鷲尾飛鳥

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第5話『龍神沼』の秘密

2012年 04月29日 11:10 (日)

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 新間町北部にある烏帽子山は標高755mで、その北麓には大沼ヶ原湿原地帯が広がり、広大な湿原の中に大小30の沼が点在している。最も大きい弁天沼周辺はキャンプ場やバンガローがあり、シーズン中はキャンプやハイキング・散策などで賑わう。また、この地域一帯はバードサンクチュアリに指定されていて、湿原地帯全域と、湿原地帯から10km以内の地域は全て禁猟区となっている。
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 その湿原地帯の中にある龍神沼の近くで今、恐ろしいことが起きようとしていた。龍神沼は、大沼ヶ原湿原地帯の中にある沼の一つで、弁天沼の東約2kmの場所にあり、沼の周囲は約900m、最大水深は約10mで、水が濁っていて、透明度は殆どない。
 4月の下旬、龍神沼のほとりを銃を持った2人の男が歩いていた。この二人は密猟者だった。男たちは禁猟区の外で獲物を探していたのだが、今日に限ってこれといった獲物が見つからず、禁猟区の方へ入ってきたのだった。そして龍神沼の近くに来た時、沼の畔にある背丈の高い草むらの中からガサガサという音が聞こえてきて、男達は銃を構えて音のする方向へ向けた。しかしそのあとは何も聞こえてこない。焦れた男達は草を掻き分けて音がした方向に向かって歩いたが、何も見つからず、沼のほとりに達した。
「何でぇ! 何もいねえじゃねえか! チキショー!」
「お、おい! あれは何だ!?」
 もう一人の男が沼の中を指差して叫んだ。
「何だよ一体… 」
 男達は二人で沼の中を見た。すると、緑色に濁った水の中に、かすかに金属のようなものが見えた。さらによく見ると、それは建物のようにも見えた。すると突然後ろから奇声が聞こえ、振り向いた男達の前にピラニア魔人が立っていた。

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「ワーッ! か、か、怪物!」
「ギョギョギョーッ! お前ら! ネオ‐ブラックリリーのアジトを見たな!? 生かしては帰さんぞ」
「ネ・・ ネオ… 俺達そんなもん知らねえよ」
 2人の男は魔人の姿に腰をぬかしそうになりながらも、持っていた銃を構えて魔人目がけて滅茶苦茶に撃った。だが弾が当たっているのに魔人は平然と歩き、自分たちの方へと近づいてくる。そしてついに弾がなくなった。
「ギョギョーッ! 馬鹿めぇ。そんなものが俺に通用するかァ!」
 ピラニア魔人は男の一人に飛びかかり、大きな口で男の頭に噛みついた。
「ギャアァーッ!!」
 ピラニア魔人はそのまま男を噛み砕いて丸呑みにした。
「うわーっ! た… 助けてくれぇーっ! 化け物だぁーっ」
 もう一人は持っていた銃と荷物を放り出して逃げ出したが、その前にハス魔人が立ち塞がった。
「馬鹿め! 逃げられるとでも思ってか! キエェーッ! ネオ‐ブラックリリーの秘密を知ったものは必ず死ぬのだ」」

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「あわわわ… 」
 前後を魔人に挟まれた男は、恐怖のあまりその場に立ちすくんだ。その男めがけて、ハス魔人は持っていたサーベルで男の体を突き刺した。
「ギャアァーッ!!」
 男はそのまま倒れて絶命した。
「ざまあ見ろ! アジトに近付く者は皆殺しだァ! ギョギョーッ!」
「キエェーッ!」
 ハス魔人は奇声とともに口から白い液体を吐き出し、それが男の死体にかかると、死体がドロドロに溶けて消滅した。
 ネオ‐ブラックリリーのアジトは龍神沼の湖底に作られ、そう簡単には発見できないようになっていたが、二人の男は偶然それを見てしまったために殺されたのだった。しかし、この事件は報道されなかった。二人の男が密猟者であった事と、銃声を聞いた者がいなかった事。さらに、二人とも魔人に食われたり、毒液で溶けてしまったため、何の手掛かりも残されておらず、遺留品も全て処分されていた。そして龍神沼の近辺には、弁天沼からの遊歩道があるだけで、地元の人でも滅多に足を踏み入れない場所だったため、肝心要の目撃者がいなかった。
 ネオ‐ブラックリリーは龍神沼の底に作ったアジトを足場にして、この広大な湿原地帯の地形と地勢を利用し、新たな作戦を開始しようとしていた。そのためアジトに近づく者をことごとく抹殺していたのである。

      *       *       *       *

 事件から約一週間が経過した。今日は日曜日。現在はゴールデンウィークの真っ最中で、今日を含めて連休があと3日続く。今日から絵里香達は一泊二日の予定で大沼ヶ原へキャンプに行く事になっていた。現在時間は午前7時半… 絵里香と聖奈子は、美由紀と待ち合わせのため、聖奈子の妹の佳奈子とともに、鷲尾平駅構内にいた。最初は絵里香達3人だけの予定だったのだが、佳奈子が一緒に行きたいと言い出し、佳奈子をメンバーに加える事になった。そこまではまだよかった。さらに美由紀の弟の篤志も一緒に行く事になったのだ。
 話は一日前に溯る。美由紀が旅行で二日も家を空けると聞き、弟の篤志が一緒に連れていってくれとせがんだのだ。両親は北海道へ行っていて家にいないし、今年の連休はこっちに帰ってこない。だから姉が家を空ければ、家にいるのは自分一人だけだ。篤志としては、部活ならしょうがないけれど、遊びに行くために家を二日も開けられ、自分一人が留守番するのは我慢出来なかったのである。美由紀自身も篤志の言い分には一理あり、篤志に対して後ろめたさも感じていたので、渋々篤志のいう事を聞いて、一緒に連れていくことにしたのである。そこで美由紀は絵里香と聖奈子に電話して事情を説明し、なんとか了承してもらった。

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 改札から出てきた美由紀は絵里香達を見ると、すまなそうな顔をしながら絵里香達の方へやってきた。
「ごめーん絵里香。聖奈子」
 篤志は絵里香達と視線が合うと、絵里香達に向かって軽く会釈した。絵里香と聖奈子は美由紀の腕をつかむと、少し離れた所に連れていった。
「昨日の電話で事情は分かったけどさ、どうすんのよ美由紀。予約しているバンガローは一つだけなのに、篤志君は男の子なんだよ。私達と一緒ってわけにいかないじゃん」
 聖奈子の声が大きかったので、離れていた佳奈子と篤志にまで声が聞こえてしまい、佳奈子と篤志が絵里香達の所へ寄ってきて、篤志が絵里香達に向かって言った。
「ごめんなさい。俺… 姉貴が二日も旅行で家を空けちゃうのが我慢できなくて、一緒に行きたいって言ったばっかりに、こんな事になっちゃって」
「私はいいよ。篤志君だったら、一緒にいたって違和感ないから」
 佳奈子がボソッと呟いたのを聞き、聖奈子が佳奈子の顔を見た。
「そういう問題じゃないよ」
 絵里香はそう言ってから言葉を止めて、少し考えこんでから、もう一度口を開いた。
「キャンプ場に着いたら、二部屋のバンガローを頼んでみようよ。もし、空きがあったらそっちにしたらいいじゃない」
「空きがなかったらどうすんの?」
「その時はその時! 何とかなるわよ」
 絵里香がそう言いきったので、聖奈子も美由紀も二の句が告げられなくなった。実を言うと、みんな篤志が同室になる事には反対ではなかった。ただ、当初の予定より人数が増えてしまったため、バンガロー一つで大丈夫かどうか不安だったのだ。
「みんな揃った事だし、そろそろ行こうか」
 絵里香の一声で、みんなは切符を買うと駅の改札を通過し、ホームに上がった。目的地までは鷲尾平から電車とバスを乗り継いで約2時間である。やがて電車がホームに入ってきて、絵里香達は電車に乗りこんだ。絵里香たちはまだ知らなかったが、今日までに大沼ヶ原で、例の密猟者以外に三人が行方不明になっていた。三人とも地元の人で、山菜取りへ行って失踪したのだが、この近辺では毎年必ずそういう事件や事故が起きるので、地元の警察や青年会では注意を呼びかけていた。

      *       *       *       *

 ここは龍神沼の水底にある、ネオ‐ブラックリリーのアジトである。ネオ‐ブラックリリーは大沼ヶ原湿原地帯一帯の地勢を利用し、大規模な作戦を展開しようとしていた。その作戦のために龍神沼の水底にアジトを設け、前進基地にして、再改造してパワーアップしたハス魔人と、新たに改造したピラニア魔人を、作戦責任者として送り込んでいた。が、この作戦自体は陽動作戦、つまりこの地域にエンジェルスを誘い込む事によって時間を稼ぎ、あわよくばエンジェルスを抹殺しようというもので、本当の作戦目的は別にあった。しかし、これだけ大っぴらに事件を起こし、数人を殺したにもかかわらず、新聞ではたいした事件として扱われておらず、絵里香たちも大沼ヶ原でネオ‐ブラックリリーが行動している事に、まだ気付いていなかった。
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ハス魔人。ピラニア魔人。これだけ大規模な陽動作戦を行っているというのに、エンジェルスの小娘どもの動きがないのはどういうわけなのだ!?」
「ははっ! アジトがある龍神沼の周辺は滅多に人が出入りしないため、アジトに近付く者を殺しても、何の効果もありません」
「言い訳はよい! 水神ダムの発電施設に強力な電気を流し、発電所とダムを破壊して下流の町に洪水を起こさせ、さらに強力な電気で町中を破壊する作戦を進めるにあたり、その作戦を小娘どもに邪魔されては困るのだ。それで小娘どもを湿原地帯に引きつけるための陽動作戦として、龍神沼にアジトを設け、お前達を送りこんでいるのだ」
「大首領様。お言葉ですが、人が殆ど入らない龍神沼の周辺で行動しても、これ以上の進展は望めません。小娘どもを誘い出すならば、もっと作戦区域を広げる必要があります。たとえば、キャンプ場がある弁天沼周辺ならば… 」
「よろしい。とにかく作戦進行はお前達に任せる。どんな手段を使ってでも、小娘どもを大沼ヶ原湿原地帯の中に誘いこむのだ」
「かしこまりました。大首領様」
 クイーンリリーとの会話を終えたピラニア魔人とハス魔人は、後ろに立っていた戦闘員たちの方を向いた。
「作戦区域を弁天沼周辺まで広げる。すぐに行動開始!」
「かしこまりました!」
 戦闘員達は一斉に動き出し、一部の戦闘員達がアジトを出て、作戦区域に向かっていった。それに続いてピラニア魔人とハス魔人もアジトから出て行った。

      *       *       *       *

 その頃、絵里香たちは電車からバスに乗り継ぎ、大沼ヶ原に向かって走るバスの中にいた。
『ご乗車有難うございました。間もなく終点大沼ヶ原入り口でございます。御降りの際はお忘れ物のない様ご注意下さい』
 アナウンスがあって、絵里香たちはそれぞれ荷物を持って降りる準備をした。やがてバスは終点の停留所がある広場に入って止まった。ゴールデンウィークのせいか、乗客も結構多く、一番後ろに乗っていた絵里香たちは他の乗客がみんな降りるのを待ってから、バスを降りた。
「うわーっ! いい眺め」
「空気も美味しいね」
 絵里香達は自然公園入り口の看板がある場所で荷物を置き、記念撮影をすると、荷物を持って弁天沼へ向かって歩き出した。バス停がある広場から弁天沼のキャンプ場までは約10分である。キャンプ場に着いた絵里香達は、早速キャンプ場の管理事務所へ向かった。当初予約したバンガローを変えてもらうためである。しかし、他のバンガローは予約が既に一杯になっていたので、変える事が出来ず、仕方なく予約したバンガローを使う事になった。が、事情を知った事務所の計らいで、余っていたテントを無料で一つ提供してもらい、バンガローの傍にそのテントを設置する事も許可してもらった。絵里香は事務所が出した書類に必要事項を書き、サインをして人数分の寝袋や炊事道具、食器を借りた。一通りの手続きが済むと、職員は壁に貼られた地図と、その隣に張ってある注意書きを指差して言った。
「テント用の資材と、寝袋及び炊事の道具類はあとで私達が持っていきます。それから、ここに書いてあるよう に、行方不明の事故が発生してるので、気をつけてください」
 絵里香が注意書きを見ると、そこには遭難事件の事が書かれていた。
「(山菜取りに行ったまま、三人が行方不明… か)」
 行方不明になった人は、みなネオ‐ブラックリリーに殺されていたのだが、誰もそんな事は知らなかった。実際には5人が犠牲になっていたのだが、例の密猟者達は人数に入っていなかった。管理の職員はさらに続けて言った。
「今日まで三人が行方不明になってるんですよ。遺留品すら見つからない始末で、まるで神隠しに遭ったみたいに忽然と消えてしまってるんです。我々も原因が分からないし、警察の捜査も行き詰まってしまって… とにかく今のところは、こういう形で警告するしかないんです」
「分かりました」
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 絵里香は管理事務所を出ると、外で待っていたみんなを連れてバンガローに向かい、管理事務所から借りた鍵でバンガローの扉を開けた。絵里香は荷物を部屋に入れると、聖奈子と美由紀に目で合図した。二人とも『何かあったな』と直感し、部屋に荷物を置くと絵里香の後をついていった。絵里香は弁天沼のほとりに来ると、聖奈子と美由紀の方を向いた。
「二人とも、もっと近くに来て」
 絵里香の顔を見て、聖奈子と美由紀は絵里香の左右に並んで立った。
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「絵里香。真剣な顔してるけど、何かあったんだね?」
「うん… さっき聞いたんだけど、この周辺で山菜取りに出かけた地元の人が三人行方不明になってるんだって。不思議な事に、遺留品すら見つかっていないそうよ。だから、散策する時は規定の遊歩道以外は絶対に行かないようにだって」
「遺留品も見つかっていないって… ?」
「ネオ‐ブラックリリーかもしれない」
 聖奈子が呟くように言った。
「聖奈子考えすぎだよ。こんな所で… 」
 美由紀が言いかけたのを遮るように、聖奈子は話を続けた。
「絵里香が事務所にいる間、あたし売店へ行ったんだけど、そこで地元の人から変な話を聞いたのよ。龍神沼の近くで変な格好をした集団と、沼から出てくる魚のお化けを見たって」
 聖奈子の話を聞いて、絵里香の表情が変わった。
「聖奈子。その人、他に何か言ってなかった?」
「その人が言うには、一昨日山菜取りに行って、龍神沼のあたりで休んでいたら、変な格好をした集団がやってきたんで、藪の中に隠れて様子を見てたんだって。そしたら沼の中から魚のお化けが出てきて、ビックリして、怖くて声も出せなかったんだって。そしてお化けがまた沼の中に潜っていって、変な連中もいなくなったんで、それから一目散に逃げて帰ってきたそうよ」
「龍神沼か… その近辺にきっとやつらのアジトがあるんだわ」
「しかし… 一体何でこんな所で」
 絵里香達が会話していた時、佳奈子と篤志がやってきた。
「お姉ちゃん。私、篤志君とボートに乗ってくるから」
 そう言って佳奈子と篤志はボート乗り場を指さした。
「いいよ。行っておいで」
 佳奈子と篤志はボート乗り場へ向かって小走りに駆けていった。その様子を見届けながら、聖奈子は再び話を始めた。
「龍神沼へ行ってみよう。何かが分かるかもしれないよ」
「うん・・ でも、私達だけならともかく、佳奈子ちゃんと篤志がいるからな」
「そうか… あの二人がいるんだよね… どうする絵里香」
「取り敢えず調べてみようよ。まず私と聖奈子で行ってくるから、美由紀はここに残って二人を見てて。何かあったらすぐ連絡するから、美由紀の方も何かあったらすぐ連絡して」
「分かった。じゃ絵里香。聖奈子。気をつけて」
 絵里香と聖奈子は美由紀と分かれると、竜神沼へ続く遊歩道のほうへ向かっていき、美由紀は佳奈子と篤志が乗っているボートが見える場所へ移動した。絵里香達は気付かなかったが、三人の様子をずっと見ている目があった。それは沼の中でハスに化けていたハス魔人だった。絵里香達の姿が遠ざかったのを見届けると、ハス魔人は正体を現して沼から岸へ上がった。いつのまにか、ハス魔人の傍に数人の戦闘員がやってきた。
「やつらがいたぞ。都合のいい事に、龍神沼へ向かっている。ピラニア魔人に知らせるのだ」
「かしこまりました」
 戦闘員達は返事をすると、その場から散っていった。
「偶然かどうかは分からぬが、小娘どもがやってきたという事は。こちらにとって好都合だ」

      *       *       *       *

 絵里香と聖奈子は、弁天沼の岸に沿って続く遊歩道を小走りに駆けていた。やがて龍神沼へのコースが書かれている看板が目に入った。
「絵里香。こっちだよ」
 聖奈子は案内板の矢印が指している道を指差して言った。絵里香と聖奈子は案内板の前で立ち止まった。
「ここから1.5kmだって。行こう!」
 絵里香と聖奈子は再び駆け出すと、絵里香の携帯に着信が入った。
「聖奈子ちょっと待って」
「どうしたの?」
「美由紀から電話」
 絵里香は携帯のスイッチを入れると、通話を始めた。
「ハイ絵里香です。美由紀どうしたの? えっ!? 分かった。すぐ戻る」
「美由紀何だって?」
「弁天沼でやつらが現れたって。聖奈子、すぐ戻るよ」
「オッケー!」
 絵里香と聖奈子は今来た道を駆け戻った。しばらくして反対側からエンジェルイエローに変身した美由紀が走ってきて、絵里香と聖奈子の前で止まった。
「美由紀、やつらは!?」
「それが… キャンプ場の近くの森の中で、この前合宿の時に見た怪人が、戦闘員を引き連れてあらわれたのよ。でも、私の姿を見ると、ろくに戦いもしないで逃げだして、それで後を追ったら消えちゃって… 」

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 絵里香と聖奈子はお互いの顔を見合ってから、美由紀の顔を見た。
「逃げた!? どういう事?」
「美由紀、とにかく場所を案内して」
「こっちよ」
 美由紀は変身を解くと、怪人を見た場所へ絵里香と聖奈子を連れていった。その場所は絵里香たちが使っているバンガローから200mほど離れた森の中だった。聖奈子は何かを感じたのか、絵里香と美由紀の顔を見て言った。
「この臭い… あの化け物のガスよ! 間違い無くここにいたんだわ」
 絵里香と美由紀はあたり一体を見回した。確かに僅かであるが例のガスの臭いがした。
「確かに臭うわ… でもここで一体何をしようとしていたんだろう」
 そう思うと、三人とも何も答えられなくなった。ハス魔人が行動しているとしても、まだ幽霊の幻覚を見せるには程遠い時間帯である。絵里香たちは自分達をこの場所に釘づけにしようとしている、ネオ‐ブラックリリーの意図をつかみきれなかった。その時聖奈子の携帯に着信が入った。
「佳奈子からだ… もしもーし。うん… うん… 分かった。すぐそっちへ行くから」
 聖奈子は電話を切ると、絵里香と美由紀に言った。
「管理事務所の人がテントと用具を持ってきたって」
 絵里香はそれを聞いて、聖奈子と美由紀を促した。
「調査は明日にしよう。今ここで悩んでいてもどうにもならないわ。私達だけならともかく、佳奈子ちゃんと篤志君がいるから… あの子たちを巻き込むわけにはいかないわ」
「そうだね… 帰る時にあの子達だけ先に帰せば、私たちだけで動く事も出来るわ」
 絵里香たちはキャンプ場の方へ向かって歩き出した。

      *       *       *       *

「間違い無くエンジェルスの小娘だ。先ほど偵察して調べたのだが、都合のよい事に、小娘どもには連れがいる。やつらを捕らえて人質にすれば、効率よく片付ける事が出来るぞ」
 アジトではピラニア魔人とハス魔人が、数人の戦闘員とともに作戦室のテーブルを挟み、地図を広げて作戦を練っていた。
「連れの二人のガキを人質をとって、このアジトに誘いこみ、中に入った所を沼の底を抜いてアジトに水を入れ、一網打尽にしてやる」
「良い作戦だ! 我々は水の中でも大丈夫だが、小娘どもはそうはいくまい」
「よし! 早速明日作戦を決行する。準備にかかれ」
 二人の魔人は、周りにいる戦闘員に指示を送り、戦闘員達は敬礼すると作戦室を出ていった。

      *       *       *       *

 バンガローの前では、絵里香たちと佳奈子、篤志の5人がテーブルを囲んで、自分達が作った夕食を食べていた。作ったと言っても、レトルト食品やインスタント食品を温めただけのものだったが、みんなそれぞれ腹一杯食べて満腹感を味わった。借りたテントは管理事務所の職員が組み立ててくれた。バンガローには絵里香たちと佳奈子が、テントには篤志が入ることになっていた。
「篤志君ゴメンね。一人だけテントだけど」
「いいよいいよ。だって俺以外はみんな女の子なんだし」
 聖奈子が篤志に向かって小声で囁いた。
「後でお邪魔するから、二人でいい事しようか」
 篤志がそれを聞いて顔を真っ赤にすれば、傍で聞いていた美由紀が聖奈子に言った。
「ちょっと聖奈子! 弟に変な事教えないでよ! もう中学生なんだから、本気になったらどうすんのよ」
「美由紀冗談だってば」
 和気藹々のお喋りが続いていたが、絵里香たち三人はネオ‐ブラックリリーの動きが気になっていた。自分達がいる場所の近くに、いや、同じエリアの中で何かを企んでいるのだ。そう考えると、楽しんでばかりもいられなかった。
 夜も遅くなったので、絵里香がみんなに言った。
「もう遅いし、これ以上騒いでいると周りに迷惑がかかるから、そろそろお開きにしようよ」
 絵里香たちはそれぞれ食器や道具を片付けると、バンガローとテントに入り、それぞれ寝袋に入って眠った。

      *       *       *       *

 翌朝…
 昨日と同じようにいい天気で、朝起きた時にはもう太陽が高く昇っていた。絵里香たちは洗い場で顔を洗い、歯を磨くと朝食の用意を始めた。今の所はネオ‐ブラックリリーが襲ってくるという事は無かったが、いつ襲われるかもしれないという不安があった。
 朝食を済ませ、後片付けを終えると、使っていた食器や道具を洗って箱に入れ、テントを解体して、バンガローの部屋の中に入れた。こうしておけば職員が後で回収に来る事になっていた。そしてそれぞれの荷物をまとめ、管理事務所に持っていって預かってもらい、バンガローの鍵を返してから、絵里香たちは弁天沼の岸辺に向かった。その途中で聖奈子は佳奈子を呼んで自分の傍に来させた。
「佳奈子。あたし達は三人で大事な話があるから、篤志君と二人であたし達から離れていて。でも、必ずあたしたちが見える場所にいて。いい?」
 聖奈子がそう言うと、佳奈子は、姉達が戦っている悪の組織の事だと思い、聖奈子に向かって頷くと、篤志を連れて絵里香たちから離れた。絵里香たち三人は沼の岸辺に着くと、顔を近付け合って話を始め、聖奈子が口をきった。
「あの二人を先に帰そう。あたし達と一緒じゃ、巻き添えにしてしまうわ」
「そうだね… 聖奈子の言う通りだわ。私たちだけならいいけど、佳奈子ちゃんと篤志君を巻き込むわけにはいかないよ」
「これでキャンプを終わらせるのは勿体無いけど、やつらがこの場所にいる以上、仕方ないわ」
「よし! それじゃ佳奈子ちゃんと篤志君を呼ぼう」
 佳奈子と篤志は、三人から50mほど離れた湖畔公園のベンチに座って話をしていた。それで絵里香たちは二人を呼ぶより、二人のところへ向かって小走りに駆けていった。絵里香たちが佳奈子と篤志のそばへ行ったのと同時に、ネオ‐ブラックリリーの戦闘員が現れ、佳奈子と篤志を人質として捕らえるために襲いかかってきた。一番始めにそれを見た聖奈子はダッシュして、佳奈子と篤志の前で止まり、戦闘員に向かって身構えた。
「出たわね! ネオ‐ブラックリリー」
 絵里香と美由紀も追いつき、佳奈子と篤志を庇うように立った。始めてネオ‐ブラックリリーを見た篤志は、何かのイベントと勘違いして、前にいる美由紀に聞いた。
「姉貴。これ一体何だい?」
「篤志、危ないから下がってて!」
 戦闘員が襲いかかってきて、絵里香たちは攻撃をかわしながら戦闘員と格闘した。既に絵里香達の事を知っている佳奈子は落着いていたが、篤志は自分の姉が得体の知れない連中と戦っているのを見て戸惑った。
「佳奈子さん、一体こいつら何者なんだよ。何で姉貴たちがこいつらと戦ってるわけ!?」
「話せば長くなるけど、とにかく… あなたのお姉さんは、絵里香さん達と一緒にあの連中と戦う正義の戦士ってとこかな… 」
「な、何だよそれ!?」
 篤志がそう言いかけた時、戦闘員が襲ってきた。そこへ聖奈子が割って入って、戦闘員を殴り倒した。
「佳奈子! 篤志君を連れて逃げて」
 佳奈子は篤志の手をつかむと、管理事務所の方向へと駆け出した。後ろから戦闘員達が追いかけていき、それを見た聖奈子はその後を追った。さらに逃げる二人の前にハス魔人が現れ、二人の行く手を遮った。
「キエェーッ! 逃がさんぞ」
 聖奈子はジャンプすると空中でポーズをとって変身し、そのままソードと楯を出して、佳奈子たち二人とハス魔人との間に着地した。絵里香と美由紀も変身すると、走る戦闘員達を追い越して、聖奈子のそばに来ると、振りかえって戦闘員に向かって身構えた。絵里香たち三人は佳奈子と篤志を背にして囲むような格好になった。
「か、佳奈子さん… これって」
「この姿がお姉ちゃん達の戦士の姿よ」
 戦闘員が一斉に襲いかかってきた。
「ライトニングスマッシュ!」

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 美由紀がエネルギー波を放ち、向かってくる戦闘員の約半分が爆風で吹っ飛ばされた。それを目の当たりに見た篤志の表情は、既に驚きを通り越していた。
「す、すげえ… これがあの姉貴なのかよ」
 絵里香と聖奈子も戦闘員を全て倒し、あとはハス魔人だけになった。
「ええい! くそぉ」
 ハス魔人は吐き捨てるように叫ぶと、絵里香達に背を向けて逃げ出し、弁天沼の中に飛び込んだ。後を追った絵里香達が沼の岸に来た時には、既に魔人の姿は無かった。佳奈子と篤志も絵里香達の元に駆け寄ってきて、篤志はエンジェルイエローの姿の美由紀に詰寄った。
「姉貴! 本当に姉貴なのか? 俺もう… 何が何だかわからないよ」
 絵里香達は周囲を見まわし、危険が無いと察すると変身を解いた。
「篤志君。私達はネオ‐ブラックリリーという、世界征服を企む悪の秘密結社を相手に戦っているのよ。あなたの お姉さんも、その戦士の一人なのよ」
「ネオ‐ブラックリリー… 秘密結社… ? 姉貴が… 」
 篤志は目の前に立つ美由紀の身体全体の至るところを眺めながら呟いた。
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「篤志くん。私達の事はあとでゆっくりと話してあげる。とにかく今ここにいると危ないから、佳奈子ちゃんと一緒に先に帰って」
「絵里香さん達は?」
「私達はやつらの企みを叩き潰す。必ずやつらをやっつけるから、だから安心してお姉さんの帰りを待っていなさい」
 そう言うと、絵里香は佳奈子と篤志の荷物を事務所から持ってくると、二人に持たせてバス停まで一緒に行った。
「それじゃ。二人とも先に帰ってね」
「分かった。お姉ちゃん」
 篤志は、美由紀の元にやってきた。
「姉貴。俺まだ信じられないけど、絶対帰ってこいよ」
「分かってるって」
 絵里香たちはバス停に立つ佳奈子と篤志に手を振ると、二人に背を向けて弁天沼のキャンプ場にへ引き返した。

      *       *       *       *

「人質作戦は失敗か!!」
「申し訳無い。小娘どもに邪魔されたのだ」
「まあいいだろう… ここにアジトがあるという事を、小娘どもは既に嗅ぎつけているはずだ。ならば必ずここに来る。その時こそ小娘どもの最後になるのだ」
 アジトに戻ったハス魔人は、ピラニア魔人と作戦の打ち合わせをしていた。そこへ見張りの戦闘員から連絡が入ってきて、司令室で連絡を受けた戦闘員が報告に来た。
「ハス魔人様、ピラニア魔人様。小娘どもがこっちへ向かっているそうです」
「やはり来たか。よし! 適当にあしらってアジトの中に誘い込むのだ」
 絵里香たちは龍神沼へ向かう遊歩道を歩いていた。その行動は見張りの戦闘員に発見され、また各所に仕掛けられたテレビカメラで既に捕らえられていた。

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「よし! 者ども出動だ」
 ピラニア魔人とハス魔人は、戦闘員を引き連れ、意気揚揚とアジトを出た。アジトは龍神沼の水底に作られていたが、出入り口は沼の岸から50mほど離れた場所の、大きな岩(作り物)の下にあった。その大きな岩がゆっくりと横に動き、下にあった穴の中からピラニア魔人とハス魔人が出てきて、そのあとを戦闘員達が続けて出てきた。
その頃絵里香達は、龍神沼の岸辺に着いたところだった。
「ここが龍神沼か」
「一体何処にアジトがあるんだろう」
「絵里香、聖奈子! 見て!」

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 美由紀が沼の水面を指差して言った。絵里香と聖奈子が水面を見ると、濁った水の底にうっすらと建物のようなものが見えた。
「何あれ… 水の底にアジトがあるわけ!?」
「マジィ!?」
 聖奈子と美由紀が言い合っているそばで、絵里香は言い知れない気配を感じていた。
「聖奈子、美由紀。静かにして」
「どうしたの絵里香」
「何かがいる… それもすぐ近くに」
 絵里香に言われて、聖奈子と美由紀はあたりを見回した。すると近くの繁みの中から戦闘員が飛び出してきた。
「出たわね! ネオ‐ブラックリリー」
「待っていたぞ小娘」
 声と同時にハス魔人とピラニア魔人が姿を現した。

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「聖奈子、美由紀。変身だよ」
 絵里香の声に、三人は一斉に変身ポーズをとった。
「エンジェルチャージ!」
 三人の体が光に包まれ、光が消えると同時に三人は戦士の姿になった。
「かかれっ! 小娘どもを始末しろ」
 戦闘員が一斉に襲いかかり、格闘戦になったが、戦闘員は絵里香達に一人ずつ倒されていった。
「ええい不甲斐ないやつらめ」
 ハス魔人とピラニア魔人が絵里香達に襲いかかり、ピラニア魔人が口から火炎を発射した。絵里香達が避けると、火炎はそのまま絵里香達の間を通りすぎ、後ろにあったブッシュに達して爆発した。ハス魔人が右手にサーベルを、左手に楯を持って、一番近くにいた聖奈子に斬りかかってきた。聖奈子は間一髪で攻撃をかわし、胸のブローチからソードとシールドを出して身構えた。ハス魔人は奇声をあげながら聖奈子に向かってきて、聖奈子とハス魔人との間で格闘になった。絵里香と美由紀はピラニア魔人相手に戦っていたが、ピラニア魔人はアジトへ逃げるように動いたため、いつのまにか絵里香と美由紀、聖奈子は引き離される格好になっていた。
「今だ! 小娘どもをアジトに誘い込むのだ」
 ピラニア魔人は、残った戦闘員を引き連れ、アジトに向かって逃げ出した。
「絵里香。やつらが逃げる」
 絵里香と美由紀はその後を追いかけた。ピラニア魔人と戦闘員達はアジトの出入り口に達すると、岩の扉を閉めないでそのまま中へ逃げこんだ。追ってきた絵里香と美由紀は、出入り口の前で止まった。
「ここがアジトの出入り口か」
「絵里香、聖奈子がいないけどどうする?」
「聖奈子はもう一人の魔人と戦っているわ。私達だけで行こう」
 絵里香と美由紀は頷き合うと、出入り口から中へ突入した。岩盤を刳り貫いた回廊を抜け、アジトの入り口に達すると、絵里香と美由紀はそのまま中に入り、やがて司令室に達した。だが、司令室の中ではアジトに逃げこんだピラニア魔人は勿論、戦闘員の姿さえ見当たらず、扉は全て開けっぱなしで、静寂だけが漂っていた。その時突然ガシャンという音とともに、アジトの回廊の扉が閉じた。と同時に室内のモニターに奇声とともにピラニア魔人の姿が映り、絵里香と美由紀はモニターに見入った。
「よくここまで来たな小娘。このアジトは既に放棄したのだ。そしてのアジトがお前達の墓場になるのだ」
 そう言いながらピラニア魔人は手に持っていたリモコンのような機械のスイッチを入れた。するとモニターの横にあるランプが点滅し、室内に不気味なアラーム音が響き渡った。
「ギョギョギョーッ! 今から沼の底が抜けて水が一斉に流れこみ、アジト全体が水の底になるのだ。ゆっくりと死の恐怖を味わいながら死んでゆけ。それではさらばだ。ギョギョギョーッ」
 ピラニア魔人の姿が消えて、モニターの電源が切れ、さらに司令室の電源が落ちて真っ暗になった。
「しまった! 私達をここへ誘い込むための罠だったんだわ」
 絵里香と美由紀は司令室を飛び出して回廊を走ったが、その途中でロックされている扉のところに達した。開けようとしたが頑丈な扉はびくともしない。
「ダメだ! 開かないわ。完全にロックされてる」
「絵里香。私達このまま溺れ死んじゃうの?」
「美由紀! 最後まで希望を持って。絶対諦めちゃダメよ」
 無気味な音を出しながら時を刻むアラーム音が、二人の希望を摘み取る音に聞こえてくる。やがてドドドという音と共に、回廊内に水が入ってきて、あっという間に膝上まで水が上がってきた。

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「絵里香! スマッシュでドアをふっ飛ばそう」
「よし!」
 絵里香と美由紀は身構えて胸のブローチに手をあて、エネルギーをためると、そのまま両手を前に突き出した。
「ファイヤースマッシュ!」
「ライトニングスマッシュ!」
 エネルギー波が扉に命中した。と同時に、そのまま反射して絵里香と美由紀の方に跳ね返って来た。ドアの材質が特殊仕様になっていて、エネルギーを跳ね返すようになっていたのだ。
「危ない!」
 絵里香と美由紀は言うが早いか体をひねった。同時にエネルギー波が二人の横をすり抜け、回廊の反対側へ飛んでいって、壁に当たって爆発した。その間にも水かさが増してきて、ついに腰の高さまで上がってきた。

      *       *       *       *

 一方、聖奈子は一人でハス魔人と戦っていた。ハス魔人はこの作戦のためにパワーアップしていて、これまでの幻覚ガスだけでなく、サーベル、楯を武器として持っていて、さらに口から溶解液を吐くパワーも持っていた。ハス魔人はサーベルで盛んに聖奈子に切りつけ、聖奈子は楯で防ぎながらソードで応戦した。

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「小娘。今頃お前の仲間はアジトの中に閉じ込められているぞ」
「何ですって!? どう言う事よ」
「冥土の土産に教えてやるわ。この作戦自体がお前たちを誘き寄せるための罠だったのよ。お前たちをこの場所に誘い出し、その隙に本命の作戦が行われるのだ」
「その作戦は何なのよ!?」
「そこまで教える必要など無いわ。どうせお前もお前の仲間もここで死ぬのだ」
「そう簡単にやられたりしないわ!!」
「食らえ小娘!」
 ハス魔人は口から溶解液を噴射した。聖奈子は楯をかざして防いだが、溶解液がかかると楯がジューッと水蒸気を上げて熱を持ち、聖奈子は熱さに絶えられずに楯を捨てた。さらにハス魔人は幻覚ガスを噴射し、催眠光線を発射した。た。その瞬間、聖奈子の目にはハス魔人が何体もいるように見え、さらに聖奈子はガスのために体がフラフラになった。

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「小娘。ここで死んでもらうぞ」
 ハス魔人が何人にも見え、実体がどれだか分からないでいる聖奈子に、ハス魔人は聖奈子に襲いかかってきた。サーベルが振り下ろされ、聖奈子は辛うじてそれをかわしたが、ソードを弾き飛ばされ、バランスを崩して転倒した。
「とどめだ! 死ね!」
 ハス魔人がサーベルを袈裟懸けに振り下ろしてきた。何本ものサーベルが、聖奈子に向かって振り下ろされてきた。聖奈子は地面に横になったまま、体を捻った。今まで聖奈子がいた場所にサーベルが突き刺さった。その隙に聖奈子は立ち上がったが、ハス魔人がダッシュしてきて、サーベルで斬りつけてきた。聖奈子はハス魔人の手首をつかんで防いだが、ハス魔人は聖奈子を足で蹴りつけ、聖奈子の体は反動で後ろにあった大木に叩きつけられた。
「ぐ… 」
「しぶといやつめ! 今度こそ殺してやる!」
 ハス魔人はサーベルの切っ先を聖奈子に向けると、そのままダッシュして聖奈子めがけて突いてきた。聖奈子が間一髪で身をかわすと、突き入れてきたサーベルが、聖奈子の後ろにあった大木に突き刺さり、抜けなくなった。
「し、しまった」
「今だ!」
 聖奈子は態勢を立て直すと、ハス魔人めがけて思いっきり蹴りを入れた。
「グアッ!」
 一発目の蹴りでハス魔人はつかんでいたサーベルを離し、聖奈子は間髪を入れずにもう一度蹴りを入れた。ハス魔人はバランスを崩してそのまま後ろにひっくり返った。聖奈子はジャンプすると、空中で一回転し、急降下した。
「エンジェルキック!」
 ハス魔人は避ける事が出来ず、聖奈子のキックをまともに食らって、反動で空中を舞い、一回転して地面に叩きつけられた。
「お… おのれ小娘」
 聖奈子は着地すると、ソードと楯を拾い、ハス魔人に向けて身構えた。そしてソードを胸のブローチにあててエネルギーをためると、ソードを空に向けてかざした。
「アクアトルネード!」
 エネルギー波が聖奈子の周りでグルグルと渦を巻き、聖奈子がソードの切っ先をハス魔人に向けると、エネルギー波が渦を巻きながらハス魔人に向かっていった。
「ぐ、グアァーッ!!」
 エネルギー波がハス魔人を包みこみ、ハス魔人は絶叫とともに氷の塊になって、そのままバラバラに崩れて大爆発して消滅した。
「や… やった… 魔人を倒したわ」
 魔人を倒した聖奈子だったが、ハス魔人の催眠光線と幻覚ガスにやられ、大きなダメージを負っていた。聖奈子はフラフラしながらも、先にアジトに突入した絵里香と美由紀の後を追い、アジトに突入しようとしたが、もう体力が限界だった。ダメージを負ってフラフラになった聖奈子はその場に膝をつき、変身が解けて、そのまま倒れて気を失ってしまった。

     *       *       *       *

 アジトを放棄して逃げたピラニア魔人は、残った戦闘員とともに新しいアジトに向かって移動中だった。その新しいアジトでは、新たに改造を施されて作り出されたナマズ魔人が、今回の本作戦の準備をし、司令室でクイーンリリーと会話をしていた。

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「ナマズ魔人! 作戦の準備は進んでいるか?」
「ははーっ! 大首領様。水神ダム破壊作戦に携わる事が出来、光栄であります。現在ダム周辺に工作員を派遣し、大容量の電気を流すための準備をしております」
 そこへピラニア魔人がやってきた。
「ピラニア魔人。ただいま到着致しました」
「ご苦労であった。小娘どもは片付けたか?」
「ハハッ! 放棄したアジトに閉じ込め、脱出不可能な状態にして、沼の底を抜いて水を流し込みました。いずれは小娘どもは溺れてあの世行きであります」
「ハス魔人はどうしたのだ?」
「やつは小娘の一人と戦って倒されました。しかし、小娘も相打ちになってくたばった様です」
「くたばっただと? お前はそれを確かめたのか?」
「い… いえ」
「馬鹿者!!」
 大首領クイーンリリーの大きな声に、ピラニア魔人はたじろいだ。
「し、しかし… ハス魔人の幻覚ガスと催眠光線ならば、間違い無く… 」
「考えが甘いぞ。小娘どもはスカーレットエンジェルが選んだ戦士なのだ。地球人とはいえ、スカーレットエンジェルが選んだ以上、やつと同等か、それに近い能力と戦闘力を持っているかもしれない。それを最後まで確かめもせずに、のこのこと帰ってくるとはどういう事なのだ!?」
「ハハッ! 申し訳ありません大首領様。もう一度行って確かめてきます」
「もういい! 陽動作戦自体は成功し、小娘どもを足止めさせる事は出来たのだ。お前はナマズ魔人が行う作戦のサポートに回れ」
「ハハーッ!」

      *       *       *       *

 ちょうど同じ頃、龍神沼を目指して駆けていく佳奈子と篤志の姿があった。二人とも絵里香たちが心配で引き返してきたのだった。やがて二人は龍神沼の岸辺に到達し、佳奈子がアジトへの入り口を見つけた。
「篤志君来て!」
「どうしたんだい!?」
「これ… 何かの入り口じゃないの?」
「行ってみようか」
 篤志がそう言った時、篤志は少し離れた場所に誰かが倒れているのを見つけた。
「佳奈子さん、ちょっと待って! あそこに誰か倒れてる」
「え?」
 篤志は倒れている人の所へ行った。それが聖奈子だと分かって、慌てて佳奈子を呼んだ。
「佳奈子さん! お姉さんが! 聖奈子さんが… 」
 佳奈子も駆け寄ってきた。篤志は聖奈子の左胸に耳をあて、心臓が動いているのを確かめた。
「佳奈子さん。生きてるよ」
「お姉ちゃん! お姉ちゃん」
 佳奈子は篤志を退けると聖奈子の体を揺すった。が、聖奈子は一向に目を覚ます気配が無い。
「お姉ちゃん起きて! お姉ちゃん」

      *       *       *       *

 アジトに閉じ込められ、水責めに遭っている絵里香と美由紀の運命は刻一刻と迫ってきていた。そしてハス魔人との戦いで、ハス魔人を倒した聖奈子だったが、聖奈子もまたダメージを受けて気を失ったままである。
 頑張れ! 負けるなエンジェルス。ネオ‐ブラックリリーを倒し、世界の平和を守れるのは君たちだけなのだ。

                                             (つづく)

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 次回予告
 ◎第6話『三つの力』

 ネオ‐ブラックリリーの罠にはまり、アジトに閉じ込められた絵里香と美由紀は、沼の底を抜かれて水責めに遭い、その運命が刻一刻と迫ってきていた。また、ハス魔人を苦戦の末に倒した聖奈子も相打ちで倒れてしまう。そんな中でネオ‐ブラックリリーは大幹部のドクターマンドラが赴任し、新たに作り出したナマズ魔人を使って、次の作戦を開始しようとしていた。

 次回 美少女戦隊エンジェルス第6話『三つの力』にご期待ください。





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テーマ : ライトノベル
ジャンル : 小説・文学

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