鷲尾飛鳥

10月 « 2017年11月 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30  » 12月

第1話『宇宙から来た美少女』

2011年 10月10日 19:43 (月)

1-00.png


19458177_p1.png

 広大な宇宙… この果てしない宇宙空間の中で、宇宙の星々を征服して我が物にしようとする侵略者と、それを防ぎ、宇宙の平和を守ろうとする2つの力がぶつかり合っていた。侵略者の名は『魔女クイーンリリー』。そして、宇宙の平和と自由を守るため、クイーンリリーに対抗するのは、宇宙連邦警察に所属するエンジェル戦士たちだった。
 クイーンリリーはその絶大なる力を持って、宇宙の全てを征服し、宇宙全体の女王として君臨しようとした。それを阻止せんがため、宇宙連邦警察は、特殊戦闘部隊エンジェルを組織し、クイーンリリーに対抗した。クイーンリリーの作戦と野望は、エンジェル戦士達によって次々と阻止され、クイーンリリーはついに銀河系内のとある惑星で、スカーレットエンジェルに追い詰められた。
19458177_p2.png

「クイーンリリー! もう逃がさないわよ」
「馬鹿め! お前らなどに捕まる私ではないわ」

1-01

 クイーンリリーはそう言いながら巨大化し、宇宙空間へと飛び出した。
「逃がさないわ!」
 スカーレットエンジェルもまた、クイーンリリーを追って宇宙空間へと飛び出し、宇宙空間での追撃戦が始まった。しかしクイーンリリーは光速テレポートによって完全にスカーレットエンジェルを振り切り、ワープを繰り返しながら、とてつもない早さで宇宙空間を駆け抜けた。そして予てから目をつけていた太陽系第三惑星『地球』へ向かった。スカーレットエンジェルの方は、クイーンリリーに追いつくことが出来なかったものの、その航跡を辿ってクイーンリリーを追った。
 地球を見つけたクイーンリリーは、そのまま大気圏内へと突入。流星の如く地上目指して落下していった。地上の人々及びレーダーでは、それは流れ星に見え、世界中で流星が日本のN県天間村に落下したというニュースが流れた。クイーンリリーは地上に到達すると、そのまま地下へと潜り込み、地底の奥深くまで侵入して、そこへ落ち着いた。スカーレットエンジェルの追跡に対する目くらましと、宇宙空間航行で消耗したエネルギーを補給するためだった。そして198X年7月のある日の午後、クイーンリリーは再びその姿を地上にあらわした。
地上に姿をあらわしたクイーンリリーの姿は、身の毛もよだつほどの醜怪な姿をしていた。クイーンリリーは地上に姿をあらわすと、その姿を変えるために、奇声と共に煙幕を張り巡らせた。煙が晴れたとき、そこには軍服のような服を身に纏った、若い女性の姿があった。
「ここが地球か… 美しい星だ。私の力でこの星を丸ごと頂くとしよう。そして、目障りな宇宙警察のエンジェルどもが手だし出来ないように、この星を全宇宙征服のための前身基地と大要塞に作りかえるのだ」

1-02

 クイーンリリーはそう呟きながら歩き出そうとした。
「ん… 」
 クイーンリリーの向かうその先に、一人の初老の男が立っていた。男はクイーンリリーの姿を見て、驚きと恐怖のあまり動けないでいた。その男の名は『新田順一郎』といって、某大学の天文学の教授である。新田氏は先日のニュースにあった、N県天間村に落下した流星、つまり隕石の調査のため、この天間村に来ていたのである。そして落下地点の近くまで来たとき、突然大きな地震が発生してその場を動けなくなった。そして地震がおさまったとき、地中から出てきたクイーンリリーの姿を見て、腰を抜かしたのである。クイーンリリーの姿が、妖怪か、魑魅魍魎の如く移ったからである。クイーンリリーの姿が奇声と共に若い女性の姿になり、信じられないといった感情と、恐怖のためにその場から動けないでいたのだ。そしてクイーンリリーがゆっくりと自分の方へ歩いてきたので、後退りしながら、クイーンリリーに向かって叫んだ。
「な、何だお前は!? ば、化け物!」
「私の姿を見たな… 愚かな人間め」
「く、く、来るな! 来るな化け物っ!」
「ちょうどいい… お前を私の僕『リリーエージェント』にして、世界制服の尖兵として使ってやる。それっ! リリー球根を受けてみよ」
 クイーンリリーは、懐から小石大の物体を取り出すと、新田めがけて投げつけた。物体は新田の顔にあたり、たちどころに物体から無数の糸のようなものが出てきて、皮膚を突き破り、体内に侵入を開始した。
「ギャーッ! グアーッ!」
 新田は顔を覆いながら七転八倒した。この物体こそ、クイーンリリーの究極の秘密兵器であるリリー球根で、糸のような物は、球根から出てきた根である。リリー球根は、人の身体に触れると、たちどころに無数の根を出して、宿主である人間の皮膚を突き破って体内に侵入し、ついには脳を冒して、クイーンリリーの意のままに動く醜い怪人の姿になり、リリーエージェントとして、クイーンリリーの世界征服のための尖兵として働くのである。七転八倒していた新田は、体中から毛が生えてきて、コウモリの怪人バットリーになり、クイーンリリーの前にひざまずいた。

1-03

「ご主人様… どうぞ御命令を」
「バットリーよ。お前は人間どもを襲ってその血を吸い取り、同時に人間の体にバットビールスを植え付けて、奴隷人間を増やすのだ。行け!」
「ははーっ! かしこまりました。ご主人様」
 バットリーは羽を広げると空へ舞い上がり、クイーンリリーの元から離れていった。


         *    *    *    *

 クイーンリリーが再び地上に姿をあらわして、世界征服の行動を始めてから数日後の昼下がり、クイーンリリーが降り立った場所から10キロ位離れた草原の中に、光の球体が降下してきて、地上に近づくと落下速度を落とし、綿毛が落ちるくらいのゆっくりした速度で地上に降り立った。そして地上に降り立つと同時に光が消え、人間の姿になった。スカーレットエンジェルが、クイーンリリーを追って地球へやってきたのである。幸いスカーレットエンジェルが降りてきた場所は、人気の無い草原の真中で、昼下がりであるにもかかわらず、気付いた人はいなかった。スカーレットエンジェルはゆっくりと立ちあがると、自分の位置とその周辺を見まわした。

1-04

「クイーンリリーは一体どこへ行ったんだろう… 必ず近くにいるはずだわ。早く見つけ出して何とかしないと、この星が大変なことになってしまう」
 スカーレットエンジェルは変身を解いて地球人の姿になり、草原の脇にある道を見つけると、その道をテクテクと歩き出した。が、しばらくして激しいだるさが襲ってきた。スカーレットエンジェルのいる場所は日影が無く、まともに夏の直射日光にさらされていた。スカーレットエンジェルは長旅でエネルギーを使い切ってしまっていた。それに加えて夏の炎天下である。そのためか、歩く気力が少しずつ薄らいでいくのを自分自身でも感じていた。

1-05

「ダメだわ… 今の私にはエネルギーがもう残っていない。どこかで休まなければ。こんな所でクイーンリリーにでも襲われたら、私がやられてしまう」
 そう呟きながら、スカーレットエンジェルは休むことが出来る場所を捜しながら、小道を歩いていた。しかし、だんだんと意識が朦朧として、ついにそのまま崩れ落ちるように道端に倒れ、そのまま気を失ってしまった。


        *    *    *    *

「じゃあな! 誠一」
「おう! また明日」
 スカーレットエンジェルが地球に降りてきて大体2時間後、そこから凡そ15キロ離れた所にある大滝高校では、今日の授業が終わり、生徒達が次々と学校から帰宅していた。赤嶺誠一は仲間と別れると、自転車で自宅へと向かっていた。誠一の家は天間村にある『ペンション赤嶺』である。誠一はここから隣町の高校まで自転車で通学していた。既に7月に入っていて、あと少しで1学期の期末試験があり、そのあとは夏休みである。天間村付近の平均高度は約800m。ペンションの周辺は1000m近くある。朝晩は涼しいのだが、昼間となれば平地の暑さとあまり変わらない。特に今日は三日連続の真夏日で、時間は三時半を回っていたところだったが、気温は30℃を超えていた。誠一は途中でいつも寄り道する店で自転車を止めると、そこでアイスキャンデーを買って頬張った。
「ふぅー… 暑い暑い」
 誠一はそう呟きながら、再び自転車に乗り、アイスキャンデーを頬張りながら走った。家まであと少しのところまで来て、草原の中の一本道を走っていると、わき道を少し行ったところに誰かが倒れているのを見つけた。
「ん… 何だあれは」
 誠一は自転車を止めると両目をこすり、もう一度その場所をよく見た。すると確かに誰かがそこに倒れている。
「人みたいだけど… よし!」
 誠一はわき道に入るとそのまま走り、倒れている人のすぐそばまで行った。
「ヤベ! 人が倒れてる」
 誠一は自転車を降りると、倒れている人のそばに駆け寄り、しゃがんで様子を見た。誠一が目にしたものは、自分と同じ位の年の女の子の姿だった。
「女の子だ。何だってこんな所に… おいおい・・・ 今頃行き倒れかよ」

1-06.png

 誠一はそう言いながら女の子の胸に自分の耳を当てた。心臓の音が聞こえる…
「生きてる… 」
 誠一は自分の周囲を見回した。
「この辺の人じゃなさそうだな。とにかくこの子をここから早く連れていかないと。おい! 待ってろ。いま家へ行って親父とお袋を呼んでくるからな」
 誠一は自転車に飛び乗ると、家に向かって一目散に走っていった。10分位して誠一の父親の誠司が、誠一を乗せて車でやってきて、倒れているスカーレットエンジェルのそばに車を止めた。
「親父。あの子だよ」 
「よし! 誠一そっちを持ってくれ」
「分かった」
 二人はスカーレットエンジェルの両手両足を持って持ち上げると、車に運びこんだ。
「行くぞ」
 誠司は車を発進させて帰途についた。

          *    *    *    *

「もう逃がさないわよ! クイーンリリー、覚悟しなさい」
「何を小癪な! お前ごとき小娘にやられる私ではないわ」
「行くわよ! エンジェルスマッシュ!」
 スカーレットエンジェルの放ったエンジェルスマッシュは、クイーンリリーの体をすりぬけた。
「そ… そんな… 」
「だから言ったじゃないの。お前の武器など私には通用しないのよ。はーっはっはっはっは。覚悟おし! 今度は私の番よ」
 クイーンリリーは両手を大きく広げて奇声をあげると、スカーレットエンジェルめがけて衝撃波を放った。衝撃波がスカーレットエンジェルにまともにあたり、スカーレットエンジェルは反動で思いっきり吹っ飛ばされた。
「キャーッ!」… … … 
 絶叫と同時にスカーレットエンジェルは目を覚ました。今のは夢だったのだ。
「え… 夢・・・ ここどこ? 私… 確か」
 目を覚ましたスカーレットエンジェルはフカフカのベッドの上にいた。よく見ると、地球人の姿になったときに着ていた服とは違う服を着ていた。回りを見渡すと部屋の中のようだった。カーテン越しに朝の日差しが部屋に入っていて、そこだけが明るかった。
「確か私… 草原の中を歩いていて… ここどこなんだろう。それにこの服… いつの間に」
 その時誰かが近付いてくる音が聞こえ、スカーレットエンジェルは一瞬身を竦めた。敵なのか味方なのか… でも自分が今生きているなら、きっと敵じゃないだろうと、いろいろなことが頭の中を過る。そして部屋の扉が開き、一人の女性が入ってきた。

01-x.png

「あら… 起きたの? 何だか今すごい声が聞こえてきたから、心配して来たんだけど。大丈夫かしら」
 その女性が自分の方に近付いてきたので、スカーレットエンジェルは思わず身構えた。
「怖がらなくていいのよ。あなたが近くの道端で倒れていたのを、私の主人と息子が助けてここへ連れてきて寝かせたの。その服は私が息子の寝巻きの予備を着せてあげたのよ」
「あの… 私… 私… 」
 どういうわけか、スカーレットエンジェルは言葉がしどろもどろになり、わけもなく瞳から涙が零れ落ちた。
「あらあら… あなたさっき大声で叫んでいたけど、きっと怖い夢でも見たのね。でももう大丈夫よ。昨日お医者様を呼んで、往診に来てもらったんだけど、外傷もないし、体はどこも異常が無かったって言ってたわ。それよりあなたお名前は? きっと親御さん達が心配してるから連絡してあげないと」
「な・ま・え… 私の名前… 」
 スカーレットエンジェルは一瞬悩んだ。自分は地球人ではないし、本当の事を言うわけにいかない。それにクイーンリリーにここをかぎつけられたら、自分だけでなく、この人にまで迷惑がかかると思って、一芝居打つことにした。
「どうしたの?」
「あの… わたし… 分からないんです」
「分からないって… あなた」
 その時下から階段を上ってくる音がして、誠一が部屋に入ってきた。
「母さん、彼女大丈夫なの? あ… 起きたのか」
「あなた達は一体」
「あ、俺? 俺は赤嶺誠一っていうんだ。よろしく。そしてこっちが」
「私は誠一の母の和枝です。それよりあなた、分からないってどういう事なの」
「もしかして記憶喪失じゃないのかな」
「記憶喪失?」
「ああ… きっと自分の事が思い出せないんじゃないかな」
「かわいそう… それじゃ御両親を呼べないわね。それよりあなた、おなか空いてない?」
 スカーレットエンジェルはその言葉を聞いて、気持ちが緩んだのか、自分の腹がグーと鳴って思わず顔を真っ赤にした。和枝は吹き出しそうなのを抑えて言った。

1-07

「あなたが着ていた服は全部洗濯しちゃったから、私の昔のやつをそこへ置いといたわ。それをあなたにあげるから、それに着替えて降りてきなさい」
 そう言って和枝は誠一と部屋を出ようとした。
「あ… あの… 」
「何? どうしたの」
「い、いえ… 何でも無いです。どうも… ありがとう」
「いいのよいいのよ」
 和枝と誠一が部屋を出た後、スカーレットエンジェルはベッドから起きて、和枝が置いていった服に着替えた。服は半袖のTシャツと、ショートパンツだった。スカーレットエンジェルは服を着ながら考えた。このままここにいると、自分に親切にしてくれている人たちに迷惑がかかってしまうし、クイーンリリーが襲ってきたら、あの人たちまで巻き添えにしてしまう。とにかくここを早く出た方がいいと思った。
 スカーレットエンジェルは着替え終わると、部屋を出て一階に降りた。そこで事務室にいたオーナーの誠司と目が合った。

1-12_20111027211820.png

「おはよう」
「あ… お、おはようございます」
「昨日は大変だったね」
「は、はい」
「息子の誠一が見つけなかったら、今頃どうなっていたか。まあ、無事で何よりだよ」
「はい。助けてくれてありがとうございます」
その時和枝が廊下に出てきた。
「あら、着替えたのね。早くいらっしゃい」
そう言って和枝はスカーレットエンジェルを食堂に連れていった。食堂には始めて見る二人連れの若い男の客が、朝食中だった。部屋のテレビでは朝のニュースをやっていた。二人の男達はニュースを見ながら、それに関係した話をしていた。スカーレットエンジェルはテーブルの前に立ったまま話を聞いていて、何かが頭の中を過った。そこへ急に後ろから肩をポンと叩かれ、スカーレットエンジェルはドキッとして振りかえった。するとそこに誠一が立っていた。
「何してんだよ。早く座って食べたらいいじゃん」
「あの… 」
「何?」
「その格好は」
「ああ、これね。これは学校の制服。俺高校生なんだ」
「こうこうせい… 」
「ふーん… やっぱり記憶喪失なのかぁ… あ、いけね。遅刻しちまう。それじゃ俺学校へ行くから。後のことは親父と母さんに頼んでるからな」
 そう言って誠一はスカーレットエンジェルに背を向けて歩き出した。それと入れ替わるように和枝がベーコンエッグを盛った皿を持ってやってきた。
「座りなさい。はいこれ。暖かいうちにどうぞ」
 スカーレットエンジェルは、言われるままに椅子に座り、和枝が差し出した皿を受け取った。テーブルにはパンとサラダ、牛乳が既に置いてある。窓の外を見ると、誠一が自転車で走り去っていくのが見えた。
「食べ終わったら食器はあそこの流し台に置いてね」
 和枝はそう言いながら流し台のところを指さした。
「じゃゆっくり食べてね」
「ありがとう。それじゃいただきます」

        *    *    *    *

 スカーレットエンジェルが朝食中に、二人の男は食べ終わって立ちあがり、荷物を持って食堂を出ていった。スカーレットエンジェルは男達を横目で見ながら、パンをかじった。テレビのニュースは、相変わらず天間村での流星落下と、大学教授のことを言っていた。そしてニュースは、天間村とその周辺での人間蒸発事件の話題に切り替わった。
「何だか物騒だな」
 その声にスカーレットエンジェルは顔を上げた。するとテレビの前に誠司が新聞を持って立っていた。スカーレットエンジェルは誠司に話しかけた。
「あの… 」
「ん? 何か」
「その事件… 」
「ああ。ここ一週間でこの辺の人が数人行方不明になってるんだよ。隕石のタタリだとか言って霊能者を呼ぶ人までいるくらいで。それに流星騒ぎでマスコミや学者が大勢押しかけて来たりしてるんだ。さっきここにいた二人も、隕石の調査に来ているんだそうだよ」
「(事件… もしかして、クイーンリリーと何か関係があるんじゃ)」
「何か自分のことを思い出したのかい?」
「 … 」
 誠司は持っていた新聞を差し出した。
「新聞に載ってるから、見てごらん。もしかしたら、自分のことを思い出せるかもしれないよ」
 誠司はスカーレットエンジェルに新聞を渡すと、食堂から出ていき、入れ替わりに和枝が後片づけをしに入ってきた。和枝は新聞を見ているスカーレットエンジェルの表情を見て、テーブルを挟んで向かい側の椅子に座った。
「ねえ… 何か思い出した?」
「ダメ… 何も分からないわ」
「慌てなくてもいいのよ。記憶が戻るまで、ここにいてもいいんだからね。誠一も可愛い女の子が来て喜んでるみたいだし」
「ごめんなさい。私のために」
「いいんだってば。ここは私達のペンションで、宿泊設備がちゃんとあるんだし。あら、もう食べ終わったの?」
「はい… とても美味しかったです。どうもご馳走様でした」
「いえいえお粗末様」
 スカーレットエンジェルは食器を流し台に持っていくと、食堂を出て自分が寝ていた部屋に戻り、カーテンを開けて窓を開けた。そして外の景色を見ながら何かを考えていた。
「(クイーンリリーは必ずどこかにいる。早く探し出して何とかしないと、この星が征服されてしまう)」
 スカーレットエンジェルは窓から離れると、両脚を少し開き、両手を下に下げてから、自分の胸に両手をあてた。すると、胸にブローチの付いたリボンがあらわれ、光に包まれて、その光が消えると、スカーレットエンジェルは戦士の姿に変身した。そして胸のブローチに手をあてて、スティックを取り出した。

1-08


「うん。大丈夫だわ。大分エネルギーが戻ってきた。でもまだ充分ではないわ」
 下で物音がしたのを聞いて、スカーレットエンジェルはあわてて変身を解くと、扉を開けて廊下を見渡した。階下の方で話し声が聞こえてくる。耳をすますと、どうやら自分の事を言っているようだった。静かに階段を降り、事務室を覗くと、誠司が電話で何かを話していた。
「… 警察に知らせたいんだけど、まずお前に相談してからって事にしたんだ。仕事の方は… 分かった。二週間後だな。それじゃ待ってるから。よろしく頼む」
 スカーレットエンジェルは音を立てないように階段を上って部屋に戻ると、窓枠に手を置いて外を眺めた。
窓の下で声がしたので、下を見ると、誠司が車のところへ来て、エンジンをかけているのが見えた。その側では和枝が洗濯物を干している。誠司は車に乗ると、ゆっくりと発進させてどこかへと向かっていった。
「今のうちだ。ここを出よう」
 スカーレットエンジェルは部屋のテーブルにあったメモ用紙にメッセージを書くと、部屋を出て一階に降り、事務室の目立つところにそれを置くと玄関から出た。そこで和枝とバッタリ会ってしまった。
「あら。どこへ行くの?」
「す、すみません。ちょっと散歩に」
「あまり遠くへ行ってはダメよ。あなた記憶喪失なんだから」
 スカーレットエンジェルは自分のサンダルを履いて和枝に軽く会釈をすると、ペンションの前の道路を小走りに駆けていった。
「(ごめんなさい… こんなに優しくしてくれて。でも、あなた達には迷惑はかけられない)」

        *    *    *    *

 クイーンリリーに怪人にされた新田は、怪人バットリーとなって、近くの人々を襲い、血を吸ってビールスを植え付け、奴隷人間にしていた。ニュースで報道していた人間蒸発事件は、クイーンリリーが差し向けた怪人バットリーの仕業だったのだ。しかし、落下した流星の調査のために、マスコミや調査団、また大勢の観光客が来ていて、周辺の宿泊施設はどこも満員の状態になり、天間村は人で一杯になってしまっていて、クイーンリリーとしては、作戦をやりにくくなっていた。自分が潜んでいる洞窟の周辺にも、大勢の人が集まっていたからだ。
「ええい… わずらわしい人間どもめ… 地球ではこんな事で人が集まってくるのか」
「クイーンリリー様。いかがいたしましょうか。これではあまりにも人が多すぎます」
「まてよ… これは意外と利用できそうだ。しばらくは流星騒ぎが続くだろう。バットリーよ。お前は出来るだけ ここから離れたところで、出来るだけ広範囲で作戦を遂行せよ。」
「いい考えです。そうすればこの辺に集まっている人間どもを、遠ざけることが出来ます」
「よし! 行けバットリー」
「ははーっ!」

        *    *    *    *

 時間は正午近くになっていた。スカーレットエンジェルはただひたすら走った。その行き先は自分が降り立ったところだ。スカーレットエンジェルはクイーンリリーの逃走経路を辿って地球に来た訳だから、自分が降りた場所の近くに必ずクイーンリリーがいると確信していた。しかし、まだエネルギーが充分でなく、夏の暑い日差しにさらされ、しかもサンダルでは走りにくいために、2km程来たところでへばってしまい、道路脇の木の下で休んだ。その様子を上空から見張っている黒い陰には、さすがのスカーレットエンジェルも気付いていなかった。その陰こそ、クイーンリリーの命令で、獲物を探して飛んでいた、怪人バットリーだったのだ。バットリーはスカーレットエンジェルを見つけると、気付かれないように静かに着地し、新田の姿に化けてスカーレットエンジェルに近付いた。バットリーの方も、獲物がスカーレットエンジェルだとは知らなかった。
 スカーレットエンジェルは木陰で腰を下ろし、呼吸を整えていた。そこへ急に話しかけられて、ビックリして顔を上げた。
「あの… 何か」
「お嬢さんはこの辺の人かね」
「あなたは一体… 」
「私は新田順一郎。天文学者で、この付近に落ちた流星の調査に来ているんだよ」
「新田… って、あなた確か、テレビのニュースで言っていた新田教授。どうしてこんな所に。ニュースでは流星が落下した場所で行方不明になっていたはずなのに」
「いや… 私も何だか訳が分からんのだよ。気が付いたらこの先の森の中で横になっていたんだから。それよりお嬢さん、バス通りまで行きたいのだが、道案内をしてくれるかね。もう一度流星の落下地点まで行きたいのだが」
「分かりました。でも、まず最初にあなたが無事であることを、みんなに知らせた方がいいと思います。この近くに私がお世話になっている家がありますから、そこへ案内します」
 そう言ってスカーレットエンジェルは立ちあがると、道路の方へ出た。新田もスカーレットエンジェルの側へ来た。その時、スカーレットエンジェルはふと新田の足元を見た。新田の影が変な形をしている。
「あなた… その陰一体… 」
 新田は急に顔色を変え、スカーレットエンジェルを睨みつけた。
「見たな… 」
 同時に新田は怪人バットリーに姿を変え、スカーレットエンジェルを威嚇した。
「ば、化け物! もしかしてクイーンリリーのエージェントね!?」
「何だと? 私の事を知っているとは… お前がクイーンリリー様の言っていたスカーレットエンジェルか。ちょうどいい。お前の生き血を全部吸い取り、奴隷人間にしてクイーンリリー様の元へ献上してやる」
 バットリーは猛然とスカーレットエンジェルに襲いかかってきた。スカーレットエンジェルは間一髪のところでバットリーの攻撃をかわし、ジャンプしてバットリーの後ろに着地した。
「お前達の勝手になんかさせないわ!」
「小癪な小娘め、者ども出でよ!」
 周辺から戦闘員が次々と現れて、奇声をあげながらスカーレットエンジェルの回りを取り巻いた。その後ろからはバットリーがジリジリと迫ってくる。このままでも戦えるのだが、ヒールの高いサンダルでは動きにくい。

1-09.png

「者どもかかれっ」
 戦闘員が奇声をあげながら、一斉にスカーレットエンジェルに向かってきた。スカーレットエンジェルは戦闘員の攻撃をジャンプしてかわし、空中でポーズをとった。
「スカーレットスパーク‐エンジェルチャージ!」

1-09-01.png

 眩しい閃光とともに、スカーレットエンジェルは戦士の姿になり、着地するとエンジェルブレードを持って身構えた。戦闘員が一斉に襲いかかってきた。スカーレットエンジェルは戦闘員の攻撃をかわしながら、一人ずつ倒していった。
「バットファイヤー!」
 バットリーの口から火炎がスカーレットエンジェルめがけて飛んできた。スカーレットエンジェルは一撃目をかわし、二回目の攻撃でジャンプして、バットリーの背後に着地し、バットリーに接近戦を挑んだ。が、バットリーは振り向きざま、スカーレットエンジェルに蹴りをいれてきた。一発目をかわしたもののバランスを崩し、二発目の蹴りをまともに食って、その反動でスカーレットエンジェルは地面に叩きつけられた。
「バットファイヤー!」
 スカーレットエンジェルは火炎攻撃を転がりながらかわした。が、バットリーはそのままスカーレットエンジェルに向かってきて、体勢を立て直せないスカーレットエンジェルに、立て続けにパンチとキックをお見舞いしてきた。何発かパンチとキックを食ったスカーレットエンジェルは、再び地面に叩きつけられた。
「く… 」
「止めを刺してやる」
 バットリーはスカーレットエンジェルめがけて火炎を吐く態勢をとった。このままではやられてしまう… スカーレットエンジェルはとっさに、エンジェルブレードを投げつけた。ブレードはバットリーの羽に命中し、羽根を突き抜けて反対側の地面に刺さった。
「グアーッ」
 バットリーは苦悶の表情とともに、空に飛びあがり、そのまま姿を消した。遠くへ飛び去って行くバットリーを見ながら、スカーレットエンジェルはゆっくりと立ちあがった。
「う… 」
 パンチとキックによるダメージが残っていたのか、スカーレットエンジェルは痛みのために、体がよろけた。
「まだエネルギーが充分じゃなかったのね… このまま戦っていたら恐らくやられていたわ。やつらのことだ。きっとまたどこかにあらわれるはず… う… 」
 スカーレットエンジェルは変身を解き、痛みが残っている脇腹を抑えながら、ヨロヨロと歩き出した。と、その時足元のバランスを崩して転んだ。
「痛ったー」
 何だと思って足を見ると、右足に履いていたサンダルのストラップが切れていた。スカーレットエンジェルは仕方なく、サンダルを脱いで手に下げ、素足で歩いた。
「おーい!」
 その時後ろからいきなり大きな声がして、スカーレットエンジェルは振り向いた。後ろから自転車に乗って走ってくる誠一の姿が見えた。今日は土曜日である。誠一は昼に学校から帰ってきて、事務室にあったスカーレットエンジェルの置手紙を見つけ、スカーレットエンジェルを捜すためにペンションを飛び出してきたのである。誠一はスカーレットエンジェルの側まで来ると自転車を止めて降りてきて、スカーレットエンジェルのTシャツの袖をつかんだ。もう片方の手には、スカーレットエンジェルが書き残したメモが握られていた。誠一はスカーレットエンジェルのメモを突き付けて言った。
「馬鹿! お前どういうつもりだよ。こんなもん書き残していって… 記憶が無いのにフラフラしてたら危ねえじゃねえか!」
 スカーレットエンジェルのメモには、こう書かれていたのだ。
『私を助けてくれてありがとう。とても嬉しかったです。これ以上迷惑をかけられないので、私はここから出て行きます』
 スカーレットエンジェルは驚いた顔で誠一を見つめて言った。
「どうしてここに」
「感だよ。感。お前… 記憶無くしてるようだし、そう遠くへは行かないと思って、それでお前を捜しに来たわけ。あーあ… サンダル壊しちゃったんだ。それにお前、足怪我してるぞ」
「ごめんなさい」
 スカーレットエンジェルは涙目になった。
「おいおい… 泣くなよ。もう怒っていないからさ。とにかく帰ろうぜ。ほら後ろに乗れよ」
 誠一は自転車の後ろにスカーレットエンジェルを乗せると、ペンションへ向かって走り出した。

        *    *    *    *

「何? スカーレットエンジェルがあらわれただと?」
「はい。クイーンリリー様」
「ふーむ… よし。分かった。お前はこれまで作った奴隷人間どもを集め、スカーレットエンジェルを襲撃するのだ。スカーレットエンジェルめ… いくら何でも人間対手では戦えまい」
「かしこまりました。クイーンリリー様」
 クイーンリリーの隠れ家の周辺では、相変わらずマスコミや調査団がうろついていたが、人間蒸発事件が方々で起こり、ニュースの焦点はそちらの方へと移りつつあったため、流星騒動は下火になっていた。そのため、隠れ家周辺にいる人の数は少なかった。
「バットリーよ。外をうろついている連中を血祭りにあげよ。やつらも全て奴隷人間にしたてるのだ。行け!」
「ははーっ!」
 バットリーは戦闘員を伴って隠れ家の外へ出ると、周辺にたむろしていたマスコミや調査団の人たちに次々と襲いかかり、全て奴隷人間にしてしまった。
「これだけの奴隷人間がいれば、スカーレットエンジェルなど一捻りだ。はーっはっはっは」

        *    *    *    *

 誠一はスカーレットエンジェルを自転車の後ろに乗せ、ペンションに戻ってきた。時間は既に午後の2時近かった。自転車を降りた誠一は、スカーレットエンジェルにそっと耳打ちした。
「(メモは俺しか見てないから。だから親父や母さんには何も言うな)」
 スカーレットエンジェルは黙って頷くと、誠一に連れられてペンションの庭の方へと歩いて行った。庭では和枝が水撒きをしていた。
「あら、随分遅かったじゃない。心配したのよ。誠一も一緒だったの?」
「ああ。この子、サンダル壊して、足に怪我して歩けなかったんだよ」
「あらあら… 」
「ごめんなさい。本当にごめんなさい」
「いいのよ。それよりばい菌が入るとまずいから、すぐに足を洗って傷の治療をしなさい」
 スカーレットエンジェルは和枝が差し出したホースから出る水で足を洗うと、誠一に連れられて、食堂の前のベランダに腰を下ろした。
「ちょっと待ってろ」
 誠一は屋内に入り、しばらくして救急箱を持ってきた。
「ほらこれ貼って」
「ありがとう」
 スカーレットエンジェルは誠一からカットバンをもらい、怪我をしたところに貼った。
「それからこれもやる。母さんのだけど、サンダルよりは歩きやすいから。母さんが、お前が帰ってきたら渡してくれって」
 そう言って誠一はスカーレットエンジェルにスニーカーを渡した。スカーレットエンジェルは思わず目に涙を溜め、その涙がベランダに落ちた。

1-10

「もう泣くなよ。きっと自分のこと思い出せるようになるからさ。それに、親父が知り合いの探偵に電話してて、その人が来てくれるから。そうしたら、きっと自分の事が分かるかもしれないぜ」
「どうしてこんなに優しくしてくれるの? 私… どこの誰だかも分からないのに」
「ん? そうか… それであんなメモ残して出て行こうとしたのか。水臭いぜ。困ったときはお互い様じゃねえか。そんなことより、もし良かったら、ここを手伝ってほしいんだけど… 君のような可愛い子がここで手伝ってくれると、すごく助かるんだけどな… 親父も母さんも賛成してるんだぜ」
 そう言いながら誠一は顔を少し赤くした。実を言うと誠一は、スカーレットエンジェルが自分の理想のタイプの子に見えたので、一目惚れしたのだった。スカーレットエンジェルからすれば、ここを出て行けば、誠一達に迷惑がかからないと思ったのだが、考えてみると、クイーンリリーの隠れ家がこの近くにあるため、しばらくこの地に留まっていなければならないと思ったので、誠一の言葉に甘えることにした。
「分かりました。それじゃ手伝わせてください」
「やったぁ! じゃ明日から早速頼むぜ。本当なら俺が手伝わなきゃならないんだけど、学校があるからな… 母さん! 手伝ってくれるって」
 誠一の言葉で、和枝が水撒きを止めて駆け寄ってきた。
「本当? 良かったわ。これでペンションに花が添えられるわね」
「よろしくお願いします」
 スカーレットエンジェルはそう言いながら、照れくさそうな仕草を見せた。

        *    *    *    *

 夕方になって、ようやく涼しくなり、森からヒグラシの泣き声が聞こえてきた。足に怪我をしたスカーレットエンジェルは、自分の部屋でベッドに横になっていた。エネルギー不足のせいで疲労がひどく、2時間くらい眠っていた。目が覚めたスカーレットエンジェルは、ベッドに腰を下ろして、怪我をした自分の足を見た。彼女は宇宙人である。怪我はサンダルずれだったが、殆ど回復していた。スカーレットエンジェルは立ちあがると、窓を開けた。部屋の中はエアコンが効いていて涼しいのだが、自然の風に触れたかったのだ。窓の外を見ると、まだ日が沈んでいなくて空は明るかった。スカーレットエンジェルは窓を閉めると、部屋を出て一階に降りた。厨房では和枝が夕食の支度をしていたが、誠司と誠一の姿は見えなかった。スカーレットエンジェルは厨房にいる和枝に話しかけた。
「すみません… ちょっと一時間くらい出ます」
「あら、怪我してたんでしょ? 大丈夫なの?」
「はい。それじゃ行ってきます」
「早く帰ってくるのよ。あんまり心配させないでね」
 スカーレットエンジェルがペンションから出てくると同時に、誠一が帰って来た。
「おい、どこ行くんだよ」
「ちょっとお散歩」
「こんな時間にか?」
「昼間はごめんなさい。もう勝手に出て行ったりしないから。必ず帰ってくるから心配しないで」
 スカーレットエンジェルは誠一に向かってそう言うと、小走りにペンションの前の道を駆けて行った。誠一はその後姿を見ながら、自転車を降り、ペンションの玄関へと足を運んだ。
 スカーレットエンジェルはペンションから500m位の所まで歩いてきた。夕方の風が涼しい。スカーレットエンジェルは立ち止まって、右手で長い髪を梳いた。そして今来た道を引き返そうとしていたとき、いきなり叫び声がした。
『キャーッ! 助けてぇーっ』
「何? 一体… そこの小屋の後ろからだわ」
 声は道路のすぐ側にあった小屋の裏にある、林の中からだった。スカーレットエンジェルは小屋伝いに歩き、小屋の影から林の方を見た。そこには高校生くらいの若い女の子と、それを囲む数人の男達の姿があった。その男達は今にも女の子に飛びかかっていく気配だった。
「やめなさい!」
 スカーレットエンジェルが怒鳴ると、男達は一斉にスカーレットエンジェルの方を向いた。スカーレットエンジェルは男達の表情を見てギョッとし、反射的に後退りした。男達の顔が幽霊のように青白く光り、正気に見えなかったからだ。スカーレットエンジェルは、男達がクイーンリリーのエージェントに操られていると直感した。だが、人間相手に戦うことは出来ない。男達が一斉に襲いかかってきた。スカーレットエンジェルは身をかわしながら男達の間をすり抜け、恐怖のあまり動けないでいる女の子のところへ駆け寄った。
「立って! 早く逃げるのよ」
 スカーレットエンジェルは女の子の腕をつかんで、道路へ向かって走った。後ろからは男達が追ってくる。道路へ出たスカーレットエンジェルは、女の子に向かってペンションの方向を指差して言った。
「そっちへ逃げて! 早く」
「は、はい」
 女の子は一目散に駆け出した。スカーレットエンジェルはそれを眺めていたが、後ろから例の男達が迫ってきて、一斉に飛びかかってきた。スカーレットエンジェルはジャンプしてかわし、男達の後ろに着地した。そこへ急に空から何かが降ってきて、スカーレットエンジェルに体当たりしてきた。
「キャッ!」
 スカーレットエンジェルは反動で、地面を一回転した。
「スカーレットエンジェル。あらわれたな」
「お前はクイーンリリーのエージェント」
「今度こそ引導を渡してやる。それ! 奴隷人間ども、あらわれよ」
 バットリーの声で、バットリーに操られた奴隷人間たちが次々と姿をあらわした。
「スカーレットエンジェル! 人間を相手には戦えないだろう。お前が守ろうとしている者達の手にかかり、死んでしまえ」
「卑怯者!」
「うるさい。それっ! かかれっ」
「(やつを倒せば、この人たちは元に戻るはず… よし)」
スカーレットエンジェルはジャンプすると、空中で変身し、囲みの外に着地して、バットリーに向かって身構えた。
「私こそお前を倒す。これ以上勝手な真似はさせないわ!」
「何を小癪な! かかれえっ」
 戦闘員があちこちから出てきて、奴隷人間とともにスカーレットエンジェルに向かってきた。スカーレットエンジェルはブレードを出すと、向かってくる戦闘員を片っ端から切り伏せた。が、奴隷人間と戦うわけにはいかない。
「(そうだ… スマッシュの威力を弱くすれば気絶させるだけで済むわ)」
 スカーレットエンジェルはブレードを収納し、迫ってくる奴隷人間に向かって身構えると、右手を伸ばして、エンジェルスマッシュを連射した。奴隷人間たちはスマッシュのショックで、次々とその場に倒れて気絶した。

1-19.png

「おのれ! スカーレットエンジェル。バットファイヤーを食らえ」
 バットリーの口から火炎が発射され、スカーレットエンジェルは身を翻してジャンプすると、バットリーの背後から飛び蹴りをお見舞いした。バットリーは反動で叩きつけられた。スカーレットエンジェルはバットリーが体勢を立て直す間を与えないように、格闘戦を挑んだ。殴り合いと蹴り合いが繰り返され、スカーレットエンジェルはバットリーに一本背負いをかけた。バットリーはそのまま空中に舞い上がり、上空からバットファイヤーを立て続けに放ってきた。
「エンジェルシールド!」
 スカーレットエンジェルは両手を広げてシールドを張った。バットリーの攻撃が全てシールドに跳ね返される。
「エンジェルフラッシュ!」
 スカーレットエンジェルの胸のブローチが発光し、スカーレットエンジェルは閃光に包まれた。バットリーは眩しさのあまり、顔を覆ってそのまま地上に墜落した。
「今だ!」
 スカーレットエンジェルは空高くジャンプすると、空中で一回転し、バットリーめがけて急降下した。
「エンジェルキック!」

1-11

 エンジェルキックがバットリーを直撃し、バットリーは反動で空中を舞って、そのまま一回転して地面に叩きつけられた。スカーレットエンジェルは着地すると、警戒しながらバットリーに近付いた。バットリーの体が光に包まれ、光が消えると、新田教授の姿になっていた。周囲に倒れていた奴隷人間たちも、光とともに元に戻った。
「よかった… 皆元に戻ったんだわ」
 その時自分を呼んでいるような声が聞こえてきた。誠一の声だった。例の女の子がペンションに駆け込んで、事情を知らせたのだ。それで誠一は誠司とともにやってきたのである。スカーレットエンジェルは変身を解くと、道路に出た。
「ここにいたのか。おい大丈夫か?」
「おじさん、誠一君、話は後! こっちに来て」
 スカーレットエンジェルは誠司と誠一を連れて森の中へ入った。
「何だこれ… 」
 誠司と誠一は森の中に倒れている多数の人を見て驚いた。
「人を呼ばなきゃ。この人たちみんな、ニュースで言っていた行方不明の人たちじゃないかしら」
「たしかに… 」
「親父、早く知らせないと」
「お、おう! そうだ。俺が戻って電話するから、2人ともそれまでここで待ってろ」
 誠司は車を発進させると、ペンションへ向かい、15分ほどして再び戻ってきた。
「2人とも乗りなさい。ペンションへ戻るぞ」
「あの人たちはどうするの」
 その時サイレンの音とともに救急車がやってきて、三人の側に停まると、救急隊員達が降りてきて、倒れている人たちのほうへ向かった。誠司は誠一とスカーレットエンジェルを促し、2人を乗せて発進した。途中で、対向してくる救急車やパトカーと何度かすれちがった。ペンションに帰ると、和枝が心配そうに出てきた。和枝は既に誠司から話を聞いていたので、スカーレットエンジェルを黙って迎えた。
「何回も心配かけてすみません」
「分かってるって。話はもう聞いてるから。ほら、お風呂に入ってきなさい。上がったらすぐ晩御飯よ」
「はい」

        *    *    *    *

 翌日、スカーレットエンジェルは朝5時に起きた。今日からペンションの仕事を手伝うことになったからである。スカーレットエンジェルは和枝から貰ったエプロンを着け、和枝と向かい合った。

1-12

「可愛いわよ。とっても似合ってる」
「そうですか? どうもありがとう」
「今日は5人のお客さんが来るから、忙しいわよ」
「はい! 頑張ります」
 誠一が起きてきて、スカーレットエンジェルを見ると、そのまま硬直し、ジーッと眺める。
「な、なんですか? 私何か変?」
 スカーレットエンジェルは顔を赤らめて誠司に言った。
「い、いやいや… 何でも無い。何でも無いよ」
 誠一はそう言って洗面所へ向かった。スカーレットエンジェルと和枝は、向かい合ってお互いに噴き出した。
「さあいらっしゃい。早速朝ご飯の用意をするわよ」
「はい」
 スカーレットエンジェルは和枝に連れられ、厨房へ入っていった。

        *    *    *    *




 スカーレットエンジェルの戦いはまだ始まったばかりだ。これからもクイーンリリーが差し向けてくるエージェントと戦いつづけなければならないのだ。頑張れ! スカーレットエンジェル。

                                               (つづく)

スポンサーサイト

テーマ : 自作小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント