鷲尾飛鳥

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第37話『氷上の戦い』

2013年 08月04日 18:23 (日)

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 昼下がりの墓地・・・
 怪しい気配に気付いた由理は、用心しながら墓地の中を歩いていた。
 ゴゴゴゴゴ・・・
 由理が立っている場所とその周辺が地鳴りとともに振動し、少しずつ振動が強くなる。由理は周囲を見回しながら叫んだ。
「何処だ!? ラグナ帝国の化け物。出て来い」
 ズボッ! ズボボッ!!

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 突然地面からラグナ帝国のファントム戦闘員が次々と姿を現し、由理の周りをとり囲んで、襲撃体勢をとってきた。そして戦闘員の囲みの外には、醜怪なラグナ帝国の怪人モスキラグナが立っていて、由理の姿を見据えていた。モスキラグナは戦闘員に向かって合図をした。

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「ブルルルーッ!! 者ども。目障りな小娘を片付けろぉ!!」
戦闘員が奇声とともに一斉に由理に迫ってきた・・・・・ 


      *      *      *      *

 ある日の日曜日の朝・・・
 城野美由紀の家では、朝ご飯を食べ終えた美由紀と、美由紀の弟の篤志が、リビングで緊張した顔つきでテレビに見入っていた。
 画面に映っているのは、毎週日曜日の午前8時から〇〇放送で放映している特撮の『聖光美少女戦士ユリ』で、ちょうど画面では、正義のヒロイン白瀬由理がラグナ帝国の戦闘員に襲われ、さらに怪人が現れてピンチになっているところだった。そして由理が変身するというところで、美由紀の携帯が鳴った。
「何よ・・・ いい所なのに・・ (聖奈子だ)ハイ美由紀です」
 美由紀はすぐに耳から携帯を離した。向こうからは聖奈子の大きな声が響いてきたのだ。
『美由紀。あんた、まぁだそんな物見てんの!? 電話の向こうからしっかり聞こえているよ。全く物好きだねー』
「別に良いじゃないの。そんな事」
『良いも悪いも、今日10時に鷲尾平のスポーツセンターで、スケートやるから集まろうって言ったの、美由紀なんだよ。あんたのことだから、ボケて忘れてるかもしんないから、様子見がてら電話してみたのよ』
「アーッ!! ゴメン。すぐ出るから」
『ほらまたそそっかしい・・ まだ時間余裕あるだろ!? じゃあな』
 ガチャ・・・
 電話が切れて、美由紀も携帯を切った。そばでは篤志がテレビを見ながら美由紀に言った。
「姉貴・・ 何でもいいけど、せわしいのと、そそっかしいのと、約束忘れるくらいの、のんきな性格は直した方がいいぜ」
「分かった 分かった」
 そう言いながら美由紀は再び座ってテレビの方を向いた。場面は変身して戦士の姿になったユリが、怪人モスキラグナと戦って倒したところだった。やがてエンディングの音楽が流れて番組が終わった。いつもだったらこの後から始まるアニメのウエスタンプリキュアを見るのだが、篤志はテレビのスイッチを切ると立ち上がった。
「姉貴。もう支度した方がいいぞ。姉貴いつも遅いんだから」
「うるさい。大きなお世話」
 美由紀は立ち上がると、着替えと身支度をするため、自分の部屋へ向かっていった。それを見ながら篤志は“やれやれ”と呟きながら自分の部屋へ行った。

 それから30分・・・
 支度を終えた美由紀は、篤志と一緒に家を出て、駅へ向かって歩いていった。

      *      *      *      *

 ネオ‐ブラックリリーは鷲尾平市近郊の某所に構えたアジトで、ゼネラルダイアが大首領クイーンリリーの話を聞いていた。
「ゼネラルダイア。作戦の進行状況はどうなっている」
「ハハッ。優秀な魔人や戦闘員を作り出すための、学生スポーツ選手の誘拐作戦は、順調に進んでいます。現在既に10数人を捕えて洗脳を施し、組織の予備軍として育成しております」
「まだ少ない。我がネオ‐ブラックリリーが全世界を征服するためには、大量の魔人と戦闘員を必要とするのだ。分かっているな」
「ハハッ。大首領様。心得ております」
「分かればよろしい。それでは既に捕えた者ども、もしくは今から捕える者どもの中から適切な者を選び出し、邪魔になるエンジェルスの小娘どもを抹殺するための魔人を早く作り出すのだ」
「ハハーッ。かしこまりました。大首領様」

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 ゼネラルダイアは会話を終えると、周りにいた戦闘員たちの方に向き直った。
「急いで魔人用の人材を捜せ」
「イーッ」
「イーッ」
 数人の戦闘員たちが司令室を出て行った。

      *      *      *      *

 ここは鷲尾平市にあるスポーツセンターのスケートリンクである。絵里香と聖奈子は美由紀に誘われてスケートをしに来ていたのだが、まともに滑れるのは美由紀だけで、絵里香と聖奈子は氷の上に立つのがやっとだった。
「キャッ! たた、立てない… ちょっと、美由紀・・ ちゃんと支えててよ」
「お願い・・ 手を離さないで」
「絵里香も聖奈子も、意外なものに鈍いのね」
「そんなこと言ったって、キャーッ!」
 ドスン!!! ・・・・
 絵里香と聖奈子はバランスを崩し、氷の上に思いっきり尻餅をついた。
「痛ったーっ! もう… やだぁ」
「美由紀、あたし達のことはもういいから、一人で滑ってきていいよ!」
「はいよ」
 美由紀は氷の上で座り込んでいる絵里香と聖奈子に背を向け、リンクの中央部へと向かって滑っていった。篤志もそれなりに滑る事が出来たので、楽しんで滑っていた。
 美由紀はバトンとダンスが得意で、スケートも習っていたことがあったため、軽快に氷の上を滑っている。しかも自前のコスチュームまで用意し、まるで本物のフィギュアスケーターのように軽快に滑っていて、絵里香と聖奈子はそんな美由紀を唖然としながら見ていた。

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「しっかし、美由紀も好きだねぇ・・・ わざわざコスチュームまで持ってくるんだから・・・ あそこまでいったら、もう殆ど趣味か道楽の世界ね」
 聖奈子は半分呆れたような口調で言いながら美由紀をじっと見ていた。滑っている美由紀を見て、周囲にいた若い男達が美由紀に言い寄ってきたが、美由紀は滑りながら軽くあしらっていた。
 その時、スケートリンクの一角でどよめきが起こり、急に人だかりが出来た。絵里香と聖奈子は何事かと思って、どよめきのした方向へ顔を向け、美由紀も滑りながらその人だかりの方へ向かっていった。すると、人だかりの中でコスチューム姿の高校生くらいの女の子が、これから滑ろうとしている態勢をとっていた。その女の子を見た美由紀は思わずじっと見つめ、その子と視線が合った。するとその女の子は美由紀の方へ向かって滑ってきた。
「美由紀! 久しぶり」
「え… ? あ… もしかして真帆。わあー なつかしい! ずいぶん背が伸びたね」
 女の子は美由紀の知り合いで、名前を浅倉真帆といい、美由紀とは中学時代の友人同士で、今は県立鷲尾平高校のスケート部に所属する、高校フィギュアスケートの選手だったのである。真帆は自分の頭の上と美由紀の頭の上に手を置いて比べながら美由紀に言った。
「中学時代は私の方が小さかったけど、今は美由紀を追い越しちゃったね」
「どれくらいあるのよ」
「166センチ・・・ 美由紀もその格好… 相変わらずだね」
「うん! 真帆、今度の大会頑張ってよ! 応援に行くから」
 真帆は少し曇った顔をしてから、また明るい笑顔に戻って美由紀に言った。
「残念! 今度の大会は選手の選考から外れちゃったの。スケートのレベルが上がっちゃって、ついていくのが大変よ」
 美由紀は話を聞き、少しがっかりした顔をした。それに気付いた真帆は、美由紀の背中をポンと軽く叩いた。
「ありがとう美由紀。私の事気遣ってくれてるのね。ねえ・・ 久しぶりで一緒に滑ろうか」
「うん!!」
 美由紀は真帆と並んでリンクを滑り始めた。

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 さて・・ その様子をじっと見つめている数人の人影があった。ちょうど絵里香たちのいる場所の対角線上のリンクの端である。数人の人影は、実はネオ‐ブラックリリーの戦闘員が化けていた姿で、魔人に改造する手頃な人間を捜していたのだ。
「おい、あれはエンジェルスの小娘の一人じゃないか」
「ああ・・ それより、隣で滑っている女の方を観察しろ」
「うむ、運動神経も良さそうだし、技のキレも抜群だ」
「よし。あの女から目を離すな」
  
      *      *      *      *

「それじゃあまた」
「うん。バイバイ」
 美由紀と真帆はスポーツセンターの入り口の前で別れ、美由紀は真帆の後ろ姿をしばらく見送ってから、絵里香たちの元に駆け寄ってきた。
「美由紀、あの子確か・・ 去年のフィギュアスケートの日本選手権に出てたよね」
「うん。残念ながら予選どまりだったけど・・ 浅倉真帆っていって、私の中学時代の同級生だったの。それじゃ私たちはここで。絵里香、聖奈子、また明日学校で」
「うん。また明日ね」
「バイバイ」
 美由紀は篤志を連れて駅の方へ向かっていった。

 美由紀が別れていったあとで、絵里香は何かを思い出したように、真剣な顔つきになった。聖奈子がそれに気付いた。
「絵里香、どうしたの?」
「気になるのよ」
「何が・・」
「最近のニュースよ。スポーツ選手の失踪事件。特に高校や大学のスポーツ選手が突然行方不明になっているってやつ。奴等が絡んでるんじゃないかな? 美由紀の友達・・ 大丈夫かな・・」
「奴等って、ネオ‐ブラックリリー!? でも・・ その事が美由紀の友達と・・ そうか!  絵里香、彼女が狙われるって事!?」

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 絵里香は聖奈子の顔を見て頷いた。
「美紀子さんの所へ行ってみよう。例のニュースの事で何か情報があるかもしれないわ」
「うん」
 絵里香と聖奈子は駆け出すと、ANGELに向かった。

      *      *      *      *

 絵里香の不吉な予感は現実のものとなっていた。
 その日の夕方、美由紀と別れた後で帰宅途中だった真帆は、鷲尾平のスポーツセンターを出てからずっと後をつけられていた。そして周囲に誰もいなくなったとき、待っていましたかのように一台の車が走ってきて、真帆を追い抜いてすぐに停止し、中から黒ずくめの男たちが出てきた。そして真帆の後ろからも同じような姿の男たちが走り寄ってきて、真帆の身体を押さえつけた。
「何するの? 離して! はなしてください!」
「おとなしくしろ!」
 真帆が大声を出す寸前に、男の一人が真帆の口を塞いだ。
「んん・・ んーっ」
 そして男の一人が理恵にスタンガンを発射した。
「んぐ・・・」
 真帆はスタンガンの電撃でうめき声とともに瞬時に気絶し、男たちは真帆を車の中に押し込めて、車はその場から発進していった。その間わずか二分足らず・・ あっという間の出来事で、目撃者は皆無だった。


「あら・・ 孝一君スケート出来るの? だったら来ればよかったのに。絵里香スケートがからっきしダメだから、孝一君に手取り足取り教えて欲しかったって泣いていたよ」
「泣いてない!  そんな事ないって。孝一、聖奈子の言ってる事全部ウソだからね」
 絵里香は顔を赤くして言った。カウンターにいる孝一はウンウンと頷いているだけで、絵里香と聖奈子の会話に聞き入っていた。
「ほら。今日はいつもと違ってミニスカートだし」
 そう言いながら聖奈子は絵里香のスカートの裾をちょっと持ち上げ、絵里香は慌てて両手でスカートを抑えた。
「やだ!! 聖奈子のエッチ」
 絵里香はさらに顔を真っ赤にして怒鳴った。

「あらあら・・ 何の騒ぎよ」
 美紀子が佐緒里と一緒に買い物から帰ってきて、美紀子と佐緒里は店内の端っこで買い物袋の中身を整理し、材料を冷蔵庫や棚に入れた。

 数分後・・
 美紀子はカウンターで佐緒里と一緒に絵里香と聖奈子の話を聞いていた
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「二人の話・・ 奴らが関係しているのは間違いないわね。確かにここ数日、関東近辺だけで既に学生のスポーツ選手が30人くらい行方不明になっている。それも、高校と大学の人たちばかりで、性別もスポーツの種類もジャンルも様々。私も奴等の仕業だと確信しているわ」
「じゃ、このまま放っておけば、さらに失踪者は増えるわね」
「間違いないわ。今度はいったい何をしようとしているのか。とにかく手がかりがなくて、これ以上は動けないし、調べようが無いわ」
「美紀子さん。怪人や戦闘員用の人材を集めているんじゃないの? スポーツ選手だったらやつらにとっては好都合の改造要員だわ。以前も組織の予備軍を編成しようとして、学校占領作戦とかもやってるし」
「学校・・・ か・・ 孝一、あなたの学校は大丈夫なの?」
「うちの高校ではそういう事件はまだ起きてないな。ただ、美由紀ちゃんの友人で・・ 浅倉さんって言ってたっけ。あの子はスケート部員だけど、これといってずば抜けているってわけじゃないぜ。むしろ浅倉さんの一年後輩で、本選大会まで行った村越愛莉の方が注目されてるよ。校内で親衛隊まで結成されて、取り巻きもすごいから、そう簡単に誘拐されるという事もないと思うな」
 話はいろいろとやり取りされたが、これといった結論は出なかった。

      *      *      *      *

「嫌あぁーっ! 助けてぇーっ! 誰か助けてぇーっ」

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 ネオ‐ブラックリリーのアジトに連れてこられた真帆は、手術台の上に手足を拘束されて寝かされていた。周りには戦闘員や白衣姿の医療スタッフの者たちが立っている。真帆は必死でもがきながら叫んだが、拘束からは逃れられない。そこへゼネラルダイアが入ってきて、縛りつけられている真帆に近づき、嫌らしそうな目で見つめた。
「この娘がそうか」
「お願い・・ 助けて。家へ帰してください」
 ゼネラルダイアは返事もせずに、医療スタッフの方に向き直った。
「話は聞いたが、この娘はエンジェルスの小娘の一人と友人だそうだな」
「ハイ。そのように聞いております」
「うむ・・ ならばこの娘は大いに利用出来そうだ。よし。手術の用意」
 スタッフが真帆に近づき、真帆の手足の拘束部分に電極を取り付け、レーザー光線の発射機のような物騒な機械が真帆に向けられた。
「やめて・・ 嫌・・ 助けて」
「手術開始」
 スイッチが入れられて、手術台の周りが透明なドームで覆われ、続いて電流が流された。
「キャアァァァーッ! あっ あっ あぁぁーっ!」

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 真帆は悲鳴を上げながら身体を激しく仰け反らせて悶絶し、やがて脂汗をにじませながら身体全体が痙攣し始めた。
「んん・・ ああぁ・・ アァーッ」
 さらに電圧が上がって特殊な光線が照射され、真帆は耐えられずに失神した。しばらくすると美しかった真帆の顔は醜い魔人の顔へと変わっていき、身体全体が魔人の形に変わった。魔人の姿になった真帆は拘束を解かれ、ドームが開いて手術台から起き上がり、ゼネラルダイアの方へ向き直った。

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「リリリリーッ。私はアマリリス魔人。ゼネラルダイア様。御命令を」
「アマリリス魔人よ、我がネオ‐ブラックリリーは、全国の有能なる若手のスポーツ選手を魔人に改造し、ネオ‐ブラックリリー魔人戦闘団を結成する。そのためには、スポーツ選手を大量に必要とする。お前はスポーツ選手を誘拐し、ここへ連れて来ることと、作戦の邪魔になるエンジェルスの小娘どもを殺す事が任務だ。さあ、行け! アマリリス魔人」
「かしこまりました。ゼネラルダイア様」

      *      *      *      *

 それから三日後・・
 ネオ‐ブラックリリーの動きはこれといって無く、絵里香たちは普通に学校へ行っていて、いつものように放課後は部活をしていた。例のスポーツ選手失踪事件の話題は、部員たちの間でも広まっていた。
「ねえ・・ 聞いてるでしょ。例の事件」
「私たちまでやられちゃうんじゃないかな・・」
「なーに言ってんのよ。私たちみたいな平凡な弱小バトン部は関係無いって。別にこれといった実績も無いし、活動っていえば、市内のお祭りや体育祭でパレードするくらいのものじゃん」
「でも、失踪した人たちって、どこにいるんだろう」
 ときおりそんな話が方々から漏れていて、嫌でも絵里香たちの耳に入っていた。部活が終わって下校した絵里香たちは、帰宅途中にANGELに集まって話をしていた。カウンターには孝一と佐緒里がいた。
「部員たちの間にも広まってるね」
「うん・・ それだけじゃなくて、学校中に広まってるわ。もう聞き飽きたわよ。鷲尾平を含むS県ではまだ事件が起きてないようだけど・・ 」
「叔母様も方々で調べているみたいだけど、まだ決め手が無いんです」
「孝一。あの子はどうなの? ほら。例のフィギュアスケート選手。村越愛莉っていったっけ」
「村越なら、昨日から世界大会の強化合宿で、ロシアへ行ってるぜ」
「日本にいないのか・・ だったら大丈夫か・・ 」
「そうだ。美由紀、日曜に会った美由紀の友達は? あの子もスケート部だったよね」
「真帆の事? あれから会ってないわ。それに真帆は村越愛莉みたいなスーパー選手じゃないし、有名人じゃないから、大丈夫なんじゃないの?  孝一君、確か真帆と同じ高校だったよね」
「ああ・・ でも、わかんないな。学校同じでもクラス違うし・・ 」

 その時、絵里香の携帯電話が鳴った。
「(美紀子さんだ) もしもし? ええっ? ボウリング場で競技をしていた人たちが突然いなくなった? 分かりました。すぐ行きます」
 絵里香の話を聞いて、聖奈子と美由紀が立ち上がった。
「みんな、行くわよ!」
「オッケー!」
 絵里香たちはANGELを飛び出すと、ショッピングモールの一角にあるボウリング場へ向かっていった。
「みんな。こっちよ」
 ボウリング場に到着すると、入り口で美紀子が待っていた。既に出入り口は閉鎖され、立ち入り禁止の札が下がっていた。
「美紀子さん、一体何が・・」
「あっという間だったわ。今日、西部学園大学の学生ボウリング大会がここで開催されていたのよ。それで大会終了後に控室にいた人たちが、全然出てこないから、係員の人が呼びに行ったときには、控室はもぬけの殻だったそうよ」
「ネオ‐ブラックリリーの仕業にしては、随分お粗末ね」
「聖奈子、どういう事よ」
「だってボウリングをしていた人たちは、普通の学生たちで、選手じゃないんでしょ?」
「うーん・・ 誘拐の対象を無差別に切り替えてきたのかな・・」
「目的は私たちなのかもしれない」
 絵里香がボソッと呟いた。聖奈子と美由紀は同時に絵里香を見た。絵里香はかまわず続けた。
「私たちを誘い出すために、無差別誘拐を始めたのかもしれないわ。つまり、やつらの準備が整ったって事よ」
 聖奈子と美由紀はゴクンと生唾を飲み込んだ。
「みんな。ここにいてもしょうがないわ。対策を立てるからいったん帰りましょう」
 美紀子に言われ、絵里香たちはショッピングモールをあとにした。そして市民体育館の前を通った時、突然体育館から職員らしい男が飛び出してきた。相当慌てていたらしく、絵里香たちにぶつかりそうになって、避けた拍子につまずいて転んだ。
「だ、大丈夫ですか?」
 絵里香が真っ先に駆け寄った。が、男は恐ろしいものを見たような顔つきで、しどろもどろに言った。
「わわ・・ たた、大変だ。ば・・ ば、化け物が・・ 」
「化け物? 落ち着いてください。何を見たんですか?」
「は、花の化け物と、み、緑色の得体の知れない奴等が現れたかと思ったら、拳法クラブの人たちに、いきなり襲い掛かってきて・・・ 」
「花の化け物?!  奴等が出たのか!」
 絵里香たちはお互いに頷き合うと、体育館の中へ飛び込んでいった。美紀子も後を追った。

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 体育館の中に入ると、玄関で道着姿の屈強そうな男が二人倒れていた。後ろから美紀子が絵里香たちに声をかけた。
「その人たちは私に任せて。あなたたちは中へ行って」
 絵里香たちが中へ行こうとした時、中から戦闘員が出てきて襲いかかってきた。
「やっぱりネオ‐ブラックリリーだったのね」
 絵里香たちは、襲いかかってきた戦闘員を倒して、体育館の中に入った。すると、多数の戦闘員が、倒れている拳法クラブの人たちを運び出そうとしていた。
「お前たちの勝手にはさせないわ!」
 美由紀が真っ先に飛び出して、戦闘員に組み付き、パンチとキックで倒した。続いて絵里香と聖奈子も飛び込んでいき、乱戦になった。
「リリリリーッ」
 そこへ奇声とともにアマリリス魔人が姿を現した。
「出たわね。ネオ‐ブラックリリーの化け物!」

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「私はアマリリス魔人。作戦の邪魔になるお前たちをここで始末してやる。者どもかかれっ!」
「イーッ」
「イーッ」
 戦闘員が一斉に絵里香たちに襲いかかった。絵里香たちは戦闘員の攻撃をかわしながら一人一人倒していったが、建物の中では動きが制約される。
「聖奈子、美由紀、外へ出て! この場は逃げるよ」
 絵里香はそう言いながら館内を出て、出入り口へと向かった。聖奈子と美由紀も後に続き。その後ろからアマリリス魔人と戦闘員が追ってきた。外に出た絵里香たちは、追いかけてくるアマリリス魔人と戦闘員の方に向き直り、ポーズをとった。
「エンジェルチャージ!」
 変身した絵里香たちはアマリリス魔人めがけてエネルギー波を放ったが、アマリリス魔人は素早くそれを避けて、逆に衝撃波を絵里香たち目がけて放った。絵里香の足下で衝撃波が炸裂し、絵里香は衝撃で後ろへ吹っ飛ばされて、ガードポールに身体をぶつけた。
「絵里香! 大丈夫?」
「私にかまわないで! 魔人を倒すのよ!」
「分かった! アクアスマッシュ!」
「ライトニングスマッシュ!」
 聖奈子と美由紀が同時にエネルギー波を放ち、アマリリス魔人に向かってエネルギー波が飛んでいった。アマリリス魔人は俊敏な動きで避けたが、魔人をはずれたエネルギー波が建物の壁に当たって壁が砕け散り、その破片がアマリリス魔人を直撃した。
「リリリーッ」
 アマリリス魔人が奇声を上げた瞬間、その姿が真帆の姿になり、美由紀は驚愕した。
「真帆・・・ 真帆じゃないの」
 だが、真帆の姿になったのは一瞬の間だけで、またアマリリス魔人の姿に戻った。アマリリス魔人は美由紀を突き飛ばすと、残った戦闘員を伴って逃げ去った。
「真帆! 待って」
 美由紀は逃げる魔人を追いかけたが、アマリリス魔人は戦闘員とともに消えた。立ち止まった美由紀の元に、絵里香と聖奈子が追い付いてきた。美由紀の目には涙が浮かんでいる。
「美由紀、いったいどうしたの? 目が完全に泣いてるよ」
「あの怪物・・ 真帆なのよ。真帆が改造されているのよ」
「ええっ!?」
 絵里香と聖奈子は驚きの声を上げ、美由紀はその場に座り込んで泣き出した。そこへ美紀子もやってきた。美紀子は美由紀の様子がおかしいのにすぐ気付いたが、それを払拭して言った。
「みんな! いったん戻るわよ。急いで!」
 絵里香と聖奈子は変身を解き、絵里香は泣いている美由紀の背中を軽くポンとたたいて言った。
「いまここで心配してもしょうがないよ。助ける方法を考えるのが先だよ」
「そうだよ。きっと元へ戻す方法があるよ」
 絵里香と聖奈子に宥められ、美由紀はようやく立ち上がって変身を解いて歩き出した。
 
      *      *      *      *

 市民体育館でネオ‐ブラックリリーに襲われた拳法クラブの人たちは、怪我人がいたものの、全員が助けられて無事だった。しかし、ANGELの店内では、重苦しい雰囲気が漂っていた。なにしろ今度のアマリリス魔人は、美由紀の友達の浅倉真帆が改造されているのだ。
「美由紀。もう泣かないで」
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 絵里香はまだ泣きべそをかいている美由紀を宥めた。その様子を見て大体の事態を察した美紀子が絵里香に聞いた。
「絵里香、詳しく説明して」
「あの魔人、美由紀の友達が改造されているんです」
「なるほど・・  これで奴等の目的意図が大体つかめてきた。やっぱり奴等の目的はあなたたちのようだわ。表向きではスポーツ選手を誘拐して予備軍を作るつもりなのだろうけど、真の目的はあなたたちを抹殺することよ。そのために美由紀の友達を利用して、あなたたちの結束を弱めようとしているんだわ。友達を改造して魔人にすれば、私たちが戦えないだろうと考えているのよ」
「畜生! どこまで卑怯な奴等なんだ!」
「とにかく、早く奴等のアジトを突き止めて奴等の作戦を潰さないと。もたもたしてたら誘拐された人たちがみんな改造されてしまうわ」
 そう言いながら絵里香は美由紀の方を見た。美由紀は俯いたままだった。
「美由紀。しっかりして」
「だって・・ だってあの魔人は真帆なのよ。私・・・ 友達とは戦えないよ・・ 」
「分かってるよ。でもネオ‐ブラックリリーを倒すことが私たちの使命なんだよ。美由紀の友達は絶対に元に戻すことが出来るって。戦っているのは私たちだけじゃないんだよ。美紀子さんだってついてるんだから。それに佐緒里ちゃんだっているのよ。さ、もうそんな泣きそうな顔してないで!」
 絵里香に言われて美由紀は少し元気を取り戻した。そのタイミングを見計らったかのように、美紀子が地図と書類を持ってきて、絵里香たちがいるテーブルの上に置いた。
「みんな。これを見て」
「美紀子さん。これは?」
「奴等の今回の行動の状況から見て、奴等のアジトはこの鷲尾平の近辺にあると思う。それと、この書類はこれから一週間以内に鷲尾平で催される、スポーツ関係のイベントと開催地のリスト」
「そうか。これを使って奴等の次の作戦行動を抑え込むわけね」
「そう。今までは後手に回ってきたけど、今度はこっちが仕掛ける番よ」
 今から一週間以内に催されるイベントは全部で二つあり、一つは三日後に市民体育館で行われる拳法の大会で、これはネオ‐ブラックリリーの引き起こした事件が原因で、急遽延期が決まっていた。
もう一つは次の日曜日にスポーツセンターのスケートリンクで開催される、プロスケーターを招いての、小中学生を対象にしたフィギュアスケート教室だった。リストを見て聖奈子が思い出したように言った。
「あ。これ・・ 佳奈子が申し込んでる」
「聖奈子さん。私も参加するよ」
 佐緒里がそう言い、美紀子がさらに付け加えるように、絵里香たちに言った。
「リストを手に入れた時に調べたんだけど、どうもこのスケートのイベントは胡散臭いものがあるのよ」
「どういう事ですか、美紀子さん」
「イベントの出処がはっきりしないのよ。パンフレットに載っている団体についても、照合しても該当するものがないし・・・ つまり誰が企画したものなのか、全然分からないって事なのよ。もしかすると・・・」
「ネオ-ブラックリリーが絡んでいるって事ですか?」
「可能性は十分あるわ」
「だとしたら、参加している子供たちが危ない」
「その通り。絵里香、聖奈子、美由紀。私たちはこのイベントを見張るのよ。奴等の作戦意図からすれば、子供たちを人質にして、私たちを誘い出すつもりなんだと思う。だから私たちはそれを逆手に利用するのよ。それで佐緒里に囮になってもらうことにしたの」
 カウンターにいた佐緒里が無言で頷いた。
「聖奈子は佳奈子ちゃんに事情を話して、絶対に参加させないようにして」
「分かりました」
「それで・・ 私たちの作戦だけど、みんな寄って。佐緒里もこっちに来て」
 美紀子は絵里香たちを自分のそばに寄せた。

      *      *      *      *

 そして日曜日・・・
 イベントの時間までまだ1時間近くあったが、スポーツセンターの前では、スケート教室の参加者が大勢集まっていて、全体の八割近くが女の子だった。大半が鷲尾平市内の小中学生だったが、近隣の市町村からの参加者もいた。その中には佐緒里の姿もあり、美由紀も中学生っぽく見えるような容姿にしていた。

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 これは先日美紀子が絵里香たちに授けた作戦の一つで、美由紀が佳奈子に代わって、清水佳奈子の名前でイベントに潜り込むという事なのである。美紀子は美由紀と佐緒里を呼んで言った。
「二人とも、絶対無理しちゃダメよ。戦う事より私の作戦通りに動いて、まず子供たちの安全を優先するのよ。」
「はい」
「分かりました。叔母様」
 美由紀と佐緒里は建物の中に入っていき、美紀子は絵里香たちがいる駐車場まで戻ってきた。絵里香たちの傍には美紀子の車と、オートバイ2台が置かれている。
「結構参加者多いね」
「ざっと見て100人近くいるわね」
「でも、もしスケートリンクの中でネオ-ブラックリリーが暴れ出したら、パニックになるよ」
「そのために私たちがここに居るのよ。美由紀と佐緒里には、煙幕弾とガス弾を渡してあるわ。それに駐車場はここだけしかないから、奴等が来るとすれば、最初は必ずここに乗り付けてくるわ」
 実はこのイベントを企画したのは、美紀子が睨んだ通り、ネオ-ブラックリリーだった。子供を標的にしたのは、子供の血を大量に集めて、怪人改造用のエキスにするためだったのだ。ちなみに参加者が100人くらいなのは、このイベントの募集人員が100名までと決められていて、定員に達した段階で募集を打ち切っていたからである。
 イベントの時間まであと30分に迫った時、3台の黒い車が駐車場に乗り付けてきて、職員専用のエリアに次々と停まった。その中の一番大きいワンボックスカーのドアが開いて、中からプロのスケーターらしい女性が降りてきた。続いて数人の男たちが降りてくると、女性の周りを囲むような態勢を取り、建物の方へと向かって歩き出した。美紀子と絵里香たちは、車の中からその様子を眺めていた。
「確かに胡散臭い連中ね・・・」
 美紀子は男の一人をジーッと見つめた。すると美紀子の眼に、男の姿が一瞬だけ戦闘員の姿に映った。
「(奴等だ) 絵里香、聖奈子。降りて。間違いなくネオ‐ブラックリリーだわ」
 絵里香と聖奈子は素早く車から降りて、建物に向かって駆け出すと、ジャンプして変身し、そのまま建物の屋上に着地した。美紀子も車から出て、建物に向かって小走りに駆けていった。
 一方、スケートリンクではイベントの準備が始まっていて、職員たちがリンクの周辺で動き回っていたが、参加者は着替えのため、数箇所ある控室に集まっていて、まだリンクに出ている者はいなかった。控室にいた佐緒里の携帯に着信が入った。
「はい佐緒里です。叔母様? はい・・ 分かりました」
 佐緒里は携帯をしまうと、美由紀の方を向いて、美由紀だけに聞こえるように小声で言った。
「美由紀さん。奴らがもうすぐ入ってくるわ。絵里香さんと聖奈子さんもスタンバっているって。私たちも行動を起こすわよ」
「分かった」
 美由紀と佐緒里がいる控室には二人を入れて30人ほどいて、着替えが終わった者もいたが、放送が入るまではリンクに出られなかったので、全員が待機していた。佐緒里はバッグの中からガス弾を出すと、安全ピンを抜いて美由紀を促した。そして佐緒里は床にガス弾を置くと、美由紀と一緒に控え室の外へ出た。床に置かれた物体からシューッという音とともに、乳白色のガスが出てきて、中にいた子供たちはあっという間にその場に倒れて眠ってしまった。佐緒里が使ったガス弾は即効性の麻酔ガスで、効き目は約30分。これも美紀子の作戦の一つで、イベントの参加者を控え室から、スケートリンクに行かせないという単純なものだったが、麻酔ガスの効果は覿面だった。美由紀と佐緒里は他の控え室を回り、外から扉を少し開けてガス弾を中へ放り、全ての参加者たちを眠らせることに成功した。佐緒里は携帯を出すと、美紀子に連絡を入れた。
「もしもし・・ 叔母様。作戦は成功よ。 ・・・ はい・・ 分かりました」
 その時館内放送が流れた。
『大変お待たせいたしました。スケート教室の参加者の方々は、準備が出来ましたので、スケートリンクの方にお集まりください。繰り返します。スケート教室の参加者の方々は、準備が出来ましたので、スケートリンクの方にお集まりください』
「美由紀さん。行くよ」
 美由紀は無言で佐緒里と一緒にスケートリンクへ向かった。一方絵里香と聖奈子は屋上から階段を下って、一階に降りたところで美紀子と合流した。
「今のうちに眠っている人たちを、全員外へ出すわよ」
「ハイ」
 美紀子はスティックを出すと、控え室の扉を開けて、眠っている子供たちに向けて振った。すると瞬時にそこからみんな消えた。別の場所にテレポートしたのだ。
 美由紀と佐緒里がスケートリンクに入ると、スポーツセンターの職員達は既におらず、リンクの中央にはプロスケーターとして招かれている女性が立っていて、黒ずくめの服を着た男達は、リンクの中と、周辺の通路にたむろしていた。佐緒里の目にも美紀子同様、男達の姿が戦闘員の姿に映った。そしてプロスケーターは怪人の姿に映ったのだ。
「美由紀さん。私にも奴等がネオ-ブラックリリーだって分かるわ」
 佐緒里は大声で怒鳴った。
「ネオ‐ブラックリリー! 化けていても私には分かるのよ! 子供たちを集めて何かを企んでいるのかは知らないけど、お前達の勝手にはさせないわ」
「し、しまった・・・ ばれていたのか。ええいっ・・ 者どもかかれ!」
 男達の姿が戦闘員の姿になり、女性スケーターがアマリリス魔人の姿になった。戦闘員が奇声を上げながら、美由紀と佐緒里に向かってきた。佐緒里はバッグから野球ボール大の煙幕弾を取り出すと、美由紀と一緒に安全ピンを抜いて投げつけた。たちどころに真っ黒い煙幕が吹き上がり、スケートリンク全体が煙幕に覆われた。
「イー」
「イィーッ」
「クソーッ! 煙幕だ・・ おのれ小娘ども。小ざかしい真似をしおって」
 戦闘員たちは煙幕の中で右往左往し、アマリリス魔人も真っ暗な煙幕の中でもがいていた。美由紀と佐緒里は即座にリンクから出て、通路にある非常シャッターと防火扉を閉めた。
「これでしばらくは大丈夫ね」
「美紀子さんたちを手伝いにいこう」
 美由紀と佐緒里が控え室に戻ると、どの部屋も誰もいなかった。そこへ絵里香と聖奈子がやってきた。
「美由紀、佐緒里ちゃん。美紀子さんがみんな外へ出したわ。私たちも外へ出るよ」
「分かった」
 しばらくすると、充満してきた煙幕の煙の影響で、火災報知器が鳴り始めた。
「ヤバ・・  厄介なことにならないうちに、早く外へ出よう」
 絵里香たちが外へ出てくると、美紀子が待っていた。美紀子にテレポートされた参加者の子供たちは、スポーツセンターの敷地内にある広場に集められていた。ガスの効き目が残っているらしく、まだ全員眠ったままだった。
「イベントの参加者達は全員無事よ。みんな、出てくる奴等に備えて」
「はい!」
 絵里香たちは近くにあった植え込みや、建物の陰に身を隠した。
「奴等が出てきても、ここで戦っては意味が無いわ。アジトの場所を突き止めるのが先決よ」
「オッケー」
 しばらくすると建物の扉が開き、黒い煙が外に漏れてきて、数人の職員がゴホゴホ言いながら飛び出してきた。
「だ、誰だ。こんないたずらをしたのは」
「全くけしからん」
 続いて黒ずくめの男達と一人の女性が飛び出してきて、職員達にぶつかって突き飛ばした。
「痛てっ」
「何だお前ら。ぶつかって何も言わないのか」
 続いて黒ずくめの男達と一人の女性は、乗ってきた車にそれぞれ乗り込むと、その場から急発進して駐車場から道路へ出た。
「みんな! 追うわよ。佐緒里も絵里香たちと一緒に行って」
「はい叔母様」
 絵里香と聖奈子はそれぞれ後ろに美由紀と佐緒里を乗せ、オートバイのアクセルをふかすと、走り去っていった車を追って飛び出した。続いて美紀子も駐車場から車で出た。車は鷲尾平の市内を西へ向かって走り、隣の神代市との境付近で脇道に入って、雑木林の中をしばらく走ってから、小高い丘がある手前で止まった。

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 絵里香たちは気付かれないように、少し離れた場所でオートバイを止め、そこで降りて木々の間に身を隠して様子を見た。

 絵里香たちは周囲が静かになったのを見計らって、隠れていた場所から出てきて、小山の回りを用心深く回った。
「どうやらこのあたりに奴らの基地があるみたいね。この小山の上には神社があるけど… 」
「どうやらその神社が怪しいわね。きっと地下にアジトがあるんだわ」

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「美由紀。美由紀の気持ちは充分過ぎるくらい分かってるからね。でも、魔人は倒さなければならないのよ」
 美由紀はまた曇った顔になった。そこで佐緒里が美由紀に言った。
「叔母様は、その魔人を元に戻すのと、魔人の弱点を探らせるために、私を絵里香さんたちと同行させたのよ。美由紀さん。私がついているから、そんな悲しそうな顔をしないで。絶対に元に戻す事が出来るから」
「ありがとう。佐緒里ちゃん」
 そこへ佐緒里の携帯に着信が入った。
「(叔母様だ) もしもし・・ はい・・ はい分かりました」
 佐緒里は携帯を切ると、絵里香たちの方に向き直った。
「叔母様から電話で、街での奴等の作戦は私が阻止するから、絵里香さんたちはネオ-ブラックリリーに拉致された人たちを助けて、アジトを潰すようにとのことです。叔母様は用が済んだらすぐにここへ来るそうです」
「分かった」
 絵里香たちは杉の木が茂る小山を用心深く登り、頂上にある神社の建物を見つけた。あたりを伺っても何の気配も感じられなかったが、絵里香たちは用心のため、すぐに突入するのをやめて、そばにあった一番太い杉の木に身を隠した。

      *      *      *      *

 ネオ‐ブラックリリーの地下アジトの司令室では、小山の周辺をうろついている絵里香たちの姿がモニターテレビに映し出されていた。
「アマリリス魔人! エンジェルス抹殺と人質作戦に失敗した上に、基地の場所まで嗅ぎつけられるとは何たるざまだ」
「申し訳ありません。ゼネラルダイア様」
「今度こそエンジェルスの小娘どもを血祭りに上げるのだ。こんどしくじったらお前を処刑する」
「ははっ! 必ずやエンジェルスの小娘どもを仕留めてご覧に入れます」
「よし! 行け!」
 アマリリス魔人は一礼すると戦闘員を伴ってゼネラルダイアのもとから立ち去った。その姿を遠目で見ながらゼネラルダイアは、そばにいた戦闘員の一人に聞いた。
「誘拐作戦の方はどうなっているのだ」
「はっ! 報告によりますと、順調にいっているようで、市内の高校や道場から運動能力のある者達を次々に拉致し、基地へ連れてくる手はずになっております。」
「よし!  連れてきた者どもを順番に改造し、魔人戦闘団を結成して、世界征服の先兵として使ってやる」
 その時、司令室に無線が入ってきて、それを聞いた戦闘員が青ざめた表情でゼネラルダイアのところにやってきた。
「大変です! ゼネラルダイア様。誘拐作戦に従事した戦闘員たちが次々とやられています」
「何だと? 一体どういうことなのだ」
 街では美紀子が自ら動いていたのである。美紀子は自慢の魔術でネオ‐ブラックリリーの動きを事前に察知し、先回りしてネオ‐ブラックリリーの戦闘員たちをことごとく倒していたのだ。
「くそっ! スカーレットエンジェルの仕業か! 忌々しいやつだ! こうなったら地下牢に閉じこめている者達だけでも、すぐに改造手術を施すのだ」

 一方、隠れて様子をうかがっていた絵里香たちは、神社の建物から出てくる魔人と戦闘員を見て飛び出そうとしたが、美由紀が止めた。
「待って。絵里香、聖奈子、お願いがあるの」
「何なの美由紀」
「魔人は私が何とかするから、その間にアジトを攻撃してほしいのよ」
 絵里香は一瞬考えていたが、美由紀の表情を見て納得したように言った。
「分かった美由紀。気をつけてね」
「うん」
 美由紀は軽く返事をすると変身し、出てきた魔人と戦闘員の前に飛び出して、自分の方に注意を引かせようと、わざと目立つような仕草をした。
「ほーらほらほら。私はここよ! 鬼さんこちら、手の鳴る方へ」
「エンジェルスの小娘! えーいふざけやがって! かかれかかれっ」
 美由紀は襲いかかってくる戦闘員たちを後目に、神社の参道を駆け下りていき、魔人と戦闘員たちがその後を追っていった。
「チャンスだわ。今のうちに突入しよう」
「オッケー!」
 絵里香と聖奈子は変身し、佐緒里も変身して神社の建物に入り、アジトに通じる階段を見つけてそこからアジトに突入した。ちょうどアジトではゼネラルダイアの指令で、拉致していた人達の改造手術が行われようとしていたところだった。
「待てッ! ネオ‐ブラックリリー! てめえらの勝手にはさせねえぞ!」
 そう叫びながら聖奈子は持っていたソードを手術室のコンピューターめがけて投げつけた。ソードは機械にまともに突き刺さり、機械が火花を散らしてショートした。
「おのれ! 小娘! 我々の作戦をよくも!」
 ゼネラルダイアは聖奈子めがけて鞭を振りかざした。聖奈子は紙一重の所で鞭をかわし、突き刺さったソードを抜いて、ゼネラルダイアに斬りかかった。ゼネラルダイアはそれをかわして電光剣を抜くと、聖奈子めがけて斬りかかり、聖奈子は楯でそれを跳ね返した。そこへゼネラルダイアと聖奈子との間に数人の戦闘員が割り込んできて、聖奈子に襲いかかってきた。
「小娘を殺せ! 殺すのだ!」

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 そう言ってゼネラルダイアは煙を吐いてその場から消えた。ショートした機械が小規模な爆発を繰り返し、アジトの室内にきな臭い臭いが充満して、戦闘員たちはたまらず外へ外へと逃げ始めた。その隙に絵里香と聖奈子は地下牢に閉じこめられていた人達を助け出し、アジトから脱出して安全な場所まで逃がすと、再び戻ってきた。そこでは十数人の戦闘員が態勢を整え、絵里香と聖奈子に一斉に襲いかかってきた。絵里香たちは襲ってくる戦闘員と格闘し、一人、また一人と倒していったが、戦闘員は後から後から襲ってくる。

 一方の美由紀は小山の麓で態勢を整え、追ってきたアマリリス魔人と戦闘員相手に身構えながらアマリリス魔人に向かって言った。
「真帆! 私よ。美由紀よ。私が分からないの?」
 アマリリス魔人は返事もせずに衝撃波を放ってきた。
「キャーッ!」
 美由紀は衝撃波を受け、その反動で後ろにひっくり返った。アマリリス魔人は爪先から冷凍ガスを発射し、地面を凍らせて即席のスケートリンクを作り出して、靴をスケート靴仕様にチェンジしてその上を滑りながら美由紀に向かってきた。
「真帆、やめて!」
「小娘! 覚悟しろ」
 アマリリス魔人は美由紀めがけて衝撃波を放った。美由紀は間一髪でそれをかわしたが、戦闘員たちもブーツをスケート仕様に切り替え、滑りながら美由紀を襲ってきた。
「このままじゃ戦えない・・ よし」
 美由紀はポーズを取り、ブーツをスケート靴仕様にチェンジした。これはエンジェルスの能力の一つで、自分のスタイルをある程度は自分の思い通りの形に変換できるのだ。立ち上がって体勢を立て直した美由紀は、戦闘員に向かって身構え、フィギュアスケートのテクニックをアレンジした技で戦闘員と格闘の末、襲ってくる戦闘員を全て倒した。美由紀はアマリリス魔人と向かい合い、必死に呼びかけた。

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「真帆、真帆。私だってば! 美由紀だってば。お願い。もうやめて!」
「小娘! 覚悟おしっ!」
 アマリリス魔人のスピンキックが炸裂し、美由紀はまともに魔人の蹴りを受けて転倒し、そのままリンクの隅っこまで滑走して、バチバチバチっという激しい衝撃波が襲ってきた。
「キャアーッ!! アアアーッ」
 即席リンクの周辺は、バーリアが張られていて、それに触れれば衝撃波が襲ってくるのだ。美由紀は絶叫とともに、身体がバーリアで跳ね返されて、倒れた状態のままリンクのほぼ真ん中まで滑走してきた。
「小娘。リンクの周辺はバーリアが張られていて、絶対外へは出られないのだ。さあ。今からお前とのデスマッチだ。たっぷりと嬲り尽くして、地獄へ送ってやる」
「真帆。やめて」
 アマリリス魔人はフィギュアスケートのテクニックをアレンジした技で、美由紀に攻撃をかけてきた。元々がフィギュアスケートの選手なので、技の切れもテクニックも本格的である。スピン、ジャンプ、トリプルアクセル、イナバウアーと、美由紀は猫に弄ばれる鼠のように、魔人の技に翻弄された。
「衝撃波を食らえ」

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 そしてついにアマリリス魔人の衝撃波が美由紀に炸裂した。
「キャアアァーッ!!」
 美由紀は絶叫とともに、反動で後ろにすべり、そのまま端っこのバーリアに激突した。
 バチバチッ!!!・・・・
「アァーッ」
 美由紀はバーリアの衝撃でその場に倒れこんだ。
「リリリリーッ。いよいよ最後だな。止めを刺してやる」
「真帆。やめてぇ」
 アマリリス魔人は再び衝撃波を放った。そこへ佐緒里のブレードが飛んできてバーリアに命中し、ショートしてバーリアが吹っ飛んだ。さらに聖奈子のソードが魔人と美由紀との間に飛んできて氷に突き刺さり、衝撃波が全て吸収された。絵里香と聖奈子、佐緒里は小山の上での戦いで戦闘員を全て倒し、美由紀を援護するために駆けつけてきたのだった。佐緒里はアマリリス魔人を見据え、額にある宝石のような物体が弱点であると即座に見抜いた。
「美由紀さん。魔人の額にある宝石を狙うのよ! そこが魔人の弱点よ!」
「でも… 」
 ためらう美由紀に向かって絵里香がさらに言った。
「信じるのよ! ブローチを破壊すればきっと元に戻るわ」
 ためらっている美由紀にアマリリス魔人が向かってきて、衝撃波を放つ態勢をとってきた。美由紀はとっさにアマリリス魔人の腕をつかみ、そのまま抱きついた。
「リリリーッ! 離せ! 小娘」
 アマリリス魔人は抱きついてきた美由紀を振り払おうとしたが、振り払えないので、そのまま衝撃波を放った。
 バチバチバチッ
 美由紀の体に衝撃波の衝撃が伝わった。が、美由紀は苦痛を堪えてさらに強く抱きしめた。
「絶対に離すもんか!  私が苦しいなら、真帆はもっと苦しいんだ」
 しかし、衝撃波を受け続けていた美由紀は、次第に意識が朦朧としてきた。
「な・・ なんて無茶な・・ 」
「このままじゃ美由紀が死んでしまう」
「助けなきゃ」
 周囲で成り行きを見守っていた絵里香たちは、美由紀を助けようと近づいた。その時、アマリリス魔人がいきなり叫び声を上げ、悶絶した。美由紀に送り込んでいた衝撃波が、美由紀に抱き付かれていたために、自分の方に逆流してきたのだ。
「リリリリーッ」
 ついにアマリリス魔人の身体全体が、バチバチバチッとショートしたように火花が迸り、額にあった宝石がパリーンという音とともに粉々に砕け散って、アマリリス魔人の身体がまぶしい光に包まれた。そしてそのまま抱きついた美由紀とともに、その場に倒れた。そこへ絵里香たちが駆け寄ってきた。
「美由紀。しっかりして」
 美由紀の身体もまぶしい光に包まれ、光が消えるとともに変身が解けた。一方のアマリリス魔人のほうも、光が消えるとともに浅倉真帆の姿に戻っていた。
 絵里香は美由紀を抱きかかえて美由紀を呼んだ。
「美由紀。美由紀。友達は元に戻ったよ」
 しかし、美由紀は動く気配がない。そこへ美紀子が車で乗り付けてきて、車から降りて駆け寄ってきた。
「絵里香、ちょっとどいて」
 美紀子は倒れている美由紀の身体を眺め、手首を持ったり胸に耳をあてたりして様子を確認し、隣で倒れている真帆も調べてから、絵里香たちに言った。
「大丈夫。二人とも生きているわ。病院に連れて行くから手伝って」
「はい」
 絵里香たちは気絶している美由紀と真帆を抱えあげると、美紀子の車に運び込んだ。

      *     *     *     *

 それから数日後・・・・
 鷲尾平市民病院から、美紀子に付き添われて出てくる美由紀と真帆を絵里香たちが迎えた。
「無事でよかったわ。それにネオ‐ブラックリリーに捕まった他の人たちも、みんな無事だったし・・・」
「どうもありがとうございました」
「真帆、全快してよかったね。またスケートが出来るね」
「うん。美由紀ありがとう。あなたが助けてくれたんだってね」
 真帆に言われて、美由紀は照れくさそうに頷きながら言った。
「それじゃ・・ 全快祝いにスケートにでも行くか」
 真帆は美由紀を見ながら無言で頷いた。
「よーし。そうと決まればレッツゴー!」
 美由紀は真帆と一緒に駆け出した。その姿を見ながら、絵里香がつぶやいた。
「あーあ・・ 元気になったと思ったら・・ 聖奈子。私たちも行こうか」
 聖奈子は無言で頷き、絵里香と一緒に小走りに駆け出し、美由紀たちの後を追っていった。


      *     *     *     *

 ネオ‐ブラックリリーの作戦はまたもエンジェルスによって打ち砕かれ、アマリリス魔人に改造された真帆も助けられて全快した。しかし、ネオ‐ブラックリリーは新たな作戦を立て、再び牙をむこうとしている。ネオ‐ブラックリリーある限り、エンジェルスの休息はないのだ。頑張れエンジェルス!

 (つづく)


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 次回予告
 第38話『絵里香記憶喪失』

 ネオ‐ブラックリリーのアジトを見つけた絵里香たちは、アジトに突入してアジトを破壊するが、引き揚げる途中で追撃に遭い、ゼネラルダイアの電光剣の攻撃で絵里香が負傷して、崖から転落してしまう。絵里香は崖の下に偶然居合わせた鷲宮親子に助けられ、みんなの元に帰ってくるが、絵里香はショックで記憶をなくしていた・・・

 次回 美少女戦隊エンジェルス第38話『絵里香記憶喪失』にご期待ください。

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テーマ : ライトノベル
ジャンル : 小説・文学