鷲尾飛鳥

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第23話『五人目のエンジェル?』

2012年 08月14日 08:51 (火)

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「美紀子、開店おめでとう」
「おめでとう!」
「みんなありがとう」
 九月の某日… 美紀子の事務所では、事務所のスペースを改築して喫茶店『ANGEL』が開店した。今日はその開店記念のセレモニーが店内で行われていた。セレモニーには、美紀子の友人の詩織は勿論、後輩の園子も同席し、誠人と久美子の夫婦もやってきた。学校帰りの絵里香たちも帰宅する前に立ち寄り、制服姿での参加となった。美紀子の姪の佐緒里は学校があり、また養父の源太郎も海外にいるために来る事が出来ず、ともに祝電を送ってきた。また、美紀子の高校時代の友人である明美と圭子もやってきた。

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 美紀子はこの時のために調理師の資格を取り、また栄養士の資格も取っていた。その話を聞いた絵里香たちは、セレモニーのざわめきの中で口々に美紀子の事を呟いていた。
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「しかし… 美紀子さんって、何でもやるんだね」
「確か… 大学で研究室を持ってて、人間工学だか生体物理学の博士号があって… 」
「うん… そうだね。他にも私立探偵だったり、昔はスカーレットエンジェルだったり… 」
「こら! そこの三人! 何をブツブツ言ってるの?」
 詩織がやってきて絵里香たちにジュースを差し出した。
「あ… 先生。ありがとう」
 詩織には絵里香たちの雑談が聞こえていたらしく、絵里香たちの間に割って入って話を続けた。
「美紀子はね、自分のやる事に対して、すごく一生懸命なのよ。だから、博士号を取るために大学の研究室に入ったり、今日のこの日のために資格を取ったりしてるの。私立探偵の事だって、源太郎叔父さんが立ち上げた事務所を守るために、美紀子は一生懸命になって探偵の事を勉強したわ。君たちの事だってそうよ。ネオ‐ブラックリリーと戦う君たちのために、美紀子は誰よりも君たちの事を考えてくれてるんだよ。この喫茶店を開業したのだって、君たちがもっと気軽にここに来れるようにって、美紀子が配慮してくれた事なのよ。あたしが美紀子から、この事務所を喫茶店にしたいって相談された時は、最初は反対したんだけどね。でも、ここは美紀子が叔父さんから譲られて、美紀子の持ち物になったんだし、あたしも美紀子の気持ちがよく分かってるから、最後は美紀子の考えに賛同したの」
「そうだったんですか… 美紀子さん、あたしたちのために」
 涙もろい聖奈子が瞳を潤ませて言った。詩織はさらに続けて話した。
「そういう事だから、これからも頑張ってね」
 そう言って詩織は絵里香たちのそばを去っていって、美紀子の会話の中に入っていった。

 セレモニーが終わって、騒がしかった店内は静かになった。絵里香たちはそれぞれ自分の家に帰り、参加した人たちも次々と帰っていって、店内には美紀子と詩織だけが残った。
「しかし… ずいぶん雰囲気が変ったね」
「ゴメンね詩織。せっかく源太郎さんが残しくれた事務所なのに」
「何いってんのよ。ここはもう美紀子のものなんだから。美紀子が自由にして良いんだよ。源太郎叔父さんだって 絶対喜んでくれてるって。だからこうして祝電までくれたじゃないの」
そう言って詩織は一通の手紙を差し出した。源太郎は美紀子のためにヨーロッパから国際祝電を送ってくれていたのだ。
「… ありがとう。詩織」
「水臭いよ。あたしたち親友じゃん。今回もそうだったけど、困った時はいつだって相談しなよ」
そう言って詩織は席を立った。
「それじゃあたしも帰るね。頑張って」
 詩織はそう言って帰っていった。

      *       *       *       *

 それから三日後の夜… 今の時間は午後9時頃である。住宅地では殆ど人影が無く、防犯灯は点灯しているものの、明かりの届かないところは暗くて不気味だった。今、この暗い住宅地の中を足早に帰宅を急いでいる一人の少女がいた。少女の名は白川麻里といって、佳奈子の友人である。彼女は塾の帰りで、途中まで佳奈子と一緒だった。佳奈子と別れて一人になってから、暫くして誰かにつけられている事に気付いた。立ち止まって振り返ってみても何の気配もないのだが、歩き出すと自分とは違う靴の音が聞こえてくる。

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 今歩いている道路の少し先には十字路があり、右に曲がったところに建築資材の置かれた空き地がある。怖くなった麻里は十字路で曲がると、ダッシュするように走って空き地に入り、資材の影に身を隠して息を潜めた。すると、後ろから誰かが走ってきて、麻里が隠れている資材置き場のそばの道路上で立ち止まり、辺りを伺っていた。暗がりでよく見えなかったが、どうやら男性で、自分のことを捜しているような仕草だった。『痴漢・ストーカー…』麻里はあれこれと想像し、震えながらその様子をジッと見ていたが、突然自分の後ろの方で物音がして、麻里はビクッとした。複数の人影が自分の隠れていた資材置き場の脇を走って通り越していき、道路に出ると男を取り囲んだ。
「な、何だお前ら!? お、俺に何の用だ。俺は今忙しいんだ。あっちへ行け」
「そうはいかん! お前はこれから我がネオ‐ブラックリリーが作り出した細菌の実験台になるのだ。チュチュチューッ!」
 そう言いながらネズミ魔人が現れ、ネズミ魔人を見た男は驚いて大声を上げた。
「ワーッ! か、怪物!!」
「大人しく実験台になれ!」
 ネズミ魔人は口から液体を吐き出して男に浴びせた。
「ギャアーッ!」
 男は悶え苦しみながら白い水蒸気のような煙を上げて、10秒位で白骨になってしまった。仁王立ちになっているネズミ魔人を月明かりが照らしたとき、麻里は叫びそうになった口を押さえた。
「実験は成功だ。骸骨はここへ置いておくとまずい。回収しろ」
「ヒャイィーッ!」
 戦闘員たちが道路に散らばった骸骨の回収を始めた。麻里は身を竦めてガチガチと震えながらその成り行きを見ていたが、積まれていた資材に肘があたり、その物音を聞いたネズミ魔人は資材置き場の方を向いた。
「ん? 誰だ!?」
 ネズミ魔人が麻里の方へ向かって行こうとした時、猫が飛び出してきてネズミ魔人の横を走り抜けていった。
「ちっ! 猫か…」
 戦闘員の一人がネズミ魔人の元にやってきた。
「ネズミ魔人様。骸骨の回収が終わりました」
「よし! 引き揚げだ。チュチュチューッ」
 魔人と戦闘員が完全に姿を消したのを見届けて、麻里は道路に出ると一目散に駆けて自宅に戻り、玄関の扉を開けて中に入ると、そのまま二階の自分の部屋へ駆け上がり、自分の部屋に入るとそのまま布団の中に潜り込んだ。心配した母親が上がってきた。
「麻里、帰ってきたなら“ただいま”くらい言いなさい。どうするの晩御飯は? 麻里… 麻里、どうしたの!?」
 さっき空き地で見た光景が焼き付いていた麻里は、あまりの恐怖に母親の言葉など全然耳に入っていなかった。しかも現場に生徒手帳を落としていて、後日それを戦闘員に拾われ、その事が後々麻里に降りかかる災難の第一歩になったのだ。

      *       *       *       *

「実験は大成功です。ドクターマンドラ様」
 アジトに戻ってきたネズミ魔人は、細菌の人体実験が成功した事をドクターマンドラに報告した。ネオ‐ブラックリリーは、今度はペスト菌を改良したバイオ細菌『ネオペスト』を使った人類絶滅作戦を計画していた。このネオペストに冒された者は、瞬時に高熱を発し、悶絶しながら体中から水蒸気を上げて、たちまち体が溶けて骨になってしまうのだ。ドクターマンドラはネオペストを上空から撒き散らす事によって、一気に人類に感染させて絶滅させようとしていた。
「よろしい。ネズミ魔人。早速お前を今回の細菌作戦の責任者に任命する」
「チュチュチューッ! 光栄でございます。お任せくださいドクターマンドラ様」
「このネオペストをアドバルーンに詰めて空へ飛ばし、上空から日本中の至るところにばら撒いてやる。人間どもはみなネオペストに冒され、悶え苦しみながら白骨になってしまうのだ。ハーッハッハッハッハ! ネズミ魔人、直ちに作戦の準備にかかれ」
「チュチュチューッ!」
 その時スピーカーから大首領の声が響いた。
「ドクターマンドラ、必ず成功させるのだ。 この作戦はお前への最後通牒だ。今度失敗したら、お前の命はないものと思え!」
「ははーっ! 大首領様。今度こそ… 今度こそ必ず成功させてみせます」
 その時、大首領との会話を終えたドクターマンドラの元に戦闘員がやってきた。実験を行ったのが夜であったため、ドクターマンドラは朝になって明るくなったのを見計らい、戦闘員を現場検証と残務処理に向かわせていて、それらを終えた戦闘員たちが戻ってきたのである。
「ドクターマンドラ様。昨日の実験現場を調べてきたところ、このような物が近くに落ちていたので拾ってきました」
 そう言って戦闘員は麻里が落とした生徒手帳を差し出した。
「何だこれは!?」
 ドクターマンドラは生徒手帳を開いて眺め、一番後ろのページにある麻里の写真を見た。
「中学校の生徒手帳か…  ひょっとすると、この写真の小娘に昨夜の現場を見られたのかもしれん。ネズミ魔人!」
 ドクターマンドラはネズミ魔人を呼びつけた。
「チュチュチューッ! 何ですかドクターマンドラ様」
 ドクターマンドラは、戦闘員が拾ってきた手帳をネズミ魔人に突きつけた。
「これは誰かが落としたものだ。きっと昨夜あの場所に目撃者がいたに違いない。作戦の秘密を知られてはまずい。直ちに行動を起こし、写真に写っている目撃者を消せ!!」
「ははっ! かしこまりました」

      *       *       *       *

 翌日… 土曜日の午後・・・ 聖奈子はANGELに来ていた。店ではまだ従業員を雇っていなくて、美紀子が一人でやっていた。たまたま客が一人もいない状態だったので、美紀子は聖奈子と雑談していた。そこへ絵里香が入ってきた。
「こんにちは」
「いらっしゃい絵里香」
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 絵里香が来たので、美紀子は立ち上がってカウンターに入った。聖奈子は絵里香の服装を見て、いつもと雰囲気が違うのに気付き、立ち上がって絵里香をジーッと見つめた。
「どうしたのよ聖奈子。そんなにジロジロ見て」
「絵里香こそどうしたのよ。珍しくミニスカートなんか履いて、それにお化粧までして」
「うん… ちょっとね」
「そっか! もしかして… 愛しの彼氏君とデートなんだ」
 絵里香は聖奈子からズバッと言われて顔を赤くした。
「聖奈子、そんなんじゃないって」
「いいじゃない。別に照れる事無いじゃん」
 絵里香はそれ以上何も言え無くなってしまった。が、それでも思い出した事を聖奈子に言った。
「それより聖奈子、美由紀は?」
「美由紀?」
「うん。一昨日風邪ひいたって言って学校休んでるでしょ? あれから何も分からないのよ。携帯も全然つながらないし… 聖奈子何か知ってる?」
「あたし昨日電話したのよ。そしたら美由紀の携帯に篤志君が出て、篤志君も一緒に風邪で寝てたんだって」
「えーっ!? あそこ両親が北海道に行ってて二人だけじゃないの。それでどうなったの?」
「篤志君の方はもう治ったんだけど、美由紀はまだダメだって。あたしこれから美由紀のところにお見舞いがてら様子を見に行こうと思ってんのよ」
 その時店の扉が開き、孝一が入ってきたので、聖奈子がからかうように絵里香に小声で言った。
「絵里香。愛しの彼氏君が来たわよ」
 入ってきた孝一はあたりをキョロキョロと見まわしていた。絵里香は右手を上げて孝一を呼んだ。
「黒川君! こっちだよ」
 孝一は絵里香の方を向くと、絵里香の傍にやってきた。孝一は絵里香のスタイルをジーッと見て顔を少し赤くした。聖奈子がそれを見てからかうように言った。
「黒川君… だっけ。絵里香の事よろしくね」
「あ… ああ」
 孝一は素っ気無い返事をすると、再び絵里香を見た。そこへ美紀子がコーヒーを持ってきてテーブルの上に置くと、椅子を少し引いて絵里香と孝一を促した。
「二人とも。突っ立ってないで座りなさい。ほら、コーヒー入れたからゆっくりしていきなさい」
 絵里香と孝一はお互いの顔を見合って同時に頷くと、椅子を引いて座った。

 美紀子はお盆を小脇に抱えながら、隣のテーブルの聖奈子に聞いた。
「聖奈子、美由紀風邪で寝てるんだって?」
「そうなのよ。篤志君の話だと今日も寝てるんだって。それに妹の佳奈子まで風邪ひいちゃって… 風邪が流行るにはまだ早いと思うんだけど… 」
「美由紀さんのとこ… あそこ御両親が今家にいないんでしょ? 何だか心配だわ」
「私これから様子を見てくるよ。えっと… 今何時かな」
 聖奈子はふと時計に目をやると、椅子から立ち上がった。
「そろそろあたし行くわ」
 そう言うと聖奈子は店を出て、外に停めておいたスクーターにまたがった。絵里香が後を追ってきた。
「もっとゆっくりしていけばいいのに」
「今から行かないと、帰りが遅くなるから。それより絵里香、デートすっぽかしちゃダメだよ」
そう言いながら聖奈子はエンジンキーを回し、アクセルをふかすと発進して走り去った。

鷲尾平からスクーターに乗って城間まで来た聖奈子は、美由紀の家に着くと玄関のベルを押したが、誰も出てくる気配が無い。ドアのノブに触れると、鍵がかかっていなかったので、聖奈子はドアを開けて玄関に入った。
「美由紀、いるの? 上がらせてもらうよ」 
すると二階の方から物音がして、美由紀が寝間着姿で咳をしながら階段を降りてきた。熱で顔が赤っぽく、口は大きなマスクで覆っている。聖奈子はそんな美由紀の姿を見て、呼ぶべきではなかったと後悔した。
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「美由紀… 起こしてごめんね。大丈夫? ほら… 部屋まで連れてってあげるから」
 聖奈子は胸まで肌蹴た寝巻きのボタンをとめてやり、美由紀をささえながら階段を上がって、美由紀の部屋へ連れていくと、そのままベッドに寝かせた。机の上にあった体温計は、38度7分の目盛を指していた。
「相当辛そうだね。とにかく寝ていた方が良いよ」
「ありがとう聖奈子… ゴメンね」
「謝る事無いじゃん。あたし達親友なんだから、困った時はお互い様だよ。それより篤志君は?」
「薬を買いに行ってる。あの子はもう治ったのよ。私だけまだ… ゴホンゴホン」
「ゴメンね起こしちゃって。これ差し入れ。早く良くなってね」
「ありがとう」
 聖奈子は近くのコンビニで買ったお菓子と飲み物を美由紀に差し出すと、そばにあったティッシュをとって鼻をかんだ。
「私も風邪ひいたみたい… 何だか寒気がする…」
「気をつけてよ聖奈子」
「うん分かった。美由紀もお大事に。篤志君によろしくね」
 聖奈子はそう言って美由紀の家を出ると、ちょうど戻ってきた篤志と鉢合せした。
「こんにちは。聖奈子さん、お見舞いに来てくれたんですか?」
「うん… お姉さん相当辛そうだね」
「そうなんだ。今朝熱計ったら39度越してたんだよ。僕はもう治ったんだけど」
「それじゃ篤志君またね」
 聖奈子はスクーターに乗ろうとしたが、急に寒気が襲ってきて体がよろけ、篤志が慌てて聖奈子を支えた。
「大丈夫!? 聖奈子さん、そのままジッとしてて」
 聖奈子の顔が熱っぽいのを見た篤志は、聖奈子の額に手をあてた。
「聖奈子さん、熱あるよ。ちょっと待ってて」
 篤志は買い物袋の中から、買ってきたばかりの風邪薬を開けると、聖奈子に渡した。
「今水持ってくるから待ってて」
 篤志は急いで家に入ると、コップに水を入れて出てきた。
「飲んで」
「ありがとう」
 聖奈子は水と一緒に薬を飲むと、そのままスクーターにまたがって発進し、自分の家に向かって帰途についた。

      *       *       *       *

 その頃、昨夜事件があった空き地では、麻里が佳奈子と一緒に生徒手帳を探していた。
「無い… 何処へ落としたんだろう… 佳奈子、あった?」
「ダメ。見つからないよ。ねえ、麻里、本当にここなの」
「うん… だと思う」
 その時、麻里と佳奈子に一人の男が近づいてきて、2人に一冊の手帳を差し出した。
「お嬢ちゃん達、捜し物はこれかい?」
 麻里はその手帳を見て、自分の生徒手帳だと分かった。
「そ、そうです」
「そこに落ちていたんだよ」
 そう言って男は資材が積まれている場所を指さした。麻里は生徒手帳を受け取ろうとしたが、男はそれを拒むような仕草をしながら麻里に聞いた。
「ところで… 昨日の夜、ここで何かを見たかね? 例えば誰かが殺されたとか… 」
 その一言で麻里の顔色が変ったのを、男は見逃さなかった。
「ふふふ… 見たんだな、小娘… チュチュチューッ」
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 男そう言いながら奇声とともにネズミ魔人の姿になった。
「キャアーッ! 嫌あーっ」
 麻里が叫んだ。佳奈子はとっさに麻里の腕をつかむと、一目散に走り出した。
「くそっ! 逃すな。追えッ! 捕まえろ」
 ネズミ魔人が叫ぶと、何処からとも無く戦闘員が現れて、逃げる佳奈子と麻里を追った。逃げていた麻里と佳奈子は、巡回中のパトカーを見つけ、パトカーを止めて助けを求めた。
「助けてください! ネズミのお化けに追われているんです」
「何だって? 君たち! いたずらはダメだよ」
「本当なんです」
「馬鹿なこと言っちゃいかんよ。そんなお化けなどいるわけ無いだろう。いたずらなどしていないで早く帰りなさい」
 パトカーが走り去ってしまい、途方に暮れている二人の背後から魔人が迫ってきた。
「くそう… 何処へ逃げやがった… 探せ! 捜すんだ!」
 ネズミ魔人はそばにあった塀をガンガン叩きながら戦闘員を急かした。その塀の裏側には二人が隠れていたのだが、ネズミ魔人は気付かなかった。ネズミ魔人と戦闘員が去った後、佳奈子と麻里は全身をビクビクさせながら塀越しに道路を見た。すると、ネズミ魔人たちが去っていった方向と逆の方からスクーターが走ってくるのが見えたので、二人は道路に飛び出した。
「きゃっ! 危ない!」
 聖奈子は急ブレーキをかけ、スクーターは運良く二人の前で止まった。
「何してるの。危ないじゃないの!」
「助けて! 助けて!」
「佳奈子じゃないの。どうしたの? 顔が真っ青よ」
「あ… お姉ちゃん、お化けが… ネズミの化け物が…」
「えっ? ネズミの化け物?  分かった! ちょっと待ってて」
 聖奈子は携帯を取り出して美紀子と絵里香に『緊急信号』を送った。
「キャーッ! お姉ちゃん」
 佳奈子が突然叫んだ。振り向いた聖奈子は思わず息を呑んだ。去っていったはずのネズミ魔人が戦闘員を伴って戻ってきたのだ。
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「飛んで火に入る夏の虫だな。エンジェルの小娘。捜す手間が省けたぜ。チュチュチューッ!」
「佳奈子! 友達を連れて早く逃げて!」
 聖奈子は二人を守ろうとして身構えたが、風邪熱のため、立ち眩みに襲われて身体がよろけた。が、それでも逃げる佳奈子と麻里を庇うように、追いかけようとする戦闘員の前に立ち塞がった。戦闘員が聖奈子に襲いかかり、聖奈子は襲ってくる戦闘員と格闘したが、風邪熱のために体が思うように動かなかった。戦闘員の別の一隊は聖奈子を無視して、逃げる佳奈子と麻里を追った。ネズミ魔人は聖奈子に組み付き、立て続けに顔や腹を殴りつけて、蹴りをお見舞いした。聖奈子の体は蹴りの反動でボールのように跳ね、道路脇のガードレールに叩きつけられた。聖奈子はもうグッタリしていて、とても立ち上がることが出来なかった。ネズミ魔人は聖奈子めがけて攻撃ポーズをとった。
「小娘! お前の最後だ。ネオペストを浴びて地獄へ落ちろ」
 そう言ってネズミ魔人は口から液体を噴射し、聖奈子の体にまともに降りかかった。
「キャーッ!」
 聖奈子は叫び声とともに身体から白い煙を吐き、そのまま気を失った。
「チュチュチュチューッ! ざまァ見ろ!」
 ネズミ魔人は聖奈子を仕留めたと思い、聖奈子が骨になったのかどうか確認しないで、そのまま踵を返してその場を去った。暫くすると戦闘員が佳奈子と麻里を捕まえて戻ってきた。
「ネズミ魔人様。小娘どもを捕らえました。いかがしますか?」
 ネズミ魔人は事件現場を見た麻里の顔を見た。麻里は既に顔面蒼白の状態で、体はガタガタと震え、恐怖のあまり声も出せなかった。
「我々の秘密を知った以上、この場でぶっ殺したいところだが、こいつらは案外利用出来そうだ。アジトへ連行する。連れていけ!」
 ネズミ魔人は勝ち誇ったように戦闘員に指示して意気揚々と引き上げた。

      *       *       *       *

 少し時間を溯って、聖奈子が携帯で緊急信号を送った頃、ANGELのカウンターにいた美紀子は携帯に着信が入ったのを見て、携帯を開いた。
「緊急信号… 聖奈子からだわ」
「ええっ!?」
 絵里香は反射的に立ちあがり、同時に向かい合って座っていた孝一の顔を見た。孝一は嫌そうな顔をしたが、すぐに表情を変えて言った。
「赤城、またやつらが出たのか?」
 絵里香は黙って頷くと、美紀子の方を見た。美紀子は小走りに絵里香の方へ駆け寄って来た。孝一は立ちあがると、絵里香と美紀子に言った。
「俺も連れていってくれないか?」
「え? で… でも… 」
 美紀子は困ったような顔をしたが、孝一は続けて言った。
「俺… 今の赤城の事全然知らないんだよ。だから、赤城の事をもっと知って、赤城が何のためにエンジェルスの戦士をやってるのか、自分が納得出来るまで見届けたいんだ」
「黒川君… 」
 絵里香は何か言おうとしたが、美紀子が遮るように孝一に言った。
「分かった! それじゃ黒川君も一緒に来て」
 美紀子は絵里香と孝一に店の戸締りをするよう促すと、外へ出て車を取りに車庫へ向かった。
「黒川君、行こう」
 絵里香と孝一は店の戸締りをして、室内の電源を切ると外へ出た。美紀子が車を出してきて、絵里香と孝一は美紀子に促されるように車に乗り、美紀子は二人が乗ったのを確認すると車を発進させた。美紀子の車はANGELを出発して15分ほど走り、事件があった場所に到達した。
「信号の発進場所はこのあたりだわ」
 三人は車から降りると、周囲の様子を眺めた。孝一が道路わきのガードレールの傍に倒れている聖奈子を見つけた。
「赤城、紅林さん! こっちへ来てくれ」
 美紀子と絵里香は孝一の方へ駆けてきた。
「聖奈子!」
 絵里香は叫んだが、聖奈子の体中に付着している白い粉のようなものを見て、触ろうとしたのを躊躇った。
「二人ともちょっと下がって!」
 美紀子は絵里香と孝一に後ろへ下がるよう促し、倒れている聖奈子に付着していた夥しい量の白い粉を見て、持ってきた小型ケースにそれを入れた。
「美紀子さん、この白い粉… 何ですか?」
「分からない。帰って調べてみるわ。とにかく聖奈子を運ぶわよ」
 三人がかりで聖奈子を持ち上げて、道路まで運び、美紀子は後ろのドアを開けて聖奈子を座席に座らせると、絵里香と孝一に向かって言った。
「絵里香、もう少し手がかりになりそうな物を捜すわよ。黒川君も協力して。何かを見つけても絶対に触っちゃダメよ」
「はい」
 しばらくして孝一が白い欠片のような物を見つけ、美紀子を呼んだ。
「紅林さん、これ… もしかして骨か何かじゃ」
 孝一が指さした欠片を見て、美紀子は小さく頷くと、手袋を嵌めてハンカチで用心深くその物体を包み、別のケースに入れた。
「みんな、長居は無用。ひとまずここから引き揚げるわよ」
 美紀子は全員が乗ったのを確認すると、車を発進させて事件現場から引き揚げた。

      *       *       *       *

 ネオ‐ブラックリリーのアジトでは、ドクターマンドラが満足げにネズミ魔人の報告を聞いていた。聖奈子にネオペスト細菌の液体を浴びせ、倒したと聞いたからだ。
「でかしたぞ。ネズミ魔人。エンジェルスの小娘の一人を仕留めたか。ふっふっふ。さすがのエンジェルスの小娘もネオペストで御陀仏か」
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「ははっ! 今頃は間違いなく骨になっていることでしょう」
「嘘よ! お姉ちゃんが死ぬわけ無いわ。必ず私達を助けにきてくれるんだから」
 佳奈子はドクターマンドラとネズミ魔人をキッと睨みつけながら大きな声で言った。
「黙れ小娘! お前の姉は俺様のネオペストを浴びて死んだのだ」
 そう言ってネズミ魔人は佳奈子を突き飛ばし、突き飛ばされた佳奈子は後ろにいた戦闘員に受け止められた。ドクターマンドラは勝ち誇ったかのように言った。
「第2作戦の開始だ。アドバルーンと起爆装置の準備が整った。ネオペストが満載されたアドバルーンを空に飛ばしてしまえば、この作戦は終了する。人類絶滅もそう遠くはないのだ。こいつらは作戦開始の時、アドバルーンのそばに繋ぐのだ。エンジェルスの小娘どもとスカーレットエンジェルがこの二人を助けにきた所を一網打尽にしてやる」
 ドクターマンドラは佳奈子と麻里を指差しながら捲し立てると、戦闘員に向かって命令した。
「この二人を作戦開始まで地下牢に繋いでおけ」
「かしこまりました」
 戦闘員達は佳奈子と麻里を引きずるようにアジトの地下牢へ連れていき、牢の中に入れると扉を施錠した。麻里はもうダメだと言わんばかりに佳奈子にしがみついて泣きじゃくり、佳奈子は麻里を宥めた。
「大丈夫だよ麻里。必ずお姉ちゃんたちが助けに来てくれるから」

      *       *       *       *

「二人とも、悪いけど少し付き合ってくれる? 私はこれから大学の研究室へ行くから」
「はい。いいです」
「俺も良いですよ」
 美紀子はANGELに戻らず、絵里香と孝一、気絶したままの聖奈子を乗せたまま城北大学へ向かった。一時間ほど走り続けて、車は城北大学の構内にある駐車場に到着し、美紀子は車から降りると付属病院に電話した。暫くすると白衣姿の病院の職員が担架を持ってやってきた。
「申し訳無いけど、この子を私の研究室に運んで」
「分かりました」
 職員は聖奈子を担架に乗せると、担架を持って美紀子の研究室へ向かった。
「二人ともついてきて」
 美紀子は絵里香と孝一を促し、研究室へ向かった。研究室へ着くと、美紀子は部屋の鍵を開け、まず聖奈子を窓際にあるベッドに寝かせると、聖奈子を運んできた病院の職員を呼んで言った。
「もしかしたら入院させる事になるかもしれないから、その時はまた連絡するわ」
「分かりました。それでは失礼します」
 職員が去っていって、美紀子は絵里香と孝一を部屋に入れた。
「そのへんに適当に座って。椅子はあそこにあるから」
 絵里香と孝一は折りたたまれた椅子を持ってきて広げると椅子に座った。美紀子は実験器具のようなものを棚から取りだし、手際よく机の上に並べて準備していた。そして持ってきた骨の欠片と白い粉をトレーの上に置いた。美紀子は一通りの準備を終えると、白い粉と骨の欠片からそれぞれサンプルを作り、電子顕微鏡のスイッチを入れた。横にあるモニターに拡大されたサンプルが映し出され、美紀子は絵里香と孝一を促した。二人はモニターに映った物体を眺めた。
「美紀子さん、これは?」
「ペスト菌…  そして骨は人の骨よ」
「何だって!? 人間の骨… 」
「ペスト菌?」
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 絵里香と孝一が驚いたような声をあげた。美紀子はさらに続けた。
「ペスト菌のようだけど、良く見ると少し違うわ。もしかすると、やつらが作り出した新型細菌よ。私の見たところでは、この細菌は人の体を溶かして骨だけにしてしまうだけの威力があるのよ」
「細菌に冒されただけで骸骨になるなんて… 奴らこんな恐ろしいものを… 」
「そ、それじゃ… もしこんなのが蔓延したら… 」
 絵里香も孝一も、美紀子の話を聞いて背筋が寒くなった。美紀子は今度はもう一つのサンプルである、聖奈子の体についていた白い粉を調べた。モニターを見た美紀子は首を傾げた。
「美紀子さん、どうかしたんですか?」
「これは今見た新型細菌の死骸だわ。聖奈子についていた白い粉は細菌の死骸なのよ」
 美紀子は一呼吸置くと、椅子を回して絵里香と孝一の方に向いて言った。
「こういう事が推測出来るわ。やつらは聖奈子に細菌を浴びせた。しかし聖奈子には細菌が効かず、全て死んでしまった… 」
「どういう事? まさか… 聖奈子が特異体質ってわけじゃないし」
「聖奈子の血を採血して調べてみるのが一番ね」
 美紀子はそう言うと注射器を取りだし、聖奈子の腕に刺して採血した.そしてそれをサンプルにして電子顕微鏡で調べた。モニターを見て美紀子は何かが閃いた.
「これだわ!」
「何か分かったんですか?」
 美紀子は返事をせずに、新型細菌のサンプルに聖奈子の血液を混ぜてみた.するとたちまちサンプルが変質し、白い粉になった。絵里香と孝一はそれを見て、お互いの顔を見合った。美紀子はモニターの中の一角を指差して言った。
「これは風邪のビールスよ。きっとこの細菌は風邪のビールスが弱点なんだわ。聖奈子は風邪をひいていた。きっと美由紀の風邪がうつったと思うんだけど、まさに不幸中の幸い。聖奈子は風邪をひいていたために助かったのよ。これならワクチンと抗生物質がすぐに作れるわ。絵里香、今度は私達がネオ‐ブラックリリーに反撃する番よ」
「はい!」
 絵里香は不安が払拭されて、元気のいい返事をした。それから一時間くらいして、美紀子はこれまでにない早さで抗生物質を作り出していた。時計は午後九時を回っていた。
「ゴメンね二人とも。すっかり遅くなっちゃったわね。私はこれから今作った抗生物質をチェックして、さらにワクチンも作らなければならないから、あなた達を一旦鷲尾平まで送っていくわ。駐車場へ行って待ってて」
「聖奈子は?」
「今日はここに泊まってもらう。家の方へは私から電話しておくわ」
 そう言いながら美紀子は絵里香に車のキーを渡すと、点滴の道具を用意して、聖奈子の寝ているベッドのそばに置いた。絵里香と孝一は研究室を出て駐車場へ向かった。
 絵里香と孝一が駐車場に着いて車のドアを開け、乗りこんでから5分くらいで美紀子がやって来た。美紀子は運転席に座るとエンジンをかけて発進させた。夜なので比較的道路が空いていたため、30分くらいで鷲尾平の市内に入った。美紀子は駅の北側にある住宅地まで絵里香と孝一を乗せ、絵里香の家の近くで二人を下ろしてから絵里香と孝一に言った。
「絵里香、私はまた大学の研究室へ戻るから、何かあったら電話して。明日の午前中までには戻ってくるわ」
「分かりました」
「それから、孝一君。私達のことはくれぐれも内緒にして」
「分かってます。赤城と約束したから、絶対秘密は守ります」
「それじゃ」
 そう言うと美紀子は車を発進させた。美紀子の車が去ってから、二人は絵里香の家の前まで行き、そこで立ち止まった。二人は立ち止まったまま同時にお互いの顔を見た。とっさの事で二人とも何を言ったらいいのか分からなかったが、まず絵里香が切り出した。
「黒川君、さっきの話… 」
「え?」
「私の事… いやエンジェルの事をもっと知りたいって。納得出来るまで見届けたいって言ってたじゃない」
「ああ… その事か」
「あっけらかんと言わないで! 私達の事に関わったら、黒川君が危ないよ。だからそんな事しないで。ネオ‐ブラックリリーは恐ろしい組織なんだよ」
「何言ってんだよ。俺もう関わってんだぜ。確かに俺はお前と一緒にやつらと戦うのは無理だよ。でも… そうじゃない時、お前の傍にいてやりたいんだ。お前の事守ってやりたいんだよ」
 孝一が真顔で言うので、絵里香は何かがこみ上げてくるのを感じた。
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「赤城! いや… 絵里香、俺じゃダメか?」
 絵里香は無言のまま首を横に振ってから、笑顔を作って孝一の顔を見た。孝一も絵里香が何を言いたいのか分かったらしく、それ以上は何も言わなかった。
「それじゃ赤城。俺の家はこっちだから」
「うん… 送ってくれてありがとう」
 絵里香は孝一と別れてから、急に両目から涙が溢れてきた。堪えても涙が止まらなかった。玄関を開け、自分の部屋に入ると、そのままベッドにうつ伏せになって声を押し殺すように泣いた。絵里香は孝一の思いが嬉しかったのと、自分がそれに応えられない悲しさとが、ごっちゃになっていたのだった。

      *       *       *       *

 次の日の朝8時頃、絵里香の携帯がけたたましく鳴った。ベッドに横になっていた絵里香は飛び起きて携帯を見た。
「(美紀子さんだ…) もしもし絵里香です」
『絵里香? 抗生物質とワクチンが完成したわ。もう大丈夫よ。それから、聖奈子も気が付いたからもう大丈夫。熱も平熱になったわ』
「そうですか… 」
『私は今から聖奈子と一緒に戻るから、時間に合わせてANGELへ行って』
「はい」
 絵里香は電話を切ると、すぐに着替えて出かける用意をした。準備が整って家の外へ出ようとした時にまた携帯が鳴った。画面を見ると、見た事の無い番号だった。
「(誰だろう… )  もしもし… 篤志君か。どうしたの? … ええっ? 美由紀が!? うん… それで? うん… うん… 分かった。篤志君、とにかく落ちついて」
 そこで電話が切れた。
「もしもし! もしもーし ダメか… 」
 絵里香も電話を切った。
「まずいな… 美紀子さんに電話… えーと… 」
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 絵里香は美紀子のアドレスをひっぱりだして、今度は美紀子に電話をした。が、運転中らしく、電話がつながらない。絵里香は電話を切ると、急ぎ足でANGELへ向かった。
 篤志の話だと、昨日の夜聖奈子の母親から美由紀宛に電話がかかってきたのだが、美由紀が出られないので篤志が代わりに応対したという。そこで聖奈子と佳奈子が家に帰ってこないという事を聞き、篤志は美紀子に電話をした。その時ネオ‐ブラックリリーが絡んでいる事が原因だと分かり、その話が美由紀に聞こえて、美由紀は今日の朝早く、置手紙をして家を出ていったとのことだった。篤志の話だと美由紀は体がフラフラで39度近い熱があるらしい。
「今の美由紀じゃ、かえって足手まといになっちゃう。とにかく会ったら家に帰さなきゃ」
 絵里香がANGELに着くのとほぼ同時に美紀子の車も到着した。聖奈子が下りてきて、絵里香の元に駆け寄ってきた。
「絵里香、心配かけてゴメンね」
「別に謝る事無いよ。それより体は?」
「もう大丈夫! まだちょっと体がだるいけど、美紀子さんのワクチンで大分良くなったよ」
「聖奈子、とにかく中に入ろう」
 絵里香は扉に『準備中』の札を掲げると聖奈子を促して中に入った。その間に美紀子は車を車庫に入れ、裏口から入ってくると、立っている絵里香と聖奈子に言った。
「二人とも座って」
 美紀子に促され、絵里香と聖奈子は椅子に座って、美紀子も座った。
「絵里香、さっき私の携帯に着信があったけど、何だったの?」
「篤志君から電話で、美由紀が家を飛び出してこっちへ向かってるって」
「ええっ!?」
「篤志君もこっちへ来るって言って、それで電話が切れたのよ」
「あの子… 熱があるのに」
「それから美紀子さん、佳奈子ちゃんが友達と一緒にやつらに捕まっているかもしれないの」
「えっ!? 絵里香、それ本当なの?」
 聖奈子がビックリしたように言ったが、絵里香は話を続けた。
「昨日の夜、聖奈子のお母さんから二人が帰ってこないって電話があったのよ」
「私にも電話があったわ。それで私の所にいるって言ってごまかしたんだけど… 」
「佳奈子たち… 逃げ切れなかったのか。あたしが風邪なんかひかなかったら、二人を助けられたのに」
 聖奈子は悔しそうにテーブルを叩いた。
「聖奈子落ちついて。風邪ひいてたからやつらの細菌で骨にならずに済んだだから」
「ちょ… ちょっと絵里香、細菌って、何それ!??」
「私が説明するわ。聖奈子、あなたはまだ知らないけど、ネオ‐ブラックリリーはペスト菌を改良したバイオ細菌で人類絶滅を狙ってるのよ。おそらく佳奈子ちゃんとその友達が、何かの偶然でやつらの秘密を知ったんだわ」
「そうか… それであの時… でも、あたしはそれを浴びたのに、こうしてここにいる」
 聖奈子は細菌を浴びたのに自分が無事である事について、狐に化かされたような気分になっていた。美紀子はさらに続けた。
「聖奈子は風邪をひいていたから助かったのよ。私が調べて分かったんだけど、やつらが開発したバイオ細菌は風邪のビールスが弱点なのよ」
「そう言う事か… 」
「それより美紀子さん、佳奈子ちゃんたちを助けなきゃ」
「やつらの今までの手口からすると、捕らえた二人を利用して私達をおびき出そうとするに違いない。それまでは絶対に殺さないわ」
 その時店の外で突然ガタンという音がして、みんな入り口の方を向いた。
「何だろう…??」
 絵里香は席を立つと、小走りに出入り口へ行き、扉の鍵を開けた。
「美由紀! ちょっと… しっかりして」
 声を聞いて聖奈子と美紀子も駆け寄ってきた。美由紀は熱で顔を真っ赤にし、意識が朦朧としていて、立っている事すらままならない状態だった。
「美由紀を寝室に運ぶから手伝って」
 美紀子は絵里香と聖奈子に手早く指示して、絵里香と聖奈子は美由紀を二階の寝室に運んでベッドに寝かせた。美紀子は点滴用の道具を持ってきて、美由紀の腕に注射針を刺し、抗生物質入りの容器を取りつけた。
「これで大丈夫。さ、下へ行くわよ」
 絵里香は一階へ下りると、出入り口へ言って扉に手をかけた。その時店の前にタクシーが止まり、篤志が下りてきて、入り口の所にいた絵里香に勢いよくぶつかった。
「キャッ!」
 絵里香は篤志にぶつかられた反動で尻餅をついた。
「あ… 絵里香さんごめんなさい。姉貴は… 姉貴は!?」
「落ちついて。お姉さんは二階で寝てるから」
 篤志は絵里香の案内で二階へ行き、美由紀が寝ているのを見て安心したように下へ下りてきた。
「篤志君も座って。今コーヒー入れるから」
 みんなが座ったところで、美紀子はコーヒーを入れて持ってきて、テーブルの上に置いた。
「とにかく今は、やつらの出方を待つしかないわ」
 その時店の電話が鳴った。

「はい。ANGEL… えっ?」
 暫くの間美紀子は黙って相手の話を聞いていた。そして話が終わったらしく、美紀子は受話器を置いて絵里香たちがいるテーブルまで戻ってきた。
「やつらからの電話よ。やっぱり佳奈子ちゃんたちは捕まっていたわ」
 絵里香達は一斉に立ちあがった。
「みんな落ちついて! やつらは今日の正午キッカリに細菌を詰め込んだアドバルーンを飛ばすと言ってきたわ。場所は大洋ビルの屋上よ。佳奈子ちゃん達もきっとそこにいる」
「大洋ビルか… 鷲尾平で一番高い建物だわ。正午って事は、あと二時間ってとこか」
「美由紀が風邪で寝込んでいるから、今回は私が代わりに行くわ」
「しかし、わざわざ場所を教えてくるなんて好都合だわ。よしっ! 奴等はあたしが死んだと思っているから、そこをうまく利用できるわ。それと… そうだ!」
 聖奈子はカウンターのそばに置いてあった大きめの紙袋を見てから、何かを思いついたらしく、篤志の方をジーッと見た。その紙袋は一昨日聖奈子と佳奈子がここに来たとき、帰る時に佳奈子が忘れていったものだった。篤志は聖奈子に見つめられ、顔を赤らめながら聖奈子に言った。
「な、何ですか聖奈子さん」
「篤志君、君の協力がどうしても必要なの。ちょっと付き合ってくれる?」
「え? 付き合うって?」
「絵里香も一緒に来て。美紀子さん、応接間借りて良いですか?」
「え? 良いけど… 」
 聖奈子はカウンターのそばにあった紙袋を持ってから、篤志の手をつかむと、篤志を引っ張るように応接室の方へ行き、絵里香もその後をついていった。
「篤志君座って」
 応接間に入ると、聖奈子は篤志を座らせて、紙袋を開けて中身を取り出した。絵里香は何だそれはと言った顔で中身を見た。聖奈子は中から黄色いコスチュームを出すと両手に持って絵里香に言った。
「これ… 佳奈子が作ったのよ。佳奈子のやつ、最近コスプレに凝ってて、今度の文化祭でコスプレショーをやるんだって。それであたしたちエンジェルスのコスを作ったのよ。これはエンジェルイエローのコス」
「佳奈子ちゃん確かチアリーディング部だったよね」
「そう。クラブで参加するらしいんだけど、今テレビアニメで放映中の『ウエスタンプリキュア』っていうヒロインのコスまで作っていたわ」
 絵里香はそこまで話を聞き、聖奈子が何をしようとしているのか分かった。
「まさか聖奈子… これを篤志君に?」
「ピンポーン! 篤志君は美由紀に顔が似てるし、まだ声変りしていないし、女の子みたいな顔してるから似合うよ」
「これで何しようっていうのよ。まさか篤志君をエンジェルイエローに仕立てて一緒に連れていくつもりなの? ダメだよ! 危ないよ」
「だから篤志君を絵里香にフォローしてもらうのよ。絵里香が一緒なら大丈夫」
 絵里香は溜息をついた。話を聞いていた篤志は、自分がこれからどうなるのか悟った。
「ちょ… ちょっと聖奈子さん! それを僕に… 」
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「あたし達を助けると思って協力して。あとで好きな物おごってあげるから。お願い。お願い!」
「わ。分かったよ。それじゃ協力する」
 篤志は当然嫌がったが、聖奈子に拝まれて渋々女装することにした。聖奈子は篤志の前にコスチュームを置くと、紙袋の中からコスチュームと同色のアンダースコート、そして肌色のパンストや、ブラジャー、ショーツまで次々と出した。
「それじゃ着替えてくれる?」
「お姉さんたちの前で?」
「そっか… それじゃ後ろ向いてるから、着替えたら言って」
 そう言って聖奈子は絵里香とともに篤志に背を向けた。篤志は女顔のせいか、小学生の頃に女装させられた事があり、学芸会で女役をやったこともあった。しかし、それはやらされていた事であって、自分から進んで女装した事はなかった。が、協力すると言った手前、着替えるために服を脱ぎ始めた。しかしショーツを履いたところで、ブラジャーの着け方が分からず、恥を偲んで聖奈子を呼んだ。
「聖奈子さん… あの… お願いが」
「どうしたの?」
 聖奈子は篤志がブラジャーを持っていたのを見て、篤志が何を言いたいのか分かった。
「後ろ向いて。手伝ってあげるから」
 絵里香も聖奈子と一緒に篤志の着替えを手伝い始めた。ブラジャーを着けてから聖奈子はパッドを篤志に渡して、ブラジャーのカップの中に入れるよう言った。篤志は言う通りにパッドをブラジャーの中に入れた。すると胸が締め付けられたような感じになって、女の子の胸のようになった。次に聖奈子はパンストとアンダースコートを渡した。
「爪を引っ掛けないようにしてね。パンストをはいたら次はこれ」
 篤志はパンストを履き、続いてアンダースコートを履いて、エンジェルイエローのコスチュームを着けた。
「驚いた… 篤志君似合ってるじゃん」
 聖奈子が感心したような顔をしていると、絵里香が小さな箱を持ってやってきた。
「篤志君座って」
 絵里香は篤志を座らせると、篤志の顔に化粧を始めた。
「終わるまでジッとしててね」
 絵里香は篤志に一通りの化粧を施すと、篤志の髪を整えて、羽飾りのついたヘアバンドを着け、首に黄色いマフラーを着けた。
「これで完璧。鏡見て」
 そう言って絵里香は篤志の前に鏡を置いた。
「え… これが僕… ??」
 篤志が鏡に映った自分の姿にウットリしていると、美紀子が声をかけてきた。
「あなた達何してるの?」
「すみませーん。今行きます!」
 絵里香が返事をし、聖奈子は篤志を促した。篤志は最後にブーツを履いて、絵里香と聖奈子に連れられ、美紀子の前に出た。
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 美紀子は篤志の姿を見て目を丸くして驚いた。篤志の格好があまりにも似合いすぎていたからである。
「可愛い… まるで本物のエンジェルイエローだわ。と… あなた達、篤志君に女装させて一体何を始めるつもりなの?」
「篤志君に美由紀の代わりをしてもらうの。実はとっておきの作戦があるのよ」
 篤志はこれから何が始まるのかという不安感と、着ている服への違和感とが交錯していた。ブラジャーが胸を、ガードルタイプのアンダースコートが下半身を、そしてパンストが脚をそれぞれ絞め付けていて、さらにブーツのヒールが高いため、歩くとフラフラ不安定になって転びそうになるし、中が見えそうなくらいの超ミニスカートには特に強い抵抗があった。だが、絵里香と聖奈子の2人に拝まれるようにお願いされた篤志は、我慢して絵里香たちの作戦に乗ることにした。
「絵里香、とっておきの作戦って何なの。ちゃんと説明してちょうだい」
「はい。じゃ、みんな集まって」
 美紀子に説明を求められた絵里香は、みんなを集めて作戦の説明を始めた。

      *       *       *       *

 大洋ビルの屋上では、ネズミ魔人と数人の戦闘員が作戦の準備をしていた。ネオペストを満載した数組のアドバルーンが用意され、いつでも空へ飛ばすことが出来るようにロープで固定された。アドバルーンの本体から20m位のワイヤーが出ていて、その端には細菌が入ったカプセルと起爆装置が取りつけられており、そこから10mくらいのロープがつながり、ロープの末端は屋上の床の上に固定され、そこからケーブルが伸びてそれぞれ佳奈子と麻里を拘束している手枷足枷と接続していた。誰かが二人を助けようとして拘束を解くと安全装置がはずれ、アドバルーンを固定しているロープが自動的に外れて、アドバルーンが空に舞い上がる仕掛けになっていたのである。佳奈子と麻里は身体を拘束された上に、喋れないように猿轡を噛まされていた。

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「ふふふ… この小娘どもの拘束を外そうとすれば、自動的にアドバルーンが空へ上がり、どこまでも飛んでいくのだ。さあ早く来いエンジェルスの小娘ども! 人類の平和を守るエンジェルスが、その瞬間に全人類の敵になるのだ。チュチュチューッ」
 そう言いながらネズミ魔人は佳奈子の頭をこづいた。
「ん・・ んーッ!!」
 佳奈子は声を出して体を捩らせたが、口を塞がれていて声が出せず、両手に嵌った鉄枷がガチャガチャと音を立てるだけだった。
「ネズミ魔人様。正午まであと30分です」
「やつらはまだこないのか?」
「イィーッ! まだです」
「早くこい小娘ども。お前の仲間たちが助けを求めているぞ。チュチュチューッ」
 しかし、ネズミ魔人も戦闘員も、既に美紀子と絵里香たちが来ている事にはまだ気付いていなかった。美紀子と聖奈子はテレポートで、ネズミ魔人らが到着する前にビルの屋上に着いていて、給水タンクの陰に隠れて様子を覗っていた。
「奴等らしい卑劣な手口だわ。絶対に許せない!」
 様子を伺っていた聖奈子が呟き、そばにいた美紀子が聖奈子に耳打ちした。
「聖奈子、作戦通りに事を進めるのよ。あなたは死んだと思われているから、奴らも油断しているわ。絵里香と篤志君が乗り込んだら作戦開始よ」
「オッケー」
 一方、絵里香と篤志は気付かれないようにビルの中を通って最上階まで行き、そこから非常階段を屋上目指して上っていた。篤志は慣れてないブーツに何度もバランスを崩し、風でめくれるスカートを気にしながら絵里香の後をついていった。
「え、絵里香さん… 少し休ませてよ」
「あんた男でしょ。しっかりしなさいよ」
「そんなこと言ったって… 歩きにくいしスカートはめくれるし」
 屋上に到達した2人は、屋上にいる魔人や戦闘員から見えないように、物陰に身を潜めた。注意深く観察してみると、魔人と戦闘員、そして縛られている佳奈子と麻里の姿が映った。絵里香は篤志の方に向き直り、あらためて作戦の内容を話した。
「いい? 篤志君。君の役目は魔人と戦闘員を引きつけるための囮よ。魔人の吐き出す細菌液は美紀子さんのワクチンと抗生物質を接種したから、浴びても心配しなくていいわ。それに私がついているから、絶対君を危険な目には遭わせない。私のことを信じて。くれぐれもやつらとの距離を保って、絶対に接近しちゃダメよ」
「うん。分かった。絵里香さん」
「さあ、行くわよ篤志君」
 篤志は物陰から飛び出すとネズミ魔人の方へ向かって走り、ある程度の距離に達したところで立ち止まって、ネズミ魔人に向かって叫んだ。
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「や、闇よりい出て世界を征服しようとする悪魔の手先! お前達の野望はおれ… 私たちが打ち砕いてやる…わ ! 私は正義の戦士、エンジェルイエロー!」
「ふん! 小癪な小娘! お前の仲間は既に私の細菌に冒されて死んだのだ。お前も死ね!」
 ネズミ魔人は捲し立てると、奇声を上げながら走ってきて、篤志に向けて液体を吹きかけた。篤志は紙一重の差で液体をかわしたが、ブーツのヒールを引っかけて転け、尻餅をついた。
「いててて… 」
「小娘、引導を渡してやる」
 転けた篤志に向かってネズミ魔人が走って近づいてきた。そこへ篤志の後ろから出てきた絵里香がネズミ魔人に飛び蹴りをお見舞いし、ネズミ魔人はその反動で一回転して屋上の床に転がった。絵里香は篤志の手を取りながら言った。
「私がやつらを引きつけるから、篤志君はその隙に佳奈子ちゃんたちを助けてあげて」
「分かった」
「者どもかかれっ!」
 ネズミ魔人はムキになって、戦闘員とともに絵里香と篤志に向かってきた。絵里香が戦闘員と格闘して引きつけ、その隙を覗って篤志は素早く佳奈子と麻里のほうへ向かって走った。それを見て美紀子が聖奈子に向かって言った。
「チャンスよ! 聖奈子、行くわよ」
「オッケー!」
 美紀子と聖奈子は物陰から飛び出し、聖奈子はソードを持って構えるとアドバルーンめがけてエネルギー派を放った。
「アクアトルネード!」
 エネルギー波が渦状になって次々とアドバルーンを包みこみ、氷漬けになったアドバルーンが屋上の床の上に落ちてきた。美紀子は落ちてきたアドバルーンのロープを踏みつけて浮き上がらないようにしてから、細菌が詰め込まれたカプセルに抗生物質を次々と注入した。
「これでもう大丈夫だわ!」
 一方の聖奈子は佳奈子と麻里の方へ走り、二人の拘束を解いていた篤志を手伝った。
「お姉ちゃん! 怖かったよぉーっ」
 佳奈子は聖奈子に抱きついたが、聖奈子は佳奈子をすぐに引き離した。
「佳奈子離れて! 麻里ちゃんを連れて美紀子さんのところへ行って」
 続けて聖奈子は美紀子に向かって叫んだ。
「美紀子さん、二人をお願い」
 佳奈子と麻里は篤志と一緒に美紀子に向かって走り、聖奈子は絵里香の援護のため、絵里香の方へ向かった。戦闘員の一人がネズミ魔人に向かって叫んだ。
「ネズミ魔人様! 大変です。アドバルーンが」
 ネズミ魔人はアドバルーンを見た。既に美紀子が全てのカプセルに抗生物質を注入していて、ネオペストは全て死滅していた。
「お前達の作った細菌は全滅したわ! もはやこれまでよ。覚悟しなさい!」
「おのれ! よくも我々の作戦を台無しにしたな!」
 ネズミ魔人が地団太踏んで悔しがっているところへ聖奈子が上空から急降下してきた。
「エンジェルキック!」
 キックを喰らったネズミ魔人は反動で叩きつけられ、聖奈子の姿を見て動揺した。
「ば、馬鹿な… どうして… お前は死んだはず… 」
 聖奈子は自分の脚を少し上げてさらけ出すと、ネズミ魔人に向けて怒鳴った
「残念でした。ちゃんと足はあるわよ。お前達の作った細菌は、もう誰にも効かないのよ。この細菌は風邪のビールスに弱いことが分かったのよ。お前に液体をかけられたとき、あたしは風邪をひいていたから死なずにすんだの! 今度はてめぇの番だ! 私達エンジェルスが引導を渡してやるから覚悟しやがれ!」
「お、おのれ小娘! 地獄の道連れにしてやる」
 魔人は聖奈子に向かって突進してきて、聖奈子と取っ組み合いになった。病み上がりだった聖奈子は次第に体力を消耗し、ネズミ魔人のパンチを喰らって体勢を崩して倒れた。
「今度こそ殺してやる!」
 ネズミ魔人は聖奈子の体に馬乗りになり、両手で聖奈子の首をつかんで思いっきり締め上げた。苦痛に顔を歪める聖奈子だったが、力が出せない。戦闘員と格闘していた絵里香は戦闘員を全て倒し、聖奈子の方を見た。
「聖奈子が危ない。ファイヤースマッシュ!」
 絵里香のエネルギー波がネズミ魔人を直撃し、ネズミ魔人は反動で飛ばされて床の上に叩きつけられた。
「聖奈子しっかりして! やつに止めを刺すよ」
「オッケー!」
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 絵里香と聖奈子は武器を手に身構え、ネズミ魔人めがけてブレードとソードを振りおろした。
「ダブルエンジェルスマッシュ!」
 二つのエネルギー波がネズミ魔人に命中し、ネズミ魔人は体中から煙を吐きながら倒れた。そして傷口から液体を噴き出し、悶絶しながら体がドロドロに溶けて、最後に白い粉塗れになって消滅した。
「やったね絵里香!」
 絵里香と聖奈子は武器を収納すると、お互いにハイタッチした。美紀子も篤志と佳奈子、麻里を連れてやってきて、2人を労った。
「ご苦労様。ネオ‐ブラックリリーの作戦も恐ろしいものになってきたわね… 絵里香、聖奈子、くれぐれも気をつけて」
「分かりました。美紀子さん」
「それから… 篤志君もご苦労様。なかなか似合っているわよ」
「やめてください美紀子さん。僕もう二度とこんな格好は嫌ですからね」
 それを聞いた佳奈子がビックリして篤志に言った。
「ウソ… 篤志君だったの!? 可愛い… どう見たって女の子だよ」
「そうだよ篤志君。さっきその格好で結構ノリノリだったじゃん? 記念写真撮ってあげたから、後で美由紀に見せてあげるね」
 聖奈子は携帯電話で撮った写真を篤志に見せた。
「もう… 聖奈子さーん」
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       *     *     *     *

 ネオ‐ブラックリリーのアジトでは、度重なる作戦の失敗に加え、今回も失敗したことで、ドクターマンドラはついに大首領クイーンリリーの逆鱗に触れてしまった。
「ドクターマンドラ! 大口を叩いておきながらまた失敗したではないか! 今度失敗したらお前の命はないと言ったはずだ。さあ、どう償うつもりなのだ」
「お願いです大首領様。今一度… 今一度私にチャンスをお与えください。こうなったからには、私自身が直接陣頭に立ち、大攻勢をかけます。どうか今一度、何とぞ私にチャンスを!」
「よろしい。これが最後のチャンスだ。存分にやるがいい。もし今度失敗すれば、それはそのままお前の死につながることを忘れるな!」
 ドクターマンドラは大首領に最後通牒を突きつけられ、絶体絶命の窮地に立たされた。ついにドクターマンドラは自らの姿を魔人に変え、エンジェルス抹殺のための一大攻勢の計画に着手した。いったい次の作戦は何なのか… 

 (つづく)

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 次回予告
 ◎第24話『明日への希望』

 大首領クイーンリリーに最後通牒を突き付けられたドクターマンドラは、ついに自らの姿を毒草マンドラゴラ魔人に変え、陣頭指揮をとって、再生した魔人と共に世界征服作戦に乗り出す。それを知った絵理香たちは阻止行動に出るが、マンドラゴラ魔人の宇宙カビを浴びてしまった絵理香が倒れてしまう。聖奈子と美由紀はアジトを突き止めて爆破に成功するが、再生魔人たちの攻撃を受け、窮地に追い込まれる。絵理香は助かるのか・・ エンジェルスが危ない・・

 次回 美少女戦隊エンジェルス第24話『明日への希望』にご期待ください。




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ジャンル : 小説・文学

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