鷲尾飛鳥

10月 « 2017年11月 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30  » 12月

第22話『日本列島大噴火作戦(後編)』

2012年 03月05日 19:25 (月)

22-00.png


 ブラックリリーは、地下のマグマをボーリングによって掘り出し、自らが開発したネオTNT爆弾によって爆発させ、日本中の火山を噴火させて、日本列島壊滅を企んでいた。さらには日本列島の中央部にある大地溝帯(フォッサマグナ)を利用して、日本列島の切断をも画策していたのである。そのために科学者や技術者たちが大量に拉致され、マグマ掘り出し作業に使われていた。いち早く異変に気付いた麻紀子は、天間村周辺で起きていた群発地震を調べる一方で、美紀子達にブラックリリーの動きを伝え、美紀子は源太郎と詩織とともに天間村にやってきた。そこで麻紀子が助けた地震学者の若柳教授の調査資料から、ブラックリリーの作戦の概要がほぼ判明。阻止行動に出た美紀子達だったが、麻紀子がブラックリリーに捕まってしまい、拷問にかけられた挙句に洗脳されてしまう。一方の美紀子はブラックリリーのアジトらしき建物を見つけて近付くが、ブラックリリーのエージェント、スッポンリーと、洗脳されたヴァイオレットエンジェルが立ちはだかり、襲いかかってきた。

22-01.png

 美紀子はスカーレットエンジェルに変身して、洗脳されたヴァイオレットエンジェル相手に戦ったが、手を出す事が出来ないスカーレットエンジェルは押されっぱなしだった。ヴァイオレットエンジェルはブレードで、猛然とスカーレットエンジェルに斬りかかってきた。何度かブレードが振り下ろされ、ついにスカーレットエンジェルはバランスを崩して仰向けに倒れた。ヴァイオレットエンジェルはジャンプすると空中で一回転し、ブレードを振り上げてスカーレットエンジェルに向かって急降下してきた。

22-02.png

「姉さんやめてーッ!」
「死ねぇーッ!!」
 ブラックリリーの兵士と化したヴァイオレットエンジェルの凶刃が、今まさにスカーレットエンジェルの身体を貫こうとしていた。スカーレットエンジェルはやられてしまうのか… 

      *      *      *      *

 ボンッ!!
 鈍い音とともに早紀が投げた煙幕弾が、スカーレットエンジェルのそばで破裂し、スカーレットエンジェルの周辺が真っ黒い煙で覆われた。目標を見失ったヴァイオレットエンジェルは、もう一度一回転してスカーレットエンジェルから少し離れた場所に着地し、スカーレットエンジェルは一体何があったんだという感じで周りを見回しながら、起き上がって態勢を立て直した。
 ボンッ!! ボンッ!! ボンッ!!
 続いて源太郎が放ったガス弾がドライブイン跡の建物の前に次々と落下してきて、辺り一面に催涙ガスが立ち込めた。クイーンリリーもスッポンリーも、思わず口を塞いだ。
「何だ… 一体何事だ!?」
 続けて早紀が立て続けに投げる煙幕弾が次々と落下してきて、あたり一面が真っ黒な煙で覆い尽くされ、クイーンリリーとスッポンリーはたまらず建物の中に逃げこんだ。付近にいた戦闘員たちも煙の中で右往左往した。スカーレットエンジェルは煙の中で右往左往しているヴァイオレットエンジェルを見つけると、ヴァイオレットエンジェルに飛びかかって一本背負いをかけた。投げられたヴァイオレットエンジェルは雪の上に叩きつけられて、そのまま体が雪の中に埋まった。
「一体何があったんだろう・・ ? でも、そんな事より、このままではどっちかがやられちゃう… とにかく何とかしないと・・・」
 そう考えていた所に、ヴァイオレットエンジェルが態勢を立て直して、スカーレットエンジェルに向かってきた。スカーレットエンジェルはジャンプしてヴァイオレットエンジェルの攻撃をかわし、少し離れた場所に着地した。
「おのれ! 今度こそ殺してやる」
 ヴァイオレットエンジェルは再びスカーレットエンジェルに向かってきた。スカーレットエンジェルは身構えると、ヴァイオレットエンジェル目掛けて右手を伸ばした。
「エンジェルスマッシュ!」
22-03.png
 エネルギー波がヴァイオレットエンジェルを直撃した。エネルギーを弱めていたので、ヴァイオレットエンジェルは反動で後ろに飛ばされて雪原に突っ込んだだけで、致命的なダメージは受けていなかった。が、ヴァイオレットエンジェルはスマッシュの衝撃で脳震盪を起こし、そのまま気絶した。
「姉さん!」
 スカーレットエンジェルはヴァイオレットエンジェルのそばに駆け寄ろうとしたが、後ろから腕をつかまれた。振り向くとそこに早紀がいた。
22-04.png
「早紀さん… 」
「スカーレットエンジェル。この場はひとまず逃げるのよ」
「でも姉さんが」
「ヴァイオレットエンジェルは洗脳されているんだ。今そばへ行っても、気が付けばまたお前を襲ってくるぞ。とにかくこの場は逃げるんだ」
 源太郎もスカーレットエンジェルのそばへ来て、スカーレットエンジェルを諭した。源太郎と早紀の説得で、スカーレットエンジェルはヴァイオレットエンジェルを遠目に見ながらその場から離れた。
「(姉さん許して… 必ず助けに行くから待ってて)」
 源太郎は道路まで来ると、すぐに車のエンジンをかけた。
「早紀! スカーレットエンジェル! 早く来い」
 スカーレットエンジェルは道路に出て変身を解き、早紀とともに車に乗った。源太郎は二人が乗ったのを確認すると、アクセルをふかして発進させた。

 暫くしてアジト周辺の煙とガスがなくなり、クイーンリリーとスッポンリーがアジトの入り口から外へ出てきた。混乱していた戦闘員たちも、周辺に集まってきた。
「おのれ。スカーレットエンジェルの仲間の仕業だな。小賢しい真似をしおって!」
「ええいくそっ! あと少しだったのに。邪魔が入って逃げられてしまったわい!」
 スッポンリーは地団太踏んで悔しがったが、クイーンリリーはいたって冷静だった。
「ふん! まあいいわ。いくら逃げてもヴァイオレットエンジェルが我が手中にある以上、スカーレットエンジェルは手出しが出来ぬわ。来るなら来い。またヴァイオレットエンジェルが相手をしてくれるわ。今度こそ息の根を止めてやる。ハッハッハッハ」
 一方、脳震盪を起こして気絶していたヴァイオレットエンジェルは気が付いて起きあがると、しばらくボーッとしていたが、遠くで声が聞こえたので振り向いた。
「(あれはブラックリリーのエージェント… そしてクイーンリリーだわ。確か私は拷問されて… その後は覚えていないけど、一体どうしてここに… )」
 洗脳されていたヴァイオレットエンジェルは、自己催眠状態で洗脳されたため、スカーレットエンジェルのスマッシュで脳震盪を起こしたときに、その衝撃で正気に戻ったのだ。そこへスッポンリーが近付いてきて、ヴァイオレットエンジェルに話しかけてきた。
「惜しかったな。もう少しでスカーレットエンジェルを倒せたのに」
「(そうか… 私は洗脳されて、ブラックリリーに操られていたのね) ええ… 残念だったわ。でも、今度こそ必ず倒す」
「その意気だ! さあ行くぞ」
 スッポンリーはヴァイオレットエンジェルを促し、アジトへ向かって歩き出した。だがヴァイオレットエンジェルの洗脳が解け、正気に戻っている事に全く気付いていなかった。
「(まだ私の洗脳が解けている事に気付いていない。ここは一芝居打って、やつらのアジトに潜入しよう)」

      *       *       *       *

 源太郎と早紀に助けられ、ペンションに戻ってきた美紀子だったが、姉の麻紀子を置き去りにしてしまった事で、すっかり沈みこんでしまい、部屋に入ったまま出てこようとしなかった。食堂に集まっていたみんなは、美紀子が出てこないのを心配していた。
「あたしが行ってくる。美紀子があれじゃどうにもならないよ」
 詩織はそう言うと席を立ち、二階へ上がっていった。
「美紀子。入るよ」
 返事が無かったが詩織は扉を開け、室内に入った。美紀子はベッドの上に座ってジッとしていて、何かを考えこんでいるような表情をしていた。
「美紀子、何落ちこんでんのよ。しっかりしなさいよ」
「詩織… 」
「あ~ぁ… そんな泣きそうな顔しちゃってぇ」
 詩織は室内にあった椅子を持ってきて、ベッドのそばに置くと、椅子に座って美紀子の目を見据えた。
22-05.png
「美紀子。ここだけの話だけど、麻紀子をどうやって助けるか考えてたでしょ? それから自分一人でやつらの作戦を阻止できる自信が無い… それに麻紀子が洗脳されていては手も足も出ないってとこかな」
 美紀子は驚いた顔で詩織を見た。自分の思っていた事を詩織にズバッと言われたからだ。
「その顔だと、どうやらあたしの言った通りだったね。美紀子の考えてる事なんて、あたしにはお見通しなんだよ。水臭いじゃん! あたし達親友同士じゃないの。悩み事があるなら何であたしや源太郎伯父さんに言わないのよ。あたし達はもう美紀子や麻紀子と一蓮托生なんだよ」
 詩織は落ちついた口調で、美紀子を諭すように話し掛けた。
「ありがとう。ゴメンね詩織。私は私なりに考えてたんだけど… 」
「いいから早く下へおいでよ。みんな美紀子を待ってるんだから」
「分かった」
 そこへ美紀子の頭の中に、テレパスが伝わってきて、美紀子は両手で頭を押さえた。
「何、美紀子… もしかしてテレパス?」
「詩織、ちょっと黙ってて」
 1分ほど美紀子は頭を押さえていて、そのままベッドから降りて立ちあがると、詩織の両手を握りしめて、詩織を椅子から引っ張り上げて立たせた。
「ちょ… ちょっとどうしたのよ美紀子」
「姉さんの洗脳が解けてる」
「え? どういう事?」
「理由は分からないけど、テレパスを送ってきたって事は、姉さんの洗脳が解けているってことだわ。それでテレパスの内容だけど… やつらはまだ自分が洗脳されていると思っているから、それを利用して一芝居うって、やつらの作戦を探るって」
「そっかぁ! よかったじゃん」
「詩織。行こう」
 美紀子は詩織の手を引き、部屋を出ると一階の食堂へ降りてきた。食堂に入ると、源太郎と早紀、そして誠一がいた。和枝と誠司は買い出しのため留守だった。
「美紀子。みんなお前の事心配してたんだぞ」
「ごめんなさい」
 美紀子は謝りながら、誠一が差し出した椅子に座った。
「美紀子から聞いたんだけど、麻紀子の洗脳はもう解けていて、正気に戻っているんだって」
「美紀子。それ本当か?」
「姉さんからテレパスが伝わったのよ」
「それで麻紀子はどうしてるんだ?」
「やつらはまだ、自分が正気に戻った事に気付いていないから、洗脳されているふりをして、アジトの中でやつらの作戦を探るって言ってる」
「それは良い考えだわ。やつらの動きが筒抜けになる」
「早紀。そいつはリスクもでかいぞ。もしやつらに正気に戻った事がばれたら、アジトの中で一人だけいる麻紀子が危険だ」
「それもそうだね… そうなると、あたし達が動くのは、早ければ早いほど良いってことか」
 源太郎は地図を持ってきてテーブルの上に広げ、天道高原の一角を指さして言った。
22-06.png
「アジトの場所はここでほぼ間違い無いだろう。あとはマグマを掘削している場所がどこかという事だが… 」
「考えられるのはこのあたりね」
 早紀が源太郎の指さした場所より、東にある大神山寄りの場所を指さした。
「この辺りならアジトに近いし、別荘地が付近にあるから、やつらが利用しそうな要素や条件が揃っている」
「なるほど… この場所なら今の季節は人気が無いからそう簡単に秘密を知られる事は無いな」
 源太郎は窓越しに外を見た。既に薄暗くなっている。車のエンジン音が聞こえてきて、それから間もなく和枝が買い出しの荷物を一杯持って入って来た。
「誠一、麻紀子ちゃん。手伝って」
「まずい! 麻紀子はいないんだ。どうしよう」
「私が行く。顔が同じだからごまかせるわ」
「でも、そうしたら美紀子はどうなるんだよ」
「そっか… 考えてなかった」
 そこへ詩織が口を挟んできた。
「美紀子は若柳教授を東京へ送っていったことにしたら? 教授はもう東京へ向かっているし」
「二人とも早く来て!」
「しょうがない。母さんが呼んでる。早く行こう」
 誠一は美紀子を連れて和枝のいる厨房へ向かった。詩織は心配そうに遠目で見ていたが、どうやら和枝は麻紀子が美紀子であることに気付いていないようだった。

      *       *       *       *

「マグマの掘削状況はどうなっているのだ」
 クイーンリリーはアントリーを司令室に呼び、作戦の進行状況を聞き出していた。
「ハハッ! もう一日掘りつづければ、マグマの層に到達致します。いよいよ作戦を発動させる事が出来ます」
「うむ! でかしたぞ。火山の噴火まで後ひといきってところだな。よし! スッポンリーを呼べ」
 戦闘員が出ていって、暫くしてからスッポンリーが入ってきた。
22-07.png

「お呼びでございますか? クイーンリリー様」
「マグマの到達点まで後少しまで迫っている。お前はネオTNT爆弾を用意し、地下に仕掛ける準備をしろ」
「かしこまりました」
「ところで、ヴァイオレットエンジェルはどうしている?」
「先ほど外の空気を吸ってくると言って、アジトの外へ出て行きました」
「ふん… そうか。せいぜい今のうちにやりたいようにさせておくか。スカーレットエンジェルをやっつければ、どうせやつも用済みで殺してしまうのだ」
「クイーンリリー様。それでは私は作業現場へ戻ります」
 そう言ってアントリーはアジトを出ると、掘削現場へと戻っていった。その様子を外に出ていたヴァイオレットエンジェルはジッと見ていた。
「(やつが出てきた。そうか… あの方向に掘削現場があるんだわ。たしかあの方向には別荘地があったはず… もしや)」
 ヴァイオレットエンジェルはアントリーが歩いていった後を眺めていたが、スッポンリーが出てきたので顔をスッポンリーのほうへ向けた。
「おい! そろそろ中へ入れ!」
 ヴァイオレットエンジェルは言われるがままにアジトの中へ戻った。それとすれ違いで爆薬を持った戦闘員が出てきて、アントリーの歩いていった後をついていった。
「いよいよ火山噴火作戦が開始される。あと少しでボーリングがマグマの層に到達するのだ」
 ヴァイオレットエンジェルは遠くからスッポンリーの独り言を聞いていた。
「(爆薬が運ばれるという事は、いよいよ始まるのね。明日か明後日か… )」

      *       *       *       *

「姉さんからのテレパスだ」
 ペンションでは夕食が終わり、後片付けも終わっていて、美紀子たちは食堂で源太郎達と作戦会議を開いていた。
「一体何て言ってきてるの?」
「源太郎さん地図!」
「おう!」
 源太郎は地図を広げた。美紀子はアジトがある場所の東側にある一角を指さした。
「さっき早紀さんが言っていた場所に近いわ。あと一日くらいで掘削がマグマの層に到達するそうよ。やつらは爆薬を現場に運びこんでいて、明日にでも作戦を開始するつもりだわ」
「よし分かった。明日は全員で行くぞ。作戦の詳細な打ち合わせをしよう。みんな、寄れ」
 源太郎は周りにいたみんなを自分のそばに寄せ、小声で話を始めた。厨房にいた和枝も、事務室にいた誠司も、源太郎達の話し合いが気になっていたが、あえて干渉しない事にした。源太郎は私立探偵であり、仕事の内容に秘密が多かったからだ。

 翌朝・・ 源太郎達は朝食を終えると、美紀子と早紀、そして詩織と誠一を連れてペンションの駐車場に立っていた。和枝には仕事の関係で麻紀子(実は美紀子で、麻紀子になりすましている)と誠一を一日借りるという話をして、承諾をもらっていた。
「俺の車に誠一君と詩織。早紀の車に美紀子が乗って2台で行く。危険が多いから昨日の打ち合せ通りに事を進めるんだ。いいかみんな」
「はい!」
「よし。行こう」
 源太郎と早紀はエンジンをかけると、源太郎の車を先頭にそれぞれ発進し、ブラックリリーのアジトがある大神峠へ向かった。

      *       *       *       *

 ブラックリリーのアジトから少し離れたマグマ掘削現場では、技術者たちがボーリング作業をしている様子をアントリーが監視していた。アントリーは技術者の一人を呼んだ。
「おい! マグマの層まであとどれくらいだ!?」
「もう500m位で到達するはずです。これ以上の掘削は危険です。マグマが噴出してくるかもしれません。」
「よし! 作業止め。機械を止めろ」
 アントリーの指示で機械が止められた。
「爆薬の準備をしろ」
「爆薬って… あんた達… 一体何をしようとしているんだ」
「爆薬でマグマを噴出させ、日本中の火山を噴火させるのだ」
「ば、馬鹿な! そんな事をしたら日本が火山灰と溶岩で全滅してしまう」
「それが目的なのだ」
「な、何だって!? ここで爆発させたら、この辺りだって吹っ飛んでしまうんだぞ」
「我々はこの地を放棄する。お前達はここで死んでもらう」
「お、お前達はそんな事をするために、我々にボーリングをやらせたのか!?」
「うるさい! 大人しくしろ。それっ!」
 戦闘員が技術者達を一箇所に集めさせ、アントリーは技術者達に向かって言った。
「爆薬がセットされれば、もうこの場所には用は無い。お前達は一緒に吹っ飛んでしまえ!」
 そこへ戦闘員がやってきた。
「アントリー様。クイーンリリー様が来ました。アントリー様をお呼びです」
「そうか… 分かった。おまえ達! こいつらが逃げないようにしっかり見張ってろ」
 アントリーはそう言うと、報告に来た戦闘員を伴って去った。戦闘員に見張られている技術者達は、小声で口々に言い合った。
「おい。このままじゃ、俺たち本当に殺されてしまうぞ」
「そうだ。何とかしてここから逃げ出し、誰かに知らせるんだ」
「しかし、これだけ見張や警戒が厳重では、そう簡単には逃げられんぞ」

22-08.png

「そうか。掘削に成功したか。でかしたぞ。アントリー」
「ははーッ。お褒めに預かり、光栄です。クイーンリリー様」
「では早速爆薬をセットし、まずこの界隈の火山を噴火させるのだ。成功すれば日本全国のマグマを掘削し、全ての火山を噴火させて日本を壊滅させる。アントリー。現在使っている技術者達を急いで別の場所へ移すのだ。我々もこのアジトを放棄する」
「分かりました」
 アントリーは戦闘員を引き連れて技術者達の所に戻ってきて、技術者達に向かって言った。
「お前達を殺すのはやめだ。お前達はまだまだこれから使い道がある。今度は別の場所でマグマの掘削作業をしてもらう。これから移動するから、急いで支度をしろ」
「じょ… 冗談じゃない。日本壊滅の片棒を担ぐのはもう沢山だ」
「そうだそうだ! 我々を早く解放しろ!」
「ええいウルサイ! それ! 者ども、こいつらを連れ出すのだ」
「ヒャイィーッ!」
 戦闘員達が一斉に技術者達を捕まえ、掘削現場の外へ連れ出して、停めてあったバスに無理矢理乗せた。

 その様子を木の蔭から双眼鏡でジッと見ている源太郎の姿があった。源太郎と美紀子はアジトがあるドライブイン跡の廃屋が見える場所まで来て車を停め、気付かれないように雪原の中を歩き、掘削現場の近くまでやってきて、突入のチャンスをうかがっていたのだ。
22-09.png

「美紀子。見てみろ」
 美紀子は源太郎から双眼鏡を受け取り、源太郎の指差す方向を見据えた。
「あの人達は… 恐らく誘拐されたボーリングの技術者達だわ」
「ああ… きっと別の場所へ連れていかれるんだろうな」
「助けなきゃ」
 見張っていたのは源太郎と美紀子である。他の三人… つまり詩織と早紀と誠一は、停めてある車のそばで待機していた。源太郎はバスの通る道に小型の地雷を置き、無線式の起爆装置の安全装置を外した。
「あのバスは必ずここを通る。通過直前に地雷を爆発させて、バスを止めるから、そしたらお前はバスの中にいる人達を助けるんだ」
「分かったわ」
「よし! 作戦開始だ」
 源太郎は無線機を取り出して、待機している早紀に二言三言話すと、再び双眼鏡を覗いた。
「バスが動き出した。こっちへ来るぞ。美紀子、準備しておけ」
「スカーレットスパーク‐エンジェルチャージ」
 美紀子はスカーレットエンジェルに変身して源太郎の指示を待ち、源太郎は起爆装置を持って、バスが近付いてくるのを待った。やがてバスが地雷の近くまでやってきて、源太郎は起爆装置のスイッチを押した。ドカーンという大きな音とともに、地雷が爆発して付近の土や雪が爆風で飛び散り、バスを運転していた戦闘員は驚いてハンドルをきりそこねた。バスは凍結した道路の上を滑走して、道路脇の雪原に突っ込んで止まった。
「今だ! 行け! スカーレットエンジェル」
 スカーレットエンジェルはダッシュしてジャンプし、バスの前に着地した。バスの中にいたアントリーが戦闘員とともに外へ飛び出してきた。
「ブラックリリー! お前たちの勝手にはさせないわよ!」

22-10.png

22-11.png

「おのれスカーレットエンジェル! 者どもかかれっ」
「ヒャイィーッ!」
 スカーレットエンジェルと戦闘員との間で格闘戦になった。戦闘員は次々と倒されていって、アントリーが戦闘員を押しのけてスカーレットエンジェルに向かってきた。
「小娘! 邪魔はさせん!」
 アントリーは口から強力な蟻酸を吐いた。スカーレットエンジェルはそばにいた戦闘員を自分の前に突き出した。
「ギャイィーッ!!」
 蟻酸が戦闘員にかかると、戦闘員は悶絶しながら前のめりに倒れ、そのままドロドロに溶けた。スカーレットエンジェルは驚いた表情を見せたが、すぐに我に帰ってブレードを出してアントリーに向かって走り、アントリーは手に剣と楯を持つと、スカーレットエンジェルを威嚇しながら向かってきた。何度か鍔迫り合いが繰り返されたが、なかなか勝負がつかない。アントリーは防護用の楯を持っていたので、スカーレットエンジェルの攻撃が全て跳ね返された。スカーレットエンジェルはジャンプすると、アントリーから離れた場所に着地し、ブレードをブローチにあててエネルギーをためた。
「エンジェルスマッシュ!」
 スマッシュのエネルギー波がアントリーに向けて飛ばされたが、アントリーは楯で軽々と跳ね返した。
「馬鹿め! そんなものが通用するか」
 アントリーはスカーレットエンジェルに向かってくると、口から蟻酸を吐いた。
「エンジェルシールド!」
 スカーレットエンジェルは自分の前にシールドを張り、蟻酸がシールドにビチャビチャとかかってきた。
 さて、スカーレットエンジェルがアントリーと戦っている隙に、源太郎は無線で呼び出した早紀達と一緒に、バスに乗せられていた技術者達を救い出し、車を停めていた道路まで逃げる事に成功していた。そこで源太郎は早紀と協力してそれぞれの車に分乗させ、その場から発進して麓の町まで技術者達を送っていったのである。誠一も早紀に送られて一足先にペンションへ戻った。その事を知らせるために、詩織がスカーレットエンジェルのもとにやってきた。詩織はスカーレットエンジェルの姿を見ると、大きな声で伝えた。
「美紀子ぉーっ! 技術者達は源太郎伯父さんが助けて、伯父さんと早紀さんが町へ送って行ったよ。もう大丈夫だよ」
「(そうか… みんな助けられたのね)よし!」
 スカーレットエンジェルは詩織の言葉を聞くと、アントリーに向かって身構えた。
「化け物! 勝負はお預けよ」
「何だと!?」
 スカーレットエンジェルはブレードを収納し、ジャンプして詩織のそばに着地すると、詩織と一緒に道路の方へ逃げた。
「おのれスカーレットエンジェル! 今度会った時は必ず殺してやる」
 アントリーはスカーレットエンジェルに逃げられて悔しがったが、火山噴火作戦という自分の任務を全うする関係上、スカーレットエンジェルを追うのをやめた。
 道路まで逃げてきたスカーレットエンジェルは、変身を解かずに詩織に向かって言った。
「詩織、技術者達は助けたけど、やつらの作戦が中断されたわけではないわ。このまま逃げる事は出来ない。私は またやつらのアジトへ行くから、詩織はここに残っていて」
「何言ってんのよ美紀子! あたしは美紀子と一緒に戦うためにここにいるのよ。もうすぐ伯父さんたちも戻ってくるわ」
「源太郎さんたちを待っている時間は無いわ。やつらが技術者達を連れ出そうとしたという事は、作戦の準備が整ったという事よ。すぐ戻って阻止行動に出ないと、やつらはマグマを噴出させてしまうわ」
「分かった。それじゃあたし達だけでやろう!」
「詩織。いいの? 最悪の場合、命に関わるわよ」
「何言ってんのよ。あたしを見くびらないで。いつも言ってんじゃん。あたしと美紀子は一蓮托生なのよ。美紀子と一緒に死ねるんなら本望だってば!」
「そうだったね… 詩織、ゴメンね」
「何謝ってんのよ。こんな所で言い合ってる暇があったら、すぐにでもやつらのアジトに殴り込みをかけようよ」

22-12.png

 詩織は防寒ジャケットに厚手のスラックス姿で、同じく厚手の防寒ブーツを履き、背中に背負っているザックの中には、源太郎から受け取った道具や武器が入っていた。そして、源太郎から借りた拳銃も持っていた。スカーレットエンジェルは詩織の目を見た。そしてお互いに頷き合うと、道路から再びアジトへ向かって雪原を歩き出した。

      *       *       *       *

 ブラックリリーのアジトでは、火山噴火作戦の執行準備に伴い、アジトの放棄と撤退の準備で大忙しだった。そこへ戦闘員がクイーンリリーに報告にやってきた。
「大変です。スカーレットエンジェルにマグマ掘削作業の現場を嗅ぎつけられ、技術者達が連れていかれました」
「何だと? それでアントリーはどうしたのだ」
「現在作業現場で爆薬のセットを始めているところです」
「よし! 作業現場の周辺をかためるのだ。スカーレットエンジェルに邪魔させるわけにはいかない。スッポンリーを呼べ」
「ヒャイィーッ!」
 暫くしてスッポンリーが司令室に入ってきた。
「スッポンリー! ヴァイオレットエンジェルを連れてすぐに外へ出ろ。スカーレットエンジェルが作戦現場を嗅ぎつけて、アジトの近くをうろついている。早々に始末するのだ!」
「かしこまりました。クイーンリリー様」
 スッポンリーは敬礼すると、司令室を出ていった。

      *       *       *       *

 スカーレットエンジェルと詩織はブラックリリーのアジトに近付き、様子をうかがっていた。だが、雰囲気がいつもと違うことに、いち早く詩織が気付いた。
「美紀子。何だか変だよ」
「変… って、どういう事?」
「見張が一人もいない。それにこれだけ近付いたら、やつらに見つかったっておかしくないのに、何も出てくる気配が無いよ」
「気をつけて。きっと近くに潜んでいるわ」
 そう言うや否や周辺の雪原から出し抜けに戦闘員が姿を現し、二人を取り囲むような態勢で身構えた。さらに入り口からスッポンリーが姿を現し、その後ろからヴァイオレットエンジェルも出てきた。
「待っていたぞ小娘ども! お前達が来る事など既に分かっていたのだ」
 スツポンリーはヴァイオレットエンジェルの方を向き、スカーレットエンジェルを指差した。
「やれ! 今度こそスカーレットエンジェルの小娘を殺せ!」
 ヴァイオレットエンジェルはブレードを出すと、スカーレットエンジェルに向かって走り出した。同時に二人の周囲にいた戦闘員が、一斉に襲いかかってきた。
 スカーレットエンジェルと詩織は、襲ってくる戦闘員と格闘し、戦闘員は一人また一人と倒されていった。ヴァイオレットエンジェルはジャンプすると、スカーレットエンジェルの前に着地し、ブレードの切っ先をスカーレットエンジェルに向けて身構えた。スカーレットエンジェルもブレードを出し、ヴァイオレットエンジェルと向かい合うように身構えた。スッポンリーは二人の戦いの成り行きを余裕ありげに見ていた。ヴァイオレットエンジェルがスカーレットエンジェルに向かって斬りかかり、スカーレットエンジェルはヴァイオレットエンジェルのブレードを受け止めた。と、同時に二人はスッポンリーの方を向くと、ブレードの切っ先をスッポンリーに向けた。
「ダブルエンジェルスマッシュ!!」
 エネルギー波がスッポンリーに向かっていって、スッポンリーの足元で炸裂し、反動でスッポンリーは吹っ飛ばされて雪の上に尻餅をついた。
「ど、どういう事なのだこれは」

22-13.png

「残念だったわね。お前の目論みはとっくの昔に外れているのよ」
「私はこの前スカーレットエンジェルと戦った時から、正気に戻っているのよ。おかげでお前達の作戦の全てが分かったわ。よくも私の事を拷問でいたぶったわね。もうこれ以上勝手な真似はさせない!」
「お、おのれ。よくも俺様をたぶらかしてくれたな! 者どもかかれ! 皆殺しにしろ!」
 戦闘員が奇声を上げながら、一斉に襲いかかってきた。そこへ次々と煙幕弾が飛んできて、黒煙が辺り一面にモクモクと立ち込め、戦闘員が煙の中で右往左往してパニック状態になった。詩織が煙幕弾を投げたのだ。続いて源太郎と早紀も到着し、戦いの中に入ってきた。
「二人とも! 雑魚は俺達が引き受けるから、お前達はやつらの作戦を阻止するんだ!」
「分かった。姉さん行こう」
 スカーレットエンジェルとヴァイオレットエンジェルはアジトに向かって走り出した。スッポンリーは向かってくる二人のエンジェルを見て、背を向けてアジトの中へ逃げこんだ。
「逃がさないわよ化け物!」
 スカーレットエンジェルとヴァイオレットエンジェルは、逃げるスッポンリーの後を追いかけて、アジトの中へ突入した。アジトに侵入した二人は、誰もいない廊下を駆け抜け、司令室に飛びこんだ。

22-14.png

「スカーレット、誰もいないわ」
「おそらく作戦を開始するためにアジトを放棄したんだわ。でも油断しないで。化け物が何処から襲ってくるか分からないわ」
 司令室の中は既に放棄された後なので、不気味なくらい静かだった。その時司令室の扉がガシャンという音ともに閉じられた。気付いたヴァイオレットエンジェルは扉に向かって駆けていき、扉の前に立つと、扉を開けようとした。が、全くびくともしない。
「スカーレット! 扉が開かないわ」
「姉さん! 避けて」
 スカーレットエンジェルはエネルギーをため、扉めがけてスマッシュを放った。激しい爆発音が轟き、爆風で付近の機械類が破壊された。が、爆発が止んで二人が見たものは、何の傷もついていない扉だった。
「驚いたか小娘ども」
 突然の声に、二人は辺りを見まわした。声はクイーンリリーのものだった。
「スカーレット、あそこよ」
 ヴァイオレットエンジェルはスピーカーを指さした。
「その扉は特殊金属で出来ていて、お前達の技では壊す事は出来ないのだ。このアジトは既に放棄した。既に時限爆弾のスイッチが入れられ、このアジトはあと5分で大爆発する。お前達はアジトの爆発と一緒に吹っ飛んで死んでしまえ」
 スピーカーからの音が途絶えて再び静寂が戻った時、スカーレットエンジェルの耳に微かに時計の音が聞こえた。
「スカーレット、何とかしてここから逃げなきゃ! もたもたしてたらここで死んでしまうわ」
「姉さん落ちついて。起爆装置を捜すのよ」
 スカーレットエンジェルは両手を頭にある羽根飾りにあてがい、指令室内のあらゆる方向を向いた。そしてコンピューターがある場所を指さした。
「あそこよ!」
 言うと同時にスカーレットエンジェルはコンピューターの場所に向かって駆け、機械の下に仕掛けてあった時限爆弾を見つけた。時計の針が無気味な音とともに動いていて、爆発まで後3分になっていた。スカーレットエンジェルは起爆スイッチを止めようとしたが、いくら操作しても止まらない。
「ダメだよスカーレット。私達もうここで…」
「馬鹿! 諦めちゃダメだよ。私達がここで死んだら、地球はクイーンリリーの思うがままになってしまうのよ」
 そう言ってスカーレットエンジェルがコンピューターを拳で叩いた時、突然コンピューターが作動して、頑丈な扉のロックが外れ、扉が開いた。
「扉が開いたわ。どういう事なの?」
 スカーレットエンジェルがコンピューターを叩いた時、非常時に扉を開けるためのスイッチに偶然触っていたのだ。
「何だか分からないけど、これで脱出できる。あと1分で爆発するわ。姉さん急いで!」
 スカーレットエンジェルとヴァイオレットエンジェルは、司令室の外へ出ると、一目散に出入り口へ向かって駆けた。出入り口から外へ出ると、戦闘員を全て倒した源太郎達が待っていた。

22-15.png

「みんな伏せて! アジトが爆発するわ」
 同時に腹の底から突き上げるような鈍い振動が辺り一面に起きて、そのあとすぐに大音響とともに爆発が起き、巨大な火柱が立ちあがって、ドライブイン跡の廃屋が吹っ飛び、辺り一面にその残骸が降ってきた。爆発と同時にみんな伏せていたので、誰も怪我人はいなかった。爆発がやんで静寂が戻り、みんなそれぞれ立ちあがった。
「おーい! みんな大丈夫か!?」
 源太郎が大きな声で怒鳴ると、みんなそれぞれ返事をしながら、源太郎のそばに寄ってきた。
「源太郎さん。私達はやつらの作戦を阻止します。源太郎さんは早紀さんと詩織を連れてここから早く逃げて」
「よし分かった。二人とも気をつけてな」
「ありがとう」
 スカーレットエンジェルとヴァイオレットエンジェルは源太郎達に手を振ると、そのまま背を向けて駆け出した。
 
      *      *      *      *

 アジトを放棄し、爆破したクイーンリリーは、マグマ掘削の作業場を臨時のアジトにして、そこで指揮をとっていた。作業場では掘削作業が終わり、掘った穴の中に爆薬をセットする準備が始められていた。ブラックリリーが開発した『ネオTNT爆弾』である。この爆弾でマグマを噴出させれば、この作業場周辺は高熱のマグマによって焼き尽くされ、天間村にある火山が全て噴火して、周辺の町は火山灰と溶岩で大きな被害を受ける。さらに爆弾の爆発に伴う地震は震度7以上の強さに匹敵し、その影響は中部地方一帯に及んで、静岡や名古屋といった大都市が壊滅的打撃を受けるのだ。
「ここでマグマを噴出させれば、付近の火山が全て大噴火して、麓の町を全滅させる事が出来ます。さらに火山帯にある全ての火山をも噴火して、大地震を起こす事が出来、火山帯周辺にある都市機能を壊滅させる事が出来、その混乱に乗じて、我がブラックリリーは中部地方の主要都市を占領できます」
「よろしい。そして我がブラックリリーはそれらの都市を橋頭堡として足場を固める。そしてさらなる大噴火作戦と大規模な地震により、日本中の都市を全て壊滅させ、日本全国を占領するのだ。そうすれば、スカーレットエンジェルの小娘といえども、もう手が出せぬ。我々は心置きなく世界征服の作戦行動を実施できるのだ。アントリー、直ちに爆薬をセットせよ」
「ははーッ! かしこまりました。クイーンリリー様」
 アントリーは戦闘員を使い、次々と爆薬を運びこんでいた。一方のスッポンリーは、阻止行動に出てくるであろうスカーレットエンジェル達を迎え撃つため、作業場の周辺に地雷を配置して待ち構えていた。
「小娘ども… 来るなら来い。俺様に恥をかかせた報いとして、地雷で木っ端微塵にしてやる」
 スッポンリーは地雷が敷き詰められた広大な雪原を眺めながら呟いていた。周囲には彼に従う戦闘員達が配置され、スッポンリー同様、スカーレットエンジェルとヴァイオレットエンジェルが来るのを待ち構えていた。そしてもっとも前の方で双眼鏡を覗いていた戦闘員の一人が、近付いてくる二人を見つけ、無線で知らせてきた。
「小娘どもがやってきた。戦闘準備!」
「ヒャイィーッ!!」
 スッポンリーのそばにいた戦闘員が、地雷の起爆スイッチを持ち、スッポンリーの命令を待った。
「まだまだ… もっと引きつけろ。地雷原の中央まで誘いこむんだ」
 スカーレットエンジェルとヴァイオレットエンジェルは、雪原の上を作業場に向かって歩いていた。この辺りには木は一本もなく、自分達の姿は何処からでもはっきりと見える。二人とも自分達は既に見つけられていると確信していたので、何時何処から襲ってきても対抗できるよう、用心しながら歩いていた。
「スカーレット。あの丘の向こう側だよ」
 ヴァイオレットエンジェルは、200mほど先に見える小高い丘を指さした。ヴァイオレットエンジェルは洗脳されていると見せかけて、アジトの中に潜り込み、今回のブラックリリーの作戦のほぼ全容を掴んでいたので、アジトやその他の基地、作業場の位置や配置状況を全て知っていたのである。そのため、周辺の地雷原の位置も分かっていた。
「この辺りが地雷原よ。気をつけて」
 しかしスカーレットエンジェルとヴァイオレットエンジェルは既に地雷原の真ん中近くにいた。スッポンリーは二人が地雷原の真ん中に入ってきたのを見て、そばにいる戦闘員に向かって命令した。
「今だ! やれっ」
 起爆装置のスイッチが入れられ、ドーン!という大音響とともに二人の周辺で地雷が爆発した。爆風が雪や土を吹き上げ、スカーレットエンジェルとヴァイオレットエンジェルはその場に身を竦め、爆発がやむと同時に駆け出した。その近くで次々と地雷が爆発して、ついに二人の至近距離で地雷が爆発し、爆煙と爆風で吹き上げられた雪と土が二人を覆った。それを見てスッポンリーは二人が爆発で吹っ飛んだと錯覚した。
「やったぞ! 小娘どもの最後だ」
 が、その喜びも束の間… スッポンリーが上空から降りてくる二つの影に気付き、その影がスカーレットエンジェルとヴァイオレットエンジェルだと分かった時には、二人のエンジェルの蹴りがスッポンリーを直撃していた。

22-16-1.png

「ダブルエンジェルキック!」
 スッポンリーの身体は堅い甲羅で覆われていたが、不意を突かれたうえに、勢いがついていたため、その反動で空中に吹っ飛ばされ、一回転して雪原の上にたたきつけられた。
「おのれ小娘! 者どもかかれっ」
 周囲にいた戦闘員が奇声とともに、スカーレットエンジェルとヴァイオレットエンジェルに向かって襲いかかってきた。二人は向かってくる戦闘員と格闘して一人ずつ倒していった。

22-17.png

「スカーレット。ここは私が引き受けるから、やつらの作戦を阻止して!」
「分かった姉さん。それじゃ頼んだわ」
 スカーレットエンジェルは大きくジャンプすると、基地の入り口付近に着地し、そこにいた戦闘員を倒すと基地の中へ突入した。
 ヴァイオレットエンジェルはブレードを出すと、向かってくる戦闘員とスッポンリーに向かってダッシュした。武器を手に斬りかかってくる戦闘員に対し、ヴァイオレットエンジェルはブレードで戦闘員を次々と斬り倒した。
「ええいどけどけ!」
 スッポンリーが出てきて、口から火炎を吐き、火線がヴァイオレットエンジェルに向かった。ヴァイオレットエンジェルはジャンプして火炎を避けると、スッポンリーの後ろに着地し、そのまま振り向いてブレードの切っ先をスッポンリーに向けた。
「化け物! お前達の作戦もこれで終わりよ」
「何を小癪な!」
 スッポンリーの周りにいた戦闘員がヴァイオレットエンジェルに向かってきて、再び戦闘員との格闘戦になった。
 
 一方のスカーレットエンジェルは、基地の中に突入すると、かかってくる戦闘員を倒しながらマグマの掘削作業場の前まで来た。そこは頑丈な鉄の扉で塞がれていたが、スカーレットエンジェルはエンジェルスマッシュで扉を粉砕して中に飛びこんだ。ちょうどその時、爆薬が掘削した穴の中へ機械によって入れられようとしていたところだった。
「エンジェルスマッシュ!!」
 エネルギー波が機械を直撃し、積まれていた爆薬の箱が崩れてきて、機械が横倒しになり、戦闘員の何人かが下敷きになって絶命した。
「クイーンリリー! お前達の勝手には絶対にさせない!」
「お、おのれぇスカーレットエンジェル! よくも私の計画の邪魔をしたな。この恨みは必ず晴らしてやる。アントリー! 戦闘員ども! スカーレットエンジェルを殺せ!」
 そう言ってクイーンリリーはその場から消えた。同時にアントリーが威嚇するポーズを取りながら、スカーレットエンジェルに迫ってきた。
「かかれっ!」
 アントリーの命令で、戦闘員が奇声を上げながら襲いかかってきた。
「エンジェルブレード!」
 スカーレットエンジェルはブレードを出すと、斬りかかってくる戦闘員を次々とブレードで斬り伏せた。焦れてきたアントリーは手に剣と楯を持ち、スカーレットエンジェルを威嚇しながら近付いてきた。
「覚悟しろ小娘。さっきの勝負のケリをつけてやる」
 そう言うとアントリーは剣を振り上げて、スカーレットエンジェルめがけて突進して斬りかかってきた。スカーレットエンジェルはブレードで受け止め、反す刀でアントリーに斬りかかったが、アントリーは楯で跳ね返し、そのまま剣で斬りかかってきた。スカーレットエンジェルは小さくジャンプして後ろに下がった。同時にアントリーは口から蟻酸を吐き出し、スカーレットエンジェルの足元に振りかかってきて、床が溶けた。
「エンジェルスマッシュ!」
 スカーレットエンジェルはブレードを振り下ろして、エネルギー波を放った。が、アントリーは楯をかざして軽々と跳ね返す。
「小娘! 今までのは小手調べだ」
 そう言ってアントリーは、これまでとは違った素早い動きでスカーレットエンジェルに剣を振り下ろしてきた。スカーレットエンジェルは必死で受け止めたり、避けたりしたが、次第に押されてきた。
「(このままではやられる… )」
 そうこうしているうちに、アントリーが剣を振り下ろし、スカーレットエンジェルが受け止めると、アントリーはスカーレットエンジェルの腹部に鋭い蹴りを入れてきた。まともに蹴りを受けたスカーレットエンジェルは、そのまま反動で後ろに飛ばされ、山積みされている爆薬の箱に叩きつけられた。
「ぐ… 」
「食らえ!!」
 アントリーは蟻酸を吐き出し、スカーレットエンジェルは体を捻って間一髪で避けた。蟻酸はスカーレットエンジェルの後ろにあった爆薬の箱にかかり、箱が溶けて中の爆薬がむき出しになった。もし爆薬に火がつけば次々と誘爆し、基地そのものが木っ端微塵に吹っ飛んでしまう。アントリーは剣の切っ先をピタリと定めた。
「スカーレットエンジェル、止めをさしてやる! 爆薬を爆発させて、お前を基地もろとも吹っ飛ばしてやる」

 スカーレットエンジェルがアントリーとの戦いで窮地に追い込まれていた頃、ヴァイオレットエンジェルはスッポンリーと戦い続けていた。ヴァイオレットエンジェルはスマッシュを立て続けに放っていたが、スッポンリーの甲羅で全て跳ね返されていた。
「小娘! そんなものは効かんと言っただろう」

22-18.png

 そう言ってスッポンリーは首を胴から切り離し、その首が大きな口を開けてヴァイオレットエンジェルに向かってきた。噛みつかれたら最後、ヴァイオレットエンジェルは確実にやられてしまう。ヴァイオレットエンジェルは飛んでくる首を避けながら攻撃のチャンスを覗った。その中でスッポンリーの動きから、一つの結論を得る事が出来たのだ。
「(やつは首が胴体から離れている間は、胴体の部分は全く動いていない。もしかしたら… )」
 ヴァイオレットエンジェルは持っていたブレードを、スッポンリーの胴体めがけて投げつけた。スツポンリーの胴体は全く動かず、ブレードが胴体の甲羅の部分に命中して跳ねかえり、そのまま地面に突き刺さった。
「やっぱりそうだったのか… 」
 そこへスッポンリーの首が向かってきた。ヴァイオレットエンジェルは身をかわして避けると、ジャンプして空中で一回転し、スッポンリーの胴体めがけて急降下した。
「エンジェルキック!」
 キックがスッポンリーの胴体を直撃して、スッポンリーの胴体が反動で空中に飛び、そのまま雪が積もった地面に突っ込んだ。同時に飛行していたスッポンリーの首の動きが鈍くなってフラフラになった。
「お… おのれ小娘!」
「今だ!」
 ヴァイオレットエンジェルは突き刺さっていたブレードを抜くと、胸のブローチにあててエネルギーを溜めた。エネルギーが充分にたまったブレードが眩しく光る。
「化け物! 引導を渡してやるから覚悟なさい! エンジェルストーム!」
22-19.png

 ヴァイオレットエンジェルはフラフラと飛んでいるスッポンリーの首めがけて、ブレードを突き刺した。
「グギャアァーッ!」
 ブレードから強力なエネルギーが送り込まれ、バチバチと火花が迸った。ヴァイオレットエンジェルはブレードを思いっきり振って、突き刺さったスッポンリーの首を抜き取った。反動で空中に舞ったスッポンリーの首が大爆発を起こして、粉々に砕け散った。間を置いて、雪の中に突っ込んでいた胴体も爆発し、雪や土が砕け散ったスッポンリーの胴体とともに吹き上げられた。
「やった!」

 ヴァイオレットエンジェルがスッポンリーを倒した時、スカーレットエンジェルの方は、アントリー相手に苦戦していて、窮地に追い込まれていた。自分の後ろには山積みされたネオTNT爆弾の箱があり、もしこれらに火がつけばたちどころに誘爆を起こして、基地ごと吹っ飛んでしまう。そして自分の真正面には、アントリーの剣の切っ先が… 
「小娘! 止めを刺してやる!」
 アントリーの剣がスカーレットエンジェルを激しく突いてきた。スカーレットエンジェルは突きたてられると同時に身を翻して避けた。アントリーは勢い余ってそのまま爆薬の山に突っ込み、剣が爆薬の箱に突き刺さって抜けなくなった。
「し・・ しまった」
「今だ!」
 スカーレットエンジェルはアントリーの横から蹴りを入れた。反動でアントリーの身体はそのまま横へ飛んで、一回転して床に叩きつけられた。スカーレットエンジェルは自分の脇に落ちていたブレードを拾うと、ブローチにあてた。ブレードの刃にエネルギーがたまって眩しい光を発した。一方、蹴りを入れられたアントリーは態勢を立てなおすと、口から蟻酸を吐き出した。同時にスカーレットエンジェルはブレードをアントリーに向けて振り下ろした。

22-20.png

「エンジェルトルネード!!」
 エネルギー波が渦状になって、アントリーに向かって延び、アントリーの身体を包みこんだ。
「ギャアァーッ!!」
 アントリーは絶叫とともに、渦の中で爆発し、その影響で積まれていた爆薬に火がついた。
「いけない! 基地が爆発する」
 スカーレットエンジェルは爆薬に火がついたのを見て、ブレードを収納すると、急いで出入り口へ向かった。後ろの方から立て続けに鈍い爆発音が響き、逃げるスカーレットエンジェルの後ろから炎が迫ってきた。出入り口から飛び出したスカーレットエンジェルは、外にいたヴァイオレットエンジェルに向かって叫んだ。
「姉さん伏せて! 基地が爆発する!」
 ヴァイオレットエンジェルは慌ててその場に伏せた。スカーレットエンジェルもヴァイオレットエンジェルのそばまで駆けてきて、そのまま身を伏せた。
 激しい地鳴りと轟音を伴い、ブラックリリーの基地が大爆発を起こして、積もっていた雪が飛び散って、噴煙が空高く上がった。暫くして空から大小の残骸が降ってきて、スカーレットエンジェルとヴァイオレットエンジェルの周りに落下してきた。二人はシールドを張って、落ちてくる残骸から身を守った。やがて爆発がおさまり、静寂が戻って、二人はその場から立ち上がった。
「終わったね」
「うん。でも、これで全てが終わったわけじゃないわ。クイーンリリーがいる限り、まだ私達は戦い続けなきゃならないのよ」
 二人が会話を交わしていると、「おーい!」という声が聞こえてきた。源太郎が心配してやってきたのだ。
「源太郎さぁーん!」
 スカーレットエンジェルは源太郎の声に応えるように、源太郎に向かって叫んだ。
「姉さん。行こう」
 ヴァイオレットエンジェルは頷くと、スカーレットエンジェルと一緒に源太郎のいる方へ向かって歩き出した。

      *     *     *     *

 ブラックリリーの火山噴火作戦は、二人のエンジェルによって阻止された。しかし、クイーンリリーがいる限り、二人の戦いはまだまだ続くのだ。


     -----------------------------------------------------------

 次回予告
 ☆第23話 ブラックリリー総攻撃

 クイーンリリーは本拠地を放棄して天間村に前進基地を作る。そして科学者達の技術で再生した怪人軍団を使って、天間村占領作戦を開始するため、自ら陣頭指揮をとる。
 それから暫くして、天間村では奇妙な現象や事件が続発し、麻紀子と誠一から事件の内容が美紀子と源太郎に伝えられる。一方、単独で怪奇現象の調査をしていた早紀も、天間村を調査中に得体の知れない集団が村を襲って、村人達を何処かへ連れていったという話を聞き、源太郎に連絡する。
 これらの情報を聞いて、美紀子は源太郎とともに美紀子と天間村へ向かう。が、その隙にブラックリリーの別働隊により、詩織と結花、志保、誠人と久美子が、さらにペンション赤嶺が襲われて誠一が捕まり、アジトに連れ去られてしまう。

 次回 スカーレットエンジェル第23話『ブラックリリー総攻撃』にご期待ください

スポンサーサイト

テーマ : ライトノベル
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント