鷲尾飛鳥

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第9話『悪魔の麻薬』

2012年 05月13日 17:24 (日)

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 6月に入り、衣替えとなって、絵里香たちの制服も瑞々しい夏服になった。絵里香は朝起きると、壁にかけてあった制服に着替えた。今まで着ていたジャケットからベストになり、ブラウスも半袖になった。制服は、校則ではベストは夏の暑い時には着なくても良い事になっていて、靴下も指定のハイソックスだけでなく、同色のソックスもある。
 朝食を終えた絵里香は、後片付けをしている母の絵美子に向かって「行ってきます」と言うと、玄関を開けて外へ出た。絵里香が駅の前を通り過ぎると、ちょうど改札を出て表通りに出て来た美由紀が追いかけてきて、絵里香の横に並んだ。
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「絵里香おはよう」
「おはよう美由紀」
 そしてもう一人… 校門の所で聖奈子が絵里香と美由紀を迎えてくれた。
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「二人ともおはよう」
「聖奈子おはよう」
 校門で聖奈子と一緒になった絵里香と美由紀は、三人揃って校舎に入った。紅林美紀子というサポート役を得た絵里香達の表情は明るかった。美紀子は絵里香たちの戦いを見て、正式に絵里香たちの後見人となり、かつエンジェルスの指揮官として、全面的にバックアップする事を約束したのだった。ネオ-ブラックリリーは、今の所はなりを潜めていて、表立った動きは見せておらず、絵里香達はつかの間の休息を得ていた。

 何事もなく授業が終わり、放課後になった。今日は部活がないので、絵里香たちは学校を出ると紅林探偵事務所に向かった。美紀子が後見人になってからは、学校帰りに美紀子の事務所に寄る事が、絵里香たちの日課になっていた。しかし今日は美紀子は留守だった。
「美紀子さんいないのか」
 絵里香は玄関の脇にあるメッセージボックスの暗証キーを操作してボックスを開け、中にある手紙を見た。このメッセージボックスは、美紀子が不在の時に、絵里香たちに自分の行動を知らせる目的で、美紀子が置いたものだった。
「大学の研究室へ行くって書いてあるわ」
 そう言いながら絵里香は手紙を聖奈子と美由紀に見せた。
「しかし… 美紀子さんも色々な事してるのね。私立探偵だと思えば、大学の研究員だったり… 確か、何とか工学か科学の博士号を持ってるって聞いた事があるけど… 」
「私も聞いた事がある。人間工学と生体科学って言ってたっけ… でもそれって一体何をするんだろう」
「別に良いじゃん。今こんな所でそんな話したって何にもならないよ。今日は帰ろうか… 」
 絵里香達はそれぞれ帰路についた。

      *       *       *       *

 ネオ-ブラックリリーの魔手は、その日の夜についに振りかかってきた。明峰学園高校の生徒が帰宅途中でネオ-ブラックリリーに襲われたのだ。襲われたのは絵里香たちが所属するバトン部の一年生の森村千佳だった。千佳の家は鷲尾平の南にある西武台市にあり、第三話でも記したように、葦辺悠美、柘植美和子、小梨麗華の三人と同じ中学の出身で、家も近所同士である。千佳は帰宅した後で、美和子の家に遊びに行き、その帰り道で襲われたのだ。
 千佳が美和子の家を出た時は既に午後8時を回っていた。あたりは防犯灯や街灯が灯っていたものの、外は暗かった。千佳が家の近くにある公園の傍を通りかかった時、公園の中から突然物音が聞こえてきて、千佳はビックリして公園の中を見た。だが、公園の中に人の気配は全く無い。暫くして再び金属が擦れるような音が聞こえた。
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「何だろう… 誰もいる様子はないんだけど」
 千佳は恐る恐る公園の中へ入り、音がした方向へ向かって歩いて、滑り台の前で止まった。
「おかしいな… 確かにこのへんから聞こえてきたんだけど」
 千佳はそう呟きながら首を傾げ、一つ溜息をついた。そして帰ろうとした時、ネオ-ブラックリリーの戦闘員が奇声をあげながら数人現れて千佳の周りを取り巻き、千佳は逃げる暇もなく、たちまち取り押さえられた。
「誰か助け んん… 」
 声を出すと同時に戦闘員の一人に口を塞がれた。千佳は振り解こうとしてもがいたが、戦闘員の一人が持っていた容器から薬を取り出し、おさえつけている千佳の口の中に入れて飲ませると、千佳をその場に突き飛ばした。薬を飲まされた千佳はたちどころに体を火照らせ、体中を汗びっしょりにして悶え苦しみながら10秒足らずで失神した。それを見ていた指揮官らしい戦闘員の一人が他の戦闘員に命令した。
「こいつは10秒足らずで気絶したぞ。まだ薬の効き目にムラがあるな。すぐにドクターマンドラ様に報告だ。それからこの娘はここに置いておくとまずい。片づけろ!」
 戦闘員の中の二人が千佳を抱えると、公園の裏にある斜面の繁みの中に千佳を放り込んだ。そして戦闘員達はそのままその場から夜の闇に消えた。

 翌日の早朝になって、公園の近くに住んでいる一人の老人が犬を連れて散歩に来ていた。その犬が公園の近くに来ていきなり吠え出し、老人をグイグイと引っ張った。
「なんだなんだ! おい、タロー! どうしたんだ。そんなに引っ張るな」
 犬のタローは繁みの近くまで来て、あたりを警戒するようにうなり声を上げた。
「タロー。どうしたんだ。そこに何かあるのか?」
 タローは老人の声などお構いなしに、繁みの中に飛び込んで、何かをくわえて引っ張った。
「タロー! 何してるんだ」
 老人が不審に思って繁みをかき分けてみると、タローの前には変わり果てた一人の女の子の姿があった。老人はビックリしてその場で腰を抜かした。
「あわわわわ・・ ひゃ・・ ひゃく・・ ひゃくとうばん・・ いや百十九番だーっ!」
 たまたまそこを通りかかった新聞配達の人が老人の声を聞いて、老人が指差す方向に倒れている女の子を見ると、持っていた携帯で通報して、数分後にはパトカーと救急車がサイレンと共に到着し、千佳はすぐに病院に運び込まれた。

      *       *       *       *

 絵里香はいつも通りに起きて朝食をとっていた。そして学校へ行こうとしていたときに携帯電話が鳴った。
「もしもし… あ、美紀子さん? はい。 ええっ!? はい。分かりました。市立病院ですね。それじゃ、また後で」
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 電話は美紀子からのものだったが、絵里香は学校があるので、学校が終わってから市立病院に来てほしいという内容だった。学校へ行くと聖奈子と美由紀にも同じ電話が美紀子から来ていた。絵里香は何事だろうと思っていたが、ホームルームの時間になって突然緊急校内放送が流れ、絵里香はその内容を聞いて、美紀子の電話の意味を悟った。1年生の生徒、森村千佳が昨夜行方不明になり、今日の早朝に自宅近くの公園で、意識不明の重体で発見されたという事が告げられ、その後緊急全校集会が開かれた。生徒達に動揺が走り、その日の学校内ではその話で持ちきりだった。部活も中止になり、キャプテンの芳江が集会室に部員達を集めて、千佳の事で自分が分かっている事を全員に告げた。千佳の友人である美和子や悠美の動揺は特にひどく、二人とも泣きそうな顔をしていた。学校を出た絵里香たちは、病院に行く途中の道を歩きながら話をしていた。
「絵里香、もしかして美紀子さんの電話と関係があるんじゃない?」
「間違いないわ」
「そうだよきっと… もしかしてネオ‐ブラックリリー」
 美由紀がそう言いかけたのを絵里香が止めた。
「美由紀、声が大きい!」
「ごめん絵里香」
 そうこうしているうちに、病院に着いた。玄関では美紀子が待っていた。
「美紀子さん」
 絵里香は美紀子に声をかけたが、美紀子は黙ったまま絵里香達に向かって、自分についてくるよう促した。美紀子が向かった先は集中治療室だった。千佳は変わり果てた姿でベッドに横たわっていて、廊下に出た絵里香たちは思わず絶句した。
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「絵里香、何なのあれ… 」
「まるでミイラじゃないの。一体何がどうなったっていうの?」
 千佳は高熱と極端な脱水症状で、干からびたミイラのような姿をしていたのだ。しかし発見が早かったために、命だけは取り留めたのだ。絵里香たちを追って来ていた美和子と悠美はその姿を見て愕然とし、その場に座り込んで泣きじゃくった。そして千佳の母親は医者の話と警察の話を聞き、異様に取り乱していた。絵里香は傍にいる美紀子に聞いた。
「美紀子さん、一体どうなってるの? 森村さんのお母さん随分取り乱してるけど」
「あの子の体から正体不明の薬が検出されたの」
「薬?」
「そう。警察では未発見の新種の麻薬だろうって言ってるわ。それで、警察は麻薬や覚せい剤ルートの線で捜索するようだけど」
「そんな… 麻薬だなんて」
「まさか森村がそんな事… 絶対有得ないよ」
 そばにいた聖奈子と美由紀が美紀子に詰め寄るように言った。さらに美和子と悠美も『麻薬』と聞いて、千佳の母親同様取り乱した。
「森村は絶対そんな事しないよ」
「そうだよ。私達友達同士なんだよ」
「二人とも落ちついて! 私は信じるから。だから落ちついて」
 美由紀が二人を宥めるように言いながら、美紀子の方を見た。美紀子は美由紀に一緒に来るよう促し、続けて絵里香と聖奈子にも一緒に来るよう目で合図した。絵里香たちは美紀子と一緒に人気の無い場所へ移動した。そこで美紀子は絵里香達に向かって話した。
「私も信じるから安心して。私もあの子が薬をやってるなんて思っていないわ。それに、今朝あの子が発見された時の状況からして、誰かに薬を飲まされたんだと思うわ」
「状況… って、どういう事ですか?」
「誰かって… 一体誰がそんな事を?」
「まだ断定出来ないけど、おそらくネオ‐ブラックリリーの仕業よ。やつらだったら、こんな事は簡単にやってのけるわ。私は絶対やつらの仕業だと思っている。というのは、犠牲者はあの子だけじゃないのよ」
「ええっ!?」
「同じような症状で病院に運ばれた人が他にも数人いるのよ。私が研究員をしている城北大学の付属病院にも入院患者がいるわ」
 そう言いながら美紀子は、小瓶を絵里香達に見せた。
「あの子から採決した血液のサンプルを先生に話して特別に分けてもらったの」
 そばにいた聖奈子が驚いたように美紀子に言った。
「美紀子さん。そんな事どうして出来るんですか?」
「私は薬学の博士号を持っているのよ。それだけじゃなくて、他にもあるんだけど… それはさておき、今はとにかくあの子の体に入れられた薬の正体を知ることが先決よ。私はこれを大学の研究室で分析して解毒剤を作るから、あなた達はすぐに調査を開始して」
「わかりました!」
 絵里香たちは、病院を出ると一言二言言葉を交わし、それぞれ別の場所へと散っていった。

      *       *       *       *

 ここはネオ‐ブラックリリーのアジトである。今、アジトではドクターマンドラが自分の作り出した新型麻薬の効果について、戦闘員から報告を受けていた。
「効き目にムラがあるのか」
「ハハッ! 数人の人間で実験しましたが、体質によって薬が効くまでの時間に個人差があるようです」
「ふむ、もっとはっきりした効き目が出るよう、少々改善する必要があるようだな」
 ドクターマンドラが開発した薬は、きわめて毒性が強い麻薬だった。というよりも・・ 曖昧な表現だが、『麻薬のような細菌かビールス、もしくは細菌かビールスのような麻薬』というところであろう。この薬は捕えてきた捕虜を使って効果を実験し、さらに戦闘員達を町へ繰り出して通行人を片っ端から捕まえて実験していたのだ。
その時司令室のスピーカーから、大首領クイーンリリーの声が聞こえてきた。
「ドクターマンドラ。新型麻薬の実験は成功したか?」
「ハハーッ! まだ効き目にムラがあり、改良が必要です」
「よろしい。それでは飲ませるだけでなく、触れただけでも体が冒されるような、感染力を伴う強力な薬を開発せよ」
「かしこまりました。大首領様」
 アジトでは戦闘員達が持ってきた実験データを元に、試作された薬の効力を強める研究が続けられ、やがて手を触れただけでも効き目があらわれるくらい強力な麻薬が完成した。ドクターマンドラは戦闘員達を集め、指令を出した。
「貴様達は街へ出てアクセサリーショップの商品に薬を忍ばせるのだ。何も知らずにアクセサリーに触ったり、身につけただけで、人間どもは麻薬に侵されてたちどころに体全体が火照り、極度の脱水症状を起こして、たちまちミイラのようになって、やがては死に至る。そしてその人間に触れたものにもビールスのように感染して、街中がミイラになった死体だらけになり、たちまち大騒ぎになるはずだ。はっはっはっはっは」
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      *       *       *       *
 
 千佳がネオ‐ブラックリリーの犠牲になってから一週間が過ぎた。千佳は相変わらず集中治療室に入れられて治療を続けられていた。本当ならば脱水症状で死んでしまうはずなのだが、美紀子が作った薬のおかげで、何とか命に別状がない状態まで持っていく事が出来た。しかし解毒剤が完成しないため、完全に治す事が出来ないでいた。その間に効き目が改善された麻薬は、街中のアクセサリーショップの商品に仕掛けられ、それを買って触ったり身につけた人達が、たちどころに麻薬に侵され、激しい身体の火照りとともに性行為をしているような症状になって、やがて脱水症状を起こして人事不省に陥り、次々と病院に運び込まれる事件が続発した。
 ところで、何故アクセサリーショップなのか、というと、それはこの作戦が若い人や子供を標的にしていたからだ。若い人たちや子供を薬漬けにしてしまえば、この世の中には将来が無くなってしまい、自然に人類が滅んでしまうという、ネオ‐ブラックリリーの策略なのだ。
 美紀子は大学の研究室で解毒剤を研究していたものの、まだ完成には至らず、その間にも犠牲者は増え続け、どうやら無差別テロの様相を示してきていた。絵里香達は学校が終わると、町中を走りまわってネオ‐ブラックリリーの痕跡を捜したが、どうしても見つけることが出来なかった。
 そして今日もまた犠牲者が出た。ファンシーショップで買い物をしていた小学生の女の子が、陳列されているアクセサリーに触った瞬間、たちどころに体全体が火照って、その場で悶絶しながら倒れて失神したのだ。店番をしていたアルバイトの学生が、驚いてその子を抱き上げた瞬間、その学生も苦しみ出してそのまま倒れた。そして駆けつけた救急隊員までもが、薬の作用で倒れたのである。街では倒れている人に触れただけでも、自分達が同じようになってしまうため、誰も助ける者がいなくなって、倒れた人達が放置されるという状態になった。そのため救急隊員たちは宇宙服のような装備で救命活動をしている状態だった。
 絵里香たちは今日も街の中を走り回っていた。やがて約束の時間になり、3人は待ち合わせ場所である緑ヶ丘公園の野外音楽堂前に集まってきた。
「ダメ… 何も分からないよ」
「美由紀、諦めちゃダメだよ」
「そんな事言ったって、私もう疲れたぁ」
「何言ってんのよ。何としても私達の手で原因を見つけないと、犠牲者はどんどん増えるだけだよ。それに、倒れた人に触っただけでも伝染病のように感染するから、誰も助けなくなっちゃうし」
「聖奈子あんまり興奮しないで。それより聖奈子は何か分かったの?」
「まだ断定は出来ないんだけど、絵里香、美由紀、ちょっとこれ見てくれる?」
「何なの一体?」
 聖奈子は背負っていたカバンをベンチの上に置いてカバンを開けると、中からビニールに包まれた物を出した。
「これ、さっき駅前の店で買ってきたんだけど」
「これって… アクセサリー? 聖奈子、このアクセサリーがどうかしたの?」
 美由紀がビニールから出そうとしたのを、聖奈子があわてて止めた。
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「ダメ! 直接触ったら麻薬に冒されるよ」
「ええっ?」
「聖奈子どういうこと?」
「あたしが調べたところによると、犠牲者の殆ど… というより全てが、被害に遭う前にアクセサリーを買ってるのよ。これは私の推測なんだけど、やつらはアクセサリーに触れると麻薬に冒されるように細工をしてるんじないかな?」
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「聖奈子の推測通りだとしたら、やつらはアクセサリーを利用して人を麻薬漬けにしてるってことだわ」
「なんてやつらなの! 許せない。絵里香、早く美紀子さんのところへ行こう」
 絵里香は携帯を取り出すと、美紀子に電話をかけた。
「もしもし… 美紀子さん? 今日は事務所なんですか? はい… それじゃ今から行きます」
 絵里香たちは聖奈子が買ってきたアクセサリーを持って美紀子の事務所へ行き、美紀子にそれを渡した。美紀子はそのアクセサリーを分析し、アクセサリーに付いていた麻薬を見つけ出した。
「みんな、お手柄よ。聖奈子が買ってきたアクセサリーに付いていた麻薬は、あなた達の後輩を冒したのと同じ物だったわ。いや、それよりはるかに強い効き目があるように改良されている。伝染病の細菌やビールスのような感染力があるわ。これだけ純度の高い薬だったら、すぐに解毒剤が作れる。あとは、犠牲者がこれ以上増えないように配慮するだけよ。そっちの方は私に任せて、あなた達はネオ‐ブラックリリーを捜し出し、一刻も早くやつらの作戦を阻止して」
「分かりました!」

      *       *       *       *

 アジトでは、薬の効き目が強くなったのを知ったドクターマンドラが満足そうにしていた。
「よし! 麻薬作戦は大成功だ。誰も我がネオ‐ブラックリリーの仕業とは気付かず、人間どもは次々と薬漬けになっている。次はこの薬を全国の貯水池に流し、もっと多くの人間どもが薬漬けになるようにしてやる。人間どもは麻薬に冒されて薬漬けになり、次々とミイラになって死んで行くのだ。早速準備にかかれ」
「ハハッ! かしこまりました。ドクターマンドラ様」
 ドクターマンドラは何人かの戦闘員に向かい、命令を下した。
「作戦を本格的に行うには魔人が必要だ。お前達は魔人に改造するのにふさわしい者を探し出すのだ」
「分かりました」
 戦闘員の何人かがアジトを出て、夜の闇に消えていった。だが、美紀子が解毒剤の研究をしている事にはまだ気付いていなかった。

     *       *       *       *

「え? 薬が完成したんですか?」
 聖奈子が買ったアクセサリーについていた薬を美紀子が分析した結果、二日後には解毒剤が完成した。美紀子はカプセルの形になっている解毒剤を見せながら、絵里香達に言った。
「聖奈子が買ってきたアクセサリーに付いていた薬を分析して、やっと完成したわ」
「よかったぁ… これでもう犠牲者は出ないわね。森村も助かるんだね」
「美由紀、まだ喜ぶのは早いわよ。この一連の事件は、私が推測していた通り、ネオ‐ブラックリリーの仕業に間違いないわ。アクセサリーに付いていた薬は、あの森村さんが飲まされたものよりも、もっと強力な効き目があるのよ。私が分析した結果、この前に言ったように、触っただけでも細菌やウイルスのように人から人に感染するのよ」
 美紀子の事務所では、絵里香達が解毒剤の完成を喜ぶ傍ら、新たな戦いを予想していた。
「こっちの事は私に任せて、あなた達は引き続き調査を続けて」
「分かりました」
 美紀子が作り出した解毒剤の効き目は抜群で、千佳は薬を飲んだ次の日には、ベッドから起きられるくらいに回復して、他の犠牲者達も次々と回復に向かっていた。また、解毒剤は予防ワクチンの役目も兼ね、解毒剤を服用した人は、ネオ‐ブラックリリーの麻薬に冒される恐れが無くなったのだ。そして絵里香たちも美紀子の作った薬を飲み、ネオ‐ブラックリリーの麻薬に備えた。

 しかし・・・ いっこうにネオ‐ブラックリリーの行動が掴めなかった。そして最初の事件から二週間たったある日、絵里香たちは学校から出ると、今日行う調査のことで話し合いながら歩いていた。
「一向に進展しないね」
「うん… でも麻薬の正体が分かったから、もうこれ以上の犠牲者は出ないと思うよ」
「あとはネオ‐ブラックリリーの企みを阻止することなんだけど、やつらもなかなか尻尾を出さないわね。それで今日の予定なんだけど」
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「ちょっと待って絵里香。あの子達… 何してるんだろう」
 聖奈子が道路の端にいる制服姿の女の子たちを指さした。
「制服からすると、東中みたいだけど… 何だか様子が変だよ」
「絵里香、よく見て。三人がかりで一人に何かしてるんだよ」
 よく見ると3人が1人を取り囲み、髪を引っ張ったり胸ぐらを掴んだりしている。『いじめ…』絵里香たちはそう直感して駆け寄ると、その集団の中に割って入った。
「何だよお前らぁ」
「邪魔すんじゃねえよ。うざってぇからあっち行けよ」
 絵里香たちは、突っかかってくる3人を力ずくで払いのけ、いじめられていたと思われる女の子を自分達の後ろに匿った。
「あんた達何してるのよ!?」
「やめなさいよ! かわいそうじゃないの!」
いじめていた側の3人は絵里香達を睨み付け、リーダー格らしい女の子が、絵里香達に向かって突っかかるように言った。
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「何だよ! 正義面しやがって。むかつくぅ。みんな行こうぜ。あーうざってぇ!」
 その女の子は他の二人を促し、絵里香たち達を罵りながら足早に走り去った。
「ちょっと、あんたたち待ちなさいよ」
「聖奈子、追わなくてもいいよ」
 絵里香は追いかけようとした聖奈子を止め、いじめられていた女の子に話しかけた。
「あいつらに何をされたの? 何でもいいから話して。私達が絶対守ってあげるから」
 いじめられていた女の子の足もとには、例のアクセサリーがビニールに入った状態で落ちていた。絵里香は持っていたティッシュでそれを掴んで拾った。
「ねえ、何でもいいから私達に話して。一体何があったの? ねえお願い! 詳しく話して」
 絵里香の懸命な説得に、その女の子は、涙声で絵里香達に向かって話し始めた。
「さっきの3人は同じクラスの人達で、小学校から一緒なんです。私・・ 小学校の頃からあの三人にいじめられていて、それで今日になってこのアクセサリー … これをあの三人に買わされたうえに、無理矢理着けさせられそうになったんです。嫌だって言ったら、顔を叩かれて、足を蹴られて… 」
 そこまで言って、女の子は座り込んで泣き出した。
「あいつら… 一体何考えてんだろう。事件のことを知ってるくせに、ひどすぎるわ」
「今度見かけたら、捕まえてとっちめてやる!」
 絵里香達はネオ‐ブラックリリーの事件の影響が、こんな所にまで広がっていることに愕然とした。これはただ事ではない。全てはネオ‐ブラックリリーの策略なのだ。
「絵里香。とにかくこの子をここから連れていこう。そうだ! 美紀子さんのところへ連れていって、あの解毒剤を分けてもらおうよ」
「君… 私達と一緒に来て」
 絵里香達は女の子を連れて、美紀子の事務所に向かった。

      *       *       *       *

「え? いじめ?」
 美紀子は絵里香たちの話を聞き、何だといった顔で絵里香たちを見た。だが話を聞いているうち、段々顔つきが厳しくなっていった。
「そういう事か・・ ネオ‐ブラックリリーの影響が、学校のいじめ問題にまで及んでいるのか・・ 」
 美紀子は事務所の椅子に座り、腕組みをしながら呟いた。
「それでその子に解毒剤を?」
「ハイ。美紀子さんお願いします」
「分かったわ」
 美紀子は解毒剤のカプセルを持ってくると、その女の子に飲むよう促した。
「これを飲めば、あなたはアクセサリーに触っても大丈夫よ。私を信じて」
「は、はい。ありがとうございます」
 女の子は言われるままに美紀子が差し出した解毒剤のカプセルを飲んだ。
「この子の家は私の家の近くだから送っていくわ」
 そう言って絵里香は美紀子の事務所を出ると、女の子を連れて行った。それを見送った聖奈子と美由紀は、応接室に戻った。
「美紀子さん、あの子学校へ行けば、またいじめられるんじゃないかな」
「そうね… でも、私たちにはどうする事も出来ないわ」
 美紀子の返事に、聖奈子と美由紀は何も言えなかった。

      *       *       *       *

 その頃例の三人は、絵里香たちから逃げたあとで、ゲームセンターへ行って時間をつぶし、そのあと路上で後輩の生徒を見つけて恐喝し、金品を巻き上げた。その後三人は公園で缶ジュースを飲んで一休みしながら、雑談していた。
 三人はゲームセンターへ行くところから、ずっとネオ‐ブラックリリーの戦闘員たちに目をつけられて見張られていた。そして公園に入ったところで、戦闘員達は3人を包囲するように散らばり、様子を覗っていた。さらにそこへ別の戦闘員達がやってきた。
「どうだ? 魔人に改造できそうなやつは見つかったか?」
「あいつらは今度の作戦に使えそうだ」
 戦闘員の一人がベンチに座っている三人を指さした。
「何だ!? やつらはガキではないか。あんなやつらを連れていったら、ドクターマンドラ様に大目玉を食らうぞ」
「そうとも言えないぞ。やつらには人間の心というものが感じられない。とくに真中にいるリーダーらしいやつは、冷酷な心を持っている。ああいうやつこそ、わがネオ‐ブラックリリーにふさわしいのだ」
「そうか… よし! 全員行動に移れ」
 戦闘員達が、公園にいる三人組を遠目で見ながら言い合っていた。そして戦闘員達は包囲の輪を縮めながら公園のベンチに座っている三人に近付き、取り囲んだ。
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「おい! ガキども。我々と一緒に来い」
「何だよてめえら!」
「我々はネオ‐ブラックリリー。おとなしく我々と一緒に来てもらおう」
「ネオ‐ブラックリリー? 何それ。あんた達コスプレショーの帰り? それにしてもだっさい恰好… うざってぇからあっちへ行けよ!」
「捕まえろ!」
 リーダーらしき戦闘員の言葉に、他の戦闘員達は三人を捕まえ、羽交い締めにした。
「何すんだよ! 放せ! はなせよ!」
「うるさいガキどもだ。大人しくさせろ!」
 3人の少女は抵抗したが、みぞおちを殴られて気を失い、3人とも戦闘員達に抱えられてアジトに連れて行かれた。

 ここはネオ‐ブラックリリーの秘密アジトにある手術室である。手術台には、例の女子中学生三人組のリーダー格の少女が、手足を拘束されて寝かされ、その傍らでは、残りの二人の少女が戦闘員に取り押さえられて立たされていた。拘束されていたリーダー格の少女は、自分が何をされるのか悟って恐怖におびえていた。残りの二人も然りであった。そこへドクターマンドラがお供の戦闘員を連れて、手術室に入ってきた。

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「魔人に改造する人間を連れてきたそうだが、準備は出来ているか?」
「ハハーッ! ドクターマンドラ様、手術の準備は出来ております」
 改造担当の戦闘員が手術台に拘束された少女を指差して言った。ドクターマンドラは、拘束されている少女と、戦闘員に取り押さえられた少女たちを見て急に顔色を変え、戦闘員達に向かって怒鳴った。
「何だこいつらは!? この中学生のガキどもが改造する人間だというのか!? お前らは何を考えているんだ」
 ドクターマンドラは、持っていた鞭の先を戦闘員に向けて威嚇した。その時スピーカーからクイーンリリーの声が響いた。
「待て! ドクターマンドラ。その娘を改造するのだ」
「大首領様。お言葉ですが、こんなガキを改造したって、何の役にもたちません」
「いいのだ。ドクターマンドラ。その娘には人間の心や良心が感じられないのだ。弱いものをいじめるということを、何とも思っていないという、悪の心と冷酷な心が宿っている。今度の作戦にふさわしい逸材ではないか。その娘の冷酷な悪の心を利用し、魔人に改造して麻薬作戦の責任者にするのだ」
「そう言う事でしたか。かしこまりました」
 ドクターマンドラは、取り押さえられた二人の少女を見据えてから、手術台に縛り付けられたリーダー格の少女に向かってニヤニヤ笑いながら話した。
「お前を今回の麻薬作戦の責任者として、これから魔人に改造してやる」
「嫌あーっ! そんなのいやだあーっ 助けてぇーっ」
 少女は助けを求めて手術台の上で暴れたが、手足を拘束され、逃げることは出来ない。
「お願い助けて! やめてぇーっ!」
「手術開始!」
 手術台に拘束された少女は例の麻薬を点滴注射され、電流のようなものを全身に浴びせられた。

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「あぁぁ… アァーッ!」
 少女は叫び声をあげながら悶絶した。それを見ていた2人は恐ろしさに顔を背けた。やがて身体全体が真っ赤になって火照り出し、その火照りがおさまった時、手術台全体が眩しく点滅した。そして光が消えた時、少女の姿は醜い魔人の姿に変わっていた。拘束が解かれ、魔人になった少女は起きあがってドクターマンドラの前に立った。
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「ケシシシシシーッ! 私はネオ‐ブラックリリーのケシ魔人だ」
 ドクターマンドラは残る二人の方を睨んだ。2人は恐怖のあまり失神してしまった。
「ふん! 弱い者いじめばかりしている割には気が小さい連中だな。まあいい。こいつらも麻薬作戦の責任者としてこき使ってやる」

      *       *       *       *

 6月も半ばに入り、そろそろ梅雨入りになろうとしていた。が、ネオ‐ブラックリリーの事件は今だ解決していなかった。とにかく、ネオ‐ブラックリリーの動きが全く掴めないのである。絵里香たちは焦ったが、吉報もあった。美紀子の解毒剤が完全なものになり、病院に収容されていた人達の大部分が回復していったのだ。
「もう大丈夫よ。これ以上犠牲者が増えることはないわ」
「ありがとう美紀子さん。でも、ネオ‐ブラックリリーの動きは全然分からないのよ」
「大丈夫。必ずやつらは尻尾を出すわよ。ヤツラが作った麻薬のワクチンが完成している事を知れば、必ず大っぴらな行動に出るはずよ。とにかく待ちましょう」
「分かりました。美紀子さん」
 美紀子の事務所を出た絵里香たちは、駅前のハンバーガーショップに入り、適当に注文して商品を受け取ると、一番奥のテーブルを囲んで座った。三人でハンバーガーを食べながら、絵里香がまず口を開いた。
「調査はとりあえず今日でやめにしよう。美紀子さんの言うように、やつらの動きを待つのよ」
「あたしも絵里香の意見に賛成よ。ワクチンが出来たから、もう犠牲者が出る事は無いわ。やつらがそれを知れば、美紀子さんが言うように、必ず次の行動に出てくるはずよ」
「それがいつ何処で… どういう形で現れるかってところね」

 翌日の日曜日…
 聖奈子は美由紀と一緒に駅前近くのゲームセンターにいた。二人はしばらく楽しんだ後、小銭が無くなったので、美由紀が千円札をくずすため、両替機のところまで行って両替していた。その時、後ろから誰かにいきなり襟をつかまれ、さらに手首をつかまれた。反射的に身体を翻した美由紀は相手と向かい合う格好になった。
「何するのよ!」
「その金こっちによこしな」
 相手は2人で、先日会った三人組の少女の内の2人だった。美由紀は怯まずにその二人を睨み付けたが、二人は逆ギレして美由紀に突っ掛かってきた。
「んだよ! てめえ! あたし達に喧嘩売ってんのかよ!」
 そう言いながら2人のうちの一人が美由紀の胸ぐらに掴みかかってきたので、美由紀はその手首をつかみ、思いっきり捻った。
「イタタタタタ… この野郎!」
 もう一人が殴りかかってきて、美由紀は二人組ともみ合いになった。そこへ帰りの遅いのを心配した聖奈子がやってきた。
「あんた達この前の… !」
 聖奈子に指さされた2人組は、聖奈子と視線があってギョッとした表情を見せた。先日いじめの現場を見られていたからだ。聖奈子は二人組の内の一人を美由紀から引き離し、そのまま足払いをかけて床にたたきつけた。
「この野郎! ぶっ殺してやる!」
 床にたたきつけられた少女は、そう叫びながらバタフライナイフを出してきて切りつけてきたので、聖奈子は相手の手首を手刀で叩いてナイフをたたき落とした。
「どうかしたんですか!?」
 近くにいた係員が異変に気づいて駆け付けてきた。さらに店内にいた他の客も、騒ぎを聞いて数人集まってきたので、二人組はその場から逃げ出した。
「待ちなさい!」
 聖奈子と美由紀は、逃げる二人を追った。二人はゲームセンターを出て、そのまま300m程道路を走って逃げ、緑ヶ丘公園の中に逃げ込んだ。聖奈子と美由紀も後を追って公園内に入り、野外音楽堂の前で二人組に追いついて、タックルを食らわせて押し倒し、そのまま組み伏せた。
「もう逃げられないわよ! 観念しなさい」
「畜生! 離せ。馬鹿野郎」
 聖奈子と美由紀は、罵りながら抵抗して暴れる二人を力ずくで押さえ付けた。ちょうど野外音楽堂の前では、地元のボランティア団体がフリーマーケットをやっていて、その人達の中の数人が一一体何事かと集まってきた。
そこへケシ魔人が戦闘員とともに現れ、フリーマーケットの会場になだれ込んだ。

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「ワーッ! 化け物だぁ」
 突然の出来事に、会場全体がパニック状態になった。ケシ魔人は周りにいる人たちに向けて、手当たり次第に麻薬ガスを噴射し、ガスを浴びた人たちは次々に狂乱状態になって、そのまま人事不省になった。
「大変! ネオ‐ブラックリリーだわ! 早く絵里香と美紀子さんに連絡しよう!」
 聖奈子と美由紀は二人組から離れると、携帯で絵里香を呼び出した。ケシ魔人は聖奈子と美由紀を見つけ、奇声を上げながら近寄ってきた。
「ケシシシシシーッ! てめえら! この前私に恥をかかせた奴等だな。ここで会ったが百年目だ。麻薬ガスを喰らえ!」
 ケシ魔人の麻薬ガスが聖奈子と美由紀に向けて噴射された。聖奈子と美由紀は身をかわして避け、ポーズをとって変身して、エンジェルブルーとエンジェルイエローの姿になった。

「水の戦士、エンジェルブルー!」
「光の戦士、エンジェルイエロー!」
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「ケシシシシシーッ! 貴様らがあのエンジェルスか… 者どもかかれ! 皆殺しだ」
 戦闘員が一斉に襲いかかってきて、乱戦状態になった。二人の少女はこれまでの光景を見て、自分達がとんでもないことをしているのに気付いた。
「もう嫌! 私達、これ以上こんなやばいこと出来ないよ! 私達もうやめるから」
 二人の少女はそう言いながら逃げ出そうとしたが、二人の言っている事を聞いたケシ魔人は、逃げようとする二人の前に回り込んで行く手を阻み、二人に向かって攻撃態勢をとった。
「や、やめて… 嫌… お願いだから許して」
「うるさい! 裏切りは絶対許さない!」
 ケシ魔人の麻薬ガスが二人に噴射された。
「キャーッ! 嫌ぁーっ」
 ガスを浴びた二人は体を火照らせながら激しく喘ぎ、大量の汗と体液を噴き出しながら人事不省になった。ケシ魔人の非情さに聖奈子はついにキレて、叫び声をあげながらケシ魔人に組みかかったが、ケシ魔人に軽くあしらわれた。
「麻薬ガスを食らえ」
「キャーッ!!」
 ケシ魔人の麻薬ガスが至近距離から噴射され、聖奈子はそれをまともに被ってしまった。予防ワクチンを飲んでいた聖奈子は麻薬に体を冒されずに済んだが、ガスのために呼吸困難になり、苦しみながらその場に膝をついた。
「ケシシシシー。ざまぁ見ろ! 麻薬でミイラになって死んでしまえ」
 ケシ魔人はそう吐き捨てながら、聖奈子に2~3発蹴りを入れ、聖奈子の体はボールのように飛んで地面に叩きつけられた。美由紀はそれを見て戦闘員と戦うのをやめ、聖奈子の所へ向かって駆けた。
「聖奈子! 聖奈子! しっかりして」
「お前もガスを喰らえ!」
 ケシ魔人は美由紀にもガスを噴射した。しかし美由紀は身をかわして避け、ジャンプして魔人にキックをお見舞いした。
「ぐぁぁっ! ケシシーッ」
 キックを喰ったケシ魔人は一回転して地面を転がったが、すぐに立ち上がった。そこへ戦闘員の一人がやってきて、ケシ魔人に何かを言った。
「そうか… 作戦の準備が出来たか。よーし。全員引き揚げだ! 大至急作戦地域へ移動」
 ケシ魔人はそう叫びながら、残った戦闘員を伴って逃げた。美由紀は魔人を追いかけようとしたが、聖奈子の事が気になったので追わなかった。そこへ連絡を受けた絵里香が美紀子と一緒にやってきた。美由紀は絵里香の姿を見るや、絵里香に向かって大声で叫んだ。
「絵里香、聖奈子が!」
 絵里香と美紀子がそばへ駆け寄ってくると、聖奈子はゴホゴホと咳をしながら立ち上がった。
「聖奈子大丈夫?」
「うん・・  畜生あの化け物め・・  ワクチン飲んでなかったら、やられていたわ」
「3人とも手伝って。怪人にやられた人達を助けるのよ」
「ハイ」
 絵里香たちは美紀子と一緒に、ケシ魔人のガスを浴びて倒れている人達にワクチンを飲ませて回った。また、ガスにやられた例の2人組の女の子にもワクチンを飲ませた。数分後には、二人は話が出来る程度まで回復した。二人はそばにいた美紀子に話しかけた。
「ありがとうございます。私達… 自分たちのやっていたことが、どんなにひどい事かよく分かりました。もう『いじめ』や、ひどいことは絶対しませんから許して下さい」
「もういいわよ。分かれば良いのよ」
 そこへ絵里香たちが戻ってきた。二人はエンジェルの姿のままでいた聖奈子と美由紀に向かって、縋るように嘆願した。
「さっき逃げていった怪物は、私達の友だちなんです。変なやつらに捕まってあんな姿にさせられたんです。おねがい、助けてあげて。お願いです。」
 美由紀は絵里香、聖奈子とお互いの顔を見合ってから、二人に向かって言った。
「分かったわ。安心して。私達が必ず助けてあげる」
「ありがとう… ありがとうございます」
 今度は美紀子が二人に聞いた。
「あなたたち、奴等のことで何か知っていることは無いの」
「そういえば… 貯水池に薬を流すって言っていました」
「ええっ!?」
「やばいよ。そんな事されたら被害が広がるよ。いくらワクチンがあるっていっても、また犠牲者が出るよ」
「そんな事絶対させないわ。みんな! 私の傍に集まって」
 絵里香達は美紀子に呼ばれて、美紀子の傍に集まった。
「ここから貯水池までは10km近くあるわ。今から急いで行っても間に合わない。あなたたちのエンジェルスとしての能力を使う時が来たわ」
「私たちの能力… ですか?」
「そう。3人とも円になって。そして羽飾りを左手で押さえて、右手を前に出して、『テレポートチャージ』というキーワードを唱えるのよ」
 絵里香たちは美紀子の言う通りの体勢をとり、「テレポートチャージ!」というキーワードを唱えた。これは、作戦地域が現在地から遠い場合、テレポートすることによって瞬間的にその場所へ移動できる能力なのだ。絵里香たちの姿が一瞬にして、その場から消えた。
「頼んだわよ。みんな… 」

      *       *       *       *

 絵里香達はテレポートにより、貯水池の敷地内に立っていた。ここはS県の水道施設で、この貯水池に例の麻薬を流された場合、鷲尾平とその近隣の市町村の水道に麻薬が混入され、水を飲んだ人はすべて麻薬漬けになってしまう。水を飲まなくても、麻薬漬けになった人に触れれば、それだけで麻薬が感染して、たちまち犠牲者が増えていくのだ。
 施設の敷地内にテレポートした絵里香たちは、それぞれお互いの顔を見合った。
「すごい… 私たちにはこんな凄い力があったのね」
「テレポート… か。これなら、何処にネオ‐ブラックリリーがいても、すぐに駆け付ける事が出来るわ」
「感心してる場合じゃないよ。早くやつらを捜さなきゃ」
 絵里香たちはその場から駆け出すと、貯水池がある場所へ向かった。
「絵里香、あそこ」
 聖奈子が指さした場所には貯水池があり、その脇ではケシ魔人が数人の戦闘員とともに何かの準備をしていた。さらによく見るとゲートの前には給水車が一台停まっていて、そこからホースが真っ直ぐ貯水池まで伸びてきている。
「準備完了です。ケシ魔人様」
「よーし! 薬を流すのだ。見ていろ。愚かな人間どもめ」
「待ちなさい! ネオ‐ブラックリリー」
 突然の声に、ケシ魔人と戦闘員たちは一斉に声のした方を向いた。
「ネオ‐ブラックリリー! お前達に勝手なまねはさせない!」
 絵里香達はそう叫びながら身構えると、ケシ魔人と戦闘員めがけて駆け出した。
「くそぉ! ここまできて邪魔されてたまるか! かかれっ」
 戦闘員が一斉に襲いかかって絵理香たちと格闘戦になり、その様子を見ていたケシ魔人は、給水車の方へ走った。
「今のうちに薬を流してやる」
「まずい! 薬が流されてしまう!」
 ケシ魔人が走っていくのを見た聖奈子は、ジャンプして戦闘員の壁を越え、給水車の上に着地した。近くにいた戦闘員が聖奈子に向かってきたが、聖奈子はパンチとキックで戦闘員を倒した。そこへケシ魔人がやってきた。
「薬は絶対に流させないぞ!」
「おのれ! 麻薬ガス!」
 ケシ魔人が麻薬ガスを放った。聖奈子はガスを避けるためジャンプした。そこへケシ魔人が右手の鞭を飛ばしてきた。鞭は聖奈子の脚に巻きつき、ケシ魔人はそのまま力任せに引っ張った。
「キャーッ!」
 聖奈子の体が宙を舞い、ケシ魔人を飛び越えて地上に落下した。受身を取れなかったため、聖奈子はまともに地上に叩きつけられる格好になった。起き上がる事が出来ない聖奈子に背を向け、ケシ魔人は再び給水車の方へ駆け出した。そこへ戦闘員を全て倒した絵里香と美由紀が、聖奈子を援護するために駆け寄ってきた。美由紀は倒れている聖奈子の方へ行き、絵里香はケシ魔人と給水車との間に割って入った。
「ネオ‐ブラックリリーの化け物! お前の作戦もこれで終わりよ」
「何を小癪な! 邪魔されてたまるか」
 ケシ魔人は鞭を振り回しながら、絵里香に突進してきた。鞭が絵里香の腕に巻きついたが、絵里香は鞭をつかむとそのまま引っ張った。ケシ魔人は逆に自分が引っ張られる格好になり、絵里香の元に引き寄せられた。同時に絵里香はハイキックをお見舞いした。
「グアァっ!!」
 ケシ魔人はそのまま反動で地面に叩きつけられた。絵里香は給水車から伸びているホースをつかんで手繰り寄せ、自分の傍に持ってくると、ジャンプして給水車の上に上がった。そしてそのままエネルギー波を放った。
「ファイヤースマッシュ!」
 エネルギー波が給水車を直撃し、給水車は薬ごと爆発して炎上した。同時に絵里香は再びジャンプして地上に降りた。そこへ聖奈子を連れて美由紀がやってきた。一方、地面に叩きつけられたケシ魔人は、起き上がると絵里香達に向かって攻撃態勢をとった。
「お、おのれぇ。よくも作戦を台無しにしたな。こうなったら地獄の道連れにしてやる! 麻薬ガスを喰らえ!」
 ケシ魔人が麻薬ガスを絵里香達に向けて放った。
「危ない! みんな散開して!」
 絵里香達はガスを避けるために3方向に散らばり、態勢を整えて3方向からケシ魔人を囲むようなフォーメーションをとって身構えた。
「聖奈子! 美由紀! いくわよ!」
「オッケー!」
「いつでもいいよ!」
 絵里香たちはケシ魔人に向けてエネルギー波を放った。
「トリプルエンジェルスマッシュ!」

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 三方向から炎・水・光の球体が放たれ、ケシ魔人に命中した。ケシ魔人は絶叫しながら前のめりに倒れて閃光を発した。そして閃光が消えたとき、ケシ魔人は元の女の子の姿に戻っていた。絵里香たちは気絶している女の子のそばへ行った。女の子はショックで気絶しているだけで、命に別状は無かった。
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「終わったわね」
「うん。これでこの子も助かるわ」
「でも、この子が改心するかどうかはこの子次第。私達の出る幕ではないわ」
「そうだね。でも、ネオ‐ブラックリリーがいる限り、悪い心につけ込んで来て、またこの子のような犠牲者が必ず出るわ。だから私は絶対奴等を許さない。」
「しかし、麻薬まで開発して作戦に使ってくるなんて… やつらも恐ろしいことを考えるのね」
「美紀子さんが作ってくれた解毒剤とワクチンのおかげでみんな助かったけど、油断ならない連中だわ」
 絵里香たちはそう言いながら気絶している女の子を見た。
「さあ、この子を連れて帰ろう。美紀子さんが待っているわ」
 そう言いながら3人は気を失ったままの女の子を伴い、テレポートによって美紀子の待つ緑ヶ丘公園に戻った。


       *       *       *       *

 ネオ‐ブラックリリーの麻薬作戦は、絵里香たちエンジェルスの妨害によって挫折した。だが、ネオ‐ブラックリリーはまた新たな作戦を準備し、牙を剥いてくるのである。負けるな! エンジェルス
                                               (つづく)

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 次回予告
 ◎第10話『怪しい宅配便』

 ネオ‐ブラックリリーは化学薬品工場を襲撃して大量の化学薬品を強奪し、それを元に毒ガス『ビリジャンデビル』を精製する。そのアンプルをカエル魔人に装着し、さらに毒ガスのアンプルを仕掛けた鉢植えを家庭やオフィスに配達して毒ガスを発生させ、人類を一気に皆殺しにしようと計画。ある事件が元で作戦を知った絵里香たちは阻止行動に出るが、毒ガスの威力のために苦戦を強いられる。

 次回 美少女戦隊エンジェルス第10話『怪しい宅配便』にご期待ください。




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テーマ : ライトノベル
ジャンル : 小説・文学

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