちょっと待ってて。絵里香、美由紀、聖奈子のロープを解いてあげて」
 美紀子はそう言うと応接室を出ていき、絵里香と美由紀は聖奈子を縛っているロープを解き始めた。粗方ほどけたところで、美紀子が革製のベルトと南京錠を持って戻ってきた。縄を解かれた聖奈子は、そのままトイレに駆けこみ、その間に美紀子は持ってきた革製のベルトにロープを取り付け、ロープの端を柱に巻きつけて縛った。聖奈子がトイレから戻ってくると、美紀子は聖奈子に向かって言った。
「聖奈子、これを着けて」
 美紀子は聖奈子の頭にヘアバンドを着けた。
「このヘアバンドには電波を遮断する機能があるの。でも、怪人が発する催眠電波まで遮断できるとは限らないわ。だから今しばらく我慢してちょうだい」
 美紀子はそう言うと聖奈子の腰にベルトを巻きつけ、南京錠をかけた。今度はロープが長いので、応接室の中からトイレまでならば行き来する事が出来た。
「聖奈子、今あなたを自由にすると、また操られて暴れ出す危険があるのよ。みっともないけど、我慢してね」
「分かった… 」
 聖奈子は自分の置かれている立場が分かって、渋々承諾した。
「それじゃ。私は絵里香たちと一緒に事務所にいるから」
 美紀子は絵里香と美由紀を連れて応接室を出た。
「聖奈子大丈夫かな… 」
 美由紀が応接室の方を見ながら呟いた。そんな時にとんでもないニュースが入ってきた。一つの村が跡形もなく破壊され、住民が全員死亡したというものだった。しかも、死亡した住民はまるでカマイタチにあったように、体がバラバラに引きちぎられたような無惨な状態だったという。
「美紀子さん、まさかネオ‐ブラックリリーが… 」
「可能性はあるわね。絵里香、美由紀、2人じゃ大変かも知れないけど、早速調査してちょうだい。私は聖奈子を見張っていなければいけないから」
「分かりました」

 絵里香と美由紀は谷地ヶ原へ行き、集落の惨状の状態を調べ始めた。現場は立入禁止になっていたが、誰もいなかったので絵里香と美由紀は無理矢理集落の中に入りこんだ。だが、予想以上の惨状に2人は愕然とした。建物という建物はすべてバラバラになって倒れ、辺り一面に残骸や破片が散乱している。住民の死体は全て運ばれていたが、それにしてもひどいものであった。
「絵里香、こんなひどい事するのはやっぱりネオ‐ブラックリリー以外にいないよ」
「でも、どうやって…」
 絵里香が考え込んでいると、後ろの方でガタガタという大きな音がした。
「誰? そこにいるのは」
 絵里香が音のした方を向くと、若い男の人がよろよろと歩きながら近付いてきて、絵里香のそばで倒れ込んだ。
「しっかりして下さい。大丈夫ですか?」
「た、助けて下さい… 変な連中が現れて… 友だちが殺されて…」
 その男の人はしどろもどろに喋りながら気を失った。
「しっかり! しっかりして!」
「絵里香、美紀子さんに連絡しよう」
 絵里香は携帯電話で美紀子に連絡を入れて、美紀子に来てもらい、気絶した男の人を病院へ連れていった。

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      *        *       *       *

「本当にどうもありがとうございました。おかげで助かりました」
 病院で気がついた男の人は、美紀子や絵里香達に何度も礼を言った。そして谷地ヶ原で起こったことを美紀子達に話し始めた。話によると、男の人は名前を松川清志といい、東京の某大学の学生で、サークルの友人達とバードウオッチングをしていたのだが、友人達とはぐれてしまった上に道に迷い、一緒にいたもう一人の人と相談して見晴らしのよい烏帽子山に登り、谷地ヶ原の方へ行こうとしていたのだという。ところが山の頂上で挙動不審な集団と出会い、その集団に襲われて、一緒にいた友人が殺され、自分は山の斜面を転がり落ちたということであった。
「ねえ、他に何か知ってることがあったら、私達に教えてちょうだい」
「たしか… 実験が成功したとか、日本中の人間を皆殺しにするとか言っていました」
「どうもありがとう。ゆっくり養生して下さい。あなたの友だちにはこちらから連絡しておくわ。それじゃお大事に」
 美紀子達は病院から出ると車に乗り、事務所に戻った。聖奈子は相変わらず応接室内に軟禁状態で拘束してあり、とても戦力になりそうも無かった。美紀子は絵里香と美由紀に地図を見せ、その中の一点を指さした。
「この烏帽子山のあたりにやつらの基地があるのよ。あの学生の話だと、やつらが今度作り出した魔人はとんでもない力を持っているようだわ。これまでのことから考えると、恐らく超能力ってところね」
「超能力?」
「そう。聖奈子や他の人たちを洗脳したのは催眠電波。そして谷地ヶ原の住人を皆殺しにしたのは念力のようなものよ。しかしメディアの電波を利用するなんて、恐ろしいことを考えたものだわ。やつらは恐らく魔人が持つ超能力を、メディアの電波を通して日本中に流すつもりなのよ。念力の威力をハイレベルにすると、谷地ヶ原の事件のように、強大な殺傷能力と破壊力があるのよ」
「そんな事したら、日本が全滅してしまうわ。許せない! 絶対阻止しなきゃ!」
「2人とも頑張って! 頼んだわよ。聖奈子の方は私が何とかするから」
「はい!」
 絵里香と美由紀は美紀子のテレポートで烏帽子山へ向かった。美紀子は絵里香と美由紀を送り出すと、応接室へ向かった。
「聖奈子がかけられているのは催眠術だろうから、催眠を解けば必ず元に戻るはずだわ」
 応接室の扉を開けようとした時、室内から物がぶつかるような凄い音がした。
「まさか… 」
 美紀子がドアを開けると、ソファが飛んできたので、美紀子は慌てて避けた。聖奈子が催眠状態になって、腰に革ベルトを巻きつけられたまま暴れていたのだ。エンジェル戦士への変身能力は美紀子が封印していたので、生身のままだったが、エンジェルパワーを持っているため、普通の人よりも力があったのだ。電波を遮断するために着けてあったヘアバンドは、どうやら効かなかったようだった。聖奈子は拘束ベルトを取ろうとして、無茶苦茶にロープを引っ張ったり、ベルトに着けてある南京錠を堅い物にぶつけていた。
「聖奈子! 静かにして!」
「うるさい! お前たち全員殺してやる!」
「少し荒っぽい方法だけど、しょうがないわね」
 美紀子はスティックを出すと、そのヘッドの部分を聖奈子に向けた。ヘッドの部分が様々な色の光を出して点滅し、聖奈子は眩しさに顔を逸らしたが、しばらくするとその光りに反応して、光の点滅をジッと見つめ始めた。
「(しめた! 催眠が効いてきたわ。あと一息だわ)」
 美紀子はスティックの光の点滅に強弱をつけたり、点滅の速度に緩急をつけながら、聖奈子に向け続けた。しばらくすると聖奈子は目がトローンとした状態になり、床の上にペタンと女の子座りをして完全に美紀子の催眠にかかった。そこで美紀子は光の強さを最大にし、聖奈子の体全体を光で包みこんだ。光が消えた時、聖奈子はその場で体を横にして気絶していた。そこで美紀子はスティックの先を聖奈子の頭にあてがった。すると電気のようなスパークが聖奈子の体中を走り抜け、聖奈子はショックで飛びあがるように目を覚ました。聖奈子は何があったのか分からないような表情で自分の周りを見まわし、美紀子の姿を見て我に帰った。
「え、美紀子さ…ん… あたし、どうしてこんな物着けられてるの? ねえ、美紀子さん、私一体どうしたの」
「聖奈子、正気に戻ったのね」
「正気って… 一体どういうこと?」
「聖奈子、あなたはネオ‐ブラックリリーの催眠術で操られていたのよ」
 美紀子はそう言いながら、聖奈子の腰に巻いていたベルトの南京錠を外し、これまでのことを聖奈子に話した。聖奈子はそれを聞き、激しい怒りがこみ上げてきた。
「今絵里香と美由紀がやつらのアジトに向かっているの。早く二人を助けに行って! ネオ‐ブラックリリーの魔人を倒すのよ」
「あったり前よ! よくもあたしを… 」
「聖奈子変身して!」
 美紀子に言われ、聖奈子はポーズを取ってエンジェルブルーに変身した。そして美紀子はスティックを振って、聖奈子を絵里香たちのいる場所へテレポートした。

      *    *     *     *

 そのころ、絵里香と美由紀は烏帽子山の麓付近に来ていた。
「絵里香、あれ!」
 美由紀が指さした方向に、小高い丘があって、そこにテレビ局に設置してあるような電波塔が建っていた。
「あんな所に電波塔なんて不自然だわ。きっとあの近くにやつらの基地があるのよ。美由紀、行ってみよう」
 2人は電波塔に向かって走りながら変身し、電波塔の近くまで来て、基地の入り口を見つけた。
「きっとあれが基地の入り口だわ」
 入り口の前では見張りの戦闘員が数人立っていた。
「警戒が厳重だわ。気付かれずに近付くのは難しいわね」
「でも、あの電波塔を壊しちゃえば、電波を飛ばせないわ」

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 絵里香は美由紀と二人で電波塔を見た。そしてお互いの顔を見合って頷くと、それぞれの武器を出して攻撃のポーズを取り、胸のブローチにあててエネルギーをためた。
 一方アジトの中では、設置された特設スタジオの中でゼネラルダイアの指揮のもと、スタジオ用機材が配置され、着々と作戦準備が進められていた。
「カトレア魔人。レナの姿になってカメラの前に立つのだ」
「かしこまりました」
 カトレア魔人はポーズを取って嘉藤レナの姿になり、テレビカメラの前に立った。戦闘員の一人がやってきてレナにマイクを渡し、数人の戦闘員がそれぞれの部署について、ある者はミキサーを、またある者はカメラを操作し、そしてある者は全国のテレビチャンネルにアクセスする準備を始めた。そしてゼネラルダイアはチャンネルアクセス用のスイッチの前に立った。
「私がスイッチをオンにしたら、カメラの前で念波を最大レベルにするのだ」
「かしこまりました。ゼネラルダイア様、いつでもOKです」
 ゼネラルダイアはスイッチをオンにした。同時にアクセス用機材が爆発して、そばにいた戦闘員が絶叫とともに吹っ飛んだ。絵里香と美由紀が送信用アンテナを破壊したため、電波が逆流したのだ。室内では爆発した機材が煙を吹き上げ、部屋全体に充満した。
「こ、これはどういう事なのだ一体!?」
 ゼネラルダイアが狼狽しているところに、外にいた戦闘員が入ってきた。
「大変です。ゼネラルダイア様! 小娘どもが送信用アンテナを破壊しました」
「何だと!? おのれ… 小娘ども…」
 一方、電波塔を破壊した絵里香と美由紀は、襲ってくる戦闘員を全て倒し、破壊した電波塔がある丘の上に立っていた。そこへカトレア魔人と戦闘員たちがアジトから出てきた。戦闘員の一人が絵里香と美由紀を見つけて叫んだ。
「いたぞ! あそこだ」
 ゼネラルダイアは絵里香と美由紀に向かって怒鳴った。
「おのれ! 小娘ども。よくも我々の計画を邪魔してくれたな!」
「残念だったわね。お前たちの作戦はこれで終わりよ。私たちがいる限り、お前たちの思い通りには絶対にさせない!」
「うるさい! カトレア魔人! 小娘どもを殺せ! 必ず抹殺するのだ」
「かしこまりました」
 返事をすると同時に同時に、レナはカトレア魔人の姿になり、ゼネラルダイアは煙の如く姿を消した。
「かかれ! 皆殺しだ」
 戦闘員が絵里香と美由紀に次々と襲いかかり、乱戦になった。絵里香と美由紀は襲ってくる戦闘員達を次々と倒していった。そこへ戦闘員達の間からカトレア魔人が出てきた。
「私の超能力で、脳をズタズタにして殺してやる」
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 カトレア魔人が2人に向かって念波を発した。絵里香と美由紀の頭の中を『キイーン!』というような感触が駆け抜け、頭が割れそうな激しい痛みが2人を襲い、2人は頭を押さえながら顔を歪めて悶絶した。
「くうぅっ… うああぁっ 頭が割れるうーっ!」
「絵里香、絵里香あ… 頭が… ああーっ!」
「どうだ小娘共! 私の念波の威力は! ふふふ… 出力を最大にしてお前達の命を頂く!」
 カトレア魔人の頭部のアンテナが眩しく点滅した。

 その時、美紀子のテレポートで聖奈子が空中に出現した。聖奈子はそのまま一回転して魔人にキックをお見舞いした。
「エンジェルブルー空中回転キック!」
「ぐあぁーっ!」
 まともにキックを喰ったカトレア魔人は反動で空中に飛ばされ、一回転して地面に落ちた。
「お、おのれぇ、よくもやったなぁ」
「それはこっちの台詞よ! よくもあたしに恥をかかせてくれたわね!」
「聖奈子、元に戻ったのね」
 聖奈子のそばに絵里香と美由紀が寄ってきた。
「絵里香、美由紀、心配かけてごめんね。もう大丈夫よ。おい、ネオ‐ブラックリリーの化け物! お前の野望もこれで終わりよ!」
「うるさい! 小癪な小娘共め! 三人まとめて念波で地獄へ送ってやる!」
 カトレア魔人は腕を振り上げ、頭部のアンテナを点滅させた。
「危ない! 2人とも散開して!」
 絵里香の声に、聖奈子と美由紀はそれぞれカトレア魔人を囲むように散開し、美由紀がバトンを魔人めがけて投げつけた。バトンは魔人の頭部のアンテナに命中し、電気のスパークでショートして、アンテナが爆発して吹っ飛んだ。
「ぐあぁーっ!」
 カトレア魔人は両手で頭を押さえて苦しみ出した。
「やったね美由紀! これでやつはもう超能力を使えないわ」
 聖奈子がそう言いながら飛び出し、カトレア魔人に組みついた。格闘戦の苦手なカトレア魔人は聖奈子の攻撃をかわせず、数発のパンチを喰って地べたに叩きつけられた。
「今だ! エンジェルキック!」
 聖奈子のキックがカトレア魔人を直撃し、カトレア魔人は、頭を押さえて悶絶しながら地べたを転がった。

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「これで終わりよ! 観念しろ化け物!」
 聖奈子はソードを空にかざし、シールドの面を魔人に向けてキーワードを叫んだ。
「アクアストーム!」
 聖奈子は身構えると、カトレア魔人に向かって突進し、ソードを魔人に突き刺した。
「グアァーッ!」
 ソードが突き刺さったところから、火花が激しく噴出し、聖奈子はソードを抜いて、安全な場所まで離れてポーズを取った。魔人の身体の至る所から煙が上がり、やがて氷漬けになってそのまま木っ端微塵に砕け散った。
「やったね聖奈子」
「でも、何だか今日の聖奈子怖い」
「でしょう。美由紀、私を本気で怒らせると怖いのよぉ」
「それにしても、作戦にメディアを利用してくるなんて… ネオ‐ブラックリリーも段々悪質で凶悪化してきたわね」
「だからといって怯んではいられないわ。ネオ‐ブラックリリーの野望は何としても打ち砕くのよ。みんな、これからも頑張ろう」
 絵里香達が変身を解くと同時に、美紀子が迎えにやってきた。
「みんなご苦労様。洗脳されていた人たちは、無事に正気に戻ったわ。さあ乗って」
 美紀子は絵里香達を乗せると、車を発進させて鷲尾平への帰途についた。

      *      *      *      *

 試験休みが終わり、終業式の日になって試験の成績が貼り出され、聖奈子は自分の順位を確認してガッツポーズをした。言うまでも無く学年トップだった。
 さて、あれだけ騒がれていた嘉藤レナの存在はいつの間にか忘れられ、今度はスマイルチャーミィズという、女の子四人組の新人アイドルグループが話題の中心になっていた。
「嘉藤レナは、カトレア魔人が死んで洗脳が解けたんで、みんな忘れちゃったのね」
「それにしても、この前までは嘉藤レナで、今度はスマイルチャーミィズとはねぇ… 」
「それにしてもアイドル熱っていうのはすごいね」
 絵里香と聖奈子が会話していたところに、アイドル好きの美由紀がやってきて誘ってきた。
「絵里香、聖奈子、今度スマイルチャーミィズが市民会館でコンサートやるんだって。みんなで行こうよ」
「あ~あ、美由紀のアイドル熱もすごいね… 」
「え、何?」
「何でもない何でもない。うん分かった。行こう行こう」
 

      *      *      *     * 
 
 ネオ‐ブラックリリーのメディア作戦は、エンジェルスによって阻止された。だが、ブラックリリーはまた新たな作戦を練り、再び牙を剥こうとしているのだ。頑張れエンジェルス!

 (つづく)



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 次回予告
 ◎第15話『化石怪人の恐怖』

 夏休みが始まり、絵理香たちは合宿でN県の天間村へ行く。しかしそこではネオ‐ブラックリリーが世界征服のための前進基地を作ろうとしていた。
 作戦エリア内に絵理香たちがいることを知ったゼネラルダイアは基地建設を中止し、急遽作戦を変更して、新たに作り出した三葉虫魔人を使って奇襲攻撃をかける。絵理香たち3人は魔人の攻撃で化石化してしまい、合宿に来ていたバトン部員達が人質になってしまう。


 次回 美少女戦隊エンジェルス第15話『化石怪人の恐怖』にご期待ください。


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テーマ : ライトノベル
ジャンル : 小説・文学