鷲尾飛鳥

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特別編『冒険少女 佐緒里3 』

2015年 11月06日 22:35 (金)

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 まえがき

 この小説は最初はDIDをテーマとしていましたが、ストーリーが進むにつれて、ファンタジーやミステリー及び荒唐無稽のスタイルに変わってきています。第一部から順番に読んでいくと、そんな感じに変わっているのが見えてくるかもしれません。
また、自分のシチュエーションは、本作品を含めて、これまでの作品の内容にあるように、昭和の時代の少年少女漫画と、特撮にあった全ての要素をベースとしていますので、今後もそのスタイルを通していくつもりです。

  
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  目次
  
  ACT.13 十字架の秘密
  ACT.14 佐緒里の一日
  ACT.15 実験??
  ACT.16 怪物の正体?
  ACT.17 新たな試練
  
  
  
  
 それでは第3部スタートです。今回は第2部の最後から繋がっています。
 第1部と第2部に比べて、佐緒里ちゃんの拘束のシーンが激減(無くなった)したので、拘束好きの方々や、拘束萌えの方々には物足りないかもしれません。その代わりに、過去の事件でのシーンでの拘束と拷問のイラストを挿絵として入れています。一応全年齢対称なので、流血やグロ表現は避けています。
  今回は、いよいよ佐緒里ちゃんのタイムスリップの原因(?)と、過去に牢獄で起きた或る事件の内容が解明されます。
  佐緒里ちゃんは果たして21世紀の世界へ帰れるのか・・・・
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
 ACT.13 十字架の秘密

 審問の席で、佐緒里の目の前に置かれた二つの十字架・・・・  それはまさに、佐緒里があの時見たものと同一のものだった。タイムスリップした時に佐緒里の手に握られていた銀の十字架が何故・・ ここにあるのか・・・ そしてその二つの十字架が、佐緒里のこれからの運命を位置づけるということを、今の佐緒里にはまだ知る由も無かった。

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 佐緒里が呆然としていると、神父が話しかけた。
「サオリ。この十字架は我がヴェルナー家に代々伝わるものだ。金の十字架は『ゴルト・リヒト』、銀の十字架は『ズィルバー・シャッテン』と名付けられている。そしてお前の前にあるその本に、この十字架の事について書かれている。大まかに言うと、金色の十字架は『光』の象徴、銀色の十字架は『影』の象徴となっている。他にも色々な説があるようだが、お前ならばその本を読破できるだろう」

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「ありがとうございます。神父様」
「そこでお前に改めて聞きたいことがある。それはお前がこの世界に来た経緯・・ というより、お前の話からすると、送り込まれたといったほうがいいか・・・ 。確か強い光に包まれたと言っていたな?」
「ハイ。西日が金の十字架にあたって、その光が跳ね返って銀の十字架にあたって、銀の十字架が強い光を発したんです。その時あまりの眩しさにそこにある銀の十字架をつかんでしまい、自分の体が光に包まれたところまでは覚えているんですけど、気がついたときには、前にお話したとおり、村の倉庫にいたんです」
 神父は佐緒里の話を聞き、羊皮紙にメモをしながら言った。
「サオリ。不自然な点が一つある。お前が今言っていた十字架は、二つともここにある。それなのに何故、お前の世界にあったというのか? しかもお前はこの世界に飛ばされた時、この銀の十字架をつかんでいたと言ったな。それなのに何故ここにあるのだ」
 神父は銀の十字架を持って佐緒里に突きつけた。
「それは分かりません。私が持っていた銀の十字架は、私がこの世界に来た時、消えてしまったんです」
「消えた?」
「本当なんです。信じてください」
「ならば質問を変えよう。ここにある十字架が、何故お前の世界にあった・・・ いや、あるのだ?」
「私の知っているところでは、海賊によって略奪された財宝の一部が、私の国の誰かに贈呈され、その贈呈された財宝の中にそこにある二つの十字架があったんです。でも、誰に贈呈されたのかは分からないです。そして、見つかった財宝の展示会が開かれて、そこの十字架も一緒に展示されたんです」
 神父は佐緒里の話を、目を瞑って黙って聞いていた。そして佐緒里の話が終わると、目を見開いて佐緒里を見た。
「海賊によって略奪・・・ そしてお前の国ジパングに贈られた・・・ 。しかし、わざわざ海賊どもがこんな山奥の田舎まで来るというのか。来世の事を知るということは、神への冒涜だといったが・・・ この話は聞き捨てならんな」
 神父は一呼吸置いてから佐緒里に話しかけた。
「サオリ。お前の力で、この十字架のたどる運命を知る事が出来るか?」
「私の力では無理です。ただ・・ 」
「ただ・・ 何だ? 言ってみろ」
「これは私の想定ですが、神父様の子孫の代になると、恐らく海が近い場所へ移ってそこで生活し、その時に海賊によって盗まれたということではないでしょうか。つまり今のこの世界から見て、未来の時代ということです。でもその時期が何時なのかは、私では分かりません」
「んー・・・ お前の言っている事は、考えられない事ではないな・・・ 私はコンスタンチノープルという所で生まれ育った。サオリ。コンスタンチノープルという街を知っているか?」
「はい。私たちの世界では、イスタンブールと呼ばれている所です」
「お前の時代、いや世界ではそう呼ぶのか。ならば話し易い。私は神父になってからは、ローマ教皇庁の指令であちこちの土地を転々としてきた。そしてこのドルフ村に赴任したのが、いまから1年位前。いずれはまた教皇庁の指令で、別の場所へ行かねばならないだろう」
 神父はそこまで言うと立ち上がった。
「サオリ。十字架を奪った海賊の事は分かるか?」
「はい。私の時代の文献では、キャプテン・プランドラーと書かれていました。その海賊は、18世紀に世界中の海を荒らしまわったと聞いています」
「18世紀?」
「はい。私が分かるのはそこまでです。私の時代が21世紀なんですが、今のこの世界が何世紀なのかを知る手立てがありません」
 佐緒里は周りの雰囲気から、今のこの世界、つまり自分のいる場所が中世のヨーロッパの某所で、時代は凡そ1400年代か1500年代ではないかと思っていた。だが、佐緒里の知識では具体的な時期までは換算することは出来なかった。
「そうだ。神父様。どんな事でもいいですから、最近起こった出来事をご存知ですか?」
「出来事?」
「はい。どんな事でもいいです。何かが分かれば、私の時代と今の時代の年代の差を割り出す事が出来ます」
 神父は考え込んでいたが、何かを思い出したかのように言った。
「お前・・・ マゼランを知っているか?」
「船で世界一周を達成した、あのマゼランですか? 知っています。でも、マゼラン本人は世界一周の途中で立ち寄った場所の原住民によって殺されたんです。確か・・ その場所はフィリピンだったはず」
「ほう・・ そこまで知っていたか。そのマゼランが世界一周に旅立って、船が戻ってきたのが、今から30年位前のことだ。お前がいったように、マゼランは途中で死んでしまい、最後まで生き残って帰ってきたのは、船一隻と水夫がたったの18人だったという。まあ・・・ 大変な船旅だったというわけだ。実は私の友人が、そのマゼランが船団を率いて航海に出発した時、その船団の中の一隻の船の乗組員として参加していたんだ」
「そうだったんですか」
「だが、その友人が乗った船は、何かの事情で途中で引き返してしまい、世界一周はしていないし、友人も無事に帰ってきた。どうだ? 今の話で何か分かったか?」
「大体ですけど、今のこの時代は16世紀の中ごろだと思います。プランドラーが現れるのは、今言ったように18世紀。つまり今から200年位後ということです」
「すると、1世紀というのは100年を表すんだな?」
「そうです」
「16世紀・・・ 21世紀・・・・ 」
 そこまで言いかけて、神父は大きな声で言った。
「そうか!! 分かったぞ」
 神父は銀の十字架を手に取ると、佐緒里の傍へ来て、佐緒里に十字架を持たせ、その上から両手で佐緒里の手を握りしめた。佐緒里は少し顔を赤くしながら、神父の顔をマジマジと見た。
「サオリ。お前の手から十字架が消えたわけが分かった。これは私の仮設だが、お前がこの世界に飛ばされた時、十字架はふたつともここにあった。だから、お前が手にしていた十字架が消えたんだ。どう表現したらいいのかは分からんが、同じ物は同じ時代には存在しないという事だ。この十字架が持つ秘密は、他にも色々あるようだが、お前はこの十字架がもたらした作用で、この世界に飛ばされてきた。だからお前がここへ来た時と同じようにすれば、お前はお前の世界に帰る事が出来るかもしれない。まあ、とにかくこの本を読んでみることだ。よし。今日の審問はこれで終わりだ。部屋へ戻りなさい」
 神父は部屋の隅にいたカールを促し、カールは佐緒里をつれて部屋から出た。佐緒里の手には、神父から借りた本が抱えられていた。

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   ***************

 ACT.14 佐緒里の一日

 朝が来て日差しが差し込み、佐緒里は目を覚ますと、起き上がって伸びをしてから深呼吸した。佐緒里は窓際へいって、衝立を上げた。晴れているとはいえ、冬が近づいているせいか、冷たい風が部屋の中に入ってきて、チアガールの恰好をしていた佐緒里は、思わず体を竦めた。この世界に来てからというもの、佐緒里は体操服やチアガールのユニホームを、寝巻き代わりに使っていたのだ。
「ふーっ・・・ 寒い・・・ もうノースリーブはだめだなぁ・・・ 」
 佐緒里は窓から離れると、ベッドの上に腰を下ろした。既に足枷は嵌められていなかったので、部屋の中を自由に歩き回る事が出来ていた。

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「(この世界へ来て一ヶ月が過ぎてしまった・・・ いつになったら未来に帰れるんだろう・・・ 叔母様やみんなに会いたい・・・  )」
 佐緒里は泣き顔になった。普段は気丈に振舞っていたものの、一人でいるときは、寂しさのあまり泣いている事があったのだ。その時鍵が開けられる音がして、佐緒里は吹っ切ったように立ち上がった。扉が開いて、ハンスが食事を持って入ってきた。
「よう。おはよう」
「お、おはようございます。あら、今日はハンスさんが当番なんですか?」
「ああ。カールのやつ寝込んじまってよ。今日は俺が当番だよ」
「寝込んだ・・・ って、どうしたんですか?」
「風邪でもひいたんだろ? 昨日の晩、結構冷え込んだからな。おめえも気ぃつけろよ。お、俺も何だか変だ・・ふぁ・・ ファーックショーン!」
 ハンスは大きなくしゃみをした。それを聞いて佐緒里も体をブルブルっとさせた。
「おい。サオリ。その恰好じゃお前まで風邪引いちまうぞ。食事置いていくから、食う前に着替えた方がいいぞ」
 ハンスはそう言うと、カートを置いたまま部屋から出て行って扉を閉めた。扉越しにまたハンスの大きなくしゃみが聞こえてきた。佐緒里はチアガールのユニホームを脱ぐと、壁にかけてあった服を手に取った。そこへ急に扉が開き、ハンスが再び入ってきた。
「いけねえいけねえ・・ カート忘れたよ・・ って・・ 」
 ハンスは着替え中の佐緒里と鉢合わせして、佐緒里の下着姿をまともに見てしまった。
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しばしの沈黙の後・・・・・・
「キァアーッ!!」
 佐緒里は思わず大声を上げてその場にしゃがみ込み、ハンスは慌てて佐緒里に背を向けた。
「ハンスさん。部屋に入るときはノックぐらいするものよ。鍵がかかってなかったらなおさらよ」
「ご、ゴメン。悪かった。カート忘れたもんだから・・・ ハックション!!」
 佐緒里は背を向けているハンスに近寄った。
「ハンスさん。もうこっち向いて良いですよ」
 ハンスは恐る恐る佐緒里の方を向いた。佐緒里はまだ下着姿で服を持ったままだったので、ハンスは両手で顔を隠した。
「もういいです。見られたものは仕方がありません。それより、カートはあとで私が持っていきますから、早く自分の部屋へ戻って暖かくした方が良いですよ」
「そ、そうか・・・ 分かった。裸見て悪かった。それじゃ鍵は開けておくからな。 は・・ は・・ ハーックション!!」
 ハンスはあたふたと部屋を出て行った。気がつくと佐緒里の腕や脚には鳥肌が立っていて、佐緒里は体をブルブルと震わせた。
「このままじゃ私まで変になりそうだわ・・・ 」
 そう呟きながら。佐緒里は急いで服を着ると、椅子に座って食事を始めた。カールから貰った服は結構暖かかったので、佐緒里はカールに頼んで二着貰って、交互に着ていた。

      **************

 食事が終わり、佐緒里はリュックの横のポケットを開けて、小型のケースを出し、蓋を開けて中から薬の小瓶を出してから、自分の額に手をあてた。
「熱は無いみたいだけど・・・ とにかく薬を飲んでおいた方が良さそうね」
 佐緒里は薬を一錠口の中に入れると、テーブルの上にあるポットの水を飲んだ。
 それから佐緒里は薬の小瓶を見た。
「まだある・・・ これだったらハンスさんとカールにも分けてあげられるわ。今の時代の人たちは抗生物質を知らないから、風邪ならこの薬が効くかもしれない」
 佐緒里が持っていたのはごく普通の風邪薬だった。以前風邪を引いたとき、学校で飲むために、瓶ごと自分のリュックの中に入れっぱなしにしていたのだが、それが思わぬところで役立った。
「それと・・・ 叔母様から貰った解毒剤とビタミン剤があった・・・ 」
 佐緒里は自分が使った食器とともに、薬の入ったケースをカートの上に乗せ、部屋の扉を開けて廊下に出た。そこへハンスがやってきた。さっきと比べて顔色が悪いのが、佐緒里にははっきりとわかった。
「悪いな。後は俺が運ぶから」
「ダメ! ハンスさん。顔が真っ青だよ。まずハンスさんの部屋に案内してください」
 佐緒里の迫力と威圧感に、ハンスは思わず後退りした。
「わ、分かった」
 そういうとハンスは佐緒里に背を向けて歩き出し、佐緒里はその後をついていった。部屋について扉を開けると、佐緒里も続いて入った。
「すぐに横になってください。早くして!!」
 ハンスは言われるままにベッドに横になった。佐緒里はハンスの額に手をあてた。
「熱がある・・・ ハンスさん。他に何か感じる事はありますか? たとえば体が痛いとか、寒気がするとか」
「体は痛くねえけど、寒気がする・・・ うう・・・ 」
 佐緒里はケースから風邪薬とビタミン剤を出した。
「これを飲んでください。私の世界にある薬です。もし風邪ならば必ず効きます」
「お、おう」
 ハンスは佐緒里から貰った薬を水と一緒に飲み込んだ。
「とにかく今日一日は絶対安静ですよ。今日の夜の食事は私が作りますから、この牢獄の台所と洗い場を教えてください」
 佐緒里はハンスから台所と洗い場を聞き出すと、続いてカールの部屋を聞いた。
「カールは隣の部屋だ。それと、神父様は昨日の夕方から隣の町へ出かけていて留守なんだ。帰りは明日の昼頃だって言ってた。だから今日のお前の審問は無しだ」
「わかりました。それじゃハンスさん。私の言う通りにして、ゆっくり休んでください。いいですね?」
「わ、分かった。すまねえな。サオリ」
 佐緒里はハンスの部屋を出ると、隣のカールの部屋をノックしてから扉を開けて中に入った。カールはベッドに横になってうんうんうなっていた。
「カール。だいじょうぶ? 具合はどう?」
「さ、寒い・・・  頭が痛い」
「カール。私の方を向いて」
 佐緒里の方を向いたカールは、顔を真っ赤にしていた。佐緒里はハンスにしたように、カールの額に手をあてた。
「ヤバイ。すごい熱・・・ カール。口開けて」
「(叔母様の解毒剤も飲ませた方がいいわ・・) カール。これを飲んで」
 佐緒里は風邪薬とビタミン剤。そして叔母の美紀子から貰った解毒剤をカールの目の前に差し出した。
「それは何?」
「薬よ。風邪ならば必ず効くから、飲んで」
 佐緒里はカールの口の中に薬を入れると、ポットの水を飲ませた。
「カートを片付けて食器を洗ったらまた来るから」
 佐緒里はカールの部屋を出ると、カートを押して台所へと向かった。

     **************

「洗い場はこっちだったわね・・・ 」
 佐緒里は牢獄の裏手にある道を歩いて、川の傍まで来ると、みんなの分の食器を洗い始めた。
「しかし、この川の水は結構温かい。体を洗った時に感じたけど、真夏のプールに入ったときみたいな感じだった。何故こんなに温度が高いんだろう・・・ 」
 洗い終わって立ち上がったとき、風が吹き抜けてきて、佐緒里は鼻にツンとするような臭いを感じた。
「何だろう、この臭い」
 佐緒里は辺りを見回した。
「川の上流の方からだ。何だか硫黄みたいな臭いだわ」
 佐緒里は上流へ歩き出そうとしたが、みんなの食器が目に入り、行くのをやめて、食器を持って牢獄の建物へと戻っていった。時刻は既に昼近くになっていた。
「ハンスさんが回復したら聞いてみよう。あの人なら何か知ってるかもしれない」

 佐緒里は食器とカートを所定の場所に片付け、再びカールの部屋へ向かった。扉を開けて中に入ると、カールは気持ち良さそうに寝ていた。佐緒里はカールの額に手を触れてみた。
「もう熱が下がっている・・・ 叔母様の解毒剤の効き目はすごいわ」
 佐緒里は部屋から出ると、今度はハンスの部屋へ行き、扉を開けた。ハンスは何事も無かったかのように起きていて、ベッドに腰掛けていた。
「ハンスさん。寝てなきゃダメだって言ったのに」
「悪い悪い。でもよぉ・・ お前の薬飲んだら、何だか知らねえけど、すっかり良くなっちまったんだよ。お前がくれた薬ってすげえ効き目だな。これって魔法の薬なのかい?」
「いいえ違います。私の世界では当たり前のようにあるものです」
「そうか・・・ ところでカールはどうした?」
「まだ寝ています。でも熱は下がっているわ」
「お前はだいじょうぶなのか?」
「私も薬飲んだから。それよりハンスさんに聞きたいことがあるの」
「何だ?」
 佐緒里は部屋にある椅子に座った。
「川の上流の方から変な臭いがしたのよ。何だか硫黄のような・・ 」
「イオー? 何だいそりゃ? たしかに時々変な臭いはするけど、それがお前の言うイオーってやつなのか。サオリ。川の上流へは行っちゃダメだぞ。この前お前がやっつけた悪魔よりも、もっと恐ろしい怪物がいるんだ」
「怪物・・・ どんなやつがいるんですか?」
「姿を見た者は誰もいねえんだけど、白い湯気の中から黄色い臭い煙を勢いよく吐き出して、人を威嚇するんだ。それに周辺には黄色い色をした燃える岩や、煮えたぎった熱湯の湧き出す泉がたくさんあって、昔そこへ落ちた者があっという間に全身に火傷して死んじまったことがあるんだよ。そして熱湯の一部は、この牢獄の裏にあるドルフ川に流れ込んでいるから、ドルフ川の水は年中暖かくて、冬でも凍らねえんだ」

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「そうか。それで川の水の温度が高かったのね。すると黄色い石は硫黄で、熱湯の泉は、もしかして温泉・・・・」
「何だサオリ。イオーだのオンセンだのって、一体何なんだ」
「ハンスさん。今度案内してくれますか? 私がその怪物の正体を突き止めてあげるわ」
「おいおい・・ あんな恐ろしい場所、勘弁してくれよ」
「大丈夫! 私がついています。私は魔女なんだから、怪物くらい平気ですよ」
「そ、そうだったな。お前魔女だったんだな。分かった。今度案内してやるよ」
「ありがとう。それから、もう一つ聞いて良いですか?」

「今度は何が聞きたいんだ?」
「以前神父様やカールが言っていた、この牢獄での事件の事です。神父様に聞いたんだけど、神父様とカールはその時この村にいなかったから、事件の事を詳しくは知らないんです。知りたかったらハンスさんに聞けと言われました」
 ハンスは表情を曇らせた。ハンスはその事件の当事者であるばかりでなく、事件の時のただ一人の生き証人だったのだ。ハンスは出来る事ならば話したくなかったが、佐緒里の真剣な目を見て、話す事にした。
「分かった・・・・・ お前も知っておいた方が良いかもしれんな」
 ハンスはゆっくりと話し始めた。
 ハンスが言うには、この牢獄は元々は城として使われていたもので、城が出来たのは今からおよそ300年前の12世紀頃。当時は周辺で頻繁に戦争があったので、城はドルフ村を含めた周辺の町や村の防衛の役割を担っていた。しかし戦争が無くなって長く平和な時代を経て、城はその役割を終え、駐留していた兵たちも全て引き揚げていって、城は廃墟同然になった。だが、15世紀になって、今度はヨーロッパの各地で魔女狩りの嵐が吹き荒れ、このドルフ村周辺にもその影響が波及してきた。そこで廃墟になった城が修築されて、今度は周辺で捕えられた魔女を収監するための牢獄として使われることになったが、周りでの魔女騒ぎをよそに、この界隈では魔女狩りは行われず、牢獄には一般の囚人を収監していた(しかし収監される囚人は殆どいなかった)。
ところが、今から2年ほど前に、アルベルト神父の前任者の神父がドルフ村に着任してから様相が変わった。先代の神父は魔女に対する憎悪の塊のような人物で、一緒に連れてきた自分の手下二人を看守として使い、ドルフ村の住人たちの中からも看守を半ば強制的に集めて、牢獄に勤めさせた。その中の一人がハンスだったわけである。
 神父は大掛かりな魔女狩りを行い、ドルフ村のみならず、周辺の町や村に住む若い女性や少女たち、また年端も行かないような幼い子供までも、魔女の嫌疑をかけて次々と捕え、地下牢に鉄の鎖でつないで監禁し、執拗かつ凄まじい拷問にかけた。牢獄からは昼夜を問わず、女性たちの泣き叫ぶ悲鳴や嗚咽が聞こえ、捕えられた女性の7割近くが、処刑される前に拷問で命を落とし、自白した者は村の広場で次々と火炙りになった。

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 そして、ついに一年前に事件が起きた。その時収監されていた女性は、少女を含めて6人。拷問で苦しむ女性の絶叫と悲鳴に酔い、感覚が麻痺してしまっていた神父は、看守の一人と一緒に少女を鞭打っていたとき、煮えたぎった油の入った釜を、興奮のあまり蹴り倒してしまったのだ。油は拷問部屋の床に流れ出して、蝋燭の火が油に燃え移り、たちどころに部屋全体が紅蓮の炎に包まれた。鎖でつながれて吊るされていた少女は即死し、居合わせた看守たちもその側杖を食って全員焼死。神父も油塗れの衣服に火がついて、全身火だるまになって絶命した。さらに火のついた油が廊下に流れ出し、拷問部屋のあった階層全体が炎に包まれて、上の階層にあった地下牢にも煙が充満し、鎖でつながれて監禁されていた女性たちや、他の看守達も全員煙にまかれて窒息死した。助かったのはその時外に出ていたハンスだけだった。ハンスが異変に気付いて、村の人たちを呼んで連れて来た時には、既に牢獄の到る所から煙が出ていて、手がつけられない状態だった。幸いな事に被害は地下の部分だけで、地上の居住区は無事だった。
 この事件をきっかけに、ローマ法王庁の査察が村に入り、村人たちの証言から神父の行いが全て明るみになった。焼死した神父は悪行に対する天罰が下ったものと断定され、その資格と権限を全て剥奪されて、単なる犯罪者として処分された。唯一の生き残りであったハンスは、神父によって無理矢理看守にされたという経緯があり、村人たちの助命嘆願もあって死刑は免れた。拷問部屋のあった牢獄の最下層は完全に埋められて使用不能になり、地下牢も半分ほどが埋められた。そして、事件の全容を重く見た枢機卿は、ドルフ村を含めた周辺の地域における魔女狩りを全面的に禁止するという処断を下した。そしてその後に村に赴任したのがアルベルト神父だったわけである。以上がハンスの話だった。

「そんな事があったんですか・・・ それで村には女性の姿があまり無かったのね」
「ああ・・ もう思い出したくもないよ」
「ごめんなさいハンスさん。こんな事聞いてはいけなかったんですね」
 佐緒里の声は涙声になっていた。
「おいおい・・ 何でお前が泣くんだよ」
 佐緒里は泣いていた。そしてそのままハンスに縋るように抱きついた。
「ど、どうしたんだよサオリ (いいのかなぁ・・・)」
「帰りたい・・・ 」
「え? 何だって? サオリ」
「帰りたい! 帰りたいよぉ・・」
 佐緒里はそう言いながら、ハンスに抱きついたまま泣いていた。佐緒里の心中を察したハンスは、自分も佐緒里を抱きしめた。佐緒里の身体の柔らかい感触がハンスに伝わってくる。
「サオリ。もう泣くな。帰れるよ。絶対に帰れるから」
「うっ・・ うっ・ 」
「信じろ! 帰れるって信じるんだ。神父様も言っていけど、奇跡は必ず起きる。今の俺にはそれしか言えねえけどよ、今は信じるしかねえんだよ。だからもう泣くな」
「ありがとう・・・・ ぐすっ・・・ う・・」
 佐緒里はハンスから離れると、涙を拭って窓の方を見た。既に日が落ちかかっている。
「いけない・・・ もう夕方だわ。みんなの食事を作らないと」
 佐緒里はふっ切れたように立ち上がると、部屋から出て行こうとした。
「おい。サオリ。俺も手伝うよ」
 佐緒里はハンスの方を振り返った。
「も、もう大丈夫だよ」
「分かった。じゃお願い」

 その日の夕食は、佐緒里が作った野菜のシチューだった。まだ回復していないカールには、食べやすいように野菜を細切れにした。佐緒里とハンスはカールの部屋で一緒に食事をしていた。
「美味い・・・・ サオリは料理の才能もあるんだな」
「美味しい・・ こんなの食べたの久しぶりだよ」
「そう言ってもらえるだけでも嬉しいです」

「ごちそうさん」
「ご馳走様。美味しかったよ」
「おそまつさま」
 佐緒里は食器をカートに乗せると、部屋を出て台所へ向かった。ハンスが蝋燭を持って一緒に歩いた。
「サオリ。食器は明日の朝のものと一緒に洗うから、台所に置いたら、部屋に戻っていいぞ」
「はい」

 部屋に戻った佐緒里は、蝋燭の明かりをたよりに、神父から借りた本を読んでいた。
「確かに・・ 私がエモトさんから預かった冊子と同じ事が書かれている。あの十字架は、金色の方が媒体となって、銀色の方に作用するんだわ。つまり金色の十字架に太陽の光があたると、反射して銀色の十字架に光が吸収され、十字架が光を帯びて・・・  この本には時空を超越すると書かれている。時空を超越、つまりタイムスリップという事か。また、その光は太陽の光と同じ強さならば、太陽でなくとも良いとも書かれている・・・・ 太陽の光か。確かタイムスリップした時は西日があたったんだわ」
 佐緒里はそこで一つため息を突き、あくびをした。
「さてと・・・ もう寝るか・・・ 」
 佐緒里は体操着に着替えた。寒そうなので上はジャージを羽織り、蝋燭の火を消してベッドに横になって毛布を被った。こうして佐緒里の一日が終わろうとしていた。

  **************

 ACT.15 実験??

「ほう・・ ドルフ川の上流に怪物がいる?」
 神父はハンスの話を半信半疑で聞いていた。
「俺がサオリに話したら、サオリが正体を突き止めるって言ってました」
 神父は佐緒里の方を見た。
「神父様。私が思うには、きっとこの前の悪魔の正体と、大して変わらないものだと思うんです」
「ハンス、ドルフ川の上流は、村の掟では『禁断の場所』ではなかったのか?」
「確かにそうです神父様。村ではそのように昔から言い伝えられています。それは今まであそこへ往った者で、生きて村に帰ってきた奴がいないからなんです。といっても恐ろしさのあまり、ここ数年は誰も足を踏み入れていませんけど・・・・ それに禁断の場所はいうものの、危険だから近づくなという事で、絶対に入ってはいけないってわけではないんです」
「分かった・・・・ この件は少し考えさせてくれ」
 神父はそう言うと、今度は佐緒里に話しかけた。佐緒里の前には例の本が置かれている。
「佐緒里。本は読んだか?」
「はい。全部読みました」
「私も何度か読んでいるんだが、太陽の光の作用によって、十字架の機能が働くみたいだ。お前がこの世界に飛ばされたのも、それが原因だとはっきり分かった。だから一度実験してみようではないか」

 それから一時間後・・・
 佐緒里は神父、ハンスとともに牢獄の屋上に立っていた。神父は金の十字架を持ち、銀の十字架は屋上の床に置いた中型の木箱の前に置かれていた。
「よし。実験だ。十字架を太陽に向けるぞ」
 神父が十字架を翳すと、太陽の光が十字架にあたり、神父は反射した光が銀の十字架にあたるように角度を変えた。反射光は銀の十字架にあたって、後ろにあった木箱が光に包まれて消えた。と思ったら、数秒後には再びその場所に現れた。神父は銀の十字架を拾うと、佐緒里の方へ歩み寄り、佐緒里に十字架を持たせて言った。
「サオリの言っていた事が本当ならば、あの木箱は消えて別の時代か世界へと飛ばされているはずだ。実験してみたら確かに木箱は消えた。だが、すぐに現れてここに戻ってきた。サオリ。どう思う? お前の考えを聞かせてくれ」
「私が思うには、光の強さの違いだと思います。確かに木箱は消えましたから、多分消えている間は別の世界にあったのでしょう。しかし、光の強さが弱かったために、再びこの世界へ戻ってきたんだと思うんです」
 佐緒里はハンスの方を向いた。
「ハンスさん。ずっと成り行きを眺めていたけど、光が眩しくなかったんですか?」
「ああ・・ 眩しくはなかったぜ」
「なるほど・・・ 私にも眩しさは感じられなかった。サオリが言うように、光の強さなのかもしれんな」
「光が弱いということは、つまり太陽の関係だと思うんです。私がタイムスリップしたときの光と、今の光では、太陽の光の強さが全然違うんです」
「そうか・・・  それでは太陽の光では、お前を帰すことが出来ないという事か・・・ 」
 佐緒里はガッカリしたように項垂れて、その場に座り込んだ。目からは涙があふれ出てきた。それを見た神父が佐緒里を叱咤した。

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「サオリ! 諦めるのはまだ早いぞ。お前がそんな事でどうするんだ」
 神父はさらに続けた。
「きっと奇跡は起こる。そうだ! 太陽がダメなら、何か他の方法を考えようじゃないか。まだ方法や可能性が無くなったわけじゃないんだ。絶対に諦めるな」
「はい・・・ 」
 佐緒里はゆっくりと立ち上がり、ハンスが佐緒里の背中を軽くポンと叩いた。

  **************

  ACT.16 怪物の正体?

 それから二日が経過した。風邪で寝込んでいたカールは、佐緒里が持っていた薬のおかげですっかり完治し、元気な姿を佐緒里の前に現していた。
「サオリありがとう。おかげですっかり良くなったよ」
 サオリとカールは牢獄の建物の前にある広場にいた。ドルフ川上流にいると言われている怪物の件で考えていたアルベルト神父は、佐緒里を使って正体を確かめさせる事に決めた。自分が村に赴任している間に、出来る限り村の厄介事や、村に存在する変な言い伝えを全て払拭しておきたかったからである。ちなみに一年前に起こった牢獄の事件の時も、アルベルトは自分の先輩でもある、法王庁の枢機卿の指令でこの村に赴任し、事件の後始末をしたのであった。
 佐緒里とカールが話していると、神父がハンスと一緒に馬に乗ってやってきた。ハンスは佐緒里の傍まで来ると、馬から降りて佐緒里に話しかけた。
「サオリ。本当に行くのか? 後悔していないか?」
「はい。行かせてください!」
 そこで神父が口を開いた。
「よし。それじゃ行くか」
 神父は馬を歩かせ、ハンスも再び馬に乗って、佐緒里とカールに言った。
「お前たち二人はサオリの『魔法のほうき』に乗って来い」
 佐緒里とカールはお互いの顔を見合った。
「魔法のほうき・・・・ か・・・・ 」
 佐緒里は少し笑いながら右手を上げると、スティックを出して巨大化させ、地上から高さ60センチくらいのところに浮かせると、その上に座った。
「カール。乗って」
「お、おう・・ 」
 カールは言われるままに、佐緒里の後ろに座って跨ると、両手で佐緒里を抱擁するように、佐緒里の腰につかまった。
「行くよ。低く飛ぶから、怖がらなくていいからね」
「分かった。飛ばしていいよ。サオリ」
 佐緒里は2メートルくらいの高さまでスティックを浮かせると、そのままゆっくりと前に滑るように進め、自転車並みの時速20kmくらいの速度で飛ばした。
 場所を知っているハンスを先頭に、その後ろを佐緒里とカールが続き、殿を神父がつとめて、一行はドルフ川の上流へと向かっていた。硫黄の臭いが次第に強くなり、ついに一行は水蒸気のような煙が吹き出ているのが見える所までやってきて、ハンスが振り返って叫んだ。
「サオリ。あれだ」
 佐緒里はスティックを止めて高度を下げた。
「カール。降りて」
 佐緒里はカールを降ろすと、自分も降りてスティックを剣に変えて、みんなの前に出ると、煙が出ている方向へとゆっくり歩いていった。

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「サオリのやつ・・ 堂々と歩いていくけど、怖くねえのかよ」
「ハンス。恐らくサオリには、怪物がどんな物なのかを、薄々感づいているんだ。我々の知識では計り知れなくて解明出来ない事を、サオリには出来るんだよ」
 ハンスはゴクンと生唾を飲みながら、剣を抜いて佐緒里の後ろを歩いていった。カールと神父も続いた。その時シューッという音とともに、水蒸気が吹き上がり、ハンスは思わず身を竦めた。
「お・・ おい・・・ サオリ。に、逃げたかったら、逃げてもいいんだぞ。こ、こんな恐ろしいやつ相手に逃げたって、何も恥なんかじゃねえからな」
 佐緒里は煙が噴出しているところの前で足を止めた。近くにはハンスが言っていた熱湯の泉や、黄色い燃える石がゴロゴロしている。
「やっぱり硫黄だわ。泉は間違いなく温泉。噴き出す煙は間歇泉とは違うけど、地中から噴出している水蒸気・・・ 臭いからして、硫化水素が発生している気配は無い・・・・ それにここならば風の通り道だから、ガスが充満する心配もない・・・・ 硫黄に触れたり、泉に落ちない限り、大丈夫・・・ 」
 佐緒里は何事も無かったような顔をして、自分の後ろにいたハンスのところまで戻ってきた。神父とカールも傍に来た。
「怪物の正体は、私の国ではあちこちにあるものです。黄色い石は硫黄の塊で、熱湯の泉は温泉といいます。そして噴出している煙は、ガスの一種です」
「つまり、サオリがこの前に言ってたように、これも『神』が作り出したものだということか?」
「はい」
「ハンスからも話を聞いているんだが、イオーとかオンセンって一体何なんだ?」
「硫黄は元素・・・ つまり鉱物の一種です。金や銀はご存知だと思うんですけど、硫黄も金や銀に近いものなんです。ただ、金や銀のような使い方は出来ません。私の知っている範囲では、火打石や火薬の材料として使われています」
「ふむ・・ 火薬はあの黄色い石から作り出すのか。それではオンセンとは何だ?」
「完全に知っているわけじゃないですけど、地中から湧き出る熱湯・・・ と思ってください。私たちの国では、温泉のお湯を利用して、風呂として利用したり、物を暖めたりしています」
「フロ・・・ もしかして人間が入っても大丈夫なくらいの温度の湯に浸かるものか?」
「ご存知だったんですか?」
「ああ。東洋では人々がその『フロ』に入る習慣があると聞いた事がある。つまり、そこにある熱湯の泉は、温度が低ければ人が入っても大丈夫だということか」
「そうです。でもここの泉は温度が高いので、ハンスさんが言ったように、入れば火傷して死んでしまうでしょう」
 ハンスとカールは半信半疑で聞いていた。佐緒里の言葉には、自分たちの知識では計り知れないものがあったからだ。佐緒里は川に一番近い泉からあふれた熱湯が、湯気を上げながら水路を伝って川に流れ込んでいるのを見た。川のすぐ傍には澱みがあって、そこに一旦水がたまり、水面からは湯気が上がっていた。佐緒里はそこへ行くと、水の中に手を入れてみた。熱湯は川の水と混ざっていたため、その感覚は、沸いた風呂の温度の感触だった。
「ちょうどいいくらいだ・・・ このくらいなら入っても大丈夫。たまりの大きさといい、深さといい、露天風呂にはもってこいだわ」
「サオリ。何してるの?」
「あ・・ カール。お風呂に使えないかな・・・ って思っていたのよ」
「今言っていたフロのことか?」
「うん」
「サオリの国には、僕達の知らないものがいっぱいあるんだね」
 カールは興味深げに、佐緒里のしている事を眺めていた。

  **************

 翌日・・・・
 ドルフ川の上流にある急造の露天風呂(?) に佐緒里が入っていた。佐緒里は神父に頼みこんで、神父の計らいでここに来る事を許された。しかしある程度自由の身になっているとはいえ、囚人としての立場は変わっていなかったので、随伴人付きである事が条件なのだが、3日に一度くらいは暖かい風呂に入ることが出来るようになった。付き人は殆どカールだったが、興味津々だったカールも佐緒里と交代で露天風呂に入っていた。カールは湯に浸かりながら佐緒里と話をしていた。
「何かすごいいい気分になる・・ 佐緒里の国の人たちが羨ましいよ」
「でも気をつけてね。長く入りすぎると、湯あたりっていって、逆に体を壊してしまうから」

 これは余談であるが、その後神父の方針として、川から離れた奥の方の温泉や、蒸気が吹き出ている場所、そして燃える硫黄がゴロゴロしている場所は、危険なので立入り禁止という措置が取られ、村の広場には川の上流の危険箇所を説明した『お触れ書き』と、川の上流の危険箇所の手前には、『ここから先は危険! 立ち入り禁止!』という看板が立てられ、柵が作られた。このアイデアは佐緒里のものだったが、曖昧だった『禁断の場所』は、これで正式に禁断の場所になったのである。

 ACT.17 新たなる試練

 佐緒里がタイムスリップして二ヶ月が過ぎようとしていた。未だに21世紀に帰る手立ては無かったものの、ある程度は進展しつつあった。それは佐緒里が持つ変身能力だった。スカーレットエンジェルに変身する時の、強い光を利用すれば、十字架の光の強さも充分になるのではないかという、カールの言葉にヒントを得た神父は、早速実験する事にしたのだ。
 佐緒里はカールとハンス。そして神父とともに、牢獄の前の広場にいた。
「いいかサオリ。お前のスカーレット・・ 何とかっていう呪文で発光する光を、この十字架にあてるんだ」
「危険です神父様! そんな至近距離で光をまともに見たら、眩しさのあまり失明してしまうかもしれません」
「大丈夫だ! お前の呪文と同時に目を瞑るから。さあ、早くやりなさい」
「は、はい!」
 佐緒里はポーズをとると、変身の時の言葉を叫んだ。
「スカーレットスパーク・エンジェルチャージ!」
 佐緒里の体が眩しい光に包まれ、神父は目を瞑った。光は神父がかかげていた金の十字架にあたって跳ね返り、銀の十字架にあたって、その後ろにあった木箱を光が包み込んだ。佐緒里はスカーレットエンジェルJrに変身し、光に包まれた木箱はその場から完全に消えた。
「チャージアウト!」
 佐緒里は変身を解き、神父の元へ駆け寄って、カールとハンスも傍に来た。消えた木箱は再び姿を現すことは無かった。
「成功だ・・・ これならばいけるかもしれん」
 佐緒里の顔が明るくなった。傍らではカールが曇った顔になったのを神父が気付いた。
「カール。ダメだぞ。お前がサオリに傍にいてほしいという気持ちは分かるが、サオリはここにいてはいけない人間なんだ。21世紀の世界とやらに帰してやらねばいかんのだ。いいか? サオリがここに居続けることで、我々の世界が歪んでしまう恐れだってあるんだ。それはサオリがここで死んでしまっても同じ事だ。つまり我々が言う来世の世界が、変わってしまって、全く違う世界になってしまうことすら有り得るのだ」
「はい。分かっています神父様」
「俺にはよく分かんねえけど、要するにサオリを帰さなければなんねえってことなんだよな」

 そこへ村の者が小走りにやってきた。
「神父様。教会に手紙が届いていました」
 そう言って村の者は神父に、閉じ紐で縛って丸められた羊皮紙の手紙を差し出した。
「うむ。ありがとう。ご苦労さん」
 村の者は去っていき、神父は手紙を受け取ると、閉じ紐を解いて、丸まった手紙を開いて読んだ。読み終えた神父はため息をついた。
「まずい事になった・・・ 」
「どうかしたんですかい? 神父様」
「枢機卿が村に来る。何処で噂を聞きつけたのか、サオリの事が知られてしまっている」
「す、するとサオリは・・・・ 」
「魔女裁判だ」
「ええっ!?」
「おいおい・・ そんな事になったら、サオリは火炙りじゃねえか。何も悪い事してねえのに、むしろこの村のために尽くしてくれている、良い魔女じゃねえか」
「まあ待て。ハンス。カール。この件は私が何とかする。とにかく、魔女裁判になる以上、それまではサオリを帰すことが出来ん」
佐緒里が心配そうに神父の顔を見た
「サオリ。心配は要らないぞ。もしもの時は私が命をはってでもお前を守る。お前は絶対に死なせない」
「神父様・・・・・・ 」


     ***************

 佐緒里の事が法王庁の枢機卿の耳に入った。枢機卿が村にやってきて、魔女裁判が始まる。佐緒里は果たしてどのように裁かれるのか・・・・  佐緒里は21世紀に帰ることが出来るのか・・


 以下ACT.18に続く


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