鷲尾飛鳥

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第9話『動く影の恐怖』

2011年 10月15日 15:52 (土)

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 県高校テニス大会の新人戦が始まり、聖陵学園高校女子テニス部も勇躍県大会に出場した。コーチになった美紀子の猛特訓のおかげで、団体戦一組(ダブルス)が見事に決勝に進出。敗れて準優勝となったものの、県二位校として関東大会への出場権を獲得した。一方、個人戦では明美が準決勝まで勝ち進んだが、顧問の祥子と部員達、美紀子や詩織の声援も空しく、あと一歩のところで敗れてしまった。全ての試合が終わって簡単なミーティングの後、学校へ戻ることになっていたのだが、学校へ戻る時になって、部員の一人が明美がいないことに気付いた。
「キャプテンがいないんですけど… 」
「みんな捜して」
 顧問の祥子の一声で部員達が一斉に散った。美紀子と詩織も圭子を伴って明美を捜した。
「鹿妻のやつ… 負けたことがよっぽどショックだったんだね?」
「無理も無いよ。一応優勝候補だったんだし」
「あ! 美紀子、圭子、あそこ」
 詩織が広場の隅にある、並木の木陰にいる明美を見つけて指さした。

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「明美。こんな所にいたの? みんな捜してたんだよ」
 明美は泣いていたらしく、目が真っ赤になっていた。美紀子は無言で明美のそばに歩み寄り、右手を差し出した。
「さあ。行こう。みんなが待ってるよ」

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 明美は美紀子の手をつかんで立ち上がると、美紀子に抱きついて大泣きした。
「悔しい・・・  悔しいよぉ」
「もう泣かないで明美。本当に良くやったよ。試合見てたけど、すごいハイレベルなプレーしてたじゃないの。あれだけやれたら悔いなんか無いはずよ。それにこの大会で全てが終わりじゃないのよ。まだ夏の大会やインターハイがあるんだから」
「美紀子… ごめん… せっかくコーチしてもらったのに」
「何言ってんのよ。二週間後には関東大会が始まるんだから。キャプテンのあなたがそれじゃ、部員達に示しがつかないよ。さ! 行こう」
 美紀子に宥められ、明美は気を取り直して歩き出した。
 学校へ戻って部員達に別れを告げたあと、美紀子は詩織と一緒に帰宅した。すると、結花と誠人が出迎え、結花は美紀子に飛びついて来た。

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「ちょっと… どうしたの結花ちゃん。いきなり抱きついてきて… 」
「お姉様ありがとう。私嬉しい! すごく嬉しい」
「うれしいって… 何でもいいから離れてよ。それにお姉様って一体何なのよ」
 抱きついている結花の後ろから、誠人が美紀子に話しかけた。
「姉ちゃん、新人戦の県大会でベスト8までいったんだ。美紀子姉さんがコーチしてくれたおかげだって、すっごく喜んでんだよ」
「そうだったの。結花ちゃんおめでとう」
「ありがとうお姉様。これからもコーチお願い」
 美紀子に抱き付いてはしゃいでいる結花を見ながら、詩織は事務所の方へ行った。源太郎は出張から帰ってきていて、書類の整理をしていた。
「伯父さんお帰りなさい」
「おう! 詩織か。ようやく終わったよ。今回は大変な仕事だった… それより、やつらの動きはどうなんだ?」
「今の所これといった動きはないわ。それより、書類の整理だったら手伝うわよ」
「ああ頼む。来週また出張なんだ。それまでに片づけなきゃならないんだよ」

        *      *      *      *


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「カメレオリー! 作戦を伝える」
「ははーッ! クイーンリリー様。何なりとどうぞ」
 新設されたアジトでは、新たに作り出されて赴任したカメレオリーに対し、クイーンリリーの指令が伝えられていたところだった。
「私は、スカーレットエンジェルの強さの秘密が、やつの周りにいる連中の強い絆と協力によるものだと判断した。そこで、お前はその絆を引き裂いて、スカーレットエンジェルを孤立させるのだ。どんな手段を使っても良い。スカーレットエンジェルの周りにいるやつらを、スカーレットエンジェルから引き離すのだ」
「かしこまりました。クイーンリリー様」
 通信が終わり、カメレオリーは指令室内にいた戦闘員たちの方へ向き直った。
「カカカカーッ! スカーレットエンジェルの近隣にいるやつらを調べるのだ。すぐに行動に移れ」
「ヒャイィーッ!」

        *      *      *      *

 新人戦が終わり、二週間後に始まる関東大会を控えて、聖陵学園のテニス部は再び忙しくなった。が、出場選手として残っているのはダブルスで出場する二人(そのうち一人は圭子)だけで、個人戦で敗退した明美は暫しの休息となった。他の競技の大会も一通り終わり、美紀子たち二年生は修学旅行のため、三泊四日の日程で京都へと旅立っていった。そして源太郎も再び出張のため、今度は北海道へと向かった。
 美紀子と詩織、源太郎が鷲尾平を離れている間、鷲尾平では恐ろしいことが起きようとしていた。
「スカーレットエンジェル… いや、紅林美紀子の交友関係は分かったか?」
「ヒャイィーッ! これが資料です」
 アジトではカメレオリーが、戦闘員の持ってきたデータを見ていた。そして真っ先に詩織と古川姉弟の写真と資料に目をつけた。
「この者達が紅林美紀子の最も近くにいるやつらか」
「ヒャイーッ! そうです。しかし紅林美紀子と源太郎、そして松島詩織の姿は、現在見当たりません。どうやら 鷲尾平を離れているようです」
「いないだと? どこへ行ったのかは分からないのか」
「はっ」
「ふーむ… 紅林美紀子と、その連れの松島詩織・・ そして源太郎がいないとなると、これはチャンスかもしれん。それではまずこの古川姉弟を先にやるか… 今に見ていろスカーレットエンジェル! お前の仲間たちを全て引き離し、お前に孤立無援のつらさをたっぷりと教えてやる」
 それから数時間後、カメレオリーの姿は鷲尾平市立坂崎中学校の屋上にあった。既に授業が終わって放課後になっており、校庭では部活をやっている生徒たちの声が響いていた。カメレオリーは校庭を見まわし、テニスコートで練習している結花を見つけた。
「いたぞ… あいつが古川結花だな。よーし」
 その時屋上の出入り口の扉が開いて、応援部の生徒たちがゾロゾロと屋上に上がってきて、最後に顧問の教師がやってきた。カメレオリーは素早く屋上のコンクリートの床と同化し、身を潜めた。一番先に屋上に上がった生徒が、不思議そうに屋上全体を見まわした。
「おい! 富沢。何してんだよ。早く準備しろ」
「あ… わりぃわりぃ」
「どうしたんだ一体? ボケッとして… 」
「いや… 誰か居たような気がしたんだ」
「気のせいだよ。誰もいねえじゃん」
 屋上では応援部の生徒たちが整列し、練習を始めるところだった。カメレオリーは床と同化したまま移動し、校舎の壁を伝って校庭に下りると、テニスコートの脇で休憩していた結花の影の中に入りこんだ。
 部活が終わり、下校時刻になって、結花は部員達と一緒に着替えると、いつものように学校のそばで友達の麻衣と別れて家路についた。既に日没近くになり、道路脇の街灯が灯っていた。歩いていた結花の周りで急に無気味な声が聞こえ、結花はビックリしてその場に立ち止まった。辺りを見まわしてみたが誰もいない。再び歩き出そうとした時、今度は結花の足元から声が聞こえてきた。驚いて自分の足元を見た結花は、街灯に照らされた自分の影が、醜い怪物の姿になっているのを見て、思わず口を手で覆った。影は実体化してカメレオリーの姿になり、恐怖のあまりに動けない結花の前に立つと、結花に擦り寄ってきて結花の頬や胸を触った。
「や… やめて… 嫌… 助けて… 触らないでぇ」
「大人しく俺の言う事を聞けば何もしない」
「ど、ど、どうすればいいの?」
「紅林美紀子に絶対に近付くな」
「え? お姉様に?」
「そうだ。もし言う通りにしなければお前を殺す。俺は何時でもお前のことを見張っているのだ。お前の弟にも伝えろ。いいな? もし俺の事を誰かに言ったら、お前の弟は勿論、家族全員皆殺しだぞ」
「わ、分かりました。分かりましたから… お願い殺さないでぇ」
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 結花は怪物に対する恐怖と、自分の身体を触られるおぞましさに、既にパニック状態になっていたので、思わず返事をしてしまった。カメレオリーはその言葉を聞くと、道路の舗装と同化して姿を消した。結花は言い知れない恐怖に、その場から一目散に駆け出し、家に飛びこんだ。
「お帰り結花」
 母親の恵美が声をかけたが、結花は返事もせずに階段を駆け上ると、自分の部屋に飛び込んで布団の中に潜り込んだ。
「何なのよ… 結花のやつ。誠人、結花に何かあったか分かる?」
 恵美は居間でテレビを見ている誠人に話しかけた。
「知らないよ」
 そうは言ったが、誠人は結花の様子がいつもと違うと感じて、テレビを消すと二階へ上がっていき、結花の部屋をノックした。
「姉ちゃん。姉ちゃん。どうしたんだ?」
 返事が無いので、誠人は部屋の扉を開けて入った。
「姉ちゃん入るぞ」
 結花は布団の中にくるまっていて、その中から嗚咽が聞こえてきた。
「どうしたんだ一体? 姉ちゃん。何があったんだ」
 誠人がベッドに近付くと、布団の中から手が手で来て、誠人の腕をつかんだ。
「姉ちゃん何すんだよ。離せよ」
 結花は誠人を引き寄せると、布団の中から顔を出して言った。
「誠人。美紀子姉さんに絶対に近付かないようにして」
「え? 美紀子姉さんに近付くなって? 一体どういう意味だよ。何訳の分かんねえ事言ってんだよ。理由を言えよ」
「理由なんかどうでもいいから、とにかく絶対に美紀子さんに近付かないで。お願いよ。分かったら早く出ていって。出てけったら!」
 結花はそう言いながら半狂乱になって泣き出した。同時に窓の外に黒い影が現れ、実体化して部屋の中に入ってきてカメレオリーの姿になった。誠人は毅然とカメレオリーを睨みながら言った。
「お前はクイーンリリーのエージェント!」
「その通り。変幻自在のカメレオリーよ。紅林美紀子に絶対に近付くな。さもないとそこにいるお前の姉と一緒に、お前を殺すぞ」
 そう言いながらカメレオリーは布団を剥ぎ取った。ベッドで蹲っている結花の姿があらわになる。
「嫌―ッ!」
「やめろ! 言う通りにするよ」
 誠人は表面上は毅然としていたが、足腰はガクガクと震えていた。
「ふふふ… お前は物分りがよさそうだな。いいか? 逆らえば命はないぞ」
 そう言ってカメレオリーは影の姿になり、部屋の外へ出てそのまま消えた。
「畜生! 怪物のやつ・・ 」
 誠人は美紀子と詩織に連絡したかったが、二人とも修学旅行で留守だったのを思い出した。それに自分を含めた家族の命がかかっているので、迂闊なことは出来なかった。
「(こりゃえらい事になっぞ。下手なことをすれば、俺だけじゃなくて、姉ちゃんや母さんまで巻き込んじまう… 美紀子姉さんと詩織姉ちゃんがこの事に気付くように、何とかしなきゃ)」

        *      *      *      *

 修学旅行が終わり、鷲尾平に戻ってきた美紀子と詩織は、お土産を持って結花と誠人の家に行った。
「二人とも喜ぶよ。きっと… 」
「そうだね」
 美紀子と詩織はそんな会話をしながら、結花と誠人の家に行ったのだが、二人とも玄関先で応対した恵美に、突拍子もない事を言われた。
「ごめんなさいネ二人とも。結花も誠人もあなた達に会いたくないって言ってるの」
「ど、どういう事なの伯母さん」
「お土産だけは受け取ってあげるけど、今日のところは帰ってくれないかしら?」
「そんな事言われたって… 事情が分からないのに納得出来ないよ! 結花と誠人に会わせてよ」
「待って詩織」
 詩織が詰め寄ろうとしたのを美紀子が止めた。
「分かりました。今日のところは私達帰ります」
 そう言って美紀子は詩織の方を向いた。
「詩織。行こう」
「あ… う、うん(一体何だってのよ…)」
 美紀子と詩織は玄関に背を向けると、門の外に出た。詩織は家の方を向きながらブツブツ言っていた。その時、上の方から石のようなものが飛んできて、美紀子の足元に落ちてきた。よく見ると、それは丸められた紙だった。美紀子がふと古川家の方を見た時、二階の窓から誠人が美紀子の方を見ていた。
「どうしたの美紀子」
「あ・・ 何でもないよ」
 美紀子は足元にある丸まった紙を素早く拾い、ポケットの中に入れた。手で握った時、丸まった紙の中に堅くて重い感触が感じられた。
「(これは誠人君が投げたに違いない。きっと私達に何か知らせようとしているんだわ)」
 美紀子と詩織は無言のまま、紅林探偵事務所に戻った。源太郎が出かけていて留守のため、詩織はいつものように事務所に泊まり込んで美紀子と一緒にいたのである。美紀子は、自分の部屋に入ると、さっき拾った紙切れを広げてみた。
「これは… 」
 紙には誠人の字で『俺達は危険だ。化け物に脅されている。美紀子姉さんに近付くと、俺や姉ちゃん、母さんや父さんまで殺される』と書かれていた。
「クイーンリリーのやつ… 私と一緒にいる人達を、私から引き離そうとしているに違いない。すると、学校の友達も同じように… 」
「美紀子―。お風呂沸いてるよ。あたし事務所で電話番してるから先に入っちゃって」
「分かったー」
 下から詩織の声がしたので、美紀子は返事をすると、紙切れを机の上において下へ下りていった。そして美紀子は湯船の中で、今日のことを色々と考えて対策を練っていた。
「(やつらは私や詩織と、その周りにいる人達とを引き離して、私達を孤立させようとしているんだわ。だとすると、学校の友達も動じようにやつらに脅されるに違いない… 私達が行動を起こせば、みんなが危ない目に遭わされてしまう。どうすれば… )」
 そう考えこんでいるうちに、時間だけが経過し、詩織が風呂場の脱衣所に入ってきた。
「美紀子。どうしたの? そんなに入ってたら茹っちゃうよ」
 詩織の声で美紀子は我にかえった
「あ… ごめーん。今上がるとこ」
 美紀子は慌てて風呂からあがり、脱衣所に出てきた。

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「美紀子大丈夫? 何だか変だよ」
「何でもないよ。詩織。ちょうど良い湯加減だから、入っちゃって」
「分かった」
 美紀子が脱衣所を出ると、詩織は服を脱いで風呂場に入った。美紀子はタオルを体に巻いたまま自分の部屋に戻ると、体を拭いて下着を着け、パジャマを着てベッドに横になり、さっきの続きを考えていた。しばらくして風呂から上がった詩織が部屋に入ってきた。
「美紀子、考え事してるようだけど、何かあったの?」
 美紀子は我に返って、誠人の手紙を詩織に見せた。
「さっき誠人君が部屋から外へ投げたのよ。私達に事情を知らせてきたんだわ」
「そういうことか… クイーンリリーのやつ、卑劣な手を使いやがって。私達を周りの人達から引き離して孤立させるつもりなのね」
「詩織、どうする??」
「・・・ 美紀子。様子を見よう。誠人や結花は、私達が近付かない限り大丈夫だと思う。問題は学校の方だわ。 やつらの事だから、きっと学校の友達にも手を回しているわ。きっと明日学校へ行けば、周りの雰囲気がいつもと違うと思うよ」
 詩織の冷静な分析に、美紀子は生唾を飲み込んだ。
「うん… 分かった。それじゃおやすみ」
「おやすみ」

        *      *      *      *

 詩織の分析通り、翌日になって教室に入ると、教室内に異様な雰囲気が漂っていた。クラスのみんなは示し合わせたように美紀子と詩織を避けた。テニス部員の圭子も然りであった。
「美紀子。こりゃ間違い無いよ」
「・・・」
 美紀子と詩織は、お互いに顔を合わせて頷き合った。誠人からの手紙のおかげで、ある程度の事は覚悟していたから、特にうろたえる事も無かったのだ。休み時間になって、美紀子と詩織は明美のクラスへ行ったが、明美も美紀子と詩織を避けた。明美も他のみんなと同様、カメレオリーに脅されていたのだ。昼休みになって食事の後、美紀子と詩織は二人だけで屋上にいた。そこへ明美がやってきて、美紀子と詩織のそばに駆け寄ってきて言った。
「美紀子。詩織。私・・ 親友を捨てるなんて出来ない! 私、化け物に脅されたの。美紀子と詩織に近付くと殺すぞって」
「知っていたわ。明美、よく話してくれたわね。ありがとう。明美の事は私が絶対に守る。いや、他のみんなも守ってみせる」
 その時突然、明美の足元から大きな声が響いた。
「裏切ったな小娘! 約束通りお前の命を頂くぞ」
 美紀子と詩織、明美は、突然の声に辺りを見まわした。明美の影が怪物の形になり、続いて影からカメレオリーが姿を現した。

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「カカカカカカカカーッ」
「出たわね! クイーンリリーのエージェント! お前の作戦が分かった以上、もうこれ以上お前の勝手にはさせないわ」
「ほざくな小娘。それっ! 者ども出でよ!」
 カメレオリーの声と同時に多数の戦闘員が姿を現し、美紀子と詩織、明美を取り囲んだ。
「詩織。私が何とかするから、明美を連れて逃げて」
「分かった」
「かかれっ!」
「今よ詩織!」
 3人は戦闘員が向かってくると同時に、一斉に戦闘員に体当たりした。2~3人の戦闘員が体当たりでよろけ、詩織はその隙に明美を連れて屋上の扉を開け、下へ駆け下りた。
「スカーレットスパーク‐エンジェルチャージ!」
 美紀子は変身すると、組みかかって来る戦闘員を一人ずつ倒した。カメレオリーは身体を影にして屋上の床を移動し、スカーレットエンジェルの背後に回ると、素早く本来の姿に戻り、口から舌を出して伸ばした。舌はスカーレットエンジェルの首に絡みつき、絞めつけた。
「窒息死させてやる」
 スカーレットエンジェルは、巻きついたカメレオリーの舌を振り解こうとしたが、締め付けが強くなり、意識が朦朧とし始めた。
 ガツン!! ガツン!!
「グァーッ!! カカーッ」

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 いきなり鈍い音と怪人の絶叫が聞こえたかと思うと、首を絞めつけていた舌が揺るんだ。我に返ったスカーレットエンジェルがカメレオリーを見ると、カメレオリーは舌を引っ込めて両手で頭を押さえていた。そのそばには折れたラケットを持った明美と、バットを持った詩織が身構えていた。スカーレットエンジェルはカメレオリーに向かってダッシュすると、回し蹴りをお見舞いした。カメレオリーは反動で吹っ飛び、屋上の上を一回転して手すりにぶつかった。
「お、おのれ小娘ども… この借りは必ず返してやるぞ」
 そう言ってカメレオリーは、残った戦闘員とともにその場から消えた。スカーレットエンジェルは首を絞められたダメージを受けていて、その場に座りこんだ。詩織と明美がスカーレットエンジェルのそばに駆け寄ってきた。
「スカーレットエンジェル! しっかりして」
「大丈夫?」
 スカーレットエンジェルはその場で変身を解いて美紀子の姿に戻り、立ち上がろうとしたが、よろけて倒れそうになったので、慌てて詩織と明美が支えた。
「しっかりして!」
「詩織。明美。ありがと… 」
「美紀子。やつら… きっと明美を狙ってまたやってくるよ」
「多分ね… 明美だけじゃない。他の人達も狙われるかもしれない… みんなを守らなきゃ…」
 そう言いながら、美紀子はフラフラと力が抜けたように、再び倒れそうになった。
「美紀子しっかりして!」
 詩織と明美は美紀子を支え、保健室へ連れていった。入り口の札を見ると、『在室中』の札が出ていたので、詩織はドアを開けた。
「坂元先生。お願いします」
「どうしたの?」
「貧血みたいなんですけど、しばらく休ませてあげてください」
「分かったわ。それじゃこっちへ連れてきて」
 詩織と明美は、養護の坂元先生に促されて、美紀子をベッドに寝かせた。
「しばらくここで休んでいるといいよ。先生にはあたしが事情を話しておくから」
「うん… 詩織、明美。ありがとう」
 詩織と明美は保健室を出ると、教室へと向かった。
「明美。あんたまた狙われるよ」
「分かってる… でも、もう覚悟してるわ。どんなことがあっても、絶対に親友は裏切れないから。それに何かあったら、きっと美紀子と詩織が助けに来てくれるって・・・ 私信じてるから」
 詩織は明美の背中を軽くポンと叩いて言った。
「美紀子がいない間は、あたしが明美を守るわ」
「ありがとう」

        *      *      *      *

 保健室のベッドで寝ていた美紀子は、一時間ほどすると、ダメージが回復して起きあがった。
「あら、起きたの?」
「はい。もう大丈夫なので、教室へ戻ります。どうもありがとうございました」
 美紀子は坂元先生に礼を言うと、保健室を出て教室に戻った。ちょうど五時間目の授業が終わったところで、あとは帰りのホームルームがあるだけだった。美紀子が教室に入ってくると、詩織が美紀子を心配して寄ってきた。
「美紀子。大丈夫なの?」
「うん。もうすっかり回復したよ。それよりクラスの雰囲気は?」
「相変わらずだよ。分かっているとはいえ、みんなからシカトされるのはやっぱりつらいよ」
「あのカメレオンの化け物を倒すまでの辛抱だわ」
 そこへ担任の祥子先生が入ってきて、みんなは席に座り始めた。
「それでは今日はこれまで。また明日も元気で会いましょう」
 クラス委員が号令をかけ、挨拶が終わって先生が教室を出ると、教室内は部活へ行く者、帰宅する者達でごった返した。美紀子は自分の席の前で詩織と話の続きをしていた。
「明美が心配だわ。何も起こらなければいいけど」
「確かに… でもいくら何でも24時間ずっと護衛しているわけにはいかないし、どうする?」
「明美は部活があって帰りが遅いし、詩織。一旦帰ろう。帰ってからもう一度戻ってくればいいわ」
「よし」
 美紀子と詩織はカバンを持つと、示し合わせたように頷き合い、学校を出て急いで美紀子の家である探偵事務所に向かった。
 その頃、カメレオリーは戦闘員とともに再び学校の屋上にいて、テニスコートを眺めていた。自分を裏切った明美がテニス部員だという事を知っていたからだ。
「おのれ… あの小娘… 必ず捕まえて、見せしめのために八つ裂きにしてやる」
 戦闘員達はそれぞれ下を眺めていたが、その中の一人がカメレオリーに話しかけた。
「カメレオリー様。テニスコートには例の小娘はいません」
「何だと? よーし。部員を捕まえて聞き出してやるか… 」
 カメレオリーは影となって校舎の壁を素早く移動して地上に降り、たまたまテニスコートの外にいた圭子を見つけて、圭子の影の中に入りこんだ。そして影のまま圭子に向かって話しかけた。
「おい小娘!」
「えっ?」
 突然の声に圭子は驚いて辺りを見まわしたが、足元の自分の影が怪物の姿になっているのに気づき、昨日カメレオリーに脅された時の光景が頭を過って、膝がガクガクと震え出した。
「声を出さずに黙って聞け。そして俺の質問に答えろ。鹿妻明美はどこだ」
「あ・・あ・・明美は、今日ラケットが壊れたって言って、新しいラケットを買いに行くため、部活を休んで帰りました」
「本当だな?」
「ほ、本当です。私はちゃんと言いつけを守っています」
 カメレオリーは圭子の話を聞くと、圭子の影から移動して、その場を立ち去った。圭子は恐怖のあまり、そのまましゃがみこんでしまった。
「和渕。どうしたの? 大丈夫? 次あんたが練習する番だよ」
 同級生の岩切和子と、北山奈々が、圭子の様子に気付いて、圭子のそばにやってきた。
「あ・・ 何でもない。ちょっと立ち眩んだだけだから大丈夫よ」
 そう言って圭子はコートの中へ入っていった。が、両足は相変わらずガタガタと震えたままだった。その頃、事務所に着いた美紀子と詩織は着替えると一息入れる間もなく、再び学校へ行くために事務所を出た。

        *      *      *      *

 その頃部活を休んだ明美は家に帰ると、制服のまま家を出て、新しいラケットを買うために、行きつけのスポーツ用品店へ向かう途中だった。歩いていると下校途中の誠人とバッタリ顔を合わせ、誠人の方が先に明美に話しかけてきた。
「あれ? 確か… 聖陵学園テニス部のお姉さん…?」
「あら久しぶり。確か誠人君だったっけ」
「ペンション赤嶺で会って以来だね」
「そうだね。それじゃ私急ぐから」
 そう言って明美は、誠人に背を向けて走っていった。誠人は明美の後ろ姿を追っていたが、いきなり後ろから突付かれ、ビックリして振り向いた。後ろには膨れっ面をした久美子が立っていた。
「何だ委員長か」
「何だじゃないわよ。何よ! 年上の女性を見ると、すぐ鼻の下伸ばすんだから。私というものがありながらひどいじゃないの」
「な・ な・・ 何言ってんだよ委員長」
 突拍子も無い事を言われた誠人は顔を真っ赤にした。久美子も自分が言った事に気付いて、顔を真っ赤ッかにした。その時いきなり悲鳴が聞こえてきた。
「キャーッ!!」
「な、何だ一体!!?」
「誠人! あれ見て! さっきのお姉さんが…」
 誠人と久美子はほぼ同時に、明美が拉致されて車の中に押し込まれるのを見た。車はそのまま急発進して遠ざかっていった。誠人と久美子はお互いに顔を合わせた。
「大変だ! 美紀子姉さんに知らせなきゃ。委員長、電話電話」

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「公衆電話ならあそこのコンビニよ!」
 誠人と久美子は道路向かいのコンビニに駆け込むと、事務所に電話をかけた。
「畜生ダメだ… まだ帰ってないんだ。誰も出ねえや。そうだ! ポケットベルだ」
 誠人は夢中になっていて、カメレオリーに脅されていたことを、すっかり忘れていた。誠人は詩織が持っているポケベルに電話を入れた。が、自分の所が公衆電話であることに気付き、力が抜けたように受話器を耳から離した。そばにいた久美子が受話器を置いて言った。
「誠人のおっちょこちょい。ポケベルに電話したって、ここじゃ電話を受けられないよ」
「そうだよな… どうしよう… 」
 しかし、突然電話のベルが鳴り、誠人と久美子はビックリした。
「な、何で電話が鳴るんだよ!???」
「私に言ったって分かんないよ」
 誠人は恐る恐る受話器を取った。
「も… もしもし」
『誠人君? 私よ。美紀子よ』
「ええっ!? ど、どうして」
『訳は後。一体何があったの?』
「そ… そうだ。美紀子姉さんの友達が変なやつらにさらわれたんだ。ほら… 前にペンションで合ったテニス部の… さらったのはきっとクイーンリリーの仲間だよ」
『誠人君! どこへいったか分かる?』
「国道を車で西の方へ走っていったよ」
『分かったわ。君はそこにいて。今詩織と一緒に迎えに行くから』
 電話が切れて、誠人も電話を切った。しかし、誠人は何故公衆電話なのに、美紀子からの電話が通じたのか不思議がった。
 実は、こういう『からくり』があったのだ。美紀子は自分と詩織のポケットベルを改造し、通話が出来るようにしていた。さらにかけてくる相手の電話番号と電話をかけた場所を逆探知で分かるようにしていたのである。それで誠人からの電話がコンビニの公衆電話からだと分かり、公衆電話の番号にダイヤルをしたのだ。
それから10数分経って、美紀子と詩織が誠人の待っているコンビニへやってきた。二人の姿を見た誠人は、久美子を連れて店の外へ出た。
「誠人お待たせ」
 誠人と久美子が美紀子、詩織と対面すると同時に、ちょうどコンビニに立ち寄ろうとした結花がそれを見て、慌てて駆け寄ってきて、誠人の腕をつかんだ。
「誠人帰るよ!」
「結花ちゃん待って」
 美紀子は素早く結花の腕をつかんだ。
「放して!」
 結花が叫ぶと同時に、美紀子は結花を強く抱きしめて言った。
「心配しないで! 結花ちゃんも誠人君も私が必ず守る。約束するから!」
 そう言って美紀子は結花から離れたが、結花は緊張の糸が切れたのか、美紀子に抱きついてきて、泣きじゃくった。
「ごめんなさい。ごめんなさい。美紀子姉さん… 」
「いいのよ。もう… 悪いのは結花ちゃんを脅した化け物なのよ」
 美紀子は抱きついている結花を引き離して、結花に言った。
「結花ちゃんは久美子ちゃんを連れて、すぐに家に帰って」
「待って美紀子、結花と久美子ちゃんをこのまま帰すのはまずいよ。やつらの事だから、その辺で狙ってるかもしれないよ。今は事務所へ連れて行ったほうが安全だよ」
「そうか… それじゃ結花ちゃんも久美子ちゃんも一緒に来て。誠人君もよ」
「分かった。美紀子姉さん」
 美紀子と詩織は結花たちを連れて通りへ出ようとした。が、突然奇妙な声が聞こえて、みんなは声のした方を振り向いた。するとすぐ横にあるビルの壁にカメレオリーの影が映り、結花は脅された時の恐怖が甦って、両手で口を覆った。そして美紀子の前に不意にナイフが飛んできて、そばにあった街路樹に突き刺さった。美紀子は影の方へ足を向けたが、影は消えて無くなった。詩織は刺さったナイフを抜き、ナイフに付けられていた手紙を美紀子に渡した。美紀子はその手紙を開いて読んだ。
『お前たちの仲間を見せしめのため処刑する。場所は城跡公園の城山の頂上。時間は明日の正午だ』
美紀子は読み終えると、詩織に手紙を渡した。
「明日の正午… か。場所と時間まで丁寧に指示して堂々と送り付けてくるって事は、きっと私達をおびき出して、まとめて始末しようとしているのよ」
 空を見ると、既に夕刻近くなって暗くなり始めていた。
「とにかく明日が勝負よ。今ここでどうこう言っても始まらないわ」
「そうね… 明日の正午ならまだ時間がある。美紀子、帰って作戦会議よ」
「… 分かった。それじゃ帰ろう」
 美紀子は詩織と誠人、結花と久美子を伴い、紅林探偵事務所に向かって帰途についた。

        *      *      *      *

 アジトに戻ってきたカメレオリーは、戦闘員を伴って地下牢へと向かった。地下牢の前まで来ると、見張りの戦闘員が明美の閉じ込められている部屋の前に立っていた。
「捕らえた小娘はどうしている? 何か変った様子は無いか?」
「カメレオリー様の指示通り、牢の中に鎖で繋いでおきましたが、意外と大人しくしています」
「入るぞ。開けろ」
「イーッ」
 戦闘員は鍵束を出して牢の鍵を開けた。中では明美が牢の中央部の天井からぶら下がった鎖に繋がれた格好で立たされていた。牢内に入ったカメレオリーは明美の前まで行き、自分をキッと見据えている明美を見ながら言った。

9-07

「いい格好だな小娘。お前は我々を裏切った報いとして、ここで痛めつけてから、明日見せしめのために処刑してやる」
 明美はカメリオリーの言葉に、毅然とカメレオリーを見据えた。カメレオリーは明美に顔を近づけると、右手で明美の顎をしゃくりあげ、嫌がって顔を背ける明美に向かって言った。
「どうした。命乞いはせんのか? 泣き叫んで助けを求めたらどうなのだ」
「お前たちなんかに命乞いなんかするもんか! 私は絶対負けないわ。必ず美紀子が助けに来てくれるって信じてるんだから!」
「ふん! 強情な小娘だ。だが、そうやって強がっていられるのも今のうちだ」
 カメレオリーは戦闘員の一人に指で合図し、それを見た戦闘員は壁の所まで行くと、壁にあるスイッチを押した。すると明美を繋いでいる鎖がギリギリという音とともに巻き上げられ、明美は両腕を引っ張られる痛さに顔をしかめた。明美の両足が爪先立ちになり、床から離れるか離れないかというところで巻上げが止まった。さらに靴を脱がされて、その靴が部屋の片隅に放り投げられた。
「どうだ小娘。痛いか? 苦しいか?」
 明美は相変わらずカメレオリーを毅然と見据えていた。
「ふん… 強情なやつめ。痛めつけてやれ」
「ヒャイィーッ!」
 戦闘員が鞭や竹刀を持って明美のそばに来ると、拘束されて動けない明美を取り囲み、代わる代わる鞭や竹刀で明美を打ち据えた。

9-08-1_20111108234755.png

 バシイィーン!
「ぐ・・・!!」
 バシイッ!!
「んんっ・・ !」
 鎖で繋がれて無防備な明美の身体が鞭や竹刀で叩かれ、明美は苦痛に顔をしかめながらもジッとこらえていた。

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「どうした小娘。我慢していないで叫べ。わめけ。泣きながら助けを求めてみろ」
「うるさい化け物! 私は絶対負けない。う・・・」
 戦闘員は更に明美を鞭と竹刀で責め立てた。10分ほど経過したところでカメレオリーが戦闘員に命じた。
「よし。もうやめろ。これ以上続けたら、明日の楽しみが無くなってしまう」
「ヒャイィーッ!」
 戦闘員達は明美を痛めつけるのをやめると、カメレオリーの後ろに下がった。明美はハアハアと荒い息をしながら、ガックリと脱力して鎖に体重を預ける格好になっていた。服はあちこちが裂け、肌の出ている部分は蚯蚓腫れや打撲の後が浮き出ていた。
「どうだ小娘。命乞いをして、我々の言う事を聞くならば、助けてやってもいいぞ」
「お前たちなんかの言う事を聞くくらいなら、死んだ方がましよ。誰がお前達なんかに服従するもんか!! 私は絶対に負けないわ。私にはスカーレットエンジェルがついてるんだから」
「しぶといやつだ。ならばお前の慕うスカーレットエンジェルの目の前で、明日予定通り処刑してやる。それまでせめてもの情けだ。ゆっくり休ませてやる。鎖をはずしてやれ」
 カメレオリーは戦闘員に命令し、戦闘員は明美の両手に嵌められた鉄枷を外して、明美の体をゆっくりと降ろして床に座らせた。カメレオリーは戦闘員を伴って部屋から出ると、見張りの戦闘員に命じて扉を施錠させ、司令室へ向かっていった。牢の照明が消され、真っ暗になった部屋の中で放置された明美だったが、親友となった美紀子、つまりスカーレットエンジェルが必ず助けてくれると信じていたので、何とか恐怖心を克服しようとしていた。
「(美紀子… いやスカーレットエンジェル… 私を助けに来て。私…信じてるからね…)」

        *     *     *     *

 美紀子、詩織、誠人、結花、久美子の五人は、紅林探偵事務所兼紅林源太郎の自宅に戻り、夕食として美紀子が作った料理を食べ終えたところだった。結花と詩織は極度の緊張からか食欲が無く、美紀子も明日のことを思うと、食事が喉を通らなかった。が、食べ盛りの誠人と久美子は食欲旺盛だった。
「しっかし、誠人… あんたこんな時によくこれだけ食べられるね」
「だって、腹がへっては戦が出来ないって言うじゃないか。それに美紀子姉さんの料理って、すごく美味しいし…」
「ありがとう誠人君。そう言ってもらえるとうれしいな… それから久美子ちゃん。あなたの家には、今日ここに泊まるって電話しておいたからね」
「ありがとうございます。でも、何だか随分慌しいんだけど、一体何があったんですか?」
「久美子ちゃんは何も知らない方がいいわ」
「そうそう。委員長は余計な心配しないでいいから」
「誠人ぉ… そんな事言われたら、かえって気になるよ」
「とにかく、久美子ちゃんと結花ちゃんは私達が守ってあげるから、安心していなさい」
 詩織と一緒に後片付けを終えた美紀子は、リビングで作戦会議を始めた。そこには誠人も一緒にいた。結花と久美子は食堂でテレビを見ていた。詩織は鷲尾平市の地図を広げてテーブルの上に置き、三人で地図をみつめた。
「きっと城山の周辺には、必ず戦闘員がいるわ。気付かれずに頂上まで行くのは難しいと思う」
「うん… あたしもそう思う。下手なことをすれば、かえって明美が危ないわ」
「詩織。あの手紙の文面からすると、恐らく私達を招待しているんだと思う。きっとあのカメレオンの化け物は、私達が見ている前で明美を殺そうとしているのよ」
「そうか… 心理作戦をやったやつだからな。あたし達の精神的なマイナスを狙っているわけか… となると… あたし達が行くまでは明美は無事でいられるって事ね。でも指定された時間は正午だから、それに間に合うように行かなければ、明美の命は保障出来ないよ」
「よし… 詩織。誠人君。二人ともちょっと寄って」
 美紀子は詩織と誠人を促し、それぞれ顔を近付け合って小声で何かを話し始めた。

        *     *     *     *

 翌朝…
 美紀子と詩織は、誠人を連れて城跡公園へ向かっていた。結花と久美子には、事務所の中にいて絶対外へ出ないように念を押してきた。結花はカメレオリーに脅されていた恐怖から、二つ返事で美紀子の言い付けに従い、事務所の鍵という鍵を厳重に閉め、久美子と一緒に部屋の中に閉じこもっていた。幸い事務所は駅に近いため、事務所の前の通りは人通りが多かったので、日中ならば襲われる確率が低かった。しかも怪人カメレオリーは城跡公園にいる筈なので、結花と久美子が襲われるという心配も少なかった。
 城跡公園が近付くにつれ、三人の表情に緊張が走った。しかし、その中で誠人だけは意外と落ち着いていた。
「詩織姉ちゃん。その格好・・・ 気になってしょうがないんだけど… 」
「何? 誠人」
「スカートだよ。ちょっと短過ぎないか?」
「あ・・・ これ? 平気よそんなの! ちゃんと下にブルマー穿いてるから」
 そう言って詩織はスカートを少し捲って見せた。
「二人とも黙って。公園はもうすぐだよ」
 美紀子に言われて、詩織と誠人は、正面に見える城跡公園を見据えた。
 
 城山の頂上では、カメレオリーが戦闘員を従え、明美を処刑する準備をしていた。明美は後手に縛られ、目隠しをされた格好で、2人の戦闘員に抱えられていた。他の戦闘員たちは、明美を磔にする十字架を準備していた。カメレオリーは明美の前に来ると、目隠しをとって右手で明美の顎をこづきながら言った。
「おい小娘。あと1時間でお前の処刑の時間だ。お前は磔にされ、その体を槍で突き刺されて無残な死体となるのだ」
「お前たちそれでも」
「おっと! それ以上は言わなくてもいいぜ。あいにく我々は人間ではなーいのだ。カカカカーッ」
 明美は無言のままカメレオリーを見据えて唇を噛み締めた。
「ん? その反抗的な目は何だ? 恨むんならお前自身を恨め。我々の言う通りに、紅林美紀子を裏切ればこんな目に会わずに済んだのだ」
「勝手なこと言うな。私は絶対親友を裏切らない。私が死んだら、きっとスカーレットエンジェルが仇をとってくれるわ! いや、その前にきっと、スカーレットエンジェルが助けてくれる!」
「ふん・・・ 強情な小娘だ。せいぜい念仏でも唱えていろ」
 そう言ってカメレオリーが明美に背を向けたところへ戦闘員が報告に来た。
「ヒャイーッ! カメリオリー様。準備が出来ました」
「よし。小娘を縛り付けろ」
 カメレオリーの命令で、戦闘員は明美に再び目隠しをし、靴を脱がせて明美の体を十字架の上に乗せ、手足をロープで縛ってから十字架を立てて地面に埋め込んで固定した。
「ハーッハッハッハ。いいさらし者だわい。さあ早く来いスカーレットエンジェル。お前の見ている前で、この小娘をぶっ殺してやる」
 明美は怖かったが、それを押し殺し、スカーレットエンジェルが助けてくれると信じて祈っていた。
「(怖い… でも絶対負けない。スカーレットエンジェル、いや美紀子… 私信じてるよ。必ず助けてくれるって… )」

        *     *     *     *

9-09

「ひどい… 」
「何て事するんだあいつら… 絶対許せない」
 明美が晒されている様子を隠れて見ていた美紀子たちは、カメレオリーの残虐さに怒りをあらわにした。美紀子は麓にいた見張りの戦闘員を見つけて、気付かれないように近付いて不意打ちで倒し、詩織と誠人を誘導して、美紀子を先頭に城山を登っていったのである。正規のルートは、戦闘員が見張っている恐れがあったので、裏道の藪の中を掻き分けるように進んでいって頂上に到達し、繁みの中に身を潜めて広場の様子を覗っていた。
「美紀子。どうする? まともに行ったらすぐ見つかっちゃうよ」
「確かにそうね… 明美の救出が絶対最優先だわ。誠人くん。リュックの中身を出して」
「オーケー」
 誠人は這いながら美紀子のそばに来ると、リュックを開けて中身を出した。中からは軍隊が使うような煙幕弾の他、爆竹・パチンコやビー玉などが次々と出てきた。煙幕弾は源太郎が持っていたもので、爆竹やパチンコは誠人が持ってきたものだった。美紀子は出発する時、誠人に言ってリュックにそれらを詰めて、持ってこさせたのだ。
「いい? 私が最初に囮になって、一人でやつらの前に出るわ。やつらが私に気を取られている隙に、詩織と誠人君とでやつらを混乱させて、その隙に明美を助け出すのよ。私の事は心配しなくてもいいから!」
「分かった… 」
 詩織と誠人はグッと唾を飲み込んだ。二人とも一つ間違えれば明美の命に関わるので、異様に緊張していた。詩織は時計を見て時間を確認した。
「美紀子、処刑の時間まであと30分を切ったわ」
「それじゃ詩織、誠人くん、頼んだわよ」
 そう言うと、美紀子は藪の中を這っていき、遊歩道に出ると、頂上に陣取っているカメレオリーと戦闘員がいる場所へ、単身で歩いて向かって行った。それを見つけた戦闘員の一人が、叫びながら美紀子を指さし、カメレオリーも美紀子に気付いた。
「よく来たな。待っていたぞ紅林美紀子。いや、スカーレットエンジェル」
 カメレオリーの声を聞き、明美は目隠しされた目から涙が滲んできた。
「美紀子… 来てくれたんだ」
「そこから動くな。少しでも近づけば今すぐ小娘をぶっ殺すぞ」
「待って。私が身代わりになるから、明美は助けてあげて」
「ダメだ。この小娘は見せしめのため処刑する。と言いたいところだが、お前次第では望みをかなえてやってもいいぞ」
「ダメ美紀子! 身代わりなんかになっちゃダメ! 私はどうなってもいいいから、そいつらをやっつけて! わたし… 美紀子のためなら死んだっていいから。親友のために死ねるんなら本望だよ」
「うるさい! 静かにしろ」
 カメレオリーは明美のほうに向き直ると、鞭で明美を叩きつけた。
「キャーッ!」
「やめてーッ! 明美に乱暴しないで。どうすればいいの?」
 カメレオリーは戦闘員に向かって合図をした。戦闘員が美紀子の周りにやってきて、美紀子を羽交い締めにすると、美紀子をロープで縛った。
「スカーレットエンジェル。今迄の恨みだ。覚悟しろ」
 カメレオリーは美紀子に近付いてくると、腕を振り上げ、鉄拳で美紀子の顔や腹を数回殴りつけた。縛られていた美紀子は抵抗できず、一方的に殴られて、そのまま態勢を崩して倒れ込んだ。倒れて苦しそうな表情をしている美紀子に、カメレオリーは今度は足で美紀子を数回蹴飛ばし、美紀子の頭の上に足を乗せてギリギリと踏みつけた。
「どうだ悔しいか。スカーレットエンジェル! 嬲り殺しにしてやる」
「く… 」

 その頃詩織と誠人は、さっきいた場所から藪の中を通って大きく迂回し、広場の反対側に来ていた。そこからならば、明美が磔にされている場所まで僅か5mしか離れていなかった。
「畜生化け物め! 美紀子姉ちゃんに酷い事しやがって」
「このままでは済まさないわよ。誠人。早く準備して」
 誠人はリュックの中から必要な物を出して詩織に分けた。詩織は煙幕弾を受け取ると、安全装置を外した。発火口からシューッと言う音とともに黒煙が出てきて、詩織は煙幕弾を広場の中央めがけて投げた。誠人も一緒に煙幕弾を投げ、広場はたちまち黒煙に包まれて、何も見えなくなった。
「何だ??? 一体何事だ」
 カメレオリーは突然周囲が真っ暗になって狼狽し、戦闘員達は煙の中で右往左往した。ここぞとばかりに、詩織と誠人は爆竹や花火に火をつけて、手当たり次第に投げつけた。黒煙に加えて花火や爆竹が破裂し、どこから飛んでくるか分からない爆竹や花火に、戦闘員達はパニックを起こして大混乱になった。詩織と誠人はその隙に明美を縛っている十字架の所へ行き、十字架をゆっくりと倒して横にすると、持っていたナイフで明美の手足を縛っているのロープを切り、明美を支えながら立たせて目隠しをはずした。
「明美。もう大丈夫だよ」
「お姉ちゃん、こっちへ来て」
 誠人が明美を連れて行き、詩織は倒れている美紀子のそばへ駆け寄って、美紀子を縛っているロープを切った。
「美紀子、しっかりして」
「ありがとう詩織」
 美紀子は詩織に支えられて立ち上がった。
「おのれ小娘ども。皆殺しにしてやる」
 煙が晴れてきて、状況に気付いたカメレオリーが戦闘員とともに猛然と向かってきた。自由になった美紀子は、カメレオリーの横合いから体当たりして、カメレオリーを突き飛ばした。
「よくも私をいたぶってくれたわね。今度はこっちの番よ。スカーレットスパーク-エンジェルチャージ!」
 美紀子はスカーレットエンジェルに変身すると、カメレオリーに向かって身構えた。
「エンジェルスマッシュ!」

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 スマッシュのエネルギーがカメレオリーに命中し、体勢を立て直そうとしていたカメレオリーは反動で再び地面に転げ、近くにいた戦闘員が巻き添えで吹っ飛ばされた。一方の詩織は明美と誠人を庇いながら、襲ってくる戦闘員と格闘していた。誠人が指摘した通り、詩織が派手な動きをする度に、ミニスカートが捲れて中が丸見えになった。が、そんなことを考えている余裕など無かった。戦闘員が次々と襲ってきたからだ。それに体力にも限度があった。倒しても倒しても次々と襲ってくる戦闘員のため、ついに詩織は二人の戦闘員に両腕をつかまれ、もう一人の戦闘員に立て続けにパンチやキックを食った。詩織のピンチを見たスカーレットエンジェルは詩織の方へ駆け寄り、詩織を捕まえていた戦闘員の一人を引き離して殴り倒した。詩織は自分を殴った戦闘員の顔めがけてハイキックをお見舞いしたあと、もう一人の戦闘員を殴り倒した。
「ええいどけどけーッ!」
 カメレオリーがやってきて、スカーレットエンジェルと詩織に向かってきた。カメレオリーは地面と同化して影になって二人に襲いかかった。
「危ない!」
 スカーレットエンジェルと詩織が避けると、カメレオリーは二人を通過してそのまま姿を消した。
「化け物は何処だ!?」
 詩織が周りを見回していると、突然近くにある立ち木の中から長い舌が飛び出してきて、詩織の首に巻きついた。カメレオリーは立ち木の色と同化していたのだ。
「ヴ… 」
「窒息死させてやる」
 舌が詩織の首を絞め付け、詩織は苦悶の表情を見せた。
「く… 苦しい… 」
「詩織! 今助けるから」
 スカーレットエンジェルはカメレオリーの舌を両手でつかんで、思いっきり引っ張った。木と同化していたカメレオリーは引っ張られて姿を現した。
「カカカカーッ!」
「化け物め! こうしてやる!」
 スカーレットエンジェルは力任せに、カメリオリーの舌をグイッと引張り、舌を引き抜いた。
「グアーッ! し、舌がぁーっ!!」
 カメレオリーは舌を引き抜かれ、口を押さえてもがき苦しんだ。
「化け物! よくも私の親友を酷い目に合わせたわね! それに、みんなを脅して私を避ける様に仕向けたのは絶対許さない! これでも食らえ。エンジェルスマッシュ!」
 怒りのエネルギー波がカメレオリーを直撃し、カメレオリーはその反動で後ろにひっくり返った。体のあちこちから水蒸気のようなものが噴き出している。
「今だ! エンジェルジャンプ」
 スカーレットエンジェルはジャンプすると、空中で一回転し、カメレオリーめがけて急降下した。
「エンジェルキィーック!」

9-10

 スカーレットエンジェルのキックがカメレオリーを直撃し、カメレオリーは絶叫とともに空中を舞って、地面に叩きつけられると同時に爆発して木っ端微塵に吹っ飛んだ。着地したスカーレットエンジェルは、着地と同時にバランスを崩してよろけた。カメレオリーにボコボコにされた時のダメージがあったのだ。
「スカーレットエンジェル! 大丈夫?」
 詩織が慌てて駆け寄り、スカーレットエンジェルの腕をつかんだ。
「うん。大丈夫。詩織、ちょっと離れて。変身を解くから」
 詩織が離れると、スカーレットエンジェルは変身を解き、美紀子に戻った。詩織は美紀子の手を取り、自分の肩で支えた。

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 戦いを避けて隠れていた誠人と明美が出てきて、美紀子と詩織の方へ走ってきたので、美紀子は明美に向かってVサインを送った。明美は拷問されていたせいで、制服のあちこちが裂け、またストッキングがボロボロになって、鞭や竹刀で叩かれた跡が生々しく残っていた。明美は美紀子のそばに来ると、そのまま美紀子に抱き付き、大泣きした。
「美紀子ぉーっ! 怖かったよぉーッ!」
「もう大丈夫だよ明美」
 美紀子は泣きじゃくる明美を抱きしめた。
「美紀子。私信じてたよ。絶対助けに来てくれるって」
「当たり前じゃないの。私達親友どうしなんだよ。絶対に見捨てたりしないよ」
「美紀子。本当にありがとう」

9-11

 泣き止んだ明美は、美紀子から離れると美紀子に向かって言った。
「美紀子にお願いがあるんだけど」
「何? 明美」
「もし… もし美紀子、いやスカーレットエンジェルがやつらをみんなやっつけて、平和な世の中になったら、美紀子にテニス部に入ってもらいたいの。わたし… 美紀子と一緒に全国を目指したいのよ。いいかな?」
 美紀子は一時の間をおいてから返事をした。
「いいよ。約束するわ」
「嬉しい!! ありがとう美紀子」
 明美はまた美紀子に抱きついた。
「(あーあ… 結局こういう事になったか… しかもテニス部に入る約束までしちゃって。美紀子も人が良いな… でも、そこが美紀子の良い所なのかな)」
 詩織は、美紀子と明美のことを見て呟いた。そしてそのまま天を仰いだ。そこへ誠人が来て、詩織のベストの端を少し引張って言った。
「詩織姉ちゃん。腹減った。早く帰ろうよ」
 詩織は誠人に言われて自分の腹までグーッと鳴り、それが美紀子に聞こえたので、美紀子は抱きついている明美を引き離し、3人を眺めながら言った。
「みんな! お腹空いてない?」
 3人は揃って首を縦に振った。
「なにか食べに行こうか」
「美紀子のおごりでね」
「ええーっ?」
「冗談よ。ワリカンよワリカン。そうだ。食べに行くより美紀子に作ってもらおうよ」
「あ。それいい・・・ 美紀子姉さんの料理すっごく美味しいんだぜ。お姉ちゃんもきっと気に入ると思うよ」
 誠人が明美に向かってそう言った。美紀子たち4人は、戦いに勝った余裕からか、和気藹々としながら城山を降りていった。

        *     *     *      *

 カメレオリーの心理作戦は失敗し、美紀子たちと、その周囲にいる人たちとの関係も元に戻った。しかし、スカーレットエンジェルの武器であるブレードは、今だ復活していない。必殺技を使えないスカーレットエンジェルに対し、クイーンリリーはさらに強力なエージェントを送り込もうとしている。頑張れスカーレットエンジェル。



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 次回予告

 ☆黒猫怪人 呪いの叫び

 10月になって聖陵学園高校は学園祭が近付く。美紀子のクラスでは、体育祭の催し物として雄志がチアリーダーをやることになり、スタイルのいい美紀子は真っ先に推薦され、詩織と圭子もメンバーに加わって総勢12人のメンバーが決まる。
 一方、心理攻撃に失敗したクイーンリリーは、再び同じ作戦を画策。今度は美紀子の友人を利用して美紀子を抹殺しようとし、怪人黒猫リーを使って、美紀子の友人達を襲わせる。クラスメートの圭子が真っ先に襲われ、黒猫リーの催眠電波で操り人形になってしまう。操られた圭子は、詩織を誘い出して黒猫リーに襲わせ、一緒にいた朋子とともに操り人形にする。さらにチアリーダーの練習をしていたクラスメートまでが犠牲になり、黒猫リーに操られて美紀子に襲いかかってくる。

 次回。『黒猫怪人 呪いの叫び』にご期待ください
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テーマ : ライトノベル
ジャンル : 小説・文学

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