鷲尾飛鳥

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第27話『凶悪軍隊蟻 迫る黒い絨毯』

2012年 12月04日 18:22 (火)


※ 今回の表紙は、現在考案中のオリジナルプリキュア『ウエスタンプリキュア』のコスプレスタイルです。小説化する予定ですが、まだ正式なキャラクター・世界観・敵の組織等は何も決まっていなくて、今回はエンジェルスのマイキャラの3人と、同じくマイキャラの中学生の3人に衣装を着てもらいました。

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 絵里香たちが通う明峰学園高校は、S県鷲尾平市にある私立の女子高で、東京にある城北大学の付属系列校であり、城北大学への推薦制度がある。校則はさほど厳しいわけではなく、生徒の自主性を重んじている。創立当時は紺のセーラー服だったが、平成の時代に入って一時期だけ私服になり、絵里香たちが入学する3年前から現在の制服になった。学力程度は中の上。生徒数は全学年で600人。創立60周年を迎える来年度から、男女共学化が決定している。

 10月某日の金曜日の放課後・・ 
 今日も部活の生徒達の声がグラウンドや体育館から聞こえてくる。絵里香たちバトン部は学園祭での公開演技と、体育祭でのパレードに向けて練習に余念が無かった。バトン部は、今日は体育館での練習だった。

「ハイ今日はこれまで。整理運動が終わったらみんな後片付けを始めるわよ」
 キャプテンの孝子の声とともに、部員達は整理運動を始め、終わると同時に後片付けをするためにてきぱきと動き始めた。そして一通りの片づけが終わって、部員達は再び整列した。
「それじゃ今日は終わり。明日と明後日は休みにします。みんなご苦労様」
「ありがとうございました」
 部員達の元気な声が響き、挨拶が終わると部員達は更衣室へ向かった。絵里香たちは一年生部員が着替えている間、更衣室の隅で会話していた。
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「絵里香、美由紀。明日の土曜日空いてる?」
「何? 聖奈子」
「明日と明後日、佳奈子の中学校の文化祭なのよ。コスプレショーやるから観に来てくれってせがまれてるんだけど、どうもあたしは気が進まないんだよね・・ だから・・」
 絵里香も美由紀も聖奈子が何を言いたいのか即座に分かったので、簡単に返事をした。
「いいわよ。私付き合うわ」
「私も。ウエスタンプリキュアのコスプレなんて、素敵じゃない。佳奈子ちゃんたちがどんな着こなしをしているのか見てみたいわ。篤志も連れて行くから」
「ありがとう。助かるわ」
 そんなこんなで話し込んでいる間に一年生達の着替えが終わり、一年生達は挨拶しながら更衣室から出て行ったので、絵里香たちも会話をやめて着替え始めた。そこへ孝子がユニホーム姿のまま入ってきた。
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「城野、学園祭の事で打合わせがしたいから、着替えたらちょっと来てくれる?」
「何処へ? 孝子はまだ着替えないの?」
「私は制服教室にあるのよ。それから・・ 行く場所は生徒会室」
「分かった」
 美由紀は着替えを終えると、更衣室を出ながら絵里香と聖奈子に言った。
「それじゃ私、打合わせに行くから、待ってなくてもいいよ」
「分かった。それじゃ明日よろしくね」
 美由紀は右手を軽く上げると、更衣室を出て行った。絵里香と聖奈子も着替えを終えていた。
「それじゃ私たちも帰ろうか」
「うん」
 絵里香と聖奈子が校舎を出て、校門まで来たとき、後から美由紀と孝子が走って追いかけてきて、絵里香と聖奈子に追いついた。
「ずいぶん早かったね。打ち合わせ終わったの?」
「うん。プリント渡されただけだったから。月曜日に部員達全員に説明するわ」
 絵里香たちは駅の前まで来ると、それぞれ帰宅するため別れた。
「それじゃ」
 孝子は駅へ向かって歩いていき、絵里香たちはその姿を見届けながら、道路向かいのANGELへ行くため、道路を横断した。

「へえー・・ 佳奈子ちゃんたち文化祭でプリキュアのコスプレやるのか。それもウエスタンプリキュアとはね・・」
 カウンターでは孝一が感心したような顔で絵里香たちの会話に混ざっていた。
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「黒川君知ってるの?」
「勿論。あれって何だかプリキュアのようで、そう見えないってところが、そそるんだよな。今迄のシリーズと比べてもスタイルが地味だし・・ 西部劇がモチーフっていうのも珍しいよね。それに敵キャラも西部劇に関係しているっていうのがツボだな」
 絵里香は孝一の話があまりにも詳しいので、さりげなく聞いてみた。
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「ねえ・・ もしかして孝一君も見てるの?」
「ああ・・ 見てるよ」
 聖奈子が呆れたような顔でため息をつき、美由紀は仲間が増えたと思って目を輝かせた。
「そのアニメ、私も毎週見ているわよ」
 そう言いながら美紀子がカウンターに入ってきた。
「えーっ。美紀子さんも?」
 突拍子もない美紀子の言い分に、絵里香たちはお互いの顔を見合った。
「明日は無理だけど、明後日の日曜は私も行くから。それで黒川君は行かないの?」
 孝一は一瞬迷った。明日はANGELでバイトがある。
「バイト休んで行ってきてもいいわよ。明日なら私がここにいるし、理奈ちゃんも来るから」
「分かりました。ありがとうございます。それじゃ明日行ってきます」

 一時間ほど経って、絵里香たちはANGELを出た。孝一はまだバイト中なので、出て行く絵里香たちを見送った。
「それじゃ明日」
 そう言って美由紀は駅の方へ小走りにかけていき、絵里香は駅の地下通路の方へ向かっていった。聖奈子は二人に向かって手を振ってから、自分の家の方角に向かって歩いて行った。聖奈子が家に着いて扉を開けると、コスプレ姿の佳奈子が玄関先に立っていて、聖奈子は呆気にとられた。
「お姉ちゃんおかえり」
「た・・ ただいま」
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「どう? ウエスタンプリキュアのコス。似合う?」
「う・・うん。似合うよ。可愛いよ」
「ありがとう」
 聖奈子は口ではそう言ったが、心の中では半分呆れていた。わざわざ家の中でまでコスプレすることないだろうと、本当はそう言いたかったのだ。聖奈子は自分の部屋に入ってドアを閉めると、そのままベッドに横になり、天井を見上げながらため息をついた。

      *     *     *     *

 ここで時系列は少々遡る。
「作戦の段取りはどうだ?」
「イーッ。現在捕獲してきたアリをバイオ装置にて次々と改造中です」
「急げよ。もうすぐ魔人の改造も終わるぞ」
「イーッ。かしこまりました。ゼネラルダイア様」
 ネオ‐ブラックリリーのアジトでは、新たな作戦のため、アリを手当たり次第に捕獲して、バイオ変換装置で改造していた。その殆どは凶暴なアルゼンチンアリやサムライアリだった。ネオ‐ブラックリリーは改造したアリを使って、軍隊アリとして作戦に使うつもりだったのだ。その目的は人間を襲うことは勿論、農業生産によって賄われる食料や、食物の食材を食い尽くさせるという恐ろしい企みがあった。田や畑の作物や食料の原料を食い尽くして全滅させれば、必然的に食糧不足が起こり、最後には人々が餓死するという、かなり先を見据えた大がかりな作戦だった。
「ゼネラルダイア様。軍隊アリ魔人の改造手術が終了しました」
「よし。司令室に出頭させろ」
「イーッ」
 戦闘員が司令室を出て行き、数分後に軍隊アリ魔人が司令室に入ってきた。
「ギギギギーッ。軍隊アリ魔人でございます」
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「早速お前を食料全滅作戦の責任者に任命する」
「ギギギーッ。光栄です。ゼネラルダイア様」
 そこで大首領の声が響いた。
「人間どもが最も必要としているものは食料だ。その食料を、軍隊アリを使って食い尽くさせるのだ。そうすれば愚かな人間どもは食べる物が無くなり、餓死してしまう。そうすればこの世界は確実に我がネオ‐ブラックリリーのものとなるのだ」
「その通りでございます。大首領様」
 大首領との会話が終わり、ゼネラルダイアは軍隊アリ魔人の方に向き直った。
「軍隊アリ魔人。お前が操るべき軍隊アリは、現在科学班によって続々と改造中だ。お前はその軍隊アリを使って、人間どもを襲わせ、食料を奪い尽くさせて、愚かな人間どもを餓死させるのだ」
「かしこまりました。ゼネラルダイア様。必ず成功させてご覧に入れましょう」
「まず現在改造済みの軍隊アリを使い、効果を実験せよ。場所と方法は任せる。ただし、この地域では絶対にやってはならん。いいか?」
 ゼネラルダイアは軍隊アリ魔人に地図を見せて、ある場所を指差した。その場所とは、言うまでもなく、絵里香たちが住む鷲尾平市であった。

 同じ日の夜、鷲尾平市の北部にある、新間町の某農村の一角・・・
村外れでは怪しい人影が動き回っていた。軍隊アリ魔人と戦闘員だった。
「この村で実験だ。準備しろ」
「イーッ」
 戦闘員たちがてきぱきと動き回り、乗り付けてきたトラックから次々と木箱をおろして、その場に並べた。
「この村にある田畑の作物を残らず食い尽くさせ、村人を全て食い殺させるのだ。箱を開けて軍隊アリを放せ」
「かしこまりました。イーッ」
 軍隊アリ魔人の命令で、戦闘員たちは並べてあった木箱を次々と開けた。中から無数のアリが出てきて、ザザザザという不気味な音と共に蠢き、近くにある畑に向かっていった。畑に入ったアリは次々と作物を食い尽くし、数分後には畑で栽培していた作物が姿を消してしまった。さらに近くにあった栗の木に登ったアリは栗の葉から実まで全てを食い尽くして、栗の木を丸坊主にした。そして周りにある田畑を次々と荒らして略奪しながら、人家の方へと近付いていった。
 ザザザザ・・  ザザザザ・・ 
 アリが蠢く不気味な音があたり一面に響き渡り、その音は家の中まで聞こえてきて、ちょうど夕食の時間帯だった村中では大騒ぎになった。
「おい・・ 何だあの音は」
「潮がひいていくような音よ」
 ザザザザ・・  ザザザザ・・ 
 一軒の家からその家の家主が懐中電灯を持って出てきた。
「一体何だこの音は」
 そう言いながら懐中電灯を照らした家主は、目の前の光景を見てビックリ仰天した。
「な・ な・ 何だ・・ 畑が荒らされている。一体誰の仕業だ」
「あなた・・ 一体どうしたの?」
 騒ぎを聞いて家主の奥さんも出てきた。
「どうしたもこうしたもあるか! 見ろ」
 奥さんも畑の様子を見てまたまたビックリ。
「何よこれ・・」
「畑のものがみんな無くなってるぞ」
 その時アリがやってきて家主に噛み付いた。
「イテテテ! 何だ一体」
「あなた! アリよ。こんなに沢山」
「何だって!? ウワッ! じょ、冗談じゃねえや」
 アリは次々と二人の体に這い上がり、次々と噛み付いてきた。
「イテテテ! に、逃げろ」
 だがもう遅かった。何万何千というアリの大群が二人に襲い掛かって噛み付き、二人はその場に倒れた。全長が1センチを超える大きなアリが大群となって襲ってきたのだから、人間などひとたまりもないのだ。
「た、助けてくれーッ!!」
「ギャアァーッ」
 アリの大群が二人に覆いかぶさるような恰好になり、黒い塊になった。アリの大群がその場を離れたときには、二つの白骨死体だけがそこに残された。そしてアリの大群は村の他の住居にも襲いかかって家の中に次々と侵入し、中の住人を襲って食い尽くして、アリの大群が村を去ったあとには、村人の白骨死体と、食い荒らされて丸坊主になった田畑だけが残った。
「実験は成功だ。アリを回収しろ」
「イーッ」
 戦闘員たちは特殊な装置(アリを集めるために作った、特殊な周波数の電波を出す機械)のスイッチを入れ、村中に散らばったアリを次々と木箱の中に回収した。ザザザザという不気味な音と共に、アリが次々と木箱の中に戻ってくる。戦闘員たちは回収を終えると、乗り付けていたトラックに積み込んだ。
「次の場所へ向かう。全員引き揚げだ」
 軍隊アリ魔人と戦闘員たちは、それぞれトラックや乗用車に乗り込み、発進した車両は夜の闇に消えた。

 そして約一時間後・・  今度は同じ新間町の別の場所でアリが放逐された。その場所には農協の穀物倉庫があり、コメの他、小麦粉やコーンの種子などが蓄えられていた。放逐された軍隊アリの集団は一斉に倉庫内に入り込み、蓄えられていた穀物に食いついた。
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 ザザザザ・・ ガリガリガリ・・
 奇妙な音を聞きつけた職員たちが、驚いて倉庫に入った。
「なんだこの音は・・ 」
 職員の一人が電気をつけて倉庫内を見回した。
「あわわわ・・  な・ なんだこれは」
 職員たちの目に映ったものは、穀物を食い荒らしているアリの大群だった。
「見たな! 愚かな人間ども」
 突然の声に職員たちが振り向くと、軍隊アリ魔人が立っていた。
「な、何者だ貴様は」
「俺様はネオ‐ブラックリリーの軍隊アリ魔人だ。秘密を知ったお前らには死んでもらう」
 軍隊アリ魔人は口から蟻酸を吐き出し、職員たちに次々と降りかかった。
「ギャアァーッ」
 蟻酸を浴びた職員たちは、たちまち身体が溶け出し、炎に包まれて焼け死んだ。が、生き残った一人が倉庫を飛び出した。
「た、た、助けてくれぇーっ!」
「馬鹿め。逃がすものか。それっ」
 逃げていった職員のあとを軍隊アリの一部が追い、たちまち追いついて、職員の身体中に這い上がった。職員は倉庫のすぐそばを流れている新間川に飛び込み、アリの大群もその後を追って川に入った。職員は川の中でもがきながら助けを求めたが、たちまち全身を噛み付かれて食い殺され、白骨死体になった。しかし、川に入った軍隊アリの一部は、そのまま川の流れとともに下流の方へ流されていった。
「し、しまった。アリが流される。大至急回収しろ」
「イーッ」
 戦闘員たちが慌てて回収したが、それでも一部のアリは川に流されていった。

「何だと!? アリを川に流しただと」
「申し訳ありません。ゼネラルダイア様」
「まあいいだろう。どうせ日本中の人間どもと食料を食い尽くさせるのが今回の作戦だ」
 その時大首領の声が響いた。
「馬鹿者! アリを見つけられて、スカーレットエンジェルやエンジェルの小娘どもに知られたらどうなると思っているのだ。軍隊アリの絶対数が揃うまでは、絶対に奴らに知られてはならん。直ちに捜索を開始し、流されたアリを回収するのだ」
「か・・ かしこまりました。大首領様」
 ゼネラルダイアは軍隊アリ魔人に向かって向き直った。
「聞いた通りだ。直ちに捜索開始。流されたアリを早急に回収するのだ」
「ギギギギーッ。かしこまりました」
 軍隊アリ魔人は戦闘員たちを引き連れ、アジトの司令室を出て行った。

      *     *     *     *

「結構賑やかだね」
「うん・・ それより佳奈子ちゃんたちは何処にいるのかな」
 絵里香たちは第一中学校の文化祭を見に来ていた。
「あ。あそこに案内図があるよ」
 そう言いながら美由紀が看板に向かって駆け出した。絵里香と聖奈子、そして美由紀に連れられてきた篤志もあとを追った。看板の前まで来た時、正面にあった特設のステージの上で、コスプレショーが行われているのが見えた。
「あそこだ。聖奈子、佳奈子ちゃんがステージの上にいるよ。佐緒里ちゃんも一緒だわ」
 絵里香たちはステージの方へ小走りに駆けていった。ちょうどこれからコスプレショーが始まるというところで、真っ先に佳奈子が佐緒里・裕香と一緒に、ウエスタンプリキュアのコスプレでステージに上がったところだった。
「佳奈子ちゃーん。佐緒里ちゃーん」
 美由紀が佳奈子たちに向かって手を振りながら大きな声で呼び、篤志が慌てて制した。
「姉貴、みっともないから大声出すなよ」
 横から誰かが独り言のように呟いた。
「ふーん・・ あれがウエスタンプリキュアのコスプレかぁ。なかなか良いんじゃない?」
 絵里香たちが声のした方を向くと、そこには孝一が立っていた。
「孝一・・ 来てたの?」
「やあ。みんなおはよう」
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 絵里香の横で聖奈子が冷やかすように絵里香に小声で言った。
「絵里香良かったじゃん。愛しの彼氏君とデートのチャンスだよ」
 絵里香は返事をしないで顔を少し赤くした。観衆から歓声が上がり、佳奈子たちがステージの上でポーズをとった。


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「荒野に降り注ぐ熱き太陽。キュアワイアット!」
「荒野を吹き抜ける一筋の風。キュアマスターソン!」
「荒野に佇む希望のオアシス。キュアホリディ!」
「私たちは荒野に輝く伝説の戦士。ウエスタンプリキュア!」

 観衆から再び拍手と歓声が上がった。聖奈子は一つため息をついた。
「(あーあ・・ あんなにうかれて)」
 聖奈子の様子を察した絵里香が、然りげ無く聖奈子に聞いた。
「どうしたの聖奈子。楽しくないの?」
「え? そ、そんな事無いよ」
 傍らでは美由紀が佳奈子たちに向かって大きなジェスチャーを繰り返し、弟の篤志も一緒になって歓声を上げていた。
 その後絵里香たちは校内の展示を見て回り、やがて公開時間が終わった。

「今日はみんな来てくれてありがとう」
 佳奈子がみんなを代表して絵里香たちに挨拶してから、聖奈子のそばに来た。
「お姉ちゃん、私たち明日の準備があるから」
「分かった」
 学校を出て、絵梨香が聖奈子と美由紀に話しかけた。
「あの・・ 私・・ 」
「何、絵里香」
 美由紀は絵里香の後ろを歩いている孝一に目がいった。
「そっか・・ 分かった。それじゃまた明日ね。篤志行こう」
「何よ美由紀」
 そう言いながら聖奈子の目にも孝一が映った。
「(なるほどね) じゃあ絵里香。あたしたちはこれで」
 聖奈子と美由紀は絵里香に向かって右手を少し上げると、篤志を連れて小走りに駆け出して去っていき、そこには絵里香と孝一だけが残った。絵里香はその後ろ姿を見届けてから、孝一の顔を見た。孝一も絵里香と視線が会い、お互いに吹き出した。
「俺たちに気を使ってくれたのか・・ 絵里香、どうする? どこへ行こうか」
 絵里香は携帯を開いて時間を見た。
「そんなに時間ないから・・ すぐそこの河川公園に行こうか」
「そうだな・・」
 そう言いながら絵里香は孝一とふたりで歩き始めた。

      *     *     *     *

 その頃、美紀子はANGELで新聞を読んでいて、ニュースの一つに釘付けになっていた。
「村の田畑の作物が根こそぎ無くなり、村人たちが全員失踪・・ 農協の倉庫にあった穀物が全て消滅・・ どういう事かしら。まさか奴らがまた何か・・」
 しかし新聞には村人については『失踪』とだけ書かれていて、軍隊アリに食われて死んだ事については書かれていなかった。それもそのはず。食い殺された村人たちの死体は、作戦の秘匿のために全て片付けられていたからだ。それでもネオ‐ブラックリリーのとった行動の結果は、事件として扱われてしまったため、美紀子の知るところとなってしまっていた。
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「美紀子さん、どうかしたんですか? 何だか顔が怖いです」
 傍らにいたバイトの理奈が訪ねた。
「あ・・ 何でもないわ。それより理奈ちゃん、そろそろ時間よ」
「そうだった。それじゃお先します」
「ご苦労さま」
 理奈が帰ってから数分後に美紀子は店を閉め、自分の部屋へ行って着替えると、車庫へ行って車を出し、慌ただしく車を発進させた。新聞のニュースの事が気になって胸騒ぎがしたのだ。美紀子の車が事件のあった場所に到着したときには、既に日が落ちていて暗くなっていた。

「結構下流の方まで流されていたものだな」
 そう言いながら軍隊アリ魔人は、戦闘員がアリを回収しているのを見ていた。軍隊アリ魔人は流されたアリの捜索を続けていて、鷲尾平市南部の新間川に沿った河川公園まで来ていた。
「軍隊アリ魔人様。ゼネラルダイア様の指令で、この界隈では作戦行動をしてはならぬ事になっています」
「そんな事は分かっている。だが、アリを回収する以上、どうしようも無いだろう。とにかく早々に回収し、ここから引き揚げるのだ。回収を急げ!」
「イーッ!」
 回収作業が続けられ、終わった時には日没が近かった。
「引き揚げるぞ」
「イーッ!」
 軍隊アリ魔人が戦闘員たちを伴って引き揚げようとした時、公園内から話し声が聞こえてきた。
「軍隊アリ魔人様。誰かいます」
 戦闘員が探りに行くと、公園内で佳奈子と佐緒里と佑香が雑談していた。佳奈子たち3人は明日の公開に備えて今日の片付けを終え、学校を出てから近くにある河川公園に来ていたのだった。しかも3人の服装は制服ではなく、余韻を楽しんでかプリキュアの衣装のままだった。
「何だあのガキどもは」
「エンジェルの小娘どもとは違うようだが・・」
 そこへ軍隊アリ魔人がやってきた。
「ちょうどいい。あのガキどもを捕まえて人質にするのだ」
「イーッ!」
 戦闘員たちが一斉に佳奈子たちの方へと向かっていき、一度回収したアリが再び放逐された。雑談していた佳奈子たちは、突然現れた怪人と戦闘員にビックリした。
「ば・・ 化け物。ネオ‐ブラックリリー」
「ガキども。お前らを人質と実験材料として連れて行く」
 佐緒里は反射的に佳奈子と佑香を庇うように、二人の前に出た。

 ちょうどその頃、同じ公園内で佳奈子たちと少し離れた場所のベンチに、絵里香と孝一が座っていた。空はもう暗くなっていて、防犯灯の照明が二人を照らしていた。
「あ~あ・・ もう暗くなっちゃった」
「秋の日の釣瓶落としとはよく言ったものだな」
 そう言いながら二人は同時にお互いの顔を見合った。暫しの沈黙・・・

 絵里香は頷くと静かに目を瞑った。孝一の顔が絵里香の顔に近づく・・
「(そこだ。早くキスしろ。孝一君、行け行けっ)」
「(あー・・ もう・・ 焦れったいなぁ)」
 二人が座っているベンチの向かいにある植え込みの影から囁き声がする。絵里香と別れた聖奈子と美由紀が、密かに二人のあとをついていき、隠れて様子を見ていたのだ。
 孝一の唇が絵里香の唇に触れる直前・・
 ガサガサッ!! ザザザザッ
 突然の音に絵里香と孝一は我に返った。そして・・
「ウワッ! イテテテッ」
 孝一が急に飛び上がるようにベンチから立ち上がった。
「孝一君どうしたの?」
「何かが足に食いついてきた・・ クソッ」
 孝一は手でズボンの上から自分の足を叩いて、自分に取り付いている何かを払い落とした。
「痛い!」
 次いで絵里香も何かに足を噛まれ、孝一と同じように手で払い落とした。
「絵里香、こっちだ」
 孝一は絵里香の手をつかむと、防犯灯の下へ向かって走った。
「何・・ 今の」
「絵里香! 見ろ」
 孝一が指差したのは、さっきまで自分達が座っていたベンチの前だった。そこには無数の真っ黒い小さな物体が蠢いている。その中の数匹が絵里香と孝一の傍にもいた。
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「蟻だわ」
「おいおい、ずいぶんでかいやつだぜ。それもこんなに沢山・・」
「人を襲ってくるなんて、まるで軍隊アリだわ」
 軍隊アリ魔人の放逐したアリが、人間の匂いを嗅いでやってきたのだった。そして突然奇声と共に数人の戦闘員が姿を現した。
「イーッ」
「イーッ!」
「ね、ネオ-ブラックリリー」
「我々の秘密を見たな! 秘密を知った者はその場で消す」
 そう言いながら軍隊アリ魔人が出てきた。さらに追い回されていた佳奈子たちも走ってきた。
「助けて。助けて」
 佳奈子たちは絵里香と孝一を見つけると、駆け寄ってきて二人の後ろに隠れた。
「佳奈子ちゃんたちじゃないの。どうしたのよ、そんな格好で」
「プリキュアの衣装が気に入ったから、このまま学校から出てきて公園で休んでいたら、奴らが出てきたの」
「かかれ! そいつらを消せ」
 戦闘員が奇声を上げながら襲いかかってきた。
「孝一君。みんなを連れて逃げて」
 絵里香は孝一や佳奈子たちを庇うような体勢で戦闘員の方に向き直った。戦闘員が絵里香に組み付いてきて、絵里香は戦闘員と格闘になった。孝一は逃げろといわれたものの、自分の傍に落ちていた棒切れを見つけると、絵里香に組み付いている戦闘員の頭を後ろから殴った。
「イィーッ・・」
 殴られた戦闘員は頭を抱えながらその場に倒れた。
「絵里香、俺も加勢するぞ!」
 孝一は棒切れを手に絵里香と背中合わせになって構えた。
「ダメよ孝一。早く逃げて」
「馬鹿! お前を置いて逃げれるかよ」
「バカってことないでしょ。佳奈子ちゃんたちもいるのよ」
 戦闘員は新手のものも現れ、みんなは既に周りを取り囲まれていた。
「お前ら何をしている。早くそいつらを消すんだ」
 囲みの外から軍隊アリ魔人が戦闘員達を煽り立てた。その後から・・
「ダブルエンジェルキック!!」
 聖奈子と美由紀が飛び蹴りをお見舞いし、軍隊アリ魔人はその反動で前のめりになって、自分の前にいた戦闘員達に体当たりする恰好で地面に転げた。
「クソッ! 何者だ」
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「水の戦士エンジェルブルー!」
「光の戦士エンジェルイエロー!」
「出たなエンジェルの小娘ども」
「私たちがいる限り、お前達に勝手な真似はさせない」
「何を小癪な! 早く奴らを消せ」
 聖奈子と美由紀は囲んでいた戦闘員の一部と格闘して倒し、囲みを破って駆け寄ってくると、聖奈子が佐緒里に向かって言った。
「佐緒里ちゃん、佳奈子と佑香ちゃんを連れて早く逃げて」
 佐緒里は無言で頷くと、佳奈子と佑香の手を引いて駆け出した。
「クソっ。逃がすな」
 戦闘員が佳奈子たちを追いかけようとしたが、聖奈子と美由紀がその行く手を遮るように戦闘員と格闘しながら、絵里香に向かって叫んだ。
「絵里香、孝一君を連れて早くここから離れて」
「逃がすものか。我々の秘密を知った者は皆殺しだ」
 軍隊アリ魔人は戦闘員に向かって合図をした。すると戦闘員達が一斉に離れて遠ざかった。
「やつらが離れた・・ どういうこと?」
 ザザザザ・・ ザザザザ・・
みんなの足元で不気味な音がした。下を見ると、無数のアリが蠢いていて、自分たちに向かってくる気配を示している。絵里香が叫んだ。
「みんな気をつけて! この蟻は人を襲ってくるわよ」
 軍隊アリ魔人の触角が点滅した。するとアリの大群が一斉に絵里香たちに向かってきた。
「エンジェルチャージ!」
 絵里香もエンジェルレッドに変身した。しかし迫ってくる無数の蟻に対しては為す術もなかった。
「小娘ども! 蟻に食われて死んでしまえ。ギギギギーッ」
「く・・・ 」
 アリの大群が一斉に襲ってきた。
「孝一。私につかまって」
 孝一は反射的に絵里香の腕をつかんだ。絵里香は孝一と一緒にジャンプし、聖奈子と美由紀もジャンプして、アリの大群から離れた場所に着地した。
「聖奈子、美由紀。孝一や佳奈子ちゃんたちが一緒だから、ここで戦うわけにはいかない。ひとまず逃げるわよ」
「分かった」
「ネオ‐ブラックリリーの化け物! 勝負はお預けよ」
 絵里香たちは一斉にその場から逃げ出し、入り口付近で隠れていた佳奈子たちを連れて公園から出ると、一目散にANGELに向かって駆けた。
「ええいくそっ」
 軍隊アリ魔人は地団駄踏んで悔しがったが、そこへゼネラルダイアが姿を現した。
「貴様何をしているのだ。鷲尾平では作戦行動をとるなと言ったはずだぞ。しかも我々の秘密を小娘どもに見られたな!」
「し、しかし」
「言い訳をするな。直ぐにこの場から引き揚げろ」
「ハハーッ」
 ゼネラルダイアはその場で姿を消し、軍隊アリ魔人と戦闘員も蟻を回収して素早く引き上げた。

      *     *     *     *

 絵里香たちがANGELに着いた時、ちょうど美紀子も事件があった場所から帰ってきたところだった。美紀子は絵里香たちの顔色を見ると、何も聞かずに絵里香に鍵を渡して、車を車庫に入れた。その間に絵里香は店の扉の鍵を開けて、みんなを中に入れた。
 しばらくして美紀子が入ってきた。
「みんな何があったの? そんな顔して。それに佳奈子ちゃんたちのその格好・・」
「私たち文化祭の片付けが終わってから、そのまま学校から出てきたんです。そして公園にいたら奴らが出てきて・・」
「奴らって、ネオ‐ブラックリリー?」
 佐緒里は黙って頷いた。佐緒里はともかく、佳奈子と佑香は怖くて体を震わせていた。続けて絵梨香が言った。
「ネオ‐ブラックリリーは、今度は大量のアリを使って何かをやろうとしているわ。それも軍隊蟻みたいに人を襲ってくるのよ」
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「そうか・・ それで新聞に載っていた事件の中身が分かった」
 美紀子はカウンターの上に置いてあった新聞をテーブルの上に置いた。絵里香たちは新聞に書かれていた記事を読んだ。
「美紀子さん、これって・・」
「村人たちが失踪したって書かれているけど、恐らくアリに食い殺されたって事だわ。それに田畑の作物が全て無くなったり、農協の倉庫にあった穀物が全て無くなっている。絵里香たちが見たアリの大群と間違いなく関係があるわね。恐らくアリに全部食われたってところね」
「ネオ‐ブラックリリーの奴等・・ 今度は一体何を・・」
「もしかして食べ物を狙っているんじゃないのか? 正確に言えば食料だよ。つまり大量のアリを操って、世界中の食料を食い尽くさせるとか・・ そんな事になったら、世界中が食糧不足に、いや、それ以上に深刻な事態になるぞ」
「孝一君の推理・・ 当たっているかもね。そうか! あいつら、食料を無くして人間が飢え死にするのを狙っているんだわ」
「冗談じゃないわ。そんな事・・」
「随分えげつない作戦を考えたものだわ・・ それにあんなに沢山のアリをばらまかれたら、為すすべがないわ」
 その時突然室内の明かりが点滅を始めた。
「何・・ 一体」
 ザザザザ・・
「何の音?」
「店の外からよ」
 佐緒里がドアの方へ駆けていき、窓のカーテンを開けて外を見た。すると・・
「叔母様! 外にアリの大群が」
「何ですって!?」
「畜生! ネオ-ブラックリリーのやつら・・ ここまでやってきたのか」
 外から軍隊アリ魔人の怒鳴り声が響いてきた。
「ギギギギーッ! お前達を皆殺しにしてやる」
 同時に締め切られている扉が抉じ開けられるように開かれ、数人の戦闘員が乗り込んできて、続けて軍隊アリ魔人も長槍片手に入り込んできた。
「イーッ!」
「イーッ!」
「ギギギギーッ。もはやこれまでだな。小娘ども、そしてスカーレットエンジェル。外には何万もの軍隊アリが控えているのだ。もう逃げられんぞ」
「く・・・ 」
「かかれ! 皆殺しだ」
「イーッ!」
 戦闘員が襲いかかってきて、絵里香たちや美紀子と格闘になった。絵里香は戦闘員と戦いながら孝一に向かって叫んだ。
「孝一、佳奈子ちゃんたちを奥の部屋へ連れて行って」
「よし。みんなこっちだ」
 孝一は佳奈子たちを奥の部屋へ連れて行った。絵里香たちは襲ってくる戦闘員と格闘していたが、店の中では狭くて思うように動けない。ネオ-ブラックリリーの側も同じ条件なのだが、店の外にはアリの大群が控えている。
「ええいこのままではキリが無い。外にいる軍隊アリどもを中に入れてやる」
 軍隊アリ魔人の触角が点滅した。
「まずい。アリの大群が入ってくるわ」
 美紀子は傍にあったテーブルの上に置いてある砂糖壺をつかむと、軍隊アリ魔人めがけて投げつけた。が、軍隊アリ魔人はそれを避け、後ろにいた戦闘員の頭に命中して砂糖壺が割れ、戦闘員に砂糖が降りかかった。
「イーッ!!」
 砂糖を被った戦闘員は突然悶絶しながら絶叫した。見ると軍隊アリの大群が戦闘員に次々と食い付いていて、近くにいた戦闘員にもアリが食い付いた。食い付かれた戦闘員はたまらず店の外に飛び出し、そのあとをアリの大群の一部が追いかけた。それを見た美紀子は何かが閃いた。
「もしかしたら・・・」
 美紀子はカウンターに入ると、棚の上においてあった蜂蜜の瓶をとり、絵里香たちに向かって大きな声で言った。
「みんな! テーブルの上にある砂糖壺をやつらに向けて投げつけて」
 戦闘員の様子は絵里香たちも見ていたので、絵里香たちは美紀子の声にすぐ反応し、自分たちの近くにあるテーブルの上にあった砂糖壺をとると、軍隊アリ魔人や戦闘員に向けて投げつけ、美紀子も蜂蜜の瓶を投げつけた。
蜂蜜や砂糖が次々と魔人や戦闘員にかかり、それをめがけて軍隊アリの大群が襲い掛かった。
「うわっちちち・・ クソーッ! 覚えていろ」
 軍隊アリ魔人は自分に食い付いてくるアリの大群を払いのけながら、店の外へ飛び出してそのまま煙を吐いて消えた。戦闘員達も次々と飛び出してその場で消え、あれだけたくさんいたアリの大群も消えた。その様子を眺めながら、美紀子は店の外を一通り見回してから扉を閉めた。
「危機一髪だったわね」
 絵里香たちは店内での格闘線で、散乱した店内のテーブルや椅子を一通り元に戻し、佳奈子たちも孝一と一緒に店内に出てきた。佳奈子の震えは治まり、ある程度冷静さを取り戻していたが、裕香は相変わらずガタガタ震えていた。佐緒里が傍によって宥めた。
「裕香ちゃん、もう大丈夫だよ」
 佐緒里に言われ、裕香はやや落ち着きを取り戻した。佐緒里は店の扉を開けると、周りの様子を探った。周囲はさっきの事が嘘のように人通りも多く、表通りは夕方特有の喧騒感がある。
「大丈夫。いつも通りの状態だわ」
 数分後に佳奈子たちは3人ともプリキュアのコスチュームから制服に着替えた。佳奈子は聖奈子と一緒に、裕香は美紀子が送って行き、絵里香は孝一と一緒にそれぞれ帰っていった。絵里香たちはこのあともう一度ここに集まる事になっていたので、家が遠い美由紀は佐緒里と一緒にANGELに留守番することになった。ちなみに美由紀の弟の篤志は、既に家に帰っていたので、美由紀は携帯で篤志に連絡を入れていた。

      *     *     *     *

「この馬鹿者! 小娘どもやスカーレットエンジェルに秘密を知られたうえに、襲撃に失敗しておめおめ帰ってくるとは何事だ!」
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「も、申し訳ありません。ゼネラルダイア様」
 ゼネラルダイアは返事もせず、腰の電光剣を抜くと、軍隊アリ魔人に随伴していた戦闘員にむけて突き付けた。
 バリバリバリ
「イィーッ!」
「役立たずどもめ。死ねぇーッ!」
 電光剣が閃光を発して、電光が戦闘員を包み込み、戦闘員は絶叫しながら光の中で次々と黒焦げになって消滅していった。ゼネラルダイアは今度は軍隊アリ魔人に電光剣の切っ先を向けた。
「ゼ、ゼネラルダイア様。お許しを」
「やかましい! 貴様も消滅しろ」
 その時スピーカーから大首領の声が室内に響いた。
「待て! ゼネラルダイア」
 大首領の声で、ゼネラルダイアは電光剣を収めた。
「大首領様。しかし・・」
「現在改造アリの数も揃いつつある。もう一度軍隊アリ魔人にチャンスを与えるのだ」
「かしこまりました」
 ゼネラルダイアは軍隊アリ魔人のほうに向き直った。
「軍隊アリ魔人! 今度こそ小娘どもをスカーレットエンジェルともども消せ。今度失敗すれば、お前が待っているものは確実に『死』だ」
「ハハーッ。今度こそ・・ 今度こそ成功させます」
「行け!」
 軍隊アリ魔人はゼネラルダイアに煽られるように司令室から出て行った。

 ここはANGEL。絵里香たちは再び集まっていた。
「しかし、ここまで襲ってくるなんて、やつらも相当焦っているようね」
「みんなよく聞いて。さっきの戦いで奴等の弱点が分かったのよ」
「弱点?」
「正確には、アリよ。あのアリの大群は魔人に操られているようだけど、うまくやれば逆に奴等をやっつける事に使うことも出来るわ」
「あ。そうか・・ 」
 美由紀が何かを思いついたように言った。
「砂糖と蜂蜜だ。砂糖と蜂蜜をぶちまけたら、アリはそれに向かっていったわ」
「つまり甘いものに対して敏感に反応して、それに集まる習性があるということね。その点は普通の蟻と変わらないわね」
「そこでみんなに頼みがあるのよ」
 そう言って美紀子は佐緒里を傍に呼んだ。
「佐緒里、絵里香たちに説明して」
「はい叔母様」
 絵里香たちは佐緒里のまわりに寄るように集まった。
「絵里香さんたちに作ってもらいたい物があるんです」
「何を?」
「砂糖水。カブトムシやクワガタを捕まえるために、砂糖水を作って木の幹に塗って集める方法があるの知ってるでしょ? それを応用するんです」
「なるほど・・ そういう事か」
 絵里香たちは早速カウンターに入り、店にあった砂糖を、沸かしたお湯に入れて溶かしながら煮詰めた。
「砂糖や蜂蜜は出来るだけ多く入れて濃くしてください。足りなければ買ってきます。そして冷ましたらこれに入れて蓋をしてください」
 そう言って佐緒里は空いたペットボトルや空き瓶を置いた。

      *     *     *     *

 翌日・・
 ここは聖奈子と佳奈子の家である。今日も佳奈子たちの学校では文化祭が開催される。しかし昨日の事があってか、佳奈子はあまり乗り気でなかった。それを察した聖奈子が佳奈子を宥めた。
「しっかりしろよ佳奈子。お前何のためにプリキュアのコスを着てるのよ。大丈夫! あたし達がついてるんだから、佳奈子は大船に乗った気でいればいいんだよ。それに佳奈子の傍には、スカーレットエンジェルに変身出来る佐緒里だっているんだぞ」
「うん・・ そうだよね。佐緒里ちゃんやお姉ちゃん達がいるんだもん。大丈夫だよね」
「そういう事。頑張れ! あたしもあとから行くから」
「じゃ行ってきます」
 佳奈子は聖奈子に送られて家から出て行った。
「さてと・・ あたしも行くか」
 聖奈子は部屋に戻って支度をすると、家を出て絵里香たちと待ち合わせをしているANGELに向かった。

 それから二時間後・・
 絵里香たちは第一中学校の屋上にいた。文化祭の開催中は、喫煙者を考慮して、屋上を喫煙所兼休憩所として開放していた。屋上にいる絵里香たちは、そこから校庭を見下ろしていた。
「奴等また襲ってくるだろうね」
「勿論よ。私たちに秘密を知られているし、昨日の様子からすればかなり焦っているはずよ。それに文化祭みたいに人が集まる所なら、やつらが攻撃するには絶好の場所よ」
「何・・ つまり絵里香は奴等がここを襲ってくると思ってるの」
 絵里香は黙って頷いた。
「そうだよね・・ あたし達がここにいるんだから」
「そう。奴等の狙いは私たちなのよ。さっきも言ったように、私たちに既に秘密を知られているから、本格的な作戦の前に必ず私たちを狙ってくるわ」
 校庭ではまだ何も催し物はなかったので、人が行き交うだけだった。佳奈子たちのコスプレショーは、今日は午後である。
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 絵里香たちが話をしていたところへ、プリキュアのコス姿の佐緒里が、同じくコス姿の佳奈子と裕香を連れて、屋上に上がってきて駆け寄ってきた。
「絵里香さん。奴等の気配を感じます。すぐ近くにいます」
「ええっ!?」
「佐緒里ちゃん本当なの?」
「はい。潜んでいるようだけど、間違いなくここを狙っています」
「佐緒里ちゃん、例の物は?」
「持ってきました。全て揃ってます」
「それじゃ佐緒里ちゃん。昨日言ったようにやって。佳奈子ちゃんと裕香ちゃんがいるから、危なくなったらすぐに逃げるのよ」
「はい」
「聖奈子、美由紀、行くわよ」
「オッケー!」
「行こう」
 絵里香たちは屋上から降りていき、佳奈子たちもそのあとに続いた。

 その頃軍隊アリ魔人は戦闘員を従えて、中学校の隣にある林の中に潜み、攻撃の機会を窺っていた。戦闘員の傍らには軍隊アリが大量に入った箱が置かれている。
「今度こそ小娘どもを消してやる。準備はいいか?」
「イーッ! いつでも軍隊アリを放つ事が出来ます」
「よし。行動開始」
「イーッ!」
「待てこの野郎! てめえらなんかの勝手にはさせねえぞ」
 聖奈子の男言葉の罵声と共に、絵里香たちが立ちふさがった。
「クソッ! どうして潜んでいる事が分かったのだ。ええい者どもかかれ。小娘どもを消せ」
 戦闘員が奇声を上げながら絵里香たちに襲いかかった。
「エンジェルチャージ!」
 絵里香たちは一斉に変身して、向かってくる戦闘員と格闘戦になった。
「よし。今のうちだ」
 軍隊アリ魔人は残りの戦闘員を引き連れ、学校に侵入する体勢をとった。
「待ちなさい! これ以上は行かせないわ」
 軍隊アリ魔人と戦闘員達の前に、プリキュアのコス姿の佐緒里たちが立ち、行く手を遮った。
「荒野を照らす熱き太陽。キュアワイアット!」
「荒野を吹き抜ける一筋の風。キュアマスターソン!」
「荒野に佇む希望の泉。キュアホリディ!」
「私たちは荒野に輝く伝説の戦士。ウエスタンプリキュア!」
「おのれガキども。邪魔されてたまるか」
 軍隊アリ魔人は戦闘員に命じてアリの入った箱を開けさせ、蟻を放逐した。
「全員蟻の餌食にしてやる」
 軍隊アリが一斉に放逐され、佐緒里たちに向かっていった。
「佳奈子ちゃん、裕香ちゃん。行くわよ」
 佳奈子たちは砂糖水や蜂蜜が入ったペットボトルや瓶を持って構えた。真っ先に佐緒里が蜂蜜の入った瓶の蓋を開け、戦闘員めがけて投げつけた。
「プリキュア‐ハニーグレネード!」
 瓶は戦闘員に命中して大量の蜂蜜がぶちまけられ、近くにいた戦闘員にもかかった。
「イー イィーッ!」
 蜂蜜を被った戦闘員に、蟻が一斉に襲い掛かった。
「佳奈子ちゃん、裕香ちゃん、投げて」
 佳奈子と裕香も、手当たり次第に瓶やペットボトルを投げた。
「プリキュア‐シュガーウオーター!」
 佐緒里たちが投げた瓶やペットボトルから、砂糖水や蜂蜜がぶちまけられ、戦闘員に次々とかかって、その戦闘員にアリの大群が襲いかかった。
「し、しまった。まさかこんな子供騙しの手で・・」
 光景を見た軍隊アリ魔人は、その場から逃げる体勢をとったが、戦闘員を全て倒した絵里香たちがその行く手に立ちふさがった。
「逃がすものか。化け物!」
「何を小癪な! どうせ俺様はこの作戦に失敗すれば終わりなのだ。こうなったらお前達も巻き添えにしてやる」
 そう言いながら軍隊アリ魔人は、手に持っていた長槍を振り回しながら絵里香たちに向かってきた。絵里香たちもそれぞれの武器を持って構えた。
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「食らえ。小娘ども」
 軍隊アリ魔人は長槍を一番近くにいた美由紀に向けて振り下ろしてきた。美由紀は二本のバトンで受け止めたが、力負けしてバトンを飛ばされた。そこへ軍隊アリ魔人は槍を突いてきたが、聖奈子が楯で受け止めた。
「蟻酸を食らえ」
 軍隊アリ魔人は口から蟻酸を吐いた。聖奈子は反射的に横に体を捻った。聖奈子を外れた蟻酸は地面に降り注いで、激しく炎を噴き上げた。
「ファイヤースマッシュ!」
 絵里香がブレードを振り下ろしてエネルギー波を放ったが、軍隊アリ魔人は身をかわして避けた。そこへ後から佐緒里が砂糖水入りの瓶を投げつけてきて、その瓶が軍隊アリ魔人に当たって割れ、軍隊アリ魔人は砂糖水をまともに被った。
「おのれ! このガキ」
 軍隊アリ魔人は佐緒里の方に向き直った。その一瞬の隙を突いて、美由紀がジャンプした。
「エンジェルキック!」
 軍隊アリ魔人はキックの反動で地面を転げ、自分が放逐した軍隊アリの大群のなかに飛び込んでしまった。砂糖水を被っていた軍隊アリ魔人は、軍隊蟻の恰好の餌食だった。
「ウワッ! しまった。蟻が食い付いてくる。ギギギギーッ」
 軍隊アリ魔人は、自分に食い付いてくるアリの大群を払いのけようとしたが、砂糖の匂いにつられて蟻は次々と食い付いてきた。
「ギギギギーッ」
 軍隊アリ魔人は全身を蟻に食い付かれ、そのまま倒れて口から蟻酸を吐き出し、その蟻酸が自分の身体に降りかかって、身体全体に火がついて炎に包まれ、悶絶しながら大爆発して木っ端微塵に吹っ飛んだ。続いて周囲に群がって蠢いていた、軍隊蟻の大群が次々と炎に包まれてその場から消えた。そしてアジトにあったバイオ改造装置が大爆発し、改造を終えた蟻も次々と爆発して、最後にはアジトそのものが大爆発して吹っ飛んだ。

      *     *     *     *

 校庭ではコスプレショーが開催され、佳奈子は佐緒里、裕香と一緒にウエスタンプリキュアのコスプレで、ステージの上でポーズをとり、観客が歓声を上げていた。
「佳奈子ちゃんも裕香ちゃんも、だいぶ落ち着いたみたいだね」
「今回はあの子たちの活躍で、ネオ-ブラックリリーの作戦が挫折したわけだし。めでたしめでたし・・ ってところかな・・」
 その時絵里香は何かを思いついたように、聖奈子と美由紀に聞いた。
「ねえ・・ 聖奈子、美由紀。昨日の夜、どうしてすぐに助けに来られたの?」
「(ギクッ・・)」
「二人とも学校を出てすぐに別れたんだよね」
「(ギクギクッ)」
「あんたたち、もしかして・・」
「ごめんなさい。ごめんなさい」
「あたし達、絵里香が羨ましくて、こっそりとあとをつけたの」
 絵里香はムッとして膨れっ面をした。
「全く・・ でもおかげで私と孝一も、佳奈子ちゃんたちも助かったんだから、もういいよ」
 聖奈子と美由紀はホッとした顔で再びステージに眼をやった。ステージの上では佳奈子たちが相変わらずパフォーマンスをやっていた。
 絵里香たちはその光景を眺めながら、ネオ‐ブラックリリーに対し、新たな闘志を燃やすのであった。


 軍隊アリを使い、世界中の食料を無き物にしようとしたネオ‐ブラックリリーの作戦は、エンジェルスとその仲間達によって防ぐことが出来た。しかし、ネオ‐ブラックリリーはまた、新たな作戦をたてて挑戦してくるのだ。頑張れエンジェルス!


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 次回予告
 第28話『今夜、金魚が君を襲う』

 鷲尾平近郊で謎の密室殺人事件が相次いで起こる。その事件にネオ‐ブラックリリーが関係していると睨んだ絵里香たちは調査を開始するが、何の成果も上げられないうちに、今度は大学の教授が次々と殺される事件が起きる。そこで美紀子も調査に乗り出し、全ての事件に共通点があることを突き止める。ネオ‐ブラックリリーの金魚魔人が、水のある所を自由自在に移動して事件を引き起こしていたのだった。

 次回 美少女戦隊エンジェルス第28話 『今夜、金魚が君を襲う』にご期待下さい。




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テーマ : ライトノベル
ジャンル : 小説・文学