鷲尾飛鳥

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第10話『黒猫怪人 呪いの叫び』

2011年 10月15日 16:17 (土)

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 ここは鷲尾平市の某所に設けられたアジトである。アジトでは、新しいエージェントの黒猫リーがある実験をやろうとしていた。司令室のスピーカーからクイーンリリーの言葉が聞こえていて、黒猫リーと戦闘員達はその言葉を聞いていた。

10-01

「黒猫リー。お前には人を操るための催眠電波発生装置と、殺人超音波の発生装置が組み込んである。まず催眠電波の効果を実験し、結果を報告せよ」
「かしこまりました」
 黒猫リーは戦闘員の方へ向き直ると、戦闘員に向かって命令した。
「ニャーゴーッ! 捕えた人間どもを連れて来い」
「ヒャイーッ!」
 黒猫リーの命令で、拉致した数人の人達が連れてこられた。
「助けてくれぇ」
「お願い助けてーッ」
 助けを求める人達に向け、黒猫リーは両目を点滅させ、奇声とともに特殊な電波を出した。すると人々はたちどころに放心状態になった。
「さあ憎み合え! 殺し合え! お前達の隣にいる者は全てが敵だ。やらねば自分が殺されるのだ。さあ! 殺し合うのだ。ニャアーゴーッ!!」
 放心状態になっていた人々は、黒猫リーが奇声を発すると、自分の目の前にいる人に向かって、お互いに殴り合い、大乱闘になった。罵声が飛び交い、お互いに相手の首を絞めたり、殴り合い、蹴り合うという動作が続いた。10数分ほど経過して、拉致してきた人の全てが、その場に死体となって転がった。黒猫リーはそれを見て、スピーカーの方を向いて言った。
「クイーンリリー様。実験は大成功です」
「よろしい。では早速お前に任務を与える」
「ははーっ!」
「目障りなスカーレットエンジェルを抹殺せよ。お前の催眠電波を使い、スカーレットエンジェルの周りにいるやつらを操って、スカーレットエンジェルを殺させるのだ。いくらスカーレットエンジェルでも、自分の仲間を倒すことは出来ぬ。それが我々の狙いなのだ」
「かしこまりました。ニャアーゴーッ!」
 
        *      *      *      *

「源太郎さん。朝御飯の用意が出来ましたよ」
「ああ… ありがとう美紀子」
 今日も朝が来た。美紀子は朝起きると朝食の支度をし、既に事務所で仕事をしている源太郎を呼びに行った。源太郎が食卓に来て、美紀子と源太郎は朝食をとった
「美紀子。学校生活は慣れたか?」
「はい」
「俺がいない間に、何度か事件があったようだが、大丈夫なのか?」
「うん。何とかやつらの作戦は阻止しているんだけど… クイーンリリーがどこにいるのか、何も分からないのよ」
「そうだな… 問題はやつらのボスだ。あの魔女を倒さない限り、やつらは必ずお前を襲ってくるわけだからな。今度は何をやってくるのか… 」
 朝食が終わって後片付けをし、二階へ上がって支度をしている所へ、詩織がやってきて、美紀子の部屋に上がってきた。
「やっほー!! 美紀子おはよー。学校へ行くよ」
「はーい。詩織ちょっと待ってて」

10-02

 美紀子はちょうど制服に着替えて、靴下をはいていたところだった。季節は既に10月になっていて制服は冬服だった。着替えを終えた美紀子は、一通り自分の身なりをチェックしてから、詩織を伴い、鞄を持って部屋を出た。
「それじゃ源太郎さん。行ってきます」
「おーっ」
 美紀子と詩織はいつものように、学校への道を歩いていた。
「美紀子。もうすぐ体育祭だけど、何に出るか決めた?」
「まだだけど… 詩織はどうすんの?」
「あたしは… 400mリレーかな・・ そんなことより、クラスの有志でやる催し物なんだけど、どうやらチアリーダーで決まるみたいなのよ」
「ふーん… チアリーダーか… 楽しそうだね」
「まあ、メンバーとしては、真っ先に決まるのは多分美紀子だね。あたしだったら真っ先に美紀子をメンバーに選ぶよ」
「どうして?」
「スタイルがいいからに決まってんじゃん。他にはバトン部の館腰に、テニス部の和渕かな… 」
 そうこうしているうちに学校に着き、いつものように玄関で上履きに履き替えると、教室に向かった。すでに教室には数人の生徒がいて、美紀子と詩織は、居合わせた人達とお互いに挨拶しあった。
 ホームルームの時間になり、体育祭に出場する選手が次々と決められて、詩織は希望通り400mリレーに出ることが決まり、美紀子も一緒に出場することになった。いよいよクラスの催し物を決めるところまで来て、詩織の言った通り、クラス全員一致でチアリーディングに決定した。そしてメンバーを決めるという段階になって、朝に詩織が言った通り、真っ先に美紀子が指名された。その理由も詩織が言ったように、美紀子のスタイルが抜群だったからだった。次にバトン部の館腰理恵が選ばれ、テニス部の圭子も推薦された。詩織も美紀子が選ばれたので立候補し、総勢12人のメンバーが決まった。チームリーダーは現役バトン部員で副キャプテンをやっている館腰理恵に決まり、衣装は理恵の計らいで、バトン部が過去に使っていた物を使用することになった。
 昼休みになって、美紀子と詩織は、理恵に案内されてバトン部の部室に行った。部室には二人の部員がいて、倉庫にしまってあったダンボール箱の一つを用意してくれていた。理恵は美紀子と詩織に向かって箱を指差しながら言った。
「この箱の中にあるやつを使っていいから」
 詩織が箱を開けて見ると、ユニホームとボックススカート、ユニホームと同じ色のアンダースコートやポンポンなどが入っている。衣装は全部で15セットくらいあった。

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「これに入ってるのはもう使わないやつで、いずれは捨ててしまうことになっているのよ。でも勿体無いから… これだけあれば、個人で負担するものが少なくていいと思うの」
「うん。確かに… 館腰さんありがとう。喜んで使わせてもらうわ」
 美紀子と詩織は二人でダンボール箱を教室へ持っていき、メンバーに選ばれた人達の前で開いて、みんなに見せた。
「わぁ・・・」
「結構いいね」
 そんな言葉が飛び交い、みんなそれぞれサイズの合うものを選んで取り、衣装が一人一人に行き渡った。そこでリーダーの理恵がみんなに言った。
「シューズとソックスだけは、個人負担になっちゃうんで、これだけは各自で買ってね。ただし、同じ物を買い揃えないと統一性が取れないから、出来るだけ同じ所で買うようにして。参考までに、私達が使っているカタログがあるから、これを見るといいよ」
「もし揃わなかったらどうしよう?」
「うーん… 大丈夫だと思うけど… シューズは最悪の場合、既成の安いバレーシューズが大量に売られているからいいんだけど、ソックスの方はどうしても揃えられないなら、白ソックスかストッキングにするしかないかな… 」
 理恵がみんなに向かって話すと、みんなは「分かった」というような仕草で頷いた。シューズやソックスはカタログを見てその場で決め、みんなそれぞれ今日買いに行こうという意見を出し合った。が、全員で行ってもしょうがないので、くじ引きで係を決めることにし、理恵と詩織が選ばれて、今日の帰りにまず調べに行くことになった。
 そしてその日の放課後…
 詩織は理恵と一緒に店に行くことになっていたので、美紀子は一人で帰宅した。一方、部活でテニスコートに集まっていたテニス部員達は、副キャプテンの圭子を除いていつものように練習を始めていた。圭子はクラスの担任で、テニス部の顧問でもある祥子に呼ばれ、職員室にいた。
「体育祭の練習と部活を両立させるのは大変かもしれないけど、頑張って」
「はい」
「それじゃ部活に行っていいわ」
 圭子は祥子に向かって一礼すると、職員室から出ていき、教室で着替えてテニスコートに向かった。ちょうど明美はコート内で一年生部員の練習相手をしていたところだった。圭子は挨拶しながらコート内に入っていき、みんなの練習に混ざった。
 その頃、詩織と理恵は市内の店を回って、手頃なものを探していた。そこへ先に帰宅して買い物に来ていた美紀子と会って、3人で店を回った。しかしシューズは一通り揃えられるが、ソックスだけは手ごろなものを人数分揃えることが出来ず(揃えられるが取り寄せで、体育祭までは間に合わないことが分かった)、シューズだけ翌日買いに来るからと言って、店の人に頼んで確保してもらい、店を出てから別れてそれぞれ帰宅した。
「美紀子。帰る前に少し事務所に寄らせてもらうね」
「うん。いいよ」
 詩織はそう言うと帰宅する前に紅林探偵事務所に足を運んだ。ちょうどその時、部活を終えて学校を出て、電車に乗るために駅に来ていた圭子と、駅前の道路でバッタリと会った
「あら圭子。今帰り?」
「うん。シューズとか揃いそうなの?」
「シューズだけはみんなの分が揃えられるわ。でもソックスはダメみたい」
「そうか・・・ じゃ私電車に乗るからまた明日ね」
「バイバイ」
 圭子は美紀子と詩織に背を向けると、駅へ向かって歩いていった。圭子は駅から電車に乗り、自分の家がある南城間駅で降りると、家に向かって歩いた。その途中の道で、不意に圭子の足元に黒猫が現れて泣き声を上げ、圭子はビックリして黒猫を見た。黒猫の目がジーッと圭子を見つめていて、寒気がした圭子はその場から走り出そうとした。
「お前は紅林美紀子の友人だな?」
「ね… 猫が喋った!」
 圭子はさらに驚いて後退りした。同時に黒猫の周りに煙が上がって、煙が晴れるとそこには怪人黒猫リーが立っていた。圭子はヘビに睨まれたカエルのように脚がすくんで体が硬直し、その場に立ち尽くした。

10-04

「おい小娘! 俺様の目を見るのだ」
 黒猫リーは両目から金色の光を点滅させた。すると圭子は目が空ろになり、体が全く動かなくなった。黒猫リーはさらに催眠電波を放って、完全に圭子を催眠状態にしたところで、圭子に向かって話しかけた。
「ニャーゴーッ! お前は今から俺のしもべだ」
「はい… ご主人様。何なりと御命令を」
「お前は紅林美紀子を殺すのだ。ただし、次の指示があるまでお前はいつも通りのお前でいるのだ。そして俺様の声を聞いた時、お前は俺様の命令どおりに従うしもべとなるのだ」
「わかりました」
 圭子は何事も無かったかのように自分の家に向かって歩き出し、その姿を追いながら黒猫リーは再び黒猫に化け、夕闇の中に解け込むように消えた。

        *      *      *      *

 翌朝… 
 詩織がいつものように迎えに来て、美紀子は詩織と一緒に学校へ向かった。教室で圭子と会ったが、圭子は黒猫リーの声を聞かない限り普通の状態でいるので、美紀子も詩織も圭子が洗脳されているとは気付かなかった。そして何事もなくその日の午前中の授業が終わって、昼休みになった。美紀子はいつものように詩織と屋上へ上がろうとしたが、体育祭の件で担任の祥子から職員室に呼ばれた。
「美紀子、あたし先に言ってるから」
「分かった」
 そう言って美紀子は職員室へ歩いていき、詩織は屋上へ向かった。詩織が屋上の扉を開けると、屋上には朋子がいて、詩織と会うなりいきなりカメラのシャッターをきった。
「松島さんこんにちは。一枚いただいたわ」

10-05

「 (嫌なやつに会っちまったな・・・)何だよ大河原。あたしの写真なんか撮ってどうすんのよ」
「今日は紅林さんと一緒じゃないの?」
「ん・・・ まぁね。美紀子は職員室に行ってるけど・・・」
「あなた達、いつも一緒にいるから、巷では百合族じゃないかって噂してる人もいるわよ」
「何言ってんのよ。あたし達はそんな関係じゃないわよ!」
「別にムキになること無いじゃない。それより相棒がいないんならちょうどいいわ。紅林さんのことで何か知ってることがあったら、私に聞かせてくれないかな… あのひと… 謎だらけなんだよね」
「あんたに話すことは、これといってないわよ。強いて言うならば、美紀子はアメリカ帰りの帰国子女で、両親が死んじゃったから、あたしの伯父である源太郎さんが養子縁組みをして引き取ったのよ。他には何も無いよ。これだけ分かれば充分じゃないの?」
「・・・ そっかぁ… 帰国子女… ね。それで謎が多いのか」
「何一人で感心してんのよ。大体あんたね・・・」
 詩織がそこまで言いかけた時、朋子が急にあさっての方を向いたので、詩織は話すのをやめて、朋子が向いた方を見た。するとそこには圭子が立っていた。
「あれ? 圭子… 」
 そこまで言って詩織は圭子の目を見て、何かが違うと感じた。目が据わっていて、何か空ろな表情をしている。圭子は無言のまま、少しずつ詩織に近付いてきた。圭子の様子がおかしいと直感した詩織は思わず後退りし、朋子もつられて詩織とともに後ろに下がった。そこへ不意に黒猫が現れ、奇声を上げながら黒猫リーの姿になった。
「キャーッ! お化けぇーっ」
 朋子が思わず大声で叫んだ。詩織は朋子の前に出ると、黒猫リーに向かって身構えた。圭子は素早い動作で詩織のそばに駆け寄って来ると、朋子を無視して詩織を羽交い締めにした。
「ちょっと何すんの!? 圭子、放してよ」
 詩織は圭子を振り解こうともがいたが、黒猫リーは近づいてきて、奇声とともに両目を点滅させ、催眠電波を放った。羽交い締めにされていた詩織は逃げることが出来ず、まともに黒猫リーの目を見てしまい、催眠状態になってしまった。朋子は言うまでも無い。詩織同様催眠状態になって、そのまま体の力が抜け、屋上の床の上にヘナヘナと座りこんでしまった。
「ニャーゴーッ! お前達も俺のしもべだ。お前達は紅林美紀子、つまりスカーレットエンジェルを始末するための俺様の奴隷として、俺様の指揮下に入るのだ。お前たちは俺様の命令があるまで、普通通りにしていろ。今元の状態に戻してやる」
 黒猫リーはそう言うと両手をパンと叩いて、その場から消えた。同時に詩織たち3人は何事も無かったかのように屋上から階下へ降りていった。

 しばらくして美紀子が息を切らしながら屋上に上がってきた。屋上に来た美紀子は、誰もいないのを見て呟いた。
「詩織どうしちゃったのかな? 教室に帰っちゃたんだな… 」
 美紀子が教室に戻ると、詩織は自分の席に座っていたので、美紀子は詩織の前に行って話しかけた。
「詩織ごめんね。行けなくて」
「別にいいよ」
 詩織の素っ気無い返事に、美紀子は一瞬何かを感じたが、特に気に留めずに自分の席に戻った。そこへ理恵がやってきた。
「紅林、松島、今日から振り付けの練習するから、授業が終わったら屋上に来て」
「うん。分かった」
 その日の放課後、屋上に集まった美紀子たちは、理恵から提供された衣装に身を包んで、理恵の指示で一列横隊を作った。シューズは揃えることが出来たので、全員同じものを履いていたが、ソックスが揃わなかったので、今日は通学時に履いている白いソックスやストッキングなど様々だった。

10-06

 ほぼ全員の推薦でメンバーに選ばれた美紀子は、そのスタイルの良さに、案の定みんなの視線を集め、美紀子は少し恥ずかしそうな表情を見せた。黒猫リーの催眠電波を浴びせられた詩織と圭子も一緒だったが、今は催眠状態ではなかったので、何事もなく時間が過ぎていった。
 メンバーたちは軽い柔軟体操をした後、理恵の指導で振り付けの練習を始めた。最初はみんなぎこちなかったが、練習していくにつれて、少しずつ様になってきた。それで理恵はみんなを激励しながら丹念に振り付けを教え、居合わせたメンバー達も一生懸命に練習した。そして下校時間がきて練習を終了し、教室に戻って制服に着替えると、みんな揃って学校の外へ出た。美紀子はいつものように家の前で詩織と別れると家の中に入った。帰宅すると源太郎が事務所で仕事をしていた。
「美紀子お帰り」
「ただいま」
 美紀子は事務所にいる源太郎に挨拶すると、二階に上がって自分の部屋へ入り、着替えた後ベッドに横になって天井を見上げた。今日の昼の詩織の様子が気になったのだ。が、詩織が黒猫リーの催眠電波で操られているという事までは気付かなかった。

        *     *     *     *

 翌朝…
 美紀子はいつものように自宅を出て学校へ向かった。しかし今日は詩織が迎えに来なかったので美紀子は一人だった。学校に着いて、いつものように教室に入ると、数人のクラスメートがいたが、詩織はまだ来ていなかった。
「おはよう」
「おはよう」
 美紀子が自分の席の前まで来ると、理恵がそばにやってきた。
「紅林、今日から昼休みにも練習するから、食事が終わったら屋上に来てね」
「分かった」
 間もなく始業時間になるというギリギリの時間になって、ようやく詩織が教室に入ってきた。少し遅れて圭子も入ってきて、そのすぐ後ろから担任の祥子が教室に入り、朝のホームルームが始まった。
 昼休みになり、食事を終えた美紀子はチアリーダーの練習に参加するため、屋上へ行こうとした。が、美紀子はまたもや担任の祥子に呼び出された。祥子は美紀子のテニスの腕がプロ級なのを見て、何としてもテニス部に入部させたかった。それで時々説得するために自分の元に呼んでいたのだが、これまで美紀子にうまくかわされていたのが面白くなかったので、今日こそはと思って再び美紀子を呼び出したのだ。
 その頃屋上では2年B組の生徒たちが集まり、チアリーダーの練習を始めるところだった。昼休みなので、みんな制服姿だった。美紀子がまだ来ないため、理恵は詩織に聞いた。
「松島、紅林は?」
「呼び出されて職員室へ行った」
「(何だか素っ気無い返事ね… ) まぁいいわ。じゃみんな! 練習始めるよ」
 理恵がそう言って声をかけると同時に、突然一匹の黒猫が現れ、理恵やクラスメートのそばに走ってきて、泣き声を上げた。
「何この猫… 一体どこから来たの?」
 居合わせたみんなが口々にそう言っていると、黒猫は黒猫リーの姿になり、奇声を上げた。
「キャーッ!」
 突如現れた怪人に、みんなは一斉に騒ぎ出した。黒猫リーはそれにかまわず、みんなに向けて催眠電波を放った。
「ニャーゴー! お前らも俺様のしもべになれぇ。憎っき紅林美紀子を抹殺するのだ。ニャーゴー!」
 ちょうど同じ頃、職員室に呼ばれていた美紀子は、チアリーダーの練習があるからと言って何とかその場を凌ぎ、職員室を出て屋上へ向かった。しばらくして祥子は自分の席を立って職員室を出ると、美紀子の後を追っていった。
「紅林さんを勧誘するのは別として・・・ 私・・・ 一応担任なんだし、自分のクラスの出し物を見ないわけにはいかないわね」
 
 屋上に上がった美紀子は、練習をしているクラスメートの所へ駆け寄っていったが、近くまで来た途端、突然取り囲まれた。その様子がおかしいと直感した美紀子は、みんなの顔を眺めた。すると、みんなの目が据わっていて、自分の方へ攻撃を仕掛けてくるような雰囲気だった。
「一体どうしたのみんな!? 私よ」
「紅林美紀子は我々の敵だ。だから殺す」
 詩織を含めた、周りを取り囲んでいたクラスメート達が口々にそう言い、美紀子に向かってジリジリと近寄ってきた。
「やめてみんな! 一体どうしちゃったのよ」
「こういう事だ! 死んでもらうぞ紅林美紀子!」
 言葉と同時に、黒猫リーが姿を現した。
「お前はクイーンリリーのエージェント! 私のクラスメート達に何をしたのよ!?」
「こいつらは俺様の催眠電波で、俺様のしもべになったのだ。さあ! 行け! 我がしもべ達よ! そこにいる紅林美紀子を血祭りに上げるのだ」
 美紀子は戸惑った。クラスメート達と戦うわけにはいかない。だが、みんなは包囲の輪を縮め、美紀子に迫ってきた。そこへ美紀子の後を追ってきた祥子が屋上に上がってきた。祥子はみんなの様子がおかしいのに気付いて、小走りに近付いてきた。

10-07

「何してるのあなたたち!?」
 祥子に気付いたみんなは、一斉に祥子の方を向き、美紀子は、祥子に向かって叫んだ。
「先生危ない! こっちへ来ちゃダメ! 逃げて」
「えっ?」
「そうはいくか」
 そう言って黒猫リーは高くジャンプして、祥子の前に着地した。黒猫リーの得体の知れない異様な姿に、祥子は驚いて体が硬直した。
「な、な… 何なのあなたは!??」
「俺様は黒猫リーだ。俺様の姿を見た者は死んでもらう」
 祥子の危機を見た美紀子は、ダッシュして、自分を囲んでいたクラスメート達に体当たりし、無理矢理囲みの外へ出ると、黒猫リーを突き飛ばした。不意をつかれた黒猫リーは、そのまま反動で屋上の床に叩きつけられた。
「おのれ! よくもやったな。ええい! 者ども! こいつらを殺せ! 血祭りに上げろ。ニャァーゴォーッ!」
 黒猫リーはこれまでと違う甲高い奇声を上げた。それと同時にクラスメート達の手にそれぞれナイフが握られて、一斉に美紀子と祥子に向かってきた。
「みんなやめて! やめなさい!」
「ダメよ先生! みんな正気じゃないのよ。私が何とかするから、早く逃げて」
「何とかするって… あなたに何が出来るのよ」
 言い合っている間に洗脳されたクラスメート達が一斉に向かってきた。
「先生! 早く出て」
 美紀子は言うが早いか、祥子を通路の中に突き飛ばすと、屋上の出入り口の扉を閉めた。
「紅林さん。何してるの!? 開けなさい。開けなさい!」
 祥子は扉をガンガンと叩きながら叫んだが、何を思ったのか、駆け足で階段を下りていった。美紀子は扉を閉めるとジャンプして、向かってくるクラスメート達を飛び越え、みんなの後ろに着地すると、向かってくるクラスメートに向かってポーズをとった。
「スカーレットスパーク-エンジェルチャージ!!」
 美紀子はスカーレットエンジェルに変身した。が、どうやって戦うか迷った。エージェントや戦闘員ならばともかく、襲ってくるのは自分のクラスメート達である。その中には詩織や圭子もいる。黒猫リーは遠くからこっちの様子を覗っているだけで、戦う気配を見せていない。
「畜生! 化け猫め! 自分は高みの見物かよ!?」
 そう言ってるうちに、詩織と圭子が真っ先に飛びかかってきた。手には凶器のナイフを持ち、スカーレットエンジェルに斬りつけてきた。
「やめて! 詩織。圭子。私よ」
 美紀子は攻撃を避けながら必死に叫んだが、洗脳されているクラスメート達は次々と襲いかかってくる。後ろからは黒猫リーが盛んに煽っている。
「やれ! 殺せ! スカーレットエンジェルを消せ」
「(ダメだ! このままだとみんなを傷つけてしまう) よし!」
 スカーレットエンジェルはスティックを出すと、空に向けて掲げた。
「エンジェルフラッシュ!」
 スティックが強烈な閃光を発し、空から光のシャワーが降り注いで、詩織や圭子、そして周りにいたクラスメート達が、光の眩しさに顔を両手で覆い、やがて力が抜けたように次々とバタバタと倒れて気を失った。
「くそっ! おのれスカーレットエンジェル。勝負はお預けだ。次は必ず殺してやる。ニャーァゴーッ!!」
 黒猫リーは黒猫の姿になると、屋上からジャンプして飛び降りて消えた。スカーレットエンジェルはそれを見て変身を解き、美紀子に戻った。その時出入り口の扉が開いて祥子と養護教諭の千尋を先頭に、三~四人の教師が屋上に出てきて、倒れているクラスメート達の所へ駆け寄って声をかけたり、体を揺すったりした。
「みんなしっかりして」
 倒れていたクラスメート達は、既に黒猫リーの催眠が休止状態になっていたので、何事も無かったかのように立ち上がった。千尋は美紀子を含めてみんなを一通り見回し、大丈夫だと確信してから祥子と他の教師たちにに言った。
「みんな外傷はないし・・・ 大丈夫みたい」
「そうですか・・・ 分かりました」
 祥子はホッとしたような言い方をしてから、屋上を見回し、今度は美紀子のそばに来た。
「紅林さん、さっき見た怪物は?」
「逃げました」
 祥子はもう一度周囲を見た。その間に千尋と二人の教師を含め、他のみんなは屋上から出て行って、最後に祥子と美紀子が残った。祥子は夢を見ているような気分だったが、自分の目で見た現象が焼き付いて離れなかった。
「紅林さん。午後の授業が始まるから行くわよ。それから放課後職員室に来なさい」
 祥子は踵を返して、屋上の出入り口から下へ下りていき、美紀子もその後に続いた。

        *      *      *      *

 アジトに戻ってきた黒猫リーは、司令室でクイーンリリーのメッセージを聞いていた。
「黒猫リー! いよいよお前の本当の力を使う時が来た。催眠電波でスカーレットエンジェルの仲間を操り、スカーレットエンジェルを襲わせたのは、本来の作戦を秘匿する目的があったからだ。今のスカーレットエンジェルならば、仲間の事が気掛かりで、我々の作戦には気付いていまい」
「その通りです。クイーンリリー様」
「よし! 早速準備にかかるのだ。お前のもう一つの武器、殺人超音波を日本全国に流して人類を殲滅するのだ」
「かしこまりました。クイーンリリー様… 」
 黒猫リーは会話を終えると、戦闘員達に向き直った。
「ニャーゴォーッ!! 人類殲滅作戦の準備を始めるのだ。だがその前に、目障りなスカーレットエンジェルを何としても始末してやる。俺様の殺人超音波で、やつの脳みそをグチャグチャに破壊してやるのだ。者どもついて来い!」
「ヒャイーッ!」
 黒猫リーはアジトにいた戦闘員を全員連れて、アジトから出た。

        *      *      *      *

 その日の放課後… 
「紅林さん。私が納得出来るような説明をしてちょうだい」
「説明って言っても… 」
 職員室では祥子が美紀子に詰め寄っていた。昼休みの屋上での奇怪な出来事といい、これまでの美紀子の態度といい、祥子にとっては全てが不可解な事ばかりだった。しかも全ての事柄に美紀子が絡んでいるため、祥子は美紀子を不審人物、もしくは問題児と見なしていたのである。
「一体あなたは何者なの? さっきの事件といい、みんな貴方に関係があるじゃないの。それにあなたのあの身のこなし… とにかく、私が納得できるように説明するまでは、あなたを帰すわけにはいかないわ」
 美紀子は返答に困った。自分が宇宙人であることや、さっきの化け物がクイーンリリーという宇宙から来た侵略者の手下だと言っても、信じてもらえないだろうし、そんな事を言ったらかえって怪しまれると思ったので、何も言えなかった。
「なんとか言いなさいよ! 黙ってちゃ分からないじゃないの!」
 祥子は力任せに机を手のひらで叩き、近くにいた他の先生たちがビックリして祥子と美紀子の方を向いた。そこへテニス部の一年生部員が職員室に入ってきて、祥子の所へ来た。
「先生。部活始めますんで、来て下さい」
「そう・・ じゃ今行くからって、みんなに言っておいて」
「はい」
 テニス部員の子が去っていくのを見届けてから、祥子は美紀子の方を向いて言った。
「これで終わったわけじゃないからね。今日あなたの家に家庭訪問に行くから、必ず家にいるのよ」
「は、はい」
「それじゃ、今日のところはもういいから帰りなさい」
 美紀子は職員室から出て行き、教室に戻ると鞄を持って教室を出た。既に校舎内には人影が無く、校庭で部活をやっている生徒達の声だけが聞こえてくる。美紀子は玄関で靴を履き替えると、校舎の外へ出た。そこへさっき職員室に来たテニス部の子が、真っ青な顔をして美紀子の元に駆け寄ってきた。
「助けて… 助けて!」
「どうしたの?」
「みんなが… みんなが変なんです。いきなり私の事襲ってきて、助けに来た先生が捕まって… 」
「え? (まさかテニス部の人たちまで… ) 分かった。一緒に来て」
 助けを求めてきたのはテニス部の一年生部員で、名前を小牛田淳子といい、新人戦の前に美紀子が臨時コーチをしていたのを知っていたので、美紀子の顔を見るなり助けを求めてきたのだ。美紀子は淳子を伴い、テニスコートへ向かった。するとコートの周辺では部員達が集まり、さらにクラスメート達も混じっていて、祥子が人質同然でその中にいた。
「(おそらくみんな、あの化け猫に洗脳されているに違いない… )」
 美紀子と淳子は、物置の陰に隠れ、テニスコートの様子を覗っていた。すると、黒猫リーが戦闘員を伴って現れ、黒猫リーは祥子を捕まえて、コートのフェンスに縛りつけてさらし者にした。
「みんな一体どうしちゃったのよ。それにあの化け物は何? 先輩ぃ… 先生が殺されちゃうよぉ… 何とかしてぇ」
 一緒に様子を見ていた敦子が涙声で美紀子に言った。
「分かった! 分かったから大きな声を出さないで」
「美紀子」
 突然後ろから声がして、驚いた美紀子と淳子は振り向いた。するとそこに明美が立っていた。
「キャプテン!」
「明美。あんた無事だったの?」
「うん。図書室へ本を返しに行ってたから、みんなより遅れて行ったのよ。そうしたらテニスコートに例の連中が現れて大変な事になってたから、美紀子の事を捜していたわけ。いてくれてホッとしたわ。私・・・ 美紀子がピンチだったら、いつでも傍に来るよ。私には美紀子みたいな力は無いけど、私に出来る事なら何でもするから。私たち親友同士じゃない」
 美紀子は明美の目を見て黙って頷いた。そして傍にいる淳子に言った。
「君はここにいて! 何があっても絶対にここから動いちゃダメよ。分かった!?」
「は… はい」
 美紀子と明美が出て行こうとした時、黒猫リーがフェンスに縛られている祥子を指差して叫んだ。
「ニャーゴー! 紅林美紀子出てこーい! 学校の中にいることは分かっているのだ。出てこないとこの女を、俺様の爪で八つ裂きに引き裂いてやるぞお!」
「やつら… みんなを洗脳して操っているのね… 美紀子どうする?」
「明美。ちょっと耳貸して」
 美紀子は小声で明美に何かを話し、明美は分かったと言うような仕草で頷いた。
「明美。行くよ」
 黒猫リーが再び祥子を指差し、大声で怒鳴り散らした。
「どうした!? 紅林美紀子。早く出てこーい! 出てこないとこの女をぶっ殺すぞ! 五つ数えるうちに姿を現せ。一つ… 二つ… 三つ… 四つ… 」
「待ちなさい!」
 明美が出て黒猫リーの前に立った。
「ん… ?? なんだお前は? お前なんかに用は無い。紅林美紀子はどこだ」
「私はここよ!」
 黒猫リーが声のした方を向くと、フェンスの角の上にスカーレットエンジェルが立っていた。
「出たな! スカーレットエンジェル。今度こそお前を殺してやる。それ! 我がしもべたちよ! やつを殺すのだ。ニャアァーゴー」
 黒猫リーのかけ声で、傍に集まっていたクラスメートたちやテニス部員達が、スカーレットエンジェルの方を向き、近付いてきた。
「今だ!」
 スカーレットエンジェルはフェンスの上からジャンプすると、空中から威力をセーブしたエンジェルスマッシュを放った。
「エンジェルスマッシュ!」
 スカーレットエンジェルのエンジェルスマッシュが、下にいたみんなにシャワーのように降り注ぎ、みんなの体が眩しい光に包まれた。スカーレットエンジェルが着地して、みんなの方を振り向くと同時に、全員がその場で倒れて気を失い、フェンスに縛られていた祥子も同様に気を失った。
「やい化け猫! 覚悟しろ! お前の作戦はこれで終わりだ」
「何を小癪な! それっ! 者どもかかれ!」
 戦闘員がスカーレットエンジェルに向かってきて、スカーレットエンジェルとの格闘戦になった。後ろからは黒猫リーも近付いてきた。
「みんなスカーレットエンジェルに引き付けられてる。今だわ」
 明美はそう呟くと、持っていたカッターナイフで、フェンスに縛りつけられた祥子のロープを切った。そして気絶している詩織の傍に駆け寄り、詩織の体を揺すった。
「詩織! 詩織。しっかりして」
「う… う~ん」
「詩織しっかりして」
「明美… 」
 詩織は目を覚ますと、明美に支えられながら立ち上がった。
「あれ、あたし… 何でこんなとこに」
「あんた、あの化け猫に操られてたのよ。そこで気絶しているみんなもよ」
 明美に言われ、詩織が見渡すと、自分の周りでクラスメート達やテニス部員達が倒れている。その向こうではスカーレットエンジェルが戦っているのが見えた。
 戦闘員はあらかた倒され、スカーレットエンジェルは黒猫リーと戦っていたが、黒猫リーは動きが素早く、しかも両手の鋭い爪のため、スカーレットエンジェルは苦戦していた。それにスカーレットエンジェルは必殺技を放つためのブレードが無く、さらなる苦戦を強いられていた。黒猫リーは素早く身をかわし、スカーレットエンジェルの懐に飛び込んできて、両手の鋭い爪を突きたててきた。スカーレットエンジェルは身を翻しながら、黒猫リーの攻撃をかわしたが、黒猫リーの素早い動きに翻弄され、ついにスカーレットエンジェルは黒猫リーに抱きつかれ、そのまま地面に押し倒されて押さえこまれ、身動きが取れなくなった。
「ニャーゴー! お前の顔を二目と見られなくなるように切り裂いてやる」
「やばい! スカーレットエンジェルがやられる」
 成り行きを見ていた詩織と明美は同時に叫び、スカーレットエンジェルを助けようと向かっていったが、戦闘員が襲ってきて、詩織は明美を庇いながら戦闘員と格闘した。黒猫リーは右手を振り上げると、スカーレットエンジェルの顔めがけて鋭い爪を振り下ろした。
「えいっ!」
 スカーレットエンジェルは満身の力を込め、両足で黒猫リーの体を持ち上げて、柔道の巴投げのような技をかけて黒猫リーを投げ飛ばした。黒猫リーの体がボールのように空中を飛んだが、身軽な黒猫リーは軽々と地面に着地した。
「おのれ! スカーレットエンジェル! 俺様のもう一つの必殺武器を受けてみろ! ニャアァーゴーッ!」
 黒猫リーは口を大きく開け、甲高い奇声を上げて、殺人超音波を放った。
「キャーッ!! あ… 頭が… 頭が割れるぅーッ!」
 スカーレットエンジェルは両手で頭を押さえて苦しみ、スカーレットエンジェルの近くにいた戦闘員も殺人超音波で悶絶して、そのまま倒れて絶命した。黒猫リーはスカーレットエンジェルの悶絶する姿を見て、勝ち誇ったように言った。
「どうだスカーレットエンジェル! 出力を最大にして、お前の脳みそをグチャグチャに破壊してやる。ニャァァァーゴーッ!!」
「あ゛ぁぁぁぁーっ!! ウワアァーッ」
「スカーレットエンジェル! しっかりしてぇ」
 明美はスカーレットエンジェルに向かって叫んだが、スカーレットエンジェルは苦しさに悶絶し、明美の声は届かなかった。詩織の方を見ると、詩織は戦闘員と格闘するのが精一杯で、スカーレットエンジェルを助けるどころではない。その時明美はテニスコートの外に落ちているラケットとボールが目に入った。明美は駆け出すと、落ちているラケットとボールを拾った。
「今度は私が美紀子、いや、スカーレットエンジェルを助ける番よ」

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 明美はサーブの態勢をとってボールを空高く放り投げ、黒猫リーめがけて思いっきりボールを打ちこんだ。黒猫リーはスカーレットエンジェルに気を取られ、明美の動きに気付いていなかったが、明美がボールを打つ音でその方向を向いた。同時に明美の打ったテニスボールが、黒猫リーの大きく開いた口に入り、はさまって抜けなくなった。
「ぐ… ぐぇ、ぐえぇーっ!」
 黒猫リーは両手で口に挟まったボールを取ろうとしたが、鋭いスピードで口に入ったボールは取ることが出来なかった。明美はそれを見て、スカーレットエンジェルに向かって叫んだ。
「スカーレットエンジェル! 今よ」
「明美ありがとう」
 スカーレットエンジェルは、口に挟まったボールを取ろうとして、もがいている黒猫リーに向かって身構えると、黒猫リーに向かってダッシュして、至近距離から黒猫リーの口めがけて両手を伸ばした。
「エンジェルスマッシュ!!」
 エネルギー波が黒猫リーを直撃し、口の奥のほうにあった超音波発生装置を破壊して爆発した。祥子はそのときの衝撃で気がつき、目の前の光景を見て、信じられないといった顔をした。テレビアニメのヒロインのような姿をした女の子が立っていて、その傍らには昼間見た猫の怪物が口の中から煙を出してもがき苦しんでいる。
「な・・・ 何なの一体??」
 スカーレットエンジェルは空高くジャンプして一回転してから急降下した。
「エンジェルキック!!」
 スカーレットエンジェルのキックが黒猫リーを直撃し、黒猫リーは反動で空中を一回転して地面に叩きつけられてからヨロヨロと立ち上がった。
「ぐ・・・ グエェ・・・ ニャァーゴーッ!!」
 黒猫リーは断末魔の叫び声を上げながら前のめりに倒れ、大音響とともに爆発して木っ端微塵に吹っ飛んだ。
唖然として見つめている祥子に向かってスカーレットエンジェルが詩織と明美を連れて近付いてきた。その瞬間、スカーレットエンジェルの姿が光に包まれ、光が消えたときに美紀子の姿になった。
「べ、紅林さん!」
 祥子はさらに驚いた。美紀子はそのまま祥子の前までやってきて止まった。
「ごめんなさい先生。私・・・ 地球人じゃないんです」
 祥子は無言のままゴクンと唾を飲み込んだ。美紀子はさらに続けた。
「私は本当は宇宙戦士で、スカーレットエンジェルといいます」
「ス・・・ スカーレット・・・ エンジェル??」
 美紀子は、まだ信じられないといった顔をしている祥子を見ながら、静かな口調で祥子に言った。
「あの… 私・・ もうこの学校に居られなくなるんですか?」
 美紀子は自分の正体を担任の祥子にまで知られてしまい、もう学校を辞めなければならないと思ったのだ。
「な・・ 何言ってるの? こんな事であなたが退学になるわけないでしょ。私が絶対そんな事させないわ。あなたの秘密は守るから。誰にも言わないって約束するわ」
「ありがとうございます」
「でも、だからといってあなたの事を特別扱いしないからね。その事は分かってちょうだいよ」
「はい」
 詩織と明美は祥子の言葉を聞き、ホッとした表情で胸をなでおろした。幸いなことに、スカーレットエンジェルが美紀子であることを知ったのは、担任の祥子だけで、物置の陰に隠れていた淳子はずっと身を屈めていたので何も見ておらず、他のクラスメートやテニス部員達も、気絶したままだったので当然の事ながら何も見ていなかった。

        *     *     *     *

「黒猫リーの大馬鹿者めが! スカーレットエンジェルなど構わずに作戦を実行していればいいものを。せっかくの人類殲滅作戦が台無しになってしまったではないか」
 クイーンリリーは持っていた鞭を床に叩きつけ、すごい剣幕でまくし立てていた。
「ご心配いりません。クイーンリリー様。私めが必ずスカーレットエンジェルを抹殺してご覧に入れます」

10-09

 傍にいたホーネットリーが、クイーンリリーを宥めるように言った。クイーンリリーは少し考えてから、ホーネットリーに返事をした。
「まあ待て。ホーネットリー。もう間もなく我が組織の結成が成る。既にその下準備は終わり、いよいよ我らが軍団『ブラックリリー』が結成される時が来るのだ。それまではスカーレットエンジェルを殺すな。やつはブラックリリー結成の時に、その引き出物として生贄にするのだ」
「そう言う考えでしたか。ならば私はそれまでにやつの弱点を探り、いつでも倒せるような段取りをしておきましょう」
 クイーンリリーの傍らには、今まで見たことの無い新しい怪人がいた。その名は『ホーネットリー』といい、スズメバチをモチーフとしていた。このホーネットリーの作戦は何なのか・・・ ホーネットリーはクイーンリリーに敬礼すると、アジトから出て行った。

        *      *      *      *

 体育祭の前日… 
 放課後の屋上では、美紀子たちのクラスの雄志であるチアリーダーたちが屋上に集まっていた。みんな揃いのコスチュームに身を包み、揃いのバレーシューズを履いて一列横隊で整列した。しかしソックスだけは残念ながら揃わなかった。そこで手っ取り早く揃えられて、なおかつ脚を綺麗に見せられるという意見から肌色のストッキングを履くことが決まった。既に一通りの練習が終わって、後は明日の本番を迎えるだけだった。最後になって、リーダーの理恵が出て、みんなの前で話をした。
「おかげさまで明日体育祭です。みんなの演技の振りつけも身に付いて、これで心置きなく本番を迎えられます。みんな今までありがとう」
 話が終わると同時に、みんなから拍手が沸き上がった。
「それじゃ今日はこれで解散します。みんな明日に備えて、今日はゆっくり休んでください」

 そして体育祭当日… 

10-10

 催し物のプログラムが次々と行われ、やがて美紀子たちのクラスの雄志が行うチアリーディングの順番が回ってきて、美紀子たちは勇躍グラウンドで演技を披露した。フィニッシュの技が決まった瞬間、ギャラリーから大きな拍手が沸き起こり、美紀子達は自分達の演技が充分なものであったことを実感した。しかも体育祭終了後の表彰式で、2年B組のチアリーディングは最優秀賞に選ばれ、美紀子たちはみんな抱き合って喜んだ。
 演技が終わった後で、美紀子たちは全員で記念写真を撮り、そのあとでそれぞれ個々で写真を撮った。美紀子は詩織、圭子と三人でそれぞれのポーズを取ってフィルムに収まった。

10-11


        *      *      *      *

 クイーンリリーの作戦は、怪人黒猫リーのミスによって再び挫折を余儀なくされ、街には一時的な平和が訪れた。しかし、クイーンリリーの組織結成の準備は着々と進み、またホーネットリーは不気味な行動を見せている。スカーレットエンジェル、つまり紅林美紀子は、次の戦いに備えなければならないのである。


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 次回予告
 ☆第11話 謎の女性怪人☆

 クイーンリリーは秘密結社結成の前哨戦として怪人キノコリーを使い、貯水池に猛毒を流して人類皆殺し作戦を企む。その作戦行動を偶然見てしまった朋子は、好奇心に駆られてその行動を探っているうちに見つかって捕えられ、キノコリーの毒胞子で仮死状態になってしまう。朋子の持っていたカメラに入っていたフイルムを現像し、写真に写っていたキノコリーを見て、美紀子は阻止行動に出るが、その美紀子の前にもう一人の別の怪人ホーネットリーが現れる。スカーレットエンジェルは全身毒の塊のようなキノコリーに勝てるのか? そしてもう一人の怪人ホーネットリーの目的は何なのか?

 次回 謎の女性怪人にご期待ください
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テーマ : ライトノベル
ジャンル : 小説・文学

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