鷲尾飛鳥

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第6話『敵か味方か? 謎の人物』

2011年 10月13日 21:50 (木)

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 夏休みが終わるまであと約1週間となったある日の朝、美紀子は詩織と供に源太郎に呼ばれ、事務所のオフィスにいた。
「源太郎さん。話があるって… またクイーンリリーの事件が起きたんですか?」
「いや、そうじゃないんだ。詩織は知ってると思うが、去年まで毎年C県の小湊海岸にみんなで泊りがけで海水浴に行っていただろう」
「うん。知ってるよ。今年はどうするの?」
「残念だが、今年は俺が仕事で行けないんだ。それでお前達だけで行ってこないか? 5人分までならば、旅費と宿泊費は事務所持ちなんだが… それに美紀子。詩織。お前達二人にとっては、いい休養になると思うんだ。いつ襲ってくるか分からない連中と、これからも戦わなければならないんだからな」
「分かった伯父さん。それじゃ結花や誠人も誘ってみるから」

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       *     *     *     *

「えっ? 夏風邪?」
「そうなのよ。せっかく詩織ちゃんに誘っていただいたのに、誠人ったら昨日から風邪ひいちゃってねぇ。ごめんなさいね。それに結花も昨日から部活で学校なのよ」
 その時誠人が寝巻き姿で玄関に出てきた。かなり具合が悪そうだ。
「誠人。寝てなきゃダメでしょう」
「そうだよ誠人。あんた顔色悪いよ。無理しないでゆっくり休んでいなよ」
「こら誠人。そんなとこに立ってないで、早く部屋に帰って寝てなさい」
 そう言いながら結花が制服姿で出てきて、靴を履くと外へ出てきて美紀子と詩織の前で立ち止まった。
「ごめんなさい詩織姉さん。美紀子さん。私も部活でこれから学校なんです」
「そう… 残念ね… 」
「じゃお母さん行ってきます」
「はーい。行ってらっしゃい」
「それじゃ恵美伯母さん。私達も失礼します」

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「ごめんなさいネ。せっかく来てくれたのに」
 美紀子と詩織は、結花と誠人の母親恵美に向かって会釈をすると、玄関を後にして、門の方へ向かって歩いた。そこへ久美子が門を開けて入ってきた。
「おはようございます」
「おはよう。久美子ちゃん。誠人のお見舞い?」

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「そう。お姉さんたちどこかへ出かけるの?」
「うん。私達これから海へ行くのよ。でも、誠人も結花も行けないっていうし、私達だけで行く事にしたわ」
「残念。私も誠人が風邪じゃなかったら行きたかったな… 」
「久美子ちゃん。それ参考書?」
「うん。参考書と夏休みの宿題帳。誠人が寝込んでるから、お見舞いがてら一緒に勉強しようと思って」
 その時二階の窓から誠人が久美子に向かって声をかけてきた。
「委員長。早く入ってこいよ」
「分かった。今行くから」
 久美子は誠人に向かって返事をすると、美紀子と詩織の方を向いた。
「それじゃお姉さんたち。気をつけて行ってきて下さい」
「ありがとう。じゃあね久美子ちゃん」
 美紀子と詩織は古川家をあとにすると、源太郎の事務所に戻り、事情を説明した。
「そうか。誠人も結花もダメか。それじゃお前たち二人で行ってきなさい」
「いいの? あたしたちだけで」
「ああ。先方には俺から連絡を入れておくから。今朝も行ったように、お前たちにとってはいい休養だと思うんだ。日程は二泊三日。ゆっくり静養してこい」
「それじゃ、お言葉に甘えて行ってきます」
 美紀子と詩織はオフィスを出ると、廊下で話をした。
「美紀子。あたしこれから家に帰って支度してくるから」
 そう言いながら詩織は時計を見た。
「今10時… 美紀子。11時にこの事務所の前に集合ってことでどうかな?」
「いいよ。11時ね。分かった。私も準備して待ってるから」
 詩織は事務所を出ると、自分の家に向かって駆けて行った。美紀子は詩織を見送ると、自分の部屋に行って、ボストンバッグに荷物を詰めこんだ。そして水着を手にした時、ふと考えた。
「この前プールへ行った時に着たやつ… ちょっと大胆過ぎるな。今回はこっちにするか」
 そう言って美紀子が手にしたのは、自分で選んで買った方の水着だった。同じビキニなのだが、美紀子が選んだ方は、詩織に見たててもらったものよりも地味だった。
「いいや。両方入れておこう」
 美紀子は部屋にかかっている時計を見た。
「そろそろ来るな」
 そう言って美紀子は下へ下りると、オフィスにいる源太郎に声をかけた。
「源太郎さん。それじゃ行ってきます」
「おーう。気ぃつけてな」
 美紀子が外へ出て待っていると、5分くらいで詩織が荷物片手にやってきた。
「美紀子。お待たせ。行こうか」
「うん」
 美紀子と詩織は鷲尾平駅へ向かって歩き出した。
 美紀子と詩織は、電車に乗って鷲尾平からまず東京に出てきて、そこで外房線の快速電車に乗り換えた。座席に座って発車を待っている間、美紀子は誰かの視線を感じて席から立ち上がり、車内を見回した。
「(気のせいかな・・・ 誰かに見られていたような気がしたんだけど)」
 そう思って再び座席に座ってから間もなくして、買い物へ行った詩織がジュースとお菓子を買って戻ってきた。
「美紀子お待たせ ・・・ って、どうしたの? 美紀子にしては落ち着きが無いけど」
「どうしたのって・・・ 何でもないよ」
「そっか・・ はいこれ。美紀子の分ね」
「ありがとう」
 美紀子はジュースの缶を開けて一口飲んだ。その間にも、誰かの視線を感じたが、向かい側に座っている詩織を心配させまいと黙っていた。が、詩織は美紀子と付き合い始めてから、ずっと美紀子と行動をともにしていたので、美紀子の様子を見て“何かあったな”と薄々感じていた。美紀子は美紀子で考え事をしていた。
「(視線の正体は一体なんだろう・・・ クイーンリリーのエージェントではないようだけど)」
 やがてアナウンスとともに電車が動き出した。電車が走っている間にも、美紀子は時々自分たちを見つめている視線が気になっていた。
 美紀子と詩織はC県の小湊駅で降りた。鷲尾平を発ってから全部で約二時間半。そのあとすぐ源太郎が手配してくれた宿へ行って手続きして部屋に荷物を置き、その場ですぐ水着に着替えて海岸に出てきた。既に午後の三時ごろだったが、まだ気温が高く、海水浴客も比較的多かった。
「わぁ! いい眺め」
「そうだね詩織」
 そう応える美紀子だったが、美紀子は東京駅からの事がずっと気になっていた。小湊駅で降りて宿へ向う間も謎の視線を感じていて、ずっと誰かに自分たちが見張られているような気がしていたのだ。実際、美紀子と詩織は東京駅から見張られ、ずっと尾行されていた・・・

        *     *     *     *



「美紀子。あたしが見たてた水着、着ないの?」
「うん。一応持ってきているんだけど、ちょっと大胆かなって思って」
「でも、その水着でも、結構視線集めてるんじゃないの? 美紀子ってやっぱりスタイルがいいんだな。あたしが言うのもなんだけど、美紀子は典型的なモデル体型だよ」
「そう見える?」
その時美紀子はまた誰かの視線を感じた。
「 … 」
「どうしたの美紀子」
 詩織はずっと美紀子が何かを気にしているのに気付いていたので、思い切って美紀子に聞いてみた。
「何だか、私達ずっと誰かに見張られてるような気がするんだけど」
「気のせいだよ。こんな所までクイーンリリーのエージェントなんか来ないって。美紀子って意外と心配性なのね。そんなことより泳ごうよ」

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 詩織は美紀子の手をひき、海へ向かって走った。しかし、美紀子は戦士の感というのか、何か胸騒ぎがしていた。4時半を過ぎて、海水浴客が次々と引き揚げ始め、美紀子と詩織も脱衣場に戻ってきた。宿から海水浴場まで200mしかなかったため、二人はここまで水着の上にシャツと短パンで来ていた。それで着替えずにそのまま水着の上から服を着て宿に戻った。その途中、美紀子はまた誰かの視線を感じて、視線がある方向を見た。美紀子の視線の先には神社のお堂があった。
「どうしたの美紀子。さっきからやけに周りを気にしてるけど」
「ううん… 何でも無いわ」
「変な美紀子… 」
「(確かに誰かが私達を見張っている。一体何者なんだろう)」
 見張っていた人物は女性で、神社のお堂の陰から様子を覗っていたところ、美紀子に気付かれて視線が合うと同時に身を隠した。

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「(感づかれたかもしれない… 感の鋭い娘だわ。駅で見たときから只者ではないと思っていたんだけど、一体何者なんだろう。もしかしたら、私が調査している事件と、関係があるのかもしれない)」
 この女性は名を亘理早紀といい、インターポールの特命捜査官である。最近この付近で起こっている漁船の謎の爆発事故を調べるため、この小湊に来ていた。早紀は紅林源太郎の元部下であり、源太郎同様、怪奇現象や超常現象の調査を担当していた。そのためにスカーレットエンジェルである美紀子を一目見たときに、何かとてつもないものを感じたのである。

        *     *     *     *

 小湊海岸から約500m沖の海上に、海神島という周囲250mくらいの小島がある。頂上には海神様が奉られていて、船着き場が一箇所あるほかは、全て断崖絶壁で、島の周辺の海中は水産資源が豊富でヒジキなどの海藻が茂り、沿岸漁業の漁場となっている。また、この海域のさらに沖は貨物船やタンカーの航路がある。クイーンリリーはその地域性に目をつけ、浮遊機雷を使って船舶を片っ端から沈めて大混乱を起こそうと企んだ。そこで怪人クラゲリーが作り出され、海神島付近の海底に基地を作り、浮遊機雷の製造工場と発射施設を設けた。最近頻繁に起きていた漁船の謎の爆発事故は、この海域に誰も近付けないように、浮遊機雷を使って漁船を爆破していたことが原因だった。地元の漁協も警察も、そして海上保安庁も原因をつかむことが出来ず、またこの海域に近付く船が次々と爆発して沈んでしまうため、ついに海神島周辺に誰も近付かなくなってしまったのである。源太郎にはこの情報は伝わっていなかったが、インターポール特別捜査局は、この事件を怪奇超常現象と認定し、亘理早紀をこの地に調査員として派遣したのである。
 そして今、ここ、海底基地の司令室では怪人クラゲリーが、作戦の最後の仕上げを行おうとしていた。クラゲリーと戦闘員たちは、司令室のスピーカーから流れるクイーンリリーの声を聞いていた。

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「クラゲリーよ。浮遊機雷の製造状況はどうだ?」
「ははっ! 作戦を実行するに充分なくらいの量が揃いました。付近の海水浴場から人を遠ざける手段として、火薬を抜いた機雷を大量に海上に浮上させ、クラゲが大量発生したように見せかけております。また、海神島周辺に近付く船はことごとく機雷で撃沈し、近付く人間どもは全て皆殺しにしております」
「よろしい。それではこの海域の沖にある貨物船やタンカーの航路上に機雷を浮遊させ、全ての船を爆破して、大混乱を起こさせるのだ。沈んだ船から流れ出す大量の油が海を汚し、またひとたび油に火がつけば、たちまち海岸沿いが火の海になる。クラゲリー! 作戦発動時期の設定はお前に任せる。直ちに行動を起こすのだ」
「ははーッ! かしこまりました。クイーンリリー様」


        *     *     *     *

 宿に戻った美紀子と詩織は、入浴してから夕食を済ませ、夜の海辺へ散歩に出た。詩織は美紀子の様子がどことなくおかしいのに気付いていた。
「美紀子。一体何をそんなに気にしてるの? あたしには分かるんだよ。このままじゃ気まずいから、何かあったら話して。あたし達親友じゃないの」
「分かった。全部話す」
 美紀子は夜の帳を見つめながら、今思っていることを詩織に話した。
「えっ? 見張られてる? 昼もそんなこと言ってたけど、本当なの?」
「うん。間違い無く誰かの視線を感じるの。東京駅からずっとよ」
「東京から・・・ 一体誰なんだろう… まさかクイーンリリーの一味!?」
「違うと思う。やつらだったら、見張っているより先に私達に襲いかかってくるわよ。今日だって私達を襲うチャンスは幾らでもあった筈よ」
「そう言われれば、そうだね… じゃあ一体誰なんだろう。美紀子。今は?」
 美紀子は辺りを見まわしてみた。が、今はその気配を感じない。
「大丈夫。今は何も感じないわ」
「用心するにこしたことはないけど、明日になって、もしまた気配を感じたらあたしに言って」
「うん。分かった」
「じゃそろそろ戻ろうか。さぁてと。明日は思いっきり泳ぐぞ!」

 翌日の朝は快晴だった。今日の予想最高気温は33℃で、午前8時現在で既に30℃に達していた。美紀子と詩織は起きて朝食を済ませると、颯爽と浜辺へ出た。まだ9時前だったが、天気のせいか浜辺は既に沢山の人で賑わっていた。詩織は準備体操もそこそこに海へ向かって駆け出し、波に体当たりするように飛び込んでいった。そのあとを美紀子が追って飛び込んでいったが、相変わらず美紀子は周囲の男たちの視線を集めていた。

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 しかし美紀子と詩織が楽しんでいたのも束の間… 海へ入って30分ほどして急に監視所のチャイムが鳴り、放送が流れた。
『海水浴中の皆さんにお知らせします。ただいま沖に大量のクラゲが発生し、海水浴場に向かって流れてきています。海に入っている人達はすぐに浜へ上がってください。繰り返します… 』
 放送を聞いて、泳いでいた人達が一斉に浜へ向かって移動し始めた。浜辺と海は大混乱になり、親とはぐれた子供の迷子が続発して、監視員達が右往左往していた。美紀子と詩織は混乱の中をぬうように駆け抜けて、何とか人がいない場所まで辿りついた。
「あ~ぁ… せっかく楽しんでたのにぃ。クラゲの馬鹿野郎―ッ!!」
 美紀子は沖の方を見た。既に海に入っている人は誰もおらず、大量に海に浮かんでいる半透明の物体が目に映った。
「詩織どうする? とりあえず宿に戻ろうか」
「それしかないね。何も私達が来た時に大量発生することないじゃないの」
 詩織は愚痴をこぼしながら美紀子と一緒に宿へ向かって歩いた。そこで美紀子の話を思い出したかのように、美紀子に言った。
「そう言えば美紀子。昨日言ってた話なんだけど、今気配を感じる?」
 美紀子は心を落ち着かせて、周囲を見まわした。
「感じる… 誰かが私達を見ている」
「どこ!? 美紀子教えて」
 美紀子は正面に見える店の、自動販売機を指さすと、そこへ向かって走り出した。
「ちょっと美紀子待って」
「(まずい… 見つかった)」
 自動販売機の陰に隠れていた早紀は、気付かれたと直感して慌ててその場を離れ、駆け出した。
「待ちなさい!」
 美紀子は逃げる人影を追いかけようとしたが、サンダル履きだったために、逃げる人物に振りきられてしまい、諦めてそこで立ち止まった。
「美紀子。一体誰だったの?」
 詩織が追いついてきて、美紀子のそばに来た。
「分からない… でも確かに私達のことを見張っていたんだわ。スニーカー履いていたらどこまでも追いかけてって捕まえたんだけど」
 美紀子は人物が逃げた方を見ながら悔しそうに言った。
「詩織。まず宿に戻ろう」
 二人は宿に戻るとすぐに風呂場へ行き、着ていた水着を脱いでシャワーを浴びた。そして部屋へ行って水着を干してから服を着た。
「あ~ぁつまんなーい。クラゲのおかげで泳げなくなっちゃった」

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 詩織は座卓の横で体育座りの格好をしながら愚痴をこぼした。美紀子は関わらない方がいいと感じたのか、部屋を出てフロントへ行った。そこで美紀子はアルバイトの学生から突飛な話を聞いた。
「残念でしたね。またクラゲが出たっていうじゃないですか」
「はい… 」
「この辺はそんなにクラゲが多い所じゃないんですけど、ここ半月の間に急に増えたんですよ。特に天気が良くて浜辺に人が沢山いる時に限ってね。そして不思議なことに、雨の日や、遊泳禁止の日には絶対発生しないんですよ」
 美紀子は話を聞いて何かが頭を過った。それで真相を確かめてみようという気になった。美紀子はその学生に会釈すると、部屋へ戻っていった。部屋に入ると詩織は相変わらず膨れっ面をしていた。
「詩織。いい加減に機嫌直したら? いつもの笑窪の可愛い詩織ちゃんらしくないよ」
「ほっといて」
 詩織は少し笑みを浮かべながら美紀子に応えた。美紀子はそんな詩織を見て、少しホッとした気持ちになった。
「詩織、私ちょっと散歩に行ってくるけど、詩織はどうする?」
「あたしは留守番してる」
「分かった… いつまでも拗ねてないで元気出しなよ。それじゃ行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
 美紀子は詩織を部屋に残し、宿を出るとそのまま真っ直ぐ海岸へ向かった。フロントで聞いた話が気になったからだ。
 海岸へ出た美紀子は、道路沿いに延びている防潮堤に寄りかかって、さっきまで泳いでいた海を見渡した。クラゲ騒ぎのために泳いでいる人は誰もいなかったが、浜辺で警報が解除されるのを待っている人達が僅かに残っていた。殆どの人は諦めて帰ってしまったらしい。海上を埋め尽くすくらいに浮かんでいたクラゲの大群は、先ほどと比べると数えるほどになっている。そして見ている間にもどんどん減っていて、美紀子は首を傾げた。美紀子は何かが引っかかっていた。クラゲ騒ぎといい、自分達を見張っていて、付け回している謎の人物といい、何かが自分の周りで起きようとしているという、そんな予感がしたのだ。
「どうも気になる… 人がいなくなってクラゲが急に減るなんて不自然だわ。調べてみよう」
 そう呟き、美紀子は道路から砂浜に下りた。歩きにくいため、履いていたローヒールのサンダルを脱ぎ、裸足になった。美紀子は脱いだサンダルを手に持ち、遠浅の海を見ながら砂浜を歩いていた。美紀子の長い髪が、海の方から吹いてくる風で靡く。その時また例の視線を感じた。今度は複数だった。しかもそのうちの一つが自分の方に近付いてくるようだった。美紀子は何も気付いていないような素振りを見せて砂浜を歩いていたが、自分に近付いてくる何かが急にその速度を速め、真後ろに迫ってきた時、美紀子は後ろを振返って身構えた。
「誰!?」
 後ろに立っていたのは髪を染めた若い男だった。男は美紀子の予想もしなかった動きに一瞬たじろいだが、すぐに美紀子に向かって話しかけてきた。

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「ねえ彼女。俺たちと遊ばない?」
「遊ぶ? あなたたち? あなた一人だけじゃないの」
「ああ。俺達あっちの浜でサーフィンやってんだ。一緒に楽しもうぜ」
「失礼ですけど、私あなたのこと何も知らないんです」
「あ…・ゴメンゴメン。俺、田尻智寛っていうの。一緒に行こうぜ」
「ご好意は嬉しいんですけど、私には関わらない方がいいですよ」
「何訳のわかんないこと言ってんだよ。悪いようにはしないからさ。ほら一緒に楽しもうぜ。さあ」
 田尻はそう言って美紀子の腕をつかみ、連れて行こうとした。
「やめて! はなしてください」
「そう冷たくあしらうなよ。ほら行こうぜ」
 美紀子は自分の腕をつかんでいる田尻の手を振りほどこうとして、腕に力を入れて捻った。田尻の体が一瞬中に浮き、そのまま砂浜に転がった。
「いてて… このアマ! 下手に出てりャいい気になりやがって」
 田尻は起きあがると、美紀子に掴みかかろうと向かってきた。その時どこから現れたのか、いきなり数人の戦闘員が出てきて、美紀子と田尻の周りを取り囲んだ。その異様なスタイルに、田尻は美紀子に向かっていた動きを止めて戦闘員を見た。
「な、何だよてめえら! 俺達に何の用だよ」
「どけ! チンピラ! お前なんかに用はない。死にたくなかったらとっとと消え失せろ!」
 戦闘員の一人が田尻に掴みかかり、そのまま突き飛ばした。田尻はその反動で戦闘員の包囲の外へ飛ばされて砂浜に尻餅をついた。そして戦闘員が包囲の輪を縮め、美紀子に迫ってきた。
「この浜で起きている事がおかしいと思っていたら、お前達が関わっていたのね」
「うるさい! 我々の作戦にお前は邪魔なのだ。かかれッ!」
 美紀子は向かってくる戦闘員めがけてサンダルを投げつけ、それが戦闘員の一人の顔に命中した。戦闘員が怯んだところで、美紀子は裸足のままダッシュした。
「逃がすな。追えっ!!」
 戦闘員が一斉に美紀子を追いかけた。尻餅をついていた田尻は、その光景を呆然と見ていたが、我に帰ると自分も走って後を追った。砂浜に落ちていた美紀子のサンダルを見つけて拾ったが、後ろから肩を掴まれた。振り返ると背の高い女性の姿があった。早紀だった。
「それは私が持っていくわ。あなたは出来るだけここから早く立ち去りなさい。さもないと、あなたにとんでもない災いが降りかかるわよ」
「な、何だよ。あんた何でそんな事… 」
 田尻はそう言いかけたが、早紀の視線に威圧感を感じて思わず後退りした。田尻は早紀にサンダルを渡すと、仲間がいる場所へ向けて逃げるように走っていった。それを見届けながら、早紀は美紀子と戦闘員が走っていった後を追った。
 一方、砂浜を走り続けていた美紀子は、周囲に誰もいない事を確かめると立ち止まった。追いかけてきた戦闘員達が再び美紀子の周囲を取り囲み、攻撃の構えを見せた。
「スカーレットスパーク‐エンジェルチャージ!」
 美紀子はスカーレットエンジェルに変身して身構えた。後を追ってきた早紀は、その光景を見て驚いた。
「(あの子… 変身したわ。それにしてもあの姿は… 一体何者なんだろう。それからあの緑色ずくめの集団は… )」

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 スカーレットエンジェルと戦闘員達とで格闘戦が始まり、早紀は隠れてその様子と成り行きを見ていた。戦闘員は一人ずつスカーレットエンジェルに倒されていったが、次々と新手の戦闘員が出てきて襲ってきた。さらに怪人クラゲリーが登場した。
「スカーレットエンジェル。まさか嗅ぎ付けられるとは… しかしそれがお前の運の尽きよ。俺の手でお前を地獄へ送ってやる」
「出たわね! 化け物。運の尽きはお前の方じゃないの?」
「うるさい! それっ! かかれ」
 戦闘員が再び襲いかかってきた。さらにクラゲリーの目から破壊光線が発射され、スカーレットエンジェルの至近距離に着弾して、砂浜が爆発で噴き上がった。近くにいた戦闘員が巻き添えで吹っ飛ぶ。スカーレットエンジェルは身を竦めたり、ジャンプして攻撃を避けた。
「これじゃキリがない… 何とかしてやつに近付かないと」
 クラゲリーの頭部にある触手が伸びてきて、スカーレットエンジェルに向かってきた。たまたまその前を横切った戦闘員に刺さり、戦闘員は絶叫と供に水蒸気を上げて体が溶け、骨になった。その間隙を利用し、スカーレットエンジェルはジャンプしてクラゲリーに飛び蹴りをお見舞いした。クラゲリーは反動で砂浜を転がった。
「おのれ小娘!」
 クラゲリーは右手の鞭を伸ばしてきた。着地したばかりのスカーレットエンジェルは態勢を立て直す事が出来ず、鞭が体に巻きついた。
「焼き殺してやる」
 鞭から一万ボルトの電流が流され、スカーレットエンジェルの体中に電気が流れた。

6-10

「ぐ…・ あ・ アァーッ!」
 スカーレットエンジェルの体はある程度の攻撃に耐えることが出来、電流も五千ボルトまでなら耐えることが出来た。しかし、一万ボルトはさすがにきつかった。スカーレットエンジェルは、体に巻きついた鞭を振り解こうとしてもがいたが、電流が体中を流れる苦痛に、次第に力が抜けて目に霞がかかったような状態になってきた。このままではやられてしまう。
「どうだ小娘。苦しいか。止めを刺してやる」
 そう言ってクラゲリーは電流を流しながら、スカーレットエンジェルを自分のほうへと引っ張り、触手をスカーレットエンジェルに向けて伸ばした。その時、クラゲリーの後ろから一塊の物体が飛んできて、クラゲリーの頭を直撃し、クラゲリーは絞め付けていた鞭を緩めた。
「おのれぇ… 誰だぁ」
「今だ!」
 スカーレットエンジェルは鞭を振り解き、ジャンプして空中で一回転し、クラゲリーめがけて急降下した。
「エンジェルキック!」
 クラゲリーはキックが炸裂する瞬間に素早く避けてジャンプすると、スカーレットエンジェルと距離をおいて着地した。
「スカーレットエンジェル! 勝負は預けてやる。今度会った時には必ずお前を殺す」
 クラゲリーはそう言ってその場で消えた。
 誰もいなくなった砂浜に一人で立っていたスカーレットエンジェルは、何かが引っかかる思いで周りを見まわした。確かにこのままだったら自分がやられていたのだが、誰かが助けてくれのだ。
 スカーレットエンジェルを助けたのは早紀だった。早紀はスカーレットエンジェルのピンチを見て、自分の武器である鉄製のヨーヨーを、クラゲリーめがけて投げたのだ。早紀はずっと隠れていたのだが、スカーレットエンジェルに気付かれないように、密かにその場から立ち去った。
「私を助けてくれたのは誰だろう」
 そう思いながらスカーレットエンジェルは砂浜を歩いていたが、その前に自分が履いていたサンダルが置いてあるのを見つけた。
「一体誰が・・」
 スカーレットエンジェルは考えたが、このままでは宿に残してきた詩織が心配だったので、とにかく宿へ戻ることにして、変身を解いた。そして置いてあったサンダルを履くと、砂浜から道路へ上がり、宿へ向かって歩いた。その姿を早紀は、気付かれないように隠れて見ていた。
「あの子… 少なくとも悪人ではないわね。でも、正体を確かめてあの子の事を知る必要がある」
 美紀子の姿が見えなくなったのを確かめると、早紀も自分が泊まっているホテルに戻るため、歩き始めた。

        *     *     *     *

「美紀子。帰ってくるの待ってたのよ。一体どこ行ってたの? 大変よ! 大ニュースよ」
 美紀子が宿に戻るなり、詩織が血相を変えて駆け込んできた。
「詩織、大ニュースって一体何? 私の方もやつらが襲ってきたのよ」
「ええっ!? それじゃ… 」
 詩織が言いかけたのを美紀子が遮った。
「ちょっと待って詩織。ここじゃまずいわ。部屋へ行くわよ」
 玄関で騒いではまずいので、美紀子と詩織は自分達の部屋で話すことにした。部屋に入ると、美紀子は廊下を見渡し、戸を閉めてから詩織と向かい合って座った。
「詩織。あまり大きな声を出さないでね」
「分かったわ… それで美紀子、一体何があったの? やつらに襲われたって言ってたけど」
「砂浜を散歩していたら、戦闘員と電気クラゲの化け物が襲ってきたの。恐らくこの土地で何かをやろうとしているのは確かだわ。それで、詩織の方は何なの?」
「あたし、美紀子が出かけていった後で、漁港の方へ行ってみたのよ。ま… 実を言うと、お土産に何かいい物があるかと思って探しに行ったんだけど、そしたらここ1ヶ月くらい殆ど漁に出られないっていう話を聞いたのよ」
 そう言って詩織は宿から借りてきた地図を座卓の上に広げた。そして詩織は地図上の一点を指さした。そこには海神島という小島があった。
「この島の周辺はこの地域の漁場になっているのよ。ところがここ半月の間に、この島の周辺で原因不明の漁船爆発事故が相次いで起きていて、調査に来た巡視船まで爆発したっていうのよ。それで誰もここに近付かなくなって、みんな怖くて漁に出られないって言ってたのよ」
「クラゲ事件と何か関係がありそうね」
「どういう事?」
「この宿の人の話だと、クラゲが大量発生したのも半月くらい前からだそうよ。それにクラゲが発生するのは、天気が良くて海水浴場に人が沢山集まる日に限られているんだって。遊泳禁止の日や、雨の日は絶対に発生していないって」
「美紀子何それ!?」
「詩織と私の話を合わせると、こういう事だと思う。クイーンリリーがこの場所で何らかの作戦をやっていて、その基地が海神島か、もしくは海神島の近くの海底にあるんだわ。それで周囲に誰も近付けないように、クラゲを意図的に大量発生させたり、漁船の爆発騒ぎを起こしたんだと思う」
「そういう事か… それじゃあたし達をつけ回しているやつとの関係は?」
「それはまだ分からないわ。でも、私がピンチになったとき、私のことを助けてくれたのよ。だから、私達を狙っているわけではないと思うんだけど」
「そうか… 美紀子。これじゃ休養どころじゃないね。これからどうする?」
「どうするもこうするもないわ。明日の朝になったら本格的に海神島を調べてみよう」
「そうだね。あたし、伯父さんに電話する」
 詩織は部屋を出ると、フロントへ走った。

        *     *     *     *

 翌朝になり、美紀子と詩織は朝食もそこそこに済ませ、宿を飛び出した。行き先は昨日詩織が行った漁港の隣にあるシーサイドハーバーである。そこにはモーターボートやヨットが係留されていたので、二人は誰かにお願いして海神島へ行くつもりだったのだ。
 しかし、ハーバーへ行ってみると、誰も二人の話に耳を貸してくれる人はいなかった。勿論クイーンリリーのことなど信じてくれる筈がないし、美紀子がスカーレットエンジェルであることを言うわけにもいかない。美紀子と詩織はついに諦めて、ハーバーの桟橋で休んだ。
「あ~ぁ… 誰も協力なんかしてくれるわけないよね。よく考えたら、海神島は事件の発生地だったんだ」
「詩織。諦めちゃダメだよ。いざという時は、私のテレポートで… 」
 美紀子がそういった時、急に美紀子は強い気配を感じて、その方向を向いた。それは今まで自分達を見張っていた人物の気配だった。美紀子が向いた方向に背の高い女性が立っていた。早紀である。
「あなたは誰!?」
「どうしたの美紀子… あっ!」

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 詩織も早紀の姿を見て立ちすくんだ。早紀は近付いてきてサングラスを外すと、美紀子に向かって話しかけてきた。
「あなたの事がずっと気になってたんだけど。私の気配を感じるなんて、あなた… ただ者ではないわね。それにあなたは一体何者なの? 私は見たのよ。あなたが別の何かに変身し、得体の知れない連中と戦うところを」
 美紀子はスカーレットエンジェルに変身したところを見られたという事で、多少動揺したが、すぐに早紀に向かって言い返した。
「あなたこそ何者? 私達をずっとつけ回したりして。私の事を知りたかったら、まず自分の方から名乗りなさいよ!」
「それもそうね… 確かにあなたの言う通りだわ。私は東京の世田谷で探偵事務所をやっている私立探偵で、亘理早紀っていうの。よろしくね」
 そう言って早紀は美紀子に名刺を差し出し、話を続けた。
「私はある筋からの依頼で、この辺りで起きている事件を調べていたの。今度はあなたに質問よ。まずあの得体の知れない連中の事で、知ってることがあったら私に聞かせてほしいんだけど」
「分かったわ。私の話を信じる信じないは、あなたの勝手だけど、やつらはクイーンリリーという宇宙の魔女の手下よ。クイーンリリーはこの世界を、いや地球を征服するために、宇宙からやってきたの。私はそのクイーンリリーを倒すために、クイーンリリーを追って地球に来た宇宙戦士。スカーレットエンジェル。そして、私の地球での名は紅林美紀子」
「え? スカーレットエンジェル? あなたは宇宙人なの? それに紅林美紀子って… 私は紅林源太郎という人を知ってるんだけど、あなたとの関係は?」
「あなたは源太郎さんを知ってるんですか? 私は紅林源太郎という人と養子縁組みをしたんです。宇宙人の私が地球で暮らすには何かと不便だからって言って、源太郎さんが私の親代りなってくれているんです」
「それで紅林美紀子なのね。そうだったの… 私は紅林源太郎の部下だったことがあるのよ」
 それを聞いて詩織が口を挟んだ。
「え? 伯父さんの? それじゃあなたはもしかして、伯父さんがアメリカで探偵事務所をやっていたときの助手だったんですか?」
「まあ、そういう事になるかな…」
 早紀は自分が源太郎の部下だったと、思わず口を滑らせてしまい、『しまった』と思ったが、詩織のおかげで何とかごまかすことが出来てホッとした。
「私は松島詩織。紅林源太郎の姪です。よろしく」
「こちらこそ」
 今度は美紀子が早紀に話しかけた。
「もしかして早紀さんもここでの事件を調べていたんですか?」
「そうよ。美紀子・・・ っていったわね。あなたの言ったことは一応信じるわ。あの変な連中と、あなたが変身した姿を見たら、信じないわけにはいかないからね。あなた達もあの海神島が怪しいと思って、ここから船で行くつもりだったんだろうけど、誰も怖がって協力なんかしてくれないわよ。あなた達だって、事件のことは知ってるでしょ?」
「じゃ、どうすればいいんですか!?」
「私に任せなさい。私はこれでも小型船舶の免許持ってるのよ。一隻拝借して島へ渡るのよ」
「それはまずいわ。だって他人の船を無断で使うんでしょ?」
「でも他に方法が無いじゃないの」
「あります」
「えっ?」
「私にはテレポート能力があります。テレポートなら、船で危険を冒して島に近付くより、直接敵の懐に入りこむことが出来るわ」
「なるほど… それであなたはあの化け物に勝つ自身はあるの? 昨日随分とやられていたけど」
「はい。やつの力は昨日戦って分かりました」
「分かったわ… これはどうやらあなたが私に協力するんじゃなくて、私があなたに協力する立場のようね。それじゃちょっと来て。見せたい物があるの」
 早紀は自分の車が置いてある場所まで美紀子と詩織を連れてきた。そしてトランクを開け、中から奇怪な物体を出して地面に置き、二人に見せた。
「これは???」
「あなた達は身近で見るのは初めてだと思うけど、海水浴場に大量発生したクラゲの正体よ」
 その物体はクラゲの形をしていて、かさの直径が約20cmあり、金属で出来ていた。
「これはクラゲに見せかけた機雷よ」
「機雷?」
「そう。これには火薬は入っていないから、爆発する心配は無いわ。やつらはこれを海に浮かべて流し、この海域の沖を通過する船舶の爆破を企んでいるに違いないわ。この海域の沖には貨物船やタンカー、そしてフェリーの航路があるのよ」
「それじゃ海水浴場で大量に発生したのは何のために… 」
「恐らく、作戦の秘密を守るために人を近づけたくなかったのよ。海神島の周辺での謎の漁船爆発事故は、きっとこの機雷でやられたんだわ」
「そうか… それで変な事件が続いたのね。これで二つの事件の関係が繋がったわ。美紀子! やつらが機雷をばらまく前に、全部爆破してしまわないと」
 美紀子は詩織の言葉に頷いた。
「詩織。早紀さん。下がって。変身するから」
 美紀子はそう言うとポーズをとった。
「スカーレットスパーク‐エンジェルチャージ!」
 美紀子の身体が眩しい光に包まれ、光の渦が消えると同時にスカーレットエンジェルに変身した。同時にスティックを出すと、テレポートの態勢をとったが、早紀が駆け寄ってきて制した。
「待って! スカーレットエンジェル。私も行くわ」
「えっ? でも… 」
「このクラゲ機雷を分析して、大体の構造が分かっているのよ。君があの化け物と戦っている間に、私が機雷を何とかするわ」
 美紀子は早紀の目を見て頷くと、詩織の方を向いて言った。
「詩織はここに残って。連絡係をお願い。源太郎さんが来るんでしょ?」
「分かったスカーレットエンジェル。気をつけて! 早紀さんも」
 早紀は詩織に向かって右手を上げて応えた。スカーレットエンジェルは早紀の手を握ると、スティック空にかざした。
「テレポートフォーメーション!」
 スカーレットエンジェルと早紀の姿が瞬時にその場から消えた。同時に、2人は海神島の頂上にある、海神様の祠の所に姿を現した。
「スカーレットエンジェル。見て!」
 早紀が指さした先には船着場があり、二人の戦闘員が見張に立っていた。
「この島のどこかにアジトへの入り口があるのね」
 早紀は持ってきたリュックから煙幕弾を取り出すと、火をつけて放り投げた。黒い煙が立ちこめ、異変に気付いた戦闘員がスカーレットエンジェルと早紀のいる所へ近付いてきた。
「しめた… 二人ともやってくる」
 戦闘員がそばに来ると同時に、スカーレットエンジェルと早紀は同時に飛びかかって、二人とも倒した。
「早紀さんってなかなかやりますね」
「伊達に探偵はやってないわよ。さ、行くわよ」
 二人は船着場に下りると、テレビカメラを見つけたので、カメラの死角に隠れた。
「ここに入り口があるんだわ。でもどこから… 」
 二人に見えているのは岩だけで、入り口はどこにも見当たらない。
「巧妙にカモフラージュされているようね。よし! 私に任せて」
 早紀はそう言うとワザとテレビカメラの正面に立ち、カメラに向かって舌を出した。
「さ、早紀さん… 」
「こうすれば中にいる連中が出てくるわ。そうすれば入り口が開くじゃないの」
 スカーレットエンジェルは、早紀の大胆な行動に呆気にとられていたが、早紀は平然としていた。案の定、司令室でモニターを見ていた戦闘員は、モニターに映った早紀の姿を見て騒ぎ出した。
「何だこいつは!? どこから来たんだ」
「何者だ一体… ええい! ひっ捕えろ!」
「ヒャイィーッ!」
 戦闘員の一隊が、アジトの司令室を出ていった。一方、作戦室ではクラゲリーが戦闘員を集め、作戦発令の段取りをしていたが、司令室での騒ぎはまだ伝わっていなかった。カモフラージュされていた岩がゆっくりと動き、出入口が開いて戦闘員が飛び出してきた。が、誰もいないので、右往左往した。
「ん… 誰もいないぞ」
「どこへ行ったんだ」
「ここよ!」
 スカーレットエンジェルの声に、戦闘員が一斉に振向いた。
「エンジェルフラッシュ!」
 スカーレットエンジェルの胸のブローチが強烈に発光し、戦闘員達は眩しさに目が眩んだ。その隙をついてスカーレットエンジェルはエンジェルスマッシュを連射して、戦闘員を倒した。
「早紀さん。行こう!」
「あんたもなかなかやるじゃない」
 スカーレットエンジェルと早紀は開いた出入口から進入し、地下通路を下っていった。途中で何度かテレビカメラがある場所を通ったが、その度に死角に入って凌いでいった。そしてついに地下通路からアジトの内部に侵入し、曲がり角で一旦止まった。
「機雷の倉庫はどこかしら… 」
「早紀さん静かに… 」
 反対側から戦闘員が来た。戦闘員が曲がり角に来たところで、スカーレットエンジェルは戦闘員に飛びつき、組み伏せて締め上げた。
「言いなさい! 機雷の倉庫はどこ!?」
「ぐ…・ く、苦しい… 」
「だったら言え!」
「こ、この先の弾薬庫の中… 」
「ご協力有難うございます!」
 スカーレットエンジェルはそう言って、戦闘員の後頭部を殴って気絶させると、早紀を促してさらに先へ進んだ。
「ここだわ」
 入り口にドクロのマークが描かれ、その下に『危険』という文字が書かれている。スカーレットエンジェルは扉を開けて室内を見た。すると先ほど見たクラゲ型の機雷が、所狭しとばかりに並べてある。数からしてざっと200個はありそうだ。早紀はその中の一つを手に取り、器用に分解した。中には大量の火薬が詰まっている。
「この部屋の中にあるやつを爆破しただけでも、きっとこのアジト全体が吹っ飛んでしまうわ。スカーレットエンジェル。ここは私に任せて。君はあの化け物を頼むわ」
「分かりました」
 早紀はリュックの中から色々な道具を取り出し、分解した機雷の細工を始めた。スカーレットエンジェルはそれを見ながら部屋を出て扉を閉めた。
「さて… あのクラゲの化け物はどこにいるんだろう… 」

        *     *     *     *

 クラゲリーは作戦室で機雷作戦の段取りと説明をしていた。
「いよいよクラゲ作戦を開始する時が来た。この基地で作り上げたクラゲ型機雷を使い、この沖を通る船という船を片っ端から撃沈し、海に油を流すのだ。油はどこまでも流れ、沿岸に達したところで火をつければ、たちまち火の海になる。石油コンビナートや工業地帯まで燃え広がれば、大混乱になるだろう。その隙に我々は東京都の中心部を占領し、クイーンリリー様をお迎えするのだ。者ども! 直ちに作戦開始だ。弾薬庫にある機雷を運び出し、発射台に装填して海中に放出せよ!」
「ヒャイィーッ」
 戦闘員が一斉に奇声を上げ、作戦室から出ようとした時、急に扉が開いて戦闘員が飛びこんできた。
「た、大変ですクラゲリー様! スカーレットエンジェルが殴り込んできました」
「何だと!?」
 スカーレットエンジェルは作戦室の外で戦闘員と格闘していた。戦闘員は次々と倒され、ついにスカーレットエンジェルが作戦室内に飛び込んできた。
「やい! 電気クラゲの化け物。お前の作戦は失敗よ! スカーレットエンジェルがいる限り、お前達なんかに勝手な真似はさせないわ!!」
「ええいっ! 邪魔されてたまるか! かかれえっ」
「ヒャイィーッ!」
 戦闘員が一斉に襲いかかってきて、スカーレットエンジェルと格闘戦になった。クラゲリーは苛立ちながら戦闘員を煽った。
「ええい早く片づけろ! そんな小娘一人に何をしているのだ」
 クラゲリーが右手の鞭を伸ばし、スカーレットエンジェルめがけて飛ばしてきた。が、鞭は手前にいた戦闘員に巻きつき、戦闘員は絶叫とともに黒焦げの死体になった。戦闘員があらかた倒されたところへ、早紀がやってきた。
「スカーレットエンジェル! 準備完了よ」
「分かった!」
 スカーレットエンジェルは作戦室を出ると、早紀と供に出入口に向かって走った。
「逃がすな!」
 そのあとからクラゲリーと戦闘員達が追ってきた。スカーレットエンジェルと早紀が出入口から外へ出ると同時に、早紀が細工した機雷が爆発し、弾薬庫内が瞬く間に炎に包まれた。
「大変です! 弾薬庫が燃えています」
 戦闘員の報告に、クラゲリーは慌てふためいた。
「脱出だ! アジトが木っ端微塵に吹っ飛んでしまうぞ」
 一方、脱出したスカーレットエンジェルと早紀は急いで島の頂上に登り、そこでスカーレットエンジェルはスティックを出して空に掲げた。
「テレポートフォーメーション!」
 二人の姿は瞬時にその場から消え、同時に海水浴場の仕切になっている防波堤の上に姿を現した。それと時を同じくして、海底基地が大爆発し、その反動で海面が大きく盛り上がった。
「やったぁ!」
「やつらの作戦もこれで終わりね」
 早紀はスカーレットエンジェルに向かって右手を差し出した。スカーレットエンジェルはそれに応えるように、早紀と握手した。
 その時海面からクラゲリーが飛び出し、空中で一回転して二人のそばに降り立った。
「よくも我が機雷作戦を台無しにしたな。殺してやる」
「早紀さん逃げて!」
 早紀を逃がし、スカーレットエンジェルはブレードを構えてクラゲリーと対面する格好になった。今いる場所は幅2mくらいの防波堤の上で、両側は海であり、横の動きは制約される。
「こい化け物! 真紅の戦士、スカーレットエンジェルが相手よ!」
「何を小癪な! クラゲ鞭を食らえ!」
 クラゲリーの右手の電気鞭が、唸りを上げて飛んできた。これに巻きつかれれば、一万ボルトの電撃を食ってしまう。スカーレットエンジェルは小さくジャンプして鞭を避けた。鞭が防波堤のコンクリートにあたり、激しい火花が散った。
「破壊光線!」
 クラゲリーの目から破壊光線が発射され、スカーレットエンジェルはバック転でかわした。コンクリートの上で爆発が起きる。さらに続けて破壊光線が放たれた。
「エンジェルシールド!」
 シールドが張られ、スカーレットエンジェルの前で破壊光線が破裂する。
「ええい! 小癪な小娘め! 電気鞭連続攻撃!」
 クラゲリーは鞭をブンブンと振り回し、スカーレットエンジェルに向けて飛ばしてきた。
「これじゃ避けるのが精一杯だわ。それにやつは猛毒の触手があるから、接近戦はこっちが不利だ… あの鞭を何とかしないと… 」
 スカーレットエンジェルはクラゲリーの攻撃をかわし続けたが、幅の狭い防波堤の上では動きもままならない。このままでは鞭に捕まってしまうだろう。巻きつけられたら最後。一万ボルトの電撃を食ってしまう。そこへ、逃げていた筈の早紀が戻ってきて、自分の武器であるヨーヨーを取り出すと、クラゲリーめがけて投げつけた。早紀の体はスカーレットエンジェルの陰になっていてクラゲリーからは見えず、クラゲリーは不意をつかれた格好になり、早紀の投げたヨーヨーが目を直撃した。
「グァーッ!」
 クラゲリーは目を潰され、そこから火花を噴き出した。
「スカーレットエンジェル。今よ!」
「ありがとう早紀さん! さあ行くわよ化け物」
 スカーレットエンジェルはブレードを収納すると、クラゲリーめがけて高くジャンプし、空中で一回転してクラゲリーめがけて急降下した。
「エンジェルキック!!」
「グァーッ!!」
 エンジェルキックが炸裂し、クラゲリーはその反動で絶叫と供に海へ落ちた。右手の鞭が体に巻き付いて電流が流れ出し、クラゲリーは自分の武器で感電して、絶叫と供に大爆発して木っ端微塵に吹っ飛んだ。
「やったぁスカーレットエンジェル!」
 早紀が歓喜の声をあげ、スカーレットエンジェルのそばへ駆け寄った。
「君って本当に宇宙戦士だったんだ。すごいじゃないの」
「とんでもない。早紀さんの援護があったから勝てたんです。早紀さん有難う。でも、私にはあまり関わらない方がいいですよ。私といると、あの連中に狙われることになります」
「構わないわよ。もう関わってしまっているんだもの。あ・・ そうそう。事件が解決したんで私帰るから、源太郎さんが来たら私がよろしくって言ってたって伝えておいて」
「源太郎さんとは会わないんですか?」
「ええ。ちょっと今は会うわけにいかないのよ。理由は聞かないでね。それじゃ」
 早紀はそう言うと、小走りにスカーレットエンジェルの元を去っていった。スカーレットエンジェルは遠ざかっていく早紀の後ろ姿を見ながら変身を解いた。
 防波堤から道路へ出てきた時、車が走ってきて美紀子の横に止まった。そして源太郎と詩織が降りてきた。
「美紀子。やつらはどうしたんだ。化け物は?」
「早紀さんが協力してくれて、やつらの野望はすべて粉砕し、化け物も倒したわ」
「それで、早紀さんは?」
「帰ったわ。源太郎さんによろしく伝えてくれって言って」
「そうか… 早紀が来ていたとはな… それよりお前達。とんだ休養になっちまったな。まさかこんな所で事件に巻き込まれるとは災難だったろう?」
「そうよ! クラゲのおかげでろくに泳げなかったんだから」
「詩織。もう大丈夫よ。事件は終わったんだから」
「あっ! そうか。もうクラゲのこと心配しなくていいんだ。ねえ美紀子。泳ぎにいこうよ」
「そうだね」
 美紀子は返事をしながら源太郎の方を見て、源太郎に言った。
「源太郎さんも行きますか?」
「ダメダメ。俺は仕事があるから帰る。お前達はゆっくり楽しんでから帰ってこい」
「分かった。それじゃ気をつけて」
 源太郎は車に乗ると、車を発進させて一足先に帰っていった。
「詩織。泳ぐのはいいけど、まず宿に戻らないと」
「そうだった。水着は宿の部屋に干したままだ。それにチェックアウトもまだよ」
 詩織は時計を見て、付け加えるように言った。
「まだお昼前だわ。午後から3時間ぐらい海に入れるよ。行こう美紀子」
「うん」
6-12

        *      *      *      *

 クイーンリリーの作戦は、またもスカーレットエンジェルによって阻止され、街には一時的であるが平和が戻った。しかし、クイーンリリーは再びスカーレットエンジェルに対して牙をむいてくるのだ。そしてクイーンリリーの組織編成は着々と進み、永久要塞の完成も近い。負けるなスカーレットエンジェル! クイーンリリーの野望を粉砕するのだ。

  (つづく)


 次回予告

 ☆ 第7話 宇宙戦士は女子高生 ☆

 9月になり、学校が始まって、美紀子の聖陵学園高校二年生としての学園生活がスタートする。そこで以前知り合ったテニス部の鹿妻明美と会い、美紀子はテニス部に勧誘される。そんな時、クイーンリリーの差し向けた刺客マンティスリーが襲いかかってきて、明美と結花が人質にされてしまう。

 次回。宇宙美少女戦士スカーレットエンジェル。宇宙戦士は女子高生にご期待ください。

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テーマ : ライトノベル
ジャンル : 小説・文学

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