鷲尾飛鳥

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第48話『羽ばたくエンジェルたち』

2015年 01月26日 19:57 (月)

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 ネオ‐ブラックリリーはついに大首領のクイーンリリーが自ら陣頭指揮を執り、世界征服のための大攻勢を開始した。その前哨戦として、絵里香たちに関係のある人たちが抹殺リストに入れられ、そのあおりで、かつてミルキーピンクとして絵里香たちを助けた宮代麻美が捕えられた。麻美はあわや処刑寸前というところで、絵里香たちに助けられて事なきを得たが、美紀子と佐緒里が別働隊の重囲により、天間村のペンションの中で完全に孤立状態になっていた。周囲に張られている結界とバーリアのおかげで、攻め込まれることは無かったが、孤立無援の状態である事に変わりは無かった。

    *   *   *   *

 天間村の村境にある美晴峠では、ネオ‐ブラックリリーのイカ魔人と軍隊アリ魔人、そしてヤシガニ魔人と多数の戦闘員が、絵里香たちの来るのを待ち構えていた。既に和久井村での事は戦闘員からの連絡で分かっていたので、絵里香たちが天間村に入るには最短のルートを取るであろうと予測されていたため、その最短のルートである美晴峠に陣取っていたのだ。

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 魔人の一人、軍隊アリ魔人が近くの戦闘員を呼びつけた。
「小娘どもはまだ来ないのか」
「イーッ! まだ何の連絡もありません」
 美晴峠に陣取っていた魔人と戦闘員たちは焦れてきていた。時間的な計算では既に絵里香たちが来ていてもいいはずだからだ。


 その頃・・・
「絵里香。こっちのルートだとすごい遠回りだよ」
「そうだよ。早く美紀子さんと佐緒里ちゃんのところへ行かなきゃ」
 絵里香たちはオートバイを走らせながら、ヘルメットに付けた無線で交信していた。絵里香たちは普段通る美晴峠のルートを使わず、大きく迂回して天間村の南隣にある川上町に一旦入り、そこから北へ折れて天間村へ入るルートを取っていた。
「私の感なのよ」
「また絵里香の感か。でも、絵里香の感はあたるからな」
「おそらくいつも通る美晴峠はやつらが待ち伏せしている可能性大よ」
「確かに・・・ 奴等の事だから、絶対にあたしたちの事を待ち伏せしてるわ。しかし絵里香の感は相変わらず鋭いわね」

    *   *   *   *

 こちらは天間村の某所にあるネオ‐ブラックリリーのアジトである。
「和久井村での抹殺作戦は失敗したか・・・ そしてスカーレットエンジェルはバーリアと結界を張っているために、その居場所を攻撃出来ない・・・ ええい!!  ろくな情報が入ってこないではないか!!」
 クイーンリリーは持っていたステッキでテーブルを叩きつけ、近くにいた戦闘員がビクッとした。その時クイーンリリーは何かを思いつき、戦闘員を呼びつけた。

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「おい。エンジェルスの小娘どもの動向はどうなっているのだ」
「イーッ。現在一部隊が美晴峠にて待ち伏せしていますが、先ほどの連絡では、まだ現れないとの事です」
 普通ならば、そんな答えが返ってくれば、ゼネラルダイアやドクターマンドラならば、激昂して見境無しに当り散らすところだが、クイーンリリーはなぜか黙って考え込んでいた。
「もしかすると・・ 小娘どものことだ。最短のルートが危険だと察知して、別ルートを取っているかもしれない・・・」
 クイーンリリーは戦闘員を何人か呼びつけ、自分の前まで来るよう命じた。
「私は今から出かける。私と一緒に来い!」
「イーッ」
 クイーンリリーは司令室を出て行き、数人の戦闘員がそれに続いた。

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 絵里香たちは、川上町と天間村の境付近まで来ていた。
「どうやら奴等の待ち伏せは無いようだわ」
「絵里香の感が的中したってわけだね」
 絵里香たちは村境まであと少しのところにある林の傍にオートバイを停めて、オートバイから降りた。
「ここまで来れば、もう大丈夫ね」
「あと少しだわ」
「聖奈子、美由紀。静かにして」
 絵里香が何かを感じたのか、聖奈子と美由紀を制した。
「どうしたのよ絵里香」
「静かに! 何かが私たちに向かってくる・・」
「え? 何かって?」
 聖奈子が絵里香に聞き返した瞬間、絵里香は聖奈子と美由紀に向かって怒鳴った。
「2人とも伏せて!!」
 絵里香が叫ぶと同時に、三人の周辺で突然立て続けに爆発音が響き、絵里香たちはその場に身を竦めた。
「一体何!?」
 さらに爆発が起きた。
「みんな散開して!」
 絵里香たちは爆発を避けるため、それぞれ散開した。
「ブァーッファーッ!」
 奇声と同時にバッファロー魔人が林の中から姿を現した。つづいて戦闘員も次々と姿を現した。
「聖奈子、美由紀! ネオ‐ブラックリリーだわ」
「くそっ! こっちでも待ち伏せしてやがったのか」
 絵里香たちはそれぞれポーズをとり、エンジェルに変身した。
「ブァーッファーッ! 者ども! 小娘どもを血祭りに上げろ!」
「イーッ!」
 戦闘員が奇声を上げながら、一斉に絵里香たちに襲いかかった。
「小娘どもを林の中に誘い込むのだ」
 絵里香たちは襲い掛かってくる戦闘員と格闘した。戦闘員たちは絵里香たちと戦いながら、林の方向へと逃げるふりをして絵里香たちを誘い込み。気がつくと、絵里香たちは道路からかなり奥に入った林の中で戦っていた。
「今だ。者ども引けーッ!」
 バッファロー魔人が命じると、戦闘員たちは一斉にその場から引き揚げた。
「待てッ!」
 戦闘員たちは潮が引く如く引き揚げて、林の中にいるのは絵里香たちだけになった。
「どうしたんだろう。奴等急に逃げ出したわ」
「わからない・・ 」
「あたし達にかなわないもんだから、尻尾を巻いて逃げたんだわ」
 その時絵里香は言い知れない胸騒ぎを感じた。新たな脅威が自分たちに迫ってくると直感したのだ。聖奈子と美由紀は、絵里香の様子がおかしいのに気づいた。
「絵里香。どうしたの?」
「何か来る・・・ 」
「エ?」
 突然絵里香たちの周りで地鳴りが起こり、つづいて地面が激しく揺れて、絵里香たちはバランスを崩した。さらに続いて絵里香たちの周辺で次々と爆発音が轟き、絵里香たちは身を竦めた。
「一体今度は何?」
「イーッヒッヒッヒッヒッヒーッ!」
 奇声とともに、ネオ‐ブラックリリーの大首領クイーンリリーが魔女の姿で現れた。

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「お前は!!」
「イーッヒッヒッヒーッ。小娘ども。私こそがネオ‐ブラックリリーの大首領。クイーンリリーだ。今までよくも我がネオ-ブラックリリーを梃子摺らせてくれたな。しかしそれも今日で終わりだ。お前達小娘は、ここで私の餌食となるのだ」
「うるさい化け物! てめえこそくたばれ」
 聖奈子はソードと楯を出すと、ソードをクイーンリリー目掛けて振り下ろした。
「アクアトルネード!」
 エネルギー波が渦を巻いて、クイーンリリーに迫る。が、到達直前に、クイーンリリーの姿が消え、トルネードのエネルギー波は林の中を抜けていった。
「消えた・・・・ 」
 聖奈子が呆然としていると、クイーンリリーが再び姿を現した。
「馬鹿者どもめ。お前らごとき小娘に、私が倒せると思ってか!」
 絵里香たちはそれぞれが背中合わせになって、円陣を組む恰好で身構えた。
「こいつ相当強いよ」
「ダメよ。弱音を吐いちゃ。私たちには絶望の二文字は無いんだから」
「キエエェェェェーッ!」
 クイーンリリーは奇声を上げながら、両手を地面の中に突っ込んだ。と同時に、絵里香たちの周辺から触手のような物体が次々と地面から現れ、絵里香たちはたちどころにその物体に巻きつかれて、宙に浮いた。
「キャアァーッ!」
「ウワアアーッ!」
「アアァァーッ!」

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 多数の蔓に巻きつかれた絵里香たちは、蔓を振りほどこうと必死でもがいた。が、もがけばもがくほど蔓が絵里香たちの身体を締め付ける。
「んん・・・ く、苦しい・・・ 」
「ああ・・  か、体が締め付けられるぅ」
「イーッヒッヒッヒーッ。逃げられるものか! 馬鹿者どもめ。その蔓には私の魔力が備わっているのだ。もがけばもがくほど、お前達の体を締め付けるのだ。イーッヒッヒッヒーッ」
「く・・ 苦しい・・ 体がちぎれる・・・ 潰されそう・・」
「畜生・・ ダメだ絵里香。動けないよ」
「聖奈子、美由紀。希望を捨てないで。気をしっかり持って」
「ふん! バカメ。捕らわれたお前らに希望などあるか」
 そう言いながらクイーンリリーは右手をサッと上げてその指先を絵里香たちに向けた。
「さあ小娘ども。苦悶のダンスを踊らせてやる」
 バリバリバリバリッ
「ああ・・ ウワアァァァーッ!」
 電気を浴びせられて、悶絶する絵里香たちの絶叫が林の中に木霊する。電気責めから逃れようとして体をスイングさせれば、蔓の絞めつけがさらにきつくなる。

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「アアーッ! く・・ 苦しいぃーっ!!」
「体が・・・ 体が潰されそう・・・ 」
「ち、ちぎれる・・・ 体が引き裂かれるぅーっ!!」
 体中を電気で痛めつけられ、蔓の力で体を締め付けられて、絵里香たちは次第に目に霞がかかってきたようになって、体全体が痙攣してプルプルと震え始めた。
「もっと悶えろ小娘ども。そおれ電圧を上げてやるぞぉーっ」
 バリバリバリバリッ! バチバチバチバチッ!
「アアアーッ! アーッ!」
「も・・ もうダメ・・・ あぁぁ・・・ 」
 やがて絵里香たちは電撃と締め付けの苦痛から、三人揃って失神した。
「気絶したか。ふん! エンジェルの小娘どもなど知れたものだ。スカーレットエンジェルの方が、まだまだマシだったわい」
 クイーンリリーは魔女の姿から人間体になった。絵里香たちを締め付けていた蔓の力が弱められ、気絶した絵里香たちは次々と地面に落ちてきた。そして何処からとも無く戦闘員が現れて、クイーンリリーの前に集まった。
「この小娘どもを処刑する。連れて行け!」
「イーッ」
 戦闘員たちは気絶した絵里香たちを担ぎ上げると、林の中を歩いていった。大首領クイーンリリーは、戦闘員たちに担がれていく絵里香たちを見ながら、憎悪に満ちた目で呟いた。
「いよいよ目障り極まりない小娘どもの最後だ。さらし者にして、ジワジワと痛めつけながら処刑してやる」

    *   *   *   *

 ペンションは相変わらずネオ‐ブラックリリーの重囲下にあった。美紀子がセットした結界とバーリアは、大首領クイーンリリーの魔力を持ってしても、破る事が出来なかったので、クイーンリリーはあえて放置しておき、魔人と戦闘員に対しては周りを包囲していれば良いとだけ命令していた。美紀子や佐緒里がいるとはいえ。所詮は人間であり、このまま放っておけば、いずれは食料が無くなって餓死するだけなのだ。それに電話線は切ってあり、携帯電話も妨害電波によって使用不能である。つまり何も手を下さずとも、待っているのは自滅だけだったのである。不幸中の幸いだったのは、宿泊客がいなかった事である。
「美紀子姉さん。このままだと、食料がもう無くなっちゃうよ」
「そうですよ。ここ一週間ほど予約が入ってなかったから、買出しもしていないんです」
 誠人と久美子が心配そうに、美紀子に言った。
「誠人君。久美子ちゃん。巻き込んじゃってゴメンね」
「いや・・ その事なら別にいいんだけど・・ 。何てったって、美紀子姉さんは元はスカーレットエンジェルだったんだし・・  今は佐緒里ちゃんがスカーレットエンジェルだから、俺も久美子もきっと美紀子姉さんと佐緒里ちゃんなら何とかしてくれるって信じてるんだ」
 美紀子は窓の外を眺めた。
「(まずい・・・ このままではここにいるみんなが危ない、絵里香たちとは連絡がつかないし、とにかく今は少しでも早くあの子達が来る事を祈るしかない)」
「スカーレットエンジェル! 聞こえるか!?」
 突然外から声が聞こえてきた。
「あれは・・ 大首領クイーンリリーの声だわ」
「叔母様! 大変。二階に来て」
 二階から佐緒里が美紀子に向かって叫んだ。
「どうしたの佐緒里」
 そう言いながら美紀子は二階へ上がった。佐緒里は自分の傍にある窓を指差した。
「叔母様あれを見て!」
 美紀子は佐緒里が言うままに窓の外を見て愕然とした。美紀子の目に映ったものは、牧草地のほぼ真ん中にある丘のうえに立っている3つの十字架と、それに縛り付けられて晒されている絵里香たちの姿だった。

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「絵里香さんたちが捕まってしまったわ」
 美紀子はゴクンと生唾を飲み込んだ。
「スカーレットエンジェル! 小娘どもはこの通り全て捕えてある。こいつらは、我がネオ‐ブラックリリーに歯向かい、我々の邪魔をした報いとして処刑する。そこで小娘どもの死に様をよーく見届けるんだな。そしてその次はお前達の番だ。ワーッハッハッハッハ!」
「どうしよう・・ 叔母様。このままじゃ絵里香さんたちが殺される、助けに行かなきゃ」
 佐緒里は階段を降りていこうとした。が、美紀子が佐緒里の服の袖をつかんで止めた。
「叔母様離してぇ」
「待って佐緒里。取り乱さないで! あなた一人が飛び出していったって、焼け石に水よ。落ち着いて!!」
 美紀子は佐緒里の腕をつかみなおすと、佐緒里の顔を自分の方へ向けさせた。
「佐緒里よく聞いて。いくら佐緒里がスカーレットエンジェルでも、今飛び出したら絵里香たちの二の舞になってしまうわ」
 佐緒里の目からは大粒の涙が溢れ出した。

      *   *   *   *

 その頃、天間村へ向けて飛ばしている一台の車があった。運転しているのは宮代早苗で、麻美と紫央が同乗していた。さらにその後ろからは一台のオートバイが走っていた。乗っているのは孝一と篤志だった。孝一も篤志も絵里香たちと連絡がつかず、心配で絵里香たちを追ってきたのだ。早苗からの連絡で事情を知った孝一は、早苗が運転する車の後を追ってひたすらバイクを飛ばしていた。
 車とオートバイは天間村との境にある美晴峠に差し掛かった。が、妨害すべき魔人や戦闘員はそこにはいなかったので、そのまますんなりと天間村へと入る事が出来た。絵里香たちがクイーンリリーによって捕えられ、その連絡が入ってきたので、待ち伏せしていた魔人と戦闘員が全て引き揚げていたからである。
 車とオートバイは、峠を越えたところにあるドライブインの駐車場に乗り入れた。
「あと少しで目的地だわ」
 そう言いながら早苗がみんなの分の缶コーヒーを買ってきて配った。
「早苗姉さん。絵里香さんたちと連絡がつかないのよ」
「私の携帯も同じよ。美紀子さんと全然つながらないのよ」
「この反応・・ きっと妨害電波だよ」
「ふざけやがって・・・ これじゃナビゲーションも使えねえな。とにかく美紀子さんのペンションへ行ってみよう」
「孝一君はそのペンションの場所を知っているの?」
「はい」
「それじゃ先導して。私はあとを付いていくわ」
「分かりました」
 孝一はバイクに跨り、後ろに篤志が乗った。早苗もドアを開けて車に乗り込み、麻美と紫央も乗り込もうとした。その時、麻美の頭の中に何かが過ぎって、キィーンという頭が締め付けられるような感覚があり、麻美は思わず声を上げた。
「キャッ!」
「どうしたの麻美」
 傍にいた紫央が聞いた。麻美は両手で頭を押さえつけて、顔をしかめている。
「しっかりして。一体どうしたのよ」
「紫央。ゴメン・・ ちょっと静かにして」
 麻美は頭を押さえながら、目を瞑った。すると頭の中に声が聞こえてきた。
『(麻美さん・・ ミルキーピンクの麻美さんならきっと私の声が届くと思ったの。声を出さなくても、思っている事は私に伝わりますから)』
『(あなたは・・ その声は佐緒里ちゃん?)』
 紫央は麻美が何をしているのか分からなかったが、静かにしてくれという麻美の言葉で、事の成り行きだけを見守っていた。やがて麻美は押さえていた両手を頭から離し、何事も無かったかのような仕草を見せた。
「麻美・・ 大丈夫?」
 麻美は紫央を無視して、運転席にいた早苗に向かって言った。
「早苗姉さん。大変。絵里香さんたちが奴等に捕まったって」
「何ですって!?」
 早苗が慌てて降りてきて、紫央は麻美を問い詰めた。
「麻美。何故そんな事分かるのよ」
「佐緒里ちゃんが私にテレパスを送ってきたのよ。ペンションの周りは化け物たちがウヨウヨしていて、奴等の親玉もそこにいるって言ってる。絵里香さんたちは捕まって磔にされていて、親玉が処刑するって息巻いているって」
「なんだそりゃ! これは急がないとやばいぜ」
 いつの間にか孝一と篤志も傍に来ていた

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「みんな早く行きましょう」
「待って。慌てないで。麻美、ちょっとこっちへ来て」
 早苗は麻美を自分の傍に来させた。
「麻美。あんたは佐緒里ちゃんとテレパスの交信が出来るようだから、佐緒里ちゃんから出来るだけの情報を聞き出して。それによって作戦を立てるわ」
「分かった。早苗姉さん」
「みんな行くわよ。孝一君先導して」
「はい!」
 孝一はオートバイに跨ると、篤志を後ろに乗せて発進し、早苗もその後を追って車を発進させた。

    *   *   *   *

 磔にされた絵里香たちの運命は風前の灯だった。三人は磔台の上で気絶したままで、その周囲は魔人と戦闘員たちが遠巻きに取り巻いていた。そこへ大首領がやってきて、居合わせた魔人と戦闘員が一斉に敬礼した。
「ペンションの様子はどうだ」
「イーッ。引きこもったまま、誰も出てくる気配はありません」
「小娘どもを見捨てるつもりなのか・・・ いや・・ そんな事は絶対に無い。スカーレットエンジェルのことだ。きっと何か企んでいるに違いない。見張りと警戒を厳重にして、誰にも邪魔をさせるな」
「かしこまりました。イーッ」
 戦闘員たちがそれぞれの持ち場に散っていき、クイーンリリーは絵里香たちの前に立った。
「さあ小娘ども! 目を覚ませ!」
 クイーンリリーはスティックを絵里香たちに向けた。
 バリバリバリッ
「んん・・ あ・・ アアァァーツ!」
「キャアァァァァーツ!」
 電気が流れ、絵里香たちはそのショックで絶叫とともに目を覚ました。自分たちが拘束されている事に気付いて、逃れようとしてもがいたが、両手足と腰の拘束はびくともしない。そして首には金属の輪が嵌められていた。
「目が覚めたか小娘ども。ここがお前達の墓場になるのだ。処刑まであと少し。それまで念仏でも唱えていろ」
「う・・ うるさい! どうせなら今すぐひと思いに殺しなさいよ」
「そうよ! 私たちが死んだって、美紀子さんや佐緒里ちゃんがいるのよ。お前達に世界征服なんか出来るもんか!」
「死ぬその瞬間まで、お前達の姿をこの目でしっかりと見続けてやる」
「ふん! 何とでも喚け。小娘ども。お前達の首に嵌っている金属の輪が何だか分かるか?」
 絵里香たちはそれぞれ自分の首に嵌められた金属の輪に気付いた。
「その首枷の威力を教えてやる。キエェェェーッ」
 クイーンリリーは奇声を上げながらスティックを絵里香たちに向けた。その瞬間、絵里香たちの首枷が伸縮し、絵里香たちの首を締め付けた。
「ん・・ ああ・・」
「が・・  く、苦しい・・ 」
 首を締め付けられて、絵里香たちは磔台の上で悶絶した。
「どうだ小娘ども苦しいか。悔しいか。もっと嬲って痛めつけてやる」
 クイーンリリーがスティックを一振りすると、今度は電流が流れて、絵里香たちは身体を悶絶させながら悲鳴を上げた。

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「ああぁぁ・・ アアーッ!」
「キャアァァァーッ!!!」
「もっと悶え苦しめ! ワーッハッハッハ」
 首への締め付けと電気ショックで、絵里香たちは体を悶絶させる。
「このまま死んでしまっては面白くない。もっともっと嬲りものにせねば、今までの恨みを晴らす事が出来ぬ」
 クイーンリリーは再びスティックを振った。電流が止まり、締め付けていた首枷が元に戻った。絵里香たちはハアハアと荒い息をしながら、悔し涙で顔をクシャクシャにした。それでもキッとクイーンリリーを見据える。絵里香はクイーンリリーに向かって怒鳴った。
「どうしたのよ! 早く殺せばいいじゃないの! 死ぬ間際の最後の最後まで、お前の顔を見続けてやる!」
「ふん・・ まだそんな減らず口が叩けるのか。しかし泣き顔もなかなかのものだな。そんなに悔しいか。お前達もこれで終わりだ。ワーッハッハッハッハ!」
 クイーンリリーは絵里香たちに背を向けて歩き出し、磔台から距離を置いた。


「奴等の親玉までいる。警戒も厳重だわ」
 早苗が双眼鏡を覗きながら呟いた。孝一の先導で、みんなは絵里香たちが磔にされて晒されている牧草地の丘が見渡せる場所まで到達していた。距離にして約200メートル。この場所からは丘だけでなく、周りの様子もしっかりと見えていて、美紀子たちが立て篭もっているペンションも丸見えだった。みんながいる場所は牧草地の外縁部にある森の中で、魔人や戦闘員たちからは気付かれにくかったし、大首領もほかの魔人や戦闘員たちも、磔になった絵里香たちしか眼中に無かったのでなおさらだった。早苗は傍にいた孝一に双眼鏡を渡してから、麻美の方を向いた。
「麻美。佐緒里ちゃんとテレパスでコンタクトをとって」
「分かった」
 麻美は両手で頭を押さえると、目を瞑った。
「(佐緒里ちゃん。佐緒里ちゃん。聞こえる?)」
「(聞こえています。麻美さん。今何処なんですか?)」
「(森の中。絵里香たちが晒されている場所と、ペンションの建物の両方が見える所よ)」
佐緒里の目には3つの十字架越しに、牧草地の背後に広がる森が映っていた。
「(居場所は大体見当がつきました。私が指示するまで絶対に動かないでください)」
「(分かった)」

 佐緒里は麻美とのコンタクトを終えると、傍にいた美紀子の方を向いた。
「叔母様。麻美さんたちが来てます」
「分かった。佐緒里。下へ降りるわよ」
 美紀子と佐緒里は階段を降りた。下では誠人と久美子が心配そうな顔をしていた。
「誠人君。久美子ちゃん。私と佐緒里は、今からあの子達を助けに行く。結界とバーリアは張ったままだから、奴等がここに進入してくる事は無いわ。後は頼んだわよ」
「分かった。気をつけて美紀子姉さん」
 美紀子と佐緒里は周りにいるネオ‐ブラックリリーに気付かれないよう、用心しながら裏口から出た。
「佐緒里。麻美ちゃんにコンタクトして。それから絵里香にも」
「はい叔母様」
 美紀子の作戦は次の通りである。まず麻美にコンタクトして、ミルキーピンクに変身してスタンバイさせてから、磔台の絵里香にコンタクトする。そして、佐緒里のテレポーテーションで、麻美を十字架の傍にテレポートさせ、同時に佐緒里もテレポートして、周囲の魔人や戦闘員を排除し、佐緒里のシールドで十字架を全て覆ってから、絵里香たちを助け出すというものである。佐緒里は目を瞑ると、テレパスで麻美とコンタクトを始め、美紀子の作戦を伝えた。

      *   *   *   *

「クロスチェンジ!」
 佐緒里とコンタクトした麻美はミルキーピンクに変身すると、森の端に伏せて佐緒里の次の指示を待った。その後ろで成り行きを見守る紫央と早苗、それに孝一と篤志。そこへ佐緒里からコンタクトが・・
「(麻美さん。十字架目掛けてダッシュしてください)」
「分かった!」
 麻美は立ち上がると、森から出て思いっきりダッシュした。同時に佐緒里はスカーレットエンジェルJrに変身して、スティックを麻美に向けた。麻美の体はその場から消え、一瞬のうちに絵里香たちが磔になっている十字架の前に現れた。大首領クイーンリリーは、突然現れた麻美に驚いた。
「な・・・ 何者だお前は!? そうか。お前がミルキーピンクとかいう、エンジェルスの小娘どもの仲間だな」
「いかにも! 私は正義の戦士ミルキーピンク! お前達に勝手な真似はさせない!」
「小賢しい! お前も捕えて一緒に晒してやる!」
 クイーンリリーはスティックの先端を麻美に向けて威嚇し、麻美はクイーンリリーに向かって身構えた。そこへクイーンリリーの後ろから美紀子と佐緒里が突然現れ、そのままクイーンリリーに体当たりした。
 ドカッ!! 
「ワーッ!」
 不意を突かれたクイーンリリーは叫び声とともに吹っ飛ばされ、さらに麻美がクイーンリリーに足払いをかけて、クイーンリリーはそのままもんどりうって地面を一回転した。美紀子と佐緒里は麻美の傍まで駆け寄り、佐緒里はブレードを出してクイーンリリーを威嚇した。

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「大首領クイーンリリー! 私たちがいる限り、絶対にお前たちの勝手にはさせない!」
「クイーンリリー! 長かったわね。でももうお前の野望も今度こそこれで終わりよ!」
「おのれ。スカーレットエンジェル。それにスカーレットエンジェルのガキめ!」
 佐緒里はポーズをとると、両手でブレードを空に掲げて叫んだ。
「エンジェルシールド!」
 電磁波がバチバチとショートするように閃光を発し、薄い透明の膜のようになって、絵里香たちを磔にしている十字架は勿論、美紀子と佐緒里、麻美もその中にすっぽりと覆われた。
「くそっ! 今すぐ小娘どもを処刑してやる! キエェェェェーッ!」
 クイーンリリーは奇声を発しながらスティックを十字架に向けた。閃光とともに高圧の電磁波が放たれたが、シールドによって跳ね返され、近くにいた戦闘員が悲鳴とともに吹っ飛ばされて、クイーンリリー自身も衝撃でその場に尻餅をついた。
「し、しまった! スカーレットエンジェルの結界を張られた。これでは魔力が効かない・・ おのれぇ・・・」
「麻美さん。今のうちに絵里香さんたちを!」
「オーケー!」
 麻美は絵里香目掛けてポーズをとった。
「ミルキーフラッシュ!」
 絵里香を拘束している枷にミルキーフラッシュが命中し、拘束していた枷が全て吹っ飛んで絵里香が磔台から落ちてきたが、絵里香は地上に上手に着地した。
「麻美さんありがとう」
 聖奈子と美由紀は、美紀子と佐緒里が枷を壊し、二人とも無事に地上に降りてきた。自由になった絵里香はクイーンリリーに向けて息巻いた。
「よくも私たちをいたぶったわね! これ以上お前達の勝手にはさせないわ!」
「何を小癪な! 者どもかかれ! 皆殺しにしろ!」
 クイーンリリーはそう言うと、その場から逃げ出して姿を消した。
「絵里香。クイーンリリーが逃げたわ!」
「チキショー! 何処かで高みの見物かよ」
「聖奈子、美由紀。いまはそれどころじゃないよ」
 シールドが解かれ、絵里香たちは向かってくる魔人と戦闘員に向かって身構えた。
「みんな行くよ!!」
「オッケー!」
 絵里香たちは魔人と戦闘員に向かって駆け出した。佐緒里と麻美も絵里香たちを追った。

「かかれえっ! 小娘どもを皆殺しだ!」
 先頭にいたバッファロー魔人が戦闘員を煽り立て、戦闘員が次々と絵里香たちに向かっていった。絵里香たちと戦闘員たちとで乱戦になり、その中へ佐緒里と麻美も飛び込んだ。森の中に隠れていた早苗たちは、その隙に美紀子に誘導されてペンションの中へ逃げ込む事が出来た。
 戦闘員は次々と奇声を上げながら襲い掛かってきて、絵里香たちは格闘しながら次々と倒していった。
「えーい! 不甲斐ない奴らめ。パーッファーッ!」
 バッファロー魔人が一番近くにいた聖奈子目掛けて、全速力で突進したきた。気付いた美由紀が叫ぶ
「聖奈子危ない!」
 聖奈子は反射的にその場にしゃがみ込んだ。そこへバッファロー魔人が突っ込んできて、聖奈子の体を乗り越え、そのままもんどりうって地面に頭から突っ込んで一回転した。聖奈子はソードを出すと、態勢を立て直していないバッファロー魔人目掛けて突き刺した。

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「アクアストーム!」
「ブァーッファーッ!!」
 バッファロー魔人は絶叫とともに体から火花を吐き出し、聖奈子はジャンプして距離を置いて着地した。バッファロー魔人は前のめりに倒れてそのまま爆発した。一方の美由紀は聖奈子に向かって叫んだ時に自分の周りの注意が反れ、そこへヤシガニ魔人が襲いかかってきた。大きな鋏が美由紀目掛けて振り下ろされたが、間一髪でその一撃を避けると、バトンを出して身構えた。そこへヤシガニ魔人が鋏で二本のバトンを挟みつけた。
「今だ! ライトニングストーム!」
 バチバチバチッ
 電気のスパークとともに強力な電流がヤシガニ魔人に流れ込み、ヤシガニ魔人は電気がショートしたかのように体中から火花を発した。美由紀は反転ジャンプして距離を取ると、バトンを交差させてヤシガニ魔人に向けた。

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「ライトニングスマッシュ!」
 光のエネルギー波が球体となってヤシガニ魔人に吸い込まれ、ヤシガニ魔人はドーンという音とともに爆発して吹っ飛んだ。
 絵里香は軍隊アリ魔人とイカ魔人相手に戦っていた。軍隊アリ魔人の槍と絵里香のブレードがあたる度に火花が迸り、イカ魔人の長い腕が絵里香に向かって飛んでくる。
「今だ!」
 絵里香はジャンプした。イカ魔人の腕が今まで絵里香がいた場所を通過して、反対側にいた軍隊アリ魔人に巻きついた。絵里香は着地すると、ブレードをイカ魔人と軍隊アリ魔人目掛けて振り下ろした

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「ファイヤートルネード!」
 高エネルギーの炎の渦が魔人を包み込み、その中で魔人は絶叫しながら木っ端微塵に吹っ飛んだ。戦いが始まって約20分後には、魔人はスズムシ魔人だけになり、戦闘員の数も10数人になっていた。
 絵里香、聖奈子、美由紀はそれぞれ駆け寄ってきて、一箇所に集まった。佐緒里も絵里香たちの元に駆けてきた。そこへ麻美が絵里香たちに向かって叫んだ。
「みんな! ここは私が引き受けるから、奴等の親玉を追うのよ!」
 絵里香たちはお互いの顔を見合い、お互いに頷いてから、絵里香が麻美に向かって言った。
「分かった! 麻美ちゃん。後は頼んだわよ!」
 絵里香たちは麻美に背を向けると、一目散に駆け出した。その先には美紀子が待っていた。
「クイーンリリーの居場所は、ここから北西に約5キロ行った場所よ」
 絵里香たちの前には、自分たちが乗ってきたオートバイがいつの間にか置かれていた。
「よーし! 今度こそ奴等の親玉を仕留めてやる」
 聖奈子は息巻きながら変身を解くとオートバイに跨り、後ろに美由紀が乗った。絵里香もオートバイに跨ってエンジンをかけ、その後ろに佐緒里を乗せると、アクセルをふかして発進した。美紀子も自分の車のエンジンをかけてスタンバイしていた。
「誠人君に久美子ちゃん。ここにいれば安全だから」
「分かりました」
 美紀子は車を発進させ、絵里香たちの後を追っていった。早苗と紫央は・・ というと、麻美がまだネオ‐ブラックリリー相手に戦い続けていたので、麻美を援護するために飛び出していった。孝一と篤志は、美紀子にここに残るように言われていたものの、絵里香たちが気がかりでいても経ってもいられなくなり、オートバイのエンジンをかけてスタンバイした。

       *   *   *   *

「もう道が無いわ」
「ここで降りるしかないわね」
 絵里香たちは鬱蒼とした森の前まで来ていた。
「アジトの場所はこの森の中です。あと大体500メートルくらいです」
「よし! みんな行こう」
 絵里香たちはオートバイから降りると、ポーズをとってエンジェルに変身し、森の中に入り込もうとしたが、絵里香が振り返って佐緒里に向かって言った。
「佐緒里ちゃんはここに残って」
「ええ? どうして・・・・ 私も戦士よ。私も絵里香さんたちと一緒に戦うわ」
「ダメ! 佐緒里ちゃんは私達にもしもの事があった時、いや・・ もしも私たちが死んだら、私たちの代りになって戦う使命が残っているのよ」
「そうよ佐緒里ちゃん。戦うのは私たちだけで充分」
「佐緒里ちゃんがいれば、あたし達は安心して命を捨てる事だって出来る」
「命を・・・ ちょっと待ってよ! みんなまるで、死にに行くような言い方じゃないの」

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「その通りよ。佐緒里ちゃん。私たちはもう死ぬことなんか怖くない。私たち三人の命と引換えになっても、必ず首領を倒すから。だから佐緒里ちゃんはここに残って。私たちの命と引き換えでネオ‐ブラックリリーが滅ぶのなら、悔いは無いわ」
「ダメ! ダメよそんな事言っちゃ。死ぬなんて言わないで」
 佐緒里が絵里香たちに詰め寄ったその時、絵里香は一瞬の隙をついて佐緒里の腕をつかみ、みぞおちを殴った
「うぐ・・・・ え、絵里香さん・・・・ 」
 佐緒里はうめきながら膝をつき、そのまま前のめりに倒れて気を失い、変身が解けた。
「佐緒里ちゃん。許して」
 絵里香はそう言うと、佐緒里が手にしていたスティックを取った。
「聖奈子、美由紀、私たちの今の力はフルパワーじゃなくて、美紀子さんによってセーブされているわ。このスティックを使って私達の力をフルに出せるようにすれば、きっと大首領を倒せると思う」
「私も同感よ。美紀子さんがいつか言ってたけど、ミラクルチャージを使うとエネルギーが逆流して自分自身の命も失うかもしれないから、美紀子さんによって持続時間が決められて、一度使えば6時間変身出来なくなるように設定されたけど、このスティックを使えば設定を解除出来て、フルパワーでミラクルチャージが使えるかもしれない。絵里香、聖奈子。それでいいんだよね? 私たちの命と引換えでネオ‐ブラックリリーが滅びるんなら、後悔しないよね」
「勿論よ美由紀。ネオ‐ブラックリリーが滅びた後の、平和になった世界を見ることが出来ないのは残念だけど・・・ 聖奈子、美由紀、くれぐれも言うけど死ぬときは三人一緒よ。抜け駆けは絶対無しだからね」
 絵里香たちはそれぞれお互いの顔を見つめ合った。三人とも覚悟を決めたような表情で、お互いに頷き会うと、三人で堅く手を握り合った。
「行こう! ネオ‐ブラックリリーを倒すのよ」

      *   *   *   *

 絵里香たちは鬱蒼とした森の中を小走りに駆けていた。時折戦闘員が不意に襲ってきたが、絵里香たちはそれらを跳ね除けながら少しずつアジトに近付き、森が無くなってアジトが見える場所までやってきた。それは洋館のような建物だった。建物の周囲の半径100m位は木が一本も無く、その中に誰かがいれば全て丸見えという状態だった。絵里香たちは森が切れる手前のところで止まった。木々の間から建物が見え隠れしている。
「あの中に大首領クイーンリリーがいるのね。聖奈子、美由紀、覚悟はいい?」
 絵里香の言葉に、聖奈子と美由紀は無言で頷いた。そこへまた戦闘員が襲いかかってきて、格闘戦になった。戦闘員は一人ずつ倒されていったが、近くの繁みの中からボーガンを構えた数人の戦闘員が隙を覗っていた。気付いた美由紀がスマッシュを放ち、隠れていた戦闘員が吹っ飛ばされた。周囲に群がっていた戦闘員は格闘の末に全て倒され、辺りには静寂が戻った。
「静かすぎる… 」

       *   *   *   *

 それからしばらくして美紀子がやってきて、森の入り口で倒れている佐緒里を見つけた。
「佐緒里・・・ 佐緒里どうしたの? しっかりして」
 美紀子に揺さぶられ、佐緒里は気がついてヨロヨロと立ちあがった。
「佐緒里。一体何があったの? 絵里香たちはどうしたの?」
「お、叔母様。絵里香さんたちが・・・  絵里香さんたち死ぬつもりなんです。私たちにもしもの事があったら、代わりに私に戦うようにって言って、私のスティックを奪って乗り込んでいったんです」
「何ですって?」
 美紀子と佐緒里は絵里香達が走り去っていった方向を見つめた。

 絵里香たちは建物のすぐ傍まで来た。
「ついに来たわね。聖奈子、美由紀、行くよ!」
「うん!」
「オッケー! 絵里香、いつでもいいよ」
その時閉ざされていた扉が開かれ、大首領クイーンリリーが戦闘員とともに姿を現した。

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「ここまでよく来たわね。待っていたわよ小娘ども。ここがお前たちの墓場になるのよ。私はお前たちを殺し、お前たちの持つエンジェルパワーと、お前たちの瑞々しい精気を全て奪い尽くしてやる。そしてそれが我がネオ‐ブラックリリーの世界征服のためのエネルギーとなるのだ」
「そんな勝手な真似はさせないわ! 私たちはお前と刺し違えてでもお前を倒し、ネオ‐ブラックリリーを滅ぼす!」
「こざかしい! お前達ごときに倒される私ではないわ。それ! 者どもかかれっ」
 戦闘員が絵里香たちに襲いかかり、絵里香たちとの間で格闘戦になった。クイーンリリーは持っていたステッキを鞭に変え、絵里香たちめがけて振りまわした。鞭は電磁波のようなものを放ちながら絵里香たちに向かって伸びてきた。絵里香たちは鞭を避けながら攻撃の機会を覗ったが、戦闘員が次々と襲ってくるためにタイミングがつかめない。クイーンリリーの何度目かの攻撃で、ついに鞭が絵里香に巻きつき、強力な電磁波が放たれた。
「キャアァァァァァァァーッ!」
 絵里香の体は電磁波に包みこまれ、絵里香は絶叫とともに悶絶した。攻撃が止んだときには、絵里香は両膝をついてそのまま倒れた。
「絵里香、しっかりして」
 美由紀が駆け寄ってきたとき、クイーンリリーは左手を美由紀に向けて伸ばし、指先から衝撃波を放った。倒れている絵里香と、そばに駆け寄ってきた美由紀の周辺で地面が爆発して吹き上がり、その中の一撃が美由紀を直撃した。
「キャーッ!」
 クイーンリリーはさらに攻撃を続け、立て続けに衝撃波が飛んできた。そこへ戦闘員の壁を突き破った聖奈子がやってきて楯をかざした。衝撃波が跳ね返され、一弾がクイーンリリーに向かっていって、クイーンリリーに命中した。
「グァッ!」
 クイーンリリーは叫び声とともに後ろにひっくり返って尻餅をついた。
「絵里香、美由紀、今よ!」
 絵里香と美由紀は立ちあがって態勢を立て直し、聖奈子のそばに駆け寄ってきた。絵里香たちはそれぞれの武器を持って身構えた。
「聖奈子、美由紀、行くよ!」
 聖奈子と美由紀は絵里香の言葉に頷くと、それぞれ絵里香の左右に立った。
「クイーンリリー! お前の最後だ。トリプルエンジェルトルネードアタック!!」
 三人の放ったエネルギー波が一つにまとまり、渦を巻きながらクイーンリリーに向かって伸びていき、そのままクイーンリリーを包みこんだ。
「ギャァァァァーッ!」
 クイーンリリーは叫び声をあげながら閃光の中で砕け散り、エネルギー波が消えたときにはクイーンリリーの姿はなかった。あたりに静寂が戻り、絵里香たちはクイーンリリーがいた場所まで歩み寄った。
「消えた・・・ 私たち勝ったんだね。これで世界が平和になるんだね」
 美由紀がそう言って、絵里香と聖奈子が頷こうとしたその瞬間、黒い色をした無数の粒子が絵里香たちの周辺に現れて、絵里香たちの周りを飛び回った。
「な、何なのこれ」
 絵里香たちが迷っていたのもつかの間、黒い粒子は絵里香たちに攻撃を始め、粒子が絵里香たちに当たる度に爆発した。
「キャーッ!」
 やがて粒子は一つにまとまり、魔女体のクイーンリリーの姿になった。
「どうして・・・  倒したはずなのに」

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「イーッヒッヒッヒッヒーッ。馬鹿め! 私は人間ではない。宇宙から来た魔女なのだ。スカーレットエンジェルにすらやられなかった私が、お前らごとき小娘どもに倒せるものか」
 そう言うとクイーンリリーは両手を広げて絵里香たちに向けて衝撃波を放ち、絵里香たちに次々と命中した。
「キャーッ!」
 直撃弾と至近弾を立てつづけに受け、絵里香たちは態勢を崩して地面に叩きつけられた。
「小娘ども! 私の本当の姿を見せてやる。キエェェェェーッ」
 クイーンリリーは両手を握り締めて力をこめると、その両手を自分の胸の前でクロスさせた。するとクイーンリリーの姿が濃い紫色の光に包まれ、髪の毛が逆立って衣服が裂けたかと思うと、たちまち巨大化して魔界樹のような姿になり、さらに身体から無数の蔓を出して、近くにいた戦闘員を捕えると片っ端から食べ始めた。その様子を呆然と見ていた絵里香たちは我に返り、思わず後ずさりした。

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「絵里香、一体何なのよこれ。まるで怪獣だわ」
 ネオ‐ブラックリリーの大首領クイーンリリーの正体は、宇宙に生息する巨大な歩行性肉食植物だったのである。絵里香たちに追いついてきた美紀子と佐緒里も、その姿を目の当たりにした。
「これがクイーンリリー・・・  地球上の邪悪な精気や魂を吸収して、こんな醜怪な姿になったんだわ」
 絵里香たちは後ろから聞こえてきた声に振り向いた。するとそこに絵里香たちに追いついて来た美紀子と佐緒里が立っていた。
「美紀子さん・・ それに佐緒里ちゃん」
「絵里香、佐緒里から奪ったスティックを返しなさい。そのスティックを使えば、あなたたちのエネルギーが暴走するかもしれないのよ。下手をすればあなたたちの命にだって」
「覚悟は出来てます。私たちの命と引換えでもいい。ネオ‐ブラックリリーを滅ぼして平和な世界を勝ち取れるんだったら、私たちは喜んで犠牲になる。聖奈子、美由紀、行くよ!」
「絵里香! 待って!! 待ちなさい」
絵里香たちは美紀子を振り切るように、怪物化したクイーンリリーに向かって走り出した。
「みんな待って! 待ちなさい」
 絵里香たちは怪物化したクイーンリリーと向かい合うと、武器を手に身構えた。
「ふん! 小娘どもめ。お前らも餌にしてやる。お前たちのエンジェルパワーと精気を食い尽くし、私は永遠の生命と永遠の力を得るのだ。キエェェーッ」
「そんな事は絶対にさせない!」
 クイーンリリーは奇声をあげると無数の蔓を絵里香たちめがけて飛ばしてきた。絵里香たちが避けると、今まで3人がいた場所の地面に蔓の先端が次々と勢いよく突き刺さった。
「聖奈子、美由紀、固まっていると危ないわ。三方向に分かれるよ」
 絵里香たちは怪物を三方向から囲むように散開し、攻撃態勢をとった。すると、怪物はその体から小さな花のような物を絵里香たちに向けた。そして蔓から絵里香達めがけて一斉にレーザー光線が放たれた。レーザー光線が何本も絵里香たちに向かって放たれ、絵里香たちの周辺の地面に達すると、次々と爆炎を吹き上げた。絵里香たちは隙を覗って怪物に近付こうとしていたが、レーザーはどこにいても正確に絵里香たちに向かってくる。
「絵里香、ダメだよ。どこにいても攻撃される。全然隙が無いよ」
「美由紀、弱音を吐いたらダメ」
「絵里香、美由紀、私が突破口を開く!」
「聖奈子待って! 危ないわ」
 聖奈子は楯をかざしながら怪物に近付いた。攻撃の対象は当然近付いてくる聖奈子に集中された。レーザーを楯でかわしながら、怪物の懐まで近付いた聖奈子は、例の小形の花状の物体が自分の方を向いているのに気付いた。
「そうか・・ この花みたいなやつが目の役割をしているんだわ。よし!」
 聖奈子は物体目掛けてソードを振り上げた。そこへ無数の蔓が聖奈子に向かってきた。
「聖奈子危ない!」
 絵里香が叫ぶと同時に聖奈子の体に無数の蔓が巻きつき、聖奈子の体が宙に浮いて蔓が締め上げてきた。
「ぐ・・・ 」

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 聖奈子は身体を動かすことが出来ないくらい締め上げられ、宙に浮いた状態で強烈な電気を浴びせられた。
「キャアアアァァァァーッ! ああ・・ アアァァァァァーッ」
 絵里香と美由紀は聖奈子を助けようとしたが、怪物の攻撃を避けるのがやっとで、近付くことが出来ない。電気を浴びせられた聖奈子は次第に意識が朦朧としてきて、瞳に霞がかかったようになり、やがて変身が解けてグッタリと首を垂れて気を失った。エンジェルのエネルギーを吸い取られてしまったのだ。
「イーッヒッヒッヒーッ。小娘のエネルギーで力が漲ってくるぞぉ!」
「嫌あーっ! 聖奈子、聖奈子しっかりして」
 美由紀が気を失った聖奈子に向かって叫んだ。そこへ美由紀にも怪物の蔓が延びてきて、美由紀も聖奈子同様雁字搦めに巻きつかれ、宙に浮かされて電気を浴びせられた。
「キャアァァァァーッ!」
 美由紀もエネルギーを吸い取られて変身が解け、そのまま失神した。
「聖奈子、美由紀! しっかりしてぇ」
 絵里香が聖奈子と美由紀のそばへ駆け寄ろうとしたとき、レーザーが絵里香を直撃した。
「キャアーッ!」
 絵里香は絶叫とともに地面に叩きつけられて変身が解けた。それに合わせて無数の蔓が襲ってきたが、絵里香は身を捩って地面を転がって避けた。そしてヨロヨロと立ち上がったところへ、再び無数の蔓が襲ってきた。気付いた絵里香は反射的に身をかわした。今まで絵理香がいた場所の地面に無数の蔓が突き刺さる。絵理香はふとアジトがある建物が目に入り、何を思ったのかその建物目掛けて駆け出した。
「建物の中に逃げる気か。バカメ! 逃げられるとでも思ってか」
 建物の中に入った絵理香を見るや、クイーンリリーは捕まえていた聖奈子と美由紀を放り出し、蔓を全部収納して球根だけの姿になると、全力で建物に向かって走り出した。
「小娘め。隠れても無駄だ!」
 クイーンリリーはそのまま建物に体当たりした。ドォーンという激しい音とともに建物の壁がメキメキと音をたてて崩れた。
「絵理香さんが危ない」
 成り行きを見ていた佐緒里は飛び出すと、走りながら変身し、クイーンリリーに気付かれないように建物に近づいた。クイーンリリーは相変わらず建物に体当たりを繰り返している。佐緒里は一番近くにある窓に向かってジャンプすると、そのまま窓ガラスを突き破って中に入った。
「絵理香さん!」
 座ったまま廊下の壁にもたれて右腕を抑えている絵理香の姿が目に入った佐緒里は、絵理香の元に駆け寄った。
「絵理香さんしっかりして! キャッ!」
 突然床が大きく揺れ、佐緒里も絵理香もバランスを崩した。クイーンリリーが外から体当たりを繰り返しているのだ。
「さ・・ 佐緒里ちゃん・・ ゴメンね。ひどい事して」
「そんな事はもういいです。それより外の怪物を何とかしないと」
「でも・・ 聖奈子も美由紀もやられた。私ももう変身するだけの力が残っていないわ」
「大丈夫です。私のスティックのエネルギーで変身出来ます」
 絵理香は壁にもたれながら立ち上がり、佐緒里が絵理香を支えた。そこへドオーンという大きな音とともに大きく揺れて、絵理香と佐緒里は床に叩きつけられた。すぐ前の壁が壊れて、クイーンリリーの球根の一部が壁を突き破って姿を見せ、球根から細い蔓が出てきて、小さな花が開いて点滅した。
「イッヒッヒッヒーッ。そこにいたのかぁ。スカーレットエンジェルのガキも一緒か」
 無数の蔓が球根から出てきて、絵理香と佐緒里に向けてレーザー光線を放った。絵理香は咄嗟に佐緒里に抱きつくと、そのまま床の上に押し倒した。その上をレーザーが通過し、後ろの壁に命中して壁を吹っ飛ばして大穴をあけた。クイーンリリーはさらに球根を押し込むように中に入ってきた。
「佐緒里ちゃん。後ろの壁の穴から外へ逃げるのよ!」
 絵理香と佐緒里は立ち上がると、自分たちの後ろの壁に向かって走り、壁にあいた大きな穴から外へ出た。その直後に大音響とともに建物自体が吹っ飛んだ。
「危機一髪だったわ」
「絵理香さん。私の方を向いて」
 佐緒里は絵理香を自分と向かい合わせると、自分の両手を絵理香の胸にあてた。すると佐緒里の体が光に包まれ、絵理香が佐緒里から取ったスティックが現れた。さらにそのスティックから強烈な光が出て、絵理香はエンジェルレッドの姿になった。
「これで絵理香さんはエンジェルレッドとして戦えます。あとは聖奈子さんと美由紀さんにスティックの光を浴びせれば」
佐緒里は倒れて失神したままの聖奈子と美由紀のほうへ向かって駆け出し、絵理香もその後を追った。聖奈子と美由紀は気絶したまま、傍で美紀子が介抱していた。
「叔母様。そこをどいて」
 佐緒里はスティックの先端を聖奈子と美由紀に向け、スティックから強烈な光が放たれて2人に浴びせられた。10秒足らずで二人の体が眩しく光り、2人ともそれぞれエンジェルブルー、エンジェルイエローの姿になって、2人とも気がついて立ち上がった。
「佐緒里。あなたのスティックのエネルギーを使ったら、絵里香たちのエンジェルのエネルギーが暴走するかもしれない」
「でも叔母様・・ 」
 佐緒里が言いかけたところで、突然地面が激しく揺れ、崩れた建物の中からクイーンリリーが姿を現した。
「イーッヒッヒッヒーッ! いよいよ最後だねぇ・・  お前たちを皆殺しにしてエンジェルのエネルギーも精気も吸い尽くし、 私は無限のパワーと永遠の生命を得て、全宇宙をこの手に収めるのだ」
 ドオォーン!
「グアァーッ!」
 爆発音とともにクイーンリリーが絶叫した。見るとクイーンリリーの球根の一部が焼け焦げて煙を噴出している。そしてその向こうには絵理香が攻撃ポーズのまま仁王立ちになって身構えていた。絵理香はクイーンリリーに向かって怒鳴った。

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「そうはいかないわ! 私たちエンジェルスがいる限り、絶対にお前の勝手にはさせない!」
「ぐう・・・ おのれぇ小娘」
「絵理香」
「絵理香!」
 聖奈子と美由紀が絵理香の元に駆け寄り、それぞれ絵理香の左右に立って身構えた。
「炎の戦士エンジェルレッド」
「水の戦士エンジェルブルー」
「光の戦士エンジェルイエロー」

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「闇の世界よりい出て世界を征服しようとする悪魔の手先!」
「お前たちの野望は私たちが絶対打ち砕く!」
「私たちの手で引導を渡してやるから覚悟なさい!」
「私達は正義の戦士! 美少女戦隊、エンジェルス!」
「クイーンリリー! 私たちの本当の力を見せてやる!」
「こざかしい!」
 クイーンリリーは頭部の花を大きく開いて絵里香たちを威嚇すると、無数の蔓を絵里香たちに向けて鞭のように飛ばしてきて、蔓が絵里香たちに次々と巻きついた。その瞬間絵里香たちの身体が閃光に包まれて高熱を発し、巻きついていた蔓が焼けて溶けた。
「グアァーッ! 」
 クイーンリリーが絶叫し、絵里香たちの身体がさらに強く光った。
「グアァ・・ ま、眩しいーっ」
 クイーンリリーはあまりのまぶしさと熱さに少しずつ後退した。それを見た美紀子は佐緒里に向かって慌てて言った。
「佐緒里。絵里香たちのエンジェルパワーが暴走し始めている。このままじゃあの子達の命が危ない!」
 美紀子は言うが早いか、絵里香たちに向かって駆け出そうとした。しかし、眩しさと熱さのために近づく事が出来ない。スカーレットエンジェルJrの佐緒里でも、近づく事が出来なかった。美紀子はその場に両膝をついた。
「ああ・・ もう・・ もうダメだわ。絵里香たちが・・・ 」
 美紀子の目からはツーッと涙が流れ出た。
「叔母様。悲観的になってはダメ。私は絵理香さんたちに賭ける。パワーが暴走しても、1パーセントでも望みがあるなら、絵理香さんたちが死なない方に賭けるわ」
 そうは言ったものの、佐緒里の目からも涙が零れ落ちていた。

       *   *   *   *

 クイーンリリーが離れて、絵里香たちの身体が元に戻った。それぞれ自分たちのパワーをセーブしていたのだ。しかし、エネルギーが暴走し始めている今となっては、パワーコントロールだけでも絵理香たちには大きな負担がかかっていた。
「聖奈子、美由紀、集まって!」
 絵里香の声で、聖奈子と美由紀は絵里香の元へ集まってきた。そこへクイーンリリーが再び近づいて攻撃を始め、無数の蔓が向かってきた。さらにレーザー光線が次々と発射された。絵里香たちはそれを見て、蔓を避けるために再び散らばった。
「絵里香、あれを何とかしないと近付けないよ」
「やつの小形の花が目の役割をしているから、どこにいてもやつからは丸見えなのよ」
「分かった。聖奈子、美由紀。私たちの最後の力を使うのよ。やつの頭の大きな花の前にテレポートして、やつのあの大きな口から入り込むと同時に、ミラクルチャージをフルパワーで使って、やつの体内で全エネルギーを放出させるのよ」
「そうか。やつの体の中だったら、間違いなくやつは吹っ飛ぶわ」
「とにかくあの怪物さえやっつける事が出来れば、私たちはもう・・・ 」
「聖奈子、美由紀。いい? 死ぬ時は三人一緒だよ」
 聖奈子と美由紀は生唾を飲み込むような仕草で絵里香と視線を合わせて頷くと、それぞれ右手を前に差し出して、手を握り合った。
「イーッヒッヒッヒーツ。小娘ども。今度こそ皆殺しだぁ」
 クイーンリリーが近づいてきて、無数の蔓を出して絵里香たちにむけて飛ばしてきた。
「今だ! 聖奈子、美由紀!」
「テレポートチャージ!」
 無数の蔓が絵里香たちに巻きついた・・・  と同時に絵里香たちの姿がその場から消えた。そして絵里香たちの姿は、クイーンリリーの大きな口の前に現れた。
「エンジェルミラクルチャージアップ! フルパワー! 」
 美紀子は思わず叫んだ。
「ダメえーっ! 三人ともやめてえーっ!」
 絵里香たち三人の身体がそれぞれ炎・水・光の粒子に変化して、そのままクイーンリリーの口の中へと飛びこんだ。しばらくしてクイーンリリーはその身体を激しく揺すり、苦しみ始めた。体内で絵里香たちがエネルギーを放出させていたからだ。

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「グァ・・ キエェェェーッ! グギャアアアァァァーッ!!」
 クイーンリリーはその身体全体を悶絶させながら絶叫し、やがて体のあちこちが裂けてそこから放出されたエネルギーが外へと漏れてきた。そして激しい地鳴りと地響きが発生し、美紀子と佐緒里は立っていられなくなってその場から慌てて移動し、物陰に潜んで身を伏せた。クイーンリリーの身体は漏れてきたエネルギーの閃光に完全に包み込まれ、その閃光の中でバラバラになって木っ端微塵に吹っ飛んだ。激しい轟音と地面の振動、そして激しい爆風で、周囲の木々がなぎ倒された。
 爆発と轟音が次第におさまり、身を隠していた美紀子と佐緒里の周辺にも色々な物が落下してきた。全てがおさまって静寂が戻ってきたとき、佐緒里はゆっくりと立ち上がり、クイーンリリーが大爆発した場所まで歩み寄ると、そこで立ち止まって変身を解いた。美紀子も佐緒里の傍へ駆け寄ってきた。
「絵理香・・  聖奈子・・ 美由紀・・ みんなクイーンリリーの爆発と一緒に消えてしまった・・・  私があの子たちをエンジェル戦士にしたばっかりに、若い将来のある子たちの尊い命を奪ってしまった・・ 」
 美紀子はその場に膝をつき、泣き崩れた。
「叔母様・・・ 絵里香さん達は・・・ 本当に死んでしまったの?」
 佐緒里の言葉に、美紀子は力無く首を振った。
「そんな事無い!  絵理香さんたちが死ぬはずが無いわ! そんな事・・ 絶対・・」
 佐緒里はそう言ったものの・・・ しかし、そこにあるのはクイーンリリーが大爆発して残された大きな穴の開いた地面と、まだ燃え燻っている炎だけだった。
 佐緒里が力なくその場に座り込むと、佐緒里の携帯に着信が入り、呼び出し音が鳴った。
「孝一さん・・・ ??? 」
 佐緒里は携帯を開いてスイッチを入れた。
「佐緒里です。絵理香さんたちが・・ え? それ・・ どういう事ですか?」
「・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ 」
「はい・・・ はい・・ 分かりました。叔母様にもすぐ伝えます」
 佐緒里はスイッチを切って涙を拭うと、泣き崩れている美紀子の傍に駆け寄って言った。
「叔母様! 生きてる」
「えっ?」
「絵理香さんたちが生きてるのよ」
 佐緒里は美紀子に抱きつきながら言った。
「絵理香たちが生きてるって・・・ 本当なの?」
「本当よ! ここから5キロ程離れた場所の牧草地で、絵理香さんたちが急に現れたって、孝一さんが電話してきたのよ」
 美紀子の表情も明るくなった。
「叔母様。早く行きましょう」
佐緒里は立ち上がると、美紀子の手を引いて立たせた。

       *   *   *   *

 美紀子の車は両側を牧草地に挟まれた道路を走っていた。しばらく行くと、車とオートバイがそれぞれ停まっていて、数人の人だかりが見えてきた。美紀子は停まっている車の後ろに自分の車を停めて車から降りた。同時に孝一が駆け寄ってきた。
「俺たち美紀子さんたちを追ってきたんだけど、いきなり空から火の塊が降ってきて、凄い音と一緒にあの場所に落ちてきたんでビックリしたんだよ」
 孝一はその場所を指差して、さらに言葉を続けた。
「それで何だと思って眺めていたら、火が光に変わって、その光が消えたと思ったら、絵里香たちが気を失っていたんだ。今、早苗先生が行って介抱してんだけど、三人とも少し疲れているだけで、命に別状は無いみたいだ。でも一体あれって・・・ 」
 孝一がそこまで言ったところで、美紀子は手を上げて制した。
「それ以上は聞かないで。ただ、あの子たちのおかげでネオ‐ブラックリリーが滅んで、平和を勝ち取ることが出来たという事だけは分かってほしいの」
「そう・・ そうか。絵里香たちネオ‐ブラックリリーに勝ったんだな。よかった・・ 」
 美紀子の話を聞き、傍で聞いていた麻美と紫央、篤志もホッとしたような表情を見せた。暫くして早苗が牧草地の中を小走りに駆けてきて、美紀子の傍までやってきた。
「あの子たちならもう大丈夫。私はあの子たちに気を使って三人だけにさせてあげたの。しばらくしたらこっちへ来るって言ってたから、それまで待っててあげて」
 早苗の言葉に、そばにいたみんなは頷いた。

      *      *      *      *

 絵里香たちは太陽の光を浴びながら立っていた。三人とも自分たちの使命を終えた満足感・達成感と、もうこれ以上戦わなくてもいいんだという安堵感からか、何も語り合うこと無く、ただ黙ってたたずんでいた。が、焦れてきた美由紀が一番始めに語りかけた。
「ねえ・・・ 」
「何、美由紀」
「私たち・・・ 私たち勝ったんだよね。今度こそネオ‐ブラックリリーは本当に滅んだんだよね」
「何言ってんのよ。当たり前でしょ。だからこうしてあたしたち生きてここにいるんじゃないの」
「そうそう。それにしても、生きているって本当にすばらしいことなのね。こうして自分たちの目でこの青い空や、目の前に広がる草原を見ることが出来るんだから」
「そうだね絵里香。あー空気が美味しい。命の味だわ。これが生きている証なのね」
「絵里香、ありがとう」
「え・・・ 聖奈子。何が」
「あのとき、あたし・・ 絵里香の話を始め信じなかったでしょ? でも、こうしてここで一緒にいられるのは絵里香のおかげなんだよ。絵里香のおかげであたしは・・ 」
「ち、ちょっと聖奈子、聖奈子らしくないよ」
 聖奈子が涙声になったのを、絵里香が聖奈子の頭に手を置いて宥めた。聖奈子は涙を拭うと麓の方を見た。すると、美紀子が他のみんなと一緒に立ってこちらを見ていて、みんなが大きく手を振っている。絵里香たちはそれに応えるように、両手を上げて大きく振った。
「絵里香、美由紀、麓まで競争しようよ」
「えっ、競争? 分かった! 美由紀行くよ。聖奈子、負けないからね」
「よーし!」
 絵里香たちは麓まで向かって一斉に駆け出した。どの顔も喜びに満ち溢れている。麓では美紀子と佐緒里が、孝一と篤志が、そして早苗と麻美、紫央が絵里香たちの来るのを待っている。だが、絵里香たちのゴールは麓で待っている人たちのところではない。さらにその先にある、まだ見ることの無い自分たちの未来なのだ。

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                                                                      (おわり)

      *      *      *      *

 1年後・・
 ネオ‐ブラックリリーの大首領クイーンリリーが倒れ、ネオ‐ブラックリリーが滅んで、絵里香たちエンジェルスの戦いは終わった。そしてそれから瞬く間に1年が過ぎた。
 絵里香は城北大学に合格し、さらに喫茶店ANGELの店と土地の権利書を美紀子から託されて、春から大学へ行く傍ら、ANGELの経営をも手がけることになった。美紀子はクイーンリリーが死んでネオ‐ブラックリリーが滅んだので、自分の役目が終わったことを悟り、城北大学の教授として専念するため、ANGELを絵里香に托したのである。
 聖奈子は某国立大学の教育学部に合格。自分の将来の夢である教師への道の第1歩を踏み出した。いずれは母校の明峰学園に戻ってくるつもりらしい。
 美由紀は高校3年になった時に、住んでいた家が姉夫婦が住むことになったので家を出て、ANGELの一室に下宿していた。そして高校生である傍らで女優としての仕事もこなし、絵理香と同じ城北大学への進学が決まっていた。弟の篤志は両親がいる北海道で生活している。
 さて、ほかの人たちはどうなったのか…
 佳奈子と佐緒里は2人とも県立鷲尾平高校に進学が決まっていた。孝一は絵理香と同じ城北大学に合格。春からは絵理香とのキャンパスライフが待っていた。しかも2人は高校3年の時に婚約していて、もしかしたら大学生である間に結婚するかもしれない

      *      *      *      *

 3月1日。今日は絵里香たちの高校の卒業式の日である。絵里香、聖奈子、美由紀の3人は、高校を卒業し、それぞれ自分たちの道を歩き出す。
 ANGELを出て学校へ向かう絵理香と美由紀。美由紀は絵理香の心境の変化を気にしていた。絵理香は昨日、気分転換と、新しい自分を見つけるとか言って、美容院へ行って長かった髪をばっさりと切ってしまい、ショートカットにしてしまったのだ。
「ねえ絵理香。本当に孝一君とは何でもないの?」
「まだ言ってる・・・ 失恋じゃないって何回も言ってるのに」
「それにしても、絵理香も思い切った事したね」
「お願いだから、もうその話はしないで」
「ゴメン絵理香。もう言わないから。あ~ぁ、いよいよ私達も卒業か。高校生活って長いようで短いのね。これで本当に高校生活とサヨナラってわけか」
 絵理香と美由紀はそんな会話をしながら校門を通過した。そこで聖奈子とばったり対面。当然ながら聖奈子は絵理香を見てその場に硬直した。

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「ど・・ どうしちゃったのよ絵理香。その頭・・・・ 」
「私も気になったんだけど、気分転換だって」
「聖奈子に美由紀。その話は無しなの」
「でも・・ 」
 絵理香は聖奈子と美由紀の背中を軽くポンと叩いてから、校舎に向かって小走りに駆けながら、二人の方を振り返った。
「聖奈子、美由紀。行こう」
 絵里香たちは教室で胸に付けるバラの花を受け取り、卒業式が行われる体育館へと移動していった。その途中で、同じバトン部の孝子と朋美と一緒になった。バトン部元キャプテンの孝子は大阪の大学へ。朋美は専門学校への進学が決まっていた。
「私達ついに卒業なのね」
「あ~あ、もっといたかったなぁ」
 2人とも絵理香の髪が気になっていたが、絵理香が言わないでくれってお願いしたので黙っていた。

      *      *      *      *

 それから約2時間・・・  生徒たちが体育館からゾロゾロと出てきた。笑顔で友達と話しをしている者、泣きながら抱き合っている者など、様々な光景の中を絵里香達は通りぬけて出てきた。
「あ~ぁ。ついに終わっちゃった・・・ 私たちの高校生活」
「でも、あたしたちって、高校時代に普通じゃ体験できないことを体験してるんだよね」
「何よ聖奈子、それってエンジェルのこと?」
「他に何があるっていうのよ。日本全国の女子高生で、あんな体験したのって、きっとあたしたちだけだよ」
「そうだね… 人類の平和のために、世界征服を企む悪の組織と戦って、そして勝った。だから私たちこうして生きていられるんだって、わぁ! 青い空が眩しいな… 」
 美由紀は空を見上げながら絵里香と聖奈子に向かってそう言った。
「絵里香」
「何? 聖奈子。あらたまって」
「ありがとう。本当にありがとう。絵里香のおかげで、私・・・ 高校生活がすごく楽しかったよ」
「あたしもよ。絵里香。これからもずっと親友でいようね」
「何言ってんのよ。聖奈子、美由紀、そんな事言うまでも無いよ。私たちこれからもずっと親友同士だよ」
 そう言って絵里香は聖奈子と美由紀に向かって右手を差し出した。聖奈子と美由紀は示し合わせたようにその上に自分の手を置き、そのまま空に向けて高々と手を上げた。そこへ孝一が佐緒里と一緒にやってきた。
「絵理香さん。記念写真撮らせてください」
「佐緒里ちゃん来たの?」
「孝一君は絵理香のお出迎えかな」
 美由紀が冷やかし気味に囁き、絵理香は少し顔を赤くした。
「さ。並んでください。写真撮りますから」
 絵里香たちは佐緒里に言われるままに、その場で並んだ。
「それじゃ撮りますよ。はいチーズ… 」
 絵里香たちの姿はフィルムの中に納まった。

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「絵理香」
 孝一が絵理香を呼んで、右手の親指を校門の方へ向けた。
「何? 孝一」
 孝一が見ている先には校門があり、門の外には美紀子が立っていた。
「美紀子さん・・・ 」
「絵理香。美紀子さんだけじゃないぜ。ほら」
 よく見ると、美紀子の隣には、麻美と紫央、佳奈子が立っていた。
「しかし麻美ちゃんも私と絵理香と同じ城北大とはね・・・ 」
 隣で美由紀が言った。
「聖奈子、美由紀。行こう! 私たちの新しい門出よ」
 聖奈子と美由紀は頷き、絵里香たちは小走りに校門へ向かって駆け出した。

THE END




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あとがき

 美少女戦隊エンジェルス無事に終了しました。
 企画したのが2003年の8月で、起稿が2004年4月。そして脱稿が2007年4月という運びでした。その後イラストの入れ替えや文章の修正を経て、2012年4月にピクシブと自分のブログに掲載を始めました。これでスカーレットエンジェルから続く、一連の変身ヒロインシリーズは幕を閉じます。
 途中で他の作品とのコラボの関係で、匿名の苦情コメントがあったり(ピクシブではなく、わざわざブログの方へコメントしてきました。ピクシブだと投稿者のIDやネームが分かってしまうので、ブログの方へコメントしたのでしょうけど)、極度のスランプとネタ切れによる停滞(最初の半分の24話が僅か4ヵ月なのに、後半はその倍以上)もありましたが、何とか第48話までこぎつけました。
 文章の表現など、ピクシブの他の方や、一流のプロに比べれば到底追いつけるものではないですが、ブックマークしてくれたり、コメントを下さった方には感謝しています。それと、自分の愛娘たちを描いて下さった方や、小説のコラボをしてくださった方にも多大な感謝をしております。
 エンジェルスの本編はこれで終了ですが、特別編の執筆がまだ残っているのと、エンジェルスのキャラを使ったドラマなども企画中なので、もう少しエンジェルスとお付き合いする事になりそうです。

 2015年1月3日  鷲尾飛鳥

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