鷲尾飛鳥

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第19話『迫り来る悪夢』

2012年 07月16日 15:49 (月)

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 天間村の霧伏高原と天道高原に沿って走る国道○○号線で、走行中の自動車が忽然と姿を消すという奇妙な事件が起きた。既に数台の自動車が消え、自動車のみならず、道を歩いていた人まで消えていたのだが、まだ事件として扱われておらず、新聞にも報道されていなかった。それは目撃者や目撃証言などが全然無く、誰も事件に気付かなかったからである。
 そして今日もその事件は起きた。一台の乗用者がその問題の国道を走行していた。乗っているのは若い男女で、天間村の隣にある川上町へ行くため、この国道を通っていたのである。走っているのはその車だけで、前後を走る車も無く、また対向車もまばらだった。そして車が天道高原にさしかかった時、突然前方の道路が陥没して擂鉢状の穴が開いた。
「わっ! ど、道路が… 」
 突然の事にブレーキをかける事も出来ず、車は陥没した穴の中にそのまま飛び込んだ。
「ワーッ!」
「キャアァーッ!!」
 悲鳴とともに車は擂鉢の中に突っ込んで、砂の中にズブズブと埋もれていった。暫くして穴の底の方からグロテスクな出で立ちをした蟻地獄魔人が姿を現した。

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「ギギギギギーッ! また獲物が罠にかかったわい」
 蟻地獄魔人は再び砂の中に潜り、今まで開いていた擂鉢が埋まって、道路自体も何事も無かったかのように再び元の状態に戻った。

 それから約2時間… 天道高原の一角にあるネオ‐ブラックリリーのアジトでは、中にいた戦闘員たちがピリピリしていた。前進基地建設の任務に就いていたドクターマンドラが、般若峠付近での基地の建設を視察してアジトに帰ってきた時、アジト内の様子がおかしいのに気付いて、近くにいた戦闘員を捕まえて聞いた。
「どうした。一体何があったのだ!?」
 その戦闘員はドクターマンドラに向かって直立不動の姿勢になった。
「ヒャイィーッ! 大首領様から連絡が入り、ここにゼネラルダイア様が間もなく来るとの事です」
「何?」
 暫くして別の戦闘員がやってきて、ドクターマンドラの前に立ち、敬礼した。
「イーッ! ドクターマンドラ様。至急司令室に来て下さい。大首領様の呼び出しです」
「分かった。すぐ行く」
 ドクターマンドラが司令室に入ると、壁に付けられたスピーカーのメッセージランプが点滅し、大首領クイーンリリーの声が響いてきた。
「ドクターマンドラ。我がネオ‐ブラックリリーの基地建設は、世界征服を円滑に行うために、非常に重要な事なのだ。一時は基地の建設を中断したが、今度こそ完璧な基地を建設し、全体を要塞化して、世界征服作戦のための前進基地にするのだ。そのためにゼネラルダイアとお前との共同戦線が必要となる」
「分かりました」

 その時アジトの司令室の扉が開いて、ゼネラルダイアが入ってきた。持ち場についていた戦闘員たちが一斉に集まってきて、ゼネラルダイアの前に立った。
「出迎え大儀である」
 ゼネラルダイアはそう言うと、ドクターマンドラの傍に寄ってきた。

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「大首領様の命により、共同戦線を張るため、ゼネラルダイア只今着任! 早速現在の状況と作戦の進行具合を教えてほしい」
「ご苦労であった。それでは早速作戦の説明と打ち合わせをしよう」
 ドクターマンドラはゼネラルダイアを促し、司令室の壁に貼り付けられている地図の前にゼネラルダイアを案内し、作戦の説明を始めた。
「ここがアジトのある天道高原で、こっちが現在基地の建設を行っている般若峠。今アンモナイト魔人を指揮官として、建設作業が進行中だ」
「それで建設作業に使っている労働力は?」
「これまでは機密保持ために、戦闘員だけを使っていたが、現在ピッチを上げるために、近くで労働力の調達を行っている。蟻地獄魔人が道路に罠を仕掛け、捕らえてきた者で労働力のある者は奴隷として使役している」
「うむ… これからは出来るだけ奴隷の調達は控えよう。万が一という事もある。それに失踪騒ぎが起きてスカーレットエンジェルやエンジェルスの小娘どもに感付かれるよりは、我々だけで行った方が安全だ。労働力は戦闘員の数を増やすなりして工夫すれば良い。蟻地獄魔人に即急に連絡し、現在の作戦の中止を伝えるのだ。それから、現在使っている奴隷どもは、記憶を消し去って釈放したほうがいい。今我々の秘密が知れると、後々厄介な事になりかねない」
「確かに今回の作戦の秘匿性は重要だ。よし! 早速連絡を入れよう」
 ドクターマンドラは通信機の前にいる戦闘員を促し、蟻地獄魔人に連絡を入れさせた。そこへ大首領クイーンリリーのメッセージが入ってきた。
「ドクターマンドラ。ゼネラルダイア。この作戦には共同戦線は絶対に欠かせない。エンジェルスの小娘どもがどうして我々の作戦を妨害出来るのか、よく考えてみろ。やつらはチームワークで行動しているのだ。だから我々もチームワークで対抗する。簡単な事ではないか」
「その通りです。大首領様」
 そこでメッセージが終わり、再び二人の会話が始まった。
「ところでドクターマンドラ、作戦の邪魔になるエンジェルスの小娘どもの動きはどうなっているのだ」
「今のところ天間村を含み、その周辺にはいない」
「大首領様の話では、この天間村はスカーレットエンジェルに縁のある場所だ。必ず我々の事を嗅ぎつけて、やつらはここへ来るぞ。その時の備えが無ければ、作戦の成功など到底おぼつかない。そこでだ。ドクターマンドラ。物は相談だが、そちらの方は私が指揮を執ろう」
「分かった! 小娘どものほうは任せた。私は基地建設の方を担当する。よろしく頼むぞ」
「こちらこそよろしく頼む。では早速建設中の基地へ向かおう」
 そう言ってゼネラルダイアとドクターマンドラは建設中の基地へと向かっていった。

 ゼネラルダイアとドクターマンドラは、般若峠の見晴らし台に立っていた。
「うむ… いい眺めだ。ここからは周辺の全ての物が手に取る様に見渡せる」
 その時数人の戦闘員がやってきた。
「ヒャイィーッ! ご苦労様です」
「いい所に来た。お前達に言っておきたい事がある」
「何でしょうか?」
「基地の監視機能が御粗末だ。直ちにこの場所に見張り施設を作り、周辺を徹底的に監視させろ」
「か… かしこまりました」
 ゼネラルダイアとドクターマンドラは戦闘員の案内で、建設中の基地に入った。中ではアンモナイト魔人が陣頭指揮を取り、建設作業が行われていた。
「アンモナイト魔人を私たちの元に呼ぶのだ」
 ドクターマンドラの命令で戦闘員の一人がアンモナイト魔人の方へ向かっていき、暫くしてアンモナイト魔人がやってきた
「ギーガーッ! お呼びでございますか? ドクターマンドラ様」
「アンモナイト魔人。今から私が直接基地建設の指揮を取る。お前はエンジェルスの小娘どもに備え、基地の周辺をパトロールしろ」
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「かしこまりました」
 アンモナイト魔人はゼネラルダイアとドクターマンドラに敬礼すると、近くにいた戦闘員を引き連れて基地から出ていった。

      *       *       *       *

 8月も中旬になり、絵里香たちの夏休みも大体半分位の所まできていた。そして明後日からお盆という時、絵里香たちは美紀子に呼ばれて、美紀子の事務所に集まっていた。
「あなたたち明日から一週間ぐらい何か予定入ってる?」
 絵里香たちはお互いの顔を見合った。美紀子が何を言っているのか、すぐに理解出来なかったからだ。それを察してか、美紀子はさらに続けた。
「明日から私、一週間くらい天間村へ行くのよ。お盆で姉さんたちの御墓参りに行くんだけど、あなたたちも静養を兼ねて一緒に来ない? ペンションの仕事を手伝ってくれれば、宿泊料はタダにしてあげるから」
「私は特に何も無いですけど… 」
「あたしも」
「私も弟が北海道へ行っちゃってるから、今家の中で一人だけなんで大丈夫」
「それじゃ決まりね。私の車に乗せていくから、必要な物を揃えて、明日の午前10時までにここに集合ね」
「分かりました」
 絵里香たちはこれまでのネオ‐ブラックリリーとの戦いで、精神的にかなり疲弊していたのである。それで美紀子の好意に甘えたのだが、天間村でネオ‐ブラックリリーが作戦行動を開始していて、そのネオ‐ブラックリリーが自分たちを待ち構えている事など、知る由も無かった。

 翌日、絵里香たちはそれぞれ荷物を持って美紀子の事務所へ行き、美紀子の車に乗って一路天間村へと向かった。
 美紀子の車は川上町側から国道○△号線を天間村に向かっていた。普通なら国道××号線を通って美晴峠を越えるのが近道なのだが、この季節は観光客の車で混雑するので、美紀子はそれを避けたのだ。町村境にさしかかった時、美紀子の車はネオ‐ブラックリリーの監視網に引っ掛かり、即座にアジトに連絡が行った。

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「何!? やつらが天間村に入っただと?」
 アジトの司令室では、ドクターマンドラが連絡を受け、そのまま建設中の基地や、外で行動している魔人や戦闘員たちに連絡が転送された。ゼネラルダイアも戦闘員に対して厳戒態勢をとるよう指示し、ドクターマンドラも付近一帯の警戒態勢を敷くよう命令したが、襲撃や攻撃はせずに、そのまま様子を見るよう指示した。
「我々に気付かないうちは泳がせておけ。もし気付かなかった時は、そのまま黙って帰すのだ」
 ドクターマンドラとゼネラルダイアにとって、現在建設中の基地の事は、基地の完成までは知られたくなかった。それは大首領クイーンリリーにとっても同様だった。そのため、絵里香たちや美紀子が気付かない限り、放っておくことにしたのだ。そして蟻地獄魔人が遂行中だった奴隷調達も取り止めにし、ネオ‐ブラックリリーの表立った動きは鳴りを潜める格好になった。そのため、美紀子と絵里香たちは何の妨害も襲撃も受けずに、無事にペンション赤嶺に到着する事が出来た。到着と同時に、佐緒里が出てきて出迎えてくれた。

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「おかえりなさい」
「佐緒里ちゃんお久しぶり」
 絵里香たちは佐緒里の案内でペンションの中に入った。佐緒里は絵里香たちに部屋割り表を見せると、絵里香たちを部屋に案内してくれた。合宿の時は新設された別館の方だったが、今度は本館の方の部屋だった。
「申し訳無いんですけど、三人一緒の部屋です」
「いいよ別に。そんな事気にしないで」
「一息ついたら、叔母様が話があるから、食堂にくるように言ってましたので、お願いします」
 そう言って佐緒里は部屋を出ていった。絵里香たちは荷物を開けると着替え始め、着替えが終わると聖奈子が部屋の窓を開けて外の景色を見た。庭の方を見下ろすと、ちょうどお客さんがやってきていて、美紀子が出迎えているところだった。
「絵里香、美由紀、ちょっと来て」
「どうしたの聖奈子」
「あれ… 」
 絵里香と美由紀が下を見ると、見覚えのある人たちが立っているのが見えた。
「あの2人って… 美紀子さんの事務所に来ていた人じゃなかったかな?」
「確か… 古川って言ってたっけ」
「隣の奥さん… 久美子さんっていったっけ・・ 結構綺麗な人だね」
「聖奈子、美由紀、そろそろ行こうか」
 絵里香たちは部屋を出ると下へ下りていき、外へ出た。庭先では誠人と美紀子が会話していて、絵理香たちに気付いた久美子が小走りに駆け寄ってきて絵里香たちにお辞儀をした。
「こんにちは。お久しぶりです」
「こんにちは」
「こんにちは」

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 絵理香たちに気付いた美紀子は、誠人と一緒に絵理香たちのほうへやってきた。
「みんな下りてきたの? それじゃみんな上がりなさい」
 美紀子がみんなを促した。絵里香たちと誠人、久美子は、食堂に入るとそれぞれ椅子に座った。美紀子は厨房に入り、代わりに佐緒里が出てきて冷えたジュースを持ってきて、テーブル上に配った。
「みなさん、どうぞ」
「ありがとう」
 そこへ美紀子がお菓子を持って入ってきて、テーブルの上に置くと、自分も座った。
「誠人君。結花ちゃんは明日来るんでしょ?」
「うん。一昨日連絡があって、今年は旦那さんと子供も一緒に連れてくるって言ってた」
「そう… それから詩織も明日来るって行ってたわ」
「ところで、和枝さんは?」
「今里帰りしているの。今日の夜に戻ってくるわ。それより、久美子ちゃん、誠人君と結婚したばかりで結構大変でしょ?」
「そうでもないです。誠人も協力してくれるし、共稼ぎで何とかやってますよ」
「それから誠人君、例の話はどうするの?」
「久美子と話し合って、久美子もOKしました。向こうの方の整理が終わり次第、こちらに移ってきます」
 美紀子はそれを聞き、ホッとしたような顔をした。例の話とは、誠人と久美子がこのペンションの維持と管理を美紀子から委託され、二人で経営をするというものだったのだ。

 美紀子は誠人と久美子だけを相手に話をしていて、絵里香たちは蚊帳の外だった。それを察した美紀子は、今度は絵里香たちの方を向いて言った。
「絵里香たちは始めて聞くと思うけど、明日お墓参りをするんで、みんなここに集まってくるのよ」
 絵里香たち三人は『そうだったのか』といったような顔で美紀子を見て納得した。
「それで、一週間くらいでいいから、あなたたちにこのペンションを手伝ってもらいたいの。お盆が過ぎるとまた忙しくなるから、私と佐緒里だけじゃ心許無いのよ」
「わかりました」
「よかった。助かるわ。三人ともありがとう」
 絵里香たちが簡単に承諾したので、美紀子も佐緒里も一安心した。

 美紀子が言っていた墓とは、美紀子の双子の姉である真紀子とその夫の誠一、そして佐緒里の妹の香織、さらに和枝の夫の誠司が眠っている墓の事である。今から約5年前に誠一と真紀子、誠司、そして香織を交通事故で一度に失い、佐緒里だけが奇蹟的に助かって、その後美紀子が佐緒里を引き取る事になったのは、第一話で述べた通りである。
 さて、ネオ‐ブラックリリーの動きも襲撃も無く、静かに一日が過ぎ去ろうとしていた。ドクターマンドラとゼネラルダイアの命令で、表立った作戦行動が止められたからである。しかし、スカーレットエンジェルの血を受け継いだ佐緒里だけは、その不穏な動きを察知していた。

      *       *       *       *

 翌日…
 絵里香たちはペンションを手伝うために、朝の6時に起きてそれぞれの持ち場についていた。絵里香は厨房で美紀子と佐緒里を手伝い、聖奈子と美由紀は庭の掃除をしていた。一昨日からお盆でペンション自体を休業していたので、一般の客はいなかったため、さほど忙しいわけではなかったが、お盆が終わったあとは予約が結構多く、一週間ぐらいは混雑が予想された。それで美紀子は絵里香たちをヘルパーとして連れてきたのだった。昼近くなって急にあたりが慌ただしくなった。美紀子の客がやってきたのだ。真っ先に来たのは詩織だった。
「やっほー! 美紀子、来たよ」
「お帰り詩織」
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 詩織がふと庭のほうを見ると、絵里香たちと佐緒里が草むしりをしているのが目に入った。
「あれ? あそこにいるの絵里香たちじゃん。どうしたの?」
「これから忙しくなるから、あの子達をヘルパーとしてここに連れてきたのよ」
「ふーん… 」
 詩織は庭で草むしりをしていた絵里香たちの元へ小走りに駆け寄った。
「みんな、こんにちは」
 詩織に気付いた絵里香たちは、草むしりをやめて立ちあがると、詩織の傍に集まってきた。
「先生こんにちは」
「みんな元気そうね。それじゃお仕事頑張ってね」
 そう言って詩織は絵里香地の傍を去っていった。それから間もなく一台の車が駐車場に入ってきて、四人連れの家族が降りてきた。それは逢隈家の家族で、主人の逢隈一晃と妻の結花(旧姓古川結花)、そして二人の双子の子供、悠樹と悠美だった。詩織は結花を見ると、結花に向かって駆け寄っていった。
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「結花。久しぶり」
「詩織さん… わぁ懐かしい」
 詩織と結花は嬉しそうに抱き合った。それを二人の子供がきょとんとした顔で見ていた。詩織が気付いて近付くと、悠樹と悠美は連れ添うように結花の傍に寄り添った。結花は結婚した後、夫一晃の転勤で名古屋へ行き、そこで双子を出産した。結花は早婚だったので、二人はもう7歳になっていた。結花は誠人と久美子を見ると、そちらの方へ行って挨拶した。ちなみに源太郎と早紀は仕事の関係で日本に来る事が出来ず、電報だけを送ってきていた。
 みんなが集まったところで、美紀子は絵里香たちを呼び、一緒に来るよう言った。行き先は歩いて15分ほどの所にある墓地だった。墓地に入って暫く行くと、『赤嶺家』と刻まれた墓碑があり、みんなそこで足を止めた。それぞれが花を添え、そして線香に火がつけられて、独特の匂いが辺り一面に立ち込めた。最後に絵里香たちも献花して線香に火をつけ、それぞれ両手を合わせて黙祷した。
 その日の夕方になって、古川夫妻と逢隈夫妻、そして詩織は帰っていって、和枝と佐緒里、美紀子と絵里香たちが残された。
 その日の夕食が終わり、和枝はその後の事を美紀子に任せて、ペンションの中にある自分の部屋へ行って休んだ。絵里香たちも手伝いが終わって部屋で休んでいたが、佐緒里は今まで気にしていた事を美紀子に話すため、美紀子がいる食堂に行った。食堂では美紀子が晩酌しながらテレビを見ていた。
「叔母様」
「あら… どうしたの? 佐緒里」
「ネオ‐ブラックリリーの気配を感じるわ。何とかしないと」
 美紀子は佐緒里の言葉を聞くと、疑う素振りすら見せず、テレビを消して佐緒里に言った。
「佐緒里、絵里香たちを呼んできて」
「はい!」
 佐緒里は部屋でくつろいでいる絵里香たちを呼びに行き、暫くして絵里香たちが下りてきた。
「どうかしたんですか美紀子さん」
「ちょっとみんな座って。佐緒里が大事な話があるって」
「大事な話… ?」
 みんなが座ったところで美紀子が切り出した。
「佐緒里、詳しく聞かせて」
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「ネオ‐ブラックリリーが近くで動いているわ。何か… やつらの大きな気配を感じるの」
 美紀子ですら気づかなかった事を、佐緒里は気付いていたのだ。それはスカーレットエンジェルの能力であり、佐緒里のその力は覚醒とともに急激に研ぎ澄まされて、すでに美紀子のそれを上回っていた。が、まだ体が幼いため、自分で力をコントロールするには至っていなかった。美紀子は席を立つと、事務室へ行って地図を取って来て、テーブルの上に広げた。
「佐緒里。何処?」
 佐緒里は地図上の2点を指さし、しるしをつけた。1つ目は般若峠とその周辺。もう1つは天道高原だった。天道高原の付近は前にもブラックリリーがアジトを設けていた場所であった。
「やつらのアジトがある場所?」
 聖奈子がそう言うと、佐緒里は首を横に振った。
「1つは聖奈子さんの言うようにアジトかもしれない。でも、もう1つはアジトより、もっともっと大きなものだわ」
「もっともっと大きなもの… 」
「何かの基地じゃない?」
「考えられるわね。やつらは昔この天間村に何度か基地を作っていた… きっとまた… 」
「でも美紀子さん… もしやつらが何かをしてるとしたら、やつらの事だから必ず厳重に警戒してると思う。私たちがここにいる事だってもう分かってると思うよ。だからいつここを襲ってきてもおかしくないんだけど、何故今まで何も無かったのかしら」
「それは私にも分からないわ。ただ一つ言える事は、私たちが気付かない限り何もしてこないという事かな… つまり作戦の秘密を知られない限り、黙って私たちの様子を見てるってところね」
「益々怪しいな… 佐緒里が言うように、何かでかい事を企んでいる事は確かだわ」
「明日調べに行ってみよう。みんな今日はゆっくり休みなさい」
「はい」
 絵里香たちは立ちあがると、美紀子に挨拶してリビングを出た。佐緒里も自分の部屋へ帰っていった。

      *       *       *       *

 翌日… 
 朝食を終えると、美紀子は佐緒里に留守番をさせ、絵里香たちを車に乗せて大神山へ向かった。昨日佐緒里が言っていた地図上の怪しい場所の一つ、般若峠を調べるためだった。大神山は頂上のすぐ下まで道路があり、頂上には展望台があって、そこから般若峠を一望出来るという事と、大神山から般若峠までは新設された林道(地図には載っていない)があったからだ。美紀子は大神山の頂上付近にある駐車場に車を乗り入れ、絵里香たちは車を降りると一呼吸入れた。その様子は展望台を占領していたネオ‐ブラックリリーの戦闘員たちによって、ずっと見張られていた。
「やつらだ!」
「何!?」
 戦闘員の一人が指さした方向を、他の戦闘員たちが集まってきて見た。
「大至急ゼネラルダイア様とドクターマンドラ様に連絡しろ」
「ヒャイィーッ!」
 戦闘員たちが慌しく動き始め、展望台に陣取っていた戦闘員たちは次々と展望台を離れ、逃げ始めた。絵里香たちを見つけても、戦わないで逃げるよう、ゼネラルダイアとドクターマンドラから命令されていたからだ。一方、絵里香たちは展望台がある頂上に向かって遊歩道を登り始め、頂上の展望台に向かって階段を一気に駆け上った。登りきったところで四人はそれぞれ周囲を見回した。
「何もいないようね… 」
 美紀子は般若峠が見える場所へ行くと、双眼鏡で般若峠を見た。暫く覗いた後で、そばにいた絵里香に双眼鏡を渡した。
「絵里香、見て」
 絵里香は言われるままに双眼鏡を覗いた。すると建設中らしい構造物が所々に見え隠れしていた。
「佐緒里が言った通り、あそこに基地を作っているんだわ」
「まともに行けば… 危ないわね」
「まさに… 飛んで火に入る夏の虫って事か」

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「でも、絶対にためらいは許されないわ。やつらが何か企んでるなら、全力で阻止しなきゃ。それが私達の使命なんだから!」
「そういう事… さあ行くか!」
「待ってみんな。ここから峠までは8kmぐらいあるのよ。それにやつらは私たちがこの天間村にいることを既に知っているのよ。やつらの野望を阻止するなら、確実にやつらの懐に入り込まなきゃダメよ。そのためには、ここからテレポートするしかないわ」
 そう言ったところで、美紀子は何かの気配を感じた。
「(近くでやつらが私たちを見張っている) みんな、一旦駐車場へ戻るわよ」
 美紀子は絵里香たちを促すと、展望台から駐車場へ向かって階段を下りていった。絵里香たちは美紀子の思惑が分からなかったが、美紀子の後を追って駐車場に戻った。
「みんな乗って!」
「どうしたんですか美紀子さん。基地に潜入しないんですか?」
「あなたたちは気付かなかったかもしれないけど、展望台の付近にはネオ‐ブラックリリーの戦闘員が潜んでいたのよ」
「ええっ!?」
「だから、ここを一旦離れるわ。やつらに私たちが気付いていないように見せかけるのよ」
 美紀子はそう言いながら車に乗りこみ、ようやく美紀子の思惑を理解した絵里香たちも続いて乗りこんで、美紀子は車を発進させ、大神山の駐車場から走り去っていった。

      *       *       *       *

「何? 小娘どもがいるだと?」
「ヒャイィーッ! 大神山の見張部隊が見つけました。スカーレットエンジェルも一緒にいます」
 ゼネラルダイアは司令室にある椅子に座って瞑想にふけっていたが、戦闘員の報告を聞くと立ちあがり、矢継ぎ早に命令を出した。
「直ちに警戒体制を敷け。般若峠に通じる林道を封鎖するのだ」
 戦闘員たちが慌ただしく動き始め、一隊が林道の方へ向かって走っていった。基地の中を視察に来ていたドクターマンドラも司令室に入ってきた。
「ゼネラルダイア、小娘どもを発見したそうだな」
「ああ… やつらはこの場所を嗅ぎつけたに違いない… しかし、何故そんな簡単に分かったのだ… この場所は厳重に隠蔽していたのに」

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 ゼネラルダイアとドクターマンドラは報告を聞いて訝しげに考えていたが、ドクターマンドラは近くにいる戦闘員に向かって怒鳴った。
「蟻地獄魔人とアンモナイト魔人を大至急呼び出し、基地の周辺を警戒するように伝えるのだ」
 その時別の戦闘員が報告に来た。
「大神山にいる部隊から再び連絡が入りました。スカーレットエンジェルと小娘どもは、大神山から去っていったとの事です!」
「何!? 一体どういう事だ… やつらはここを嗅ぎつけてきたわけではなかったのか」
「そのようだが、安心するわけにはいかんぞ。ドクターマンドラ」
「もっともだ」
 二人の大幹部が訝しげに構えていると、大首領の声がスピーカーから聞こえてきた。
「小娘どもが来たからといってうろたえるな! 何のためにお前たち二人がいるのだ。基地に近付いてきたら攻撃して、必ず抹殺するのだ。分かっているな!?」
「ハハーッ! 心得ております。大首領様。必ずや、小娘どもを抹殺して、その首を大首領様に献上致します」
 そこでスピーカーからの声が途切れ、ゼネラルダイアは通信係の戦闘員を呼びつけた。
「その後何か連絡は入っているか?」
「ヒャイィーッ! まだ何も入っていません。林道を封鎖している部隊は、先ほど到着した蟻地獄魔人様が陣頭指揮を取り、備えております」
 やや遅れてアンモナイト魔人も到着し、司令室に入ってきた。
「アンモナイト魔人、お前も外にいる部隊に加わるのだ。行け!」
「ギーガーッ! かしこまりました」
 美紀子と絵里香たちが去っていったと聞き、ドクターマンドラもゼネラルダイアもホッとしたような表情でお互いを見合ったが、何か引っ掛かるような思いを抱いていた。

      *       *       *       *

 その頃美紀子の車は大神山の麓付近まで降りてきていて、そのままペンションへ戻るルートを走っていた。ネオ‐ブラックリリーの裏をかくためだった。そうこうしているうちにペンションに戻り、美紀子は車を駐車場に乗り入れ、絵里香たちは車から降りた。美紀子の車に気付いた佐緒里が外に出てきた。
「叔母様。何か分かったの?」
「佐緒里の言う通り、般若峠にはやつらの基地があったわ。みんな、中に入って」
 美紀子は絵里香たちと佐緒里を促し、ペンションのリビングへ入った。そしてテーブルの上に地図を置いて開くと、般若峠の場所を指差しながら絵里香達に向かって話を始めた。
「絵里香たち三人は私のテレポートで基地の中へ飛ばすから、私の指示があるまで、絶対に無茶な行動はしないで。私との会話の方法は、前に私が教えたテレパスを使うのよ」
「分かりました。それで… 美紀子さんはどうするんですか?」
「私は佐緒里と二人で囮になって、やつらの注意を引きつけるわ」
 絵里香たちは美紀子の話を聞き、生唾をグッと飲み込んだ。美紀子と佐緒里、そして絵里香たちは、再びペンションの外へ出た。
「みんな、変身して私のそばに来て」
 絵里香達は変身すると、美紀子の傍に集まった。
「やつらの基地にテレポートするわよ。ここからだと大体10kmってところね。テレポート出来るギリギリの距離だけど、基地の中に行けるはずだわ」
 美紀子がスティックを出して空に掲げると、絵里香たちは光に包まれてその場から消えた。

      *       *       *       *

 絵里香たちは基地の中にある何処かの部屋に姿を現した。部屋は20畳位の広さで、部屋の外からは工事の機械が動いている音や、作業をしている戦闘員たちの声が聞こえてくる。
「上手く基地の中にテレポート出来たようね… でもここは何処なんだろう… 」
 絵里香がそう呟き、続いて三人で部屋の中を見回した。部屋の中は半分くらいが木箱で埋め尽くされていた。
「何だろう… 」
 聖奈子が好奇心から、その木箱を開けた。すると中にはダイナマイトが詰まっていた。
「ダイナマイトだわ」
 それを聞き、絵里香と美由紀も近くの箱を開けてみた。
「こっちは小型爆弾だわ」
「こっちも・・ 」
「こっちは時限装置と起爆装置だわ」
「どうやらこの部屋は基地の弾薬庫のようね」
「ここにある爆弾が全部爆発したら、基地は確実に火の海になって壊滅するわね」
「聖奈子、美由紀。美紀子さんからの連絡があるまで、ここを動かないで待とう。私が美紀子さんにテレパスを送るわ」
 そう言って絵里香は胸のブローチを手で触れると、目を瞑った。その頃美紀子は佐緒里を連れて再び車に乗っていた。美紀子は絵里香からのテレパスを受け、車を止めた。
「佐緒里。絵里香たちは基地の中に上手くテレポート出来たわ。今度は私たちの番よ」
 美紀子は再び車を走らせ、般若峠への登山道の入り口にある広場に車を乗り入れて止めた。美紀子と佐緒里は車を降りると、リュックを背負って登山道を登り始めた。
「私たちの足なら、大体20分で峠まで行けるわ。途中でやつらが見張ってるかもしれないけど、わざと私達がいるように見せるのよ」
「分かったわ叔母様」
 美紀子と佐緒里は峠に向かって登山道を登り続けが、幸いにも発見されず、般若峠の看板がある場所までたどり着いていた。ここで登山道は十字路になっていて、真っ直ぐ行けば大神山から出ている林道にぶつかって霧伏と天道の両高原の間を通って国道に至る。右へ行けば天間岳頂上へ、左へ行けば大神山へそれぞれつながっている。建設中のネオ‐ブラックリリーの基地は、真っ直ぐ行く道を300mほど行った場所にあった。この周辺は林が切れて草原地帯になっていて見晴しが良く、また地形が緩やかだったので、基地を作るのに最適な場所だったのである。
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 さて、ここまでは発見されず、かつ戦闘員の襲撃も無く、無事に来る事が出来て、美紀子と佐緒里は登山道の脇にある広場のベンチに腰掛けて一息入れていた。
「叔母様… 絵里香さんたちは無事なのかしら」
 美紀子は時計を見ながら返事をした。
「おそらく… まだ発見されていないだろうけど、時間が経てば危ないわ。それよりも今は私たちの方があの子達より危険なのよ」
 美紀子の言葉に佐緒里は無言で頷いた。ネオ‐ブラックリリーの基地に正面から向かっている以上、いつ発見されて襲撃されてもおかしくなかったのである。美紀子は額に指を当てて、絵里香たちにテレパスを送った。

      *       *       *       *

「美紀子さんからテレパスが来たわ。もう行動を起こしてもいいって」
「待ってました!」
「みんな、ここにある爆薬をセットして、爆発させるのよ」
「なるほど… ここにある弾薬を爆発させて基地の中を混乱させるのね」
 聖奈子が納得したように言った。絵里香は部屋の扉を少し開けて、外の様子を覗った。外は回廊になっていたが、まだ照明がなく、薄暗かった。そこへ遠くから足音が聞こえてきたので、絵里香は扉を閉めた。足音は複数で、段々近付いてきて、絵里香たちが隠れている部屋の前で止まった。二人の戦闘員が扉を開けて入ってくると、無言のまま弾薬の入った箱に手をかけた。
「今だ!」
 絵里香と聖奈子が同時に戦闘員に飛びつき、聖奈子は戦闘員を一撃で殴り倒した。絵里香は戦闘員を羽交い締めにしてから思いっきり締め上げた。
「司令室は何処!? 言いなさい!」
「ぐ… グエエーッ! か… 階段を登った先の回廊の突き当たり… 」
 そう言いながら戦闘員は司令室のある方向を指さした。同時に絵里香は戦闘員の腹を殴って気絶させた。
「聖奈子、美由紀、手伝って」
 絵里香たちはダイナマイトが入った木箱を開けて、中のダイナマイトに導線を繋ぎ、さらにその線を起爆装置に繋いで、最後に時限装置を取り付けてスイッチを入れた。
「30分後に爆発するわ。ここから脱出するわよ」
 絵里香たちは部屋から飛び出し、近くにあった階段を見つけると、その階段を地上へ向けて駆け上がっていった。

      *       *       *       *

 その頃、美紀子と佐緒里は峠を越え、ネオ‐ブラックリリーの基地に少しずつ近づいていた。そしてついに基地の殆どを一望出来る場所までやってきて、そこで始めてテレビカメラにその姿が映し出された。戦闘員がゼネラルダイアとドクターマンドラの元に慌ただしくやってきた。
「スカーレットエンジェルを発見しました。この基地に近づいています」
「何!?」
 ゼネラルダイアとドクターマンドラは戦闘員に促され、モニターを見た。
「スカーレットエンジェルとやつのガキだ! やはりこの場所を嗅ぎつけていたのか。くそっ! やつらに一杯食わされたな」
 ゼネラルダイアは近くにいる戦闘員に向かって怒鳴った。
「すぐに警報を鳴らせ! 周りを警備している蟻地獄魔人とアンモナイト魔人を、大至急峠の方へ向かわせろ」
 警報装置のスイッチが押されて、基地全体に非常警報が鳴り響き、戦闘員たちが慌ただしく動き始めた。ゼネラルダイアとドクターマンドラも司令室を出て、そのまま基地の外へ飛び出した。しかし、ドクターマンドラは気になることが頭に浮かび、基地の外へ出たところで足を止めた。
「もしかすると… まさか… 」
 何かを思いついたドクターマンドラは、再び基地の司令室へ引き返した。司令室に戻ると、基地から出ようとしている戦闘員を片っ端から引き止めて、司令室の中に招き入れた。
「お前たちは基地に残れ! それから、蟻地獄魔人とアンモナイト魔人を呼び出し、基地の方へ来るよう伝えろ! それからゼネラルダイアに、小娘どもが基地に潜入してるかもしれないと伝えるのだ」
「かしこまりました!」
 2~3人の戦闘員が司令室から出ていった。

      *       *       *       *

 基地から脱出するために回廊を走っていた絵里香たちにも警報は当然聞こえてきた。
「警報だわ」
「私たち見つかったの?」
 そんな会話をしている時、不意に戦闘員と鉢合わせし、戦闘員が襲いかかってきた。絵里香たちは襲いかかってくる戦闘員と格闘して全部倒すと、再び回廊を走り出した。
「司令室は確か、つきあたりだって言ってたわね」
「あの正面の扉がそうみたいよ!」
 扉の前でまた戦闘員が現れ、襲いかかってきた。
「どけ!! この野郎!」
 聖奈子がいつもの男言葉で戦闘員に飛びつき、膝で思いっきり蹴り込んだ。戦闘員は低い呻き声とともにその場に倒れこんだ。他の戦闘員も絵里香と美由紀に倒された。絵里香が扉の前に立つと、扉が自動的に開き、絵里香はそのまま指令室内に飛びこんで、聖奈子と美由紀も後に続いた。
 司令室に入ると同時に、中にいた戦闘員たちが一斉に絵里香たちの周囲を遠巻きに囲んだ。そして絵里香たちの真正面にはドクターマンドラが立っていた。
「お、お前はドクターマンドラ!」

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「やっぱり基地の中に潜んでいたんだな!? おそらくテレポートで潜入したのだろうが、こんな事もあろうかと思って待っていたのだ。小娘ども、この基地からは一歩も出させないぞ」
「しまった… 待ち伏せされていたんだわ」
「どうしよう絵里香」
「強行突破しかないわ。私たちが脱出しないと、美紀子さんと佐緒里が危ないわ」
「安心しろ。外にいるスカーレットエンジェルとガキは、ゼネラルダイアが片付けてくれるわ! お前たちはここで我々の刃にかかって死ぬのだ!」
 その時司令室の扉が開いて、アンモナイト魔人と蟻地獄魔人が入ってきた。
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「ギーガーッ!」
「ギギギギギーッ!」
「どうやら八方塞がりのようだねぇ。小娘ども。部屋の外にも戦闘員が控えているぞ。ついにエンジェルスの最後が来たようだな」
 絵里香たちを囲んでいた戦闘員が、その包囲の輪を縮めてきた。出入り口の所には二体の魔人がいる。絵里香たちが弾薬庫に仕掛けた時限装置が作動するまであと5分に迫っていた。

      *       *       *       *

 一方、美紀子と佐緒里の周りにも、戦闘員が奇声を上げながら次々と現れ、ついに美紀子と佐緒里は完全に囲まれた。さらにゼネラルダイアが現れ、ゼネラルダイアは岩の上に仁王立ちになって、美紀子と佐緒里に向かって捲し立てた。
「よく来たなスカーレットエンジェル! ここまで来た事は誉めてやるが、ここから先へは行かせん! この場所がお前達の墓場だ。二人とも地獄へ送ってやる」
「お前はゼネラルダイア!」
「私とドクターマンドラが組めば、お前達やエンジェルスの小娘どもなど恐れるに足らんのだ。今頃は小娘どもも基地の中でドクターマンドラと魔人たちの餌食になっている頃だ。自分たちが囮になって、我々の注意を引きつけようとしたつもりだろうが、そうは問屋が卸さないのだ。ワーッハッハッハ!」
「(しまった… 私達の意図を見抜かれていたのか)」
「お前たちは私の手で引導を渡してやる。それ! かかれえっ」
 周りを包囲していた戦闘員が一斉に動き出し、美紀子と佐緒里に襲いかかってきた。美紀子はスティックを出すと、サーベルにチェンジして、襲ってくる戦闘員に向かって身構えた。
「佐緒里、私のそばから離れないで」
「叔母様。数が多すぎるよ。私も変身して戦うわ!」
「ダメよ。まだあなたは… 」
 美紀子がそこまで言いかけたところで、佐緒里は美紀子を無視してポーズを取った。
「スカーレットスパーク‐エンジェルチャージ!」
 佐緒里の体が光に包まれ、光が消えると佐緒里はスカーレットエンジェルの姿になった。
「正義の戦士、スカーレットエンジェルJr!」
 佐緒里はゼネラルダイアを見据えた。
「小癪なガキめ! 電光剣で焼き殺してやる」
 ゼネラルダイアは剣を抜くと、空に向けて掲げた。剣の刃先から強い光が出て、空に稲妻の光が迸り、佐緒里と美紀子に向かってきた。
「エンジェルシールド!」
 球体の透明な膜が佐緒里と美紀子を包みこみ、電光が全て跳ね返された。攻撃のために近付いてきた戦闘員が数人ほど巻き添えで倒れた。攻撃が止んだので佐緒里はシールドを解き、ブローチに手をあててエネルギーをため、両手を突き出した。
「エンジェルスマッシュ!」
 エネルギー波がゼネラルダイアに向かっていく。ゼネラルダイアは持っていた剣を自分の前に出してエネルギー波を跳ね返した。
「小癪なガキめ! 食らえ!」
 ゼネラルダイアは剣を振り上げると、その切っ先を佐緒里に向けた。強力なレーザー光線が放たれて佐緒里目掛けて一直線に向かってきた。
「エンジェルシールド!」
 佐緒里は自分の前にシールドを張り、レーザーを跳ね返した。が、突如佐緒里はバランスを崩してその場に膝をついた。それを見た美紀子が佐緒里のそばに駆け寄ってきた。
「佐緒里しっかりして! だからあれほど言ったのに」
 佐緒里は自分の体力に分不相応なエネルギーを使ったために、体力を一気に消耗したのだ。スカーレットエンジェルとはいえ、佐緒里はまだ中学生で体が幼く、強力なエネルギーを使う事に耐えられなかったのである。ゼネラルダイアが戦闘員を伴って、美紀子と佐緒里にジリジリと近付いてきた。美紀子はサーベルの先をゼネラルダイアに向けて威嚇した。

      *       *       *       *

「聖奈子、美由紀、強行突破してここから脱出するしかないよ」
「うん! どうやらそれしか無いみたいね」
「それに爆弾が爆発するまで、もう少しだよ」
 絵里香たちは背中合わせになって円陣を組み、周りを囲んでいる戦闘員に向かって身構えた。
「ふん! 往生際の悪いやつらだ。者どもかかれっ。皆殺しにしろ!」
 ドクターマンドラが叫ぶと同時に、ドーン!! という物凄い音が響き、続いて激しい振動が伝わってきて、ドクターマンドラはバランスを崩してよろけ、さらに司令室のドアがショックで外れ、ドアの前にいたアンモナイト魔人と蟻地獄魔人に向かって倒れてきた。
「ギーガーッ! 何事だ」
 アンモナイト魔人は辛うじて避けたが、蟻地獄魔人は倒れてきたドアがまともに当たって、そのままバランスを崩して倒れ、ドアの下敷きになった。戦闘員たちも音と振動で、何があったんだと言い合いながら、パニック状態になった。激しい音と振動はなおも続き、何回かの振動で司令室のスピーカーが壁から外れて落ちてきた。さらに室内のコンピューターがバチバチと火花を散らし、火災が発生した。別の戦闘員が慌てて司令室に入ってきた。
「大変です。ドクターマンドラ様。弾薬庫が爆発して火災が発生してます。もはや手のつけようがありません。このままでは大爆発を起こします」
「何だと!? し、しまった… 小娘ども! 計ったな」
「ざまあ見ろ! これでこの基地もおしまいよ!」
「お前たちの野望は、私たちエンジェルスが全て打ち砕くわ!」
「くそぉ… よくも我々の基地を… 殺してやる!」
 ドーン!!!
 再び大きな音とともに部屋全体が揺れ、天井が崩れて瓦礫が床にバラバラと落ちてきた。既に指令室内はパニック状態で、戦闘員たちが慌てふためき、収拾がつかなくなっていた。
「聖奈子、美由紀、今のうちに逃げるよ」
「オッケー!」
 絵里香たちは一斉に出入り口目指してダッシュし、右往左往している戦闘員を避けながら出入り口を抜けて回廊へ飛び出した。
「おのれ小娘ども! 捕まえてやつ裂きにしてやる。者ども追え! 絶対に逃すな」
 ドクターマンドラが捲し立てると、落ち着きを取り戻した戦闘員たちが次々と司令室から出ていき、二体の魔人もそれに続いて、ドクターマンドラも最後に司令室を出た。同時に指令室内で鈍い音とともに爆発音が響き、室内にあった機械が次々と爆発炎上した。弾薬庫内の爆発は相変わらず続いていて、爆薬に次々と誘爆し、爆発の被害を大きくしていって、基地の中の殆どが炎に包まれた。

 爆発の音と振動は、外にいたゼネラルダイアにも伝わっていて、最初の爆発の振動でゼネラルダイアは乗っていた岩から落ちそうになり、慌ててジャンプして下に下りた。
「何事だ!?」
 そこへ戦闘員が駆けつけてきた。
「大変です! 基地の弾薬庫が爆発し、基地全体が火の海になりつつあります」
「何だと!?」
 ゼネラルダイアが基地の方を見ると、立て続けに響く爆発音とともに、火柱が上がっているのが見えた。美紀子はゼネラルダイアに向かって大声で言った。
「エンジェルスの三人がやってくれたわ! これでお前たちの基地も終わりね!」
「しまった!」
 ゼネラルダイアは美紀子と佐緒里に背を向け、慌ただしく基地の方へ向かって駈け出した。ゼネラルダイアが走り去っていき、残された戦闘員たちはどうすれば良いのか分からなくなった。が、すぐ近くには美紀子と佐緒里がいる。それで戦闘員たちは一番近くにいる手頃な標的として、美紀子と佐緒里に襲いかかった。

      *      *      *      *

 その頃絵里香たちは、時々鉢合わせする戦闘員と戦って倒しながら、回廊を走り抜けて基地の外へ出ていた。何とかして美紀子と佐緒里がいる方へ行こうとしたが、戦闘員が次から次へと襲いかかってきてなかなか先へ進めず、そうこうしているうちに後ろから追って来ていたドクターマンドラらに追いつかれてしまった。さらにゼネラルダイアもやってきて、絵里香たちは再び囲まれた。
「小娘ども! 逃がさんぞ! お前たちの地獄への道案内をしてやる」
「うるせえ! 寝言は寝て言え! お前たちなんかにやられるようなあたし達じゃないぞ!」
「そうよ! 私たちは絶対に挫けないわ」
「ほざくな! これだけ大勢に囲まれて逃げられると思っているのか」
 絵里香たちはもはや八方塞がりだった。前にはゼネラルダイアが。後ろにはドクターマンドラと二体の魔人。そして周囲は戦闘員たちが何重にも包囲していた。
「絵里香… あたしたち勝てるかな… 」
「何弱気になってんのよ! 聖奈子らしくないぞ。絶対に勝てるよ! 自分たちを信じようよ」
「そうだよ。どんな事があっても私たちは一蓮托生だよ。生きるも死ぬも一緒だからね」
「よーし! ひと暴れしてやるか!」
 絵里香たちは胸のブローチに触れ、それぞれの武器を出して身構えた。

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「皆殺しにしろ! かかれえっ」
 ドクターマンドラとゼネラルダイアが同時に叫び、戦闘員が一斉に襲いかかってきた。二体の魔人もその後ろから攻撃の機会を覗いつつ近付いてきた。絵里香たちはそれぞれブローチにエネルギーをためると、武器の切っ先を向かってくる戦闘員に向けた。
「ファイヤースマッシュ!」
「アクアスマッシュ!」
「ライトニングスマッシュ!」
 エネルギー波が放たれ、数人の戦闘員が一度に倒された。
「固まるな! 分散して新手を繰り出しながら攻撃するのだ」
 戦闘員は次から次へと襲いかかってきた。その度に絵里香たちはエネルギー波を放ったが、戦闘員はフォーメーションを組んで仕掛けてきたので、あまり効果が無かった。近付いてきた戦闘員はついに絵里香に組みついてきて接近戦になり、絵里香たち三人対戦闘員圧倒的多数の格闘戦になった。
「よーし! いいぞ… 小娘どもに出来るだけたくさんエネルギーを使わせるのだ」
 戦いが始まって20分ほどで、戦闘員の数は半分くらいになっていた。が、絵里香たちも戦闘員の人海戦術によっていつもの倍近いエネルギーを使わされ、疲れから動きが鈍くなりつつあった。
「ドクターマンドラ、小娘どもの動きが鈍り始めたぞ」
「よし! あと少しだ。蟻地獄魔人、アンモナイト魔人、小娘どもを攻撃するのだ」
「ギギギギギーッ!」
「ギーガーッ!」
 蟻地獄魔人とアンモナイト魔人は、奇声を上げるとそこから土の中に潜った。
「よーし! 我々も攻撃するぞ」
 そう言いながらゼネラルダイアは剣を抜き、ドクターマンドラは鞭を持って身構えると、まずゼネラルダイアが剣を空に掲げた。
「ゼネラルダイア稲妻電光剣!!」
 同時に激しい雷鳴がとどろき、稲光が発生して衝撃波が絵里香たち目掛けて落ち、絵里香たちの周囲で次々と地面が炸裂した。
「キャーッ!」
 絵里香たちは悲鳴とともに爆風で吹っ飛ばされ、そのまま地面に叩き付けれた。起き上がろうとしたところへ、今度はドクターマンドラが鞭を振り上げて、絵里香たち目掛けて飛ばしてきた。鞭は絵里香たちに触れると電気のスパークを発して、バチバチいう激しい衝撃が絵里香達を襲った。
「キャーッ!」
「ウワアァァーッ!!」
 絵里香たちは電気ショックに悲鳴を上げ、体中が痺れて動けなくなった。
「小娘ども。いよいよ年貢の納め時だな。とどめを刺してやる」
 そう言いながらドクターマンドラとゼネラルダイアが絵里香達に向かって歩き出した。そこへ突然、二人の大幹部を狙い済ましたように、光の束が降り注いできたかと思うと、辺り一面で地面が炸裂し、ドクターマンドラとゼネラルダイアは爆発を避けるようにジャンプした。
「おのれ! 何処から攻撃してきたのだ!?」
 美紀子と佐緒里がかけ声とともにジャンプして空中で一回転し、絵里香たちの前に着地すると、ドクターマンドラとゼネラルダイアに向かって身構えた。美紀子と佐緒里は戦闘員を全て片付け、絵里香たちを助けに来たのだった。
「美紀子さんに佐緒里ちゃん」
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「危機一髪だったわね。もう大丈夫よ」
「くそぉ… 小癪なやつらめ! まとめて地獄へ送ってやる!」
 ドクターマンドラとゼネラルダイアはそれぞれ鞭と剣を振り上げて、そのまま振り下ろした。衝撃波と電気のスパークがみんなを襲う… 
「エンジェルシールド!」
 佐緒里は両手を広げてバリヤーを張り、美紀子もスティックを使って佐緒里を援護した。ドクターマンドラとゼネラルダイアの攻撃がバリヤーで跳ね返され、近くにいた戦闘員に降り注いで、戦闘員が絶叫とともに次々と吹っ飛んだ。痺れて動けなかった絵里香たち三人は、ようやく立ちあがって、美紀子の傍に寄ってきた。
「みんな、逃げるわよ! テレポートするから集まって」
 絵里香たちは美紀子の傍に集まり、逃げる態勢をとったが、その真下… つまり土の中から攻撃の機会を覗っていた蟻地獄魔人とアンモナイト魔人にはまだ気付いていなかった。そこへ再びドクターマンドラが鞭を飛ばしてきた。が、佐緒里の張ったバリヤーに跳ね返された。
「クソッ! やつのバリヤーは破れないぞ!」
「甘く見るなよドクターマンドラ。やつはガキとはいえ、スカーレットエンジェルなのだ。それより、そろそろ蟻地獄魔人とアンモナイト魔人がやつらの下に行く頃だ」
 美紀子はスティックを空に掲げ、そのまま振り下ろした。するとみんなの姿が光に包まれた。それと殆ど同時に土の中からアンモナイト魔人が姿を現し、触手を伸ばして飛ばしてきた。触手は一番端にいた美由紀の手足に絡まり、美由紀の体が引きずられた。

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「う… ウワアーッ!」
 さらに美由紀の周りに大きな擂鉢が現れて、美由紀はその中に落ち、擂鉢が姿を消した。
 
 光が消えると同時に、美紀子たちの姿はその場から消えた。ドクターマンドラとゼネラルダイアは、美紀子たちが姿を消した場所まで駆け寄った。
「くそっ! 逃げられたか。我々二人がいながら作戦が台無しに… おのれ小娘ども… 今度会った時は必ず八つ裂きにしてやる」
 悔しがるゼネラルダイアの傍で、ドクターマンドラが宥めるように言った。
「ゼネラルダイア、そう落ちこむな。やつらの仲間の一人を捕らえた」
 そう言いながらドクターマンドラが右手を上げて合図をすると、土の中から蟻地獄魔人とアンモナイト魔人が、気絶した美由紀を抱えて姿を現した。
「こいつはエンジェルスの小娘の一人だ」
「この小娘が… おのれ!」
 ゼネラルダイアが剣を抜いたのを見て、ドクターマンドラが止めた。
「待て! 今殺すことはない」
「何故だ!? こいつは我々の作戦を台無しにし、せっかく作った我々の基地を無残に破壊したのだ。八つ裂きにしても気が済まない!」
「だから、ここで殺してしまうより、アジトへ連れていって、拷問で痛めつけるのだ。この小娘に、生まれてきた事を後悔するくらいの生き地獄を味わわせてやればいいではないか」
「なるほど… それも一理あるな。よし!」
「直ちにアジトへ引き揚げる。その小娘を連れていけ!」
 残った戦闘員たちが一斉に敬礼し、ドクターマンドラとゼネラルダイアはその場から姿を消した。そして魔人と戦闘員もそこから消えた。

      *       *       *       *

 絵里香と聖奈子、そして佐緒里は、美紀子のテレポートでペンションの庭に立っていた。が、逃げ遅れた美由紀だけはネオ‐ブラックリリーに捕まってしまい、そこにいなかったのだ。
「美紀子さん。美由紀がいないわ」
「えっ!? 何ですって!?」
 絵里香たちは周りを見回した。美由紀は何処にも見えない。そこへ何処からかナイフが飛んできて、ペンションの壁に突き刺さった。絵里香が壁まで駆けより、刺さったナイフを抜いた。
「手紙が付いているわ」
「持ってきて!」
 絵里香は美紀子にナイフを渡し、美紀子はナイフに付いていた手紙を取って開いた。

『エンジェルスの小娘ども! そしてスカーレットエンジェル! お前たちの仲間の一人、エンジェルイエローを捕らえた。我がネオ‐ブラックリリーは、エンジェルイエローを拷問の末、処刑する。処刑の日時は追って伝える』

「美由紀が捕まっちゃったわ… 助けに行かないと」
「美紀子さん、テレポートを御願い! うっ… 」
 絵里香が美紀子の腕をつかんで縋りつくと同時に、絵里香は右腕に激痛を感じた。
「待って二人とも。それに絵里香、あなた怪我してるじゃないの」
 美紀子は絵里香の右腕の傷を指差して言った。
「そんな事どうだって良いです」
「そうよ! 早く助けに行かなきゃ、美由紀が危ないわ」
「叔母様、やつらの事だから、美由紀さんにどんな酷いことするか… 」
「みんな落ちついて!! 今やつらが何処にいるかも分からないのよ。やつらの居場所は私が探ってみる。絵里香も聖奈子も、怪我と生傷でボロボロじゃないの。とにかく中に入って。傷を直す方が先よ」
 美紀子の一声で、絵里香と聖奈子は渋々頷き、佐緒里と一緒にペンションの中に入った。

      *       *       *       *

 ネオ‐ブラックリリーが建設した基地は、絵里香たちの活躍によって破壊され、ネオ‐ブラックリリーの作戦は再び打ち砕かれた。しかし、美由紀はネオ‐ブラックリリーに捕らえられ、アジトに連行されて、地下牢に厳重に拘束された。

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 捕らえられた美由紀は無事なのか… また、ネオ‐ブラックリリーは次はどんな作戦で挑戦してくるのか… 頑張れエンジェルス!

 (つづく)

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 次回予告
 ◎第20話『戦士の誇り』

 ネオ‐ブラックリリーに囚われた美由紀は、ドクターマンドラとゼネラルダイアの手で凄まじい拷問にかけられ、最後には処刑されることが決まる。美由紀が危ない! そして・・ 美由紀を助け出すため、アジトの場所を必死で捜している絵理香たちに、アンモナイト魔人の魔手が迫る。

 次回 美少女戦隊エンジェルス第20話『戦士の誇り』にご期待ください。


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テーマ : ライトノベル
ジャンル : 小説・文学