鷲尾飛鳥

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第6話『三つの力』

2012年 04月30日 18:59 (月)

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 5月の連休に、絵里香達は大沼ヶ原にキャンプに来ていた。しかし、その大沼ヶ原でネオ‐ブラックリリーが作戦行動をしていて、その事を知った絵里香たちは調査を始めた。ネオ‐ブラックリリーの意図は、絵里香達をこの場所に足止めさせて時間を稼ぎ、その隙に本命の作戦を行うという周到なものだったが、絵里香達はその意図に気付いていなかった。
 待ち伏せにあった絵里香たちは、ネオ‐ブラックリリーの作戦にまんまとはまってしまい、アジトに突入した絵里香と美由紀は、アジトに閉じ込められてしまった。沼の底が抜け、アジト内には水が流れ込んで、二人は水没したアジトの中で溺死する運命にあった。
 聖奈子は単身でハス魔人と戦い、ハス魔人を倒したが、自分自身もハス魔人によってダメージを受け、さらに今の自分の体力に不相応な強力な必殺技を使って力を使い果たし、変身が解けて気を失ってしまった。

      *        *        *        *

 龍神沼を目指して駆けていく佳奈子と篤志の姿があった。二人は一度は帰ろうとしたのだが、絵里香たちが心配で、二人で示し合わせて引き返してきたのだった。やがて二人は龍神沼の岸辺に到達し、佳奈子が大きな岩の傍にあったアジトへの入り口を見つけた。
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「篤志君来て! こっちこっち」
「どうしたんだい!?」
「ねえこれ… 何だろう? もしかして何かの入り口じゃないの?」
 見てみると地面に約2mの正方形の穴が開いていて、そこから地下への階段が続いている。
「姉貴たちが戦ってるやつらの基地への入り口かもしれねえな。行ってみようか」
 篤志がそう言った時、篤志は少し離れた場所に誰かが倒れているのを見つけた。
「佳奈子さん、ちょっと待って! あそこに誰か倒れてる」
「え?」
 篤志は倒れている人の所へ行った。
「聖奈子さんだ… 佳奈子さーん!」
 篤志は佳奈子を呼ぶと、聖奈子の左胸に耳をあて、心臓が動いているのを確かめた。そこへ佳奈子も駆け寄ってきた。
「篤志君… どうしたの? 誰が倒れてるの? お、お姉ちゃん!?」
 佳奈子は聖奈子の姿を見ると、慌てて聖奈子の傍に駆け寄り、聖奈子の体を揺すった。
「お姉ちゃん! お姉ちゃんしっかりして。お姉ちゃん起きて! お姉ちゃん」
 佳奈子は聖奈子を抱きしめながら泣きじゃくり、その涙が聖奈子の顔に落ちて、聖奈子の頬を伝って流れていった。
「ん・・ んー」
 聖奈子の口から唸り声が出て、聖奈子の体が僅かに動いた。
「お姉ちゃん!! お姉ちゃん!!」
 その一声で聖奈子は目を開けた。まだ霞がかかったような見え方だったが、佳奈子と篤志の姿がぼんやりと映って、聖奈子は手で両目を擦った。
「佳奈子… 佳奈子じゃないの!」
 そう言いながら聖奈子は急いで起き上がろうとしたが、体がフラフラしていて、よろけそうになったので、佳奈子と篤志が聖奈子の腕を抱えた。
「何でここにいるのよ。二人とも帰ったんじゃなかったの?」
「ごめんなさいお姉ちゃん。どうしても心配で、戻って来ちゃった」
「俺も… 姉貴やみんなが心配で… 何か力になれたらって思って… 」
「ありがとう! あなた達の気持ちは分かったわ。でも、ここから先はあたしだけで行くから。絶対来ちゃダメよ。必ずみんなと一緒に戻るから、あたしを信じて!」
 聖奈子はポーズを取って『エンジェルチャージ』と叫び、エンジェルブルーに変身すると、傍にあったアジトへの入り口から中へ入った。

      *        *        *        *
 
 その頃アジトの中では、絵里香と美由紀が水責めに遭い、絶体絶命の窮地に立たされていた。水かさはジワジワと上がり、既に胸の高さまで達していた。
「絵里香ぁ・・・  もうダメだよ。私たちここで・・」

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「美由紀! 最後まで希望を捨てちゃダメよ。必ず私たちは助かる。信じるのよ」
「そんなの・・ 慰めにならない」
「馬鹿! 私たちは戦士なのよ。私たちには『絶望』の二文字は絶対無いの!」
 そうは言ったものの、絵里香もどうすれば良いのか分からなかった。このままだとあと30分足らずで水かさが自分たちの背丈より高くなってしまう。
「まずい! 早く何とかしなければ… 」
 美由紀は絶望感からついに泣き出した。その時閉じられた扉の外から、扉をガンガンと叩く音が聞こえ、驚いた二人は扉の傍へ行った。
「誰か外にいるわ」
「聖奈子じゃないの?」
 絵里香は外からの音に応えるように、内側から扉を叩いた。すると今度はガンガンという、扉が振動するくらいの激しい爆発音が響き、絵里香と美由紀は慌てて扉から離れた。扉の反対側で聖奈子がソードを扉に突き刺し、エネルギーを発散させていたのだ。絵里香は扉にエネルギーを反射する機能がある事を、聖奈子に伝えようとしたが、エネルギー反射機能は扉の内側だけで、外側には無かったのだ。扉は激しい振動とともに、聖奈子がソードを刺した部分に直径10cmほどの穴が開き、そこから溜まっていた水が流れ出した。
「アクアスマッシュ!!」
 外から聖奈子の叫び声が聞こえてきて、同時にエネルギー波が扉に命中し、爆発音とともに扉に大穴が開いて水が勢いよく流れ出し、絵里香と美由紀の胸の高さまであった水位が一気に膝くらいの高さまで下がった。
「二人とも大丈夫!?」
 聖奈子がそう言いながら寄ってきた。
「聖奈子、ここから早く逃げるよ。また水が上がってくるよ」
「分かった!」
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 聖奈子はそう答えると同時に、ケースのような物体が流れてくるのを見つけて拾った。美由紀は絵里香に促され、絵里香とともに出入り口へ向かい、聖奈子も拾ったケースを持って続いた。水かさは再び増え始め、絵里香たちは回廊を走って出入り口から外へ出た。外では佳奈子と篤志が心配そうな顔をして絵里香たちを迎えた。同時に地鳴りのようなものが起きて地面が激しく揺れ、アジトの出入り口から水が噴き出してきた。
「みんな早くここから離れて。アジトが爆発するよ!」
 佳奈子と篤志は慌ててその場から離れ、遊歩道脇の森の中に入って、大きな木の陰に身を隠した。絵里香たちもその後から追いついてきて、それぞれの場所で伏せた。地面が激しく揺れ、爆発音とともに沼の水面が激しく吹き上がって巨大な水柱を作りだし、水がドドッと周辺に振りかかってきた。しばらくしてあたりには静寂が戻って、絵里香達は隠れていた場所から出た。絵里香は変身を解くと、爆発の余韻が残っている沼を見ていて、向こうから遊歩道を歩いてくる数人の人影に気付いた。
「みんな、誰か来るわ」
 まだその人影は遠かったが、姿格好からして、地元の人ではなく、大沼ヶ原に来た観光客らしかった。聖奈子と美由紀は自分がエンジェルの姿のままなのに気付いて、慌てて変身を解いた。
「おそらくさっきの爆発を聞きつけたのよ。ここにいると何か聞かれた時、答えに困るよ」
「確かにそうね… 早くここを離れた方がいいわ」
 絵里香達は人が来る道とは違う道へ入り、やってくる人たちを避けるように、弁天沼へ向かった。
「そういえば聖奈子、そのケースは?」
 美由紀は聖奈子が持っているケースに気付いて、聖奈子に聞いた。
「さっき流れてきたやつを拾ったのよ」
 そう言って聖奈子はケースを開けた。すると中からは書類とCDが出てきた。
「CDと書類が入っているわ。やつらの作戦意図が分かるかもしれない」
「とにかく急いで帰ろう。そのケースに入っている書類やCDの中身が気になるわ。」
 絵里香たちは佳奈子と篤志を連れ、急ぎ足でキャンプ場に戻ると、預けていた私物を受け取った。さっきの爆発は弁天沼の方でも聞こえていたらしく、絵里香達は管理事務所の職員にその事を聞かれたが、自分達も聞いたけど何があったのかは知らないと言って適当にごまかした。そしてキャンプ場を後にすると、バスに乗って大沼ヶ原を離れた。そしてバスと電車を乗り継ぎ、夕方前には鷲尾平駅に戻ってきて、駅の改札を出ると構内の広場に一度集まった。
「このケースの中身を急いで調べようよ」
「そうだね… 誰も来ない所でじっくりと見てみたいね」
「インターネットカフェならあそこにあるよ」
 美由紀が道路向こうの建物を指指したが、聖奈子が反対意見を言った。
「ネットカフェよりあたしの家の方がいいよ。ママは昨日からパパがいるアメリカへ行っていて、明日の夕方まで帰ってこないから、家には誰もいないよ。それにパソコンもあるし、すぐに調べられるよ」
「分かった。それじゃ聖奈子の家にお邪魔するね」
「それじゃ姉貴。俺は一人で帰るから。その荷物も一緒に持ってってやるよ」
「ありがとう。ごめんね篤志」
「いいから。それじゃみんな頑張ってね」
 そう言って篤志は自分の荷物と美由紀の荷物を持ち、駅の改札を抜けていった。絵里香たちは佳奈子を連れて駅構内から表へ出ると、聖奈子の家に向かった。

      *        *        *        *

 その頃、水神ダムの発電所では、ナマズ魔人が陣頭指揮をとり、戦闘員を使って破壊工作の準備を進めていた。発電所はネオ‐ブラックリリーによって占領され、職員達は既に皆殺しにされていたので、準備は着々と進んでいた。
 戦闘員達は爆薬を運ぶ者、高圧電流を流すためのケーブルを運ぶ者、また起爆装置を組み立てる者など、発電所の敷地内を忙しそうに駆けずり回っていた。一方のピラニア魔人はダムの堰堤上にいて、堰堤破壊のための爆薬をセットする作業に従事していた。そこへ戦闘員がやってきた。
「ピラニア魔人様。ナマズ魔人様がアジトで作戦の打ち合わせをしたいと言っています」
「分かった。すぐ行く」
 ピラニア魔人は今回の作戦について、暗号書と作戦内容が入ったCDを、アジトを放棄する時にアジトに置き忘れるという失態を演じていた。が、アジトを水浸しにして爆破する事により、アジトに閉じ込めたエンジェルスと一緒に、水の底になると思って安心しきっていた。絵里香達がアジトを脱出し、書類の入ったケースが絵里香達の手に渡っていた事には、全然気付いていなかったのだ。ピラニア魔人は作戦の打ち合わせのため、ダムの近くに作ったアジトに向かった。司令室に入ると、室内ではいつもと違ってなにやらと緊張感が漂っている。ピラニア魔人は近くに立っている戦闘員を捕まえて聞いた。
「おい。様子がおかしいが、何があった!?」
「はっ! 大幹部のドクターマンドラ様がやってくると、先ほど連絡がありました」
「何!? ドクターマンドラ様が!?」
 その時戦闘員達が急に直立不動の態勢をとり、司令室に誰かが入ってきた。ピラニア魔人が振り返ると、司令室の出入り口にナマズ魔人と大幹部のドクターマンドラが立っていた。ピラニア魔人も思わず直立不動の態勢をとり、敬礼した。

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「出迎え大儀である。直れ!」
 ドクターマンドラはそう言うと、持っていた鞭をビュンっと振った。戦闘員達はそれぞれ自分の持ち場に散っていった。ドクターマンドラはピラニア魔人の傍にやってきて、ピラニア魔人に向かって言った。
「ピラニア魔人。お前は大変な失敗を犯したな」
「は? 一体どのような… 」
「とぼけるな! 今回の作戦に使う書類をどうしたのだ!? 放棄したアジトに置き忘れたではないか!」
ピラニア魔人は自分の失態を突っつかれ、慌てて言い返した。
「し… しかし、アジトは水没させた上に爆破して、閉じ込めた小娘どもと一緒に跡形も無く消滅しました」
「馬鹿者!! その小娘どもはアジトから脱出したぞ」
「ま、まさか… そ、そんな馬鹿な… 」
「まさかだと? そのまさかが現実になったのだ。小娘どもに書類を見つけられ、持ち去られていたらどうなると思っているのだ」
 ピラニア魔人は、エンジェルスがアジトから脱出したと聞き、なぜ脱出できたのか不思議に思った。ドクターマンドラはさらに付け加えるように言った
「お前のミスは致命的なものなのだ。普通ならば即刻処刑というところだが、作戦のために一人でも多くの者が必要だ。今回だけは見逃してやる。ただし、小娘どもに書類が渡っていれば、必ずここにやってくる事は明白だ。ピラニア魔人! お前は小娘どもが作戦の邪魔を出来ないよう、ここに来る前に抹殺するのだ。いいな!?」
「は… ハハーッ! かしこまりました。私の命と引き替えてでも、小娘どもを抹殺致します」
 ピラニア魔人は敬礼もそこそこにアジトから出ていった。
「さて、ナマズ魔人。作戦はいつ決行できるのだ!?」
「現在起爆装置の組み立てと、爆薬の配置を急ピッチで進めております。それが終わればいつでも実行出来ます」
「よろしい! エンジェルスの小娘どもがやってくる前に、ダムを爆破し、お前の高圧電流を電線に流して、町を焼き尽くしてしまうのだ」
「ハハーッ!」

      *        *        *        *

 絵里香たちは聖奈子の家で、聖奈子の部屋にあるパソコンを使ってCDの中身を開き、次々とデータをプリントアウトしていった。そして床の上に並べられた書類や暗号書を囲んで、それらを読みながらネオ‐ブラックリリーの作戦内容を推測していった。

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「やつら、水神ダムを破壊する気なんだわ」
「ええーっ!? そんな事したら、このへんだって洪水になっちゃうわよ」
「それだけじゃないよ。関東地方の30%くらいは電気が止まっちゃって、パニックになるよ」
「問題はやつらがどんな方法でダムを破壊するかだわ」
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 絵里香達は書類に次々と目を通していった。だが、暗号はどうしても分からなかった。
「暗号の内容が分からないわ。あたし達の知識ではとても解読出来ないよ」
「暗号は別として、やつらの作戦意図が分かっただけでも充分だよ」
 その時聖奈子が何かを悟ったかのように言った。
「そうか! そういう事だったのか」
「何、聖奈子」
「やつらはあたし達を大沼ヶ原に足止めさせて、時間を稼いでいたんだわ。だからワザとアジトの場所が分かるようにして、自分達の存在が分かるように、大っぴらな行動をとっていたのよ」
「なるほど… 聖奈子の言い分は当たっているかもね。言われてみれば、確かにやつらの作戦にしては秘匿性が無かったわ」
「しっかしヤツラも相当ドジだね。こんな大切な物を置いていくんだから」
 美由紀は書類を持ちながらそう言うと、窓の方を見た。既に夜になっていて、時計は9時近くになっていた。寝巻き姿の佳奈子が心配して部屋に入ってきた。
「みんな・・ もう9時だよ」
「分かってる。もうそろそろみんな帰るから」
 聖奈子がそう言うと、絵里香と美由紀が立ち上がり、聖奈子も立ち上がった。絵里香は玄関の所で聖奈子と美由紀に向かって言った。
「明日の朝、6時に鷲尾平駅に集合よ」
「うん」
「オッケー!」
 絵里香と美由紀は聖奈子と佳奈子に見送られて、聖奈子の家を出ると、それぞれの家に帰っていった。

      *        *        *        *

 翌朝… 
 前の晩に寝つけなかった絵里香は、目覚ましが鳴っても起きられず、起きた時には5時半を回っていて、慌てて着替えて急ぎ足で駅へ向かった。息を切らしながら駅に着くと、聖奈子と美由紀はまだ来ていなかった。おそらく聖奈子も美由紀も自分と同様、寝つけなかったのだろう。時計を見ると5時50分だった。休みとはいえ早朝だったので、駅構内の人影も疎らで、道路も殆ど車がいなかった。構内の椅子に座って待っていると、駅の改札口から美由紀が出てきて、絵里香に向かって小走りに駆けてきた。
「絵里香おはよう」
「おはよう」
「聖奈子は?」
「まだ来てないわ」
 そう言い終わった所で、聖奈子があくびをしながらやってきた。
「おはよー! ゴメン寝坊しちゃった」
 その時ちょうど駅構内で6時を告げる音楽が流れた。絵里香達は切符を買って改札を通り、プラットホームに上がった。そしてホーム上でお互いが見えるように立つと、それぞれ右手を前に差し出した。
「みんな行こう! やつらの野望を打ち砕くのよ」
「オッケー!」
「分かった!」
 そして差し出した右手を握ると、そのまま上に向かって突き上げた。

      *        *        *        *

 水神ダムでは山の稜線から日が昇ってきて、ダム一面を朝日が照らし出したところだった。朝とともにアジトから出てきたナマズ魔人は戦闘員達を従え、再び作業を開始した。発電所の電線にケーブルが取り付けられ、そのケーブルの末端は、発電所から少し離れた管理事務所前の広場に設置した起爆装置に接続されていた。その起爆装置にはプラスとマイナスの電極がアンテナ状に付けられていて、ナマズ魔人のヒゲをそのアンテナに絡ませ、高圧電流を流すことによって。発電所から各所に伸びている送電線を伝わり、都市部の電気を一気にスパークさせ、その機能を破壊してしまうのだ。そうなれば、都市の電気機能は全て麻痺してしまい、高圧電流によって各所で火災が発生して、大パニックになる事は間違い無かった。また、発電所そのものも高圧電流のスパークによって爆発して吹っ飛んでしまい、ダム自体も仕掛けられた爆薬の爆発によって決壊し、その下流にある新間川の流域は大洪水が押し寄せ、全滅する事は確実だった。
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 ナマズ魔人は指示を与えながら、ダムの管理事務所前に設置した起爆装置のそばへやってきた。
「起爆装置の完成はまだか?」
「ははっ! 現在送信機能のチェックを行っております。それが終了したら、装置の心臓部を取りつけ、準備が完了します」
「よろしい。今日の正午キッカリに攻撃を開始する。作業を続けろ」
「ハハッ!」
「ピラニア魔人からの連絡は来ていないか!?」
「こちらには来ていません。アジトの司令室に問い合わせます」
 そう言って戦闘員の一人がアジトに無線で連絡を入れた。しばらくしてその戦闘員がナマズ魔人のそばに駆け寄ってきた。
「ピラニア魔人様は、ダムの下流で待機しています」
「分かった。見張り部隊に見張を強化するよう伝えろ。エンジェルスの小娘どもは、おそらく作戦書類をアジトから持ち出しているだろう。したがって必ずここにやってくる」
「かしこまりました。ナマズ魔人様」
 ピラニア魔人はダムの下流でエンジェルスに備えていた。周辺には各所に見張所を設け、所々に地雷が仕掛けられ、厳重な警戒網が敷いてあった。
「これだけ厳重に固めていれば、小娘どもはダムへ行くことは出来まい。さあ、来るなら来い。ここが墓場になるのだ」

      *        *        *        *

 鷲尾平で電車に乗り、ダムに一番近い駅に着いた絵里香たちは、駅を出るとバス停に向かって走った。一番先に着いた聖奈子がダムへ行くバスの時間を調べた。絵里香と美由紀も追いついてきて、バス時間を一緒に見た。
「8時までバス無いよ。どうする?」
 絵里香が時計を見ると、6時50分を回ったところだった。絵里香は駅前の至る所を見回したが、タクシーもいない。どうしようかと思っていたところで、道路を挟んだ対面にあるコンビニが目に入った。
「みんな… 朝食べてきた?」
 絵里香の問いに、聖奈子も美由紀も首を横に振り、聖奈子と美由紀もコンビニを見つけた。三人はお互いに頷き合うと、道路を渡ってコンビニに入った。買い物をしていると、業者が威勢の良いかけ声とともに配達にやってきた。業者は20代後半の若い人で、弁当や惣菜パンが入ったトレーを床に置くと、カウンターに伝票を持っていった。店員は絵里香達が買った品物を清算していた所だったので、業者の青年はそれが終わるのを待っていた。その時店員が、向かい合っていた絵里香に何気なく話しかけた。
「君たち随分早いけど、これから何処へ行くんだい?」
 都市や町中ならともかく、こんな田舎のコンビニに若い女の子が朝早くから入ってきた事が、店員にとっては珍しかったのだ。平日ならば通学途中の学生が来る事もあるのだが、今日は休日である。
「私達水神ダムへ行くんです。でも早く来すぎちゃって… バスもまだだし」
 今度は後ろで待っていた業者の青年が話しかけてきた。
「それじゃ途中まで乗っけてってやるよ。次の配達場所が観音前って所のコンビニなんだ。そこからだったら20分くらいでダムまで行けるよ」
 そう言って青年は地図を開いて絵里香に見せた。絵里香は聖奈子と美由紀を見た。すると、二人とも頷いたので、絵里香は好意を受け入れた。
「ありがとうございます。それじゃお願いします」
 見知らぬ人に声をかけられ、その人が運転する車に乗るという事は、多少の危険はあった。絵里香達も子供の頃にそういう事をよく教えられていた。しかし絵里香達三人はもう子供ではないし、もしもの時には三人いる。そして三人ともエンジェル戦士だ。絵里香はその青年に礼を言うと、聖奈子と美由紀を伴って外へ出た。しばらくすると商品の納入手続きを終えた青年が出てきて、絵里香達を見ると、駐車場に停めてある、『○○食品』というネームが大きく書かれたワゴン車を指差し、後ろのドアを開けて乗るよう促した。
「どうもありがとう」
 絵里香達はそう言って、聖奈子と美由紀が後ろに、絵里香が助手席に乗った。青年はエンジンをかけると、車を発進させ、次の配達場所へ向かって車を走らせた。15分ほど走って、車は次の配達場所であるコンビニの駐車場に入って停まり、絵里香達は車から降りた。
「ありがとうございました」
 絵里香達は青年にお礼を言うと、それぞれの荷物を持ち、ダムへ向かって歩き出した。観音前という場所は新間町と水神村の境にあり、ダムへ行く道と、大沼ヶ原へ行く道の分岐点でもあった。
 青年が言った通り、絵里香達は20分くらいでダムの堰堤が見える場所に到達していた。さらに歩くと、道路が二股に分かれていて、右がダムへの道だった。
「行こう!」
 絵里香達は足を速めながらダムへ向かう道を行った。が、しばらく行くと工事中の看板があり、道路が完全に封鎖されていた。
「やつらの仕業だわ。ダムに誰も来ないように偽装しているのよ」
「やつら… 待ち伏せしてるわね」
 聖奈子がそう言うと、絵里香と美由紀はお互い向き合った。
「既に私達見つかっているかもね」
 絵里香達はバリケードを突破して、そのままダムへの道を急いだ。絵里香達の思っていた通り、絵里香達は既に発見されていた。バリケードを突破する絵里香達を、見張所の戦闘員が発見し、ピラニア魔人に通報した。
「こちら第一見張所。今小娘どもがA地点を通過」
 無線を聞いたピラニア魔人は、近くにいた戦闘員達に戦闘態勢に入るよう指示した。やがて絵里香達はダムの堰堤を真正面に見る場所まで来た。この場所はダムサイトの広場で、ここから先は遮蔽物も何も無く、自分達の姿は何処からでも見えてしまう。堰堤上には道路があり、その道路を通れば対岸にある発電所まで行ける。それを防ぐため、ピラニア魔人は堰堤の下にある、ダム下流の河原に誘い出そうとしていたのだ。
「小娘どもがB地点に現れました」
「よし! 第一部隊、かかれっ! 堰堤の下へ誘い出すのだ」
 無線を聞いた戦闘員が一斉に動き出し、絵里香達の周囲に次々と姿を現した。
「出たわね! ネオ‐ブラックリリー」
「みんな! 変身だよ!」
 絵里香の一声で、聖奈子と美由紀もポーズを取り、かけ声とともに変身して、エンジェル戦士になった。戦闘員達は一斉に絵里香達に襲いかかって… いや、襲いかかってこなかった。周囲を囲んだまま、動こうとしなかったのだ。絵里香達は戦闘員達の動きを不自然に思いつつも、囲みを突破するため、堰堤の方向へ向かってダッシュした。すると戦闘員達は囲みを解き、絵里香達がダッシュした方向に集まって壁を作った。絵里香達と戦闘員達が衝突して、格闘戦になった。戦闘員は一人また一人と倒されたが、残った数人が堰堤の下へ繋がる道路へ向かって逃げ出した。当然の事ながら、絵里香達はその後を追いかけた。その様子をピラニア魔人が隠れて見ていて、そばにいる戦闘員達に指示を送った。
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「ギョギョーッ。上手い具合にやってきたワイ。爆破用意!」
逃げていた戦闘員達は、堰堤下の河原に到達すると、そのまま河原を横断するように逃げ続け、絵里香達も戦闘員を追って河原に入った。河原には至る所に地雷が仕掛けられていて、絵里香達がその地雷原のど真ん中まで来た。
「今だ! やれっ」
 戦闘員達は手元にある爆破装置のスイッチを次々と押した。同時に仕掛けられていた地雷が次々と爆発し、絵里香達は反射的にその場に身を竦めた。
「罠だったんだわ」
「みんな気をつけて!」
 今度は地雷が至近距離で爆発した。
「キャーッ!」
 爆風で絵里香達の体が宙に舞ったが、そのまま空中で態勢を立て直し、それぞれ着地した。再び地雷が爆発したが、絵里香達は爆発の間をすり抜けながら、河原を走った。
「しぶといやつらめ… 第二部隊! かかれっ」
 戦闘員達が一斉に絵里香達に向かっていき、格闘戦になった。絵里香達に向かっていく戦闘員の後ろから、ピラニア魔人も続いた。
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「ギョギョギョーッ! 食らえ! ピラニア火炎」
 ピラニア魔人が口から火炎を放射し、紅蓮の炎が絵里香達に向かっていって、絵里香達の至近距離で着弾し、爆発して炎を吹き上げた。爆発と同時に同時に絵里香は空中高くジャンプして戦闘員の壁を越え、ブレードを出して着地すると、ピラニア魔人に向けて身構えた。
「ギョギョギョーッ! 小娘のくせに俺様と戦うなど10年以上早いワイ! 今すぐ地獄へ送ってやる。ピラニア火炎」
「ファイヤースマッシュ!!」
 ピラニア魔人の火炎と、絵里香が放ったエネルギー波がぶつかり、絵里香とピラニア魔人との間で爆発とともに炎が吹きあがった。
「しぶといやつめ! 食い殺してやる」
 ピラニア魔人は口を大きく開け、絵里香に向かって突進してきた。絵里香はブレードの切っ先をピラニア魔人に向けると、そのままダッシュしてピラニア魔人に斬りつけた。が、ピラニア魔人は振り下ろしてきた絵里香の右手をつかむと、思いっきり捻った。
「あうっ!!」
 絵里香は呻き声とともに、ブレードを落とした。絵里香はピラニア魔人の手を振り払おうとしたが、左手もつかまれてしまった。絵里香は足で何度も蹴りを入れたが、ピラニア魔人は微動だにせず、口を大きく開けて絵里香を食う態勢をとった。
「やばい。絵里香が危ない! 美由紀、援護するよ」
 戦闘員を殆ど倒した聖奈子は、絵里香の危機を見て美由紀とともにダッシュした。美由紀はバトンを出すと、ピラニア魔人めがけて投げつけた。バトンは回転しながら飛んでいき、ピラニア魔人の頭に命中した。
「グアッ!!」
 ピラニア魔人は叫び声とともに、絵里香をつかんでいた手を離した。さらに聖奈子と美由紀はジャンプすると、ピラニア魔人めがけて飛び蹴りをお見舞いした。
「ダブルエンジェルキック!」
 ピラニア魔人はキックを食らった反動で、そのまま一回転して地面を転がった。
「おのれ小娘ども!」
 ピラニア魔人はヨロヨロと立ちあがったが、聖奈子と美由紀は間髪を入れず、ピラニア魔人めがけてエネルギー波を放った。
「アクアスマッシュ!」
「ライトニングスマッシュ!」
 二人分のエネルギー波がピラニア魔人に命中した。ピラニア魔人は叫び声とともに後ろにひっくり返った。
「絵里香! 今よ」
 絵里香はブレードをもって身構えると、ブローチにブレードの刃先をつけてエネルギーをため、ピラニア魔人に向かってダッシュした。
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「ファイヤーストーム!」
 絵里香はブレードの切っ先をピラニア魔人に向けると、そのままピラニア魔人に突き刺した。強力なエネルギーがピラニア魔人の体内に送りこまれ、ピラニア魔人の身体の至る所から白い煙が噴き出した。絵里香はブレードを引きぬくと、ジャンプしてピラニア魔人から離れた場所に着地してポーズをとった。ピラニア魔人は呻き声を上げながら、体中から煙を噴き出し、そのまま前のめりに倒れて爆発して、木っ端微塵に吹っ飛んだ。
「やった!」
 聖奈子と美由紀が絵里香のそばに寄ってきた。絵里香は発電所の方向を見据え、聖奈子と美由紀も同じように発電所を見た。
「聖奈子、美由紀、行くよ! やつらの野望を打ち砕こう!」
 聖奈子と美由紀は右手を差し出し、絵里香も右手を差し出して、そのまま上に上げた。、

      *        *        *        *

「何だと!? ピラニア魔人が倒されただと!?」
 発電所の敷地内で、作戦の段取りをしていたナマズ魔人は、戦闘員の報告を聞いて愕然としたが、すぐに気をとり直した。
「現在何処まで準備が進んでいる?」
「受信装置の心臓部取り付けが終わったので、装置を設置すればいつでも大丈夫です」
「正午には予定通り出来るのだな?」
「ハハッ!」
「よーし! 爆破作戦の前に、小娘どもを始末してやる」
 ナマズ魔人は敷地から出ると、ダムサイトの方へ向かって歩いていった。その頃絵里香達は下流の河原から再び上がって、発電所の対岸側のダムサイトにいた。堰堤の道路を行けば、発電所へ行く事が出来る。
「行くよみんな!」
 絵里香はそう言うと堰堤上の道路を発電所に向かって駆け出し、聖奈子と美由紀もその後に続いた。堰堤の中くらいまで行ったところで、突然絵里香達の前でドカーンという音とともに爆発音が響き、絵里香達は反射的に身を竦めた。さらに続けて絵里香達の周辺で次々と爆発が起き、破片や塵が爆風に乗って絵里香達に降り注いだ。
「ギギギギギーッ! 待っていたぞ小娘ども! 作戦を実行する前に、まずお前らを地獄へ送ってやる」
 声とともにナマズ魔人が現れた。
「絵里香! また新しい化け物だよ」
「一体やつら何体の怪人を持ってんのよ」
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 ナマズ魔人は絵里香達を見据えると、両目から破壊光線を発射した。光線は絵里香達のすぐそばに着弾し、爆発の爆風が絵里香達を襲った。が、聖奈子が爆風の中から飛び出し、ナマズ魔人めがけてソードを振り下ろした。
「アクアスマッシュ!」
 エネルギー波が向かっていって、ナマズ魔人に命中したが、ピンポン玉のように弾き返された。
「スマッシュを跳ね返した」
「やつはバリヤーを張っているんだわ」
「ギギギギーッ。今度はこっちの番だ」
 ナマズ魔人は聖奈子に向けて破壊光線を発射し、聖奈子は楯を翳した。その楯に光線があたって爆発し、聖奈子は反動で吹っ飛ばされた。
「キャーッ!」
 聖奈子の体は宙に舞った後、道路に叩きつけられてゴロゴロと転がった。
「聖奈子! 大丈夫!?」
 絵里香と美由紀が聖奈子のそばに駆け寄った。ナマズ魔人は口の周りのヒゲを動かし、ひげの先をお互いに接触させた。すると激しい音とともに、高圧電流が放電され、絵里香達の周辺に降り注いだ。
「キャーッ!」
「あ… アァアァァァーッ!」
 電気を浴びた絵里香達は、苦痛に悶絶しながらその場に倒れた。
「思い知ったか。俺様の体には、数万ボルトの電気が蓄えられているのだ」
 絵里香達は強力な電気のため、体が痺れてその場から動けなくなった。ナマズ魔人は勝ち誇ったかのように絵里香達に近付いてきた。
「これで終わりだ。とどめを刺してやる」
 絵里香達は何とかして立ちあがろうとしたが、体の痺れがひどく、力が入らない。そんな中で美由紀がヨロヨロと立ちあがると、二本のバトンを手に身構えた。
 絵里香達エンジェルスには、それぞれ特殊な能力があった。エンジェルレッドの絵里香は炎、エンジェルブルーの聖奈子は水、そしてエンジェルイエローの美由紀は光といったように、それらを武器として使う事が出来、また逆にそれらの攻撃に対して強い防御力を持っているのだが、絵里香達はまだそれに気付いていなかった。エンジェルイエローの美由紀は光の戦士で電気に強く、一万ボルトの電流までは耐える能力があったので、他の二人よりも早くダメージが回復したのである。
「そう簡単にやられてたまるもんですか! お前達の勝手にはさせないわ!」
「何を小癪な!」
 ナマズ魔人は破壊光線を発射した。光線は美由紀の手前に着弾して爆発を起こした。美由紀はその爆風を身を竦めて避けると、両手のバトンを交差させた。するとバトンが光り、半透明な四角形のガラスのような物体が現れた。ナマズ魔人は再び破壊光線を発射したが、その光線は四角形の物体にあたって跳ね返り、ナマズ魔人の足元で爆発を起こして、ナマズ魔人は衝撃でひっくり返って尻餅をついた。四角形の物体はバリヤーだったのだ。美由紀はその光景を見て、何が何だか分からなかったが、自分の持っているバトンが武器になるという事だけは悟った。
「おのれ! よくもやったな」
 ナマズ魔人は立ちあがると、四本のヒゲを伸ばして鞭のように振りまわしてきた。ヒゲの一本一本から強力な電気が放電される。ヒゲが触れた場所では、地面といわず道路といわず、バチバチという火花が散った。美由紀はバック転をしながらヒゲ攻撃を避け、身構えると再びバトンを交差させた。今度は胸のブローチが光り、交差されたバトンにエネルギーが送り込まれた。ナマズ魔人のヒゲがバトンに絡みついて、電撃の激しい火花が散り、美由紀は電気のショックを受けて、叫び声とともに両手からバトンを放した。さらに身体が衝撃で弾け飛んで、絵里香と聖奈子のそばに倒れ込んできたのを、二人が支えた。
「美由紀!」
「しっかりして」
「わ、私は大丈夫だよ。でも、凄いショックだった… 」
 絵里香と聖奈子はさっきのダメージを回復していたが、美由紀の回復力が自分達より早いのを不思議がった。
「あいつ… 今までの怪人よりはるかに強いよ」
「弱音を吐いちゃダメよ!」
 そう言いながら絵里香はナマズ魔人を見た。すると、ナマズ魔人は仁王立ちになって絵里香達を凄い形相で見据えていた。しかし、美由紀のバトンを絡めたヒゲが白い煙を吹き上げ、半分焼け爛れたようになっていた。
「ねえみんな見て。やつのヒゲ… 」
「どういう事なんだろう… 」
「そうか! 美由紀のバトンのエネルギーでショートしたんだわ」
 絵里香が言う通り、ナマズ魔人は美由紀のバトンを絡めた時、美由紀のバトンからエネルギーが送りこまれて、蓄えられていた電気がショートし、その衝撃でヒゲが焼けたのだった。
「おのれ小娘ども」
 ナマズ魔人が攻撃態勢をとった時、戦闘員がやってきて、ナマズ魔人に何かを告げた。それを聞いたナマズ魔人は急に絵里香達への攻撃を止め、逃げ出した。
「絵里香、化け物が逃げる!」
 聖奈子が逃げるナマズ魔人を指差し、絵里香は昨日見た作戦書類を思い出した。
「みんな追うよ! やつは正午に発電所を破壊するつもりなのよ」
「そうか… そういえば作戦書類に『正午』って書かれていたっけ」
 絵里香達は逃げるナマズ魔人を追い、発電所の敷地内に入った。その途端、大勢の戦闘員が襲いかかってきた。
「者どもやれっ! 作戦開始まで小娘どもを近付けるな!」
 ナマズ魔人はそう言うと、据えつけられた受信装置の方へ歩いていった。
「小娘どもの目の前で、発電所が破壊されていくところを見せてやる」
 ナマズ魔人は受信装置の前に立つと、残った二本のヒゲを装置の電極に巻きつけた。
「ナマズ魔人様、正午まであと二分です」
「よーし! 秒読み開始」
 戦闘員と格闘していた絵里香達は、時間が迫っている事に気付いた。
「やばいよ! このままじゃ発電所が危ない」
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 美由紀はバトンを出すと、両手で交差させて空にかざした。するとあたりが急に暗くなり、稲妻の閃光が飛び交って、周りにいた戦闘員達が全て衝撃でその場に倒れて気絶した。そればかりでなく、絵里香と聖奈子までショックでフラフラになった。それを見た美由紀は慌ててバトンの交差を解くと、絵里香と聖奈子のもとに駆け寄った。
「絵里香、聖奈子、大丈夫?」
「一体何なのよ。美由紀の武器って、あたし達まで巻き添えにするわけ?」
「ゴメン絵里香、聖奈子」
 美由紀は絵里香と聖奈子に謝ったが、まだ絵里香たちは自分達の武器や必殺技の威力を十分に知らなかった。そのため、下手に使えば味方まで巻き添えにしてしまう事まで気付いていなかったのである。
 ついに正午まで一分をきった。ナマズ魔人は体内の電気を一気に流すべく、全エネルギーをヒゲに集中していた。それを見た絵里香達は、一斉に駆け出し、ナマズ魔人に向かっていった。
「やばいよ! このままじゃ発電所とダムがやられちゃうよ」
「ファイヤースマッシュ!」
 絵里香はナマズ魔人めがけてスマッシュを放った。が、ナマズ魔人のバリヤーに跳ね返された。
「アクアスマッシュ!」
「ライトニングスマッシュ!」
 聖奈子と美由紀も続けてスマッシュを放ったが、バリヤーで防護されているナマズ魔人は、平然と傍らにいる戦闘員の秒読みを聞いていた。
「10・9・8・7・6・5・4・3・2・1・ゼロ」
 ナマズ魔人のヒゲから、強力な電流が受信装置に流された。
「あーっ! ダメーッ!!」

 絵里香たちは反射的に身を竦めた。しかし爆発は起こらず、静けさだけが漂っていた。発電所は何とも無く、ダムも破壊されない。
「絵里香… 何も起こらないよ」
 美由紀が小声でボソボソと言った。絵里香達は何事も起こらない事に気付いて、恐る恐る立ち上がると、ナマズ魔人の方を見た。
「一体どういう事なのだ!? 電気が流れていないぞ。ダムも爆発せんぞ」
 何も起こらないため、ナマズ魔人はあたり一面を見た。すると受信装置に取り付けられていたケーブルが、途中で切断されていたのに気付いた。
「し、しまった! ケーブルが切れている。すぐに繋げ」
 ナマズ魔人は近くにいる戦闘員に命令し、戦闘員達がケーブルの切れた場所に向かって走り出した。それに絵里香達も気付いた。
「ラッキー!! ケーブルが切れてるよ」
「よーし! ファイヤースマッシュ!」
 絵里香は走っていく戦闘員めがけてスマッシュを放った。エネルギー波が着弾して爆発が起こり、戦闘員が吹っ飛ばされた。絵里香はすかさずジャンプして、ケーブルが切れた場所に着地すると、ブレードを出してケーブルに突き刺した。その衝撃で、受信装置が爆発し、そばにいた戦闘員が吹っ飛ばされて、ナマズ魔人も爆発の衝撃でひっくり返った。
「おのれ小娘ども! よくも作戦を台無しにしてくれたな」
「うるさい! 都合のいい事言うな! あたし達がいる限り、絶対お前達なんかに勝手な真似なんかさせるもんか!!」
「何を小癪な! こうなったらお前達を皆殺しにしてやる」
 ナマズ魔人は身構えると、破壊光線をたて続けに発射した。絵里香達のそばで次々と爆発が起こり、そのたびに絵里香達は身を竦めた。
「絵里香。このままじゃあたし達やられちゃうよ」
「聖奈子、弱音を吐かないで」
「二人とも、私に任せて」
 美由紀は立ちあがると、バトンを出して交差させた。美由紀はさっきの戦いで、自分の持つバトンの威力を知り、その使い方を覚えたのだった。交差したバトンが眩しく光り、絵里香達の前に半透明の物体が現れて、ナマズ魔人の放った破壊光線が次々と跳ね返され、その中の一発がナマズ魔人を直撃した。
「ギギギギギーッ!」
 ナマズ魔人は自分が放った破壊光線を受け、命中した場所から白い煙を吐いて悶絶した。
「お… おのれぇ」
 ナマズ魔人は残った二本のヒゲを接触させ、高圧電流を放電する態勢をとった。
「そうはいくか!」
 美由紀はバトンをナマズ魔人めがけて投げつけたが、ナマズ魔人は両手でバトンを叩き落し、バトンはナマズ魔人の手前の地面に突き刺さった。
「死ねーッ!!」
 ナマズ魔人が高圧電流を放電した瞬間、美由紀の投げたバトンが避雷針とアースの役目を果たし、放電した電流が全てバトンに吸収されてしまった。
「あわわわわわ… エネルギーが吸いこまれてしまう!」
「今だ! ダブルエンジェルキック!」
 聖奈子と美由紀が飛び蹴りをお見舞いし、衝撃でナマズ魔人は吹っ飛ばされ、受け身をとる間もなく地面に叩きつけられた。
「ギ… ギギギ… おのれ… 」
 ナマズ魔人はよろけながら立ちあがり、絵里香達を威嚇した。しかし、既に相当のダメージを受け、体中から火花を散らして煙を噴き出していた。
「今だわ! 聖奈子、美由紀、私達三人のエネルギーをやつに叩きつけるのよ!」
「オッケー絵里香」
「いつでもいいよ!」
 絵里香たちはナマズ魔人に向けて攻撃態勢をとり、武器の切っ先をナマズ魔人に向けた。
「トリプルエンジェルトルネード!!」

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 炎、水、光のエネルギーが、渦を巻きながらナマズ魔人に向かっていって、ナマズ魔人はそのエネルギーの中に包み込まれ、大爆発して吹っ飛んだ。
「やったぁ!」
「私達勝ったのよ」
「うん。やつらの野望を粉砕する事が出来たのよ」
 絵里香達はお互いに抱き合って勝利を称え合った。しかし、その様子を冷ややかな目で見つめる人物には気付いていなかった。その人物は発電所の建物の屋根の上に立っていた。
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「ふん… あれがスカーレットエンジェルの選んだ小娘どもか。相手にとって不測は無い。この私が来た以上、必ず地の底を這いつくばらせてやる」
 そう言いながらドクターマンドラは、絵里香たちを見据えた。絵里香たちがダムサイトから去っていくのを見て、ドクターマンドラは発電所の屋根の上から、発電所の敷地内にテレポートした。すると何処からか、数人の戦闘員達が姿を現した。ドクターマンドラは、現れた戦闘員達の方を向いた。
「すぐに新たな作戦を開始する。準備せよ!」
 ドクターマンドラは手で戦闘員に合図すると、戦闘員達とともにその場から姿を消した。

      *        *        *        *


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 戦いが終わって約一時間が経った。絵里香たちはダムを遠望する展望台に立っていた。ネオ‐ブラックリリーの怪人を倒して野望を打ち砕く事が出来たものの、みなそれぞれ複雑な思いだった。
 絵里香は、まだエンジェルスとしての力が充分でなく、このままではいけないと思っていた。それぞれの持つ武器や必殺技は、一つ間違えれば敵だけでなく、仲間まで巻き添えにしてしまうほど強力なものであって、いかにそれをコントロールして使うかを考えていた。
 聖奈子は自分の担任で、部活の顧問である詩織が言っていた言葉を思い出していた。今のままではネオ‐ブラックリリーの行動を阻止する事は無理だと、詩織にズバッと言われ、その時は詩織に対して憤慨したのだが、今回の戦いでその言葉を身を持って知った。
 美由紀は戦士に対する自分の考えの稚拙さを痛感した。美由紀は正義のヒーローやヒロインに憧れていたのだが、空想と現実の違いというものを、戦いを通じて感じ取っていたのである。
絵里香達は立ちすくんだまま、誰一人として話をしようとしなかった。ついに聖奈子が重い口を開いた。
「ねえ… あたし達、このままじゃダメだね」
 それを聞いて、絵里香が口を開いた。
「ねえみんな… 私たち友達だよね。親友同士だよね」
「何言い出すのよ絵里香。そんな事当たり前じゃないの」
「だったら、私達… きっと出来るよ。ネオ‐ブラックリリーの野望を打ち砕く事が出来るよ。私達親友同士なんだから。助け合えば絶対に出来るよ」
 絵里香が聖奈子と美由紀を諭すように言い、それを聞いた聖奈子と美由紀の表情が明るくなった。
「そうだね! 私達親友同士なんだもん。力を合わせれば、出来ない事なんか無いよ。絵里香、聖奈子、これからもよろしく」
 美由紀はそう言って絵里香と聖奈子に向けて手を差し出した。
「わたしも! よろしくね」
「あたしもオッケーだよ」
 絵里香、聖奈子、美由紀の三人はそれぞれ右手を差し出し、お互いの手を握り合って今後の事を誓い合った。

      *        *        *        *

 ネオ‐ブラックリリーの作戦は、またもエンジェルスによって阻止されて挫折した。しかし、大幹部のドクターマンドラが登場し、ネオ‐ブラックリリーは新たな作戦を展開しようとしている。頑張れエンジェルス! 


                                              (つづく)

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 次回予告
 ◎第7話『騒音に気をつけろ!』

 悪魔の手先ネオ‐ブラックリリーが送り込んだ次なる使者はハゲタカ魔人。ネオ‐ブラックリリーは大幹部ドクターマンドラが赴任して、本格的な世界征服作戦に乗り出す。ドクターマンドラは何処にでも存在する騒音や雑音をエネルギーとして利用し、殺人超音波を作り出して人類絶滅作戦を計画。ハゲタカ魔人の魔の手が絵里香たちに迫る。

 次回 美少女戦隊エンジェルス第7話『騒音に気をつけろ!』にご期待ください。





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テーマ : ライトノベル
ジャンル : 小説・文学

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