鷲尾飛鳥

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特別編『冒険少女 佐緒里』

2015年 10月02日 22:36 (金)

先に脱稿した、『10年目の回帰』の原作者である、カルシファー様の、『囚われた少女』をアレンジしたような感じのスタイルに仕上がりました。テーマはIFで、もしも変身ヒロインがタイムスリップしたら・・・・・  という感じで書き上げました。

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  美少女戦隊エンジェルス特別編  
  冒険少女 佐緒里
  
 まえがき

 美少女戦隊『エンジェルス』に登場した、紅林美紀子の姪の赤嶺佐緒里を主人公にしたエピソードを、以前から書こうと思っていて、ようやくそれを実現させるに至りました。エンジェルスの本編では、中学生ながらも、絵里香たちをサポートし、時にはネオ‐ブラックリリーに捕まってしまったり、時には絵里香たちと一緒に怪人を倒すといった活躍をしている佐緒里ちゃんですが、まだ彼女を主役にしたエピソードがなかったので、本作品を執筆する事にしました。
 彼女は変身ヒロインであり、本作品の中でも勿論スカーレットエンジェルJr(ジュニア)に変身します。ちなみに、Jrというのは、誰かが名付けたものではなく、佐緒里ちゃん本人がそのように名乗っているだけです。
 今回はエンジェルスのような形式ではなく、“IF”と“タイムスリップ”をテーマにして、『もしも、変身ヒロインが違う時代にタイムスリップしたら・・・ 』という形で物語を展開させます。最近書き上げた10年目の回帰の原作である、『囚われた少女(原作カルシファー)』における『魔女狩り』を題材とし、作成に当たっては、次の作品を参考資料として使用しました。

囚われた少女 魔女狩りに囚われた少女広美(原作カルシファー)
バック・トゥ・ザ・フユーチャー(映画)
大魔王シャザーン(アニメ)
時の行者(横山光輝)
戦国自衛隊
  
  ※これらの作品には全て『タイムスリップ』という共通点があります。
  
  *******************************************
  
  目次
  
  ACT.0 プロローグ
  ACT.1 タイムスリップ
  ACT.2 囚われのヒロイン
  ACT.3 監禁
  ACT.4 佐緒里の力
  ACT.5 審問
  ACT.6 魔法?
  
  
  
  
  
  
  
  
 ACT.0 プロローグ

 この物語は、悪の秘密結社『ネオ‐ブラックリリー』がエンジェルスの活躍で滅んでから、約半年後から始まり、冒頭部は本編第30話のおまけの部分から始まっている。
  
  
「はーい。エモトちゃんに佐緒里ちゃん。二人とも、もっと傍に寄って」
「ふたりともポーズとって」
 ここは逗子の御浜海岸の一角。テレビ番組『世界の果てまでGO GO GO!』の収録が終わり、記念撮影が行われていた。海岸の砂浜の上に上がった財宝の箱が開けられ、中にはギッシリと財宝が詰められていて、その左右にはコスプレ姿の佐緒里とエモトの二人が立っていた。佐緒里はエモトにコスプレのスタイルをしてくれるように頼まれ、自分が中学で所属しているチアリーディング部のユニホームを持ってきて、それに着替えてエモトと並んでいた。
 今を遡る事約半年前、この海岸一体では、昔の海賊が当時の有力者に贈ったとされる財宝が眠っているという噂が立ち、それに纏わる古文書まで出てきて、一時期ブームになったことがあった。悪の組織ネオ-ブラックリリーもその財宝を奪おうとして、邪魔になる学者やマニアを殺し、佐緒里を捕まえて文書を解読させた経緯があった(エンジェルス本編の30話参照)。佐緒里の解読した古文書を元に、財宝の探索が行われ、ついに海岸から100メートルほど沖合の海底にて、財宝の入った箱らしきものが発見されて、今日その箱が御浜海岸の砂浜に上げられたのである。そして箱を開けてみれば、中から金貨や銀貨、様々な装飾品や宝石類がザックザックと出てきて、佐緒里とエモトは勿論、居合わせたスタッフ達も引っくり返るくらい驚いた。その様子はエモトがレギュラー出演しているテレビ番組『世界の果てまでGO GO GO!』の特番で収録され、エモトに招待された佐緒里は、その収録の様子を見学させてもらっていた。
 やがて収録が終わり、佐緒里はエモトに箱の前まで呼ばれ、二人そろって箱の前で記念撮影に収まったのであった。

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    * * * *

 それから2ヶ月が経過した。季節は既に秋本番といった状況で、佐緒里も冬の制服に身を包んで、いつものように学校へと向かっていた。
「佐緒里ちゃんおはよう」
「佳奈子ちゃんおはよう」
佐緒里は途中で友達の佳奈子と会い、二人そろって学校へと歩いていった。佐緒里も佳奈子も中学3年生。二人とも県下有数の 進学校である県立鷲尾平高校を目指していて、受験体制には余念がなかった。
 そして学校が終わり、帰宅の途についていた佐緒里と佳奈子はANGELの前で別れると、佐緒里は店の戸を開けて中に入った。
「ただいまぁ」
「佐緒里ちゃんお帰り」
 カウンターにいた絵里香が佐緒里を出迎えた。絵里香は現在明峰学園高校3年で、受験勉強の傍ら、孝一と一緒にANGELでバイトをしていた。美紀子がオーナーなのだが、大学教授との掛け持ちのため、店のことを絵理香と孝一に託し、絵理香と孝一はふたりでそれを引き継いだのである。ANGELでは美紀子の姪の佐緒里と絵理香の友人の美由紀が一緒に生活している。美由紀は両親と弟が北海道へ行ってしまい、もともと住んでいた家には、姉夫婦が子供を連れて引っ越してきたので、家を出てANGELに居候していたのだ。

2-1

「佐緒里ちゃん。手紙が来てるわよ」
 そう言って絵里香は、佐緒里に手紙を渡した。
「あ・・ エモトさんからだ」
 佐緒里は手紙を受け取ると、店内から自分の部屋へ行き、30分ほどして着替えて手紙を持って店の方へ出てきた。
「あら佐緒里ちゃん。今日は私ずっといるし、アルバイトの子もいるから、手伝わなくていいわよ」
「違うんです絵理香さん」
 佐緒里は手紙を見せながら言った。
 数分後・・・
 絵里香は佐緒里が持ってきた手紙に目を通していた。
「・・・ 展示会の招待状か。例の財宝の事ね」
「はい。見つけられた財宝が整理されて、今度展示会で公開されるんで、エモトさんが正式に公開される日の前に私を招待したいって」
「良かったじゃないの」
「絵理香さんたちの分も招待券がありますよ」
 そう言って、佐緒里は数人分の入場券を出して見せた。佐緒里はもちろんの事、絵里香も喜んでいた。が、この事が佐緒里の今後の運命に大きく関わってくるということに、まだ佐緒里は気付いていなかった。

    * * * *

 ACT.1  タイムスリップ

「えーっ? 展示会に招待されたの?」
 翌日佐緒里のクラスでは、佳奈子や佐緒里の友人達との間で、招待状の事が話題になっていた。
「いいなぁ佐緒里ちゃん。公開前に招待されるなんて」
「でも、佐緒里ちゃんには古文書を解読した功績があるから、これは特権だね」
「うん。仕方ないよね。あーあ・・ 私たちもその財宝を拝んでみたい」
「それで・・ エモトさんからの伝言なんだけど、私の友達で行きたい人がいたら、人数分の入場券を分けてくれるって言ってました。といっても大人数は困るって言ってましたけど」
「中学生は500円か・・・ 佐緒里ちゃん。心配要らないよ。ちゃんとお金払って見に行くって」
「そうだよ。佐緒里ちゃん、そんなに気を遣わなくたっていいよ」
 そんな雑談が交わされ、やがて先生が入ってきて授業が始まった。

 そして3日後・・・
 佐緒里は学校が終わるとANGELへ帰らず、そのまま東京へ向かった。今日がエモトに招待された日だったのだ。展示会の会場は都内の某デパートで、佐緒里が到着すると、入り口でエモトが待っていて、エモトは佐緒里を見ると佐緒里に向かって手を振った。
「佐緒里ちゃん。こっちこっち」
「エモトさん。こんにちは」
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 佐緒里はエモトの案内で、デパートの8階にある展示コーナーに来た。展示会が催されるのは2日後で、現在は会場作りが終わり、展示物が既に陳列された状態で、会場内には納入の業者と、スタッフが数名いるだけだった。佐緒里はすれ違う人に会釈をしながら、エモトと一緒に会場内に入り、陳列された財宝を見て回った。その中で一際目立つものが佐緒里の目に映った。それは二つの十字架だった。一つは金色で、もう一つは銀色をしていて、二つの十字架本体にはそれぞれ綺麗な宝石が鏤められて装飾されていた。佐緒里が十字架に見とれていると、エモトも佐緒里の視線に気付いた。
「佐緒里ちゃん。その二つの十字架なんだけど、何か秘密があるらしいのよ」
「秘密ですか?」
「うん。ちょっと待ってて」
 エモトは居合わせたスタッフの元へ行くと、本のようなものを持って戻ってきた。それは例の古文書の中の一つだった。
「この中に十字架の事が書かれているらしいんだけど、まだ誰も解読出来ないんだって。佐緒里ちゃんはどうかしら?」
 佐緒里はエモトから古文書の冊子を受け取ると、ページを開いて眺めた。
 その時、スタッフの一人が窓のカーテンを開けて、西日の強い光が室内に入ってきた。その光が金色の十字架にあたり、反射して銀色の十字架にあたってさらに強い光になった。
「キャッ!!」
 傍にいた佐緒里は眩しさのあまりバランスを崩し、そのはずみでテーブルの上に置かれていた銀色の十字架をつかんでしまった。すると十字架が発していた光が佐緒里の体全体を包み込み、強い光に包み込まれた佐緒里は、そのまま意識を失った。

    * * * *

  (PAGE-5)
 ACT.2  囚われのヒロイン

「ここ・・・ 何処なの・・・」
 佐緒里が目を覚ましたとき、その場所は暗い部屋の中だった。周囲は石造りの壁になっていて、床も石畳になっていた。
「熱い!! ・・・・」
 佐緒里はおもわず手を引っ込めた。佐緒里の傍には、自分が握りしめていた銀色の十字架があり、その十字架が光って熱を発していたのだ。佐緒里が十字架に触れようとすると、十字架から光が消え、そのままゆっくりと消えた。
「十字架が・・・  消えた・・・ どうして・・・」
 佐緒里は十字架が消えた場所を見据えたが、どうして消えたのかを知る由も無かった。佐緒里は部屋の中を見回した。高い所にある窓からは陽が差し込んでいて、やがて佐緒里は暗がりに目が慣れてきて、佐緒里の目に部屋の中の様子が映った。部屋は八畳くらいの広さで、一見倉庫のようだった。室内には木箱や樽のほか、藁のようなものが置かれていた。
「見た感じでは倉庫みたいだけど・・・ 何で私こんな所に・・・ 確か強い光を浴びて・・・ 」
 その時外で物音がしたかと思うと、ガチャガチャという音とともに扉が開いて人が入ってきて、佐緒里と鉢合わせした。
「だ・・ だ、誰だお前。何故ここにいるんだ」
 入ってきたのは男で、そのスタイルはまるで中世の時代のような格好だったため、佐緒里は何も言えずにその男を見据えていた。自分自身が何故こんな所にいるのか分からないのに、出会った者が自分の知らない恰好をしていたからだ。男は踵を返すと、出入り口から出て行き、扉に鍵をかけた。
「あ。待って」
 と言ってももう遅かった。佐緒里は今自分が置かれている立場を考えた。が、どう考えても考えがまとまらない。それもそのはず。佐緒里はタイムスリップしていたのである。佐緒里がいる場所は中世のヨーロッパの某所であったため、いくら考えても分かるはずがなかったし、佐緒里自身もそのことに気付いていなかったのだ。
 男が出て行ってから数分後、佐緒里がいる倉庫の外で数人の男の声が聞こえてきた。そして鍵が開けられる音がして扉が開き、男が3人入ってきて、そのうちの二人が佐緒里の傍までやってきて、佐緒里の腕をつかんだ。
「何するの!?」
「うるせえ!」
「おとなしくしろ! この魔女め!」
「魔女・・・・」
 佐緒里はそう言いかけて黙った。男は代わる代わる佐緒里に向かって怒鳴り散らした。
「小娘! てめえ鍵のかかってる倉庫の中にどうやって入ったんだ! ああん!?」
「おおかた魔力を使って入ったんだろう」
「それにその見た事もねえ姿恰好。どう考えたって魔女にちげえねえ。魔女は火炙りだ。来い!!」
 そう言って男の一人が佐緒里につかみかかり、もう一人が止めた。
「待て待て! とにかく神父様に引き渡す方が先だ。村はずれの牢獄へ連れて行くんだ。ま、どうせ魔女裁判になれば確実に火炙りだがな」
「分かった。おい! 誰か牢獄の看守を呼んで来い」
「おう!」
「おい! 立つんだ小娘」
 男の一人がその場から走っていき、佐緒里は二人の男に羽交い絞めにされて立たされた。佐緒里はその気になれば二人ともぶっ飛ばす事が出来たが、あえて無抵抗でいた。自分の置かれている状況を今ひとつ理解できていなかったからだ。
「来るんだ。小娘!」
 佐緒里は引き摺られるように倉庫の外へ出された。その佐緒里の目に映った光景は、自分がいた展示場の会場ではなく、また21世紀の東京でもなかった。石造りの建物が立ち並ぶ、まるで中世の世界の様相だった。
「ここはいったい・・・・ 」
 佐緒里が考え込んでいると、後ろから棒で背中を突付かれた。
「とっとと歩け!」
「乱暴しないで。ちゃんと歩くから」
 佐緒里はそのあと黙ったまま、男達の言う通りに歩いた。20分ほど歩くと、昔の城のような石造りのガッシリした建物、つまり牢獄の前に来た。そこへ先に走っていった男に呼ばれたらしい二人の男がやってきた。その二人は牢獄の看守だった。後ろにいた男が棒で佐緒里の背中を突付き、さらに佐緒里の両側で腕をつかんでいた男たちが、佐緒里を二人の看守に引き渡した。その看守の一人を見て、佐緒里は驚いたように言った。
「エモトさん!・・・ ???」
「何!? 小娘。何か言ったか?」
「い、いえ・・ 何でもないです」
 看守の一人は髪の色が違うとはいえ、エモトにソックリだったのだ。
「とっとと歩け!」
 男達はその場から去り、二人の看守は佐緒里の両腕を抱えて、牢獄の中へと連行した。そして地下へ続く螺旋階段を降りようとしたとき、エモトにソックリな方の看守カールが慌てて言った。
「だ、ダメですよハンスさん。地下牢は使っちゃいけないって、神父様が言ってたじゃないですか」
「バカ! 何言ってるんだ。この小娘は魔女の疑いがあるんだ。いいからとっとと連行しろ」
 階段を降りきって地下に達した時、死臭のような異様な臭いが立ち込めてきて、佐緒里は思わず顔を背けた。地下の回廊は少し行くと土や瓦礫で埋められていて、二人の看守はその手前の部屋の前で足を止めた。そして扉を開けると、佐緒里を中へと突き飛ばした。部屋の広さは4畳半くらいで、周りは全て石造りで、天井の近くに鉄格子のはまった窓が一つだけあり、床は石畳になっていた。そして壁には鉄製の枷がついた鎖が垂れ下がっていた。
「小娘。こっちへ来い」
 看守達は佐緒里を壁まで連れてきて、背負っていたリュックを取って床に放ると、壁に背中を付けさせ、両腕を上に上げて吊り手枷を嵌めてから、足に履いていた靴を脱がせ、両足にも足枷を嵌めた。両手を手枷で吊られ、両足が爪先立ちの恰好になって、佐緒里は唇をかんで痛さをこらえた。

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「小娘。今日は神父様が出かけておられるから、審問は後日行う。それまでそうしていろ」
 ハンスはそう言うと、カールを連れて地下牢から出て扉を閉め、鍵をかけて去っていった。地下牢に鎖で繋がれたまま一人取り残された佐緒里は、腕と足の痛みを堪えながら目を瞑った。佐緒里は宇宙人と地球人とのハーフ(エンジェルスの本編参照)で、地球人には無い能力があった。目を瞑る事によって精神を統一し、自分の体重をゼロに近い状態にすることも出来たのだ。暫くすると手足の痛みがやわらぎ、体が楽になってきて、佐緒里はそのまま寝入った。

    * * * *

 ACT.3  監禁

 どれくらい時間が経過したのか・・・
 目を覚ました佐緒里は地下牢の中で監禁され、壁に両手両足を鎖で繋がれて立たされたままの恰好だった。実際にはあれから3時間位しか経っていなかったのだが、佐緒里には倍近い時間に感じていた。自分の能力のおかげで体は楽だったものの、良い気分でいられるはずもなく、佐緒里は目を覚ましてからずっと考え事をしていた。

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「一体どうしてこんな事に・・・」
 しかしどう考えてもまともな答えなど出るはずが無かった。タイムスリップして中世のヨーロッパの何処かへ飛ばされ、魔女の疑いをかけられて地下牢で拘束されている事自体、佐緒里にとっては荒唐無稽に感じていたし、今の佐緒里がそんな事を知る由も無かった。
「そういえば、さっきの男たちの中の一人が『魔女』って言っていた。どういう事なんだろう・・ それに周りの様子が全然違う。まさか・・・ 」
 佐緒里は何かを思い出した。
「まさか滅んだはずのネオ‐ブラックリリーが・・・・ 」
 そう言いかけて佐緒里は首を横に振った。
「いや違う・・ そんな事無い。あまりにも不自然すぎる・・・ 」
 佐緒里は自分が持っている知識を引っ張り出すように、頭の中で考えを巡らせた。そこで得た結論は・・・・・
「タイムスリップ・・・・ だとしたら、考えられる。しかし一体どうやって・・・」
 佐緒里はここまでの事を整理してみた。
「あの十字架の光・・・ それ以外には何も思いつかない。あの光を浴びてから、私の周りが一変したんだわ。つまり、十字架の秘密というのは、この事だったのかもしれない。でも古文書を読んでいないから、何とも言えない」
 これまでの事を佐緒里自身で分析した結果、自分が今現在いる場所は中世のヨーロッパの何処かで、時代は概ね15世紀頃だということだった。中世のヨーロッパでは『魔女狩り』が行われていたという事を、佐緒里は本で読んで知っていたからだ。
「来てしまった以上は帰れる可能性だってある。だから絶対にあきらめない。エンジェルに絶望という文字は無いんだから。でも今は・・・ この今の時代で生きていくしかない」
 佐緒里はその気になれば、手枷と足枷を自分で外して逃げる事も出来た。が、タイムスリップして違う時代に飛ばされたのなら、逃げたところで行くあてもないし、何処へ行っても怪しまれて同じ目に遭わされるだろうから、ここにいた方が安全だと悟り、暫く成り行きと様子を見ることに決めた。

 ACT.4  佐緒里の力

 陽が沈みかけたころになって、誰かが廊下を歩く音が聞こえ、佐緒里は牢獄の扉の方を向いた。ガチャガチャという音とともに扉が開き、さっき自分を閉じ込めた二人の看守、つまりハンスとカールが入ってきた。ハンスは鞭を持ち、カールは鎖のついた手枷を持っていた。
「小娘。審問の時間だ」
 ハンスが佐緒里の方へ歩き出したところで、カールが前を遮るように止めた。
「ダメですよハンスさん。神父様の不在中は審問してはいけない規則になったじゃないですか。それに地下牢に監禁してはダメだって言ってるのに。ハンスさん、あの事件の事を忘れたんですか!?」
「うるさい。どけ!」
 ハンスはカールを突き飛ばすと、佐緒里の前まで来て止まった。

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「あんた・・・ 最低・・・」
 佐緒里はハンスを睨み付けながら言った。
「何だと小娘! 魔女の分際で看守様に向かって最低だと!? 生意気に睨みつけやがって。よっぽど鞭で痛め付けられたいようだな。審問の前に、こいつで嬲ってやるから覚悟しやがれ」
「ハンスさん。やめて下さい」
 カールの言葉を無視して、ハンスは鞭を振り上げると、佐緒里目掛けて叩き付けた。
 ヒュウゥーッ バシィーン!! バチバチバチッ
 鞭は佐緒里の手前で、電気のショートしたような音とともに、何かに跳ね返された。

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「ん・・ 何だ・・・ 」
 ハンスは首を傾げたが、もう一度鞭を振り上げて叩き付けた。が、結果は同じだった。鞭は佐緒里の手前で跳ね返され、鞭の先端が自分の顔に当たった。
「痛てて・・・ な、何だ、どうなってんだ。クソッ!!」
 ハンスは鞭を床に捨てると、佐緒里の腹目掛けて蹴りを入れてきた。
 バチバチバチッ
「ウワアーッ!」
 電気にあてられた様なショックとともに、ハンスの体が反動で吹っ飛ばされ、ハンスは床に尻餅をついた。佐緒里は自分の身を守るため、バーリアを張っていたのだ。
「繋がれて抵抗出来ない女の子をいたぶろうなんて、本っ当に最低な奴ね。お前なんかこうしてやる!」

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「な、何だと小娘。う・・・ ウワアァァーッ」
 ハンスの体が宙に浮いたかと思うと、そのまま床の上にドスンと落ちて、ハンスはしこたま尻を打ちつけ、そのまま蹲って起きられなくなった。唖然として見ていたカールは、ハンスの傍に駆け寄った。
「ハンスさん。大丈夫ですか?」
「ま・・ま、魔女だ・・・ こ、この小娘は魔女だアーッ!」
 ハンスは床の上を這うように、後退りした。
「一体何の騒ぎだ!」
 声とともに30代くらいの若い男が牢に入ってきた。
「あ。神父様。確かお帰りは明日だったはずじゃ」
「用件が全部終わったから今日戻って来れたんだよ。おい! カール。何故こんな事してるんだ。地下牢は使うなって厳命したはずだぞ。それにむやみに鎖で繋いではダメだって言っただろうが」
「す、すみません。ハンスさんが強引に」
「分かった。もういい。今からこの娘を審問するから、私の部屋まで連れてくるんだ」
「分かりました」
 神父が牢から出て行き、ハンスは鍵を持って佐緒里に近づいた。
「お嬢さん。何もしないよ。今鎖を外してあげるから、ジッとしてて」
 そう言ってカールは佐緒里の両足首の枷を外し、続いて両手の手枷をはずした。佐緒里が崩れ落ちないように、カールは佐緒里の両腕を軽くつかんで支えた。
「大丈夫。ありがとう。君・・ 優しいんだね」
 ハンスは照れ臭そうにしたが、持っていた鉄の手枷を佐緒里の前に差し出して言った。
「ごめん。規則だから、これを君の手に嵌めなきゃいけないんだ」
 佐緒里はカールの目を見てから、頷いて両手を前に出した。ガチャリという音とともに、佐緒里の両手に鉄の手枷が嵌められた。が、両手を下げたら手枷が抜けて床に落ちた。佐緒里の手首の大きさとサイズが合わなかったのだ。カールは手枷を拾うと、もう一度佐緒里の手にそれを通し、佐緒里の腕を胸の辺りに上げさせると、手枷に連結して伸びている、1メートルくらいの長さの鎖を持った。
「疲れない程度に腕を上に上げていて」
「うん」
「それじゃ僕についてきて」
 カールは尻込みしているハンスを尻目に、佐緒里を連れて牢から出た。しばらくしてからハンスも牢から出てきて、二人の後をついていった。

 ACT.5  審問

 佐緒里の鎖を引いて歩いているカールは、佐緒里から見て年の頃は15~16歳位で、自分と殆ど同じくらいの年に見えた。一方のハンスは30代後半のがっしりした体系で、いかにも軍人か牢獄の看守という外見をしていた。

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 佐緒里の前を歩いていたカールは、立ち止まって佐緒里の方を向くと、佐緒里に話しかけた。
「ねえ、君。名前は?」
「私? 赤嶺佐緒里」
「アカミネ・・ 何だか変な名前だな」
「言いにくかったら、私の事、佐緒里って呼んでもいいよ」
「サオリ・・・ 分かった。僕の名はカール。よろしく」
「カールさん。こちらこそよろしく。でも、看守さんなのに、そんなに私に親しくしてもいいの? 私は囚人なんでしょ?」
「別にいいよそんな事。それに、君は悪者には見えないし、僕の事カールって呼んでいいよ」
「ありがとう」
「さあ。行こうかサオリ」
 牢獄の建物は元々は城として使われていたもので、地上3階。地下2階の造りになっている。城として使われなくなってから、この近辺の犯罪者を収監するための牢獄として改装された。地下一階が囚人を収容する牢になっていて、最下層の地下二階が拷問部屋。そして地上部分は居住区になっている。しかし現在は最下層の部分は完全に埋められ、地下牢がある地下一階も半分埋められていた。これは此処で起こったある事件がきっかけでそうなったのだが、その真相は後々に分かるのでここでは省略する。カールは佐緒里を連れて3階の一番端の部屋まで来て足を止めた。
コンコン・・・
「入れ」
「失礼します。神父様。サオリを連れてきました」
 カールは佐緒里を連れて部屋に入った。室内は書斎のような感じで、大きなテーブルと椅子があり、書棚には本が並べられていた。カールは椅子の一つを引くと、佐緒里を座らせ、両手の手枷を腕から抜いた。暫くしてハンスも部屋に入ってきて、書棚の前で本を見ていた神父のアルベルトは、本を棚に戻し、佐緒里の向かい側に座った。
「私はこの村の神父。アルベルト・ヴェルナーだ。さあ。審問を始めようか」
 佐緒里は神父の目を見据え、神父が口を開いた。
「お前の名は?」
「赤嶺佐緒里。サオリでいいです」
「ん・・ それではサオリ。お前は魔女か?」
「はい」
 アルベルトは呆気に取られたように、持っていたペンをテーブルの上に落とし、あわててペンを拾った。
「(随分簡単に自白したな。普通なら最初は殆どの者が否定するんだが)」
 最初の審問で否定した場合は、予備拷問が行われ、さらに本格的な凄惨な拷問が行われて、自白するまで続けられ、拷問によって死んでしまう者もいる。そして自白すれば待っているものは100%の死であった。つまり、一度魔女の嫌疑をかけられた者は、絶対に助かるという事は無かったのだ。それで神父は佐緒里が簡単に自白したため、拍子抜けしてしまったのだ。神父は審問を続けた。
「で、では・・・ お前が契約している悪魔の名を述べよ」
「悪魔とは契約していません。それに私は人を呪うための魔術は絶対に使いません」
「黙れ魔女め! そんな事が信用できるか!」
 ハンスが叫んで息巻いた。
「ハンス! お前は黙ってろ。私の許可なしで勝手な事をして! お前は一年前のあの事件の事を忘れたのか」
「(事件・・・ 何があったのかしら・・・ さっきもカールが同じ事を言っていた)
「さて・・ サオリ。審問の内容を変えよう。お前は村にある鍵のかかった倉庫の中にいたところを村の者に発見され、捕えられてこの牢獄に連行されてきた。間違いは無いか?」
「間違いありません」
「では、何故お前は鍵のかかった倉庫の中にいたのか?」
「信じられないかもしれませんが、強い光を浴びて、気がついた時、あの倉庫にいたんです」
「強い光・・・ か・・・ お前は何処から来たんだ? 見た目は東洋人のようだが」
「日本・・・ といっても分からないと思います」
「知っている」
「え?」
 神父の言葉に、佐緒里は思わず目を丸くした。
「日本を知っているんですか?」
「ああ。ジパングとかいう国の事であろう。お前はそのジパングから来たというのか。しかし一体どうやって来たのだ」
「漂流者・・・・ そう思ってください」
「漂流者? どういうことだ。この近くには海も船着場も無いぞ」
 佐緒里は答えに詰まった。タイムスリップの事など信じてもらえるはずが無い。それにタイムスリップの原因と思われる十字架は、佐緒里がタイムスリップした時に手元から消えてしまっていた。佐緒里は『魔女』という言葉を思い出し、何かを悟ったかのように言った。
「お願いです。助けてください。私は、悪い魔女の魔法にかけられて、自分の国からこの土地へ無理矢理飛ばされたんです。お願い助けて。私は家へ帰りたいだけなんです」
「悪い魔女? お前だって魔女ではないのか? たった今自白したじゃないか」
「信じたくなかったらそれでもいいです。魔女はみんな悪いわけじゃない。悪魔と契約なんかしないし、人を呪わないで、その逆に人を助ける『良い魔女』だっているんです」
 普通だったら、佐緒里はこのあと凄惨な拷問にかけられ、悪魔との契約や、魔女集会の事、また他の魔女嫌疑者を白状するまで痛めつけられるはずである。神父という職業ならば、嫌疑者に対して必ずそうするわけなのであるが、アルベルト神父は何故か、佐緒里の言葉を聞いて黙って考え込んでいた。

 ACT.6  魔法?

「よし。今日の審問はこれまで。カール。サオリを部屋に連れて行くんだ」
「はい」
 カールは佐緒里の傍に来ると、佐緒里を立たせて手枷を佐緒里の腕に通した。佐緒里はアルベルト神父に向かって言った。
「あの・・ もし聞いてもらえるならば、お願いが・・・ 」
「何だね? 言ってみたまえ」
「壁に鎖で繋ぐのだけはやめてください。絶対に逃げたりしないって約束しますから」
「約束だと? 黙れ魔女娘! そんな事を言って魔法で逃げるつもりだろうが」
「ハンス。黙ってろと言ったろうが!」
 アルベルトはハンスに向かって怒鳴ってから、佐緒里の方を向いて言った。
「何故逃げないんだ。魔女ならば魔法や魔力で逃げられるだろうが」
「逃げても行く所が無いんです」
 佐緒里は悲しそうな顔をした。
「うむ・・・ 地下牢は使わない事になっているから、その事は心配しなくとも良い。ただし、囚人である以上は、それなりの拘束はさせてもらう。カール、連れて行け」
 アルベルトはカールに手で合図した。
「それじゃサオリ。行くよ」
 佐緒里は黙って頷き、カールは佐緒里の鎖を引いて部屋の外へ出た。廊下を歩いて螺旋階段の前まで来ると、カールは上の方へと佐緒里を誘った。
「カール。こっちは上の階よ。牢は下でしょ」
「いいからおいで」
 二人は螺旋階段を上り、建物の屋上へ上がった。既に陽が沈んで暗くなっていて、月明かりが二人を照らしている。カールは佐緒里の手枷を腕から抜くと、佐緒里に言った。
「サオリ。自分の事を魔女だって言ったよね」
「うん・・・ 」
「それじゃ魔法を見せて。さっき見た攻撃的なやつじゃなくて、君の言う良い魔女の魔法を」
「ごめんなさい。魔法は見世物じゃないの」
「そんな事言わないで。お願い。おねがい」
カールがあまりに真剣にお願いするので、佐緒里は一つため息をついてから応えた。
「分かった。見せてあげる。少し離れて」
 佐緒里は右手を少し上げた。すると佐緒里の手にスティックが握られ、佐緒里はそれを空に向けて軽く放った。するとスティックが大きくなり、2m位の長さになって、佐緒里の腰の高さくらいのところで静止し、佐緒里はスティックの上に乗って座った。見ていたカールは目を丸くして驚いた。

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「す、すごい・・・ ほ、本当に魔女なんだ。魔法が使えるんだ・・・・ 」
 佐緒里のこの力は、スカーレットエンジェルとしての能力であり、魔法ではない。しかし、中世の人から見れば、れっきとした魔法に見えるのだ。佐緒里の能力はかつてのネオ‐ブラックリリーとの戦いを通して研ぎ澄まされ、佐緒里の姿のままでも使えるようになっていて、既に叔母の美紀子を凌ぐだけの力を持っていたのだ。佐緒里は呆然としているカールに向かって手招きをした。
「え? こ、これに乗れって?」
 佐緒里は笑顔を見せながら無言で頷いた。
「で、でも・・・」
「大丈夫だよ。落ちたりしないから」
 カールは恐る恐る近づいて、スティックの上に腰掛けた。何か見えないものに押さえられているかのように、カールの体はその場から動く事は無かった。
「ね、大丈夫だって言ったでしょ? それじゃ少し上がるよ」
 佐緒里がそういうと、スティックが音もたてずに浮き上がり、屋上の床から2m位の高さまで上がって止まった。
「わわわわ!」
 カールは思わず佐緒里にしがみついて、そのはずみで佐緒里の片方の胸を思いっきり鷲掴みにししてしまった。
「キャッ!! あぁ・・・」
 佐緒里は思わず鼻にかかったような声を出し、カールは慌てて佐緒里の胸から手を離した。
「ご、ごめん」
「びっくりしたぁ・・・ 心臓がドキドキいってるよ」
「ごめん。許して」
「謝らなくていいよ。君が怖がってるみたいだから、もう降りるよ」
 佐緒里は右手を少し上げ、スティックがゆっくりと下がって二人の足が床の上に着いた。
 カールはスティックから離れると、床の上に置いていた手枷を拾い、佐緒里はスティックを小さくして手のひらの上で消した。そこへハンスが上がってきた。
「お前らここにいたのか。おい小娘。神父様の特別の計らいで、普通の部屋に鍵をかけて閉じ込めるだけにしてもらったから、ありがたく思え」
 そういうと、ハンスは不貞腐れたような顔をしながら下へ降りていった。カールは佐緒里の腕に手枷を通すと、佐緒里をつれて下の階へ降りていった。下ではハンスが待っていて、手で合図をしながら無愛想に言った。
「部屋は二階の一番端だ。お前が持っていた荷物も一緒にある」
 そう言ってハンスは下へ降りていった。カールは佐緒里を連れて二階の端の部屋まで来て、扉を開けて中に入った。部屋の中はごく普通のありふれた造りで、テーブルと椅子の他にベッドとトイレまであった。床の上には鉄球の付いた足枷が置いてあり、佐緒里が背負っていた学生用リュックも傍においてあった。カールは佐緒里の手枷を抜くと、鉄球つきの足枷を持って差し出した。
「サオリ。許して。これを付けなきゃならないんだ」
 カールは佐緒里の足に枷を嵌めようとした。
「ちょっと待って」
 佐緒里はカールを制してから靴を脱ぎ、自分で両足の靴下を脱いで裸足になった。
「いいよ。カール」
 カールは佐緒里の左足に足枷を嵌めると、鍵をポケットの中に入れた。
「それじゃ食事を持ってくるから」
 カールは部屋を出ると、外から鍵をかけた。

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       ***********

 21世紀の世界から、中世のヨーロッパにタイムスリップしてしまい、魔女の嫌疑をかけられて牢獄に監禁された佐緒里。しかし佐緒里はその気丈な性格と、スカーレットエンジェルの能力でこの世界を生き抜き、最後には絶対に21世紀に帰れるという希望を抱いていた。
 これから佐緒里を待ち受ける運命やいかに・・・  佐緒里は本当に帰る事が出来るのか。冒険少女佐緒里の苦難(?)は今、始まったばかりであった。


 次回ACT.7に続く
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テーマ : ライトノベル
ジャンル : 小説・文学

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