鷲尾飛鳥

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第25話『学園SOS!』

2012年 09月23日 11:18 (日)

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10月になり、衣替えとなって、制服が冬服になった。今のところネオ‐ブラックリリーの動きはなく、絵里香たちにとってはつかの間の休息だった。が、動きが分からないということが、かえって絵里香たちを不安にさせていた。しかし、学校から出てくる3人の表情はどちらかというと明るかった。
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「もうすぐ修学旅行だね」
「そうだね・・ お土産何にしようかな・・」
「浮かれてるのもいいけど、その前に中間テストがあるんだよ」
「そうなんだよねー。明後日からいよいよ始まるんだぁ」
 そんな会話をしながら、3人は駅の近くまで来た。
「それじゃまた明日」
「バイバイ」
 絵理香たちは駅の前で別れると、それぞれの家路についた。家に帰った絵理香は自分の部屋に入って着替えると、机の上に教科書を置いて椅子に座った。明後日から始まる中間テストの勉強をするためだったが、30分ほどして椅子から立ち上がると窓の方へ行って外を見た。絵理香の視線の先には鷲尾平の市街地があった。
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「ネオ‐ブラックリリーの幹部、ドクターマンドラは死んだ・・ そして、あれから奴等の動きは全く無し・・ 不気味なくらい静か過ぎる。一体今度は何時・・ 何処で・・ どんな形で何をしてくるのか・・ 」
 絵理香はしばらく外を見つめていたが、窓を閉めると再び椅子に座って机に向かった。

      *       *       *       *

「行ってきます。叔母様」
「行ってらっしゃい」
 ANGELでは佐緒里が支度を終え、学校へ行こうとしていた。佐緒里が第一中学校に転校してから、毎日佳奈子が迎えに来ていて、今日も佳奈子はANGELの店の前で佐緒里が出てくるのを待っていた。
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「佐緒里ちゃんおはよう」
「おはよう」
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「行こうか」
「うん」
 佐緒里と佳奈子は二人で並んで歩き出し、学校へと向かって行った。転校したばかりの佐緒里はまだ制服が出来ていなかったので、前にいた天間村の中学校の制服で通学していた。
「佐緒里ちゃん、制服いつ出来るの?」
「うーん… 注文が一昨日だったから、あと大体一週間後ってとこだと思う」
「佐緒里ちゃんが私と同じ学校に転校してくると思わなかったな… それに私と同じチアリーディング部に入ってくれるし、すごく嬉しいよ」
 佐緒里は佳奈子と知り合いだったばかりでなく、性格の良さのせいか、転校初日からクラスや部活で数人の友達が出来ていた。学校の校門を通過したところで、二人のクラスメートで、同じチアリーディング部の仲間でもある麻里・裕香と会い、麻里と裕香は佳奈子と佐緒里を見ると駆け寄ってきた。
「佐緒里、佳奈子、おはよう」
「おはよう」
 四人は仲良く並んで校舎に向かった。その様子をジッと見張っているネオ‐ブラックリリーの戦闘員にはまだ誰も気付いていなかった。

      *       *       *       *

 ネオ‐ブラックリリーはエンジェルスに倒されたドクターマンドラに代わり、ゼネラルダイアが再度赴任して、次の作戦の準備を進めていた。アジトの司令室ではゼネラルダイアが大首領のメッセージを聞いていた。
「ゼネラルダイア、新たな作戦は進行しているのだろうな」
「はい。既に工作部隊が先発して行動に入っています」
「私はお前に期待しているぞ。世界征服作戦を必ず成功させるのだ。決して手段を選ぶな! 人間どもなど何人殺したってかまわない」
「ハハーッ! かしこまりました。大首領様」
 ここで会話が終わった。そこへ白衣姿の戦闘員がやってきて、ゼネラルダイアに報告した。
「ゼネラルダイア様。スズムシ魔人の改造手術が終了しました」
「そうか。すぐに司令室に出頭させろ」
「かしこまりました!」
 ネオ‐ブラックリリーのアジトでは、ゼネラルダイアが新たな作戦を立て、既に一隊が絵里香たちや美紀子の知らないところで行動中であった。そして今回の作戦の責任者としてスズムシ魔人が作り出され、改造手術が終わったところで、その報告を聞いたゼネラルダイアは早速スズムシ魔人を呼び出し、呼び出されたスズムシ魔人が司令室に入ってきた。
「リリリリリーッ。スズムシ魔人。只今出頭致しました。」
「待っていたぞ。スズムシ魔人、早速お前を全国学校占領作戦の責任者に任命する」
「ハハーッ! 光栄です。ゼネラルダイア様」
「お前が持つ特殊音波を使い、学校の教師や生徒を洗脳するのだ。そして占領した学校の生徒を我がネオ‐ブラックリリーの予備軍として教育し、いずれは日本全国の学校という学校を全て占領して、世界征服作戦のための前線基地とするのだ。次の世代を担う者たちが全部ネオ‐ブラックリリーの構成員となれば、世界を征服することも容易いのだ。ハーッハッハッハ! さあ行けスズムシ魔人。愚かな人間どもに、我がネオ‐ブラックリリーの偉大な力を見せつけてやるのだ」
「ははーっ。お任せ下さい。ゼネラルダイア様」
 スズムシ魔人はゼネラルダイアに一礼すると、戦闘員を引き連れてアジトを出ていった。

 ゼネラルダイアはこれまでの作戦失敗の経験から、美紀子や絵里香たちに気付かれないよう、鷲尾平とその周辺を避けて作戦エリアを設定していた。そして学校の生徒たちを洗脳しても、完全な洗脳ではなく、普段は普通と同じ行動を取るようにして、必要な時に自分達の思い通りに操れるようにしていたので、なおさら気付かれる確率が低かった。ネオ‐ブラックリリーのアジトでは、ゼネラルダイアが地図を広げ、地図上に印をつけてスズムシ魔人に指示を出していた。
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「我々の作戦を早期に知られてはまずい。まずスカーレットエンジェルや小娘どもに気付かれないように、遠い所から作戦を実行していくのだ。スズムシ魔人、分かったな?」
「かしこまりました。ゼネラルダイア様」
「それではまずこの地域から作戦を開始せよ」
 スズムシ魔人はゼネラルダイアの指令の元、まず入山市に入り込み、市内の中学校と高校を手当たり次第に襲った。襲うといっても正面からではなく、まず人間の姿 (学校の教師や学校に出入りしている業者など) に化けてから学校に入りこみ、放送などを使って特殊音波を学校中に流して洗脳するという手口で、入山市内の中学校と高校の教師と生徒を次々と洗脳していった。そして作戦開始から三日後には、入山市内の全ての中学校と高校の教師や生徒を洗脳することに成功し、ネオ‐ブラックリリーの支配下に入れていた。作戦を終えたスズムシ魔人は戦闘員を引き連れて、ゼネラルダイアに報告していた。
「成果は上々です。ゼネラルダイア様、入山市の全ての中学と高校を支配下に収めました。俺様の特殊音波でいつでも思い通りに操る事が出来ます。普段は全く普通通りなので、誰も我々が洗脳しているなどと気付くはずがありません」

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「うむ。よろしい! それでは次はこのエリアをやれ!」
 ゼネラルダイアはスズムシ魔人の報告を聞き、満足したように言いながら、地図の中にある神代市を指さした。
「かしこまりました」
 スズムシ魔人は戦闘員を引き連れてアジトを出ていった。
「こうして鷲尾平を囲むように、作戦を遂行し、最後に鷲尾平の学校を全て手中に収める。スカーレットエンジェルやエンジェルスの小娘どもが気付いた時には、もはや手のつけられない状態になっているのだ。ふふふ… 今に見ていろ! 最後に笑うのは我がネオ‐ブラックリリーなのだ」
 その時司令室のスピーカーから、クイーンリリーの声が聞こえてきた。
「ゼネラルダイア。作戦は順調に進行しているようだな」
「ハハッ! 大首領様」
「くれぐれも言っておくが、絶対にスカーレットエンジェルや小娘どもを甘く見るな。それに新たな敵、スカーレットエンジェルのガキにも気をつけろ。やつはガキとはいえ、鋭い感性と直観力を持ち合わせている。油断はならんぞ」
「はい! 心得ております」

      *       *       *       *

 ネオ‐ブラックリリーが入山市で学校を襲っていた頃、絵里香たちは二学期の中間試験の真っ最中で、それぞれのクラスで答案と向かい合っていた。中間試験が終われば、絵里香たち二年生は京都・奈良への修学旅行が控えていて、さらに来月始めには学園祭と体育祭も控えていた。絵里香たちが所属しているバトン部は学園祭と体育祭の両方でパレードと公開演技があるので、その練習に余念が無かったが、修学旅行のある五日間は部活が出来ないので、その間は一年生だけで練習する事になっていて、夏休の合宿終了後に引退した3年生の元キャプテンの芳江が、雅子とともに臨時で指導に当たることにしていた。
 中間試験が終わり、その二日後に絵里香たちは修学旅行へと出発した。絵里香たち三人としては、現在不気味なくらい静かで鳴りを潜めているネオ‐ブラックリリーの動きが心配だったが、美紀子がネオ‐ブラックリリーの動きを見張り、佐緒里もいるからと言って安心させられ、美紀子に見送られて鷲尾平から一路京都へと旅立っていった。

 その頃、ネオ‐ブラックリリーは作戦エリアを入山市から神代市へと移し、神代市内の中学や高校全てを支配下に置いて、今度は鷲尾平の北にある新間町にその魔手を伸ばしていた。が、その作戦行動の巧妙さにさすがの美紀子も気付かず、感の鋭い佐緒里すらもネオ‐ブラックリリーの動きを見抜けないでいた。

 そんなある日の朝、佳奈子がいつものように迎えにきて、佐緒里が外に出て来た。佐緒里は今まで着ていた天間村の中学校の制服ではなく、新調したばかりの第一中学の制服を身に纏っての登校だった。

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「佐緒里ちゃん、制服出来たんだね」
「うん。昨日届いたんだ。佳奈子ちゃん、行こうか」
 佳奈子と佐緒里は今日も二人仲良く学校へ向かった。その姿を見届けて、美紀子は出かける準備を始めた。絵里香たちが心配していたネオ‐ブラックリリーの動きを探るためだった。10月になって美紀子はANGELの従業員を募集し、面接の結果2名を採用した。一人は地元の女子大生で、名前を黄金崎理奈といい、もう一人は高校生だった。美紀子は店の厨房で下拵えを終えると、間もなくやってくるはずの理奈を待った。開店の15分ほど前になって理奈がやってきた。
「おはようございます」
「おはよう。黄金崎さん、準備は全部済ませてあるから、あとはお願いね。昼前までには戻るから、それまで一人で大変だろうけど頑張ってね。もしトラブルがあったら、私の携帯に電話して」
「分かりました」
 美紀子は店の扉を開けて『営業中』の看板を出すと、店を理奈に任せて車に乗って出かけた。行き先は… 分からなかった。とにかく今は美紀子自身が持つ第六感に任せるしか方法が見出せなかったのだ。
そうこうしているうちに、スズムシ魔人は新間町の中学と高校を全て席巻し、続いて鷲尾平の東にある小山田町の学校も全て支配下にしてしまっていた。そして五日が過ぎて、絵里香たちが修学旅行から帰ってきた。

      *       *       *       *

 鷲尾平周辺の学校の教師や生徒たちを次々に洗脳して支配下に収めたスズムシ魔人は、ついに鷲尾平市内の学校にその魔手を伸ばしてきた。
「スズムシ魔人。いよいよスカーレットエンジェルと小娘どもがいる鷲尾平市の学校を襲う時がきた。まず手始めにこの学校へ行け!」
 そう言ってゼネラルダイアは壁に掲げた地図に載っている第一中学校を指さした。
「情報ではこの学校にはエンジェルスの小娘の一人、エンジェルブルーの妹がいる。そしてあのスカーレットエンジェルのガキもこの学校にいるのだ。そいつらを洗脳してしまえば、お前の特殊音波で操る事により、スカーレットエンジェルと小娘どもを暗殺する事も可能だ」
「かしこまりました。ゼネラルダイア様」
 スズムシ魔人は一礼すると、戦闘員を引き連れてアジトを出た。そしてゼネラルダイアの命令に従い、まず工事作業員の姿に化けて、学校の近くで学校給食の業者のトラックを待ち伏せした。トラックがやってきた。運転手は道路上にバリケードが置かれているのを見て、トラックを停止させた。そこへ作業員に化けたスズムシ魔人がトラックに近づいていった。
「すみませーん。この道路は工事中で通行止めです。迂回して下さい」
 運転手は訝しげな顔をしながらトラックをバックさせようとした。その瞬間、作業員がスズムシ魔人の姿になって、運転手と同乗していた助手は驚いた。
「ば… 化け物!」
「リリリリリーッ!」
 スズムシ魔人は特殊超音波を発した。
「う… ウワァーッ! 頭が割れる… ギャァーッ!!」
 運転手と助手はトラックから飛び出してそのまま転倒し、頭を押さえて七転八倒した。スズムシ魔人が音波の出力を上げると、二人とも絶叫とともに絶命し、その身体が爆発して消滅した。
「ざまァ見ろ! リリリーッ!」
 スズムシ魔人は運転手の姿に化け、現れた戦闘員が助手の姿に化けて、何食わぬ顔でトラックに乗り込むと、アクセルを踏んでトラックを発進させた。他の戦闘員たちも人間の姿になって後ろの荷物室に乗りこんだ。そして第一中学校に到着すると、搬入口にトラックを乗り入れ、給食を下ろし始めた。
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 スズムシ魔人は隙を見て校内に入ると、今度は運転手から学校の教頭に化けた。戦闘員の下見により、第一中学校の教師の全員の顔が分かっていたので、スズムシ魔人は簡単に教頭に化けることが出来た。しかも現在授業中なので、廊下で誰かと会う確率が低かった。スズムシ魔人は誰とも会わずに廊下を歩き回って放送室を見つけ、ドアを開けて中に入ると、内側から鍵をかけてスズムシ魔人の姿になった。そして放送用の機材のスイッチを入れると、マイクに向かって特殊音波を流し始めた。

 スズムシ魔人の特殊音波が放送室のマイクを通して校内全体に流れた。教師と生徒達が次々と頭を押さえて苦しみ出し、全員が静かにその場で催眠状態になって眠ってしまった。佐緒里と佳奈子のクラスでも同様だった。しかし佐緒里は宇宙人の血が半分流れていたために洗脳にかからず、一体何があったんだと言った顔で教室を見渡した。
「ちょっと、これどういうこと? 佳奈子ちゃんしっかりして」
 佐緒里は佳奈子の体を揺すったが、佳奈子はピクリとも動かない。その時教室内では既に佐緒里以外の生徒と、教壇にいた教師は催眠音波で眠っていた。佐緒里はスピーカーに視線がいったとき、そこから流れ出ている音が原因だと悟った。実際には音は出ていなかった。というよりも、その音は人間の耳には聞こえない周波数で、宇宙人の血が流れている佐緒里にだけ聞こえていたのだ。
「これって… まさか… 」
 佐緒里はすかさず教室から廊下に飛び出した。そこへネオ‐ブラックリリーの戦闘員が次々と出てきて、佐緒里は前後を挟まれた。
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「ネオ‐ブラックリリー! やっぱりお前達の仕業だったのね」
「お前がゼネラルダイア様の言っていたスカーレットエンジェルのガキか!? お前だけは俺様の洗脳音波を受け付けないのか! くそっ」
 そう言いながらスズムシ魔人が姿を現した。
「ネオ‐ブラックリリーの怪人!」
「その通り! 俺様はスズムシ魔人だ。者ども、そのガキを捕まえろ」
「イーッ!」
 戦闘員が奇声を上げながら佐緒里に襲いかかった。佐緒里と戦闘員達とで格闘戦になり、佐緒里が2~3人を倒したところで、スズムシ魔人が怪音波を発し、その出力を上げてきた。
「リリリリリーッ!!」
「ぐ… あ、頭が… 頭が割れそう… ウワアァーッ!」
 佐緒里は怪音波に耐えられず、頭を押さえて苦しみながらその場に倒れこんで意識を失ってしまった。
「ふん! 気絶したか。ガキとはいえさすがはスカーレットエンジェル・・ 俺様の洗脳音波が通用しないとは、手ごわいやつだ」
 スズムシ魔人はそう言いながら戦闘員の方を向いた。
「おい! このガキを校庭に連れていけ!」
「イィーッ!」
 戦闘員たちは気絶したままの佐緒里を抱え上げて運んでいき、スズムシ魔人もその後をついていった。校庭に出てサッカーのゴールポストに目をつけたスズムシ魔人は戦闘員を呼びつけた。
「あれがいい! そのガキをあのサッカーゴールに縛りつけて晒すのだ」
 戦闘員たちはサッカーゴールのところまで行くと、気絶したままの佐緒里の両手をロープで縛ってサッカーゴールのバーから吊るし、さらに別のロープで両足も縛った。
「こうしておけば逃げられまい。これでお膳立ては出来た。あとはエンジェルスの小娘どもが嗅ぎつけてここに来るのを待つだけだ。リリリリーッ!」
 スズムシ魔人はそう言うと、晒した佐緒里に見張りの戦闘員をつけ、再び校舎の中に入っていこうとした。そこへ戦闘員が携帯電話を持ってやってきた。
「スズムシ魔人様、ゼネラルダイア様から電話です」
 スズムシ魔人は戦闘員から携帯を受け取ると、ゼネラルダイアと話を始めた。
「スズムシ魔人です」
『作戦は成功したか?』
「第一中学校は作戦通り、全校生徒と教師の全てを洗脳致しました。しかし… 」
『どうしたのだ?』
「スカーレットエンジェルのガキだけは洗脳出来ません」
『何だと!? どういう事だ。それでどうしたのだ』
「スカーレットエンジェルのガキには洗脳音波が通用しないのです。しかし俺の特殊音波で気絶したので、縛り上げて校庭に晒してあります」
『なるほど… それならばそのスカーレットエンジェルのガキを始末しろ。方法は任せる。それから次の作戦エリアへ行く前に、エンジェルスの小娘どもを一網打尽にするのだ。その学校には先に話したように、スカーレットエンジェルのガキの他に、エンジェルブルーの妹もいるのだ。そいつをうまく利用してエンジェルスの小娘どもを消せ』
「かしこまりました。ゼネラルダイア様」
 スズムシ魔人は電話を切ると、近くにいた戦闘員を呼びつけた。
「エンジェルブルーの妹を連れてこい」
「イィーッ! お言葉ですが、誰がその人物なのか分かりません」
「確かにそうだな… よし! 放送室へ行くぞ」
 放送室に入ったスズムシ魔人は、再びマイクの前で怪音波を発した。暫くして戦闘員が佳奈子を連れて放送室に入ってきた。
「この娘がエンジェルブルーの妹です」
 佳奈子は先ほどスズムシ魔人が発した音波で完全な洗脳状態になっていて、その顔からは生気が失われ、完全な操り人形のようになっていた。
「このガキを使ってエンジェルスの小娘どもを始末してやる」
 スズムシ魔人は小型通信機付きのヘアピンを持ってくると、佳奈子の髪にそれを着け、さらに制服の胸ポケットに、起爆装置付きの超小型爆弾を内蔵したペンを差し込んだ。
「これでよし。あとはこいつを小娘どもの元に返し、小娘どもの傍で爆弾を爆発させれば一網打尽だ。お前はすぐに教室に戻れ。教室に戻ればお前の洗脳は解けてみんなと同じになる」
「分かりました」
 校内では何事も無かったように午後の授業が行われていた。佳奈子はスズムシ魔人に操られるように放送室を出て教室に戻っていき、教室に入って自分の席につくと同時に洗脳が解けた。

      *       *       *       *

 第一中学校で事件が起きていた頃、絵理香たちは午後の授業の真っ最中だった。今日は部活が休みの日だったため、授業が終わると3人とも帰り支度をして、学校から出るとそのままANGELへ向かった。店内に入ると孝一が挨拶しながら出迎えてくれた。
「いらっしゃい」
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孝一を見た絵理香はビックリした顔で孝一に聞いた。

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「黒川・・ くん・・ 何であなたがここに」
「マスターの紅林さんがアルバイトを募集してたんだ。それで応募して採用されたってわけ」
 絵理香は一瞬戸惑った。美由紀が店内を見回しながら言った。
「あの・・ それで美紀子さんは?」
「マスターなら出かけてる。さっき連絡があってもうすぐ帰ってくるって言ってた。俺はマスターから、君達が来るだろうから待っててくれるよう伝えてくれって言われたんだ」
 そう言って孝一は絵理香たちを隅のテーブルに案内し、絵理香たちは椅子に座った。孝一は美紀子が雇った二人目のアルバイトだった。絵理香に少なからず好意を持っていた孝一は、ANGELでアルバイトを募集していることを知り、応募して採用された。そして土曜日曜と、平日の学校が終わったあとでここで働くことにしたのである。
「美紀子さんアルバイト募集してたけど、見つかったんだね」
「一人は女子大生で、もう一人は黒川君だったんだ」
「絵理香よかったじゃん。これからいつも会えるじゃない」
 絵理香は顔を少し赤くした。そんな会話をしていたところへ、孝一がコーヒーを持ってきてテーブルの上に置いた。同時に店の扉が開いて、外出していた美紀子が帰ってきた。さらに美紀子に続いて佳奈子が入ってきた。
「あら、佳奈子ちゃん。佐緒里は一緒じゃないの?」
「・・・・」
 佳奈子は美紀子を無視して、奥のテーブルにいた絵理香たちの方へ歩いていき、そこで止まった。
「佳奈子じゃないの。どうしたの?」
 聖奈子が佳奈子に話しかけたが、絵理香は佳奈子の様子を見て、いつもと様子が違うことに気付いた。
「聖奈子待って! 佳奈子ちゃんの様子がおかしいよ」
「え? どういう事よ絵理香」
 聖奈子は佳奈子の顔を見た。絵理香の言うように、確かに顔色がいつもと違う。その時佳奈子の髪に着けられたヘアピンから、スズムシ魔人の声が響き渡った。
「我がネオ‐ブラックリリーに歯向かう愚か者ども! よく聞け。お前たちの仲間であるスカーレットエンジェルのガキを、第一中学校の校庭にて嬲り者にしたのちに処刑する。そしてお前たちにはその場所で死んでもらう」
通信が終わると同時に、佳奈子は体全体の力が抜けたようになって、そのまま後に倒れそうになった。
「危ない!」
 佳奈子の様子を見ていた美紀子が倒れる佳奈子を支えた。その時美紀子は佳奈子の身体からコチコチという、時を刻むような音を聞いた。実際には誰にも聞こえていなかったのだが、宇宙人の美紀子にだけはその音が聞こえたのだ。
「これだわ!」
 美紀子は佳奈子の制服の胸ポケットに刺してあったペンを抜き取った。美紀子はペンを床の上に置くと、スティックを出してその切っ先をペンに向けた。スティックの先端が光り、同時にペンが真っ二つに割れて、中に仕組んであった爆弾の起爆装置が破壊され、時限装置が停止した。さらに髪についていた無線装置付きのヘアピンも外して破壊した。
「危ない所だったわ。このペンの中には超小型爆弾が仕掛けてあったのよ。爆発してたらここにいる人たちはみんなやられていたわ」
「エーッ!!」
 絵理香たちは一瞬青ざめ、血の気が引いた。孝一も同様だった。
「聖奈子、佳奈子ちゃんを運ぶから手伝って」
「は・・はい」
 呆然としていた聖奈子は、美紀子に呼ばれて我に返り、美紀子と一緒に佳奈子を応接室へ運んで、ソファの上に寝かせた。
「佳奈子ちゃんは洗脳されているようだけど、取り敢えずは大丈夫だわ」
「畜生・・ ネオ‐ブラックリリーめ! 佳奈子にひどい事しやがって」
 聖奈子は勢いよく立ち上がると、脇目も振らずに駆け出して店から飛び出した。
「聖奈子待って!」
 絵理香と美由紀は慌てて聖奈子を追いかけたが、店の外に出たときには聖奈子の姿はもう見えなくなっていた。
「絵理香、どうしよう」
 美由紀が心配そうに絵理香に聞いたとき、美紀子が外に出てきた。
「美紀子さん。聖奈子が一人で飛び出していっちゃったのよ」
 美紀子は一つため息をついてから、絵理香と美由紀に言った。
「あの子、相変わらず直情的なところがあるのね」
 そこへ今度は聖奈子と佳奈子の母親の祥子が息を切らしながらやってきた。
「あら。先生じゃないですか」
「聖奈子と佳奈子のお母さん」

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「紅林さん。佳奈子は? 佳奈子は大丈夫なの?」
「佳奈子ちゃん? 佳奈子ちゃんなら奥の応接室にいるわ。それより何故知ってるんですか?」
「さっき道で聖奈子とすれ違った時、あの子から聞いたの。あの子が戦っている敵が佳奈子を捕まえて酷い事したって・・ お邪魔するわよ」
 そう言いながら祥子は応接室に上がりこむと、ソファで寝ている佳奈子を見つけて駆け寄り、佳奈子の体を揺すった。
「佳奈子。佳奈子。しっかりして!」
「先生、いや祥子さん。落ち着いてください。佳奈子ちゃんは眠っているだけですから」
「それで聖奈子は何処へ行ったの?」
 祥子が食い入るように聞いてきたので、美紀子は反射的に返事をした。
「第一中学校へ行ったわ。佐緒里が捕まっているから助けに行ったのよ」
 祥子は立ち上がって応接室を飛び出すと、そのまま店内を駆け抜けて外へ飛び出し、走り去っていった。美紀子は祥子のあとを追いかけて店外へ出たが、振り切られてしまった。美紀子は傍にいて呆然としている絵理香と美由紀に向かって言った。
「お母さんも聖奈子に似てるところがあるのね・・ と・・ こうしちゃいられないわ。このままじゃ聖奈子が危ない。絵里香、美由紀、早く行って。私も直ぐに向かうから」
「はい!」
 美紀子は走り去っていく絵里香と美由紀を見届けてから店内に戻ると、中にいた孝一に言った。
「黒川君。私これから出かけるから、後はお願い。30分位したら黄金崎さんが来るから、それまで一人で我慢して」
「分かりました。気をつけて!」
 状況を既に分かっていた孝一は、何も迷わずに返事をした。美紀子は外へ出ると、そのまま第一中学校に向かって駆け出した。

      *      *      *      *

 その頃聖奈子は既に学校に潜入していた。真正面からの突入は危ないと判断した聖奈子は、学校の裏に回り込んでエンジェルブルーに変身し、屋上にテレポートして誰もいないのを確認すると、そこで変身を解いて屋上から校庭を見た。時間は午後4時を回ったところで、校舎内には生徒は殆どおらず、部活をしている生徒たちがグラウンドと体育館にいるだけだった。そしてグラウンドにいるのは洗脳されたサッカー部員だった。
「あれは・・ 」
 聖奈子が目にしたものは、サッカーのゴールポストに縛り付けられて晒されている佐緒里と、その前に立っているスズムシ魔人とネオ‐ブラックリリーの戦闘員達。そして洗脳されたサッカー部の部員達だった。さらに集められたサッカーボールが地面に置かれている。おそらくサッカーボールを使って佐緒里をいたぶろうとしているのだろう。
「やばい・・ このままじゃ佐緒里ちゃんが嬲り殺しにされてしまう」
 聖奈子は絵里香や美由紀と連絡をとりたかったのだが、肝心な携帯電話は、ANGELを飛び出してきたときに荷物ごと放り出してきていた。

 サッカーゴールの前では、スズムシ魔人が佐緒里に向かって捲くし立てていた。
「お前の叔母のスカーレットエンジェルと、エンジェルの小娘どもは、今頃お前のお友達に仕掛けた爆弾で、全てあの世行きになっているのだ」
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「な・・ お前たち佳奈子に何をしたのよ!」
「知れたことよ。洗脳して爆弾を持たせてお前の仲間のところへ送り込んでやったのだ。仲間の死を見られなくて残念だな。リリリーッ」
「何よ! 私たちが死んだって、お前達なんかに世界征服なんか出来るもんか! 必ず私たちの代わりに誰かがお前達を倒すわ」
「リリリーッ。空威張りをするな。そんなやつらなどいるものか。リリリーッ」
 スズムシ魔人は指先で佐緒里の顎を小突いて、佐緒里に背を向けると、集まっている戦闘員達とサッカー部員達の方へ行った。
「よーし者ども! 今からこのガキどもを嬲り者にしてから処刑する。準備をしろ」
 洗脳されたサッカー部員達が整列し、その前にサッカーボールが次々と置かれた。
「やれ! 我がしもべたちよ。PK嬲りの刑だ。必殺シュートをお見舞いしろ!」
 まず一人目がボールに向かってダッシュし、佐緒里めがけてボールを蹴った。
 バシイッ!
 ボールがすごい勢いでサッカーゴールに向かって飛び、佐緒里の真上のバーの部分を直撃して跳ね返った。
 ガコオォーン!
 衝撃でゴールポストが揺れ、吊るされた佐緒里の身体も少し揺れた。佐緒里は拘束から逃れようとしてもがいたが、縛っている縄がきつくて動けない。二人目が蹴ったボールはゴールを大きく外れ、三人目のボールは佐緒里の手前でワンバウンドして佐緒里の足に命中した。
「ぐ・・ 」
 佐緒里は呻き声を上げたが、スズムシ魔人をキッと睨みつけた。
「ふん・・ 生意気なガキめ。者ども! ボールを蹴るのだ」
 他の部員達が次々とボールを蹴ったが、あとのボールは全て佐緒里を外れた。
「ええい、この下手糞ども! 下がれ下がれ! そんなんでサッカー部員とは笑わせるわ!」
 スズムシ魔人は部員達を後ろに下げ、右手を上げた。その瞬間、部員達は力が抜けたようにバタバタとその場に倒れて気を失った。そこへ戦闘員の一人がやってきて、スズムシ魔人に耳打ちして何かを告げた。
「ん?? そうか。よし!」
 スズムシ魔人は傍に居合わせた数人の戦闘員を引き連れて校舎に向かった。

 その頃聖奈子は屋上から校舎内に入っていた。校舎内の廊下も教室も人の気配がなく、自分の胸の鼓動が聞こえるくらい静寂が漂っていた。

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 その時急に何かの気配を感じた聖奈子は足を止め、一番近くにあった教室に入って教壇の机の影に隠れた。廊下を複数の人が歩く音が聞こえ、やがて聖奈子が隠れている教室の出入口の前を通り過ぎていった。その姿はまさにネオ‐ブラックリリーの戦闘員。
「(やつらだ・・)」
 戦闘員が通り過ぎたのを見計らい、聖奈子は教室から廊下に出た。が、廊下には戦闘員を従えたスズムシ魔人が立っていた。
「待っていたぞ小娘。生きていたとは運のいいやつだ」
「ネオ‐ブラックリリー! 残念だったわね。あたしだけじゃなくて、みんな無事よ」
「ふん! 爆破作戦は失敗したか・・ でもそんな事はもうどうでも良い。お前が来ていることは既に分かっていたのだ」
 聖奈子は反射的に身構え、変身する態勢をとった
「リリリリリーッ!」
「エンジェル・・ う・・」
 スズムシ魔人が怪音波を発し、聖奈子は体制を崩してその場に蹲った。
「ウワアァーッ! 頭が・・ 頭が割れそう」
「どうだ。俺様の殺人音波の威力は」
 スズムシ魔人はさらに音波の威力を上げてきた。
「うわ・・ ああ・・ アアァーッ!!」
 聖奈子は両手で頭を押さえながら苦しんだあげく、その場に倒れて気絶した。
「連れて行け! スカーレットエンジェルのガキと一緒に始末してやる」
「イィーッ!」
 戦闘員たちは聖奈子を抱え上げると、校舎の外へ連れ出し、サッカーゴールに縛り付けられている佐緒里の前に突き付けた。
「み、聖奈子さん・・」
「どうだスカーレットエンジェルのガキめ。こいつもお前と一緒に嬲り殺しにしてやる。二人揃って仲良く地獄へ落ちてゆけ」
 戦闘員たちは気絶したままの聖奈子の手足を縛り、佐緒里の前に転がした。その様子を校舎の陰から祥子が見ていた。
「聖奈子まで捕まっている・・ このままでは娘たちがやられる・・ 助けなければ」
 祥子は周りを見回した。すると校舎の壁の傍に数本の鉄パイプが置かれているのが見えた。祥子はその中の一本を拾うと、怪人たちに近付く機会を窺った。

      *      *      *      *

 絵里香と美由紀は息を切らしながら学校の近くまで来た。しかし周囲は塀で囲まれているため、中の様子を伺うことが出来ない。
「美由紀、変身して校内に入るわよ」
「分かった」
 絵里香と美由紀は変身すると、ジャンプして塀を越えて校内に入った。そこは体育館の横で、その場所で素振りの練習をしていた剣道部員達と鉢合わせした。剣道部員達は絵理香と美由紀を見ると、竹刀を振り回して絵理香と美由紀に向かってきた。
「小手―ッ!」
「面―ンッ!」
「胴―ッ!」
「キャッ!!」
「みんなやめてぇ! キャーッ!」
 絵理香と美由紀はいきなり襲ってきた剣道部員達の竹刀をかわしながら、その場から逃げようとしたが、既に周りを囲まれてしまっていた。さらに騒ぎに気付いた運動部の生徒達が体育館の中から出てきた。
「こいつらは我々の敵だ。片付けろ!」
「殺せ!!」
「やっつけろ」
 そんな怒号が飛び交い、生徒たちが襲いかかってきた。バレーボールやバスケットボールが絵里香と美由紀めがけて飛んできて、柔道部員が組み付いてきた。
「キャーッ!」
 美由紀が柔道部員に組み付かれ、一本背負いで投げられて地面に叩きつけられた。絵里香は組み付いてきた柔道部員を、合気道の技でかわし、美由紀の元に駆け寄った。
「このままじゃキリが無いわ。ここから逃げなきゃ。人間相手には戦えないよ」
「でも周りを囲まれちゃってるよ」
 周りを囲んでいた運動部員たちがその輪を縮めてきた。その時光のシャワーが降り注いで、周りにいた運動部員たちが、力が抜けたようにその場にバタバタと倒れて気絶した。絵里香と美由紀は光が降ってきた方を見た。すると塀の上に美紀子が立っていた。
「美紀子さん」
 美紀子はジャンプして塀から飛び降りると、絵里香と美由紀の傍に着地した。
「危ないところだったわね。聖奈子は?」
「まだ分からないわ。それに聖奈子と佳奈子のお母さんも何処にいるのか・・」

 一方、サッカーゴールの前では、相変わらずスズムシ魔人と戦闘員たちが屯していた。
「そろそろガキと小娘を始末してやる。処刑用のボールを用意しろ」
「イィーっ」
 スズムシ魔人の命令で、戦闘員の一人がボールを持ってきた。そのボールはサッカーボールより一回り大きく、ボールの周りにイボイボがついていた。それはボール型の爆弾で、蹴ることによって起爆装置が働き、目標に命中して爆発するという代物だった。
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「よーし! ガキと小娘を爆弾で吹っ飛ばしてやる」
 スズムシ魔人はボール爆弾を地面に置くと、少し下がって蹴る態勢に入った。聖奈子は気絶したままで、佐緒里は縛られている体を必死に振ってもがいた。
「馬鹿め。逃げられるものかぁ。今更ジタバタしても無駄だ。念仏でも唱えろ」
「うるさい化け物。死んだら化けて出てやる」
「何とでも言いやがれ。行くぞ! 必殺シュートだ!」
 スズムシ魔人は助走をつけると、ボールを思いっきり蹴った。ボールは勢いをつけて佐緒里に向かっていったが、佐緒里の手前で急にコースを変え、スズムシ魔人の方に戻ってきた。
「ワワッ! 戻ってきた。リリリーッ」
 スズムシ魔人は慌ててボールを避けた。外れたボールは後ろにいた戦闘員の一人に命中して爆発し、周りにいた戦闘員が巻き添えで吹っ飛ばされた。
「ボールが戻ってくるとは、どうしたことなのだ」
「こういうことよ。化け物、お前の作戦もこれで終わりよ」
 スズムシ魔人が声のした方を向くと、スティックを持った美紀子、絵里香と美由紀が立っていた。
「おのれ小娘ども・・ スカーレットエンジェルも一緒か」
 美紀子は縛られた佐緒里の前に立ちながらスティックをスズムシ魔人に向けて威嚇し、絵里香は聖奈子の傍に行き、美由紀は佐緒里を縛っている縄を切った。
「ここに集まったとは好都合だ。皆殺しにしてやる。リリリリリーッ」
 スズムシ魔人が殺人音波を発し、美紀子と絵里香たちは両手で頭を抑えて蹲った。
「ウワァーッ。あ・・ 頭が割れそう・・」
「あ、あの超音波を何とかしなければ・・ みんなが危ない」
「リリリリリーッ。出力を最大にして、狂い死にさせてやる」

 ガァーン!! ガァーン!! 
 金属同士がぶつかるような音が響いたかと思ったら、突然スズムシ魔人の殺人音波が止まった。絵里香がスズムシ魔人の方を見ると、スズムシ魔人が両手で頭を押さえて苦しんでいて、その後ろには鉄パイプを持って身構えた祥子が立っていた。

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 祥子は魔人や戦闘員に気付かれないように後ろから近付き、持っていた鉄パイプでスズムシ魔人を殴ったのだった。スズムシ魔人は頭部を殴られ、その衝撃でコントロール装置が故障して、これまでに洗脳した学校の生徒や教師たちが全て正気に戻ってしまった。スズムシ魔人を殴った祥子は、美紀子たちがいるサッカーゴールの方へ向かって走り、気絶している聖奈子のそばへ行った。
「聖奈子、聖奈子しっかりして。起きなさい」
 祥子は聖奈子を呼びながら体を揺すり、聖奈子は目を覚ました。
「ま・・ ママ、どうしてここに・・」
「紅林さんからあんたがここに来るって聞いたのよ。早くエンジェルブルーに変身してあの化け物を倒しなさい」
「わ・・ 分かった。エンジェルチャージ!」
 聖奈子は祥子に急かされるように変身し、エンジェルブルーになって、スズムシ魔人と戦闘員に向かって身構えた。やや遅れて絵里香と美由紀も聖奈子の横に立った。その間に美紀子は祥子と佐緒里を連れて、安全な場所へ避難した。スズムシ魔人は祥子に殴られた頭部から煙を吹き出しながらヨタヨタしている。
「やつはもう戦闘力を失っているわ。チャンスよ!」
 そう言いながら聖奈子はダッシュして、スズムシ魔人めがけて突進していった。
「おのれぇ… よくも俺様のコントロール装置をダメにしたな。殺してやる」
 スズムシ魔人は向かってくる聖奈子を見ると、体制を立て直して聖奈子に向かっていった。
「佳奈子のカタキ、覚悟! アクアスマッシュ!」
 聖奈子はエネルギー波を放ったが、スズムシ魔人はジャンプしてスマッシュを避け、空中で一回転して聖奈子に抱きつくように体当たりし、蹴りを入れた。
「キャーッ!」
 聖奈子は衝撃で後ろに飛ばされかけたが、後ろから追いかけて来た絵里香と美由紀に支えられた。
「聖奈子、無茶しないで」
「ダメだよ、一人で先走っちゃ! 相変わらず直情的で無茶苦茶なんだから」
「絵里香、美由紀、ごめん」
 絵里香たちは決めポーズをとり、スズムシ魔人に向かって身構えた。
「さあこい化け物! 私達エンジェルスが相手よ!」
「小癪な小娘どもめ。かかれぇ!」
 スズムシ魔人のかけ声とともに戦闘員が現れ、一斉に襲いかかってきた。絵里香たちは襲ってくる戦闘員と格闘し、倒していった。
「聖奈子、美由紀、学校の中じゃまずいわ。裏の土手に誘い出すのよ」
「分かった」
 絵里香たちは一斉に走り出して学校から出ると、新間川の土手に上がった。その後ろからスズムシ魔人と戦闘員が追いかけてきた。
「ええいどけどけ!」
 スズムシ魔人は戦闘員を押しのけて前に出てくると、レーザー光線を続けざまに放ち、聖奈子が前に出てきて楯をかざして、光線を跳ね返した。その後から絵理香が身構えた。
「ファイヤースマッシュ!」
 絵里香のエネルギー波がスズムシ魔人めがけて放たれたが、スズムシ魔人はレーザーを発射して、エネルギー波とレーザーがぶつかって爆発した。スズムシ魔人はジャンプして絵理香の前に着地し、絵理香に蹴りを入れてきた。
「あぐ… 」
 絵里香は蹴りをまともに食らって、その場に蹲った。強化コスチュームのおかげで、ある程度は攻撃を吸収できたが、それでも衝撃がきつかった。
「す、すごいキック力だわ」
「とどめだ。死ね」
 スズムシ魔人は再びジャンプして、絵理香に飛び蹴りをしてきた。戦闘員と戦っていた聖奈子が、戦闘員を押しのけて駆け寄ると、楯をかざしてスズムシ魔人の飛び蹴りを受け止めた。スズムシ魔人は反動で再び空中へ飛び、バック転で地上に着地した。その間に美由紀が絵里香を抱き起こして支えた。
「絵里香、しっかりして」
「美由紀サンキュー」
 絵里香はさらに聖奈子に向かって叫んだ。
「聖奈子! 魔人から離れて! やつとの接近戦はこっちが不利よ」
 絵里香の声が聞こえて、聖奈子はスズムシ魔人から離れるようにジャンプし、絵理香と美由紀の傍に着地した。
「みんな、一緒に攻撃するよ」
「オッケー!」
「分かった」
 絵理香たちはポーズをとり、攻撃態勢に入った。
「トリプルエンジェルスマッシュ!」

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 三人分のエネルギー波がスズムシ魔人めがけて放たれた。エネルギー波はスズムシ魔人に命中し、衝撃でそのまま後ろにひっくり返った。
「それっ! もう一発!」
「グアァーッ!」
 二発目のスマッシュは無防備状態のスズムシ魔人を直撃し、スズムシ魔人は絶叫と共に体から白煙を吹き上げた。
「今だ!」
 聖奈子はジャンプしてスズムシ魔人を飛び越え、スズムシ魔人の後ろに着地すると、ソードと楯を出して身構えた。
「覚悟しろ。ネオ‐ブラックリリーの化け物!」
 聖奈子はソードに目一杯エネルギーを溜めると、白煙を吹き上げてヨロヨロしているスズムシ魔人に向かって突進した。
「アクアストーム!」
 聖奈子のソードがスズムシ魔人の身体を貫き、その傷口からバチバチと火花が出た。魔人はうめき声を上げながら悶絶し、やがて身体全体から火花と白煙を噴出した。聖奈子はソードを抜いて一定の距離まで走ると、ソードを高々と上げてポーズをとった。
「グァーーーッ!」
 スズムシ魔人は絶叫と共に体全体から強い光を発すると、氷の塊になって轟音と共に大爆発し、木っ端微塵に吹っ飛んだ。
「やったぁ聖奈子!」
 美由紀の声に、聖奈子はガッツポーズをとって絵里香と美由紀の方へと駆け寄っていった。美紀子も祥子と佳奈子、佐緒里を連れて絵里香たちのところへ駆け寄ってきた。
「3人ともご苦労様。学校にいた先生たちと生徒たちはみんな無事よ。しかし、学校を狙って生徒達を予備軍にしようとするなんて、やつらも恐ろしいことを考えるのね。」
「ネオ‐ブラックリリーがいる限り、また罪もない人達が犠牲になってしまう。一日でも早くやつらを滅ぼさなくちゃ」

      *      *      *      *

 学校占領作戦は、エンジェルスによって阻止され、街には再び平和が訪れた。だが、それは一時的なものなのであり、ネオ-ブラックリリーは新たな作戦を練って、再びエンジェルスの前に立ちはだかるのである。負けるなエンジェルス!

(つづく)



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 次回予告
 ◎第26話『あ!! みんな溶ける・・ 』
 ネオ-ブラックリリーは強力な糜爛性を備えたバイオカビを作り出し、カビ魔人を使ってガスタンクや石油コンビナートの破壊を画策。その前哨戦と陽動作戦として、カビを使って一つの街を壊滅させる。事件を知って駆けつけた美紀子と絵里香たちは、壊滅した街の様子を見て愕然とし、怒りを顕にするが、カビ魔人の攻撃で絵里香と聖奈子が負傷してしまう。バイオカビに対抗する手段は無いのか・・ 

 次回 美少女戦隊『エンジェルス』第26話『あ!! みんな溶ける・・ 』にご期待下さい。



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テーマ : ライトノベル
ジャンル : 小説・文学