鷲尾飛鳥

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第17話『助けて! 学校がミイラに襲われる』

2012年 01月09日 17:59 (月)

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 〇〇高速道路の鷲尾平インターチェンジを一台のトラックが国道に下りてきた。トラックは鷲尾平の市内を東へ向かって走りぬけ、市外へ出ると北へ進路を変えて、田園地帯のほぼ中心にある倉庫の前で停止した。
 荷台からは厳重に梱包された木箱が下ろされ、倉庫の中に運びこまれて、倉庫の扉が閉じられた。さらに倉庫内にある地下へ通じる階段を下りて、地下にある大きな部屋の中へ運びこまれた。運んでいた人間はその場で戦闘員の姿になり、部屋に待機してた戦闘員や白衣を着た科学班の面々と敬礼をかわした。
「イーッ! ただいま信州の某所にて発見されたミイラが届きました」
「よし! すぐに箱を開けろ」
 梱包された箱が開けられ、中からは全身を包帯に包まれた一体のミイラが出てきた。そこへスピーカーからクイーンリリーの声が響いてきた。
「そのミイラを使い、人間と合成して改造人間を作り、今度の作戦に使うのだ」
「イーッ! かしこまりました。クイーンリリー様。早速段取りいたします」
 数人の戦闘員がアジトから出ると、お互い示し合わせて乗用車とトラックに分乗して何処へとも無く走り去っていった。

      *      *      *      *

 ここは東京都の某所にある刑務所である。夜であるため、周囲はひっそりとしていて薄気味が悪い。今、その刑務所の高い塀を数人の人影が飛び越え、敷地の中に侵入した。そして敷地の中をサーチライトの光を避けるように走りぬけ、一つの建物の前で止まった。
「ここだ… この建物に独房がある」
「よし! 打ち合わせ通りに行動開始」
 人影の正体はブラックリリーの戦闘員だった。一隊はロープを持つと、建物の屋上めがけてロープを投げた。次々とロープが屋上にかけられ、戦闘員の一隊がロープを伝って屋上へ登った。暫くして建物の入り口が開けられ、中から戦闘員が出てきて、外で待機していた戦闘員の一隊を中へ導いた。建物の中に侵入した戦闘員達は、一つの部屋の前で止まった。
「この部屋だ」
 戦闘員が止まった部屋の中には、凶悪犯113号がいた。113号は名前を鬼頭清和(33歳)といい、今から約10年ほど前に起きた東京都内のスクランブル交差点で20人を殺傷した、連続通り魔殺人と強盗傷害などの罪で死刑が確定し、10年近くこの独房で死刑執行の日を待っていた。戦闘員たちは扉の鍵をこじ開けると、独房の中に入り、中で寝ていた鬼頭を起こした。
「起きろ!」
 目を覚ました鬼頭は、目の前に立っている奇妙な姿をした戦闘員を見て驚いた。
「な… なんだお前ら!?」
「死刑囚第113号。我々はお前を助けに来た。大人しく我々と一緒に来るのだ」
「助けに来ただと? どういう事だ」
「いいから来い」
 戦闘員の一人が鬼頭の顔めがけて麻酔ガスを噴きかけ、鬼頭はその場で気を失った。
「運び出せ!」
「イーッ!」
 気絶した鬼頭を戦闘員達が担いで運び出し、建物の外へ出た。暫くして異変に気付いた刑務官達が駆け付けて来て、鬼頭の閉じ込められていた独房の前に来た。
「おい! 大変だ! 113号がいないぞ」
 刑務官たちがあわてて刑務所内外を駆け回り、そして刑務官の一人が、出入り口に集まっている戦闘員と戦闘員が抱えている鬼頭の姿を見て叫んだ。
「あそこだ! 捕まえるんだ」
 サーチライトが出入り口を照らして、奇怪な戦闘員達の姿を映し出した。
「なな・・ なんだお前達は!? その男をどうするつもりなんだ」
「この男は我々がいただく。さらばだ」
 戦闘員の一人が爆弾のようなものを投げつけると、轟音とともに火柱が上がって煙が立ち込め、煙が消えた時には鬼頭の姿も戦闘員達の姿も消えていた。数時間後、アジトに連れてこられた鬼頭は、手術室の台の上に手足を拘束されて寝かされていた。鬼頭の隣には例のミイラが横たわっていて、周りには科学班と戦闘員達がいた。目を覚ました鬼頭は、周りにいる戦闘員たちに向かって怒鳴った。
「おい! ここは何処だ。俺をこんな所に連れてきて、どうするつもりだ」
 その時スピーカーからクイーンリリーの声が響いた。
「我々ブラックリリーはこれからお前の改造手術を行う。我がブラックリリーのエージェントとして、世界征服のために働いてもらうのだ」
「ブラックリリー? 世界征服? 何だそりゃ。お前ら頭おかしいんじゃねえのか? くそぉ! こいつを外して俺を自由にしやがれ」
「何を言うか。このままだったら、遅かれ早かれお前は死刑になる運命なのだぞ。死刑になるくらいなら、生きてやりたい放題の事をした方がいいではないか。我々に従えばお前はやりたい放題のことが出来るのだぞ。おとなしく我々の言う通りにするのだ」
 スイッチが入れられ、電流が流れて、鬼頭は台の上で絶叫しながら悶絶し、数分後に気を失った。科学班の一人がリリー球根を持ってきて、鬼頭とミイラの間に置いた。電圧が上がり、手術台が赤く光ってリリー球根が大量の根を出し、鬼頭の身体とミイラに次々と突き刺さった。数時間が経過して鬼頭とミイラがお互いに引き合い、一つになって醜怪な怪人の姿になった。そこでスイッチが切られて電流が止まり、横たわっていたミイラ怪人が起きあがった。
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「ミミミミミーッ!! 俺様はミイラリーだぁ」
クイーンリリーの言葉がスピーカーから流れてきた。
「お前の役目は、我がブラックリリーが開発した特殊細菌を使い、奴隷人間を作り出す事だ。手段は問わない! どんな方法でもいいから、奴隷人間どもを増やし、我がブラックリリーが征服作戦を円滑に行えるようにするのだ」
「かしこまりました。クイーンリリー様」

      *       *       *       *

 それから何事も無く数日が経過した。今日は日曜日の午後である。緑ヶ丘公園の一角にあるスポーツセンターのテニスコートでは、明美と結花がテニスを楽しんでいた。
 前日、明美と圭子が美紀子をテニスに誘った時、明美が美紀子に結花を連れてくるよう頼んでいたのだが、美紀子が結花にその話を持ちかけたら、結花はすごく喜び、是非一緒にやりたいと言ったので、美紀子は結花を連れてきたのである。詩織もお付合いだといって一緒に来ていた。美紀子と圭子、詩織はコートの外で二人のプレーの成り行きを見ていた。
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「結花のやつ・・・ ずいぶん腕を上げたわね。あたしじゃもう相手が出来ないわ」
「美紀子。明美と渡り合うなんて、結花ちゃん結構やるじゃないの」
「うん… 私も時々相手をするんだけど、初めてやった時よりも腕を上げているわ」
「出来れば将来うちの学校に欲しいな… 」
「でも、結花ちゃんが入ってくる時は、明美も圭子も卒業した後なんだよね・・・」
「そうなんだよね… 私たちの下で直接指導出来ないのが残念なんだけど、結花ちゃんが入ってきたら、きっと聖陵学園は強くなるよ」
 そうこうしているうちに明美が思いっきりスマッシュを打ち、結花の真横をボールが鋭いライナーとなって抜けていった。結花は全く手が出せずに立ち尽くしていたが、我に返ってネットの前まで小走りに駆けていった。明美もやってきて二人はお互いに握手した。
「結花ちゃん。なかなかやるじゃない」
「ありがとうございます先輩。とっても楽しかったです」
 結花はコートの外に出てくると、美紀子の所に駆け寄ってきた。
「美紀子姉さん。今日は誘ってくれてありがとう」
「結花ちゃん。お礼なら明美に言って。今日の仕掛け人は明美なんだから」
 そこへ明美が声をかけてきた。
「次は圭子と美紀子の番だよ」
「行こうか」
 圭子は美紀子を促してコートに入ってプレーを始め、明美と結花はそれぞれ左右の審判席に座って圭子と美紀子のプレーを観察した。詩織はベンチに座って成り行きを眺めていた。
 しかし、そんな和やかな雰囲気もつかの間・・・ ミイラリーの魔手が美紀子たちに近付きつつあった。ミイラリーは戦闘員たちを引き連れて緑ヶ丘公園に侵入し、獲物となる人間をあさっていたのだ。季節は冬だったが、今日は日曜日で、しかも気温が高かったので、公園内では散歩をしている人たちが結構いたのだ。ミイラリーはブッシュの陰に隠れて人が近付いてくるのを待ち伏せし、自分のそばまで来たところで姿を現して、人間を奴隷にしてしまう細菌ガスを吹きかけ、次々と仮死状態にしていた。
 ミイラリーの細菌ガスを浴びた者はその場で仮死状態になり、戦闘員によって車で運ばれてアジトへ連れて行かれる。そこで覚醒用の特殊な光を浴びせられ、仮死状態から覚醒状態になるのだが、その時は既に生気を失った奴隷人間となっているのだ。
 既に今日だけで10数人の人がミイラリーの餌食になり、待機してあったトラックに戦闘員たちによって次々と運ばれていた。
「ミミミミミーッ! そろそろ引き揚げるぞ。者ども、準備をしろぉ」
「イーッ!」
 引き上げの準備をしたところへ、たまたま通りかかった高校生くらいのカップルが現れ、ミイラリーらと鉢合わせした。二人は得体の知れない集団を見て、恐怖のあまりその場に立ち尽くした。
「我々の姿を見たなぁ! お前たちもミイラ細菌を食らえ」
 そう言ってミイラリーは二人に近付いてきて威嚇すると、細菌ガスを吐く態勢をとった。立ち尽くしていた二人はミイラリーの姿を見て、思わず大声で叫んだ。
「嫌あーっ!」
「ワーッ!! た、助けてくれぇーツ!」
 ミイラリーの口から細菌ガスが吐き出されて二人にまともに降りかかった。二人は逃げる間も無く、たちどころに意識を失ってその場に倒れた。その時テニスコートから出てきて帰ろうとしていた美紀子たちに、その叫び声が聞こえた。
「何? 一体・・・」
「美紀子、すぐそこだよ」
 詩織が指差した方向を見た美紀子は、真っ先にその方向へ向かって駆け出し、その後を詩織が追った。明美と圭子、結花も一呼吸置いて駆け出した。公園内の遊歩道を駆け抜けて、広場に出たところで、美紀子はミイラリーと数人の戦闘員、そしてその前に倒れているカップルの姿を見た。
「ブラックリリーのエージェント!」
「おのれ! 嗅ぎ付けてきたかスカーレットエンジェル!」
 そこへ詩織が追いついてきて、ブラックリリーの怪人と戦闘員を見るや、美紀子と背中合わせになって身構えた。さらに美紀子と詩織を追って明美と圭子、結花も広場までやってきた。
「詩織! みんなを連れて早く逃げて」
「分かった! 美紀子も気をつけて」
 そう言って詩織は美紀子の傍から駆け出すと、明美たちを促してその場から離れた。戦闘員たちがその後を追いかけようとしたので、美紀子はジャンプして戦闘員を飛び越え、行く手を阻むように着地した。
「ここから先へは行かせないわ!」
 戦闘員が襲いかかってきて、美紀子と格闘になった。
「どけどけぇ!」
 そう言いながらミイラリーが出てきて、美紀子めがけて細菌ガスを吐いた。美紀子は身をかわして避けながら、そばにいた戦闘員をミイラリーの方へ突き飛ばした。
「グギャァーッ!」
 戦闘員は細菌ガスを浴びてその場に倒れた。
「化け物! 今度は何を企んでるの!?」
「うるさぁい! お前を殺してやるぅ!」
 ミイラリーは再び細菌ガスを吐き出した。美紀子はガスを避けるようにジャンプしてバック転し、距離を置いて着地すると、変身ポーズをとった。
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「スカーレットスパーク‐エンジェルチャージ!」
 かけ声とともに美紀子の体が光に包まれ、光が消えて美紀子はスカーレットエンジェルの姿になった。
「お前たちに勝手なまねはさせない!」
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「何を小癪な! かかれっ」
「イーッ」
「イーッ」
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 戦闘員が奇声とともにスカーレットエンジェルに次々と襲いかかり、スカーレットエンジェルと格闘戦になった。その隙を伺いつつ、ミイラリーがスカーレットエンジェルに近付いてきて、身体を覆っている包帯を次々とスカーレットエンジェルめがけて飛ばしてきた。
「美紀子危ない!!」
 その時、戻ってきた詩織が大声で叫び、スカーレットエンジェルは反射的に身をかわした。飛んできた包帯はスカーレットエンジェルの脇を通過して、後ろにいた戦闘員に巻き付いた。
「イ゛―ッ!」
 包帯が絞めつけ、戦闘員は絶叫とともに押し潰されて、ペシャンコになって地面を転がり、水蒸気を上げて溶けた。それを見たスカーレットエンジェルは、顔から血の気が引いて後退りした。戦闘員の一部が詩織に向かっていき、詩織との間で格闘戦になった。ミイラリーが再び包帯を伸ばしてきて、スカーレットエンジェルに向けて飛ばしてきた。スカーレットエンジェルはブレードを出して、飛んでくる包帯を薙ぎ払い、その切っ先をミイラリーに向けた。
「エンジェルスマッシュ!」
 エネルギー波が放たれてミイラリーに命中し、ミイラリーはその反動で尻餅をついた。
「おのれ小娘!」
 ミイラリーは起き上がってスカーレットエンジェルに向かって威嚇し、攻撃態勢をとったが、そこにクイーンリリーの幻影が現れた。
「ミイラリー! 次の作戦を開始する。直ちに引き揚げろ」
「か、かしこまりました。ミミミミミーッ」
 ミイラリーと残った戦闘員はその場でジャンプし、空中で消えた。スカーレットエンジェルと詩織は、ミイラリーが消えた場所まで駆けてきて、周りを見回した。
「やつらの次の作戦って・・・ 今度は何を企んでるんだろう」
「分からない・・・ とにかく私たちもここから離れよう」
 スカーレットエンジェルがそう言ったとき、詩織が倒れているカップルに気付いた。
「美紀子、この二人を何とかしなきゃ」
 スカーレットエンジェルは変身を解いてから詩織に言った。
「急いで源太郎さんに連絡を取るのよ」
「分かった」
 詩織はポケットベルを取り出すと、発信キーを押した。このポケベルは美紀子が改造していて、無線機としての機能も持っているのだ。

      *      *      *      *

「作戦は大成功です。クイーンリリー様。人間どもは細菌で脳を冒され、無気力な奴隷人間となって、我がブラックリリーの思うがままにする事が出来ましょうぞ」
「まさにその通り。だが、ミイラリー! お前は大変なミスを犯した。お前は細菌ガスを浴びせた人間を置き去りにしてきたではないか。もし細菌を発見されて分析されれば、取り返しの付かないことになるのだぞ。早急に放置した人間を始末せよ」
「ハハーッ! 分かりました」
「それではいよいよ作戦を第二段階に移す。作戦の内容については追って指示する。それまでにお前はどんな手を使っても良いから、放置した人間とスカーレットエンジェルを始末するのだ」
「かしこまりました」
 ミイラリーはスピーカーに向かって敬礼すると、戦闘員の方を向いて言った。
「仮死状態にした人間どもはどうした?」
「イーッ! 既に一室に全て運び入れ、覚醒の準備をしております」
「よーし。案内しろ」
 ミイラリーは戦闘員の案内で、アジトの一室に入った。暫くして白衣姿の戦闘員が、光線銃のような機械を持って入ってきた。
「この機械から発するライトを浴びせれば、仮死状態になっている人間がミイラリー様の奴隷人間として覚醒いたします」
「よし。やれ」
 光線が仮死状態の人間たちに次々と浴びせられ、暫くすると全ての人間が目覚めて起き上がった。その姿は全て青白い顔をしていて、生気を失っていた。
「この奴隷人間たちを使い、スカーレットエンジェルをおびき出して始末してやる。者ども、作戦開始だ。行くぞ!」
「イーッ!」

      *       *       *       *

 その頃、美紀子たちによって病院に運ばれたカップルは、すぐに集中治療室に入れられたが、応急処置を施されて一応は大事に至らないと分かったので、一般の病室に移された。しかし意識は依然戻らず、その原因を究明する事が出来なかった。美紀子と詩織は待合室で小声で会話していた。
「美紀子。あの二人どうなっちゃったんだろう?」
「ブラックリリーの仕業に間違いないんだけど、何が原因だかまだ分からないわ」
「畜生… それにしてもやつら何てことしやがるんだ。今度は一体何が目的なんだろう」
「ところで、明美や結花ちゃんたちは?」
「大丈夫。さっき一人ずつ電話したら、みんな家に帰ってるって」
「そうか・・・」
 暫くして源太郎が、岩沼啓造という医師と一緒にやってきた。
「源太郎さん。二人は?」
「今のところは何とも言えないな。詳しいことは岩沼先生から聞いてくれ」
 源太郎は岩沼医師を促した。
「意識が無い他は全て正常の状態なんです。ただ、脳の機能が殆ど停止していて、我々もその原因が分からないんです。我々も全力を尽くしますが、今のところは意識が戻るという保証ができないんです」
 そう言って岩沼は会釈して立ち去った。
「美紀子… 何か方法は無いの?」
「原因が分かれば私が何とかして解毒剤や薬を作る事が出来るんだけど… とにかくまず原因を探る事が大事だわ」
「美紀子、詩織、ちょっと引っかかる事があるんだ」
「何?」
「この事件… もしかすると、さっきのニュースで流れていた、行方不明事件と関係があるんじゃないのか?」
「行方不明事件? さっきのニュースって、どういう事?」
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「今日だけで20人近い人が忽然と失踪したんだそうだ。それもこの鷲尾平市とその近隣に住んでいる人ばかりだ。俺はやつらが何か大きなことを企んでいるんじゃないかと思うぞ」
「つまり、失踪者を使って何かをするって事? 美紀子はどう思う?」
「私も・・・ 同じ考えよ。でも・・・ 一体何を・・・」
 美紀子がそこまで言いかけたところで、看護婦がやってきた。
「みなさん。岩沼先生が話があるって言っています。すぐ来てください」
 美紀子と詩織、源太郎は看護婦の案内で、岩沼医師が詰めている部屋に入った。
「先生、何か分かったんですか?」
「いや、そうじゃないんだが、さっきの件で私の知り合いの大学教授に電話したら、事情を聞きたいといって、ついさっき来たところなんだ。君たちの知り合いらしい」
「知り合い・・・ その人は?」
「今二人の様子を見ている」
 暫くして一人の人物が部屋に入ってきた。美紀子と詩織はその人を見て悶々とした気持ちが和らいだ。
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「名取教授… 」
「やはり君達だったのか」
 名取教授は、岩沼医師の方を向いて言った。
「岩沼君。患者を城北大学の付属病院へ移すから、至急手続きを頼む」
「分かりました。すぐに準備します」
 岩沼医師は看護婦を呼び出してから部屋を出て行き、名取教授は美紀子と詩織に向かって言った。
「あの二人の事なんだが、どうやら未知の微生物かビールスが原因しているようだ」
「未知の・・・? 微生物? それじゃ… 」
「きっと君達が戦っているやつらが開発したものだと思う。私の研究室で調べてみよう。何かが分かると思う」
「美紀子。詩織。よかったじゃないか」
「ありがとうございます。教授。お願いします」
 暫くして病室からストレッチャーに乗せられた二人が看護婦によって運ばれてきて、外に停めてあった救急車に乗せられ、名取教授に付き添われて城北大学へと向かっていった。
 そしてその日の夜… 
 病院の周辺に数人の怪しい人影がたむろし、その者達が病院内に侵入した。侵入したのはブラックリリーの戦闘員だった。病院の中は当直の医師と看護婦の他は誰もおらず、ひっそりとしていた。戦闘員達は深夜の病院内を走り、一病室の前に来た。
「ここだ!」
 戦闘員達は昼間、ミイラリーが人間狩り作戦を遂行した時にスカーレットエンジェルに現場を見られ、二人の若いカップルを、細菌ガスを浴びせた常態で放置したため、秘密を知られないように、病院に収容された二人をさらう為にやってきたのだ。しかし、二人が城北大学の付属病院に移されていることは知らなかった。戦闘員達は病室に侵入するとベッドに横たわっている患者を見つけ、近付いて布団を引っぺがした。その瞬間、戦闘員達の間に驚きと動揺が走った。寝ていたのは例のカップルではなく、スカーレットエンジェルだったからだ。
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「あの二人じゃなくて残念だったわね! お前達が来る事くらい私にはちゃんと分かっていたのよ。さあ! お前達が何を企んでいるのか、教えてもらおうかしら」
「くそッ! 罠だったのか。やっつけろ!」
 戦闘員達が一斉に飛びかかってきたが、スカーレットエンジェルは向かってくる戦闘員を片っ端から殴り倒し、最後に残った一人を羽交い締めにした。
「さあ言いなさい! 今度は一体何を企んでいるの?」
「し… 知らん。グアァーッ!」
 戦闘員が叫び声とともに絶命した。見ると背中にナイフが刺さっている。部屋の外にいた別の戦闘員が投げたのだ。スカーレットエンジェルは逃げる戦闘員を追って病院の外へ出た。駐車場の方から車のエンジン音が聞こえてきて、スカーレットエンジェルは駐車場へ行った。同時に一台の車に戦闘員が乗りこみ、勢いよく発進して、走り去っていった。
「逃げられたか… 」
 スカーレットエンジェルには、まだブラックリリーの今回の作戦意図がつかめていなかった。しかし機密保持のために、必ず収容された二人をさらいにやってくると直感して、病院で待ち伏せしていたのである。その時源太郎と詩織が駆け寄ってきた。
「スカーレットエンジェル。どうだったんだ?」
「私が思っていた通り、やっぱり二人をさらいにやってきたわ。まだやつらの意図が分からないけど、病院で張っていたのは正解だったわ」
「するとやっぱり機密保持ってところか… とにかく戻ろう。長居は無用だ」
 スカーレットエンジェルは変身を解いて美紀子に戻ると、源太郎の車に乗り込んだ。源太郎は美紀子と詩織が乗ったのを確認すると、アクセルをふかして発進させた。

 アジトでは、失敗して帰ってきた戦闘員に向かって、ミイラリーが捲くし立てていた。
「馬鹿者どもめ。失敗しておめおめと帰ってくるとは何事だ!」
「しかし、患者は既に別の病院に移されていたのです。それに・・・」
「黙れ! 失敗したものは死だ」
 ミイラリーは包帯を伸ばして、次々と戦闘員に絡ませて絞めつけた。
「イーッ!!」
「グギャアーッ!!」
 部屋中に戦闘員の断末魔の叫び声がこだまして、戦闘員たちは次々とミイラリーの包帯の絞めつけの圧力によってペシャンコになって床に転がり、水蒸気を上げて溶けた。
「ミミミミーッ。失敗したものは全てこうなるのだ」
 その時スピーカーからクイーンリリーの声が聞こえてきた。
「ミイラリー! 細菌を浴びせた二人の誘拐に失敗したな」
「も、申し訳ありませんクイーンリリー様。しかし・・・」
「くだらぬ言い訳をするな! それよりも作戦を急ぐのだ。細菌を浴びた二人を始末出来なかった以上、細菌を分析されてワクチンを作られてしまう恐れがある。我々の最終目的は、新兵器のネオTNT爆弾で京浜工業地帯を破壊することなのだ。そのための工作人員として奴隷人間を作り出したのだが、もはや時間が無い。お前は早急にスカーレットエンジェルを始末せよ。分かったな!」
「ハハーッ。かしこまりました」
 ミイラリーは戦闘員を集めると、早速作戦の段取りに入った。ミイラリーは自分が奴隷にした人間を作戦に使いたかったが、中途でスカーレットエンジェルに妨害されて頓挫したためにその絶対数が少なく、やむやく本作戦(工業地帯の爆破と破壊)執行用の人材としてまわすことにした。
 
      *       *       *       *

 それから三日が経過した。その日の放課後、美紀子と詩織が学校から帰ってくると、源太郎が美紀子の帰りを待っていた。
「美紀子。名取教授から電話があって、大至急来てくれって言ってたぞ」
「それじゃ何かが分かったんだ… 」
「ああ。詳しい事はお前が来てから話すって言ってた。俺は急な仕事が入ったから、往きだけは送っていくが、帰りは悪いけどお前たちだけで帰ってきてくれ」
 美紀子と詩織はお互いに頷き合い、源太郎の車に乗って城北大学へ向かった。

      *       *       *       *

 その頃、ミイラリーは戦闘員達を方々に派遣して情報を集め、スカーレットエンジェル抹殺の機会を窺っていた。そして集めた情報を元に、坂崎中学校の付近をうろついていたが、テニスコートで練習している結花の姿が目に入った。
「ん? あの小娘は先日、我々が作戦を実行した場所にいた小娘の一人だ。我々の姿を見ているかもしれん。このままではまずい。あの小娘を捕まえるのだ。ついでにこの学校を占領して新型爆弾を爆発させ、この町を全て吹っ飛ばしてやる。者ども行動開始だ!」
「イィーッ!」
 ミイラリーの指示で、戦闘員達が行動を起こした。コートでは結花と副キャプテンの築館志保が打ち合いの練習をしているところだった。ところが急にコートの外にいた部員たちが騒ぎ始め、志保と結花は練習をやめてその方を向いた。
「何騒いでるのよみんな… ば、化け物… 」
 気がついた時には部員たち全員がミイラリーと戦闘員達に取り囲まれ、みんな恐怖のあまり、その場に立ちすくんでいた。
「それっ! 全員ヒッ捕らえろ」
「ヒャイィーッ!」
「キャーッ! 助けてぇーッ」
 逃げ惑う部員達を、戦闘員が片っ端から捕まえて縛り上げ、結花と志保もミイラリーの包帯でぐるぐる巻きにされて、コート上に転がされた。
「何をしているんだお前達は!?」
 そう言いながら2~3人の教師が校舎から出てきてテニスコートに向かってきたが、ミイラリーの姿を見て、その場に立ち止まった。
「な、な、何者だお前ら」
「ミミミーッ! お前達も細菌ガスを食らえ!」
 そう言ってミイラリーは口から細菌ガスを噴きかけた。
「ギャアーッ!!」
 ガスを浴びた教師たちはバタバタとその場に倒れ、その光景を見た部員達の何人かが失神した。
「こいつらを全員屋上へ連れていけ。それから、完成したネオTNT爆弾と起爆装置をワンセット持ってくるように伝えろ」
「ヒャイィーッ!」
 ミイラリーの命令で戦闘員の一部が敬礼しながらその場を立ち去った。残った戦闘員達は縛り上げた女子テニス部員達を学校の屋上へ連れていき、屋上の真ん中に集めて座らせた。その間にミイラリーは校舎内に残っていた生徒たちや教師たちを、片っ端から細菌ガスの毒牙にかけ、30分後には校舎の中と学校の敷地内で、動いている者は誰もいなくなった。
「よーし! これでこの学校は完全に占領した。ミミミーッ」
 ミイラリーは満足げに屋上に上がってきて、縛られて集められているテニス部員のそばに近付いた。既に爆弾と起爆装置が届けられ、集められた部員達の真ん中に設置されていた。
「この爆弾一つだけで、この鷲尾平の町の全てを壊滅させるだけの威力があるのだ。我々はこの爆弾を大量に使い、これから京浜工業地帯を吹っ飛ばす。お前達は死の恐怖を味わいながら、ここでくたばってしまえ」

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「やだぁ! そんなのいやーッ!」
「お願い助けて… 助けてーッ。死にたくないよぉ」
 女子部員達の悲痛な叫びと哀願がこだましたが、ミイラリーはそんなものは構わずに、結花に近づいてきて猿轡を外し、結花の腕をつかむと、ぐるぐる巻きになっていた包帯をほどいてその場から立ちあがらせた。
「嫌ぁーっ! やめてぇーッ」
「おい小娘。お前は前に俺様の姿を見ているな… 」
「見てません。見てませーん。嫌ーっ。助けてぇーッ」
「嘘をつくな! お前がスカーレットエンジェルの仲間なのを知ってるんだぞ! ん… そうか。これは案外利用出来そうだ。よーし! お前には特別な使い道がある。こっちへ来ぉい!」
「やだぁ! やだあーッ」
 ミイラリーは嫌がる結花を羽交い絞めにし、無理矢理防護フェンスの傍まで引きずるように連れて行くと、両手を万歳の格好にして防護フェンスに包帯で縛りつけた。

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「やめてぇーッ! はなしてぇーッ。お願い助けてぇ」
 ミイラリーは泣きながら哀願する結花の顎をこづいた。
「嫌・・ 触らないでぇ・・ お願い許してぇ・・」
「うるさい! 騒ぐな」
 ミイラリーは結花の頬を2~3回平手で引っ叩き、おとなしくなった結花のツインテールの髪の片方をつかんで引っ張りながら言った。
「やだぁ。痛い痛い痛いー」
「小娘。お前をスカーレットエンジェルを誘き出すための餌にしてやる。暫くそうやって晒し者になってろ」
 しかしミイラリーはまだ自分の不手際に気付いていなかった。いつものパターンならば、脅迫文や脅迫電話によってスカーレットエンジェルを誘い出していたのだが、ミイラリーは頭の回転が今一つだったのか、それをやっていなかったのだ。

      *       *       *       *

 学校で騒ぎがあった頃、美紀子たちは城北大学キャンパスの中にある教授の研究室にいた。時間は三時を回ったところだった。
「あの二人は絶対安静が必要だが、これ以上容態が悪化する心配は無いから安心したまえ。それよりも原因が分かったんだ。これを見てくれ」
 名取教授は助手の青木とともに、テーブルの上にある顕微鏡を指差して言った。美紀子が顕微鏡を覗くと、妙な生物が蠢いているのが見えた。
「これは… 」
「我々にとっては未知の生物だ。例の二人の血液中から発見したものだが、おそらく小型の寄生虫かバクテリアの一種だろう。私が調べて分かったんだが、この微生物は人間の脳に寄生し、脳の機能を低下させる働きを持っているんだ。しかし感染力が無いため、犠牲者が増えるという心配は無いようだ」
「それで・・・ 解毒剤は作れるんですか?」
「不可能ではない。既に原因と正体が分かっているから、ある程度の段階まで研究が進んで、完成まであと一歩の所まで来ている。それで君たちを安心させようと思って呼んだんだ。今、助手や研究生たちも使って全力でやっている。君たちもよく知っている、あの春日さんがこういう事に詳しいから、望みがあるんだ」
「春日さん・・・ 萌さんがいたんだ・・ 萌さんがいるなら・・・」
 美紀子は萌がいると知って少し安堵した。萌はかつては自分と同じ銀河連邦警察にいて、薬学についてある程度の知識を持っていたからだ。その時、紀子のポケベルが鳴り、美紀子はポケットからポケベルを取り出して画面を見た。
「誰? 伯父さんから?」
「ううん… 誠人君から。発信先は小学校の近くにあるコンビニの公衆電話だわ」
 そう言って美紀子は詩織に改造した自分のポケベルを見せた。これは以前も使われたもので(第9話参照)、電話の発信元が分かり、使用する電話機に取り付ければ、公衆電話に電話をかけることも出来、またポケベル単体でも電話として使えるのだ。言うなれば後の時代に登場する携帯電話の先駈けのようなものだった。誠人はそれを知っていたので、公衆電話から美紀子のポケベルに電話をしたのだ。美紀子は受信スイッチをオンにした。
「もしもし誠人君? どうしたの? うん… ええっ!? うん… それで… うん分かった。それじゃ今から行くから、絶対そこを動かないで」
「どうしたの美紀子」
「大変よ詩織。結花ちゃんの通っている中学校が大変な事になってるわ」
「どういう事?」
「結花ちゃんが通っている中学校に、全く人の気配が無いって。いつもだったら部活で賑わっている時間なのに、誰も校庭にいなくて、校門も裏門も閉められているんだって。それでおかしいと思って、近くのビルの屋上に上がって学校を見たら、屋上にブラックリリーの化け物と戦闘員がたむろしていて、それにその中には人質らしい生徒たちが10人くらい集められてるって言ってた。やつら… 前に小学校を襲ってるから。きっとまた学校を使って何かをやろうとしているかもしれないわ」
「ええっ!? 早く行かなきゃ。結花が危ない」
 そこへ名取教授が近付いてきた。
「君たちが今話している事が聞こえたんだが、またやつらが出たらしいな」
「は、はい」
「抗生物質やワクチンについては、我々が全力を尽くす。だから君は、これ以上の犠牲が出ない様、全力であたってくれたまえ」
「分かりました」
 美紀子は詩織と明美を促して研究室から出ようとした。そこへドアが開いて結が入って来て、部屋から出ようとした美紀子とバッタリ対面した。
「失礼します… って… あれ? 紅林さん? もしかして… 君がここへ来たってことは、今教授が調べている未知の微生物と何か関係があるの?」
 美紀子は突然のことに立ちすくんでいたが、一呼吸おいて返事をした。
「うん。君も知ってると思うけど、あの微生物はブラックリリーが作り出したのよ」
「え? それじゃ… 」
 そこへ後ろから結を押しのけるように、萌が入って来た。
「結。そんなとこに突っ立ってたら、部屋に入れないじゃないの。あら… 美紀子さん」
「萌さん… お久しぶりです」
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 結と萌は城北大の学生(第15話参照)で、結は医学部、萌は薬学部。ともに生体医学と人間工学を専攻していて、既に名取教授の研究室に入っていたのである。
「あの・・ ごめんなさい。私たち急いでるんで。失礼します」
 そう言って美紀子と詩織は研究室を出ると廊下を小走りに駆けていった。萌はその姿を遠目に見ながら、二人が見えなくなると部屋の扉を閉め、持っていたバインダーを教授に渡した。
「教授。例の微生物に関するレポートです。やっぱり私が思っていた通り、地球上の細菌を改造したものでした」
教授はそのバインダーに挟まっている用紙に目を通し、机の上に置くと、紙とペンを取って何かを書き始めた。そして書き終えると結と萌に渡して言った。
「ここに書いてある薬品と器材を大至急用意してくれ。これだったらすぐに抗生物質が出来る」
 結と萌は教授が書いたメモを眺めると、納得したように教授のほうを向いた。
「分かりました。すぐに用意します」
 二人はそう言うと、研究室から出て行った。
 一方、研究室を出た美紀子と詩織は、建物からは出ずに屋上に上がっていた。
「ラッキー。誰もいないわ」
 美紀子はそう言いながらポーズをとり、スカーレットエンジェルに変身すると、詩織の方を向いて言った。
「まず誠人君がいる場所へ行くから」
「分かった」
 時間は四時近くなっていて、空が薄暗くなり始めていた。スカーレットエンジェルはスティックを出すと、空へ向けて掲げた。同時に二人の姿が光に包まれてその場から消え、次の瞬間二人は誠人が上がったビルの屋上に姿を現した。
「美紀子、来て!」
 詩織が中学校の方を指差した。その先には中学校の屋上で縛られて転がされている生徒たちの姿が見えた。さらに時限爆弾らしき物体も・・・
「大変! あの中に結花ちゃんがいるわ」
「ええっ!?」
 詩織はビックリしたようにスカーレットエンジェルの傍に寄ってきた。結花は一人だけ屋上のフェンスに縛り付けられて晒されている。
「詩織、行くよ」
 スカーレットエンジェルは変身を解くと屋上から下へ駆け下り、詩織もその後に続いた。そして誠人が待っているコンビニにたどり着いた。
「美紀子姉さん、詩織姉ちゃん」
 誠人は美紀子と詩織の姿を見て駆け寄ってくると、美紀子の制服のスカートをつかんで言った。
「姉ちゃんの学校が大変なんだ」
「分かってる。私たちも見たから。さあ行こう」
 美紀子と詩織は誠人を連れ、中学校へ向かって駆け出した。

      *       *       *       *

「ええい! スカーレットエンジェルはまだ現れないのか!!」
 その頃学校の屋上では、一向に現れる気配が無いスカーレットエンジェルに、ミイラリーがイライラしていた。今回に限って、いつものような声明(人質を取ったという内容の脅迫電話や脅迫文)を出していなかったので、誠人が偶然発見するまで美紀子たちには知れていなかったのだ。ミイラリーは自分の不手際を棚に上げて屋上のフェンスを蹴飛ばしながら怒鳴り散らし、その度に人質の部員たちはビクビクっと震えた。そのとき見張りをしていた戦闘員の一人がミイラリーの傍に駆け寄ってきた。
「ミイラリー様。学校周辺で妙な動きをしているやつらがいます」
「何? 一体何者だ。何処だ」
 ミイラリーは戦闘員が指差した方向を見た。校庭の周りにある木々の間から見え隠れしていたが、人の動きが見えた。それは確かに他の者たちとは違った動きをしていて、学校の様子を探っているように見えた。
「もしかしてやつらか・・・」
 その二人は美紀子と詩織だった。誠人もいたのだが、誠人は体が小さかったので屋上からは見えていなかった。そこへ戦闘員が迷っているミイラリーに話しかけた。
「ミイラリー様。ここは学校です。校内放送の設備を使ったらどうでしょうか? もしスカーレットエンジェルならば、ここにいるガキどもを助けにやってくるはずです」
「なるほど・・・ そういう手があったか! 何故もっと早く言わんのだ! みなついてこい」
「ここにいるガキどもはどうするんですか」
「放っておけ。どうせ逃げられやせん」
 ミイラリーはそう言いながら戦闘員を全員引き連れて屋上から校内に入っていき、屋上にはフェンスに縛り付けられた結花と、縛られて爆弾の周りに放置されたテニス部員たちが残された。爆弾の時限装置はまだセットされていなかった。ミイラリーと戦闘員がいなくなったのを見て、部員の一人の志保は、体を動かしてぐるぐる巻きの拘束から逃れようと必死でもがいた。さっきから見張りの目をごまかしながらずっとやっていたのだが、少し包帯の絞めつけが緩んできたのを感じた。
「(しめた・・・ もう少しだ)」
 やがて手足を大きく動かせるようになり、ついに志保は包帯の拘束から抜け出すことが出来た。
「やった。抜けられた」
 自由の身になった志保は、真っ先にフェンスに縛られている結花のところへ駆け寄った。
「古川。今助けてやるから暫く我慢しろ」
 そう言って志保は結花の両手に巻きついた包帯をほどき始めた。が、なかなかほどけない。腕が疲れた志保がふと足元を見ると、半分腐食したような金属片が目に入った。それはヤスリだった。志保はその金属片を拾うと、包帯を切り裂いて結花の拘束を解いた。拘束を解かれた結花は崩れ落ちそうになったが、志保がそれを支えた。
「古川、大丈夫?」
「うん。ありがとう。でも、やつらが戻ってきたら・・ みんな殺されちゃうよ」
「確かにやばいね・・ でも何とかしなきゃ何も始まらないよ。この事を誰かに知らせよう」
 そう言うと志保は縛られている仲間のところへ行き、その中の一人の、後ろ手に縛られている主将の栗原美奈の縄をヤスリで切り、両手を自由にしてやった。
「栗原。これで早くみんなの縄を切って。頼むよ」
「築館、あんたはどうすんのよ」
「あたしは古川と一緒に校内の様子を見てくる。必ず戻ってくるから、それまでみんなをお願い」
「ちょ・・ ちょっと待って築館。私たちどうなっちゃうのよぉ」
「必ず戻るから! あたしを信じて。古川、行くぞ!」
 志保は結花の腕をつかむと屋上のもう一つの昇降口へ向かって駆け、そこから校内へ入った。屋上には昇降口が二つあり、怪人たちが入っていったのとは別の昇降口から入ったのだ。
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 しかし屋上から階下に降りてきた二人は廊下を見渡して愕然とし、生唾を飲み込んだ。所々で生徒たちが倒れていて、見るも凄惨な状態だった。志保はガクガクと震えている結花を尻目に、一番近くに倒れていた男子生徒の傍に座ると、仰向けにして胸に耳をあててみた。
「生きてる・・・ ?」
 志保はさらにもう一人の生徒の胸にも耳をあててみた。さらにもう一人・・ 状態はみな最初の生徒と同じだった。
「どうやらみんな眠っているだけみたいだわ」
 その時誰かが階段を上がってくる足音が聞こえ、志保は結花の方を向いた。結花は相変わらず青ざめた顔で立ちすくんでいる。志保は立ち上がると結花に飛びつき、結花と抱き合うような格好でそのまま廊下の床に伏せた。結花がガタガタと震えている様子が志保の身体に伝わってくる。志保は結花の耳に小声で囁いた。
「(古川。絶対に動いたり声を出すなよ。逆らったらパンチだぞ!)」
 志保は結花に自分の拳を向け、結花は反射的に目をつぶった。結花と志保は小学校から一緒で、気が弱い結花は気が強くて男勝りの志保にいつもいじめられていたのだが、結花を他の生徒からのいじめから守ったのも志保だった。そんな事から、二人はいつの間にか腐れ縁になっていたので、志保は真っ先に結花を助けて、自分がやろうとしている事に付き合わせたのだ。さて、足音が近付いてきて二人の近くで止まった。足音の正体は戦闘員だった。志保は結花と抱き合った格好のまま死んだふりをしてジッとしていた。
「おい、このあたりで人の気配がしたぞ」
「気のせいだろ。みんなミイラリー様の細菌ガスでこの通りお休みだ。動いているものなどいるものか。それよりミイラリー様が呼んでいる。急ぐぞ」
 そう言って戦闘員はその場から廊下を走り去っていった。気配がなくなったのを悟った志保は、震えている結花の頭を軽く叩いた。
「古川、もう大丈夫だぞ」
 ウイィーン ウイィーン
 その時突然校内のスピーカーから大きな金属音が響いて、二人は両手で耳をふさいだ。放送室でマイクのボリュームをマックスにしたため、音がハウリングを起こしたのだ。暫くしてハウリングがやみ、続いてミイラリーの奇声がスピーカーから流れ出した。
『ミミミミミーッ! スカーレットエンジェル出て来ぉーい! 隠れているのは分かっているんだぞ。早く出て来ぉーい! さもないと人質のガキどもを皆殺しにしてやるぞぉ! 人質は屋上にいるぞ。聞こえてるならとっとと出てこぉーい』
 学校の外で突入の隙を窺っていた美紀子たちに、その放送が聞こえた。
「美紀子、どうする? まともに行ったら奴らの思う壺だよ」
「うん・・・  やつらの事だから、必ずどこかで私たちを見張っているわ。でも、だからといってこのままにしておけば結花ちゃんたちが危ない。詩織、誠人君、こっちに寄って」
 詩織と誠人は美紀子のそばに近付いた。
「学校へは私と詩織の二人で突入する。誠人君はすぐ源太郎さんと、このメモの電話番号に電話して。私たちは絶対大丈夫だから、信じて」
「わ・・ 分かった。美紀子姉さん、詩織姉ちゃん気をつけて」
「ありがとう誠人君。それじゃ頼むよ」
 誠人は美紀子と詩織の傍から離れると、電話をするため走り去っていった。
「詩織、行こうか」
「オーケー!」
 美紀子と詩織はお互いの顔を見て頷き合うと、人の気配が無い場所から塀を乗り越えて学校内に入った。
その頃、結花と志保は伏せたまま放送を聞いていた。
「あの化け物は放送室にいる。でも、スカーレット・・ って何の事だろう。あの化け物も言ってたけど、何だか気になるな・・・」
 そう呟いた志保が顔を上げると、扉の開いた教室が目に入った。『理科室』の札が出ている。志保は何かを思いついたのか、結花の腕をつかんで起こした。
「古川、一緒に来い」
 志保は結花の手を取って理科室に入ると、そのまま準備室の扉を開けて中に入った。
「志保・・・ 一体何するつもりなの?」
「黙って見てろ。説明は後!」
 志保は準備室の室内にある、薬品が並んだ棚を見回していた。そして何かを見つけたらしく、その場所で止まった。
「あった!」
 志保は棚の引き戸を開けると、薬品の入った瓶を取り出して次々とテーブルの上に並べた。瓶のラベルには全て赤い色で『危険』という印があり、結花が近寄って覗いてみると、瓶のラベルには『塩酸』とか『硫酸』と書かれている。
「志保。何するのよ。こんな物勝手に持ち出したら怒られるよ」
「馬鹿! 今そんなこと言ってる場合じゃないだろ」
「こんな危ない物どうするのよ」
「こいつであの化け物たちをやっつけるのよ」
「無茶だよ。逆に殺されちゃうよ」
 志保は結花のむなぐらをつかんで、握り拳を結花の顔に向けて言った。
「何言ってんだよ。お前、縛られて化け物の嬲り者にされて悔しくねえのかよ。やられっぱなしで黙ってんじゃねえよ! いいか? 今みんなを助けられるのは、ここにいるあたし達だけしかいないんだぞ。つべこべ言ってないで協力しろよ。何度も言うけどやるしかないんだよ。オロオロしてたらぶっ飛ばすからな。パンチだからな!」
 志保は握り拳を結花の頬に密着させて軽く押した。
「わ・・ 分かった。分かったからもうやめてよ、そんなに怒らないでよ」
 結花が涙ぐんでいるのを見て、志保はつかんでいた手を離すと、今度は結花を自分のほうへ引き寄せ、抱きしめて結花の髪を優しく撫でた。
「悪かったよ古川。ゴメン・・・ でも、分かってよ。今はあたし達だけしかいないんだよ」
 結花は怖くて震えていたものの、美紀子がこの惨状を知って助けに来てくれるだろうと思い、一縷の望みを抱いていた。だが、それまで待っていたら自分はもちろん、友達が皆殺しにされてしまうかもしれない。結花は覚悟を決めたように志保に言った。
「私こそゴメンね。志保の言う通りよ」
「分かればよろしい。お前が危ないときは昔みたいにあたしが守ってやる」
 そう言って志保は結花の背中を軽くポンと叩いた。その時急に理科室の方で何かが擦れる音がして、二人は驚いて反射的に準備室の机の下に隠れた。
 同じ頃、学校内に入り込んだ美紀子と詩織は校舎の前で二手に別れ、美紀子は非常階段から駆け上がっていった。見張っていた戦闘員が非常階段を上がっていく美紀子を発見し、放送室にいたミイラリーに伝えた。
「何!? スカーレットエンジェルが来ただと? よーし」
 ミイラリーは放送室から廊下へ出ると、戦闘員を引き連れて屋上へ向かった。しかしその事が幸いしたのか、詩織の方は誰からも見つからずに校舎内に入ることが出来た。校舎内に入った詩織は足音を消すために靴を脱ぎ、脱いだ靴を持って屋上目指して階段を駆け上がった。屋上の下の階まで到達した時、詩織はすぐ近くの教室で誰かが言い争っているのを耳にした。それは結花と志保の声だった。大きな声ではなかったが、校舎の中が静まりかえっていたのでよく聞こえたのだ。
「誰かいる・・・ 声からすると生徒のようだ。無事な子達がいたのか・・・ 一人は結花の声に似てるな」
 詩織は息を殺し、警戒しながら部屋に近付いた。
「理科室・・・ か」
 詩織はタイミングを計って理科室に飛び込んだが、履いていた靴下で滑ってしまい、勢い余って室内の大きな机にぶつかって、その反動で机が動いて床を擦った。
「(しまった・・ 靴下も脱げばよかった・・ )」
 と思ったが、後の祭りだった。あたりは再び静まり返って、何も聞こえてこない。詩織は爆発しそうになった心臓の鼓動を自分の手で抑え、落ち着け落ち着けと自分自身にいい聞かせながら深呼吸した。相変わらず静寂は続いていた。が、突然コトリという音が隣の準備室から聞こえてきて、詩織は音がした方を向いた。
「(準備室からだ)」
 詩織はゆっくりとした足取りで準備室に入り、小声で話しかけた。
「誰かいるの? 大丈夫だから出てきて」
 机の下に隠れていた結花と志保は、突然話しかけられて心臓が止まりそうになったが、入ってきたのが化け物ではないと分かり、恐る恐る机の下から顔を出した。それを見た詩織が近付いてきた。
「結花・・ 結花じゃないの。あんた無事だったの?」
「し、詩織・・ 姉さん・・」
 結花は詩織だと分かって机の下から出てきて詩織に抱きつき、そのあとから志保も出てきた。詩織は結花を引き離すと、志保の方を向いた。
「君は? 結花の友達?」
「はい。古川と同じ2年生で、テニス部副主将の築館志保です」
「あたしは結花の従姉で、松島詩織っていうの。高二よ。学校の様子がおかしいって聞いて、様子を見に来たの。もう大丈夫よ」
 詩織の目に、志保の後ろにある机に並べられた薬品の瓶が見え、詩織はその瓶のラベルを眺めると、瓶の一つを取って志保の前に突き出した。
「塩酸と硫酸・・・ ? もしかしてあんたたち・・・ ?」
「ご、ごめんなさい」
「いいよいいよ。あたしだってこんな時なら君と同じこと考えるから。それじゃ・・・ こいつを使ってひと暴れしてやっか」
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 張り切っている表情の詩織を見て、さすがの志保も唖然とした。結花が何かを思い出したかのように詩織に聞いた。
「詩織姉さんが来たって事は、美紀子姉さんも?」
「勿論! 今頃屋上の子達は助けられてるかもよ。さあ行こうか」
 詩織は結花と志保を連れ、それぞれ塩酸と硫酸の瓶を持って廊下に出ると、小走りに屋上へ向かった。

      *       *       *       *

 非常階段から屋上に上がった美紀子は、人質になったテニス部員達と、その中に置かれた爆弾、そして人質達を囲むように立っているミイラリーと戦闘員達の姿が目に入った。美紀子はすぐに人質達を眺めたが、人質の中に結花の姿は無い。部員達の何人かは、さっき志保が拾ったヤスリで、自力で縄を切って自由の身になっていたが、全員が拘束から逃れる前にミイラリーと戦闘員達が戻ってきたため、再び人質にされてしまったのだ。
「ミミミミミーッ! 待っていたぞ紅林美紀子! ここがお前の墓場となるのだ」
「ブラックリリー! その子達を解放しなさい!」
 美紀子がそう言いながら駆け寄って行こうとしたその時、ミイラリーが美紀子の前に立ちふさがった。
「待てぇ! それ以上近付くな。こいつらがどうなってもいいのか!?」
 ミイラリーは後ろにいるテニス部員達を指差した。
「こいつらを殺したくなかったら、大人しく言う通りにしろ」
「卑怯者!」
「何とでも言いやがれ! さあどうするのだ?」
「分かったわ」
 美紀子はそう言って身構えるのを止めた。ミイラリーは美紀子に近付くと体の包帯を飛ばした。包帯は次々と美紀子の体に絡まって絞め付けてきた。

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「く… くっ」
 ミイラリーは美紀子を縛り付けたのを確認すると、力任せに引っ張って美紀子を引き倒した。
「うわあっ!」
 ミイラリーは引き倒した美紀子をテニス部員たちのところまで引きずっていくと、部員達の目の前で髪をつかんで引っ張りあげた。
「あぁぁっ」
 美紀子は悲痛な声をあげた。ミイラリーはお構いなしに、今度は拳で美紀子の顔を殴りつけた。
「嫌アーッ」
 人質になっているテニス部員の女の子達が悲痛な声をあげる。ミイラリーはそれを尻目に美紀子の顔を数回殴りつけ、床に叩きつけた。続いて頭の上から足でグリグリと踏みつけ、身体を何度も蹴りつけた。目の当たりに見ていた部員達はあまりの酷さに顔を背け、何人かが失神した。その様子を詩織たちがもう一つの昇降口から遠目に見ていた。
「やばい! このままじゃ美紀子が危ない。結花、志保ちゃん」
 詩織は結花と志保を見た。二人とも無言で頷いた。既に5時を回り、空は暗くなっていて、自分達の姿は相手から見えにくくなっているはずだ。それにミイラリーや戦闘員達の視線は美紀子一人に集中している。チャンスは今だ! とばかりに詩織は結花と志保を連れて昇降口から屋上に出ると、気付かれないように屋上の端を歩きながら近づいていった。
 一方のミイラリーは、美紀子がぐったりして動かなくなったところで、足で美紀子を転がすと、爆弾の時限装置を持って、意識が朦朧としている美紀子の目の前に突きつけた。
「この爆弾で、お前とこの学校もろとも町全体を吹っ飛ばしてやる」
 ミイラリーは時限装置のスイッチを押した。時計の針が不気味な音とともに動き始めた。
「嫌あーっ!」
 部員の女の子達の間から悲痛な叫びが聞こえる。その時戦闘員の何人かが悲鳴を上げ、ミイラリーはふり返った。
「何事だ」
 ミイラリーの目の前には、身体から煙を吐きながら七転八倒している戦闘員と、塩酸と硫酸の瓶を持った詩織たちが立っていた。
「化け物! 覚悟しろ!!」
 真っ先に志保が蓋の開いた瓶を投げつけ、ミイラリーの顔に命中して塩酸が降りかかった。続いて結花と詩織も次々と塩酸と硫酸の瓶を投げつけ、ミイラリーの身体に次々と振りかかった。
「ミミミーッ! グギャァーッ!!」
 ミイラリーは体中から煙を噴き上げ、悶絶した。
「おのれガキども! しかしもう遅いのだ。時限爆弾はあと一時間で爆発し、お前らはこの学校もろとも吹っ飛んでしまうのだぁ。ざまぁ見ろ! ミミミミーッ!」
 ミイラリーはそう捲くし立てるとその場から白煙とともに消えた。続いて残っていた戦闘員も次々と姿を消した。
「早くみんなを助けるのよ」
 詩織はそう言いながら真っ先に美紀子の元に駆け寄り、結花と志保も仲間の部員達のところへ駆け寄った。部員達は次々と縄や包帯を解かれ、解放されて自由になったが、爆弾の時計が動いている以上、時間が来れば爆弾が爆発して助からないという恐怖にみな震えていた。詩織は美紀子に絡まった包帯を解きながら美紀子に声をかけた。美紀子はミイラリーにボコボコにされ、意識が朦朧としていたが、詩織の声でようやく我に返った。
「美紀子、美紀子。しっかりして」
 拘束を解かれた美紀子は立ち上がろうとしたが、痛みのためにバランスを崩してよろけ、詩織があわてて美紀子を支えた。
「大丈夫? 顔腫れてるよ」
「うん・・ 何とか・・ あの化け物・・ 私の顔をめちゃくちゃに殴りやがった。それより爆弾が爆発するわ。早く何とかしないと」
 詩織が起爆装置に目をやると、爆発まであと40分になっていた。鷲尾平の町全体を壊滅させるだけの威力がある以上、この場から逃げても無駄である。そうなればあとはこの爆弾の起爆装置を止めるしかない。美紀子は詩織に支えられながら結花のそばへ行った。気付いた結花は志保と一緒に駆け寄ってきた。
「みんな怯えてるわ。もうダメだって・・・ ここから逃げたって助からないって」
 みんなを眺めてみると、殆どの子が泣きじゃくっている。
「詩織、こいつを止めるのよ。あとは起爆装置を止めるしか方法は無いわ」
「わ、分かった。でも何も無いよ」
「技術室へ行けば工具があるわ。あたしが持ってくるよ。結花、行くよ」
 そう言って志保は結花の手を取って立ち上がった。その時急に周囲が明るくなり、懐中電灯の明かりが美紀子たちを照らした。
「そこにいたのか。みんな大丈夫か!?」
 やってきたのは源太郎と誠人だった。それに続いて名取教授と助手の青木、さらに結と萌もやってきた。
「源太郎さん、それにみんな・・」
「美紀子、抗生物質とワクチンが完成したぞ」
「本当ですか? 教授、ありがとうございます」
「礼はあとだ。まずこの学校の生徒や先生達を助ける事が先だ。いくぞ」
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 名取教授は、青木と結、萌を伴って昇降口から校舎内へ入っていった。源太郎は爆弾に気付くと、爆弾のそばに座って爆弾全体を見渡した。
「工具が必要だ」
「取りに行ってきます」
 そう言って志保は結花を連れて駆け出した。
「姉ちゃん。暗いから見えないぞ。俺も行く」
 誠人が懐中電灯を持って二人のあとを追っていった。数分後、志保と結花が技術室から工具を持ってきて、源太郎は爆弾の解体を始めた。
「あと25分・・・」
 テニス部員の女の子達は源太郎の作業を見ながら、わずかな望みを抱いた。美紀子は結花と志保を自分のそばに呼んだ。
「結花ちゃん、志保ちゃん、奴等の事で何か分かる事ある?」
 志保は何かを言いたげだったが、結花に向かって話すように促した。
「確か… 京浜工業地帯に爆弾を仕掛けて壊滅させるとか言ってたわ」
「そうか! それでやつらは労働力を必要とするために、沢山の人を誘拐していたんだわ」
 詩織が閃いたように言った。その間にも源太郎は爆弾の解体を終え、時限装置の解体を始めていた。詩織はそれを見ながら、そばにいる結花と志保に言った。
「大丈夫よ。伯父さんはこういうのに関してはプロだから」
 時計は回り続けていて、残り時間15分を指している。源太郎は配線コードを見ながら、接続コードを見つけ、それをペンチで切った。その瞬間、不気味な音を立てていた時計の針が止まった。
「よし! 止まったぞ」
 周りからどよめきが起こり、部員達の何人かは安心感からか、その場にへたり込んだ。
「これでもう大丈夫だわ。結花ちゃん、志保ちゃん、みんなを頼んだわよ。今この場をまとめられるのはあなた達二人よ」
「分かってるわ美紀子姉さん。こっちは私たちに任せて。だから美紀子姉さんは絶対奴らをやっつけて!」
 結花はそう言いながら、志保の背中を軽く叩いて、みんなの所へ行くよう促した。志保はムッとして結花の方を向いたが、すぐに顔を逸らした。
「(立場が逆転しちまった。結花のやつ・・・ 急に変りやがった。でも、まぁいいか)」
 結花と志保は他の部員達の輪の中に入っていった。それを見届けながら美紀子は詩織の方を向いて言った。
「やつら京浜工業地帯を爆破するつもりよ。急がないと大変な事になるわ」
「でもアジトの場所が分からないよ」
「そんな事も無いぞ」
 そう言って源太郎が無線機を差し出した。
「これはやつらが使っていたものだ。こいつの電波と周波数を辿れば簡単に見つけられるぞ」
「うん」
 その時萌が屋上に上がってきて、美紀子たちのところへ駆け寄ってきた。
「美紀子さん、みんな、生徒や先生達は全員ワクチンで助かるわ。それから、入院していた例の若いカップルも助かって無事よ」
「よかったぁ。萌さんありがとう」
「私は教授の生徒としてお手伝いをしただけですから・・ 真の功労者はやっぱり名取教授よ」
「とにかくこれでやつらの作戦は抑えられる」
「それじゃ私は、まだ手伝いがあるんで失礼します」
 そう言って萌は校舎内へ戻っていった。
「よし。二人とも、この場は俺や教授達に任せて、お前達はすぐに奴等のアジトを見つけて作戦を潰すんだ」
「分かったわ!」
 美紀子は返事をすると、ブラックリリーが残していった無線機を調べた。そして自分の改造ポケベルを出すと、発信機モードにして無線機にコードを繋いだ。すると画面に波形が現れた。
「何か出てきた・・ 」
 そばで見ていた詩織が呟く。
「詩織、この場所から北東方向に約10kmの地点だわ。行くわよ」
「オーケー!」
 美紀子と詩織はお互いの顔を見て頷きあうと非常階段を降り降りていった。

      *       *       *       *

 その頃アジトでは、ミイラリーの指揮のもと、戦闘員たちが第二作戦の準備を急いでいた。ミイラリーによって拉致されて奴隷人間となった人々は、京浜工業地帯爆破の工作員として、作戦地域への移動準備が始められていた。さらに出来上がったネオTNT爆弾と起爆装置が倉庫内に揃えられ、いつでも作戦地域に向けて運び出せる態勢になっていた。
 ミイラリーは戦闘員が動き回っているのを見届けながら、アジトの外で鷲尾平の市街地の方向を眺めていた。
「もうすぐ時間だ。あと三分で時限爆弾が爆発し、スカーレットエンジェルは学校ごと吹っ飛んでしまうのだ。ミミミミミーッ」
 空はもう暗くなっていた。ミイラリーは戦闘員が持ってきた時計を見ながら、爆発までの時間を計っていた。そして時間になった。しかし、鷲尾平の方向は相変わらず何事も無かったように平穏だった。
「ど、どういう事だ。爆発しないぞ! 何も起きない」
 狼狽しているミイラリーの足元に、上空から鉄屑のような物がバラバラと落ちてきた。
「な、何だこれは!??」
 ミイラリーは足元に落ちてきた物体を見た。それは先ほど坂崎中学校の屋上にセットした、時限爆弾の起爆装置が解体されたものだった。
「こ、これは…」
 そこへさらに一回り大きな物体が落下してきて、ミイラリーの頭を直撃し、そのまま地上に落ちてバラバラになって地面を転がった。それは爆弾と信管が抜き取られた時限爆弾の箱だった。ミイラリーは頭を抱えながらあたりを見まわした。
「ど、何処だ!? 誰がやったんだ。出てこぉーい!!」
「ここよ!」
 ミイラリーは声がした方向を見た。するとアジトがある倉庫の屋根の上にスカーレットエンジェルが立っていた。
「お、お前はスカーレットエンジェル」
「ブラックリリーの化け物! お前の悪巧みもこれで終わりよ!」
「な… 何故だ!? 何故爆弾が爆発しなかったのだ」
「源太郎さんが時限装置を解体してくれたのよ。それにお前が吐き出す細菌は、もうワクチンが完成しているから、何の役にも立たないわよ! これ以上お前たちに勝手な真似はさせないわ! 観念しなさい!」
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 スカーレットエンジェルは言うだけ言うと、屋根からジャンプして地上に着地した。そこへ詩織も駆け寄ってきた。
「やい! 少しでも近づいてみろ! こいつをお見舞いするわよ!」

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 詩織は抜き取った爆弾の束をかざして突き出した。突き出されたネオTNT爆弾は、一束だけでも、アジトとその周辺を吹き飛ばすだけの威力がある。しかも倉庫内には京浜工業地帯を全て壊滅させる事が出来る量の爆弾があったので、ミイラリーは一瞬たじろいだ。そばにいた戦闘員達も、詩織が持っている爆弾を恐れ、近付こうとしなかった。
「ええい小癪な小娘め! やれるものならやってみろ。倉庫にある爆弾が全て爆発して、お前らも一緒にあの世行きだぞ」
 詩織はそれを聞き、顔から血の気が引いた。
「それ! 者どもかかれっ! スカーレットエンジェルと小娘をぶっ殺せぇっ」
 ミイラリーの命令で、戦闘員達が一斉にスカーレットエンジェルと詩織に向かってきた。スカーレットエンジェルと詩織は組み付いてくる戦闘員と格闘し、一人ずつ倒した。数分後には戦闘員は全て倒され、ミイラリーだけになった。
「おのれ小娘! ペシャンコの干物にしてやる」
 ミイラリーは包帯を詩織に向けて飛ばした。
「エンジェルブレード!」
 スカーレットエンジェルはブレードを出すと、詩織の前に立ち、伸びてくる包帯を次々とブレードで切り裂くと、切っ先をミイラリーに向けた。
「エンジェルスマッシュ!」
 光の球体が放たれ、ミイラリーを直撃して爆発した。ミイラリーは爆発の衝撃で、絶叫しながら空中へ吹っ飛び、一回転して地面に激突してから、ヨロヨロと立ちあがった。
「おのれ! スカーレットエンジェル… こうなったら爆弾もろとも自爆してやる」
 ミイラリーはヨロヨロと歩きながら、倉庫の入り口を開けて中へ入った。
「やばい美紀子! 爆弾が爆発したら、町全体が吹っ飛んじゃう!」
 スカーレットエンジェルと詩織は逃げるミイラリーを追って倉庫の中に突入した。突入したスカーレットエンジェルと詩織の前で、ミイラリーは置いてある爆弾の前に立ち、二人を威嚇した。
「俺はもうダメだ! しかしただでは死なない。自爆してこの爆弾と一緒にお前達もろとも木っ端微塵に吹き飛ばしてやる」
「そうはさせないわ! フリーザートルネード!」
 スカーレットエンジェルはブレードミイラリーに向けた。白色のエネルギー波が渦を巻いて伸びていき、ミイラリーとその後ろに積まれている爆弾を包み込んだ。フリーザートルネードのエネルギーは、絶対零度の超低温で敵を包み込み、瞬時に凍らせてしまう威力があるのだ。
「グキャーァーッ!! ミミミーッ!!」
 ミイラリーは絶叫しながらガチガチの氷の塊になり、爆弾も全て凍りついた。暫くして氷にヒビが入り、ミイラリーも爆弾も粉々に砕け散って最後には消滅した。
「やったぁ美紀子!」
 詩織はスカーレットエンジェルに駆け寄り、向かい合うと右手を上げてスカーレットエンジェルとハイタッチをした。
「しかし、京浜工業地帯の爆破を企んでいたなんて… もし爆弾が爆発していたら、京浜工業地帯の全部が壊滅して、東京湾は火の海になっていたわ」
「うん… それだけじゃないわ。沿岸の都市は全て壊滅していたわよ」
「やつらの作戦も大掛かりになってきたわね。気を引き締めてかからないと」
 戦いが終わり、静寂が戻った夜の闇の中で、スカーレットエンジェルと詩織は真剣な眼差しで、アジトの跡を眺めていた。


      *       *       *       *

 それから…
 名取教授によって完成したワクチンにより、ミイラリーの細菌を浴びた人々は人達は全て助かり、また城北大学病院に収容されていた若いカップルも、全快して退院した。結花の学校の教師や生徒達も全て助かった。

 ブラックリリーの作戦は、またもスカーレットエンジェルによって阻止され、人々に暫しの平和が訪れた。しかし、ブラックリリーが世界征服の野望を諦めたわけではないのだ。果てしなく続くブラックリリーの野望に、スカーレットエンジェルはまた立ち向かわなければならないのである。


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 次回予告
 ☆第18話 甦った殺人兵器

 世界征服を企むブラックリリーが送り込んだ次なるエージェントは、怪人ムカデリー。
 宅地造成工事の現場で、土の中から大量の木箱が発見され、その中身は旧日本軍が研究していた殺人光線の部品である事が分かる。ブラックリリーはそれに目をつけ、殺人光線を完全な物に作り上げて無差別殺人作戦を計画。怪人ムカデリーを使って強奪作戦を敢行する。美紀子は詩織とともに阻止行動に出るが、運の悪い事に二人とも巡回中の警察官によって補導されてしまい、その隙に殺人光線の部品を奪われてしまう。

 次回 スカーレットエンジェル第18話『甦った殺人兵器』にご期待ください
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