鷲尾飛鳥

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第47話『最後の戦い』

2014年 12月02日 19:58 (火)

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 鷲尾平市の北側にある緑ヶ丘公園の中で、遊歩道を二人で腕を組んで歩いているカップルがいた。男の子は黒川孝一。女の子は赤城絵里香。2人は相思相愛の恋人同士である。

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 しかし、楽しいデートのはずが、2人は公園に入ってから終始無言だった。しかも絵里香はガラにもなく落ち着きが無くて、何かソワソワした感じで、心ここにあらずというのが孝一にははっきりと分かっていた。
「絵里香・・ おい、絵里香!」
「え・・ あ・・ な、何? 孝一」
「何じゃねえよ。一体どうしちまったんだよ。お前・・ さっきからずっと上の空で、心ここにあらずって感じだぞ」
「そう・・ みえる?」
「見えるに決まってんだろ。お前とは何年付き合ってると思ってんだよ。お前の考えてる事なら、大体お見通しだぜ。大方ネオ‐ブラックリリーの事が気になるんだろ」
「分かっちゃった?」
「当たり前だよ」
 絵里香はため息をついてから孝一に向かって言った。
「ねえ孝一。私の話・・・ 怒らないで聞いてくれる?」
「ああ。奴等の事が気になるんなら、この場で言いたい事言っちまえよ」
「ありがとう孝一」
 絵理香は一呼吸置いてから話し始めた。
「私たちは大幹部のゼネラルダイアを倒したわ。でも、まだ戦いは終わっていないのよ。ゼネラルダイアは死ぬ直前に、大首領が動き出して既に世界征服の行動を起こしているって言っていた。もう動き出しているって事は、何処かで何かが起こってるって事じゃないの」
「確かにそうだな。でも、美紀子さんも佐緒里ちゃんも、何も感じてないんだろ?」
「今必死になって探っているわ。ねえ。孝一。ANGELへ行きたいんだけど、いい?」
「ああ・・ いいよ。気になるんだったら行こうぜ。俺もバイトに入るから」
「ありがとう。私の我侭聞いてくれて」
「もう言うな絵里香。照れ臭いだろ」

    *  * * *

 ここはN県天間村の某所である。突然地震が発生し、大地が揺れた。そして人気の無い場所の地面が突然盛り上がり、大きな植物の茎が地上に出てきて、その先端に大きな蕾が出てきたかと思うと、直径6メートルくらいの花が開き、地表から無数の蔓が出てきた。そこを一頭のイノシシが通り抜けようとした。蔓は一斉にイノシシに向かい、イノシシをあっという間にグルグル巻きにして、大きな花の中にイノシシが放り込まれ、イノシシは断末魔の叫びとともに花に食われた・・・ そして・・・   大きな茎はさらに伸び上がり、やがて地中から巨大な球根が現れて、その醜怪な姿が地上に出てきた。まさに怪物・・・ いや、怪獣と呼ぶに相応しいかもしれない。
「リリリリリリーッ!!」

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 この怪物は一体何なのか・・・ 怪物は雄叫びとともに全身を水蒸気のような煙で包み込み、煙が晴れると、これまた醜怪な妖怪のような姿になった。

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「イーッヒッヒッヒッヒッヒーッ!!」
 そこへ何処からとも無く、ネオ‐ブラックリリーの戦闘員が姿を現し、怪物は衣服をひるがえして人間体になった。これこそネオ‐ブラックリリー大首領のクイーンリリーである。
「大首領様。アジトの用意が出来ております」
「よろしい。大儀であった。さっそく案内せよ」
「イーッ!」
 N県の天間村はかつて大首領クイーンリリーが最初に降り立った場所であり、当初はこの地を根拠地として、世界征服の作戦行動をしていたのだが、クイーンリリーを追ってきたスカーレットエンジェルの妨害に遭い、富士山麓の青〇ヶ原樹海の一角に新たな根拠地を設ける事になって、天間村の根拠地を全面放棄した経緯がある。また、エンジェルスがネオ‐ブラックリリーと戦い始めてからも、この地はたびたびネオ‐ブラックリリーの作戦基地が置かれた因縁の場所でもあるのだ。そのためかつてのアジトの跡が多数存在していたため、根拠地設営には最適な地域だった。

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 司令室に入った大首領クイーンリリーは、戦闘員たちを自分の元に集めた。
「準備は出来ているか?」
「イーッ。既に作戦用の再生魔人も作り出されております」
「よろしい。魔人たちを呼び出すのだ」
「イーッ。かしこまりました。大首領様」
 暫くして作戦室に再生魔人がゾロゾロと入ってきた。
「皆のものよく聞け! いよいよ我がネオ‐ブラックリリーが、愚かな人類に対して大攻勢をかけるときが来たのだ。最後に笑うのは我々だ。ネオ‐ブラックリリーがこの世界を征服して我が物とし、全世界に君臨するその日は近いのだ。そしてこの地球を全宇宙制服のための大要塞に作り変え、我がネオ‐ブラックリリーは宇宙全体の覇者となるのだ」

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「イーッヒッヒッヒッヒ」
「ギギギギーッ」
「アバババババーッ」
 室内に魔人たちの奇声が響き渡った。
「さあ行け! 私の忠実な僕たちよ。愚かな人類を根絶やしにして、我がネオ‐ブラックリリーの天下を築くのだ」
 魔人たちは奇声を発しながら司令室を次々と出ていった。

    *  * * *

 ANGELでは佐緒里が例の能力を使って、地図を眺めていた。傍では聖奈子と美由紀が心配そうに眺めている。その時ベルの音とともに扉が開いて、絵里香と孝一が店内に入ってきた。
「絵里香来たの? 孝一君とゆっくりデートしてれば良かったのに」
 孝一が首を横に振ってから言った。
「絵里香が、奴等の事が気になって、それどころじゃないって」
 聖奈子と美由紀は絵里香の顔を見て、絵理香は二人に向かって無言で頷いた。孝一は自分のエプロンを手に取ると、それを身に着けてカウンターに入り、絵里香はタウジングのような事をしている佐緒里の傍へ行った。
「佐緒里ちゃん。まだ分からないの?」
「うん・・ 天間村でかなり強い気配を感じたんだけど、すぐに消えてしまったんです」
「天間村・・・ 美紀子さんは?」
「叔母様は自分の部屋にいます。ACAの暗号無線を傍受したんで、その暗号を解読してるんです」
「ACA? 確か宮代先生が連絡係だったはずよね」
「宮代っていえば・・・ 麻美ちゃんたちどうしてるかな・・ 」
「お正月にあったきりだけど、懐かしいね」
 その時部屋の戸が開いて、美紀子が出てきた。
「みんないたの? 丁度良かったわ。すぐ出かけるから準備して」
「どうしたんですか美紀子さん」
「奴等の動きがつかめたのよ。解読した暗号無線の内容と、佐緒里が探った内容が一致したわ。奴等は天間村を新しい根拠地にして、この日本に大攻勢をかけようとしているのよ。そして奴等は私たちと、私たちに関係した人たちの抹殺も企てているわ」
 絵里香たちは美紀子の話を聞き、それぞれお互いの顔を見合った。

 こちらは鷲尾平市と同じS県の和久井村。村の中心地から少し離れた場所にある診療所では、近隣に住む人たちが集まって、診療所前の広場でバーベキューパーティーが開かれていた。現在勤務している医師の宮代早苗がこの診療所を離れて、本来勤めていた都内の病院に戻る事が決まり、お別れ会と祝賀会。そして壮行会を兼ねてのものだった。その中には早苗の従妹である麻美は勿論、麻美の友人の紫央もいた。そしてその様子を眺めている怪しい影が・・・
「ふん! 楽しんでいるのもあと少しだ。大首領様の命により、エンジェルスに協力した奴等は全て抹殺する」
「しかし今はまずい。人の数が多すぎる」
 影の正体はネオ‐ブラックリリーのピラニア魔人と金魚魔人にモウセンゴケ魔人。そして多数の戦闘員だった。

    *  * * *

 ネオ‐ブラックリリーは大攻勢の前に、エンジェルスと関係がある人物の抹殺作戦を展開しようとしていたのだ。かつてエンジェルスがピンチに陥った時、エンジェルスと共同戦線を張って、ともに戦った宮代麻美と相守紫央。そして麻美の従姉の早苗。さらには城北大学の秋元教授夫妻も抹殺のリストに載せられていた。だが大部分の人たちは、ネオ‐ブラックリリーの通信を傍受したACAが発した暗号無線により、事前に危機を知って、それぞれ危険を回避していたので、ネオ‐ブラックリリーの作戦行動が空振りに終わっていた。しかし麻美たちにはまだその事実が伝わっていなかったため、魔人たちがやってきて狙っていたのだ。その訳は・・・・・
 バーベキュー大会が終わって後片付けも終わり、麻美と紫央は診療所内のリビングでくつろいでいた。早苗は自分の部屋に戻ってパソコンの電源を入れた。立ち上がると同時にアラームが鳴り、メールを受信したので、早苗はメールを開いた。その内容を見た早苗の顔色が変わった。メールの内容がACAからの暗号無線が解読されたもので、自分達に危険が及んでいる事を知らせるものだったからだ。早苗は今日は朝から外にいたので、今の今まで情報が来ていることを知らなかったのだ。早苗はメールの内容をプリントアウトすると、自分の部屋を出てリビングに飛び込んだ。早苗の表情を見た麻美は、只事ではないと悟った。
「どうしたの早苗姉さん。そんなに血相変えて。顔色が悪いよ」
「麻美。紫央ちゃん。すぐここから逃げるのよ」
「逃げるって・・・  先生。一体何事なんですか?」
「これを見て」
 早苗は持っていたデータを麻美と紫央に見せた。
「何これ・・・ 抹殺リスト・・・ ネオ‐ブラックリリーがエンジェルスに関係した人たちを狙っているって事・・・ つまり私たちがその中に入ってるってこと?」
「麻美。早苗さん・・・ もう遅いかも・・・ 」
 紫央がゆっくりとした口調で独り言のように呟き、2人とも紫央の顔を見たので、紫央は窓の外を指差した。診療所の周囲では、様子を窺っていた魔人と戦闘員たちが、襲撃の体勢をとっていたのだ。
「完全に囲まれている」
「蟻の這い出る隙間も無いわ」
 早苗は携帯電話を取り出してスイッチをオンにすると、美紀子宛に緊急信号を発信した。
「紫央、早苗姉さん。私が囮になってやつらを引き付けるから、その隙に逃げて」
「でも麻美一人じゃ・・ 」
「もう時間が無いよ。紫央、早苗姉さん。早く!」
 そこへ突然大きな声が聞こえてきた。
「おとなしく出てこぉい! 五つ数える。出てこなければ建物ごとお前らを焼き払ってやる」
 ピラニア魔人がハンドマイクで怒鳴り、その傍らでは火炎放射器を持った数人の戦闘員が攻撃態勢をとっていた。
「あいつら、ここを焼き払うつもりだ」
「ひとーつ!」「ふたーつ!」「みーっつ!」「よーっつ!」
「待ちなさい!!」
「ン??」
 ピラニア魔人が声のした方を向くと、診療所の屋根の上にミルキーピンクが立っていた。
「何だお前は」

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「私は正義の戦士ミルキーピンク! ネオ‐ブラックリリーの化け者ども! お前たちの勝手にはさせない!」
「くそぉ。おのれ! エンジェルスの小娘どもの仲間か! 者どもやってしまえ!」
 戦闘員が一斉に火炎放射器を麻美に向けた。
「クロス・パワー!」
 ミルキーピンクのグローブに埋め込まれた宝石が光を放つ。クロス・パワーによって麻美の力は普段の何倍にもアップするのだ。
「必殺ミルキーフラッシュ!」
 麻美の両手から強烈なエネルギー波が放たれ、戦闘員に向かっていって、戦闘員の周辺で次々と着弾し、戦闘員が絶叫とともに吹っ飛んで、火炎放射器の燃料に引火し、吹っ飛んだ戦闘員が紅蓮の炎で焼き尽くされた。さらに炎は傍にいたピラニア魔人にも飛び火した。
「アーッチチチチチーッ! おのれ小娘!」
 麻美はジャンプすると、空中で一回転してピラニア魔人目掛けて急降下した。
「ミルキーキック!」
 その時突然一塊のスライム状の物体が飛んできて麻美に命中し、物体に包み込まれた麻美は態勢を崩して地上に叩きつけられた。その物体の正体は、モウセンゴケ魔人が放った強力粘着液だった。麻美の体は粘着液で地上に貼りつき、身動きが取れなくなった。
「く・・・ う、動けない・・・ か、体の力が抜けていく・・・ 」
「ビダビダビダーッ! 俺様の粘着液の威力を見たか! それはお前のエネルギーを吸い取る性質もあるのだ」
「う・・ もうダメ・・・ 」
 数分後には麻美は変身が解けて、完全にスライムの中に取り込まれてしまっていた。

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「ギョギョギョーッ! この野郎。手間取らせやがって! ぶっ殺してやる」
「ビラビラビラビラーッ。お前を喰ってやる」

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 そう言いながらピラニア魔人と金魚魔人が近づいてきて、ピラニア魔人が大きな口を開いた。麻美を食って丸呑みにするつもりなのだ。
「待て! そいつを殺さないで、生け捕りにするのだ」
 突然空から声が響いてきた。声の正体は大首領のものだった。
「そいつを使って小娘どもを誘き出し、一網打尽にするのだ。その手段は任せる」
「かしこまりました。大首領様」
 そこへ屋内に乗り込んだ戦闘員たちが戻ってきた。
「イーッ! 他の奴等は見当たりません」
「逃げられたか・・ まあいい。人質は確保した。者ども引き揚げだ!」
 近くの林の中から早苗と紫央が、魔人たちと戦闘員たちのやり取りを眺めていた。
「麻美・・・ 私たちのために・・ 必ず助けるから待ってて」
「紫央ちゃん、静かにして。私たちまで捕まったら、麻美の行動が無駄になってしまう」


 その頃天間村へ向かっていた絵里香たちは、早苗からの緊急信号をキャッチした。美紀子は自分の車に佐緒里と美由紀を乗せ、絵里香と聖奈子は美紀子の車の後ろからオートバイで走っていた。信号をキャッチした美紀子は車を道路わきに停止させ、絵里香と聖奈子もその傍らにオートバイを停止させた。
「早苗さんからの緊急信号よ」
「早苗先生の?」
「きっとあの無線と関係があるんだわ」
「絵里香。聖奈子。美由紀。あなたたちはすぐに和久井村へ向かって」
「美紀子さん大丈夫ですか?」
「私と佐緒里のことは心配しなくてもいいわ。すぐに行きなさい」
「はい」
 聖奈子は後ろに美由紀を乗せると、絵里香と一緒にオートバイのアクセルをふかして、今まで走ってきた道を引き返していった。
「佐緒里。私たちも行くわよ」
「はい叔母様」

    *  * * *

 それから約30分が経過した。
 和久井村に入った絵里香たちは、真っ直ぐに診療所がある所まで来ると、診療所から距離をおいてオートバイを停止させた。空は既に薄暗くなり、日が沈みかけていた。
「随分静かね」
「聖奈子、美由紀。油断しないで」
 絵里香たちはダッシュして診療所の傍まで駆けると、それぞれ診療所の建物の壁に張り付いた。その時、隣の敷地にある林の中でガサガサという音がして、絵里香たちは一斉に音がした方を向いた。
「誰かいるわ」
 絵理香は身構えながら林の方を見て叫んだ。
「誰!?」
 すると林の中から早苗と紫央が出てきた。
「早苗先生・・ それに紫央さん」
「麻美ちゃんはどうしたの? 一緒じゃないの?」
 紫央は絵里香たちに縋りつくように言った。

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「お願いみんな! 麻美を助けて」
「え? 助けてって・・・ まさか麻美ちゃんが?」
「私と紫央ちゃんを逃がすために囮になったのよ。でもさすがの麻美も、魔人3人相手では分が悪かったわ」
「捕まったのか・・・ 」
 絵里香たちはお互いの顔を見合った。
「早く助けに行って! このままじゃ麻美が殺される」
 紫央の声は涙声になっていて、目が完全に泣いていたので、聖奈子が宥めた。
「紫央。落ち着いて。奴等の事だ。あたし達が行くまでは麻美は殺されない」
「そうよ。奴等は麻美ちゃんを使って私たちを誘き出すつもりなのよ」

「察しがいいなぁ。小娘ども!」
 突然声が響いてきて、絵里香たちは周囲を見回した。
「何処だ! 出て来い!」
「聖奈子。あそこ!」
 美由紀が診療所の屋根の上を指差した。屋根の上にはピラニア魔人が立っていて、紫央はピラニア魔人に向かって怒鳴った。
「化け物! 麻美を返せ!」
 ピラニア魔人は返事もせずに、ナイフを投げつけてきた。
「危ない紫央ちゃん!」
 美由紀が紫央の腕をつかんで引っ張り、ナイフは今まで紫央が立っていた場所の地面に突き刺さった。
「ビラビラビラビラーッ!」
 ピラニア魔人は奇声とともに屋根からジャンプすると、そのまま空中に消えた。
「待て! 化け物!」
「聖奈子待って!」
 絵里香は地面に突き刺さったナイフの傍まで行くと、ナイフを引き抜いた。ナイフには手紙がつけられていて、絵里香はその手紙を開き、読み終えるとみんなに回した。
『お前らの仲間は、明日の正午きっかりに処刑する。助けたければ観音山まで来い』
「あたし達への挑戦状だわ」
「観音山って・・・ 」
 早苗が方向を指差しながら答えた。
「和久井村の観光の名所よ。ここから10キロほど行った場所にあって、頂上には大きな観音様が三つ並んでいるの。麓からもよく見えるわ」
 絵里香たちは早苗が指差した方向を見つめた。
「(麻美・・・ 待ってて。絶対助けるから)」
 既に日が落ちて、あたりは暗くなりつつあった。

    *  * * *

 美紀子と佐緒里は既に天間村に着いていて、天間村のペンションの食堂にいた。
「そう・・・ 分かった。それじゃそっちの方は任せたわ」
 美紀子は携帯電話のスイッチを切った。
「叔母様。何があったの?」
「恐れていた事が起きたわ。絵里香たちの友達の麻美ちゃんが奴等に捕まったのよ」
「麻美さんが?」
「佐緒里。すぐに周りに結界を張るのよ」
「はい」
 美紀子と佐緒里はペンションの周りに結界を張る準備をした。こうしておけば、ネオ‐ブラックリリーのゲリラ戦法を防ぐ事が出来るのだ。ペンションには美紀子と佐緒里のほか、美紀子に代わって経営を任されている古川夫妻がいた。自分たちだけならばともかく、二人を巻き添えにするわけにはいかないからである。
 美紀子と佐緒里は、ペンションの周りに赤外線センサーと、バーリア発生装置をセットした。
「こうしておけば大丈夫」

 そして夜が更けた頃・・・
 ペンションの周辺に不穏な動きがあった。
「バーッファーッ!」
「リリリーッ」

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 暗闇の中からバッファロー魔人とスズムシ魔人が姿を現し、ペンションの様子を窺い始めた。さらに戦闘員も姿を現した。
「情報では既に小娘どもは動き出している。この建物の中には小娘どもの仲間がいる。占領して人質を取り、ここを前進基地として使う」
「よーし! 襲撃開始だ」
 スズムシ魔人がペンションに近づいた。
 バリバリバリッ
「リリリーッ!」
 スズムシ魔人の身体が、何かに跳ね返されたかのように吹っ飛ばされ、尻餅をついた。
「何だ! 何があったのだ」
「バーリアだ。バーリアが張られている」
「何だと!? よーし!」
 今度はバッファロー魔人が突入体勢をとった。が、突っ込むと同時にバリバリッという衝撃とともに吹っ飛ばされた。
「おのれ! 姑息な真似をしおって」
「バーリアが張られているんでは、手がつけられん。とにかくこの場はひとまず引き揚げて、次の作戦の準備だ」
 窓からは美紀子と佐緒里が様子を窺っていて、魔人たちと戦闘員たちが逃げ帰っていく様子が見えた。
「やっぱり来たわね・・・ 今回は撃退出来たけど、次は・・・ 」
「叔母様。絵里香さんたちが早く来ないと、ここも危なくなるわ」
 美紀子の後ろでは、古川夫妻が心配そうに見ていた。

    *  * * *

 翌日・・・
 診療所の前では物々しい雰囲気が漂っていた。みんな緊張していた。それもそのはず。正午には麻美が処刑されてしまうのだ。それに美紀子から電話があって、ペンションが襲撃された事が分かっていたので、絵里香たちとしては、早く天間村へ向かいたかった。早苗は自分の車のエンジンをかけると、紫央に助手席に乗るように促し、絵里香と聖奈子もオートバイのエンジンをかけてスタンバイした。
「早苗さんの話では、奴等は3人の魔人と多数の戦闘員がいるわ。聖奈子も美由紀も気をつけて」
 まず絵里香と聖奈子が発進し、続いて早苗が車を発進させた。15分くらい走って、絵里香たちは国道から観音山へ行く道路に入った。その様子を戦闘員が見張っていた。
「奴等が向かってる。連絡だ」
「イーッ」
 戦闘員の一人が無線の操作を始めた。


 絵里香たちは早苗と紫央を伴い、観音山への道を急いでいた。一方、観音山の頂上にある公園の広場では、3人の魔人たちが絵里香たちの来るのを待っていた。そこへ戦闘員がやってきた。
「イーッ! 無線連絡です。小娘どもが向かってきます」
「ビタビタビターッ! 来たかぁ。よーし! 捕虜の小娘を連れて来ぉい」
 戦闘員に後ろから突付かれながら、後ろ手に縛られた麻美が魔人たちの前に引き出された。モウセンゴケ魔人は麻美の顎を小突きながら言った。

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「おい小娘。もうすぐお前の仲間が、お前を助けにやってくるぞ」
「え? そうか・・・ 絵里香さんたちが来てくれるのね。だったらお前たちなんかもうおしまいだわ!」
「ウルセエッ! ギョギョーッ! 」
 ドカッ!!
「キャッ!」
 金魚魔人が麻美を蹴り飛ばし、縛られていた麻美は反動で地面に叩きつけられて転げた。
「痛たた・・・ 何よ! 乙女を足蹴にするなんて最低な奴ね!」
「やかましいぃーっ! ビタビタビターッ!」
 そう言いながらモウセンゴケ魔人がやってきて、地面に横になった麻美の上から、麻美を踏みつけた。
「ぐ・・ うう・・ あああ・・」
 身体を踏んづけられ、屈辱と苦痛に呻く麻美・・・
「ビタビターッ。お前ミルキーピンクとかいったな。どうだ悔しいか。我がネオ‐ブラックリリーに歯向かった事を後悔させてやる」
「う・・ うるさい! 私は絶対に負けないわ。最後まで希望を捨てない! 正義は必ず勝つのよ」
「ふん! 減らず口の多い奴だ。最後に笑うのは正義などではない。我々悪なのだ。処刑の準備をしろ。ビタビタビターッ」
 戦闘員がやってきて、麻美を起こすと、引き摺るように処刑台のほうへ引っ張っていった。処刑台の前ではピラニア魔人が待っていた。麻美は猿轡を噛まされて両足も縄で縛られ、その縄は処刑台に立てられた梁にかけられて、ピラニア魔人がその縄を引っ張った。
「んん・・ んんーっ!(嫌。嫌ッ。やめてぇーッ)」
 麻美の体は足の方から吊り上げられて逆さ吊りの恰好になり、縄は大きな木に巻きつけられて固定された。麻美の体は地上から2メートルくらいの高さで宙吊りの恰好になっていた。幸いな事にスカートではなかったので、捲れて下着が見える事は無かったが・・・
 さらに逆さ吊りになった麻美の真下には、戦闘員たちが運んできた大きな石が置かれた。ロープを切れば麻美は頭からその石に激突するという仕組みだ。待っているものは確実な死・・・ 麻美は自分の真下に置かれた石を見て青ざめ、目からは涙が滲み出てきた。

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「いいざまだな小娘。あと少しで正午になる。そうしたら楽になるぜ。ビラビラビラーッ」
「ンーッ!! ンーッ!!(こんな事で・・ 私は絶対に負けない。最後まで望みを捨てないわ。みんなが助けに来てくれるんだから)」
 正午まであと30分・・・・・


 絵里香たちは既に広場が見えている場所まで来ていて、広場での一部始終を見ていた。
「酷い・・・・ なんて事しやがるんだ」
「ネオ‐ブラックリリーの奴等・・・ 絶対に許すもんか」
 逆さ吊りにされた麻美の姿を目の当たりにした紫央は、今にも飛び出していきそうな勢いだったが、絵里香が止めた。
「紫央さん。焦っちゃダメよ」
「うん・・ わかってるよ (麻美・・ 絶対助けるから)」
「でも、ここからは広場まで大体300mある・・  広場の周りは何も無いから、気付かれずに近づくのは不可能だわ」
 早苗が広場の方を見ながら呟いた。
「早苗さん。それだけじゃない。奴等の事だ。きっと沢山の仕掛けがあるに違いないわ」
「絵里香。そんな事言っても、このままじゃ麻美ちゃんが・・ 」
「聖奈子、美由紀。ちょっと来て。早苗先生と紫央さんも」
 絵里香は聖奈子と美由紀を自分の傍に寄せた。早苗と紫央も傍へ寄ってきた。


 絵里香たちが来るのを今か今かと待っていたピラニア魔人たちは、広場に向かって歩いてくる絵里香たちの姿が目に入った。絵里香たちの後ろからは、少し離れて紫央と早苗もついてきていた。既に絵里香たちはエンジェルスに変身している。
「来たな小娘ども・・・  地雷で木っ端微塵に吹っ飛ばしてやぁる。者ども。攻撃用意だ!」
「イーッ」
 戦闘員たちがそれぞれの持ち場へと散っていった。
「地雷の起爆装置をセットしろ」
「地雷原まであと20mです」
 絵里香たちが地雷原に入った。
「今だ。やれっ!」
 起爆装置のスイッチが入れられ、3人の周辺で次々と爆発が起きて地面が吹き上がり、絵里香たちは身を竦めた。
「聖奈子、美由紀。走るよ」

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 絵里香たちは爆発の中を猛然とダッシュした。爆発は次々と起こり、地面が吹き上がる。そしてついに絵里香たちの最至近距離で地雷が爆発し、爆発がおさまった時にそこには絵里香たちの姿は無かった。
「やったぞ!! エンジェルスの小娘どもは地雷で木っ端微塵だ」
 成り行きを見ていた魔人と戦闘員たちは、勝ち誇ったかのように息巻いた。そして逆さ吊りにされていた麻美は、絵里香たちが消えたのをみて、顔を背けた。
「んーっ・・・ (絵里香さんたちが・・・ )
 麻美の目からは涙がにじみ出てきた。そこへピラニア魔人が寄って来て、麻美を小突いた。
「どうだ小娘。お前を助けに来る奴はいなくなったぞ。ザマァミロ」
「んーっ(もう・・・ もうダメだ・・ 私・・ このまま死んじゃうの???)」
 麻美はミルキーピンクである。しかし、この状態では変身など出来ない。頼みの綱であったエンジェルスが吹っ飛ばされて消えてしまった今、自分を助けてくれる者はいないのだ。麻美は絶望感から、大粒の涙を流した。そこへ・・・
 ドオーン!!!
 轟音とともに地面が爆発で吹き上がり、近くにいた戦闘員が絶叫とともに吹っ飛ばされた。
「何だ!! 何事だ」
 爆発は立て続けに起きて、魔人たちのそばでも爆発が起こり、金魚魔人とモウセンゴケ魔人が爆風で吹っ飛ばされ、地面を一回転した。
「ええいくそっ!! 一体何が起きたんだ」
 ピラニア魔人は処刑台のところから離れた。そこへまた爆発が起きて、ピラニア魔人は飛んでくる土の塊を両手で払いのけた。
「くそっ! 何者だ。何処から攻撃してくるのだ」
「上だ! 上からだ。空から何か来る」

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 金魚魔人が空を見ながら叫んだ。太陽をバックに上空に三つの影が現れ、地上にむけて降下してきた。
「あれは何だ・・・ 」
 逆光であったため実体がシルエットのように見えたのだ。地上に降り立ったのは、地雷の爆発で消えてしまったはずのエンジェルスだった。絵里香たちは着地すると同時に、魔人に向かって身構えた。
「私たちは正義の戦士! 美少女戦隊『エンジェルス!』」
「小娘ども。地雷の爆発で死んだのではなかったのか」
「お生憎様。ちゃんと脚はあるわよ」
「あたしたちがそう簡単にくたばるとでも思っていたの!?」
「ネオ‐ブラックリリーがいる限り、私たちは絶対に死なない」

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「私たちがいる限り、お前達の勝手にはさせない!」
 絵里香たちが無事だったのを見た麻美は、また大粒の涙を流した。
「おのれ小癪な! 者どもかかれっ!」
「イーッ!」
 戦闘員が奇声を上げながら絵里香たちに襲いかかり、絵里香たちとの間で格闘戦になった。魔人も戦闘員もみな絵里香たちに気を取られ、処刑しようとしていた麻美はもう眼中になかった。その時処刑台に紫央と早苗がたどり着き、麻美の傍に駆け寄った。2人は絵里香たちの周辺での爆発の爆煙と火柱をうまく利用して、その隙に回りこんで処刑台に近づいたのだ。魔人たちや戦闘員たちが絵里香たちに気を取られていたため、2人は誰からも発見されず、処刑台の傍まで来る事が出来たのである。
「麻美。助けに来たよ」
「んー・・・(紫央、早苗姉さん)」
「麻美。暴れないで。今助けるから」
 紫央が麻美の体を押さえ、早苗がナイフで麻美を縛っているロープを切り、続いて吊るしているロープを切った。麻美の体が落下してきて、それを紫央が上手く支えて降ろし、麻美は両手を地面について逆立ちの恰好から体を回し、足を地面につけて立つと、自分で猿轡を外して地面に叩きつけた。
「麻美。大丈夫?」
「ありがとう紫央。早苗姉さん。おかげで助かったわ」
 麻美は紫央と早苗にお礼を言ってから、絵里香たちが戦っている様子を眺めた。麻美の視線の先には自分の事を弄り物にした魔人たちの姿があった。
「畜生・・・ あいつら・・ よくも私をいたぶったな」
 麻美は猛然とダッシュすると、走りながらポーズをとった。
「クロスチェンジ!」

 絵里香たちと戦闘員との格闘戦は、相変わらず続いていた。何しろ戦闘員の数が多かった。3体の魔人たちは戦闘員の集団の外から、絵里香たちへの攻撃の隙を窺っていた。美由紀のハイキックが炸裂して、戦闘員が吹っ飛ばされ、モウセンゴケ魔人のそばに転がってきた。

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「ええい役立たずめ!  退け退け!」
 モウセンゴケ魔人は自分の前に転がってきた戦闘員を踏んづけると、美由紀目掛けて攻撃態勢をとり、粘着液を発射した。
「美由紀ちゃん危ない!」
 突然の声に美由紀は反射的に体を捻った。美由紀のすぐ傍を粘着液が飛んでいって、美由紀の後ろにいた戦闘員2人に一度に命中した。
「イ゛ィーッ」
 粘着液塗れになった2人の戦闘員はお互いがベッタリと張り付いて離れなくなった。
「今の声は何処から?」
 美由紀が周りを見回していると、モウセンゴケ魔人が美由紀に襲いかかってきた。不意を疲れた美由紀は態勢を崩したが、モウセンゴケ魔人が組み付いてくる前に、後ろから麻美がモウセンゴケ魔人にタックルし、モウセンゴケ魔人はバランスを崩してそのまま地面に転げた。
「美由紀ちゃん危機一髪!」
「ありがとう麻美ちゃん。助けられたのね」
「うん。一時は死ぬかと思った」
 その時態勢を立て直したモウセンゴケ魔人が、麻美に向けて粘着液を放った。
「麻美ちゃん! 後ろ!!」
 美由紀が怒鳴り、麻美は反射的に体を捻ってその場から横転した。今まで麻美がいた場所に粘着液が着弾した。
「美由紀ちゃん気をつけて。奴の粘着液はエネルギーを吸収してしまうのよ」
「分かった。ありがとう麻美ちゃん」
「ビタビタビタ-ッ!」
 モウセンゴケ魔人が奇声を上げながら猛然と向かってきた。美由紀は組み付かれる直前にバック転して攻撃を避け、美由紀の後ろにいた麻美がモウセンゴケ魔人に向けてエネルギー波を放った。
「ミルキーフラッシュ!」
「ビタビターッ!」
 エネルギー波がモウセンゴケ魔人に命中し、モウセンゴケ魔人は衝撃でよろけた。
「化け物! よくも私をいたぶったな。借りを返してやる!」
「何を小癪な! 返り討ちだ。ビタビターッ!」
 麻美とモウセンゴケ魔人とで、取っ組み合いの格闘になった。美由紀は麻美を援護しようとしたが、戦闘員に阻まれたうえに周りを囲まれた。

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 一方、絵里香と聖奈子も周囲に群がっている戦闘員相手に戦うのが精一杯で、しかも2人には金魚魔人とピラニア魔人が襲いかかってきた。ピラニア魔人と金魚魔人が同時に火炎を放射してきて、絵里香と聖奈子の至近に着弾し、二人の周辺で紅蓮の炎が上がった。さらに爆発が立て続けに起こって、数人の戦闘員が巻き添えで吹っ飛んだ。
「小娘ども! 焼き殺してやる。ギョーッ!」
 金魚魔人が火炎を放射してきて、絵里香と聖奈子は空へ向けてジャンプした。今まで2人がいた場所を炎が通過していく。絵里香と聖奈子は金魚魔人の背後に着地した。
「ビラビラビラーッ!」
 今度はピラニア魔人が襲いかかってきて、絵里香と聖奈子は武器を手に身構えた。残っていた戦闘員たちが周囲を取り囲んで、ジリジリと迫ってくる。

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「聖奈子。焦って飛び出したら奴等の思う壺だよ。ここはじっくり構えて」
「うん。わかった!」
 しばらくの間、お互いの睨み合いが続いた。先に仕掛けてきたのは戦闘員だった。数人の戦闘員が一斉に二人に向かって飛び掛ってきた。
「聖奈子! 今だ」
 絵里香と聖奈子は同時にジャンプした。今まで2人がいた場所に戦闘員が殺到して、それぞれぶつかった。そこへどういうタイミングか、ピラニア魔人と金魚魔人が同時に火炎を放射し、固まっていた戦闘員に降りかかって爆発し、戦闘員が断末魔の悲鳴とともに吹っ飛ばされた。ジャンプした絵里香と聖奈子は空中で一回転し、着地して攻撃態勢をとった。
「化け物め。引導を渡してやる! 今度こそ迷わず成仏しやがれ!」
 聖奈子がいつもの男言葉で、ソードとシールドを持って身構えた。続いて絵里香もブレードの切っ先を魔人に向けた。
「おのれ。小癪な小娘どもめ」
 ピラニア魔人と金魚魔人が再び火炎を放射した。
「ファイヤートルネード!」
「アクアトルネード!」
 二つのエネルギー波が渦を巻きながら、2人の魔人に向かって伸びていき、魔人の放った火炎をも取り込んで魔人を包み込んだ。
「ギョギョギョーッ!」
「ビラビラビラーッ!」
 金魚魔人とピラニア魔人は、渦の中で断末魔の絶叫とともに、大爆発して木っ端微塵に吹っ飛んだ。

 麻美とモウセンゴケ魔人との死闘はまだ続いていた。しかし取っ組み合いの格闘戦では、モウセンゴケ魔人の方が体格的に有利だった。麻美はついに肩で息をし始め、モウセンゴケ魔人のパンチが麻美の腹にヒットして、麻美はその場に蹲った。そこへモウセンゴケ魔人の蹴りが炸裂し、麻美は反動でボールのように地面を転がった。
「ぐ・・・ 」
 立ち上がろうにも全身の痛みで体の動きもままならない。ミルキーピンク危うし !!
「小癪な小娘! ぶっ殺してやる」
 モウセンゴケ魔人が口から強力溶解液を噴射した。まともに被れば麻美は溶けてしまう。そこへ戦闘員を片付けた美由紀が駆け寄ってきて麻美の前に立った。
「エンジェルシールド!」
 美由紀がバトンを交差させて、透明なバーリアを張った。溶解液がバーリアにピチャピチャとあたってくる。美由紀は振り向くと、倒れている麻美の傍に駆け寄った。
「麻美ちゃんしっかりして!」
 美由紀は自分の肩に麻美の腕をかけて、麻美を起こして立たせた。
「美由紀ちゃん・・ ありがとう」
「お礼はあと。化け物がこっちにやってくるわ」
 そう言いながら美由紀は二本のバトンを手に身構えた。
「美由紀ちゃん。あいつは私がやる」
「そんな事言ったって・・ 麻美ちゃんそれじゃ無理だよ」
「いいからどいて!」
 麻美は美由紀を押しのけ、向かってくるモウセンゴケ魔人に対して、仁王立ちになって構えた。
「来い化け物! 私をいたぶったお返しをしてやる!」
「何を小癪な! 今度こそお前を溶かしてやる。ビタビタビターッ」
 モウセンゴケ魔人は口から溶解液を噴射した。
「クロス・パワー!」
 ミルキーピンクのグローブに埋め込まれた宝石が光を放つ。
「必殺ミルキーフラッシュ!」
 モウセンゴケ魔人の溶解液にミルキーフラッシュが当たって炸裂し、空中で激しく爆発して、溶解液の一部がモウセンゴケ魔人に降りかかった。
「ビダビダーッ!」
 モウセンゴケ魔人の身体から水蒸気のような煙が噴出した。麻美は間髪を入れずにダッシュして、モウセンゴケ魔人に体当たりした。モウセンゴケ魔人がよろけたところに。麻美はハイキックをお見舞いした。

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 キックの反動と衝撃でモウセンゴケ魔人はそのまま倒れて地面を転がった。
「ビタビターッ! おのれ小娘」
「今だ!」
 麻美はジャンプすると、空中で一回転し、モウセンゴケ魔人目掛けて急降下した。
「ミルキーキック!!」
 ミルキーピンクのミルキーキックが炸裂した!!! 
「ビタァァァァァァーッ!!!」
 モウセンゴケ魔人は絶叫とともに空中を飛び、地面に激突して一回転したが、よろけながら立ち上がろうとした。しかしそこまでだった。
「おのれぇ・・・ もう少しのところでぇ・・・ む・・・ 無念だぁ」
 モウセンゴケ魔人はそのまま前のめりに倒れた。
 ドオォーン!!!
 大爆発とともにモウセンゴケ魔人は木っ端微塵に吹っ飛んだ。
「やった・・・ 」
 モウセンゴケ魔人を倒した麻美だったが、そのままよろけて倒れそうになった。自分自身が受けたダメージも大きかったのだ。
「麻美ちゃんしっかりして!」
 美由紀が駆け寄ってきて麻美を支え、絵里香と聖奈子も紫央と早苗を連れて駆け寄ってきた。
「麻美。大丈夫?」
「麻美!」
 早苗と美由紀とで麻美をそのまま地面に座らせた。紫央が心配そうな顔で麻美を見ている。
「麻美。早く変身を解いて」
「あ・・ そうだった」
 早苗に言われて、麻美は変身を解いた。早苗は麻美の右手を持って脈を計り、続いて胸に耳をあてた。
「大丈夫。少しすれば良くなる。あんた無茶しすぎなのよ」
 早苗は麻美の肩をポンと軽く叩いた。絵里香たちはホッと胸をなで下ろし、紫央は麻美に抱きついて泣きじゃくった。聖奈子が何かを思い出したように口を切った。
「絵里香、美由紀。早く天間村へ行かなきゃ。美紀子さんと佐緒里ちゃんが危ない」
「そうだったわ。奴等の基地が天間村にあるんだわ」
 聖奈子はオートバイを置いてある場所へ向かって走り出した。美由紀がその後を追う。早苗は走り出そうとした絵里香を呼び止めて叫んだ。
「絵里香ちゃん。私たちもあとから行くから」
 絵里香は無言のまま右手を上げてから、聖奈子と美由紀を追って駆け出した。

    *  *      *      *

 同じ頃、天間村のペンションでは周囲を遠巻きであったが完全に包囲されていた。結界とバーリアのため、その内側に侵入する事は出来なかったが、ネオ‐ブラックリリーは恐らくやってくるであろう絵里香たちを待ち伏せしていたのだ。
「叔母様。完全に囲まれているわ」
「結界とバーリアがもってくれている間は、奴等はここまで来れないから大丈夫よ。でも奴等の事だから、必ず何かしらの策を練っているわ」
 美紀子と佐緒里はペンションの二階から周囲の様子を見ていた。その時一階の事務室から誠人が美紀子を呼んだ。
「美紀子姉さん大変だ」
「どうしたの誠人君」
「電話がダメだ。どうやら電話線が切られているみたいだ」
「何ですって?」
 美紀子は自分の携帯を出して開いた。絵里香を呼び出そうとしたが、雑音が入ってくるだけで呼び出す事が出来ない。
「叔母様。妨害電波だわ。私の携帯もダメ」
「絵里香たちに連絡が出来ないわ。どうやら本腰を入れてここに攻め込んでくるつもりね」
「それとも・・ 本当の目的は私たちじゃなくて、今から来る絵里香さんたち・・・ 」
 美紀子は佐緒里を連れて一階に下りると、誠人と久美子に言った。
「2人とも。最悪の時は屋根裏へ逃げて隠れて」
「美紀子姉さんと佐緒里ちゃんはどうすんだよ」
「そうよ。あんなに沢山の化け物相手に、2人だけでは・・・ 」
「私たちの事は心配しなくても良いわ。誠人君に久美子ちゃん。私は変身出来なくたって、スカーレットエンジェルなのよ。 それに佐緒里は私の血を引いていて、スカーレットエンジェルになれるのよ。だから大丈夫よ」
誠人と久美子は生唾を飲み込んだ。

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    *  *      *      *

「ダメだわ。美紀子さんと連絡がつかない」
「こっちも・・ 全然つながらないわ」
「まさか美紀子さんたちの身に・・・ 」
「絵里香、美由紀。これは妨害電波だよ。あたし達と連絡が取り合えないようにしてるのよ」
「まずいわ・・・  このまま時間が経てば経つほど危険度が増していく。聖奈子、美由紀。早く行こう」
 絵里香と聖奈子はアクセルをふかすと、オートバイを発進させた。天間村まであと約1時間・・


 天間村の村境にある美晴峠では、ネオ‐ブラックリリーのイカ魔人と軍隊アリ魔人、そしてヤシガニ魔人と多数の戦闘員が、絵里香たちの来るのを待ち構えていた。既に和久井村での事は戦闘員からの連絡で分かっていたので、絵里香たちが天間村に入るには最短のルートを取るであろうと予測されていたため、その最短のルートである美晴峠に陣取っていたのだ。
 魔人の一人、軍隊アリ魔人が近くの戦闘員を呼びつけた。
「小娘どもはまだ来ないのか」
「イーッ! まだ何の連絡もありません」
 美晴峠に陣取っていた魔人と戦闘員たちは焦れてきていた。時間的な計算では既に絵里香たちが来ていてもいいはずだからだ。

 その頃・・・
「絵里香。こっちのルートだとすごい遠回りだよ」
「そうだよ。早く美紀子さんと佐緒里ちゃんのところへ行かなきゃ」
 絵里香たちはオートバイを走らせながら、ヘルメットに付けた無線で交信していた。絵里香たちは普段通る美晴峠のルートを使わず、大きく迂回して天間村の南隣にある川上町に一旦入り、そこから北へ折れて天間村へ入るルートを取っていた。
「私の感なのよ」
「また絵里香の感か。でも、絵里香の感はあたるからな」
「おそらくいつも通る美晴峠はやつらが待ち伏せしている可能性大よ」
「確かに・・・ 奴等の事だから、絶対にあたしたちの事を待ち伏せしてるわ。絵里香の感は相変わらず鋭いわね」
 二台のオートバイは一路天間村へ・・・ 

     *  *      *      *

 絵里香たちエンジェルスと、ネオ‐ブラックリリーの最終決戦は、刻一刻と迫りつつあった。天間村では魔人や戦闘員だけ出なく、大首領のクイーンリリーもいるのだ。絵里香たちは美紀子が倒す事が出来なかった、ネオ‐ブラックリリーの大首領クイーンリリーを倒す事が出来るのか・・・
 頑張れエンジェルス! ネオ‐ブラックリリーを倒して平和を勝ち取るのだ!


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 次回予告
 第48話(最終回)『羽ばたくエンジェルたち』

 天間村にあるペンション赤嶺は、ネオ‐ブラックリリーの重囲に晒され、美紀子たちの運命は風前の灯だった。バーリアが破られれば、一気に攻め込まれてしまう。天間村への道を急ぐ絵里香たちだったが、目的地を目の前にして大首領クイーンリリーが絵里香たちの前に立ちはだかり、絵里香たちはクイーンリリーの魔力の前になす術もなく、ついに捕えられてしまう。息巻くクイーンリリーは、絵里香たちの処刑を宣言。
絵里香たちを追って天間村へ向かう麻美たち。そして美紀子と佐緒里は絵里香たちを救えるのか・・・・

 次回 美少女戦隊エンジェルス第48話(最終回)『羽ばたくエンジェルたち』にご期待ください。

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