鷲尾飛鳥

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特別編『冒険少女 佐緒里2』

2015年 10月18日 10:35 (日)

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  目次
  
  ACT.7 朝
  ACT.8 リュックの中身
  ACT.9 悪魔騒動
  ACT.10 悪魔との戦い
  ACT.11 悪魔の正体
  ACT.12 それから・・・
  
  
  
  
  それでは第2部スタートです。
  今回から、佐緒里ちゃんのセーラー服以外のスタイルも登場します。
  
  
  
  
  
  
 ACT.7 朝

 朝が来て佐緒里は目を覚ました。今までの事は夢であってほしいと願った佐緒里だったが、佐緒里のいる場所は牢獄の建物の中だった。最初は地下牢の壁に鎖で繋がれていた佐緒里だったが、その後はベッドやテーブル・椅子付きの部屋を一つ与えられていた。だが魔女の嫌疑をかけられた(既に自白している)囚人としての立場は変わらず、足には足枷を嵌められていた。
 ガチャガチャという音とともに扉が開き、カールが食事を持って入ってきた。
「サオリおはよう。朝食を持ってきたよ」
「おはようカール」
 カールは朝食をテーブルの上に配膳すると、部屋から出て行った。佐緒里は椅子に座ると、テーブルの上にあるパンを食べ、スープを飲みながら呟いた。
「(どうすれば帰る方法が見つけられるんだろう・・・ )」
 佐緒里の考えている事はその事だけだった。とにかく21世紀の世界へ帰りたいというのが、佐緒里の願いだった。食事を終えて暫くしてから、カールが入ってきて、食器の片づけをしてから、佐緒里の方を向いた。
「サオリ。これは僕からのプレゼント。君の髪に飾ってほしいんだ」
 そう言ってカールは佐緒里に赤いリボンを差し出した。
「ありがとうカール」
 佐緒里はそう言うと、自分の髪を上げ、リボンで髪を結んだ。

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「サオリ。可愛い。似合ってるよ」
「ありがとう」
「それで今日の審問なんだけど、そこにあるリュックの中身を調べるって言っていた。いいかい?」
「別にいいけど、大したものは入っていないわよ」
「分かった。それじゃ、審問の時にまた来るから」
 カールは食器を乗せたカートを引いて部屋の外へ出ると、鍵をかけて去っていった。

 *********
  
 ACT.8 リュックの中身

 佐緒里は椅子に座って本を読んでいた。読んでいたのはエモトから渡された、例の古文書の写しだった。
「エモトさんが、この文章の中に、あの十字架の秘密が書かれているかもしれないと言っていた。でも、あの十字架は・・・ 私がつかんでいた銀の十字架は、私がタイムスリップした時に消えてしまっている。とにかく、この古文書を解読すれば、何かが分かるかもしれない」
 ガチャガチャ
 そこへ扉の鍵が開けられ、佐緒里は読んでいた古文書をテーブルの上に置いた。まずカールが入ってきて、その後ろからは鞭を持ったハンスが続いて入ってきた。
「小娘。審問の時間だ」
 カールは佐緒里の傍まで来ると、鍵を取り出して足枷を外した。
「サオリ。そのリュックを背負って」
 佐緒里は立ち上がると、傍に置いていたリュックを背負った。つづいてカールは持ってきた枷を佐緒里に差し出した。今度は前のようなサイズの合わない鉄の手枷ではなく、両手をしっかり拘束できる木製の枷だった。ガチャンという音とともに佐緒里の両手に枷が嵌められ、南京錠で施錠された。

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「おい小娘。その手枷は聖水で浸してあるから、これでもうお前の魔法は使えないぞ」
 そう言うとハンスは持っていた鞭を床に叩きつけて威嚇した。
「ハンスさん。ダメです。やめてください」
「カール! 貴様、その魔女娘に誘惑されたのか。えーい! 看守まで誘惑するとは、ふしだらな奴!! 覚悟しやがれ」
 ハンスは鞭を振り上げると、佐緒里目掛けて叩きつけた。
 バチバチバチッ!!
 鞭は佐緒里がはったバーリアに跳ね返され、佐緒里はハンスを睨みつけて威嚇した。
「わわわ・・・ ま、ま、魔法封じが効かない・・・・ 」
 ハンスは鞭を床に落とすと、慌てふためいてその場から逃げ出した。そして出入り口の敷居に躓いて転倒し、反対側の壁に激突して、呻き声を上げて蹲った。
「あーあ・・・ 」
 佐緒里とカールは同時に声を上げ、お互い顔を見合って、思わず吹き出した。
「サオリ。行くよ」
 カールは佐緒里の肩を軽くポンと叩き、佐緒里はカールと並んで歩き出した。その後ろからハンスもヨタヨタしながらついていった。

 *  *  *  *  *

 審問室(昨日と同じく神父の書斎)では、佐緒里が背負っていた学校指定のリュックが開けられ、中に入れてあったものが次々と机の上に置かれた。佐緒里は学校帰りに直接展示会の会場へ行っていたので、その日の授業で使った教科書とノートに筆記用具。携帯電話に電卓。布製の袋の中から体操服にシューズ、部活で使用するチアリーダーのユニホーム。そして何故か替えの下着まで(もしもの事を考えて常備)・・・ 。それらが全て机の上に並べられた。それらの物を見て、神父は勿論のこと、ハンスもカールも唖然とした顔で眺めていた。
「何だこりゃ・・・ どれもこれも見た事の無いものばかりだ」
 既に神父は佐緒里の容姿から、佐緒里が東洋人である事が分かっていて、佐緒里の話からジパングから来たとも確信していた。ハンスとカールも、リュックの中身を見て、佐緒里が別の国から来た人間であるとはっきり確信した。が、何処からどうやってきたのかまでは知る由もなかった。
「(サオリのこの持ち物・・・ 見た事の無いものばかりだ。一体この子は何者なんだ)」
 カールは佐緒里が、自分の全く知らないような、未知の果てしない世界から来た人間のように思えてきた。
 一方アルベルト神父は少し考えてから、傍にいたハンスとカールの方を向いて言った。
「お前たちは外へ出ていろ。私が呼ぶまで、この部屋に入ってくるな」
「わ、わかりました」
 ハンスとカールは、神父の顔色を見てただ事ではないと感じたが、神父に追い立てられるように部屋を出ていき、神父は内側から部屋の鍵を閉めた。
「神父様・・ 一体何を・・ 」
 神父は佐緒里の傍へ来ると、リュックの中身を指差しながら佐緒里に向かって言った。

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「サオリ。お前、一体何者なんだ」
 神父はさらにたたみかけるように言った。
「ここにあるこれらのお前の持ち物は、どれもこれも始めて見るものばかりだ。いや、私の見立てでは、この世界には存在しない。 どうやらお前は魔女や悪魔とは、全く別の次元の者のようだな。事と次第によっては、私はお前を拷問にかけなければならない」
 神父は佐緒里の前に、指締めの器具をドンと置き、部屋の隅に立てかけてあるコウノトリという拷問器具を指差して、さらに持っていた十字架を佐緒里の目の前に突きつけて威嚇した。
「待ってください。私の話を聞いてください」
「よし。聞こう」
 神父は佐緒里から離れると、机を挟んで佐緒里の向いに座った。
「私は・・・・  私はこの世界の者ではないんです。この世界よりも遥に先の未来から来たんです。来たというより来させられたといったほうが正しいんですけど」
「未来の世界だと? つまり、今の時代を現世としたら、お前の住む世界は来世ということか?」
「はい。言っても信じてもらえないと思って、悪い魔女に魔法をかけられたと嘘をついたんです。ごめんなさい」
 神父は何を思ったか、席を立つと佐緒里のすぐ傍に来て机に頬杖を突き、佐緒里に自分の顔を近づけて言った。
「サオリ。未来から来たならば、私の運命を知っているだろう?」
 佐緒里は神父の目を見た。が、神父はすぐに立ち上がって佐緒里から離れた。
「話す必要は無いぞ。自分の未来を知るという事は、神への冒涜になる。聖職者として、そういう事は望ましくない。だから、私が今言った事は忘れてくれ。サオリ。そこに並べた物を片付けていいぞ。今日の審問は終わりだ」
 神父はハンドベルを持ち、扉の所まで行って鍵を開けると、扉を開けてハンドベルを鳴らした。その間に佐緒里は自分の私物をリュックの中に入れた。
 暫くするとハンスとカールが部屋に入ってきた。
「今日のサオリの審問は終わりだ。部屋へ連れて行け」
 カールは佐緒里にリュックを背負わせ、佐緒里の両手に木枷を嵌めると、枷から伸びている鎖を持って佐緒里を促した。
「行くよサオリ」
 佐緒里はカールと並んで歩き出し、そのあとをハンスが鞭を持って続いて行った。ハンスの表情は何故かぎこちなかった。佐緒里に何か言いたそうだったのだが、あえて黙って二人のあとをついて歩いていった。

 *  *  *  *  *
  
 ACT.9 悪魔騒動

 その日の夜。佐緒里はカールが持ってきた食事を食べ終えると、例の古文書が書かれた冊子を読んでいた。日本語で書かれたものではなかったが、佐緒里の超能力は、外国語も判読できるところまで研ぎ澄まされていたのだ。かつて財宝関係の古文書の暗号を解読した佐緒里である。普通の文書ならばお手の物だった。
「んー・・・ やっぱりあの十字架には秘密があるんだわ。二つの十字架の金色の方に光をあてると、その反射光が銀色の十字架にあたって、何かが起こる・・・ ここにはそのように書かれているけど、その先の文字が潰れていて、何が起こるのかは分からないな・・・ 」
 そこへ鍵の開く音がして扉が開き、カールがカートを持って入ってきた。佐緒里は冊子を机に置くと、片づけを手伝った。
「サオリ。それじゃお休み」
「お休みなさい。カール」
 カールが部屋から出ようとした時、ハンスがすごい形相で部屋に飛び込んできた。
「ハンスさん!!」
 ハンスはカールが止めようとしたのを跳ね除け、佐緒里につかみかかってきた。
「やめて! 何するの!?」
「サオリ。俺の話を聞いてくれ」
「話?」
「ああ。お前、自分の事を『良い魔女』だと言っていたな」
「はい」
「だったら、村にいる悪魔をやっつけてくれるか!?」
「悪魔? ですか?」
「そうだ」
「ハンスさん。悪魔って、村人たちが言っていたやつですか?」
「そうだよ。お前はまだここに来ていくらも経ってないから分からんかもしれんが、今まで何人もの村人達が、悪魔を見て怪我をしたり発狂したりしているんだ」
 ハンスは佐緒里の方を向いた。
「サオリ。頼む。お前の魔法の力で、悪魔をやっつけてくれ。頼む」
「ハンスさん落ち着いてください。私の力が通じる相手なら、私が退治します」
「そうか。やっつけてくれるのか。よーし!!」
 ハンスは安心したような顔で、小走りに部屋から出ていった。続いてカールもカートを持って部屋から出て、扉の鍵を閉めた。
二人が去ったあとで、佐緒里は部屋の中で考え込んでいた。ハンスの迫力に圧倒され、反射的にオーケーしてしまったのを後悔していたのだが、悪魔の正体にも興味があった。
「悪魔か・・・ 私の力が悪魔に通用するんだろうか。しかし、一体どんなやつなんだ・・ 」

 *  *  *  *  *

 翌日・・・
 審問の時間になって、カールとハンスが部屋に入ってきたので、佐緒里はハンスに聞いた。
「ハンスさん。悪魔って一体どんなやつなんですか? 私、よく考えたんだけど、正体の分からないやつと戦うのはすごく不安なんです」
 ハンスはいつものような不貞腐れた態度ではなく、珍しく穏やかな表情をしていた。
「今日の審問で俺が説明するよ。神父様には既に話を通してある」
 佐緒里はいつものようにカールに木製の手枷を嵌められ、カールに鎖を引かれて部屋を出た。

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「ハンスがどうしてもと頼むんで、今日の審問は、この村に出現する悪魔について話をする。だが、私とカールはまだこの村に来ていくらも経っていないので、詳しい事は分からない。それで、村にずっと住んでいるハンスから話を聞いてくれ」
 神父はそう言うと、別の椅子を持って部屋の隅へ行き、そこへ椅子を置いて座った。いつも神父が座る場所にはハンスが座って佐緒里と向かい合った。
「サオリ。俺の知っている事を話すから、よく聞いてくれ。この悪魔は俺が生まれるはるか前から、村に出没していたらしい。それで、そいつは日中霧が立ち込めているときに、太陽の方角と反対の場所に出てきて、人々を威嚇するんだ。いままで何人もの人が犠牲になっている」
「犠牲って、死んだ人もいるんですか?」
「いや、俺の知る限りでは、死んだ者はいない。そいつは同じ場所に立ったまま、動いたり襲ってきたりはしないんだ」
「日中と霧って言ってたけど、霧が出ていない時や夜は出ないんですか?」
「日中の霧が出ている時だけなんだ。それ以外の時は出たとは聞いていない」
「(随分都合のいい悪魔ね・・・ これはもしかすると・・・ )」
 佐緒里は頭の中で、ある事を思い浮かべていた。
「(ハンスさんの話からすると、もしかすると、気象現象かもしれない。恐らくこの時代の人たちは、そういう知識に乏しくて、そういうものを悪魔や怪物のような感覚で考えているのかもしれないわ)」
「サオリ。お願いだ。お前の魔女の力で悪魔を退治してくれ。悪魔のおかげで、昼間に霧が出てくると、みんな怖がって外へ出なくなってしまうんだ。頼む」
「わかりました。やりましょう。でも、この事は私一人だけでなく、ハンスさんとカールの協力が必要です。二人とも私と一緒に戦ってくれますか?」
「勿論だよサオリ。僕は君と一緒に戦う」
「お、俺もだ。い、一緒に戦うぞ!」
「二人ともありがとう」
「私を忘れてはいないか?」
「神父様・・・ 」
「私も戦う。サオリ。何か必要なものがあったら言ってくれ」
「それじゃ神父様。十字架を用意してください」
「十字架? よし。分かった」

     *  *  *  *  *

 しかし、なかなか都合よく霧は発生しなかった。そんなこんなで一週間が過ぎ、その間の佐緒里への審問は日常的な世間話が主だった。その中で、神父は佐緒里が未来の世界から来た者で、その未来の世界へ帰りたがっているという事を、半信半疑ながら納得したのだが、神父の知識や力ではどうすることも出来なかったので、『神のご加護』とか『奇跡』という言葉を繰り返し言い、佐緒里を宥めていた。
 佐緒里にとって幸いだったのは、佐緒里を審問している神父には意外と広い世界観があった事だった。神父はコンスタンチノープル(現在のイスタンブール)で生まれ育ったため、様々な人種の人と接していたので、東洋の事にも詳しく、また友人の中に水夫がいたので(既に大航海時代の真っ只中)、船で航海して帰ってきた友人から、別世界の話も沢山聞かされていたのである。

 その日の審問が終わり、佐緒里はいつものように自分の部屋に戻された。カールは佐緒里の手枷をはずすと、足枷を嵌めずに佐緒里の着ていたセーラー服を指差して言った。
「サオリ。その服、いつまでも着ていないほうがいいよ。もしここから外へ出る事があったとき、その恰好は目立ちすぎるぜ」
 そう言いながら佐緒里に顔を近づけ、佐緒里に耳打ちした。
「(気にならない程度なんだけど、臭うよ。服を洗濯して、自分の体も洗った方がいい)」
 佐緒里はセーラー服の袖を自分の顔にあてた。
「(確かに臭う・・・ ) でもカール。洗濯とか、体を洗うっていっても・・・・・・   」
「この牢獄の建物の裏に川があるから、今からそこへ連れて行くよ。それから、この前調べたリュックの中に、着替えの服や下着が入っていただろう。それに着替えたら?」
「うん」
 佐緒里は着ていたセーラー服を脱ごうとして、それを見たカールは慌てて部屋の外へ出た。

 *  *  *  *  *

 佐緒里はセーラー服を脱ぎ、椅子の背もたれに掛けると、はいていた下着も予備のやつと取り替えて、リュックの中にあった体操服に着替えた。そこへタイミングよく鍵を開ける音とともに、カールが服を持って入ってきた。

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「サオリ。代えの服を幾つか持ってきたから」
 カールは佐緒里に服を渡した。渡された服は修道女の服と、普段着だった。カールは普段着の方を指さしていった。
「そっちは僕の着ていた服だから、サイズが大きいかもしれない」
「ありがとう」
「それじゃ川へ行こうか」
「手枷はしなくていいの?」
「裏山は道が悪いんだ。手枷をすると危ないからそのまま行くよ」
 カールは佐緒里を促し、一緒に部屋から出た。

 *  *  *  *  *

 ACT.10 悪魔との戦い

 そしてある日の朝、ついに待ちに待っていた霧が発生した。しかし視界僅か50m足らずの濃霧で、太陽すらも見えないくらいだった。
「あーあ・・ 霧が発生したのは良いけど、こんなに濃い霧じゃ太陽が見えないから、悪魔は出てこないな」
 牢獄の屋上にいたハンスが呟いた。そこへカールが上がってきた。
「ハンスさん。これじゃ逆に霧が濃すぎて、悪魔が現れないよ」
「よし。一旦下へ降りるか。まず朝飯食って腹ごしらえだ」
 ハンスは小走りに下へ降りていき、カールもその後をついていった。

 霧が出ていた様子は、佐緒里の部屋からも見えた。佐緒里が窓の外を見ていると、扉の鍵が開けられて、カールが食事を持って入ってきた。
「サオリ。おはよう。食事を持ってきたぞ」
「ありがとう」
 佐緒里は窓から離れてテーブルの所まで来た。最初は歩くのに違和感があった足枷も、次第に慣れてきていた。カールが部屋から出て行き、佐緒里は椅子に座って、いつものように食事を始めた。
「霧が出てくれたのはいいけど、これじゃ霧が濃すぎる。でも、太陽が昇ってくれば・・・ 」
 佐緒里は食べながら考えていた。
「もし、これが私の知識にある、『気象現象』だったら、解決策がある。しかし、今のこの時代の人たちが、納得してくれるかどうか・・・ ってところだわ」
 鍵を開ける音とともに扉が開いて、カールが部屋に入ってきた。カールは慌しく食器を片付けながら、佐緒里に言った。
「サオリ、あと少しで出かけるから、すぐに服を着替えろ」
 カールは部屋の外へ出て行き、佐緒里は立ち上がると、壁にかけてあった修道女の服を手に取った。

 着替え終わって暫くしてから、扉の鍵が開けられ、カールが入ってきて、続いてハンスも入ってきた。二人とも腰に剣を付けている。カールは佐緒里の傍へ来ると、佐緒里の足枷を外し、持ってきた靴を渡した。
「その恰好にはこっちの方が合うよ」
 佐緒里は履いていたスニーカーを脱ぐと、カールが持ってきた靴に履き替えた。
「サオリ。行こうか」
 カールは佐緒里の手を握って、佐緒里は顔を少し赤くした。

 牢獄の建物を出て、佐緒里はハンスに促され、停めてあった馬車にカールと一緒に乗り込んだ。少し遅れて神父も馬に乗ってやってきたので、ハンスは馬車を走らせた。霧はまだ出ていたが、太陽が昇り始め、少しずつ薄らいできていた。
 目的地に到達すると、噂を聞きつけてやってきた村人達が数人立っていて、その数は少しづつ増えてきていた。人々の中には、鍬や鋤を持って武器代わりにしている者たちもいて、その中には、佐緒里を発見して捕えた男たちの姿もあった。馬車から降りてきた佐緒里の姿を見て、村人達は口々に喋りあっていた。
「おい。見ろよ。小娘だぜ」
「あんな小娘が悪魔と戦うっていうのか」
「おい。あいつは、俺たちが捕えた魔女じゃないか」
「魔女が悪魔と戦うって・・??」
 佐緒里の耳にはそれらの話し声が聞こえていたが、気にせず歩き、悪魔が出る場所までやってきた。
「サオリ。この辺りだ。ただし、太陽を背にしないと悪魔を見る事は出来ない」
 ハンスが佐緒里を促しながら、剣を抜いて周りの様子を窺った。カールも佐緒里の傍へ来て佐緒里と少し距離を置き、神父も佐緒里に頼まれた十字架を持ってやってきた。やがて霧がさらに薄くなり、太陽の光が僅かに出てきて、虚像のようなものが現れ、村人達が騒ぎ出した。
「出たぁ!! あそこだ。あそこに悪魔が出たぞ!」
「ウワアーッ! あんなにたくさんいやがる」
 出てきたのは一体ではなく、複数のものが虚像の様な形で、周りに光を帯びながら立っていた。佐緒里が考えていた通り、これはブロッケン現象という気象現象の一種で、佐緒里の傍にカールたちもいたため、虚像が複数現れていたのだ。
「(やっぱり・・・ これは思っていた通りブロッケン現象だ。この時代の人たちの知識や感覚では、こういうものは悪魔か怪物に見えるんだわ)」
 佐緒里は自分の思っている事を説明しようとしたが、あえてそれを抑え、映っている虚像に向かって身構えた。

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 *  *  *  *  *

  ACT.11 悪魔の正体

 佐緒里は目の前にいる虚像に向かって歩き出した。それに合わせる様に、映っている像のひとつが僅かに揺れた。後ろの方では村人達が口々に言い合っていた。
「おい・・・ 大丈夫なんだろうか・・・ 」
「あの小娘は魔女なんだろ? 一緒になって襲ってきたりしねえだろうな」
「魔女と悪魔の戦いか・・・ しかし、この場合、魔女とはいえ、あの娘に勝ってもらいてえ」
 歩いている佐緒里の後ろから、少し距離を置いて剣を抜いて構えるカールとハンス、そしてアルベルト神父も十字架を翳して続いていた。佐緒里は後ろを振り返って叫んだ。
「みんなここで止まって。今、私に近づかないでください」
 そういうと佐緒里はポーズをとった。
「スカーレットスパーク・エンジェルチャージ!」

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 佐緒里の体が眩しい光に包まれ、後ろにいたカールたちは眩しさに顔を覆った。光が消えた時、佐緒里の姿がスカーレットエンジェルJrの姿になっていて、カールたちは驚いた。佐緒里は両手をクロスさせて力を込めると、一気にその手を前に出して叫んだ。
「エンジェル‐ウィンドトルネード!!」
 風のエネルギーが渦状になって伸びていき、正面にあった霧を吹き飛ばして、青空が広がり、見えていた虚像が全て消えた。
「やった!」
「魔女が悪魔に勝ったぞ」
 後ろの方では村人達の歓声が上がった。佐緒里はスカーレットエンジェルの変身を解いて、元の修道女の姿に戻って踵を返すと、呆気にとられているカールとハンス、アルベルト神父の前まで歩み寄った。
「みんな。これは一時的にしのいだだけです。この通り霧を消せば、あなたたちが言っている悪魔の姿は消えますけど、霧が出ればまた現れます。私の力では、霧を一時的に消す事しか出来ません」
「サオリ。どういう事なんだ。お前の力でもダメだっていうのか」
「違います。あれは悪魔ではないんです」
「悪魔ではない・・・・ それじゃ一体・・・ 」
「自然の力・・・ つまり、あなたたちの言う『神』が創り出したものなんです」
「神・・・ イエス様が作り出したものだというのか」
「イエス様かどうかは、私には分かりません。でも私の国では、あれは『御来迎』といって、神として崇めている人たちもいます」
「ゴライゴー・・・ お前の国でも出るのか。お前の国では、あれは神の使いか・・・ 」
「はい」
 ハンスとカールは半信半疑で、何だそんな事なのかという顔をし、神父は佐緒里の言葉を聞いて黙って考え込んでいたが、佐緒里の前に歩み寄ってきて言った。
「サオリ。つまりあれは、悪魔とか怪物とは全く無関係だという事なんだな」
「そうです。私の知識では、これ以上詳しく言う事は出来ませんけど、分かっている事は、太陽と霧によって出来る影であって、神が創造した自然現象だということです。だから恐れたり、怖がる必要は無いんです。」
「なるほど・・・ 影か・・・ 」
 その時再び霧が立ち込めてきて、再び虚像が現れ、村人達が騒ぎ出した。佐緒里は村人達の方ヘ向かって歩き、距離を置いて止まってから、現れた虚像を指差して言った。

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「みなさん。恐れる事はありません。あそこに見えているのは悪魔でも、魔女の使いでもありません。太陽と霧によって出来る、私たち自身の影なんです。神が創造したものなんです。」
 村人達からざわめきが起こった。その中から佐緒里を倉庫で捕らえた男の一人が、虚像を指差しながら出てきた。
「そ、それじゃ・・ 俺たちはあれを悪魔といって恐れる事は無いという事か」
「そうです。影を恐れる事はないです」
 村人達の間で再びざわめきが起こり、みな半信半疑のような表情で、一人また一人と、その場から去っていって、佐緒里と、カール、ハンスと神父だけがそこに残された。気がつくと霧が晴れていて、上空には青空が広がっていた。
「やったぁ! やった。やった。サオリちゃん!」
 ハンスが佐緒里に飛びつき、そのまま佐緒里を両手で持ち上げた。
「きゃっ・・・・  」
「魔法の力ってすげえんだな。サオリ。お前本当に良い魔女だったんだな」
 ハンスは佐緒里を降ろすと佐緒里から離れ、神父が佐緒里に言った。
「サオリ。よくやってくれた。村の者達を代表して感謝する」
「こちらこそ。協力してくれてありがとうございます」
「よし。それじゃ帰ろうか」
 神父は馬に乗ると、牢獄の方へ向かって馬を歩かせ、佐緒里とカールも馬車に乗って、ハンスは馬車を出発させた。

 *  *  *  *  *

 ACT.12 それから・・・

 それから佐緒里の待遇が良くなったことは言うまでも無いことだった。収監されている部屋はそのままで、鍵がかけられて軟禁されている状態は変わらなかったが、足枷は嵌めなくてもいいことになり、部屋から拘束具は全て取り払われた。また、連行中も手枷無しになった。さらに『散歩の時間』と称して、一日最低一回は牢獄の屋上へ出る事を許された。
 神父による審問は毎日続いていたが、日常的な世間話が中心になり、佐緒里は自分の知識を神父に話し、神父は宗教的なものを絡めた話を佐緒里にした。既に神父は佐緒里が異教徒である事が分かっていたので、佐緒里の持つ宗教観というものも、審問で聞き出していた。
 そんなこんなで、佐緒里がこの世界にタイムスリップして一ヶ月が過ぎようとしていた。が、相変わらず21世紀に戻れる手段は見出せなかった。
 しかしある日カールが、佐緒里が読んでいた冊子に目をつけ、それを神父に見せた事から、状況が一変した。神父の顔が真剣そのものになり、神父は書斎にあった本の一冊を佐緒里に貸し出した。それは佐緒里が読んでいた冊子の原本で、本の中身を見た佐緒里の顔色が見る見る変わっていったのは言うまでも無かった。
「サオリ。お前が持っていたものと、その本の内容はほぼ一致する。もしかしたら、お前が自分の世界へ帰るための事が載っているかもしれん。お前に貸すから、じっくり読んでみろ。それから、その本に載っている二つの十字架とは、これだ!」
 神父は飾りのついた中型の箱を持ってきて、それを開け、中から二つの十字架を取り出して、佐緒里の前に置いた。その十字架は、佐緒里があの時、展示場で見た金色と銀色の十字架そのものだったのである・・・・・・・・・・・・・・・

  **************

  審問の席で、佐緒里の目の前に置かれた二つの十字架・・・・  それはまさに、佐緒里があの時見たものと同一のものだった。タイムスリップした時に佐緒里の手に握られていた銀の十字架が何故・・ ここにあるのか・・・ そしてその二つの十字架が、佐緒里のこれからの運命を位置づけるということを、今の佐緒里にはまだ知る由も無かった。
  
  
次回ACT.13に続く
  
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