鷲尾飛鳥

01月 « 2018年02月 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28  » 03月

特別編『冒険少女 佐緒里4 』

2015年 12月08日 12:34 (火)

SDS00.png

美少女戦隊エンジェルス特別編

冒険少女 佐緒里4

まえがき

この小説は最初はDIDをテーマとしていましたが、ストーリーが進むにつれて、ファンタジーやミステリー及び荒唐無稽のスタイルに変わってきています。第一部から順番に読んでいくと、そんな感じに変わっているのが見えてくるかもしれません。
タイムスリップと、逆タイムスリップ(つまりもとの世界へ戻る)は、バック・トゥ・ザ・フューチャーのスタイルをアレンジして使用しています。
また、自分のシチュエーションは、本作品を含めて、これまでの作品の内容にあるように、昭和の時代の少年少女漫画と、特撮にあった全ての要素をベースとしていますので、今後もそのスタイルを通していくつもりです。


*******************************************

目次

ACT.18 神父と枢機卿
ACT.19 遭難
ACT.20 回復
ACT.21 枢機卿の審問
ACT.22 魔女裁判
ACT.23 生還
ACT.24 エピローグ




それでは第4部スタートです。
魔女裁判の場面で、久しぶりで佐緒里ちゃんのセーラー服姿と拘束シーンが登場します。
今回は、魔女裁判をへて、佐緒里ちゃんが広場の処刑台(?)で、ポールに縛り付けられてしまいます。佐緒里ちゃんの運命や如何に・・・・
佐緒里ちゃんは果たして21世紀の世界へ帰れるのか・・・・
冒険少女佐緒里も、いよいよクライマックスです。











 ACT.18 神父と枢機卿

「それじゃ出かけてくるから、後を頼む」
「わかりやした。いってらっしゃい」
「気をつけて」
 神父は枢機卿に会うため、ドルフ村から約50km離れた場所にある、ヴィーゼンシュタットという街へ出かけていった。神父の先輩であるリヒテル枢機卿がこの街の教会の神父を兼任していたからだ。神父を見送る面々は、みな深刻な表情だった。佐緒里が魔女裁判にかけられるという事が、その表情に拍車をかけていた。

SDS01.png

 神父が出掛けて行ったあとで、佐緒里はハンス、カールと一緒に牢獄の屋上に上がっていた。既に冬の訪れを知らせる冷たい風が吹き抜け、空も青空が見えているものの、どんよりとした雲があちこちに広がっていた。
「うー・・・ 寒い・・・ この空・・・ もうすぐドカッと雪が降ってくるな・・・・ 」
「ハンスさん。この辺は雪が多いんですか?」
「ああ。毎年今頃になればチラチラと降ってくるんだが、今年はまだ降らねえな。でもあの雲を見れば、そろそろ雪のお出ましだぜ」
「それにしてもいい眺めですね。村がよく見えるし、結構遠くまで見えるんですね」
「サオリ。逃げたかったら逃げたって良いんだぞ。お前は本物の魔女なんだし、例の魔法で逃げる事だって簡単だろうが」
「僕だってサオリが魔女裁判で火炙りにされる姿なんか見たくない」
 ハンスとカールは佐緒里を気遣い、ここから早く逃げるように薦めていたが、佐緒里は首を横に振ってから言った。
「神父様が何とかするって言っていたから、私はそれに従います。それに・・・」
 佐緒里は一呼吸置いてから話を続けた。
「もし本当に火炙りにされそうだったら、それこそハンスさんが言うように魔法で逃げます。でも、勝手に逃げたら、私の事を21世紀の世界に帰してくれようとしている神父様に申し訳ないです。それにハンスさんやカールの恩をないがしろにするような事は、私には出来ません」
 ハンスは佐緒里の言葉を聞き、納得したようなそぶりをしてから、佐緒里に言った。
「サオリ。そろそろ降りるぞ。そうだ! お前が言っていたオンセンとやらに行きたいんだが」
「温泉ですか? はい。行きましょう」
「カールもつきあうか?」
「良いですよ。ハンスさん。オンセンに行きましょう」
 三人は冷たい風が吹き抜ける屋上をあとにして、牢獄の階段を降りていった。

***************

 夕方近くになって、アルベルト神父はヴィーゼンシュタットに到着し、リヒテル枢機卿に会って挨拶してから、街に宿をとってそこに入った。アルベルトとリヒテルは、法王庁の先輩後輩の関係で、アルベルトの神父としての赴任先は、殆どがこのリヒテル枢機卿の指令に基づくものだった。部屋で寛いで一通り落ち着いたところでアルベルト神父は、リヒテル枢機卿の招待で彼が神父を兼任している街の教会へ行った。そこでアルベルトは、リヒテルから愚痴とも言えるようなとんでもない話を聞かされた。
「明日の朝、街で捕えた女の魔女裁判を行うんだが、その内容がひどい話でね」
「ひどいって、何の話ですか? 枢機卿殿」
「調書を見たんだが、魔女告発の経緯が、男と女の三角関係のもつれから来ているんだよ。つまり、魔女として告発されたAという女がいて、AはBという男と相思相愛の恋愛関係にあった。そしてCという男もAが好きだったんだが、Cは性格がすごく悪くて街での評判も最悪。それを知っているAがCを頑なに拒んだものだから、Cは逆恨みしてAを魔女として告発したという事なんだ」
「何ですかそれは!? そんな事で魔女をでっち上げてるんですか? 今はもうそんな事で魔女を告発するような時代ではないというのに」
「AとBの関係と、Cの事は、街のみんなが知っていて、街の人たちもAの潔白を証言している。Bがたまたま自分の故郷へ行っていて、その留守を狙ったCの汚いやり口だよ」
「確かにひどい話ですね。それで枢機卿殿はどうなされるおつもりなんですか?」
「私が裁判長を任されているんだが、とても裁く気にはなれないね。むしろ告発した男の方をとっ捕まえて、首を切ってやりたいくらいだよ」
「それで、その女は自分が魔女だと白状したんですか?」
「いや、まだだ。審問も予備拷問も明日の裁判から始まるんだ」
「告発した男の方は?」
「街にいると思うが、原告人だから当然裁判には出席して、告発内容を裁判で証言する。だから明日の裁判に出てきたら、即刻とっ捕まえてやる」
 アルベルトはリヒテル枢機卿の話を聞いて、何かを思いついたように言った。
「枢機卿殿。それではこうしたらどうでしょうか? 魔女裁判は行うが、男が現れたら即刻逮捕して牢へぶち込む。そして女の方は口頭の審問だけにして、恋人が戻ってくるまで教会で匿うんですよ。そして恋人が戻ってきたら、無罪放免にしてこの街から出るように薦めたらどうでしょうか?」
「いい考えだな・・・・ アルベルト君。君の意見を参考にさせてもらうよ」

SDS02-2.png

SDS02-1.png

 翌朝。教会で女性Aの魔女裁判が開始された。告発した男は教会にのこのこと現れたところを、待っていた兵士に捕えられた。
「な、何で俺が捕まらなきゃならないんだ!?」
 枢機卿は男の前に立つと、罪状の書かれた羊皮紙を両手に持ち、高々と宣告した。
「お前は自分勝手で自己中心的な嫉妬心で、事実と無関係の女性を魔女として告発し、清廉潔白な男女の仲を引き裂こうとした不届き物である。自分の嫉妬と逆恨みで魔女をでっち上げるとは言語道断!! よって、本教会は貴様を不届き者の犯罪人として処罰する。者ども。直ちに引っ立てよ!!」
「ははっ!!」
 兵士たちは男の両腕をガッチリつかみ、引き摺るように引っ立てていった。男は大声でグダグダと騒いでいたが、兵士たちは構わず連れ去っていった。一方、告発された女性の方は、簡単な予備審問のみ行われ、枢機卿の計らいで教会の一室に『軟禁』という状態で匿われる事になった。が、恋人の男性が知らせを聞きつけてすぐに戻ってきたため、その日のうちに開放されて、男と一緒に男の故郷へと向かって旅立っていった。

 予断ではあるが、リヒテル枢機卿もアルベルト神父同様、現代風で言えば転勤族で、それなりの世界観があり、考え方にも柔軟性があった。魔女の話についても、魔女そのものの存在を疑うような人物だったため、枢機卿が担当する魔女裁判では、被告人が異端者でない限り、処刑される者はいなかった。既に時勢は大航海時代に入っており、人々の世界観も広くなっていて、魔女の存在自体がナンセンスだと考える者も出てきていたのである。

「アルベルト君。くだらん事につき合わせて悪かったな。私は他の者と違って、魔女については疑いの目で見る事にしているんだよ。今まで告発された理由や内容を改めて見返してみると、あまりにもお粗末過ぎて、そんな事ではダメだと思っているんだ。おっと・・・ 話はここまでにしておこうか。私の考えに反発している者もおるし・・・ お偉方たちの間では、頭の固い連中も多いからな」
「いえいえ・・ 枢機卿殿も、世界観があるからこそ、そういう考え方を持てるんですよ」
「ところでアルベルト君。君の村で捕えた魔女の事だが・・・」
「その事なんですが、どうも腑に落ちないことがあって」
「何だね? 言ってみたまえ」
「捕えた者は審問した結果、自分が東洋人で、ジパングという国の者だと言っているんです」
「ジパング・・・ か。遠い国だな・・・ 」
「それに、その娘がこの世界の人間ではないように見えるんです。何処か遠い時代からやってきた、計り知れないもののように感じるんです」
「君の言っている事は、私には難しくて分かりかねるが、今日の裁判の内容にあった話に近いもののようだな」
「はい・・ 」
「気の無い返事だな。君らしくも無いぞ。まあいい。雪が降って積もっているから今日はもう無理だ。明日の朝ここを出発してドルフ村へ向かうから、村に着いたらその娘に会って話を聞いてみようじゃないか」
「わかりました」

***************

 ACT.19 遭難

 村に枢機卿が来るということは、村人たちにも伝わっていたが、村ではクリスマスの前に行われる冬季祭の準備があって、そちらの方に話題が集中し、さほどの騒ぎにはなっていなかった。
 牢獄の屋上で村の様子を遠目に見ていた佐緒里は、村の様子があわただしいのを見て、傍にいたハンスに聞いた。
「いつもと様子が違うけど、村で何かあるんですか?」
「ああ。クリスマスが近いからな。それにクリスマスの前に冬季祭という祭りがあるんだ。村ではその準備があるんだよ」
「冬季祭ですか・・・ そうか・・ もうクリスマスが近いんですね」
 冬季祭とは、冬至の日に行われるお祭りの事で、昼がもっとも短い日が過ぎ、昼が夜に勝つという経緯から始まったもので、この村では伝統的な行事になっていた。佐緒里が空を見つめていると、チラチラと雪が降ってきた。
「雪だわ・・・ 」
 雪は少しずつ密度が濃くなってきて、屋上の床が白くなり始めた。
「サオリ。行くぞ。こんな所にいたら、寒くてしょうがないぜ」
「はい」
 佐緒里は自分の部屋に戻ると、ハンスが持ってきてくれた中型の火鉢に薪を入れて燃やした。少しずつ部屋が暖かくなっていく。窓の外では雪が降り続いていて、地面や木々が積雪で真っ白になっていくのが見えた。

***************

 佐緒里がその日の夕食を終え、カールが来て食器を片付けている時、ハンスが血相を変えて佐緒里の部屋に飛び込んできた。
「た、た、大変だ!」
「どうしたんですか?」
「神父様が帰ってこないんだ。早馬の知らせでは、今日の朝にはヴィーゼンシュタットを出ているから、普通ならもうとっくにこっちへ着いている筈なんだ」
 佐緒里とカールは、ほぼ同時にハンスの顔を見て、佐緒里は席を立つと、窓際へ行って窓の衝立をはずした。
「うわ・・・ 外は吹雪だわ。あたり一面真っ白よ」
 カールとハンスも窓の傍に来た。
「これはヤバイ・・・・ もしかすると、途中で・・・ 」
「何だよサオリ。ヤバイってどんな意味なんだよ?」
「危ないとか、まずいって意味なんだけど・・・   カール。ハンスさん。この辺の地図はありますか!?」
「地図? 村の周辺の絵図面なら、神父様の部屋にあるけど、一体どうしたんだよ」
「この天気だと、途中で吹雪に巻き込まれて立ち往生しているか、最悪の場合遭難しているかもしれないわ!」
「ええっ!?」
「な、なんだと!?」
 佐緒里は窓から離れると、部屋から飛び出して神父の部屋へと向かった。
「おい。待てよサオリ」
 カールとハンスも佐緒里の後を追った。
 神父の部屋に入った佐緒里は、部屋の蝋燭に火をつけると、あたり一体を捜した。
「サオリ。絵図面ならここだよ」
 追いついてきたカールが書棚の脇に置いてある、丸まった羊皮紙を持って机の上に広げた。佐緒里は蝋燭を近くに持っていくと、その絵図面を眺めた。
「牢獄の位置がここ・・・  村の集落がここ・・・ 」
 佐緒里は目を瞑って精神を統一すると、パッと目を開いて絵図面の上に右の手のひらを翳した。ハンスが心配そうに言った。
「何してるんだ?」
「シーッ・・・ きっと神父様たちが今、何処にいるのか捜しているんですよ。佐緒里は魔女なんだ。きっと魔法で居場所を捜しているんです」
カールとハンスは、生唾を飲みながら、佐緒里のしている事を眺めていた。やがて佐緒里は絵図面上の一角で手を止めた。
「ここです!」
 佐緒里の言葉に、カールとハンスは佐緒里の手がある場所を見た。そこは村から約2kmほど北へ行った場所で、畑と森の境がある、山の麓のあたりだった。
「付近に二つの大きな物体が見えます。長くて高い・・・・ 木ではないでしょうか? ハンスさんはこのあたりの事をご存知ですか?」
「ああ・・ そこか。その辺には、二本の大きなモミの木があるんだ。村では双子のモミの木と呼んでいる・・・ その辺に神父様たちがいるっていうのか!? でも何故こんな場所に・・・ 街道からはかなり離れているぞ」
「きっと吹雪で方向を見失って道を間違えたんですよ。すぐに助けに行きましょう。遭難していたとしたら・・・ 雪に埋もれてしまっていたら、大変なことになります」
「すぐに橇の用意だ! カール。行くぞ!」
「は、はい」
 佐緒里は蝋燭の火を消し、ハンスはカールを連れて部屋から飛び出した。佐緒里もそのあとから走っていった。ハンスとカールは一階の倉庫に入り、カールは置いてあった橇を出して、ハンスは馬を用意した。器具を取り付けて準備しているところに、佐緒里が入ってきた。
「今のところ吹雪が止んでいます。チャンスは今ですよ」
「そうか!」
「私が先導しますから、その後からついてきてください」
「先導・・ って・・・ そうか。サオリは魔法のほうきがあるんだね」
 ハンスとカールは、建物の外に橇を出して乗り込んだ。佐緒里は右手を上げてスティックを出し、巨大化させてその上に乗って、2メートルくらいの高さまで上昇させてから、ハンスとカールに向かって叫んだ。
「後ろから青い色の光が出ていますから、その光をたよりについてきてください」
「分かった!」

SDS03.png

 佐緒里はゆっくりとスティックを飛ばし、ハンスは馬に鞭を入れて橇を走らせた。積雪はさほどではなかったので、馬が動けなくなるという事は無く、ハンスは佐緒里が出している青い光を目印に橇を進めた。

 一行は村の集落を通り越して、目的地である双子のモミの木を目指した。佐緒里はスティックの先端からサーチライトの光を出し、前方の状態を探った。そこに二本の大きな木が立っているのが遠目に映り、佐緒里はスティックを止めて降下した。そこへハンスたちも追いついてきた。既に雪が止んで空には月が出てきていて、月明かりがモミの木を映し出している。
「あれだ。もう少しだ。サオリ。頼むぞ」
「はい」
 佐緒里は再び上昇して、モミの木目指して飛んだ。そしてモミの木の傍まで達すると、モミの木の周りを一周した。その時佐緒里は木の向こう側で、キラッと光るものを見つけ、その方向へ飛ばした。
「確かこの辺だった・・・ 」
 そこへハンスたちが追いついてきて橇を止めると、上を飛んでいる佐緒里に向かって叫んだ。
「おい! サオリ。そこには降りるなよ! その辺は沢になっていて、雪の吹き溜まりになっているからあぶねえぞ!」
 佐緒里は下を見た。雪の中に何か黒っぽいものが見えたので、スティックを降下させた。そこには神父と枢機卿が乗っていたと思われる橇が、雪の吹き溜まりの中に突っ込んでいた。橇を引いていた馬は見当たらないので、きっと何処かへ走り去ったのであろう。佐緒里は周辺を捜した。すると沢の底の方に半分雪に埋まっている二人を見つけた。おそらく吹き溜まりに突っ込んだ時に、投げ出されて沢の下へ転落したに違いない。佐緒里はスティックを降下させて雪原の上に降りると、二人を自分の方へ呼んだ。
「ハンスさん! カール! こっちです!」
 佐緒里が叫ぶと、ハンスとカールは橇から降りて、佐緒里のところへ歩いてきた。佐緒里は沢の下の方へ向けてスティックのライトを照らした。
「うわっ・・・・ し、下に落ちてるのか」
「すぐに引き上げないと!」
 ハンスとカールは橇に戻ると、ロープと鎖、そして鉄球の足枷を持って戻ってきた。
「私が下へ降りますから、合図をしたらロープを下へ落としてください」
 佐緒里はそういうと、ポーズをとった。
「二人とも少し離れて!」
 佐緒里は変身の言葉を叫んだ。
「スカーレットスパーク・エンジェルチャージ!」

SDS04.png

 佐緒里の身体が眩しい光に包まれ、光が消えるとともにスカーレットエンジェルJrの姿になった。そしてスティックを持って沢の下へ飛び降りた。
 ズボッ!!
「キャッ・・・ !!」
 飛び降りた場所は吹き溜まりで、佐緒里の体が胸の辺りまで雪に埋まった。
「おーい! 大丈夫かぁ!」
「はーい!!」
 佐緒里は大声で答えながら右手を上げて大きく振った。
「ハンスさん! ロープを投げて!」
 ハンスは鉄球の足枷の鎖をロープの先端に縛ると、佐緒里から少し離れた場所を狙って投げた。
 ズボッ! 
 鉄球を付けていたので、ロープはほぼ真っ直ぐに吹き溜まりの中に突っ込んだ。佐緒里はロープを拾うとスティックを振って前に突き出した。すると真っ赤な光が灯って、佐緒里の周辺の雪がたちどころに溶けた。佐緒里は二人が倒れている場所にたどり着くと、神父と枢機卿の体を揺すって反応を見てから、二人の手首をつかんだ。
「大丈夫だ・・・ 二人ともまだ生きている」
 佐緒里は神父の腰にロープを巻きつけて縛ると、ハンスに向かって叫んだ。
「ハンスさん、カール。上げて! 二人とも生きているわ」
「よーし!」
 ハンスとカールとで、ロープを引っ張り、まず神父を上に引っ張り上げた。続いて枢機卿も上に引っ張り上げたのを見届けた佐緒里は、スティックを巨大化させて、それに乗って上に上がってきた。吹き溜まりに突っ込んだ橇も引っ張り出した。
「サオリ。やばいぞ。二人とも怪我しているうえに体が冷え切ってる。村まで運んで行ったんでは間に合わないかもしれねえぜ」
「じゃ僕が村へ行って助けを呼んできます」
「待ってカール。それでも同じ事よ。今ここで火を焚いて二人を暖めた方がいいわ」
「ダメだよサオリ。この辺の木はみんな雪で濡れて使い物にならないよ」
「分かった。それじゃ私がやる!」
「サオリが?」
「二人とも私から離れて!」
 ハンスとカールは佐緒里から離れて距離をとった。
「(私がこの技を使ったら、私自身がヤバくなるかも・・・ でも、この二人を死なせるわけにはいかない・・・ )」
 佐緒里は一呼吸置いてから神父と枢機卿に向けて両手を伸ばした。
「エンジェルミラクルチャージアップ!!」
 佐緒里の体が眩しく光り、続いて真っ赤な炎になった。あまりの眩しさに、ハンスとカールは顔を背けた。佐緒里の周辺と、倒れている神父と枢機卿の周辺の雪が溶け、佐緒里の体から発する熱で、真夏の暑さのようになった。ハンスとカールは佐緒里のやっている事に唖然、もしくは呆然としていたが、熱さのあまり、少しずつ後ろに下がった。
 一方、気を失っていたリヒテル枢機卿とアルベルト神父は、体が温まってきたのと周りの熱さのために目を覚ました。そこで自分の目の前にいる物体(佐緒里)が目に入った。枢機卿の目には、真っ赤な炎の中に人の形をしたものがあるように見えた。
「う・・ 眩しい・・ 体が温まる・・・ な、何だあれは・・・  私は夢を見ているのか・・・・ 確か雪の中に突っ込んで谷底へ落ちて・・・ あれは天使・・・ それとも 」

SDS05.png

 しかし佐緒里のパワーもここまでだった。
「(も・・ もうダメ・・・ もう・・ 力が・・・ 入ら・・・ な・・ い)」
 真っ赤な炎が消え、佐緒里はそのまま地面に倒れ込んで動かなくなった。
「サオリ!!」
 カールが慌てて佐緒里の傍へ駆け寄った。カールは佐緒里の体に触れようとしたが、突然佐緒里の体が眩しく光ったため、後退りした。佐緒里の身体の光が消えた時、そこには変身が解けて生身の姿になった佐緒里が倒れていた。
「サオリ。どうしたの!? しっかりして! サオリ!」
 カールは佐緒里の傍に来ると、佐緒里の体を揺すった。が、佐緒里は全く反応を示さなかった。ハンスも傍に駆け寄ってきた。
「サオリ! しっかりしろ。神父様も枢機卿様も助かったんだぞ! サオリ!」
「サオリ。死んじゃだめだ。自分の世界へ帰るんだろ!?」
 そこへ神父も近寄ってきた。
「サオリじゃないか。サオリが私たちを助けてくれたのか」
 成り行きを見ていたリヒテル枢機卿が呟いた。
「私は・・・ 私は夢を見ているのか・・・ しかし・・・」
 その時向こうの方から、大きな声とともに数人の村人たちがザワザワと喋りながら、徒歩と橇でやってきた。
「おーい!」
「何があったんだ。でっかい火が見えたから、山火事でも起きたのかと思ったぞ」
「おい! お前たちそんなところで何やってんだ」
 村人たちはみんながいる傍までやってきた。
「し、神父様でねえか。何してるだこんな所で」
「枢機卿様も一緒だぞ。おい。二人とも怪我してるぞ」
 ハンスは立ち上がると、村人たちに向かって言った。
「その馬と橇を貸してくれ! 神父様と枢機卿様を運ぶんだ」
「おう! 分かった。早く乗せるんだ」
 村人たちが持ってきた橇に怪我をした枢機卿と神父を乗せ、そしてハンスとカールが乗ってきた橇に、気を失っている佐緒里が乗せられた。
「よし! すぐ村へ戻るんだ」
 橇が村へ向けて滑り出し、ハンスとカールも橇に乗って出発した。
「サオリ。サオリ。しっかりして。絶対に死なないで!」
 戻る途中で、カールは泣きそうな顔で、ずっと佐緒里の事を呼び続けていた。

***************

 ACT.21 回復

「もう5日間も眠ったままだぜ。大丈夫かよ・・・ 」
「このまま起きないんじゃ・・・・ 」
 ハンスが不安そうに、気を失ったままの佐緒里を眺め、カールは泣きそうな顔をしていた。あれから神父と枢機卿は、村の医者のところに運ばれて、怪我の手当てを受け、佐緒里はハンスとカールの乗った橇で牢獄まで戻ってきて、佐緒里の部屋に運ばれてベッドに寝かされた。その時に神父の計らいで、教会の手伝いをしていたエレンという少女を、佐緒里の世話人として遣わしていたので、服を脱がして着替えさせる役目は、そのエレンがやってくれた。そして一通りの仕事を済ませたエレンは、看守のハンスとカールに後を託して、教会の方へと戻っていった。
 佐緒里はスカーレットエンジェルとはいっても、まだ体が幼く、自分が使える技には限度があった。それなのにチャージアップという、自分の能力の限界を超えた大技を使ったため、エネルギーをあっという間に消耗して、気を失ってしまったのだ。しかし、いくら限界を超えたとはいっても、ある程度時間が経てば自然にエネルギーが蓄積されて回復するはずである。が、佐緒里はまだ眠ったままだった。ハンスとカールが不安そうにしているところに、神父が枢機卿と一緒に部屋に入ってきた。
「サオリはまだ目覚めないのか?」
「はい。もう5日も経つんだけど、まだ・・・ 」
「神父様。まさかこのまま死んじゃうんじゃ・・・・ 」
 カールが泣きそうな声で言った。
「バカ言っちゃいかん! 必ず助かる。今までサオリは何度も窮地を脱してきたじゃないか。こんなことで絶対に死ぬものか!」

***************

 佐緒里は暗闇の中を彷徨っていた。周囲は全て真っ暗闇で、足元すら見えない。
「ここ・・ 何処なの?」
 その時佐緒里は自分を呼ぶ声が聞こえた。
「佐緒里」
「え?」
 佐緒里は声がした方を向いた。そこにはかつて事故で亡くなった筈の佐緒里の両親と、妹の香織が立っていた。
「パパ・・ ママ・・ 香織」
 佐緒里はみんながいる方へと歩き出した。しかしいくら進んでも、みんなの元へたどり着けない。
「どうして・・ どうして近づけないの?」
「ダメ! お姉さん。こっちへ来てはダメよ」
「佐緒里。こっちへ来てはいけない。戻るのよ!」
「佐緒里。引き返せ! 戻るんだ。お前はまだ死んではダメなんだ」
 そしてみんなの姿が消えた。
「パパ! ママ! 香織! 何処へいったの? 行かないで! 嫌だ・・ 嫌アーッ」

「嫌あーっ!」
 佐緒里が叫び声とともに、ベッドから飛び起きようとした。
「サオリ!」
 傍で様子を見ていたカールが、半狂乱になって暴れる佐緒里を抱きしめた。
「サオリ! 落ち着いて。怖い夢でも見たのか」
 我に返った佐緒里は、自分を抱きしめているカールに気付いた。
「カール・・・・ 」
「サオリ・・・ 良かった。目が覚めたんだね。もう、このまま死んじゃうのかと思ったんだぞ」
 カールは佐緒里をさらに強く抱きしめた。佐緒里はカールの体が震えているのを感じた。カールは声を押し殺して泣いていた。
「カール。私は大丈夫だから泣かないで」
「そんなわけ無いだろ。お前5日間も眠ったままだったんだぞ」
 カールの目からは涙が溢れていた。
「よかった・・・ 生きててよかった・・・ 」
 カールは再び佐緒里を強く抱きしめた。佐緒里は起き上がろうとしたが、カールがとめた。
「まだ寝てなきゃダメだ」
 そう言ってカールは、佐緒里を無理矢理ベッドに押し倒した。ハンスも傍によってきた。
「サオリ。今日はゆっくり休むんだ。まだ無理しちゃダメだ」
「・・・・・・」

SDS06.png

 カールは神父の方を向いた。
「神父様。今日はサオリをゆっくり休ませますから、何もしないであげてください」
 神父は枢機卿の方を向いた。枢機卿は無言で頷いた。
「いいだろう。サオリ。今日はゆっくり休むがいい。明日は枢機卿殿がお前を審問したいと言っているが、いいな?」
「はい」
「それじゃみんな、部屋を出るぞ。サオリをゆっくり休ませてやれ」
 神父と枢機卿に促されるように、みんなゾロゾロと部屋を出て行った。最後にカールが机の上の蝋燭の火を消した。
「それじゃサオリ。お休み」
「お休みなさい」
 真っ暗になった部屋のベッドの上で、佐緒里は再び深い眠りについた。


 神父の部屋では、神父と枢機卿がカールとハンスを交えて話をしていた。
「アルベルト君。魔女裁判は予定通り行う。ただし、あのサオリという娘が完全に回復してからにする。それまで私はこの村にとどまる事にする」
「でも枢機卿殿。サオリは我々の命の恩人なんですよ。その恩人を魔女裁判で・・・ まさか火炙りにするつもりなんですか?」
 枢機卿は首を横に振った。
「確かに裁判はするが、判決後の事は君に任せる」
「え?」
「あの娘は我々の命の恩人だ。いくら魔女とはいえ、私は命の恩人を蔑ろにするほど卑怯者ではない。そんな恩を仇で返すような事をしたら、それこそ神の裁きを受けてしまうよ」
「それでは何故」
「君はあのサオリを、サオリの世界へ帰そうとしているんだろ? そしてその方法も既に見出しているというではないか。ならば裁判の結果をどうしようと、私が君にサオリの処遇を委任すればいいことだ。要するに、サオリを君の力で帰してしまえば、サオリはこの世界からいなくなるわけだ。つまり極論で言ってしまえば、処刑したと思えば同じ事ではないか。私には君の言っている事がどうにも理解出来ないんだが、とにかく私の役目は裁判で判決を言い渡して、裁判の報告書を書く事だけだ。そのあとのサオリの事については全て君に任せるよ」
「わかりました。お心遣いありがとうございます」
「礼には及ばんよ。私と君とは長い付き合いではないか。ただ、この事は絶対に他所に口外してはならんぞ。こんな事が頭の固い連中に知られれば、厄介な事になりかねん。君たちもだ。ここで話した事は、口が避けてでも絶対喋るな。勿論法王庁へはそれなりの調書を書いて報告するが、何かあった時は私の権限で何とかする」
「分かりました」

 ACT.21 枢機卿の審問

 翌朝、食事を終えて後片付けを済ませ、部屋を出たカールと入れ替わりに、リヒテル枢機卿が部屋に入ってきた。
「サオリといったな。審問を始めるが、いいかね?」
「はい」
「では屋上へ上がろうか。一緒に来たまえ」
 リヒテルは部屋の外へ出て、佐緒里もそのあとをついていった。

SDS07-1.png

SDS07-2.png

 空は晴れていて、この季節にしては暖かかった。屋上に上がったリヒテル枢機卿と佐緒里は、お互いの目を見て向かい合っていた。リヒテルが黙っていたままなので、痺れを切らした佐緒里が話しかけた。
「あの・・ 枢機卿様。さっきから黙ったままですけど、私に何も聞かないんですか?」
「まあ・・・ まず空でも眺めてみたまえ。もう冬だというのに、今日はこんなにいい天気だ」
 そう言ってリヒテルはそのまま床に仰向けになった。佐緒里が唖然としていると・・・・
「君も仰向けになりたまえ」
「は、はい・・・ 」
 佐緒里は呆気に取られたが、枢機卿の言う通りに仰向けになった。
「どうだ。いい眺めだろう」
「はい・・ 」
「お前の事はアルベルト君から大体のことは聞いたし、調書も読ませてもらった。君はジパングという国から来たそうだな」
「そうです。ご存知なんですか?」
「うむ・・ 私は『東方見聞録』という書物を読んだ事があってね」
「マルコ・ポーロですか?」
「そうだ。そこでお前に聞きたいんだが、あの書物の内容は正しいのかね」
「全部が全部というわけではないです。マルコ・ポーロ自身はジパングへは来ていないんです。だから内容的には想像の部分が殆どなんです」
「そうか・・  想像か・・・  それでジパングは黄金の国だと書かれていたが、それは真実なのかね?」
「いいえ・・・ 確かに金は産出しますけど、皆が思っているほどの量ではありません。むしろ少ないくらいです」
「うむ・・・ ジパングへ行った事がないのなら、実情を知らずに想像で書くのも無理も無い事だ。お前の話には嘘は無いな・・・ 実はジパングへ行った私の友人から来た手紙にも、同じような事が書かれていたのだ」
 枢機卿はさらに話した。
「実はその友人は、キリスト教を伝道するためにジパングへ行ったんだ。ジパングはキリスト教を受け入れるのかね」
「受け入れます。私の国は宗教の受け入れには寛大です。だから今まで外国から入ってきた宗教は、しっかりと根付いています」
「キリスト教以外にも伝道されているのかね」
「仏教が伝えられています。枢機卿様はお釈迦様・・・ ブッダをご存知ですか?」
「知っとるよ。お前は仏陀の信者かね?」
「信者というわけではないですが、仏教に関係した行事には参加する事があります。それと枢機卿様のおっしゃっている、キリスト教の行事もです。例えばクリスマスは、信仰に関係なく殆どの人が関わっていると思います」
「なるほど・・・ それではお前は何の神を信じるのか?」
「特別な信仰はありません。でも、しいて言うならば、私の国の神様です」
 佐緒里は枢機卿の質問に戸惑いながらも、自分の知識にある全てのもので応えていた。
「お前の国の神とは、どんな神なんだね?」
「枢機卿様は、ギリシャやローマの神話はご存知でしょうか?」
「知っておるが、それと何の関係があるんだね?」
「私の国にも古代の神話があって、宗教として人々の心の中に根付いています。私の国の神とは、その古代の神話に関係があるんです。そして神は一人ではなく、大勢いて・・・ つまり多神教なんです。分かり易く言ってしまえば、お釈迦様もキリスト様も、みんな神様なんです」
「なるほどね・・ アルベルト君の調書の通りだな。彼の調書に、お前の宗教観の事が書かれていてね、私はそれに興味を持って、お前に色々と聞いてみたんだよ。まあ・・ 国が違えば文化も違うし、宗教観が違うのも当然なのだろうな・・・ 」
 枢機卿は起き上がった。
「さあ、サオリ。立ちなさい」
「はい」
 枢機卿は立ち上がり、サオリも起き上がって立って、枢機卿と向かい合った。
「お前の魔女裁判は明後日で良いか?」
「はい。良いです」
「よし。分かった。それでは私の審問はこれで終わる。部屋に戻りなさい」
 枢機卿が動こうとしなかったので、佐緒里は歩み出すのを躊躇っていた。
「一人で行きなさい。私はもう少しここで空を眺めている。あ・・ それから、私とアルベルト君を助けてくれたのはお前なんだってな。遅くなったが礼を言う。助けてくれてありがとう」
「御礼には及びません。当然のことですから。良い魔女は人を助けるんです」
「なるほどね・・・ さあ。行きなさい」
「はい。それでは失礼します」
 佐緒里は枢機卿に背を向けると、屋上から階段を降りていった。枢機卿は佐緒里の後ろ姿を眺めながら、右手で胸の前で十字をきった。

 その日の夜、佐緒里の部屋に神父が入ってきた。
「今しがた枢機卿殿を教会へ送ってきた。サオリ、明後日がお前の魔女裁判だが、覚悟は出来ているか?」
「はい」
「ならば明後日の朝、朝食後にここから教会へ移動する。お前の所持品は全てここから持っていくように。それから、お前がここで借りた物や貰った物は、すべてここに置いていくように。いいね?」
「はい・・・ 」
「では私も教会の方へ行くから。お前の裁判までもうこっちへは戻ってこない。明日以降の事は看守のカールかハンスに相談しなさい。お休み」
「お休みなさい」

***************

 ACT.22 魔女裁判

 ついにその日の朝が来た。
 佐緒里はベッドから起き上がると、着ていた体操着を脱ぎ、椅子にかけてあったセーラー服を手に取った。
「(この服・・・ 久々だな・・・ )」
 佐緒里がここに来た時に、暫くの間着ていたセーラー服だった。佐緒里はリュックの中からスリップを取り出して着ると、スカートを履き、続いてセーラー服の上着を着てから、ネクタイを着けて靴下を履き、最後に自分のズック靴を履いた。今から何が自分を待ち受けているのか不安だったが、それを払拭するように窓際へ行って衝立を上げた。明るい朝の日差しとともに、冬の冷たい風が吹き込んできた。佐緒里はリュックの中からノートと筆記用具を取り出し、テーブルの上に置くと、椅子に座ってノートを開き、何かを書き始めた。

『親愛なるカールへ・・・  カールがこの手紙を読んでいるとき、私はもうこの世界にはいません。私はカールが私に対して好意を抱いていた事を薄々と感じていました。だからお別れするのはとっても辛いです。でも、仕方が無いんです。私は私の世界へ帰らなければなりません。カールはもう私に会うことは出来ませんが、カールの子孫の方ならば会う事が出来るでしょう。だから私からのお願いです。この手紙をずっと持っていてください。そしてカールの子孫の方々に代々受け継いでもらい、21世紀に受け継いだ方が201X年の○月○日に私に会いに来て下さい。拙い文章でごめんなさい。 サオリ』

「よし。これでいいな・・・ 」
 佐緒里は手紙を書いたページを切り取ると、もう一枚切り取って折り曲げて封筒の代わりにし、折った手紙をその中に入れた。
 ガチャガチャ
 その時鍵が開けられる音がして、佐緒里は手紙をリュックの中に入れた。扉が開いてカールが食事を持って入ってきた。カールは佐緒里がそわそわして顔が赤くなってるのを見た。

SDS08-1.png

SDS08-2.png

「ど、どうしたんだサオリ」
「あ・・ カール。な、何でもない・・・ 何でもないからね」
「(何か変だな・・・ 緊張しているようでもないけど・・ ) それじゃ食事置いていくから」
「分かった」
 カールは首をかしげながら部屋を出て、鍵をかけていった。

***************

 食事が終わり、後片付けも終わった。佐緒里は部屋の中で椅子に座り、来るべき時を待ちながら瞑想していた。そこへ鍵が開く音がして扉が開き、カールが入ってきたので、佐緒里は立ち上がって傍にあったリュックを背負った。カールは持っていた木製の手枷を佐緒里に差し出し、佐緒里は無言で両手を差し出した。
「サオリ。あと少しだから我慢して」
「うん・・・ ところでハンスさんは?」
「外で橇を用意して待ってる」
 カールは佐緒里の手に手枷を嵌めて施錠すると、手枷から伸びている鎖を持って、佐緒里を促した。
「(いよいよここともお別れなんだわ・・・ )」
 佐緒里はカールに鎖を引かれて部屋を出た。牢獄の建物を出ると、ハンスが橇と馬を用意して待機していて、佐緒里とカールを見ると乗るように促し、二人は橇に乗った。
「よし。それじゃ行くぞ」
 ハンスは橇を走らせた。村にある教会までは15分くらい。だが、佐緒里には倍近い時間に感じられた。
教会の前でハンスは橇を停止させ、カールは佐緒里と一緒に橇から降りた。ハンスは馬の手綱を傍にあった木に巻きつけて固定してから、二人の傍に来た。その時教会堂の中からアルベルト神父が修道女の恰好をした少女とともに出てきた。

SDS09.png

「神父様。おはようございます」
「おはよう。サオリ、よく眠れたか?」
「はい」
「うむ・・ とりあえず紹介しておこう。この子はエレン・ヴェルナーといって、カールと同じく私の養子なんだ。年はサオリと同じくらいで、この教会で手伝いをしている。裁判の間はこの子がお前のそばについている」

SDS10.png

 エレンは胸の前で十字をきると、佐緒里の傍に歩み寄ってきた。
「サオリさんですね。私はエレンといいます。神父様からあなたのお話は聞いています。よろしく」
「サオリです。こちらこそよろしく」
「カール。手枷の鎖をエレンに渡せ。お前はハンスと一緒に、広場へ行ってサオリを21世紀に帰すための準備をするんだ」
「はい。神父様」
 カールは持っていた鎖をエレンに渡すと、ハンスと一緒に教会の隣にある広場へ向かった。神父は佐緒里の肩をポンと軽く叩いて言った。
「さあ。サオリ、行こうか」
「はい」
 佐緒里はエレンの先導で神父とともに教会堂の中へ入った。

***************

 裁判は礼拝堂を急造の法廷として使用する事になっていて、椅子は全て端に並べられ、祭壇の前に大きな長い机が一つ、椅子が三つ置かれた。佐緒里はその法廷のほぼ中央にある二つの椅子の片方に座らされ、隣の椅子にエレンが座って、神父は枢機卿を呼びに法廷の外へ出て行った。それと入れ替えに、陪審員か傍聴人と思われる村人たちが数人入ってきて、端にある椅子に座った。佐緒里はこれから始まる自分の魔女裁判の時を静かに待った。
 やがてハンドベルの音とともに、リヒテル枢機卿を先頭に、アルベルト神父と村の村長がやってきて、祭壇の前にある椅子に座った。中央に枢機卿。右隣にはアルベルト神父。左隣には村長が座っていた。佐緒里はガラにもなく緊張で体がガタガタと震えた。それを感じたのか、隣にいるエレンが佐緒里の肩を軽く叩き、佐緒里はエレンの方を向いた。
「落ち着いて。もう始まるわよ」
 佐緒里は無言で頷いた。周りでは傍聴人たちがざわざわと雑談していたが、枢機卿たちが立ち上がると、ざわめきがピタリと止んだ。

SDS11.png

SDS12.png

「それでは被告人サオリの魔女裁判を始める!! 本日の裁判長はこの私。ヨーゼフ・リヒテルが受け持ち、裁判官はドルフ村の神父アルベルト・ヴェルナー、及びドルフ村村長のヨハン・ハウゼンがそれぞれ受け持つ。被告人サオリ。立ちなさい」
 枢機卿が高々と通る声で喋り、佐緒里はエレンとともに立ち上がって、枢機卿の目を見据えてから、枢機卿に向かって一礼した。
「ン!!」
 枢機卿はそれに応えて佐緒里に向かって軽く頭を下げ、神父・村長とともに再び着席した。枢機卿は傍らに置かれた羊皮紙を取ると、それを読み上げた。
「本日の魔女裁判は、魔女の告発人が存在しないため、証人喚問は省略する。そこで被告人のサオリに問う。被告サオリは○の月の○日に、ドルフ村の東の外れにある村の倉庫において隠れていたところを、村の者に発見され、魔女の嫌疑で投獄された。そして村の神父アルベルト・ヴェルナーの第一回目の審問において、魔女である事を自白し、軟禁状態で本日に至る。サオリ、間違いは無いか?」
「ありません」
「それでは審判を続ける。被告人は村に出没する悪魔に対し、勇敢にも一人で悪魔に立ち向かって悪魔を倒し、そしてその正体を暴いた。さらにドルフ川の上流にいるとされていた怪物の正体をも暴き出し、それらの類は悪魔とか魔女とは無関係のもので、すべて神が作り出したものであると説いたとあるが、それに間違いは無いか?」
「ありません」
「調書によると、お前は東洋人で、ジパングという国から来た者だとある。そして異教徒だとあるが、間違いは無いか?」
「はい。裁判長様の仰るとおりです」
 傍聴人たちの間でざわめきが起こった。が、傍聴人たちはみなドルフ村の村人で、かつ佐緒里が村でした事を全て知っていて、佐緒里に恩義を感じていたので、罵声や暴言は出なかった。
「静粛に!」
 枢機卿の一声で周りが静かになった。
「サオリは違う国から来た者であり、異教徒である。国が違うのであれば、文化も宗教も宗教観も我々と異なるのは当然である。従って、当法廷はサオリを異端とはみなさない。魔女の有無については、被告人が自白済みなので取調べは省略し、すぐに判決に入る」

 枢機卿は立ち上がると、両手で羊皮紙を持って佐緒里を見据えた。
「判決!! 当魔女裁判の法廷は、被告人サオリを魔女と認定して有罪とする。なお、判決の根拠は被告人の自白によるものとし、被告人が行ったとされる魔術使用等の魔女行為については、全てを不問とする。加えて、判決後の被告人の処遇については、ドルフ村神父のアルベルト・ヴェルナーに全てを委任する。以上! 本裁判はこれにて閉廷とする!」
 枢機卿は神父と村長を伴って法廷を出た。続いて周囲にいた傍聴人たちも次々と出て行き、法廷には佐緒里とエレンだけが残った。
「サオリさん。行くよ。神父様が言っている、21世紀の世界とかに帰るんでしょ?」
「うん・・ 」
 佐緒里はエレンに鎖を引かれて、法廷の外へ出ると、さらに教会堂の外へ出た。外ではカールが佐緒里のリュックを持って待っていた。カールは佐緒里の傍に駆け寄ってきて、佐緒里の手首をつかんで少し上に上げさせた。
「今、手枷を外すから」
 カールは鍵で手枷の錠を外し、佐緒里の両手を自由にしてから、手枷を傍にあった橇の中に放り込んだ。そして佐緒里にリュックを背負わせると、佐緒里の手首を持って、広場の方へと小走りに駆け出した。エレンもその後をついて行った。

 
 ACT.23 生還

 広場に到着すると、ハンスが準備をして待っていた。ステージ状の台の上に高さ2m位、太さが20cmくらいの木柱が立っている。通常ならば魔女の火炙りに使用するか、もしくは罪人を拘束して晒すためのものだが、今回は佐緒里を未来へ帰すために用意されていた。村人たちは準備の手伝いで近くに数人いたが、一通りの手伝いを済ませると、その場から皆去って行った。枢機卿の計らいで、佐緒里の事には絶対に関わらないよう、またこの事を外へ洩らさないよう、厳重な命令が出されていたのも理由のひとつだった。
「サオリ。こっちへ来い」
 ハンスが手招きして、佐緒里は木柱の傍まで来た。
「その柱に背中をつけろ」
 佐緒里がリュックを下ろして木柱の前に立つと、ハンスは持ってきた長い鎖で、佐緒里の腰から胸の辺りまでグルグル巻きに縛って、南京錠をかけて固定した。が、両手だけは動かせるように自由にしていた。そして佐緒里のリュックも佐緒里の傍に置かれて、鎖で巻かれた。
「サオリ。きつかったら言えよ。こいつは神父様の指示で、お前が衝撃で吹っ飛ばされねえように、ガッチリ縛れとのことなんだ」
「大丈夫です」
 そこへ神父が十字架の入った箱を持ってやってくると、銀色の十字架を取り出して、佐緒里に持たせた。
「サオリ。方法はこの前の実験でやった通りに行う。この銀の十字架を両手で持って、私が合図をしたら両手で頭の上にかざし、例の呪文を唱えるんだ。私がお前の正面で、こっちの金の十字架をかかげているから、お前の呪文で出る光をこの十字架で受け止めて、お前の持つ銀の十字架に反射した光をあてる。そうすればお前の体全体を光が包み込んで、お前はお前の世界へ帰れる。信じるんだ! お前は必ず帰れる。奇跡は必ず起きる!」
「分かりました。ところで枢機卿様は?」
「枢機卿殿は、教会堂の中で、お前の裁判の報告書を書いておられる。裁判で決まったように、お前の事は全て私が責任を持って任されている。いいか? そろそろ始めるぞ」
「待ってください。カール! 傍に来て」
 カールは佐緒里に呼ばれて、傍に駆け寄ってきた。
「何だいサオリ」
「私のリュックの右ポケットに手紙が入っているの。それを出して」
 カールはリュックの右ポケットを開けて、中から佐緒里が造った封筒を出すと、封筒を佐緒里に見せた。
「これだね?」
「うん。それでカールにお願いがあるの。その手紙をずっと持ってて。私がいなくなってから封を開けて中の手紙を読んでほしいの。約束して」
「分かった。約束するよ」
カールは佐緒里の真正面に来て佐緒里に顔を近づけ、佐緒里を見つめた。見つめられた佐緒里は顔を赤らめ、目から涙が浮かんできた。カールも涙ぐんでいる。

SDS12-1.png

SDS12-2.png

「サオリ。さよなら!」
 カールはそのまま佐緒里と唇を重ねると、踵を返して佐緒里から離れた。
「みんな、サオリから離れるんだ」
 神父の一声で、カールとハンス。そしてエレンは佐緒里を遠巻きにするように距離を置いた。
「サオリ! 呪文を唱えろ!」
「はい!」
 佐緒里は両手で十字架を上に掲げた。
「スカーレットスパーク・エンジェルチャージ!!」
 その瞬間、佐緒里の身体が眩しい光に包まれ、真正面に立っていた神父は目をつぶった。光が神父の持っている金の十字架にあたって、反射光が佐緒里の持っている銀の十字架にあたり、佐緒里の身体が銀色の光に包まれた。昼過ぎにもかかわらず、あたり一面は太陽の光より強い光が覆い、みんなの姿をも光で見えなくした。
 そして光が消えたとき、そこには佐緒里の姿は無く、煙が燻った木柱と、佐緒里を縛っていた鎖だけが残されていた。
「消えた・・・ 成功だ・・・ サオリは自分の世界へ帰ったんだな・・・ 」
 神父は上に上げていた両手を下ろし、力が抜けたようにその場に座り込んだ。
「サオリーっ!!!!!」
 佐緒里を呼ぶカールの声が、むなしく木霊した・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

***************



「 ・・・ちゃん・・・ 佐緒里ちゃん・・・ 」
「ん・・・・ んん・・ 」
 佐緒里は誰かに呼ばれる声で、目を覚ました。
「佐緒里ちゃん! しっかりして。佐緒里ちゃん」
 佐緒里が目を開けると、すぐ目の前にエモトの顔があった。佐緒里の手には、例の銀の十字架がしっかりと握られていた。
「佐緒里ちゃん大丈夫? 急に倒れたから、何があったのかと思ったわよ」
「熱っ・・・・ 」
 佐緒里は十字架から手を離した。タイムスリップで熱を持っていたのだ。
「私・・ 眩しさでこの十字架をつかんだところまでは覚えてるんだけど・・・ エモトさん。エモトさんだよね」
「ちょ、ちょっと・・・ 倒れた時、頭でも打ったの? 佐緒里ちゃん。医者呼ぼうか?」

SDS13.png

 佐緒里はスカートの裾をパンパンとはたきながら、ゆっくりと立ち上がった。エモトが心配そうに、佐緒里のあちこちを見た。騒ぎに気付いたスタッフの何人かが、傍にやってきて回りを取り巻くように様子を見ている。
「エモトさん。大丈夫です。心配してくれてありがとう」
 佐緒里は傍に会ったリュックを背負うと、エモトの方を向いた。
「それじゃエモトさん。今日はありがとうございました。展示会の日にまた来ますから」
 佐緒里は踵を返すと、会場をあとにした。廊下を歩いている佐緒里は胸の辺りに強烈な違和感を感じて歩みを止めた。
「(何か変だ・・・ 胸の辺りがすごく熱い・・・)」
 佐緒里は熱さの元になっている部分を探った。それは左胸のポケットの中で、何かが入っているようだった。
「(胸ポケットには何も入れてなかったはずだけど・・・)」
 佐緒里は胸ポケットに手を入れた。すると中から赤いリボンが出てきた。カールが佐緒里にキスした時、素早く佐緒里の胸ポケットの中に忍ばせていたのだ。
「これは・・・ 」
 突然佐緒里の脳裏に、今までの事が全て甦ってきた。
「そうか・・  私・・・・ 中世のヨーロッパにタイムスリップして・・・ これはカールが私にくれたリボン・・ 」
 佐緒里の目から大粒の涙が溢れてきた。泣きたいわけではなかったが、それでも涙が止まらない。佐緒里はリボンをつかむと、そのまま建物の外へと一目散に駆け出した。


***************

 ACT.24 エピローグ

 そして展示会の初日・・・・・
 初日とあって、会場にはテレビカメラが入り、ニュースとして報道された。さらに『世界の果てまでGO GO GO』の特番として放送するため、そのスタッフも会場でカメラを回していた。会場の中に佐緒里の姿は無かった。佐緒里がいなかったのは、混乱を避けるために、エモトが前もって初日の事を佐緒里に話していたからである。
 ちなみに佐緒里のタイムスリップの原因となった金と銀の十字架は、佐緒里が握りしめていた銀の十字架だけが展示されていて、金の十字架はそこには無かった。佐緒里が中世にタイムスリップし、アルベルト神父の審問で話をしたことがきっかけとなって、その後の歴史が僅かに変わっていたのだ。十字架は銀の十字架、つまりズイルバー・シャッテンのみが略奪品の対象になり、金の十字架ゴルト・リヒトは略奪を免れたことになっていた。

 そして二日目の昼下がり・・・・
 佐緒里は友達の佳奈子たちを連れて会場にやってきた。会場は大盛況で、客の入りも凄かった。
「わあ・・ すごおい・・・ 」
「これが時価ン十億円の財宝かぁ・・・・ 」
「しかし、佐緒里ちゃんも凄い物見つけ出したね」

SDS14.png

 佳奈子たちが展示されている財宝を見ながら口々に言い合っている。ステージではエモトがテレビカメラの前で講演をしていて、その周りでは客やエモトのファンの人たちがエモトの講演に見入っているのが見えた。講演を終えたエモトは佐緒里に気付くと、周りにいたファンや客を押しのけて佐緒里の傍まで来た。
「おはよう佐緒里ちゃん。友達も来てくれたのね」
「おはようございます」
 佳奈子が色紙をおずおずと出し、エモトの前に差し出した。
「エモトさん。サインしてください」
「あ・・ 君は前に逢った事があるね」
「はい。佐緒里ちゃんの友達で、清水佳奈子といいます。私エモトさんの大ファンなんです」
 エモトはマジックを持つと、佳奈子が差し出した色紙に自分のサインをして、佳奈子に渡した。
「ありがとうございます。大事にします」
 傍で友人達が『よかったね』って口々に佳奈子に言った。そこへ聖奈子と絵里香、そして孝一がやってきた。
「あ、いたいた。佳奈子たちもう来てるわ。佳奈子!」
「お姉ちゃん」
「絵理香さん、孝一さんに聖奈子さん。おはようございます」

SDS15.png

「佐緒里ちゃんが古文書の暗号を解読して見つけ出した財宝だからね。見ずにはいられないわね」
「それにしてもすげえな。こんなのが日本に隠されていたなんて、まだ信じらんねえぜ」
「佐緒里ちゃん。美紀子さんも、もうすぐ来るわよ」

「やっほー! 佐緒里ちゃん。来たわよ」
「これが例の財宝かぁ・・・ ニュースで見たけど、実物を見ると改めて凄いって分かるわ」
美由紀と友里がやってきて、佐緒里に挨拶した。二人とも今までドラマの撮影があって、終了と同時にテレビ局からすっ飛んできたのだ。

SDS16.png

「美由紀さんに友里さん。この前の『二人は迷探偵』見ましたよ。二人ともゲストの出演だったけど、すごく良かったです」
「ありがとう佐緒里ちゃん。私たち次はいよいよ本格的なドラマに挑戦よ。来年の新春ドラマ劇場のスタッフからオファーがあって、もう撮影が始動しているのよ」
「ついさっきまでテレビ局で撮影してたの」
「わぁ凄い! 二人ともがんばってください」

 その時佐緒里の体に誰かがぶつかった。
「キャッ・・・」
「ア・・ ごめんなさい」
佐緒里が振り向くと、そこに学校の制服姿の麻美と紫央がいた。

SDS17.png

「麻美さんに紫央さん」
「久しぶり。佐緒里ちゃん元気?」
「はい。麻美さんも紫央さんも元気そうですね」
「勿論元気よ。今でも相変わらず妖怪相手に戦い続けているわよ」
「そうなんですか・・・ もし私が必要なら、いつでも呼んでください。必ず助けに行きますから」
「ありがとう」

 佐緒里は自分の知り合いたちに周りを囲まれ、その真ん中にいた。美紀子もやって来たが、佐緒里の周りに人が集まっていたので、少し距離を置きながら展示された財宝を見て回っていた。
 佐緒里がみんなと団欒しているところにエモトがやってきた。
「佐緒里ちゃん。あなたにお客さんが来てるわよ」
「私に? 誰だろう・・・ 」
「背の高い、ハーフっぽい男の子だったわ。年は君と同じくらいか、少し上かな・・・  廊下で待っていて、佐緒里ちゃんを呼んでくれって。実はその子昨日も来ていたんだけど、明日来るからまた来なさいって言って帰したのよ」
 佐緒里は一瞬考え込んだが・・・
「ちょっと私、行ってきますね」
 佐緒里はみんなに一礼すると、混雑をすり抜けて会場から廊下に出た。佐緒里は辺りを見回した。廊下は会場を出入りしている客でごった返している。すると、エレベーターの近くのフロアに立っていて、自分の方を見ている背の高い青年が目に入り、その人が手招きしていたので、佐緒里は小走りに駆けて行った。近くまで来て佐緒里はその青年を見上げた。佐緒里の身長は156㎝で、その青年は180㎝近くあり、どこか日本人離れしたハーフのような容姿をしていて、僅かながらカールの面影を持っていたので、佐緒里は思わず胸の高鳴りを感じた。
「赤嶺佐緒里さんですか?」
「そうですけど、あの・・ すみません。私に何かご用ですか?」
「はい。はじめまして。僕は白浜隆志(しろはまたかし)といいます」
 隆志は自分の名を告げると、持っていた紙袋の中から装飾された箱を取り出して開けた。中にあったものを見た佐緒里は、目を丸くした。例の金色の十字架『ゴルト・リヒト』だったのだ。
「あの・・ あなたが何故それを・・・・・ ???」
「やはりこの十字架の事を知っていたんですね。僕の曾々祖父(4代前)がキリスト教の牧師で、明治の時代にキリスト教の伝道のために日本に来て、その時にこの十字架を一緒に持ってきたのだと、僕の父が言っていました。その曾々祖父の名はアロイス・ヴェルナーといって、そのまま日本に帰化して、自分が最初に伝道した「白浜」という土地の名をとり、白浜の姓を名乗るようになったんです。そして、この十字架は『ゴルト・リヒト』といい、もう一つの『ズィルバー・シャッテン』という十字架とペアになっていて、父があなたに会えば、もう一つの十字架のところにたどり着けるとも言っていました。僕には何のことだかよく分からないんですけど・・・・  こういうものも預かっているんです」
 隆志は持っていたバッグから茶褐色に変色した封筒を出して、佐緒里に差し出した。佐緒里はそれがカールに宛てた手紙だとすぐに分かった。
「(私がカールに渡した手紙だ・・・・・ )」
 佐緒里は目頭が熱くなった。隆志は話を続けた。
「この手紙も代々家に伝わっていたものらしくて、先祖から代々引き継がれてきたらしいんですけど、詳しい事はよく分からないんです。僕の父が赤嶺佐緒里という人に会ったら見せてほしいって、昨年僕に渡してくれたんです。手紙に書かれていた日が昨日の日付で、昨日ここに来たんですけど、主催者のエモトさんが明日来るって言っていたから、今日改めて来たんです」

 この青年、白浜隆志はカールの子孫なのだ。年は佐緒里より一つ下の14歳で、現在中学校の2年生である。
 カールはあれからアルベルトの遺志を継いで神父になった。神父は規則で結婚が出来ないので、カールもアルベルト同様、養子を持った。そして年月が流れて、その末裔は17世紀頃にカトリックからプロテスタントに改宗し、代々牧師の職業を継いできた。そして日本の明治の時代にアロイスが日本へ伝道のため渡航してきて、そのまま日本に帰化して日本人の女性と結婚し、今日に至るわけである。
 隆志は封筒から手紙を出して佐緒里に見せた。手紙は茶褐色に変色していたが、佐緒里の書いた文字はくっきりと残っていた。佐緒里は手紙を隆志に返した。そして無意識のうちに目から涙がポロポロと落ちてきて、涙が止まらなくなった。

SDS18.png

SDS19.png

「ど、どうしたんですか? 赤嶺さん」
「ごめんなさい・・・ 何でもないんです。何でも・・・ ないから・・・ 何でもない・・・」
 そう言いながら、佐緒里は自分の真正面にいた隆志に抱きついた。その瞬間、隆志は体全体に電気のようなものが走ったのを感じた。一種の『運命の赤い糸』のような現象だった。隆志の心の奥底に眠っていたカールの魂が復活した瞬間だった。
「あの・・ 赤嶺さん」
 佐緒里は隆志に抱きついていたが、吹っ切ったように隆志から離れた。
「ごめんなさい。初めての人にこんなことしてしまって・・・・ でも、何だかあなたが初めて会った人じゃないような気がしたんです。なんて言ったらいいのか・・・・ 変な話だけど、私の前世で出会った恋人のような気がしたんです」
「実は僕もなんです。赤嶺さんに抱きつかれた瞬間に、そんな感じがして、赤嶺さん、いや佐緒里さんが僕の生涯の人のように思えて・・・ こんな事言ったら失礼ですよね」
「いいんです。全然そんな事無いです。あの・・ あなたさえ良かったら、私とお付き合いしてもらえますか?」
「勿論ですよ! 是非僕とお付き合いしてください」
 突然のお互いの告白の会話に、二人ともそのあとはお互い黙ってしまった。暫しの沈黙を破り、隆志が話しかけた。
「僕はS県の城間という所に住んでいて、現在城間中学校の2年生です」
 佐緒里はビックリした顔で隆志を見た。
「(年下だったのか・・・ 高校生だと思った)  城間市だったら、私の隣の市ですよ」
「え? そうなんだ」
「私は鷲尾平です。今、鷲尾平一中の3年生です」
 佐緒里は右手を差し出した。隆志もつられて右手を出し、二人は握手した。そこへ美紀子がやってきた。
「あらあら・・・ こんな所で・・・ みんなあなたが戻ってこないから心配していたわよ」
「叔母様」
「佐緒里がなかなか戻ってこないから、様子を見に来たのよ。さっきから遠目で見ていたけど、二人ともなかなかお似合いのカップルに見えたわよ」
 佐緒里は顔を真っ赤にし、隆志も照れ臭そうな仕草を見せた。
「あ・・ 隆志さん、いや隆志君。この人は私の叔母で、紅林美紀子といいます。私は小学校の時に両親を亡くしているので、今は叔母の元で暮らしているんです」
「そうだったんですか・・・・」
「叔母様。この人は白浜隆志君」
 隆志は美紀子に会釈してから、美紀子に聞いた。
「ところで紅林って・・ もしかして城北大学の教授ですか?」
「あら、私を知っているの?」
「はい。父が城北大の卒業生で、よく話を聞くんです」
「あーっ・・ 君はもしかして私の先輩だった、白浜隆徳さんの・・・ 」
「はい。僕はその息子の隆志といいます。佐緒里さんとお付き合いしたいので、よろしくお願いします」
「佐緒里が選んだ人なら間違い無い。良いわよ」
「ありがとうございます」
「隆志君。色々と話したい事もあると思うけど、まず展示会へ行きましょう。私が案内するわ」
「はい」
 佐緒里は隆志の腕に自分の腕を絡めて腕を組んだ。隆志は少し顔を赤くした。そして佐緒里は隆志と一緒に、展示会の会場へと向かって歩き出した。

 (おわり)



*****************




あとがき

『冒険少女佐緒里』無事完結しました。当初は自作の小説『10年目の回帰』の原作者である、カルシファー様の『囚われた少女』をモデルにした、魔女狩りとDIDをテーマにした作品でしたが、ストーリーの進行とともに、ファンタジー、ミステリー、またまた荒唐無稽といったスタイルに変わって、最後は男女の甘い恋の芽生えチックな形という終わり方をしました。
 タイムスリップのスタイルは、バック・トゥ・ザ・フユーチャーのアレンジを使用し、また魔女狩りがテーマの一つだったので、宗教的表現も入れ、キャラクターに宗教関係者を使うという選択をしました。気象現象や、温泉といったものをストーリーに使ったのは、中世の人々の感覚だと、それらが悪魔のようなものに見えるのではないか、という自分の見解からです。それは違うんじゃないか・・ という人もいるかもしれませんが、今の自分の知識ではこれが精一杯なので、指摘されても本編を書き直すということはしません。また、歴史上の都市名(コンスタンチノープル)や、歴史上の人物(マゼランやマルコ・ポーロ)。さらにジパングという名も使用しています。

 なお、佐緒里ちゃんと隆志君のこれからの事は、小説にはしませんので、皆様のご想像にお任せするという事で、結論に代えたいと思います。

 また、多分いないとは思いますが、イラストや小説で二次創作御希望の方がおりましたら、申し出てくだされば(無断はダメよ)ジャンルやシチュエーションに関係なく(ただしR-18Gはダメ)許可しますので、よろしくお願いします。

 最後まで読んでくださった方、また途中でも読んでくださった方々には、多大な感謝をいたします。読んでくださってどうもありがとうございました。

 鷲尾飛鳥



テーマ : ライトノベル
ジャンル : 小説・文学

特別編『冒険少女 佐緒里3 』

2015年 11月06日 22:35 (金)

SCS00.png

  
 まえがき

 この小説は最初はDIDをテーマとしていましたが、ストーリーが進むにつれて、ファンタジーやミステリー及び荒唐無稽のスタイルに変わってきています。第一部から順番に読んでいくと、そんな感じに変わっているのが見えてくるかもしれません。
また、自分のシチュエーションは、本作品を含めて、これまでの作品の内容にあるように、昭和の時代の少年少女漫画と、特撮にあった全ての要素をベースとしていますので、今後もそのスタイルを通していくつもりです。

  
  *******************************************
  
  目次
  
  ACT.13 十字架の秘密
  ACT.14 佐緒里の一日
  ACT.15 実験??
  ACT.16 怪物の正体?
  ACT.17 新たな試練
  
  
  
  
 それでは第3部スタートです。今回は第2部の最後から繋がっています。
 第1部と第2部に比べて、佐緒里ちゃんの拘束のシーンが激減(無くなった)したので、拘束好きの方々や、拘束萌えの方々には物足りないかもしれません。その代わりに、過去の事件でのシーンでの拘束と拷問のイラストを挿絵として入れています。一応全年齢対称なので、流血やグロ表現は避けています。
  今回は、いよいよ佐緒里ちゃんのタイムスリップの原因(?)と、過去に牢獄で起きた或る事件の内容が解明されます。
  佐緒里ちゃんは果たして21世紀の世界へ帰れるのか・・・・
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
 ACT.13 十字架の秘密

 審問の席で、佐緒里の目の前に置かれた二つの十字架・・・・  それはまさに、佐緒里があの時見たものと同一のものだった。タイムスリップした時に佐緒里の手に握られていた銀の十字架が何故・・ ここにあるのか・・・ そしてその二つの十字架が、佐緒里のこれからの運命を位置づけるということを、今の佐緒里にはまだ知る由も無かった。

SCS01.png

SCS02.png

 佐緒里が呆然としていると、神父が話しかけた。
「サオリ。この十字架は我がヴェルナー家に代々伝わるものだ。金の十字架は『ゴルト・リヒト』、銀の十字架は『ズィルバー・シャッテン』と名付けられている。そしてお前の前にあるその本に、この十字架の事について書かれている。大まかに言うと、金色の十字架は『光』の象徴、銀色の十字架は『影』の象徴となっている。他にも色々な説があるようだが、お前ならばその本を読破できるだろう」

SCS03.png

「ありがとうございます。神父様」
「そこでお前に改めて聞きたいことがある。それはお前がこの世界に来た経緯・・ というより、お前の話からすると、送り込まれたといったほうがいいか・・・ 。確か強い光に包まれたと言っていたな?」
「ハイ。西日が金の十字架にあたって、その光が跳ね返って銀の十字架にあたって、銀の十字架が強い光を発したんです。その時あまりの眩しさにそこにある銀の十字架をつかんでしまい、自分の体が光に包まれたところまでは覚えているんですけど、気がついたときには、前にお話したとおり、村の倉庫にいたんです」
 神父は佐緒里の話を聞き、羊皮紙にメモをしながら言った。
「サオリ。不自然な点が一つある。お前が今言っていた十字架は、二つともここにある。それなのに何故、お前の世界にあったというのか? しかもお前はこの世界に飛ばされた時、この銀の十字架をつかんでいたと言ったな。それなのに何故ここにあるのだ」
 神父は銀の十字架を持って佐緒里に突きつけた。
「それは分かりません。私が持っていた銀の十字架は、私がこの世界に来た時、消えてしまったんです」
「消えた?」
「本当なんです。信じてください」
「ならば質問を変えよう。ここにある十字架が、何故お前の世界にあった・・・ いや、あるのだ?」
「私の知っているところでは、海賊によって略奪された財宝の一部が、私の国の誰かに贈呈され、その贈呈された財宝の中にそこにある二つの十字架があったんです。でも、誰に贈呈されたのかは分からないです。そして、見つかった財宝の展示会が開かれて、そこの十字架も一緒に展示されたんです」
 神父は佐緒里の話を、目を瞑って黙って聞いていた。そして佐緒里の話が終わると、目を見開いて佐緒里を見た。
「海賊によって略奪・・・ そしてお前の国ジパングに贈られた・・・ 。しかし、わざわざ海賊どもがこんな山奥の田舎まで来るというのか。来世の事を知るということは、神への冒涜だといったが・・・ この話は聞き捨てならんな」
 神父は一呼吸置いてから佐緒里に話しかけた。
「サオリ。お前の力で、この十字架のたどる運命を知る事が出来るか?」
「私の力では無理です。ただ・・ 」
「ただ・・ 何だ? 言ってみろ」
「これは私の想定ですが、神父様の子孫の代になると、恐らく海が近い場所へ移ってそこで生活し、その時に海賊によって盗まれたということではないでしょうか。つまり今のこの世界から見て、未来の時代ということです。でもその時期が何時なのかは、私では分かりません」
「んー・・・ お前の言っている事は、考えられない事ではないな・・・ 私はコンスタンチノープルという所で生まれ育った。サオリ。コンスタンチノープルという街を知っているか?」
「はい。私たちの世界では、イスタンブールと呼ばれている所です」
「お前の時代、いや世界ではそう呼ぶのか。ならば話し易い。私は神父になってからは、ローマ教皇庁の指令であちこちの土地を転々としてきた。そしてこのドルフ村に赴任したのが、いまから1年位前。いずれはまた教皇庁の指令で、別の場所へ行かねばならないだろう」
 神父はそこまで言うと立ち上がった。
「サオリ。十字架を奪った海賊の事は分かるか?」
「はい。私の時代の文献では、キャプテン・プランドラーと書かれていました。その海賊は、18世紀に世界中の海を荒らしまわったと聞いています」
「18世紀?」
「はい。私が分かるのはそこまでです。私の時代が21世紀なんですが、今のこの世界が何世紀なのかを知る手立てがありません」
 佐緒里は周りの雰囲気から、今のこの世界、つまり自分のいる場所が中世のヨーロッパの某所で、時代は凡そ1400年代か1500年代ではないかと思っていた。だが、佐緒里の知識では具体的な時期までは換算することは出来なかった。
「そうだ。神父様。どんな事でもいいですから、最近起こった出来事をご存知ですか?」
「出来事?」
「はい。どんな事でもいいです。何かが分かれば、私の時代と今の時代の年代の差を割り出す事が出来ます」
 神父は考え込んでいたが、何かを思い出したかのように言った。
「お前・・・ マゼランを知っているか?」
「船で世界一周を達成した、あのマゼランですか? 知っています。でも、マゼラン本人は世界一周の途中で立ち寄った場所の原住民によって殺されたんです。確か・・ その場所はフィリピンだったはず」
「ほう・・ そこまで知っていたか。そのマゼランが世界一周に旅立って、船が戻ってきたのが、今から30年位前のことだ。お前がいったように、マゼランは途中で死んでしまい、最後まで生き残って帰ってきたのは、船一隻と水夫がたったの18人だったという。まあ・・・ 大変な船旅だったというわけだ。実は私の友人が、そのマゼランが船団を率いて航海に出発した時、その船団の中の一隻の船の乗組員として参加していたんだ」
「そうだったんですか」
「だが、その友人が乗った船は、何かの事情で途中で引き返してしまい、世界一周はしていないし、友人も無事に帰ってきた。どうだ? 今の話で何か分かったか?」
「大体ですけど、今のこの時代は16世紀の中ごろだと思います。プランドラーが現れるのは、今言ったように18世紀。つまり今から200年位後ということです」
「すると、1世紀というのは100年を表すんだな?」
「そうです」
「16世紀・・・ 21世紀・・・・ 」
 そこまで言いかけて、神父は大きな声で言った。
「そうか!! 分かったぞ」
 神父は銀の十字架を手に取ると、佐緒里の傍へ来て、佐緒里に十字架を持たせ、その上から両手で佐緒里の手を握りしめた。佐緒里は少し顔を赤くしながら、神父の顔をマジマジと見た。
「サオリ。お前の手から十字架が消えたわけが分かった。これは私の仮設だが、お前がこの世界に飛ばされた時、十字架はふたつともここにあった。だから、お前が手にしていた十字架が消えたんだ。どう表現したらいいのかは分からんが、同じ物は同じ時代には存在しないという事だ。この十字架が持つ秘密は、他にも色々あるようだが、お前はこの十字架がもたらした作用で、この世界に飛ばされてきた。だからお前がここへ来た時と同じようにすれば、お前はお前の世界に帰る事が出来るかもしれない。まあ、とにかくこの本を読んでみることだ。よし。今日の審問はこれで終わりだ。部屋へ戻りなさい」
 神父は部屋の隅にいたカールを促し、カールは佐緒里をつれて部屋から出た。佐緒里の手には、神父から借りた本が抱えられていた。

SCS04.png


   ***************

 ACT.14 佐緒里の一日

 朝が来て日差しが差し込み、佐緒里は目を覚ますと、起き上がって伸びをしてから深呼吸した。佐緒里は窓際へいって、衝立を上げた。晴れているとはいえ、冬が近づいているせいか、冷たい風が部屋の中に入ってきて、チアガールの恰好をしていた佐緒里は、思わず体を竦めた。この世界に来てからというもの、佐緒里は体操服やチアガールのユニホームを、寝巻き代わりに使っていたのだ。
「ふーっ・・・ 寒い・・・ もうノースリーブはだめだなぁ・・・ 」
 佐緒里は窓から離れると、ベッドの上に腰を下ろした。既に足枷は嵌められていなかったので、部屋の中を自由に歩き回る事が出来ていた。

SCS05.png

「(この世界へ来て一ヶ月が過ぎてしまった・・・ いつになったら未来に帰れるんだろう・・・ 叔母様やみんなに会いたい・・・  )」
 佐緒里は泣き顔になった。普段は気丈に振舞っていたものの、一人でいるときは、寂しさのあまり泣いている事があったのだ。その時鍵が開けられる音がして、佐緒里は吹っ切ったように立ち上がった。扉が開いて、ハンスが食事を持って入ってきた。
「よう。おはよう」
「お、おはようございます。あら、今日はハンスさんが当番なんですか?」
「ああ。カールのやつ寝込んじまってよ。今日は俺が当番だよ」
「寝込んだ・・・ って、どうしたんですか?」
「風邪でもひいたんだろ? 昨日の晩、結構冷え込んだからな。おめえも気ぃつけろよ。お、俺も何だか変だ・・ふぁ・・ ファーックショーン!」
 ハンスは大きなくしゃみをした。それを聞いて佐緒里も体をブルブルっとさせた。
「おい。サオリ。その恰好じゃお前まで風邪引いちまうぞ。食事置いていくから、食う前に着替えた方がいいぞ」
 ハンスはそう言うと、カートを置いたまま部屋から出て行って扉を閉めた。扉越しにまたハンスの大きなくしゃみが聞こえてきた。佐緒里はチアガールのユニホームを脱ぐと、壁にかけてあった服を手に取った。そこへ急に扉が開き、ハンスが再び入ってきた。
「いけねえいけねえ・・ カート忘れたよ・・ って・・ 」
 ハンスは着替え中の佐緒里と鉢合わせして、佐緒里の下着姿をまともに見てしまった。
SCS06.png
しばしの沈黙の後・・・・・・
「キァアーッ!!」
 佐緒里は思わず大声を上げてその場にしゃがみ込み、ハンスは慌てて佐緒里に背を向けた。
「ハンスさん。部屋に入るときはノックぐらいするものよ。鍵がかかってなかったらなおさらよ」
「ご、ゴメン。悪かった。カート忘れたもんだから・・・ ハックション!!」
 佐緒里は背を向けているハンスに近寄った。
「ハンスさん。もうこっち向いて良いですよ」
 ハンスは恐る恐る佐緒里の方を向いた。佐緒里はまだ下着姿で服を持ったままだったので、ハンスは両手で顔を隠した。
「もういいです。見られたものは仕方がありません。それより、カートはあとで私が持っていきますから、早く自分の部屋へ戻って暖かくした方が良いですよ」
「そ、そうか・・・ 分かった。裸見て悪かった。それじゃ鍵は開けておくからな。 は・・ は・・ ハーックション!!」
 ハンスはあたふたと部屋を出て行った。気がつくと佐緒里の腕や脚には鳥肌が立っていて、佐緒里は体をブルブルと震わせた。
「このままじゃ私まで変になりそうだわ・・・ 」
 そう呟きながら。佐緒里は急いで服を着ると、椅子に座って食事を始めた。カールから貰った服は結構暖かかったので、佐緒里はカールに頼んで二着貰って、交互に着ていた。

      **************

 食事が終わり、佐緒里はリュックの横のポケットを開けて、小型のケースを出し、蓋を開けて中から薬の小瓶を出してから、自分の額に手をあてた。
「熱は無いみたいだけど・・・ とにかく薬を飲んでおいた方が良さそうね」
 佐緒里は薬を一錠口の中に入れると、テーブルの上にあるポットの水を飲んだ。
 それから佐緒里は薬の小瓶を見た。
「まだある・・・ これだったらハンスさんとカールにも分けてあげられるわ。今の時代の人たちは抗生物質を知らないから、風邪ならこの薬が効くかもしれない」
 佐緒里が持っていたのはごく普通の風邪薬だった。以前風邪を引いたとき、学校で飲むために、瓶ごと自分のリュックの中に入れっぱなしにしていたのだが、それが思わぬところで役立った。
「それと・・・ 叔母様から貰った解毒剤とビタミン剤があった・・・ 」
 佐緒里は自分が使った食器とともに、薬の入ったケースをカートの上に乗せ、部屋の扉を開けて廊下に出た。そこへハンスがやってきた。さっきと比べて顔色が悪いのが、佐緒里にははっきりとわかった。
「悪いな。後は俺が運ぶから」
「ダメ! ハンスさん。顔が真っ青だよ。まずハンスさんの部屋に案内してください」
 佐緒里の迫力と威圧感に、ハンスは思わず後退りした。
「わ、分かった」
 そういうとハンスは佐緒里に背を向けて歩き出し、佐緒里はその後をついていった。部屋について扉を開けると、佐緒里も続いて入った。
「すぐに横になってください。早くして!!」
 ハンスは言われるままにベッドに横になった。佐緒里はハンスの額に手をあてた。
「熱がある・・・ ハンスさん。他に何か感じる事はありますか? たとえば体が痛いとか、寒気がするとか」
「体は痛くねえけど、寒気がする・・・ うう・・・ 」
 佐緒里はケースから風邪薬とビタミン剤を出した。
「これを飲んでください。私の世界にある薬です。もし風邪ならば必ず効きます」
「お、おう」
 ハンスは佐緒里から貰った薬を水と一緒に飲み込んだ。
「とにかく今日一日は絶対安静ですよ。今日の夜の食事は私が作りますから、この牢獄の台所と洗い場を教えてください」
 佐緒里はハンスから台所と洗い場を聞き出すと、続いてカールの部屋を聞いた。
「カールは隣の部屋だ。それと、神父様は昨日の夕方から隣の町へ出かけていて留守なんだ。帰りは明日の昼頃だって言ってた。だから今日のお前の審問は無しだ」
「わかりました。それじゃハンスさん。私の言う通りにして、ゆっくり休んでください。いいですね?」
「わ、分かった。すまねえな。サオリ」
 佐緒里はハンスの部屋を出ると、隣のカールの部屋をノックしてから扉を開けて中に入った。カールはベッドに横になってうんうんうなっていた。
「カール。だいじょうぶ? 具合はどう?」
「さ、寒い・・・  頭が痛い」
「カール。私の方を向いて」
 佐緒里の方を向いたカールは、顔を真っ赤にしていた。佐緒里はハンスにしたように、カールの額に手をあてた。
「ヤバイ。すごい熱・・・ カール。口開けて」
「(叔母様の解毒剤も飲ませた方がいいわ・・) カール。これを飲んで」
 佐緒里は風邪薬とビタミン剤。そして叔母の美紀子から貰った解毒剤をカールの目の前に差し出した。
「それは何?」
「薬よ。風邪ならば必ず効くから、飲んで」
 佐緒里はカールの口の中に薬を入れると、ポットの水を飲ませた。
「カートを片付けて食器を洗ったらまた来るから」
 佐緒里はカールの部屋を出ると、カートを押して台所へと向かった。

     **************

「洗い場はこっちだったわね・・・ 」
 佐緒里は牢獄の裏手にある道を歩いて、川の傍まで来ると、みんなの分の食器を洗い始めた。
「しかし、この川の水は結構温かい。体を洗った時に感じたけど、真夏のプールに入ったときみたいな感じだった。何故こんなに温度が高いんだろう・・・ 」
 洗い終わって立ち上がったとき、風が吹き抜けてきて、佐緒里は鼻にツンとするような臭いを感じた。
「何だろう、この臭い」
 佐緒里は辺りを見回した。
「川の上流の方からだ。何だか硫黄みたいな臭いだわ」
 佐緒里は上流へ歩き出そうとしたが、みんなの食器が目に入り、行くのをやめて、食器を持って牢獄の建物へと戻っていった。時刻は既に昼近くになっていた。
「ハンスさんが回復したら聞いてみよう。あの人なら何か知ってるかもしれない」

 佐緒里は食器とカートを所定の場所に片付け、再びカールの部屋へ向かった。扉を開けて中に入ると、カールは気持ち良さそうに寝ていた。佐緒里はカールの額に手を触れてみた。
「もう熱が下がっている・・・ 叔母様の解毒剤の効き目はすごいわ」
 佐緒里は部屋から出ると、今度はハンスの部屋へ行き、扉を開けた。ハンスは何事も無かったかのように起きていて、ベッドに腰掛けていた。
「ハンスさん。寝てなきゃダメだって言ったのに」
「悪い悪い。でもよぉ・・ お前の薬飲んだら、何だか知らねえけど、すっかり良くなっちまったんだよ。お前がくれた薬ってすげえ効き目だな。これって魔法の薬なのかい?」
「いいえ違います。私の世界では当たり前のようにあるものです」
「そうか・・・ ところでカールはどうした?」
「まだ寝ています。でも熱は下がっているわ」
「お前はだいじょうぶなのか?」
「私も薬飲んだから。それよりハンスさんに聞きたいことがあるの」
「何だ?」
 佐緒里は部屋にある椅子に座った。
「川の上流の方から変な臭いがしたのよ。何だか硫黄のような・・ 」
「イオー? 何だいそりゃ? たしかに時々変な臭いはするけど、それがお前の言うイオーってやつなのか。サオリ。川の上流へは行っちゃダメだぞ。この前お前がやっつけた悪魔よりも、もっと恐ろしい怪物がいるんだ」
「怪物・・・ どんなやつがいるんですか?」
「姿を見た者は誰もいねえんだけど、白い湯気の中から黄色い臭い煙を勢いよく吐き出して、人を威嚇するんだ。それに周辺には黄色い色をした燃える岩や、煮えたぎった熱湯の湧き出す泉がたくさんあって、昔そこへ落ちた者があっという間に全身に火傷して死んじまったことがあるんだよ。そして熱湯の一部は、この牢獄の裏にあるドルフ川に流れ込んでいるから、ドルフ川の水は年中暖かくて、冬でも凍らねえんだ」

SCS07.png

「そうか。それで川の水の温度が高かったのね。すると黄色い石は硫黄で、熱湯の泉は、もしかして温泉・・・・」
「何だサオリ。イオーだのオンセンだのって、一体何なんだ」
「ハンスさん。今度案内してくれますか? 私がその怪物の正体を突き止めてあげるわ」
「おいおい・・ あんな恐ろしい場所、勘弁してくれよ」
「大丈夫! 私がついています。私は魔女なんだから、怪物くらい平気ですよ」
「そ、そうだったな。お前魔女だったんだな。分かった。今度案内してやるよ」
「ありがとう。それから、もう一つ聞いて良いですか?」

「今度は何が聞きたいんだ?」
「以前神父様やカールが言っていた、この牢獄での事件の事です。神父様に聞いたんだけど、神父様とカールはその時この村にいなかったから、事件の事を詳しくは知らないんです。知りたかったらハンスさんに聞けと言われました」
 ハンスは表情を曇らせた。ハンスはその事件の当事者であるばかりでなく、事件の時のただ一人の生き証人だったのだ。ハンスは出来る事ならば話したくなかったが、佐緒里の真剣な目を見て、話す事にした。
「分かった・・・・・ お前も知っておいた方が良いかもしれんな」
 ハンスはゆっくりと話し始めた。
 ハンスが言うには、この牢獄は元々は城として使われていたもので、城が出来たのは今からおよそ300年前の12世紀頃。当時は周辺で頻繁に戦争があったので、城はドルフ村を含めた周辺の町や村の防衛の役割を担っていた。しかし戦争が無くなって長く平和な時代を経て、城はその役割を終え、駐留していた兵たちも全て引き揚げていって、城は廃墟同然になった。だが、15世紀になって、今度はヨーロッパの各地で魔女狩りの嵐が吹き荒れ、このドルフ村周辺にもその影響が波及してきた。そこで廃墟になった城が修築されて、今度は周辺で捕えられた魔女を収監するための牢獄として使われることになったが、周りでの魔女騒ぎをよそに、この界隈では魔女狩りは行われず、牢獄には一般の囚人を収監していた(しかし収監される囚人は殆どいなかった)。
ところが、今から2年ほど前に、アルベルト神父の前任者の神父がドルフ村に着任してから様相が変わった。先代の神父は魔女に対する憎悪の塊のような人物で、一緒に連れてきた自分の手下二人を看守として使い、ドルフ村の住人たちの中からも看守を半ば強制的に集めて、牢獄に勤めさせた。その中の一人がハンスだったわけである。
 神父は大掛かりな魔女狩りを行い、ドルフ村のみならず、周辺の町や村に住む若い女性や少女たち、また年端も行かないような幼い子供までも、魔女の嫌疑をかけて次々と捕え、地下牢に鉄の鎖でつないで監禁し、執拗かつ凄まじい拷問にかけた。牢獄からは昼夜を問わず、女性たちの泣き叫ぶ悲鳴や嗚咽が聞こえ、捕えられた女性の7割近くが、処刑される前に拷問で命を落とし、自白した者は村の広場で次々と火炙りになった。

SCS08.png

SCS09.png

SCS10.png

 そして、ついに一年前に事件が起きた。その時収監されていた女性は、少女を含めて6人。拷問で苦しむ女性の絶叫と悲鳴に酔い、感覚が麻痺してしまっていた神父は、看守の一人と一緒に少女を鞭打っていたとき、煮えたぎった油の入った釜を、興奮のあまり蹴り倒してしまったのだ。油は拷問部屋の床に流れ出して、蝋燭の火が油に燃え移り、たちどころに部屋全体が紅蓮の炎に包まれた。鎖でつながれて吊るされていた少女は即死し、居合わせた看守たちもその側杖を食って全員焼死。神父も油塗れの衣服に火がついて、全身火だるまになって絶命した。さらに火のついた油が廊下に流れ出し、拷問部屋のあった階層全体が炎に包まれて、上の階層にあった地下牢にも煙が充満し、鎖でつながれて監禁されていた女性たちや、他の看守達も全員煙にまかれて窒息死した。助かったのはその時外に出ていたハンスだけだった。ハンスが異変に気付いて、村の人たちを呼んで連れて来た時には、既に牢獄の到る所から煙が出ていて、手がつけられない状態だった。幸いな事に被害は地下の部分だけで、地上の居住区は無事だった。
 この事件をきっかけに、ローマ法王庁の査察が村に入り、村人たちの証言から神父の行いが全て明るみになった。焼死した神父は悪行に対する天罰が下ったものと断定され、その資格と権限を全て剥奪されて、単なる犯罪者として処分された。唯一の生き残りであったハンスは、神父によって無理矢理看守にされたという経緯があり、村人たちの助命嘆願もあって死刑は免れた。拷問部屋のあった牢獄の最下層は完全に埋められて使用不能になり、地下牢も半分ほどが埋められた。そして、事件の全容を重く見た枢機卿は、ドルフ村を含めた周辺の地域における魔女狩りを全面的に禁止するという処断を下した。そしてその後に村に赴任したのがアルベルト神父だったわけである。以上がハンスの話だった。

「そんな事があったんですか・・・ それで村には女性の姿があまり無かったのね」
「ああ・・ もう思い出したくもないよ」
「ごめんなさいハンスさん。こんな事聞いてはいけなかったんですね」
 佐緒里の声は涙声になっていた。
「おいおい・・ 何でお前が泣くんだよ」
 佐緒里は泣いていた。そしてそのままハンスに縋るように抱きついた。
「ど、どうしたんだよサオリ (いいのかなぁ・・・)」
「帰りたい・・・ 」
「え? 何だって? サオリ」
「帰りたい! 帰りたいよぉ・・」
 佐緒里はそう言いながら、ハンスに抱きついたまま泣いていた。佐緒里の心中を察したハンスは、自分も佐緒里を抱きしめた。佐緒里の身体の柔らかい感触がハンスに伝わってくる。
「サオリ。もう泣くな。帰れるよ。絶対に帰れるから」
「うっ・・ うっ・ 」
「信じろ! 帰れるって信じるんだ。神父様も言っていけど、奇跡は必ず起きる。今の俺にはそれしか言えねえけどよ、今は信じるしかねえんだよ。だからもう泣くな」
「ありがとう・・・・ ぐすっ・・・ う・・」
 佐緒里はハンスから離れると、涙を拭って窓の方を見た。既に日が落ちかかっている。
「いけない・・・ もう夕方だわ。みんなの食事を作らないと」
 佐緒里はふっ切れたように立ち上がると、部屋から出て行こうとした。
「おい。サオリ。俺も手伝うよ」
 佐緒里はハンスの方を振り返った。
「も、もう大丈夫だよ」
「分かった。じゃお願い」

 その日の夕食は、佐緒里が作った野菜のシチューだった。まだ回復していないカールには、食べやすいように野菜を細切れにした。佐緒里とハンスはカールの部屋で一緒に食事をしていた。
「美味い・・・・ サオリは料理の才能もあるんだな」
「美味しい・・ こんなの食べたの久しぶりだよ」
「そう言ってもらえるだけでも嬉しいです」

「ごちそうさん」
「ご馳走様。美味しかったよ」
「おそまつさま」
 佐緒里は食器をカートに乗せると、部屋を出て台所へ向かった。ハンスが蝋燭を持って一緒に歩いた。
「サオリ。食器は明日の朝のものと一緒に洗うから、台所に置いたら、部屋に戻っていいぞ」
「はい」

 部屋に戻った佐緒里は、蝋燭の明かりをたよりに、神父から借りた本を読んでいた。
「確かに・・ 私がエモトさんから預かった冊子と同じ事が書かれている。あの十字架は、金色の方が媒体となって、銀色の方に作用するんだわ。つまり金色の十字架に太陽の光があたると、反射して銀色の十字架に光が吸収され、十字架が光を帯びて・・・  この本には時空を超越すると書かれている。時空を超越、つまりタイムスリップという事か。また、その光は太陽の光と同じ強さならば、太陽でなくとも良いとも書かれている・・・・ 太陽の光か。確かタイムスリップした時は西日があたったんだわ」
 佐緒里はそこで一つため息を突き、あくびをした。
「さてと・・・ もう寝るか・・・ 」
 佐緒里は体操着に着替えた。寒そうなので上はジャージを羽織り、蝋燭の火を消してベッドに横になって毛布を被った。こうして佐緒里の一日が終わろうとしていた。

  **************

 ACT.15 実験??

「ほう・・ ドルフ川の上流に怪物がいる?」
 神父はハンスの話を半信半疑で聞いていた。
「俺がサオリに話したら、サオリが正体を突き止めるって言ってました」
 神父は佐緒里の方を見た。
「神父様。私が思うには、きっとこの前の悪魔の正体と、大して変わらないものだと思うんです」
「ハンス、ドルフ川の上流は、村の掟では『禁断の場所』ではなかったのか?」
「確かにそうです神父様。村ではそのように昔から言い伝えられています。それは今まであそこへ往った者で、生きて村に帰ってきた奴がいないからなんです。といっても恐ろしさのあまり、ここ数年は誰も足を踏み入れていませんけど・・・・ それに禁断の場所はいうものの、危険だから近づくなという事で、絶対に入ってはいけないってわけではないんです」
「分かった・・・・ この件は少し考えさせてくれ」
 神父はそう言うと、今度は佐緒里に話しかけた。佐緒里の前には例の本が置かれている。
「佐緒里。本は読んだか?」
「はい。全部読みました」
「私も何度か読んでいるんだが、太陽の光の作用によって、十字架の機能が働くみたいだ。お前がこの世界に飛ばされたのも、それが原因だとはっきり分かった。だから一度実験してみようではないか」

 それから一時間後・・・
 佐緒里は神父、ハンスとともに牢獄の屋上に立っていた。神父は金の十字架を持ち、銀の十字架は屋上の床に置いた中型の木箱の前に置かれていた。
「よし。実験だ。十字架を太陽に向けるぞ」
 神父が十字架を翳すと、太陽の光が十字架にあたり、神父は反射した光が銀の十字架にあたるように角度を変えた。反射光は銀の十字架にあたって、後ろにあった木箱が光に包まれて消えた。と思ったら、数秒後には再びその場所に現れた。神父は銀の十字架を拾うと、佐緒里の方へ歩み寄り、佐緒里に十字架を持たせて言った。
「サオリの言っていた事が本当ならば、あの木箱は消えて別の時代か世界へと飛ばされているはずだ。実験してみたら確かに木箱は消えた。だが、すぐに現れてここに戻ってきた。サオリ。どう思う? お前の考えを聞かせてくれ」
「私が思うには、光の強さの違いだと思います。確かに木箱は消えましたから、多分消えている間は別の世界にあったのでしょう。しかし、光の強さが弱かったために、再びこの世界へ戻ってきたんだと思うんです」
 佐緒里はハンスの方を向いた。
「ハンスさん。ずっと成り行きを眺めていたけど、光が眩しくなかったんですか?」
「ああ・・ 眩しくはなかったぜ」
「なるほど・・・ 私にも眩しさは感じられなかった。サオリが言うように、光の強さなのかもしれんな」
「光が弱いということは、つまり太陽の関係だと思うんです。私がタイムスリップしたときの光と、今の光では、太陽の光の強さが全然違うんです」
「そうか・・・  それでは太陽の光では、お前を帰すことが出来ないという事か・・・ 」
 佐緒里はガッカリしたように項垂れて、その場に座り込んだ。目からは涙があふれ出てきた。それを見た神父が佐緒里を叱咤した。

SCS11.png

「サオリ! 諦めるのはまだ早いぞ。お前がそんな事でどうするんだ」
 神父はさらに続けた。
「きっと奇跡は起こる。そうだ! 太陽がダメなら、何か他の方法を考えようじゃないか。まだ方法や可能性が無くなったわけじゃないんだ。絶対に諦めるな」
「はい・・・ 」
 佐緒里はゆっくりと立ち上がり、ハンスが佐緒里の背中を軽くポンと叩いた。

  **************

  ACT.16 怪物の正体?

 それから二日が経過した。風邪で寝込んでいたカールは、佐緒里が持っていた薬のおかげですっかり完治し、元気な姿を佐緒里の前に現していた。
「サオリありがとう。おかげですっかり良くなったよ」
 サオリとカールは牢獄の建物の前にある広場にいた。ドルフ川上流にいると言われている怪物の件で考えていたアルベルト神父は、佐緒里を使って正体を確かめさせる事に決めた。自分が村に赴任している間に、出来る限り村の厄介事や、村に存在する変な言い伝えを全て払拭しておきたかったからである。ちなみに一年前に起こった牢獄の事件の時も、アルベルトは自分の先輩でもある、法王庁の枢機卿の指令でこの村に赴任し、事件の後始末をしたのであった。
 佐緒里とカールが話していると、神父がハンスと一緒に馬に乗ってやってきた。ハンスは佐緒里の傍まで来ると、馬から降りて佐緒里に話しかけた。
「サオリ。本当に行くのか? 後悔していないか?」
「はい。行かせてください!」
 そこで神父が口を開いた。
「よし。それじゃ行くか」
 神父は馬を歩かせ、ハンスも再び馬に乗って、佐緒里とカールに言った。
「お前たち二人はサオリの『魔法のほうき』に乗って来い」
 佐緒里とカールはお互いの顔を見合った。
「魔法のほうき・・・・ か・・・・ 」
 佐緒里は少し笑いながら右手を上げると、スティックを出して巨大化させ、地上から高さ60センチくらいのところに浮かせると、その上に座った。
「カール。乗って」
「お、おう・・ 」
 カールは言われるままに、佐緒里の後ろに座って跨ると、両手で佐緒里を抱擁するように、佐緒里の腰につかまった。
「行くよ。低く飛ぶから、怖がらなくていいからね」
「分かった。飛ばしていいよ。サオリ」
 佐緒里は2メートルくらいの高さまでスティックを浮かせると、そのままゆっくりと前に滑るように進め、自転車並みの時速20kmくらいの速度で飛ばした。
 場所を知っているハンスを先頭に、その後ろを佐緒里とカールが続き、殿を神父がつとめて、一行はドルフ川の上流へと向かっていた。硫黄の臭いが次第に強くなり、ついに一行は水蒸気のような煙が吹き出ているのが見える所までやってきて、ハンスが振り返って叫んだ。
「サオリ。あれだ」
 佐緒里はスティックを止めて高度を下げた。
「カール。降りて」
 佐緒里はカールを降ろすと、自分も降りてスティックを剣に変えて、みんなの前に出ると、煙が出ている方向へとゆっくり歩いていった。

SCS12.png

「サオリのやつ・・ 堂々と歩いていくけど、怖くねえのかよ」
「ハンス。恐らくサオリには、怪物がどんな物なのかを、薄々感づいているんだ。我々の知識では計り知れなくて解明出来ない事を、サオリには出来るんだよ」
 ハンスはゴクンと生唾を飲みながら、剣を抜いて佐緒里の後ろを歩いていった。カールと神父も続いた。その時シューッという音とともに、水蒸気が吹き上がり、ハンスは思わず身を竦めた。
「お・・ おい・・・ サオリ。に、逃げたかったら、逃げてもいいんだぞ。こ、こんな恐ろしいやつ相手に逃げたって、何も恥なんかじゃねえからな」
 佐緒里は煙が噴出しているところの前で足を止めた。近くにはハンスが言っていた熱湯の泉や、黄色い燃える石がゴロゴロしている。
「やっぱり硫黄だわ。泉は間違いなく温泉。噴き出す煙は間歇泉とは違うけど、地中から噴出している水蒸気・・・ 臭いからして、硫化水素が発生している気配は無い・・・・ それにここならば風の通り道だから、ガスが充満する心配もない・・・・ 硫黄に触れたり、泉に落ちない限り、大丈夫・・・ 」
 佐緒里は何事も無かったような顔をして、自分の後ろにいたハンスのところまで戻ってきた。神父とカールも傍に来た。
「怪物の正体は、私の国ではあちこちにあるものです。黄色い石は硫黄の塊で、熱湯の泉は温泉といいます。そして噴出している煙は、ガスの一種です」
「つまり、サオリがこの前に言ってたように、これも『神』が作り出したものだということか?」
「はい」
「ハンスからも話を聞いているんだが、イオーとかオンセンって一体何なんだ?」
「硫黄は元素・・・ つまり鉱物の一種です。金や銀はご存知だと思うんですけど、硫黄も金や銀に近いものなんです。ただ、金や銀のような使い方は出来ません。私の知っている範囲では、火打石や火薬の材料として使われています」
「ふむ・・ 火薬はあの黄色い石から作り出すのか。それではオンセンとは何だ?」
「完全に知っているわけじゃないですけど、地中から湧き出る熱湯・・・ と思ってください。私たちの国では、温泉のお湯を利用して、風呂として利用したり、物を暖めたりしています」
「フロ・・・ もしかして人間が入っても大丈夫なくらいの温度の湯に浸かるものか?」
「ご存知だったんですか?」
「ああ。東洋では人々がその『フロ』に入る習慣があると聞いた事がある。つまり、そこにある熱湯の泉は、温度が低ければ人が入っても大丈夫だということか」
「そうです。でもここの泉は温度が高いので、ハンスさんが言ったように、入れば火傷して死んでしまうでしょう」
 ハンスとカールは半信半疑で聞いていた。佐緒里の言葉には、自分たちの知識では計り知れないものがあったからだ。佐緒里は川に一番近い泉からあふれた熱湯が、湯気を上げながら水路を伝って川に流れ込んでいるのを見た。川のすぐ傍には澱みがあって、そこに一旦水がたまり、水面からは湯気が上がっていた。佐緒里はそこへ行くと、水の中に手を入れてみた。熱湯は川の水と混ざっていたため、その感覚は、沸いた風呂の温度の感触だった。
「ちょうどいいくらいだ・・・ このくらいなら入っても大丈夫。たまりの大きさといい、深さといい、露天風呂にはもってこいだわ」
「サオリ。何してるの?」
「あ・・ カール。お風呂に使えないかな・・・ って思っていたのよ」
「今言っていたフロのことか?」
「うん」
「サオリの国には、僕達の知らないものがいっぱいあるんだね」
 カールは興味深げに、佐緒里のしている事を眺めていた。

  **************

 翌日・・・・
 ドルフ川の上流にある急造の露天風呂(?) に佐緒里が入っていた。佐緒里は神父に頼みこんで、神父の計らいでここに来る事を許された。しかしある程度自由の身になっているとはいえ、囚人としての立場は変わっていなかったので、随伴人付きである事が条件なのだが、3日に一度くらいは暖かい風呂に入ることが出来るようになった。付き人は殆どカールだったが、興味津々だったカールも佐緒里と交代で露天風呂に入っていた。カールは湯に浸かりながら佐緒里と話をしていた。
「何かすごいいい気分になる・・ 佐緒里の国の人たちが羨ましいよ」
「でも気をつけてね。長く入りすぎると、湯あたりっていって、逆に体を壊してしまうから」

 これは余談であるが、その後神父の方針として、川から離れた奥の方の温泉や、蒸気が吹き出ている場所、そして燃える硫黄がゴロゴロしている場所は、危険なので立入り禁止という措置が取られ、村の広場には川の上流の危険箇所を説明した『お触れ書き』と、川の上流の危険箇所の手前には、『ここから先は危険! 立ち入り禁止!』という看板が立てられ、柵が作られた。このアイデアは佐緒里のものだったが、曖昧だった『禁断の場所』は、これで正式に禁断の場所になったのである。

 ACT.17 新たなる試練

 佐緒里がタイムスリップして二ヶ月が過ぎようとしていた。未だに21世紀に帰る手立ては無かったものの、ある程度は進展しつつあった。それは佐緒里が持つ変身能力だった。スカーレットエンジェルに変身する時の、強い光を利用すれば、十字架の光の強さも充分になるのではないかという、カールの言葉にヒントを得た神父は、早速実験する事にしたのだ。
 佐緒里はカールとハンス。そして神父とともに、牢獄の前の広場にいた。
「いいかサオリ。お前のスカーレット・・ 何とかっていう呪文で発光する光を、この十字架にあてるんだ」
「危険です神父様! そんな至近距離で光をまともに見たら、眩しさのあまり失明してしまうかもしれません」
「大丈夫だ! お前の呪文と同時に目を瞑るから。さあ、早くやりなさい」
「は、はい!」
 佐緒里はポーズをとると、変身の時の言葉を叫んだ。
「スカーレットスパーク・エンジェルチャージ!」
 佐緒里の体が眩しい光に包まれ、神父は目を瞑った。光は神父がかかげていた金の十字架にあたって跳ね返り、銀の十字架にあたって、その後ろにあった木箱を光が包み込んだ。佐緒里はスカーレットエンジェルJrに変身し、光に包まれた木箱はその場から完全に消えた。
「チャージアウト!」
 佐緒里は変身を解き、神父の元へ駆け寄って、カールとハンスも傍に来た。消えた木箱は再び姿を現すことは無かった。
「成功だ・・・ これならばいけるかもしれん」
 佐緒里の顔が明るくなった。傍らではカールが曇った顔になったのを神父が気付いた。
「カール。ダメだぞ。お前がサオリに傍にいてほしいという気持ちは分かるが、サオリはここにいてはいけない人間なんだ。21世紀の世界とやらに帰してやらねばいかんのだ。いいか? サオリがここに居続けることで、我々の世界が歪んでしまう恐れだってあるんだ。それはサオリがここで死んでしまっても同じ事だ。つまり我々が言う来世の世界が、変わってしまって、全く違う世界になってしまうことすら有り得るのだ」
「はい。分かっています神父様」
「俺にはよく分かんねえけど、要するにサオリを帰さなければなんねえってことなんだよな」

 そこへ村の者が小走りにやってきた。
「神父様。教会に手紙が届いていました」
 そう言って村の者は神父に、閉じ紐で縛って丸められた羊皮紙の手紙を差し出した。
「うむ。ありがとう。ご苦労さん」
 村の者は去っていき、神父は手紙を受け取ると、閉じ紐を解いて、丸まった手紙を開いて読んだ。読み終えた神父はため息をついた。
「まずい事になった・・・ 」
「どうかしたんですかい? 神父様」
「枢機卿が村に来る。何処で噂を聞きつけたのか、サオリの事が知られてしまっている」
「す、するとサオリは・・・・ 」
「魔女裁判だ」
「ええっ!?」
「おいおい・・ そんな事になったら、サオリは火炙りじゃねえか。何も悪い事してねえのに、むしろこの村のために尽くしてくれている、良い魔女じゃねえか」
「まあ待て。ハンス。カール。この件は私が何とかする。とにかく、魔女裁判になる以上、それまではサオリを帰すことが出来ん」
佐緒里が心配そうに神父の顔を見た
「サオリ。心配は要らないぞ。もしもの時は私が命をはってでもお前を守る。お前は絶対に死なせない」
「神父様・・・・・・ 」


     ***************

 佐緒里の事が法王庁の枢機卿の耳に入った。枢機卿が村にやってきて、魔女裁判が始まる。佐緒里は果たしてどのように裁かれるのか・・・・  佐緒里は21世紀に帰ることが出来るのか・・


 以下ACT.18に続く


特別編『冒険少女 佐緒里2』

2015年 10月18日 10:35 (日)

SBS00.png
  
  
  目次
  
  ACT.7 朝
  ACT.8 リュックの中身
  ACT.9 悪魔騒動
  ACT.10 悪魔との戦い
  ACT.11 悪魔の正体
  ACT.12 それから・・・
  
  
  
  
  それでは第2部スタートです。
  今回から、佐緒里ちゃんのセーラー服以外のスタイルも登場します。
  
  
  
  
  
  
 ACT.7 朝

 朝が来て佐緒里は目を覚ました。今までの事は夢であってほしいと願った佐緒里だったが、佐緒里のいる場所は牢獄の建物の中だった。最初は地下牢の壁に鎖で繋がれていた佐緒里だったが、その後はベッドやテーブル・椅子付きの部屋を一つ与えられていた。だが魔女の嫌疑をかけられた(既に自白している)囚人としての立場は変わらず、足には足枷を嵌められていた。
 ガチャガチャという音とともに扉が開き、カールが食事を持って入ってきた。
「サオリおはよう。朝食を持ってきたよ」
「おはようカール」
 カールは朝食をテーブルの上に配膳すると、部屋から出て行った。佐緒里は椅子に座ると、テーブルの上にあるパンを食べ、スープを飲みながら呟いた。
「(どうすれば帰る方法が見つけられるんだろう・・・ )」
 佐緒里の考えている事はその事だけだった。とにかく21世紀の世界へ帰りたいというのが、佐緒里の願いだった。食事を終えて暫くしてから、カールが入ってきて、食器の片づけをしてから、佐緒里の方を向いた。
「サオリ。これは僕からのプレゼント。君の髪に飾ってほしいんだ」
 そう言ってカールは佐緒里に赤いリボンを差し出した。
「ありがとうカール」
 佐緒里はそう言うと、自分の髪を上げ、リボンで髪を結んだ。

SBS01.png

「サオリ。可愛い。似合ってるよ」
「ありがとう」
「それで今日の審問なんだけど、そこにあるリュックの中身を調べるって言っていた。いいかい?」
「別にいいけど、大したものは入っていないわよ」
「分かった。それじゃ、審問の時にまた来るから」
 カールは食器を乗せたカートを引いて部屋の外へ出ると、鍵をかけて去っていった。

 *********
  
 ACT.8 リュックの中身

 佐緒里は椅子に座って本を読んでいた。読んでいたのはエモトから渡された、例の古文書の写しだった。
「エモトさんが、この文章の中に、あの十字架の秘密が書かれているかもしれないと言っていた。でも、あの十字架は・・・ 私がつかんでいた銀の十字架は、私がタイムスリップした時に消えてしまっている。とにかく、この古文書を解読すれば、何かが分かるかもしれない」
 ガチャガチャ
 そこへ扉の鍵が開けられ、佐緒里は読んでいた古文書をテーブルの上に置いた。まずカールが入ってきて、その後ろからは鞭を持ったハンスが続いて入ってきた。
「小娘。審問の時間だ」
 カールは佐緒里の傍まで来ると、鍵を取り出して足枷を外した。
「サオリ。そのリュックを背負って」
 佐緒里は立ち上がると、傍に置いていたリュックを背負った。つづいてカールは持ってきた枷を佐緒里に差し出した。今度は前のようなサイズの合わない鉄の手枷ではなく、両手をしっかり拘束できる木製の枷だった。ガチャンという音とともに佐緒里の両手に枷が嵌められ、南京錠で施錠された。

SBS02.png

「おい小娘。その手枷は聖水で浸してあるから、これでもうお前の魔法は使えないぞ」
 そう言うとハンスは持っていた鞭を床に叩きつけて威嚇した。
「ハンスさん。ダメです。やめてください」
「カール! 貴様、その魔女娘に誘惑されたのか。えーい! 看守まで誘惑するとは、ふしだらな奴!! 覚悟しやがれ」
 ハンスは鞭を振り上げると、佐緒里目掛けて叩きつけた。
 バチバチバチッ!!
 鞭は佐緒里がはったバーリアに跳ね返され、佐緒里はハンスを睨みつけて威嚇した。
「わわわ・・・ ま、ま、魔法封じが効かない・・・・ 」
 ハンスは鞭を床に落とすと、慌てふためいてその場から逃げ出した。そして出入り口の敷居に躓いて転倒し、反対側の壁に激突して、呻き声を上げて蹲った。
「あーあ・・・ 」
 佐緒里とカールは同時に声を上げ、お互い顔を見合って、思わず吹き出した。
「サオリ。行くよ」
 カールは佐緒里の肩を軽くポンと叩き、佐緒里はカールと並んで歩き出した。その後ろからハンスもヨタヨタしながらついていった。

 *  *  *  *  *

 審問室(昨日と同じく神父の書斎)では、佐緒里が背負っていた学校指定のリュックが開けられ、中に入れてあったものが次々と机の上に置かれた。佐緒里は学校帰りに直接展示会の会場へ行っていたので、その日の授業で使った教科書とノートに筆記用具。携帯電話に電卓。布製の袋の中から体操服にシューズ、部活で使用するチアリーダーのユニホーム。そして何故か替えの下着まで(もしもの事を考えて常備)・・・ 。それらが全て机の上に並べられた。それらの物を見て、神父は勿論のこと、ハンスもカールも唖然とした顔で眺めていた。
「何だこりゃ・・・ どれもこれも見た事の無いものばかりだ」
 既に神父は佐緒里の容姿から、佐緒里が東洋人である事が分かっていて、佐緒里の話からジパングから来たとも確信していた。ハンスとカールも、リュックの中身を見て、佐緒里が別の国から来た人間であるとはっきり確信した。が、何処からどうやってきたのかまでは知る由もなかった。
「(サオリのこの持ち物・・・ 見た事の無いものばかりだ。一体この子は何者なんだ)」
 カールは佐緒里が、自分の全く知らないような、未知の果てしない世界から来た人間のように思えてきた。
 一方アルベルト神父は少し考えてから、傍にいたハンスとカールの方を向いて言った。
「お前たちは外へ出ていろ。私が呼ぶまで、この部屋に入ってくるな」
「わ、わかりました」
 ハンスとカールは、神父の顔色を見てただ事ではないと感じたが、神父に追い立てられるように部屋を出ていき、神父は内側から部屋の鍵を閉めた。
「神父様・・ 一体何を・・ 」
 神父は佐緒里の傍へ来ると、リュックの中身を指差しながら佐緒里に向かって言った。

SBS03.png

「サオリ。お前、一体何者なんだ」
 神父はさらにたたみかけるように言った。
「ここにあるこれらのお前の持ち物は、どれもこれも始めて見るものばかりだ。いや、私の見立てでは、この世界には存在しない。 どうやらお前は魔女や悪魔とは、全く別の次元の者のようだな。事と次第によっては、私はお前を拷問にかけなければならない」
 神父は佐緒里の前に、指締めの器具をドンと置き、部屋の隅に立てかけてあるコウノトリという拷問器具を指差して、さらに持っていた十字架を佐緒里の目の前に突きつけて威嚇した。
「待ってください。私の話を聞いてください」
「よし。聞こう」
 神父は佐緒里から離れると、机を挟んで佐緒里の向いに座った。
「私は・・・・  私はこの世界の者ではないんです。この世界よりも遥に先の未来から来たんです。来たというより来させられたといったほうが正しいんですけど」
「未来の世界だと? つまり、今の時代を現世としたら、お前の住む世界は来世ということか?」
「はい。言っても信じてもらえないと思って、悪い魔女に魔法をかけられたと嘘をついたんです。ごめんなさい」
 神父は何を思ったか、席を立つと佐緒里のすぐ傍に来て机に頬杖を突き、佐緒里に自分の顔を近づけて言った。
「サオリ。未来から来たならば、私の運命を知っているだろう?」
 佐緒里は神父の目を見た。が、神父はすぐに立ち上がって佐緒里から離れた。
「話す必要は無いぞ。自分の未来を知るという事は、神への冒涜になる。聖職者として、そういう事は望ましくない。だから、私が今言った事は忘れてくれ。サオリ。そこに並べた物を片付けていいぞ。今日の審問は終わりだ」
 神父はハンドベルを持ち、扉の所まで行って鍵を開けると、扉を開けてハンドベルを鳴らした。その間に佐緒里は自分の私物をリュックの中に入れた。
 暫くするとハンスとカールが部屋に入ってきた。
「今日のサオリの審問は終わりだ。部屋へ連れて行け」
 カールは佐緒里にリュックを背負わせ、佐緒里の両手に木枷を嵌めると、枷から伸びている鎖を持って佐緒里を促した。
「行くよサオリ」
 佐緒里はカールと並んで歩き出し、そのあとをハンスが鞭を持って続いて行った。ハンスの表情は何故かぎこちなかった。佐緒里に何か言いたそうだったのだが、あえて黙って二人のあとをついて歩いていった。

 *  *  *  *  *
  
 ACT.9 悪魔騒動

 その日の夜。佐緒里はカールが持ってきた食事を食べ終えると、例の古文書が書かれた冊子を読んでいた。日本語で書かれたものではなかったが、佐緒里の超能力は、外国語も判読できるところまで研ぎ澄まされていたのだ。かつて財宝関係の古文書の暗号を解読した佐緒里である。普通の文書ならばお手の物だった。
「んー・・・ やっぱりあの十字架には秘密があるんだわ。二つの十字架の金色の方に光をあてると、その反射光が銀色の十字架にあたって、何かが起こる・・・ ここにはそのように書かれているけど、その先の文字が潰れていて、何が起こるのかは分からないな・・・ 」
 そこへ鍵の開く音がして扉が開き、カールがカートを持って入ってきた。佐緒里は冊子を机に置くと、片づけを手伝った。
「サオリ。それじゃお休み」
「お休みなさい。カール」
 カールが部屋から出ようとした時、ハンスがすごい形相で部屋に飛び込んできた。
「ハンスさん!!」
 ハンスはカールが止めようとしたのを跳ね除け、佐緒里につかみかかってきた。
「やめて! 何するの!?」
「サオリ。俺の話を聞いてくれ」
「話?」
「ああ。お前、自分の事を『良い魔女』だと言っていたな」
「はい」
「だったら、村にいる悪魔をやっつけてくれるか!?」
「悪魔? ですか?」
「そうだ」
「ハンスさん。悪魔って、村人たちが言っていたやつですか?」
「そうだよ。お前はまだここに来ていくらも経ってないから分からんかもしれんが、今まで何人もの村人達が、悪魔を見て怪我をしたり発狂したりしているんだ」
 ハンスは佐緒里の方を向いた。
「サオリ。頼む。お前の魔法の力で、悪魔をやっつけてくれ。頼む」
「ハンスさん落ち着いてください。私の力が通じる相手なら、私が退治します」
「そうか。やっつけてくれるのか。よーし!!」
 ハンスは安心したような顔で、小走りに部屋から出ていった。続いてカールもカートを持って部屋から出て、扉の鍵を閉めた。
二人が去ったあとで、佐緒里は部屋の中で考え込んでいた。ハンスの迫力に圧倒され、反射的にオーケーしてしまったのを後悔していたのだが、悪魔の正体にも興味があった。
「悪魔か・・・ 私の力が悪魔に通用するんだろうか。しかし、一体どんなやつなんだ・・ 」

 *  *  *  *  *

 翌日・・・
 審問の時間になって、カールとハンスが部屋に入ってきたので、佐緒里はハンスに聞いた。
「ハンスさん。悪魔って一体どんなやつなんですか? 私、よく考えたんだけど、正体の分からないやつと戦うのはすごく不安なんです」
 ハンスはいつものような不貞腐れた態度ではなく、珍しく穏やかな表情をしていた。
「今日の審問で俺が説明するよ。神父様には既に話を通してある」
 佐緒里はいつものようにカールに木製の手枷を嵌められ、カールに鎖を引かれて部屋を出た。

SBS04.png

「ハンスがどうしてもと頼むんで、今日の審問は、この村に出現する悪魔について話をする。だが、私とカールはまだこの村に来ていくらも経っていないので、詳しい事は分からない。それで、村にずっと住んでいるハンスから話を聞いてくれ」
 神父はそう言うと、別の椅子を持って部屋の隅へ行き、そこへ椅子を置いて座った。いつも神父が座る場所にはハンスが座って佐緒里と向かい合った。
「サオリ。俺の知っている事を話すから、よく聞いてくれ。この悪魔は俺が生まれるはるか前から、村に出没していたらしい。それで、そいつは日中霧が立ち込めているときに、太陽の方角と反対の場所に出てきて、人々を威嚇するんだ。いままで何人もの人が犠牲になっている」
「犠牲って、死んだ人もいるんですか?」
「いや、俺の知る限りでは、死んだ者はいない。そいつは同じ場所に立ったまま、動いたり襲ってきたりはしないんだ」
「日中と霧って言ってたけど、霧が出ていない時や夜は出ないんですか?」
「日中の霧が出ている時だけなんだ。それ以外の時は出たとは聞いていない」
「(随分都合のいい悪魔ね・・・ これはもしかすると・・・ )」
 佐緒里は頭の中で、ある事を思い浮かべていた。
「(ハンスさんの話からすると、もしかすると、気象現象かもしれない。恐らくこの時代の人たちは、そういう知識に乏しくて、そういうものを悪魔や怪物のような感覚で考えているのかもしれないわ)」
「サオリ。お願いだ。お前の魔女の力で悪魔を退治してくれ。悪魔のおかげで、昼間に霧が出てくると、みんな怖がって外へ出なくなってしまうんだ。頼む」
「わかりました。やりましょう。でも、この事は私一人だけでなく、ハンスさんとカールの協力が必要です。二人とも私と一緒に戦ってくれますか?」
「勿論だよサオリ。僕は君と一緒に戦う」
「お、俺もだ。い、一緒に戦うぞ!」
「二人ともありがとう」
「私を忘れてはいないか?」
「神父様・・・ 」
「私も戦う。サオリ。何か必要なものがあったら言ってくれ」
「それじゃ神父様。十字架を用意してください」
「十字架? よし。分かった」

     *  *  *  *  *

 しかし、なかなか都合よく霧は発生しなかった。そんなこんなで一週間が過ぎ、その間の佐緒里への審問は日常的な世間話が主だった。その中で、神父は佐緒里が未来の世界から来た者で、その未来の世界へ帰りたがっているという事を、半信半疑ながら納得したのだが、神父の知識や力ではどうすることも出来なかったので、『神のご加護』とか『奇跡』という言葉を繰り返し言い、佐緒里を宥めていた。
 佐緒里にとって幸いだったのは、佐緒里を審問している神父には意外と広い世界観があった事だった。神父はコンスタンチノープル(現在のイスタンブール)で生まれ育ったため、様々な人種の人と接していたので、東洋の事にも詳しく、また友人の中に水夫がいたので(既に大航海時代の真っ只中)、船で航海して帰ってきた友人から、別世界の話も沢山聞かされていたのである。

 その日の審問が終わり、佐緒里はいつものように自分の部屋に戻された。カールは佐緒里の手枷をはずすと、足枷を嵌めずに佐緒里の着ていたセーラー服を指差して言った。
「サオリ。その服、いつまでも着ていないほうがいいよ。もしここから外へ出る事があったとき、その恰好は目立ちすぎるぜ」
 そう言いながら佐緒里に顔を近づけ、佐緒里に耳打ちした。
「(気にならない程度なんだけど、臭うよ。服を洗濯して、自分の体も洗った方がいい)」
 佐緒里はセーラー服の袖を自分の顔にあてた。
「(確かに臭う・・・ ) でもカール。洗濯とか、体を洗うっていっても・・・・・・   」
「この牢獄の建物の裏に川があるから、今からそこへ連れて行くよ。それから、この前調べたリュックの中に、着替えの服や下着が入っていただろう。それに着替えたら?」
「うん」
 佐緒里は着ていたセーラー服を脱ごうとして、それを見たカールは慌てて部屋の外へ出た。

 *  *  *  *  *

 佐緒里はセーラー服を脱ぎ、椅子の背もたれに掛けると、はいていた下着も予備のやつと取り替えて、リュックの中にあった体操服に着替えた。そこへタイミングよく鍵を開ける音とともに、カールが服を持って入ってきた。

SBS05.png

「サオリ。代えの服を幾つか持ってきたから」
 カールは佐緒里に服を渡した。渡された服は修道女の服と、普段着だった。カールは普段着の方を指さしていった。
「そっちは僕の着ていた服だから、サイズが大きいかもしれない」
「ありがとう」
「それじゃ川へ行こうか」
「手枷はしなくていいの?」
「裏山は道が悪いんだ。手枷をすると危ないからそのまま行くよ」
 カールは佐緒里を促し、一緒に部屋から出た。

 *  *  *  *  *

 ACT.10 悪魔との戦い

 そしてある日の朝、ついに待ちに待っていた霧が発生した。しかし視界僅か50m足らずの濃霧で、太陽すらも見えないくらいだった。
「あーあ・・ 霧が発生したのは良いけど、こんなに濃い霧じゃ太陽が見えないから、悪魔は出てこないな」
 牢獄の屋上にいたハンスが呟いた。そこへカールが上がってきた。
「ハンスさん。これじゃ逆に霧が濃すぎて、悪魔が現れないよ」
「よし。一旦下へ降りるか。まず朝飯食って腹ごしらえだ」
 ハンスは小走りに下へ降りていき、カールもその後をついていった。

 霧が出ていた様子は、佐緒里の部屋からも見えた。佐緒里が窓の外を見ていると、扉の鍵が開けられて、カールが食事を持って入ってきた。
「サオリ。おはよう。食事を持ってきたぞ」
「ありがとう」
 佐緒里は窓から離れてテーブルの所まで来た。最初は歩くのに違和感があった足枷も、次第に慣れてきていた。カールが部屋から出て行き、佐緒里は椅子に座って、いつものように食事を始めた。
「霧が出てくれたのはいいけど、これじゃ霧が濃すぎる。でも、太陽が昇ってくれば・・・ 」
 佐緒里は食べながら考えていた。
「もし、これが私の知識にある、『気象現象』だったら、解決策がある。しかし、今のこの時代の人たちが、納得してくれるかどうか・・・ ってところだわ」
 鍵を開ける音とともに扉が開いて、カールが部屋に入ってきた。カールは慌しく食器を片付けながら、佐緒里に言った。
「サオリ、あと少しで出かけるから、すぐに服を着替えろ」
 カールは部屋の外へ出て行き、佐緒里は立ち上がると、壁にかけてあった修道女の服を手に取った。

 着替え終わって暫くしてから、扉の鍵が開けられ、カールが入ってきて、続いてハンスも入ってきた。二人とも腰に剣を付けている。カールは佐緒里の傍へ来ると、佐緒里の足枷を外し、持ってきた靴を渡した。
「その恰好にはこっちの方が合うよ」
 佐緒里は履いていたスニーカーを脱ぐと、カールが持ってきた靴に履き替えた。
「サオリ。行こうか」
 カールは佐緒里の手を握って、佐緒里は顔を少し赤くした。

 牢獄の建物を出て、佐緒里はハンスに促され、停めてあった馬車にカールと一緒に乗り込んだ。少し遅れて神父も馬に乗ってやってきたので、ハンスは馬車を走らせた。霧はまだ出ていたが、太陽が昇り始め、少しずつ薄らいできていた。
 目的地に到達すると、噂を聞きつけてやってきた村人達が数人立っていて、その数は少しづつ増えてきていた。人々の中には、鍬や鋤を持って武器代わりにしている者たちもいて、その中には、佐緒里を発見して捕えた男たちの姿もあった。馬車から降りてきた佐緒里の姿を見て、村人達は口々に喋りあっていた。
「おい。見ろよ。小娘だぜ」
「あんな小娘が悪魔と戦うっていうのか」
「おい。あいつは、俺たちが捕えた魔女じゃないか」
「魔女が悪魔と戦うって・・??」
 佐緒里の耳にはそれらの話し声が聞こえていたが、気にせず歩き、悪魔が出る場所までやってきた。
「サオリ。この辺りだ。ただし、太陽を背にしないと悪魔を見る事は出来ない」
 ハンスが佐緒里を促しながら、剣を抜いて周りの様子を窺った。カールも佐緒里の傍へ来て佐緒里と少し距離を置き、神父も佐緒里に頼まれた十字架を持ってやってきた。やがて霧がさらに薄くなり、太陽の光が僅かに出てきて、虚像のようなものが現れ、村人達が騒ぎ出した。
「出たぁ!! あそこだ。あそこに悪魔が出たぞ!」
「ウワアーッ! あんなにたくさんいやがる」
 出てきたのは一体ではなく、複数のものが虚像の様な形で、周りに光を帯びながら立っていた。佐緒里が考えていた通り、これはブロッケン現象という気象現象の一種で、佐緒里の傍にカールたちもいたため、虚像が複数現れていたのだ。
「(やっぱり・・・ これは思っていた通りブロッケン現象だ。この時代の人たちの知識や感覚では、こういうものは悪魔か怪物に見えるんだわ)」
 佐緒里は自分の思っている事を説明しようとしたが、あえてそれを抑え、映っている虚像に向かって身構えた。

SBS06.png

SBS06-1.png

 *  *  *  *  *

  ACT.11 悪魔の正体

 佐緒里は目の前にいる虚像に向かって歩き出した。それに合わせる様に、映っている像のひとつが僅かに揺れた。後ろの方では村人達が口々に言い合っていた。
「おい・・・ 大丈夫なんだろうか・・・ 」
「あの小娘は魔女なんだろ? 一緒になって襲ってきたりしねえだろうな」
「魔女と悪魔の戦いか・・・ しかし、この場合、魔女とはいえ、あの娘に勝ってもらいてえ」
 歩いている佐緒里の後ろから、少し距離を置いて剣を抜いて構えるカールとハンス、そしてアルベルト神父も十字架を翳して続いていた。佐緒里は後ろを振り返って叫んだ。
「みんなここで止まって。今、私に近づかないでください」
 そういうと佐緒里はポーズをとった。
「スカーレットスパーク・エンジェルチャージ!」

SBS07.png

 佐緒里の体が眩しい光に包まれ、後ろにいたカールたちは眩しさに顔を覆った。光が消えた時、佐緒里の姿がスカーレットエンジェルJrの姿になっていて、カールたちは驚いた。佐緒里は両手をクロスさせて力を込めると、一気にその手を前に出して叫んだ。
「エンジェル‐ウィンドトルネード!!」
 風のエネルギーが渦状になって伸びていき、正面にあった霧を吹き飛ばして、青空が広がり、見えていた虚像が全て消えた。
「やった!」
「魔女が悪魔に勝ったぞ」
 後ろの方では村人達の歓声が上がった。佐緒里はスカーレットエンジェルの変身を解いて、元の修道女の姿に戻って踵を返すと、呆気にとられているカールとハンス、アルベルト神父の前まで歩み寄った。
「みんな。これは一時的にしのいだだけです。この通り霧を消せば、あなたたちが言っている悪魔の姿は消えますけど、霧が出ればまた現れます。私の力では、霧を一時的に消す事しか出来ません」
「サオリ。どういう事なんだ。お前の力でもダメだっていうのか」
「違います。あれは悪魔ではないんです」
「悪魔ではない・・・・ それじゃ一体・・・ 」
「自然の力・・・ つまり、あなたたちの言う『神』が創り出したものなんです」
「神・・・ イエス様が作り出したものだというのか」
「イエス様かどうかは、私には分かりません。でも私の国では、あれは『御来迎』といって、神として崇めている人たちもいます」
「ゴライゴー・・・ お前の国でも出るのか。お前の国では、あれは神の使いか・・・ 」
「はい」
 ハンスとカールは半信半疑で、何だそんな事なのかという顔をし、神父は佐緒里の言葉を聞いて黙って考え込んでいたが、佐緒里の前に歩み寄ってきて言った。
「サオリ。つまりあれは、悪魔とか怪物とは全く無関係だという事なんだな」
「そうです。私の知識では、これ以上詳しく言う事は出来ませんけど、分かっている事は、太陽と霧によって出来る影であって、神が創造した自然現象だということです。だから恐れたり、怖がる必要は無いんです。」
「なるほど・・・ 影か・・・ 」
 その時再び霧が立ち込めてきて、再び虚像が現れ、村人達が騒ぎ出した。佐緒里は村人達の方ヘ向かって歩き、距離を置いて止まってから、現れた虚像を指差して言った。

SBS08.png

「みなさん。恐れる事はありません。あそこに見えているのは悪魔でも、魔女の使いでもありません。太陽と霧によって出来る、私たち自身の影なんです。神が創造したものなんです。」
 村人達からざわめきが起こった。その中から佐緒里を倉庫で捕らえた男の一人が、虚像を指差しながら出てきた。
「そ、それじゃ・・ 俺たちはあれを悪魔といって恐れる事は無いという事か」
「そうです。影を恐れる事はないです」
 村人達の間で再びざわめきが起こり、みな半信半疑のような表情で、一人また一人と、その場から去っていって、佐緒里と、カール、ハンスと神父だけがそこに残された。気がつくと霧が晴れていて、上空には青空が広がっていた。
「やったぁ! やった。やった。サオリちゃん!」
 ハンスが佐緒里に飛びつき、そのまま佐緒里を両手で持ち上げた。
「きゃっ・・・・  」
「魔法の力ってすげえんだな。サオリ。お前本当に良い魔女だったんだな」
 ハンスは佐緒里を降ろすと佐緒里から離れ、神父が佐緒里に言った。
「サオリ。よくやってくれた。村の者達を代表して感謝する」
「こちらこそ。協力してくれてありがとうございます」
「よし。それじゃ帰ろうか」
 神父は馬に乗ると、牢獄の方へ向かって馬を歩かせ、佐緒里とカールも馬車に乗って、ハンスは馬車を出発させた。

 *  *  *  *  *

 ACT.12 それから・・・

 それから佐緒里の待遇が良くなったことは言うまでも無いことだった。収監されている部屋はそのままで、鍵がかけられて軟禁されている状態は変わらなかったが、足枷は嵌めなくてもいいことになり、部屋から拘束具は全て取り払われた。また、連行中も手枷無しになった。さらに『散歩の時間』と称して、一日最低一回は牢獄の屋上へ出る事を許された。
 神父による審問は毎日続いていたが、日常的な世間話が中心になり、佐緒里は自分の知識を神父に話し、神父は宗教的なものを絡めた話を佐緒里にした。既に神父は佐緒里が異教徒である事が分かっていたので、佐緒里の持つ宗教観というものも、審問で聞き出していた。
 そんなこんなで、佐緒里がこの世界にタイムスリップして一ヶ月が過ぎようとしていた。が、相変わらず21世紀に戻れる手段は見出せなかった。
 しかしある日カールが、佐緒里が読んでいた冊子に目をつけ、それを神父に見せた事から、状況が一変した。神父の顔が真剣そのものになり、神父は書斎にあった本の一冊を佐緒里に貸し出した。それは佐緒里が読んでいた冊子の原本で、本の中身を見た佐緒里の顔色が見る見る変わっていったのは言うまでも無かった。
「サオリ。お前が持っていたものと、その本の内容はほぼ一致する。もしかしたら、お前が自分の世界へ帰るための事が載っているかもしれん。お前に貸すから、じっくり読んでみろ。それから、その本に載っている二つの十字架とは、これだ!」
 神父は飾りのついた中型の箱を持ってきて、それを開け、中から二つの十字架を取り出して、佐緒里の前に置いた。その十字架は、佐緒里があの時、展示場で見た金色と銀色の十字架そのものだったのである・・・・・・・・・・・・・・・

  **************

  審問の席で、佐緒里の目の前に置かれた二つの十字架・・・・  それはまさに、佐緒里があの時見たものと同一のものだった。タイムスリップした時に佐緒里の手に握られていた銀の十字架が何故・・ ここにあるのか・・・ そしてその二つの十字架が、佐緒里のこれからの運命を位置づけるということを、今の佐緒里にはまだ知る由も無かった。
  
  
次回ACT.13に続く
  

特別編『冒険少女 佐緒里』

2015年 10月02日 22:36 (金)

先に脱稿した、『10年目の回帰』の原作者である、カルシファー様の、『囚われた少女』をアレンジしたような感じのスタイルに仕上がりました。テーマはIFで、もしも変身ヒロインがタイムスリップしたら・・・・・  という感じで書き上げました。

SAS00.png

  美少女戦隊エンジェルス特別編  
  冒険少女 佐緒里
  
 まえがき

 美少女戦隊『エンジェルス』に登場した、紅林美紀子の姪の赤嶺佐緒里を主人公にしたエピソードを、以前から書こうと思っていて、ようやくそれを実現させるに至りました。エンジェルスの本編では、中学生ながらも、絵里香たちをサポートし、時にはネオ‐ブラックリリーに捕まってしまったり、時には絵里香たちと一緒に怪人を倒すといった活躍をしている佐緒里ちゃんですが、まだ彼女を主役にしたエピソードがなかったので、本作品を執筆する事にしました。
 彼女は変身ヒロインであり、本作品の中でも勿論スカーレットエンジェルJr(ジュニア)に変身します。ちなみに、Jrというのは、誰かが名付けたものではなく、佐緒里ちゃん本人がそのように名乗っているだけです。
 今回はエンジェルスのような形式ではなく、“IF”と“タイムスリップ”をテーマにして、『もしも、変身ヒロインが違う時代にタイムスリップしたら・・・ 』という形で物語を展開させます。最近書き上げた10年目の回帰の原作である、『囚われた少女(原作カルシファー)』における『魔女狩り』を題材とし、作成に当たっては、次の作品を参考資料として使用しました。

囚われた少女 魔女狩りに囚われた少女広美(原作カルシファー)
バック・トゥ・ザ・フユーチャー(映画)
大魔王シャザーン(アニメ)
時の行者(横山光輝)
戦国自衛隊
  
  ※これらの作品には全て『タイムスリップ』という共通点があります。
  
  *******************************************
  
  目次
  
  ACT.0 プロローグ
  ACT.1 タイムスリップ
  ACT.2 囚われのヒロイン
  ACT.3 監禁
  ACT.4 佐緒里の力
  ACT.5 審問
  ACT.6 魔法?
  
  
  
  
  
  
  
  
 ACT.0 プロローグ

 この物語は、悪の秘密結社『ネオ‐ブラックリリー』がエンジェルスの活躍で滅んでから、約半年後から始まり、冒頭部は本編第30話のおまけの部分から始まっている。
  
  
「はーい。エモトちゃんに佐緒里ちゃん。二人とも、もっと傍に寄って」
「ふたりともポーズとって」
 ここは逗子の御浜海岸の一角。テレビ番組『世界の果てまでGO GO GO!』の収録が終わり、記念撮影が行われていた。海岸の砂浜の上に上がった財宝の箱が開けられ、中にはギッシリと財宝が詰められていて、その左右にはコスプレ姿の佐緒里とエモトの二人が立っていた。佐緒里はエモトにコスプレのスタイルをしてくれるように頼まれ、自分が中学で所属しているチアリーディング部のユニホームを持ってきて、それに着替えてエモトと並んでいた。
 今を遡る事約半年前、この海岸一体では、昔の海賊が当時の有力者に贈ったとされる財宝が眠っているという噂が立ち、それに纏わる古文書まで出てきて、一時期ブームになったことがあった。悪の組織ネオ-ブラックリリーもその財宝を奪おうとして、邪魔になる学者やマニアを殺し、佐緒里を捕まえて文書を解読させた経緯があった(エンジェルス本編の30話参照)。佐緒里の解読した古文書を元に、財宝の探索が行われ、ついに海岸から100メートルほど沖合の海底にて、財宝の入った箱らしきものが発見されて、今日その箱が御浜海岸の砂浜に上げられたのである。そして箱を開けてみれば、中から金貨や銀貨、様々な装飾品や宝石類がザックザックと出てきて、佐緒里とエモトは勿論、居合わせたスタッフ達も引っくり返るくらい驚いた。その様子はエモトがレギュラー出演しているテレビ番組『世界の果てまでGO GO GO!』の特番で収録され、エモトに招待された佐緒里は、その収録の様子を見学させてもらっていた。
 やがて収録が終わり、佐緒里はエモトに箱の前まで呼ばれ、二人そろって箱の前で記念撮影に収まったのであった。

SAS01-01.png


    * * * *

 それから2ヶ月が経過した。季節は既に秋本番といった状況で、佐緒里も冬の制服に身を包んで、いつものように学校へと向かっていた。
「佐緒里ちゃんおはよう」
「佳奈子ちゃんおはよう」
佐緒里は途中で友達の佳奈子と会い、二人そろって学校へと歩いていった。佐緒里も佳奈子も中学3年生。二人とも県下有数の 進学校である県立鷲尾平高校を目指していて、受験体制には余念がなかった。
 そして学校が終わり、帰宅の途についていた佐緒里と佳奈子はANGELの前で別れると、佐緒里は店の戸を開けて中に入った。
「ただいまぁ」
「佐緒里ちゃんお帰り」
 カウンターにいた絵里香が佐緒里を出迎えた。絵里香は現在明峰学園高校3年で、受験勉強の傍ら、孝一と一緒にANGELでバイトをしていた。美紀子がオーナーなのだが、大学教授との掛け持ちのため、店のことを絵理香と孝一に託し、絵理香と孝一はふたりでそれを引き継いだのである。ANGELでは美紀子の姪の佐緒里と絵理香の友人の美由紀が一緒に生活している。美由紀は両親と弟が北海道へ行ってしまい、もともと住んでいた家には、姉夫婦が子供を連れて引っ越してきたので、家を出てANGELに居候していたのだ。

2-1

「佐緒里ちゃん。手紙が来てるわよ」
 そう言って絵里香は、佐緒里に手紙を渡した。
「あ・・ エモトさんからだ」
 佐緒里は手紙を受け取ると、店内から自分の部屋へ行き、30分ほどして着替えて手紙を持って店の方へ出てきた。
「あら佐緒里ちゃん。今日は私ずっといるし、アルバイトの子もいるから、手伝わなくていいわよ」
「違うんです絵理香さん」
 佐緒里は手紙を見せながら言った。
 数分後・・・
 絵里香は佐緒里が持ってきた手紙に目を通していた。
「・・・ 展示会の招待状か。例の財宝の事ね」
「はい。見つけられた財宝が整理されて、今度展示会で公開されるんで、エモトさんが正式に公開される日の前に私を招待したいって」
「良かったじゃないの」
「絵理香さんたちの分も招待券がありますよ」
 そう言って、佐緒里は数人分の入場券を出して見せた。佐緒里はもちろんの事、絵里香も喜んでいた。が、この事が佐緒里の今後の運命に大きく関わってくるということに、まだ佐緒里は気付いていなかった。

    * * * *

 ACT.1  タイムスリップ

「えーっ? 展示会に招待されたの?」
 翌日佐緒里のクラスでは、佳奈子や佐緒里の友人達との間で、招待状の事が話題になっていた。
「いいなぁ佐緒里ちゃん。公開前に招待されるなんて」
「でも、佐緒里ちゃんには古文書を解読した功績があるから、これは特権だね」
「うん。仕方ないよね。あーあ・・ 私たちもその財宝を拝んでみたい」
「それで・・ エモトさんからの伝言なんだけど、私の友達で行きたい人がいたら、人数分の入場券を分けてくれるって言ってました。といっても大人数は困るって言ってましたけど」
「中学生は500円か・・・ 佐緒里ちゃん。心配要らないよ。ちゃんとお金払って見に行くって」
「そうだよ。佐緒里ちゃん、そんなに気を遣わなくたっていいよ」
 そんな雑談が交わされ、やがて先生が入ってきて授業が始まった。

 そして3日後・・・
 佐緒里は学校が終わるとANGELへ帰らず、そのまま東京へ向かった。今日がエモトに招待された日だったのだ。展示会の会場は都内の某デパートで、佐緒里が到着すると、入り口でエモトが待っていて、エモトは佐緒里を見ると佐緒里に向かって手を振った。
「佐緒里ちゃん。こっちこっち」
「エモトさん。こんにちは」
SAS03.png
 佐緒里はエモトの案内で、デパートの8階にある展示コーナーに来た。展示会が催されるのは2日後で、現在は会場作りが終わり、展示物が既に陳列された状態で、会場内には納入の業者と、スタッフが数名いるだけだった。佐緒里はすれ違う人に会釈をしながら、エモトと一緒に会場内に入り、陳列された財宝を見て回った。その中で一際目立つものが佐緒里の目に映った。それは二つの十字架だった。一つは金色で、もう一つは銀色をしていて、二つの十字架本体にはそれぞれ綺麗な宝石が鏤められて装飾されていた。佐緒里が十字架に見とれていると、エモトも佐緒里の視線に気付いた。
「佐緒里ちゃん。その二つの十字架なんだけど、何か秘密があるらしいのよ」
「秘密ですか?」
「うん。ちょっと待ってて」
 エモトは居合わせたスタッフの元へ行くと、本のようなものを持って戻ってきた。それは例の古文書の中の一つだった。
「この中に十字架の事が書かれているらしいんだけど、まだ誰も解読出来ないんだって。佐緒里ちゃんはどうかしら?」
 佐緒里はエモトから古文書の冊子を受け取ると、ページを開いて眺めた。
 その時、スタッフの一人が窓のカーテンを開けて、西日の強い光が室内に入ってきた。その光が金色の十字架にあたり、反射して銀色の十字架にあたってさらに強い光になった。
「キャッ!!」
 傍にいた佐緒里は眩しさのあまりバランスを崩し、そのはずみでテーブルの上に置かれていた銀色の十字架をつかんでしまった。すると十字架が発していた光が佐緒里の体全体を包み込み、強い光に包み込まれた佐緒里は、そのまま意識を失った。

    * * * *

  (PAGE-5)
 ACT.2  囚われのヒロイン

「ここ・・・ 何処なの・・・」
 佐緒里が目を覚ましたとき、その場所は暗い部屋の中だった。周囲は石造りの壁になっていて、床も石畳になっていた。
「熱い!! ・・・・」
 佐緒里はおもわず手を引っ込めた。佐緒里の傍には、自分が握りしめていた銀色の十字架があり、その十字架が光って熱を発していたのだ。佐緒里が十字架に触れようとすると、十字架から光が消え、そのままゆっくりと消えた。
「十字架が・・・  消えた・・・ どうして・・・」
 佐緒里は十字架が消えた場所を見据えたが、どうして消えたのかを知る由も無かった。佐緒里は部屋の中を見回した。高い所にある窓からは陽が差し込んでいて、やがて佐緒里は暗がりに目が慣れてきて、佐緒里の目に部屋の中の様子が映った。部屋は八畳くらいの広さで、一見倉庫のようだった。室内には木箱や樽のほか、藁のようなものが置かれていた。
「見た感じでは倉庫みたいだけど・・・ 何で私こんな所に・・・ 確か強い光を浴びて・・・ 」
 その時外で物音がしたかと思うと、ガチャガチャという音とともに扉が開いて人が入ってきて、佐緒里と鉢合わせした。
「だ・・ だ、誰だお前。何故ここにいるんだ」
 入ってきたのは男で、そのスタイルはまるで中世の時代のような格好だったため、佐緒里は何も言えずにその男を見据えていた。自分自身が何故こんな所にいるのか分からないのに、出会った者が自分の知らない恰好をしていたからだ。男は踵を返すと、出入り口から出て行き、扉に鍵をかけた。
「あ。待って」
 と言ってももう遅かった。佐緒里は今自分が置かれている立場を考えた。が、どう考えても考えがまとまらない。それもそのはず。佐緒里はタイムスリップしていたのである。佐緒里がいる場所は中世のヨーロッパの某所であったため、いくら考えても分かるはずがなかったし、佐緒里自身もそのことに気付いていなかったのだ。
 男が出て行ってから数分後、佐緒里がいる倉庫の外で数人の男の声が聞こえてきた。そして鍵が開けられる音がして扉が開き、男が3人入ってきて、そのうちの二人が佐緒里の傍までやってきて、佐緒里の腕をつかんだ。
「何するの!?」
「うるせえ!」
「おとなしくしろ! この魔女め!」
「魔女・・・・」
 佐緒里はそう言いかけて黙った。男は代わる代わる佐緒里に向かって怒鳴り散らした。
「小娘! てめえ鍵のかかってる倉庫の中にどうやって入ったんだ! ああん!?」
「おおかた魔力を使って入ったんだろう」
「それにその見た事もねえ姿恰好。どう考えたって魔女にちげえねえ。魔女は火炙りだ。来い!!」
 そう言って男の一人が佐緒里につかみかかり、もう一人が止めた。
「待て待て! とにかく神父様に引き渡す方が先だ。村はずれの牢獄へ連れて行くんだ。ま、どうせ魔女裁判になれば確実に火炙りだがな」
「分かった。おい! 誰か牢獄の看守を呼んで来い」
「おう!」
「おい! 立つんだ小娘」
 男の一人がその場から走っていき、佐緒里は二人の男に羽交い絞めにされて立たされた。佐緒里はその気になれば二人ともぶっ飛ばす事が出来たが、あえて無抵抗でいた。自分の置かれている状況を今ひとつ理解できていなかったからだ。
「来るんだ。小娘!」
 佐緒里は引き摺られるように倉庫の外へ出された。その佐緒里の目に映った光景は、自分がいた展示場の会場ではなく、また21世紀の東京でもなかった。石造りの建物が立ち並ぶ、まるで中世の世界の様相だった。
「ここはいったい・・・・ 」
 佐緒里が考え込んでいると、後ろから棒で背中を突付かれた。
「とっとと歩け!」
「乱暴しないで。ちゃんと歩くから」
 佐緒里はそのあと黙ったまま、男達の言う通りに歩いた。20分ほど歩くと、昔の城のような石造りのガッシリした建物、つまり牢獄の前に来た。そこへ先に走っていった男に呼ばれたらしい二人の男がやってきた。その二人は牢獄の看守だった。後ろにいた男が棒で佐緒里の背中を突付き、さらに佐緒里の両側で腕をつかんでいた男たちが、佐緒里を二人の看守に引き渡した。その看守の一人を見て、佐緒里は驚いたように言った。
「エモトさん!・・・ ???」
「何!? 小娘。何か言ったか?」
「い、いえ・・ 何でもないです」
 看守の一人は髪の色が違うとはいえ、エモトにソックリだったのだ。
「とっとと歩け!」
 男達はその場から去り、二人の看守は佐緒里の両腕を抱えて、牢獄の中へと連行した。そして地下へ続く螺旋階段を降りようとしたとき、エモトにソックリな方の看守カールが慌てて言った。
「だ、ダメですよハンスさん。地下牢は使っちゃいけないって、神父様が言ってたじゃないですか」
「バカ! 何言ってるんだ。この小娘は魔女の疑いがあるんだ。いいからとっとと連行しろ」
 階段を降りきって地下に達した時、死臭のような異様な臭いが立ち込めてきて、佐緒里は思わず顔を背けた。地下の回廊は少し行くと土や瓦礫で埋められていて、二人の看守はその手前の部屋の前で足を止めた。そして扉を開けると、佐緒里を中へと突き飛ばした。部屋の広さは4畳半くらいで、周りは全て石造りで、天井の近くに鉄格子のはまった窓が一つだけあり、床は石畳になっていた。そして壁には鉄製の枷がついた鎖が垂れ下がっていた。
「小娘。こっちへ来い」
 看守達は佐緒里を壁まで連れてきて、背負っていたリュックを取って床に放ると、壁に背中を付けさせ、両腕を上に上げて吊り手枷を嵌めてから、足に履いていた靴を脱がせ、両足にも足枷を嵌めた。両手を手枷で吊られ、両足が爪先立ちの恰好になって、佐緒里は唇をかんで痛さをこらえた。

SAS04.png

「小娘。今日は神父様が出かけておられるから、審問は後日行う。それまでそうしていろ」
 ハンスはそう言うと、カールを連れて地下牢から出て扉を閉め、鍵をかけて去っていった。地下牢に鎖で繋がれたまま一人取り残された佐緒里は、腕と足の痛みを堪えながら目を瞑った。佐緒里は宇宙人と地球人とのハーフ(エンジェルスの本編参照)で、地球人には無い能力があった。目を瞑る事によって精神を統一し、自分の体重をゼロに近い状態にすることも出来たのだ。暫くすると手足の痛みがやわらぎ、体が楽になってきて、佐緒里はそのまま寝入った。

    * * * *

 ACT.3  監禁

 どれくらい時間が経過したのか・・・
 目を覚ました佐緒里は地下牢の中で監禁され、壁に両手両足を鎖で繋がれて立たされたままの恰好だった。実際にはあれから3時間位しか経っていなかったのだが、佐緒里には倍近い時間に感じていた。自分の能力のおかげで体は楽だったものの、良い気分でいられるはずもなく、佐緒里は目を覚ましてからずっと考え事をしていた。

SAS05.png

SAS06.png

「一体どうしてこんな事に・・・」
 しかしどう考えてもまともな答えなど出るはずが無かった。タイムスリップして中世のヨーロッパの何処かへ飛ばされ、魔女の疑いをかけられて地下牢で拘束されている事自体、佐緒里にとっては荒唐無稽に感じていたし、今の佐緒里がそんな事を知る由も無かった。
「そういえば、さっきの男たちの中の一人が『魔女』って言っていた。どういう事なんだろう・・ それに周りの様子が全然違う。まさか・・・ 」
 佐緒里は何かを思い出した。
「まさか滅んだはずのネオ‐ブラックリリーが・・・・ 」
 そう言いかけて佐緒里は首を横に振った。
「いや違う・・ そんな事無い。あまりにも不自然すぎる・・・ 」
 佐緒里は自分が持っている知識を引っ張り出すように、頭の中で考えを巡らせた。そこで得た結論は・・・・・
「タイムスリップ・・・・ だとしたら、考えられる。しかし一体どうやって・・・」
 佐緒里はここまでの事を整理してみた。
「あの十字架の光・・・ それ以外には何も思いつかない。あの光を浴びてから、私の周りが一変したんだわ。つまり、十字架の秘密というのは、この事だったのかもしれない。でも古文書を読んでいないから、何とも言えない」
 これまでの事を佐緒里自身で分析した結果、自分が今現在いる場所は中世のヨーロッパの何処かで、時代は概ね15世紀頃だということだった。中世のヨーロッパでは『魔女狩り』が行われていたという事を、佐緒里は本で読んで知っていたからだ。
「来てしまった以上は帰れる可能性だってある。だから絶対にあきらめない。エンジェルに絶望という文字は無いんだから。でも今は・・・ この今の時代で生きていくしかない」
 佐緒里はその気になれば、手枷と足枷を自分で外して逃げる事も出来た。が、タイムスリップして違う時代に飛ばされたのなら、逃げたところで行くあてもないし、何処へ行っても怪しまれて同じ目に遭わされるだろうから、ここにいた方が安全だと悟り、暫く成り行きと様子を見ることに決めた。

 ACT.4  佐緒里の力

 陽が沈みかけたころになって、誰かが廊下を歩く音が聞こえ、佐緒里は牢獄の扉の方を向いた。ガチャガチャという音とともに扉が開き、さっき自分を閉じ込めた二人の看守、つまりハンスとカールが入ってきた。ハンスは鞭を持ち、カールは鎖のついた手枷を持っていた。
「小娘。審問の時間だ」
 ハンスが佐緒里の方へ歩き出したところで、カールが前を遮るように止めた。
「ダメですよハンスさん。神父様の不在中は審問してはいけない規則になったじゃないですか。それに地下牢に監禁してはダメだって言ってるのに。ハンスさん、あの事件の事を忘れたんですか!?」
「うるさい。どけ!」
 ハンスはカールを突き飛ばすと、佐緒里の前まで来て止まった。

SAS07.png

「あんた・・・ 最低・・・」
 佐緒里はハンスを睨み付けながら言った。
「何だと小娘! 魔女の分際で看守様に向かって最低だと!? 生意気に睨みつけやがって。よっぽど鞭で痛め付けられたいようだな。審問の前に、こいつで嬲ってやるから覚悟しやがれ」
「ハンスさん。やめて下さい」
 カールの言葉を無視して、ハンスは鞭を振り上げると、佐緒里目掛けて叩き付けた。
 ヒュウゥーッ バシィーン!! バチバチバチッ
 鞭は佐緒里の手前で、電気のショートしたような音とともに、何かに跳ね返された。

SAS08.png

「ん・・ 何だ・・・ 」
 ハンスは首を傾げたが、もう一度鞭を振り上げて叩き付けた。が、結果は同じだった。鞭は佐緒里の手前で跳ね返され、鞭の先端が自分の顔に当たった。
「痛てて・・・ な、何だ、どうなってんだ。クソッ!!」
 ハンスは鞭を床に捨てると、佐緒里の腹目掛けて蹴りを入れてきた。
 バチバチバチッ
「ウワアーッ!」
 電気にあてられた様なショックとともに、ハンスの体が反動で吹っ飛ばされ、ハンスは床に尻餅をついた。佐緒里は自分の身を守るため、バーリアを張っていたのだ。
「繋がれて抵抗出来ない女の子をいたぶろうなんて、本っ当に最低な奴ね。お前なんかこうしてやる!」

SAS09.png

「な、何だと小娘。う・・・ ウワアァァーッ」
 ハンスの体が宙に浮いたかと思うと、そのまま床の上にドスンと落ちて、ハンスはしこたま尻を打ちつけ、そのまま蹲って起きられなくなった。唖然として見ていたカールは、ハンスの傍に駆け寄った。
「ハンスさん。大丈夫ですか?」
「ま・・ま、魔女だ・・・ こ、この小娘は魔女だアーッ!」
 ハンスは床の上を這うように、後退りした。
「一体何の騒ぎだ!」
 声とともに30代くらいの若い男が牢に入ってきた。
「あ。神父様。確かお帰りは明日だったはずじゃ」
「用件が全部終わったから今日戻って来れたんだよ。おい! カール。何故こんな事してるんだ。地下牢は使うなって厳命したはずだぞ。それにむやみに鎖で繋いではダメだって言っただろうが」
「す、すみません。ハンスさんが強引に」
「分かった。もういい。今からこの娘を審問するから、私の部屋まで連れてくるんだ」
「分かりました」
 神父が牢から出て行き、ハンスは鍵を持って佐緒里に近づいた。
「お嬢さん。何もしないよ。今鎖を外してあげるから、ジッとしてて」
 そう言ってカールは佐緒里の両足首の枷を外し、続いて両手の手枷をはずした。佐緒里が崩れ落ちないように、カールは佐緒里の両腕を軽くつかんで支えた。
「大丈夫。ありがとう。君・・ 優しいんだね」
 ハンスは照れ臭そうにしたが、持っていた鉄の手枷を佐緒里の前に差し出して言った。
「ごめん。規則だから、これを君の手に嵌めなきゃいけないんだ」
 佐緒里はカールの目を見てから、頷いて両手を前に出した。ガチャリという音とともに、佐緒里の両手に鉄の手枷が嵌められた。が、両手を下げたら手枷が抜けて床に落ちた。佐緒里の手首の大きさとサイズが合わなかったのだ。カールは手枷を拾うと、もう一度佐緒里の手にそれを通し、佐緒里の腕を胸の辺りに上げさせると、手枷に連結して伸びている、1メートルくらいの長さの鎖を持った。
「疲れない程度に腕を上に上げていて」
「うん」
「それじゃ僕についてきて」
 カールは尻込みしているハンスを尻目に、佐緒里を連れて牢から出た。しばらくしてからハンスも牢から出てきて、二人の後をついていった。

 ACT.5  審問

 佐緒里の鎖を引いて歩いているカールは、佐緒里から見て年の頃は15~16歳位で、自分と殆ど同じくらいの年に見えた。一方のハンスは30代後半のがっしりした体系で、いかにも軍人か牢獄の看守という外見をしていた。

SAS10-01.png

 佐緒里の前を歩いていたカールは、立ち止まって佐緒里の方を向くと、佐緒里に話しかけた。
「ねえ、君。名前は?」
「私? 赤嶺佐緒里」
「アカミネ・・ 何だか変な名前だな」
「言いにくかったら、私の事、佐緒里って呼んでもいいよ」
「サオリ・・・ 分かった。僕の名はカール。よろしく」
「カールさん。こちらこそよろしく。でも、看守さんなのに、そんなに私に親しくしてもいいの? 私は囚人なんでしょ?」
「別にいいよそんな事。それに、君は悪者には見えないし、僕の事カールって呼んでいいよ」
「ありがとう」
「さあ。行こうかサオリ」
 牢獄の建物は元々は城として使われていたもので、地上3階。地下2階の造りになっている。城として使われなくなってから、この近辺の犯罪者を収監するための牢獄として改装された。地下一階が囚人を収容する牢になっていて、最下層の地下二階が拷問部屋。そして地上部分は居住区になっている。しかし現在は最下層の部分は完全に埋められ、地下牢がある地下一階も半分埋められていた。これは此処で起こったある事件がきっかけでそうなったのだが、その真相は後々に分かるのでここでは省略する。カールは佐緒里を連れて3階の一番端の部屋まで来て足を止めた。
コンコン・・・
「入れ」
「失礼します。神父様。サオリを連れてきました」
 カールは佐緒里を連れて部屋に入った。室内は書斎のような感じで、大きなテーブルと椅子があり、書棚には本が並べられていた。カールは椅子の一つを引くと、佐緒里を座らせ、両手の手枷を腕から抜いた。暫くしてハンスも部屋に入ってきて、書棚の前で本を見ていた神父のアルベルトは、本を棚に戻し、佐緒里の向かい側に座った。
「私はこの村の神父。アルベルト・ヴェルナーだ。さあ。審問を始めようか」
 佐緒里は神父の目を見据え、神父が口を開いた。
「お前の名は?」
「赤嶺佐緒里。サオリでいいです」
「ん・・ それではサオリ。お前は魔女か?」
「はい」
 アルベルトは呆気に取られたように、持っていたペンをテーブルの上に落とし、あわててペンを拾った。
「(随分簡単に自白したな。普通なら最初は殆どの者が否定するんだが)」
 最初の審問で否定した場合は、予備拷問が行われ、さらに本格的な凄惨な拷問が行われて、自白するまで続けられ、拷問によって死んでしまう者もいる。そして自白すれば待っているものは100%の死であった。つまり、一度魔女の嫌疑をかけられた者は、絶対に助かるという事は無かったのだ。それで神父は佐緒里が簡単に自白したため、拍子抜けしてしまったのだ。神父は審問を続けた。
「で、では・・・ お前が契約している悪魔の名を述べよ」
「悪魔とは契約していません。それに私は人を呪うための魔術は絶対に使いません」
「黙れ魔女め! そんな事が信用できるか!」
 ハンスが叫んで息巻いた。
「ハンス! お前は黙ってろ。私の許可なしで勝手な事をして! お前は一年前のあの事件の事を忘れたのか」
「(事件・・・ 何があったのかしら・・・ さっきもカールが同じ事を言っていた)
「さて・・ サオリ。審問の内容を変えよう。お前は村にある鍵のかかった倉庫の中にいたところを村の者に発見され、捕えられてこの牢獄に連行されてきた。間違いは無いか?」
「間違いありません」
「では、何故お前は鍵のかかった倉庫の中にいたのか?」
「信じられないかもしれませんが、強い光を浴びて、気がついた時、あの倉庫にいたんです」
「強い光・・・ か・・・ お前は何処から来たんだ? 見た目は東洋人のようだが」
「日本・・・ といっても分からないと思います」
「知っている」
「え?」
 神父の言葉に、佐緒里は思わず目を丸くした。
「日本を知っているんですか?」
「ああ。ジパングとかいう国の事であろう。お前はそのジパングから来たというのか。しかし一体どうやって来たのだ」
「漂流者・・・・ そう思ってください」
「漂流者? どういうことだ。この近くには海も船着場も無いぞ」
 佐緒里は答えに詰まった。タイムスリップの事など信じてもらえるはずが無い。それにタイムスリップの原因と思われる十字架は、佐緒里がタイムスリップした時に手元から消えてしまっていた。佐緒里は『魔女』という言葉を思い出し、何かを悟ったかのように言った。
「お願いです。助けてください。私は、悪い魔女の魔法にかけられて、自分の国からこの土地へ無理矢理飛ばされたんです。お願い助けて。私は家へ帰りたいだけなんです」
「悪い魔女? お前だって魔女ではないのか? たった今自白したじゃないか」
「信じたくなかったらそれでもいいです。魔女はみんな悪いわけじゃない。悪魔と契約なんかしないし、人を呪わないで、その逆に人を助ける『良い魔女』だっているんです」
 普通だったら、佐緒里はこのあと凄惨な拷問にかけられ、悪魔との契約や、魔女集会の事、また他の魔女嫌疑者を白状するまで痛めつけられるはずである。神父という職業ならば、嫌疑者に対して必ずそうするわけなのであるが、アルベルト神父は何故か、佐緒里の言葉を聞いて黙って考え込んでいた。

 ACT.6  魔法?

「よし。今日の審問はこれまで。カール。サオリを部屋に連れて行くんだ」
「はい」
 カールは佐緒里の傍に来ると、佐緒里を立たせて手枷を佐緒里の腕に通した。佐緒里はアルベルト神父に向かって言った。
「あの・・ もし聞いてもらえるならば、お願いが・・・ 」
「何だね? 言ってみたまえ」
「壁に鎖で繋ぐのだけはやめてください。絶対に逃げたりしないって約束しますから」
「約束だと? 黙れ魔女娘! そんな事を言って魔法で逃げるつもりだろうが」
「ハンス。黙ってろと言ったろうが!」
 アルベルトはハンスに向かって怒鳴ってから、佐緒里の方を向いて言った。
「何故逃げないんだ。魔女ならば魔法や魔力で逃げられるだろうが」
「逃げても行く所が無いんです」
 佐緒里は悲しそうな顔をした。
「うむ・・・ 地下牢は使わない事になっているから、その事は心配しなくとも良い。ただし、囚人である以上は、それなりの拘束はさせてもらう。カール、連れて行け」
 アルベルトはカールに手で合図した。
「それじゃサオリ。行くよ」
 佐緒里は黙って頷き、カールは佐緒里の鎖を引いて部屋の外へ出た。廊下を歩いて螺旋階段の前まで来ると、カールは上の方へと佐緒里を誘った。
「カール。こっちは上の階よ。牢は下でしょ」
「いいからおいで」
 二人は螺旋階段を上り、建物の屋上へ上がった。既に陽が沈んで暗くなっていて、月明かりが二人を照らしている。カールは佐緒里の手枷を腕から抜くと、佐緒里に言った。
「サオリ。自分の事を魔女だって言ったよね」
「うん・・・ 」
「それじゃ魔法を見せて。さっき見た攻撃的なやつじゃなくて、君の言う良い魔女の魔法を」
「ごめんなさい。魔法は見世物じゃないの」
「そんな事言わないで。お願い。おねがい」
カールがあまりに真剣にお願いするので、佐緒里は一つため息をついてから応えた。
「分かった。見せてあげる。少し離れて」
 佐緒里は右手を少し上げた。すると佐緒里の手にスティックが握られ、佐緒里はそれを空に向けて軽く放った。するとスティックが大きくなり、2m位の長さになって、佐緒里の腰の高さくらいのところで静止し、佐緒里はスティックの上に乗って座った。見ていたカールは目を丸くして驚いた。

SAS11-01.png

「す、すごい・・・ ほ、本当に魔女なんだ。魔法が使えるんだ・・・・ 」
 佐緒里のこの力は、スカーレットエンジェルとしての能力であり、魔法ではない。しかし、中世の人から見れば、れっきとした魔法に見えるのだ。佐緒里の能力はかつてのネオ‐ブラックリリーとの戦いを通して研ぎ澄まされ、佐緒里の姿のままでも使えるようになっていて、既に叔母の美紀子を凌ぐだけの力を持っていたのだ。佐緒里は呆然としているカールに向かって手招きをした。
「え? こ、これに乗れって?」
 佐緒里は笑顔を見せながら無言で頷いた。
「で、でも・・・」
「大丈夫だよ。落ちたりしないから」
 カールは恐る恐る近づいて、スティックの上に腰掛けた。何か見えないものに押さえられているかのように、カールの体はその場から動く事は無かった。
「ね、大丈夫だって言ったでしょ? それじゃ少し上がるよ」
 佐緒里がそういうと、スティックが音もたてずに浮き上がり、屋上の床から2m位の高さまで上がって止まった。
「わわわわ!」
 カールは思わず佐緒里にしがみついて、そのはずみで佐緒里の片方の胸を思いっきり鷲掴みにししてしまった。
「キャッ!! あぁ・・・」
 佐緒里は思わず鼻にかかったような声を出し、カールは慌てて佐緒里の胸から手を離した。
「ご、ごめん」
「びっくりしたぁ・・・ 心臓がドキドキいってるよ」
「ごめん。許して」
「謝らなくていいよ。君が怖がってるみたいだから、もう降りるよ」
 佐緒里は右手を少し上げ、スティックがゆっくりと下がって二人の足が床の上に着いた。
 カールはスティックから離れると、床の上に置いていた手枷を拾い、佐緒里はスティックを小さくして手のひらの上で消した。そこへハンスが上がってきた。
「お前らここにいたのか。おい小娘。神父様の特別の計らいで、普通の部屋に鍵をかけて閉じ込めるだけにしてもらったから、ありがたく思え」
 そういうと、ハンスは不貞腐れたような顔をしながら下へ降りていった。カールは佐緒里の腕に手枷を通すと、佐緒里をつれて下の階へ降りていった。下ではハンスが待っていて、手で合図をしながら無愛想に言った。
「部屋は二階の一番端だ。お前が持っていた荷物も一緒にある」
 そう言ってハンスは下へ降りていった。カールは佐緒里を連れて二階の端の部屋まで来て、扉を開けて中に入った。部屋の中はごく普通のありふれた造りで、テーブルと椅子の他にベッドとトイレまであった。床の上には鉄球の付いた足枷が置いてあり、佐緒里が背負っていた学生用リュックも傍においてあった。カールは佐緒里の手枷を抜くと、鉄球つきの足枷を持って差し出した。
「サオリ。許して。これを付けなきゃならないんだ」
 カールは佐緒里の足に枷を嵌めようとした。
「ちょっと待って」
 佐緒里はカールを制してから靴を脱ぎ、自分で両足の靴下を脱いで裸足になった。
「いいよ。カール」
 カールは佐緒里の左足に足枷を嵌めると、鍵をポケットの中に入れた。
「それじゃ食事を持ってくるから」
 カールは部屋を出ると、外から鍵をかけた。

SAS12.png

       ***********

 21世紀の世界から、中世のヨーロッパにタイムスリップしてしまい、魔女の嫌疑をかけられて牢獄に監禁された佐緒里。しかし佐緒里はその気丈な性格と、スカーレットエンジェルの能力でこの世界を生き抜き、最後には絶対に21世紀に帰れるという希望を抱いていた。
 これから佐緒里を待ち受ける運命やいかに・・・  佐緒里は本当に帰る事が出来るのか。冒険少女佐緒里の苦難(?)は今、始まったばかりであった。


 次回ACT.7に続く

テーマ : ライトノベル
ジャンル : 小説・文学

イラスト3

2015年 09月10日 09:48 (木)

GR-00.png

GR-01.png

GR-03.png

GR-05.png

GR-07.png

GR-08.png

GR-09.png

GR-10.png

GR-11.png

GR-12.png

GR-13.png

正義の握手

29671379.jpg

 美少女戦隊『エンジェルス』の主人公 赤城絵里香と、正義のヒロイン ミルキーピンクの主人公 宮代麻美とのコラボレーション。ミルキーピンクはhalka様がピクシブにて掲載中のノベルのヒロインで、halka様の許可と同意を経て、こうして二人は正義の握手を交わしました。現在お互いの小説で双方のヒロインを共演させる、交換小説を企画中です。


ウエスタンプリキュアのコスプレ

31538974_m.png

 エンジェルスのキャラクター。絵里香・聖奈子・美由紀のコスプレバージョンです。ウエスタンプリキュアは自分が考案したもので、西部劇をモチーフにしています。現在はキャラクターだけの設定で、それ以外のものについては何もありません。もちろんプリキュアそのもののキャラも考えていませんし、小説化は夢の先です。向かって左からキュアホリディ、キュアワイアット、キュアマスターソンで、それぞれ実在したドク・ホリディ、ワイアットアープ、バットマスターソンがモデル及びモチーフになっています。
 川崎のぼる著の「荒野の少年イサム」では、上の3人が実際に登場しているし、仮面ライダーXでは歴史上の人物をモチーフにした怪人も登場しています。それから、西部劇の映画でも、彼らを扱ったものが多々あるので、特におかしな設定だとは思っていません。
 帽子と拳銃(レーザーガン)という、今までのプリキュアには無い斬新的なアイデアもあります。

32142917_m.png

テーマ : 挿絵・イラスト
ジャンル : 小説・文学