鷲尾飛鳥

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第11話『母に貰った勇気』

2012年 05月21日 19:28 (月)

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 6月某日の深夜。某県にある刑務所では、今まさに凶悪犯罪者の死刑執行が行われようとしていた。死刑囚毒島が2人の看守と牧師に伴われて死刑執行を行う部屋に連れてこられ、絞首台の上に立たされた。
「毒島。何か言い残すことはないか?」
 看守の質問に、毒島は毅然と答えた。
「ふん!! 今度生まれ変わったときは、てめぇらををみんなぶっ殺してやる。いや、世界中の全ての人間どもをぶっ殺してやるんだ。覚悟しろ!」
 その言葉に看守も牧師も顔をゆがめた。この死刑囚は名前を毒島剛志といい、拳銃と毒物を使った連続殺人及び銃刀不法所持その他の罪で逮捕されて起訴され、裁判で死刑が確定して、この刑務所に収監されていた。目隠しをされて首に縄がかけられ、いよいよ死刑が執行されようとしていたとき、部屋の戸が不意に開けられ、数人のネオ‐ブラックリリー戦闘員が乱入してきた。
「な、何だ貴様ら!」
 戦闘員たちは侵入と同時に看守と牧師に組み付き、二人の看守は牧師共々すぐに殺された。そして戦闘員達は死刑直前の毒島の首にかけられた縄を外し、目隠しを取って手錠を外し、部屋から連れ出そうとしながら言った。
「毒島剛志。お前を助けてやる。大人しく我々についてこい。そうすれば、お前の望み通り、いくらでも人を殺させてやるぞ」
「助けるだと? ふん! 俺様は誰の指図も受けねえゼ。放しやがれ!」
 すると戦闘員は、啖呵を切っている毒島の口に麻酔がしみこんだ布をあてがって気絶させると、そのままそこから連れ出し、刑務所の外へ脱出して闇の中に消えた。

 毒島は眩しい光に照らされて目を覚ました。そこは病院の手術室のようなところで、自分自身は台の上に拘束され、見たこともない連中が自分の周りに立っているのを見て、体全体を揺すりながら叫んだ。
「やい! ここはどこだ? 誰だてめぇらは? この俺をどうしようってんだ?」
 その言葉を聞いたドクターマンドラは、毒島に向かって答えた。
「毒島。私達はお前を助けてやったのよ。そんな悪態をつかれるより、むしろお礼を言ってほしいわ。もっとも助けたのにはそれなりの理由があるんだけど」
「一体どういうことだ! ああん!?」

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「お前は言っていたわね… 今度生まれ変わったら『みんなぶっ殺してやる』って。私達はお前のような人間を捜していたのよ。お前はまさに我々ネオ‐ブラックリリーのエージェントとしてふさわしい逸材だ。お前を我がネオ‐ブラックリリーの作戦責任者として、大いに暴れさせ、望み通り好きなだけ人間を殺させてあげる」
「ネオ‐ブラックリリー? 何だいそれ。ふん! 俺様は誰の指図も受けねえゼ。俺は俺のやりたいようにやるんだ。放せ! 放せこん畜生!」
「改造手術を開始せよ!」
「かしこまりました」
 戦闘員がスイッチをいれると、拘束されている毒島に向けて、特殊な光線が照射され、毒島は叫び声をあげて悶絶しながら気を失った。光線が毒島の身体の至る所を照射し、数時間後には毒島の体は醜い魔人の姿に変貌していた。手術が完全に終了して拘束が外され、ドクターマンドラはまだ手術台の上で眠っている魔人に向かって言った。

「目覚めよ! キノコ魔人」
 ドクターマンドラの声にキノコ魔人はむっくりと起き上がり、手術台から降りてドクターマンドラと向かい合うように立った。
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「ビビビビビビーッ!! 殺したい… 早く人間をぶっ殺したい… 」
 その時司令室のスピーカーから、大首領クイーンリリーの言葉が流れてきた。
「キノコ魔人! お前の望みを叶えてやる。お前の体内には、人間の脳神経を狂わせる発狂ガスのアンプルが埋め込まれているのだ。発狂ガスを浴びたり吸ったりした人間は、たちまち異常な攻撃性を抱き、自分以外の者がみな敵に見えるという幻覚に冒されて互いに憎み合い、争い合って殺し合い、最後には脳神経が麻痺して死に至る。お前はその発狂ガスを使って街中の人間どもを互いに争わせ、そして皆殺しにするのだ」
「面白い・・ これは非常に面白い。早く人間どもを皆殺しにしたい。ビビビビビーッ」
「行け! キノコ魔人」
「おうっ! 言われなくても行くぜ」
 キノコ魔人はぶっきらぼうな返事をすると戦闘員たちを伴い、基地から出て夜の闇の中に紛れて消えた。そしてネオ‐ブラックリリーの恐ろしい計画が始まろうとしていた。

      *       *       *       *

 6月も終わりに近い、梅雨の合間の晴れた日の日曜日、その日の昼下がりの飛鳥山自然公園は、家族連れや若者・老人と、様々な人々で賑わっていた。そしてそれを遠目に監視するように見ていた集団があった。ネオ‐ブラックリリーのキノコ魔人と数人の戦闘員達である。
「準備はいいか?」
「はっ! いつでもよろしいです。キノコ魔人様」
「よし! スイッチを入れろ。発狂ガスを放出する」
 戦闘員の手でスイッチが入れられると、花壇に植えられていた花から薄い黄色の花粉のようなものが一斉に放出された。近くにいた人達はそれを吸うか、あるいは体に浴び、頭や喉を押さえて苦しみだした。しばらくすると、近くにいた者同士で罵声の浴びせ合いと殴り合いが始まった。年齢・性別など一切関係なく、家族だろうと、友人同士であろうと凄惨な殴り合いとなった。やがて殴り合っていた人達は、口から泡を噴き出し、みなその場に倒れてしまった。通報で何台もの救急車がやってきて、倒れた人々が病院に運ばれ、病院内では大量に運ばれてきた患者でごった返し、また息を吹き返した者が再び暴れ出したりして、大パニックに陥った。この日だけで方々の病院に200人近い患者が運び込まれ、そのうち重症だった6人が死亡した。警察や消防が飛鳥山公園に着いた時には、既に発狂ガスは消えて無くなっており、何故このような事態になったのか、皆目見当がつかない状態だった。警察でも病院でも事件の原因が分からず、分かっていることは自分の目の前にいる者に対して、異常なくらいの攻撃性を抱き、形振り構わず殴り合いとなって、最後には口から泡を吹き出して昏睡状態になるということだけだった。

 この事件は翌日の新聞に載せられ、事務所で新聞を見た美紀子は、この事件がネオ‐ブラックリリーの仕業であるということを確信した。
「やつらがまた動き出した。絵里香たちに知らせなきゃ」
 美紀子は絵里香達の携帯に “学校が終わったらすぐ来るように” という内容で、『至急』という言葉を付け加えてメールを送った。絵里香たちの携帯にはそれぞれ美紀子からのメールの着信が入り、絵里香たちは学校が終わるとそのまま美紀子の事務所に向かった。事務所に着いた絵里香たちは慌ただしく応接室に入り、美紀子は新聞を見せながら絵里香達に言った。
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「この事件はもう知っているわね」
「ハイ。今朝新聞で見ました」
「これは間違いなくネオ‐ブラックリリーの仕業よ。原因はおそらく特殊なガスだわ。それを吸ったり浴びたりすると、脳神経が冒されて狂暴化し、見境なく周りの人達に襲いかかるようになっているのよ」
「美紀子さん、解毒剤は作れるんですか」
 美紀子は首を横に振った。
「すぐには無理だわ。ガスの成分が全く分からないの。口から吐き出された泡を分析したけど、泡自体には有毒成分は全く含まれていないのよ。3人とも充分気をつけて」
「分かりました」

      *       *       *       *

 一方、ネオ‐ブラックリリーのアジトでは、ドクターマンドラがクイーンリリーのメッセージを聞いていた。
「ドクターマンドラ。もっと作戦区域を広げ、より多くの人間どもをガスで狂わせて殺すのだ」
「かしこまりました。大首領様。しかし、スカーレットエンジェルが作戦を嗅ぎつけ、エンジェルスの小娘どもも動き出しています。まず、その目障りな連中から片付けます」
ドクターマンドラは通信を切ると、キノコ魔人を呼びだした。
「ドクターマンドラ様。キノコ魔人が出ました」
 戦闘員が通信用のマイクを持って、ドクターマンドラのそばにやってきた。
「何か用か? ドクターマンドラ」
 キノコ魔人は元の人間毒島の性格のせいか、相変わらずぶっきらぼうな返事しかしない。ドクターマンドラはムッとした顔をしながら、まあいいだろうという感触でキノコ魔人に話をした。
「キノコ魔人、目障りな小娘どもが動き出した。お前の発狂ガスで小娘どもを狂わせ、互いに戦って殺し合うようにしてしまえ」
「分かったぜ! まかしときな」
 キノコ魔人はドクターマンドラの指令を受けると、すぐさまそばにいた戦闘員に命じて、周囲にいる戦闘員達に公園全域を見張るよう指示した。
「小娘どもが我々の作戦を嗅ぎつけた。ここにやってきたところを待ち伏せして一網打尽にするのだ」

      *       *       *       *

 午後4時頃、事件のあった飛鳥山自然公園の駐車場に一台の乗用車が入ってきた。乗用車は美紀子が運転していて、絵里香たちが同乗していた。平日の夕方は人気が殆どなく、淋しさと不気味さが交錯していた。美紀子と絵里香たちは車から降りると、事件があった中央広場の花壇に向かって駆け出した。その様子を遠目で見ていた戦闘員がキノコ魔人に報告した。
「小娘どもが来ました。」
「よし!」
 キノコ魔人は戦闘員達に矢継ぎ早に指示を出しながら、絵里香達の動きを監視していた。そして、中央広場の花壇に近づいてきたのを見ると、そばにいた戦闘員に指令を出した。
「スイッチオン!」
 花壇に植えられていた花から一斉にガスが噴き出した。美紀子はそれを見て、絵里香達に向かって叫んだ。
「危ない! ガスよ。みんな逃げて」
 叫びながら美紀子はガスを出している花を、ガスを避けるようにして花壇から素早く一株だけ抜き取り、あらかじめ用意していたビニール袋の中に入れて口を縛った。絵里香たちは美紀子の声を聞くや否や瞬間的に身をかわし、花壇から遠ざかった。
「みんな大丈夫?」
 美紀子がビニール袋に入れた花を持って絵里香たちの方へやってきた。
「畜生! ネオ‐ブラックリリーどこだ! 出てこい」
 聖奈子が男言葉で怒鳴ると、絵里香たちの周囲に戦闘員が姿を現した。さらにその後ろからはキノコ魔人も出てきた。
「待ちかねたぞ小娘ども。ここがお前達の墓場になるのだ」
「みんな! 変身して」
「エンジェルチャージ!」
 絵里香達は変身すると、奇声を発しながら襲ってくる戦闘員と格闘戦を始め、美紀子も絵里香たちと一緒に戦闘員と戦った。そこへキノコ魔人が割って入ってきて攻撃態勢をとった。
「喰らえ! 小娘ども」
 キノコ魔人の口から3人めがけて例の発狂ガスが吐き出された。
「危ない! みんな離れて」
 美紀子の叫び声に、絵里香達はそれぞれジャンプしてガスを避けた。
「絵里香。素手じゃ太刀打ち出来ないよ」
 美由紀の声に、絵里香は分かったという素振りを見せると、ブローチに手をあててブレードを出した。続いて美由紀もバトンを出し、聖奈子もソードとシールドを出して、向かってくるキノコ魔人に向かって身構えた。
「かかれっ!」
 キノコ魔人の声に、戦闘員が再び襲いかかった。絵里香は襲ってくる戦闘員をブレードでなで斬りにしながら、キノコ魔人に向かって駆け出した。そこへ後ろから戦闘員が襲ってきて、絵里香は振り向きざまブレードを振り下ろした。その瞬間、キノコ魔人は絵里香に近付き、発狂ガスを吐いた。絵里香は態勢を立て直す事が出来ず、まともにガスを浴びて、そのままその場に蹲った。それを見た美由紀が絵里香に駆け寄ってきた。
「絵里香。しっかりして」
「お前も食らえ!」
 キノコ魔人が再びガスを吐き、美由紀の体にもガスが浴びせられた。
「キャアーッ!」
 美由紀は絶叫し、絵里香と同じように喉を押さえて苦しみながら蹲った。
「ああっ… 」
 聖奈子がそれを見て大きな声を出した。そして蹲っている絵里香と美由紀のそばへ駆け寄っていった。
「絵里香、美由紀」
 聖奈子と美紀子が苦しんでいる2人のそばに駆け寄ったが、絵里香と美由紀は、聖奈子と視線が合うと、武器を手にして叫び声を上げながら聖奈子に襲いかかってきた。

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「お前を殺す!」
「殺してやるーッ!」
「絵里香、美由紀、やめて! 私が分からないの?」
 聖奈子は襲ってくる絵里香と美由紀を避けながら、絵里香と美由紀に向かって怒鳴った。
「(ダメだわ! ガスで脳神経をおかされている)」
「はっはっはっは! ざまぁ見ろ! 仲間の手にかかって死んでしまえ。最後まで見られないのは残念だが、我々は次の作戦があるのだ。あばよ!」
 キノコ魔人はそう言うと、戦闘員を伴ってその場から姿を消した。聖奈子が後を追いかけようとしたが、絵里香と美由紀に行く手を遮られた。2人とも目が据わっていて、武器を手にすごい形相で罵声を浴びせながら聖奈子に攻撃をかけてきた。
「死ねえーっ!」
「殺してやるうーっ!」
「やめて! 2人ともやめて」
 聖奈子は2人に向かって必死に叫んだが、絵里香と美由紀は武器を振り回しながら聖奈子に襲いかかってきて、ついに美由紀のバトンから流れる衝撃波をまともに受けてしまった。
「キャーッ!!」
 聖奈子はショックで飛び上がり、地面に叩きつけられて変身が解けた。さらに絵里香が倒れている聖奈子目がけてブレードを振り下ろした。聖奈子が瞬間的に身を翻したので、ブレードは聖奈子の首のすぐ横の地面に突き刺さった。
「いけない! このままでは三人とも危ない」
 美紀子はスティックを出し、絵里香と美由紀に向けて突き出した。先端から特殊な光線が発射され、光線を浴びた2人はその場で力が抜けたようになって倒れ、変身が解けてそのまま気絶した。
「聖奈子、2人を運んで! 急いで病院へ連れていくのよ」
「はい!」

 美紀子と聖奈子は気絶した2人を車に乗せると、急いで鷲尾平に戻り、病院に運び込んだ。病院では同じような経緯で運ばれてきた患者で一杯になっていて、すぐに検査を受けられる状態ではなかったが、何とか病室に入れることが出来た。
「どうしよう… 美紀子さん、このままじゃ2人とも… 」
「大丈夫! 絵里香も美由紀もエンジェルパワーを持っているのよ」
 美紀子に大丈夫だと言われたものの、もしこのまま回復しなかったらと思うと、聖奈子は不安だった。しかも今現在発狂ガスの解毒薬はないのだ。聖奈子が病室から廊下に出てきたところに、篤志がやってきた。美紀子が呼んだのである。

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「聖奈子さん、姉貴は?」
「今のところは何ともいえない。でも大丈夫よ。君のお姉さんはエンジェルパワーを持った正義のヒロインなんだから」
 篤志は聖奈子の話もろくに聞かず、あわただしく病室に入った。病室では絵里香と美由紀がベッドに横たわっていて、目を覚ましたときに暴れても大丈夫なように、厳重に身体を縛り付けられ、その横では美紀子が心配そうに立っていて、2人の様子を見ていた。篤志は美由紀のそばに駆け寄ると、美由紀の体を揺すりながら叫んだ。
「姉貴。姉貴! しっかりしてくれよ」
「篤志君落ちついて。美由紀は大丈夫だから」
 美紀子は狼狽している篤志を宥めるように言った。
「美紀子さん。姉貴は? 姉貴はどうなるの?」
 美紀子が返事をしようとした時、絵里香と美由紀が目を覚まし、大声を上げながら暴れ出し、廊下にいた聖奈子が騒ぎに気付いて中へ入ってきた。さらにたまたま居合わせた医師と看護士も一緒に入ってきて、医師は看護士に鎮静剤を持ってくるように指示した。
「絵里香、美由紀!」
「みんな、2人を押さえて」
 看護婦が鎮静剤を持ってきて、2人の腕に点滴の針が差し込まれ、ようやく絵里香と美由紀は静かになった。その様子を見て篤志はそばにいた医師に詰め寄った。
「先生! 助ける方法は無いの?」
 医師は静かに首を横に振った。
「助けようにも原因が分からないんで、今は鎮静剤で落ち着かせるしかないんだ。それに、同じような症状で何人もの患者が苦しんだり死んだりしているんだ」
 篤志は段々と怒りがこみ上げてきた。
「畜生! 姉貴をこんな目にあわせやがって… 絶対仇をとってやる!」
 篤志がそう言いながら病室を飛び出そうとしたのを、あわてて聖奈子と美紀子が止めた。
「篤志君、待ちなさい!」
「放せ! たのむ! 行かしてくれよ」
「馬鹿っ! 早まるな!」
 そう言いながら聖奈子は篤志の頬を叩いた。
「あんたが飛び込んでいったって、殺されるだけじゃないの! もっと冷静になってよ」
 篤志は泣き出した。それを見た聖奈子が泣いている篤志の両肩に手をかけて言った。
「篤志君、ねえ… とにかく落ち着こうよ。もう泣かないで。私のほうがずっと泣きたいのよ」
 会話の中に割り込むように、美紀子が話しかけてきた。
「聖奈子。私は今から篤志君を家まで送っていってから、またここへ戻ってきて、絵里香と美由紀の様子を見るから。聖奈子は今日のところは家に帰ってゆっくり休みなさい。今はあなた一人しかいないんだから、絶対に無茶しちゃダメよ」
「分かったわ美紀子さん。それより、解毒剤はどうなの?」
 聖奈子の問いに、美紀子は持っていたビニール袋を聖奈子に見せて言った。
「この袋の中にあるガスを分析すれば、解毒剤が作れるかもしれないわ。病院にも協力して貰うから、それまでの辛抱よ。聖奈子、一人じゃ大変だろうけど、あなたは戦うしかないのよ」
「分かってます美紀子さん」
 そう言ってから美紀子は篤志を促し、篤志を連れて病院を出た。聖奈子は美紀子が篤志を車に乗せて出て行くのを見届けてから、病院を出た。携帯の時計を見ると、既に8時近かったので、小走りに自宅へ向かった。

      *       *       *       *

 ネオ‐ブラックリリーのアジトでは、発狂ガスの効果にドクターマンドラが満足していた。なにしろエンジェルスの中の二人、エンジェルレッドとエンジェルイエローに発狂ガスを浴びせ、二人とも病院送りにしたのだ。この発狂ガスは即効性である傍らで揮発性が強く、すぐに消えてしまうので、証拠が何一つ残らない。そのために美紀子はガスにやられた人から、何の遺留物も取り出す事が出来なかったのだ。口から吐いた泡は勿論、血液中にも何の毒素も残っていなかったからだ。
「ドクターマンドラ。エンジェルスの小娘二人に発狂ガスを浴びせて、狂わせてやったぜ。やつらは病院送りだ。いずれは脳細胞がグチャグチャになって死ぬだけだぁ」
「でかしたぞキノコ魔人。しかし安心するのはまだ早い。小娘はまだもう一人残ってるのだ。それに、スカーレットエンジェルもいるのだぞ」
「そんな事分かってるぜ。もう一人を始末するのも時間の問題だ」
 その時スピーカーからクイーンリリーの声が響いた。
「よろしい。それでは、病院にいる二人の小娘を、即刻抹殺するのだ。もたもたしていれば、スカーレットエンジェルが解毒剤を完成させるかもしれない。急ぐのだ」
「かしこまりました。大首領様」
 ドクターマンドラは返事をすると、キノコ魔人の方に向き直った。
「キノコ魔人。聞いた通りだ。お前は次の作戦の前に、病院に送りこんだ二人を片付けてこい」
「おう! 行ってくるぜ。ビビビビヒーッ!」
 キノコ魔人は戦闘員を引き連れてアジトを出た。

 その日の夜中、一台の車が病院の前に停まり、中から数人の男が降りてきた。キノコ魔人と戦闘員が化けていたのだ。
「この病院だ。行くぞ!」
 男たちは病院に入ると、病室へ向かい、絵里香と美由紀がいる病室の扉を開けた。そしてベッドに寝ている二人を見つけると、ナイフを取り出して二人を何度も刺した。
「やったぞ! 小娘どもの最後だ」
 そう言いながらキノコ魔人は布団を剥がした。
「な、何!? どういう事だこれは!?」
 布団をはがしてみると、そこにいたのは二人ではなく、紐で縛って丸まった布団が置いてあるだけだったのだ。美紀子が事前に察知して、篤志を家まで送っていくふりをして、絵里香と美由紀の二人を別の病院に移していたのである。
 事の経緯はこうである。まず篤志を連れて一度病院から出た後、篤志を安全な場所で降ろして再び病院に戻り、絵里香と美由紀を病院から運んで自分の車に乗せ、篤志を降ろした場所まで戻って、篤志を乗せて家まで送ってから、絵里香と美由紀を自分が研究員をしている城北大学病院へ移したのである。美紀子にしてみれば、このままネオ‐ブラックリリーが黙っているわけがなく、必ず入院した二人を抹殺しに来るだろうと確信していたのだ。それを知らないキノコ魔人は、もぬけの殻の病室に入り込んでまんまとだまされたのである。キノコ魔人はベッドを蹴飛ばして悔しがった。
「クソッ! こうなったら街中の人間どもを皆殺しにしてやる」
 キノコ魔人は戦闘員を引き連れて病院を出ると、車に乗って走り去っていった。
「やっぱりやってきたわね… 二人を移しておいてよかったわ」
 病院の屋上から一通りの成り行きを見ていた美紀子は、ネオ‐ブラックリリーの車が去っていくのを見ながら呟いた。
「よし! 大学の研究室で解毒剤を作らなきゃ」
 美紀子はそう言うと、スティックを出して自分の頭の上で振った。すると光がシャワーのように美紀子に降り注ぎ、光が消えると美紀子の姿も消えた。

      *       *       *       *

 翌日は何事も起こらずに済んだ。ネオ‐ブラックリリーの動きもなく、絵里香と美由紀は美紀子の薬のおかげで、ある程度小康状態になり、命に関わるような事はなくなった。だが解毒剤はまだ研究中だったので、回復させるには至っていなかった。
 同じ日の夜、聖奈子が家に帰ると、真っ先に佳奈子が聖奈子のもとにやってきた。
「お姉ちゃんおかえり。晩御飯済ませたら、ママが話があるからリビングに来いって」
「分かった… 」
 聖奈子は制服のままで食堂へ行って夕食をとったが、不安でいっぱいで食事が喉を通らず、味も何も感じないまま夕食を終えると、母の祥子がいるリビングへ行った。聖奈子の母は名前を祥子といい(第一話参照)、星陵学園中等部の英語教師をしている。祥子はここ最近の聖奈子の行動に疑惑を抱いていたのだが、高校生ということもあり、ある程度のことまでは大目に見ていた。だが、あまりに不審な行動が多く、帰りの遅い日が多いので、ついに聖奈子を直接問いつめるという行動に出たのである。

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「聖奈子、最近変な行動が多いけど、まさかママに秘密で悪い事してるんじゃないでしょうね。」
「そんなことないよ」

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「じゃ、いったい何でこんなにいつも帰りが遅いのよ。納得するようにちゃんと説明してよ」
「…」
「何で黙ってるの?」
 聖奈子は、自分がエンジェル戦士で、ネオ‐ブラックリリーという秘密結社相手に戦っているなどと、とても言えなかった。言えるはずがない。言っても信じてもらえないだろうし、そんなことを話したら余計怪しまれる。それでも落ち着いた表情でゆっくりと口を開いた。
「今は言えない。でも、きっと後で必ず言うから。約束するから、だから今は何も聞かないで。ママお願い」
 祥子は聖奈子の目を見てしばらく考え込んでいたが、口を開いて聖奈子に言った。
「分かったわ。じゃ今は何も聞かないから。その代わり、当分の間あんたの門限を決めるわよ。午後6時までには絶対に家に帰ってくる事。もし破ったらお小遣いは無しで、あんたの携帯を取り上げるわよ」
「(エーッ!? そんなぁ…)」
 聖奈子はそう口から出かかったが、あえて抑えて黙って頷いた。
「聖奈子。分かったわね?」
「… … うん… 」
「それじゃおやすみ」
「おやすみなさい」
 聖奈子は自分の部屋へ入ると、制服のままベッドに仰向けになって天井を見つめた。
「(まずいなぁ… )」
 聖奈子は何を思ったのか、ベッドから飛び起きて携帯を取り出すと電話をかけた。
「もしもし… あ、美紀子さん? 実は… 」
 電話の相手は美紀子だった。美紀子は大学の研究室で発狂ガスの解毒剤を作っていて、あと少しで完成するというところまでこぎつけていた。そこへ聖奈子から電話が入ったのである。聖奈子は祥子に門限を言い渡され、困って美紀子に相談したのだ。
『え? 門限?』
 美紀子は聖奈子の話を聞きながら、一呼吸置いて返事をした。
『そうか… 午後6時以降は自由な行動が出来なくなっちゃったって事ね… 分かった。とにかく今の所はお母さんの言いつけに従うしかないわね。絵里香と美由紀もとりあえずは大丈夫だから、聖奈子は二人の事を心配しなくていいわよ。あとは私が何とかする。解毒剤ももうすぐ出来るから、そうすればやつらの作戦を阻止する事が出来るのよ』
「分かりました」
 聖奈子は話を終わると携帯を机の上に置いて、再びベッドに仰向けになった。一方の美紀子は、聖奈子との会話を終えると、一息入れるために研究室から出て、付属の病院へ向かった。絵里香と美由紀の様子を見るためである。研究室も病院も同じ敷地内にあったので、行き来は楽だった。美紀子は歩きながら考えた。
「(門限か… 聖奈子も災難だわ。でも仕方ないわね。しかし、聖奈子のお母さんって、どんな人なんだろう…? 確か、中学の先生だって言ってたわね… )」

      *       *       *       *

 その頃、ネオ‐ブラックリリーのアジトでは、作戦に失敗して帰ってきたキノコ魔人が、ドクターマンドラと話をしていた。
「何だと!? 小娘どもを始末出来なかっただと!?」
「ああ! 病院へ行ったら病室はもぬけの殻だったぜ」
「スカーレットエンジェルの仕業だな。我々の動きを察知して、別の病院に移したな」
「どうするんだドクターマンドラ。俺はあんな小娘どもと関わっているより、人間どもをもっともっとぶっ殺したいのだ」
「分かった分かった。あせるなキノコ魔人。あの小娘どもがいる限り、我々の世界征服作戦は進行がままならないのだ。従って作戦進行のためには、まず邪魔になるエンジェルスの小娘どもを抹殺しなければならない」
「なるほど… 」
「お前は残った小娘を誘い出すため、発狂ガスを使って派手に暴れろ。思う存分に人間を殺せ」
「分かったぜ。よーし! ビビビビビーッ」
 キノコ魔人は戦闘員を引き連れ、アジトを出ていった。

 翌日の昼下がり…
 城間市にあるパチンコ屋のビルの屋上に、キノコ魔人の姿があった。キノコ魔人は出来るだけ派手な殺戮作戦を行うため、人が比較的集まりそうな場所を攻撃の対象としたのだ。
「ビビビビヒーッ! よーし! 見ていろ。享楽にうつつをぬかしている愚かな人間どもめ」
 キノコ魔人は通気口のパイプに穴を開けると、そこから発狂ガスを流しこんだ。しばらくして店内全体に発狂ガスが流れこんで充満し、遊技をしていた客同士で殴り合いが始まった。さらに狂った数人の客が駐車場へ行って車に火をつけ、ガソリンに引火して駐車中の車が次々と炎上した。それだけでなく、発狂した客が車で店に突っ込んだりして、店内にも火災が発生し、大パニックになった。さらに店内から漏れたガスが付近一帯に流れ出し、周辺の人々がガスにやられて、大乱闘が始まり、付近一帯は阿鼻叫喚の巷と化した。
「大成功だ。ざまァ見ろ。愚かな人間どもめ。ビビビビビーッ! よーし。次の作戦地域へ向かうぞ。者ども続けぇーッ」
 キノコ魔人は周りにいた戦闘員を煽りながら、パチンコ屋の屋上から姿を消した。城北大学の研究室にいた美紀子は、事件を臨時ニュースで知った。
「まずい… ついに本格的な作戦行動に出たのね」
 美紀子は研究室を飛び出すと、付属の病院へ向かって走った。そして病院に着いて病室の扉を開けると、室内にいる絵里香と美由紀の様子を覗った。二人とも腕に点滴の針が刺し込まれ、静かに眠っていた。
「ダメだわ… まだ回復に時間がかかる」
 美紀子は発狂ガスの解毒剤を完成させ、絵里香と美由紀に投薬していた。そしてガスにやられた他の人達にも同じように、解毒剤による治療が開始されていた。
「とにかく聖奈子に連絡を入れなきゃ」
 美紀子携帯を取り出すと、聖奈子宛てに発信し、さらに詩織にも発信した。そして鷲尾平の事務所へ戻るため、駐車場へ行って自分の車のエンジンをかけた。
 その頃聖奈子は学校で授業中だった。発狂ガスによる乱闘事件(世間では発狂ガスの事は知られていない)は既に学校中に知れていて、ここ一週間はその話題が絶えなかった。生徒の中にも絵里香や美由紀同様、発狂ガスの犠牲者が数人いたからである。聖奈子の携帯に着信が入った。授業中だったので着信音はОFFにしてあったが、バイブにしてあったので、着信が入った事が分かった。しかしまだ授業中だったので、取り出して話をするわけにいかず、そのままにしておいた。程無くして詩織がやってきて教室の扉を少し開け、授業をしていた先生を呼んで、何か話しかけてから紙切れを渡した。それを見た先生は聖奈子のそばにやってきて、聖奈子に紙切れを渡した。
「清水さん。すぐに行って」
 聖奈子は何があったのか分からなかったが、机に出していた教科書やノートをバッグに入れると、席を立って教室から出た。廊下には詩織が待っていて、聖奈子に小声で話しかけた。
「美紀子から緊急の呼び出しよ。すぐに美紀子の事務所へ行って。それからその紙切れはこっちに渡して」
 聖奈子は一瞬血の気が引いた。絵里香と美由紀の身に何かあったかと思ったからだ。が、すぐに気をとり直して詩織に紙切れを渡して会釈すると、小走りに駆け出して学校を出て、美紀子の事務所へ向かった。聖奈子が事務所に着いた時には、美紀子は既に事務所に着いていて、聖奈子が来るのを待っていた。美紀子は聖奈子に事件の内容が書かれたメモ用紙を見せた。それを見た聖奈子は真剣な顔で美紀子を見た。

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「美紀子さん… 」
「やつらは今日だけで、これだけの事件を起こしているのよ。事件現場ではガスにやられた人たちが乱闘の末、みんな倒れて意識不明の重体。病院はどこもパンク状態よ。パチンコ屋やショッピングモールといった具合に、人が集まる場所を集中的に狙っているわ。これは明らかに私達への挑戦よ。大っぴらに事件を起こして私達を誘い出そうとしているのよ」
 聖奈子はメモを見ながら、空いている方の左手を強く握り締めた。今日だけで鷲尾平と城間のパチンコ屋が三箇所も襲われ、さらに西武台市にあるショッピングモールが壊滅している。
「どうしよう美紀子さん。絵里香と美由紀は?」
「解毒剤で治療中だけど、まだ回復まで時間がかかる。今は私達だけで何とかするしかないわ」
 聖奈子は時計を見た。美紀子はそれを見て、聖奈子が祥子に言われた門限を気にしていると察した。
「すぐに行くから支度して。お母さんに言われた門限の事なら気にしなくていいわよ。私が何とかするから」
「本当ですか? もし門限破ったら、お小遣い無しになって、携帯も取り上げられちゃうのよ」
「それは困ったわね… まあいいわ。とにかく早く支度して」
 聖奈子は美紀子に促されて外へ出ると、美紀子の車に乗った。
「ところで、やつらの事で何か分かったんですか?」
「まだ完全には分かってないわ。ガスの成分がようやく分かったから、解毒剤は完成したんだけど、アジトの場所は大体ってところね… 」
 美紀子は運転しながら、聖奈子の問いに答えていた。
「それで今から何処へ行くの?」
「城北大学の研究室。あなたにもしもの事があっても大丈夫なように、発狂ガスの解毒剤をうっておくわ」
 一時間ほどして車は東京にある城北大学に到着し、美紀子と聖奈子は車を降りると、小走りに研究室へ向かった。研究室に入ると、美紀子はカプセルにした薬と、点滴の道具を一揃い持ってきた。
「これを飲んで。それから点滴をするから、そこのベッドに横になって腕を出して」
 聖奈子は美紀子に勧められた薬を飲むと、点滴をするため、ベッドに横になった。腕に針が刺しこまれ、薬が聖奈子の体内に入り始めた。
「終わるまで一時間くらいかかるけど、ゆっくり休んでいて」
 美紀子はそう言うと、自分の机に座ってパソコンを操作し始めた。聖奈子は時間が気になったが、美紀子が何とかしてくれると言ったので、取り敢えずは安心してベッドに横になって点滴を受けていた。そのうちに眠くなり、聖奈子はそのまま寝入ってしまった。
「… … 子 聖奈子」
 聖奈子は自分を呼ぶ声に、薄っすらと目を覚ました。既に点滴の針は外されていて、自分の脇に美紀子がたっていた。
「起きて。早くしないと門限に遅れるわよ」
 聖奈子はベッドから飛び起きると、部屋の時計を見た。
「5時半すぎてる… 美紀子さん。もう間に合わない!」
「大丈夫よ。私は研究があるから一緒に帰れないけど、あなた一人だったらテレポートで送ってあげるわ。確か私の事務所からなら、あなたの家まで10分くらいだったわね?」
「は、はい」
「外だと何処に何があるか分からないから、私の事務所の部屋へ送るわ。そしたら事務所を出て家に帰りなさい。鍵はかけなくてもいいわ」
「分かりました」
 美紀子はスティックを出すと、スティックの先を聖奈子に向けて一振りした。すると眩しい光が聖奈子を覆い、光が消えた時に聖奈子は美紀子の事務所の応接室に立っていた。時間は自分が目を覚ましてから2~3分しか経過していなかった。聖奈子は応接室に置きっぱなしだった自分のバッグを持って帰ろうとした時、テーブルの上に置かれたメモ用紙が目に入った。さっき自分が見たものだったが、手にとって見てみると、裏には飛鳥山公園付近の地図のコピーがあり、その中に赤色で丸印をつけた場所があった。聖奈子は何かを思いついたが、時間が気になったので、メモ用紙を持って事務所を出ると、自分の家に向かって駆けていった。

 美紀子のテレポートのおかげで、聖奈子は何とか門限の前に帰宅する事が出来た。帰宅した聖奈子は食事を済ませると、自分の部屋で制服のままベッドに横になり、美紀子の事務所から持ってきたメモ用紙の裏にあった地図のコピーを眺めていた。地図上にある赤い印が目に焼き付いて離れなかったからだ。
「(この印はもしかしたら… やつらのアジトの場所なんだろうか。確か美紀子さんはアジトの場所は大体分かってるって言ってたけど… よし! 明日の朝早くここの場所へ行ってみよう)」
 聖奈子はベッドから飛び起きて着替えると、明日の準備を始めた。そこへ佳奈子が扉を少しあけて聖奈子に話しかけてきた。
「お姉ちゃん… お風呂沸いたよ。先に入る?」
「あ、ああ… 分かった。すぐ行く」
 聖奈子らしくない素っ気無い返事に、佳奈子は首を傾げたが、そのまま扉を閉めて自分の部屋へ行った。聖奈子は風呂に入るため、部屋を出て下へ下りていった。聖奈子の感は大体当たっていた。地図に書かれていた赤い印は、美紀子が飛鳥山公園で調べて書き込んだものに他ならなかった。ネオ‐ブラックリリーの作戦半径と行動範囲から、アジトの場所を大体割り出していたのである。

      *       *       *       *

 翌日の早朝、聖奈子はまだみんなが寝静まっているのを見計らって静かに家を出ると、自分のバイクを家から少し離れた場所までエンジンをかけずに押して歩き、大丈夫な場所まで来てからアクセルをふかして発進させた。だが、その様子を密かに祥子が伺っていることに気付かなかった。祥子は車庫に行って自分の車に乗ると、エンジンをかけて後を追うように発進した。
「この道は城間の方向だけど、それにしても聖奈子のやつ… 一体こんなに朝早くどこへ行くつもりなのかしら…」
 一方、自分の部屋で寝ていた佳奈子は、姉の聖奈子と母親の祥子が続けて外へ出ていったのに気付き、ベッドから飛び起きると美紀子の携帯に電話した。その頃美紀子は既に起きていて、大学の研究室へ出かけようとしているところだったが、携帯電話に着信が入ったので発信者を確かめた。
「(佳奈子… 聖奈子の妹さんだわ) もしもし… 佳奈子ちゃん。どうしたの? こんな朝早く。えっ? 聖奈子が? うん分かった」
 美紀子が電話を切ると、車庫から車を出した。
「聖奈子はきっと飛鳥山公園に向かったんだ。テーブルの上にあったメモが無くなっていたのは、そういう事だったのね。絵里香と美由紀が一緒ならともかく、聖奈子一人では危ない。助けに行かなきゃ」
 祥子は聖奈子のバイクを追い続けていた。聖奈子はバイクを走らせる事だけに夢中で、後ろから祥子がつけていることに全然気付いていなかった。祥子は聖奈子が城間市にある飛鳥山自然公園の方向へと向かっているのが分かり、運転しながら呟いた。
「随分遠くまで行くのね… こっちは飛鳥山の方向だけど、聖奈子ったら、朝早くからこんな所に何の用かしら」
 聖奈子は公園内に入ると、園内の駐車場にバイクを乗り入れ、バイクから降りるとそのまま走って公園の奥の方へ入っていった。少し遅れて祥子も駐車場に乗り入れ、車を降りた。
「よし! 何をしているのか調べてやる。もし悪い事してるんなら、とっちめてやるんだから。お小遣いなしにして、携帯も取り上げてやるわ」
 祥子は聖奈子の後を追うように公園の中に入っていった。その頃聖奈子は既に公園の中央広場付近まで達していた。
「あの地図の印からすると、きっとこの辺りにやつらの基地があるに違いない。絵里香と美由紀がいなくても… あたし一人だけでも、必ずネオ‐ブラックリリーの野望を阻止しなければ」
 一方、ネオ‐ブラックリリーは、中央広場のはずれにある展望台のそばにテレビカメラを仕掛けていて、既にアジトの内部では聖奈子が来たことを分かっていた。モニターに映し出された聖奈子の姿を見ながら、ドクターマンドラは不気味な笑いを浮かべた。
「ふふふ… ついにやってきたか小娘… まさに飛んで火にいる夏の虫だ。今度こそ始末してやる。いけ! キノコ魔人」
 キノコ魔人がアジトを出ようとした時、今度はモニターに祥子の姿が映し出され、キノコ魔人はモニターに映し出された祥子の姿をジーッと見ていた。
「何だこいつは・・ ふん… 早朝の散歩にでも来てるんだろう。まとめて始末してやる」
 キノコ魔人は戦闘員を引き連れてアジトから出ていった。その頃、聖奈子の後を追っていた祥子も中央広場の入り口に達し、広場の中にいる聖奈子を見つけた。
「あんなところで何してるのかしら。誰かと待ち合わせってわけでもなさそうだし… 」
 祥子は聖奈子に気付かれないように、広場にある東屋の一つに身を隠し、様子を伺っていた。一方の聖奈子は地図を見ながらアジトの場所を探っていたが、その時不意に戦闘員が現れて、聖奈子の周りを囲んで奇声を上げ、その背後からキノコ魔人が出てきた。それを遠目に見ていた祥子は目を丸くして驚いた。現実では信じられないような光景が、実際に自分の目の前に映し出されていて、しかも自分の娘が化け物や得体の知れない連中に襲われようとしている。だが、祥子は以前自分が同じような境遇に陥った時の事を思い出した。かつて祥子が聖陵学園高校の新任教師だった頃、得体の知れない連中に何度か襲われ、スカーレットエンジェルに助けられた事があったのだ。あの時と今の状況があまりにも似ていて、当時の自分の姿と聖奈子の姿がダブって見えたのだ。
「娘が危ない!」
 祥子は咄嗟に飛び出し、聖奈子の方へと向かっていった。聖奈子は襲ってくる戦闘員相手に、格闘戦で一人ずつ倒していったが、キノコ魔人が出てきて聖奈子に向かってきた。
「よく来たな小娘! お前も仲間と一緒に発狂ガスで狂ってしまえ」
 魔人の口からガスが放たれた。聖奈子は解毒剤を投与されていたので、ガスで発狂する心配は無かったが、戦士の本能であろう。間一髪でそれをかわした。そこへ戦闘員の投げた短剣が、態勢を崩していた聖奈子に向かって飛んできた。
「危ない聖奈子!」
 祥子は瞬時に聖奈子に抱きつき、そのまま地面に押し倒した。短剣は二人の頭上を通過し、反対側にいた戦闘員に突き刺さって、その戦闘員は呻きながら倒れた。聖奈子は起き上がろうとしたが、自分に飛び付いてきたのが母だと知ってびっくりした。
「ま… ママじゃないの。どうしてここへ」
「それはこっちが聞きたいわよ。あんたこそこんな朝早くからなんでこんな所にいるのよ。そんなことより、この連中は一体何なのよ?」
 聖奈子が返事をしようとしたところに、戦闘員が襲ってきて、聖奈子と祥子に組みかかってきた。聖奈子は母に組み付いた一人を殴り倒し、もう一人をハイキックで吹っ飛ばした。戦闘員と格闘する聖奈子の姿を見て、あっけに取られている祥子に向かって、聖奈子は大きな声で言った。
「ママ、早く逃げて!」
「何言ってるの。聖奈子こそ早く逃げなさい」
 聖奈子は母親の祥子を逃がしてから変身して戦おうとしたが、祥子と庇い会いになり、一人になれないでいた。母親の前で変身するわけにはいかないし、だからといってエンジェル戦士に変身しなければやられてしまう。既に二人は多数の戦闘員に囲まれてしまい、逃げる事も出来なかった。
「(ママの前ではエンジェルに変身できない… どうしよう)」
 だが、もはやそんなことを考えている余裕はなかった。ぐずぐずしていれば自分が危ないばかりか、母まで巻き添えにしてしまう。そこで聖奈子は思いきって祥子に向かって言った。
「ママ! あたし… 今から変身するけど驚かないでね」
「えっ?」
 聖奈子はそう言って祥子の前に立つと、戸惑う祥子を後目にポーズを取り、キーワードを叫んだ。
「エンジェルチャージ!」
 聖奈子の体が眩しい光に包まれ、祥子は眩しさに目を覆った。光が消えるとそこにはエンジェルに変身し、青いコスチュームに身を包んだ聖奈子の姿があった。祥子はそれを見てさらに驚いた。
「み、聖奈子… あんた一体… 」
「今は何も聞かないで! あたしが絶対にママを守るから」
 聖奈子は祥子を庇うような格好で、魔人と戦闘員に向かって身構えた。エンジェルになった聖奈子を見て、祥子はかつて自分が見たスカーレットエンジェルを思い出していた。
「(確か… こんな事が以前にあったような)」
「闇よりい出て世界を支配しようとする悪魔の手先! お前達の野望は絶対私が許さない! 私は美少女戦隊、水の戦士! エンジェルブルー!」

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「(聖奈子が正義の戦士… 私夢でも見てるのかしら)」
「ふん! 小癪な小娘、引導を渡してやる! かかれぇっ」
 戦闘員たちが奇声を上げながら聖奈子に襲いかかってきた。聖奈子はソードと楯を出すと、母の祥子を庇いながら戦闘員相手に格闘し、一人ずつ倒していった。が、キノコ魔人と多数の戦闘員に周囲をすっかり囲まれてしまい、一人では防ぎきれず、母を逃がすことすら叶わない状態になってしまった。
「ええい、しぶとい小娘だ! 発狂ガスを喰らえッ!」
 キノコ魔人が出てきて、聖奈子と祥子に向けて発狂ガスを吐き出した。聖奈子はガスの解毒剤を服用し、点滴も受けていたので、ガスに対する免疫があったが、祥子がガスを浴びれば、他の犠牲者同様発狂してしまう。
「ママ危ない!」
 聖奈子は祥子を庇おうとして、祥子の上に覆い被さった。ガスを吐き出したキノコ魔人はそのまま聖奈子に向かってきて、立ちあがろうとした聖奈子に殴りかかってきた。態勢が崩れていた聖奈子はキノコ魔人の攻撃を防ぐ事が出来ず、まともにパンチを食った。さらにキノコ魔人の蹴りが聖奈子を直撃し、聖奈子の体がボールのように跳ねて、そのまま地面に叩きつけられた。その時に足を挫いたのか、立ち上がろうとしたときに左足に激しい痛みを感じ、そのまま地面に倒れた。祥子が聖奈子の元へ駆け寄り、聖奈子の手を取って自分の肩に抱えながら叫んだ。
「聖奈子! しっかりして!」
「ママ… 早く・・ 逃げて」
「ふふふ… お前ら親子だったのか… ちょうどいいわい。親子共々二人まとめてあの世へ送ってやる。ビビビーッ」
 キノコ魔人がとどめを刺そうと近寄ってきたとき、稲光のような光が続けざまに降ってきて、周辺で立て続けに爆発し、キノコ魔人は爆発の衝撃で吹っ飛ばされて地面に叩きつけられた。
「ぐう… だ、誰だ」
 キノコ魔人が立ちあがると、キノコ魔人と、聖奈子、祥子との間に割って入るように美紀子が立っていた。
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「お前はスカーレットエンジェル!」
「美紀子さん… 」
「危機一髪だったわね。もう大丈夫よ」
「どうしてここへ」
「佳奈子ちゃんが知らせてくれたのよ。それにあなた昨日、私の所から地図のコピーを持ってったでしょ。あなたの事だから一人だけでもここへ来ると思っていたのよ」
「美紀子って… あなた紅林… 紅林さんじゃないの」
 祥子が驚いた顔で美紀子を見た。
「先生久しぶりです。先生が聖奈子のお母さんだったんですか?」
「紅林さん危ない! 化け物がこっちに来るわ!」
 祥子は美紀子の問いに答える前に、向かってくるキノコ魔人と戦闘員を指差して叫んだ。美紀子は向かって来る戦闘員の方を向くと、スティックを空に掲げて振り下ろした。衝撃波が戦闘員に次々と命中し、殆どの戦闘員が吹き飛ばされて消滅した。キノコ魔人にも命中していたが、吹き飛ばされて地面に叩きつけられても、たいしたダメージを受けておらず、立ちあがって再び攻撃態勢をとっていた。
「おのれ! スカーレットエンジェル」
 一方の聖奈子はさっきの戦いでキノコ魔人にやられ、左足を挫いた痛みのため、一人で立ち上がれないでいた。その聖奈子を庇うように、祥子は聖奈子が落としたソードを拾い、向かってくるキノコ魔人に切っ先を向けて威嚇した。

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「来い化け物! 娘の代わりに私が相手をするわ」
「ダメよママ! 生身の人間じゃ勝ち目が無いわ」
「何言ってるのよ。あなた怪我してるじゃないの。私はあなたの親なのよ。親が我が子を守るのは当たり前じゃないの!」
「ダメだってば!!」
 聖奈子は祥子に飛びつくと、祥子の手首をつかんで、持っていたソードを取り、祥子の前に立って両手に持ってキノコ魔人に向かって身構えた。
「あうっ!!」
 同時に聖奈子は挫いていた足の激痛に悲痛な声を上げ、そのままバランスを崩したが、後ろにいた祥子が聖奈子を支えた。
「しっかりして! 私も一緒に戦うから」
 祥子は聖奈子の手の上から自分の手をあてがって握り締めた。
「聖奈子。私がささえていてあげるから頑張って」
 聖奈子は祥子の方を向くと、無言で頷いた。
「ええい。目障りな奴らだぁ! お前ら皆殺しにしてやる。俺はまだまだ人間どもをぶっ殺したいのだ」
「何てやつなの!? 絶対に許せない。化け物! お前こそくたばれ」
 聖奈子は啖呵をきりながらソードを空に向けてかざした。
「ママ… 絵里香、美由紀… 私に力を貸して」
 そう言いながら聖奈子はソードをキノコ魔人に向けて突き出した。
「アクアトルネード!」
 エネルギー波が渦になってそのままキノコ魔人に向かって伸びた。聖奈子は足を挫いていたので、踏ん張りがきかず、トルネードの衝撃に耐えられずに反動で吹っ飛ばされそうになったが、祥子が聖奈子を支えた。
「聖奈子頑張って!」
 トルネードの渦は誘導されるように魔人を追い、そのまま魔人を包み込んだ。キノコ魔人は渦の中で絶叫と共に大爆発し、木っ端微塵に吹っ飛んだ。その後には早朝の静寂さの中で、挫いた左足の痛みを堪えながら、祥子に支えられている聖奈子が立っていた。聖奈子は武器を収納して変身を解くと、足の激痛に耐えられず、そのまま地面に膝をついた。
「聖奈子、大丈夫? しっかりして」
「ママーっ」
 いつもは勝ち気で男勝りの聖奈子だが、緊張の糸が切れたのか、そのままそばにいた祥子の胸に飛び込んで泣きじゃくった。その光景を見ながら美紀子は祥子に話しかけた。
「お久しぶりですね先生。お願いがあるんだけど、どうかこの事は秘密にして欲しいんです」
「秘密にしてくれって言ったって、こんな事喋ってもきっと誰も信じないわ。私だってまだ信じられないのよ。自分の娘があなたと同じエンジェルとかいう戦士で、こんなとんでもない連中相手に戦っていたなんて… でも、戦士として戦うなら絶対途中で投げ出して欲しくない。そんなことをするなら私は絶対に娘を許さない。聖奈子、分かったわね?」
 聖奈子は母の胸から離れると、大粒の涙を溜めた瞳で祥子を見据え、そのまま無言で首を縦に振った。
「それから聖奈子、絵里香と美由紀はもう大丈夫だから、安心していいわよ」
 美紀子の話を聞いた聖奈子は、ホッとしたのか、そのまま祥子にもたれかかった。
「聖奈子、しっかりして。駐車場まで歩ける?」
「大丈夫。何とか歩ける」
 足を挫いた聖奈子は、美紀子と祥子に支えられながら駐車場まで行った。
「先生、いや清水さん、私はこれから聖奈子を連れて大学病院へ行きますから」
「はい。それじゃ私も一緒に行きます」
 美紀子は自分の車のエンジンをかけ、祥子は聖奈子を自分の車に乗せ、美紀子が発進した後を追うように車を発進させた。祥子は助手席に座っている聖奈子に言った。
「バイクはお前が全快したらここへ取りに来なさい。それまでは公園の管理事務所の人に頼んで預かってもらうから。それから、門限は解除してあげるわ」
「分かったわママ。ありがとう。それから… 今まで黙っててごめんなさい」
「もういいわ。お前が何をしているのか分かったし、悪い事してたんじゃなくてホッとしたわ」
「うん」
 城北大学病院に向かって二台の車が走り続けた。

      *       *       *       *


 ブラックリリーの全国発狂作戦は、絵里香と美由紀が傷ついたものの、聖奈子の奮戦で打ち砕かれて挫折を余儀なくされた。だが、ブラックリリーの大幹部、ドクターマンドラは既に次の作戦の準備を着々と進め、その刃を研いでいるのだ。負けるな! 頑張れエンジェルス!

                                               (つづく)



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 次回予告
 ◎第12話『伝説の鏡』

 ネオ‐ブラックリリーはドクターマンドラが発明した『人間を吸いこむ特殊カメラ』と、強奪してきた『ナルキッソスの鏡』とを合体させた『マンドラミラー』をドラゴン魔人に装着し、マンドラミラーが発する高エネルギーを送電線や配電線を通じて、全国の家電製品を爆発させ、日本全国を火の海にしようと企む。阻止行動に出たエンジェルスだったが、ドラゴン魔人を倒せば、マンドラミラーの中に吸い込まれた人たちも死んでしまうという事を知り、手を出すことが出来ない。しかも吸い込まれた人たちの中には佳奈子もいた。エンジェルスはどう戦うのか・・・

 次回 美少女戦隊エンジェルス第12話『伝説の鏡』にご期待ください。


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テーマ : ライトノベル
ジャンル : 小説・文学

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